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特開2023-184345線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)産生促進剤、及びFGF-5の産生を抑制する素材の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184345
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)産生促進剤、及びFGF-5の産生を抑制する素材の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5575 20060101AFI20231221BHJP
   G01N 33/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20231221BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 8/365 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61K31/5575
G01N33/00 D
A61P17/14
A61Q7/00
A61K8/365
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098452
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田邊 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】大戸 信明
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD591
4C083CC37
4C083EE22
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA92
(57)【要約】
【課題】線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)産生促進作用を有し、FGF-5の産生抑制作用を有する素材の探索などに好適に用いることができるFGF-5産生促進剤、及びFGF-5の産生抑制作用を有する素材を探索することができる新たな評価方法の提供。
【解決手段】プロスタグランジン(PG)Dを有効成分として含有するFGF-5産生促進剤、PGDで毛乳頭細胞を処理する工程と、試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する工程と、PGD及び試験対象素材で処理された毛乳頭細胞におけるFGF-5の産生量を指標として、前記試験対象素材が、FGF-5の産生を抑制する素材であるか否かを評価する工程と、を含むFGF-5の産生を抑制する素材の評価方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジン(PG)Dを有効成分として含有することを特徴とする線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)産生促進剤。
【請求項2】
プロスタグランジン(PG)Dで毛乳頭細胞を処理する工程と、
試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する工程と、
プロスタグランジン(PG)D及び試験対象素材で処理された毛乳頭細胞における線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)の産生量を指標として、前記試験対象素材が、FGF-5の産生を抑制する素材であるか否かを評価する工程と、
を含むことを特徴とするFGF-5の産生を抑制する素材の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FGF-5産生促進剤、及びFGF-5の産生を抑制する素材の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、線維芽細胞に対する増殖活性を有するだけではなく、様々な細胞に対する細胞増殖・分化活性を有する形態形成因子、組織障害のときに働く組織修復因子、生体の恒常性を維持するための代謝調節因子等として重要な役割を果たしている多機能性分泌因子である。FGFには、20種類以上のファミリーが存在することが知られており、このうち、線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)は、ヘアサイクル(毛周期)への関与が知られている。
【0003】
毛髪は、成長期、退行期、及び休止期からなる周期的なヘアサイクル(毛周期)に従って成長及び脱落を繰り返している。成長期が短いと、毛髪は十分に成長せず、細く短いまま脱落してしまう。さらに、一度成長期が短くなると、次の成長期も短くなり、毛髪はますます細く短くなってしまうと考えられている。
ここで、前述したFGF-5は、毛乳頭に作用して、毛周期における成長期から退行期へ移行させる作用を有していることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
そのため、FGF-5の機能を抑制することができれば、毛周期における成長期から退行期への移行を阻害して毛髪の成長期を延長し、薄毛の予防、脱毛の予防・改善をすることができ、育毛・養毛用途に有用であると考えられている。
FGF-5の機能を抑制する成分として、例えば、ワレモコウエキス(例えば、非特許文献2参照)、フィチン酸(例えば、特許文献1参照)等が知られている。
【0005】
以上のように、これまでに様々な研究がなされている。しかしながら、FGF-5の機能を抑制する新たな素材に対する要望は依然として強く、前記素材を探索する新たな方法の開発が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-043594号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cell,1994年,vo.78,no.6,pp.1017-1025
【非特許文献2】西日本皮膚,2007年,69巻,1号,81-86頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、FGF-5産生促進作用を有し、FGF-5の産生抑制作用を有する素材の探索などに好適に用いることができるFGF-5産生促進剤、及びFGF-5の産生抑制作用を有する素材を探索することができる新たな評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、プロスタグランジン(PG)D刺激により、毛乳頭細胞においてFGF-5の産生が促進されることを知見し、本発明を完成したものである。
【0010】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> プロスタグランジン(PG)Dを有効成分として含有することを特徴とする線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)産生促進剤である。
