(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184494
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】有機化合物の精製方法、製造方法及び有機電界発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20231221BHJP
C07B 63/00 20060101ALI20231221BHJP
C07D 209/84 20060101ALI20231221BHJP
C07D 513/04 20060101ALI20231221BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20231221BHJP
H10K 50/12 20230101ALI20231221BHJP
【FI】
C07F15/00 E
C07B63/00 F
C07D209/84
C07D513/04 301
H10K85/60
H10K50/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098639
(22)【出願日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022097441
(32)【優先日】2022-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕陸
(72)【発明者】
【氏名】西村 政昭
【テーマコード(参考)】
3K107
4C072
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC45
3K107DD64
3K107FF06
4C072AA01
4C072BB02
4C072CC01
4C072CC17
4C072DD10
4C072EE13
4C072FF19
4C072GG08
4C072HH02
4C072JJ05
4H006AA02
4H006AD17
4H006BB11
4H006BB12
4H006BB16
4H006BB17
4H050AA02
4H050AA03
4H050AB92
4H050AD17
4H050BB11
4H050BB17
(57)【要約】
【課題】難溶性の有機化合物であっても、簡便な方法で、かつ高い純度及び高い回収率で目的とする有機化合物を精製することができる有機化合物の精製方法を提供する。
【解決手段】有機化合物をクロマトグラフィーにより精製する方法において、精製対象の有機化合物、吸着材、及び該有機化合物の良溶媒を混合して、前記有機化合物の少なくとも一部が前記良溶媒に溶解したスラリー1を得る工程と、前記スラリー1を撹拌して、前記有機化合物が前記吸着材に吸着したスラリー2を得る工程と、前記スラリー2を、クロマトカラムに充填する工程とを有する、有機化合物の精製方法。この有機化合物の精製方法を用いる有機化合物の製造方法。この製造方法で得られる有機化合物を用いる有機電界発光素子の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物をクロマトグラフィーにより精製する方法において、
精製対象の有機化合物、吸着材、及び該有機化合物の良溶媒を混合して、前記有機化合物の少なくとも一部が前記良溶媒に溶解したスラリー1を得る工程と、
前記スラリー1を撹拌して、前記有機化合物が前記吸着材に吸着したスラリー2を得る工程と、
前記スラリー2を、クロマトカラムに充填する工程とを有する、有機化合物の精製方法。
【請求項2】
前記スラリー2を得る工程において、前記スラリー1に前記有機化合物の貧溶媒を添加する、請求項1に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項3】
前記スラリー2を得る工程において、前記スラリー1に前記貧溶媒を滴下する、請求項2に記載の有機化合物の精製方法
【請求項4】
前記スラリー2を得る工程の終了時点で、該工程におけるスラリー2の液相に対する前記有機化合物の濃度が、前記スラリー1を得る工程における前記有機化合物と前記良溶媒を混合した場合の液相における前記有機化合物の濃度の10%以下である、請求項1に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項5】
前記スラリー2を得る工程の終了時点で、前記有機化合物の該スラリー2の液相に対する濃度が10g/L以下である、請求項1に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項6】
前記吸着材がシリカゲルである、請求項1に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項7】
前記良溶媒が芳香族炭化水素化合物及び/またはハロゲン系化合物を含む、請求項1に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項8】
前記貧溶媒が脂肪族炭化水素化合物である、請求項2に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項9】
前記クロマトカラムの固定相がシリカゲルである、請求項1に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項10】
前記有機化合物が波長380nm~780nmに吸収を有する化合物である、請求項1に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項11】
前記有機化合物が金属錯体である、請求項1に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項12】
前記金属錯体が、芳香族化合物を配位子とするイリジウム錯体である、請求項11に記載の有機化合物の精製方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の有機化合物の精製方法を用いる、有機化合物の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法により得られる有機化合物を用いることを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィーによる有機化合物の精製方法に関するものであり、特に、有機電界発光素子に用いられるイリジウム錯体等の難溶性の有機化合物の精製に有効な有機化合物の精製方法と、この有機化合物の精製方法を用いた有機化合物の製造方法、この製造方法で得られる有機化合物を用いる有機電界発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機合成によって合成される有機化合物の中には、電子材料や医薬品原体として用いられるものが多くある。これらの用途において、不純物が特性発現の阻害要因となることや、不純物が毒性を有していることから用途として不向きであることなどの理由により、不純物の含有量は厳しい管理が要求されている。
