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特開2023-19595スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019595
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
C23C14/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124457
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】八木 章平
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 知成
(72)【発明者】
【氏名】田所 准
(72)【発明者】
【氏名】青野 雅広
(72)【発明者】
【氏名】江口 豊和
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA22
4K029BA24
4K029BA26
4K029CA05
4K029DC04
4K029DC05
4K029DC07
4K029DC09
4K029DC12
(57)【要約】
【課題】アーキングの発生を抑制し、製品歩留まりを向上させるスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】倍率400のレーザー顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(a)最小自己相関長さSalが3μm以上30μm以下を満たす表面形状を有することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
倍率300の光学顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(1)直径20μm以上150μm以下の孔が、隣接する孔と孔との中心間距離が20μm以上150μm以下となるように整列されて存在するか、(2)直径20μm以上150μm以下の孔が1mmに50個以上存在するか、もしくは(3)溝幅20μm以上150μm以下の溝が1mmに5本以上存在することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記孔もしくは溝は、畝状、格子状または同心円状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
倍率400のレーザー顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(a)最小自己相関長さSalが3μm以上30μm以下を満たす表面形状を有することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記表面形状は、さらに(b)面のスキューネスSskが-0.40以上1.5以下を満たすことを特徴とする請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記表面形状は、さらに(c)突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1が5.3%以上を満たすことを特徴とする請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
倍率300の光学顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(1)直径20μm以上150μm以下の孔が、隣接する孔と孔との中心間距離が20μm以上150μm以下となるように整列されて存在するか、(2)直径20μm以上150μm以下の孔が1mmに50個以上存在するか、もしくは(3)溝幅20μm以上150μm以下の溝が1mmに5本以上存在し、
倍率400のレーザー顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(a)最小自己相関長さSalが3μm以上30μm以下を満たす表面形状を有することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記表面形状は、さらに(b)面のスキューネスSskが-0.40以上1.5以下を満たすことを特徴とする請求項6に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記表面形状は、さらに(c)突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1が5.3%以上を満たすことを特徴とする請求項7に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記スパッタリングターゲットは、(ア)合金相からなるスパッタリングターゲット、または(イ)単一金属又は合金である金属相と非金属相とからなるスパッタリングターゲットであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
前記(イ)単一金属又は合金である金属相と非金属相とからなるスパッタリングターゲットは、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、炭素、ホウ素またはこれらの任意の組み合わせから選択される非金属相が、金属相の間に微細に分散している非金属相分散型スパッタリングターゲットであることを特徴とする請求項9に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1に記載のスパッタリングターゲットの製造方法であって、スパッタリングターゲットの少なくとも非スパッタ領域に、ナノ秒パルスレーザーで直径90μm以下のレーザースポットを1回以上照射して粗面化処理することを特徴とする製造方法。
【請求項12】
前記粗面化処理は、スパッタリングターゲットの非スパッタ領域を研削加工、切削加工またはサンドブラストした後に行われることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上への薄膜形成に用いられるスパッタリング法においては、スパッタリングターゲットから飛び出したスパッタ粒子が基板上ばかりでなく、スパッタリングターゲットの非スパッタ領域にも堆積し、膜を形成する。この堆積膜は、部分的に剥離し、微粒子や粗大粒子を含む不要な粒子のパーティクルとなり、基板上の薄膜内に異物として混入し、薄膜の品質低下を招く。この問題を解決するため、スパッタリングターゲットの表面をブラスト処理により粗面化し、スパッタリングターゲットの表面に付着したスパッタ粒子の剥離を抑制する方法が一般的に行われている。しかし、ブラスト処理では、アルミナなどのブラスト粒子がスパッタリングターゲットの表面に残留するため、スパッタリング時に異常放電を生じさせパーティクルを生じ、あるいはブラスト粒子が基板上に飛散して基板を汚染するなどの問題がある。
