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特開2023-188971,3-ブタジエン製造用触媒及びそれを用いた1,3-ブタジエンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018897
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】1,3-ブタジエン製造用触媒及びそれを用いた1,3-ブタジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/74 20060101AFI20230202BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20230202BHJP
   C07C 5/333 20060101ALI20230202BHJP
   C07C 9/10 20060101ALI20230202BHJP
   C07C 5/52 20060101ALI20230202BHJP
   B01J 29/12 20060101ALI20230202BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
B01J29/74 Z
C07C11/167
C07C5/333
C07C9/10
C07C5/52
B01J29/12 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123261
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】三宅 孝典
(72)【発明者】
【氏名】佐野 誠
(72)【発明者】
【氏名】林 智洋
(72)【発明者】
【氏名】花谷 誠
(72)【発明者】
【氏名】小栗 元宏
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA36A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC65A
4G169BC69A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CB20
4G169CB44
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169ZA04A
4G169ZA04B
4G169ZA19A
4G169ZA19B
4G169ZA32A
4G169ZD01
4G169ZD06
4G169ZF01B
4G169ZF05A
4G169ZF05B
4H006AA02
4H006AC11
4H006AC12
4H006BA26
4H006BA71
4H006BA81
4H006BA85
4H006BC35
4H006DA12
4H006DA15
4H039CA20
4H039CB10
4H039CC10
4H039CJ30
(57)【要約】
【課題】 n-ブテンを原料とし、合成ゴムの原料として工業的に有用な1,3-ブタジエンを効率的に製造することが可能となる1,3-ブタジエン製造用触媒、それを用いた1,3-ブタジエンの製造方法を提供する。
【解決手段】 周期律表第8~10族に属する金属元素を含む金属成分と、前記金属成分を含有する12員環細孔を有するゼオライトと、を有する1,3-ブタジエン製造用触媒。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第8~10族に属する金属元素を含む金属成分と、前記金属成分を含有する12員環細孔を有するゼオライトと、を有することを特徴とする1,3-ブタジエン製造用触媒。
【請求項2】
前記金属成分が、前記金属元素の金属、前記金属元素のイオン、及び前記金属元素の金属化合物からなる群から選択される1種以上を含むことを特徴とする1,3-ブタジエン製造用触媒。
【請求項3】
前記金属元素が白金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の1,3-ブタジエン製造用触媒。
【請求項4】
前記金属成分が、前記金属元素の金属を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の1,3-ブタジエン製造用触媒。
【請求項5】
前記金属成分を含有する前記ゼオライトが、金属含浸導入型ゼオライトであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の1,3-ブタジエン製造用触媒。
【請求項6】