【0003】
目的とする有機化合物を精製する方法として、蒸留、再結晶、クロマトグラフィー、抽出などが一般的に知られている。中でもクロマトグラフィーは高い純度を達成する際に一般的な精製手法である(非特許文献1)。
【0004】
クロマトグラフィーで精製を行う場合、目的物を含有する混合物をごく少量の良溶媒に溶解させて、カラムに通液する手法が最も一般的である。この手法は液体チャージと呼ばれる。しかしながら、難溶性の有機化合物のクロマトグラフィー精製において液体チャージを用いた場合、混合物を溶解する良溶媒の量が非常に多くなり、混合物を溶解するために使用した良溶媒によって分離したい物質が固定相を展開するため、要求する純度が得られないという問題があった。一方、使用する良溶媒の量を少なくするため、極性の高い溶媒を使用した場合も、高い極性の溶媒によって分離したい物質が固定相を展開するため、要求する純度が得られないという問題があった。また、クロマトグラフィー中に難溶性の有機化合物がカラム内で析出し、著しい場合にはカラムの閉塞に至るという問題もあった。
さらに、液体チャージ法は、チャージ時の固定相の乱れにより固定相内にチャージした有機化合物の不均一な分布が生じたり、チャージに用いた溶媒による固定相の展開により不純物が意図せず展開、溶出したり、チャージに用いた溶媒と後から通液する移動相が混合することによりチャージした有機化合物が不均一な濃度で固定相内を移動したり、極性の低い溶媒を移動相として使用することで難溶性の有機化合物がカラム内で析出したりする現象が発生し、これらの現象により、溶出時間に対して溶出する濃度が濃淡を繰り返し複数回の濃度の極大を取る、すなわち不均一な溶出結果となり、カラム精製工程の再現性が低くなるという問題もあった。
【0005】
このような欠点を改善する方法として、ドライチャージと呼ばれる手法がとられる。この手法は以下の手順で行われる。
【0006】
目的とする有機化合物を極性の高い溶媒を用いて完全に溶解させ、この溶液に該溶液を十分に吸収する量の無機担持体を投入する。その後、溶液を含んだ担持体から加熱及び/又は減圧下で溶媒を全て取り除くことによって目的とする有機化合物を担持体表面に吸着させ、有機化合物が吸着した溶媒を含まない(乾燥した)担持体得る。この有機化合物が吸着した担持体をカラムに充填し、移動相(溶離液)を通液してクロマトグラフィーを行う。その際、実験室レベルの取扱量では、溶液を含んだ担持体から溶媒を留去する方法としてロータリーエバポレーターを用いるのが一般的である。
【0007】
特に、有機電界発光素子で用いられるような、可視光域(380~780nm)に吸収を持つ色素に分類される有機化合物は、分子中に芳香族環を多数有するため難溶性であることが多い。このため、これらの難溶性有機化合物をクロマトグラフィーで精製する場合、ドライチャージが一般的に用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Molecular Diversity 2009年 13巻 247-252項
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ドライチャージのために有機化合物が均一に吸着した無機担持体を得るには、無機担持体を混合しながら溶媒留去を行う必要があり、工業スケールでドライチャージを実施する場合、実験室レベルで使い勝手のよいロータリーエバポレーターが使用できず、目的とする有機化合物を均一に無機担持体に吸着させることが非常に困難であるという課題が存在する。また、有機化合物が吸着した乾燥した大量の無機担持体をクロマト管に充填する工程は、作業者の重労働を伴い作業効率が悪い上、作業員がクロマト管を開けた際に、クロマト管内の溶媒に曝露することや、乾燥した有機化合物の粉体を吸入することにより作業者の健康を著しく損なう、といった課題もある。
以上のことから、従来は、難溶性の有機化合物の工業スケールでのクロマトグラフィーを用いた精製は困難であった。
【0010】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、難溶性の有機化合物を工業スケールでクロマトグラフィーを用いて精製することを可能にすることを目的とする。
具体的に、本発明は、難溶性の有機化合物であっても、簡便な方法で、かつ高い純度及び高い回収率で精製することができる有機化合物の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、有機化合物を吸着した担持体を含むスラリーを安全かつ均一に製造する手法と、これをクロマトグラフィーに用いて簡便に有機化合物を精製する手法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
[1] 有機化合物をクロマトグラフィーにより精製する方法において、精製対象の有機化合物、吸着材、及び該有機化合物の良溶媒を混合して、前記有機化合物の少なくとも一部が前記良溶媒に溶解したスラリー1を得る工程と、前記スラリー1を撹拌して、前記有機化合物が前記吸着材に吸着したスラリー2を得る工程と、前記スラリー2を、クロマトカラムに充填する工程とを有する、有機化合物の精製方法。
【0014】
[2] 前記スラリー2を得る工程において、前記スラリー1に前記有機化合物の貧溶媒を添加する、[1]に記載の有機化合物の精製方法。
【0015】
[3] 前記スラリー2を得る工程において、前記スラリー1に前記貧溶媒を滴下する、[2]に記載の有機化合物の精製方法。
【0016】
[4] 前記スラリー2を得る工程の終了時点で、該工程におけるスラリー2の液相に対する前記有機化合物の濃度が、前記スラリー1を得る工程における前記有機化合物と前記良溶媒を混合した場合の液相における前記有機化合物の濃度の10%以下である、[1]~[3]に記載の有機化合物の精製方法。
【0017】
