(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184503
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】液体組成物
(51)【国際特許分類】
C08B 11/193 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
C08B11/193
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099206
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022097340
(32)【優先日】2022-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】横澤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】三木 健太郎
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA30
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB72
4C090BB84
4C090BB92
4C090BC08
4C090BD36
4C090CA36
4C090DA22
4C090DA31
(57)【要約】
【課題】メトキシ基のDS及びヒドロキシプロポキシ基のMSが従来と同等であっても、高い溶解性を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等を提供する。
【解決手段】ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)が、0.1~0.5であり、3位の炭素における水酸基のみがヒドロキシプロポキシ基で置換され、2位及び6位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基で置換されていない無水グルコース単位のモル分率(3位MF)を、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数で除した値(3位MF/MS)が0.12以上であり、2質量%水溶液の20℃における粘度が1.0~50mPa・sであるHPMCを提供し、HPMCと、有機溶媒とを少なくとも含む液体組成物、活性成分を少なくとも含む芯部に、液体組成物をコーティングすることにより、コーティングされた製剤を得る工程を少なくとも含む、コーティングされた製剤の製造方法等を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)が0.1~0.5であり、3位の炭素における水酸基のみがヒドロキシプロポキシ基で置換され、2位及び6位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基で置換されていない無水グルコース単位のモル分率(3位MF)を、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)で除した値(3位MF/MS)が0.12以上であり、2質量%水溶液の20℃における粘度が1.0~50mPa・sであるヒドロキシプロピルメチルセルロース。
【請求項2】
メトキシ基の置換度(DS)が、1.0~2.2である請求項1に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロース。
【請求項3】
前記3位の炭素における水酸基のみがヒドロキシプロポキシ基で置換され、2位及び6位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基で置換されていない無水グルコース単位のモル分率(3位MF)が、0.027以上である請求項1に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロース。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、有機溶媒とを少なくとも含む液体組成物。
【請求項5】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、0質量%を超えて20質量%以下含まれる請求項4に記載の液体組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒が、水と混和性があり、前記液体組成物が、更に水を含む請求項4に記載の液体組成物。
【請求項7】
更に、活性成分を含む請求項4に記載の液体組成物。
【請求項8】
活性成分を少なくとも含む芯部に、請求項4に記載の液体組成物をコーティングする工程を少なくとも含む製剤の製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載の液体組成物を基材上に塗布する工程と、塗布された液体組成物から溶媒を除去してフィルムを得る工程とを少なくとも含むフィルムの製造方法。
【請求項10】
更に、前記フィルムを前記基材から除去する工程を少なくとも含む請求項9に記載のフィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載の液体組成物を、乾燥噴霧することにより、固体分散体を得る工程を少なくとも含む固体分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び有機溶媒を含む液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」とも記載する。)は、コーティング用途や薬物の放出制御用途、また水難溶性薬物と共に用いて加熱溶融押出(ホットメルトエクストルージョン)法又はスプレードライ法により固体分散体を調製する用途等、幅広く使用されている。
【0003】
HPMCをコーティング用途に用いる場合、一般的には水に溶解してコーティング溶液とするケースが多いが、コーティング溶液を噴霧する固形製剤中に含有する有効成分が水と相互作用を起こす場合や、コーティング速度を速める(コーティングの生産性を向上させる)際には、少なくとも一つの有機溶媒を含む溶媒にHPMCを溶解してコーティング溶液とすることがある。HPMCは、カプセル等のフィルムに用いることも知られている(特許文献1~4)。
また、HPMCを水難溶性薬物と共に有機溶媒に溶解して液体組成物を調製し、噴霧乾燥(スプレードライ)することにより固体分散体を調製することが知られている。
【0004】
一般的に、コーティングやスプレードライを行う前に、HPMCを溶解させた組成物中の未溶解物を、フィルター等を用いて濾過もしくは遠心分離等をして除去するが、未溶解物の量が多いとフィルターの目詰まりが発生したり、遠心分離に時間がかかる等の課題があった。したがって、HPMCの有機溶媒への溶解性の向上が求められている。
【0005】
HPMCの有機溶媒への溶解性を向上させる方法としては、HPMCのメトキシ基の置換度(DS)やヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)を増加させる方法が知られており、例えば、HPMCのメトキシ基の置換度(DS)やヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)が高いMethocelTM310が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3493407号明細書
【特許文献2】特開平3-279325号公報
【特許文献3】特表2001-506692号公報