前記ゼオライトが、Y型ゼオライト、Beta型ゼオライト、又はMCM-22型ゼオライトであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の1,3-ブタジエン製造用触媒。
【請求項7】
1,3-ブタジエン及びn-ブタン製造用触媒であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の1,3-ブタジエン製造用触媒。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一つに記載の1,3-ブタジエン製造用触媒に、n-ブテンを含む流体を接触させることを特徴とする1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項9】
前記流体におけるn-ブテン濃度が、5~50容量%であることを特徴とする請求項8に記載の1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項10】
前記流体が、n-ブテンのみからなることを特徴とする請求項8に記載の1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項11】
1,3-ブタジエンとともにn-ブタンを製造することを特徴とする請求項8~10のいずれか一つに記載の1,3-ブタジエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3-ブタジエン製造用触媒と、それを用いた1,3-ブタジエンの製造方法に関するものであり、さらに詳細には、n-ブテンを原料とし、合成ゴムの原料として工業的に有用な1,3-ブタジエンを効率的に製造することが可能となる1,3-ブタジエン製造用触媒、それを用いた1,3-ブタジエンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1,3-ブタジエンは、工業的にナフサ分解で副生するC4留分(1,3-ブタジエン、n-ブテン、iso-ブテン、n-ブタン、及びiso-ブタンからなる混合物。)を原料に用いて、そこから1,3-ブタジエンを抽出分離する方法(抽出分離法)により製造されている。
【0003】
近年、基礎原料を取り巻く環境の変化により、1,3-ブタジエンを目的生産物とする触媒反応プロセスの研究が活発になっている。具体的には、抽出分離プロセスにより1,3-ブタジエンを分離して得られたS-C4留分(n-ブテン、iso-ブテン、n-ブタン、iso-ブタンを主成分とする混合物。)中に含まれるn-ブテンを出発原料に、脱水素法によるブタジエンを製造する方法(例えば特許文献1参照。)、また、酸化脱水素法によるブタジエンを製造する方法(例えば特許文献2参照。)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-165667号公報
【特許文献2】特開2012-082153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に提案の方法においては、下記式(1)に示す脱水素反応を経るものであり、該脱水素反応は吸熱反応であり、しかも化学平衡の制約を受けることから、脱水素反応がスムーズに進行するには高温が必要であった。また、高温故にコーキングによる反応器の閉塞問題があり、さらに脱水素により生成する水素を取扱う付属設備が必要となる等、経済的な面での合理性も低かった。
(n-ブテン)→C(ブタジエン)+H(水素) (1)
【0006】
特許文献2に提案の方法においては、酸素を水素受容体として用いる下記式(2)に示す酸化脱水素化反応を経ることから吸熱や化学平衡の制約がなくなり、比較的温和な条件で脱水素反応が進行するが、原料に用いた酸素が価値のない水に変換すること、生成物(ブタジエン)の選択率が充分でないこと、さらに酸素を取扱う付属設備が必要となる等、経済的合理性が低かった。
(n-ブテン)+1/2O(酸素)→C(ブタジエン)+HO(水) (2)
【0007】
