(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018470
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230201BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/16 401
B41J2/16 507
B41J2/16 201
B41J2/14 613
B41J2/16 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122625
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】青山 伝
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF93
2C057AG01
2C057AG07
2C057AG80
2C057AM31
2C057AN01
2C057AP02
2C057AP32
2C057AP51
2C057AP60
(57)【要約】
【課題】ノズルプレートにおけるノズル最表部の径の均一性を向上させた液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】ノズル121を有するノズルプレート131を備えた液体吐出ヘッドであって、前記ノズルは、側壁に周期的な凹凸形状が形成された円筒形状を前記ノズルプレートの厚さ方向に対して1つ以上有し、液体吐出面110側の前記円筒形状において、前記ノズルの最表部の直径D1が、以下で定義される該円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値よりも小さいことを特徴とする。
平均値=(極小値の合計値+極大値の合計値)÷(極小値の数+極大値の数)
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記ノズルは、側壁に周期的な凹凸形状が形成された円筒形状を前記ノズルプレートの厚さ方向に対して1つ以上有し、
液体吐出面側の前記円筒形状において、前記ノズルの最表部の直径が、以下で定義される該円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値よりも小さいことを特徴とする液体吐出ヘッド。
[円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値]
平均値=(極小値の合計値+極大値の合計値)/(極小値の数+極大値の数)
【請求項2】
前記ノズルは、前記ノズルプレートの厚さ方向に対して2つの前記円筒形状を有し、
前記2つの円筒形状における前記平均値は互いに異なり、液体吐出面側の前記円筒形状における前記平均値が、他の前記円筒形状における前記平均値よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記ノズルプレートは、一の前記円筒形状が形成された基板と、他の前記円筒形状が形成された基板とを有し、
前記一の円筒形状が形成された基板と前記他の円筒形状が形成された基板は、シリコンのドライエッチングに対するエッチング選択比が異なることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ノズルプレートの表面に保護膜が形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
液体吐出面の前記保護膜上に撥水膜が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備えていることを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項7】
前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するヘッドタンク、前記液体吐出ヘッドを搭載するキャリッジ、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構、前記液体吐出ヘッドの維持回復を行う維持回復機構、前記液体吐出ヘッドを主走査方向に移動させる主走査移動機構の少なくともいずれか一つと前記液体吐出ヘッドとを一体化したことを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ユニット。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド、又は、請求項6若しくは7に記載の液体吐出ユニットを備えていることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項9】
ノズルを有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、
基板及び/又はデポジション膜に対してエッチングを行うエッチング工程と、基板を保護するデポジション膜を作製するデポジション膜作製工程とを含むボッシュプロセスを用いて前記ノズルプレートを作製し、
初回の前記エッチング工程を行う前に前記デポジション膜作製工程を行い、
前記ノズルは、側壁に周期的な凹凸形状が形成された円筒形状を前記ノズルプレートの厚さ方向に対して1つ以上有し、
液体吐出面側の前記円筒形状において、前記ノズルの最表部の直径が、以下で定義される該円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値よりも小さくなるようにすることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
[円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値]
平均値=(極小値の合計値+極大値の合計値)/(極小値の数+極大値の数)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドのノズルプレートでは、ボッシュプロセスを用いたドライエッチングにより加工を行う技術が知られている。この技術では、シリコン基板の表裏にパターニングを行い、ドライエッチングにより加工を行い、連通させてノズルプレートを製造する。
【0003】
例えば特許文献1には、インク吐出口の大きさを適切な大きさにすることを目的としたノズル基板やその製造方法が開示されている。特許文献1において、ノズル基板が有するノズル孔は、半導体基板の第1表面に形成されかつ半導体基板を貫通する凹部と、凹部の底面に形成され、凹部の底壁を貫通する横断面円形状のインク吐出通路とからなる。インク吐出通路は、その直径が深さ方向に周期的に変化しており、その凹部側とは反対側の開口端であるインク吐出口の直径は、インク吐出通路の直径の極小値と極大値の平均値よりも大きい。
【0004】