【特許文献4】特表2011-500871号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Dow Chemical Company “METHOCHEL Cellulose Ethers Technical Handbook”、米国 、2002年9月、第4~6頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1のように、メトキシ基のDSやヒドロキシプロポキシ基のMSを増加する方法ではコストアップになるうえに、HPMCの溶解性以外の他の物性(熱ゲル特性、粘着性など)も変化させてしまうため、メトキシ基のDSやヒドロキシプロポキシ基のMSを変化させることなく、有機溶媒への溶解性を向上させることが求められている。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、メトキシ基のDS及びヒドロキシプロポキシ基のMSが従来と同等であっても、有機溶媒への高い溶解性を有するHPMCを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)が、0.1~0.5であり、3位の炭素における水酸基のみがヒドロキシプロポキシ基で置換され、2位及び6位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基で置換されていない無水グルコース単位のモル分率(3位MF)を、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)で除した値(3位MF/MS)が、0.12以上であるヒドロキシプロピルメチルセルロースが有機溶媒に対して高い溶解性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の一つの態様によれば、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)が、0.1~0.5であり、3位の炭素における水酸基のみがヒドロキシプロポキシ基で置換され、2位及び6位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基で置換されていない無水グルコース単位のモル分率(3位MF)を、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)で除した値(3位MF/MS)が0.12以上であり、2質量%水溶液の20℃における粘度が1.0~50mPa・sであるヒドロキシプロピルメチルセルロースが提供される。
本発明の他の態様によれば、このヒドロキシプロピルメチルセルロースと、有機溶媒とを少なくとも含む液体組成物が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、活性成分を少なくとも含む芯部に、前記液体組成物をコーティングする工程を少なくとも含む、製剤の製造方法が提供される。
更に、本発明の他の態様によれば、前記液体組成物を基材上に塗布する工程と、前記液体組成物から溶媒を除去してフィルムを得る工程とを少なくとも含むフィルムの製造方法が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、前記液体組成物を、乾燥噴霧することにより、固体分散体を得る工程を少なくとも含む固体分散体の製造方法が提供される。
なお、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、無水グルコース単位1モル当たりのヒドロキシプロポキシ基の平均モル数のことをいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、HPMCを有機溶媒に溶解する際の溶解性が向上し、未溶解物をフィルター除去する際の目詰まりが改善する、もしくは、未溶解物を除去する為の遠心分離の時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)HPMC
まず、HPMCについて説明する。
HPMCについて、3位の炭素における水酸基のみがヒドロキシプロポキシ基で置換され、2位及び6位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基で置換されていない無水グルコース単位のモル分率(3位MF)を、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)で除した値(3位MF/MS)は、有機溶媒への溶解性の観点から、0.12以上、好ましくは0.14~0.30、より好ましくは0.16~0.25、更に好ましくは0.16~0.20である。
【0012】
HPMCについて、3位の炭素における水酸基のみがヒドロキシプロポキシ基で置換され、2位及び6位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基で置換されていない無水グルコース単位のモル分率(3位MF)は、以下に定義する(i)~(iv)の平均モル数の合計値をいう。
(i)2、3、6位の炭素における水酸基のうち、2位及び6位の炭素における水酸基がメトキシ基で置換され、3位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基又はメトキシプロポキシ基で置換されている無水グルコース単位の平均モル分率。
(ii)2、3、6位の炭素における水酸基のうち、2位の炭素における水酸基がメトキシ基で置換され、6位における水酸基は置換されず、3位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基又はメトキシプロポキシ基で置換されている無水グルコース単位の平均モル分率。
(iii)2、3、6位の炭素における水酸基のうち、2位の炭素における水酸基は置換されず、6位の炭素における水酸基がメトキシ基で置換され、3位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基又はメトキシプロポキシ基で置換されている無水グルコース単位の平均モル分率。
(iv)2、3、6位の炭素における水酸基のうち、2位及び6位の炭素における水酸基は置換されず、3位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基又はメトキシプロポキシ基で置換されている無水グルコース単位の平均モル分率。
【0013】
HPMCにおける3位MFは、特に制限されないが、有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは0.027以上、より好ましくは0.027~0.050、更に好ましくは0.027~0.045、特に好ましくは0.040~0.045である。
【0014】
HPMCについて、3位の炭素における水酸基のみがヒドロキシプロポキシ基で置換され、2位及び6位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基で置換されていない無水グルコース単位のモル分率(3位MF)は、Macromolecules,20,2413(1987)や繊維学会誌,40,T-504(1984)に記載されているように、HPMCを硫酸中で加水分解した後に中和して濾過精製したものを還元し、更にアセチル化して、13C-NMR、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーのうちのいずれかと質量分析装置を用いて同定した各々の検出グラフ特性から求めることができる。
【0015】
本発明においては、以下の方法により、3位MFを測定した。
まず、ヒドロキシプロピルメチルセルロース50mgに3質量%の硫酸水溶液2mLを加えて140℃にて3時間加水分解を行い、加水分解物を得た後、炭酸バリウムを0.8g加えて中和する。
次に、3mLのメタノールを加えて前記加水分解物を溶解し、500Gにて遠心分離した後に、上澄み液を0.45μmの目開きのフィルターで濾過してろ液を得る。そして、前記ろ液の3mLに、1.5gのNaBH4を0.2規定(すなわち0.2mol/L)のNaOH水溶液10mL中に溶かした溶液120μLを加えて、グルコース環の還元を37~38℃にて1時間行い、酢酸100μLを加えた後、大気圧下、窒素ブローを行いながら、100℃にて1時間加熱して溶媒を蒸発させ固体を得る。そして、得られた固体に、ピリジン2mL、無水酢酸1.5mLを加えて100℃にて1.5時間、アセチル化する。500Gにて遠心分離した後に、上澄み液を0.45μmの目開きのフィルターで濾過してろ液を得る。得られたろ液からピリジン、無水酢酸及び酢酸を、常圧下、窒素ブローを行いながら、100℃にて1時間加熱して除去し、ジエチレングリコールジメチルエーテル1mLに再溶解することにより、測定試料を調製する。得られた測定試料をガスクロマトグラフィー(GC)にかけてピーク面積により3位MFを測定できる。
【0016】
測定試料のGC分析は、次のように行うことができる。DB-5カラム(長さ30m、径0.25mm、膜厚0.25μm)を装着したGC2010(島津株式会社製)に、キャリアガス:ヘリウム、ヘリウムの圧力:100kPa、入口温度:300℃の条件で測定試料溶液1μLを注入する。カラム温度を150℃にて3分間保持した後、2℃/分の速度で275℃まで加熱し、続いて15℃/分の速度で300℃まで加熱し、その後300℃にて5分間保持する。300℃に設定したFID検出器にて各成分の保持時間とピーク面積を測定する。
予め各検出ピークについて質量分析装置にて、その構造を同定し、測定試料におけるピークについて、質量分析装置にて同定したピークによる各ピークの同定を行う。また、面積比により、HPMCについて3位の炭素における水酸基のみがヒドロキシプロポキシ基で置換され、2位及び6位の炭素における水酸基がヒドロキシプロポキシ基で置換されていない無水グルコース単位のモル分率(3位MF)を求め、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)で除することにより、3位MF/MSを求めた。
