(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023019681
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】アルミニウム析出方法、イオン液体、電解液および電池
(51)【国際特許分類】
C25C 3/18 20060101AFI20230202BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230202BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230202BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230202BHJP
H01M 10/05 20100101ALI20230202BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230202BHJP
【FI】
C25C3/18
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/38 Z
H01M10/05
H01M10/0568
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124608
(22)【出願日】2021-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「硫黄コンポジット正極(S(IV)/S系)と新型電解液の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】津田 哲哉
【テーマコード(参考)】
4K058
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4K058AA13
4K058BA08
4K058BB06
5H029AJ14
5H029AK05
5H029AL11
5H029AM06
5H029DJ08
5H029EJ04
5H029EJ12
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA11
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA24
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】安価かつ効率的にアルミニウムを析出する。
【解決手段】アルミニウム析出方法は、ハロゲン化アルミニウムと、前記ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含む1以上のアルカリハライド塩とを混合した混合物を用意する工程と、混合物に電圧を印加してアルミニウムを析出する工程とを包含する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化アルミニウムと、前記ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含む1以上のアルカリハライド塩とを混合した混合物を用意する工程と、
前記混合物に電圧を印加してアルミニウムを析出する工程と
を包含する、アルミニウム析出方法。
【請求項2】
前記混合物は、イオン液体を含む、請求項1に記載のアルミニウム析出方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化アルミニウムは、塩化アルミニウムを含み、
前記アルカリハライド塩は、臭化カリウムおよび臭化ナトリウムの少なくとも一方を含む、請求項1または2に記載のアルミニウム析出方法。
【請求項4】
前記混合物に対する前記ハロゲン化アルミニウムのモル比は50%以上である、請求項1から3のいずれかに記載のアルミニウム析出方法。
【請求項5】
前記アルミニウムを析出する工程において、前記アルミニウムは、電池の負極で析出する、請求項1から4のいずれかに記載のアルミニウム析出方法。
【請求項6】
前記混合物を353K以下で溶融する工程をさらに包含する、請求項1から5のいずれかに記載のアルミニウム析出方法。
【請求項7】
ハロゲン化アルミニウムと、
前記ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含むアルカリハライド塩と
を含有する混合物の溶融によって生成された、イオン液体。
【請求項8】
前記ハロゲン化アルミニウムは、塩化アルミニウムを含み、
前記アルカリハライド塩は、臭化カリウムおよび臭化ナトリウムの少なくとも一方を含む、請求項7に記載のイオン液体。
【請求項9】
前記混合物に対する前記ハロゲン化アルミニウムのモル比は50%以上である、請求項7または8に記載のイオン液体。
【請求項10】
請求項8または9に記載のイオン液体を含む、電解液。
【請求項11】
