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特開2023-18795電解精製方法およびカソードの矯正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018795
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】電解精製方法およびカソードの矯正方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/02 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
C25C7/02 304
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123072
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 範幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】竹中 和己
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA04
4K058BA21
4K058BB03
4K058CA04
4K058EB02
(57)【要約】
【課題】電解精製を実施した際に外観が良好な電気銅を得ることができる電解精製方法およびかかる電解精製方法に適したカソードを作製できるカソードの矯正方法を提供する。
【解決手段】複数のカソードCと複数のアノードAとを交互に並ぶように電解槽EBに懸架した状態で、複数のカソードCと複数のアノードAとの間に電流を流して電解精製する方法に使用されるカソードを矯正する方法であって、カソードCをカソードビームBによって懸架したときにおける鉛直方向に対する種板Sの表面の傾きであるカソード傾斜量XとアノードAを一対の肩部AS,ASによって懸架したときの鉛直方向に対する胴部ABの表面の傾きであるアノード傾斜量Yとの差が、一定の範囲になるようにカソードCの形状を調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカソードと複数のアノードとを交互に並ぶように電解槽に懸架した状態で、複数のカソードと複数のアノードとの間に電流を流して電解精製する方法に使用されるカソードを矯正する方法であって、
前記カソードをカソードビームによって懸架したときにおける鉛直方向に対する種板の表面の傾きであるカソード傾斜量と前記アノードを一対の肩部によって懸架したときの鉛直方向に対する胴部の表面の傾きであるアノード傾斜量との差が、一定の範囲になるように前記カソードの形状を調整する
ことを特徴とするカソードの矯正方法。
【請求項2】
前記カソードのカソード傾斜量を、該カソードをカソードビームによって懸架したときにおけるカソードビームの中心軸と種板の下端縁との水平方向の距離として定義し、
前記アノードのアノード傾斜量を、該アノードを一対の肩部によって懸架したときにおけるアノードの上端縁とアノードの下端縁との水平方向の距離として定義し、
前記カソード傾斜量と前記アノード傾斜量の差が、+2mm~-2mmとなるように前記カソードの形状を調整する
ことを特徴とする請求項1記載のカソードの矯正方法。
【請求項3】
前記アノードのアノード傾斜量が、測定錘と、該測定錘が一端に取り付けられた該測定錘を吊り下げる吊り下げ手段と、を有するアノード傾斜量測定器を用いて測定されたものであり、
前記アノードを一対の肩部によって懸架したときにおける胴部の表面の下端縁に前記吊り下げ手段を接触させた状態で、前記吊り下げ手段から前記アノードの表面の上端縁までの水平距離を前記アノード傾斜量として測定する、または、前記アノードを一対の肩部によって懸架したときにおける胴部の背面の上端縁に前記吊り下げ手段を接触させた状態で前記測定錘と前記アノードとの重なりに基づいて前記アノード傾斜量を推定する
ことを特徴とする請求項2に記載のカソードの矯正方法。
【請求項4】
前記カソードのカソード傾斜量を、前記カソードの種板および/または前記カソードを形成する前の種板を変形することによって調整する
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のカソードの矯正方法。
【請求項5】
前記カソードのカソード傾斜量を、前記カソードの吊り手を変形することによって調整する
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載のカソードの矯正方法。
【請求項6】
複数のカソードと複数のアノードとを交互に並ぶように電解槽に懸架した状態で、複数のカソードと複数のアノードとの間に電流を流して電解精製する方法であって、
前記カソードを前記電解槽に懸架したときにおける鉛直方向に対する種板の表面の傾きを、前記アノードを前記電解槽に懸架したときの鉛直方向に対する胴部の表面の傾きにあわせる
ことを特徴とする電解精製方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載のカソードの矯正方法によって前記カソードの形状を調整し、形状が調整されたカソードを使用して電解精製を行う
ことを特徴とする請求項6記載の電解精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解精製方法およびカソードの矯正方法に関する。さらに詳しくは、非鉄金属などの電解精製工程において採用される電解精製方法およびかかる電解精製方法に使用されるカソードを矯正するカソードの矯正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の電解精製あるいは電解採取に代表される金属電解においては、アノードとなる母板(粗金属板)とカソードとを交互に並べて電解槽に装入して電解操業を行っている。例えば、銅の電解精製であれば、カソードと精製粗銅鋳造アノードとを電解槽に交互に並ぶように装入して通電する。すると、電解の進行につれアノードから銅が溶け出し、この溶け出した銅がカソード上に電着して製品となる電気銅が得られる。
【0003】
図9(C)、(D)に示すように、電解精製に使用されるアノードAは、略矩形平板状の胴部ABと、胴部ABの上端部から左右に突出する一対の肩部AS,ASと、から構成されている。電解槽EB(図1参照)は、対向する一対の槽壁の上面に細長の板状導電体であるブスバーBBがそれぞれ設けられており、アノードAは、一対の肩部AS,ASをそれぞれブスバーBB上に懸架することによって電解槽EB内に吊り下げられている。具体的には、アノードAの一方の肩部ASは絶縁板IBを介してブスバーBB上に載置されており、アノードAの他方の肩部ASはブスバーBBの凸状部pの上に直接載置されている(図1参照)。
【0004】
一方、図9(A)、(B)に示すように、カソードCは、略矩形平板状の種板Sと、種板Sの上端部に設けられたループ状の吊り手shと、吊り手shに挿通されたカソードビームBと、から構成されている。かかるカソードCは、吊り手shに挿通させたカソードビームBの両端部をそれぞれブスバーBB上に懸架することによって電解槽EB内に吊り下げられている(図1参照)。
【0005】
このようなアノードAとカソードCとを使用する金属電解においては、生産性向上のため、アノードAとカソードCは可及的に小さい間隔をもって電解槽EB内に装入され、また不利益を生じない限り高い電流密度において電解される。かかる状態を維持するには、アノードAの傾きとカソードCの傾きとが一致することが望ましい。具体的には、電解槽EBに懸架された状態において、鉛直面に対するアノードAの表面の傾きと、鉛直面に対するカソードCの種板Sの表面の傾きと、が一致することが望ましい。そのため、表面が鉛直に近い状態でアノードAが電解槽EBに懸架されていることを前提として、カソードCは、カソードビームBの両端部をそれぞれ電解槽EBに懸架した状態で種板Sの表面(電着面)が鉛直に近づくように形状が整えられる。
【0006】
ところで、銅の電解精製に使用されるアノードAは、精製炉から抜き出される熔体状の粗銅を鋳型に流し込み、冷却後に鋳型から取り出すことで作製される。アノードAの作製に使用される鋳型は、アノードAにおける一対の肩部AS,ASを形成する部分の深さが、胴部ABを形成する部分の深さよりも浅くなっている。つまり、鋳型は、鋳造されたアノードAにおいて、胴部ABの厚さよりも一対の肩部AS,ASの厚さが薄くなるように形成されている(図9(D)参照)。