【0017】
HPMCのメトキシ基の置換度(DS)は、特に限定されないが、有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは1.0~2.2、より好ましくは1.5~2.2、更に好ましくは1.7~2.2である。なお、メトキシ基の置換度(DS)は、無水グルコース単位当たりのメトキシ基の平均個数をいう。
HPMCのヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、特に限定されないが、有機溶媒への溶解性及び液体組成物の粘着性の観点から、好ましくは0.05~0.50、より好ましくは0.10~0.40、更に好ましく0.15~0.35、特に好ましくは0.18~0.35である。ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、無水グルコース単位1モル当たりのヒドロキシプロポキシ基の平均置換モル数をいう。
HPMCにおけるメトキシ基のDS及びヒドロキシプロポキシ基のMSは、第十七改正日本薬局方に基づき測定して得られた結果を換算することによって求めることができる。
【0018】
HPMCの置換度タイプとしては、有機溶媒への溶解性の観点から、第十七改正日本薬局方におけるヒプロメロースに記載の2910タイプ(メトキシ基:28.0~30.0%、ヒドロキシプロポキシ基:7.0~12.0%)、2906タイプ(メトキシ基:27.0~30.0%、ヒドロキシプロポキシ基:4.0~7.5%)、2208タイプ(メトキシ基:19.0~24.0%、ヒドロキシプロポキシ基:4.0~12.0%)が好ましく、2910タイプ及び2906タイプがより好ましく、2910タイプが特に好ましい。
一方で、置換度タイプ1828タイプ(メトキシ基:16.5~20.0%、ヒドロキシプロポキシ基:23.0~32.0%)のようにヒドロキシプロポキシ基が過度に高いと、粘着性が高くなる可能性がある。
【0019】
HPMCの2質量%水溶液の20℃における粘度は、1.0~50mPa・s、好ましくは1.0~15mPa・s、より好ましくは2.0~8.0mPa・sである。2質量%水溶液の20℃における粘度が1.0mPa・s未満であると、コーティングに使用した際の被膜が脆くなる可能性がある。一方、2質量%水溶液の20℃における粘度が50mPa・sを超えると、コーティング溶液やスプレードライ溶液をスプレーする際の粘度が高くなるために溶液濃度を高めることができない。
2質量%水溶液の20℃における粘度は、粘度が600mPa・s以上の場合においては、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定することができる。一方、粘度が600mPa・s未満の場合においては、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法粘度測定法の毛細管粘度計法に従い、ウベロ-デ型粘度計を用いて測定することができる。
【0020】
HPMCにおける3位MF/MS、2質量%水溶液の20℃における粘度及びDSの組合せとしては、3位MF/MSが0.12以上のときに、HPMCの粘度が1.0~50mPa・s、DSが1.0~2.2であることが好ましい。3位MF/MSは、好ましくは0.14~0.30であり、このときHPMCの粘度が1.0~15mPa・s、DSが1.5~2.2であることがより好ましい。3位MF/MSは、より好ましくは0.16~0.25のであり、このときHPMCの粘度が1.0~8.0mPa・s、DSが1.7~2.2であることが更に好ましい。
【0021】
(2)HPMCの製造方法
次に、所定の3位MF/MSを有するHPMCの製造方法について説明する。
所定の3位MF/MSを有するHPMCは、例えば、
パルプとアルカリ金属水酸化物溶液とを接触させてアルカリセルロースを得る工程と、
前記アルカリセルロースに、ジメチルエーテルと第一のメチル化剤を混合して第一の反応生成混合物を形成する工程と、
さらにアルカリ金属水酸化物を配合することなく、前記第一の混合物に第二のメチル化剤とヒドロキシプロピル化剤を混合して第二の反応生成混合物を得る工程と、
前記第二の反応生成混合物を精製してHPMCを得る工程と、
前記HPMCを乾燥することにより乾燥されたHPMCを得る工程と
を少なくとも含み、前記第二の反応生成混合物中のHPMCのメトキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)が、前記乾燥されたHPMCのメトキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)と等しくなるメチル化剤及びヒドロキシプロピル化剤の反応率を100%とすると、第一と第二のメチル化剤の全反応率が50%の時点におけるヒドロキシプロピル化剤の反応率が50%以上90%以下であり、必要に応じて、前記精製されたHPMCを前記乾燥前又は乾燥後に、酸により解重合する工程とを少なくとも含むHPMCの製造方法により得られる。
【0022】
まず、パルプとアルカリ金属水酸化物溶液を接触させてアルカリセルロースを得る工程について説明する。
パルプとしては、木材パルプ、リンターパルプ等のセルロースパルプ等が挙げられる。パルプの形態としては、粉末状パルプ、シート状パルプ、チップ状パルプ等何れの形態でも使用できるが、HPMCの有機溶媒への溶解性の観点並びにアルカリセルロースの取り扱いのしやすさ及び脱液性の観点から、好ましくはシート状パルプ又はチップ状パルプである。
パルプの重合度の指標である固有粘度は、好ましくは300~2500ml/g、より好ましくは350~2300ml/g、更に好ましくは400~2000ml/gである。固有粘度が300ml/g未満であると、得られたHPMCの粘度が低くなってしまう可能性や、HPMCの粗生成物の洗浄性が悪化する可能性がある。一方、固有粘度が2500ml/gを超えると、得られたHPMCが有機溶媒への溶解性に劣る可能性がある。パルプの固有粘度は、JIS P8215のA法に準拠の方法により測定することができる。
【0023】
アルカリ金属水酸化物溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物水溶液等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物溶液におけるアルカリ金属水酸化物の濃度は、経済性及び操作性の観点から、好ましくは23~60質量%である。
【0024】
アルカリセルロースにおけるアルカリ金属水酸化物とパルプ中の固体成分との質量比(アルカリ金属水酸化物/パルプ中の固体成分)は、目的のメトキシ基の置換度(DS)及びヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)になれば、特に制限されるものではないが、好ましくは0.30~1.50であり、より好ましくは0.35~1.45である。
アルカリ金属水酸化物溶液の使用量は、上記質量比に応じて適宜選択すればよい。アルカリ金属水酸化物成分の質量は、中和滴定法によって算出することができる。
【0025】
パルプ中の固体成分は、パルプ中の水分以外の成分を意味する。パルプ中の固体成分には、主成分のセルロースの他、ヘミセルロース、リグニン、樹脂分等の有機物、Si分、Fe分等の無機物が含まれる。パルプ中の固体成分は、JIS P8203:1998のパルプ-絶乾率の試験方法により求められた絶乾率より算出できる。絶乾率(dry matter content)は、試料を105±2℃で乾燥し、恒量に達したときの質量と乾燥前の質量の比率であり、質量%で表示する。
【0026】
パルプと、アルカリ金属水酸化物溶液の接触は、例えば、シート状のパルプを用いる場合においては、過剰のアルカリ金属水酸化物溶液にシート状パルプを浸漬することにより行うことができる。そして、十分にシート状パルプに対してアルカリ金属水酸化物溶液を吸収させた後、所定のアルカリ金属水酸化物とパルプ中の固体成分との質量比になるように例えば加圧プレスして余分なアルカリ金属水酸化物溶液を除去する。なお、パルプとの接触に供されるアルカリ金属水酸化物溶液の濃度は、アルカリセルロースの組成を安定させるために一定の濃度に保たれることが好ましい。
パルプと、アルカリ金属水酸化物溶液を接触させる工程において、ジメチルエーテル等の有機溶媒や、塩化メチル等のメチル化剤、酸化プロピレン等のヒドロキシプロピル化剤は存在しない。
【0027】
次に、アルカリセルロースに、ジメチルエーテルと第一のメチル化剤を混合して第一の反応生成混合物を形成する工程について説明する。好ましくは、アルカリセルロースに、ジメチルエーテルと第一のメチル化剤の混合物を添加し、撹拌混合して、第一の反応生成混合物を形成してもよい。
ジメチルエーテルと、出発原料パルプ中の固体成分の質量比(ジメチルエーテル/出発原料パルプ中の固体成分)は、HPMCの有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは0.5~2.0である。