ハロゲン化アルミニウムと、前記ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含むアルカリハライド塩とを含む混合物の溶融によって生成された電解液と、
アルミニウムを含有する負極と、
正極と
を備える、電池。
【請求項12】
前記正極は、硫黄炭素複合電極を含む、請求項11に記載の電池。
【請求項13】
前記硫黄炭素複合電極は、カーボンナノチューブおよびポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項12に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム析出方法、イオン液体、電解液および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは、化学反応性の高い金属であるが、大気暴露時に形成される酸化被膜が極めて安定であることから、種々の用途で用いられている。例えば、アルミニウムでめっき処理を行うことも検討されている(特許文献1)。特許文献1には、無水塩化アルミニウムと有機イオン液体との混合によって生成されたイオン液体を電気アルミニウムめっき液として使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/043129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で用いられる有機イオン液体は、分子量が大きく単位体積当たりに含まれるイオンの量が少ないため、アルミニウムイオンの還元が充分に進行せず、めっき処理が効率的に行われないことがあった。また、有機イオン液体は高価であるため、めっき処理を安価にできなかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価かつ効率的にアルミニウムを析出可能なアルミニウム析出方法、イオン液体、電解液および電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるアルミニウム析出方法は、ハロゲン化アルミニウムと、前記ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含む1以上のアルカリハライド塩とを混合した混合物を用意する工程と、前記混合物に電圧を印加してアルミニウムを析出する工程とを包含する。
【0007】
ある実施形態では、前記混合物は、イオン液体を含む。
【0008】
ある実施形態では、前記ハロゲン化アルミニウムは、塩化アルミニウムを含み、前記アルカリハライド塩は、臭化カリウムおよび臭化ナトリウムの少なくとも一方を含む。
【0009】
ある実施形態では、前記混合物に対する前記ハロゲン化アルミニウムのモル比は50%以上である。
【0010】
ある実施形態では、前記アルミニウムを析出する工程において、前記アルミニウムは、電池の負極で析出する。
【0011】
ある実施形態では、前記アルミニウム析出方法は、前記混合物を353K以下で溶融する工程をさらに包含する。
【0012】
本発明によるイオン液体は、ハロゲン化アルミニウムと、前記ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含むアルカリハライド塩とを含有する混合物の溶融によって生成される。
【0013】
ある実施形態では、前記ハロゲン化アルミニウムは、塩化アルミニウムを含み、前記アルカリハライド塩は、臭化カリウムおよび臭化ナトリウムの少なくとも一方を含む。
【0014】
ある実施形態では、前記混合物に対する前記ハロゲン化アルミニウムのモル比は50%以上である。
【0015】
本発明による電解液は、上記に記載のイオン液体を含む。
【0016】
本発明による電池は、ハロゲン化アルミニウムと、前記ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素とは異なるハロゲン元素を含むアルカリハライド塩とを含む混合物の溶融によって生成された電解液と、アルミニウムを含有する負極と、正極とを備える。
【0017】
ある実施形態では、前記ハロゲン化アルミニウムは、塩化アルミニウムを含み、前記アルカリハライド塩は、臭化カリウムおよび臭化ナトリウムの少なくとも一方を含む。
【0018】
ある実施形態では、前記混合物に対する前記ハロゲン化アルミニウムのモル比は50%以上である。
【0019】
ある実施形態では、前記正極は、硫黄炭素複合電極を含む。
【0020】
ある実施形態では、前記硫黄炭素複合電極は、ポリテトラフルオロエチレンを含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、安価かつ効率的にアルミニウムを析出できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態のアルミニウム析出方法を説明するフロー図である。
