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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019419
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】Sm-Fe-N系磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20230202BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20230202BHJP
   H01F 1/06 20060101ALI20230202BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20230202BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
H01F1/059 160
H01F1/08 160
H01F1/06 110
B22F3/00 F
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124120
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】横田 洋隆
(72)【発明者】
【氏名】福地 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 周祐
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA10
4K018BA18
4K018BB01
4K018BB03
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA11
4K018DA18
4K018DA19
4K018DA29
4K018DA32
4K018DA33
4K018EA01
4K018EA21
4K018KA45
5E040AA03
5E040AA19
5E040BC01
5E040BD01
5E040CA01
5E040NN01
5E040NN05
5E040NN06
(57)【要約】
【課題】緻密性が高く、Sm-Fe-N系粉末の状態に比べて保磁力の低下が有意に抑制された、Sm-Fe-N系磁石を提供する。
【解決手段】Sm-Fe-N系磁石であって、Sm-Fe-N系粒子と、該Sm-Fe-N系粒子同士の間に存在する粒子間金属相と、を有し、前記Sm-Fe-N系粒子は、平均粒子径が2.0μm未満であり、アスペクト比が2.0以上である粒子の個数が10%以下であり、前記粒子間金属相は、FeZn10相および粒状のα-Fe相を含み、前記粒子間金属相内の前記FeZn10相の割合は、面積比で80%以上である、Sm-Fe-N系磁石。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm-Fe-N系磁石であって、
Sm-Fe-N系粒子と、
該Sm-Fe-N系粒子同士の間に存在する粒子間金属相と、
を有し、
前記Sm-Fe-N系粒子は、平均粒子径が2.0μm未満であり、かつ、アスペクト比が2.0以上であるSm-Fe-N系粒子の個数が10%以下であり、
前記粒子間金属相は、FeZn10相および粒状のα-Fe相を含み、
前記粒子間金属相内の前記FeZn10相の割合は、面積比で80%以上である、Sm-Fe-N系磁石。
【請求項2】
前記粒子間金属相内の前α-Feの割合は、面積比で10%以下である、請求項1に記載のSm-Fe-N系磁石。
【請求項3】
前記Sm-Fe-N系粒子の表面の少なくとも一部には、Sm-Fe-Zn系の被覆層が形成されており、
前記被覆層中におけるZnの含有量は、1at%以上、20at%以下の範囲である、請求項1または2に記載のSm-Fe-N系磁石。
【請求項4】
前記被覆層は、1nm以上、100nm以下の平均厚さを有する、請求項3に記載のSm-Fe-N系磁石。
【請求項5】
当該Sm-Fe-N系磁石中に含まれるZn量は、1wt%以上、20wt%以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のSm-Fe-N系磁石。
【請求項6】
酸素含有量が1.0wt%未満である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のSm-Fe-N系磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sm-Fe-N系磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
Sm-Fe-N系磁石は、キュリー温度が477℃という高い値であること、磁気特性の温度変化が小さいこと、および保磁力の理論限界値とされる異方性磁界が20.6MA/mという高い値であることから、高性能磁石として期待されている。
【0003】
特許文献1には、Sm-Fe合金の前駆体粉末を還元拡散して合金粉末化し、その後窒化を行うことにより、微細なSm-Fe-N系粉末を製造する方法が記載されている。
【0004】
ここで、高保磁力の磁粉から高性能磁石を製造するためには、Sm-Fe-N系粉末を焼結させる必要がある。
【0005】
