IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京応化工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018529
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】エッチング液及びエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/082 20230101AFI20230201BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20230201BHJP
   C30B 33/08 20060101ALI20230201BHJP
   C30B 29/34 20060101ALI20230201BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
H01L41/332
H01L41/113
C30B33/08
C30B29/34
H03H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122722
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】平野 勲
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 弘国
【テーマコード(参考)】
4G077
5J097
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BD14
4G077FG06
4G077FG17
4G077HA11
5J097AA34
5J097FF01
5J097HA03
5J097HA07
(57)【要約】
【課題】ランガサイト系単結晶を高いエッチングレートでエッチングすることができ、且つエッチングによるランガサイト系単結晶の表面の変質が抑制できるエッチング液、及びエッチング方法提供すること。
【解決手段】ランガサイト系単結晶をエッチングするエッチング液であって、フッ酸(A)と、フッ酸以外の酸(B)と、溶媒(S)とを含み、前記フッ酸(A)の濃度は、前記エッチング液の質量に対して0質量%超3.0質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランガサイト系単結晶をエッチングするエッチング液であって、
フッ酸(A)と、フッ酸以外の酸(B)と、溶媒(S)とを含み、
前記フッ酸(A)の濃度は、前記エッチング液の質量に対して0質量%超3.0質量%以下である、エッチング液。
【請求項2】
前記フッ酸以外の酸(B)は、リン酸、硝酸、塩酸及び硫酸からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
前記フッ酸以外の酸(B)の濃度は、前記エッチング液の質量に対して10質量%以上50質量%以下である、請求項1又は2に記載のエッチング液。
【請求項4】
前記溶媒(S)は、水を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のエッチング液。
【請求項5】
前記ランガサイト系単結晶は、CaTaGaSi14(CTGS)単結晶である、請求項1~4のいずれか1項に記載のエッチング液。
【請求項6】
ランガサイト系単結晶のエッチング方法であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載のエッチング液をランガサイト系単結晶に接触させることにより、前記ランガサイト系単結晶をエッチングする、エッチング工程を有する、エッチング方法。
【請求項7】
前記エッチング工程における前記ランガサイト系単結晶のエッチングレートは、15μm/時間以上である、請求項6に記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記エッチング工程における前記エッチング液の温度は、0℃以上25℃以下である、請求項7に記載のエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランガサイト系単結晶をエッチングするエッチング液及びエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタ等のSAWデバイスやセンサには、圧電基板が用いられている。このような圧電基板において、電極を埋め込むための領域の形成や、表面のクリーニング等のため、エッチングが行われる場合がある。
【0003】