<2> プロスタグランジン(PG)Dで毛乳頭細胞を処理する工程と、
試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する工程と、
プロスタグランジン(PG)D及び試験対象素材で処理された毛乳頭細胞における線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)の産生量を指標として、前記試験対象素材が、FGF-5の産生を抑制する素材であるか否かを評価する工程と、
を含むことを特徴とするFGF-5の産生を抑制する素材の評価方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、FGF-5産生促進作用を有し、FGF-5の産生抑制作用を有する素材の探索などに好適に用いることができるFGF-5産生促進剤、及びFGF-5の産生抑制作用を有する素材を探索することができる新たな評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)産生促進剤)
本発明のFGF-5産生促進剤は、プロスタグランジン(PG)Dを有効成分として含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0013】
前記プロスタグランジンDが、FGF-5産生促進作用を有し、FGF-5産生促進剤として有用であることは、従来は全く知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0014】
<プロスタグランジン(PG)D
プロスタグランジンDは、中枢神経系の主要なプロスタグランジンであり、睡眠や痛覚の調節を行う一方、アレルギーや炎症のメディエーターとして働くことが知られている物質である。
【0015】
前記プロスタグランジンDは公知の化合物であり、市販品を用いてもよいし、合成したものを用いてもよい。
【0016】
前記プロスタグランジンDは、優れたFGF-5発現促進作用を有しているため、FGF-5発現促進剤の有効成分として用いることができる。前記FGF-5発現促進剤は、研究用の試薬や、医薬品、医薬部外品、化粧品等の幅広い用途に使用することができる。
【0017】
前記FGF-5発現促進剤は、プロスタグランジンDのみからなるものであってもよいし、プロスタグランジンDを製剤化したものであってもよい。
【0018】
前記FGF-5発現促進剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。前記FGF-5発現促進剤は、他の組成物(例えば、毛髪用皮膚外用剤等)に配合して使用することができるほか、錠剤、カプセル剤等として使用することができる。
【0019】
製剤化したFGF-5発現促進剤におけるプロスタグランジンDの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0020】
なお、前記FGF-5発現促進剤は、必要に応じて、FGF-5発現促進作用を有する他の成分を、プロスタグランジンDとともに配合して有効成分として用いることもできる。
【0021】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、前記FGF-5発現促進剤の利用形態に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した製剤化する際に用いることができる成分などが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記その他の成分の前記FGF-5発現促進剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
前記FGF-5発現促進剤の対象に対する投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経皮投与などが挙げられる。
【0024】
前記FGF-5発現促進剤の対象に対する投与量、投与期間、投与間隔としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
前記FGF-5発現促進剤は、有効成分であるプロスタグランジンDが有する作用を通じて、FGF-5の発現を促進することができる。そのため、本発明のFGF-5発現促進剤は、FGF-5発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0026】
前記FGF-5発現促進剤は、優れたFGF-5発現促進作用を有するため、例えば、毛髪用皮膚外用剤や飲食品に配合することもできる。この場合に、プロスタグランジンDをそのまま配合してもよいし、プロスタグランジンDから製剤化したFGF-5発現促進剤を配合してもよい。
【0027】
ここで、毛髪用皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、毛髪のある頭皮等に経皮的に使用される頭髪化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、ヘアートニック、ヘアーローション、ヘアークリーム、整髪剤、シャンプー、リンス、トリートメント等が挙げられる。
【0028】
前記FGF-5発現促進剤を毛髪用皮膚外用剤に配合する場合、その配合量としては、特に制限はなく、毛髪用皮膚外用剤の種類に応じて適宜調整することができるが、プロスタグランジンDの量に換算して0.0001質量%~20質量%が好ましく、0.0001質量%~10質量%がより好ましい。
【0029】
毛髪用皮膚外用剤は、上記プロスタグランジンDが有するFGF-5発現促進作用を妨げない限り、通常の毛髪用皮膚外用剤の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0030】
前記毛髪用皮膚外用剤の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0031】
飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「飲食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。前記飲食品は、当該飲食品またはその包装に、プロスタグランジンDが有する好ましい作用を表示することのできる飲食品であることが好ましく、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品、栄養機能食品)、医薬部外品および医薬品であることが特に好ましい。
【0032】
前記FGF-5発現促進剤を飲食品に配合する場合、その配合量としては、特に制限はなく、飲食品の種類に応じて適宜調整することができるが、プロスタグランジンDの量に換算して0.0001質量%~20質量%が好ましく、0.0001質量%~10質量%がより好ましい。
【0033】