【0003】
上記問題を解決するため、単一金属または合金からなるバッキングプレート表面のスパッタリングターゲットが接合される領域以外をレーザ加工により表面粗さRaが0.3μm以上50μm以下の凹凸を形成して粗面化する方法が提案されている(特許第5727740号公報)。当該公報には、銅からなるバッキングプレートに、発振波長1064nmのNd:YAGレーザを用い、出力2kWのパルス波を照射することが記載されている。
【0004】
また、酸化物からなるスパッタリングターゲットに、1.1μm以下の波長で、100μsec以下のパルス幅で且つ3MW/cm以上のピークエネルギーのパルスで出力されたYAGレーザ又はエキシマレーザによりエネルギーを厚さ方向に拡散させずに表面処理する方法及びスパッタリングターゲットが提案されている(特許第3398369号公報及び特許第3398370号公報)。当該公報には、10wt%のSnOと90wt%のInの粉末を焼結したスパッタリングターゲットに、パルス幅が0.01~0.1μsec、スポットサイズがφ0.82mm又はφ2mm又は3.3×1.5mmのレーザ加工を施し、表面粗さRaが0.50~2.06μmである酸化インジウム-酸化錫複合酸化物のターゲットを製造したことが記載されている。
【0005】
さらに、Snの含有量がSnO換算で1~10質量%のITOであるセラミックス焼結体を砥石を用いて平面研削して形成したスパッタ面の表面粗さRaが0.1μm以上0.5μm以下であり、レーザー顕微鏡で測定されるSvk値が1.1μm以下であるセラミックス系スパッタリングターゲットが提案されている(特開2020-143327号公報)。
【0006】
従来提案されているレーザー照射による粗面化処理は、単一金属からなるスパッタリングターゲット、酸化物又はセラミックスからなるスパッタリングターゲットを処理対象としている。発明者らの知る限り、合金からなるスパッタリングターゲット、及び単一金属又は合金の金属相と、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、炭素、ホウ素またはこれらの任意の組み合わせの非金属相とを含むスパッタリングターゲットをレーザー照射により粗面化処理することは行われていない。また、同程度の表面粗さRaを形成するためのレーザー照射条件は、単一金属からなるスパッタリングターゲット、及び酸化物からなるスパッタリングターゲットの間で大きく異なっており、スパッタリングターゲットの組成に大きく依存しているといえる。さらに、従来の単一金属又は酸化物からなるスパッタリングターゲットのレーザー照射による粗面化処理後の表面形状に関して、表面粗さRa以外は何ら開示されておらず考慮されていない。これは、単一金属又は酸化物からなるスパッタリングターゲットにおいては、レーザー照射される表面に融点や硬さの異なる複数の元素や化合物が存在しないため、均質に溶融され、任意の面における輪郭曲線の算術平均粗さである表面粗さRaで規制すれば足りることによる。しかし、融点や硬さの異なる複数の元素や化合物が存在する、合金からなるスパッタリングターゲットや、単一金属又は合金の金属相と酸化物や炭化物などの非金属相とからなるスパッタリングターゲットでは、同じレーザー照射であっても表面に存在する元素や化合物によって溶融の程度が異なり、均質に粗面化処理されにくい。表面粗さRaによる規制だけでは、スパッタリング時にガスイオン原子が衝突するターゲットの表面の急峻な突起、幅広の谷部、深い谷部などの存在の有無は判断できず、アーキングの発生を十分に抑制できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5727740号公報
【特許文献2】特許第3398369号公報
【特許文献3】特許第3398370号公報
【特許文献4】特開2020-143327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スパッタリングターゲットについては、ブラスト粒子を用いるブラスト処理(以後「サンドブラスト処理」という。)が一般的である。サンドブラスト処理では、ブラスト粒子がスパッタリングターゲットの表面に残留することにより、スパッタリング時に異常放電を生じさせパーティクルを生じ、あるいはブラスト粒子が基板上に飛散して基板を汚染するなどの問題がある。また、金属相と非金属相とを含むスパッタリングターゲットでは、非金属相に電荷が蓄積したり、スパッタリングターゲット表面の突起への電界集中が発生したりすることにより、耐圧を超えた瞬間に異常放電が流れるアーキングが発生し、パーティクル等の発生による製品歩留まりが低下するという問題もある。特に、硬度や融点などが異なる複数の元素や化合物が混在する合金又は金属相と非金属相とを含むスパッタリングターゲットにおいては、硬度や融点が異なる部位においてレーザー照射による溶融の程度が異なるため、表面形状の制御は容易ではない。
【0009】
本発明は、アーキングの発生を抑制し、製品歩留まりを向上させるスパッタリングターゲット、特に金属相と非金属相とを含むスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アーキングの原因となるブラスト粒子の残留を発生させないためにサンドブラストではなく、レーザー照射により、硬度や融点が異なる複数の元素が混在する合金又は金属相と非金属相とを含むスパッタリングターゲットの表面に、アーキングの発生を抑制し得る表面形状を付与できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明によれば、倍率300の光学顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(1)直径20μm以上150μm以下の孔が、隣接する孔と孔との中心間距離が20μm以上150μm以下となるように整列されて存在するか、(2)直径20μm以上150μm以下の孔が1mmに50個以上存在するか、もしくは(3)溝幅20μm以上150μm以下の溝が1mmに5本以上存在することを特徴とするスパッタリングターゲットが提供される。