【0007】
このため、鋳造後に鋳型から取り出したアノードAは、粗銅熔体の湯面側の面(つまり開放面、以下表面という場合がある)は平坦な面になっているのに対して、その反対側の鋳型側の面(つまり鋳型と接する面、以下背面という場合がある)は一対の肩部AS,ASの背面が胴部ABの背面よりも表面側に位置するように段差が形成されている。すると、アノードAの重心は胴部ABの厚み方向の中央部に位置しているので、表面が鉛直になるように一対の肩部AS,ASでアノードAを懸架した場合には、アノードAの重心は一対の肩部AS,ASの厚み方向の中央部よりも背面側に位置することになる。したがって、鋳造されたままのアノードAを加工せずに一対の肩部AS,ASによって電解槽EBに懸架すると、アノードAは、その重心が一対の肩部AS,ASと電解槽EBとの接触点を含む鉛直面上に位置するように傾いた状態、つまり、表面側に傾いた状態になる。
【0008】
上述したように、カソードCは、電解槽EBに懸架したときに種板Sの表面が鉛直に近づくように形状が整えられるので、アノードAが傾いた状態でたきードAは電解槽EBに懸架されていれば、カソードCをたきードAは電解槽EBに懸架したときに、アノードAとカソードCとの距離が不均一となる。つまり、カソードCの種板Sの上部とアノードAとの距離が、カソードCの種板Sの下部とアノードAとの距離よりも長くなる。すると、電解槽EB内のアノードAとカソードCとの間に流れる電流にばらつきを生じて、カソードCの表面に電着される電気銅の外観が悪化するという問題が生じる。
【0009】
そこで、電解槽EBに懸架した状態においてアノードAの表面が鉛直方向に対して傾くことを防ぐため、胴部ABの形状を必要に応じて矯正したり、一対の肩部AS,ASを変形したりすることが行われている。また、鋳造後のアノードAの表面には離型剤が付着していたり表面の粗度が粗かったりするため、電解槽EBのブスバーBBと接触する一対の肩部AS,ASの下面を研磨することも行われており、この研磨によってアノードAの表面の傾きを防止することも行われている。しかし、かかる矯正等を行っても、電解槽EBにアノードAを懸架したときに、鉛直方向に対してアノードAの表面が傾くことを防ぐことは難しい。
【0010】
アノードの表面の鉛直方向に対する傾きを調整する方法として、特許文献1に開示された方法がある。特許文献1には、アノードの耳部(肩部)の下面と電解槽の槽壁上に設けられた板状導電体(ブスバー)の上の絶縁板との間に調整具を差し込んでアノードの垂直性を調整する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2018-12870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1の方法では、調整対象となる全てのアノードに調整具を設置する場合には、調整対象となるアノードの数が多くなることを想定して、相当量の調整具を事前に準備しておかなければならない。
【0013】
また、調整対象となるアノードが数多くある場合、調整対象となる全てのアノードと絶縁板との間に調整具を設置するには多大な時間と労力を要する。このため、実際の操業では、時間等の制約から、調整対象となる全てのアノードに調整具を設置することは難しい。すると、調整具を設置できなかったアノードと隣接するカソードの表面に電着した金属は外観が悪くなる。
【0014】
以上のように、電解槽EBに懸架した状態で、アノードAとカソードCの傾きを一致させる方法が種々用いられているが、両者の傾きをより適切に一致させる方法や両者の傾きをより適切に一致させた状態で電解精製を実施する方法が求められている。
【0015】
本発明は上記事情に鑑み、電解精製を実施した際に外観が良好な電気銅を得ることができる電解精製方法およびかかる電解精製方法に適したカソードを作製できるカソードの矯正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
<カソードの矯正方法>
第1発明のカソードの矯正方法は、複数のカソードと複数のアノードとを交互に並ぶように電解槽に懸架した状態で、複数のカソードと複数のアノードとの間に電流を流して電解精製する方法に使用されるカソードを矯正する方法であって、前記カソードをカソードビームによって懸架したときにおける鉛直方向に対する種板の表面の傾きであるカソード傾斜量と前記アノードを一対の肩部によって懸架したときの鉛直方向に対する胴部の表面の傾きであるアノード傾斜量との差が、一定の範囲になるように前記カソードの形状を調整することを特徴とする。
第2発明のカソードの矯正方法は、第1発明において、前記カソードのカソード傾斜量を、該カソードをカソードビームによって懸架したときにおけるカソードビームの中心軸と種板の下端縁との水平方向の距離として定義し、前記アノードのアノード傾斜量を、該アノードを一対の肩部によって懸架したときにおけるアノードの上端縁とアノードの下端縁との水平方向の距離として定義し、前記カソード傾斜量と前記アノード傾斜量の差が、+2mm~-2mmとなるように前記カソードの形状を調整することを特徴とする。
第3発明のカソードの矯正方法は、第2発明において、前前記アノードのアノード傾斜量が、測定錘と、該測定錘が一端に取り付けられた該測定錘を吊り下げる吊り下げ手段と、を有するアノード傾斜量測定器を用いて測定されたものであり、前記アノードを一対の肩部によって懸架したときにおける胴部の表面の下端縁に前記吊り下げ手段を接触させた状態で、前記吊り下げ手段から前記アノードの表面の上端縁までの水平距離を前記アノード傾斜量として測定する、または、前記アノードを一対の肩部によって懸架したときにおける胴部の背面の上端縁に前記吊り下げ手段を接触させた状態で前記測定錘と前記アノードとの重なりに基づいて前記アノード傾斜量を推定することを特徴とする。
第4発明のカソードの矯正方法は、第1、第2または第3発明のいずれかにおいて、前記カソードのカソード傾斜量を、前記カソードの種板および/または前記カソードを作製する前の種板を変形することによって調整することを特徴とする。
第5発明のカソードの矯正方法は、第1、第2、第3または第4発明のいずれかにおいて、前記カソードのカソード傾斜量を、前記カソードの吊り手を変形することによって調整することを特徴とする。
<電解精製方法>
第5発明の電解精製方法は、複数のカソードと複数のアノードとを交互に並ぶように電解槽に懸架した状態で、複数のカソードと複数のアノードとの間に電流を流して電解精製する方法であって、前記カソードを前記電解槽に懸架したときにおける鉛直方向に対する種板の表面の傾きを、前記アノードを前記電解槽に懸架したときの鉛直方向に対する胴部の表面の傾きにあわせることを特徴とする。
第6発明の電解精製方法は、第1から第5発明のいずれかのカソードの矯正方法によって前記カソードの形状を調整し、形状が調整されたカソードを使用して電解精製を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
<カソードの矯正方法>
第1、第2発明によれば、電解槽に懸架された状態のアノードが鉛直方向に対して傾いていても、電解精製した際にカソード上に電着した金属の外観を良好にすることができる。
第3発明によれば、アノードのアノード傾斜量を適切に把握できるので、カソードの傾き調整を適切に行うことができる。
第4、第5発明によれば、カソードの傾き調整を適切かつ容易に行うことができる。
<カソードの矯正方法>
第6、第7発明によれば、電解槽に懸架された状態のアノードが鉛直方向に対して傾いていても、電解精製した際にカソード上に電着した金属の外観を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の電解精製方法において、電解槽EBに装入された状態のアノードAとカソードCの概略説明図であって、(A)は(B)のA-A線断面矢視図であり、(B)は(A)のB-B線断面矢視図である。
図2】本実施形態のカソード仕上げ機1における吊り手形成部20の概略説明図であり、(A)は図3(A)のIIA-IIA線断面矢視図であり、(B)は図3(B)のIIB-IIB線断面矢視図である。
