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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184546
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20231221BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231221BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231221BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231221BHJP
【FI】
H01M10/54
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175936
(22)【出願日】2023-10-11
(62)【分割の表示】P 2020039305の分割
【原出願日】2020-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
(57)【要約】
【課題】結晶構造の劣化を抑えることが可能な、活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】下記工程を含み、活物質がLi1+a 2+dで表される複合酸化物である、活物質の製造方法。
(1)活物質及び結着材を含む電極合材にアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤を混合する工程
(2)混合物を0.7atm以上の酸素分圧下で活性化処理剤の溶融開始温度以上に加熱する工程
(3)活物質を回収する工程
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba及びMgから選ばれる1つ以上の元素を表し、MはNi、Co、Mn、Fe、Al、Pから選ばれる1種の元素を表し、MはNi、Co、Mn、及びFe以外の遷移金属元素から選ばれる1つの元素を表し、Xは酸素O及びPを除く非金属元素から選ばれる1つ以上の元素を表し、-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む活物質の製造方法であって、
前記活物質がLi1+a 2+dで表される複合酸化物である、活物質の製造方法。
(1)活物質、及び、結着材を含む電極合材に、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合する工程
(2)得られた混合物を、0.7atm以上の酸素分圧を有する雰囲気下において、前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱する工程
(3)前記加熱後の混合物から活物質を回収する工程
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素を表し、
はNi、Co、Mn、Fe、Al、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
はNi、Co、Mn、及びFe以外の遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
Xは酸素O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素を表し、
-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5を満たす。
【請求項2】
前記活物質が、正極活物質である請求項1に記載の活物質の製造方法。
【請求項3】
前記正極活物質が、非水二次電池の正極活物質である請求項2に記載の活物質の製造方法。
【請求項4】
前記複合酸化物におけるMに含まれるNiのモル分率が、0.5以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の活物質の製造方法。
【請求項5】
前記複合酸化物が六方晶型の結晶構造を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の活物質の製造方法。
【請求項6】
回収された活物質の放電容量が150mAh/g以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の活物質の製造方法。
【請求項7】
前記活性化処理剤に含まれる少なくとも1種のアルカリ金属化合物が、前記活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の活物質の製造方法。
【請求項8】
前記活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物である請求項1から7のいずれか1項に記載の活物質の製造方法。
【請求項9】
前記水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物および超酸化物からなる群より選ばれる1種以上である請求項8に記載の活物質の製造方法。
【請求項10】
前記活性化処理剤の溶融開始温度が700℃以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の活物質にはコバルト、ニッケル、マンガン、リチウムなどの希少金属成分が含有されており、特に非水電解質二次電池の正極活物質には、上記の希少金属成分を主成分とする化合物が利用されている。希少金属成分の資源を保全するために、二次電池の電池廃材から、希少金属成分を再生産する方法が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電極合材とアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤とを混合し、混合物を加熱してバインダーを分解し、水などにより分解物や活性化処理剤を除去して活物質を回収する方法が開示されている。この方法では、有機溶剤を使用せずに、電池廃材から活物質を直接回収する点でコスト的に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012ー186150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、再生産後の活物質を好適に再利用するに当たり、再生産工程前後での活物質の結晶構造の劣化を抑制することが求められる。活物質の結晶構造が劣化すると、充放電容量の低下につながり好ましくない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、結晶構造の劣化を抑えることが可能な、活物質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる活物質の製造方法は、下記工程を含む。