そこで、n-ブテンを出発原料に、水素や酸素の取扱いを要することなくシンプルな触媒プロセスで、しかも合成ゴム原料として有用な1,3-ブタジエンを効率的に製造することを可能とする1,3-ブタジエン製造用触媒、およびそれを用いた1,3-ブタジエンの製造方法の出現が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の金属を含有する12員環細孔を有するゼオライトが、n-ブテンから1,3-ブタジエンを効率的に製造することができる1,3-ブタジエン製造用触媒となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、周期律表第8~10族に属する金属元素を含む金属成分と、前記金属成分を含有する12員環細孔を有するゼオライトと、を有することを特徴とする1,3-ブタジエン製造用触媒、およびそれを用いてなる1,3-ブタジエンの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、n-ブテンを出発原料に、水素や酸素の取扱いを要することなくシンプルな触媒プロセスで、1,3-ブタジエンを効率的に製造できる1,3-ブタジエン製造用触媒、およびそれを用いた1,3-ブタジエンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒は、n-ブテンを出発原料に、水素や酸素の取扱いを要することなくシンプルな触媒プロセスで、しかも合成ゴム原料として有用な1,3-ブタジエンを効率的に製造することを可能とする触媒である。
【0013】
本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒は、周期律表第8~10族に属する金属元素を含む金属成分と、前記金属成分を含有する12員環細孔を有するゼオライトと、を有するものである。
【0014】
本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒を構成するゼオライトは、12員環細孔を有するものである。ここで、ゼオライトとは、規則的な細孔と空洞を有する剛直な陰イオン性の骨格からなる結晶性の物質であり、T原子と酸素(酸素原子)が3次元方向に無限に連なり骨格構造を構成している。T原子は、一般的には、アルミニウムとケイ素で構成されるが、アルミニウムやケイ素がこれらの原子とは異なる他の原子に置換されていてもよい。T原子にアルミニウムとケイ素を含むゼオライトは、アルミノケイ酸塩(アルミノシリケート)とも呼ばれており、構造の基本的な単位はSiOあるいはAlOの四面体構造(あわせてTO四面体)である。
【0015】
ゼオライトの細孔径を表す単位には、環(細孔)を構成するT原子の数が使用されることがある。例えば、T原子8、10、12、14個で囲まれた環は、それぞれ8員環、10員環、12員環、14員環と呼ばれている。8、10、12員環および14員環以上からなる細孔は、それぞれ「小細孔」、「中細孔」、「大細孔」および「超大細孔」と定義されている(J.Vac.Soc.Jpn.(真空),Vol.49,205(2006)参照)。これらの関係から、本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒に用いられる12員環細孔を有するゼオライトは、0.6~1.2nm程度の大細孔を有するゼオライトを意味している。
【0016】
本発明において、12員環細孔を有するゼオライトは、構造単位として12員環を有していれば、特に限定されず、12員環細孔のみからなるゼオライトだけでなく、12員環細孔に加えて12員環細孔以外の細孔を有するゼオライトであってもよい。12員環細孔を有するゼオライトとしては、例えば、SSZ-24(国際ゼオライト学会で定義されているアルファベット大文字3個からなる構造コード;AFI、1次元12員環細孔)、SSZ-31(STO、1次元12員環細孔)、ZSM-12(MTW、1次元12員環細孔)、VPI-8(VFI、1次元12員環細孔)、GUS-1(GON、1次元12員環細孔)、L(LTL、1次元12員環細孔)、SSZ-42(IFR、1次元12員環細孔)、SSZ-48(SFE、1次元12員環細孔)、SSZ-55(ATS、1次元12員環細孔)、SSZ-60(SSY、1次元12員環細孔)、Mordenite(MOR、2次元12-8員環細孔)、MCM-22(MWW、2次元12-10員環細孔)、IM-12/ITQ-15(UTL、2次元14-12員環細孔)、Gmelinite(GME、3次元12-8-8員環細孔)、Y(FAU、3次元12-12-12員環細孔)、Beta(BEA、3次元12-12-12員環細孔)、EMC-2(EMT、3次元12-12-12員環細孔)、CIT-1(CON、3次元12-12-10員環細孔)、ITQ-7(ISV、3次元12-12-12員環細孔)、ITQ-17(BEC、3次元12-12-12員環細孔)、MCM-68(MSE、3次元12-10-10員環細孔)、ITQ-21(-、3次元12-12-12員環細孔)、ITQ-22(IWW、3次元12-10-8員環細孔)、ITQ-24(IWR、3次元12-12-10員環細孔)等が挙げられる。効率的に1,3-ブタジエンを製造する(1,3-ブタジエンの選択率を高める)観点からは、Y(FAU、3次元12-12-12員環細孔)、Beta(BEA、3次元12-12-12員環細孔)、MCM-22(MWW、2次元12-10員環細孔)が好ましく用いられ、更に工業的に入手が容易なことから、Y(FAU、3次元12-12-12員環細孔)、Beta(BEA、3次元12-12-12員環細孔)がさらに好ましく用いられる。