しかしながら、Sm-Fe-N系粉末は、高温で焼結させると、磁気特性が低下するという問題がある。特に、焼結処理により、Sm-Fe-N系磁石の保磁力は、大きく低下してしまう。
【0006】
また、特許文献2には、Sm-Fe-N系粉末の表面をジルコニウムのような金属を含む副相で被覆することにより、焼結後に得られる磁石の保磁力の低下を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/150557号公報
【特許文献2】国際公開第2019/189440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、Sm-Fe-N系磁石は、Sm-Fe-N系粉末を加圧状態で焼結させることにより製造される。しかしながら、加圧条件下でSm-Fe-N系磁石を焼結した場合、粉末での保磁力に比べて、磁石の保磁力が大きく低下してしまい、緻密性と保磁力を両立したSm-Fe-N系磁石を得ることが難しいという問題がある。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、緻密性が高く、Sm-Fe-N系粉末の状態に比べて保磁力の低下が有意に抑制された、Sm-Fe-N系磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、
Sm-Fe-N系磁石であって、
Sm-Fe-N系粒子と、
該Sm-Fe-N系粒子同士の間に存在する粒子間金属相と、
を有し、
前記Sm-Fe-N系粒子は、平均粒子径が2.0μm未満であり、かつ、アスペクト比が2.0以上であるSm-Fe-N系粒子の個数が10%以下であり、
前記粒子間金属相は、FeZn10相および粒状のα-Fe相を含み、
前記粒子間金属相内の前記FeZn10相の割合は、面積比で80%以上である、Sm-Fe-N系磁石が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、緻密性が高く、Sm-Fe-N系粉末の状態に比べて保磁力の低下が有意に抑制された、Sm-Fe-N系磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石の断面の構成の一例を模式的に示した図である。
図2】本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石の製造方法のフローの一例を概略的に示した図である。
図3】本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石の製造方法における、Sm-Fe-N系磁石粉末の製造方法のフローの一例を模式的に示した図である。
図4】本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石の断面におけるEDS(エネルギー分散型X線分光)分析により得られたZn、FeおよびSmのマッピング結果を示した図である。
図5】本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石の断面における粒子間金属相部分における電子線回折像を示した図である。
図6図5における分析箇所(マーク「*1」およびマーク「*2」)を示した、本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石の断面TEM像である。
図7図6に示した領域におけるZnのEDSマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
前述のように、Sm-Fe-N系粉末を加圧状態で焼結させると、粉末での保磁力に比べて、磁石の保磁力が大きく低下することが認められている。
【0015】
このため、Sm-Fe-N系磁石は、Sm-Fe-N系粉末を無加圧状態で焼結させる必要がある。しかしながら、そのような製造方法では、十分に緻密なSm-Fe-N系磁石を得ることは難しい。
【0016】
これに対して、本発明の一実施形態では、以降に詳しく説明するように、緻密性が高く、Sm-Fe-N系粉末の状態に比べて保磁力の低下が有意に抑制された、Sm-Fe-N系磁石を提供することができる。
【0017】
すなわち、
本発明の一実施形態では、
Sm-Fe-N系磁石であって、
Sm-Fe-N系粒子と、
該Sm-Fe-N系粒子同士の間に存在する粒子間金属相と、
を有し、
前記Sm-Fe-N系粒子は、平均粒子径が2.0μm未満であり、かつ、アスペクト比が2.0以上であるSm-Fe-N系粒子の個数が10%以下であり、
前記粒子間金属相は、FeZn10相および粒状のα-Fe相を含み、
前記粒子間金属相内の前記FeZn10相の割合は、面積比で80%以上である、Sm-Fe-N系磁石が提供される。
【0018】
ここで、本願において、粒子間金属相中の各相の面積比は、断面写真の画像解析により得られた平均値である。具体的には、露出させた試料の断面の走査型電子顕微鏡(FE-SEM)反射電子像、又はエネルギー分散型X線分光法(EDS)マッピング像によりSm-Fe-N系粒子、粒子間金属相、酸化相や空隙などを識別し、画像解析により対象相の面積比を求める。20個以上のSm-Fe-N系粒子を含む視野の20枚の断面写真のそれぞれから求めた面積比を平均することにより、面積比が求められる。
【0019】
本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石では、Sm-Fe-N系粒子同士の間に、粒子間金属相が配置される。この粒子間金属相は、面積比で80%以上のFeZn10相と、粒状のα-Fe相とを有する。