前記孔もしくは溝は、畝状、格子状または同心円状に配置されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の別の側面によれば、倍率400のレーザー顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(a)最小自己相関長さSalが3μm以上30μm以下を満たす表面形状を有することを特徴とするスパッタリングターゲットが提供される。
前記表面形状は、さらに(b)面のスキューネスSskが-0.40以上1.5以下を満たすことが好ましい。
前記表面形状は、前記(a)及び(b)に加えて、さらに(c)突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1が5.3%以上を満たすことが好ましい。
【0013】
また、本発明のさらに別の側面によれば、倍率300の光学顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(1)直径20μm以上150μm以下の孔が、隣接する孔と孔との中心間距離が20μm以上150μm以下となるように整列されて存在するか、(2)直径20μm以上150μm以下の孔が1mmに50個以上存在するか、もしくは(3)溝幅20μm以上150μm以下の溝が1mmに5本以上存在し、
倍率400のレーザー顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(a)最小自己相関長さSalが3μm以上30μm以下を満たす表面形状を有することを特徴とするスパッタリングターゲットが提供される。
前記表面形状は、さらに(b)面のスキューネスSskが-0.40以上1.5以下を満たすことが好ましい。
前記表面形状は、前記(a)及び(b)に加えて、さらに(c)突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1が5.3%以上を満たすことが好ましい。
【0014】
本発明において、前記スパッタリングターゲットは、(ア)合金相からなるスパッタリングターゲット、または(イ)単一金属又は合金である金属相と非金属相とからなるスパッタリングターゲットであることが好適である。特に、金属相の間に非金属相が微細分散している非金属相分散型スパッタリングターゲットであることが好ましい。最も好適には、マグネトロンスパッタリング用の非磁性材粒子分散型スパッタリングターゲットである。
【0015】
本発明はまた、前記スパッタリングターゲットの製造方法も提供する。本発明の製造方法は、スパッタリングターゲットの少なくとも非スパッタ領域に、ナノ秒パルスレーザーで直径90μm以下のレーザースポットを1回以上満照射して粗面化処理することを特徴とする。
粗面化処理は、スパッタリングターゲットの非スパッタ領域を研削加工、切削加工もしくはサンドブラスト処理した後に行われることが好ましく、研削加工した後にレーザー照射による粗面化処理が行われることがより好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスパッタリングターゲットは、スパッタリング中の異常放電であるアーキング現象を抑制することができ、アーキングによるパーティクルの発生を低減することができ、パーティクル発生による製品歩留まりの低下を抑制することができる。
【0017】
また、本発明の製造方法によれば、アーキング発生が抑制され、製品歩留まりの低下を抑制できるスパッタリングターゲットを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】スパッタリングターゲットのエロージョンプロファイルの模式図。
図2】実施例1におけるレーザー照射パターン「交差型」の例を示すレーザー顕微鏡写真(倍率200)。
図3】実施例3におけるレーザー照射パターン「等高型」の例を示すレーザー顕微鏡写真(倍率200)。
図4】実施例6におけるレーザー照射パターン「斜線型」の例を示すレーザー顕微鏡写真(倍率200)。
図5】比較例2におけるサンドブラスト処理の例を示すレーザー顕微鏡写真(倍率200)。
図6】パルス周波数60nsecのナノ秒パルスレーザーの照射回数及びパターンを変えてレーザー照射したスパッタリングターゲット表面の光学顕微鏡写真(倍率300)。Aは「斜線」パターンで1回照射した場合、Bは「斜線」パターンで8回照射した場合、Cは「交差」パターンで1回照射した場合、Dは「交差」パターンで8回照射した場合。
図7】レーザー処理したスパッタリングターゲットのスパッタリング時の放電電圧プロファイル。
図8】サンドブラスト処理したスパッタリングターゲットのスパッタリング時の放電電圧プロファイル。
図9】実施例7~16について照射回数とSmr1との関係を示すグラフ。
図10】実施例7~16について照射回数とSskとの関係を示すグラフ。
【好ましい実施形態の説明】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
図1は、ある程度スパッタリングを施した後のスパッタリングターゲットのエロージョンプロファイル例を示す模式図である。図1において、スパッタリングターゲットの最外周領域A、中間領域B及び中央領域Cはスパッタされにくい非スパッタ領域である。スパッタリング時には、最外周領域Aと中間領域Bとの間のスパッタ領域及び中間領域Bと中央領域Cとの間のスパッタ領域にガスイオン原子が衝突してスパッタリングターゲットを構成する元素がはじき出されるため、高さが低くなる。一方、最外周領域Aにはほとんどガスイオン原子が衝突しないためエロージョンが進行せず、表面の深さ位置が浅いまま維持される。中間領域Bは、両側のスパッタ領域に衝突するガスイオン原子が衝突することもあり、最外周領域Aよりもエロージョンが進行し、表面の深さ位置が深くなる。中央領域Cは、隣接するスパッタ領域に衝突するガスイオン原子が衝突することもあるが、中間領域Bよりはエロージョンが進行せず、表面の深さ位置は最外周領域Aと中間領域Bの間になる。
【0021】
非スパッタ領域には、スパッタリング時のガスイオン原子の衝突によりスパッタ領域からはじき出された粒子が付着し、堆積膜が形成される。非スパッタ領域への膜の堆積が進むと、堆積膜の内部応力によって堆積膜が剥離し、遊離粒子を発生させる。スパッタリングターゲットの非スパッタ領域であるA、B及びCを粗面化処理すると、表面の凹凸が堆積膜に対して係止作用を発揮し(アンカー効果)、堆積膜が剥離することを抑制し、堆積膜の剥離を原因とした遊離粒子や、アーキングをはじめとする異常放電を発生させることを抑制させる。このような遊離粒子や異常放電を原因として発生したパーティクルは、製品歩留まりを低下させる原因となる。