(1)活物質、および結着材を含む電極合材に、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合する工程
(2)得られた混合物を、0.3atm以上の酸素分圧を有する雰囲気下において、前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱する工程
(3)前記加熱後の混合物から活物質を回収する工程
【0008】
ここで、前記活物質が、正極活物質であることができ、非水二次電池の正極活物質であることもできる。
【0009】
前記活物質が、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物であることができる。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、P
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Mg
【0010】
前記活物質がLi1+a 2+dで表される複合酸化物であることができる。
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素を表し、
はNi、Co、Mn、Fe、Al、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
はNi、Co、Mn、及びFe以外の遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、
Xは酸素O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素を表し、
-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5を満たす。
【0011】
また、前記複合酸化物におけるMに含まれるNiのモル分率が、0.5以上であることができる。
【0012】
また、前記複合酸化物が六方晶型の結晶構造を有することができる。
【0013】
また、回収された活物質の放電容量が150mAh/g以上であることができる。
【0014】
また、前記活性化処理剤に含まれる少なくとも1種のアルカリ金属化合物が、前記活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含むことができる。
【0015】
また、前記活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物であることができる。
【0016】
また、前記水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物が、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物および超酸化物からなる群より選ばれる1種以上であることができる。
【0017】
また、前記活性化処理剤の溶融開始温度が700℃以下であることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、結晶構造の劣化を抑えつつ、電極合材から活物質を生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
本発明の実施形態に係る活物質の製造方法は、下記工程を含む。
(1)活物質、および、結着材を含む電極合材に、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合する工程
(2)得られた混合物を、酸素分圧が0.3atm以上の雰囲気下において、前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱する工程
(3)前記加熱後の混合物から活物質を回収する工程
以下、本発明の電池廃材からの活物質の回収方法における各工程について詳細に説明する。
【0021】
工程(1):電極合材に活性化処理剤を混合する工程
まず、電極合材を準備する。
【0022】
<電極合材>
電極合材は、活物質と結着材とを含む材料であり、活物質が結着材により互いに結着されている。電極合剤は、さらに、導電材を含んでも良く、その場合、活物質及び導電材が互いに結着剤により結着されている。
【0023】
<活物質>
活物質は、正極活物質でも負極活物質でもよい。
【0024】
正極活物質の例は、リチウム、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、タングステン、などを構成元素とする複合化合物である。
【0025】
また、負極活物質の例は、リチウム、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、タングステン、などを構成元素とする複合化合物である。
【0026】
なお、活物質は単一の化合物のみからなってもよいし、複数の化合物から構成されていてもよい。
【0027】
好適な正極活物質の例は、リチウム、酸素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、リン、硫黄、バナジウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、コバルト、ガリウム、モリブデン、インジウム、タングステンなどを構成元素とした複合化合物である。
【0028】
また、本発明における活物質は非水二次電池用の正極活物質であることが好適である。非水二次電池用の正極活物質の例は、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の金属とを含有する複合酸化物である。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、P