【0020】
一般に、粒状のα-FeがSm-Fe-N系粒子の表面に存在すると、Sm-Fe-N系粒子に磁界が印加された際に、このα-Feによって、Sm-Fe-N系粒子の磁化の反転が生じ、磁石の保磁力が低下する。
【0021】
しかしながら、本発明の一実施形態では、粒状のα-Fe相は、Sm-Fe-N系粒子の表面ではなく、粒子間金属相中に配置される。すなわち、粒状のα-Fe相は、Sm-Fe-N系粒子に隣接することなく、粒子間金属相の大部分を占めるFeZn10相を介してSm-Fe-N系粒子と接する状態となる。
【0022】
このような形態では、α-Fe相による磁化の反転が生じ難くなる。また、このため、Sm-Fe-N系粒子を加圧焼結して磁石を製造した場合であっても、保磁力の低下を有意に抑制することができる。
【0023】
また、本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石は、Sm-Fe-N系粒子を加圧焼結処理することにより製造することができる。このため、本発明の一実施形態では、十分に緻密なSm-Fe-N系磁石を製造することができる。
【0024】
(本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石)
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態についてより詳しく説明する。
【0025】
図1には、本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石(以下、「第1の磁石」と称する)100の一部の断面の一例を模式的に示す。
【0026】
図1に示すように、第1の磁石100は、相互に結合された、複数のSm-Fe-N系粒子110を有する。
【0027】
また、第1の磁石100は、Sm-Fe-N系粒子110同士の間に形成された粒子間金属相120を有する。
【0028】
粒子間金属相120は、主として、FeZn10相130と、該FeZn10相130中に存在する粒状のα-Fe相140とを有する。
【0029】
粒子間金属相120において、FeZn10相130が占める割合(面積比)は、80%以上である。一方、粒子間金属相120において、粒状のα-Fe相140の面積比は、例えば、10%以下である。
【0030】
粒子間金属相120において、粒状のα-Fe相140は、FeZn10相130によって覆われた状態となる。従って、前述の効果により、第1の磁石100では、Sm-Fe-N系粒子110同士の間に、このような粒子間金属相120を配置することにより、保磁力の低下を有意に抑制することができる。
【0031】
また、このような構成を有する第1の磁石100は、Sm-Fe-N系粉末を加圧焼結して製造することができるため、有意に高い緻密性を有する。
【0032】
例えば、第1の磁石100は、4.8kG以上の残留磁束密度を有してもよい。
【0033】
(本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石における各部分の詳細)
次に、本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石に含まれる各部分について、より詳しく説明する。
【0034】
なお、ここでは、前述の第1の磁石100を例に、本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石に含まれる各部分を説明する。従って、各部分を表す際には、図1に示した参照符号が使用される。
【0035】
(Sm-Fe-N系粒子110)
Sm-Fe-N系粒子110は、サマリウム、鉄、および窒素を含む粒子である。
【0036】
Sm-Fe-N系粒子110は、その他の追加元素を有してもよい。追加元素は、例えば、ネオジム、プラセオジム等の希土類元素(サマリウムを除く)、およびコバルトからなる群から選定された少なくとも一つであってもよい。
【0037】
なお、追加元素の合計含有量は、異方性磁界や磁化の面から、30at%未満であることが好ましい。
【0038】
Sm-Fe-N系粒子110の平均粒子径は、2.0μm未満であることが好ましい。Sm-Fe-N系粒子110の平均粒子径が2.0μm未満であると、Sm-Fe-N系磁石の保磁力がさらに高くなる。
【0039】
本発明の一実施形態による磁石において、アスペクト比が2.0以上であるSm-Fe-N系粒子110の割合は、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。アスペクト比が2.0以上であるSm-Fe-N系粒子110の割合が10%以下の場合、本発明の一実施形態による磁石の保磁力がさらに高くなる。さらに、Sm-Fe-N系粒子110の平均粒子径は、0.1μmより大きいことが好ましい。Sm-Fe-N系粒子110の平均粒子径が0.1μm以下であると、Sm-Fe-N系粒子の酸化を抑制することが難しくなり、本発明の一実施形態による磁石に、異相が生じ易くなる。
【0040】
Sm-Fe-N系粒子110に含まれる酸素量は、例えば、1wt%以下である。酸素含有量が高くなると、本発明の一実施形態による磁石に、異相が生じ易くなる。
【0041】
(粒子間金属相120)
