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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019647
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】インク及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20230202BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230202BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124549
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀俊
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FA10
2C056FC01
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
4J039BC57
4J039BE22
4J039EA46
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インク充填時の吐出性、インクの消泡性、吐出安定性、及びインク通液性に優れるインクの提供。
【解決手段】インクの流路にフィルターを有するインクジェット記録装置に用いられるインクであって、水、色材、シリコーン界面活性剤、及びシリコーン化合物粒子を含有し、前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)が1.01μm~5.00μmであり、前記シリコーン化合物粒子の含有量が0.01質量%~0.20質量%であるインクである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの流路にフィルターを有するインクジェット記録装置に用いられるインクであって、
水、色材、シリコーン界面活性剤、及びシリコーン化合物粒子を含有し、
前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)が1.01μm~5.00μmであり、前記シリコーン化合物粒子の含有量が0.01質量%~0.20質量%であることを特徴とするインク。
【請求項2】
前記シリコーン界面活性剤が、下記一般式(1)で表される界面活性剤を含有する請求項1に記載のインク。
【化1】
(但し、前記一般式(1)において、mは0~7の整数を表し、nは2~15の整数を表す。)
【請求項3】
前記色材の体積平均粒子径(D50)と前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)との比[色材の体積平均粒子径(D50)/シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)]が、0.02~0.1の範囲にある請求項1から2のいずれかに記載のインク。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のインクと、
前記インクの流路に平均細孔径4μm~22μmのフィルターと、
を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、他の記録方式に比べてプロセスが簡単であるためフルカラー化が容易であり、簡略な構成の装置であっても高解像度の画像が得られる利点がある。インクジェット用インクとしては各種の水溶性染料を水、又は水と水溶性保湿剤との混合液に溶解させた染料系インクが使用されている。
【0003】
近年、環境法規の規制強化によりフッ素系界面活性剤への規制が厳しくなってきている。フッ素系界面活性剤は使用に制限がかかる場合が多くなっている。フッ素系界面活性剤は基材への濡れ性や泡切れの良さ等の非常に優秀な特性を有するため、代替材料の選定が難しいという問題がある。環境を考えると、フッ素系やシリコーン系の界面活性剤よりも、炭化水素系は環境負荷が少ない。そのため、炭化水素系の界面活性剤としてのアセチレン構造を有する界面活性剤を使用し、濡れ性や起泡性を改善することが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、アセチレン構造を有する界面活性剤を使用しても、消泡性としては充分満足できるものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、インク充填時の吐出性、インクの消泡性、吐出安定性、及びインク通液性に優れるインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としての本発明のインクは、インクの流路にフィルターを有するインクジェット記録装置に用いられるインクであって、水、色材、シリコーン界面活性剤、及びシリコーン化合物粒子を含有し、前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)が1.01μm~5.00μmであり、前記シリコーン化合物粒子の含有量が0.01質量%~0.20質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インク充填時の吐出性、インクの消泡性、吐出安定性、及びインク通液性に優れるインクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
図2図2は、本発明のインクジェット記録装置の一例を示す断面図である。
図3図3は、図1のインクジェット記録装置の一部を示す概略図である。
図4図4は、インクカートリッジの一例を示す概略図である。
図5図5は、インクカートリッジの別の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(インク)
本発明のインクは、インクの流路にフィルターを有するインクジェット記録装置に用いられるインクであって、水、色材、シリコーン界面活性剤、及びシリコーン化合物粒子を含有し、前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)が1.01μm~5.00μmであり、前記シリコーン化合物粒子の含有量が0.01質量%~0.20質量%である。
【0009】
従来、空気を導入するための空気導入流路を有し、インク中で気泡を発生させる構造を有するインク収容容器を用いる場合に、気泡がインクとともにインクタンクから流れ出しインク吐出ヘッドへ運ばれてしまい、該インク吐出ヘッドでの充填及び吐出の不良を生じるという問題があった。また、開放系のインクカートリッジのような、大気とインクが接触可能なインク収容容器を備えたインクジェット記録装置において、インクがインク吐出ヘッドへ供給される場合に、気泡を含むインクがインク吐出ヘッドへ運ばれて、インク吐出ヘッドでの充填及び吐出の不良を生じるという問題があった。このようなインク吐出ヘッドでの充填及び吐出の不良は、初期充填性及び連続印刷安定性の悪化を招いていた。
前記問題に対し、本発明者は鋭意検討を行い、前記構成を備えるインクが、フッ素系界面活性剤を含有しない場合であっても、インクの消泡性に優れ、かつ、インク充填時の吐出性、吐出安定性、及びインク通液性にも優れるものであることを見出した。
【0010】
前記インクは、水、色材、シリコーン界面活性剤、及びシリコーン化合物粒子を含有し、更に必要に応じて、有機溶剤、樹脂粒子、前記シリコーン界面活性剤以外の界面活性剤、各種添加剤などのその他の成分を含有する。
【0011】
<シリコーン界面活性剤>
前記シリコーン界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記シリコーン界面活性剤としては、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン界面活性剤が、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
【0012】
このようなシリコーン界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記シリコーン界面活性剤の市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルション株式会社、共栄社化学株式会社などから入手できる。
【0013】
前記ポリエーテル変性シリコーン界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(S-1)式で表わされる、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入したものなどが挙げられる。
【化1】
(但し、前記一般式(S-1)において、m、p、a、及びbは、それぞれ独立に、整数を表し、Rは、アルキレン基を表し、R’は、アルキル基を表す。)