[5] 前記スラリー2を得る工程の終了時点で、前記有機化合物の該スラリー2の液相における濃度が10g/L以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の有機化合物の精製方法。
【0018】
[6] 前記吸着材がシリカゲルである、[1]~[5]のいずれかに記載の有機化合物の精製方法。
【0019】
[7] 前記良溶媒に芳香族炭化水素化合物及び/またはハロゲン系化合物を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の有機化合物の精製方法。
【0020】
[8] 前記貧溶媒が脂肪族炭化水素化合物である、[2]~[7]のいずれかに記載の有機化合物の精製方法。
【0021】
[9] 前記クロマトカラムの固定相がシリカゲルである、[1]~[8]のいずれかに記載の有機化合物の精製方法。
【0022】
[10] 前記有機化合物が波長380nm~780nmに吸収を有する化合物である、[1]~[9]のいずれかに記載の有機化合物の精製方法。
【0023】
[11] 前記有機化合物が金属錯体である、[1]~[10]のいずれかに記載の有機化合物の精製方法。
【0024】
[12] 前記金属錯体が、芳香族化合物を配位子とするイリジウム錯体である、[11]に記載の有機化合物の精製方法。
【0025】
[13] [1]~[12]のいずれかに記載の有機化合物の精製方法を用いる、有機化合物の製造方法。
【0026】
[14] [13]に記載の製造方法により得られる有機化合物を用いることを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、難溶性の有機化合物であっても、目的の有機化合物を吸着した担持体を含むスラリーを安全かつ均一に製造でき、これを用いたクロマトグラフィーよって有機化合物を簡便に精製して高純度の有機化合物を効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明における有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0030】
〔有機化合物の精製方法〕
本発明の有機化合物の精製方法は、有機化合物をクロマトグラフィーにより精製する方法において、精製対象の有機化合物、吸着材、及び該有機化合物の良溶媒を混合して、前記有機化合物の少なくとも一部が前記良溶媒に溶解したスラリー1を得る工程と、前記スラリー1を撹拌して、前記有機化合物が前記吸着材に吸着したスラリー2を得る工程と、前記スラリー2を、クロマトカラムに充填する工程とを有する。通常、スラリー2をクロマトカラムに充填した後は、このクロマトカラムに移動相(溶離液)を通液し、カラム流出液(溶出液)から、目的とする有機化合物を含有する画分を回収する。
【0031】
[スラリー1を得る工程]
この工程では、精製対象の有機化合物(以下、「目的有機化合物」と称する場合がある。)、吸着材、及び目的有機化合物の良溶媒を混合して、目的有機化合物の少なくとも一部が良溶媒に溶解したスラリー1を得る。目的有機化合物は、通常、不純物を含む目的有機化合物の粗体として精製に用いられる。
【0032】
目的有機化合物を含む粗体、吸着材、良溶媒を添加する順番に特に制限はないが、工程再現性の観点から良溶媒と目的有機化合物を混合し、こののち吸着材を添加することが望ましい。
【0033】
混合温度に特に制限はないが、通常0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、通常120℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。
なお、後述のように、良溶媒に対する目的有機化合物の溶解量を上げるために40~90℃程度に加温しながら混合してもよい。
目的有機化合物の溶解の確認方法に特に制限はないが、溶液のスポッティングや顕微鏡を用いた確認が好ましく用いられる。
【0034】
<目的有機化合物>
本発明において、精製対象とする目的有機化合物には、特に制限はないが、本発明を適用することによる効果に優れることから、難溶性の有機化合物が好ましく、具体的にはクロマトグラフィーに用いる最も極性の低い溶離液への溶解度が50g/Lを下回る有機化合物が好ましい。このようなものとして分子中に芳香族環を多数有する有機化合物が挙げられ、具体的には380~780nmに吸収波長を有する色素化合物や金属錯体、分子中に芳香環を複数有するアゾ化合物やニトロ化合物などが挙げられる。ただし、本発明における目的有機化合物は、難溶性の有機化合物に何ら限定されるものではない。
【0035】
以下に本発明において、精製対象となる目的有機化合物及びその具体例を例示する。
【0036】
(精製対象となる色素化合物)
精製対象の色素化合物としては、380nm~780nmに吸収波長をもつ有機色素が挙げられる。
具体的には、アゾ系色素、フタロシアニン系色素、縮合多環系色素、ニトロ系色素、ニトロソ系色素、キナクリドン系色素、キナクリドンキノン系色素、ジオキサジン系色素、アントラピリミジン系色素、アンサンスロン系色素、インダンスロン系色素、フラバンスロン系色素、ペリレン系色素、ジケトピロロピロール系色素、ペリノン系色素、キノフタロン系色素、アントラキノン系色素、チオインジゴ系色素、ベンツイミダゾロン系色素、イソインドリノン系色素、アゾメチン系色素、トリアリールメタン系色素を挙げることができる。
【0037】
(精製対象となる分子中に芳香族環を複数有するアゾ化合物)
以下に、本発明による精製に好適な分子中に芳香族環を複数有するアゾ化合物の具体例を示すが、本発明における精製対象は、これらに限定されるものではない。
【0038】
【0039】
(精製対象となる分子中に芳香族環を複数有するニトロ化合物)
以下に本発明による精製に好適な分子中に芳香族環を複数有するニトロ化合物の具体例を示すが、本発明における精製対象は、これらに限定されるものではない。
【0040】
【0041】
(精製対象となる金属錯体)
380nm~780nmに吸収波長を持つ金属錯体としては、例えば芳香族化合物よりなる配位子を有するイリジウム錯体、金属フタロシアニン錯体、金属アゾ錯体、金属ポルフィリン錯体等が挙げられる。
【0042】
(精製に好適なイリジウム錯体)
中でも、イリジウム錯体は、有機電界発光素子における発光材料、光触媒等の用途で用いられ、高い純度が必要とされる。特に、本発明における精製方法によって高純度化を達成できるイリジウム錯体として、具体的には、配位子として芳香族環が二つ以上結合した化合物を少なくとも一つ以上有する錯体が挙げられ、分子量650以上のイリジウム錯体が好ましい