【0022】
本発明のスパッタリングターゲットは、パーティクルの発生を低減し得る適切な粗面化処理された非スパッタ領域を有する。
【0023】
本発明の第1実施形態のスパッタリングターゲットは、倍率300の光学顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(1)直径20μm以上150μm以下の孔が、隣接する孔と孔との中心間距離が20μm以上150μm以下となるように整列されて存在するか、(2)直径20μm以上150μm以下の孔が1mmに50個以上存在するか、もしくは(3)溝幅20μm以上150μm以下の溝が1mmに5本以上存在することを特徴とする。
【0024】
前記孔または溝は、スパッタリングターゲットの非スパッタ領域を、ナノ秒パルスレーザーで、直径90μm以下のレーザースポットを1回以上照射して粗面化処理することにより形成することができる。レーザーパワーとスキャンスピードの組み合わせは適宜選択できる。たとえば、レーザーパワーが25W/cmの場合、スキャンスピードは155mm/sが好ましく、レーザーパワーが90W/cmの場合、スキャンスピードは5400mm/sが好ましい。前記孔又は溝の大きさは、レーザー照射の回数を変えたり、照射するレーザーのスポット径を変えたり、同じスポット径のレーザーを照射する位置をわずかにずらして複数回照射したりするなどして調節することができる。
【0025】
前記孔又は溝は、「畝状」「格子状」または「同心円状」に整列して形成することができる。「畝状」は、スパッタリングターゲットの表面の上端部から下方へレーザーを照射していき、下端部に達したら所定間隔だけ平行移動して再び上端部から下方へ照射する「斜線」パターンを照射領域全面にわたって繰り返すことにより形成することができる。「格子状」は、「斜線」パターンを全面に照射して孔又は溝を畝状に整列させた後、各畝に対して所定角度だけずらして再び「斜線」パターンを形成する照射を繰り返すことにより形成することができる。最初に形成した畝状の孔又は溝に対して照射角度を90°ずらす場合には格子の頂角が直角となり、照射角度を90°未満ずらす場合には格子の頂角が鋭角になり、照射角度を90°を超えてずらす場合には格子の頂角が鈍角になるが、本発明においては、いずれも「格子状」に含まれるものとして扱う。「同心円状」は、スパッタリングターゲットの表面の照射領域全面にわたって、同心円又は同心矩形を描きながらレーザーを照射する「等高」パターンにより形成することができる。本発明のスパッタリングターゲットは、「畝状」「格子状」または「同心円状」にほぼ同じ大きさの孔が規則正しく整列して設けられている規則性のある均質な粗面を有することにより、スパッタリング時の異常放電が抑制され、アーキングによるパーティクル発生を抑制することができる。
【0026】
本発明の第2実施形態のスパッタリングターゲットは、倍率400のレーザー顕微鏡で観察した場合に、少なくとも非スパッタ領域に、(a)最小自己相関長さSalが3μm以上30μm以下を満たす表面形状を有することを特徴とする。
【0027】
「最小自己相関長さSal」とは、ISO 25178に規定されている面粗さの空間パラメータの一つであり、表面粗さの平面方向の周期性を示す自己相関関数が最も早く特定の値へ減衰する方向の水平距離を表す。急激な段差がある場合は自己相関関数がすぐに減衰するため、最小自己相関長さSalの値は小さくなる。逆になだらかな形状の場合は最小自己相関長さSalの値は大きくなる。
【0028】
本発明のスパッタリングターゲットは、最小自己相関長さSalが2μm以上30μm以下、好ましくは3μm以上30μm以下、より好ましくは4μm以上28μm以下であり、比較的急激な段差がある表面形状を有する。後述する比較例に示されているようにサンドブラスト処理した場合の最小自己相関長さSalは30μmを超える比較的なだらかな形状である。
【0029】
本発明のスパッタリングターゲットは、(a)に加えて、さらに(b)面のスキューネスSskが-0.40以上1.5以下を満たすことが好ましい。
【0030】
「面のスキューネスSsk」とは、評価領域の高さ(変位)に着目したパラメータで、ISO 4287/JIS B0601を面に拡張したものであり、高さ分布の対称性を表す。Sskが0の場合に高さ分布(山と谷)が平均面に対して対称的に存在しており、Sskが負の値の場合には高さ分布が平均面に対して上側(山)に偏っており、Sskが正の値の場合には高さ分布が平均面に対して下側(谷)に偏っていることを示す。
【0031】
本発明のスパッタリングターゲットは、面のスキューネスSskが-0.40以上1.5以下、好ましくは-0.25以上1.0以下、より好ましくは-0.25以上0.70以下であり、高さ分布が平均面に対して下側(谷)にわずかに偏ってはいるが対称に近い表面形状を有する。後述する比較例に示すように、サンドブラスト処理した表面のSskは-0.6前後となることが多く、正の値は確認されなかった。サンドブラスト処理の場合には、高さ分布が平均面に対して上側(山)に偏っていることがわかる。
【0032】
本発明のスパッタリングターゲットは、(a)および(b)に加えて、さらに(c)突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1が5.3%以上を満たすことが好ましい。
【0033】
「突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1」とは、ISO 25178に規定されている面粗さの機能パラメータの一つであり、負荷曲線を用いて算出するコア部の上部の高さと負荷曲線の交点における負荷面積率を表す。「負荷面積率」とはある高さcにおける高さがc以上の領域の面積である負荷面積の割合であり、「負荷曲線」とは負荷面積率が0%から100%となる高さを表した曲線であり、「コア部」とは計測表面の定義領域から、等価直線の負荷面積率0%から100%の高さの範囲に含まれない領域を取り除いた表面であり、「突出山部」とはコア部から上に突出した部分である。「突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1」の数値が小さいほど、突出山部の高さ及び断面積が小さいことを示す。
【0034】
本発明のスパッタリングターゲットは、突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1が5.3%以上、好ましくは35%以下、より好ましくは25%以下である。
【0035】