【0014】
前記ポリエーテル変性シリコーン界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF-618、KF-642、KF-643(以上、信越化学工業株式会社製)、EMALEX-SS-5602、SS-1906EX(以上、日本エマルション株式会社製)、DOWSIL FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、FZ-2164(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)、BYK-33、BYK-387(以上、ビックケミー株式会社製)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(以上、東芝シリコン株式会社製)などが挙げられる。
【0015】
これらの中でも、前記シリコーン界面活性剤としては、下記一般式(1)で表される界面活性剤が、インクの通液性及びインクの消泡性が向上する点で特に好ましい。
【化2】
(但し、前記一般式(1)において、mは0~7の整数を表し、nは2~15の整数を表す。)
【0016】
前記インクにおける前記シリコーン界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
前記インク中の前記シリコーン界面活性剤は、質量分析法、紫外分光法、赤外分光法、プロトン核磁気共鳴分光法、炭素13核磁気共鳴分光法、元素分析法等の分析方法等の各種分析方法により確認することができる。
【0018】
<シリコーン化合物粒子>
前記シリコーン化合物粒子は、体積平均粒子径(D50)が1.01μm~5.00μmのシリコーン化合物粒子である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリジメチルシロキサン粒子を用いることができる。
【0019】
前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)は、1.01μm~5.00μmであるが、1.10μm~4.50μmが好ましい。前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)が、1.01μm未満であると、初期充填性が悪く、またインクの泡立ちが生じ、5.00μmを超えると、吐出安定性及び通液性が悪くなる。一方、前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)が1.01μm~5.00μmであると、初期充填性、吐出安定性、通液性、及び消泡性が向上する点で有利である。
【0020】
前記シリコーン化合物粒子は、前記インク中にそのまま配合されてもよいが、前記シリコーン化合物粒子を液体中に分散させたシリコーンエマルションとして配合してもよい。
【0021】
前記シリコーンエマルションは、アニオン性界面活性剤及び水を用いて分子中に約2個の前記シリコーン化合物粒子を乳化し、必要に応じてコロイドシリカ及び有機スズ化合物を添加して調製することができる。
前記シリコーンエマルションのpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、9~11.5が好ましい。
【0022】
前記インクにおける前記シリコーン化合物粒子の含有量としては、前記インク全量に対して0.01質量%~0.20質量%である。前記シリコーン化合物粒子の含有量が0.01質量%~0.20質量%であると、吐出安定性及び通液性が向上する点で有利である。
【0023】
前記インク中の前記シリコーン化合物粒子は、質量分析法、紫外分光法、赤外分光法、プロトン核磁気共鳴分光法、炭素13核磁気共鳴分光法、元素分析法等の分析方法等の各種分析方法により確認することができる。
【0024】
<色剤>
前記色材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、顔料、染料などが挙げられる。
【0025】
前記顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機顔料、有機顔料などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、混晶を使用してもよい。
【0026】
前記顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色等の光沢色顔料やメタリック顔料などが挙げられる。
【0027】
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローなどが挙げられる。前記無機顔料としては、これらに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することもできる。
【0028】
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどが挙げられる。
【0029】
前記顔料としては、これらの顔料のうち、溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
【0030】
前記顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類;銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料などが挙げられる。
【0031】
更に、前記顔料の具体例として、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213;C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51;C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264;C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38;C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63;C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36などが挙げられる。
【0032】
前記染料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料、塩基性染料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記染料具体例としては、C.I.アシッドイエロー17、23、42、44、79、142;C.I.アシッドレッド52、80、82、249、254、289;C.I.アシッドブルー9、45、249;C.I.アシッドブラック1、2、24、94;C.I.フードブラック1、2;C.I.ダイレクトイエロー1、12、24、33、50、55、58、86、132、142、144、173;C.I.ダイレクトレッド1、4、9、80、81、225、227;C.I.ダイレクトブルー1、2、15、71、86、87、98、165、199、202;C.I.ダイレクトブラック19、38、51、71、154、168、171、195;C.I.リアクティブレッド14、32、55、79、249;C.I.リアクティブブラック3、4、35などが挙げられる。
【0034】
前記色材の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インク全量に対して、2質量%~15質量%が好ましく、3質量%~12質量%がより好ましく、4質量%~10質量%が更に好ましい。
【0035】
前記顔料を分散して前記インクを得るためには、前記顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、前記顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法などが挙げられる。
【0036】
前記顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、前記顔料(例えば、カーボンなど)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法などが挙げられる。
【0037】
前記顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、例えば、前記顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法などが挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、前記インクに配合される顔料は全て樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料が前記インク中に分散していてもよい。