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Mg
【0029】
この中でも、元素群1がNi、Co、Mn、Fe及びPから選ばれる1種以上であり、かつ、元素群2がLiであるリチウム遷移金属複合酸化物、又は、元素群2がNaであるナトリウム遷移金属複合酸化物が好ましく、特にリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0030】
具体的には、リチウム遷移金属複合酸化物として、LiCoO、LiNiO、Li(Ni,Co)O、Li(Ni,Co,Al)O,Li(Ni,Mn)O、Li(Ni,Mn,Co)O、LiMn、Li(Mn,Fe)、LiMnO、LiNiO、Li(Ni,Mn)O、LiFePO、LiMnPOなどを挙げることができ、これらは1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
ナトリウム遷移金属複合酸化物として、具体的には、NaCoO、NaNiO、Na(Ni,Co)O、Na(Ni,Mn)O、Na(Ni,Mn,Co)O、Na(Fe,Ni,Mn)O、NaMn、Na(Mn,Fe)、NaFePO、NaMnPOなどを挙げることができ、これらは1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
特に、複合酸化物がLi1+a 2+d(A式)で表されることが好適である。
ただし、Mは、Na、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素を表し、MはNi、Co、Mn、Fe、Al、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、MはNi、Co、Mn、及びFe以外の遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1つの元素を表し、Xは酸素O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素を表し、-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5を満たす。
Xの例は、F、Cl、Br、I、S、Se、Te、Nである。
【0033】
複合酸化物におけるMに含まれるNiのモル分率は0.5以上であることができ、0.6以上、0.7以上、0.8以上であっても良い。
【0034】
活物質としての上記複合酸化物の結晶構造には、特に制限はないが、好ましい結晶構造として、層状構造が挙げられる。さらに好ましくは、六方晶型または単斜晶型の結晶構造が好ましい。
【0035】
前記六方晶型の結晶構造は、P3、P3、P3、R3、P-3、R-3、P312、P321、P312、P321、P312、P321、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P6、P6、P6、P6、P6、P-6、P6/m、P6/m、P622、P622、P622、P622、P622、P622、P6mm、P6cc、P6cm、P6mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P6/mcmおよびP6/mmcからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0036】
前記単斜晶型の結晶構造は、P2、P2、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2/m、C2/m、P2/c、P2/cおよびC2/cからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0037】
さらには、六方晶型の結晶構造に含まれるR-3mまたは単斜晶型の結晶構造に含まれるC2/mの空間群に帰属することが好ましい。
【0038】
なお、活物質の結晶構造はCuKα線を線源とする粉末エックス線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定される。
【0039】
電極合材中の活物質の粒子径には特に制限はない。通常、0.001~100μm程度である。なお、活物質の粒度分布はレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マルバーン社製マスターサイザー2000)を用いて測定できる。得られた粒度分布から、体積基準の累積粒度分布曲線を作成し、微小粒子側から50%累積時の粒子径(D50)の値を粉末の平均粒子径とすることができる。また、活物質の一次粒子の粒径は、電子顕微鏡写真において円相当径の算術平均として測定できる。
【0040】
<導電材>
導電材の例は、金属粒子等の金属系導電材、及び、炭素材料からなる炭素系導電材である。
【0041】
炭素系導電材の例は、具体的には黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)および繊維状炭素材料(例えば黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブ)である。
【0042】
炭素系導電材は、単一の炭素材料でもよいし、複数の炭素材料から構成されていてもよい。
【0043】
また、炭素系導電材として用いられる炭素材料の比表面積は、通常0.1~500m/gであることができる。
【0044】
その場合、導電材は30m/g以上の炭素系導電材のみからなることができ、30m/g以上のカーボンブラックであってもよく、30m/g以上のアセチレンブラックであってもよい。
【0045】
なお、後述する酸化力のあるアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤を用いる場合、炭素系導電材の酸化処理の速度を高めることができ、比表面積が小さい炭素材料であっても酸化処理することができる場合がある。
【0046】
<結着材>
電極合材に含まれる結着材(活性化処理前結着材)の例は、熱可塑性樹脂であり、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体および四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;スチレンブタジエン共重合体(以下、SBRということがある。);が挙げられ、これらの二種以上を混合物であってもよい。