【
図2】本実施形態のアルミニウム析出方法を説明するフロー図である。
【
図3】(a)および(b)は、本実施形態のイオン液体の温度353Kにおけるサイクリックボルタモグラムである。
【
図5】(a)および(b)は、本実施形態のイオン液体を電解質として用いた硫黄炭素複合電極のサイクリックボルタモグラムである。
【
図7】本実施形態の電池におけるサイクル回数と容量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明によるアルミニウム析出方法、イオン液体、電解液および電池の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0024】
まず、
図1を参照して、本実施形態のアルミニウム析出方法を説明する。本実施形態のアルミニウム析出方法は、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩を混合する混合工程S1と、混合物に電圧を印加する電圧印加工程S2とを包含する。
【0025】
混合工程S1において、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩を混合する。典型的には、固体状のハロゲン化アルミニウムおよび固体状のアルカリハライド塩を混合することによってハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩の混合物を生成する。
【0026】
まず、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩を用意する。ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素は、アルカリハライド塩のハロゲン元素とは異なる。例えば、ハロゲン化アルミニウムが塩化物である場合、アルカリハライド塩は臭化物である。あるいは、ハロゲン化アルミニウムが臭化物である場合、アルカリハライド塩は塩化物である。
【0027】
混合工程S1において、アルカリハライド塩は、1以上の種類であることが好ましい。アルカリハライド塩が2以上の種類を含む場合、2以上のアルカリハライド塩におけるハロゲン元素の種類は、同じであってもよい。例えば、アルカリハライド塩は、臭化ナトリウムおよび臭化カリウムであってもよい。または、アルカリハライド塩は、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムであってもよい。あるいは、アルカリハライド塩が2以上の種類を含む場合、2以上のアルカリハライド塩におけるハロゲン元素の種類は、異なってもよい。この場合、2以上のアルカリハライド塩のハロゲンのうちのいずれかがハロゲン化アルミニウムのハロゲンと同じであってもよい。
【0028】
同様に、混合工程S1において、ハロゲン化アルミニウムは、1以上の異なる種類であることが好ましい。
【0029】
例えば、容器内にハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩を添加する。容器には、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩のいずれを先に添加してもよい。あるいは、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩を同時に添加してもよい。
【0030】
混合工程S1において、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩を容器内で混合する。ハロゲン化アルミニウムとアルカリハライド塩との混合により、容器内でハロゲン化アルミニウムとアルカリハライド塩の混合物を生成する。
【0031】
ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩は、室温下で混合されてもよい。あるいは、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩は、室温よりも高い温度下で混合されてもよい。室温よりも高い温度下で混合する場合、混合物の粘性が低下する。典型的には、室温よりも高い温度下でハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩を混合する場合、混合物の粘性が低下して溶融するため、短期間でハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩を充分に混合できる。なお、混合物を室温よりも高い温度下に置くことにより、混合物を溶融させてもよい。
【0032】
混合物は、373K以下の融点を有するイオン液体であることが好ましい。特に、混合物は、室温において液体状または粘性の高いスラリーであることが好ましい。また、混合物のガラス転移温度は、室温以下であることが好ましい。
【0033】