【0038】
前記分散剤を用いて分散させる方法としては、例えば、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法などが挙げられる。
前記分散剤としては、特に制限はなく、前記顔料の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、RT-100(ノニオン性界面活性剤、竹本油脂株式会社製)や、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
【0039】
前記顔料の体積平均粒子径(D50)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20nm~200nmが好ましく、30mm~150nmがより好ましく、50nm~120nmが更に好ましい。
本発明における顔料の体積平均粒子径は、粒度分布測定装置(ナノトラックUPA-EX150、日機装株式会社製)を用い、測定サンプル中の顔料の固形分濃度が0.01質量%になるように純水で希釈したサンプルを用い、粒子屈折率1.51、粒子密度1.4g/cm、溶媒パラメーターとして純水のパラメーターを用い、23℃で測定した50%体積平均粒子径(D50)である。
なお、前記色材として、顔料含有ポリマー粒子を用いる場合は、ポリマー部分を含む、顔料含有ポリマー粒子としての体積平均粒子径(D50)を測定すればよい。
【0040】
<<比[色材の体積平均粒子径(D50)/シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)]>>
前記色材の体積平均粒子径(D50)と前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)との比[色材の体積平均粒子径(D50)/シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)]としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.02~0.1が好ましく、0.05~0.1がより好ましい。前記比[色材の体積平均粒子径(D50)/シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)]が、0.02~0.1の範囲内であると、インクの通液性が向上する点で有利である。
【0041】
<水>
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記水の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出安定性の点で、前記インク全量に対して、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%~60質量%がより好ましい。
【0043】
<その他の成分>
前記インクは、更に必要に応じて、有機溶剤、樹脂粒子、前記シリコーン界面活性剤以外の界面活性剤、各種添加剤などのその他の成分を含有していてもよい。
【0044】
<<有機溶剤>>
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水溶性有機溶剤、炭素数8以上のポリオール化合物、グリコールエーテル化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類等のエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記水溶性有機溶剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物;ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類;ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物;プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
【0047】
前記水溶性有機溶剤は、湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0048】
前記炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
【0049】
前記グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0050】
前記炭素数8以上のポリオール化合物及び前記グリコールエーテル化合物は、記録媒体として紙を用いた場合に、インクの浸透性を向上させることができる。
【0051】
前記有機溶剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、吐出安定性に優れる点で、前記インク全量に対して、30質量%~50質量%が好ましい。
【0052】
<樹脂粒子>
前記インクは、主に、画像耐擦化性向上及び色材に顔料を用いた場合の保存安定性向上の目的で、樹脂粒子を含有することが好ましい。
前記樹脂粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、画像耐擦化性の向上には、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂の樹脂粒子が好ましく、保存安定性の向上には、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂の樹脂粒子が好ましい。しかし、画像耐擦化性向上と保存安定性向上を同時に達成できる樹脂粒子は少ないため、2種類の樹脂粒子を併用してもよい。これらの樹脂粒子は、樹脂粒子が水中に分散している樹脂エマルションの形態で市販されており、容易に入手可能である。したがって、前記樹脂エマルションは、市販のものを必要に応じて適宜選択して用いることができる。
次に、代表的な樹脂エマルションとして、ウレタン樹脂エマルション、アクリル系樹脂エマルションについて例示する。
【0053】
(1)ウレタン樹脂エマルション
前記ウレタン樹脂エマルションのウレタン樹脂は、ポリイソシアネートと、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール等とを重合させたものである。
【0054】
前記ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート化合物;キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物;トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネートの変性物(カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン含有変成物等)などが挙げられる。
【0055】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコールなどが挙げられる。
【0056】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ-3-メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートなどが挙げられる。
【0057】
前記ポリラクトンポリオールとしては、例えば、ポリカプロラクトンジオール、ポリオメガヒドロキシカプロン酸ポリオールなどが挙げられる。
【0058】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ジオール(例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等)と、ホスゲンと、ジアリールカーボネート(例えば、ジフェニルカーボネート等)又は環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)との反応から得られる生成物のような、公知のものが含まれる。
【0059】
(2)アクリル系樹脂エマルション
前記アクリル系樹脂エマルションのアクリル系樹脂は、アクリル系単量体を単独で重合させるか、又は他の単量体と共重合させることにより得られる。
【0060】
前記アクリル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-t-ブチル、アクリル酸-n-ペンチル、アクリル酸イソペンチル、アクリル酸ネオペンチル、アクリル酸-3-(メチル)ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ウンデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸-n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸-n-ペンチル、メタクリル酸イソペンチル、メタクリル酸ネオペンチル、メタクリル酸-3-(メチル)ブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ウンデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0061】