【0047】
電極合材中の活物質、導電材及び結着材の配合量に特段の限定はない。結着材の配合量は、正極活物質100重量部に対し、0.5~30重量部であることができ、1~5重量部であってもよい。導電剤の配合量は、0であっても良いが、正極活物質100重量部に対し、0~50重量部であることができ、1~10重量部であってもよい。
【0048】
このような電極合材は、集電体と電極合材層とを有する廃電極から電極合材を分離して回収することにより得ることができる。
【0049】
「廃電極」とは、廃棄された電池から回収された電極、及び、電極及び電池の製造の過程で発生する電極の廃棄物であることができる。廃棄された電池は、使用済みの電池であってもよく、未使用であるが規格外品の電池であってもよい。また、電極の廃棄物は、電池の作製工程で発生する電極の端部、及び、規格外品の電極であることができる。また、電極合材製造工程で生じる、集電体に貼り付けられていない電極合材の廃棄品を用いることもできる。
【0050】
電極は、アルミニウム箔及び銅箔などの金属箔である集電体と、当該集電体上に設けられた電極合材層とを有する。電極合剤層は、集電体の片面に設けられてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0051】
電極合材層と集電体とを有する電極から電極合材から分離する方法としては、集電体から電極合材層を機械的に剥離する方法(例えば、集電体から電極合材を掻き落とす方法)、電極合材層と集電体との界面に溶剤を浸透させて集電体から電極合材層を剥離する方法、アルカリ性もしくは酸性の水溶液を用いて、集電体を溶解して電極合材層を分離する方法などがある。好ましくは、集電体から電極合材層を機械的に剥離する方法である。
【0052】
電極は、正極あるいは負極のいずれでもよい。正極からは正極合剤が回収でき、負極からは負極合剤が回収できる。正極合材を用いると正極活物質が回収でき、負極合剤を用いると負極活物質が回収できる。本発明の活物質の製造方法は、正極合剤から正極活物質を回収する場合に好適に適用され、正極活物質の中でも、非水二次電池の正極活物質に好適に適用される。
【0053】
つづいて、準備した電極合材に、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を混合する。
【0054】
電極合材と活性化処理剤との混合は、乾式混合、湿式混合のいずれでもよく、また、これらの混合方法の組み合わせでもよく、その混合順序も特に制限されない。
【0055】
混合の際には、ボールなどの混合メディアを備えた混合装置を用いて、粉砕混合する工程を経ることが好ましく、これにより混合効率を向上させることができる。
【0056】
より簡便に混合が行える点で乾式混合が好ましく、乾式混合においては、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機、ボールミル、振動ミルまたはこれらの装置の組み合わせを用いることができる。
【0057】
好適な粉体混合装置としての、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機として具体的には、レーディゲミキサー(株式会社マツボー製)を挙げることができる。
【0058】
以下、本工程で使用される活性化処理剤について詳細に説明する。
【0059】
<活性化処理剤>
活性化処理剤は、1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含有する。アルカリ金属化合物が活物質と接触すると、活物質を活性化させることができる。活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物が特に溶融部分を含む場合には、該溶融部分と活物質との接触性が向上することで、活物質の活性化がより促進される。
【0060】
また、電極合材は、結着材及び/又は電解液に由来してフッ素を含む化合物を含むことがあるが、該フッ素を含む化合物と活性化処理剤とを接触させることで、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化するため、フッ化水素などの腐食性ガスが発生することを抑制することができる。なお、フッ化水素は活物質の活性を落とすことからも発生を防止することが望ましい。
【0061】
活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物の割合は、アルカリ金属化合物の種類や、対象となる活物質の種類等に考慮して適宜設定されるが、活性化処理剤全重量に対して、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上(100重量%含む)である。
【0062】
活性化処理剤の成分となるアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の、水酸化物、ホウ酸塩、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、バナジウム酸塩、臭酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩が挙げられる。これらは活性化処理剤の成分として、単独でも複数を組み合わせて使用することができる。
【0063】
アルカリ金属化合物を構成するアルカリ金属元素としては、アルカリ金属元素であればよく、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択される少なくとも一つが好ましい。なお、活性化処理剤の成分として、2種以上のアルカリ金属化合物が含まれる場合、異なるアルカリ金属元素を含むアルカリ金属化合物であってもよい。
【0064】
好適なアルカリ金属化合物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;
LiBO、NaBO、KBO、RbBO、CsBO等のホウ酸化物;
LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO等の炭酸塩;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の酸化物;
Li、Na、K、Rb、Cs等の過酸化物;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の超酸化物;
LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO等の硝酸塩;
LiPO、NaPO、KPO、RbPO、CsPO等のリン酸塩;
LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO等の硫酸塩;
LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl等の塩化物;
LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr等の臭化物;
LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO等のバナジウム酸塩;
LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO等のモリブデン酸塩;
LiWO、NaWO、KWO、RbWO、CsWO等のタングステン酸塩;が挙げられる。
【0065】
ここで、より活物質の活性化効果を高めるため、活性化処理剤に含まれる少なくとも1種のアルカリ金属化合物が、電極合材中の活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含むことができる。
【0066】
すなわち、電極合材中の活物質がリチウム複合酸化物の場合には、活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物(2種以上の場合はその少なくとも1種)は、リチウム化合物であることができる。好適なリチウム化合物としては、LiOH、LiBO、LiCO、LiO、Li、LiO、LiNO、LiPO、LiSO、LiCl、LiVO、LiBr、LiMoO、LiWOが挙げられる。
【0067】
また、電極合材中の活物質がナトリウム複合酸化物の場合には、活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物(2種以上の場合はその少なくとも1種)はナトリウム化合物であることができる。好適なナトリウム化合物としては、NaOH、NaBO、NaCO、NaO、Na、NaO、NaNO、NaPO、NaSO、NaCl、NaVO、NaBr、NaMoO、NaWOが挙げられる。
【0068】
活性化処理剤は、必要に応じてアルカリ金属化合物以外の化合物を含んでいてもよい。アルカリ金属化合物以外の化合物として、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属元素を含有するアルカリ土類金属化合物が挙げられる。アルカリ土類金属化合物は、活性化処理剤の溶融開始温度をコントロールする目的で、アルカリ金属化合物と共に活性化処理剤中に含有される。
【0069】
また、活性化処理剤中のアルカリ金属化合物以外の化合物の含有量は、上述の溶融したアルカリ金属化合物に由来する効果を著しく抑制しない範囲で選択され、活性化処理剤全重量の50重量%未満である。
【0070】
電極合材及び活性化処理剤の混合物中における活性化処理剤の添加量は、電極合材が含む活物質の重量に対して、0.001~100倍であることが好ましく、より好ましくは、0.05~1倍である。
【0071】
電極合材及び活性化処理剤の混合物中における活性化処理剤中のアルカリ化合物のモル数は、電極合材が含む活物質(例えばA式)のモル数を1としたときに、アルカリ原子のモル数が0.001~200倍となるように添加することができる。
【0072】
前記混合物中の活性化処理剤の割合を適切に制御することで、電極合材からの活物質の回収にかかる費用を低減できること、炭素系導電材や結着材の酸化分解処理速度を高めることができる。また、活性化処理工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができ、さらには得られる活物質を用いて作製される電池の放電容量をより高めることができる。
【0073】
また、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物であることが好ましい。このようなアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤は、純水に溶解した際に、該溶液のpHが7よりも大きくなる。以下、このような活性化処理剤を「アルカリ性の活性化処理剤」と称す場合がある。
【0074】
本発明において、アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、加熱工程における腐食性ガスの発生をより抑制することができるため、回収される活物質を用いて作製される電池の放電容量をより高めることができる。また、アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、炭素系導電材や結着材の処理速度を高めることもできる。
【0075】
アルカリ性の活性化処理剤に含まれる水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物、超酸化物が挙げられる。具体的には、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH;LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO;LiHCO、NaHCO、KHCO、RbHCO、CsHCO;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;Li、Na、K、Rb、Cs;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を活性化処理剤に含ませてもよい。
【0076】
また、電極合材に含まれる導電材が、炭素系導電材である場合には、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、活性化処理工程の温度において、前記炭素系導電材を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物であってもよい。なお、このようなアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を、以下、「酸化力を有する活性化処理剤」と称す場合がある。