第一のメチル化剤としては、塩化メチル等が挙げられる。第一のメチル化剤と、出発原料パルプ中の固体成分の質量比(第一のメチル化剤/出発原料パルプ中の固体成分)は、HPMCの有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは0.05~0.50である。ジメチルエーテルと、第一のメチル化剤との質量比(ジメチルエーテル/第一のメチル化剤)は、得られるHPMCの有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは2.0~20.0である。
アルカリセルロースに、ジメチルエーテルと第一のメチル化剤の混合物を添加し、撹拌混合して第一の混合物を形成する際の温度は、得られるHPMCの有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは20~70℃である。アルカリセルロースに、ジメチルエーテルと第一のメチル化剤の混合物を添加後の撹拌混合時間は、得られるHPMCの有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは0.1~30分である。
【0028】
次に、さらにアルカリ金属水酸化物を配合することなく、前記第一の反応生成混合物に第二のメチル化剤とヒドロキシプロピル化剤を混合して第二の反応生成混合物を得る工程について説明する。好ましくは、さらにアルカリ金属水酸化物を添加することなく、前記第一の反応生成混合物に第二のメチル化剤とヒドロキシプロピル化剤を添加して生成物としてHPMCを含む第二の反応生成混合物を形成してもよい。
【0029】
第二のメチル化剤としては、塩化メチル等が挙げられる。第二のメチル化剤と、出発原料パルプ中の固体成分の質量比(第二のメチル化剤/パルプ中の固体成分)は、目的のメトキシ基の置換度(DS)になれば制限されないが、経済性の観点から、好ましくは0.9~2.5である。第一のメチル化剤と第二のメチル化剤は、同じ種類であっても、異なる種類であっても良いが、精製の容易さの観点から好ましくは同じ種類である。
第一のメチル化剤と第二のメチル化剤の質量比(第一のメチル化剤/第二のメチル化剤)は、HPMCの有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは0.01~0.20である。
【0030】
ヒドロキシプロピル化剤としては、酸化プロピレン等が挙げられる。ヒドロキシプロピル化剤と、出発原料パルプ中の固体成分の質量比率(ヒドロキシプロピル化剤/パルプ中の固体成分)は、目的のヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)になれば制限されないが、経済性の観点から、0.2~1.5となるようにヒドロキシプロピル化剤を使用することが好ましい。
第二のメチル化剤及びヒドロキシプロピル化剤は、第一の反応生成混合物へ同時に添加してもよいし、第二のメチル化剤もしくはヒドロキシプロピル化剤を先に添加してもよい。
【0031】
セルロースの無水グルコース単位は、置換可能な水酸基を3つ有している。一般にメチル化においては、無水グルコース単位の2位の炭素における水酸基が最も反応性が高く、6位の炭素における水酸基の反応性はそれより劣り、3位の炭素における水酸基は最も反応性が低い。そして、一般にヒドロキシプロピル化においては、無水グルコース単位の6位の炭素における水酸基が最も反応性が高く、2位及び3位の炭素における水酸基の反応性はそれより劣る。そして、ヒドロキシプロピル化における2位の炭素における水酸基の反応性と3位の炭素における水酸基の反応性は同程度である。よって、3位MF/MSを高めるためには、2及び6位の炭素における水酸基のヒドロキシプロピル化を抑え、3位の炭素における水酸基をヒドロキシプロピル化を進行させればよい。
【0032】
この方法の一つとしては、第一と第二のメチル化剤の全反応率に対してヒドロキシプロピル化剤の反応率を制御することが挙げられる。HPMCのメトキシ基の最終置換度(DS)及びヒドロキシプロポキシ基の最終置換モル数(MS)を得たときのメチル化剤及びヒドロキシプロピル化剤の反応率を100%とすると、第一と第二のメチル化剤の全反応率が50%の時点におけるヒドロキシプロピル化剤の反応率は、3位MF/MSを制御する観点から、好ましくは50~90%である。
ここで、「メチル化剤の全反応率」とは、アルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物のモル数と、メチル化に寄与するメトキシ基換算によるモル数が等しくなる量(等モル量)のメチル化剤が反応したときを全反応率100%として、メチル化剤の任意の時点の全反応量を百分率で表したものをいう。例えば、第一と第二のメチル化剤として塩化メチルを用いる場合におけるメチル化剤の全反応率は、塩化メチルが反応すると、反応した塩化メチルと等しいモル量のアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物が消費されるため、アルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物と等モル量のメチル化剤に対する、任意の時点の塩化メチルの反応量(モル数)のモル比を百分率で表したものとなる。
通常、メチル化剤とアルカリ金属水酸化物を用いてメチル化を行う場合、メチル化の効率を高めるため、メチル化剤はアルカリ金属水酸化物に対して等モル量以上となる量を用いる。しかし、メチル化剤の反応率の算出においては、アルカリ金属水酸化物に対して等モル量を超えるメチル化剤のモル数(過剰分)は反応率の計算には無関係である。
【0033】
「ヒドロキシプロピル化剤の反応率」とは、ヒドロキシプロピル化剤のヒドロキシプロピル化に寄与するヒドロキシプロピル基換算による最終的な反応モル数に対する任意の反応時点のヒドロキシプロピル化に寄与したヒドロキシプロピル基換算によるモル数の比を百分率で表したものをいう。
メチル化ではアルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物に対して等モル量を基準としたが、例えば、ヒドロキシプロピル化剤として酸化プロピレンを用いた場合には、反応後の酸化プロピレンはヒドロキシプロピル基の形態でアルコキシドとして働くため、アルカリセルロース由来のアルカリ金属水酸化物は触媒として機能し、ヒドロキシプロピル化剤とアルカリ金属水酸化物は化学量論的に反応が進行しないため、ヒドロキシプロピル化剤のヒドロキシプロピル化に寄与するヒドロキシプロピル基換算による最終的な反応モル数を基準とした。
なお、メチル化及びヒドロキシプロピル化の対象は、アルカリセルロース中の-O-アルカリ金属(例えば-ONa)だけでなく、反応系の水や、メチル化剤と、アルカリセルロース由来のアルカリ金属水酸化物及び/又は水が反応することによって生じるメタノールや、ヒドロキシプロピル化剤とアルカリ金属水酸化物や水が反応することによって生じるプロピレングリコール等を含む。
【0034】
メチル化剤の全反応率及びヒドロキシプロピル化剤の反応率は、反応機から素早くメチル化剤又はヒドロキシプロピル化剤を回収することにより、その時点で反応機内に残留していたメチル化剤又はヒドロキシプロピル化剤の量を調べ、最終的に反応機に加えるメチル化剤又はヒドロキシプロピル化剤の量でその時点の反応量を除する方法により求めることができる。ただし、メチル化剤の全反応率については、アルカリセルロース中のアルカリ金属水酸化物のモル数と、メチル化に寄与するメチル基換算によるモル数が等しくなる量(等モル量)のメチル化剤が反応したときを反応率100%として、回収量のモル数が配合量のモル数から余剰分のモル数を差し引いたモル数以下となった後に、回収量のモル数から余剰分のモル数を差し引いた値を用いて全反応率を算出する。
また、実験により求められた化学反応速度式によるシミュレーションを用いることによっても求めることができる。
【0035】
第二のメチル化剤及びヒドロキシプロピル化剤の配合方法としては、好ましくは、第二のメチル化剤及びヒドロキシプロピル化剤を第一の反応生成混合物に添加する方法である。
第二のメチル化剤の配合時間は、第一と第二で添加したメチル化剤の全反応率に対するヒドロキシプロピル化剤の反応率が制御されれば特に制限されないが、好ましくは5~100分間、より好ましくは5~90分間である。ヒドロキシプロピル化剤の配合時間は、第一と第二で添加したメチル化剤の全反応率に対するヒドロキシプロピル化剤の反応率が制御されれば特に制限されないが、好ましくは5~80分間、より好ましくは10~60分間である。
【0036】
第二のメチル化剤とおよびヒドロキシプロピル化剤添加後のエーテル化反応における反応温度は、第一と第二で添加したメチル化剤の全反応率に対するヒドロキシプロピル化剤の反応率が制御されれば特に制限されないが、好ましくは55~110℃である。エーテル化反応における反応温度は、前記の範囲で変動しても良いし、一定であっても良い。
