(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018917
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】造形方法及び造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/112 20170101AFI20230202BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230202BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230202BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20230202BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20230202BHJP
【FI】
B29C64/112
B33Y10/00
B33Y30/00
B29C64/40
B29C64/209
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021123291
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】内藤 寛之
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA44
4F213AB12
4F213AF10
4F213AR14
4F213WA25
4F213WB01
4F213WB28
4F213WL03
4F213WL12
4F213WL25
4F213WL32
4F213WL62
4F213WL74
(57)【要約】
【課題】 着色された立体造形物を造形する場合において、立体造形物の着色領域における印刷精度が低下する課題がある。
【解決手段】 活性エネルギー線硬化型の着色インクをインクジェット方式で吐出する吐出工程Cと、吐出された着色インクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Cと、活性エネルギー線硬化型のベースインクをインクジェット方式で吐出する吐出工程Bと、吐出されたベースインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Bと、を含み、吐出工程C及び硬化工程Cを順次繰り返し且つ吐出工程B及び硬化工程Bを順次繰り返すことにより複数の層を積層して造形された着色された立体造形物の造形方法であって、吐出された着色インクが着弾することで形成された着弾領域Cは、吐出されたベースインクが着弾することで形成された着弾領域Bより小さいことを特徴とする造形方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化型の着色インクをインクジェット方式で吐出する吐出工程Cと、
吐出された前記着色インクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Cと、
活性エネルギー線硬化型のベースインクをインクジェット方式で吐出する吐出工程Bと、
吐出された前記ベースインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Bと、を含み、
前記吐出工程C及び前記硬化工程Cを順次繰り返し且つ前記吐出工程B及び前記硬化工程Bを順次繰り返すことにより複数の層を積層して造形された着色された立体造形物の造形方法であって、
吐出された前記着色インクが着弾することで形成された着弾領域Cは、吐出された前記ベースインクが着弾することで形成された着弾領域Bより小さいことを特徴とする造形方法。
【請求項2】
前記層内において、前記着弾領域C及び前記着弾領域Bが重複している領域を有する請求項1に記載の造形方法。
【請求項3】
前記層内において、前記着弾領域C上に前記着弾領域Bが重複している領域を有する請求項1に記載の造形方法。
【請求項4】
吐出された前記着色インクの液滴量Cは、吐出された前記ベースインクの液滴量Bより少ない請求項1から3のいずれか一項に記載の造形方法。
【請求項5】
吐出された前記着色インクの液滴量Cは、吐出された前記ベースインクの液滴量Bに対して70体積%以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の造形方法。
【請求項6】
吐出された前記着色インクの液滴量Cは、吐出された前記ベースインクの液滴量Bに対して50体積%以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の造形方法。
【請求項7】
前記ベースインクは、体積平均粒子径が10nm以上1000nm以下の硬質固体成分を含む請求項1から6のいずれか一項に記載の造形方法。
【請求項8】
更に、活性エネルギー線硬化型のサポートインクをインクジェット方式で吐出する吐出工程Sと、
吐出された前記サポートインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Sと、を含み、
前記吐出工程C及び前記吐出工程Sは、同一の走査において実行され、
前記吐出工程Bは、前記吐出工程C及び前記吐出工程Sを実行する走査の後の走査において実行される請求項1から7のいずれか一項に記載の造形方法。
【請求項9】
前記着色インクは、体積平均粒子径が10nm以上1000nm以下の顔料を含み、
前記顔料の含有量は、前記着色インクの質量に対して0.1質量%以上である請求項1から8のいずれか一項に記載の造形方法。
【請求項10】
前記着色インクは、実質的に硬質固体成分を含まず、
前記ベースインクは、硬質固体成分を含む請求項1から9のいずれか一項に記載の造形方法。
【請求項11】
前記着色インクは、顔料を含み、
前記ベースインクは、実質的に顔料を含まない請求項1から10のいずれか一項に記載の造形方法。
【請求項12】
活性エネルギー線硬化型の着色インクをインクジェット方式で吐出する吐出手段Cと、
吐出された前記着色インクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化手段Cと、
活性エネルギー線硬化型のベースインクをインクジェット方式で吐出する吐出手段Bと、
吐出された前記ベースインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化手段Bと、を有し、
前記吐出手段Cによる吐出及び前記硬化手段Cによる硬化を順次繰り返し且つ前記吐出手段Bによる吐出及び前記硬化手段Bによる硬化を順次繰り返すことにより複数の層を積層して造形された着色された立体造形物を造形する造形装置であって、
吐出された前記着色インクが着弾することで形成された着弾領域Cは、吐出された前記ベースインクが着弾することで形成された着弾領域Bより小さいことを特徴とする造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形方法及び造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元立体物を造形する技術として、付加製造(AM:Additive Manufacturing)と呼ばれる技術が知られている。この技術は、積層方向に薄く切った断面形状を計算し、その形状に従って各層を形成して積層することにより立体物を造形する技術である。近年、付加製造技術の中でも、インクジェットヘッドを用いて活性エネルギー線硬化型組成物を必要箇所に配置し、配置された活性エネルギー線硬化型組成物を光照射装置等で硬化させることにより三次元の立体物を造形するマテリアルジェッティング方式が注目されている。
【0003】
マテリアルジェッティング方式は主に試作目的で利用されており、硬化物には、延伸性、耐衝撃性、耐熱性等の各種特性が要求される。これら特性を向上させる方法として、フィラー等の固体成分を活性エネルギー線硬化型組成物に添加する方法が知られている。
【0004】
また、活性エネルギー線硬化型組成物に染料又は顔料などの色材を添加することで着色された硬化物を作製することも可能である。
【0005】