前述のように、粒子間金属相120に含まれるFeZn10相130の面積比は、80%以上である。FeZn10相130の面積比は、82%以上であることが好ましい。
【0042】
一方、粒子間金属相120に含まれる粒状のα-Fe相140の面積比は、例えば、10%以下であり、5%以下であることが好ましい。
【0043】
α-Fe相140の平均粒子径は、例えば、5nm以上、500nm以下の範囲であり、30nm以上、300nm以下の範囲であることが好ましい。
【0044】
なお、本願において、粒状のα-Fe相140の平均粒子径は、30個の粒子の測定値の平均を意味する。
【0045】
粒子間金属相120は、希土類元素と酸素、炭素、窒素などを除く鉄(Fe)、亜鉛(Zn)などの金属元素の含有率が80at%以上の相である。さらに、第1の磁石100には、Sm-Fe-N系粒子110と粒子間金属相120の他に、酸化物、窒化物および/または炭化物のような、別の相が含まれてもよい。
【0046】
(その他の特徴)
本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石において、Sm-Fe-N系粒子110の表面の少なくとも一部には、被覆層が形成されていてもよい。
【0047】
被覆層は、主として、Sm-Fe-Zn相で構成される。被覆層中におけるZnの含有量は、例えば、1at%以上、20at%以下の範囲であり、5at%以上、15at%以下の範囲であることが好ましい。
【0048】
また、被覆層は、例えば、1nm以上、100nm以下の範囲の厚さを有してもよく、20nm以上、50nm以下の範囲であることが好ましい。本願において、「被覆層の厚さ」は、20個のSm-Fe-N系粒子110において得られた測定値の平均を意味する。
【0049】
なお、被覆層は、必ずしもSm-Fe-N系粒子110の表面全体に配置されている必要はない。すなわち、被覆層は、Sm-Fe-N系粒子110の表面の一部に、断続的にまたは局部的に配置されていてもよい。
【0050】
本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石に含まれるZnの量は、例えば、1wt%から20wt%の範囲である。
【0051】
また、本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石に含まれる酸素の量は、例えば、1wt%未満であり、0.8wt%未満であることが好ましい。
【0052】
(本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石の製造方法)
次に、図2を参照して、本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石の製造方法について、より詳しく説明する。
【0053】
図2には、本発明の一実施形態によるSm-Fe-N系磁石の製造方法(以下、「第1の方法」と称する)のフローの一例を概略的に示す。
【0054】
図2に示すように、第1の方法は、
Sm-Fe-N系の磁石粉末を準備する工程(工程S110)と、
前記磁石粉末にZn粉末を混合して、混合粉末を調製する工程(工程S120)と、
前記混合粉末を成形して、成形体を得る工程(工程S130)と、
前記成形体を加圧焼結する工程(工程S140)と、
を有する。
【0055】
以下、各工程について説明する。
【0056】
(工程S110)
まず、Sm-Fe-N系の磁石粉末が準備される。
【0057】
磁石粉末の製造方法は、特に限られない。
【0058】
以下、図3を用いて、磁石粉末の製造方法の一例について説明する。
【0059】
図3には、Sm-Fe-N系の磁石粉末の製造方法のフローを模式的に示す。
【0060】
図3に示すように、この磁石粉末の製造方法は、
サマリウム-鉄(Sm-Fe)系合金の前駆体粉末を作製する工程(S10)と、
前記前駆体粉末を不活性ガス雰囲気下で還元拡散して、Sm-Fe系合金粉末を作製する工程(S20)と、
Sm-Fe系合金粉末を窒化して、Sm-Fe-N系合金粉末を作製する工程(S30)と、
Sm-Fe-N系合金粉末を洗浄する工程(S40)と、
を有する。
【0061】
以下、各工程について、簡単に説明する。
【0062】
(工程S10)
まず、Sm-Fe系合金の前駆体粉末が作製される。
【0063】
前駆体粉末は、例えば、Sm-Fe系酸化物粉末、またはSm-Fe系水酸化物粉末であってもよい。なお、以下、Sm-Fe系酸化物粉末およびSm-Fe系水酸化物粉末を、まとめてSm-Fe系(水)酸化物粉末とも称する。
【0064】
前駆体粉末は、例えば、共沈法により作製されてもよい。この方法では、まず、サマリウム塩、鉄塩を含む溶液にアルカリ等の沈澱剤を添加して、沈澱させた後、ろ過、遠心分離等により沈殿物が回収される。次に、沈殿物を洗浄、乾燥後、沈殿物を粉砕することにより、Sm-Fe系(水)酸化物粉末が得られる。
【0065】
なお、Sm-Fe-N系磁石粉末は、金属鉄を含むと、磁気特性が低下する。このため、前駆体粉末の製造の際には、サマリウムを量論比よりも過剰に加えることが好ましい。
【0066】
サマリウム塩および鉄塩における対イオンは、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の無機イオンであっても、アルコキシド等の有機イオンであってもよい。
【0067】