電圧印加工程S2において、混合物に電圧を印加する。溶融した混合物に電圧を印加することにより、溶融した混合物からアルミニウムを析出する。例えば、アルミニウムはnmオーダの薄片として析出されることが好ましい。
【0034】
例えば、混合物を室温よりも高い温度下に置いた状態で混合物に電圧を印加することにより、混合物を溶融させてもよい。あるいは、混合物に電圧を印加することによって混合物を加熱させて溶融させてもよい。このように、混合物が溶融した状態で電圧を印加することにより、アルミニウムを析出する。ここでは、混合物は、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩の混合物であり、混合物は353K以下の温度で溶融することが好ましい。
【0035】
本実施形態によれば、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩の混合物からアルミニウムを析出する。このため、安価かつ効率的にアルミニウムを析出できる。
【0036】
特許文献1で用いられた1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(1-Ethyl-3-methylimidazolium chloride:[EMI]Cl)は約400円/gであるのに対して、アルカリハライド塩の一例である臭化ナトリウム(NaBr)は約18円/gであり、臭化カリウム(KBr)は約6円/gである。また、有機塩を用いる場合、酸素含有雰囲気下において反応を進めると、酸素の電気化学的還元によって生成するスーパーオキサイドイオン(O2
-)が有機カチオンを分解してしまうため、有機塩を用いる際には、不活性ガス雰囲気下で反応を進めることが必要となる。
【0037】
一方、本実施形態によれば、有機塩を用いることなく、ハロゲン化アルミニウムおよびアルカリハライド塩の混合物からアルミニウムを析出する。このため、酸素の影響を受けにくく、アルミニウムを安価に析出できる。
【0038】
本実施形態のアルミニウム析出方法は、アルミニウム精錬に好適に用いられる。電解液として、ハロゲン化アルミニウムとアルカリハライド塩との混合物を用いることにより、ハロゲン化アルミニウムに含まれるアルミニウムを電極に析出することによって純度の高いアルミニウムを取得できる。
【0039】
なお、アルミニウム精錬では、低純度のアルミニウム化合物を電解液に混合させることが好ましい。これにより、ハロゲン化アルミニウムに含有されたアルミニウムが電極に析出するとともに、低純度のアルミニウム化合物から溶解したアルミニウムイオンが電極に析出する。このようにして、低純度のアルミニウム化合物を用いて純度の高いアルミニウムを析出できる。
【0040】
本実施形態において、ハロゲン化アルミニウムとアルカリハライド塩との混合物からイオン液体を形成できる。イオン液体は、ハロゲン化アルミニウムとアルカリハライド塩との混合物の溶融によって形成されるため、高いキャリアイオン密度および低い粘度を示し、その結果として、高いイオン伝導度を示す。このため、アルミニウムを析出する際に、アルミニウムを析出し易い。また、イオン液体を電池の電解液として用いることにより、電池特性を良好にできる。
【0041】
本実施形態によれば、ハロゲン化アルミニウムとアルカリハライド塩との混合物は、アルミニウムを析出可能な電解液として好適に使用される。
【0042】
また、本実施形態のイオン液体を電解液として用いてアルミニウム電池を好適に作製できる。アルミニウムは汎用的な金属であり、価格が安い。また、アルミニウム電池は、リサイクルしやすく、容易に取扱できる。また、アルミニウム電池の体積エネルギー密度は、リチウムイオン電池の体積エネルギー密度よりも2倍以上の大きな値を示す。
【0043】
アルミニウム電池において、アルミニウムは、電池の電極で析出される。アルミニウム電池が放電する際に、アルミニウム電池の正極においてアルミニウムイオンが消費される。混合物内のアルミニウムイオンおよびアルミニウム電極から溶解したアルミニウムイオンは正極で反応に利用される。また、負極において、アルミニウムは放電時に溶解し、充電時に析出する。このように、混合物は電池の電解液として用いられ、アルミニウム析出方法は電池の充電時に負極で行われてもよい。
【0044】
また、本実施形態のアルミニウム析出方法は、アルミニウムめっき処理に好適に用いられる。本実施形態により、対象物の表面をアルミニウムでめっき処理できる。
【0045】
また、本実施形態は、電解液以外の電池材料としても好適に用いられる。例えば、本実施形態のアルミニウム析出方法によって析出された析出物を、電池の負極または正極の材料として用いてもよい。例えば、析出物は、リチウムイオン電池の負極活物質として用いられる。または、析出物は、リチウムイオン電池の正極集電体として用いられる。
【0046】
[ハロゲン化アルミニウム]
