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特開2023-20277癌に対する加療後の肺障害の発症リスクを予測する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020277
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】癌に対する加療後の肺障害の発症リスクを予測する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230202BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230202BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230202BHJP
   C07K 14/46 20060101ALN20230202BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20230202BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/04
A61K45/00 101
A61P35/00
C07K14/46
C12N5/09
A61K39/395 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125546
(22)【出願日】2021-07-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイト掲載日:令和2年8月3日 ウェブサイトのアドレス https://www.researchsquare.com/article/rs-50646/v1 ウェブサイト掲載日:令和2年8月28日 ウェブサイトのアドレス https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32911136/ ウェブサイトの掲載日:令和2年9月16日 ウェブサイトのアドレス https://www.hiroshima-u.ac.jp/system/files/149372/E-2146.pdf 第2回松島呼吸器カンファレンス 開催日:令和2年10月23日 第29回Pneumo Forum 開催日:令和2年11月7日 第61回日本肺癌学会学術集会抄録集04-5 発行日:令和2年11月10日 第61回日本肺癌学会学術集会 開催日:令和2年11月12日~14日 ウェブサイトの掲載日:令和3年1月27日 ウェブサイトのアドレス https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-18K15951/18K159512019hokoku/ 栃木・広島 肺がんWEB Conference 開催日:令和3年4月16日 第61回日本呼吸器学会学術講演会抄録集OP206 発行日:令和3年4月10日 第61回日本呼吸器学会学術講演会 開催日:令和3年4月23日~25日 ウェブサイトの掲載日:令和3年5月12日 ウェブサイトのアドレス https://www.nature.com/articles/s41598-021-89663-w ウェブサイトの掲載日:令和3年6月14日 ウェブサイトのアドレス https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34139190/ 電子メールによる情報提供日:令和2年12月2日 電子メールによる情報提供日:令和3年6月30日
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 覚博
(72)【発明者】
【氏名】服部 登
(72)【発明者】
【氏名】岩本 博志
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045DA36
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QS33
4B065AA90X
4B065CA24
4B065CA46
4C084AA17
4C084NA06
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】癌に対する加療後の肺障害の発症リスクを予測する技術の提供。
【解決手段】下記工程(a)及び(b)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの予測を補助する方法。工程(a):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定する工程;及び、工程(b):
前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値とを比較し、前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、前記対象は前記癌に対する加療後に肺障害を発症するリスクが高いと判定される工程。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)及び(b)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの予測を補助する方法。
工程(a):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定
する工程;及び、
工程(b):前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値とを比較し、
前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、
前記対象は前記癌に対する加療後に肺障害を発症するリスクが高いと判定される工程。
【請求項2】
前記加療が、薬剤療法を用いた加療、根治的放射線療法を用いた加療、又は手術である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象は、前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルが、予め設定されたsRAGEのレベルの基準値以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記癌が肺癌である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