SAWデバイスやセンサの圧電基板として、ランガサイト系単結晶を用いる技術が開示されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-249697号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ランガサイトの微細エッチング加工,三沢雅芳ら,長野県工技センター研報,No.2,p.P1-P5(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、圧電基板としてランガサイト系単結晶を用いると、エッチングを行う際に、ランガサイトとエッチャントの成分とが反応して表面が変質してしまう場合があるという問題がある。表面が変質すると、例えば、表面が白化する。
また、圧電基板としてランガサイト系単結晶を用いると、エッチングレートが低い場合があるという問題がある。
なお、このような問題は、SAWデバイスやセンサに使用されるランガサイト系単結晶に限らず、その他の圧電デバイスに使用されるランガサイト系単結晶においても同様に存在する。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ランガサイト系単結晶を高いエッチングレートでエッチングすることができ且つエッチングによるランガサイト系単結晶の表面の変質が抑制できるエッチング液及びエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、フッ酸(A)と、フッ酸以外の酸(B)と、溶媒(S)とを含み、フッ酸(A)の濃度がエッチング液の質量に対して0質量%超3.0質量%以下であるエッチング液により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
本発明の第1の態様は、ランガサイト系単結晶をエッチングするエッチング液であって、
フッ酸(A)と、フッ酸以外の酸(B)と、溶媒(S)とを含み、
前記フッ酸(A)の濃度は、前記エッチング液の質量に対して0質量%超3.0質量%以下である、エッチング液である。
【0010】
本発明の第2の態様は、ランガサイト系単結晶のエッチング方法であって、
第1の態様にかかるエッチング液をランガサイト系単結晶に接触させることにより、前記ランガサイト系単結晶をエッチングする、エッチング工程を有する、エッチング方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ランガサイト系単結晶を高いエッチングレートでエッチングすることができ且つエッチングによるランガサイト系単結晶の表面の変質が抑制できるエッチング液及びエッチング方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<エッチング液>
本発明のエッチング液は、ランガサイト系単結晶をエッチングするエッチング液である。そして、エッチング液は、フッ酸(A)と、フッ酸以外の酸(B)と、溶媒(S)とを含み、フッ酸(A)の濃度がエッチング液の質量に対して0質量%超3.0質量%以下である。
【0013】
エッチングの被処理体であるランガサイト系単結晶は、三方晶系の結晶構造であって、ABC14で表されるランガサイト型の結晶構造を有する酸化物単結晶であることが好ましい。当該結晶構造において、Aサイトは10面体(酸素8個)、Bサイトは8面体(酸素6個)、Cサイトは4面体(酸素4個)、Dサイトは小4面体(酸素4個)である。
ランガサイト系単結晶の具体例としては、オーダー型であるCaTaGaSi14(CTGS)、CaNbGaSi14(CNGS)、SrTaGaSi14(STGS)、SrNbGaSi14(SNGS)や、ディスオーダー型であるLaGaSiO14(LGS)、LaGa5.5Ta0.514、LaGa5.5Nb0.514等が挙げられ、好ましくはCaTaGaSi14(CTGS)である。
【0014】
ランガサイト系単結晶は、エッチングがし難いためエッチングレートが低くなる場合がある。また、ランガサイト系単結晶をエッチングする場合、エッチャンの成分とランガサイトとが反応して、ランガサイト系単結晶の表面がしばしば変質により白化したりする。
しかしながら、上記のエッチング液を用いることにより、ランガサイト系単結晶を高いエッチングレートでエッチングすることができ、且つエッチングによるランガサイト系単結晶の表面の変質が抑制できる。
【0015】
エッチングレートは、例えば15μm/時間以上であり、18μm/時間以上、20μm/時間以上や、30μm/時間以上とすることもできる。エッチングレートの上限は特に限定されないが、例えば2000μm/時間以下である。
なお、本明細書において、「エッチングレート」は、エッチング液を用いたエッチング処理により得られたエッチング深さをエッチング処理時間で割った値であり、[エッチング処理の前後のランガサイト系単結晶の質量差]/{[ランガサイト系単結晶の密度]×[ランガサイト系単結晶の面積]×エッチング処理時間}で求めることができる。
【0016】
また、エッチングによるランガサイト系単結晶の表面の変質が抑制されるため、ランガサイト系単結晶の白化、クラックの発生や、表層の剥離等が抑制できる。
【0017】
また、上記のエッチング液を用いることにより、低温、例えば、100℃以下、さらには40℃以下や30℃以下でも、ランガサイト系単結晶を高いエッチングレートでエッチングすることができ、且つエッチングによるランガサイト系単結晶の表面の変質を抑制できる。