本発明の第3実施形態のスパッタリングターゲットは、第1実施形態および第2実施形態の表面形状パラメータを充足する。第3実施形態は、第1実施形態と第2実施形態の要件をすべて充足するものであればよいから、各表面形状パラメータの説明は割愛する。
【0036】
本発明のスパッタリングターゲットは、(ア)合金相からなるスパッタリングターゲット、または(イ)単一金属又は合金である金属相と非金属相とからなるスパッタリングターゲットであることが好ましい。特に、金属相の間に非金属相が微細分散している非金属相分散型スパッタリングターゲットが好ましい。特に、金属相が磁性材相であり、非金属相が非磁性材相であるマグネトロンスパッタリング用の非磁性粒子分散型スパッタリングターゲットであることが好ましい。
【0037】
合金相からなるスパッタリングターゲットとしては、Fe-Pt系、Co-Pt系、Co-Cr-Pt系、Co-Cr-Pt-Ru系、Co-Cr-Pt-B系、Co-Cr-Pt-Ru-B系、Co-Pt-B系、Co-Pt-Ru-B系、Co-Pt-Ru系を好適に挙げることができる。
【0038】
単一金属である金属相と非金属相とからなるスパッタリングターゲットとしては、Ru-酸化物系、Ru-窒化物系、Ru-炭化物系、Ru-炭素系、Ru-ホウ素系、Pt-酸化物系、Pt-窒化物系、Pt-炭化物系、Pt-炭素系、Pt-ホウ素系、を好適に挙げることができる。
【0039】
合金である金属相と非金属相とからなるスパッタリングターゲットとしては、(Fe-Pt)-酸化物系、(Fe-Pt)-窒化物系、(Fe-Pt)-炭化物系、(Fe-Pt)-炭素系、(Fe-Pt)-ホウ素系、(Co-Pt)-酸化物系、(Co-Pt)-窒化物系、(Co-Pt)-炭化物系、(Co-Pt)-炭素系、(Co-Pt)-ホウ素系、(Co-Cr-Pt)-酸化物系、(Co-Cr-Pt)-窒化物系、(Co-Cr-Pt)-炭化物系、(Co-Cr-Pt)-炭素系、(Co-Cr-Pt)-ホウ素系、(Co-Cr-Pt-Ru)-酸化物系、(Co-Cr-Pt-Ru)-窒化物系、(Co-Cr-Pt-Ru)-炭化物系、(Co-Cr-Pt-Ru)-炭素系、(Co-Cr-Pt-Ru)-ホウ素系などを好適に挙げることができる。上記に示した合金相は、主要金属元素を挙げているが、任意に追加の金属元素を含むものでもよい。また、非金属相として、酸化物、窒化物、炭化物、炭素、ホウ素及びこれらの任意の組み合わせを用いることができる。具体的には、(Co-20Pt)-3.5SiO-4.2TiO-2.4B、(Co-25Cr-50Ru)-15.1TiO-8.3CoO、Fe-30Pt-30BN-10C、Fe-30Pt-40C、Co-15Cr-20Pt-10B、(Co-5Cr-20Pt)-7.1TiO-3.4Co、Co-20Pt-4CrB、Co-20Pt-4CrB、Co-20Pt-4CoB、Co-20Pt-4CoB、Co-20Pt-4CoB、Co-20Pt-4PtBなどを好適に挙げることができる。
【0040】
単一金属または合金である金属相と非金属相とからなるスパッタリングターゲットは、金属相の間に微細な非金属相が均質に分散している非金属相分散型スパッタリングターゲットであることが好ましく、非磁性材粒子分散型スパッタリングターゲットであることが特に好ましい。
【0041】
本発明のスパッタリングターゲットは、少なくとも非スパッタ領域に、ナノ秒パルスレーザーで直径90μm以下のレーザースポットを1回以上照射して粗面化処理することにより製造することができる。照射回数は上述の表面形状のパラメータを充足することができれば特に限定されず、後述する実施例において1回以上160回以下で充足できることが確認されている。
【0042】
レーザー照射による粗面化処理の前に、非スパッタ領域を研削加工、切削加工又はサンドブラスト処理することができる。研削加工は、特に限定されず、通常スパッタリングターゲットを製造する際に行う平面研削および切削を適宜行うことができる。
【実施例0043】
[スパッタリングターゲット及びテストピースの製造方法]
以下の実施例及び比較例において、スパッタリングターゲット及びテストピースは、100μm以下の金属粉末及び非金属粉末をボールミルに投入して混合し、混合粉末を焼結して製造した。混合条件、焼結圧力及び温度は設計組成により異なるが、当該組成のスパッタリングターゲットを製造する場合に通常用いられている条件とした。以下の実施例及び比較例におけるスパッタリングターゲット及びテストピースは、合金相からなる金属材料か、又は金属相の間に非金属相が微細に分散している非金属相分散型の複合材料である。
【0044】
[レーザー照射パターン]
実施例及び比較例において、レーザー照射パターンは、上から下へ照射していき、端部に達したら所定間隔だけ平行移動して再び上から下へ照射して畝状に孔又は溝を形成する「斜線」(図4)、全面に斜線パターンで照射して畝状に孔又は溝を形成した後、レーザー照射角度を90°ずらして再び「斜線」パターンで照射を繰り返して格子状に孔又は溝を形成する「交差」(図2)、同心円又は同心矩形を描きながら照射して同心円状に孔又は溝を形成する「等高」(図3)の3パターンから選択した。
【0045】
[レーザー照射後表面形状とサンドブラスト処理後表面形状]
図2~4に、レーザー照射したスパッタリングターゲットの光学顕微鏡写真(倍率200)を示す。比較のため、図5に、サンドブラスト処理したスパッタリングターゲットの光学顕微鏡写真(倍率200)を示す。
図2~4と5との比較により、レーザー照射したスパッタリングターゲット表面は、規則的な畝、格子又は同心円の模様が形成された均質な表面形状を有するのに対して、サンドブラスト処理したスパッタリングターゲット表面は、ランダムな凹凸が形成された表面形状を有することがわかる。
【0046】
[レーザー照射条件と表面形状]
図6に、パルス周波数60nsecのナノ秒パルスレーザーの照射回数及びパターンを変えてレーザー照射したスパッタリングターゲット表面の光学顕微鏡写真(倍率300)を示す。図6のAは「斜線」パターンで1回照射した場合、Bは「斜線」パターンで8回照射した場合、Cは「交差」パターンで1回照射した場合、Dは「交差」パターンで8回照射した場合である。
【0047】
Aの「斜線」パターンで1回照射した場合には、90μmの溝幅の畝が規則正しく形成されている。Bの「斜線」パターンを8回照射した場合には、直径約50μmの孔が、約50μmの間隔で規則正しく畝状に整列して形成されている。Cの「交差」パターンを1回照射した場合には、隣接する孔の中心間距離が75μmであって直径約50μmの孔が格子状に規則正しく整列して形成されている。Dの「交差」パターンを8回照射した場合には、短径約30μm長径約50μmの孔が50μm間隔で直線状に並んでいる。