【0017】
また、ゼオライトの組成も特に限定されず、例えば、アルミノシリケート;ボロアルミノシリケート、チタノアルミノシリケート、バナドアルミノシリケート、マンガンノアルミノシリケート、鉄アルミノシリケート、亜鉛アルミノシリケート、ガロアルミノシリケート、スズアルミノシリケート等のメタロアルミノシリケート;ボロシリケート、チタノシリケート、バナドシリケート、マンガンノシリケート、鉄シリケート、亜鉛シリケート、ガロシリケート、スズシリケート等のメタロシリケートが用いられる。これらのうち、安定性が高いことや工業レベルで入手が容易なことから、アルミノシリケートが好ましく用いられる。
【0018】
ここで、上記のアルミノシリケートは、一般にM2/nO・Al・xSiO・yHO(nは陽イオンMの原子価、xは2以上の数、yは吸着水量(モル比)を表わす。)の組成で表される。陽イオンMは、特に限定されず、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、プロトン等が用いられるが、効率的に1,3-ブタジエンを製造する(1,3-ブタジエンの選択率を高める)観点からは、プロトンが好ましく用いられる。また、xはSiO/Al比と呼ばれ、ゼオライトの耐熱性、耐酸性などを表す指標となる数値である。その範囲は、特に限定されるものではないが、効率的に1,3-ブタジエンを製造する観点からは、SiO/Al比は好ましくは5~1000、さらに好ましくは10~500である。
【0019】
本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒を構成するゼオライトは、周期律表第8~10族に属する金属元素(以下、単に「金属元素」ともいう)を含む金属成分を含有するものである。ゼオライトに含有される金属成分は、骨格構造外に含有される成分であり、ゼオライトの骨格構造を構成する原子(T原子や酸素原子)とは区別されるものである。なお、本明細書において、金属元素とは、元素の種類を表すものであり、元素の状態を特定するものではない。すなわち、金属元素には、金属、イオン、金属化合物などのあらゆる状態の金属元素が包含される。
【0020】
金属成分に含まれる金属元素の状態は、特に限定されるものではないが、金属、金属化合物、イオンとすることができる。金属成分に含まれる金属元素は、金属、イオン、金属化合物のうちのいずれか一つの状態で含まれていてもよいが、それらの2種以上の状態(つまり、混合物として)で含まれていてもよい。1,3-ブタジエンの収率を高めるとともに、1,3-ブタジエン以外の生成物としてナフサ分解原料として有用なn-ブタンの収率を高める観点からは、金属元素は、金属の状態で含まれていることが好ましい。なお、金属元素を金属化合物の状態で含有する場合、金属化合物としては、例えば、金属塩化物、金属臭化物、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属酸化物、金属水酸化物、金属錯体を挙げることができる。
【0021】
ここで、金属元素が金属や金属化合物の状態であることは、例えば、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により金属元素の酸化状態を測定することで確認できる(金属元素の価数が0であれば金属であり、金属元素の価数が0でないものは金属化合物であると判断できる)。
【0022】
金属成分に含まれる金属元素は、周期律表第8~10族に属する元素であればその種類について特に限定されるものではない。例えば、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金等が挙げられる。効率的に1,3-ブタジエンを製造する(1,3-ブタジエンの選択率を高める)観点からは、金属元素は白金であることが好ましい。
【0023】
金属成分の含有率は、効率的に1,3-ブタジエンを製造する観点からは、ゼオライト(金属成分を含有しないゼオライト)100wt%に対し、0.05~5.0wt%が好ましく、0.1~3.0wt%がさらに好ましい。
【0024】
金属成分を含有するゼオライトの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、金属元素の金属塩化物、金属臭化物、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属酸化物、金属水酸化物、金属錯体等の金属化合物を原料に、含浸法、イオン交換法、物理混合法、蒸着法等のいずれの方法を用いても良い。その中でも、1,3-ブタジエンの収率が高いことから、含浸法を用いることが好ましい。