また、特許文献1では、側壁保護膜の形成工程とエッチング工程とを交互に繰り返し行うボッシュプロセスを用いている。特許文献1では、最初のエッチングではエッチングレートが低く、側壁保護膜の一部が残ることを指摘しており、これを異常時としている。そして、このような異常時が発生することを防止するため、側壁保護膜の形成工程よりも先にボッシュプロセスにおけるエッチング工程を行うこととし、シリコンのドライエッチングの際に生じるエッチング不良を防止することを目的としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術においては、ノズルのエッジ形状のばらつきによりノズル寸法が変化し、インクの吐出速度が変わり、インクの着弾精度が低下する、あるいは吐出波形との親和性が低下し、ミストが発生する問題があった。
【0006】
そこで本発明は、ノズルプレートにおけるノズル最表部の径の均一性を向上させた液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の液体吐出ヘッドは、ノズルを有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドであって、前記ノズルは、側壁に周期的な凹凸形状が形成された円筒形状を前記ノズルプレートの厚さ方向に対して1つ以上有し、液体吐出面側の前記円筒形状において、前記ノズルの最表部の直径が、以下で定義される該円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値よりも小さいことを特徴とする。
[円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値]
平均値=(極小値の合計値+極大値の合計値)/(極小値の数+極大値の数)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ノズルプレートにおけるノズル最表部の径の均一性を向上させた液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本発明の製造方法の一例を説明するための概略図(a)~(c)である。
【
図1B】本発明の製造方法の一例を説明するための概略図(d)~(f)である。
【
図1C】本発明の製造方法の一例を説明するための概略図(g)~(i)である。
【
図2】本発明におけるノズルの一例を説明するための概略図である。
【
図3】本発明におけるノズルの一例の内部断面の画像であり、ウェハ中心部のノズルの画像(A)及びウェハ外周部のノズルの画像(B)である。
【
図4】本発明におけるノズルの他の例を説明するための概略図である。
【
図5】本発明におけるノズルの他の例を説明するための他の概略図(a)及び(b)である。
【
図6A】本発明におけるノズルの他の例を説明するための概略図である。
【
図6B】本発明におけるノズルの他の例を説明するための概略図である。
【
図7A】本発明の製造方法の他の例を説明するための概略図である。
【
図7B】本発明の製造方法の他の例を説明するための概略図である。
【
図7C】本発明におけるノズルの他の例を説明するための概略図である。
【
図8A】本発明の製造方法の他の例を説明するための概略図(a)~(c)である。
【
図8B】本発明の製造方法の他の例を説明するための概略図(d)~(f)である。
【
図8C】本発明の製造方法の他の例を説明するための概略図(g)及び(h)である。
【
図10】液体吐出装置の他の例における概略図である。
【
図11】液体吐出ユニットの一例における概略図である。
【
図12】液体吐出ユニットの他の例における概略図である。
【
図13A】従来例の製造方法を説明するための概略図(a)~(c)である。
【
図13B】従来例の製造方法を説明するための概略図(d)~(f)である。
【
図13C】従来例におけるノズルを説明するための概略図である。
【
図13D】従来例におけるノズルを説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置及び液体吐出ヘッドの製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0011】
本発明の液体吐出ヘッドは、ノズルを有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドであって、前記ノズルは、側壁に周期的な凹凸形状が形成された円筒形状を前記ノズルプレートの厚さ方向に対して1つ以上有し、液体吐出面側の前記円筒形状において、前記ノズルの最表部の直径が、以下で定義される該円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値よりも小さいことを特徴とする。
[円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値]
平均値=(極小値の合計値+極大値の合計値)/(極小値の数+極大値の数)
【0012】
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、ノズルを有するノズルプレートを備えた液体吐出ヘッドの製造方法であって、基板及び/又はデポジション膜に対してエッチングを行うエッチング工程と、基板を保護するデポジション膜を作製するデポジション膜作製工程とを含むボッシュプロセスを用いて前記ノズルプレートを作製し、初回の前記エッチング工程を行う前に前記デポジション膜作製工程を行い、前記ノズルは、側壁に周期的な凹凸形状が形成された円筒形状を前記ノズルプレートの厚さ方向に対して1つ以上有し、液体吐出面側の前記円筒形状において、前記ノズルの最表部の直径が、以下で定義される該円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値よりも小さくなるようにすることを特徴とする。
[円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値]
平均値=(極小値の合計値+極大値の合計値)/(極小値の数+極大値の数)
【0013】
本発明によれば、ノズルプレートにおけるノズル最表部の径の均一性を向上させることができる。本発明では、液体吐出面のノズルの孔の形状を制御し、寸法の均一性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明では、本発明の液体吐出ヘッドを備えた液体吐出ユニット、本発明の液体吐出ヘッドや液体吐出ユニットを備えた液体を吐出する装置が提供される。本発明の液体吐出ヘッドの一実施形態として、例えばインクジェットヘッドが提供され、本発明の液体を吐出する装置の一実施形態として、例えばインクジェット記録装置が提供される。
【0015】
インクジェット記録装置は、騒音が極めて小さくかつ高速印字が可能であり、更にはインクの自由度があり、安価な普通紙を使用できるなど多くの利点がある。このため、インクジェット記録装置は、プリンター、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として広く展開されている。
【0016】