特許文献1には、着色インクまたは透明インクから形成された領域を含む層を積層した加飾層を形成することで立体造形物を造形する形成部を備え、上記形成部は、上記加飾層内全体において、同じインクによって形成され且つ隣接している層同士が重畳している重畳領域と、該インクによって形成する該重畳領域以外の領域であって、該インクによって形成され且つ隣接している層同士が重畳しない非重畳領域とを比較し、重畳領域を非重畳領域よりも単位容積あたりのインクの吐出容積が小さくなるように形成することを特徴とする立体物造形装置が開示されている。本開示によれば、積層方向に隣り合う上下の層に関して、各層に形成されているカラー加飾部分同士が重畳することで重畳部分が所望の色調よりも濃く視認されてしまうという問題、及び各層に形成されているカラー加飾部分同士が離間することで上層のカラー加飾部分と下層のカラー加飾部分との境界に色抜けが生じているように見える問題などの着色領域における色調の不具合が無い立体物を提供することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、活性エネルギー線硬化型のインクをインクジェット方式で吐出することにより着色された立体造形物を造形する場合において、立体造形物の着色領域における印刷精度が低下する課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、活性エネルギー線硬化型の着色インクをインクジェット方式で吐出する吐出工程Cと、吐出された前記着色インクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Cと、活性エネルギー線硬化型のベースインクをインクジェット方式で吐出する吐出工程Bと、吐出された前記ベースインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Bと、を含み、前記吐出工程C及び前記硬化工程Cを順次繰り返し且つ前記吐出工程B及び前記硬化工程Bを順次繰り返すことにより複数の層を積層して造形された着色された立体造形物を造形する造形方法であって、吐出された前記着色インクが着弾することで形成された着弾領域Cは、吐出された前記ベースインクが着弾することで形成された着弾領域Bより小さいことを特徴とする造形方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、活性エネルギー線硬化型のインクをインクジェット方式で吐出することにより着色された立体造形物を造形する場合において、着色領域における印刷精度が優れる立体造形物を製造できる造形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、着色された立体造形物を製造する従来のプロセスの一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、着色された立体造形物を製造する本発明のプロセスの一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る造形装置を示す概略図である。
【
図4】
図4は、実施例1において造形された2次元コードを有する立体造形物の写真である。
【
図5】
図5は、比較例3において造形された2次元コードを有する立体造形物の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.造形方法
本発明の造形方法は、活性エネルギー線硬化型の着色インク(以降、「着色インク」とも称する)をインクジェット方式で吐出する吐出工程Cと、吐出された着色インクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Cと、活性エネルギー線硬化型のベースインク(以降、「ベースインク」とも称する)をインクジェット方式で吐出する吐出工程Bと、吐出されたベースインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Bと、を含む。また、本発明の造形方法は、必要に応じて他の工程を含んでもよく、例えば、活性エネルギー線硬化型のサポートインク(以降、「サポートインク」とも称する)をインクジェット方式で吐出する吐出工程Sと、吐出されたサポートインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程Sと、を更に含んでもよい。なお、吐出工程Cにおいて吐出された着色インクは着弾することで着弾領域Cを形成し、吐出工程Bにおいて吐出されたベースインクは着弾することで着弾領域Bを形成し、吐出工程Sにおいて吐出されたサポートインクは着弾することで着弾領域Sを形成する。
また、本発明の造形方法は、吐出工程C及び硬化工程Cを順次繰り返し且つ吐出工程B及び硬化工程Bを順次繰り返す。これにより複数の層を積層して造形された着色された立体造形物が造形される。なお、吐出工程C及び硬化工程Cの順次繰り返し(以降、「繰り返し工程C」とも称する)並びに吐出工程B及び硬化工程Bの順次繰り返し(以降、「繰り返し工程B」とも称する)は、それぞれ独立して実行されてもよいが、繰り返し工程C及び繰り返し工程Bにおける一部工程(例えば、硬化工程C及び硬化工程B)が同時に実行されてもよい。
【0011】
本開示において、上記の「活性エネルギー線硬化型」とは、活性エネルギー線を照射されることで硬化して硬化物を形成する性質を表す。また、「硬化」とは、ポリマーが形成されることを表すが、固化する場合に限られず、増粘する場合や、固化と増粘がともに生じる場合なども含まれる。また、「硬化物」とは、ポリマーを表すが、固体に限られず、増粘物や、固体と増粘物の混在物なども含まれる。
本開示において、上記の「活性エネルギー線硬化型のベースインク」とは、硬化することで所望の立体造形物(以降、「モデル部」とも称する)の形状を形成するインクを表す。また、「活性エネルギー線硬化型の着色インク」とは、硬化することでベースインクにより形成される領域の色とは異なる色を呈する着色領域をモデル部中に形成するインクを表す。また、「活性エネルギー線硬化型のサポートインク」とは、硬化することでモデル部を支持するサポート部の形状を形成するインクを表す。
本開示において、上記の「着弾領域C」とは、1ボクセルに対して吐出された着色インクが着弾することで形成される領域を表す。また、「着弾領域B」とは、1ボクセルに対して吐出されたベースインクが着弾することで形成される領域を表す。「着弾領域S」とは、1ボクセルに対して吐出されたサポートインクが着弾することで形成される領域を表す。
本開示において、上記の「層」は、略同一の高さに位置する複数の着弾領域C及び着弾領域Bが集合した領域であり、例えば、所定の場所Pで所定の操作(例えば、着弾領域Cの形成、又は後述する平滑化工程(ローラ処理等)など)が行われてから次に所定の場所P’(所定の場所Pと高さ方向の位置のみ異なる場所)で所定の操作が行われるまでの間に形成された複数の着弾領域C及び着弾領域Bが集合した領域を表す。
【0012】
本発明の造形方法において、吐出された着色インクが着弾することで形成された着弾領域Cは、吐出されたベースインクが着弾することで形成された着弾領域Bより小さい。着弾領域Cが着弾領域Bより小さいことで、着色領域における印刷精度が優れる立体造形物を製造することができる。なお、本開示において「着色領域における印刷精度が優れる」とは、着色領域により表現されるものの視認性が高いことを表す。但し、本開示において「視認性」とは、光の作用を利用して認識又は識別されやすい性質を表し、視覚により認識されやすい性質に限定されず、光学機器等を用いた装置により識別されやすい性質なども含まれるものとする。なお、着色領域が光学機器等を用いた装置により識別されなかったとしても、従来の方法により製造された着色領域と比較して視覚により認識されやすい性質を有するのであれば「着色領域における印刷精度が優れる」ものとする。
【0013】
着弾領域Cが着弾領域Bより小さいことで、着色領域における印刷精度が優れる立体造形物を製造することができる理由について、
図1~2を参照して説明する。
図1は、着色された立体造形物を製造する従来のプロセスの一例を示す模式図である。
図2は、着色された立体造形物を製造する本発明のプロセスの一例を示す模式図である。
マテリアルジェッティング方式で立体造形物を製造する場合、立体造形物の高さ方向の形状を形作る必要があるため、インクジェット方式で二次元の画像を形成する場合と比較して、単位面積あたりに吐出されるインク量(言い換えると、吐出されるインクの液適量)が多くなる。このため、着色インクとベースインクを用いることで着色された立体造形物を製造する場合において、従来法に従って着色インクとベースインクの吐出量を略同量にすると、着弾後の着色インクにより形成される着弾領域Cにおいて滲みにより生じる領域が大きくなりやすく、着色領域における印刷精度が低下する課題がある。
具体的には、一例として