下記要素(A)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクを予測するためのキット。
要素(A):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定
するための試薬。
【請求項6】
前記加療が、薬剤療法を用いた加療、根治的放射線療法を用いた加療、又は手術である、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
前記加療が、薬剤療法を用いた加療であり、
前記薬剤療法を用いた加療が、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療又は細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療である、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
下記要素(B)を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載のキット。
要素(B):前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルを測定するための試
薬。
【請求項9】
前記癌が肺癌である、請求項5~8のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
下記工程(I)及び(II)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法の決定を補助する方法。
工程(I):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定
する工程;及び、
工程(II):前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値とを比較し、
前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、
前記対象における前記癌に対する加療法として、前記対象において前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を選択する工程。
【請求項11】
前記工程(II)において、
前記対象において前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を選択することが、薬剤療法を用いた加療法、根治的放射線療法を用いた加療法、若しくは手術を回避すること、又は、緩和療法を選択することである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対象は、前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルが、予め設定されたsRAGEのレベルの基準値以下である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記癌が肺癌である、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
下記工程(a’)及び(b’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性の予測を補助する方法。
工程(a’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定する工程;及び、
工程(b’):前記工程(a’)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの第一、第二基準値(ただし、前記第一基準値<前記第二基準値)とを比較し、
前記工程(a’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満であるときに、
前記対象は前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性が高いと判定される工程。
【請求項15】
前記対象は、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現し
ている細胞の数の割合が50%以上である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記癌が肺癌である、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
下記要素(A’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性を予測するためのキット。
要素(A’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定するための試薬。
【請求項18】
下記要素(B’)を含む、請求項17に記載のキット。
要素(B’):前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルを測定するための
試薬。
【請求項19】
前記癌が肺癌である、請求項17又は18に記載のキット。
【請求項20】
下記工程(I’)及び(II’)を含む、癌に罹患している対象に前記癌に対する奏功性の高い加療法の決定を補助する方法。
工程(I’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定する工程;及び、
工程(II’):前記工程(I’)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの第一、第二基準値(ただし、前記第一基準値<前記第二基準値)とを比較し、
前記工程(I’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満であるときに、
前記対象における前記癌に対する奏功性の高い加療法として、免疫チェックポイント阻害剤療法を選択する工程。
【請求項21】
前記対象は、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現し