【0043】
以下に、本発明による精製に好適なイリジウム錯体の具体例を示すが、本発明の精製対象イリジウム錯体は、これらに限定されるものではない。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
<スラリー1に用いる吸着材>
スラリー1を得る工程において用いられる吸着材は、良溶媒に溶解しない無機多孔質材料であることが好ましい。具体的にはアルミナ、多孔質黒鉛、炭素発泡体、活性炭、ゼオライト、珪藻土、多孔質セラミック、バーミキュライト、セライト、活性白土及びシリカゲルから選ばれる1種又は2種以上である。吸着材としては、目的有機化合物の吸脱着が容易なことからシリカゲル、アルミナのような酸化物が好ましく、シリカゲルがより好ましい。
【0059】
吸着材として用いる無機多孔質材料は、クロマトグラフィーの固定相に用いるものと同等のものを用いることが、カラム内に均一な固定相を形成し、移動相による溶離にあたり、均等な溶離が可能となることから、目的有機物化合物濃度の高い画分を分取することができ、好ましい。
【0060】
用いる無機多孔質材料の粒径は、500μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましく、1μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。無機多孔質材料の粒径が上記上限以下であれば、吸着比表面積が大きいことから吸着効率に優れ、上記下限以上であれば、取り扱い性、移動相の圧損の観点から好ましい。また吸着材の形状に特に制限はないが、本発明では均一な充填が容易なことから球状の吸着材がこの好ましく、球状シリカゲルがさらに好ましい。
【0061】
無機多孔質材料は、一般的には、その細孔径が約1nmから約100nmにわたる広い分布を有するものが知られており、本発明においても、このような無機多孔質材料も用いることができるが、精製対象である目的有機化合物を均一に吸着させることによるカラムクロマトグラフィーによる分離の再現性向上の観点から、平均細孔径は1~10nmの範囲にあることが好ましい。
【0062】
吸着材の使用量は、目的有機化合物の量が用いる吸着材の飽和吸着量以下となるような量であるが、吸着材に均一に精製対象の有機化合物を含む粗体を吸着させる点において、粗体の重量の通常1倍以上だが、3倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましい。また作業性と溶出に必要となる溶媒量の観点から粗体の50倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましい。
【0063】
<スラリー1の良溶媒>
スラリー1を得る工程において用いられる良溶媒としては、通常、25℃における目的有機化合物の溶解度が通常0.5g/L以上であり、好ましくは1g/L以上であり、より好ましくは5g/L以上であり、通常1kg/L以下であり、好ましくは500g/L以下であり、より好ましくは100g/L以下である、単一もしくは混合有機溶媒が挙げられる。目的有機化合物の溶解度が上記下限以上となる良溶媒を用いることにより精製対象の目的有機化合物を含む粗体の溶解を促進し、撹拌によって速やかに均一なスラリー2を得ることが可能になる。また、溶解度が上記上限以下の良溶媒であれば、スラリー1の液相中における目的有機化合物の溶解量を抑えることができ、スラリー2を得る工程において使用する貧溶媒の量が少なくて済む。また、貧溶媒を添加してスラリー2を得る場合には、液相からの不均一な目的有機化合物の析出を防ぐことができる。
【0064】
良溶媒として使用できる溶媒は精製対象の目的有機化合物の溶解度に依存するが、一般的には含ハロゲン炭化水素類、芳香族類、エステル類、ケトン類が好ましい。また溶出液を濃縮する作業の観点から常圧での沸点が300℃以下の溶媒が好ましく、沸点が150℃以下の溶媒がさらに好ましく、作業時に揮発が少ない点から沸点は30℃以上が好ましく、35℃以上がさらに好ましい。カラムの圧損を抑える観点から20℃における粘度が10mPa・s以下の溶媒が好ましい。
【0065】
本発明における良溶媒としては芳香族炭化水素化合物、ハロゲン系化合物、エステル系化合物を単一または複数を混合して用いることが、分子内に複数の芳香族環を持つ化合物の溶解度が高く、精製に好適であるため好ましく、具体的には、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチルが挙げられる。
なお、前述の好適な溶解度を満たす範囲において、上記の良溶媒に後述の貧溶媒を混合したものを良溶媒として用いてもよい。
【0066】
[スラリー2を得る工程]
この工程では、前記工程で得られたスラリー1を撹拌することで、目的有機化合物が吸着材に吸着したスラリー2を得る。
【0067】
撹拌時間は特に制限はないが、目的有機化合物の粗体を均一に吸着材に吸着させる観点から通常5分以上だが、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。撹拌時間の上限には特に制限はないが、作業性の観点から通常24時間以下である。
【0068】
目的有機化合物の吸着の確認方法に特に制限はないが、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、NMR、紫外又は可視分光光度計などを用いた液相中の目的有機化合物の濃度の定量や、顕微鏡を用いた吸着材の確認が好ましく用いられる。
【0069】
スラリー2を得る工程において、目的有機化合物の液相への溶解量を低下させることで、目的有機化合物の吸着材への吸着を促進するという観点から、目的有機化合物の貧溶媒を添加しながらスラリー1を撹拌してよい。特に、撹拌終了時点でスラリー2の液相における目的有機化合物の濃度が、下記のスラリー2を得る工程の終了時点でのスラリー2の液相に対する目的有機化合物の濃度を上回る場合は、クロマトグラフィーの再現性や収率の観点から、貧溶媒を添加しながらスラリー1を撹拌することが好ましい。
【0070】
スラリー1への貧溶媒の添加方法に制限はないが、滴下による方法が好ましい。
【0071】
貧溶媒の添加時間には特に制限はないが、好ましくは15分以上であり、より好ましくは30分以上である。添加時間が上記下限以上であれば、貧溶媒の添加により目的有機化合物が均一に吸着材表面へと吸着し、精製後の純度及び回収率が高まる傾向にある。なお、添加時間の上限には特に制限はないが、作業効率の観点から、通常5時間以下である。