図3】(A)は図2(A)のIIIA-IIIA線断面矢視図であり、(B)は図2(B)のIIIB-IIIB線断面矢視図である。
図4】(A)~(E)は吊り手形成部20の作動状態の説明図であり、(F)はカソードCをカソードビームBによって吊り下げた状態の概略説明図である。
図5】(A)はカソード仕上げ機1の概略説明図であり、(B)は内部応力除去部2のレベラーの概略説明図である。
図6】(A)はカソード仕上げ機1の溝つけ部10に採用される溝つけローラー対11~13の一例を示した図であり、(B)はカソード仕上げ機1によって溝gが形成された種板Sの概略平面図であり、(C)は溝つけローラー対11~13の鍔部15~17の概略説明図である。
図7】アノード傾斜量測定器50によるアノード傾斜量Yを測定する作業の概略説明図である。
図8】アノード傾斜量測定器50の測定錘51の概略説明図であり、(A)は測定錘51を上方から見た図であり、(B)は測定錘51の側面図である。
図9】(A)、(B)はカソードCの概略説明図であり、(C)、(D)はアノードAの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のカソードの矯正方法は、アノードが鉛直方向に対して傾いている場合であっても、電解精製した際にカソードの表面に電着する金属の表面性状を良好な状態とすることができるようカソードを矯正することに特徴を有している。
【0020】
本発明のカソードの矯正方法は、電解精製による電気銅の製造に使用されるカソードの矯正に適しているが、本発明のカソードの製造方法によって製造されるカソードはかかるカソードに限られない。例えば、電気ニッケル電解製錬による電気ニッケルの製造に使用されるカソード等のように、アノードとの距離を適切に維持することが求められるカソードの形状を調整する方法として、本発明のカソードの矯正方法を使用することができる。
【0021】
<アノードA>
本実施形態のカソードの矯正方法では、アノードAの傾きに基づいてカソードCを矯正する。そこで、カソードの矯正方法によってカソードCを矯正する基準となる、アノードAの傾き(以下、アノード傾斜量Yという場合がある)およびアノード傾斜量Yの測定方法について説明する。
【0022】
図9に示すように、アノードAは、表面視で略四角形に形成された胴部ABと、この胴部ABの上端に設けられた一対の肩部AS,ASと、を備えている。一対の肩部AS,ASは、胴部ABの幅方向の両端部にそれぞれ設けられており、その先端が胴部ABの側端から突出している。この一対の肩部AS,ASは、その厚さが胴部ABの厚さよりも薄くなっており、その表面は胴部ABの表面とほぼ同一平面になるが、その背面は胴部ABの背面との間に段差ができるように形成されている。
【0023】
かかる形状であるので、一対の肩部AS,ASを電解槽EBの電極(ブスバーBB)に引っ掛ければ、アノードAが電解槽EBに懸垂された状態とすることができ、その状態で胴部ABを電解槽中の電解液に浸漬することができる(図1参照)。しかも、アノードAを電解槽EBに懸架すると、アノードAは、その重心が一対の肩部AS,ASと電解槽EBとの接触点を含む鉛直面上に位置するように傾いた状態、つまり、表面側に傾いた状態になる。
【0024】
なお、アノードAの大きさはとくに限定されない。アノードAの大きさは、例えば、胴部ABは、高さが1000~1100mm、横幅が約1000~1100mm、厚さが約35~50mmとなるように形成することができる。また、各肩部ASは、アノードAを吊り下げたときに重量を支えることができる大きさであればよい。つまり、肩部ASは、アノードAを電解槽EBに懸架することができる大きさや強度を有していればよい。例えば、肩部ASは、その長さ、つまり、胴部ABの幅方向と平行な方向の長さが約150~250mm、その幅、つまり、胴部ABの高さ方向と平行な方向の長さが約50~150mm、となるように形成することができる。各肩部ASの厚さは、胴部ABが上述したような大きさに形成され、肩部ASの長さや幅が上述したよう長さに形成される場合であれば、約30~45mmとなるように形成することが望ましい。各肩部ASの厚さが30mmより薄くなると、アノードAを電解槽EBに懸架したときに強度が不足する懸念がある。一方、各肩部ASの厚さが45mmより厚くなると肩部ASとカソードビームBとの間隔が狭まることにより接触の懸念がある。したがって、胴部ABが上述したような大きさに形成されその長さやその幅が上述したよう長さに形成される場合であれば、各肩部ASの厚さは、約30~45mmとなるように形成することが望ましい。
【0025】
<アノード傾斜量Yの測定>
上述したように、アノードAを電解槽EBのブスバーBB上に懸架すると、アノードAの胴部ABの表面が鉛直方向に対して傾く(図7参照)。本実施形態のカソードの矯正方法では、このアノードAの胴部ABの表面の鉛直方向に対する傾き(以下単にアノードAの傾きという場合がある)を測定し、この傾きに基づいて、カソードCを矯正する。
【0026】
本実施形態のカソードの矯正方法では、アノードAの傾きは、アノードAの上端部と下端部の位置のズレとして定義する。具体的には、図7(A)に示すように、アノードAの肩部ASの表面側の上端とアノードAの胴部ABの表面側の下端との水平方向の距離Y(以下ではアノード傾斜量Yという場合がある)として定義する。
【0027】
<アノード傾斜量測定器50>
アノード傾斜量Yは、図7に示すアノード傾斜量測定器50によって測定することができる。
【0028】
図7に示すように、アノード傾斜量測定器50は、測定錘51と、測定錘51を吊り下げる吊り下げ手段である吊り紐55と、から構成されている。
【0029】
吊り紐55は、一端に測定錘51が取り付けられた一般的な紐状の部材(例えばワイヤーやチェーン、ナイロン糸等)であり、他端を保持すると吊り紐55が鉛直方向に伸びた状態となるように測定錘51を吊り下げることができるものである。
【0030】
図8(B)に示すように、測定錘51は、その中心軸上の上端部に吊り紐55の一端が取り付けられており、吊り紐55の他端を保持して吊り下げると、吊り紐55の軸方向と中心軸51aとがほぼ同軸となるような形状に形成されている。ここでいうほぼ同軸とは、吊り紐55の軸方向と測定錘51の中心軸51aとが完全に同軸になる場合と、両者間に若干の傾き(例えば、0から0.5度程度の傾き)がある場合とを含んでいる。
【0031】
この測定錘51の上部には、アノード傾斜量Yを測定するための測定部52を有している。この測定部52は、中心軸51aと交差する断面が、中心軸51a上に中心を有する円形断面に形成されている(図8(A))。しかも、測定錘51の上端から下方に向かって断面の半径が大きくなるように測定部52は形成されている。そして、測定部52には、中心軸51a方向の各位置の半径を人が把握できるように、その表面に半径を示すマークが設けられている。例えば、図8に示すように、測定部52の側面が階段状になっている場合、つまり、測定部52が複数の円筒を下方から上方に向かって順に半径(外径)が小さくなるように積み重ねたような形状を有している場合には、各段の上面(つまり円筒の上面)を直径に応じて色分けする。すると、測定錘51の上端側から人が測定部52を見たときに、色によってその位置の半径が何mm~何mmの間であるか、言い換えれば、その位置は、測定部52の中心軸51aから何mm~何mm離れているかを把握することができる。例えば、外径6mmの段の上面を青色に着色し、その段の上段の外径4mmの段の上面を赤色に着色する。すると、青色の部分に物体があれば、その物体は、測定部52の中心軸51aから4mm~6mmの距離にあることが把握でき、測定部52の半径方向において青色の領域のほぼ中間にあれば、その物体は、測定部52の中心軸51aから約5mmの距離にあることが把握できる。
【0032】
もちろん、測定部52は円錐状に形成されていてもよい。この場合には、測定部52の側面に所定の間隔で中心軸51a上に中心を有する円を描き、隣接する円の間を円の半径によって色分けする。この場合も、測定錘51の上端側から人が測定部52を見たときに、色によってその位置の半径が何mm~何mmの間であるかを把握することができる。例えば、半径4mmの円と半径6mmの円との間の領域を青色に着色すれば、青色の部分に物体があれば、その物体は、測定部52の中心軸51aから4mm~6mmの距離にあることが把握できる。