前記FGF-5発現促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、その作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなど)に対して適用することもできる。
【0034】
また、前記FGF-5発現促進剤は、優れたFGF-5発現促進作用を有するので、例えば、後述するFGF-5の産生を抑制する素材の評価方法や、前記作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0035】
(FGF-5の産生を抑制する素材の評価方法)
本発明のFGF-5の産生を抑制する素材の評価方法(「FGF-5の産生を抑制する素材のスクリーニング方法」と称することもある。)は、プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する工程と、試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する工程と、評価工程とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0036】
<プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する工程>
前記プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する工程は、プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する工程である。
【0037】
-プロスタグランジンD
前記プロスタグランジンDは、市販品を用いてもよいし、合成したものを用いてもよい。
【0038】
-毛乳頭細胞-
前記毛乳頭細胞は、市販品を用いてもよいし、適宜調製したものを用いてもよい。
前記毛乳頭細胞の由来の種としては、ヒトが好適に挙げられるが、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、サルなど)であってもよい。
【0039】
-処理-
前記プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、培地にプロスタグランジンDを添加し、毛乳頭細胞を培養する方法などが挙げられる。
【0040】
前記培地の種類としては、毛乳頭細胞を培養することができる限り、特に制限はなく、市販品を適宜用いることができる。
前記培地におけるプロスタグランジンDの濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.001~5μmol/Lなどが挙げられる。
【0041】
前記プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記プロスタグランジンDを含有する培地での培養期間として、例えば、6~120時間などが挙げられる。
【0042】
前記毛乳頭細胞を培養する条件としては、特に制限はなく、公知の培養条件を適宜選択することができ、例えば、37℃、5%CO下で培養することができる。
【0043】
<試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する工程>
前記試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する工程は、FGF-5の産生を抑制する素材の候補である試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する工程である。
【0044】
-試験対象素材-
前記試験対象素材としては、FGF-5の産生を抑制する素材であるか否かを評価するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、植物抽出物や植物抽出物に含まれる成分等の安全性に優れた天然物由来成分、薬剤、薬剤候補の化合物などが挙げられる。
【0045】
-毛乳頭細胞-
前記毛乳頭細胞は、上記したプロスタグランジンDで処理する又は処理した毛乳頭細胞である。
【0046】
-処理-
前記試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、培地に試験対象素材を添加し、毛乳頭細胞を培養する方法などが挙げられる。
【0047】
前記培地の種類としては、毛乳頭細胞を培養することができる限り、特に制限はなく、市販品を適宜用いることができる。
前記培地における試験対象素材の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1~400μg/mLなどが挙げられる。
【0048】
前記試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記試験対象素材を含有する培地での培養期間として、例えば、6~120時間などが挙げられる。
【0049】
前記毛乳頭細胞を培養する条件としては、特に制限はなく、公知の培養条件を適宜選択することができ、例えば、37℃、5%CO下で培養することができる。
【0050】
前記試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する工程は、前記プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する工程と同時に行ってもよいし、前記プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する工程の前に行ってもよいし、前記プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する工程の後に行ってもよい。
前記試験対象素材で毛乳頭細胞を処理する工程を前記プロスタグランジンDで毛乳頭細胞を処理する工程と別に行う場合、両工程は続けて行ってもよいし、間隔を空けて行ってもよい。前記間隔を空ける場合の期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0051】
<評価工程>
前記評価工程は、プロスタグランジンD及び試験対象素材で処理された毛乳頭細胞におけるFGF-5の産生量を指標として、前記試験対象素材が、FGF-5の産生を抑制する素材であるか否かを評価する工程である。
【0052】
-FGF-5の産生量-
前記測定するFGF-5の態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、タンパク質、mRNAなどが挙げられる。これらは、1種を単独で評価の指標としてもよいし、2種以上を評価の指標としてもよい。
【0053】
前記FGF-5の産生量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、タンパク質の場合は、前記FGF-5を特異的に認識する抗体を用いて、ELISA法等の免疫学的手法により測定する方法などが挙げられ、mRNAの場合は、リアルタイムPCR法等により測定する方法などが挙げられる。
前記FGF-5の産生量の測定には、市販されている各種の測定用キットを用いることができる。