【0025】
含浸法は、金属元素の金属化合物を溶解した溶液を、12員環細孔を有するゼオライト(以下、単に「ゼオライト」ともいう。)に含浸させ、溶液が含浸したゼオライトを乾燥させる方法である。含浸法における処理条件(溶液の組成、含浸条件、乾燥条件など)には、公知の条件を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、ゼオライトに含浸させる溶液には、金属元素の金属化合物として、塩化白金(IV)、臭化白金(IV)、よう化白金(IV)、テトラジクロロアンミン白金(IV)、白金(II)アセチルアセトナト、硝酸テトラアミン白金(II)を溶解することができる。また、例えば、ゼオライトに溶液を含浸させる条件としては、ゼオライトを5~80℃の溶液に0.1~48時間浸漬する条件を挙げることができる。また、例えば、溶液が含浸したゼオライトを乾燥させる条件としては、50~100℃で0.5~120時間ゼオライトを処理する条件を挙げることができる。ここで、本明細書では、含浸法により金属成分を含有したゼオライトを、金属含浸導入型ゼオライトという。
【0026】
前述した含浸法により製造されるゼオライト(金属含浸導入型ゼオライト)においては、金属元素が主にイオンや金属化合物の状態で含有される。金属元素を金属の状態にする場合、含浸法で得られたゼオライトを、200~600℃の高温処理、あるいは水素やヒドラジン等の還元剤で処理すればよい。ゼオライトを還元剤で処理する方法としては、例えば、還元剤を含む流体をゼオライトに接触する方法を挙げることができる。還元処理の条件(流体の組成、流体の流量、処理温度など)には、公知の条件を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、還元剤を含む流体は、還元剤を含むものであればよく、還元剤の他に窒素等の不活性ガスが含まれていてもよい。また、例えば、ゼオライトに接触させる還元剤を含む流体の流量は、20~500ml/min・g-ゼオライトとすることができる。また、例えば、ゼオライトに流体を接触させる条件は、100~500℃で0.1~5時間とすることができる。
【0027】
本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒は、上述した金属成分を含有するゼオライトを有するものであり、その形状については特に限定されるものではない。本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒は、例えば、粉末状であってよいが、その取り扱い性、触媒性能に優れる触媒となることから成形体としての形状付与を行うことが好ましい。形状付与は如何なる方法で行われてもよく、例えば、ゼオライト粉末をそのまま圧縮成形等により所定形状に成形し成形体とする方法、シリカ、アルミナ、粘土等のバインダーを所定割合でゼオライトに混合し、場合によっては更なる添加剤等を所定割合で混合し、その混合物を所定形状に成形し成形体とする方法、さらには焼結を付随し成形体とする方法などを挙げることができる。また、該ゼオライトとバインダーの配合割合は任意であり、中でも特に優れた触媒性能、取り扱い性、触媒寿命を示す転化触媒となることから、該ゼオライト:バインダー=50~95:50~5(重量割合)であることが好ましく、特に60~90:40~10であることが好ましい。
【0028】
1,3-ブタジエン製造用触媒を成形体として用いる際、その形状は如何なるものであってもよく、例えば円柱形状、円筒形状、三角柱形状,四角柱形状,五角柱形状,六角柱形状等の多角柱形状、中空多角柱形状、球形状等を挙げることができ、中でも、連続生産性に優れ、かつ圧壊強度の高い触媒となることから円柱形状、円筒形状であることが好ましい。また、その直径,幅,長さ等のサイズ、嵩密度,真密度等の密度としては充填効率等を考慮し任意に選択可能であり、特に合成ゴム原料として有用な1,3-ブタジエンを効率的に製造することが可能となる触媒となることから、径1.0~10mmの円柱形状又は厚さ0.5~5.0mmの円筒形状を有するものであることが好ましい。
【0029】
本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒は、n-ブテンを含む流体を原料として接触することにより合成ゴム原料として有用な1,3-ブタジエンを高効率に製造することを可能とするものである。なお、本明細書において、n-ブテンとは、1-ブテン(α-ブチレン)、cis-2-ブテン(cis-β-ブチレン)、trans-2-ブテン(trans-β-ブチレン)を指す。