前記他の単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-クロルスチレン、ジビニルベンゼン等のビニル系芳香族炭化水素、イタコン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸、N-置換マレイミド、無水マレイン酸、ビニルケトン、酢酸ビニル、塩化ビニリデンなどが挙げられる。
【0062】
これらの樹脂エマルションは、樹脂にイオン性基を導入することによって一層優れた水分散性を発現する。このようなイオン性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、硫酸基、リン酸基、ホスホン酸基及びホスフィン酸基、又はこれらのアルカリ金属塩基、アルカリ土類金属塩基、アンモニウム塩基、第1級~第3級アミン基などが挙げられる。これらの中でも、カルボン酸アルカリ金属塩基、カルボン酸アンモニウム塩基、スルホン酸アルカリ金属塩基、及びスルホン酸アンモニウム塩基が好ましく、スルホン酸アルカリ金属塩基及びスルホン酸アンモニウム塩基が、水分散安定性の点で特に好ましい。
前記樹脂へのイオン性基の導入は、樹脂合成時にイオン性基を有する単量体を添加することにより行われる。塩として好ましいのは、Li、K、又はNa塩である。
【0063】
前記樹脂粒子の体積平均粒径(D50)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
前記樹脂粒子の体積平均粒径(D50)は、例えば、粒度分布測定装置(ナノトラックUPA-EX150、日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0064】
前記樹脂粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0065】
<<シリコーン界面活性剤以外の界面活性剤>>
前記インクは、前記シリコーン界面活性剤を含有するが、前記シリコーン界面活性剤以外の界面活性剤も追加して含有することができる。
前記シリコーン界面活性剤以外の界面活性剤としては、特に制限はなく、着色剤の種類や有機溶剤の組合せによって適宜選択することができるが、分散安定性を損なわず、表面張力が低く、浸透性、レベリング性の高いものが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記シリコーン界面活性剤以外の界面活性剤としては、アセチレン構造を有するアニオン性界面活性剤及びアセチレン構造を有するノニオン性界面活性剤から選択される少なくとも1種と、アセチレン構造を有しない炭化水素系のエチレンオキサイド(EO)鎖が付加された界面活性剤から選択される少なくとも1種以上と、を混合して用いることがより好ましい。
【0066】
前記シリコーン界面活性剤以外の界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インク全量に対して、0.01質量%~3.0質量%が好ましく、0.1質量%~1質量%がより好ましい。
【0067】
<<添加剤>>
前記インクは、本発明の効果が損なわれない範囲で、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0068】
-消泡剤-
前記消泡剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
-防腐防黴剤-
前記防腐防黴剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0070】
-防錆剤-
前記防錆剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0071】
-pH調整剤-
前記pH調整剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pHを7以上に調整することが可能なものが好ましく、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0072】
前記添加剤の含有量としては、本発明の効果が損なわれない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0073】
前記インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pHなどが以下の範囲であることが好ましい。
【0074】
前記インクの25℃での粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5mPa・s~15mPa・sが好ましく、5mPa・s~10mPa・sがより好ましい。前記インク粘度が5mPa・s以上とすることによって、印字濃度や文字品位を向上させる効果が得られる。一方、前記インク粘度を15mPa・s以下に抑えることで、吐出性安定性を確保することができる。
ここで、前記インクの粘度は、例えば、粘度計(RE-550L、東機産業株式会社製)を使用して、25℃で測定することができる。
【0075】
前記インクの表面張力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。前記表面張力を35mN/m以下にすると、記録媒体上のインクのレベリングが良くなる。
【0076】
前記インクのpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7~12が好ましく、8~11がより好ましい。
【0077】
前記インクの着色としては、特に制限はなく、前記色材に応じて適宜選択することができ、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどが挙げられる。これらの着色を2種以上併用したインクセットを使用して記録を行うと、多色画像を形成することができ、全色併用したインクセットを使用して記録を行うと、フルカラー画像を形成することができる。
【0078】
<インクの製造方法>
前記インクの製造方法としては、特に制限はなく、公知のインクの製造方法の中から適宜選択することができ、例えば、水、色材、シリコーン界面活性剤、及び体積平均粒子径(D50)が1.01μm~5.00μmのシリコーン化合物粒子、更に必要に応じて、有機溶剤、樹脂粒子、前記シリコーン界面活性剤以外の界面活性剤、各種添加剤等のその他の成分を、水性媒体中に分散又は溶解し、更に必要に応じて攪拌混合して製造する方法などが挙げられる。
前記分散は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシャイカー、超音波分散機などにより行うことができ、前記攪拌混合は、通常の攪拌羽を備えた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機などにより行うことができる。
【0079】
前記インクは、インクの流路にフィルターを有するインクジェット記録装置(プリンタ等)において好適に使用することができ、例えば、印字又は印字前後に記録媒体及び前記インクを50℃~200℃で加熱し、印字定着を促進する機能を有するプリンタ等に使用することもできる。したがって、前記インクは、以下に詳述する本発明のインクジェット記録装置、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、及びインク記録物に、特に好適に使用することができる。
【0080】
(インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法)
本発明のインクジェット記録装置は、本発明のインクと、前記インクの流路に平均細孔径4μm~22μmのフィルターと、を有し、更に必要に応じて、インク飛翔手段、刺激発生手段、制御手段、処理液塗布手段等のその他の手段を有する。
また、本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクに刺激を印加し、記録媒体に、前記インクを飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程を含み、更に必要に応じて、刺激発生工程、制御工程、処理液塗布工程等のその他の工程を含む。
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェット記録装置により好適に実施することができる。以下に、本発明のインクジェット記録装置の説明と併せて、本発明のインクジェット記録方法について説明する。
【0081】
<フィルター>