ている細胞の数の割合が50%以上である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記癌が肺癌である、請求項20又は21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌に対する加療後の肺障害の発症リスクを予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌治療関連肺障害はときに重篤な呼吸不全をきたし、死に至る重要な有害事象である。HMGB1 (High Mobility Group Box 1)は、炎症誘発性シグナル伝達を促進する既知の急性
肺障害のメディエータとして知られている。肺障害を発症している患者とHMGB1との関連
については、これまでに多くの報告がされている。
【0003】
例えば、急性肺障害の症状を軽減する方法であって、対象に由来する生体試料中のHMGB1の検出レベルを指標にして、該検出レベルが対照レベルよりも上昇している場合に、抗
TLR4アンタゴニストを前記対象に投与する方法が報告されている(特許文献1)。
エンドトキシン誘発性の急性肺炎症において、HMG-1抗体の投与により、好中球の肺へ
の遊走と、肺の浮腫が減少したことが報告されている(非特許文献1)。
LPS投与マウスに、HMGB1抗体や、HMGB1の受容体であるRAGEに対するRAGE抗体を投与す
ることで、急性肺障害の改善と生存率の改善が得られたことが報告されている(非特許文献2)。
rhTM(組換えヒトThrombomodulin)が血清HMGB1レベルを下げ、線維化間質性肺炎の急
性増悪(AE-FIP)後の生存を改善し得ることが報告されている(非特許文献3)。
安定した特発性肺線維症(IPF)患者の血清HMGB1レベルは、健康な患者のそれよりも有意に高く、急性憎悪を発症したIPF(AE-IPF)患者では、これらの群のいずれよりもさら
に高いことが報告されている(非特許文献4)。
【0004】
上記のように、肺障害を発症している患者とHMGB1との関連については多くの報告がさ
れているが、癌に対する加療後に発症し得る肺障害を発症する前の癌患者とHMGB1との関
連についての報告はなく、癌に対する加療後の肺障害の発症リスクや予後を予測する因子は、血液バイオマーカーを含め有用なものがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016-539925号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Immunol. 2000 Sep 15;165(6):2950-4
【非特許文献2】日臨麻会誌 Vol.25 No.3, 301-309, 2005
【非特許文献3】PLoS One, 2018 May 24;13(5):e0196558
【非特許文献4】Respirology (2020) 25, 275-280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、癌に対する加療後の肺障害の発症リスクを予測する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、前記対象は前記癌に対する加療後に肺障害を発症するリスクが高いことを
見出した。本発明は下記の態様を含む。
【0009】
<1>下記工程(a)及び(b)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの予測を補助する方法。
工程(a):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定
する工程;及び、
工程(b):前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値とを比較し、
前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、
前記対象は前記癌に対する加療後に肺障害を発症するリスクが高いと判定される工程。<2>前記加療が、薬剤療法を用いた加療、根治的放射線療法を用いた加療、又は手術である、<1>に記載の方法。
<3>前記対象は、前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルが、予め設定さ
れたsRAGEのレベルの基準値以下である、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>前記癌が肺癌である、<1>~<3>のいずれかに記載の方法。
【0010】
<5>下記要素(A)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクを予測するためのキット。
要素(A):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定
するための試薬。
<6>前記加療が、薬剤療法を用いた加療、根治的放射線療法を用いた加療、又は手術である、<5>に記載のキット。
<7>前記加療が、薬剤療法を用いた加療であり、
前記薬剤療法を用いた加療が、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療又は細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療である、<6>に記載のキット。
<8>下記要素(B)を含む、<5>~<7>のいずれかに記載のキット。
要素(B):前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルを測定するための試
薬。
<9>前記癌が肺癌である、<5>~<8>のいずれかに記載のキット。
【0011】
<10>下記工程(I)及び(II)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法の決定を補助する方法。
工程(I):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定
する工程;及び、
工程(II):前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値とを比較し、
前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、