【0048】
レーザー照射パターン及び照射回数は、上記に限定されるものではなく、粗面化処理を施すスパッタリングターゲットの組成に応じて適宜調節することができる。たとえば、組成Co-15Cr-20Pt-10Bなら「交差」パターンの8回照射、(Co-25Cr-50Ru)-15.1TiO-8.3CoOは「交差」パターンの12回照射、Fe-30Pt-30BN-10Cは「斜線」パターンの10回照射、(Co-5Cr-20Pt)-7.1TiO-3.4Coなら「交差」パターンの9回照射等を好適に用いることができる。
【0049】
[実施例1~6及び比較例1~2]
実施例1~6及び比較例1は、設計組成(Co-20Pt)-3.3SiO-4.7TiO-2.4Bのスパッタリングターゲットを焼結法により製造して平面研削した後、非スパッタ領域に、パルス周波数60nsecのレーザーを表1に示すレーザーパワー、スキャンスピード、照射パターンと照射回数で照射を繰り返した。アーキングの加速試験のため、ターゲットの表面の1/4扇形領域については、通常のサンドブラスト処理を施さないスパッタ領域も含めて全面にレーザー照射を行った。
【0050】
比較例2は、実施例1~6と同じ設計組成のスパッタリングターゲットをサンドブラスト処理した。サンドブラスト処理は、エアーブラスト装置を用いて#20(JIS R 6001)のアルミナ粒子を投射圧力0.3MPa~0.7MPaで、スパッタリングターゲットの実施例1~6のレーザー照射と同じ領域を加工することにより行った。
【0051】
得られたスパッタリングターゲットの表面形状のパラメータSal、Ssk、Smr1及びSaをレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製デジタルレーザーマイクロスコープVK-X110)で測定し、XRF分析(株式会社島津製作所製エネルギー分散型蛍光X線分析装置EDX-7000)による不純物の有無の確認、アーキング試験、割れ試験を行った。表面形状の各パラメータの数値は平均値である。
【0052】
[不純物測定]
スパッタリングターゲットの分析用試料片をエネルギー分散型蛍光X線分析装置によるXRF分析に供して、不純物を測定した。比較例2においてブラスト材として用いたアルミナAl由来のAlが1wt%以上検出された場合に「不純物あり」とし、Alの検出が1wt%未満の場合に「不純物なし」とした。
【0053】
[アーキング試験]
アーキング試験は、スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、真空引きした後、放電3秒間、インターバル2秒間の間隔でスパッタリングを100回繰り返し、スパッタリング時の放電電圧プロファイルを得て、閾値を超えた回数をアーキング回数としてカウントした。
【0054】
各スパッタリング条件は、アルゴンガスフロー下、1.0Pa、500Wであった。サンドブラスト処理した比較例とレーザー処理した実施例のスパッタリング時の放電電圧プロファイルを図7及び8に示す。
【0055】
放電電圧プロファイルは、スパッタリング時にスパッタリングターゲットに印加された電圧及び流れた電流をデータロガーにより50μ秒間隔で記録した。記録された電圧データについて、電圧値がおおよそ安定している箇所の平均電圧を算出し、その1.2倍を閾値として、閾値を超えた回数をカウントしてアーキング回数とした。
【0056】
アーキング回数が150回未満の場合は「◎」、150回以上500回未満の場合は「〇」、500回以上700回未満の場合は「△」、700回以上1000回未満の場合は「×」、1000回以上の場合は「××」と評価した。
【0057】
[割れ試験]
スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、真空引きした後、アルゴンガスフロー下、1.0Pa、500Wでのスパッタリングを600秒連続して行なった。次いで、放電電力を100W毎上昇させて、600秒の連続スパッタリングを繰り返した。スパッタリングが破断すると大きな破断音が発生するので、その時点の電力値を破断発生時の放電電力として記録した。
【0058】
【表1】
【0059】
[表面形状パラメータと不純物及びアーキング回数の抑制]
サンドブラスト処理を行った比較例2では、表面形状のパラメータSalが41.24μmと大きすぎ、Sskが-0.60と小さすぎて所望の表面形状が形成されておらず、1000回以上のアーキングが発生し、不純物が残留していた。
【0060】
実施例1~5は、表面形状のパラメータSalが3μm以上30μm以下、Sskが-0.40以上1.5以下、Smr1が5.3%以上であり、不純物はなく、アーキング回数も150回以上500回未満であり、比較例1及び2よりもアーキングの発生を抑制できていることがわかる。
【0061】
実施例6は、表面形状のパラメータSalが3μm以上30μm以下、Smr1が5.3%以上であり、不純物はなく、アーキング回数が500回以上700回未満であり、実施例1~5よりはアーキングの発生が多いものの、比較例1及び2よりはアーキングの発生を抑制できていることがわかる。
【0062】
比較例1は、レーザー処理であるが、スキャンスピードが100mm/sで照射回数が70回であったためか、Salが48.51μmと大きくなり、Sskが-0.72と小さすぎ、所望の表面形状のパラメータを充足できず、アーキング回数が700回以上1000回未満とアーキングの発生を抑制できなかった。
【0063】
本実験より、レーザー処理により所望の表面形状を形成することでアーキング発生が良好に防止できることがわかった。
【0064】
一方、表面形状のパラメータとして従来から多用されている算術平均粗さRaを面に拡張した表面粗さSaについては、実施例1~6が3.41μm~12.13μmであり、比較例2は4.14μmと実施例1~6のSaと同程度であるにもかかわらず、アーキングの発生を抑制できておらず、表面粗さSaだけではアーキング抑制効果が確認できないこともわかった。
【0065】
[表面形状パラメータと耐性]
サンドブラスト処理を行ない所望の表面形状が形成されていない比較例2では、1400W(累積スパッタリング時間6000秒)で破断し、レーザー処理ではあるが所望の表面形状が形成されていない比較例1では、1600W(累積スパッタリング時間7200秒)で破断した。一方、レーザー処理した実施例2では、2500W(累積スパッタリング時間12600秒)でも破断せず、実施例3では2300W(累積スパッタリング時間11400秒)で破断した。なお、2500Wは、実験に用いたスパッタリング装置の最大放電電力である。