ハロゲン化アルミニウムは、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムおよびヨウ化アルミニウムのいずれであってもよい。ただし、混合物としてイオン液体を生成する場合、ハロゲン化アルミニウムは、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムおよびヨウ化アルミニウムのいずれかであることが好ましい。特にコストの観点から、ハロゲン化アルミニウムは、塩化アルミニウム(AlCl3)であることが好ましい。なお、塩化アルミニウムの融点は466Kである。
【0047】
なお、ハロゲン化アルミニウムとして塩化アルミニウムを用いる場合、塩化水素の発生を抑制するために、混合および電圧印加等の処理は、水の含有量の少ない雰囲気下で行うことが好ましい。例えば、処理は、グローブボックス内で行われることが好ましい。
【0048】
また、ハロゲン化アルミニウムとして、2種の異なるハロゲン化アルミニウムを用いてもよい。
【0049】
[アルカリハライド塩]
アルカリハライド塩は、アルカリ金属とハロゲン元素との塩である。例えば、アルカリ金属は、アルミニウムよりも還元電位が卑なものであることが好ましい。
【0050】
例えば、金属は、アルカリ金属(第1族元素)を含む。金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)およびセシウム(Cs)のいずれであってもよい。この場合、アルカリハライド塩は、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)および塩化セシウム(CsCl)のいずれであってもよい。
【0051】
あるいは、アルカリハライド塩は、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化ルビジウム(RbBr)および臭化セシウム(CsBr)のいずれであってもよい。同様に、アルカリハライド塩は、フッ化物またはヨウ化物のいずれであってもよい。
【0052】
[混合物]
ハロゲン化アルミニウムとアルカリハライド塩とを混合して混合物を生成する。混合物の粘性を低減させるために、混合は室温よりも高い温度下において行われてもよい。例えば、混合物は、室温において液体または粘性を有するスラリーである。
【0053】
アルカリ金属は1価の金属である。多価金属と比較して、アルカリ金属イオンの正電荷は小さく、マイナスイオンとの結合力が小さくなる。このため、多価金属塩を添加した場合と比較して、混合物の融点は低くなる傾向にある。
【0054】
一例では、アルカリハライド塩が臭化物元素を含む場合、混合物において特定の錯アニオンが形成される。例えば、ハロゲン化アルミニウムが塩化アルミニウム(AlCl3)であり、アルカリハライド塩が臭化物元素を含む場合、混合物中では、強ルイス酸であるAlCl3と強ルイス塩基であるBr-1とによって錯アニオン[AlCl3Br]-または[Al2Cl6Br]-が形成される。錯アニオンが複雑な構成になることにより、エントロピーが増大して、固体になりにくくすることができ、融点を低くできる。
【0055】
なお、混合物がイオン液体となるためには、混合物中に錯アニオンが容易に形成されることが好ましい。混合物内の錯アニオンが充分に形成されるように、塩化アルミニウム(AlCl3)のモル濃度は、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがさらに好ましい。
【0056】
このように、ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素とアルカリハライド塩のハロゲン元素の種類が異なることにより、混合物の対称性が低減するため、混合物のエントロピーが増大する。したがって、比較的低い温度でも混合物を固体になりにくくすることができ、結果として、混合物の融点を低減できる。
【0057】
アルカリ金属イオンと錯イオンとのイオン間相互作用は、それほど強くないため、333Kよりも低い温度で使用可能な無機イオン液体を得ることができる。このような溶液物性の大きな変化は、ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素の種類がアルカリハライド塩のハロゲン元素の種類と異なることにより、アニオン種のエントロピーが増大することに起因すると考えられる。
【0058】
なお、ハロゲン化アルミニウムとして複数種のハロゲン化アルミニウムを組み合わせて用いてもよく、また、アルカリハライド塩として複数種のアルカリハライド塩を組み合わせて用いてもよい。この場合、混合エントロピー効果が生じ、混合物の流動性をさらに増大させることができる。
【0059】
なお、ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素、アルカリハライド塩のハロゲン元素およびアルカリ金属の原子量が大きいほど、混合物の融点が低下する傾向がある。一方で、ハロゲン化アルミニウムのハロゲン元素、アルカリハライド塩のハロゲン元素およびアルカリ金属の原子量が大きいほど、イオン伝導度も低下する傾向がある。