図1に示す通り、ステージ37上に形成された複数の層L1~L4の最上部の層L4に対し、着色インクの液滴d1の液適量Cがベースインクの液滴d2の液適量Bと略同量になるように吐出された場合、略同面積の着弾領域C(D1)及び着弾領域B(D2)が形成されるが、着弾領域C(D1)の端部に広範な滲み領域Eが生じてしまうため、着色領域における印刷精度が優れる立体造形物を製造することは困難であった。
一方で、着弾領域Cが着弾領域Bより小さい本発明の造形方法により着色された立体造形物を製造する場合、着弾後の着色インクにより形成される着弾領域Cにおいて滲みが生じたとしても滲みにより生じる領域が小さく、着色領域における印刷精度が向上する。
具体的には、一例として
図2に示す通り、ステージ37上に形成された複数の層L1~L4の最上部の層L4に対し、着色インクの液滴d1の液適量Cがベースインクの液滴d2の液適量Bより少なくなるように吐出された場合、着弾領域B(D2)より小さい面積の着弾領域C(D1)が形成され、着弾領域C(D1)の端部における滲み領域の発生も抑制されるため、着色領域における印刷精度が優れる立体造形物を製造することができる
これにより、例えば、二次元コードのような微細な形状を有する画像情報を着色領域として立体造形物に付与した場合であっても、着色領域における印刷精度が優れるため、読み取り精度に優れた二次元コードが付与された立体造形物を製造することができる。
なお、本開示において、着弾領域Cが着弾領域Bより小さいことは、面積を基準として判断する。具体的には、1ボクセルに対して吐出された着色インクが着弾することで形成される領域を吐出方向から平面視した場合における面積を着弾領域Cの面積とし、1ボクセルに対して吐出されたベースインクが着弾することで形成される領域を吐出方向から平面視した場合における面積を着弾領域Bの面積とし、着弾領域Cの面積が着弾領域Bの面積より小さいか否かを判断する。
また、本開示において「液適量」とは、1ボクセルに吐出されたインクの体積量を表す。
【0014】
上記のように、着弾領域Cの面積は着弾領域Bの面積より小さい。具体的には、着弾領域Cの面積は着弾領域Bの面積に対して50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることが更に好ましい。50%以下であることで、着色領域における印刷精度がより向上する。また、着弾領域Cの面積は着弾領域Bの面積に対して5%以上であることが好ましい。
【0015】
上記のように、吐出された着色インクの液適量Cは吐出されたベースインクの液適量Bより少ないことが好ましい。具体的には、着色インクの液滴量Cは吐出されたベースインクの液滴量Bに対して70体積%以下であることがより好ましく、50体積%以下であることが更に好ましい。70体積%以下であることで、着色領域における印刷精度がより向上する。また、着色インクの液滴量Cは吐出されたベースインクの液滴量Bに対して10体積%以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の造形方法は、層内において着弾領域C及び着弾領域Bが重複している領域を有するように(着色領域が、着弾領域Cだけでなく着弾領域Bも混在する領域となるように)実行されることが好ましい。層内において着弾領域C及び着弾領域Bが重複している領域を有することで、立体造形物の全域に着弾領域Bが配置されることになる。これにより、層内において着弾領域C及び着弾領域Bが重複していない場合(着色領域が、着弾領域Bより小さい着弾領域Cのみで形成されている場合)と比較して、立体造形物の強度が向上する効果、及び立体造形物の造形精度が向上する効果を得られる。なお、着色領域が大きい場合(例えば、着色領域がベタ画像状である場合)、層内において着弾領域C及び着弾領域Bが重複していないと、立体造形物の強度低下及び造形精度低下がより生じやすくなるので、層内において着弾領域C及び着弾領域Bが重複している領域を有することにより得られる効果が顕著になる。
また、本発明の造形方法は、層内において着弾領域C上に着弾領域Bが重複している領域を有するように実行されることがより好ましい。層内において着弾領域C上に着弾領域Bが重複している領域を有することで、着弾領域Bが形成された後において後述する平滑化工程(ローラ処理等)が実行されたとしても、着弾領域Cに対して平滑化手段(ローラ等)が直接接触しないため、着弾領域Cが平滑化手段(ローラ等)によって引き伸ばされること等に起因する着色領域における印刷精度の低下を抑制することができる効果を更に得られる。
具体的には、一例として
図2に示す通り、ステージ37上に形成された複数の層L1~L4の最上部の層L4に対し、着色インクの液滴d1を吐出した後、着色インクの液滴d1が吐出された領域上にベースインクの液滴d2を更に吐出することで、層内において着弾領域C(D1)及び着弾領域B(D2)が重複している領域を形成する。
【0017】
(1)吐出工程C
吐出工程Cは、活性エネルギー線硬化型の着色インクをインクジェット方式で吐出する工程である。具体的には、昇降機能を有するステージ上又は当該ステージ上に形成された層上等に着色インクをインクジェット方式で吐出し、吐出された着色インクにより着弾領域Cを形成する。なお、着弾領域Cは集合して液膜を形成してもよい。
【0018】
(i)活性エネルギー線硬化型の着色インク
活性エネルギー線硬化型の着色インクは、ラジカル重合性化合物及び色材を含有する。また、着色インクは、必要に応じて重合開始剤、界面活性剤、重合禁止剤、分散剤、及びその他成分等を含んでもよい。
【0019】
(A)ラジカル重合性化合物
「ラジカル重合性化合物」とは、ラジカル重合によりポリマーを形成することができる化合物を表し、典型的には1つ以上のラジカル重合性官能基を有するモノマー単位としての化合物である。ラジカル重合性化合物としては、例えば、ラジカル重合性単官能モノマー及びラジカル重合性多官能モノマー等のラジカル重合性モノマー、並びにラジカル重合性オリゴマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ラジカル重合性単官能モノマー、ラジカル重合性多官能モノマー、及びラジカル重合性オリゴマーはいずれも、活性エネルギー線によってラジカル重合して得られる硬化物のモノマー単位である。すなわち、本発明において「ラジカル重合性モノマー」とは、1つ以上のラジカル重合性官能基を有するモノマー分子を表し、「ラジカル重合性オリゴマー」とは、1つ以上のラジカル重合性官能基を有するオリゴマー分子を表す。「オリゴマー」とは、少数のモノマーに由来する構造単位を有する分子を表し、当該構造単位の数は、当該モノマーの構造やオリゴマーの用途などにより異なり得るが、典型的には2以上20以下であることが好ましい。
【0020】
重合性化合物としてラジカル重合性化合物を用いた場合、カチオン重合性化合物を用いた場合と比べて、高粘度化が抑制され、重合速度を向上させることができるので、好適にインクジェット方式に用いることができる。
また、ラジカル重合性化合物としてラジカル重合性モノマーを用いることで、着色インクの高粘度化をより抑制することができる。
また、ラジカル重合性化合物としてラジカル重合性単官能モノマーを用いることで、着色インクの高粘度化を更に抑制することができる。
また、ラジカル重合性化合物としてラジカル重合性オリゴマーを用いることで、硬化物の硬化収縮を低減することができ、また、硬化物の延伸性及び靭性も向上させることができる。
【0021】
ラジカル重合性単官能モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ヒドロキシエチルアクリルアミド、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ラジカル重合性多官能モノマーとしては、例えば、2官能モノマー、3官能以上のモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
2官能のラジカル重合性多官能モノマーとしては、例えば、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化オペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