サマリウム塩、鉄塩を含む溶液に含まれる溶媒としては、水を用いることができるが、エタノール等の有機溶媒を用いてもよい。
【0068】
アルカリとしては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニアを用いることができる。また、尿素等の熱等の外的作用で分解して沈澱剤としての作用を示す化合物を用いてもよい。
【0069】
得られた前駆体粉末は、その後、Sm-Fe-N系磁石粉末が製造されるまで、グローブボックスのような、大気を遮断した環境下で取り扱われてもよい。不活性ガス雰囲気を使用する場合、酸素濃度は、1ppm以下にすることが好ましい。
【0070】
得られた前駆体粉末は、還元性雰囲気中で予還元することが好ましい。これにより、後の還元拡散工程(工程S20)で使用されるカルシウムの量を低減することができるとともに、粗大なSm-Fe系合金粒子の発生を抑制することができる。
【0071】
前駆体粉末の予還元は、例えば、水素雰囲気中で前駆体粉末を400℃以上に加熱することにより、実施されてもよい。処理温度は、500℃~800℃の範囲が好ましい。この温度範囲で予還元を実施した場合、粒径が揃ったSm-Fe系合金の粉末を得ることができる。
【0072】
(工程S20)
次に、前駆体粉末が不活性ガス雰囲気下で還元拡散処理される。
【0073】
前駆体粉末を還元拡散する方法としては、例えば、前駆体粉末をカルシウム(Ca)または水素化カルシウム(CaH)と混合した後、Caの融点(約842℃)以上の温度に加熱する方法等が挙げられる。
【0074】
この処理の際に、Caにより還元されたSmがCa融液中を拡散し、Feと反応することにより、Sm-Fe系合金粉末が形成される。
【0075】
還元拡散処理の温度と、Sm-Fe系合金粉末の粒径との間には相関があり、還元拡散の温度が高い程、Sm-Fe系合金粉末の粒径が大きくなる。
【0076】
Sm-Fe系合金粉末の平均粒子径は、2.0μm未満であることが好ましい。Sm-Fe系合金粉末の平均粒子径が2.0μm未満であると、磁石の保磁力がさらに高くなる。Sm-Fe系合金粉末の平均粒子径は、さらに、0.1μmより大きく、2.0μm未満であることが好ましい。
【0077】
なお、粒径の揃ったSm-Fe系合金粉末を得るためには、前駆体粉末を、不活性ガス雰囲気下、850℃~1050℃で1分間~2時間程度還元拡散処理することが好ましい。
【0078】
前駆体における還元拡散の進行に伴って結晶化が進行し、Sm-Fe系合金粉末が形成される。得られるSm-Fe系合金粉末において、また、各粒子の表面の少なくとも一部には、Smリッチ相が形成される。
【0079】
Sm-Fe系合金粉末において、アスペクト比が2.0以上である粒子の個数の割合は、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。アスペクト比が2.0以上である粒子の割合が10%以下であると、磁石粉末の保磁力がさらに高くなる。
【0080】
工程S20後に得られるSm-Fe系合金粉末における残留酸素量は、1.0wt%未満であることが好ましい。Sm-Fe系合金粉末の残留酸素量が1.0wt%未満であると、磁石の保磁力がさらに高くなる。
【0081】
(工程S30)
次に、得られたSm-Fe系合金粉末が窒化処理される。
【0082】
Sm-Fe系合金粉末を窒化する方法としては、アンモニア、アンモニアと水素の混合ガス、窒素、または窒素と水素の混合ガス等の雰囲気下、300℃~500℃で、Sm-Fe系合金粉末を熱処理する方法等が挙げられる。
【0083】
アンモニアを用いた場合、Sm-Fe系合金粉末を短時間で窒化することが可能である。ただし、Sm-Fe-N系磁石粉末中の窒素含有量が最適値よりも高くなる可能性がある。この場合、Sm-Fe系合金粉末を窒化した後に、水素中でアニールすることが好ましい。これにより、過剰な窒素を結晶格子から排出させることができる。
【0084】
窒化処理により、Sm-Fe-N系合金粉末が形成される。
【0085】
Sm-Fe-N系合金粉末に含まれる粒子の組成は、SmFe17であることが好ましい。
【0086】
例えば、アンモニア-水素混合雰囲気下、Sm-Fe系合金粉末を350℃~450℃で10分~2時間熱処理した後、水素雰囲気下、350℃~450℃で30分~2時間アニールする。これにより、Sm-Fe-N系磁石粉末中の窒素含有量を適正化することができる。
【0087】
(工程S40)
次に、工程S30で形成されたSm-Fe-N系合金粉末が洗浄される。
【0088】
工程S30で形成されたSm-Fe-N系合金粉末は、カルシウム化合物を含む。洗浄処理は、そのようなカルシウム化合物を除去するために実施される。
【0089】
洗浄処理は、例えば、水、および/またはアルコールのような洗浄液を用いて実施される。あるいは、洗浄液は、アミド硫酸のような酸であってもよい。あるいは、水および/またはアルコール用いて、Sm-Fe-N系合金粉末を洗浄してから、さらにアミド硫酸を用いて洗浄を行ってもよい。洗浄液の温度は、特に限られないが、CaOおよびCa(OH)の溶解度が高い温度を選択することが好ましい。例えば、洗浄液が水の場合は、0℃~常温であることが好ましい。
【0090】
なお、洗浄工程は、窒化処理の前に実施してもよい。
【0091】
洗浄されたSm-Fe-N系合金粉末は、その後乾燥させることが好ましい。
【0092】
