(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018469
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】製錬設備
(51)【国際特許分類】
C22B 5/02 20060101AFI20230201BHJP
F27D 3/14 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C22B5/02
F27D3/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122624
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本村 優貴
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
【テーマコード(参考)】
4K001
4K055
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA10
4K001BA12
4K001DA03
4K001DA05
4K001GA02
4K001GA03
4K001GA04
4K001GA13
4K001GB02
4K055AA10
4K055JA01
(57)【要約】
【課題】スラグ樋の居付きを安全に除去できる製錬設備を提供する。
【解決手段】製錬設備は、建屋4と、建屋4に設置された製錬炉と、製錬炉で産出された溶融スラグを水砕設備に排出するスラグ樋21と、スラグ樋21の居付きを除去する居付き除去棒50とを備える。建屋はスラグ樋21が配置される階の上階の床板41を有する。床板41は、スラグ樋21の上方部分に、居付き除去棒50を挿入する挿入孔42が形成されている。作業員は上階に居ながらスラグ樋21の居付きを除去できるので、溶体が跳ねたり、水蒸気爆発が発生したりしても、作業員が被害を受けることがなく、安全である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋と、
前記建屋に設置された製錬炉と、
前記製錬炉で産出された溶融スラグを水砕設備に排出するスラグ樋と、
前記スラグ樋の居付きを除去する居付き除去棒と、を備え、
前記建屋は、前記スラグ樋が配置される階の上階の床板を有し、
前記床板は、前記スラグ樋の上方部分に、前記居付き除去棒を挿入する挿入孔が形成されている
ことを特徴とする製錬設備。
【請求項2】
前記床板には、前記挿入孔の周囲に、格子板が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の製錬設備。
【請求項3】
前記居付き除去棒は、前記スラグ樋が配置される階の床面から前記上階の床面までの高さより長い
ことを特徴とする請求項1または2記載の製錬設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製錬設備に関する。さらに詳しくは、本発明は、製錬炉で産出された溶融スラグを流すスラグ樋の居付きを安全に除去できる製錬設備に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には銅製錬工程が開示されている。具体的には、まず、銅精鉱を自熔炉に装入し、溶融してマットとスラグとに分離する。マットは転炉に送られFeとSが除去されて粗銅となる。スラグは錬かん炉に送られ自熔炉で分離しきれなかったマットが分離される。錬かん炉から溶融状態のスラグを、スラグ樋を介して水砕樋に排出する。スラグは水砕水との接触により急冷され、粉砕されて水砕スラグとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スラグはスラグ樋を流れる間に温度が低下し、一部が固化してスラグ樋に付着する。これがスラグ樋の居付きとなる。スラグ樋におけるスラグの良好な流れを維持するためには、定期的に居付きを除去する必要がある。スラグ樋の居付きを除去する際には、溶融状態のスラグが跳ねることがある。また、スラグ樋から除去された居付きは高温であるため水砕水と接触すると、水砕水が瞬時に蒸発する。除去された居付きの形状および大きさによっては、発生した水蒸気の流れが妨げられ、水蒸気爆発が発生することがある。このように、スラグ樋の居付き除去は、作業員にとって危険な作業である。