3官能以上のラジカル重合性多官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタ(メタ)アクリレートエステルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ラジカル重合性オリゴマーとしては、例えば、1官能以上6官能以下のモノマーであることが好ましく、2官能以上3官能以下のモノマーであることがより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、ラジカル重合性オリゴマーとしては、ウレタン基を有するものを用いることで、ポリマー中における側鎖間で相互作用が生じ、硬化物の強靭性が向上する。また、ウレタン基を有するラジカル重合性オリゴマーとしては、ウレタンアクリレートオリゴマーであることがより好ましい。
【0026】
ラジカル重合性オリゴマーとしては、市販品を用いることができ、例えば、UV-6630B(UV硬化型ウレタンアクリレートオリゴマー、分子量:3000、重合性官能基数:2、日本合成化学株式会社製)、CN983NS(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、重合性官能基数:2、サートマー社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ラジカル重合性化合物としては、上記の通り、アクリル系モノマー、メタクリル系モノマー、カルボン酸ビニルエステル系モノマーなどが挙げられるが、アクリル系モノマーを用いることが好ましい。アクリル系モノマーは、着色インクの高粘度化を抑制させることができ、重合速度を向上させることができるので、好適にインクジェット方式に用いることができる。
アクリル系モノマー以外のラジカル重合性単官能モノマーやエポキシ系モノマーを用いる場合は、アクリル系モノマーと併用することが好ましい。エポキシ系モノマーとしては、例えば、ビス(3,4エポキシシクロヘキシル)、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどが挙げられる。なお、エポキシ系モノマーをアクリル系モノマーと併用する場合、更にオキセタンモノマーも併用することが好ましい。
【0028】
ラジカル重合性化合物の含有量は、着色インクの質量に対して、50.0質量%以上であることが好ましく、60.0質量%以上であることがより好ましく、70.0質量%以上であることが更に好ましく、80.0質量%以上であることが特に好ましい。また、99.0質量%以下であることが好ましく、95.0質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
ラジカル重合性単官能モノマーの含有量は、着色インクの質量に対して、30.0質量%以上であることが好ましく、40.0質量%以上であることがより好ましい。また、99.0質量%以下であることが好ましく、95.0質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
ラジカル重合性多官能モノマーの含有量は、着色インクの質量に対して、10.0質量%以上であることが好ましい。また、40.0質量%以下であることが好ましく、30.0質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
ラジカル重合性オリゴマーの含有量は、着色インクの質量に対して、1.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることがより好ましい。また、40.0質量%以下であることが好ましく、30.0質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
(B)色材
色材は、上記の着色領域を形成するために着色インクに含有される。
色材としては、着色インク中で溶解又は安定に分散可能な染料又は顔料であることが好ましく、耐久性及び安全性の観点から顔料であることがより好ましい。なお、本開示において、顔料は、後述する硬質固体成分とは機能的に区別されるものであり、硬質固体成分は顔料には含まれないものとする。
【0033】
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。また、顔料として、混晶を使用しても良い。
無機顔料としては、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。
顔料の体積平均粒子径は、顔料の分散安定性及び着色領域における画像濃度の観点から、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0034】
染料としては、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0035】
色材の含有量は、着色インクの質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。0.1質量%以上であることで、一般的な造形方法と比較して着色インクの吐出量が少ない本開示の造形方法であったとしても着色領域における画像濃度を十分に向上させることができる。
【0036】
(C)重合開始剤
重合開始剤としては、光などの活性エネルギー線の照射によりラジカル又はカチオンを生成する任意の物質を用いることができる。なお、活性エネルギー線としては、例えば、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線、γ線などが挙げられる。重合開始剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、重合開始剤の含有量は、着色インクの質量に対して0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。
ラジカル性光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2、2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-クロロベンゾフェノン、p,p-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
カチオン性光重合開始剤としては、例えば、市販品として、UVI-6950、UVI-6970、UVI-6974、UVI-6990(以上、ユニオンカーバイド社製)、アデカオプトマーSP-150、SP-151、SP-170、SP-172(以上、旭電化工業社製)、Irgacure 261(以上、チバスペシャルティケミカルズ社製)、CI-2481、CI-2624、CI-2639、CI-2064(以上、日本曹達社製)、CD-1010、CD-1011、CD-1012(以上、サートマー社製)、DTS-102、DTS-103、NAT-103、NDS-103、TPS-103、MDS-103、MPI-103、BBI-103(以上、みどり化学社製)、PCI-061T、PCI-062T、PCI-020T、PCI-022T(以上、日本化薬社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
(D)界面活性剤
界面活性剤としては、例えば、分子量200以上5000以下の化合物であることが好ましく、具体的には、PEG型非イオン界面活性剤[ノニルフェノールのエチレンオキサイド(以下EOと略記)1~40モル付加物、ステアリン酸EO1~40モル付加物等]、多価アルコール型非イオン界面活性剤(ソルビタンパルミチン酸モノエステル、ソルビタンステアリン酸モノエステル、ソルビタンステアリン酸トリエステル等)、フッ素含有界面活性剤(パーフルオロアルキルEO1~50モル付加物、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベタイン等)、変性シリコーンオイル[ポリエーテル変性シリコーンオイル、(メタ)アクリレート変性シリコーンオイル等]などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(E)重合禁止剤
重合禁止剤としては、例えば、フェノール化合物[ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,2-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン等]、硫黄化合物[ジラウリルチオジプロピオネート等]、リン化合物[トリフェニルフォスファイト等]、アミン化合物[フェノチアジン等]などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(F)分散剤
分散剤は、顔料などの固体成分の表面に吸着することで、固体成分を着色インク中に安定して分散させる機能を有する添加剤である。分散剤としては、適宜公知のものを用いることができる。