ランガサイト系単結晶の耐熱性は低い。このため、高温ではランガサイト系単結晶が変性しやすい。しかし、低温でエッチングすることにより変性を抑制しつつ、ランガサイト系単結晶を高いエッチングレートでエッチングすることができ且つエッチングによるランガサイト系単結晶の表面の変質を抑制できる。
【0018】
エッチング液は、フッ酸(A)を含む。
フッ酸は、フッ化水素(HF)が水に溶解したものであり、フッ化水素酸ともいう。
【0019】
フッ酸(A)の濃度、すなわち、フッ化水素(HF)の濃度は、エッチング液の質量に対して0質量%超3.0質量%以下である。フッ酸(A)の濃度が3.0質量%より高いと、後述する比較例に示すように、白化が生じる。また、フッ酸(A)の濃度が0質量%であると、エッチングレートが低くなる。
フッ酸(A)の濃度は、エッチング液の質量に対して、0.01質量%以上2.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
エッチング液は、フッ酸以外の酸(B)を含む。
エッチング液がフッ酸(A)を含むがフッ酸以外の酸(B)を含まない場合は、後述する比較例に示すように、白化が生じる。
【0021】
フッ酸以外の酸(B)としては、ブレンステッド酸を好適に用いることができる。フッ酸以外の酸(B)は、1種類でも2種類以上でもよい。
フッ酸以外の酸(B)としては、リン酸、硝酸、塩酸、硫酸及び酢酸が挙げられる。フッ酸以外の酸(B)は、リン酸、硝酸、塩酸及び硫酸からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。また、フッ酸以外の酸(B)は、リン酸、硝酸、塩酸及び硫酸からなる群から選択される少なくとも一種と、酢酸とを含むことも好ましい。
【0022】
フッ酸以外の酸(B)の濃度は、特に限定されないが、エッチング液の質量に対して、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上45質量%以下がより好ましい。
【0023】
エッチング液は、溶媒(S)を含む。
溶媒(S)としては、水や、水と混和する有機溶媒が挙げられる。水と混和する有機溶媒は、エッチング液が使用される温度において、水と自由に混和する溶媒であってよいが、水と自由に混和する溶媒でなくてもよい。水と混和する有機溶媒は、エッチング液を調製した際に水と分離しない有機溶媒であれば特に限定されない。
溶媒(S)が水を含む場合、溶媒(S)に含まれる水の量は、特に限定されないが、溶媒(S)の全質量に対して、例えば50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0024】
水と混和する有機溶媒としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、フルフリルアルコール、及び2-メチルー2,4-ペンタンジオール等)、ジメチルスルホキシド、エーテル類(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等)、非プロトン性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ガンマブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、スルホラン等)、エステル類(例えば、乳酸エチル等)、ケトン類(例えば、アセチルアセトン、アセトン等)が挙げられる。
【0025】
溶媒(S)が水と混和する有機溶媒を含む場合、溶媒(S)に含まれる水と混和する有機溶媒の量は、特に限定されないが、溶媒(S)の全質量に対して、例えば0.01質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましく、1質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
エッチング液は、上述した成分以外の成分である、その他の成分を含んでいてもよい。
エッチング液が含んでいてもよいその他の成分としては、界面活性剤、酸化剤、金属防食剤、キレート剤、フッ化アンモニウム等が挙げられる。
【0027】
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及び、両性界面活性剤を用いることができる。
【0028】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレンオキサイドアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリアルキレンオキサイドアルキルエーテル系界面活性剤、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドからなるブロックポリマー系界面活性剤、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェニルエーテル系界面活性剤、ポリアルキレントリベンジルフェニルエーテル系界面活性剤、アセチレンポリアルキレンオキサイド系界面活性剤等が挙げられる。