【0060】
[電圧印加]
電圧印加工程S2において、混合物に電圧を印加すると、混合物(溶融物)中のアルミニウムイオンが還元されてアルミニウムが析出される。混合物に印加される電位は、-1.5V以上-0V以下であることが好ましい。
【0061】
電圧の印加は、室温下で行われてもよい。あるいは、電圧の印加は、室温よりも高い温度下で行われてもよい。室温よりも高い温度で電圧を印加することにより、アルミニウムを効率的に析出できる。ただし、アルミニウムが簡便に析出されるように、電圧は、373K以下の温度下で印加されることが好ましい。
【0062】
なお、析出したアルミニウムは、混合物に高い電圧を印加することで溶解できる。例えば、アルミニウムを溶解させるための電位は、0V以上1.0V以下にすることが好ましい。アルミニウムを溶解させるための電位は、0Vに近いほど好ましい。
【0063】
例えば、電圧の印加に用いられる複数の電極のうちのいずれかの電極は、白金、ガラス状炭素または銅を含むことが好ましい。また、電圧の印加に用いられる複数の電極のうちの別の電極は、アルミニウムを含むことが好ましい。また、電圧の印加には3以上の電極が用いられてもよい。この場合、2以上の電極がアルミニウムを含んでもよい。
【0064】
[析出されたアルミニウム]
電圧の印加によってアルミニウムは、2次元的な薄膜であり、アルミニウムの厚さはnmオーダであることが好ましい。例えば、アルミニウム薄膜の厚さは100nm以下である。
【0065】
[電池]
アルミニウム薄片は、リチウムイオン電池の負極活物質として好適に用いられる。なお、最近のリチウムイオン電池用負極活物質にはシリコンがグラファイトとともに用いられることが多い。確かに、シリコンの理論容量は、アルミニウムの理論容量よりも高いが、シリコン自体は導電性を有さないため、導電助剤が必要となる。これに対して、アルミニウム薄片をリチウムイオン電池の負極活物質として用いる場合、導電助剤を必要としないため、実効的に高い容量を実現できる。この場合、負極は、メッシュ形状の基板にアルミニウム薄片が付着されていてもよい。例えば、基板はメッシュ形状の銅から形成される。
【0066】
また、アルミニウム薄片は、リチウムイオン電池の正極集電体として好適に用いられる。正極集電体は、アルミニウム薄片とともに、硫黄物質、炭素材料およびバインダを一体に成形して形成することが好ましい。
【0067】
なお、ハロゲン化アルミニウムとアルカリハライド塩との混合物は、アルミニウム電池の電解液として好適に用いられる。この場合、負極としてアルミニウムを含有する電極が用いられる。正極として、膨張黒鉛が用いてもよい。膨張黒鉛により、正極にアルミニウムイオンが進入しても、正極の破損を抑制できる。典型的には、膨張黒鉛は基板に付与された状態で用いられる。例えば、基板はモリブデンから形成される。あるいは、正極として、グラフェンの積層体を用いてもよい。
【0068】
また、本実施形態のイオン液体を電解液として用いた電池として、アルミニウム硫黄電池を作製してもよい。硫黄は、高い理論容量を示すことが知られている。この場合、正極は、硫黄炭素複合物を含んでもよい。なお、ハロゲン化アルミニウムとアルカリハライド塩との混合物(溶融物)をアルミニウム硫黄電池の電解液として用いる場合、正極として、硫黄炭素複合電極を用いることが好ましい。
【0069】
典型的には、アルミニウム硫黄電池において、電極の硫黄は電解液に溶出することがあるが、本実施形態のイオン液体では、電極の硫黄の溶出を抑制できる。特に、アルミニウム硫黄電池の電解液が臭化物を含有する場合、中間体として比較的安定な臭素含有物質が生成されることから、硫黄の流出を抑制できると考えられる。
【0070】
[硫黄炭素複合電極]
硫黄炭素複合電極は、硫黄粉末と、炭素材料とを含む。例えば、炭素材料は、カーボンナノチューブである。硫黄炭素複合電極は、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)をさらに含んでもよい。PTFEにより、集電体への密着性を向上できる。
【0071】
なお、
図1のフロー図を参照した説明では、混合工程S1および電圧印加工程S2のいずれかにおいて混合物が溶融するように混合物を高温環境下に曝したが、本実施形態はこれに限定されない。混合工程S1および電圧印加工程S2とは別のタイミングにおいて、混合物が溶融してもよい。
【0072】
次に、
図2を参照して、本実施形態のアルミニウム析出方法を説明する。本実施形態のアルミニウム析出方法は、混合工程S1および電圧印加工程S2とは別に、溶融工程S1mをさらに包含する。
【0073】