【0040】
(G)その他成分
その他成分としては、例えば、有機溶媒、水、硬質固体成分などが挙げられる。
【0041】
着色インクは、有機溶媒を含んでもよいが、可能であれば含まない方が好ましい。有機溶媒、特に揮発性の有機溶媒を含まない(VOC(Volatile Organic Compounds)フリー)組成物であれば、当該組成物を扱う場所の安全性がより高まり、環境汚染防止を図ることも可能となる。なお、「有機溶媒」とは、例えば、エーテル、ケトン、キシレン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、トルエンなどの一般的な非反応性の有機溶媒を意味するものであり、重合性化合物とは区別すべきものである。また、有機溶媒を「含まない」とは、実質的に含まない(例えば有機溶媒の特性等が着色インクに影響する程度には含まない)ことを意味し、着色インクの質量に対して0.1質量%未満の含有量であることが好ましい。
【0042】
着色インクは、水を含んでもよいが、可能であれば含まない方が好ましい。また、水を「含まない」とは、実質的に含まない(例えば水の特性等が着色インクに影響する程度には含まない)ことを意味し、着色インクの質量に対して1.0質量%未満の含有量であることが好ましい。水の含有量が一定量以下であることで、硬化速度の低下、硬化強度の低下、吸水性の増加、後述するサポートインクにより形成されるサポート部との分離性低下等を抑制することができる。
【0043】
着色インクは、後述する硬質固体成分を含んでもよいが、可能であれば含まない方が好ましい。着色インクは、上記の通り、固体成分である色材として顔料を含むことが好ましいが、更に追加の固体成分として硬質固体成分を含有する場合、顔料及び硬質固体成分を共に着色インク中で安定に分散させる条件の検討が必要となり、着色インクの処方上及び製造上の難易度が高まってしまうためである。また、硬質固体成分を「含まない」とは、実質的に含まない(例えば硬質固体成分の特性等が着色インクに影響する程度には含まない)ことを意味し、着色インクの質量に対して0.1質量%未満の含有量であることが好ましい。
なお、着色インクに硬質固体成分を含まない場合、着色インクにより形成される立体造形物における領域(着色領域)において強度の低下が想定されるが、上記の通り、層内において着弾領域C及び着弾領域Bが重複している領域を有するように造形方法が実行されることで、立体造形物の全域に硬質固体成分を含むベースインクに由来する着弾領域Bが配置されることになる。これにより、着色インクにおける分散安定性の向上と着色領域における強度低下の抑制とを両立させることができる。
【0044】
(H)着色インクの物性
インクジェット方式で好適に使用可能な着色インクは、ノズルからの吐出性などに鑑みると、粘度が低いことが好ましい。したがって、一態様において、本発明の着色インクの粘度は、25℃環境下において、1000mPa・s以下が好ましく、200mPa・s以下がより好ましく、150mPa・s以下が更に好ましい。また、吐出性、造形精度の観点から、25℃環境下において、9mPa・s以上であることが好ましい。なお、造形中は、インクジェットヘッドやインク流路の温度を調節することにより、着色インクの粘度を調整することが可能である。
なお、上記粘度は常法により計測することができ、例えばJIS Z 8803に記載の方法などを用いることができる。他には、例えば、東機産業株式会社製コーンプレート型回転粘度計VISCOMETER TVE-22Lにより、コーンロータ(1°34´×R24)を使用し、回転数50rpm、恒温循環水の温度を20℃~65℃の範囲で適宜設定して測定することができる。循環水の温度調整にはVISCOMATE VM-150IIIを用いることができる。
【0045】
また、インクジェット用途に用いることができる着色インクは、吐出安定性、造形精度などに鑑みると、表面張力が25℃環境下において20~40mN/mの範囲にあることが好ましい。したがって、一態様において、本発明の着色インクは25℃環境下において20~40mN/mの表面張力を有している。
なお、表面張力は常法により測定することができ、かかる測定方法としては、例えばプレート法、リング法、ペンダントドロップ法などが挙げられる。
【0046】
(I)着色インクの収容容器
着色インクの収容容器は、着色インクが収容された状態の容器を意味する。着色インクが収容された容器は、カートリッジやボトルとして使用することができ、これにより、搬送や交換等の作業において、着色インクに直接触れる必要がなくなり、手指や着衣の汚れを防ぐことができる。また、着色インクへのごみ等の異物の混入を防止することができる。また、容器それ自体の形状や大きさ、材質等は、用途や使い方に適したものとすればよく、特に限定されないが、その材質は光を透過しない遮光性材料であるか、または容器が遮光性シート等で覆われていることが望ましい。
【0047】
(2)硬化工程C
硬化工程Cは、吐出された着色インクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる工程である。具体的には、吐出された着色インクが着弾することで形成された着弾領域Cに対して、着色インクに含まれる重合開始剤に応じた活性エネルギー線を照射する。
【0048】
着色インクを硬化させるために用いる活性エネルギー線としては、光が好ましく、特に波長220nm~400nmの紫外線が好ましい。紫外線の他、電子線、α線、β線、γ線、X線等の、組成物中の重合性成分の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されない。特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。また、紫外線照射の場合、環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV-LED)及び紫外線レーザダイオード(UV-LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、紫外線光源として好ましい。
【0049】
(3)吐出工程B
吐出工程Bは、活性エネルギー線硬化型のベースインクをインクジェット方式で吐出する工程である。具体的には、昇降機能を有するステージ上又は当該ステージ上に形成された層上、これらの上に形成された着色インクが着弾することで形成された着弾領域C上等にベースインクをインクジェット方式で吐出し、吐出されたベースインクにより着弾領域Bを形成する。なお、着弾領域Bは集合して液膜を形成してもよい。
【0050】
(i)活性エネルギー線硬化型のベースインク
活性エネルギー線硬化型のベースインクは、ラジカル重合性化合物及び硬質固体成分を含有する。また、ベースインクは、必要に応じて重合開始剤、界面活性剤、重合禁止剤、分散剤、及びその他成分等を含んでもよい。
なお、以降において、ベースインクに含まれる各種成分について説明するが、ラジカル重合性化合物、重合開始剤、界面活性剤、重合禁止剤、及び分散剤については、上記の着色インクと同様に使用することができるため、これらの説明を省略する。また、ベースインクの物性も着色インクの物性と同様であることが好ましく、ベースインクの収容容器も着色インクの収容容器と同様であることが好ましいため、これらの説明も省略する。
【0051】
(A)硬質固体成分
硬質固体成分は、ベースインクの硬化物の弾性率、強度、及び耐衝撃性等を向上させるために含有される。
本開示において「硬質」とは、外部からの応力により、形状が変化し難い性質を表す。硬質であるか否かは、当業者であれば当該技術分野において知られた判断基準に基づいて判断することができ、かかる判断基準としては、例えば、ビッカース硬度、弾性率などが挙げられる。好ましい一態様において、硬質の固体材料の弾性率は4GPa以上であり、より好ましくは5GPa以上である。また、弾性率は、例えば、JIS K 7161及び、JIS K 7171、ISO 14577などに従って求めることができる。
本開示において「固体成分」とは、インク等の液体中において固体状態を維持可能な成分を表す。また、固体成分は、液体中において粒子の形態であることが好ましい。更に、固体成分は、液体中において分散されている状態であることが好ましい。
なお、本開示において、硬質固体成分は、上記の色材とは機能的に区別されるものであり、例えば、固体成分の色材である顔料は硬質固体成分には含まれないものとする。
【0052】