【0037】
次に、第二の反応生成混合物を精製してHPMCを得る工程について説明する。第二の反応生成混合物からHPMCを分離する工程であり、例えば、第二の反応生成混合物を洗浄後、濾過あるいは圧搾等の方法により脱液してHPMCを分離できる。
洗浄は、水、又は水と有機溶媒(例えばアセトン)との混合物等を用いて行うことができる。洗浄に用いる水又は水と有機溶媒の混合物の温度は、好ましくは60~100℃である。
洗浄されたHPMCにおける含水率は、不純物の除去や次工程での含水率の調整のしやすさの観点から、好ましくは25~95質量%、より好ましくは35~95質量%である。
【0038】
次に、精製により得られたHPMCを乾燥することにより乾燥されたHPMCを得る工程について説明する。
乾燥は、例えば、乾燥機を用いて行うことができる。乾燥機としては、送風乾燥機等が挙げられる。乾燥方式としては、熱風式、伝導加熱式及びこれらの組み合わせた方式等が挙げられる。乾燥温度は、乾燥効率の観点から、好ましくは60~120℃である。乾燥時間は、生産性の観点から、好ましくは3~24時間である。
【0039】
必要に応じて、乾燥後のHPMCに対して、粉砕を行ってもよい。粉砕の方法としては、特に限定されず、粉砕物を衝突させたり衝突基質にぶつけたりして粉砕する衝撃粉砕装置や、粉砕物を基質に挟み込んで粉砕するボールミル、ローラーミル等いずれの粉砕様式も使用可能である。
【0040】
また、必要に応じて、得られたHPMCを乾燥前又は乾燥後に、酸により解重合する工程について説明する。粉砕を行う場合は、酸による解重合を粉砕前又は粉砕後に行ってもよい。
酸としては、塩化水素等のハロゲン化水素が挙げられる。酸は、水溶液等として用いてもよい。例えば、塩化水素は、塩酸(塩化水素水溶液)として使用してもよい。塩化水素水溶液における塩化水素の濃度は、好ましくは1~45質量%である。酸の使用量は、HPMC100質量部に対して好ましくは、0.04~1.00質量部である。
酸による解重合における反応温度は、好ましくは40~85℃である。酸による解重合における反応時間は、好ましくは0.1~4時間である。酸による解重合終了後は、反応器内を減圧する等して酸を除去すればよい。また、必要に応じて、重炭酸ソーダ等を添加して、解重合に使用した酸を中和してもよい。
【0041】
(3)液体組成物
液体組成物は、上述のHPMCと、有機溶媒とを少なくとも含む。液状組成物は、HPMCが有機溶媒に溶解されているが、必要に応じて含有される他の成分は溶解されていても分散されていてもよい。液状組成物は、好ましくは溶液である。
液体組成物に含まれる有機溶媒は、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、アセトン、酢酸エチル、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、メチルイソプロピルベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等があげられる。これらの有機溶媒の中で、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ジクロロメタンが好ましい。有機溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせた混合溶媒としても良いが、好ましくは2種以上の有機溶媒を組み合わせた混合溶媒とするか、後述するように有機溶媒と水との混合溶媒とすることが好ましい。
【0042】
液体組成物中のHPMCの含有量は、特に制限されないが、好ましくは0質量%を超えて20質量%以下、より好ましくは3.0~16.0質量%、更に好ましくは4.5~16.0質量%である。HPMCの含有量が20.0質量%を超えると、コーティング溶液やスプレードライ用溶液を噴霧する際の溶液粘度が高くなり、スプレーミストの粗大化や、噴霧することが出来ない可能性がある。
【0043】
液体組成物は、HPMCと有機溶媒のほかに、必要に応じて水を含有することができる。水の種類は特に制限されないが、精製水、イオン交換水、蒸留水、水道水等が挙げられる。
液体組成物に水を添加する際の有機溶媒と水の比率は特に制限されないが、溶媒中における有機溶媒の比率は、好ましくは50.0~99.5質量%、より好ましくは60.0~90.0質量%、特に好ましくは70.0~80.0質量%である。溶媒中における有機溶媒の比率が50.0%未満であると、液体組成物をコーティングや噴霧乾燥に使用した際の、乾燥速度が遅くなるため、コーティングや噴霧乾燥のスプレー速度を速めることが出来ない可能性がある。
【0044】
液体組成物は、HPMC及び有機溶媒の他に、必要に応じて活性成分を含有することができる。
活性成分は、経口投与可能な活性成分であれば特に限定されるものではないが、医薬品に用いられる薬物、並びに栄養機能食品、特定保健用食品及び機能性表示食品等の健康食品に用いられる活性成分等が挙げられる。
医薬品に用いられる薬物としては、例えば、中枢神経系薬物、循環器系薬物、呼吸器系薬物、消化器系薬物、抗生物質、鎮咳・去たん剤、抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛消炎剤、利尿剤、自律神経作用薬、抗マラリア剤、止潟剤、向精神剤、ビタミン類及びその誘導体等が挙げられる。
【0045】
中枢神経系薬物としては、例えば、ジアゼパム、イデベノン、ナプロキセン、ピロキシカム、インドメタシン、スリンダック、ロラゼパム、ニトラゼパム、フェニトイン、アセトアミノフェン、エテンザミド、ケトプロフェン及びクロルジアゼポキシド等が挙げられる。
循環器系薬物としては、例えば、モルシドミン、ビンポセチン、プロプラノロール、メチルドパ、ジピリダモール、フロセミド、トリアムテレン、ニフェジビン、アテノロール、スピロノラクトン、メトプロロール、ピンドロール、カプトプリル、硝酸イソソルビト、塩酸デラプリル、塩酸メクロフェノキサート、塩酸ジルチアゼム、塩酸エチレフリン、ジギトキシン及び塩酸アルプレノロール等が挙げられる。
【0046】
呼吸器系薬物としては、例えば、アムレキサノクス、デキストロメトルファン、テオフィリン、プソイドエフェドリン、サルブタモール及びグアイフェネシン等が挙げられる。
消化器系薬物としては、例えば、2-[〔3-メチル-4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-2-ピリジル〕メチルスルフィニル]ベンゾイミダゾール及び5-メトキシ-2-〔(4-メトキシ-3,5-ジメチル-2-ピリジル)メチルスルフィニル〕ベンゾイミダゾール等の抗潰瘍作用を有するベンゾイミダゾール系薬物、シメチジン、ラニチジン、塩酸ピレンゼピン、パンクレアチン、ビサコジル及び5-アミノサリチル酸等が挙げられる。
【0047】
抗生物質としては、例えば、塩酸タランピシリン、塩酸バカンピシリン、セファクロル及びエリスロマイシン等が挙げられる。
鎮咳・去たん剤としては、例えば、塩酸ノスカピン、クエン酸カルベタペンタン、クエン酸イソアミニル及びリン酸ジメモルファン等が挙げられる。
抗ヒスタミン剤としては、例えば、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン及び塩酸プロメタジン等が挙げられる。
解熱鎮痛消炎剤としては、例えば、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、フルフェナム酸、スルピリン、アスピリン及びケトプロフェン等が挙げられる。
【0048】
利尿剤としては、例えば、カフェイン等が挙げられる。
自律神経作用薬としては、例えば、リン酸ジヒドロコデイン及びdl-塩酸メチルエフェドリン、硫酸アトロピン、塩化アセチルコリン、ネオスチグミン等が挙げられる。
抗マラリア剤としては、例えば、塩酸キニーネ等が挙げられる。
止潟剤としては、例えば、塩酸ロペラミド等が挙げられる。
向精神剤としては、例えば、クロルプロマジン等が挙げられる。
ビタミン類及びその誘導体としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、フルスルチアミン、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、パントテン酸カルシウム及びトラネキサム酸等が挙げられる。
【0049】
健康食品に用いられる活性成分としては、例えば、前記ビタミン類及びその誘導体、ミネラル、カロテノイド、アミノ酸及びその誘導体、植物エキス並びに健康食品素材等が挙げられる。
ミネラルとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、鉄、銅、セレン、クロム、硫黄、ヨウ素等が挙げられる。