本実験より、レーザー処理により所望の表面形状を形成することでスパッタリング耐性が増大することがわかった。
【0066】
[実施例7~19]
実施例1~6と同じ設計組成(Co-20Pt)-3SiO-4.7TiO-2.4Bのテストピースを作製して、レーザー処理条件を変えた場合の表面形状パラメータをレーザー顕微鏡で測定した。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例7~16について照射回数とSmr1及びSskとの関係を図9~10に示す。
図9~10より、照射回数が増えるほど、Smr1及びSskの値は大きくなる傾向にあることがわかる。
【0069】
[実施例20、比較例3~6]
実施例20及び比較例3~4は、設計組成(Co-20Pt)-3.4SiO-2.5B-1.9Taのスパッタリングターゲットを焼結法により製造し、平面研削した後に、非スパッタ領域にパルス周波数60nsecのレーザーを表3に示すレーザーパワー、スキャンスピード、照射パターンと照射回数で照射を繰り返した。アーキングの加速試験のため、ターゲットの表面の1/4扇形領域については、通常のサンドブラスト処理を施さないスパッタ領域の一部を含めて全面にレーザー照射を行った。
【0070】
比較例5~6は、実施例20と同じ設計組成のスパッタリングターゲットをサンドブラスト処理した。サンドブラスト処理は、エアーブラスト装置を用いて#20のアルミナ粒子を投射圧力0.3MPa~0.7MPaで、実施例20と同じスパッタリングターゲットの表面の領域を加工することにより行った。
【0071】
得られたスパッタリングターゲットの表面形状のパラメータSal、Ssk、Smr1及びSaをレーザー顕微鏡で測定し、XRF分析による不純物の有無の確認、アーキング試験、割れ試験を行った。表面形状の各パラメータの数値は平均値である。
【表3】
【0072】
[表面形状パラメータと不純物及びアーキング回数の抑制]
サンドブラスト処理を行った比較例5及び6では、表面形状のパラメータSalが30.22μm及び58.29μmと大きすぎて所望の表面形状が形成されておらず、1000回以上のアーキングが発生し、不純物も残留していた。
【0073】
スキャンスピードが100mm/sでレーザー照射回数が70回の比較例3及び4では、表面形状のパラメータSalが59.08μm及び54.21μmと大きすぎて所望の表面形状が形成されておらず、700回以上1000回未満のアーキングが発生し、アーキングの発生を抑制できなかった。
【0074】
実施例20は、表面形状のパラメータSalが3μm以上30μm以下、Sskが-0.40以上1.5以下、Smr1が5.3%以上を充足し、不純物はなく、アーキング回数も150回以上500回未満であり、比較例3~6よりもアーキングの発生を抑制できていることがわかる。
【0075】
本実験より、レーザー処理により所望の表面形状を形成することでアーキング発生が良好に防止できることがわかった。
【0076】
[表面形状パラメータと耐性]
サンドブラスト処理を行ない所望の表面形状が形成されていない比較例6では、1500W(累積スパッタリング時間6600秒)で破断し、レーザー処理ではあるが所望の表面形状が形成されていない比較例3では、2100W(累積スパッタリング時間10200秒)で破断した。一方、レーザー処理により所望の表面形状が形成されている実施例20では、2500W(累積スパッタリング時間12600秒)でも破断しなかった。なお、2500Wは、実験に用いたスパッタリング装置の最大放電電力である。
本実験より、レーザー処理により所望の表面形状を形成することでスパッタリング耐性が増大することがわかった。
【0077】
[実施例21~26及び比較例7~9]
実施例21~23及び比較例7は、設計組成(Co-25Cr-50Ru)-15.1TiO-8.3CoOのスパッタリングターゲットを焼結法により製造し平面研削した後、非スパッタ領域にパルス周波数60nsecのレーザーを表4に示すレーザーパワー、スキャンスピード、照射パターンと照射回数で照射を繰り返した。アーキングの加速試験のため、ターゲットの表面の1/4扇形領域については、通常のサンドブラスト処理を施さないスパッタ領域も含めて全面にレーザー照射を行った。
【0078】
比較例8は、実施例21~23と同じ設計組成のスパッタリングターゲットをサンドブラスト処理した。サンドブラスト処理は、エアーブラスト装置を用いて#20のアルミナ粒子を投射圧力0.3MPa~0.7MPaで、実施例21~23と同じスパッタリングターゲットの領域を加工することにより行った。
【0079】
得られたスパッタリングターゲットの表面形状のパラメータSal、Ssk、Smr1及びSaをレーザー顕微鏡で測定し、実施例21~23及び比較例7~8についてはXRF分析による不純物の有無の確認、アーキング試験を行なった。表面形状の各パラメータの数値は平均値である。
【0080】
実施例24~26は、設計組成(Co-25Cr-50Ru)-15.1TiO-8.3CoOのテストピースを焼結法により製造し、非スパッタ領域をサンドブラスト処理した後に、パルス周波数60nsecのレーザーを表4に示すレーザーパワー、スキャンスピード、照射パターンと照射回数で照射を繰り返した。アーキングの加速試験のため、ターゲットの表面の1/4扇形領域については、通常のサンドブラスト処理を施さないスパッタ領域を含めて全面にレーザー照射を行った。
【0081】
比較例9は、設計組成(Co-25Cr-50Ru)-15.1TiO-8.3CoOのテストピースを焼結法により製造し、平面研削した後に、サンドブラスト処理した。サンドブラスト処理は、エアーブラスト装置を用いて#20のアルミナ粒子を投射圧力0.3MPa~0.7MPaで、実施例24~26と同じスパッタリングターゲットの領域を加工することにより行った。
【0082】
実施例24~26及び比較例9については、表面形状のパラメータSal、Ssk、Smr1及びSaをレーザー顕微鏡で測定し、XRF分析による不純物濃度の測定を行った。
【表4】
【0083】
[表面形状パラメータと不純物及びアーキング回数の抑制]
サンドブラスト処理を行った比較例8では、表面形状のパラメータSalが52.17μmと大きすぎて所望の表面形状が形成されておらず、1000回以上のアーキングが発生し、不純物も残留していた。
【0084】
スキャンスピードが100mm/sでレーザー照射回数が70回の比較例7では、表面形状のパラメータSalが74.54μmと大きすぎて所望の表面形状が形成されておらず、500回以上700回未満のアーキングが発生した。