【0072】
貧溶媒添加時の温度については特に制限はないが、通常0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、90℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、30℃以下が更に好ましく、常温が特に好ましい。
【0073】
<スラリー2の貧溶媒>
スラリー2を得る工程においてスラリー1に添加する貧溶媒としては、通常、25℃における目的有機化合物の溶解度が0.1g/L以下であり、好ましくは0.05g/L以下である、単一もしくは混合有機溶媒が挙げられる。貧溶媒として、目的有機化合物の溶解度が上記上限以下の溶媒を用いることにより、スラリー2の液相中における目的有機化合物の溶解量を抑え、再現性の良い精製が可能となる。
【0074】
スラリー2を得る工程の終了時点で、スラリー2の液相に対する目的有機化合物の濃度が、スラリー1を得る工程で目的有機化合物と良溶媒のみを混合した場合の、液相に対する目的物有機化合物の濃度の10%以下であることで、目的有機化合物のスラリー2の液相への溶解量を抑えることができ、クロマトカラムに充填する工程においてスラリー2の液相の一部をクロマトカラムに充填しなくても、目的有機化合物の回収率が下がることがなく作業性が向上する。スラリー2の液相における目的有機化合物の濃度は、スラリー1を得る工程で吸着材混合前の良溶媒における目的有機化合物の濃度の5%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましい。
【0075】
スラリー2を得る工程の終了時点で、目的有機化合物のスラリー2の液相に対する溶解量が10.0g/L以下となることで、スラリー2の液相中の目的有機化合物の溶解量を抑えることができ、スラリー2をクロマトカラムに充填する作業中に目的有機化合物が固定相に溶出することを抑えることができ、不純物との分離精度、クロマトグラフィーの再現性及び目的有機化合物の回収率が向上する。またスラリー2をクロマトカラムに充填する作業中に目的有機化合物が固定相に溶出することを抑えることにより、移動相を通液する工程中における目的有機化合物の析出を抑えることができ、カラム管の閉塞を回避できる。この溶解量は、より好ましくは5.0g/L以下であり、更に好ましくは1.0g/L以下である。
【0076】
上記のような溶解度を満たすことから、スラリー2の貧溶媒としては、目的有機化合物の溶解度が低い溶媒であることが必要であり、脂肪族炭化水素化合物が好ましく、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、リグロイン、シクロヘキサンがより好ましいが、何らこれらの溶媒に限定されるものではない。
【0077】
貧溶媒の使用量は、前述の溶解度条件を満たすような量であればよく、特に制限はないが、通常、スラリー1に用いた良溶媒に対して体積比で好ましくは0.5~10倍、より好ましくは1~4倍とすることが、スラリー量の増加を抑えて目的有機化合物を吸着材に効率的に吸着させることができ、その後のスラリーの充填においても使用溶媒量が少なくて済むため、コストや作業負荷低減においても好ましい。
【0078】
[スラリー2を充填する工程]
この工程では、前工程で調製したスラリー2をクロマトカラムに充填する。一般的には、カラム内の固定相の上にスラリー2内の目的有機化合物が吸着した吸着材が堆積するように、スラリー2をカラムに投入する。
なお、クロマトカラムとしては、一般的なクロマトグラフィーに用いられる、上部に移動相(溶離液)の流入口、下部に溶出液の流出口を有する直管状のカラムを用いることができる。
また、スラリー2は、固定相と別のクロマト管に充填して、固定相を充填したクロマト管と連結して使用してもよい。この場合、固定相を充填したクロマト管の移動相の流入口は、上部でも下部でもよい。
スラリー2の充填方法に特に制限はないが、スラリー2の固形分は全量充填する。スラリー2中の液相の上澄みを一部取り除いて残りの液相と固形分を充填してもよい。またスラリー2の固相と液相を同時に充填してもよいし、液相の一部を先に充填した後、残ったスラリー2を充填してもよい。
【0079】
<クロマトカラムの固定相>
本発明のクロマトカラムに用いられる固定相は、良溶媒及び移動相に用いる溶媒に溶解しない無機多孔質材料であることが好ましく、具体的にはアルミナ、シリカゲルが挙げられる。本発明に用いる固定相は、クロマトグラフィー中でイリジウム錯体が分解するのを防止するという観点から中性シリカゲルが好ましいが、必ずしもこの限りではない。また、他の目的有機化合物の場合はこの限りではない。また容易に均一に固定相材料が充填できる点から球状シリカゲルが好ましいが、必ずしもこの限りではない。前述の通り、クロマトカラムに充填する固定相は、目的有機化合物と不純物の分離が容易であることから、スラリー1の吸着材と同一のものを用いることが好ましい。
固定相は乾燥した状態でカラムに充填してもよいし、移動相で懸濁してから充填してもよい。
【0080】
[移動相を通液する工程]
スラリー2をクロマトカラムに充填した後は、このクロマトカラムに移動相(溶離液)を通液して目的有機化合物を移動相に溶解させる。
移動相に用いる溶媒に特に制限はなく、目的有機化合物と混在する不純物の種類により、選択することができる。一般に含ハロゲン炭化水素類、芳香族類、石油エーテル類、エステル類、アルコール類、ニトリル類、ケトン類、脂肪族炭化水素類の単一溶媒或いはこれらの混合溶媒が用いられる。用いる溶媒は、沸点が1気圧において30℃以上、200℃以下が好ましく、35℃以上、120℃以下がより好ましい。
具体的にはトルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、ジイソプロピルエーテル、アセトニトリル、メタノール、ヘキサン、ヘプタンのいずれか1種以上を含む溶媒が、目的有機化合物を分画した後に溶媒を留去する工程において、1気圧または減圧下で100℃以下で操作できることから、好ましく用いられる。
移動相の通液量は、クロマトカラム内の目的有機化合物を十分に溶出できる量であればよい。
【0081】
[有機化合物の回収方法]
クロマトカラムから流出した移動相(溶出液)は、これを常法に従って分画処理することにより、目的有機化合物を含有する画分を分取し、これらの画分から溶媒を除去することで、目的有機化合物を回収することができる。