液体吐出ヘッドは、例えば、圧電素子などの電気機械変換素子、やヒータなどの電気熱変換素子と、それに対向する加圧室(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される)と、加圧室と連通するノズルにより形成される。このような液体吐出ヘッドでは、加圧室内に液体(例えばインク)を充填させ、前記圧電素子やヒータで加圧室内に圧力を発生させ、加圧室に連通したノズルより液体を吐出する。本実施形態の液体吐出ヘッドは、ノズルを有するノズルプレートを備えている。
【0017】
液体吐出ヘッドの性能として最も重要な項目は、インク滴を所望の位置に着弾させることである。これを達成するためには、ノズルが吐出対象に垂直に向いていること、ノズルエッジが真円であること、ノズル径が均一であることなどが挙げられる。
【0018】
ノズルが吐出対象に対して垂直でない場合、着弾位置がずれるのは想像に難くない。ノズルエッジが真円でなく突起やバリがあった場合、その点を起点に液滴が曲がり、着弾位置精度が下がる。ノズル径が均一でなくばらつく場合、ノズルごとに流体抵抗が変わり、吐出された液滴の速度が変わってしまう。印刷の仕組みとして、インクジェットヘッドが動く、あるいは印刷対象(記録媒体)が動くため、吐出された液滴の速度が変わると着弾位置も変わってしまう。
【0019】
ノズルの工法としては、金属板にプレスで穴を開けるプレス工法、Si基板をエッチングして穴を開けるドライエッチング工法が挙げられる。前者は形状制御が難しく、またノズルエッジにバリが発生しやすく、液滴が曲がる不具合が生じやすい。そのため、その形状の制御性の高さから、後者のボッシュプロセスによるドライエッチング工法が主に用いられる。
【0020】
加工の真円度の向上はドライエッチングにより向上可能であるが、ノズル径の均一性の向上はプレス工法、ドライエッチング工法ともに難しい。ノズル径を均一にすることについては、ドライエッチング工法の場合、液体を吐出する側のノズルエッジの仕上がり形状の制御を精密に行う必要がある。
【0021】
ドライエッチング工法の一種であるボッシュプロセスは、基板及び/又はデポジション膜に対してエッチングを行うエッチング工程と、基板を保護するデポジション膜を作製するデポジション膜作製工程とを行う。ボッシュプロセスでは、エッチング工程とデポジション膜作製工程を交互に行うことでSiを垂直加工する。ボッシュプロセスは、寸法の制御性を高くすることができ、かつ容易に垂直加工を行うことができる。
【0022】
前記エッチング工程は、2つのステップに分けられる。
2つのステップは、電極のバイアスを高めてウェハにイオンを衝突させ、デポジション膜を除去するデポ除去ステップと、電圧をかけずにSiを化学的に削る等方エッチングステップである。エッチング工程では、このデポ除去ステップと等方エッチングステップを順に行っている。ステップの名称は適宜変更してもよい。
【0023】
なお、デポ除去ステップは、デポジション膜を除去した後の余剰なエネルギーでSiも削られる。
【0024】
エッチングされるSi基板は、レジストでパターニングされている他、通常は表面に薄い自然酸化膜を有している。
【0025】
デポジション膜は、垂直加工する際の側壁を保護することから、側壁保護膜などと称されることもある。
【0026】
本実施形態の詳細の説明を行う前に、まず
図13を用いて従来例について説明する。
概要を先に説明すると、従来例では、初回のエッチング工程を先に行った後に、デポジション膜作製工程を行い、その後、エッチング工程とデポジション膜作製工程を交互に行う。この場合、最初のステップにおいて、自然酸化膜を削る際にレジストも削れてしまい、加工後、ウェハ面内におけるノズル寸法の均一性が低下してしまう。また、デポ除去ステップで自然酸化膜を削った後にSiを削るため、エッチングガスの均一性が悪い場合、1サイクル目の形状もウェハ面内で異なってしまう。
【0027】
従来例の製造方法について図を用いて説明する。従来例では、まずエッチング工程を行う。
図13A(a)は、初回のエッチング工程を行う前の状態を示す図である。Si基板101の表面に自然酸化膜102が形成されており、自然酸化膜102上にレジスト103が形成されている。
【0028】
図13A(b)は、初回のエッチング工程におけるデポ除去ステップを行った後の状態を示す図である。デポ除去ステップにより、自然酸化膜102が削れるが、その際にレジスト103も削れてしまう。図では、レジスト103が削れていることが模式的に示されている。レジストが削れるため、ウェハ面内でノズル寸法の均一性が低下してしまうことになる。
【0029】
なお、
図13A(b)に図示されているように、デポ除去ステップでは、自然酸化膜102を除去した後の余剰なエネルギーにより、Si基板101が削られている。Si基板101において、このときに削られた部分を符号106aで示している。
【0030】
図13A(c)は、初回のエッチング工程における等方エッチングステップを行った後の状態を示す図である。図示されるように、Si基板101が削られている。Si基板101において、このときに削られた部分を符号106bで示している。
【0031】
次いで、デポジション膜作製工程を行う。
図13B(d)は、Si基板101にデポジション膜107aを作製した後の状態を示す図である。レジスト103上やSi基板101における削られた部分(符号106b)にデポジション膜107aが形成されている。
【0032】
次いで、2回目のエッチング工程を行う。
図13B(e)は、エッチング工程におけるデポ除去ステップを行った後の状態を示す図である。エッチングが所定の時間行われることにより、デポジション膜107aの底面部が除去される。
【0033】
図13B(f)は、エッチング工程における等方エッチングステップを行った後の状態を示す図である。図示されるように、Si基板101が削られている。Si基板101において、このときに削られた部分を符号106cで示している。図示されるように、この段階でSi基板101は符号106b、106cのように削られている。
【0034】
以降、デポジション膜作製工程とエッチング工程を繰り返し行う。
図13Cは、上記のようにして形成された従来例のノズル115を示す図である。図中、符号114は液体吐出面を示している。また、D1はノズル115の最表部の直径を示している。また、D2、D4、D6、D8、D10はノズルが有する円筒形状の直径の極小値を示し、D3、D5、D7、D9は円筒形状の直径の極大値を示している。
【0035】
詳細は後述するが、ノズル115の最表部の直径D1は、円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値Davよりも大きくなっている。これは、初回のエッチング工程においてレジスト103が削れてしまったことに起因する。また、従来例では、ウェハ面内におけるノズルの均一性が低下し、最表部の直径D1がばらついてしまう。
【0036】
図13Dは、特許文献1によって形成されたノズルを説明するための図である。ノズル最表部の直径D1は、ノズルの円筒形状における極小値と極大値の平均値よりも大きくなっている。
【0037】
次に、本発明の一実施形態について