乾燥温度は、特に限られないが、常温~100℃であることが好ましい。乾燥温度を100℃以下とすることにより、Sm-Fe-N系合金粉末の酸化を抑制することができる。
【0093】
また、Sm-Fe-N系合金粉末に対して、脱水素処理を実施してもよい。脱水素処理により、洗浄処理の際に結晶格子間に侵入した水素を除去することができる。
【0094】
脱水素処理の方法は、特に限定されない。例えば、真空下または不活性ガス雰囲気下で、Sm-Fe-N系合金粉末を加熱することにより、脱水素処理を行ってもよい。例えば、真空雰囲気下において、150℃~250℃でSm-Fe-N系合金粉末を1時間熱処理することにより、脱水素処理を行ってもよい。
【0095】
以上の工程により、Sm-Fe-N系合金粉末を製造することができる。合金粉末における残留酸素量は、1wt%未満である。
【0096】
なお、得られるSm-Fe-N系合金粉末の平均粒子径は、0.1μmより大きく、2.0μm未満であることが好ましい。
【0097】
残留酸素量は、1.0wt%以下であることが好ましく、0.8wt%未満であることがより好ましい。
【0098】
(工程S120)
次に、前述の方法で作製したSm-Fe-N系磁石粉末にZn粉末が混合され、混合粉末が調製される。
【0099】
Zn粉末の平均粒子径は、例えば、5μm~100μmの範囲である。特に、Zn粉末の平均粒子径は、Sm-Fe-N系磁石粉末よりも大きい方が好ましい。
【0100】
Zn粉末の混合量は、特に限られないが、例えば、混合粉末全体に対して、1wt%以上、20wt%以下の割合であってもよい。
【0101】
Sm-Fe-N系磁石粉末とZn粉末の混合方法は、特に限られないが、Sm-Fe-N系磁石粉末の各粒子の表面に物理的なダメージが生じないように混合することが好ましい。例えば、ボールミルによる混合、および破砕のような方法は、避けることが好ましい。
【0102】
(工程S130)
次に、混合粉末が成形され、成形体が形成される。
【0103】
成形は、静磁場のような、磁場印加環境下で実施されることが好ましい。静磁場中で成形した場合、静磁場に沿って、磁石粒子の磁化容易軸が配向した成形体が得られ、焼結後に異方性磁石を得ることができる。
【0104】
例えば、金型内の混合粉末に静磁場を印加しながら、混合粉末を金型で加圧することにより、成形体が得られる。
【0105】
金型が混合粉末に及ぼす圧力は、例えば、10MPa以上、3000MPa以下であってよい。Znの均一な拡散のため、圧力は500MPa以下が好ましい。
【0106】
混合粉末に印加される磁場の強さは、400kA/m以上、3000kA/m以下であってもよい。
【0107】
(工程S140)
次に、成形体が加圧状態で焼結処理される。
【0108】
焼結処理により、成形体中に含まれるZn粒子が溶解する。溶解したZnは、焼結処理中にSm-Fe-N系磁石粉末を覆うように広がり、最終的に、前述のような形態の磁石を製造することができる。
【0109】
加圧焼結処理は、例えば、放電プラズマ法、ホットプレス法、または通電加圧焼結法により、実施されてもよい。これらの中では、高速加熱および短時間焼結により低熱負荷焼結が実現できる、通電加圧焼結法が好ましい。
【0110】
焼結条件は、製造する磁石の組成および含まれる粉末の平均粒子径等に応じて、適宜設定されてもよい。
【0111】
焼結工程は、昇温過程と、該昇温過程に続く温度保持過程とを有してもよく、あるいは昇温過程のみを有していてもよい。
【0112】
昇温過程における到達温度は、例えば、420℃以上、600℃以下であってもよい。
【0113】
昇温過程における昇温速度は、例えば、5℃/分以上、100℃/分以下であってもよい。
【0114】
温度保持過程における焼結時間は、例えば5時間以下であり、0時間であってもよい。
【0115】
成形体の加熱方法は、特に限られない。成形体は、抵抗加熱、通電加熱、または高周波加熱により焼結されてもよい。
【0116】
成形体は、例えば、金型に入れた状態で、加圧されてもよい。
【0117】
印加圧力は、例えば、1GPa~2GPaの範囲であり、1.2GPa~1.5GPaの範囲であることが好ましい。
【0118】
なお、圧力の印加は、室温から開始してもよい。あるいは、圧力の印加は、成形体の温度がZnの融点近傍(例えば、420℃前後)に達してから、開始してもよい。
【0119】
焼結処理の雰囲気は、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、または真空(減圧雰囲気)である。雰囲気中の酸素濃度および水分濃度は、それぞれ、1ppm以下であることが好ましく、それぞれ、0.5ppm以下であることが好ましい。なお、これらの濃度は、モル分率である。
【0120】
焼結処理後に、焼結体を冷却してもよい。焼結体の冷却速度は、例えば5℃/分以上、100℃/分以下であってもよい。
【0121】
以上の工程により、前述のような特徴を有するSm-Fe-N系磁石を製造することができる。
【実施例0122】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例4は、実施例であり、例11~12は、比較例である。
【0123】
(例1)
以下の方法により、Sm-Fe-N系磁石を製造した。
【0124】
(混合粉末の作製)
まず、以下の方法により、混合粉末を作製した。
【0125】
(Sm-Fe-(水)酸化物粉末の作製)