分画の際の目的有機化合物の検出方法に特に制限はないが、目視、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が好ましく用いられる。
溶媒を除去する方法に特に制限はないが、ロータリーエバポレーターの使用、1気圧下または減圧下での蒸留、再沈殿とそれに続く濾過などが好ましく用いられる。
【0082】
回収された目的有機化合物に対して、その他のクロマトグラフィー技術(逆相シリカゲルクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ペーパークロマトグラフィー)や、分液洗浄、再沈殿、再結晶、粉体の懸濁洗浄、減圧乾燥などの精製操作を必要に応じて施すことができる。精製工程は条件を変えて複数回行ってもよい。
【0083】
〔有機化合物の製造方法〕
本発明の有機化合物の製造方法は、常法に従って合成した目的有機化合物を、本発明の有機化合物の精製方法を用いて精製することで、高純度有機化合物を製造する方法であり、前述の色素化合物や金属錯体などの難溶性の有機化合物であっても、工業的な規模で合成、精製することで、高純度の有機化合物を高い生産効率で製造することができる。このようにして製造した有機化合物は工業的な規模で合成しても安定した性能を示す。
【0084】
〔有機電界発光素子〕
本発明における有機電界発光素子は、本発明の有機化合物の製造方法に従い製造した有機化合物を含むものである。
【0085】
本発明における有機電界発光素子は、好ましくは、基板上に少なくとも陽極、陰極及び前記陽極と前記陰極の間に位置する少なくとも1層の有機層を有するものであって、前記有機層のうち少なくとも1層が本実施形態に係る有機化合物を含む。より好ましくは、前記有機層は発光層を含み、前記発光層に本実施形態に係る有機化合物を含む。
【0086】
〔有機電界発光素子の製造方法〕
本発明の有機電界発光素子の製造方法は、本発明の有機化合物の製造方法に従い製造した有機化合物を用いることを特徴とする。
具体的には、陽極、陰極及び前記陽極と前記陰極の間に位置する少なくとも1層の有機層を有する有機電界発光素子の製造方法であって、前記有機層の少なくとも1層が、本発明の有機化合物の製造方法に従い製造した有機化合物を用いて形成された層であることが好ましい。また、前記有機化合物を用いて形成された層が、湿式成膜法により形成された層であることがより好ましい。前記湿式成膜法により形成された層は、発光層であることがさらに好ましい。
【0087】
本実施形態において湿式成膜法とは、成膜方法、即ち、塗布方法として、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルプリンティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等、湿式で成膜される方法を採用し、これらの方法で成膜された膜を乾燥して膜形成を行う方法をいう。
【0088】
図1は本発明における有機電界発光素子10に好適な構造例を示す断面の模式図であり、
図1において、符号1は基板、符号2は陽極、符号3は正孔注入層、符号4は正孔輸送層、符号5は発光層、符号6は正孔阻止層、符号7は電子輸送層、符号8は電子注入層、符号9は陰極を各々表す。
【0089】
これらの構造に適用する材料は、公知の材料を適用することができ、特に制限はない。また、公報や論文等を引用している場合、該当内容を当業者の常識の範囲で適宜、適用、応用することができるものとする。
【実施例0090】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる。
【0091】
以下の実施例及び比較例において用いた吸着材としてのシリカゲルと、カラムの固定相としてのシリカゲルは、粒径が63~210μmの範囲であり、細孔径が4.4~6.4nmの範囲にある中性球状シリカゲル(関東化学社製シリカゲル60N(球状、中性))である。また、以下の実施例及び比較例において、操作はいずれも常温(20℃)で行った。
【0092】
精製対象である目的有機化合物の各溶媒及びスラリーの液相への溶解度は、溶液をHPLCを用いて分析し、検量線を元に定量して算出した。
【0093】
〔実施例1,2及び比較例1〕
以下の実施例1、2及び比較例1では、イリジウム錯体Aのクロマトグラフィーによる精製を行った。イリジウム錯体Aは参考例1に記載の方法に従って合成し、得られたイリジウム錯体Aの粗体(HPLC純度74.7%)を、それぞれの方法で精製した。
【0094】
【0095】
IrCl3・n水和物(2.0g)、水(14g)、diglyme(87g)および配位子A(7.4g)を混合し、外温190℃まで昇温した。溶媒を留去しながら加熱をし、内温が165℃で一定になった後にそのまま4.5時間加熱撹拌をした。放冷後にMeOH(64mL)を添加して撹拌し、その後、析出物を濾過して回収した。得られた粗体(8.3g)をHPLCで定量したところ、二核錯体Aは7.9g含まれていた。
【0096】
【0097】
上記にて合成した二核錯体Aを含む粗体(8.2g)、配位子A(8.2g)、diglyme(74.0g)およびトリフルオロメタンスルホン酸銀(2.0g)を混合し、内温165℃で1.5時間加熱撹拌をした。放冷後にMeOH(190mL)を添加し撹拌後に濾過をした。回収した固体をジクロロメタン(68mL)を加え完全に溶解させた後、活性白土(4.1g)を加えて撹拌後濾過をした。得られた濾液を減圧蒸留して溶媒を取り除き残渣を回収した。得られた粗体(7.9g)をHPLCを用いて定量したところイリジウム錯体Aは5.9g含まれていた。
【0098】
[実施例1]
<スラリー1及び2の調製>
参考例1で得られたイリジウム錯体Aを含む粗体(0.9g)にジクロロメタン(10.0mL)を加え30分間撹拌し、完全に溶解させた後、吸着材としてシリカゲル(6.3g)を加えスラリー1を得た。得られたスラリー1を30分間撹拌したのち、スラリー1を撹拌しながらn-ヘプタン(30mL)を30分かけて滴下してスラリー2を得た。
ここで、イリジウム錯体Aを含む粗体を良溶媒であるジクロロメタンに溶解させた際のイリジウム錯体Aの濃度は90g/Lであった。また、イリジウム錯体Aは貧溶媒であるn-ヘプタン及びスラリー2の液相であるジクロロメタン:n-ヘプタン=1:3(体積比)の混合溶媒には溶解しなかった。溶解しないことは、イリジウム錯体Aとn-ヘプタン及びスラリー2の液相であるジクロロメタン:n-ヘプタン=1:3(体積比)の混合溶媒を混合、撹拌し、得られた上澄み液をHPLCで測定したところ、イリジウム錯体Aに相当するピークが検出されないことで確認した。スラリー2の調製工程開始時において、液相のイリジウム錯体Aの濃度は、ジクロロメタンに対して90g/Lであり、スラリー2の調製工程が終了時において0.01g/L以下であった。