【0030】
n-ブテンを含む流体は、気体であっても液体であってもよいが、1,3-ブタジエンを効率的に製造する観点からは、気体であることが好ましい。また、n-ブテンを含む流体は、n-ブテンを含むものであればよく、n-ブテンに加えて他の成分が含まれていてもよい。n-ブテンを含む流体としては、例えば、ナフサ分解で副生するC4留分(1,3-ブタジエン、n-ブテン、iso-ブテン、n-ブタン、iso-ブタンからなる混合物。)、抽出分離プロセスによりブタジエンを分離して得られたS-C4留分(n-ブテン、iso-ブテン、n-ブタン、iso-ブタンを主成分とする混合物。)、水和反応やメタノール化反応によりiso-ブテンが分離して得られたSS-C4留分(n-ブテン、n-ブタン、iso-ブタンを主成分とする混合物。)が挙げられる。また、石油精製から得られるC4炭化水素(炭素数4の炭化水素)を含む流体が用いられても良い。
【0031】
n-ブテンを含む流体における(n-ブテンを含む流体100容量%における)n-ブテンの濃度は、効率的に1,3-ブタジエンを製造する観点からは、ナフサ分解で副生したC4留分の場合、n-ブテン濃度が5~50容量%のものが好ましい。また、エチレンのオリゴマー化や上記C4炭化水素の精製等により得られたn-ブテンそのもの(100容量%)を、n-ブテンを含む流体として用いることも好ましい。
【0032】
本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒は、n-ブテンを含む流体と接触することにより、効率的に1,3-ブタジエンを製造することが可能であり、反応形式は特に制限されず、任意の反応形式で行うことが可能である。例えば、固定床気相流通式、固定床液相流通式または懸濁床回分式で行うことができる。その際の反応温度は特に制限されるものではなく、より効率的な製造方法となることから300~600℃の範囲が好ましく、n-ブテンの転化率が高くなることから350~550℃の範囲がより好ましい。また、反応圧力にも制限はなく、例えば常圧~5MPa程度の圧力範囲で運転が可能である。そして、固定床流通式反応の際の重量時間空間速度(WHSV)は特に制限されないが、効率的に1,3-ブタジエンを製造することができることから、好ましくは0.01~200hr-1、さらに好ましくは0.1~50hr-1である。ここで、重量時間空間速度(WHSV)とは、単位触媒重量当たりの単位時間(hr)に対するn-ブテンを含む流体の供給量の合計重量(言い換えれば、n-ブテンを含む流体の供給速度(重量/時間)の触媒重量に対する比)を表すものである。なお、n-ブテンを含む流体を供給する際には、n-ブテンを含む流体は、窒素等の不活性ガス、水素、一酸化炭素、二酸化炭素から選ばれる単一または混合ガスにより希釈されていてもよい。
【0033】
本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒による1,3-ブタジエンの製造方法においては、下記式(3)に示す通りn-ブテンを原料とすることにより、1,3-ブタジエンとともにn-ブタンを生成することができる。即ち、n-ブテン中の水素原子がもう一分子のn-ブテンに分子間で水素原子が移動し、合成ゴム原料として有用な1,3-ブタジエンに高効率で転化することを可能にするとともに、ナフサ分解の原料として有用なn-ブタンが併産する特長がある。この結果、本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒によるプロセスは、実質的に水素や酸素の取扱いを要することなくシンプルな触媒プロセスとなり、経済的合理性も高くなる。一方、従来技術である脱水素法(上記式(1))では、水素が生成し、酸化脱水素法(上記式(2))では酸素を副原料に用いる必要があり、工業的な製造においては1,3-ブタジエン製造設備以外に水素や酸素を取扱う設備を付属することが必要である。
(n-ブテン)→1/2C(ブタジエン)+1/2C10(n-ブタン) (3)
【実施例0034】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
