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  • 特開-III族窒化物積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184710
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】III族窒化物積層体
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20231221BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L21/205
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191376
(22)【出願日】2023-11-09
(62)【分割の表示】P 2019116391の分割
【原出願日】2019-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 丈士
(72)【発明者】
【氏名】磯野 僚多
(57)【要約】
【課題】炭化シリコン基板上にIII族窒化物層を成長させたエピタキシャル基板を用いたHEMTにおいて、リーク電流と電流コラプスとをともに抑制するための技術を提供する。
【解決手段】III族窒化物積層体は、ポリタイプ4Hまたはポリタイプ6Hの半絶縁性の炭化シリコンで構成された基板と、窒化アルミニウムで構成され、基板上に形成された第1層と、窒化ガリウムで構成され、第1層の直上に形成された第2層と、第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物で構成され、第2層の直上に形成された第3層と、を有し、第2層は、厚さ方向について炭素の濃度で区分されない1層の窒化ガリウム層で構成され、第2層の厚さが、500nm未満であり、第2層に含まれる鉄の濃度が、1×1017/cm未満であり、第2層に含まれる炭素の濃度が、1×1017/cm未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリタイプ4Hまたはポリタイプ6Hの半絶縁性の炭化シリコンで構成された基板と、
窒化アルミニウムで構成され、前記基板上に形成された第1層と、
窒化ガリウムで構成され、前記第1層の直上に形成された第2層と、
前記第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物で構成され、前記第2層の直上に形成された第3層と、
を有し、
前記第2層は、厚さ方向について炭素の濃度で区分されない1層の窒化ガリウム層で構成され、
前記第2層の厚さが、500nm未満であり、
前記第2層に含まれる鉄の濃度が、1×1017/cm未満であり、
前記第2層に含まれる炭素の濃度が、1×1017/cm未満である、
III族窒化物積層体。
【請求項2】
前記第2層の厚さが、400nm未満である、請求項1に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項3】
前記第2層の厚さが、350nm未満である、請求項2に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項4】
前記第3層の厚さが、1nm以上50nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項5】
前記第2層の電子移動度が、1500cm/Vs以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項6】
前記第3層の上方に設けられた電極、を有し、
高電子移動度トランジスタとして用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項7】
前記高電子移動度トランジスタのゲート電極に負電圧を印加してオフ状態としたうえで、ソース電極およびドレイン電極間に50Vの電圧を印加することで測定される、前記高電子移動度トランジスタにおけるリーク電流が、1×10-5A/mm以下である、請求項6に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項8】
前記III族窒化物積層体は、ウエハの態様である、請求項1~7のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項9】
前記III族窒化物積層体は、チップの態様である、請求項1~7のいずれか1項に記載のIII族窒化物積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化シリコン基板上にIII族窒化物層を成長させたエピタキシャル基板の開発が進められている。このようなエピタキシャル基板は、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)等の半導体装置を作製するための材料として用いられる(特許文献1参照)。
【0003】