【0099】
<クロマトグラフィーによる精製>
シリカゲル(6.3g)に酢酸エチルとn-ヘプタンを2:8(体積比)で混合した溶液(30mL)を加え、得られたスラリーをカラム管(長さ300mm、内径30mm)に充填して固定相を形成した。その後、上記で調製したスラリー2を全量このカラム管の固定相上に充填した。スラリー2を充填する作業中にイリジウム錯体Aの固定相への溶出は目視で確認されなかったため、本工程は再現性よく実施できると見込まれる。これに酢酸エチルとn-ヘプタンを2:8(体積比)で混合した移動相を通液した。
カラム流出液を分画してイリジウム錯体Aを含有する画分を回収し、これを濃縮乾固した。得られた赤橙色の乾固物(0.7g)をHPLCで定量したところ、イリジウム錯体Aは0.7g含まれており、収率95%、純度99.6%と算出された。
【0100】
[実施例2]
<スラリー1及び2の調製>
参考例1で得られたイリジウム錯体Aを含む粗体(1.0g)にトルエン(9.0mL)とn-ヘプタン(9.0mL)の混合溶媒を加え30分間撹拌した。この時イリジウム錯体Aを含む粗体は完全に溶解しなかった。吸着材としてシリカゲル(7.5g)を加えスラリー1を得た。得られたスラリー1を30分間撹拌したのち、スラリー1を撹拌しながらn-ヘプタン(18.0mL)を30分かけて滴下してスラリー2を得た。
ここで、イリジウム錯体Aを含む粗体と良溶媒であるトルエン:n-ヘプタン=1:1(体積比)を混合した際の、イリジウム錯体Aの濃度は1g/Lであった。イリジウム錯体Aは貧溶媒であるn-ヘプタン及びスラリー2の液相であるトルエン:n-ヘプタン=1:3(体積比)の混合溶媒に溶解しなかった。溶解しないことは、イリジウム錯体Aとn-ヘプタン及びスラリー2の液相であるトルエン:n-ヘプタン=1:3(体積比)の混合溶媒を混合、撹拌し、得られた上澄み液をHPLCで測定したところ、イリジウム錯体Aに相当するピークが検出されないことで確認した。スラリー2の調製工程開始時において、液相のイリジウム錯体Aの濃度は、トルエン:n-ヘプタン=1:1(体積比)の混合溶媒に対して1g/Lであり、スラリー2の調製工程が終了時において0.01g/L以下であった。
【0101】
<クロマトグラフィーによる精製>
シリカゲル(7.5g)に酢酸エチルとn-ヘプタンを2:8(体積比)で混合した溶液(30mL)を加え、得られたスラリーをカラム管(長さ300mm、内径30mm)に充填して固定相を形成した。その後、上記で調製したスラリー2を全量このカラム管の固定相上に充填した。スラリー2を充填する作業中にイリジウム錯体Aの固定相への溶出は目視で確認されなかったため、本工程は再現性よく実施できると見込まれる。これに酢酸エチルとn-ヘプタンを2:8(体積比)で混合した移動相を通液した。
カラム流出液を分画してイリジウム錯体Aを含有する画分を回収し、これを濃縮乾固した。得られた赤橙色の乾固物(0.6g)をHPLCで定量したところ、イリジウム錯体Aは0.6g含まれており、収率93%、純度99.1%と算出された。
【0102】
[比較例1]
シリカゲル(15.0g)に酢酸エチルとn-ヘプタンを2:8(体積比)で混合した溶液(72mL)を加え、得られたスラリーをカラム管(長さ300mm、内径30mm)に充填した。ここへ、参考例1で得られたイリジウム錯体Aを含む粗体(1.0g)にジクロロメタン(10mL)を加え30分間撹拌して完全に溶解させ、得られた溶液をカラム固定相上に全量充填した。これに酢酸エチルとn-ヘプタンを2:8(体積比)で混合した移動相を通液した。
通液中にイリジウム錯体Aがカラム管内部で析出し、流路が一部閉塞したため、通液のために加圧を要した。また、イリジウム錯体Aの析出が発生したため、イリジウム錯体Aの溶出は、クロマト時間に対して溶出する濃度が不均一であった。
カラム流出液を分画してイリジウム錯体Aを含有する画分を回収し、これを濃縮乾固した。得られた赤橙色の乾固物をHPLCで定量したところ、イリジウム錯体Aは0.4g含まれており、収率59%、純度94.6%と算出された。
【0103】
〔実施例3及び比較例2〕
以下の実施例3及び比較例2では、ニトロ化合物Aのクロマトグラフィーによる精製を行った。ニトロ化合物Aは参考例2に記載の方法に従って合成し、得られたニトロ化合物Aの粗体(HPLC純度84.5%)を、それぞれの方法で精製した。
【0104】
[参考例2]
(ニトロ化合物Aの合成)
【化19】
【0105】
窒素気流下、500mLフラスコに化合物1(15.0g)、化合物2(8.2g)、リン酸三カリウム(17.4g)、ヨウ化銅(I)(0.8g)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(0.7g)、1,4-ジオキサン(230mL)を入れ、外温110℃に昇温し還流させながら20時間撹拌した。反応溶液にヨウ化銅(I)(0.8g)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(0.7g)を追加し、加熱還流条件で更に9時間撹拌した。得られた反応液を水湿のセライト(3g)を敷いた濾過器を用いて減圧濾過し、トルエン(200mL)で抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。濾液を濃縮し、得られた暗褐色粗体(26.7g)をHPLCにて定量したところ、ニトロ化合物Aは22.7g含まれていた。
【0106】
[実施例3]
<スラリー1及び2の調製>
参考例2で得られたニトロ化合物Aを含む粗体(0.5g)にジクロロメタン(10mL)を加え30分間撹拌し、完全に溶解させた後、吸着材としてシリカゲル(5.0g)を加えスラリー1を得た。得られたスラリー1を30分間撹拌したのち、スラリー1を撹拌しながらn-ヘプタン(50mL)を30分かけて滴下してスラリー2を得た。
ここで、ニトロ化合物Aを含む粗体を良溶媒であるジクロロメタンに溶解させた際のニトロ化合物Aの濃度は42g/Lであった。また、ニトロ化合物Aは貧溶媒であるn-ヘプタン及びスラリー2の液相であるジクロロメタン:n-ヘプタン=1:5(体積比)の混合溶媒には溶解しなかった。溶解しないことは、ニトロ化合物Aとn-ヘプタン及びスラリー2の液相であるジクロロメタン:n-ヘプタン=1:5(体積比)の混合溶媒を混合、撹拌し、得られた上澄み液をHPLCで測定したところ、ニトロ化合物Aに相当するピークが検出されないことで確認した。スラリー2の調製工程開始時において、液相のニトロ化合物Aの濃度は、ジクロロメタンに対して42g/Lであり、スラリー2の調製工程が終了時において0.01g/L以下であった。