図1等を用いて説明する。
概要を先に説明すると、本実施形態では、ボッシュプロセスによりノズルプレートを作製する際に、初回のエッチング工程を行う前にデポジション膜作製工程を行う。これにより、初回のエッチング工程の際にレジスト欠損を抑えることができ、ノズルの寸法の均一性が低下することを抑えることができる。また、初回のエッチング工程では、デポ除去プロセスの余剰エネルギーで自然酸化膜を除去した後に等方エッチングでSiを削る。このため、1サイクル目の形状をウェハ面内で同一形状にすることができ、ノズル形状の均一性を向上させることができる。
【0038】
まず、初回のエッチング工程を行う前にデポジション膜作製工程を行う。
図1A(a)は、初回のエッチング工程を行う前の状態を示す図であり、デポジション膜作製工程を行った後の状態を示す図である。Si基板101の表面に自然酸化膜102が形成されており、自然酸化膜102上にレジスト103が形成されている。更に、デポジション膜作製工程を行うことにより、デポジション膜104aがレジスト103上と自然酸化膜102上に形成されている。
【0039】
デポジション膜は、垂直加工する際の側壁を保護することから、側壁保護膜などと称されることもある。また、本実施形態において、デポジション膜の材料及び作製方法としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。
【0040】
次いで、初回のエッチング工程を行う。
図1A(b)は、初回のエッチング工程におけるデポ除去ステップを行った後の状態を示す図である。図示されるように、デポジション膜104aが除去されている。また、本実施形態において、初回のエッチング工程におけるデポ除去ステップでは、デポジション膜104aを除去する際の余剰エネルギーで自然酸化膜102の一部が除去される。図中、符号102aは、デポ除去ステップ後に残った自然酸化膜102の一部を示している。
【0041】
図1A(c)は、初回のエッチング工程における等方エッチングステップを行った後の状態を示す図である。等方エッチングステップにより、自然酸化膜102の一部(符号102a)が削られ、更にSi基板101が削られる。Si基板101において、このときに削られた部分を符号105aで示している。
【0042】
従来例である
図13A(b)と本実施形態における
図1A(b)を比較するとわかるように、本実施形態では、初回のエッチング工程においてレジスト103の欠損を抑えることができる。そのため、ノズル最表部の形状(直径)がウェハ内でばらつくことを抑えることができる。
【0043】
また、従来例である
図13A(c)と本実施形態における
図1A(c)を比較するとわかるように、本実施形態では、初回のエッチング工程における等方エッチングステップの際に、Si基板101が削られ過ぎることを抑えることができる。そのため、ノズル最表部の直径がねらいとする大きさよりも大きくなることを防止でき、寸法の均一性を向上させることができる。
【0044】
以降、デポジション膜作製工程とエッチング工程を繰り返し行う。
図1B(d)は、2回目のデポジション膜作製工程を行った後の状態を示す図であり、Si基板101とレジスト103上にデポジション膜104bを作製した後の状態を示す図である。
【0045】
次いで、2回目のエッチング工程を行う。
図1B(e)は、エッチング工程におけるデポ除去ステップを行った後の状態を示す図である。エッチングが所定の時間行われることにより、デポジション膜104bが除去される。
【0046】
図示されるように、今回のデポ除去ステップを行った後では、デポジション膜104bの一部が除去されずに残っている。図中、除去されずに残ったデポジション膜104bの一部は、符号104cで示されている。デポジション膜104bを除去する際、例えば垂直方向(例えば紙面の上から下)にデポジション膜が除去される。そのため、符号104cの部分は、除去方向に長さを有しているため、デポジション膜の一部が除去されずに残る。しかし、本実施形態では、後述するように、他の工程、例えばその後の等方エッチングステップやデポジション膜作製工程に影響はない。
【0047】
図1B(f)は、エッチング工程における等方エッチングステップを行った後の状態を示す図である。図示されるように、Si基板101が削られている。Si基板101において、ここで除去された部分を符号105bで示している。
【0048】
図1C(g)は、次のデポジション膜作製工程を行った後の状態を示す図であり、Si基板101にデポジション膜104dを作製した後の状態を示す図である。レジスト103上の他、Si基板101における削られた部分(符号105b)にデポジション膜104dが形成されている。
【0049】
ここでのデポジション膜作製工程において、前のデポ除去ステップで一部除去されずに残った部分(符号104c)に更にデポジション膜104dを作製すると、残った部分の厚みが足されてデポジション膜の厚みが大きくなる。これについては、後のデポ除去ステップで所望の箇所が除去されるため、残った部分(符号104c)の影響は少ない。
【0050】
次いで、次のエッチング工程を行う。
図1C(h)は、エッチング工程におけるデポ除去ステップを行った後の状態を示す図である。エッチングが所定の時間行われることにより、デポジション膜104dが除去される。これにより、レジスト103上の部分とデポジション膜104dの底面の部分が主に除去されて、デポジション膜104eが残る。図示されるように、デポジション膜の厚みが大きくなった箇所があっても、所望の箇所のデポジション膜が除去される。
【0051】
図1C(i)は、エッチング工程における等方エッチングステップを行った後の状態を示す図である。図示されるように、Si基板101が削られている。Si基板101において、このときに削られた部分を符号105cで示している。図示されるように、この段階でSi基板101は符号105b、105cのように削られている。
【0052】
なお、図示するように、符号105bの側壁がデポジション膜104eにより保護されるので、デポジション膜を側壁保護膜などと称することがある。
【0053】
以降、上記と同様にして、デポジション膜作製工程とエッチング工程を繰り返し行い、ノズルを形成する。繰り返す回数は、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。また、デポジション膜作製工程とエッチング工程を繰り返した後は、例えばアッシング処理により、デポジション膜やレジストを除去する。
【0054】
このようにして、Si基板を垂直加工することができる。このようなプロセスにより、円筒形状を有するノズルが形成され、円筒形状の側壁は周期的な凹凸形状を有する。
【0055】
本実施形態によって得られるノズルの一例を
図2に示す。ここでは、Si基板101、自然酸化膜102、液体吐出面110、ノズル121、ノズルプレート131が図示されている。図示は省略しているが、ノズルプレート131を上から見たときに、ノズル121は円形の開口を有しており、ノズル121は円筒形状を有している。また、ここでの図示は省略しているが、ノズル121は液室(加圧室)と連通している。