カロテノイドとしては、例えば、β-カロチン、α-カロチン、ルテイン、クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、リコペン、アスタキサンチン、マルチカロチン等が挙げられる。
【0050】
アミノ酸としては、例えば、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸及び酸性アミノ酸アミド等が挙げられる。
酸性アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸及びグルタミン酸等が挙げられる。
塩基性アミノ酸としては、例えば、リシン、アルギニン及びヒスチジン等が挙げられる。
中性アミノ酸としては、例えば、アラニン及びグリシン等の直鎖状の脂肪族アミノ酸、バリン、ロイシン及びイソロイシン等の分岐状の脂肪族アミノ酸、セリン及びトレオニン等のヒドロキシアミノ酸、システイン及びメチオニン等の含硫アミノ酸、フェニルアラニン及びチロシン等の芳香族アミノ酸、トリプトファン等の複素環式アミノ酸及びプロリン等のイミノ酸等が挙げられる。
酸性アミノ酸アミドとしては、例えば、アスパラギン及びグルタミン等が挙げられる。
アミノ酸誘導体としては、例えばアセチルグルタミン、アセチルシステイン、カルボキシメチルシステイン、アセチルチロシン、アセチルヒドロキシプロリン、5-ヒドロキシプロリン、グルタチオン、クレアチン、S-アデノシルメチオニン、グリシルグリシン、グリシルグルタミン、ドーパ、アラニルグルタミン、カルニチン及びγ-アミノ酪酸等が挙げられる。
【0051】
植物エキスとしては、例えばアロエ、プロポリス、アガリクス、高麗人参、イチョウ葉、ウコン、クルクミン、発芽玄米、椎茸菌糸体、甜茶、甘茶、メシマコブ、ごま、にんにく、マカ、冬虫夏草、カミツレ及びトウガラシ等が挙げられる。
健康食品素材としては、例えばローヤルゼリー、食物繊維、プロテイン、ビフィズス菌、乳酸菌、キトサン、酵母、グルコサミン、レシチン、ポリフェノール、動物魚介軟骨、スッポン、ラクトフェリン、シジミ、エイコサペンタエン酸、ゲルマニウム、酵素、クレアチン、カルニチン、クエン酸、ラズベリーケトン、コエンザイムQ10、メチルスルホニルメタン及びリン脂質結合大豆ペプチド等が挙げられる。
【0052】
特に、HPMCを水難溶性の薬物の固体分散体の担体として用いることにより、水難溶性薬物の溶解性を改善することができる。ここで、水難溶性薬物とは、第十七改正日本薬局方に記載された水に「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」「ほとんど溶けない」とされる薬物をいう。「溶けにくい」とは、固形の医薬品1g又は1mLをビーカーにとり、水を投入し20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき100mL以上1000mL未満で30分以内に溶ける度合いをいう。「極めて溶けにくい」とは、同様に1000mL以上10000mL未満で溶ける度合いをいう。「ほとんど溶けない」とは、同様に30分以内に溶けるために10000mL以上要するものをいう。
また、上記の医薬品試験において、水難溶性薬物が溶けるということは、薬物が溶媒に溶ける又は混和することを示し、繊維等を認めないか又は認めても極めてわずかであることをいう。
【0053】
水難溶性薬物の具体例としては、例えば、イトラコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、ミコナゾール等のアゾール系化合物、ニフェジピン、ニトレンジピン、アムロジピン、ニカルジピン、ニルバジピン、フェロジピン、エフォニジピン等のジヒドロピリジン系化合物、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン等のプロピオン酸系化合物、インドメタシン、アセメタシン等のインドール酢酸系化合物のほかに、グリセオフルビン、フェニトイン、カルバマゼピン、ジピリダモール等が挙げられる。
【0054】
液体組成物の粘度は、特に制限されないが、液体組成物をコーティングやスプレードライ時に噴霧する観点から、好ましくは1~10000mPa・s、より好ましくは1~1000mPa・s、特に好ましくは1~200mPa・sである。液体組成物の粘度は、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法粘度測定法の回転粘度計法に従い、単一円筒形回転粘度計を用いて測定することができる。
【0055】
(4)コーティングにより得られる製剤及びフィルム
活性成分を少なくとも含む芯部に、液体組成物をコーティングする工程を少なくとも含む方法により製剤を製造することができる。
コーティングによる製剤の製造方法は、特に制限されないが、コーティング溶液である液体組成物を、薬物を含有する核粒子や、薬物原薬等の固形製剤を被覆することで可能である。固形製剤としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等が挙げられ、この中には口腔内速崩壊錠も含まれる。
【0056】
固形製剤には、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、凝集防止剤、医薬化合物の溶解補助剤等の通常この分野で常用されうる種々の添加剤を配合して良い。
賦形剤としては、白糖、乳糖、グルコース等の糖類、マンニトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール類、でんぷん、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
結合剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、グルコース、白糖、乳糖、麦芽糖、デキストリン、ソルビトール、マンニトール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール類、アラビアゴム、ゼラチン、寒天、でんぷん等が挙げられる。
【0057】
崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポピドン(ポリビニルピロリドン)、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウム等が挙げられる。
滑沢剤、凝集防止剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
医薬化合物の溶解補助剤としては、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸等が挙げられる。
【0058】
固形製剤は、例えば、薬物及び上記添加剤を打錠化して錠剤を得る工程、薬物及び上記添加剤を造粒して顆粒又は細粒を得る工程によって得られる。
【0059】
コーティング溶液としての液体組成物は、HPMC及び有機溶媒の他に、必要に応じて、可塑剤、顔料、着色料、タルク、粘着防止剤、消泡剤、香料等の添加剤を含むことができる。
可塑剤としては、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリエチル等が挙げられるが、HPMCとの相溶性に優れている観点から、ポリエチレングリコールやグリセリンが好適である。一般に顔料を多く含む組成物では、可塑剤の含有量は増量されるが、通常、可塑剤の含有量は、HPMCに対して3~50質量%の範囲が好ましい。
顔料としては、酸化チタン、アルミニウムレーキ、食用色素等が挙げられ、その含有量は、その添加目的である遮光あるいは着色により異なるが、HPMCに対して0.1~30質量%の範囲内にあることが好ましい。
【0060】
粘着防止剤としては、固体状のポリエチレングリコール、アエロジル(二酸化珪素)、二酸化チタン等が挙げられる。
消泡剤としては、KM―72(信越化学工業製)等のシリコーン系消泡剤、プルロニック(登録商標)F68(旭電化工業製)等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール系の消泡剤、ソルビタンセスキオレエート等が挙げられる。
香料としては、スペアミント、メンソール等が挙げられる。
着色料、タルク、粘着防止剤、消泡剤、香料の添加量は、一般にコーティング用組成物に用いられる量である。
【0061】
また、本発明の効果を妨げない範囲で、他のコーティング基剤を含んでいても良い。他のコーティング基剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の水溶性ビニル誘導体、メタクリル酸コポリマーLD、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチルコポリマー分散液等のアクリル酸系共重合体、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート等のセルロース誘導体等が挙げられる。
【0062】