前記対象における前記癌に対する加療法として、前記対象において前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を選択する工程。
<11>前記工程(II)において、
前記対象において前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を選択することが、薬剤療法を用いた加療法、根治的放射線療法を用いた加療法、若しくは手術を回避すること、又は、緩和療法を選択することである、<10>に記載の方法。
<12>前記対象は、前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルが、予め設定
されたsRAGEのレベルの基準値以下である、<10>又は<11>に記載の方法。
<13>前記癌が肺癌である、<10>~<12>のいずれかに記載の方法。
【0012】
<14>下記工程(a’)及び(b’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に
対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性の予測を補助する方法。
工程(a’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定する工程;及び、
工程(b’):前記工程(a’)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの第一、第二基準値(ただし、前記第一基準値<前記第二基準値)とを比較し、
前記工程(a’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満であるときに、
前記対象は前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性が高いと判定される工程。
<15>前記対象は、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を
発現している細胞の数の割合が50%以上である、<14>に記載の方法。
<16>前記癌が肺癌である、<14>又は<15>に記載の方法。
【0013】
<17>下記要素(A’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性を予測するためのキット。
要素(A’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定するための試薬。
<18>下記要素(B’)を含む、<17>に記載のキット。
要素(B’):前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルを測定するための
試薬。
<19>前記癌が肺癌である、<17>又は<18>に記載のキット。
【0014】
<20>下記工程(I’)及び(II’)を含む、癌に罹患している対象に前記癌に対する奏功性の高い加療法の決定を補助する方法。
工程(I’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定する工程;及び、
工程(II’):前記工程(I’)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの第一、第二基準値(ただし、前記第一基準値<前記第二基準値)とを比較し、
前記工程(I’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満であるときに、
前記対象における前記癌に対する奏功性の高い加療法として、免疫チェックポイント阻害剤療法を選択する工程。
<21>前記対象は、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を
発現している細胞の数の割合が50%以上である、<20>に記載の方法。
<22>前記癌が肺癌である、<20>又は<21>に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、癌に罹患している対象が前記癌に対する加療をしたと仮定したときに、該加療後に前記対象が肺障害を発症するリスクを予測することができる。
これにより、癌に罹患している対象が前記癌に対する加療をする前の段階で、加療後に肺障害を発症するリスクの高い加療法を回避することができるようになる。また、加療後に肺障害を発症するリスクの低い加療法を選択することができるようになる。
その結果、上記を予測できない場合には、加療後に重度の肺障害を発症する患者や死に至る患者が生じてしまうところ、上記を予測できることにより、加療後に重度の肺障害を発症する患者や死に至る患者の数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一態様に係る、癌患者の血清中のHMGB1のレベルと、前記癌患者における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後のCIP発症率との関係を示すグラフ。
図2】本発明の一態様に係る、癌患者の血清中のHMGB1のレベルと、前記癌患者における前記癌に対する根治的放射線療法を用いた加療後の放射線肺臓炎罹患率(Grade 3以上)との関係を示すグラフ。
図3】本発明の一態様に係る、癌患者の血清中のHMGB1、sRAGEのレベルと、前記癌患者における前記癌に対する根治的放射線療法を用いた加療後の放射線肺臓炎罹患率(Grade 3以上)との関係を示すグラフ。
図4】本発明の一態様に係る、癌患者の血清中のHMGB1のレベルと、前記癌患者における前記癌に対する細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療開始後のフォローアップ期間と、肺障害を発症した患者の割合との関係を示すグラフ。
図5】本発明の一態様に係る、血清中のHMGB1のレベルが5.04 ng/ml以上である癌患者の群における、血清中のsRAGEのレベルと、前記癌患者における前記癌に対する細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療開始後のフォローアップ期間と、肺障害を発症した患者の割合との関係を示すグラフ。