【0107】
<クロマトグラフィーによる精製>
シリカゲル(5.0g)にジクロロメタンとn-ヘプタンを1:4(体積比)で混合した溶液(30mL)を加え、得られたスラリーをカラム管(長さ80mm、内径30mm)に充填して固定相を形成した。その後、上記で調製したスラリー2を全量このカラム管の固定相上に充填した。スラリー2を充填する作業中にニトロ化合物Aの固定相への溶出は目視で確認されなかったため、本工程は再現性よく実施できると見込まれる。これにジクロロメタンとn-ヘプタンを1:4(体積比)で混合した移動相を通液した。
カラム流出液を分画してニトロ化合物Aを含有する画分を回収し、これを濃縮乾固した。得られた白色の乾固物(0.4g)をHPLCで定量したところ、ニトロ化合物Aは0.4g含まれており、収率98%、純度98.8%と算出された。
【0108】
[比較例2]
シリカゲル(10.0g)にジクロロメタンとn-ヘプタンを1:4(体積比)で混合した溶液(30mL)を加え、得られたスラリーをカラム管(長さ80mm、内径30mm)に充填した。ここへ、参考例2で得られたニトロ化合物Aを含む粗体(0.5g)にジクロロメタン(10mL)を加え30分間撹拌して完全に溶解させ、得られた溶液をカラム固定相上に全量充填した。これにジクロロメタンとn-ヘプタンを1:4(体積比)で混合した移動相を通液した。
通液中にニトロ化合物Aがカラム管内部で析出し、流路が一部閉塞したため、通液のために加圧を要した。また、ニトロ化合物Aの析出が発生したため、ニトロ化合物Aの溶出は、クロマト時間に対して溶出する濃度が不均一であった。
カラム流出液を分画してニトロ化合物Aを含有する画分を回収し、これを濃縮乾固した。得られた褐色の乾固物(0.4g)をHPLCで定量したところ、ニトロ化合物Aは0.4g含まれており、収率90%、純度95.9%と算出された。
【0109】
〔実施例4及び比較例3〕
以下の実施例4及び比較例3では、アゾ化合物Aのクロマトグラフィーによる精製を行った。アゾ化合物Aは参考例3に記載の方法に従って合成し、得られたアゾ化合物Aの粗体(HPLC純度98.7%)を、それぞれの方法で精製した。
【0110】
【0111】
窒素気流下、1000mLフラスコに化合物3(15.0g)、酢酸(400mL)、プロピオン酸(200mL)を混合し、内温3℃に冷却した。冷却した溶液へ、亜硝酸ナトリウム(4.2g)と濃硫酸の混合物を滴下し、3℃で5時間撹拌しジアゾニウム溶液を調製した。化合物4(11.6g)、テトラヒドロフラン(120mL)、酢酸ナトリウム(106.0g)を混合して3℃に冷却後、上記のジアゾニウム溶液を6時間かけて滴下し、3℃で6時間撹拌した。析出物を濾別したのち、濾液へ水1000mLを添加し、析出した固体を回収した。得られた暗青色粗体(1.1g)をHPLCにて定量したところ、アゾ化合物Aは0.9g含まれていた。
【0112】
[実施例4]
<スラリー1及び2の調製>
参考例3で得られたアゾ化合物Aを含む粗体(0.5g)にn-ヘプタン(27.0mL)とジクロロメタン(3.0mL)の混合溶媒を加え30分間撹拌した。この時アゾ化合物Aを含む粗体は完全に溶解しなかった。吸着材としてシリカゲル(5.0g)を加えスラリー1を得た。得られたスラリー1を30分間撹拌したのち、スラリー1を撹拌しながらn-ヘプタン(30.0mL)を30分かけて滴下してスラリー2を得た。
ここで、アゾ化合物Aを含む粗体と良溶媒であるジクロロメタン:n-ヘプタン=1:9(体積比)を混合した際の、アゾ化合物Aの濃度は5.9g/Lであった。アゾ化合物Aは貧溶媒であるn-ヘプタン及びスラリー2の液相であるジクロロメタン:n-ヘプタン=1:19(体積比)の混合溶媒に溶解しなかった。溶解しないことは、ジクロロメタンとn-ヘプタン及びスラリー2の液相であるジクロロメタン:n-ヘプタン=1:19(体積比)の混合溶媒を混合、撹拌し、得られた上澄み液をHPLCで測定したところ、アゾ化合物Aに相当するピークが検出されないことで確認した。スラリー2の調製工程開始時において、液相のアゾ化合物Aの濃度は、ジクロロメタン:n-ヘプタン=1:9(体積比)の混合溶媒に対して5.9g/Lであり、スラリー2の調製工程が終了時において0.01g/L以下であった。
【0113】
<クロマトグラフィーによる精製>
シリカゲル(2.5g)にアセトンとn-ヘプタンを1:1(体積比)で混合した溶液(10mL)を加え、得られたスラリーをカラム管(長さ80mm、内径30mm)に充填して固定相を形成した。その後、上記で調製したスラリー2を全量このカラム管の固定相上に充填した。スラリー2を充填する作業中にアゾ化合物Aの固定相への溶出は目視で確認されなかったため、本工程は再現性よく実施できると見込まれる。これにアセトンとn-ヘプタンを1:1(体積比)で混合した移動相を通液した。
カラム流出液を分画してアゾ化合物Aを含有する画分を回収し、これを濃縮乾固した。得られた暗青色の乾固物(0.5g)をHPLCで定量したところ、アゾ化合物Aは0.4g含まれており、収率95%、純度99.0%と算出された。
【0114】
[比較例3]
シリカゲル(7.5g)にアセトンとn-ヘプタンを1:1(体積比)で混合した溶液(30mL)を加え、得られたスラリーをカラム管(長さ80mm、内径30mm)に充填した。ここへ、参考例2で得られたアゾ化合物Aを含む粗体(0.5g)にジクロロメタン(10mL)を加え30分間撹拌して完全に溶解させ、得られた溶液をカラム固定相上に全量充填した。これにアセトンとn-ヘプタンを1:1(体積比)で混合した移動相を通液した。アゾ化合物Aの溶出は、クロマト時間に対して溶出する濃度が不均一であった。
カラム流出液を分画してアゾ化合物Aを含有する画分を回収し、これを濃縮乾固した。得られた暗青色の乾固物(0.5g)をHPLCで定量したところ、アゾ化合物Aは0.4g含まれており、収率89%、純度98.7%と算出された。
【0115】
上記の実施例1~4と比較例1~3の結果を表1にまとめた。
【0116】
【0117】
以上の結果より、本発明の有機化合物の精製方法を用いることにより、難溶性の有機化合物であっても、目的の有機化合物を簡便に高純度かつ高収率で精製して回収することができることが分かる。