前記インクジェット記録装置は、インクの流路に少なくとも1つのフィルターを具備してなる。前記フィルターの平均細孔径は、4μm~22μmであるが、吐出安定性及び通液性の点から、5μm~20μmが好ましい。
また、前記フィルターの厚みとしては、特に制限はなく、公知のインクの製造方法の中から適宜選択することができるが、0.1mm~0.5mmが好ましい。
【0082】
前記フィルターは、インクの流路に設けられていれば、特に制限はなく、インクの供給路に設けていてもよいが、インクカートリッジと、インク吐出ヘッドとの間に設けることが好ましい。前記インクは、消泡性に優れるものであるが、該インクが前記フィルターを通過してインク吐出ヘッドに供給されることにより、更に消泡性が優れる点で有利である。
【0083】
前記フィルターの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、常時インクと接した状態になるため、耐腐食性の観点から、ステンレス製、ポリイミド製であることが好ましい。これらの中でも、前記フィルターの材質としては、耐腐食性に優れていることから、オーステナイト系ステンレス、更にはSUS304、SUS316、SUS316Lであることが好ましい。前記フィルターは、これらの中の1種の材質のみからなるものであってもよく、2種以上の材質からなるものであってもよい。これらの中でも、前記フィルターは、SUS304、SUS316、及びSUS316Lから選択される少なくともいずれかを含むことが好ましく、SUS304、SUS316、及びSUS316Lから選択されるいずれかからなることがより好ましい。
【0084】
前記フィルターの形状としては、フィルターの平均細孔径が4μm~22μmである限り、特に制限はなく、公知のフィルターの中から適宜選択することができる。これらの中でも、ステンレス製又はポリイミド製の板にパンチやレーザー等により多数の均一な穴を空けたフィルター、ステンレス繊維をフェルト状に積層して焼結した焼結フィルター、又はステンレス繊維を綾畳織して形成した綾畳織フィルターを用いると、より長期的な吐出安定性のあるインクジェット記録装置やインク供給ユニットが得られるため望ましい。
【0085】
<インク吐出ヘッド>
前記インクジェット記録装置のインク吐出ヘッドとしては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、インク流路内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの(特開平2-51734号公報参照)、発熱抵抗体を用いてインク流路内でインクを加熱して気泡を発生させるいわゆるサーマル型のもの(特開昭61-59911号公報参照)、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで、インク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの(特開平6-71882号公報参照)などが挙げられる。前記インクは、いずれのインク吐出ヘッドを搭載するインクジェット記録装置にも良好に使用できる。
【0086】
<記録媒体>
前記インクジェット記録装置に用いられる記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、汎用印刷紙などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、塗工層を有する光沢感に優れた、写真印画紙ベースの塗工紙が好適に用いられる。
また、塗工層を持たない普通紙に用いられる場合は、一般的にコピー用紙として用いているサイズ度10S以上、透気度5S~50Sの普通紙が好ましい。
【0087】
<インク飛翔工程及びインク飛翔手段>
前記インク飛翔工程は、前記インクに、刺激(エネルギー)を印加し、該インクを飛翔させて記録媒体に画像を形成する工程である。
前記インク飛翔手段は、前記インクに、刺激(エネルギー)を印加し、該インクを飛翔させて記録媒体に画像を形成する手段である。
前記インク飛翔工程は、前記インク飛翔手段により好適に行われる。
【0088】
前記インク飛翔手段としては、特に制限はなく、例えば、インク吐出用の各種のノズルなどが挙げられる。
【0089】
前記ノズルのノズル直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30μm以下が好ましく、1μm~20μmがより好ましい。
【0090】
前記インクジェット記録装置は、前記インク吐出ヘッドの液室部、流体抵抗部、振動板、及びノズル部材の少なくとも一部がシリコン及びニッケルの少なくともいずれかを含む材料から形成されることが好ましい。
【0091】
前記インクの飛翔の態様としては、特に制限はなく、前記刺激の種類等応じて異なり、例えば、前記刺激が「熱」の場合、インク吐出ヘッド内の前記インクに対し、例えばサーマルヘッド等を用いて記録信号に対応した熱エネルギーを付与し、該熱エネルギーにより前記インクに気泡を発生させ、該気泡の圧力により、該インク吐出ヘッドのノズル孔から該インクを液滴として吐出噴射させる方法などが挙げられる。また、前記刺激が「圧力」の場合、例えば、インク吐出ヘッド内のインク流路内にある圧力室と呼ばれる位置に接着された圧電素子に電圧を印加することにより、圧電素子が撓み、圧力室の容積が縮小して、前記インク吐出ヘッドのノズル孔から該インクを液滴として吐出噴射させる方法などが挙げられる。
【0092】
飛翔させる前記インクの液滴の大きさ、吐出噴射の速さ、駆動周波数、解像度などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インクの液滴の大きさとしては、3×10-15~40×10-15(3pL~40pL)とすることが好ましく、前記吐出噴射の速さとしては、5m/s~20m/sとすることが好ましく、前記駆動周波数としては1kHz以上とすることが好ましく、前記解像度としては300dpi以上とすることが好ましい。
【0093】
<刺激発生工程及び刺激発生手段>
前記刺激発生工程は、前記インク飛翔工程でインクに印加する刺激(エネルギー)を発生させる工程である。
前記刺激発生手段は、前記インク飛翔手段でインクに印加する刺激(エネルギー)を発生させる手段である。
前記刺激発生工程は、前記刺激発生手段により好適に行われる。
【0094】
前記刺激(エネルギー)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱(温度)、圧力、振動、光などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記刺激としては、熱、圧力が好ましい。
【0095】
なお、前記刺激発生手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱装置、加圧装置、圧電素子、振動発生装置、超音波発振器、ライトなどが挙げられる。前記刺激発生手段の具体例としては、圧電素子等の圧電アクチュエータ、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどが挙げられる。
【0096】
<制御工程及び制御手段>
前記制御工程は、前記インクジェット記録方法における各工程を制御する工程である。
前記制御手段は、前記インクジェット記録装置における各手段を制御する手段である。
前記制御工程は、前記制御手段により好適に行われる。
【0097】
前記制御手段としては、前記各手段の動きを制御することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シークエンサー、コンピュータ等の機器が挙げられる。
【0098】
<処理液塗布工程及び処理液塗布手段>
前記処理液塗布工程は、記録媒体へ前記インクを付着させる前後のいずれか又は両方において、該記録媒体に処理液を塗布する工程である。
前記処理液塗布手段は、記録媒体へ前記インクを付着させる前後のいずれか又は両方において、該記録媒体に処理液を塗布する手段である。
前記処理液塗布工程は、前記処理液塗布手段により好適に行われる。
前記処理液塗布工程及び前記処理液塗布手段により、記録媒体における画像濃度、裏抜け、にじみ等の画質を向上することができる。
【0099】
記録媒体へ前記インクを付着させる前に該記録媒体に塗布する処理液(以下、「前処理液」と称することがある)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凝集剤、有機溶剤、及び水を含有し、更に必要に応じて界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤などを含有するものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記有機溶剤、前記界面活性剤、前記消泡剤、前記pH調整剤、前記防腐防黴剤、及び前記防錆剤は、前記インクに用いる材料と同様の材料を使用でき、その他、公知の処理液に用いられる材料も使用できる。