【0033】
なお、測定錘51の下部は、測定錘51の姿勢を安定させることができる構造となっていればよく、その形状はとくに限定されない。つまり、吊り紐55によって測定錘51を吊り下げた状態において、吊り紐55の軸方向と測定錘51の中心軸51aとがほぼ同軸となるように測定錘51の下部は形成されていればよい。例えば、測定錘51の中心軸51aを中心軸とする下方に頂点を有する円錐状に測定錘51の下部を形成してもよい。
【0034】
<アノード傾斜量測定器50によるアノード傾斜量Yの測定>
上述したアノード傾斜量測定器50を使用したアノード傾斜量Yの測定は、以下の方法で実施することができる。
【0035】
図7(A)に示すように、アノード傾斜量Yを測定するアノードAを一対の肩部AS,ASによって懸架する。また、吊り紐55の他端部を保持して測定錘51を吊り下げて、吊り紐55の一端部(図7(A)では下端部)をアノードAの胴部ABの表面の下端縁に接触させる。このとき、吊り紐55がアノードAの胴部ABの表面の下端縁の位置で折れ曲がることが無いようにする。この状態で吊り紐55の他端部とアノードAの上端縁、つまり、吊り紐55の他端部とアノードAの肩部ASの上端縁との水平方向の距離を測定すれば、アノード傾斜量Yを測定することができる。
【0036】
なお、アノード傾斜量Yは、アノードAの肩部ASの表面側の上端縁とアノードAの胴部ABの表面側の下端縁との水平方向の距離Yを測定して求めればよく、上述したアノード傾斜量測定器50を使用する方法にかぎられない。しかし、上述したアノード傾斜量測定器50を使用する方法でアノードAの傾きを測定すれば、アノード傾斜量Yを短時間で測定ができる点で好ましい。
【0037】
また、アノード傾斜量Yは、アノードAの胴部ABの裏面側で測定した測定値YOを用いて推定してもよい。この場合には、以下の方法でアノード傾斜量Yを推定する。
【0038】
測定値YOは、以下の方法で測定することができる。
図7(B)に示すように、アノード傾斜量Yを測定するアノードAを一対の肩部AS,ASによって懸架する。また、吊り紐55の他端を保持して測定錘51を吊り下げて、吊り紐55の他端部をアノードAの胴部ABの背面における上端縁に接触させる。このとき、吊り紐55がアノードAの胴部ABの背面における上端縁の位置で折れ曲がることが無いようにする。この状態から、測定錘51を、アノードAの胴部ABの背面(つまりアノードAの胴部ABの背面の下端縁)に測定錘51の外周縁(測定部52の外周縁、測定部52が階段状の場合には円筒の上面)が接触するまで鉛直方向に引き上げる。そして、アノードAの胴部ABの背面に測定錘51の外周縁が接触した状態で、アノードAの胴部ABの背面に沿った方向から測定錘51を視認し、測定錘51の測定部52とアノードAの重なりを確認する。つまり、測定錘51の測定部52において、アノードAによって隠れている部分、逆に言えば見えている部分を確認する。そして、測定錘51の測定部52においてアノードAの胴部ABの背面の下端縁が、測定部52のどの位置にあるかによって、水平方向における吊り紐55からアノードAの胴部ABの背面の下端縁までの距離YOを求めることができる。ここで求めた距離YOは、アノードAの肩部ASの表面側の上端縁とアノードAの胴部ABの表面側の下端縁との水平方向の距離Y、つまり、アノード傾斜量Yに相当するものとして取り扱うことができる。
【0039】
<カソードC>
本実施形態のカソードの矯正方法では、上述したアノード傾斜量Yに基づいて、カソードCの形状、具体的には、カソードCの傾き(以下、カソード傾斜量Xという場合がある)が調整される。まず、本実施形態のカソードの矯正方法によって傾きが調整されるカソードCの概略を説明する。
【0040】
図9(A)、(B)に示すように、カソードCは、種板Sを吊り手shでカソードビームBから吊り下げたものである。このため、カソードビームBを電解槽EBの電極(ブスバーBB)に引っ掛ければ、カソードCを電解槽EBに懸垂された状態とすることができ、その状態で種板Sを電解槽EB中の電解液に浸漬することができる(図1参照)。
【0041】
カソードの種板Sは、例えば、縦幅が約1000~1100mm、横幅が約1000~1100mm、厚さが約0.6~1.0mmの金属板である。ここで、種板Sの縦幅は、アノードAの胴部ABの高さよりも大きくすることが好ましく、種板Sの横幅は、アノードAの胴部ABの横幅よりも大きくすることが好ましい。これにより、種板Sの周縁に電流が集中し、この周縁において局部的に電着速度が増加することを防止でき、アノードAとカソードCとが接触するリスクを低減できる。
また、電気銅の製造に使用される場合には、カソードの種板Sには、純度が99.99%の電気銅が使用される。この種板Sには、その上下方向(カソードCを吊り下げたときに鉛直方向となる方向、図6(B)では上下方向)に沿って延びる溝gが複数本形成されている。この複数本の溝gは、後述するカソード仕上げ機1によって形成される。この複数本の溝gを形成することによって、カソードCの種板Sの幅方向(上下方向と交差する方向、図6(B)では左右方向)における種板Sの凹凸が小さくなり、カソード歪を抑制することができる。
【0042】
また、吊り手shは、電気銅の電着後において、カソードCの懸架状態を安定的に維持することができればよく、その大きさや素材はとくに限定されない。例えば、幅75~105mm、厚さ0.6~1.0mmの金属板で吊り手shを形成することができる。電気銅の製造に使用される場合には、吊り手shとなる金属板には、純度が99.99%の電気銅を使用することが望ましい。
【0043】
カソードビームは、例えば、断面四角形(24mm×42mm)の金属棒であり、電気銅の製造に使用される場合には、鉄で作成された軸材の表面(軸方向と平行な側面)が銅で覆われた棒材が使用される。かかる棒材を使用することによって、カソードCを懸架するために必要な強度と優れた導電性とを両立できる。
【0044】
かかるカソードCは、後述するカソード仕上げ機1によって製造される。例えば、図示しない種板電解工程において製造された種板Sを収容した種板パレットをカソード仕上げ機1の供給口に移送すれば、種板Sに吊り手shとカソードビームBとが取り付けられた状態のカソードCが製造される。
【0045】
ここで、種板電解工程とは、例えば、電気銅を製造する場合であれば、純度が99.99%の電気銅の種板を得る工程を意味している。この種板電解工程では、純度98%程度の粗銅であるアノード(陽極)とステンレス製やチタン製の母板(陰極)とを、電解液を満たした電解槽に交互に供給した状態で種板の製造が実施される。この状態で、電解槽に対する電解液の給液を行いつつ、例えば、電流密度250A/m程度となるように両電極間に電流を供給すれば、純度が99.99%の電気銅の種板を得ることができる。この種板電解工程で使用される電解液はとくに限定されないが、例えば、膠、アビトン等が添加された銅の硫酸溶液が好ましい。
【0046】
<カソードCのカソード傾斜量Xの測定>
本実施形態のカソードの矯正方法では、カソードCの傾きは、カソードCをカソードビームBによって懸架したときにおけるカソードビームBの中心軸とカソードCの種板Sの下端縁の位置のズレとして定義する。具体的には、図9(A)に示すように、カソードCをカソードビームBによって懸架したときにおけるカソードビームBの中心軸とカソードCの種板Sの下端縁との水平方向の距離X(以下ではカソード傾斜量Xという場合がある)として定義する。
【0047】
本実施形態のカソードの矯正方法において、カソード傾斜量Xの測定方法はとくに限定されないが、電解用極版の平坦度測定装置(特開平7-190744に開示されている測定装置)で測定することができる。具体的には、カソードビームBによってカソードCを懸架した状態で、センサーによってカソードビームBの位置とカソードCの種板Sの下端縁の位置とで測定された値(センサーから各位置までの水平方向の距離)を用いてカソード傾斜量Xを算出することができる。
【0048】
なお、カソード傾斜量Xを測定する方法はとくに限定されない。カソードビームBによってカソードCを懸架した状態において、水平方向におけるカソードビームBの位置とカソードCの種板Sの下端縁の位置の差、つまり、水平方向におけるカソードビームBの中心軸(またはカソードビームBの表面)とカソードCの種板Sの下端との距離の差を測定できる方法であれば、カソード傾斜量Xを測定する方法として採用することができる。