このようなエピタキシャル基板を用いたHEMTにおいて、リーク電流と電流コラプスとをともに抑制することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-4118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、炭化シリコン基板上にIII族窒化物層を成長させたエピタキシャル基板を用いたHEMTにおいて、リーク電流と電流コラプスとをともに抑制するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば
炭化シリコンで構成された基板と、
窒化アルミニウムで構成され、前記基板上に形成された第1層と、
窒化ガリウムで構成され、前記第1層上に形成された第2層と、
前記第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物で構成され、前記第2層上に形成された第3層と、
を有し、
前記第2層の厚さが、500nm未満であり、
前記第2層に含まれる鉄の濃度が、1×1017/cm未満であり、
前記第2層に含まれる炭素の濃度が、1×1017/cm未満である、
III族窒化物積層体
が提供される。
【発明の効果】
【0007】
炭化シリコン基板上にIII族窒化物層を成長させたエピタキシャル基板を用いたHEMTにおいて、リーク電流と電流コラプスとをともに抑制するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態によるIII族窒化物積層体を示す概略断面図である。
図2図2(a)および図2(b)は、III族窒化物積層体におけるエピ層のバンド構造と、2DEGの深さ方向分布と、を示すグラフ(シミュレーションによる結果)であり、図2(a)は、一実施形態の場合を例示し、図2(b)は、比較形態の場合を例示する。
図3図3(a)は、一実施形態によるIII族窒化物積層体が有するエピ基板の製造に用いられるMOVPE装置を概念的に示す概略図であり、図3(b)は、一実施形態によるIII族窒化物積層体が有するエピ層の成長工程を例示する概略的なタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の一実施形態>
本発明の一実施形態によるIII族窒化物積層体100(以下、積層体100ともいう)について説明する。図1は、積層体100を例示する概略断面図である。積層体100は、基板110と、III族窒化物で構成され基板110上に形成されたIII族窒化物層160(以下、エピ層160ともいう)と、を有する。エピ層160は、(少なくとも、)核生成層120と、バッファ/チャネル層130と、バリア層140と、を有する。
【0010】
積層体100は、例えば、基板110とエピ層160とを有するエピタキシャル基板170(以下、エピ基板170ともいう)の態様であってよい。積層体100は、また例えば、エピ基板170を材料として形成された半導体装置の態様、より具体的には、エピ層160の(バリア層140の)上方に電極210(ソース電極211、ゲート電極212およびドレイン電極213)が設けられることで形成された高電子移動度トランジスタ(HEMT)200の態様であってよい。図1は、HEMT200の態様の積層体100を例示する。HEMT200の態様の積層体100は、ウエハの態様であってもよいし、ウエハが分割されたチップの態様であってもよい。
【0011】
基板110は、炭化シリコン(SiC)で構成されており、エピ層160をヘテロエピタキシャル成長させるための下地基板である。基板110を構成するSiCとして、例えば、ポリタイプ4Hまたはポリタイプ6Hの半絶縁性SiCが用いられる。ここで「半絶縁性」とは、例えば、比抵抗が10Ωcm以上である状態をいう。基板110の、エピ層160を成長させる下地となる表面は、例えば(0001)面(c面のシリコン面)である。
【0012】
基板110上に、核生成層120が形成されている。核生成層120は、窒化アルミニウム(AlN)で構成されており、バッファ/チャネル層130の結晶成長のための核を生成する核生成層として機能する。核生成層120の厚さは、例えば、1nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0013】
核生成層120上に、バッファ/チャネル層130(以下、チャネル層130ともいう)が形成されている。チャネル層130は、窒化ガリウム(GaN)で構成されている。チャネル層130の下側の部分は、チャネル層130の上側の部分の結晶性を向上させるためのバッファ層として機能する。また、チャネル層130の上側の部分は、HEMT200の動作時に電子が走行するチャネル層として機能する。本実施形態によるチャネル層130の好ましい厚さ等については、後述する。
【0014】
チャネル層130上に、バリア層140が形成されている。バリア層140は、チャネル層130を構成するGaNよりも電子親和力の小さいIII族窒化物、例えば、III族元素としてアルミニウム(Al)およびガリウム(Ga)を含む窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)で構成されている。バリア層140は、チャネル層130に2次元電子ガス(2DEG)を生成させるとともに、2DEGをチャネル層130内に空間的に閉じ込めるバリア層として機能する。バリア層140の厚さは、例えば、1nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0015】