溶融工程S1mは、混合工程S1において混合物を生成した後であって、電圧印加工程S2において混合物に電圧を印加する前に混合物を室温よりも高い温度環境下に曝して混合物を溶融する。例えば、溶融工程S1mにおいて、373K以下の環境下に曝して混合物を溶融してもよく、353K以下の環境下に曝して混合物を溶融してもよい。
【0074】
その後、電圧印加工程S2において、溶融した状態の混合物に電圧を印加する。このようにして、アルミニウムを析出できる。
【実施例0075】
[サンプルAの生成]
サンプルAを以下のように生成した。まず、サンプルAの材料として、無水塩化アルミニウム(日本軽金属株式会社製)を用意した。また、シグマアルドリッチ社から入手した臭化ナトリウムおよび臭化カリウムを使用前に393Kで48時間真空乾燥させた。その後、室温において、臭化ナトリウムおよび臭化カリウムに塩化アルミニウムを徐々に添加して、モル比61.0:26.0:13.0で塩化アルミニウム(AlCl3)と臭化ナトリウム(NaBr)と臭化カリウム(KBr)とを混合した。
【0076】
その後、酸素含有量および水含有量がそれぞれ1ppm以下でアルゴンの充填されたグローブボックス内で、混合物を密閉状態で373Kに加熱して、液体状に変化させた後で、室温に戻して固体化させた。このようにしてサンプルAを生成した。サンプルAの融点は、339.3Kであった。また、サンプルAを静置状態に放置した上で、サンプルAを冷却したところ、サンプルAは、過冷却状態となり、303K付近まで液相を維持した。
【0077】
[イオン伝導度]
異なる温度環境でサンプルAのイオン伝導度を測定した。373KにおいてサンプルAのイオン伝導度は100mScm-1であり、353KにおいてサンプルAのイオン伝導度は70mScm-1であり、323KにおいてサンプルAのイオン伝導度は30mScm-1であった。
【0078】
[粘度]
異なる温度環境下において粘度計を用いてサンプルAの粘度を測定した。373Kにおいて粘度は11.2mPasであり、353Kにおいて粘度は18.1mPasであった。
【0079】
[サイクリックボルタモグラム]
サンプルAのサイクリックボルタモグラムを測定した。サンプルを電解液として3つの電極を挿入して3電極電池を構成した。カウンター電極および参照電極として純度99.999%のアルミニウムを使用し、作用電極としてガラス状炭素(GC)または銅(Cu)を使用した。ガラス状炭素(GC)または銅(Cu)は使用前に希釈硝酸で洗浄した。
【0080】
サイクリックボルタモグラムは、温度353Kで測定した。この測定では、電極電位を10mV/sの掃引速度で最小電位から最大電位まで直線的に掃引した後、最大電位から最小電位まで直線的に掃引して応答電流を測定した。
【0081】
図3(a)および
図3(b)は、温度353KにおけるサンプルAのサイクリックボルタンメトリーの結果である。
図3(a)および
図3(b)のグラフにおいて、縦軸は電流密度を示し、横軸は電位を示す。なお、
図3(a)は、作用電極として導電性のガラス状炭素(GC)を用いた場合の電流密度の変化を示し、
図3(b)は、作用電極として銅(Cu)を用いた場合の電流密度の変化を示す。
【0082】
図3(a)および
図3(b)のそれぞれにおいて、電位を低くすると、還元電流が流れた。このとき、サンプルA内にはアルミニウムが析出した。一方、電位を高くすると、アルミニウムが溶解して酸化電流が流れた。このとき、サンプル内のアルミニウムは溶解した。
【0083】
図3(a)に示すように、電位が約-0.1Vにまで低下すると、還元電流が急激に増加してアルミニウムが析出した。その後、電位が+0.0Vにまで増加すると、電流が再び急激に増加してアルミニウムが再び溶解した。析出したアルミニウムはガラス状炭素の電極とそれほど密着せずに、部分的にガラス状炭素から剥離したため、アルミニウムの溶解電流は、アルミニウムの析出電流よりも小さくなった。
【0084】
電位を約1.8Vにまで増加させると、電解液が分解して電流が増加した。このとき、電解液から臭素が発生した。サンプルAの電位窓は、1.9Vであった。
【0085】
図3(b)に示すように、電位が約-0.02Vにまで低下すると、還元電流が急激に増加してアルミニウムが析出した。その後、電位が+0.0Vにまで増加すると、電流が再び急激に増加してアルミニウムが再び溶解した。アルミニウムは銅の電極と密着して析出するため、アルミニウムの溶解電流は、アルミニウムの析出電流とほぼ等しかった。ここでは、電位が約0.4Vを超えると、電極の銅が溶解した。
【0086】
[アルミニウム硫黄電池の作製]
図4に示すように、アルミニウム硫黄電池100を作製した。
図4は、アルミニウム硫黄電池100の模式図を示す。アルミニウム硫黄電池100は、正極110と、負極120と、電解液130とを備える。電解液130としてサンプルAを用い、正極110として以下のように作製した硫黄炭素複合材料を用い、負極120としてアルミからなるコイルを用いた。正極110は、モリブデンから形成されたL字形状の集電体112の先端に取り付けた。正極110は、薄型の円柱形状であり、厚さ60μm、直径8mm(主面の表面積0.5cm