【0049】
<傾斜量差>
本実施形態のカソードの矯正方法では、カソード傾斜量Xとアノード傾斜量Yとが一定の範囲内に入るようにカソードCを矯正する。具体的には、カソード傾斜量Xとアノード傾斜量Yの差(以下傾斜量差Zという場合がある)が一定の範囲内に入るようにカソードCを矯正する。すると、傾斜量差Zが一定の範囲内に入るカソードCとアノードAとを使用した場合には、電解槽EBに懸架された状態のアノードAの胴部ABの表面が鉛直方向に対して傾いていても、電解精製した際にカソードCの種板Sの表面に電着した金属の外観を良好にすることができる。
【0050】
例えば、アノードAが、胴部ABの高さが1090mm、胴部ABの横幅が1015mm、胴部ABの厚さが35~50mm、肩部ASの幅が約50~150mm、肩部ASの厚さが約30~45mmであるとする。この場合、カソードCの種板Sが縦1050mm×横1070mm×厚さ0.6~1.0mmであれば、傾斜量差Zが+2mm~-2mmとなるようにカソードCの形状を調整する。このようなアノードAとカソードCとを使用すれば、電解槽EBに懸架された状態のアノードAの胴部ABの表面が鉛直方向に対して傾いていても、電解精製した際にカソードCの種板Sの表面に電着した金属の外観を良好にすることができる。
【0051】
<本実施形態の電解精製方法>
以下では、本実施形態の電解精製方法について説明する。
本実施形態の電解精製方法は、複数のカソードCと複数のアノードAとが交互に並ぶように電解槽EBに懸架した状態で、複数のカソードCと複数のアノードAとの間に電流を流して電解精製する方法である。そして、本実施形態の電解精製方法を採用すれば、電解槽EBに懸架された状態のアノードAが鉛直方向に対して傾いている状態でも、電解精製した際にカソードCの種板Sの表面に電着した金属の外観を良好にすることができる。
【0052】
具体的には、本実施形態の電解精製方法では、隣接するカソードCの種板Sの表面の傾きとアノードAの胴部ABの表面の傾きとを合わせる。つまり、一対の肩部AS,ASによって電解槽EBのブスバーBB上に懸架された状態で、アノードAの表面が鉛直方向に対して傾いているとする。この場合、表面が鉛直方向に対して傾いているアノードA(以下傾斜アノードAという)の表面の傾きに、隣接するカソードCの種板Sの表面の傾きを合せる。つまり、傾斜アノードAの表面とこの傾斜アノードAと隣接するカソードCの種板Sの表面との傾斜量差Zが、一定の範囲になるように隣接するカソードCの形状を調整する。
【0053】
このように、傾斜アノードAの表面との傾斜量差Zが一定の範囲になるように形状を調整したカソードCを使用して電解精製を実施すれば、傾斜アノードAとこの傾斜アノードAと隣接するカソードCとの間に流れる電流のばらつきを抑えることができるので、隣接するカソードCの表面に電着される金属の外観が悪化することを防止することができる。
【0054】
例えば、上述したように、傾斜アノードAとの傾斜量差Zが一定の範囲内に形状が調整されたカソードCを傾斜アノードAに隣接するように電解槽EBに装入して電解精製を実施すれば、カソードCの表面に電着される金属の外観が悪化することを防止することができる。
【0055】
<カソード仕上げ機1>
本実施形態のカソード矯正方法では、カソード仕上げ機1においてカソードCを製造する際に、上述したアノードAのアノード傾斜量Yに基づいて、カソードCを矯正してもよい。以下では、カソードCの矯正に使用されるカソード仕上げ機1の一例を説明する。
【0056】
図5(A)に示すように、カソード仕上げ機1は、厚さ測定部、内部応力除去部2、溝付け部10、吊り手形成部20を備えている。このカソード仕上げ機1では、作製されたカソードCのカソード傾斜量Xとアノード傾斜量Yとの傾斜量差Zが所定の範囲になるように、内部応力除去部2においてカソードCの種板Sを変形させる機能を有している。
【0057】
なお、図5(A)では、厚さ測定部は記載を省略している。
また、カソード仕上げ機1は、上記以外にも、種板の裁断、表面付着物の除去、カソード歪の測定などを行う機能を有していてもよい。
さらに、カソード仕上げ機1には、溝付け部10は必ずしも設けなくてもよい。溝付け部10を設ければ、内部応力除去部2による種板Sの内部応力の除去や種板Sの歪除去に加えて、溝付け部10でも種板Sの歪を除去することができる。
【0058】
カソード仕上げ機1には、高純度の金属板を所定の寸法(例えば、縦幅約1000~1100mm、横幅が約1000~1100mm)に裁断などの加工が施された種板Sと、金属板を所定の寸法(例えば、縦約100mm×横約30mm)に加工した吊り手shとなる板状の部材PRと、が供給される。
【0059】
なお、高純度の金属板を裁断して所定の寸法の種板Sや板状の部材PRを作製する方法は、バリが少なく平滑な板となった種板Sや板状の部材PRが得られる方法であればよく、とくに限定されない。
【0060】
<厚さ測定部>
厚さ測定部は、内部応力除去部2へ供給する種板Sの厚さを測定するものである。厚さ測定部を設ければ、所定の範囲の厚さから外れた種板Sを検出することができるので、その種板Sを、内部応力除去部2等に供給する前に予め除去しておくことができる。また、厚さ測定部を設けて種板Sの厚さを測定すれば、その測定値を、溝付け部10における各溝付けローラー対11~13の鍔部15~17同士の隙間(クリアランスCL、図6(C)参照)の調整に利用することもできる。
【0061】
厚さ測定部が種板Sの厚さを測定する方法はとくに限定されない。例えば、ノギスによって種板Sの厚さを直接測定してもよいし、レーザー光、放射線、超音波等を使用した機器によって非接触で厚さを測定してもよい。レーザー変位計などのレーザー光等を使用した機器によって種板Sの厚さを測定する場合には、種板Sの板厚方向において対向する位置に機器を設置し、種板Sの表面までの距離を種板Sの板厚方向(例えば上下方向)から測定することによって、種板Sの厚さを求めることができる。
【0062】
<内部応力除去部2>
内部応力除去部2は、ローラーによって種板Sを挟んで、種板Sの内部応力を除去するものである。具体的には、内部応力除去部2はレベラーを備えている(図5(B)参照)。図5(B)に示すように、レベラーは、種板Sに直接接触するワークローラー21A,21Bを備えたものである。ワークローラー21A,21Bは、上下に千鳥状に配置されており、上下のワークローラー21A,21B間に種板Sが送り込まれる。すると、種板Sは多数のワークローラー21A,21Bで繰り返し板厚方向に曲げられるので、搬送方向における種板Sの反りや凹凸幅を小さくすることができる。なお、内部応力除去部2のレベラーにおける種板Sの搬送方向は、種板Sの上下方向と一致している。
【0063】
レベラーにおいて、種板Sに対して板厚方向から変形を加える量、つまり、ローラー押込み量はとくに限定されないが、ローラー押込み量は、入口側が大きく出口側が小さくなるように調整することが好ましい。ここで、ローラー押し込み量とは、上段の各ワークローラー21Aと種板Sが接触する点を繋いで形成される第1接触面A1と、下段の各ワークローラー21Bと種板Sが接触する点を繋いで形成される第2接触面A2と、の距離Wのことである(図5(B)参照)。第1接触面A1と第2接触面A2が一致する場合を基準、つまり、距離W=0とする。すると、第1接触面A1に対して第2接触面A2が下方に位置する場合には、距離Wはプラス量として規定され(図5(B)の状態)、第1接触面A1に対して第2接触面A2が上方に位置する場合には、距離Wはマイナス量として規定される。つまり、この距離Wを調整することによって、種板Sに対して板厚方向から変形を加える力を調整できるので、種板Sの内部応力を効果的に除去することが可能である。例えば、ローラー押し込み量Wは、種板Sの基準板厚が0.5~1.0mmの範囲である場合には、入り口側で-2.0~0.0mm、出口側で0.5~1.5mmの範囲に設定すれば、種板Sの内部応力を効果的に除去することができる。
【0064】