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、スラグ樋の居付きを安全に除去できる製錬設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の製錬設備は、建屋と、前記建屋に設置された製錬炉と、前記製錬炉で産出された溶融スラグを水砕設備に排出するスラグ樋と、前記スラグ樋の居付きを除去する居付き除去棒と、を備え、前記建屋は、前記スラグ樋が配置される階の上階の床板を有し、前記床板は、前記スラグ樋の上方部分に、前記居付き除去棒を挿入する挿入孔が形成されていることを特徴とする。
第2発明の製錬設備は、第1発明において、前記床板には、前記挿入孔の周囲に、格子板が設けられていることを特徴とする。
第3発明の製錬設備は、第1または第2発明において、前記居付き除去棒は、前記スラグ樋が配置される階の床面から前記上階の床面までの高さより長いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、作業員は上階に居ながらスラグ樋の居付きを除去できるので、溶体が跳ねたり、水蒸気爆発が発生したりしても、作業員が被害を受けることがなく、安全である。
第2発明によれば、格子板を通してスラグ樋を目視で確認できるので、居付き除去作業が行ないやすい。
第3発明によれば、居付き除去棒が充分な長さを有するので、上階からスラグ樋の居付きを除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製錬設備の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係る製錬設備AAは銅の製錬設備である。
図1に示すように、製錬設備AAは自熔炉1、錬かん炉2および水砕設備3を有する。
【0010】
自熔炉1はセトラー11を有する。セトラー11の一端には反応塔12が立設しており、他端には排煙道13が立設している。反応塔12の上端には精鉱バーナー14が設けられている。精鉱バーナー14から粉状の製錬原料と反応用ガスとが反応塔12内に吹き込まれる。製錬原料には少なくとも硫化銅精鉱とフラックスとが含まれている。また、製錬原料には必要に応じて冷材などが含まれている。
【0011】
反応塔12内に吹きこまれた製錬原料は、補助バーナーの熱、反応塔12の炉壁内の輻射熱などにより昇温され、銅精鉱中の硫黄分および鉄分が燃焼することで熔融する。製錬原料が熔融した熔体はセトラー11内に溜められる。セトラー11内において熔体は、目的金属(銅)が濃縮されたマットと、脈石成分および不純物を主成分とするスラグとに比重分離する。
【0012】
熔体下部のマットは図示しないマット抜き口から抜き出され転炉に送られる。転炉においてマットから不純物を除去して粗銅を得る。熔体上部のスラグはスラグ抜き口から排出される。このスラグには多少の目的金属(銅)が含まれるため、そのまま系外に排出すると、目的金属のロスとなる。そこで、自熔炉1から排出されたスラグは錬かん炉2で処理される。
【0013】
錬かん炉2として例えば電気炉が用いられる。錬かん炉2においてスラグに含まれる目的金属が回収される。錬かん炉2のスラグ抜き口にはスラグ樋21が接続されている。錬かん炉2で産出された目的金属分離後のスラグはスラグ樋21を介して排出される。スラグ樋21を流れるスラグは溶融状態である。以下、このスラグを「溶融スラグ」という。溶融スラグはスラグ樋21から水砕設備3に排出される。
【0014】
水砕設備3は水砕樋31および水砕ピット32を有する。水砕樋31には水砕水が流されている。溶融スラグはスラグ樋21から水砕樋31に流入する。溶融スラグは水砕水と接触して、急冷凝固により水砕されて水砕スラグとなる。水砕スラグは水砕水とともに水砕樋31から水砕ピット32に流入する。水砕ピット32に堆積した水砕スラグはバケットエレベータ33によりすくい取られて回収される。
【0015】
本実施形態において錬かん炉2は特許請求の範囲に記載の「製錬炉」に相当する。錬かん炉2は建屋4内に設置されている。
図2に示すように、スラグ樋21は建屋4の特定の階に配置されている。また、建屋4はスラグ樋21が配置された階の一つ上の階を有する。以下、スラグ樋21が配置された階を「下階」といい、その一つ上の階を「上階」という。
【0016】