前記凝集剤の種類としては、特に制限はなく、例えば、水溶性カチオンポリマー、酸、多価金属塩などが挙げられる。
【0100】
記録媒体へ前記インクを付着させた後に該記録媒体に塗布する処理液(以下、「後処理液」と称することがある)としては、透明な層を形成することが可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機溶剤、水、樹脂、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記有機溶剤、前記水、前記樹脂、前記界面活性剤、前記消泡剤、前記pH調整剤、前記防腐防黴剤、及び前記防錆剤は、前記インクに用いる材料と同様の材料を使用でき、その他、公知の処理液に用いられる材料も使用できる。
【0101】
ここで、シリアル型インクジェット記録装置により、本発明のインクジェット記録方法を実施する一の態様について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すインクジェット記録装置は、装置本体101と、装置本体101の前面112に、装置本体101に用紙を装填するための給紙トレイ102と、装置本体101に装填され画像が形成(記録)された用紙をストックするための排紙トレイ103と、インクカートリッジ装填部104と、装置本体101の上面に上カバー111とを有する。インクカートリッジ装填部104の上面には、操作キーや表示器などの操作部105が配置されている。インクカートリッジ装填部104は、インクカートリッジ201の脱着を行うための開閉可能な前カバー115を有している。
【0102】
装置本体101内には、図2及び図3に示すように、図示を省略している左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド131とステー132とでキャリッジ133を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータ(不図示)によって図3で矢示方向に移動走査する。
キャリッジ133には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色の記録用インク滴を吐出する4個のインク吐出ヘッドからなる記録ヘッド134を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
記録ヘッド134を構成するインクジェット記録用ヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどインクを吐出するためのエネルギー発生手段として備えたものなどを使用できる。
【0103】
また、キャリッジ133には、記録ヘッド134に各色のインクを供給するための各色のサブタンク135を搭載している。サブタンク135には、図示しない記録用インク供給チューブを介して、インクカートリッジ装填部104に装填された本発明のインクカートリッジ201から本発明の前記記録用インクが供給されて補充される。
一方、給紙トレイ102の用紙積載部(圧板)141上に積載した用紙142を給紙するための給紙部として、用紙積載部141から用紙142を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ143)、及び給紙コロ143に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド144を備え、この分離パッド144は給紙コロ143側に付勢されている。
この給紙部から給紙された用紙142を記録ヘッド134の下方側で搬送するための搬送部として、用紙142を静電吸着して搬送するための搬送ベルト151と、給紙部からガイド145を介して送られる用紙142を搬送ベルト151との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ152と、略鉛直上方に送られる用紙142を略90°方向転換させて搬送ベルト151上に倣わせるための搬送ガイド153と、押さえ部材154で搬送ベルト151側に付勢された先端加圧コロ155とが備えられる。また、搬送ベルト151表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ156が備えられている。
搬送ベルト151は、無端状ベルトであり、搬送ローラ157とテンションローラ158との間に張架されて、ベルト搬送方向に周回可能である。この搬送ベルト151は、例えば、抵抗制御を行っていない厚み40μm程度の樹脂材、例えば、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)で形成した用紙吸着面となる表層と、この表層と同材質でカーボンによる抵抗制御を行った裏層(中抵抗層、アース層)とを有している。搬送ベルト151の裏側には、記録ヘッド134による印写領域に対応してガイド部材161が配置されている。なお、記録ヘッド134で記録された用紙142を排紙するための排紙部として、搬送ベルト151から用紙142を分離するための分離爪171と、排紙ローラ172及び排紙コロ173とが備えられており、排紙ローラ172の下方に排紙トレイ103が配されている。
【0104】
装置本体101の背面部には、両面給紙ユニット181が着脱自在に装着されている。両面給紙ユニット181は、搬送ベルト151の逆方向回転で戻される用紙142を取り込んで反転させて再度カウンタローラ152と搬送ベルト151との間に給紙する。なお、両面給紙ユニット181の上面には手差し給紙部182が設けられている。
このインクジェット記録装置においては、給紙部から用紙142が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙142は、ガイド145で案内され、搬送ベルト151とカウンタローラ152との間に挟まれて搬送される。更に先端を搬送ガイド153で案内されて先端加圧コロ155で搬送ベルト151に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
このとき、帯電ローラ156によって搬送ベルト151が帯電されており、用紙142は、搬送ベルト151に静電吸着されて搬送される。そこで、キャリッジ133を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド134を駆動することにより、停止している用紙142にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙142を所定量搬送後、次行の記録を行う。記録終了信号又は用紙142の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙142を排紙トレイ103に排紙する。
そして、サブタンク135内のインクの残量ニヤエンドが検知されると、インクカートリッジ201から所要量のインクがサブタンク135に補給される。
【0105】
このインクジェット記録装置においては、本発明のインクカートリッジ201中の記録用インクを使い切ったときには、インクカートリッジ201における筐体を分解して内部のインク袋241だけを交換することができる。また、インクカートリッジ201は、縦置きで前面装填構成としても、安定した記録用インクの供給を行うことができる。したがって、装置本体101の上方が塞がって設置されているような場合、例えば、ラック内に収納する場合、あるいは装置本体101の上面に物が置かれているような場合でも、インクカートリッジ201の交換を容易に行うことができる。
【0106】
なお、ここではキャリッジが走査するシリアル型(シャトル型)インクジェット記録装置に適用した例で説明したが、ライン型ヘッドを備えたライン型インクジェット記録装置にも同様に適用することができる。
【0107】
本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法は、インクジェット記録方式による各種記録に適用することができ、例えば、インクジェット記録用プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機などに特に好適に適用することができる。
【0108】
(インクカートリッジ)
本発明のインクカートリッジは、本発明のインクを容器内に収容してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の部材等を有してなる。
【0109】
前記容器としては、特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で形成されたインク袋などを有するものなどが好適に挙げられる。
【0110】
次に、前記インクカートリッジについて、図4及び図5を参照して具体的に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