2)および重量2.0mgであった。
【0087】
[硫黄炭素複合材料]
硫黄炭素複合電極の作製に先立ち、硫黄炭素複合材料を合成した。容量50mLの2口フラスコに5.0gの硫黄粉末と0.10gの炭素材料(アルドリッチ製複層カーボンナノチューブ)を添加してフラスコ内の空気をArで置換した。その後、403Kに加熱し、攪拌しながら423Kで2時間維持した後、自然放冷した。その後、粉砕機を用いて200rpmで1時間粉砕することにより、硫黄炭素複合材料を生成した。
【0088】
[硫黄炭素複合電極]
硫黄炭素複合材料と炭素材料(複層カーボンナノチューブ)を重量比50:45で容器内に添加して容器内で3分混合した。その後、容器内の混合物にポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)を重量比95:5の割合で添加して、容器内で3分混合した。容器内の混合物をメノウ乳鉢に移して混錬して厚さ60μmのシートを生成した。シートから直径8mm・重量2.0mgに切り出した円形物を硫黄炭素複合電極として用いた。このように、サンプルAを電解液としたアルミニウム硫黄電池100を作製した。
【0089】
[硫黄炭素複合電極の電気化学測定]
作用極として硫黄炭素複合電極、対極はコイル状のAl、参照極にAl線を用い、サンプルAを電解液とした3電極式のビーカーセルを作製した。
【0090】
図5(a)は、電解液を100rpmで撹拌させた状態で硫黄炭素複合電極を1~30サイクルさせたときのサイクリックボルタモグラムであり、
図5(b)は、無撹拌の状態で硫黄炭素複合電極を31~60サイクルさせたときのサイクリックボルタモグラムである。この測定では、353Kにおいて電極電位を1mV/sの掃引速度で最小電位から最大電位まで直線的に掃引した後、最大電位から最小電位まで直線的に掃引して応答電流を測定した。
【0091】
図5(a)に示すように、サンプルAを電解液として用いたことにより、30回サイクルを繰り返しても電流が流れた。また、
図5(b)に示すように、さらに30回サイクルを繰り返しても電流が流れた。
【0092】
[アルミニウム硫黄電池の充放電テスト]
アルミニウム硫黄電池100の充放電テストを行った。ここでは、正極110は、薄型の円柱形状であり、厚さ80μm、直径22mm(主面の表面積3.8cm2)および重量21.1mgとした。
【0093】
図6は、アルミニウム硫黄電池100の充放電曲線を示すグラフである。
図6のグラフは、サンプルAを電解液として用いたアルミニウム硫黄電池100の比容量と電圧との関係を示す。
図6において、下側部分(実線)が放電時の挙動を示し、上側部分(点線)が充電時の挙動を示す。温度は353Kであり、活物質1gあたりの電流密度は1000mAとした。
【0094】
図6に示すように、20サイクル時の充電曲線および放電曲線は、1サイクル時の充電曲線および放電曲線と比べてそれほど変化しなかった。ただし、充放電を繰り返すことによって電圧および比容量は若干増加した。これは、充放電の開始時に電極内に電解液が充分にしみ込んでいなかったが、充放電を繰り返すことにより電極内に電解液が充分にしみ込んだことによるものと考えられる。
【0095】
図7は、アルミニウム硫黄電池100における充放電の繰り返し回数とアルミニウム硫黄電池の比容量および充放電効率の変化を示すグラフである。
図7において、Laは放電比容量の変化を示す。放電比容量は、繰り返し回数が少ないと、比較的小さいが、繰り返し回数が多くなるにつれて増加し、繰り返し回数が20回に近づくと、活物質1gあたり650mAhを示した。
【0096】
また、
図7において、Lbは、充電比容量の変化を示す。充電比容量も、繰り返し回数が少ないと、比較的小さいが、繰り返し回数が多くなるにつれて増加し、繰り返し回数が20回に近づくと、活物質1gあたり650mAhを示した。
【0097】
電池のクーロン効率(充放電効率)は、繰り返し回数が少ない場合は、約90%であったが、繰り返し回数が増えるにつれて100%に近い値となった。以上の結果から、アルミニウム硫黄電池100は、良好な電池特性を示すことが示された。
【0098】
以上、図面(
図1~
図7)を参照しながら本発明の実施形態について説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施形態として実施することが可能である。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明の形成が可能である。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の個数等は、図面作成の都合から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果を実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。