硬質固体成分としては、例えば、ガラス、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏繊維、アルミボレート、アラミド繊維、カーボンファイバー(炭素繊維)、グラスファイバー(ガラス繊維)、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ポリオキシベンゾイルウイスカー、各種樹脂などが挙げられる。
【0053】
また、ガラス、シリカ、アルミナなどの表面に水酸基を有する硬質固体成分は、シランカップリング剤を用いて表面改質されたものを使用することが好ましい。
シランカップリング剤としては特に制限は無く、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、スチリル p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、などが挙げられる。また、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらのなかでも、ビニルメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランのように、不飽和二重結合を有するシランカップリング剤が特に好ましい。
【0054】
硬質固体成分の含有量は、ベースインクの体積に対して0.5体積%以上40.0体積%以下であることが好ましく、1.0体積%以上20.0体積%以下であることがより好ましい。硬質固体成分の含有量がベースインクの体積に対して0.5体積%以上であることにより、硬質固体成分の特性を立体造形物により反映することができる。また、硬質固体成分の含有量がベースインクの体積に対して40.0体積%以下であることにより立体造形物が脆くなることを抑制することができる。
【0055】
硬質固体成分の形状としては特に制限は無く、球状でも棒状でも不定形のものでもよく、中空粒子、多孔質粒子、コア-シェル構造型粒子などであってもよい。
【0056】
硬質固体成分の体積平均粒径は、10nm以上1000nm以下が好ましく、120nm以上300nm以下がより好ましい。
硬質固体成分の体積平均粒径が10nm以上であれば、硬質固体成分の特性を立体造形物に十分に反映することができる。また、1000nm以下であれば、インクジェット方式による吐出安定性を向上させることができる。更に、ベースインク中における硬質固体成分の分散安定性を考慮すると、300nm以下であることがより好ましい。
【0057】
(B)その他成分
その他成分としては、例えば、有機溶媒、水、色材などが挙げられる。なお、有機溶媒、水に関しては着色インクと同様であるため、これらの説明を省略する。
【0058】
ベースインクは、上記の固体成分の色材である顔料を含んでもよいが、可能であれば含まない方が好ましい。ベースインクは、上記の通り、硬質固体成分を含むが、更に追加の固体成分として顔料を含有する場合、顔料及び硬質固体成分を共にベースインク中で安定に分散させる条件の検討が必要となり、ベースインクの処方上及び製造上の難易度が高まってしまうためである。また、顔料を「含まない」とは、実質的に含まない(例えば顔料がベースインクの色調に影響する程度には含まない)ことを意味し、ベースインクの質量に対して0.1質量%未満の含有量であることが好ましい。
【0059】
(4)硬化工程B
硬化工程Bは、吐出されたベースインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる工程である。具体的には、吐出されたベースインクが着弾することで形成された着弾領域Bに対して、ベースインクに含まれる重合開始剤に応じた活性エネルギー線を照射する。なお、ベースインクを硬化させるために用いる活性エネルギー線としては、着色インクを硬化させるために用いる活性エネルギー線と同様である。
【0060】
(5)吐出工程S
吐出工程Sは、活性エネルギー線硬化型のサポートインクをインクジェット方式で吐出する工程である。具体的には、昇降機能を有するステージ上又は当該ステージ上に形成された層上等にサポートインクをインクジェット方式で吐出し、吐出されたサポートインクにより着弾領域Sを形成する。なお、着弾領域Sは集合して液膜を形成してもよい。
【0061】
吐出工程Sは、上記の吐出工程Cと同一の走査において実行され、吐出工程C及び吐出工程Sの後の走査において吐出工程Bが実行されることが好ましい。一般に、モデル部を形成するインクの吐出とサポート部を形成するインクの吐出は、モデル部及びサポート部の界面を明確に形成させる観点から、異なる走査において実行されることが好ましく、少なくとも2以上の走査が実行されていた。一方で、本発明の造形方法では、モデル部を形成するインクとして、着色インク及びベースインクを用いるため、従来の製造方法と比較して使用するインクの種類が増えるが、着色インクにより形成される領域である着弾領域Cとサポートインクにより形成される領域である着弾領域Sが直接接触して界面を形成する場合が少ない又は無いため(例えば、
図2に示す通り、着弾領域C上に前記着弾領域Bが重複しているため)、吐出工程C及び吐出工程Sが同一の走査において実行されてもよい。そのため、本発明の造形方法では、従来と比較してモデル部を形成するインクの種類が増えるものの、造形時における走査の回数は従来と変わらずに実行可能であり、生産性が維持される。
【0062】
(i)活性エネルギー線硬化型のサポートインク
活性エネルギー線硬化型のサポートインクは、サポートインクの硬化物に対して水等を付与する処理を施した場合に崩壊性を有し、造形後のモデル部からサポート部を容易に除去できる性質を有する。
サポートインクとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、特開2018-70731などに開示のサポートインクを用いることができる。
【0063】
(6)硬化工程S
硬化工程Sは、吐出されたサポートインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる工程である。具体的には、吐出されたサポートインクが着弾することで形成された着弾領域Sに対して、サポートインクに含まれる重合開始剤に応じた活性エネルギー線を照射する。なお、サポートインクを硬化させるために用いる活性エネルギー線としては、着色インクを硬化させるために用いる活性エネルギー線と同様である。
【0064】
2.造形装置
本発明の造形装置は、上記の造形方法を実行する装置であって、活性エネルギー線硬化型の着色インクをインクジェット方式で吐出する吐出手段Cと、吐出された着色インクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化手段Cと、活性エネルギー線硬化型のベースインクをインクジェット方式で吐出する吐出手段Bと、吐出されたベースインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化手段Bと、を有する。また、本発明の造形装置は、必要に応じて他の手段を有してもよく、例えば、活性エネルギー線硬化型のサポートインクをインクジェット方式で吐出する吐出手段Sと、吐出されたサポートインクに対して活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化手段Sと、を更に有してもよい。なお、吐出手段Cにより吐出された着色インクは着弾することで着弾領域Cを形成し、吐出手段Bにより吐出されたベースインクは着弾することで着弾領域Bを形成し、吐出手段Sにより吐出されたサポートインクは着弾することで着弾領域Sを形成する。
また、本発明の造形装置は、吐出手段Cによる吐出及び硬化手段Cによる硬化を順次繰り返し且つ吐出手段Bによる吐出及び硬化手段Bによる硬化を順次繰り返す。これにより複数の層を積層して造形された着色された立体造形物が造形される。なお、吐出手段Cによる吐出及び硬化手段Cによる硬化の順次繰り返し(以降、「繰り返し工程C」とも称する)並びに吐出手段Bによる吐出及び硬化手段Bによる硬化の順次繰り返し(以降、「繰り返し工程B」とも称する)は、それぞれ独立した手段により実行されてもよいが、繰り返し工程C及び繰り返し工程Bにおいて用いられる一部手段(例えば、硬化手段C及び硬化手段B)が同一の手段により実行されてもよい。
【0065】
以下、造形装置の一例について
図3を用いて詳細に説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る造形装置を示す概略図である。造形装置30は、ヘッドユニット31,32、紫外線照射機33、ローラー34、キャリッジ35、及びステージ37を有する。ヘッドユニット31は、着色インク及びベースインクをそれぞれ独立して吐出する(