【0056】
なお、本例のノズルは、1つの円筒形状を有しているため、ノズルと円筒形状は同じであるといえる。符号120はノズルを示し、符号121は円筒形状もしくは第1の円筒形状を示す。図では便宜上「121(120)」と表記しており、ノズルと円筒形状をまとめて指し示すものである。以下の本例の説明では、「ノズル121」と表記しており、ノズルと円筒形状をまとめて説明している。
【0057】
図中、D1はノズル121の最表部の直径を示している。また、D2、D4、D6、D8はノズルが有する円筒形状の直径の極小値を示し、D3、D5、D7、D9は円筒形状の直径の極大値を示している。Davは極小値と極大値の平均値を模式的に示したものである。
【0058】
本実施形態では、ノズル121(液体吐出面側の円筒形状)の最表部の直径D1が、以下で定義される該円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値Davよりも小さくなっている。
[円筒形状の直径の極小値と極大値の平均値]
平均値=(極小値の合計値+極大値の合計値)/(極小値の数+極大値の数)
【0059】
図2に示す例において上記の式にあてはめると、
Dav=((D2+D4+D6+D8)+(D3+D5+D7+D9))/(4+4)
となる。前記平均値は、極小値の平均値と極大値の平均値をそれぞれ求めておき、この2つの平均値を足して2で割って求めてもよい。
【0060】
なお、上記「極小値の数」は、円筒形状における全ての極小値の数である必要はなく、円筒形状における極小値の一部、例えば測定した箇所とすればよい。「極大値の数」についても同様に、円筒形状における全ての極大値の数である必要はない。
【0061】
上述のように、本実施形態では、初回のエッチング工程を行う前にデポジション膜作製工程を行うことで、レジスト欠損を抑えることができる。このため、ノズルプレートにおけるノズル最表部の径の均一性を向上させることができる。また、最初のデポ除去プロセスの余剰エネルギーで自然酸化膜を除去した後に等方エッチングでSiを削るため、1サイクル目の形状もウェハ面内で同一形状となり、形状均一性が向上する。
【0062】
上述のように、デポジション膜作製工程⇒エッチング工程⇒繰り返しの順に作製された場合(本実施形態)のノズルの最表部の直径は、エッチング工程⇒デポジション膜作製工程⇒繰り返しの順に作製された場合(従来例)のノズルの最表部の直径よりも小さくなる。このように直径が小さくなるのは、ノズルを所望の形状に形成できたためであり、この結果、ノズルの最表部の直径と前記平均値が上記の関係となる。
【0063】
ノズルの最表部の直径と前記平均値が上記の関係となるノズルを有するノズルプレート及び該ノズルプレートを有する液体吐出ヘッドにおいては、ノズル最表部の径の均一性を向上でき、ノズル寸法の均一性を向上できる。そのため、本実施形態の液体吐出ヘッドでは、ノズルが不均一であることによって生じる液体の吐出速度が変わるといった問題を防止でき、着弾精度を向上させることができる。また、本実施形態の液体吐出ヘッドでは、吐出波形との親和性が低下することを抑制でき、ミストの発生を抑えることができる。
【0064】
ノズルの最表部の直径並びに円筒形状の直径の極小値と極大値の測定方法としては、以下のようにして行う。
ノズルの最表部の直径は、顕微鏡による画像を取得し、取得した画像に対して、画像処理で寸法測定を行う光学系自動測定器を使用して求める。
円筒形状の直径の極小値と極大値は、ノズルの断面についてSEM(走査型電子顕微鏡)の画像を取得し、SEM観察により側壁の直径を測定して求める。極小値と極大値の測定箇所、すなわち極小値と極大値を求める箇所の個数としては、例えば1つのノズルにつき30箇所程度(極小値を30箇所及び極大値を30箇所)である。
【0065】
ノズルの最表部の直径と前記平均値が上記の関係となるようにするには、上述のように、初回のエッチング工程を行う前にデポジション膜作製工程を行うようにする。
【0066】
図3は、本例のノズルの内部断面の画像であり、ウェハ中心部のノズルの画像(A)及びウェハ外周部のノズルの画像(B)である。
図3は、SEM(走査型電子顕微鏡)の画像である。画像からわかるように、ノズルが有する円筒形状の側壁には、周期的な凹凸形状が形成されている。また、(A)と(B)とでほぼ同一形状となっており、上述したように、ウェハ面内でノズル形状の均一性を向上できる。
【0067】
本実施形態によって得られるノズルの他の例を
図4に示す。
本例において、ノズル120は、ノズルプレート131の厚さ方向に対して2つの円筒形状121、122を有している。液体吐出面110側の円筒形状を第1の円筒形状121とも称し、他の円筒形状を第2の円筒形状122とも称する。
【0068】
本例において、2つの円筒形状121、122における前記平均値は互いに異なり、液体吐出面側の円筒形状(第1の円筒形状121)における前記平均値が、他の円筒形状(第2の円筒形状122)における前記平均値よりも小さくなっている。本例のような関係を満たすことにより、ノズル120の流体抵抗を小さくし、吐出波形設計の自由度を向上させることができる。
【0069】
本例のノズル120を形成するには、例えば、
図2に示される第1の円筒形状121を形成した後、レジスト103やデポジション膜を除去する前に、更にデポジション膜作製工程とエッチング工程を繰り返して第2の円筒形状122を形成する。なお、第2の円筒形状122を形成する際、デポジション膜作製工程とエッチング工程のどちらを先に行ってもよい。上記と同様に、第2の円筒形状122を形成した後、例えばアッシング処理によりレジスト103やデポジション膜を除去する。
【0070】
なお、
図4では、D1~D3及びDavのみを図示しており、その他の極小値と極大値については図示を省略している。上述したノズルの最表部の直径D1と平均値Davの関係は、液体吐出面110側の円筒形状、すなわち第1の円筒形状121において満たすことを要し、第2の円筒形状122で満たすことは必要ではない。ノズルが更にその他の円筒形状を有する場合でも同様である。
【0071】
ノズルが更にその他の円筒形状を有する場合、例えば第3の円筒形状を液体吐出面とは反対側に有する場合、第2の円筒形状の前記平均値は、第3の円筒形状の前記平均値よりも小さいことが好ましい。この場合、ノズル120の流体抵抗を小さくすることができる。
【0072】
図5は、
図4に示す例を説明するための他の図である。
図5(a)は液体130(例えばインク)が充填される前の状態を示す図であり、
図5(b)は液体130が充填され、液体130を吐出する際の状態を示す図である。
【0073】
ノズルの形状としては、本例のように、ノズルプレート131の厚さ方向に対して2つの円筒形状(第1の円筒形状121、第2の円筒形状122)を有していることが好ましい。また、第1の円筒形状121の前記平均値は、第2の円筒形状122の前記平均値よりも小さいことが好ましい。ノズル120の出口の径が小さいほど微小なインク滴が吐出できるため、画像の解像度が向上し、高品質な画像を形成できる。