図4は、インクカートリッジ201を示す概略図であり、図5は、図4のインクカートリッジの変形例を示す概略図である。図4に示すように、インク注入口242から前記インクがインク袋241内に充填され、排気した後、該インク注入口242は融着により閉じられる。使用時には、ゴム部材からなるインク排出口243に、図1で示すインクジェット記録装置本体101の針が刺されて、前記インクが装置本体101に供給される。インク袋241は、透気性のないアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。このインク袋241は、図5に示すように、通常、プラスチックス製のカートリッジケース244内に収容され、各種インクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いられるようになっている。本発明のインクカートリッジ201は、本発明の前記インクを収容し、各種インクジェット記録装置に着脱可能に装着されることが特に好ましい。
【0111】
(インク記録物)
本発明のインクを用いた、本発明のインクジェット記録装置及び本発明のインクジェット記録方法により記録された記録物は、本発明のインク記録物である。
前記インク記録物は、記録媒体上に、本発明の前記インクを用いて形成された画像を有してなる。
【0112】
前記記録媒体としては、前記(インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法)の項目に記載のものと同様のものが挙げられる。
【0113】
前記インク記録物は、高画質で滲みがなく、経時安定性に優れ、各種の印字乃至画像の記録された資料等として各種用途に好適に使用することができる。
【実施例0114】
以下に調製例、製造例、比較製造例、実施例、及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの調製例、製造例、及び実施例に何ら限定されるものではない。なお、調製例、製造例、比較製造例、実施例、及び比較例において、「部」及び「%」は、別段の断りない限り、「質量部」及び「質量%」を示す。
【0115】
(調製例1)
<マゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散液の調製>
-ポリマー溶液Aの調製-
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。
次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gを混合して混合溶液を調製し、前記フラスコ内に2.5時間かけて滴下した。
滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gを混合して混合溶液を調製し、前記フラスコ内に0.5時間かけて滴下した。
次に、65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、前記フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50%のポリマー溶液Aを800g得た。
【0116】
-マゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散液の調製-
前記ポリマー溶液A 28g、C.I.ピグメントレッド122 42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及びイオン交換水13.6gを混合し、十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータを用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、更に粗大粒子を除くためにこの分散液を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し、顔料含有量15%、固形分濃度20%のマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散液を得た。
【0117】
-体積平均粒子径(D50)の測定-
得られたマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散液におけるポリマー微粒子の固形分濃度が0.01%になるように純水で希釈し、粒度分布測定装置(ナノトラックUPA-EX150、日機装株式会社製)を用いて顔料体積平均粒子径(D50)を測定した。この際、粒子屈折率1.51、粒子密度1.4g/cm、溶媒パラメーターとして純水のパラメーターを用い、23℃の測定条件で測定した。
その結果、マゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散液におけるポリマー微粒子の体積平均粒子径(D50)は、82.7nmであった。
【0118】
(調製例2)
<シアン顔料含有ポリマー微粒子分散液の調製>
調製例1のマゼンタ顔料含有ポリマー微粒子分散液の調製において、C.I.ピグメントレッド122を、C.I.ピグメントブルー15:3に変更したこと以外は、調製例1と同様にして、顔料含有量15%、固形分濃度20%のシアン顔料含有ポリマー微粒子分散液を得た。
得られたシアン顔料含有ポリマー微粒子分散液におけるポリマー微粒子の体積平均粒子径(D50)を調製例1と同様の方法で測定した。その結果、シアン顔料含有ポリマー微粒子分散液におけるポリマー微粒子の体積平均粒子径(D50)は、120.0nmであった。
【0119】
(調製例3)
<シリコーンエマルション1の調製>
ポリジメチルシロキサン流体(末端にヒドロキシル基を有する、重合度35)381.2g、ポリメチル水素シロキサン(末端にトリメチルシロキシ基を有する、25℃における粘度が0.13Pa・s、ケイ素結合水素原子の含有量が1.6%)3.85g、30%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液 15.9g、及び蒸留水186gの混合物を調製した。この混合物を実験室用の単段ホモジナイザーを用い、2回処理して均質にし、体積平均粒子径(D50)が1.1μmである均一エマルションを調製した。このエマルションに、ドデシルベンゼンスルホン酸3.2gを加えた後、25℃で24時間静置して重合させた。pHを7~7.5まで上げるのに十分な量のジエチルアミンを加えることによって、重合を終了させた。これにより、シリコーンエマルション1(ポリジメチルシロキサンエマルション、体積平均粒子径(D50)1.1μm)を得た。
なお、シリコーンエマルションの体積平均粒子径(D50)は、粒度分布測定装置(ナノトラックUPA-EX150、日機装株式会社製)を用いて測定した。
【0120】
(調製例4)
調製例3において、ホモジナイザーのせん断力を変更したこと以外は、調製例3と同様の方法で、シリコーンエマルション2(ポリジメチルシロキサンエマルション、体積平均粒子径(D50)4.5μm)を得た。
【0121】
(調製例5)
調製例3において、ホモジナイザーのせん断力を変更したこと以外は、調製例3と同様の方法で、シリコーンエマルション3(ポリジメチルシロキサンエマルション、体積平均粒子径(D50)195nm)を得た。
【0122】
(調製例6)
調製例3において、ホモジナイザーのせん断力を変更したこと以外は、調製例3と同様の方法で、シリコーンエマルション4(ポリジメチルシロキサンエマルション、体積平均粒子径(D50)6.0μm)を得た。
【0123】
(製造例1~7及び比較製造例1~5)
<インクジェット用インクの作製>
各インクジェット用インクの作製は、以下の手順で行った。
下記表1―1及び表1-2に示す組成及び含有量で、顔料分散液、樹脂分散液、有機溶剤、界面活性剤、及び水(純粋)を混合し、1時間攪拌して均一に混合した。この分散液を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して、製造例1~7及び比較製造例1~5の各インクジェット用インクを作製した。
なお、下記表1―1及び表1-2において、顔料分散液及び樹脂分散液は、固形分換算した含有量を示す。また、比[色材の体積平均粒子径(D50)/シリコーンエマルションの体積平均粒子径(D50)]は、小数点以下第3位を四捨五入した、小数点以下第2位までの値を示す。
【0124】
-インク粘度の測定-
製造例1~7及び比較製造例1~5の各インクジェット用インクの粘度は、粘度計(RE-550L、東機産業株式会社製)を使用して、25℃で測定した。結果を下記表1―1及び表1-2に示す。
【0125】
【表1-1】
【0126】
【表1-2】
【0127】
※上記表1―1及び表1-2の「ポリウレタンエマルション」として、製品名:ユーコートUA-3945(固形分濃度38.4%、体積平均粒子径(D50)35nm、三洋化成工業株式会社製)を使用した。
※上記表1―1及び表1-2の「シリコーン界面活性剤1」として、製品名:KF-6043(PEG-10ジメチコン、シリコーン直鎖型ポリエーテル変性シリコーン、信越化学工業株式会社製)を使用した。