硝酸鉄九水和物64.64g、硝酸サマリウム六水和物12.93gを水800mlに溶解させた後、撹拌しながら、2mol/L水酸化カリウム水溶液120mlを滴下した後、室温下で一晩撹拌し、懸濁液を作製した。次に、懸濁液をろ過し、濾物を洗浄した後、熱風オーブンを用いて、空気雰囲気下、120℃で一晩乾燥させた。次に、濾物を、ブレードミルにより粗粉砕した後、ステンレスボールを用いる回転ミルにより、エタノール中で微粉砕した。次に、エタノール中で微粉砕した濾物を遠心分離した後、真空乾燥させ、Sm-Fe-(水)酸化物粉末を作製した。
【0126】
(予還元)
Sm-Fe-(水)酸化物粉末を、水素雰囲気下、600℃で6時間熱処理することにより予還元し、粉末(粉末Aと称する)を作製した。
【0127】
(還元拡散)
粉末Aを5.0gと、カルシウム粉末2.5gとを鉄製るつぼに入れた後、900℃で1時間加熱することにより還元拡散し、粉末(粉末Bと称する)を作製した。
【0128】
(窒化)
粉末Bを常温まで冷却した後、水素雰囲気下、380℃まで昇温した。次に、体積比が1:2のアンモニア-水素混合雰囲気下、420℃まで昇温し、1時間保持することにより、粉末Bを窒化した。
【0129】
次に、水素雰囲気下、420℃で1時間アニールした後、アルゴン雰囲気下、420℃で0.5時間アニールすることにより、粉末中の窒素含有量を適正化した。これにより、粉末Cが得られた。
【0130】
(洗浄)
粉末Cを純水で5回洗浄した。洗浄後の粉末Cとアミド硫酸水溶液を加えてpHを5として、15分間保持することにより、カルシウム化合物を除去した。次に、粉末Cを純水で洗浄し、アミド硫酸を除去した。これにより、粉末Dが得られた。
【0131】
(真空乾燥)
粉末Dに残留した水を2-プロパノールで置換した後、常温で真空乾燥させた。
【0132】
真空乾燥した粉末Dを、真空下、200℃で3時間脱水素した。
【0133】
なお、予還元以降の工程は、グローブボックスの中で、アルゴン雰囲気下、大気に曝すことなく、実施した。
【0134】
以上の工程により、Sm-Fe-N系磁石粉末(以下「粉末E」と称する)が得られた。
【0135】
(粉末Eの評価)
この段階で、得られた粉末Eの各種評価を実施した。
【0136】
(保磁力の評価)
以下の方法を用いて、粉末Eの保磁力を測定した。
【0137】
まず、粉末Eと、熱可塑性樹脂を混合した後、20kOeの磁場中で配向させ、粉末保磁力測定用試料を作製した。次に、振動試料型磁力計(VSM)を用いて、粉末保磁力測定用試料の保磁力を測定した。測定温度は、27℃とし、最大印加磁場は、90kOeとした。
【0138】
測定の結果、粉末保磁力測定用試料の保磁力は、32.2kOeであった。
【0139】
(平均粒子径の測定)
粉末Eと、熱硬化性エポキシ樹脂とを混錬し、熱硬化させた後、集束イオンビーム(FIB)を照射してエッチング加工することにより、断面を露出させ、試料を作製した。
【0140】
走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、試料の断面を観察し、無作為に抽出した200個以上の粒子に輪郭線を引いた。
【0141】
輪郭線は、粒子の表面および/または接触している粒子の表面に対応する。ただし、FE-SEM反射電子像またはエネルギー分散型X線分光法(EDS)のマッピングにより、接触している粒子を区別することができる。
【0142】
次に、輪郭線で囲まれている領域と同一の面積の円の直径を、粒子の粒子径と定める。この粒子の粒子径を体積加重平均することにより、粉末Eの平均粒子径を算定した。
【0143】
粉末Eの平均粒子径は、1.4μmであった。
【0144】
(混合粉末の調製)
次に、V型混合機により、粉末E(すなわちSm-Fe-N系磁石粉末)とZn粉末とをゆっくりと混合して、混合粉末を調製した。
【0145】
Zn粉末の添加量は、混合粉末全体に対して10wt%とした。Zn粉末の平均粒子径は、6μm~9μmである。
【0146】
調製された混合粉末を、「混合粉末1」と称する。
【0147】
(磁石の作製)
次に、以下の方法で、混合粉末1を成形し、得られた成形体を焼結して磁石を作製した。
【0148】
成形圧力は、200MPaとした。
【0149】
焼結処理の際の成形体の圧力は、1200MPaとした。なお、圧力印加は、室温から実施した。成形体の焼結温度は470℃とし、焼結時間は5分とした。
【0150】
これにより、焼結磁石が得られた。得られた焼結磁石を、「磁石1」と称する。
【0151】
(例2)
例1と同様の方法により、焼結磁石を作製した。ただし、この例2では、焼結処理の際圧力印加は、成形体の温度が470℃に達した時点で開始した。その他の製造条件は、例1の場合と同様である。
【0152】
得られた焼結磁石を、「磁石2」と称する。
【0153】
(例3)
例2と同様の方法により、焼結磁石を作製した。ただし、この例3では、混合粉末におけるZn粉末の添加量を5wt%とした。その他の製造条件は、例2の場合と同様である。
【0154】
得られた焼結磁石を、「磁石3」と称する。
【0155】
(例4)
例2と同様の方法により、焼結磁石を作製した。ただし、この例4では、混合粉末におけるZn粉末の添加量を20wt%とした。その他の製造条件は、例2の場合と同様である。
【0156】
得られた焼結磁石を、「磁石4」と称する。
【0157】
(例11)