【0074】
一方で、ノズルの容積が小さいと流体抵抗が増大してしまい、吐出制御の自由度が損なわれてしまう。そのため、ノズル出口の径を小さくし、かつ流体抵抗を低減する目的から、本例のように2段の形状が好ましい。
【0075】
インク吐出の際は、
図5(b)に示すように、小径円筒部(第1の円筒形状121)にインクの水面が保持され、インクにかかる圧力に応じて液面の位置が変動する。従来例では、ノズル形状の均一性を高めることができないため、同じ圧力であっても液面の位置がノズルごとでばらついてしまい、吐出特性を高めることができない。一方、本実施形態によれば、液面の位置をノズル間で均一にしやすくなり、吐出特性を高めることができる。
【0076】
次に、本発明の液体吐出ヘッドについて、他の実施形態を説明する。
図6Aは、本実施形態の液体吐出ヘッドを説明するための概略図である。本実施形態では、ノズルプレート131の表面に保護膜140が形成されている。保護膜140が形成されていることにより、Si基板101のSiがインクに溶出することを抑制できる。特に、ノズル120内部に保護膜140が形成されていることで、Si基板101のSiがインクに溶出することをより抑制できる。
【0077】
保護膜140の材料や作製方法としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。本実施形態における保護膜140を耐インク保護膜などと称してもよい。
【0078】
保護膜140が形成されている場合、保護膜140を含めてノズルの最表部の直径と前記平均値が上記の関係となるかどうかを判断する。例えば、ノズル最表部の直径と円筒形状の直径の極小値や極大値を求める場合、保護膜140の表面からの距離を求める。
【0079】
次に、本発明の液体吐出ヘッドについて、他の実施形態を説明する。
図6Bは、本実施形態の液体吐出ヘッドを説明するための概略図である。本実施形態では、液体吐出面110の保護膜140上に撥水膜141が形成されている。撥水膜141が形成されていることにより、ノズル表面の清浄性を確保することができ、吐出滴の曲がりをより抑制することができる。
【0080】
撥水膜141の材料や作製方法としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。
【0081】
撥水膜141が形成されている場合、撥水膜141を含めてノズルの最表部の直径と前記平均値が上記の関係となるかどうかを判断する。例えば、ノズル最表部の直径を求める場合、撥水膜141の表面からの距離を求める。
【0082】
次に、本発明の液体吐出ヘッドについて、他の実施形態を説明する。
本実施形態において、ノズルプレートは、一の前記円筒形状が形成された基板と、他の前記円筒形状が形成された基板とを有し、前記一の円筒形状が形成された基板と前記他の円筒形状が形成された基板は、シリコンのドライエッチングに対するエッチング選択比が異なる。
【0083】
本実施形態について、
図7を用いて説明する。
図7A及び
図7Bは本実施形態の液体吐出ヘッドを製造する過程を説明する図であり、
図7Cは本実施形態の液体吐出ヘッドを示す図である。
【0084】
図7Aは、例えば
図2に示す例の第1の円筒形状121が形成された状態を示す図である。本実施形態では、第1の円筒形状121は第1のSi基板101aに形成され、第2の円筒形状122は第2のSi基板101bに形成される。本実施形態におけるノズルプレート131は第1のSi基板101aと第2のSi基板101bを有している。
【0085】
また、本実施形態では、第1のSi基板101aと第2のSi基板101bは、シリコンのドライエッチングに対するエッチング選択比が異なっている。例えば、第2のSi基板101bにシリコンのドライエッチングに対するエッチング選択比が高い層を用いる。
【0086】
図7Aに示すように、第1の円筒形状121を形成する際のエッチング工程では、第2のSi基板101bに到達した場合、エッチングの速度が変わり、例えば削れにくくなる。これにより、第1の円筒形状121の高さを高精度で制御でき、所望の形状にしやすくなる。なお、ここではエッチング選択比を用いて説明しているが、例えば第2のSi基板101bが第1のSi基板101aよりも削られにくい層などであってもよい。
【0087】
次いで、
図7Bに示すように、上述と同様にしてエッチング工程とデポジション膜作製工程を繰り返し、第2の円筒形状122を形成する。
図7Bは、第2の円筒形状122を形成した後の状態を示す図であり、レジストやデポジション膜を除去した後の状態を示す図である。
【0088】
次いで、
図7Cに示すように、レジスト103やデポジション膜を除去し、本実施形態におけるノズルプレート131が得られる。
【0089】
本実施形態では、第1のSi基板101aと第2のSi基板101bとでエッチング選択比を異ならせることにより、ノズルの形状を高精度で制御することができる。また、ノズルの形状を高精度で制御できるため、吐出制御を向上させることができる。本実施形態によれば、第1の円筒形状121の高さをノズル間で均一にすることができ、液面の位置(
図5参照)をノズル間で均一にすることができる。これにより、ある圧力に対する液面の位置をノズル間で同じにしやすくなる。また、第1の円筒形状121の高さが大きすぎて流体抵抗が増大するといった問題を防止できる。
【0090】
なお、第1のSi基板101aとしては後述のSOIにおける活性層とすることが好ましく、第2のSi基板101bとしては後述のSOIにおけるBox層とすることが好ましい。
【0091】
次に、本発明の液体吐出ヘッド及び液体吐出ヘッドの製造方法における他の実施形態について、
図8を用いて説明する。ここでは液室の形成についても説明する。
【0092】
本実施形態では、Si基板としてSOI(Silicon on Insulator)を用いる。SOIは、Box層(SiO2)を、活性層(Si)とSi基板で挟んだ構造であり、一般的にLSIの製造に利用されている。本実施形態においてSOIを用いることにより、インクジェットの吐出速度の制御性を向上させることができる。また、SOIウェハはSi基板の表面を酸化させ、その片面にSi基板を貼り付けて製造することから、その板厚のばらつきは数百ナノメートルに抑えられる。
【0093】
図8A(a)は、本実施形態に用いられるSOIを示す図である。Si基板301上にBox層302(SiO
2)が形成されており、Box層302上に活性層303(Si)が形成されている。ここでは表面層(自然酸化膜)の図示は省略している。
【0094】
次いで、
図8A(b)に示すように、活性層303上に第1のレジストパターン304を形成する。
【0095】
次いで、
図8A(c)に示すように、ドライエッチングにより第1の円筒形状121を形成する。第1の円筒形状121は、上述のように、デポジション膜作製工程とエッチング工程により形成される。上記実施形態と同様に、初回のエッチング工程を行う前にデポジション膜作製工程を行う。なお、ここでは周期的な凹凸形状の図示を省略している。
【0096】