【0077】
このような酸化力を有する活性化処理剤を用いると、炭素材料である導電材の二酸化炭素へ酸化を促進し、炭化水素材料である結着材の二酸化炭素と水蒸気へと酸化を促進することに特に効果を発揮し、得られる活物質を用いて作製される電池の放電容量をより高めることができ、さらに活性化処理工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができる場合がある。
【0078】
炭素系導電材および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物、硝酸塩、硫酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩を挙げられる。これらは、1種あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0079】
具体的には、Li、Na、K、Rb、Cs;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO;LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO;LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO;LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO;が挙げられる。
【0080】
これらのアルカリ金属化合物の酸化力の詳細については、特開2012-186150号公報に記載されている。
【0081】
工程(2):<混合物を加熱する工程>
加熱工程は、工程(1)にて得られた混合物(以下、「加熱前混合物」と呼ぶ場合がある。)を、0.3atm以上の酸素分圧を有する雰囲気下において、活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱する工程である。
【0082】
なお、「活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)」は、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。
【0083】
本発明において、活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。すなわち、上記混合物5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を溶融開始温度(Tmp)とする。
活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、700℃以下であることが好ましく、600℃以下でも良い。活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)に下限はないが、例えば、150℃であっても良い。
【0084】
また、活性化処理剤の融点は、活性化処理剤のみを加熱したときに、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。電極合材と活性化処理剤とを混合することで、活性化処理剤の溶融開始温度は、活性化処理剤の融点より低くなる。
【0085】
本発明において、活性化処理剤の融点は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。具体的には、当該活性化処理剤5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を活性化処理剤の融点とする。
【0086】
加熱における雰囲気は、0.3atm以上の酸素分圧を有すればよく、0.4atm以上でもよく、0.5atm以上でもよく、0.6atm以上でもよく、0.7atm以上でもよく、0.8atm以上でもよく、0.9atm以上でもよく、1.0atm以上でもよい。なお、1atmは、101325Paである。雰囲気の全圧に特に限定はないが、大気圧とすることができるが、減圧雰囲気でもよく、加圧雰囲気でもよい。
【0087】
雰囲気における、酸素以外のガスの例は、窒素、アルゴン、二酸化炭素である。
【0088】
工程(2)では、上述のように上記混合物を、0.3atm以上の酸素分圧を有する雰囲気下において、活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱することにより、以下の作用が生じる。
【0089】
酸素分圧の高い雰囲気の中で、融解状態の活性化処理剤が活物質と接触することにより、活物質の結晶構造の劣化を抑制することができる。また、場合によっては、結晶構造の修復作用を得ることもできる。
【0090】
また、融解状態の活性化処理剤が炭素系導電材や結着材と接触することにより導電材及び結着材の酸化分解の速度が向上し、さらに、融解状態の活性化処理剤が結着材及び電解液に由来するフッ素化合物と接触することにより、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化され、腐食性ガスであるフッ化水素の発生を防止し、活物質の結晶構造の劣化が抑制される。
【0091】
さらに、活性化処理剤が、活物質と同じアルカリ金属を含有する場合には、活物質に対して不足するアルカリ金属を供給することも可能となる。
【0092】
加熱工程の温度及び、当該温度における保持時間は、電極合材を構成する活物質、導電材、結着材、および活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物やその他の化合物におけるそれぞれの種類や組み合わせにより適宜調節することができる。通常、温度は100~1500℃の範囲であり、保持時間は、10分~24時間程度である。
【0093】
前記温度は、活性化処理剤が含有するアルカリ金属化合物の融点よりも高い温度であることが好ましい。なお、アルカリ金属化合物の融点は複数種の化合物を混合することで、各化合物の単体の融点よりも下がることがある。活性化処理剤が2種以上のアルカリ金属化合物を含む場合には、共晶点をアルカリ金属化合物の融点とする。
【0094】
加熱工程後には、必要に応じて、混合物を、例えば、室温程度など、任意の温度にまで冷却することができる。
【0095】
工程(3):<活物質を回収する工程>