ここで、内部応力除去部2において本実施形態のカソード矯正方法を実施する場合には、入口側および出口側のローラー押し込み量Wを調整することによって、種板Sの内部応力を除去しつつ、種板Sに適切な変形、つまり、作製されたカソードCのカソード傾斜量Xが所定の値になるように種板Sを変形させることができる。この場合、入口側及び出口側のローラー押し込み量Wは、作製されるカソードCのカソード傾斜量XがアノードAのアノード傾斜量Yに対して所定の範囲の傾斜量差Zとなるように調整される。例えば、同じ電解槽EBに装入される複数のアノードAのアノード傾斜量Yの平均値(平均アノード傾斜量Y)に合わせて、カソードCのカソード傾斜量XがアノードAの平均アノード傾斜量Yに対して所定の範囲の傾斜量差Zとなるようにローラー押し込み量Wが調整される。なお、作製されるカソードCのカソード傾斜量Xとローラー押し込み量Wの関係は、予備実験等において両者の関係を求めておけばよい。平均アノード傾斜量Yに基づいて所定の範囲の傾斜量差ZとなるカソードCのカソード傾斜量Xが把握できれば、予備実験等の結果に基づいて、所望のカソード傾斜量XとなるカソードCを製造できる適切なローラー押し込み量Wに調整することができる。
【0065】
なお、レベラー間を種板Sが搬送される搬送速度は特に限定されない。希望する処理量(つまりカソードCの製造量)に応じて都度設定すればよい。レベラー間を種板Sが搬送される搬送速度は、例えば、25~35m/分の範囲に設定することができる。
【0066】
また、レベラーは、ワークローラーを支えるバックアップローラーを備えていることが望ましい。
【0067】
<溝付け部10>
溝付け部10は、内部応力除去部2によって内部応力が除去された種板Sに溝gを形成するものである。具体的には、種板Sを搬送しながら、内部応力除去部2における種板Sの搬送方向と平行な複数本の溝gを種板Sに形成する。この溝付け部10は、図6(A)に示すように、3対の溝付けローラー対11~13を備えている。この3対の溝付けローラー対11~13は、いずれも上下一対の溝付けローラー11A~13Bを備えている(図6(C)参照)。
【0068】
図6(A)、(C)に示すように、各溝付けローラー対11~13の溝付けローラー11A~13Bは、その軸方向の所定の位置に鍔部15~17が設けられたものである。鍔部15~17は、溝付けローラー対11~13ごとに設けられる位置が異なるが、対となる溝付けローラー(例えば溝付けローラー11A,11B)では同じ位置に設けられる。また、対となる溝付けローラー11A~13Bでは、一方には谷鍔部が設けられ、他方には山鍔部が設けられる(図6(C)参照)。このため、対となる溝付けローラー11A~13B間に種板Sが通されると、種板Sには、鍔部15~17に挟まれた部分に谷鍔部側に凹んだ溝gが形成される。
【0069】
そして、カソード仕上げ機1は、各溝付けローラー対11~13の鍔部15~17同士の隙間(クリアランスCL、図6(C)参照)を調整する隙間調整部を備えている。この隙間調整部は、各溝付けローラー対11~13において、対になる溝付けローラー間の距離を調整する調整機構を有している。例えば、調整機構は、シリンダ機構やネジ機構等によって構成することができる。この場合、各溝付けローラー対11~13の溝付けローラー11A~13Bを回転可能に保持する軸受を調整機構に連結する。すると、調整機構によって軸受を移動させれば、軸受に保持されている溝付けローラー11A~13Bを移動させて、対になる溝付けローラー間の距離、つまり、クリアランスCLを調整することができる。
【0070】
この隙間調整部には、溝付けを行う種板Sの基準板厚が入力されている。そして、基準板厚の種板Sを用いてカソードCを製造する際には、クリアランスCLが基準クリアランスになるように隙間調整部がクリアランスCLを調整する。基準クリアランスとは、基準板厚の種板Sに対して、適切な力で溝を形成できるクリアランスCLのことである。例えば、基準クリアランスは、種板Sの基準板厚が0.5~1.0mmの範囲である場合には、通常、1.3~2.0mmの範囲に設定される。
【0071】
このように、基準クリアランスを基準板厚の種板Sに対応した値に設定することは、さまざまな種板Sに対応した値に設定するよりも、設定時の板厚のばらつきの影響を受けにくく、信頼性の高いクリアランスが得られる利点がある。もちろん、上述したように、厚さ測定部を設けて種板Sの厚さを測定する場合には、その測定値も基づいて、各種板SについてクリアランスCLを調整してもよい。
【0072】
なお、種板Sの基準板厚には、種板Sの精製条件から決まる標準的な種板Sの厚みを用いるのが好ましい。例えば、電解精製による電気銅の精製に使用されるカソードの種板Sを精製する場合には、0.5~1.0mmの範囲における任意の値を種板Sの基準板厚とすることができる。
【0073】
また、溝付け部10において種板Sを搬送する搬送速度は特に限定されない。カソードCの製造量に応じて適宜設定すればよく、例えば、25~35m/分に設定することができる。
【0074】
<吊り手形成部20>
吊り手形成部20は、溝付け部10によって溝がつけられた種板Sに吊り手shを取り付けるものである。また、吊り手形成部20では、種板Sに吊り手shを取り付けると同時に、カソードビームBを取り付けられる。
【0075】
吊り手形成部20は、上流工程の溝付け部10から供給された種板Sを水平に維持した状態で搬送する搬送機能を有している。また、吊り手形成部20は、種板Sの移動方向の先端の端部(以下第一端部Saという)よりも前方にカソードビームBを配置した状態、かつ、カソードビームBと種板Sの第一端部Saとの間を一定の距離に維持した状態で移動させる機能も有している(図4参照)。
【0076】
また、カソードビームBと種板Sの第一端部Saとの間の距離は、吊手リボンPRの長手方向の長さの半分よりも短くなるように設定される。具体的には、吊手リボンPRと種板Sの第一端部Saとの連結部分を十分に取れる長さになるように設定される。例えば、吊手リボンPRの長手方向の長さが、300~320mmであれば、カソードビームBと種板Sの第一端部Saとの間の距離は70~75mm程度に設定される。
【0077】
<折り曲げ部21>
図2に示すように、吊り手形成部20は、カソードビームBを挟んだ状態となるように、帯状の板材(以下吊手リボンPRという)を折り曲げた状態とする折り曲げ部21を有している。この折り曲げ部21は、種板SおよびカソードビームBの搬送方向において並ぶように、一対の第一折り曲げローラー22,22と、一対の第二折り曲げローラー23,23と、を有している。一対の第一折り曲げローラー22,22は、バネなどによって互いに接近離間可能かつ互いに接近するように付勢された状態で保持されている。しかも、一対の第一折り曲げローラー22,22は、両者が離間すると、種板SおよびカソードビームBが通過し得る間隔を形成できるように設けられている。また、一対の第二折り曲げローラー23,23も、種板SおよびカソードビームBが通過し得る間隔を空けて配設されている。この一対の第二折り曲げローラー23,23はその移動が固定されており、両者の間隔が一対の第一折り曲げローラー22,22が接近した状態の間隔よりも広くなるように設けられている(図2参照)。
【0078】
また、折り曲げ部21は、一対の第一折り曲げローラー22,22の上流側、つまり、一対の第一折り曲げローラー22,22に対して種板SおよびカソードビームBが供給される側(図2では左側)に吊手リボンPRを配置する機能を有している。具体的には、吊手リボンPRが鉛直方向(図1では上下方向)に伸びた状態で、その長手方向の中央部がほぼ一対の第一折り曲げローラー22,22の中間に位置するように吊手リボンPRを配置する機能を有している。なお、カソードCには、2か所の吊り手shが設けられるため、吊手リボンPRもカソードビームBの軸方向(言い換えれば種板Sの第一端部Saの端縁に沿った方向)であって、後述する固定部25の加圧部27と対応する位置に2個所配置される。
【0079】
<固定部25>
図2に示すように、種板SおよびカソードビームBの搬送方向において、折り曲げ部21の下流側には、固定部25が設けられている。
【0080】
図3に示すように、固定部25は、ベース部材26aと、案内軸26cに沿ってベース部材26aに対して接近離間可能に設けられた移動部材26bと、を有する加圧部材移動機構26を備えている。この加圧部材移動機構26は、例えば、シリンダ機構等の駆動装置によって移動部材26bをベース部材26aに向かって移動させることができるようになっている。
【0081】