バリア層140上に、必要に応じ、キャップ層150が形成されてよい。つまり、エピ層160は、必要に応じ、キャップ層150を有してよい。キャップ層150は、例えばGaNで構成されており、HEMT200のデバイス特性(閾値電圧の制御性等)を向上させるために、バリア層140とゲート電極212との間に介在する。
【0016】
キャップ層150上に(バリア層140の上方に)、HEMT200の電極210として、ソース電極211、ゲート電極212およびドレイン電極213が形成されている。ゲート電極212は、例えば、ニッケル(Ni)層と金(Au)層とが積層されたNi/Au層で構成されている。なお、本明細書で、積層をX/Yと記載した場合、X、Yの順で積層されていることを示す。
【0017】
ソース電極211およびドレイン電極213のそれぞれは、例えば、チタン(Ti)層とAl層とが積層されたTi/Al層で構成されている。ソース電極211およびドレイン電極213のそれぞれは、また例えば、Ti/Al層上にNi/Au層が積層されることで構成されていてもよい。
【0018】
以下、チャネル層130について、さらに説明する。本実施形態の積層体100は、チャネル層130が薄いことを1つの特徴とする。具体的には、チャネル層130の厚さは、500nm未満であり、好ましくは450nm未満であり、より好ましくは400nm未満であり、さらに好ましくは350nm未満である。
【0019】
従来技術(以下、比較形態という)による積層体100では、チャネル層(バッファ/チャネル層)130の厚さが、500nm以上と厚い。比較形態では、チャネル層130の厚さを500nm以上とすることで、格子不整合に起因する転位などの欠陥を減らすことにより、バリア層140の直下に配置されるチャネル結晶部分の品質を向上させている。
【0020】
しかし、GaNで構成されたチャネル層130に存在する窒素空孔は、ドナータイプの点欠陥であるため、比較形態のようにチャネル層130が厚いと、HEMT200におけるリーク電流が大きくなる。比較形態において、リーク電流抑制のため、チャネル層130に鉄、炭素等の不純物を添加することで、深いエネルギー準位を形成させることにより、窒素空孔から供給されたフリーキャリアを捕獲させて、チャネル層130を高抵抗にすることは可能である。しかし、このような態様では、鉄、炭素等の不純物が形成する深いエネルギー準位が、電流コラプスと呼ばれる、ドレイン電流の過渡応答あるいは減少を引き起こす。このように、比較形態の積層体100においては、チャネル層130の厚さが500nm以上と厚いことで、リーク電流が大きい、あるいは、電流コラプスが大きい、という課題が生じる。
【0021】
これに対し、本実施形態の積層体100は、チャネル層(バッファ/チャネル層)130の厚さを500nm未満と薄くすることで、比較形態と比べて、リーク電流を抑制することができる。また、リーク電流が抑制されていることで、リーク電流低減のための鉄、炭素等の不純物添加が不要となるため、比較形態と比べて、電流コラプスを抑制することもできる。電流コラプス抑制の観点から、本実施形態によるチャネル層130に含まれる鉄および炭素の濃度は、それぞれ、1×1017/cm未満とする。
【0022】
ただし、チャネル層130の結晶性および表面平坦性は、チャネル層130を薄くすることに起因して低下しやすい。このため、本実施形態では、後述のような方法でエピ層160を成長させることにより、チャネル層130の厚さを500nm未満としても、チャネル層130の結晶性の低下および表面平坦性の低下が抑制されるようにしている(少なくとも結晶性の低下が抑制されることで、高い電子移動度が得られるようにしている)。なお、チャネル層130を過度に薄くすると、結晶性の低下および表面平坦性の低下の抑制が難しくなるため、チャネル層(バッファ/チャネル層)130の厚さは、100nm以上とすることが好ましい。
【0023】
チャネル層130の結晶性の高さは、例えば、チャネル層130の電子移動度の大きさで評価される。本実施形態によるチャネル層130の電子移動度は、好ましくは1500cm/Vs以上であり、より好ましくは1600cm/Vs以上である。また、本実施形態によるチャネル層130を有するHEMT200において、リーク電流は、好ましくは1×10-5A/mm以下である。なお、リーク電流とは素子間リーク電流、或いはオフリーク電流のことである。素子間リーク電流の測定は、ウエハ上の各素子をイオン注入法あるいはICPエッチング等により分離したのち、隣接する素子のオーミック電極間に例えば50V程度の電圧を印加することで実施できる。オフリーク電流の測定は、形成されたトランジスタ素子においてゲート電極に十分な負電圧を印加して素子をピンチオフすなわちオフ状態にしたうえで、ソース及びドレイン電極間に例えば50V程度の電圧を印加することで実施できる。
【0024】
図2(a)および図2(b)は、積層体100におけるエピ層160の(チャネル層130とバリア層140との界面近傍の)バンド構造と、2DEGの深さ方向分布と、を示すグラフ(シミュレーションによる結果)である。図2(a)は、本実施形態(チャネル層130の厚さが400nm)の場合を例示し、図2(b)は、比較形態(チャネル層130の厚さが1000nm)の場合を例示する。なお、横軸の単位はオングストロームである。
【0025】