レジストパターンを付けた状態で加工を行う理由としては、ドライエッチング時のエッジへのダメージ抑制を狙いとしている。エッチングダメージによりエッジが変形した場合、その変形箇所を起点としてインクの吐出方向が曲がってしまう。
【0097】
次いで、
図8B(d)に示すように、第2の円筒形状122を形成する。形成方法としては、上記実施形態と同様にすることができる。デポジション膜作製工程と、例えばドライエッチングを用いたエッチング工程とにより形成される。図示されるように、第1の円筒形状121は活性層303に形成され、第2の円筒形状122はBox層302に形成されている。第1の円筒形状を第1のノズル孔などと称してもよく、第2の円筒形状を第2のノズル孔などと称してもよい。
【0098】
次いで、
図8B(e)に示すように、第1のレジストパターン304を除去する。なお、第1のレジストパターン304を除去するタイミングは、第2の円筒形状122を形成した後であればよく、適宜変更することができる。
【0099】
次いで、
図8B(f)に示すように、Si基板301に第2のレジストパターン305を形成する。
【0100】
次いで、
図8C(g)に示すように、ドライエッチングにより、液室306(加圧室、流路液室などとも称される)を形成する。
【0101】
次いで、
図8C(h)に示すように、第2のレジストパターン305を除去する。これにより、本実施形態におけるノズルを有するノズルプレート131を形成することができる。本実施形態の液体吐出ヘッドは、ノズルプレート131と液室基板132を有している。液室基板132は、液室306を有しており、液室プレート、流路基板などと称してもよい。ただし、ノズルプレートが液室を有するとしてもよく、この場合、符号131と符号132を有する基板がノズルプレートに該当する。
【0102】
本実施形態では、
図4に示す例と同様に、基板に垂直な2段の円筒形状としている。すなわち、ノズルは第1の円筒形状121と第2の円筒形状122を有している。
また、第1の円筒形状121の前記平均値は第2の円筒形状122の前記平均値よりも小さくなっている。これにより、ノズルの出口の径が小さいことで微小なインク滴が吐出でき、画像の解像度が向上し、高品質な画像を形成できる。また流体抵抗を低減できる。
【0103】
また本実施形態では、SOIを用いることにより、第1の円筒形状121の高さを高精度に制御できる。これは、活性層303とBox層302とで、シリコンのドライエッチングに対するエッチング選択比が異なるためである。本実施形態では、活性層303が削られ過ぎて第1の円筒形状121の高さがばらつくことを抑制できる。
【0104】
(液体を吐出する装置及び液体吐出ユニット)
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について
図9及び
図10を参照して説明する。
図9は同装置の要部平面説明図、
図10は同装置の要部側面説明図である。
【0105】
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0106】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド404及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド404は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド404は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
【0107】
液体吐出ヘッド404の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド404に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
【0108】
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
【0109】
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
【0110】
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド404に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
【0111】
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0112】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド404の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
【0113】
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド404のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
【0114】
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0115】
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
【0116】
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド404を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0117】
このように、この装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
【0118】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について
図11を参照して説明する。
図11は同ユニットの要部平面説明図である。
【0119】
この液体吐出ユニットは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド404で構成されている。
【0120】
なお、この液体吐出ユニットの例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420、及び供給機構494の少なくともいずれかを更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0121】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について
図12を参照して説明する。
図12は同ユニットの正面説明図である。
【0122】
この液体吐出ユニットは、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド404と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0123】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド404と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0124】