コーティング溶液の調製方法としては、単独の有機溶媒にHPMCを添加する方法、2種以上の有機溶媒にHPMCを添加する方法、水とエタノール、メタノール等の有機溶媒との混合溶媒に添加する方法のいずれの方法でも良い。なお、混合溶媒にHPMCを添加する際には、有機溶媒にHPMCを添加して分散した後に、水を添加して溶解する方法が、凝集塊を形成しないという観点から好ましい。
更に、前記のコーティング溶液に、必要に応じて上述した可塑剤等の添加剤を添加して、コーティング溶液を調製することもできる。
【0063】
コーティングを行う装置としては、特に限定されず、例えば、パンコーティング装置、流動層コーティング装置、転動流動層コーティング装置、ワースター型流動層、複合型流動層等を用いることができる。
【0064】
(5)コーティングにより得られるフィルム
液体組成物を基材上に塗布する工程と、塗布された液体組成物から溶媒を除去してフィルムを得る工程とを少なくとも含む方法により、カプセル等のフィルムを製造することができる。更に、当該方法は、必要に応じて、前記フィルムを基材から除去する工程を含んでもよい。
カプセル等のフィルムの製造方法は、特に制限されずに、特許文献1~4等に記載の方法が挙げられる。
【0065】
(6)固体分散体
スプレードライ用溶液として、HPMCと、有機溶媒と、更に活性成分を少なくとも含む液体組成物を用い、液体組成物を噴霧乾燥することにより、固体分散体を得る工程を少なくとも含む方法により固体分散体を製造することができる。
固体分散体の製造方法は、特に制限されないが、液体組成物に活性成分を添加したスプレードライ用溶液から、必要に応じて溶媒を除去又は析出させることにより製造することができる。用いるスプレードライ用溶液の態様は、活性成分(例えば薬物)とHPMCがより均一に溶解した均一溶液が好ましい。溶媒を除去する方法としては、蒸発乾固法、スプレードライ法などが挙げられる。
【0066】
スプレードライは、活性成分を含む溶液混合物を小さな液滴に分解(噴霧)し、液滴から蒸発により溶媒を急速に除去する方法を広く指す。溶媒を除去するための駆動力は、一般的に液滴を乾燥する温度にて、溶液の分圧を溶媒の蒸気圧に比べて低くすることにより得られる。好ましい態様としては、液滴の高温乾燥ガスとの混合する、溶媒除去装置内での圧力を不完全真空に維持する等の方法が挙げられる。
【0067】
活性成分とHPMCを溶媒と共に含んだスプレードライ用溶液は、多様なノズル機構の下でスプレードライすることができる。たとえば、種々のタイプのノズルを使用することができる。好ましい様態としては、二流体ノズル、噴水型ノズル、フラットファン型ノズル、圧力ノズル、ロータリーアトマイザーなどが挙げられる。
【0068】
スプレードライ用溶液は、広範囲の流量、温度において送ることができる。また、スプレー時に加圧する場合、広範囲の圧力においてスプレーすることが可能である。一般に、液滴の比表面積の増加に伴って、溶媒蒸発の速度が増加する。そのため、ノズルを出るときの液滴は好ましくは500μm未満、より好ましくは400μm未満、更に好ましくは5~200μmであり、そのような噴霧を可能にする流量、温度、圧力が好ましい。スプレー後の溶液は急速に凝固する。
【0069】
スプレー後のスプレードライ用溶液は、急速に凝固し固体分散体となる。凝固した固体分散体は一般にスプレードライ室内に約5~60秒間とどまり、その間に溶媒が固体粉末から除去される。スプレードライの際の温度としては入口温度が約20℃~150℃、出口温度が約0℃~85℃が好ましい。
【0070】
固体分散体中の残存溶媒分は少ない方がよい。これは非晶質固体分散体内の活性成分分子の運動性が抑制され、安定性が増すためである。残留溶媒分のさらなる除去が必要である場合には2次乾燥を行うことが出来る。好適な2次乾燥方法としては、トレイ乾燥、流動層乾燥、ベルト乾燥、マイクロ波乾燥などが挙げられる。
【0071】
スプレードライ用溶液としての液体組成物は、HPMC及び有機溶媒の他に、必要に応じて、コーティング用溶液と同様の可塑剤、顔料、着色料、タルク、粘着防止剤、消泡剤、香料等の添加剤を含むことができる。
【実施例0072】
以下に、合成例、比較合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
合成例1
固有粘度520ml/gの木材由来のチップ状のパルプを、49質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後に、余剰の49質量%水酸化ナトリウム水溶液を除去して、アルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースにおける水酸化ナトリウムとパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム/パルプ中の固体成分)は、1.25だった。
得られたアルカリセルロースのうち、19.9kg(パルプ中の固体成分5.5kg)を内容積100Lのプロシェア型内部撹拌羽根つきの圧力容器(反応機)に仕込み、-97kPaまで減圧後、窒素を封入して大気圧まで戻した。そして、-97kPaまで再減圧した。
次に、加圧ポンプを用いてジメチルエーテル2.75kgと第一の塩化メチル0.48kgの混合物を反応機に添加し、60℃で10分間撹拌混合し、第一の反応生成混合物を得た。続いて、第二の塩化メチル10.9kgを50分間で反応機に添加した。第二の塩化メチルの添加開始と同時に、加圧ポンプを用いて酸化プロピレンの反応機への添加を開始した。酸化プロピレンは、2.86kgを12分間で反応機に添加した。第二の塩化メチルの添加開始時点の反応機内温は60℃であり、100℃まで昇温しながら合計2時間反応することにより粗HPMC(第二の反応生成混合物)を得た。サンプリングのために同じ条件で別途行った実験では、第一および第二で添加した塩化メチルの全反応率が50%の時点における酸化プロピレンの反応率は83.5%だった。
得られた粗HPMCを95℃の熱水にて洗浄した。そして、遠心脱水機で脱水した後、送風乾燥機を用いて70℃、18時間乾燥し、小型ウィリーミルにて粉砕した。そして、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計法に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて20℃における2質量%水溶液の粘度が1000mPa・sであるHPMCを得た。
得られたHPMC1kgを容積20Lのヘンシェルミキサーに入れ、200rpmで撹拌混合しながら12質量%塩酸を噴霧した。噴霧量は、HPMC100質量部に対するHClが0.3質量部となるように添加した。このうちの500gを2Lのガラス製反応器に移し入れ、反応器を80℃の水浴中で加熱しながら回転させ60分間解重合反応させた。得られたHPMCのメトキシ基の置換度(DS)、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)、20℃における2質量%水溶液の粘度、3位MF及び3位MF/MSの値を表1に示す。
【0073】
合成例2
酸化プロピレンの添加量を4.73kg、第二の塩化メチルの添加時間を30分間、酸化プロピレンの添加時間を50分間とする以外は合成例1と同様にHPMCを合成し、粉砕し、解重合を行った。
サンプリングのために同じ条件で別途行った実験では、第一および第二で添加した塩化メチルの全反応率が50%の時点における酸化プロピレンの反応率は73.4%だった。得られたHPMCのメトキシ基の置換度(DS)、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)、20℃における2質量%水溶液の粘度、3位MF及び3位MF/MSの値を表1に示す。
【0074】
合成例3
解重合反応の時間を90分間に変更した以外は合成例2と同様にHPMCを合成し、粉砕し、解重合を行った。
得られたHPMCのメトキシ基の置換度(DS)、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)、20℃における2質量%水溶液の粘度、3位MF及び3位MF/MSの値を表1に示す。
【0075】
合成例4
解重合反応の時間を200分間に変更した以外は合成例2と同様にHPMCを合成し、粉砕し、解重合を行った。
得られたHPMCのメトキシ基の置換度(DS)、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)、20℃における2質量%水溶液の粘度、3位MF及び3位MF/MSの値を表1に示す。
【0076】
合成例5
固有粘度520ml/gの木材由来のチップ状のパルプを、49質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後に、余剰の49質量%水酸化ナトリウム水溶液を除去して、アルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースにおける水酸化ナトリムとパルプ中の固体成分との質量比(水酸化ナトリウム/パルプ中の固体成分)は、1.17だった。