※上記表1―1及び表1-2において、「シリコーン界面活性2」は、下記一般式(1)で表される化合物であり、製品名:TEGO(登録商標) Wet 270(エボニック インダストリーズ製)を使用した。
【化3】
(但し、前記一般式(1)において、mは0~7の整数を表し、nは2~15の整数を表す。)
※上記表1―1及び表1-2の「フッ素界面活性剤1」として、製品名:フタージェント 250(株式会社ネオス製)を使用した。
【0128】
(実施例1~11及び比較例1~5)
製造例1~7及び比較製造例1~5の各インクジェット用インクと、インクの流路に下記表2に示すフィルターを有するインクジェット記録装置とを、下記表2に示す組合せで用い、下記評価方法により、「初期充填性」、「キャップ内泡」、「吐出安定性」、及び「通液性」を評価した。結果を下記表2に示す。
なお、下記評価に用いたインクジェット記録装置は、インクの流路にフィルターを有する。フィルターの素材は金属繊維であり、フィルターの平均細孔径及び厚みは下記表2に示す。フィルターは、インクカートリッジと、インク吐出ヘッドの間に設けた。
【0129】
<初期充填性>
23±0.5℃、50±5%RHに調整された環境条件下にて、以下の評価を行った。
インクジェット記録装置(IPSiO GXe-5500、株式会社リコー製)に10%プロピレングリコール水溶液を充填後、製造例1~7及び比較製造例1~5の各インクジェット用インクを充填した。これを用いて、ノズルチェックパターンを印刷したときに、ノズルの不吐出本数が0本になるまでのノズルクリーニング回数を計測し、下記評価基準に基づき実施例1~11及び比較例1~5の「初期充填性」を評価した。
-初期充填性の評価基準-
A:ノズルクリーニングが1回~2回でノズルの不吐出本数が0本になる
B:ノズルクリーニングが3回~10回でノズルの不吐出本数が0本になる
【0130】
<キャップ内泡>
23±0.5℃、50±5%RHに調整された環境条件下にて、以下の評価を行った。
インクジェット記録装置(IPSiO GXe-5500、株式会社リコー製)に製造例1~7及び比較製造例1~5の各インクジェット用インクを充填した。これを用いて、インクリフレッシュ(インク吐出ヘッドに溜まったインクを廃棄し、新たにカートリッジからインクを吸い上げる操作)を5回行った後、ヘッド吸引キャップ内を目視で観察し、下記評価基準に基づき実施例1~11及び比較例1~5の「キャップ内泡」を評価した。
-初期充填性の評価基準-
A:キャップ内に泡無し
B:キャップの底にのみ泡がある
C:キャップ全体に泡がある
【0131】
<吐出安定性>
32±0.5℃、50±5%RHに調整された環境条件下にて、以下の評価を行った。
インクジェット記録装置(IPSiO GXe-5500、株式会社リコー製)に製造例1~7及び比較製造例1~5の各インクジェット用インクを充填した後、キャップを開放した状態で6時間放置した。放置後にノズルクリーニングを1回実施した後、ノズルチェックパターンを印刷し、不吐出のノズルの有無を確認した。また、不吐出のノズルがあった場合は、更にノズルクリーニングを2回実施し、不吐出のノズルの有無を確認した。ノズルクリーニングを合計3回実施しても不吐出のノズルがあった場合は、更にインクリフレッシュを1回実施し、不吐出のノズルの有無を確認した。以上の操作より、下記評価基準に基づき実施例1~11及び比較例1~5の「吐出安定性」を評価した。
-吐出安定性の評価基準-
A:ノズルクリーニングを1回実施後、不吐出のノズル無し
B:ノズルクリーニングを1回実施後、不吐出のノズル有り、ノズルクリーニング3回以内に不吐出回復
C:ノズルクリーニングを1回実施後、不吐出のノズル有り、ノズルクリーニングで3回及びノズルリフレッシュ1回で不吐出回復
【0132】
<通液性>
23±0.5℃、50±5%RHに調整された環境条件下にて、以下の評価を行った。
インクジェット記録装置(IPSiO GXe-5500、株式会社リコー製)に、インク充填作業にて、製造例1~7及び比較製造例1~5の各インクジェット用インクを5kg通液後、ノズルチェックパターンを印刷し、不吐出のノズルの有無を確認した。また、不吐出のノズルがあった場合は、更にノズルクリーニングを3回実施し、不吐出のノズルの有無を確認した。以上の操作より、下記評価基準に基づき実施例1~11及び比較例1~5の「通液性」を評価した。
-通液性の評価基準-
A:ノズルクリーニングを1回実施後、不吐出のノズル無し
B:ノズルクリーニングを1回実施後、不吐出のノズル有り、ノズルクリーニング3回以内に不吐出回復
C:インク吐出不能
【0133】
【表2】
【0134】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> インクの流路にフィルターを有するインクジェット記録装置に用いられるインクであって、
水、色材、シリコーン界面活性剤、及びシリコーン化合物粒子を含有し、
前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)が1.01μm~5.00μmであり、前記シリコーン化合物粒子の含有量が0.01質量%~0.20質量%であることを特徴とするインクである。
<2> 前記シリコーン界面活性剤が、下記一般式(1)で表される界面活性剤を含有する前記<1>に記載のインクである。
【化1】
(但し、前記一般式(1)において、mは0~7の整数を表し、nは2~15の整数を表す。)
<3> 前記色材の体積平均粒子径(D50)と前記シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)との比[色材の体積平均粒子径(D50)/シリコーン化合物粒子の体積平均粒子径(D50)]が、0.02~0.1の範囲にある前記<1>から<2>のいずれかに記載のインクである。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクと、
前記インクの流路に平均細孔径4μm~22μmのフィルターと、
を有することを特徴とするインクジェット記録装置である。
<5> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクに刺激を印加し、記録媒体に、前記インクを飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程を含むことを特徴とするインクジェット記録方法である。
<6> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクを容器内に収容してなることを特徴とするインクカートリッジである。
<7> 記録媒体上に、前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクにより記録された画像を有してなることを特徴とするインク記録物である。
【0135】
前記<1>から<3>のいずれかに記載のインク、前記<4>に記載インクジェット記録装置、前記<5>に記載のインクジェット記録方法、前記<6>に記載のインクカートリッジ、及び前記<7>に記載のインク記録物は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明のインクは、インク充填時の吐出性、インクの消泡性、吐出安定性、及びインク通液性に優れるため、記録媒体に印字した際、特に、塗工紙に印字した際に、定着性や保存性に優れ、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、及びインク記録物に好適に用いることができる。
また、本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法は、インクジェット記録方式による各種記録に適用することができ、例えば、インクジェット記録用プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機などに特に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0137】
101 装置本体
102 給紙トレイ
103 排紙トレイ
104 インクカートリッジ装填部
105 操作部
111 上カバー
112 前面
115 前カバー
131 ガイドロッド
132 ステー
133 キャリッジ
134 記録ヘッド
135 サブタンク
141 用紙積載部
142 用紙
143 給紙コロ
144 分離パッド
145 ガイド
151 搬送ベルト
152 カウンタローラ
153 搬送ガイド
154 押さえ部材
155 先端加圧コロ
156 帯電ローラ
157 搬送ローラ
158 テンションローラ
161 ガイド部材
171 分離爪
172 排紙ローラ
173 排紙コロ
181 両面給紙ユニット
182 手差し給紙部
201 インクカートリッジ
241 インク袋
242 インク注入口
243 インク排出口
244 カートリッジケース
【先行技術文献】
【特許文献】
【0138】
【特許文献1】特開2013‐223980号公報
図1
図2
図3
図4
図5