【0085】
実施例21~23は、表面形状のパラメータSalが3μm以上30μm以下、Sskが-0.40以上1.5以下、Smr1が5.3%以上を充足し、不純物はなく、アーキング回数も150回未満であり、比較例7~8よりもアーキングの発生を抑制できていることがわかる。
【0086】
本実験より、レーザー処理により所望の表面形状を形成することでアーキング発生が良好に防止できることがわかった。
【0087】
[レーザー処理による不純物濃度削減]
実施例24~26及び比較例9について、XRF分析により不純物であるAlの濃度を求めたところ、平面研削後にサンドブラスト処理した比較例9では14.035wt%であったが、サンドブラスト後にレーザー処理を行った実施例24~26では不純物濃度は減少していること、レーザー照射回数が多くなるほど不純物濃度が減少することがわかった。
【0088】
本実験により、レーザー照射の繰り返し回数を多くすることにより、ブラスト材の残留を削減できることがわかる。
【0089】
また、実施例21~23と実施例24~26の比較により、平面研削後にレーザー処理を行うことにより、不純物の残留がなくアーキングの発生を抑制できる所望の表面形状を形成することができることがわかる。また、サンドブラスト後にレーザー処理を行なうと所望の表面形状を形成することができ、不純物の残留が生じるが、レーザー照射回数を増やすことで不純物の残留を減少できることがわかる。
【0090】
[実施例27~33及び比較例10~11]
実施例27~33及び比較例10は、設計組成Co-15Cr-20Pt-10Ruのスパッタリングターゲットを焼結法により製造し平面研削した後、非スパッタ領域にパルス周波数60nsecのレーザーを表5に示すレーザーパワー、スキャンスピード、照射パターンと照射回数で照射を繰り返した。アーキングの加速試験のため、ターゲットの表面の1/4扇形領域については、通常のサンドブラスト処理を施さないスパッタ領域を含めて全面にレーザー照射を行った。
【0091】
比較例11は、実施例27~33と同じ設計組成のスパッタリングターゲットをサンドブラスト処理した。サンドブラスト処理は、エアーブラスト装置を用いて#20のアルミナ粒子を投射圧力0.3MPa~0.7MPaで、実施例27~33と同じスパッタリングターゲットの領域を加工することにより行った。
【0092】
得られたスパッタリングターゲットの表面形状のパラメータSal、Ssk、Smr1及びSaをレーザー顕微鏡で測定し、XRF分析による不純物の有無の確認、アーキング試験を行なった。表面形状の各パラメータの数値は平均値である。
【0093】
【表5】
【0094】
[表面形状パラメータと不純物及びアーキング回数の抑制]
サンドブラスト処理を行った比較例11では、表面形状のパラメータSalが58.45μmと大きすぎて所望の表面形状が形成されておらず、1000回以上のアーキングが発生し、不純物も残留していた。
【0095】
スキャンスピードが100mm/sでレーザー照射回数が70回の比較例10では、表面形状のパラメータSalが55.76μmと大きすぎて所望の表面形状が形成されておらず、500回以上700回未満のアーキングが発生した。
【0096】
実施例27~33は、表面形状のパラメータSalが3μm以上30μm以下、Sskが-0.40以上1.5以下、Smr1が5.3%以上を充足し、不純物はなく、アーキング回数も150回未満であり、比較例10~11よりもアーキングの発生を抑制できていることがわかる。
【0097】
本実験より、レーザー処理により所望の表面形状を形成することでアーキング発生が良好に防止できることがわかった。
【0098】
[実施例34~39及び比較例12]
実施例34~38は、SUS304の直径50mm、厚さ10mmの円板状テストピースを平面研削した後、パルス周波数60nsecのレーザーを表6に示すレーザーパワー、スキャンスピード、照射パターンと照射回数で照射を繰り返した。
【0099】
実施例39は、SUS304を平面研削した後、サンドブラスト処理した。サンドブラスト処理は、エアーブラスト装置を用いて#20のアルミナ粒子を投射圧力0.3MPa~0.7MPaでテストピース全面を加工することにより行った。
【0100】
比較例12は、SUS304を平面研削した後、鏡面仕上げを行った。鏡面仕上げは、冷間圧延した後、スキンパス圧延(乾式調質圧延)を施すことにより行った。研磨材は使用しなかった。
【0101】
得られたテストピースの表面形状のパラメータSal、Ssk、Smr1及びSaをレーザー顕微鏡で測定し、剥がれ試験を行った。剥がれ試験は、Arガスフロー、1.0Pa、1000Wの成膜条件でテストピースの表面にCo合金膜を20μm以上成膜し、Co合金膜の剥離状態を目視で確認することにより行った。
【0102】
【表6】
【0103】
表面形状のパラメータSalが3μm以上30μm以下を充足する実施例34~39は、Co合金膜の剥離は認められなかった。
【0104】
表面形状のパラメータSalが1.93μmと小さすぎる比較例12は、成膜後直ぐにCo合金膜の剥離が認められた。
【0105】
本実験により、所定の表面形状パラメータを充足するテストピースの上に成膜することで、膜剥離を防止できることがわかる。
【0106】
[実施例40~45]
実施例40~45は、表7に示す設計組成のテストピースを焼結法により製造し、平面研削した後、パルス周波数60nsecのレーザーを表7に示すレーザーパワー、スキャンスピード、照射パターンと照射回数で照射を繰り返し、得られたテストピースの表面形状のパラメータSal、Ssk、Smr1及びSaをレーザー顕微鏡で測定した。
【表7】
【0107】
実施例40は合金の金属相からなるテストピース(設計組成:Fe-50Pt)、実施例41は合金の金属相の間に窒化物及び炭素の非金属相が微細分散しているテストピース(設計組成:Fe-30Pt-30BN-10C)、実施例42は合金の金属相の間に炭素の非金属相が微細分散しているテストピース(設計組成:Fe-30Pt-40C)、実施例43は合金の金属相の間にホウ素の非金属相が分散しているテストピース(設計組成:Co-15Cr-20Pt-10B)、実施例44及び45は合金の金属相の間に複数の酸化物を含む非金属相が微細分散しているテストピース(設計組成:(Co-20Pt)-3.4SiO-2.5B-1.9Ta、(Co-5Cr-20Pt)-7.1TiO-3.4Co)である。いずれも本発明の方法にて適切な粗面化処理が施されていることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10