上階は床板41を有する。床板41は上階の床面を構成するとともに、下階の天井を構成する。すなわち、床板41は上階と下階とを隔てる板材である。床板41は少なくとも作業員が乗れる強度を有する。床板41は、必要に応じて、根太、床梁などの支持部材で支持されている。
【0017】
床板41には上階と下階とを連通する挿入孔42が形成されている。挿入孔42は床板41のうちスラグ樋21の上方部分に形成されている。挿入孔42に居付き除去棒50を挿入することができる。
【0018】
図3に示すように、床板41には挿入孔42よりも大きい開口部43が形成されている。開口部43には格子板44が嵌め込まれている。格子板44は格子状の板材であり、作業員が乗っても破損しない程度の剛性を有する。格子板44として、例えば、エキスパンドメタルなどを用いることができる。格子板44は一部が切り取られており、この切り取られた部分が挿入孔42となっている。このように、挿入孔42の周囲に格子板44が設けられた構成となっている。
【0019】
図2に示すように、作業員は上階に居ながらスラグ樋21の居付きを除去する作業ができる。具体的には、上階に居る作業員が挿入孔42に居付き除去棒50を挿入し、居付き除去棒50の先端部でスラグ樋21の居付きを突いて除去する。この際、作業員は格子板44を通してスラグ樋21を目視で確認できる。そのため、居付き除去作業が行ないやすい。
【0020】
図3に示すように、挿入孔42は仕切部材45を有することが好ましい。
図3に示す例では挿入孔42の中央に仕切部材45としての棒材を設けている。居付き除去棒50を仕切部材45に立てかけることで、手で支えなくとも居付き除去棒50を挿入孔42の中央に定位させることができる。仕切部材45がスラグ樋21の真上にあれば、最初の位置合わせに際しても、居付き除去棒50を仕切部材45に押し当てながら鉛直に挿入することにより、苦も無くスラグ樋21に居付き除去棒50を届かせることができる。仕切部材45がスラグ樋21に沿って配置されていれば、居付き除去棒50をスラグ樋21に沿って動かすことも容易である。なお、仕切部材45は必ずしも挿入孔42の端から端まである必要はない。
【0021】
前述のごとく、スラグ樋21の居付きを除去する際には、溶体が跳ねたり、水蒸気爆発が発生したりすることがある。しかし、作業員は上階に居ながらスラグ樋21の居付きを除去できるので、溶体が跳ねたり、水蒸気爆発が発生したりしても、床板41でガードされる。そのため、作業員が被害を受けることがなく、安全である。
【0022】
居付き除去棒50は溶融スラグおよび居付きの温度に耐えられる素材でできた棒材である。居付き除去棒50は上階からスラグ樋21に届く長さであればよい。具体的には、居付き除去棒50は少なくとも下階の高さ(下階の床面から上階の床面までの高さ)より長い。また、居付き除去棒50は下階の高さより1~2m長いことが好ましい。そうすれば、居付き除去棒50が充分な長さを有するので、楽な姿勢で上階からスラグ樋21の居付きを除去できる。
【0023】
居付き除去棒50は例えば
図4に示す形状にすることができる。居付き除去棒50は長尺の棒材である。居付き除去棒50の上端に把持部51を設けてもよい。
【0024】
製錬設備AAは銅の製錬設備に限定されず、ニッケルなど他の金属の製錬設備でもよい。また、溶融スラグを排出する製錬炉は電気炉に限定されない。製錬炉は、自熔炉、溶鉱炉、反射炉などでもよい。
【実施例0025】
図3に示す床板41および
図4に示す居付き除去棒50を用いて、つぎの手順でスラグ樋21の居付きを除去する作業を行なった。まず、作業員が
図3における格子板44の下側に立ち、格子板44を通して下階を覗き込み、スラグ樋21とその周辺の様子を把握した。つぎに、作業員が挿入孔42からスラグ樋21へ向けて居付き除去棒50を差し込み、スラグ樋21の中に居付き除去棒50の下端部が入っていることを確認した。つぎに、スラグ樋21にスラグが流れている状態で作業員が居付き除去棒50を握り、手に伝わる抵抗からスラグ樋21の中に居付き除去棒50が入っていることを確認した。このとき、スラグ樋21の周辺の様子を視認して、居付き除去棒50の下端部と視界に入る各種設備との位置関係を把握することができた。つぎに、居付き除去棒50をスラグ樋21に沿って動かした。当初は居付きによる抵抗が感じられたが、そのあとは滑らかに動かすことができた。スラグ樋21へのスラグの排出を停止した後、下階に降りてスラグ樋21の様子を見たところ、居付きは十分に除去できていた。