【0054】
-評価-
前記評価の方法としては、プロスタグランジンD及び試験対象素材で処理された毛乳頭細胞におけるFGF-5の産生量を指標とする限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0055】
例えば、後述の試験例2に示すように、プロスタグランジンD及び試験対象素材で処理された毛乳頭細胞におけるFGF-5の産生量を測定し、この値からFGF-5産生抑制率を算出することで、前記試験対象素材が、FGF-5の産生を抑制する素材であるか否かを評価する方法が挙げられる。この場合、FGF-5産生抑制率が0%を超える場合には、前記試験対象素材が、FGF-5の産生を抑制する素材であると評価することができる。
【0056】
前記評価の他の一例としては、プロスタグランジンD及び試験対象素材で処理された毛乳頭細胞におけるFGF-5の産生量と、基準値とを比較する方法が挙げられる。
前記基準値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、試験対象素材に代えて、FGF-5の産生量を抑制することが知られている物質を用いた場合における、プロスタグランジンD及びFGF-5の産生量を抑制することが知られている物質で処理された毛乳頭細胞におけるFGF-5の産生量などが挙げられる。この場合、プロスタグランジンD及び試験対象素材で処理された毛乳頭細胞におけるFGF-5の産生量が基準値と同等以下である場合に、試験対象素材が、FGF-5の産生量を抑制する素材であると評価することができる。
前記基準値は、本発明の方法を実施する際に併せて測定した値を用いてもよいし、別途測定した値を用いてもよい。
【0057】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0058】
前記FGF-5の産生を抑制する素材の評価方法は、他の方法と組み合わせて実施してもよい。
【0059】
前記FGF-5の産生を抑制する素材の評価方法によれば、試験対象素材がFGF-5の産生を抑制する素材であるか否かを高い精度で効率良く評価することができるので、薄毛や脱毛の予防、治療または改善、育毛・養毛用途などに用いることができる素材の探索に好適に利用できる。
【実施例0060】
以下、試験例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記試験例に何ら制限されるものではない。
【0061】
(試験例1:線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)産生促進作用試験)
プロスタグランジン(PG)Dについて、下記の方法により、FGF-5産生促進作用の試験を実施した。
【0062】
正常ヒト頭髪毛乳頭細胞を、毛乳頭細胞増殖培地を用いて培養した後、トリプシン処理により回収した。回収した細胞を1.67×10cells/mLの濃度になるように毛乳頭細胞増殖培地を用いて希釈した後、コラーゲンコートした60mmシャーレに1枚当り3mLずつ播種(5.01×10cells/枚)し、7日間培養した。
培養後、PGD(フナコシ製)を毛乳頭細胞増殖培地で必要濃度に溶解し(最終濃度は下記表1を参照)、各シャーレに30μLずつ添加し、37℃、5%CO下で72時間培養した。なお、コントロールとして、PGD無添加の毛乳頭細胞増殖培地を用いて同様に培養した。
培養終了後、各シャーレの培養上清中のFGF-5の量をFGF-5 ELISA Kit(RayBiotech社)を用いて定量した。
得られた結果から、下記式によりFGF-5産生促進率を算出した。結果を表1に示す。なお、下記式において、PGD無添加のFGF-5産生促進率は100%となる。
FGF-5産生促進率(%)=A/B×100
上記式中のA~Bは、それぞれ以下を表す。
A : PGD添加時のFGF-5の産生量
B : PGD無添加時のFGF-5の産生量
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、PGDは、FGF-5産生促進作用を有することが確認された。
【0065】
(試験例2:FGF-5産生抑制作用試験)
上記した試験例1で示したように、プロスタグランジン(PG)D刺激により、FGF-5の産生が促進されることが確認された。そのため、プロスタグランジン(PG)D刺激をした系を用いることで、薄毛や脱毛の予防、治療または改善、育毛・養毛用途などの有効成分となり得る、FGF-5の産生を抑制する素材の探索が可能となる。
そこで、ラマトロバンをモデル素材(被験試料)として用い、プロスタグランジン(PG)D刺激をした系を用いることで、FGF-5の産生を抑制する素材の探索が可能かを下記の方法により、検討した。
なお、ラマトロバンはPGD受容体であるDP2(CRTH2)の拮抗薬として知られており、ラマトロバンで処理すると、結果的にFGF-5の産生が抑制される。
【0066】
正常ヒト頭髪毛乳頭細胞を、毛乳頭細胞増殖培地を用いて培養した後、トリプシン処理により回収した。回収した細胞を1.67×10cells/mLの濃度になるように毛乳頭細胞増殖培地を用いて希釈した後、コラーゲンコートした60mmシャーレに1枚当り3mLずつ播種(5.01×10cells/枚)し、7日間培養した。
培養後、PGD(フナコシ製)及び被験試料を毛乳頭細胞増殖培地で必要濃度に溶解し(最終濃度:PGDは0.1μmol/L、被験試料は下記表2を参照)、各シャーレに30μLずつ添加し、37℃、5%CO下で72時間培養した。なお、コントロールとして、被験試料及びPGD無添加の毛乳頭細胞増殖培地を用いて同様に培養した。
培養終了後、各シャーレの培養上清中のFGF-5の量をFGF-5 ELISA Kit(RayBiotech社)を用いて定量した。
得られた結果から、下記式によりFGF-5産生抑制率を算出した。結果を表2に示す。なお、下記式において、PGD無添加且つ被験試料無添加のFGF-5産生抑制率は100%、PGD添加且つ被験試料無添加のFGF-5産生抑制率は0%となる。
FGF-5産生抑制率(%)={1-(C-E)/(D-E)}×100
上記式中のC~Eは、それぞれ以下を表す。
C : 被験試料添加、PGD添加時のFGF-5の産生量
D : 被験試料無添加、PGD添加時のFGF-5の産生量
E : 被験試料無添加、PGD無添加時のFGF-5の産生量
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示すように、モデル素材として用いたラマトロバンが、プロスタグランジン(PG)D刺激によるFGF-5の産生を抑制することが確認された。そのため、プロスタグランジン(PG)D刺激をした系が、FGF-5の産生を抑制する素材の評価に使用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係るFGF-5発現促進剤は、研究用の試薬として好適に利用され得る。また、化粧料等の一成分として用いることもできる。本発明に係るFGF-5の産生を抑制する素材の評価方法は、薄毛や脱毛の予防、治療または改善、育毛・養毛用途などに用いることができる素材の探索に好適に利用され得る。