比較形態(図2(b))では、実施形態(図2(a))と比べて、2DEGの分布の裾が下方側(基板110側)まで広がっている。つまり、電子濃度が高い(例えば1×1016/cm以上の)範囲が、比較形態では実施形態よりも下方まで広がっている。これに起因して、比較形態では、実施形態と比べて、エピ基板170の下方の部分で面内方向に電流が流れやすいため、リーク電流が大きくなる。換言すると、実施形態では、比較形態と比べて、エピ基板170の下方の部分で面内方向に電流が流れにくいため、リーク電流が抑制される。
【0026】
次に、実施形態による積層体100の製造方法について説明する。ここでは、HEMT200の態様である積層体100の製造方法について例示する。まず、エピ基板170の製造方法について説明する。基板110としてSiC基板を準備する。基板110の上方に、エピ層160を構成する各層である、核生成層120、チャネル層130、バリア層140および(必要に応じて)キャップ層150を、例えば有機金属気相成長(MOVPE)により成長させることで、エピ基板170を形成する。
【0027】
III族原料ガスのうちAl原料ガスとしては、例えばトリメチルアルミニウム(Al(CH、TMA)ガスが用いられる。III族原料ガスのうちGa原料ガスとしては、例えばトリメチルガリウム(Ga(CH、TMG)ガスが用いられる。V族原料ガスである窒素(N)原料ガスとしては、例えばアンモニア(NH)が用いられる。キャリアガスとしては、例えば、窒素ガス(Nガス)および水素ガス(Hガス)の少なくとも一方が用いられる。また、後述のクリーニングに用いるクリーニングガスとしては、例えばアンモニアガス、また例えば塩素ガスが用いられる。成長温度は、例えば、900℃~1400℃の範囲で選択可能であり、III族原料ガスに対するV族原料ガスの流量比であるV/III比は、例えば、10~5000の範囲で選択可能である。形成する各層の組成に応じて、各原料ガスの供給量の比率が調整される。形成する各層の厚さは、たとえば予備実験で得た成長速度から設計厚さに対応する成長時間を算出することで、成長時間により制御できる。
【0028】
本願発明者は、チャネル層(バッファ/チャネル層)130の厚さを、上述のように薄く(500nm未満に)しつつ、結晶性の低下および表面平坦性の低下も抑制するための方法について検討した。その結果、一つの方法として、AlNで構成される核生成層120の形成に起因するAlの、チャネル層130への混入を抑制することで、チャネル層130の結晶性の低下および表面平坦性の低下が抑制されるとの知見を見出した。これは、GaNで構成されるチャネル層130の成長において、Alの混入が抑制されることで、GaNの2次元成長が容易になるため、薄層でのGaNの結晶性および表面平坦性が向上するからではないかと考えられる。この結果、500nm未満の薄いチャネル層130であっても、好ましくは1500cm/Vs以上、より好ましくは1600cm/Vs以上の電子移動度を有するような、良好な結晶性を得られるのではないかと考えられる。
【0029】
以下、チャネル層130へのAlの混入を抑制するための方法について、例示的に説明する。図3(a)は、本実施形態によるエピ基板170の製造に用いられるMOVPE装置300を概念的に示す概略図である。MOVPE装置300の反応炉310内に、基板110を載置するためのサセプタ320が設置されている。サセプタ320の載置面の下方に、基板110を所定の温度に加熱するためのヒータ330が設置されている。反応炉310内に、基板110に向けて各種のガスを供給するためのガス管341、342、343および344が導入されている。
【0030】
ガス管341は、III族原料のうちAl原料(例えばTMA)を供給する。ガス管342は、Al原料以外のIII族原料、ここではGa原料(例えばTMG)を供給する。ガス管343は、V族原料(例えばNH)を供給する。ガス管344は、反応炉310の炉壁等に付着したAl原料を除去するクリーニングを行うためのクリーニングガスを供給する。
【0031】
図3(b)は、本実施形態によるエピ層160の成長工程を例示する概略的なタイミングチャートである。核生成層120の形成工程では、基板110に向けてAl原料ガスおよびN原料ガスを供給することで、AlNを成長させることにより、核生成層120を形成する。核生成層120の形成に起因して、反応炉310の炉壁等に、Al原料が付着する。
【0032】
核生成層120の形成に続くクリーニング工程では、反応炉310内にクリーニングガスを供給することで、反応炉310の炉壁等に付着したAl原料を除去する。クリーニングとして塩素ガスを使う場合は、核生成層120を形成した基板110を、一旦反応炉310の外に出した状態で、クリーニング工程を行う。これは、クリーニング工程により核生成層120がエッチングされることを防止するためである。クリーニングとしてアンモニアガスを使う場合は、基板110を反応炉310の外に出さなくともよい。クリーニング工程において、核生成層120の形成工程でAl原料の供給に用いられたガス管341内にもクリーニングガス(例えばアンモニアガス、また例えば塩素ガス)を流すことで、ガス管341の内壁に付着したAl原料を除去することがより好ましい。
【0033】
クリーニング工程に続くチャネル層130の形成工程では、基板110に向けてGa原料ガスおよびN原料ガスを供給することで、GaNを成長させることにより、チャネル層130を形成する。本実施形態では、チャネル層130の形成工程に先立ち、クリーニング工程を行って反応炉310の炉壁等に付着したAl原料を除去しておくことにより、チャネル層130を形成する際のAl混入が抑制されるため、Al混入に起因するGaNの結晶性の低下および表面平坦性の低下を抑制できる。