図3では、吐出された着色インク又はベースインクの液滴を1と表示する)。ヘッドユニット32は、サポートインクの液滴2を吐出する。紫外線照射機33は、吐出された着色インク、ベースインク、及びサポートインクに紫外線を照射して硬化する。ローラー34は、着色インク、ベースインク、及びサポートインクの液膜を平滑化する。キャリッジ35は、ヘッドユニット31,32等の各手段を、
図1におけるX方向に往復移動させる。ステージ37は、基板36を、
図1に示すZ方向、及び
図1の奥行方向であるY方向に移動させる。尚、Y方向への移動は、ステージ37ではなくキャリッジ35において行なってもよい。
【0066】
着色インクが色の数に対応して複数種類ある場合、ヘッドユニット31は、各色の色インクがそれぞれ独立して吐出可能な構成になっている。
ヘッドユニット31,32におけるノズルとしては、公知のインクジェットプリンターにおけるノズルを好適に使用することができる。
【0067】
ローラー34に使用できる金属としては、SUS300系、400系、600系、六価クロム、窒化珪素、及びタングステンカーバーイドなどが例示される。また、これらのいずれかをフッ素やシリコーンなどで被膜コーティングした金属を、ローラー34に使用してもよい。これらの金属のなかでも、強度、加工性の面からSUS600系が好ましい。
ローラー34を使用する場合、造形装置30は、ローラー34と造形物の面とのギャップを一定に保つため、積層回数に合わせて、ステージ37を下げながら積層する。ローラー34は紫外線照射機33に隣接している構成が好ましい。
【0068】
また、休止時のインクの乾燥を防ぐため、造形装置30には、ヘッドユニット31,32におけるノズルを塞ぐキャップなどの手段を設置してもよい。また、長時間連続使用時のノズルの詰まりを防ぐため、造形装置30には、ヘッドをメンテナンスするためのメンテナンス機構を設置してもよい。
【0069】
次に、造形装置で行われる工程について説明する。
【0070】
造形装置30のエンジンは、キャリッジ35、又はステージ37を移動させながら、入力された二次元データのうち最も底面側の断面を示す二次元データに基づいて、ヘッドユニット31から着色インクの液滴を吐出させ、更に着色インクの液滴の吐出と同一の走査において、ヘッドユニット32からサポートインクの液滴を吐出させる。その後、造形装置30のエンジンは、着色インクの液滴の吐出及びサポートインクの液滴の吐出の後の走査において、ヘッドユニット31からベースインクの液滴を吐出させる。これにより、最も底面側の断面を示す二次元データにおけるモデル部を示す画素に対応する位置に着色インク及びベースインクの液滴が配され、サポート部を示す画素に対応する位置にサポートインクの液滴が配され、隣り合う位置の液滴同士が接した液膜が形成される。
【0071】
ヘッドユニット31及び32にはヒータを設置することが好ましい。さらに、ヘッドユニット31に着色インク及びベースインクをそれぞれ独立して供給する経路と、ヘッドユニット32にサポートインクを供給する経路と、にプレヒータを設置することが好ましい。
【0072】
平滑化工程は、平滑化手段の一例であるローラー34を用いて、ステージ37上に吐出された着色インク、ベースインク、及びサポートインク等の余剰な成分を掻き取ることで表面を平滑化し層を形成する工程である。平滑化工程はZ軸方向へ着色インク、ベースインク、及びサポートインクを積層する毎に1回行われてもよいし、2乃至50回の積層毎に1回行われてもよい。平滑化工程において、ローラー34は停止していてもよいし、ステージ37の進行方向に対して正もしくは負の相対速度で回転していてもよい。またローラー34の回転速度は定速でも一定加速度、一定減速度でもよい。ローラー34の回転数は、ステージ37との相対速度の絶対値として、50mm/s以上400mm/s以下が好ましい。相対速度が小さすぎる場合、平滑化が不十分で平滑性が損なわれる。また相対速度が大きすぎる場合、装置が大型化を要し、振動などによって、吐出された液滴の位置ずれなどが発生しやすく、結果として平滑性が低下することがある。平滑化工程において、ローラー34の回転方向はヘッドユニット31,32の進行方向と逆向きであることが好ましい。
【0073】
硬化工程において、造形装置30のエンジンは、キャリッジ35により紫外線照射機33を移動させつつ、着色インク、ベースインク、及びサポートインクに含まれる光重合開始剤の波長に応じた紫外線を照射させる。これにより、造形装置30は、液膜を硬化して、層を形成する。
【0074】
最も底面側の層の形成後、造形装置30のエンジンは、ステージを一層分、下降させる。
造形装置30のエンジンは、キャリッジ35、又はステージ37を移動させながら、底面側から二つ目の断面を示す二次元画像データに基づいて、ヘッドユニット31から着色インクの液滴を吐出させ、更に着色インクの液滴の吐出と同一の走査において、ヘッドユニット32からサポートインクの液滴を吐出させる。その後、造形装置30のエンジンは、着色インクの液滴の吐出及びサポートインクの液滴の吐出の後の走査において、ヘッドユニット31からベースインクの液滴を吐出させる。これにより、最も底面側の層上に、底面側から二つ目の二次元データが示す断面形状の液膜が形成される。更に、造形装置30のエンジンは、キャリッジ35により紫外線照射機33を移動させて、液膜に紫外線を照射することにより、液膜を硬化して、最も底面側の層上に、底面側から二つ目の層を形成する。
造形装置30のエンジンは、入力された二次元データについて、底面側に近いものから順に利用して、上記と同様に、液膜の形成と、硬化と、を繰り返し、複数の層を積層させる。繰り返しの回数は、入力された二次元画像データの数、あるいは三次元モデルの高さ、形状などに応じて異なる。すべての二次元画像データを用いた造形が完了すると、サポート部に支持された状態のモデル部の造形物が得られる。
【0075】
造形装置30により造形された造形物は、モデル部及びサポート部を有する。サポート部は、造形後に造形物から除去される。除去方法としては、物理的除去、及び化学的除去がある。物理的除去では、機械的な力を加えて除去する。一方、化学的除去では、溶媒に浸漬し、サポート部を崩壊させて除去する。サポート部の除去方法としては、特に制限はないが、物理的除去では造形物が破損する可能性があるため、化学的除去がより好ましい。さらに、コストを考慮すると水に浸漬して除去する方法がより好ましい。水に浸漬して除去する方法が採用される場合、サポートインクの硬化物は、水崩壊性を有するものが選択される。
【0076】
3.立体造形物
本発明の造形方法により造形された立体造形物における機械的物性は、特に限定されないが、例えば、以下のような強度、延伸性、耐熱性、又は耐衝撃性を有していることが好ましい。なお、下記の強度、延伸性、耐熱性、又は耐衝撃性を有する立体造形物を造形する手法としては、例えば、上記の硬質固体成分を含むベースインクを用いる方法が挙げられる。
立体造形物の好ましい機械的物性としては、強度については引張最大応力が10MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましい。
延伸性については引張破断伸度が3%以上であることが好ましく、8%以上であることがより好ましい。
耐熱性については、荷重たわみ温度(HDT)が50℃以上であることが好ましい。
また、耐衝撃性はIzod衝撃強度が20J/m以上であることが好ましく、40J/m以上であることがより好ましい。
【実施例0077】
以下、本発明の例を説明するが、本発明はこれら例に何ら限定されるものではない。
【0078】
<ベースインクの調製>
イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)65質量部、2官能アクリレート(商品名:A-600、新中村化学工業株式会社製)24質量部、ウレタンアクリレートオリゴマー(商品名:紫光UV-6630B、日本合成化学株式会社製)11質量部を均一に混合した。次に、光重合開始剤としてジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(商品名:Omunirad TPO、BASF社製)4質量部を加え、均一に混合した。次に、硬質固体成分(アドマファインK180SM-C5、アドマテック株式会社製)を10質量部加え、均一に混合した。次に、フィルター(商品名:CCP-FX-C1B、ADVANTEC社製、平均孔径:3μm)を通過させて、ベースインクを得た。
【0079】
<着色インクの調製>
イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)65質量部、2官能アクリレート(商品名:A-600、新中村化学工業株式会社製)24質量部、ウレタンアクリレートオリゴマー(商品名:紫光UV-6630B、日本合成化学株式会社製)11質量部を均一に混合した。次に、光重合開始剤としてジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(商品名:Omunirad TPO、BASF社製)4質量部を加え、均一に混合した。次に、着色インク全量に対する含有量が1.0質量%となるようにカーボンブラック(商品名:MHIブラック#220、御国色素株式会社製)を加え、均一に混合した。次に、フィルター(商品名:CCP-FX-C1B、ADVANTEC社製、平均孔径:3μm)を通過させて、着色インクを得た。
【0080】
<サポートインクの調製>
アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ株式会社製)30質量部、1,5-ペンタンジオール(東京化成工業株式会社製)20質量部、ポリプロピレングリコール2(商品名:アクトコールD-1000、三井化学SKCポリウレタン株式会社製、数平均分子量:1,000)、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキシド(商品名:イルガキュア819、BASF社製)2質量部を添加し、撹拌混合してサポートインクを得た。
【0081】
<着色された立体造形物の造形>
(実施例1)
図3に示す立体造形物の造形装置において、インクジェットヘッド(商品名:MH2820、リコーインダストリー株式会社製)に通じる3つのタンクに、得られたベースインク、着色インク、及びサポートインクをそれぞれ充填した。次に、造形するモデル部の形状を、X方向の長さ10mm、Y方向の長さ10mm、及びZ方向の高さ2mmに設定し、モデル部内における着色領域を、Z方向の高さ1~1.2mmの範囲(厚み0.2mm)において、XY平面で観察した場合に細線により構成される2次元コードの形状に設定し、更に、サポート部をモデル部の周囲に設定した。その後、インクジェットヘッドから所定の条件(1/4インターレース、走査スピード:150mm/s、吐出周波数:3500kHz、600×600dpi)でベースインク、着色インク、及びサポートインクを吐出させ、更にローラーにより表面の平滑化処理を行った。具体的には、着色領域を有する層の作製において、最初の走査で着色インク及びサポートインクを吐出し、次の走査で、ベースインクを吐出した。また、このとき、層内の着弾領域C上に着弾領域Bが重複するようにベースインクを吐出した。また、吐出された着色インクの液適量Cは20pLであり、吐出されたベースインクの液適量Bは45pLであった。更に、着弾領域Cの形状は直径が0.10mmの略円状であって、着弾領域Bの形状は直径が0.20mmの略円状であった(着弾領域Cは着弾領域Bより小さかった)。
次に、紫外線照射機(装置名:SPOT CURE SP5-250DB、ウシオ電機株式会社製)で350mJ/cm
2の光量を照射してベースインク、着色インク、及びサポートインクを硬化させた。その後、これら一連の工程を繰り返して複数の層を形成した。
次に、得られた造形物を40℃、1Lの水に入れ、超音波振動を1時間行うことでサポート部を除去し、モデル部を残した。その後、モデル部を水から取り出し、室温(25℃)で24時間乾燥させることにより、2次元コードを有する立体造形物(
図4参照)を得た。
また、モデル部内における着色領域を、Z方向の高さ1~1.2mmの範囲(厚み0.2mm)において、XY平面で観察した場合に5mm×5mmのベタ画像となる形状に変更して設定した以外は上記と同様にして、ベタ画像を有する立体造形物を得た。
【0082】
(実施例2)
実施例1において、層内の着弾領域C上に着弾領域Bが重複しないようにベースインクを吐出するように変更した以外は実施例1と同様にして、2次元コードを有する立体造形物及びベタ画像を有する立体造形物を得た。
【0083】
(実施例3)
実施例1において、吐出された着色インクの液適量Cを30pLに変更した以外は実施例1と同様にして、2次元コードを有する立体造形物及びベタ画像を有する立体造形物を得た。
なお、吐出された着色インクの液適量Cを30pLに変更した結果として、着弾領域Cの形状は直径が0.13mmの略円状であった(着弾領域Cは着弾領域Bより小さかった)。
【0084】
(実施例4)
実施例2において、吐出された着色インクの液適量Cを30pLに変更した以外は実施例2と同様にして、2次元コードを有する立体造形物及びベタ画像を有する立体造形物を得た。
なお、吐出された着色インクの液適量Cを30pLに変更した結果として、着弾領域Cの形状は直径が0.13mmの略円状であった(着弾領域Cは着弾領域Bより小さかった)。
【0085】
(比較例1)
実施例1において、吐出された着色インクの液適量Cを45pLに変更した以外は実施例1と同様にして、2次元コードを有する立体造形物及びベタ画像を有する立体造形物を造形しようとしたが、着色領域におけるインク量が過剰になり、平滑化処理を行うローラーが着色領域におけるインクの硬化物と衝突したため造形できなかった。
なお、吐出された着色インクの液適量Cを45pLに変更した結果として、着弾領域Cの形状は直径が0.20mmの略円状であった(着弾領域Cは着弾領域Bと同じ大きさであった)。
【0086】
(比較例2)
比較例1において、層内の着弾領域C上に着弾領域Bが重複しないようにベースインクを吐出するように変更した以外は比較例1と同様にして、2次元コードを有する立体造形物及びベタ画像を有する立体造形物を得た。
【0087】
(比較例3)
実施例1において、吐出されたベースインクの液適量Bを25pLに変更し、吐出された着色インクの液適量Cを25pLに変更した以外は実施例1と同様にして、2次元コードを有する立体造形物(
図5参照)及びベタ画像を有する立体造形物を得た。
なお、吐出されたベースインクの液適量Bを25pLに変更した結果として、着弾領域Bの形状は直径が0.12mmの略円状であった。また、吐出された着色インクの液適量Cを25pLに変更した結果として、着弾領域Cの形状は直径が0.12mmの略円状であった(着弾領域Cは着弾領域Bと同じ大きさであった)。
【0088】
(比較例4)
比較例3において、層内の着弾領域C上に着弾領域Bが重複しないようにベースインクを吐出するように変更した以外は比較例3と同様にして、2次元コードを有する立体造形物及びベタ画像を有する立体造形物を得た。
【0089】
次に、得られた2次元コードを有する立体造形物について、着色領域の印刷精度、立体造形物の造形精度、及び立体造形物の強度に関し、下記の方法に従って評価した。結果を下記表1に示す。
また、得られたベタ画像を有する立体造形物について、立体造形物の造形精度、及び立体造形物の強度に関し、下記の方法に従って評価した。結果を下記表1に示す。
【0090】
[着色領域の印刷精度の評価]
2次元コードを有する立体造形物の着色領域において、滲みの有無及び程度を目視で観察し、更に、2次元コードのリーダーを用いて読込可否を試験し、下記評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
A:滲みがなく、2次元コードのリーダーで読込可能である
B:やや滲みがあり、2次元コードのリーダーで読込できない
C:滲みがひどく、2次元コードのリーダーで読込できない
【0091】
[立体造形物の造形精度の評価]
2次元コードを有する立体造形物及びベタ画像を有する立体造形物を目視で観察し、下記評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
A:立体造形物の天面に凹部等の歪みは観察されない
B:立体造形物の天面の着色領域の上部に位置する場所において凹みが観察される
【0092】
[立体造形物の強度の評価]
2次元コードを有する立体造形物及びベタ画像を有する立体造形物の強度のベースインクのみで作製した立体造形物の強度に対する割合を算出し、下記評価基準に基づいて評価した。なお、立体造形物の強度は、精密万能試験機(オートグラフAG-X、島津製作所)を用い、引張速度5mm/min、引張冶具間距離50mmの条件でサンプルの引張試験を行い、試験開始~サンプル破断までの範囲における応力の最大値を測定値とした。
(評価基準)
A:強度に関する上記割合が90%以上である
B:強度に関する上記割合が70%以上90%未満である
C:強度に関する上記割合が70%未満である
【0093】