得られたアルカリセルロースのうち、19.0kg(パルプ中の固体成分5.5kg)を内容積100Lのプロシェア型内部撹拌羽根つきの圧力容器(反応機)に仕込み、-97kPaまで減圧後、窒素を封入して大気圧まで戻した。そして、-97kPaまで再減圧した。
次に、加圧ポンプを用いてジメチルエーテル2.75kgと第一の塩化メチル0.48kgの混合物を反応機に添加し、60℃で10分間撹拌混合し、第一の反応生成混合物を得た。続いて、第二の塩化メチル10.5kgを30分間で反応機に添加した。第二の塩化メチルの仕込み開始と同時に加圧ポンプを用いて酸化プロピレンの反応機への添加を開始した。酸化プロピレンは3.01kgを50分間で反応機に添加した。第二の塩化メチルの添加開始時点の反応機内温は60℃であり、100℃まで昇温しながら合計2時間反応することにより、粗HPMC(第二の反応生成混合物)を得た。サンプリングのために同じ条件で別途行った実験では、第一および第二で添加した塩化メチルの全反応率が50%の時点における酸化プロピレンの反応率は60.5%だった。
得られた粗HPMCを95℃の熱水にて洗浄した。そして、遠心脱水機で脱水した後、送風乾燥機を用いて70℃、18時間乾燥し、小型ウィリーミルにて粉砕した。そして、第十七改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計法に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて20℃における2質量%水溶液の粘度が1000mPa・sであるHPMCを得た。
そして、得られたHPMCを合成例3と同様の条件で解重合した。得られたHPMCのメトキシ基の置換度(DS)、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)、20℃における2質量%水溶液の粘度、3位MF及び3位MF/MSの値を表1に示す。
【0077】
比較合成例1
酸化プロピレンの添加量を2.53kg、第二の塩化メチルの添加時間を82分間、酸化プロピレンの添加時間を17分間とする以外は合成例1と同様にHPMCを合成し、粉砕し、解重合を行った。
得られたHPMCのメトキシ基の置換度(DS)、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)、20℃における2質量%水溶液の粘度、3位MF及び3位MF/MSの値を表1に示す。
なお、サンプリングのために同じ条件で別途行った実験では、第一および第二で添加した塩化メチルの全反応率が50%の時点における酸化プロピレンの反応率は91.2%だった。
【0078】
比較合成例2
酸化プロピレンの添加量を1.60kg、第二の塩化メチルの添加時間を80分間、酸化プロピレンの添加時間を10分間とする以外は合成例5と同様にHPMCを合成し、粉砕し、解重合を行った。結果を表1に示す。
なお、サンプリングのために同じ条件で別途行った実験では、第一および第二で添加した塩化メチルの全反応率が50%の時点における酸化プロピレンの反応率は92.4%だった。
【0079】
【0080】
実施例1
合成例1にて製造したHPMCを用いて、下記の方法により各液体組成物を製造し、その透光度を評価した。結果を表2に示す。
<エタノール/精製水=8/2(wt/wt)を用いた液体組成物の製造>
エタノール73.6gを250mL容の広口試薬ビンに秤量し、撹拌羽根を装着した撹拌機(ZZ-1000、東京理化器械株式会社製)で撹拌しながら、HPMC8.0gを投入した。そして、精製水18.4gを投入し、400rpmにて室温で2時間撹拌することにより、液体組成物を製造した。
<ジクロロメタン/エタノール=5.5/4.5(vol/vol)を用いた液体組成物の製造>
ジクロロメタン110ml(137.5g)とエタノール90ml(71.4g)を300mL容の広口試薬ビンに秤量し、撹拌羽根を装着した撹拌機(ZZ-1000、東京理化器械株式会社製)で撹拌しながら、HPMC10.0gを投入し、400rpmにて室温で2時間撹拌することにより、液体組成物を製造した。
<透光度の測定>
製造した各液体組成物における透光度を、光電比色計(PC-50形:コタキ製作所製)を用いて、フィルター720nm、20mmセル長の条件の下、測定した。
【0081】
実施例2
合成例2のHPMCを使用する以外は実施例1と同様の方法により、各液体組成物を製造し、その透光度を評価した。結果を表2に示す。
【0082】
実施例3
合成例3のHPMCを使用する以外は実施例1と同様の方法により、各液体組成物を製造し、その透光度を評価した。結果を表2に示す。
【0083】
実施例4
合成例4のHPMCを使用する以外は実施例1と同様の方法により、各液体組成物を製造し、その透光度を評価した。結果を表2に示す。
【0084】
実施例5
実施例1におけるエタノールを68.0g、精製水を17.0g、合成例1のHPMCを15.0gに変える以外は実施例1と同様の方法にて、エタノール/精製水を用いた液体組成物を製造し、その透光度を評価した。結果を表2に示す。
【0085】
比較例1
比較合成例1のHPMCを使用する以外は実施例1と同様の方法にて各液体組成物を製造し、その透光度を評価した。結果を表2に示す。
【0086】
比較例2
比較合成例1のHPMCを使用する以外は実施例5と同様の方法により、エタノール/精製水を用いた液体組成物を製造し、その透光度を評価した。結果を表2に示す。
【0087】
【0088】
実施例6
合成例5にて製造したHPMCを用いて、下記の方法により、各液体組成物を製造し、その透光度を実施例1と同様の方法により評価した。結果を表3に示す。
<エタノール/精製水=8/2(wt/wt)を用いた液体組成物の製造>
合成例5にて得られたHPMCを用いた以外は実施例1と同様に液体組成物を製造した。
<エタノール/精製水=7/3(wt/wt)を用いた液体組成物の製造>
エタノール64.4gを250mL容の広口試薬ビンに秤量し、撹拌羽根を装着した撹拌機(ZZ-1000、東京理化器械株式会社製)で撹拌しながら、合成例5にて得られたHPMC8.0gを投入した。そして、精製水27.6gを投入し、400rpmにて室温で2時間撹拌することにより、液体組成物を製造した。
【0089】
比較例3
比較合成例2のHPMCを使用する以外は実施例6と同様の方法により、各液体組成物を製造し、その透光度を評価した。結果を表3に示す。
【0090】
【0091】
実施例7
エタノール372gに合成例1のHPMC35gをプロペラ型撹拌機で撹拌しながら分散し、ここに精製水93gを加えて、1時間撹拌してHPMCを溶解し、HPMCの濃度が7質量%のコーティング溶液を調製した。
リボフラビン(東京田辺製薬社製)2質量部、乳糖(フロイント産業社製、ダイラクトースS)90質量部、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(ヒドロキシプロピル基置換度11質量%)8質量部、ステアリン酸マグネシウム0.5質量部を混合し、ロータリー打錠機(菊水製作所製Virgo)にて、直径8mm、打錠圧1t、打錠予圧0.3t、回転数20rpm、一錠あたりの質量が200mgとなるように打錠し、素錠を作成した。
調整されたコーティング溶液を用いて、下記条件にて素錠100質量部に対して固形分質量で3質量部までコーティングを行った。コーティング溶液をフィルターに通した際のフィルターの目詰まりや、スプレーノズルの閉塞等は見られなかった。
装置: 通気式パンコーター(内径33 cm)
仕込み量:1 kg
吸気温度:57~62℃
排気温度:38~40℃
吸気エアー量:1 m3/分
パン回転数:18 rpm
スプレー速度:5~6 g/分
スプレーエアー圧:150 kPa
得られたコーティング錠剤を目視で観察した結果、良好なコーティング被膜が得られていることが確認された。
【0092】
実施例1~6及び比較例1~3の結果より、同程度の置換度を有するHPMC同士で比較した際に、HPMCにおける3位MF/MSが、0.12以上であることにより、優れた溶解性を示すことが確認された。
一方で、実施例1~6のDS及びMSが異なるHPMCでの比較においては、DS及びMSが高い2910タイプのHPMC(実施例1~5)が最も透光度が高くなった。これは、有機溶媒溶解性に対する、HPMCにおけるDS及びMSの影響が大きいためであると考えられ、これらの中では、2910タイプ及び2906タイプのHPMCがより好ましく、2910タイプのHPMCが最も好ましい。
【0093】
HPMCにおける3位MF/MSが、0.12以上であることにより、優れた溶解性を示すことが確認された理由としては、有機溶媒への溶解性に寄与していると考えられるHPMCにおける3位の水酸基をヒドロキシプロポキシ基により置換することにより、分子内水素結合を阻害することができたためと考えられる。