図6】本発明の一態様に係る、血清中のHMGB1のレベルが5.04 ng/ml未満である患者の群における、血清中のsRAGEのレベルと、前記癌患者における前記癌に対する細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療開始後のフォローアップ期間と、肺障害を発症した患者の割合との関係を示すグラフ。
図7】本発明の一態様に係る、癌患者の血清中のHMGB1のレベルと、前記癌患者における前記癌に対する手術後のAE-ILDの発症率との関係を示すグラフ。
図8】本発明の一態様に係る、癌患者の血清中のHMGB1、sRAGEのレベルと、前記癌患者における前記癌に対する手術後のAE-ILDの発症率との関係を示すグラフ。
図9】本発明の一態様に係る、癌患者の血清中のHMGB1のレベルと、前記癌患者における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療のRECIST criteriaによる奏効率の評価との関係を示すグラフ。
図10】本発明の一態様に係る、すべての癌患者の血清中のHMGB1のレベルと、前記癌患者における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後のCIPの発症率、又は前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏効率との関係を示すグラフ。
図11】本発明の一態様に係る、すべての癌患者の血清中のHMGB1のレベル別の、前記癌患者における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の無増悪生存期間のカプランマイヤー曲線。
図12】本発明の一態様に係る、PD-L1 TPSが50%以上の癌患者の血清中のHMGB1のレベルと、前記癌患者における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後のCIPの発症率、又は前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏効率との関係を示すグラフ。
図13】本発明の一態様に係る、PD-L1 TPSが50%以上の癌患者の血清中のHMGB1のレベル別の、前記癌患者における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の無増悪生存期間のカプランマイヤー曲線。
図14】本発明の一態様に係る、PD-L1 TPSが50%未満または不明の癌患者の血清中のHMGB1のレベルと、前記癌患者における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後のCIPの発症率、又は前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏効率との関係を示すグラフ。
図15】本発明の一態様に係る、PD-L1 TPSが50%未満または不明の癌患者の血清中のHMGB1のレベル別の、前記癌患者における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の無増悪生存期間のカプランマイヤー曲線。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一態様は、
下記工程(a)及び(b)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの予測を補助する方法である。
工程(a):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定
する工程;及び、
工程(b):前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値とを比較し、
前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、
前記対象は前記癌に対する加療後に肺障害を発症するリスクが高いと判定される工程。
【0018】
工程(a)は、癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定する工程である。
【0019】
前記癌は、前記癌に対する加療後に肺障害を発症し得る癌であれば特に制限されない。例えば、肺癌、肝臓癌、乳癌、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、尿路上皮癌、腎細胞癌、頭頸部癌、食道癌、大腸癌、胸膜悪性中皮腫等が挙げられる。前記対象は、前記癌のうち一の癌に罹患している対象であってもよいし、複数の癌に罹患している対象であってもよい。
【0020】
また、前記癌は、間質性肺炎を合併した癌であってもよいし、間質性肺炎を合併していない癌でもよい。前記加療が、細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療、又は手術である場合には、好ましくは間質性肺炎を合併した癌である。
【0021】
前記対象はヒトである。
【0022】
前記生体試料としては、例えば、血液等が挙げられる。
前記生体試料が血液である場合には、全血、血清、血漿等であってよい。また、前記生体試料が血液である場合には、末梢血等であってよい。
前記生体試料は、前記いずれの場合であっても、常法に従って取得することができる。
【0023】
前記生体試料中のHMGB1のレベルを測定する方法としては、常法に従うことができる。
例えば、蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法/ELISA法(サンドイッチELISA法を含む。))、イムノクロマトグラフィー、放射免疫測定法(RIA法)、ウェスタンブロット法等が挙げられる。
【0024】
前記工程(b)は、前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値とを比較し、前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予
め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、前記対象は前記癌に対する加療
後に肺障害を発症するリスクが高いと判定される工程である。
【0025】
前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記加療後の肺障害の発症の
有無又は前記加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