【0034】
さらに、本実施形態では、Al原料ガスを供給するガス管341と、Ga原料ガスを供給するガス管342と、を別々にしている。これにより、Al原料ガスとGa原料ガスとを共通のガス管から供給する態様において生じるような、ガス管に残留したAl原料ガスがGa原料ガスとともに供給されることを防止できるため、チャネル層130におけるAl混入に起因するGaNの結晶性の低下および表面平坦性の低下を抑制できる。
【0035】
本実施形態では、このようにして、厚さが500nm未満であるとともに、結晶性の低下および表面平坦性の低下が抑制されたチャネル層130を形成することができる。なお、クリーニング工程における、クリーニングガスの流量、クリーニング工程が行われる時間の長さ等の諸条件は、所定の結晶性および表面平坦性を有するチャネル層130が形成されるように、予備実験により定めることができる。
【0036】
なお、チャネル層130の形成工程において、鉄、炭素等の、チャネル層130を高抵抗にするための不純物の添加は行わない。鉄については、鉄を含む(鉄を添加するための)原料ガスを供給しないことにより、チャネル層130に含まれる鉄の濃度を、1×1017/cm未満とする。また、炭素については、TMG等の有機原料ガスであるGa原料ガスに起因する炭素の、チャネル層130への取り込みが抑制されるような成長温度およびV/III比で、チャネル層130を成長させることにより、チャネル層130に含まれる炭素の濃度を、1×1017/cm未満とする。
【0037】
チャネル層130の形成工程に続くバリア層140の形成工程では、基板110に向けてAl原料ガス、Ga原料ガスおよびN原料ガスを供給することで、AlGaNを成長させることにより、バリア層140を形成する。エピ層160がキャップ層150を有する場合は、バリア層140の形成工程に続き、さらに、基板110に向けて例えばGa原料ガスおよびN原料ガスを供給することで、GaNを成長させることにより、キャップ層150を形成する。以上のように、基板110上にエピ層160を成長させることで、エピ基板170を製造する。
【0038】
次に、HEMT200の製造方法について説明する。エピ基板170が製造された後、エピ層160上に電極210(ソース電極211、ゲート電極212およびドレイン電極213)を形成することで、HEMT200を製造する。なお、HEMT200の製造の際、必要に応じ、保護膜等の他の部材を形成してもよい。電極210、保護膜等は、公知の手法で形成されてよい。以上のようにして、本実施形態による積層体100が製造される。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、チャネル層130の厚さを500nm未満と薄くすることで、積層体100をHEMT200として用いる際のリーク電流を抑制することができる。また、リーク電流が抑制されていることで、リーク電流低減のための鉄、炭素等の不純物添加が不要となるため、電流コラプスを抑制することもできる。
【0040】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0041】
(付記1)
炭化シリコンで構成された基板と、
窒化アルミニウムで構成され、前記基板上に形成された第1層と、
窒化ガリウムで構成され、前記第1層上に形成された第2層と、
前記第2層を構成する窒化ガリウムよりも電子親和力の小さいIII族窒化物で構成され、前記第2層上に形成された第3層と、
を有し、
前記第2層の厚さが、500nm未満(好ましくは450nm未満、より好ましくは400nm未満、さらに好ましくは350nm未満)であり、
前記第2層に含まれる鉄の濃度が、1×1017/cm未満であり、
前記第2層に含まれる炭素の濃度が、1×1017/cm未満である、
III族窒化物積層体。
【0042】
(付記2)
前記第2層の厚さが、100nm以上である、付記1に記載のIII族窒化物積層体。
【0043】
(付記3)
前記第2層の電子移動度が、好ましくは1500cm/Vs以上であり、より好ましくは1600cm/Vs以上である、付記1または2に記載のIII族窒化物積層体。
【0044】
(付記4)
前記第3層の上方に設けられた電極、を有し、
高電子移動度トランジスタとして用いられる、付記1~3のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0045】
(付記5)
前記高電子移動度トランジスタのゲート電極に負電圧を印加してオフ状態としたうえで、ソース電極およびドレイン電極間に50Vの電圧を印加することで測定される、前記高電子移動度トランジスタにおけるリーク電流(オフリーク電流)が、1×10-5A/mm以下である、付記4に記載のIII族窒化物積層体。
【符号の説明】
【0046】
100…III族窒化物積層体、110…基板、120…核生成層、130…バッファ/チャネル層、140…バリア層、150…キャップ層、160…III族窒化物層、170…エピタキシャル基板、200…HEMT、210…電極、211…ソース電極、212…ゲート電極、213…ドレイン電極、300…MOVPE装置、310…反応炉、320…サセプタ、330…ヒータ、341~344…ガス管
図1
図2
図3