工程(3):活物質を回収する工程とは、工程(2)の加熱工程後に、混合物から活物質を回収する工程である。
【0096】
加熱工程を経た混合物には、活物質の他、活性化処理剤に由来する成分(アルカリ金属化合物等)、未分解の導電材や結着材、その他の電極合材の未分解物が含まれる。また、電極合剤にフッ素成分を含有する電解液が含まれている場合には、電解質に由来するフッ素成分を含む場合もある。
【0097】
加熱工程を経た混合物から活物質を分離回収する方法としては、該混合物に水などの溶媒を加えてスラリー化させた後に固液分離するスラリー化固液分離法や、該混合物を加熱して活物質以外の成分を気化して分離する気化分離法などが挙げられる。
【0098】
以下、活物質回収工程における好適な方法である、スラリー化固液分離法について、詳細に説明する。
【0099】
<スラリー化固液分離法>
スラリー化固液分離法による活物質回収工程は、活性化処理工程後に得られる混合物に溶媒を加えてスラリーとするスラリー化工程と、該スラリーを固相と液相とに分離する固液分離工程と、固液分離後の固相を乾燥する乾燥工程と、を含む。
【0100】
この方法は、特に水に不溶性の活物質の回収に適した方法である。
【0101】
スラリー化工程とは、上記活性化処理後混合物に溶媒を加えて、スラリーを作製する工程である。
【0102】
スラリー化工程に用いる溶媒は、混合物に含まれる活物質以外の成分を溶解できる溶液であれば制限はない。溶媒としては安価で工業的に使用しやすい水が好ましい。水溶性成分の溶解度を高めたり、処理速度を高めたりするために水以外の成分を添加して、pHを調整してもよい。
【0103】
スラリー化工程では、活物質を主として含む固相と、活物質以外の水溶性成分を含む液相とを含むスラリーができる。なお、液相には、活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分、及び/又は、結着材及び電解液に由来するフッ素成分が含まれる。
【0104】
混合物に添加される溶媒の量は、混合物に含まれる活物質と、活物質以外の水溶性成分のそれぞれの量を考慮して適宜決定される。
【0105】
スラリー化工程で形成されたスラリーは、次いで、固液分離工程に供される。固液分離工程とは、前記スラリーを液相と固相とに分離する工程である。固液分離の方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、ろ過や遠心分離法が挙げられる。
【0106】
乾燥工程とは固液分離工程後に得られる活物質を乾燥して、溶媒(水分)を除去する工程である。
【0107】
乾燥の温度としては溶媒(水分)を除去するために100℃以上が好ましい。さらに十分に水分を除去するために150℃以上とすることが好ましい。特に250℃以上の温度では、得られる活物質を用いて作製される電池の放電容量がさらに高まることから好ましい。乾燥工程における温度は、一定でもよく、また段階的もしくは連続的に変化させてもよい。
【0108】
乾燥後に、活物質を、酸素含有雰囲気下で再焼成してもよい。再焼成の雰囲気は、例えば、空気雰囲気である。また、再焼成を、加熱工程と同様に、酸素分圧0.3atm以上の雰囲気で行ってもよい。
【0109】
また、再焼成の温度は、100~1500℃とすることができる。
【0110】
また、再焼成の保持時間は、1分~24時間とすることができる。
【0111】
本発明の活物質の製造方法を用いることで電池合材から得られた活物質は、未使用活物質と同様に再利用することができる。活物質を用いて、電極及び電池を製造する方法は周知である。
【0112】
回収された活物質の放電容量は、150mAh/g以上であることができる。
【0113】
製造された活物質における遷移金属に対するアルカリ金属のモル比率は、電極合材中の活物質における該モル比と等しいかもしくは大きいことが好ましい。アルカリ金属の比率を高めることで、得られる活物質を用いて作製される電池の放電容量を高められる。
【実施例0114】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
活物質(電極合材製造前)の物性の測定、該活物質を正極活物質として用いた電池による充放電試験は、次のようにして行った。
【0116】
(1)組成分析
試料を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(以下ICP-AESということがある。)(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPS3000を使用)を用いて組成分析を行った。
【0117】
(2)粉末X線回折測定
試料の粉末X線回折測定にはスペクトリス株式会社粉末X線回折測定装置X’Pert PROを用いた。X線の線源にはCuKα線源を用いた。活物質を専用のホルダーに充填し、回折角2θ=10~90°の範囲にて行い、粉末X線回折パターンを得た。得られた粉末X線回折パターンに基づいて、株式会社リガク製PDXL2ソフトウェアを用い、最小二乗法による格子定数の精密化を行い、(110)面の面間隔を得た。
測定装置:スペクトリス株式会社製粉末X線回折測定装置X’Pert PRO
X線発生器:CuKα線源 電圧45kV、電流40mA
スリット:1°
スキャンステップ:0.02deg
スキャン範囲:10-90deg
スキャンスピード:4deg/min
X線検出器:一次元半導体検出器
測定雰囲気:大気雰囲気
試料台:専用のガラス試料板
【0118】
(3)活性化処理剤のpHの測定
純水70gに活性化処理剤3.5gを入れて、スターラーにより十分に攪拌し、ガラス電極によるpHメーターを用いて、pHを測定した。
【0119】
(4)示差熱測定(DTA)による活性化処理剤の溶融開始温度の測定
電極合剤と活性化処理剤との混合物5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)し、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を溶融開始温度(Tmp)とした。
示差熱測定(DTA)の測定条件
装置:示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA6200)セイコーインスツル株式社製
パン:白金
初期試料量:5mg
雰囲気:空気
昇温速度:10℃/min
【0120】
(5)充放電試験
1.電極(正極)の作製
活物質の放電容量の測定のために、下記の手順に従って電極(正極)を作製した。