【0026】
前記集団に含まれる解析対象の数は、統計的に意義のある前記HMGB1のレベルの基準値
が設定できる数であれば特に制限されない。好ましくは40以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは80以上であり、一方で、上限は特に制限されないが、大きいほど好ましい。例えば200以下である。
【0027】
前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析は、前記各解析対象において、前記加
療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記加療後の肺障害の発症の有無又は
前記加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて、前記HMGB1のレベルの基準値を予め
設定できるものであれば特に制限されない。
例えば、後述する実施例のように、前記加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベ
ルのデータと、前記加療後の肺障害の発症の有無のデータ又は前記加療後に発症した肺障害の重症度のデータとを用いて、ROCカーブ解析により、前記HMGB1のレベルの基準値を予め設定することなどが挙げられる。
ROCカーブとしては、例えば、前記加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルのデータと、前記加療後の肺障害の発症の有無のデータ又は前記加療後に発症した肺障害の重症度のデータとを用いて、前記加療後の肺障害の発症の有無又は前記加療後に発症した肺障害の重症度をアウトカムとし、統計学的手法を用いて縦軸に感度、横軸に1-特異度をプロットしてグラフ化したものが挙げられる。前記ROCカーブ解析としては、それを用い
て、前記アウトカムに対する、前記加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルの基
準値(カットオフ値)を設定するものが挙げられる。
【0028】
前記加療としては、前記癌に罹患している対象における前記癌に対する加療であって、該加療後に肺障害の発症リスクがあり得る加療であれば特に制限されない。例えば、薬剤療法を用いた加療、根治的放射線療法を用いた加療、手術等が挙げられる。
【0029】
前記薬剤療法を用いた加療としては、例えば、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療、細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療、ホルモン療法を用いた加療、分子標的薬療法を用いた加療、抗体薬物複合体療法を用いた加療等が挙げられる。
【0030】
前記免疫チェックポイント阻害剤としては、例えば、抗PD-1/PD-L1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ)、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)等が挙げられる。
【0031】
前記細胞障害性抗癌剤としては、例えば、プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン等)、代謝拮抗剤(ペメトレキセド、ゲムシタビン、「テガフール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムの混合剤」等)、アルキル化剤、タキサン系抗癌剤(パクリタキセル、ドセタキセル、ナブパクリタキセル等)、アンスラサイクリン系抗癌剤(アムルビシン等)、トポイソメラーゼ阻害薬(エトポシド、イリノテカン、ノギテカン等)、ビンアルカロイド系抗癌剤(ビノレルビン等)等が挙げられる。
【0032】
前記根治的放射線療法の「根治的」とは、根治(完全な治癒)を目的としたものであり、例えば、予防的照射、術前・術後照射、緩和的照射等とは区別されるものである。当技術分野の当業者であれば容易に理解することができる用語である。
前記根治的放射線療法は、根治的放射線単独療法でもよいし、根治的化学放射線療法(薬物療法と放射線療法とを併用する根治的療法である。)でもよい。
【0033】
根治的化学放射線療法で用いる薬物は、患者の態様によって、単剤であってもよいし、二以上の薬物を併用した態様であってもよい。
単剤としては、例えば、プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン等)や第3世代
抗癌剤(「テガフール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムの混合剤」等)が挙げられる。
二以上の薬物を併用した態様としては、例えば、プラチナ製剤と第3世代抗癌剤との二
の薬物を併用した態様が挙げられる。プラチナ製剤としては、シスプラチン、カルボプラチン等が挙げられ、第3世代抗癌剤としては、パクリタキセル、ドセタキセル、「テガフ
ール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムの混合剤」、ビノレルビン等が挙げられる。
患者の態様によって、それぞれから一の薬物を選択して併用してよい。
プラチナ製剤と第3世代抗癌剤との好ましい組合せとしては、例えば、シスプラチンと
ドセタキセルとの組合せ、シスプラチンと「テガフール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムの混合剤」との組合せ、シスプラチンとビノレルビンとの組合せ、カルボプラチンとパクリタキセルとの組合せ、カルボプラチンと「テガフール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムの混合剤」との組合せ等が挙げられる。
【0034】
尚、通常、根治的化学放射線療法で用いられる薬物及びその量は、前記薬剤療法(特に、細胞障害性抗癌剤療法)で用いられる薬剤及びその量と異なる。そのため、前記薬剤療法を用いた加療としての細胞障害性抗癌剤療法と、当該根治的化学放射線療法とは異なる態様である。