この固定部25は、加圧部27が2個所設けられている。つまり、カソードCに設ける吊り手shの数と同じ数の加圧部27が設けられている。加圧部27は、柱状の一対の加圧部材27a,27bを有している。この一対の加圧部材27a,27bは、一方の加圧部材27aはベース部材26aにおいて移動部材26bと対向する面に設けられており、他方の加圧部材27bは移動部材26bにおいてベース部材26aと対向する面に設けられている。しかも、一対の加圧部材27a,27bは、移動部材26bをベース部材26aに向かって移動させると、一対の加圧部材27a,27bの先端間に種板Sおよび吊手リボンPRを挟むことができる位置に配置されている(図2(B)、図3(B)参照)。つまり、平面視では、一対の加圧部材27a,27bの先端同士が重なり合うように、一対の加圧部材27a,27bは設けられている。しかも、一対の加圧部材27a,27bは、一対の加圧部材27a,27bの先端間に種板Sと吊手リボンPRとが挟まれると、両者をかしめて連結することができる構造を有している。
【0082】
固定部25の一対の加圧部材27a,27bによって種板Sと吊手リボンPRとをかしめて連結する構造はとくに限定されない。例えば、パンチとダイスを組み合わせてクリンチングカシメ接合を行うカシメ機構を採用してもよい。つまり、加圧部材27aの先端(または加圧部材27bの先端)にパンチを設け、加圧部材27bの先端(または加圧部材27aの先端)にダイスを設けて、種板Sと吊手リボンPRとをかしめて連結するようにしてもよい。この場合、一対の加圧部材27a,27bの先端によって吊手リボンPRと種板Sとが把持された状態からさらに移動部材26bをベース部材26aに接近させれば、一対の加圧部材27a,27bの先端によって種板Sと吊手リボンPRとをかしめて連結することができる。つまり、パンチによって種板Sと吊手リボンPRとを貫通する円状の穴あけを行うとともに、穴あけをした際に形成される凸状片が折り返されるので、種板Sと吊手リボンPRとを連結して固定することができる。
【0083】
<吊り手形成>
固定部25がかかる構造であるので、以下のようにカソードビームBが挿通された吊り手shが種板Sに連結されたカソードCが形成される。
【0084】
まず、固定部25では、一対の第一折り曲げローラー22,22の上流側に吊手リボンPRが配置された状態で、種板SおよびカソードビームBが第一折り曲げローラー22,22間に向かって移動される(図4(A)参照)。
【0085】
種板SおよびカソードビームBが第一折り曲げローラー22,22間に向かって移動されると、カソードビームBに押されてカソードビームBとともに吊手リボンPRが下流側に移動する。吊手リボンPRは、カソードビームBと接触している個所の上下の部分(吊手リボンPRの長手方向の端部という場合がある)が第一折り曲げローラー22,22に接触するので、中央部はカソードビームBとともに移動するが、その吊手リボンPRの長手方向の端部は第一折り曲げローラー22,22によって移動が制限される。すると、カソードビームBの移動に伴って、吊手リボンPRは中央部を屈曲部として曲げられ、長手方向の端部がカソードビームBを挟んだ状態になるように曲げられる(図4(B)参照)。
【0086】
種板SおよびカソードビームBがさらに移動すると、吊手リボンPRは曲げられた状態で一対の第二折り曲げローラー23,23間に進入する。第一折り曲げローラー22,22は互いに接近するように付勢されているので、一対の第二折り曲げローラー23,23間を通過する際に、吊手リボンPRの長手方向の端部は種板Sに向かって付勢される(図4(C)参照)。すると、吊手リボンPRは一対の第二折り曲げローラー23,23を通過するとスプリングバックするが、U字状やV字状となってカソードビームCBに巻き付いた状態となり(図4(D)参照)、その状態で種板S、カソードビームBおよび吊手リボンPR(以下種板S等という場合がある)が固定部25に供給される。
【0087】
吊手リボンPの長手方向の端部、つまり、吊手リボンPにおいて種板Sと連結される部分が固定部25の加圧部27に配置されるまで種板S等が移動すると、種板S等の移動が停止する。すると、加圧部材移動機構26の移動部材26bがベース部材26aに向かって移動し、加圧部27の一対の加圧部材27a,27bによって種板SとカソードビームBが挟まれて、種板SとカソードビームBとが連結される(図4(E)参照)。すると、輪状になった吊り手shが種板Sに連結され、かつ、吊り手shにカソードビームBが取り付けられたカソードCが形成される(図4(F)参照)。
【0088】
<種板Sの矯正の他の例>
上述したように、カソード仕上げ機1の内部応力除去部2において本実施形態のカソード矯正方法を実施すれば、作製されたカソードCのカソード傾斜量Xが所定の値になるように種板Sを変形させることができる。しかし、種板Sを矯正する方法は、上述した方法、つまり、内部応力除去部2において種板Sを矯正する方法に限られない。例えば、種板Sの矯正を行うための装置をカソード仕上げ機1に新たに組み込んで行うようにしてもよい。さらには、カソード仕上げ機1によって製造されたカソードCの種板Sを、作業者自らが矯正するようにしても構わない。
【0089】
<カソードCの矯正の他の例>
【0090】
上記例では、カソードCの種板Sを変形させてカソードCを所定のカソード傾斜量Xとなるように矯正する場合を説明した。カソードCは、カソードCの吊り手shを変形することによって所定のカソード傾斜量Xとなるように調整してもよい。例えば、カソードCを電解槽EBに懸架した状態において、矯正治具等を使用して作業者が吊り手shを変形することによって所定のカソード傾斜量XとなるようにカソードCを矯正してもよい。
【0091】
また、カソード仕上げ機1にカソードCの吊り手shを変形する機能を設けて、所定のカソード傾斜量XとなるようにカソードCを矯正してもよい。例えば、図2および図3に示すように、固定部25の加圧部材移動機構26のベース部材26aおよび固定部材移動部材26bに、吊り手shを挟む一対の矯正部材28a,28bを設ける。具体的には、一対の加圧部材27a,27bが種板Sと吊手リボンPRとを挟んだときに、吊手リボンPRにおいて一対の加圧部材27a,27bとカソードビームBとの間部分を挟むように、一対の矯正部材28a,28bを設ける。すると、一対の加圧部材27a,27bが種板Sと吊手リボンPRとを挟むと同時に吊手リボンPRを塑性変形させることができるので、その変形を調整すれば、カソードCを所望のカソード傾斜量Xとすることができる。
【0092】
例えば、一対の加圧部材27a,27bが種板Sと吊手リボンPRとを挟んだときに、種板Sの板厚方向(図2および図3では上下方向)や種板Sの搬送方向において一対の矯正部材28a,28bと吊手リボンPRとが接触する位置を調整すれば、吊手リボンPRの変形状態を調整してカソードCのカソード傾斜量Xを調整することができる。また、一対の矯正部材28a,28bにおいて吊手リボンPRに当接する部分の形状を調節しても吊手リボンPRの変形状態を調整できるので、カソードCのカソード傾斜量Xを調整することが可能になる。この場合、一対の矯正部材28a,28bと吊手リボンPRとが接触する位置とカソード傾斜量Xとの関係や、吊手リボンPRに当接する部分の形状とカソード傾斜量Xとの関係は、予備試験などによってあらかじめ求めておけばよい。
【0093】
<アノードAの傾きおよびカソードCの傾きについて>
上記例では、アノードAの傾きおよびカソードCの傾きは、上述したように、アノードAやカソードCの水平方向における上部と下部の位置のズレとして定義したが、アノードAの傾きおよびカソードCの傾きは、鉛直方向に対する角度で定義してもよい。例えば、アノードAの傾きを、鉛直方向とアノードAの胴部ABの表面のなす角度として定義してもよい。この場合には、カソードCの傾きを、鉛直方向とカソードCの種板Sのなす角度として定義する。すると、アノードAの傾きとカソードの傾きの差を一定の範囲内にすれば、アノードAおよびカソードCを電解槽EBに懸架したときに、両者の傾きを一致させることができるので、電解精製した際にカソードC上に電着した金属の外観を良好にすることができる。
【0094】
なお、カソードCの種板Sが上端と下端との間で湾曲したり波うったりしているような場合であれば(図9(B)参照)、上述した鉛直方向とカソードCの種板Sのなす角度は、カソードCの種板Sの上端と下端とをつなぐ平面CAと鉛直方向とのなす角度として定義することができる。