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0125】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0126】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0127】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0128】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0129】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、壁紙や床材などの建材、衣料用のテキスタイルなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0130】
また、「液体」は、インク、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液なども含まれる。
【0131】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0132】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0133】
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0134】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0135】
例えば、液体吐出ユニットとして、
図10で示した液体吐出ユニット440のように、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0136】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0137】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、
図11で示したように、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0138】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0139】
また、液体吐出ユニットとして、
図12で示したように、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
【0140】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0141】
また、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、上記実施形態で説明したような圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものでもよい。
【0142】
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【実施例0143】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0144】
(実施例1及び比較例1)
実施例1では、SOIを用い、
図8A~
図8Cに示すようにして液体吐出ヘッドを作製した。実施例1では、初回のエッチング工程を行う前にデポジション膜作製工程を行った(
図1A参照)。また、2つの円筒形状を有するノズルとした。
【0145】
比較例1では、実施例1と同様にしてSOIを用いて作製しているが、デポジション膜作製工程を行う前に初回のエッチング工程を行った(
図13A参照)。
【0146】
次に、上記のようにして得られた液体吐出ヘッドについて以下の評価を行った。
上記液体吐出ヘッドのそれぞれについて、ノズル20000個に対してノズル最表部の直径を求め、これにより直径の孔径分布を求め、これにより標準偏差3σを求めて評価を行った。標準偏差3σの値が小さいほど、ノズル最表部の直径の均一性が高いといえる。評価基準は、3σの値が0.1μmを下回ることを基準とした。
【0147】
ノズルの最表部の直径は、ニコンインステック社製光学測長機NEXIVで寸法を光学測定した。寸法測定誤差が0.02μmとなる条件を利用した。ノズルの最表部の直径は、ノズル最表部の画像を取得し、この画像に対し、画像処理で寸法測定を行う光学系自動測定器を使用して求めた。
円筒形状の直径の極小値と極大値は、ノズルの断面についてSEMの画像を取得し、SEM観察により側壁の直径を測定して求めた。極小値と極大値の測定箇所、すなわち極小値と極大値を求める箇所の個数としては、1つのノズルにつき30箇所とした。
【0148】
表1に測定結果及び評価結果を示す。
表1では、ウェハ内位置が中心のノズル1つと、ウェハ内位置が外周のノズル1つに対して、ノズル最表部の直径、円筒形状の直径の平均値、円筒形状の直径の極大値の平均値、円筒形状の直径の極小値の平均値を求めた値を示している。表1中、円筒形状の直径の平均値は、円筒形状の直径の極大値の平均値と、円筒形状の直径の極小値の平均値とを足して2で割った値である。
【0149】
表1に示すように、実施例1では、ウェハ中心部のノズルとウェハ外周部のノズルはともに、ノズル最表部の直径が円筒形状の直径の極大値と極小値の平均値よりも小さくなっている。表1に示す測定値は、ウェハ中心部のノズル1つと、ウェハ外周部のノズル1つのものであるが、実施例1ではその他のノズルについても同様に、ノズル最表部の直径が円筒形状の直径の極大値と極小値の平均値よりも小さくなっていた。
一方、比較例1では、ウェハ中心部のノズルとウェハ外周部のノズルはともに、ノズル最表部の直径が円筒形状の直径の極大値と極小値の平均値よりも大きくなっている。比較例1においても、比較例1ではその他のノズルについても同様に、ノズル最表部の直径が円筒形状の直径の極大値と極小値の平均値よりも大きくなっていた。
なお、円筒形状の側壁は、実施例1及び比較例1ともに、
図3に示すように周期的な凹凸形状を有していた。
【0150】
また、表1に示すように実施例1では、ノズル最表部の直径分布により求められる標準偏差3σが0.085μmであり、基準値0.1μmを下回っていた。このため、実施例1では、ノズル最表部の直径の均一性が高いといえる。
一方、比較例1では、標準偏差3σが0.142μmであり、基準値0.1μmを上回っていた。このため、比較例1では、ノズル最表部の直径の均一性が低いといえる。
このように、ノズル最表部の直径を円筒形状の直径の極大値と極小値の平均値よりも小さくすることで、ウェハ面内やノズルプレートにおけるノズル最表部の直径の均一性を向上させることができる。
【0151】