そのため、例えば、後述する実施例では、前記加療が根治的化学放射線療法を用いた加療であって、後述するように「所定の重症度」がGrade 3以上である場合の前記HMGB1のレベルの基準値が6.196 ng/ml、細胞障害性抗癌剤療法の場合の前記HMGB1のレベルの基準値が5.04 ng/mlであったが、前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルが5.04 ng/ml以上
、かつ、6.196 ng/ml未満の場合に、前記対象は前記癌に対する根治的化学放射線療法を
用いた加療後に前記肺障害を発症するリスクが高いと判定されるものではない。
【0035】
前記「手術」は、根治的手術および姑息的手術を含む。前記根治的手術とは、根治(完全な治癒)を目的としたものであり、例えば、根治的手術としての縮小手術等を含む。また、前記姑息的手術とは、根治を目的とせず、目的の病変のみの切除を目的としたものであり、姑息的手術としての縮小手術等を含む。当技術分野の当業者であれば容易に理解することができる用語である。
【0036】
前記ホルモン療法における薬剤としては、例えば、抗エストロゲン薬、アロマターゼ阻害薬、抗アンドロゲン薬等が挙げられる。
前記分子標的薬としては、例えば、抗体製剤、チロシンキナーゼ阻害薬、HDAC阻害薬、DNAメチル化阻害薬、プロテアソーム阻害薬、PARP阻害薬、CD4/6阻害薬等が挙げられる。
前記抗体薬物複合体としては、例えば、トラスツズマブ・デルクステカン、トラスツズマブ・エムタンシン等が挙げられる。
【0037】
前記肺障害としては、癌に対する加療の具体的態様や、加療前の時点で対象が罹患している癌の具体的態様等によるが、癌に対する加療後に発症する肺障害であれば特に制限されない。例えば、肺臓炎(Checkpoint inhibitor pneumonitis (CIP)、放射線肺臓炎を含む。)、細胞障害性抗癌剤による肺障害、間質性肺炎の急性増悪(acute exacerbation of interstitial lung disease (AE-ILD)、ホルモン療法による肺障害、分子標的薬療法による肺障害、抗体薬物複合体療法による肺障害等が挙げられる。また、薬剤性肺障害(CIP、細胞障害性抗癌剤による肺障害ホルモン療法による肺障害、分子標的薬療法による肺
障害、抗体薬物複合体療法による肺障害等)であってもよい。
例えば、前記加療が免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療である場合には、前記肺障害はCIP(薬剤性肺障害の一態様である。)であり、前記加療が細胞障害性抗癌剤
療法を用いた加療である場合には、前記肺障害は細胞障害性抗癌剤による肺障害(薬剤性肺障害の一態様である。)であり、前記加療が根治的放射線療法を用いた加療である場合には、前記肺障害は放射線肺臓炎であり、前記加療が手術である場合には、前記肺障害はAE-ILDであり、前記加療がホルモン療法を用いた加療である場合には、前記肺障害はホルモン療法による肺障害(薬剤性肺障害の一態様である。)であり、前記加療が分子標的薬療法を用いた加療である場合には、前記肺障害は分子標的薬療法による肺障害(薬剤性肺障害の一態様である。)であり、前記抗体薬物複合体療法を用いた加療である場合には、前記肺障害は抗体薬物複合体療法による肺障害(薬剤性肺障害の一態様である。)である。
【0038】
前記対象が、癌に対する加療後に肺障害を発症したか否かは、癌に対する加療の具体的態様や、加療前の時点で対象が罹患している癌の具体的態様等によるが、常法により判断することができる。例えば、前記加療が、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療である場合には後述する(1)乃至(4)、細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療である場合には後述する(5)乃至(8)、根治的放射線療法を用いた加療である場合には後述する(9)乃至(12)、手術である場合には後述する(13)乃至(16)、ホルモン療法を用いた加療である場合には後述する(17)乃至(20)、分子標的薬療法を用いた加療である場合には後述する(21)乃至(24)、抗体薬物複合体療法を用いた加療である場合には後述する(25)乃至(28)を用いて判断することができる。
尚、本明細書において、前記肺障害に、加療開始前の間質性肺炎は含まれないものとする。すなわち、本態様に係る方法は、前記癌が加療前の時点で間質性肺炎を合併した癌であるときには、間質性肺炎を合併した癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の前記肺障害(前記加療開始前の間質性肺炎を除く。)の発症リスクの予測を補助する方法である。
【0039】
前記「肺障害を発症するリスク」とは、肺障害を発症すること自体のリスクであってもよいし、所定の重症度以上の肺障害を発症するリスクであってもよい。
前者としては、例えば、後述するように、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に肺障害を発症すること自体のリスクや、細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療後に肺障害を発症すること自体のリスク、手術後に肺障害を発症すること自体のリスク、ホルモン療法を用いた加療後に肺障害を発症すること自体のリスク、分子標的薬療法を用いた加療後に肺障害を発症すること自体のリスク、抗体薬物複合体療法を用いた加療後に肺障害を発症すること自体のリスク等が挙げられる。
後者としては、例えば、後述するように、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に所定の重症度以上の肺障害を発症するリスクや、根治的放射線療法を用いた加療後に所定の重症度以上の肺障害を発症するリスク、ホルモン療法を用いた加療後に所定の重症度以上の肺障害を発症するリスク、分子標的薬療法を用いた加療後に所定の重症度以上の肺障害を発症するリスク、抗体薬物複合体療法を用いた加療後に所定の重症度以上の肺障害を発症するリスク等が挙げられる。
【0040】
前者の場合には、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、
前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる
各解析対象における、前記加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記加療