【0095】
<電解精製の他の方法>
上記例では、カソードCの形状を調整して、電解槽EBに懸架した状態のアノードAの胴部ABの表面の傾きと電解槽EBに懸架した状態のカソードCの傾きとの差を一定の範囲内とする場合を説明した。
【0096】
しかし、本実施形態の電解精製方法では、電解精製する際に、電解槽EBに懸架した状態のアノードAの胴部ABの表面の傾きと電解槽EBに懸架した状態のカソードCの傾きとの差が一定の範囲内となっていればよく、両者の傾きの差を一定の範囲内とする方法はとくに限定されない。つまり、電解槽EBに懸架した状態におけるアノードAの胴部ABの表面の傾きとカソードCの傾きとの差が一定の範囲内となるようにカソードCを電解槽EBに懸架できるのであれば、カソードCは必ずしも変形させなくてもよい。
【0097】
例えば、カソードCのカソードバーBと電解槽EBのブスバーBBの上面との間に、傾き調整用治具を配置して、カソードCの傾きとアノードAの胴部ABの表面の傾きとの差が一定の範囲内となるようにしてもよい。
【実施例0098】
本発明のカソードの矯正方法によって矯正したカソードを使用して電解精製を行うことによって、アノードの表面が傾いた状態で電解精製を行っても、外観が良好な電気銅が得られることを確認した。
【0099】
実験では、実験用アノードのアノード傾斜量を測定し、アノード傾斜量とカソード傾斜量の差(傾斜量差)が所定の範囲内となるように実験用カソードを変形させた。この実験用カソードと実験用アノードとを使用して電解精製を行って、得られた電気銅の外観を確認した(実施例)。
【0100】
比較例として、傾斜量差が所定の範囲内となるように変形させないカソード(比較カソード)と実験用アノードとを使用して電解精製を行って、得られた電気銅の外観を確認した。
【0101】
<アノード傾斜量測定>
実験では、まず、実験用アノードのアノード傾斜量を測定した。
アノード傾斜量は、実験用アノード27枚を電解槽上に懸架して、各実験用アノードについてアノード傾斜量測定器(図7図8参照)を用いてアノード傾斜量を測定した。そして、実験用アノード27枚について測定されたアノード傾斜量の平均値を求めた。得られたアノード傾斜量の平均値は5mmであった。傾斜量差を求める際には、アノード傾斜量としてアノード傾斜量の平均値(平均アノード傾斜量)を使用した。
【0102】
なお、実験用アノードは、鋳型に粗銅を流し込んで鋳造したものであり、重量がおよそ400kg(胴部の高さが1090mm、横幅が1050mm、厚さが45mm)ものである。
また、各実験用アノードのアノード傾斜量Yは、アノード傾斜量測定器の吊紐を胴部の表面の下端縁に接触させる方法(図7(A)参照)で測定した。
【0103】
<実験用カソードの作製>
ついで、傾斜量差が所定の範囲に入るように実験用カソードを27枚作製した。
具体的には、種板、吊り手リボンおよびカソードビームをカソード仕上げ機に供給して実験用カソードを作製する際に、カソード仕上げ機の内部応力除去部のレベラーのローラー押し込み量を調整し、傾斜量差が所定の範囲に入るようにカソード傾斜量を調整した。
【0104】
実験では、内部応力除去部のレベラーにおけるローラー押し込み量は、入り口側で-0.75mm、出口側で+0.75mmとし、溝付け部の溝付けローラーの基準クリアランスは1.3mmとした。
【0105】
なお、実験用カソードの作製に使用した種板は、いずれも純度99.99%の電気銅からなる平板であり、その寸法が、縦1050mm×横1070mm×厚さ0.75mmとなるように加工した。加工前の種板は、純度98%程度の粗銅であるアノード(陽極)とステンレス製の母板(陰極)を電解槽の電解液に供給し、24時間通電した後、母板から電着している銅を剥がす方法で製造した。使用した銅電解液は、銅濃度47±5g/l、硫酸濃度180±30g/l、膠120±60g/電着銅トン、アビトン30±15g/電着銅トン、チオ尿素60±30g/電着銅トンのものである。陽極と陰極との間に流す電流の電流密度は250A/mであり、電解槽に供給する電解液の給液量は25L/minに調整した。
【0106】
また、実験用カソードの作製に使用した吊り手リボンは、純度99.99%の電気銅によって形成された板(厚さ0.6~1.0mm)を、縦310mm×横95mmに加工したものを使用した。
さらに、実験用カソードの作製に使用したカソードビームは、鉄で作成された軸材の表面が銅で覆われた棒材であって、断面24mm×42mm、長さ1394mmのものを使用した。
【0107】
得られた実験用カソードについて、傾斜量差を確認したところ、全て実験用カソードにおいて傾斜量差が-2mm~+2mmとなっていた。
なお、傾斜量差は、以下の式(1)により算出した値である。

式(1):傾斜量差(mm)=カソード傾斜量(mm)-平均アノード傾斜量(mm)
【0108】
また、実験用カソードのカソード傾斜量は、電解用極版の平坦度測定装置(特開平7-190744に開示されている測定装置)で測定された測定値を使用して算出した。具体的には、カソードビームの位置で測定された測定値と、カソードの種板の下端の位置で測定された測定値を用いてカソード傾斜量を算出した。
【0109】
<外観確認>
上記のようにして作製された実験用アノードおよび実験用カソードを用いて銅の電解精製を行い、カソードの種板表面に電着した電気銅の状態を確認した。
【0110】
具体的には、実験用アノードおよび実験用カソードを、電解槽上に交互に懸架して電解槽内の電解液中に浸漬させた。このとき、実験用アノードおよび実験用カソードは、鉛直方向に対する互いの傾き方向が同じ方向になるように懸架した。つまり、実験用アノードの胴部の表面と実験用カソードの種板の表面の傾きとがほぼ平行になるように実験用アノードおよび実験用カソードを電解槽上に交互に懸架した。その状態で、液温63℃、Cu濃度50g/L、硫酸濃度190g/Lの組成を有する電解液を毎分15Lずつ給液しながら、実験用カソードに対する電気銅の電着量が170kgとなるまで銅の電解精製を行った。電着量が170kgとなると、電解槽からカソードを引き上げて目視により外観観察を行った。そして、外観不良の発生した割合を外観不良率として求めたところ、外観不良率は2.0%であった。
なお、粒状銅電着の発生状態が、実験用カソード表面において、φ10mm以上の粒状銅が付着する領域の面積が全体の5%以上である場合や、φ10mm以上の粒状銅が付着する領域の面積が全体の5%未満であってもφ3mm未満の粒状銅が付着する領域の面積が全体の30%以上である場合に、外観不良と判断した。
【比較例】
【0111】
一方、比較カソードは、カソード仕上げ機において、内部応力除去部のレベラーのローラー押し込み量を入り口側で-0.4mm、出口側で+1.4mmとし、溝付け部の溝付けローラーの基準クリアランスを1.3mmとして27枚作製した。この比較カソードについて、傾斜量差を確認したところ、傾斜量差は-8mm~-3mmとなっていた。
この比較カソードを、種板の表面が鉛直方向と平行になるように電解槽に懸架したこと以外は、実施例1と同様の条件で電解精製を実施した。この方法で得られたカソードの外観を目視により確認し、外観不良の発生した割合を外観不良率として求めたところ、外観不良率は4.5%であった。
【0112】
以上の結果から、本発明の電解精製方法のように傾斜量差が所定の範囲になるようにカソードを変形させれば、電解槽に懸架したアノードの胴部の表面が鉛直方向に対して傾いている場合であっても、そのアノードを用いて外観良好な電気銅を得ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のカソードの矯正方法は、銅やニッケル等の非鉄金属などの電解精製に使用されるカソードを矯正する方法として適している。
【符号の説明】
【0114】
1 カソード仕上げ機
2 内部応力除去部
10 溝付け部
20 吊り手形成部
21 折り曲げ部
22 第一折り曲げローラー
23 第二折り曲げローラー
25 固定部
50 アノード傾斜量測定器
51 測定錘
52 測定部
55 吊り紐
X カソード傾斜量
Y アノード傾斜量
C カソード
S 種板
B カソードビーム
sh 吊り手
CS 鉛直面
A アノード
AB 胴部
AS 肩部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9