【0029】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、脂肪酸アミドスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルプロピオン酸、アルキルホスホン酸、脂肪酸及びそれらの塩等が挙げられる。「塩」としてはアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0030】
カチオン界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩系界面活性剤、又はアルキルピリジウム系界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
両性界面活性剤としては、例えば、ベタイン型界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤、イミダゾリン型界面活性剤、アミンオキサイド型界面活性剤等が挙げられる。
これらの界面活性剤は一般に商業的に入手可能である。また、これらの界面活性剤は、1種単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
酸化剤としては、例えば、遷移金属酸化物、過酸化物、セリウム硝酸アンモニウム、硝酸塩、亜硝酸塩、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、過塩素酸塩、過硫酸、過硫酸塩、過酢酸、過酢酸塩、過マンガン酸化合物、重クロム酸化合物等が挙げられる。
【0033】
金属防食剤としては、例えば、ポリエチレンイミンや、チオール、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0034】
エッチング液の製造方法は特に限定されない。典型的には、それぞれ所望する量の、以上説明した必須、又は任意の成分を均一に混合することにより、エッチング液を製造できる。
【0035】
このようなエッチング液を用いることにより、ランガサイト系単結晶を、ランガサイト系単結晶の表面の変質を抑制しつつ、高いエッチングレートでエッチングすることができる。
【0036】
<エッチング方法>
以下説明するエッチング方法は、上述のエッチング液を用いてランガサイト系単結晶をエッチングするランガサイト系単結晶のエッチング方法である。
ランガサイト系単結晶のエッチング方法は、エッチング液をランガサイト系単結晶に接触させることにより、ランガサイト系単結晶をエッチングする、エッチング工程を有する
【0037】
エッチングの被処理体であるランガサイト系単結晶は、上述したとおりである。
【0038】
エッチング工程では、エッチング液をランガサイト系単結晶に接触させる。
エッチング液をランガサイト系単結晶に接触させる方法は特に限定されないが、例えば、エッチング液にランガサイト系単結晶を浸漬する方法や、ランガサイト系単結晶にエッチング液を塗布する方法が挙げられる。
ランガサイト系単結晶の表面の一部にマスクを設けた後に、エッチング液をランガサイト系単結晶に接触させることにより、所望の領域のみをエッチングするようにしてもよい。マスクはエッチング後に剥離すればよい。
【0039】
エッチング液にランガサイト系単結晶を接触させる時間(処理時間)は特に限定されないが、例えば、1分以上20時間以下であり、好ましくは10分以上10時間以下、より好ましくは30分以上3時間以下である。
【0040】
エッチング液の温度(処理温度)は特に限定されないが、例えば、100℃以下であり、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは、0℃以上25℃以下である。ランガサイト系単結晶は、耐熱性が弱く高温になると元素組成が変性しやすいため、エッチング液の温度は低温であることが好ましい。
エッチング液の温度の下限は、エッチング液が凝固せず、所望するエッチングレートでランガサイト系単結晶をエッチングできる限り特に限定されない。エッチング液の温度の下限は、溶媒(S)の種類によって異なるが、典型的には、-5℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましい。
上述のエッチング液を用いることにより、エッチング液を加熱せずに、室温で、ランガサイト系単結晶をエッチングすることもできる。
【0041】
エッチング工程では、ランガサイト系単結晶を高いエッチングレートでエッチングすることができ、且つエッチングによるランガサイト系単結晶の表面の変質が抑制できる。
例えば、エッチングレートは、15μm/時間以上である。エッチングレートは、18μm/時間以上、20μm/時間以上、又は30μm/時間以上であってもよい。エッチングレートの上限は特に限定されないが、例えば2000μm/時間以下である。