プロトン型ベータ型ゼオライト粉末(東ソー株式会社製、商品名:HSZ-931HOA,SiO/Alモル比27)0.20gを純水20mlに懸濁し、その懸濁液に塩化白金(IV)酸塩酸溶液0.023gを加え、室温で1時間攪拌し、含浸法による金属導入処理を行った。攪拌終了後、粉末を濾別し、減圧下(300hPa)、80℃で乾燥、次いで常圧下、100℃で一晩乾燥して、Pt元素を1.0wt%含有するゼオライト触媒前駆体を得た。なお、ゼオライト触媒前駆体におけるPtの含有量(1.0wt%)は、Ptを含有しないゼオライト触媒前駆体100wt%に対する含有量を示すものであり、ゼオライトを浸漬した溶液中のPtの変化量から求めた。そして、窒素、水素の各ガスを供給するマスフローコントローラを備えた石英ガラス製反応管に該ゼオライト触媒前駆体を充填し、水素(6ml/min)および窒素(14ml/min)流通下、300℃で1時間、還元処理を行い、1.0wt%のPt元素(金属の状態)を含有するベータ型ゼオライト触媒を調製した。
【0036】
そして、窒素および1-ブテンの各ガスを供給するマスフローコントローラを備え、石英ガラス製反応管を有する固定床気相流通式反応装置に1.0wt%Pt元素含有ベータ型ゼオライト触媒0.05gを充填し、1-ブテン(6ml/min)および窒素(14ml/min)をステンレス製反応管にフィードし、500℃で1.0wt%Pt元素含有ベータ型ゼオライト触媒と接触し1,3-ブタジエンの製造を行った。なお、重量時間空間速度(WHSV)は、18hr-1であった。
【0037】
反応出口ガスおよび反応液(デカン溶媒でトラップ)を採取し、ガスクロマトグラフ((ガス成分の分析)島津製作所製、商品名:GC-8A、(液成分の分析)島津製作所製、商品名:GC-14B)を用い、ガス成分および液成分を個別に分析した。結果を表1に示す。
【0038】
なお、表1に示す転化率は下記式(4)から求め、表1に示す選択率は下記式(5)から求めた。また、下記表1に示すブタジエンは、1,3-ブタジエンを表す。
転化率(%)={(A-B)/A}×100 ・・・(4)
(上記式(4)において、Aは供給した気体中の1-ブテンの重量を表し、Bは排出される気体及び液体中の1-ブテンの重量を表す。)
選択率(%)={C/D}×100 ・・・(5)
(上記式(5)において、Cは排出される気体及び液体における選択率を求める物質の重量を表し、Dは排出される気体及び液体における窒素及び1-ブテンを除く物質の総重量を表す。)
【0039】
実施例2
プロトン型ベータ型ゼオライト粉末の代わりに、プロトン型Y型ゼオライト(東ソー株式会社製、商品名:HSZ-372HUA,SiO/Alモル比28)を用いたこと以外、実施例1と同様の方法で、1.0wt%のPt元素(金属の状態)を含有するY型ゼオライト触媒を調製し、1,3-ブタジエンの製造(及び性能評価)を行った。結果を表1に示す。
【0040】
比較例1
アルミン酸ナトリウム0.114g、水酸化ナトリウム0.107gおよびテトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液8.68gを混合し、室温下、10分攪拌した。この混合液にテトラエトキシシラン6.93gを追加し、更に2時間、攪拌した。
【0041】
得られた白色ゲルをステンレス製オートクレーブに密閉し、170℃で攪拌しながら72時間結晶化させ、スラリー状混合液を得た。結晶化後のスラリー状混合液から白色固体を濾別し、十分量の純水で固体粒子を洗浄し、110℃で乾燥して乾燥粉末を得、更に空気流通下、550℃で20時間焼成して、白色粉末を得た。この白色粉末はXRD(日本電子製、商品名:JDX-3530、条件:Cu-Kα、45eV、200mA)の解析によりZSM-11(SiO/Alモル比31)と同定された。ZSM-11は、10員環細孔のみからなるゼオライトである。
【0042】
プロトン型ベータ型ゼオライト粉末の代わりに、前記ZSM-11を用いたこと以外、実施例1と同様の方法で、1.0wt%のPt元素(金属の状態)を含有するZSM-11型ゼオライト触媒を調製し、1,3-ブタジエンの製造(及び性能評価)を行った。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、実施例1及び2の触媒は、比較例1の触媒と比較して、合成ゴム原料として有用なブタジエン(1,3-ブタジエン)が高転化率かつ高選択率で得られた。また、ブタジエン(1,3-ブタジエン)以外の生成物として、実施例1及び2の触媒では、ナフサ分解原料として有用なn-ブタンのみが得られているのに対し、比較例1では、主にプロパンやプロピレンが生成され、n-ブタンの生成量は実施例1及び2よりも大幅に低かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の1,3-ブタジエン製造用触媒およびそれを用いた1,3-ブタジエンの製造方法は、n-ブテンを1,3-ブタジエンへ転化する際に優れた触媒性能を発現し、その触媒としての産業的価値は極めて高いものである。