【0121】
各活物質と、結着材(PVdF#1100(株式会社クレハ社製))と、導電材(アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、品番:デンカブラックHS100)とを、活物質:結着材:導電材の重量比がそれぞれ92:3:5となるように混合し、メノウ乳鉢で混練して、正極合材ペーストを作製した。
【0122】
なお、バインダー溶液としては、結着材であるPVdFを溶解したNMP溶液を使用し、正極合材ペースト中の活物質と導電材とバインダーの重量の合計が50重量%となるようにNMPを添加して調整した。
【0123】
正極合材ペーストをAl箔集電体(3×5cm)に、電極合材量が3mg/cm2となるように塗布した後、150℃で8時間真空乾燥して、正極を得た。
【0124】
2.電池の作製
上述の正極と、電解液と、セパレータと、負極とを組み合わせて、非水電解質二次電池(コイン型電池R2032)を作製した。なお、電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0125】
電解液として、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとをそれぞれ体積比で30:70とした混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解したものを使用した。
【0126】
セパレータとしてポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータを使用した。また、負極として金属リチウムを使用した。
【0127】
3.充放電試験
作製したコイン型電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。充放電試験は、放電時の放電電流を変えて放電容量を測定した。
【0128】
充電最大電圧:4.3V
充電時間:8時間
充電電流:40mA/g-活物質 (活物質1g当たりの充電電流が40mA)
放電時は放電最小電圧を2.5Vで一定とし、各サイクルにおける放電電流を下記のように変えて放電を行った。
【0129】
1サイクル目の放電(0.2C):放電電流40mA/g-活物質
2サイクル目の放電(0.2C):放電電流40mA/g-活物質
3サイクル目の放電(1C) :放電電流200mA/g-活物質
4サイクル目の放電(2C) :放電電流400mA/g-活物質
5サイクル目の放電(5C) :放電電流1000mA/g-活物質
6サイクル目の放電(10C) :放電電流2000mA/g-活物質
なお、0.2Cの放電容量が大きいほど高い定格容量が得られ、5Cの放電容量が大きいほど、高い出力特性が得られることを示す。
【0130】
(実施例及び比較例)
A.正極Aの作製
【0131】
活物質としては、組成がLi1.06Ni0.80Co0.11Mn0.09であり、結晶構造がR-3mである正極活物質を用いた。この活物質(未利用活物質)を正極活物質として用いたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cの放電容量は184mAh/gであった。
また別の活物質として、組成がLi1.04Ni0.34Co0.33Mn0.33であり、結晶構造がR-3mである正極活物質を用いた。この活物質(未利用活物質)を正極活物質として用いたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2Cの放電容量は150mAh/gであった。
【0132】
導電材としては、アセチレンブラックHS100(電気化学工業株式会社製)を使用した。
【0133】
結着材と溶媒としては、結着材であるPVdF#1100を12重量%含むNMP溶液(株式会社クレハ製)にさらにNMP溶媒を追加投入して所定の比率とした。
【0134】
正極合材における活物質と、結着剤と、導電材との質量比は、92:3:5とした。溶媒の配合量は、正極合材ペースト全体に対して50質量%とした。
【0135】
正極合材ペーストを厚さ20μmのリチウムイオン2次電池正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔社製)上に,ドクターブレード方式コーターを用いて塗工し、乾燥し、正極Aを得た。アルミニウム箔上の電極合材量は20mg/cmであった。
【0136】
B.正極Aからの電極合剤の回収
正極Aから、電極合材を機械的にそぎ落として、電極合材を集電体から剥離した。
【0137】
C.活性化処理剤混合工程
剥離した電極合材に所定量比の活性化処理剤(1又は複数のアルカリ金属化合物)を加えて、乳鉢を用いて混合し、混合物を得た。活性化処理剤の組成、電極合剤中の活物質1モルに対する各アルカリ金属化合物のモル数、活性化処理剤のpH、及び、混合物において別途測定された活性化処理剤の溶融開始温度を表1に示す。
【0138】
D.加熱工程
得られた混合物(活性化処理前混合物)をアルミナ製焼成容器に入れて電気炉に設置した。大気圧下、所定濃度の酸素濃度含有雰囲気下において、所定の温度に加熱した。当該温度の保持時間は4時間とし、当該温度までの加熱速度は250℃/時間とし、室温までの冷却は自然冷却とした。なお、雰囲気における、酸素の濃度の調整は、空気に対して、追加の酸素を添加することにより行った。加熱温度、全圧、酸素濃度、酸素分圧を表1に示す。
【0139】
E.活物質の回収工程
活性化処理後混合物を粉砕し、水を加えてスラリー化して、攪拌した後、デカンテーションを行なった。その後、該スラリーをろ過することで、固相を分離した。得られた固相を100℃で真空乾燥した。
【0140】
回収された活物質(処理後活物質)、及び、正極Aを製造する前の活物質(処理前活物質)について、粉末X線回折測定により(110)面間隔を測定し、また、充放電試験による放電容量を測定した。
【0141】
条件を表1に、各実施例及び比較例における処理前活物質及び処理後活物質の(110)面間隔及び0.2Cでの放電容量を表2に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】

実施例では、(110)面間隔の変化量が少なく、結晶構造の劣化が少ないことが確認された。一方、比較例では(110)面間隔の変化量が大きく、結晶構造の劣化が大きいことが確認された。放電容量についても、同様の傾向を示した。