例1と同様の方法により、焼結磁石を作製した。ただし、この例11では、粉末EにZn粉末を添加せず、粉末Eをそのまま成形、焼結させて磁石を製造した。
【0158】
得られた焼結磁石を、「磁石11」と称する。
【0159】
(例12)
例2と同様の方法により、焼結磁石を作製した。ただし、この例12では、混合粉末の調製の際に、ボールミル装置を用いて、粉末EとZn粉末を分散混合した。その他の製造条件は、例2の場合と同様である。
【0160】
得られた焼結磁石を、「磁石12」と称する。
【0161】
以下の表1には、各磁石の製造条件をまとめて示した。
【0162】
【表1】
(評価)
製造された各磁石を用いて、以下の評価を行った。
【0163】
(Sm-Fe-N系粒子の形状評価)
各磁石において、含まれるSm-Fe-N系粒子の平均粒子径を測定した。また、Sm-Fe-N系粒子のアスペクト比を評価した。
【0164】
Sm-Fe-N系粒子の平均粒子径は、切断加工した磁石に集束イオンビーム(FIB)を照射してエッチング加工することにより断面を露出させ、試料を作製したこと以外は、前述の粒子Eの平均粒子径の測定の場合と同様の方法により実施した。
【0165】
また、アスペクト比は、以下のように評価した。
【0166】
各粒子において、輪郭線に外接し、面積が最小となる四角形を定めた。得られた四角形の長辺の長さを短辺の長さで除算することにより、各粒子のアスペクト比を算定した。さらに、アスペクト比が2以上である粒子の割合を評価した。
【0167】
(粒子間金属相の評価)
各磁石において、Sm-Fe-N系粒子の間に形成された粒子間金属相を評価した。
【0168】
図4には、磁石2の断面におけるEDS(エネルギー分散型X線分光)分析により得られたZn、FeおよびSmのマッピング結果を示す。
【0169】
図4から、粒子間金属相には、Smを含まず、ZnとFeの双方を含む領域が存在することがわかる。また、粒子間金属相には、粒状のFe成分が分散されていることがわかる。
【0170】
図5には、磁石2の断面の粒子間金属相部分における電子線回折像を示す。また、図6には、分析箇所のTEM像を示す。さらに、図7には、図6に示した領域におけるZnのEDSマッピング結果を示す。
【0171】
図6において、マーク「*1」および「*2」で示した箇所が、それぞれ、図5における回折像「(1)」および「(2)」に対応する。また、図7図6の比較から、図6におけるマーク「*1」および「*2」で表される箇所は、いずれも、粒子間金属相におけるZnリッチな領域であることがわかる。
【0172】
図4から、粒子間金属相において、Znリッチな領域は、図5図6図7からFeZn10相で構成されていることがわかった。
【0173】
粒子間金属相において、FeZn10相および粒状のα-Fe相のそれぞれが占める面積率を画像解析により評価した。前述のように、20個以上のSm-Fe-N系粒子を含む視野の20枚の断面写真から得られた結果を平均して、面積率とした。
【0174】
(Sm-Fe-N系粒子の表面の評価)
20個のSm-Fe-N系粒子を選定し、各粒子の表面に形成された被覆層(Sm-Fe-Zn相)の厚さを測定した。これらの測定結果を平均して、被覆層の平均厚さを求めた。
【0175】
また、選定された20個のSm-Fe-N系粒子において、EDSにより、被覆層に含まれるZnの量を求めた。これらの測定結果を平均して、被覆層に含まれるZn量の平均値を求めた。
【0176】
(磁石中のZn量の測定)
高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析方法により、磁石全体に含まれるZn量を評価した。
【0177】
(磁石中の残留酸素量の測定)
各磁石において、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により、残留酸素量を評価した。
【0178】
(保磁力および残留磁束密度の評価)
振動試料型磁力計(VSM)を用いて、各磁石の保磁力を測定した。測定温度は、27℃とし、最大印加磁場は、90kOeとした。
【0179】
また、同装置を用いて、各磁石における残留磁束密度を測定した。
【0180】
以下の表2には、各磁石における評価結果をまとめて示した。
【0181】
【表2】
表2に示すように、磁石1~磁石3では、いずれも、粒子間金属相が形成されており、該粒子間金属相は、FeZn10相および粒状のα-Fe相を含むことがわかる。粒子間金属相中のFeZn10相の面積率は、いずれも82%以上であり、粒状のα-Fe相の面積率は、いずれも、9%以下であった。
【0182】
一方、磁石12においても、粒子間金属相は形成されていたものの、そこに含まれるFeZn10相の面積率は、55%であった。
【0183】
磁石11および磁石12では、保磁力は、最大でも19.1kOeであり、粉末Eの保磁力である32.2kOeに比べて大きく低下した。
【0184】
一方、磁石1~磁石3では、保磁力は、いずれも20.5kOe以上となっており、保磁力の低下が有意に抑制されていることがわかった。また、残留磁束密度は、いずれも4.8kG以上となっており、比較的緻密な磁石が形成されていることが確認された。
【符号の説明】
【0185】
100 Sm-Fe-N系磁石
110 Sm-Fe-N系粒子
120 粒子間金属相
130 FeZn10
140 粒状のα-Fe相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7