また、エッチング工程では、前述のエッチング液を用いることにより、ランガサイト系単結晶における、表面の変質、白化、クラックの発生や表層の剥離等を抑制できる。
【0042】
このため、上述のエッチング方法でランガサイト系単結晶のエッチングを行うことにより、例えば、ランガサイト系単結晶に電極を埋め込むための領域の形成や表面のクリーニング等を短時間で行うことができ、また、エッチング後のランガサイト系単結晶の表面は変質していない又は変質が少ない。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0044】
[実施例1~5及び比較例1~16]
(エッチング液の製造)
表1に記載の種類の酸を、それぞれ括弧内の濃度になるように水と混合して、各実施例及び比較例のエッチング液を得た。表1において、TMAHは、水酸化テトラメチルアンモニウムである。
なお、比較例10では、リン酸濃度43質量%のリン酸水溶液と、KOH濃度4.8質量%のKOH水溶液とをエッチング液として用いた。
【0045】
(ランガサイト系単結晶及び試験片の作製)
特許第6718161号を参照して、ランガサイト系単結晶(CaTaGaSi14(CTGS)単結晶)を得た。
得られたCTGS単結晶を、+X面に沿って切削し、直方体の試験片(クーポン)を得た。試験片は、+X面及び-X面が12mm×10mmの長方形で、+Y面及び-Y面が12mm×0.7mmの長方形で、+Z面及び-Z面が0.7mm×10mmの長方形である、直方体である。
【0046】
(エッチング処理)
得られたエッチング液10gを20ccの容器(プラスチック製のスクリュー瓶)に入れた。試験片を、容器内のエッチング液に、表1に記載される時間浸漬することにより、試験片をエッチングした。
浸漬後、容器から試験片を取出し、純水で洗浄した後、窒素ガスを吹き付けて試験片を乾燥させた。
エッチング液の温度(浸漬温度)及び浸漬時間を、表1に記載する。表1において、RTは、25℃である。
【0047】
比較例1、8及び9では、容器内のエッチング液を加熱してエッチング液の温度を表1に記載の所定温度(浸漬温度)とした。その後、試験片を、容器内の所定温度のエッチング液に、所定温度を維持しながら表1に記載の時間浸漬することにより、試験片をエッチングした。
【0048】
比較例10では、リン酸濃度43質量%のリン酸水溶液10gをエッチング液として用いたエッチングと、KOH濃度4.8質量%のKOH水溶液10gをエッチング液として用いたエッチングとを、この順に行った。具体的には、比較例10では、リン酸濃度43質量%のリン酸水溶液10gを20ccの容器(プラスチック製のスクリュー瓶)に入れた。容器中のリン酸水溶液を加熱してリン酸水溶液の温度を50℃に調整した。その後、試験片を容器内の50℃のリン酸水溶液に、50℃を維持しながら1.0時間浸漬することにより、エッチングを行った。容器から試験片を取出した後、試験片を純水で洗浄し、窒素ガスを吹き付けて試験片を乾燥させた。次いで、乾燥させた試験片を、20ccの容器(プラスチック製のスクリュー瓶)中の、加熱により80℃に温度を調整されたKOH濃度4.8質量%のKOH水溶液10gに、80℃を維持しながら1.0時間浸漬することにより、エッチングを行った。容器から試験片を取出した後、試験片を純水で洗浄し、窒素ガスを吹き付けて試験片を乾燥させた。
【0049】
[エッチングレートの評価]
エッチング処理の前後の試験片の質量差(減少質量)を求めた。また、下記式により、エッチングレート(E.R.)(μm/hour)を求めた。結果を表1に示す。
なお、エッチング処理後の試験片は、実施例1~5のいずれもが、浸漬前の+X面及び-X面の形状(12mm×10mmの長方形)は維持しつつ、Z面の幅が0.7mmよりも小さくなっており、+X面及び-X面がエッチングされていた。
E.R.(μm/hour)=[エッチング処理の前後の試験片の質量差]/{[試験片の密度]×[試験片の+X面の面積]×処理時間}
【0050】
[表面状態の評価]
エッチング処理後の試験片について、目視で、+X面の表面状態を観察した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1~5によれば、フッ酸(A)とフッ酸以外の酸(B)と溶媒(S)とを含み、フッ酸(A)の濃度が0質量%超3.0質量%以下であるエッチング液を用いることにより、ランガサイト系単結晶を、室温で、表面に白化、クラックや表層剥がれが生じることなく、高いエッチングレートでエッチングすることができることが分かる。
【0053】
他方、比較例1~16によれば、フッ酸(A)を含まない場合、フッ酸(A)の濃度が3.0質量%を超える場合や、フッ酸以外の酸(B)を含まない場合は、エッチングレートが低くエッチングが不十分であるか、又は、表面状態が悪い(表面白化や、クラックが生じる)ことが分かる。なお、比較例5は白化した表層が剥がれ落ちて結晶本来の透明面が露出していた。