後の肺障害の発症の有無とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
後者の場合には、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、
前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる
各解析対象における、前記加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記加療
後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
【0041】
例えば、前記加療が、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療である場合には、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1の
レベルと、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度は、例えば、下記(1)乃至(4)の4項目すべてに該当する場合に肺障害を発症したと判断すること
を前提に、例えば、CTCAE version 5.0(肺臓炎)を用いて判断することが好ましい。CTCAE version 5.0(肺臓炎)は、肺臓炎の重症度(Grade 1からGrade 5)を区別できるもの
である。前記「所定の重症度以上」とは、例えば、Grade 1以上(All grade、すなわち、「加療後の肺障害の発症の有無」に基づいて予め設定される場合の「有」の場合と同義である。)、Grade 2以上、Grade 3以上、Grade 4以上、又はGrade 5であってよいが、Grade 5(致死的肺障害(致死的CIP))であることが好ましい。尚、本明細書において、CTCAEはバージョンアップされても、その要旨が変更されない限り、CTCAE version 5.0と同様に使用することができる。
(1) 1ヶ月以内の急性の呼吸困難の悪化または発症
(2) CTにおける新規の両側性すりガラス影・浸潤影の出現
(3) 明らかな心不全、肺癌の浸潤、または肺感染症の兆候がないこと(前記「肺感染症の兆候がない」とは、抗生物質治療で改善が見られない、喀痰・血液などの培養検査が陰性であることと定義する。)
(4) 免疫チェックポイント阻害剤療法による加療中に発症
【0042】
また、前記加療が、細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療である場合には、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記細胞障害
性抗癌剤療法を用いた加療後の肺障害の発症の有無とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
前記細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療後の肺障害の発症の有無は、例えば、下記(5)
乃至(8)の4項目すべてに該当する場合には「有」であり、1項目でも該当しない場合には
「無」であると判断することが好ましい。
(5) 1ヶ月以内の急性の呼吸困難の悪化または発症
(6) CTにおける新規の両側性すりガラス影・浸潤影の出現
(7) 明らかな心不全、肺癌の浸潤、または肺感染症の兆候がないこと(前記「肺感染症の兆候がない」とは、抗生物質治療で改善が見られない、喀痰・血液などの培養検査が陰性であることと定義する。)
(8) 最後の細胞障害性抗癌剤の投与から1ヶ月以内の発症
【0043】
また、前記加療が、根治的放射線療法を用いた加療である場合には、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記根治的放射線療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記根治的放射線療法
を用いた加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
前記根治的放射線療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度は、例えば、下記(9)
乃至(12) の4項目すべてに該当する場合に肺障害を発症したと判断することを前提に、例えば、CTCAE version 5.0(肺臓炎)を用いて判断することが好ましい。CTCAE version 5.0(肺臓炎)は、肺臓炎の重症度(Grade 1からGrade 5)を区別できるものである。前記「所定の重症度以上」とは、例えば、Grade 3以上、Grade 4以上、又はGrade 5であって
よいが、Grade 3以上であることが好ましい。
(9) 1ヶ月以内の急性の呼吸困難の悪化または発症
(10) CTにおける新規のすりガラス影・浸潤影の出現
(11) 明らかな心不全、肺癌の浸潤、または肺感染症の兆候がないこと(前記「肺感染症
の兆候がない」とは、抗生物質治療で改善が見られない、喀痰・血液などの培養検査が陰性であることと定義する。)
(12) 根治的放射線療法を用いた加療後から6ヶ月以内に発症
【0044】
また、前記加療が、手術である場合には、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値
は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解
析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記手術前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記手術後の肺障害の発症の有無とに基づいて予め設定されたものである
ことが好ましい。
前記手術後の肺障害の発症の有無は、例えば、下記(13)乃至(16)の4項目すべてに該当
する場合には「有」であり、1項目でも該当しない場合には「無」であると判断すること
が好ましい。
(13) 1ヶ月以内の急性の呼吸困難の悪化または発症
(14) CTにおける新規の両側性すりガラス影・浸潤影の出現
(15) 明らかな心不全、肺癌の浸潤、または肺感染症の兆候がないこと(前記「肺感染症
の兆候がない」とは、抗生物質治療で改善が見られない、喀痰・血液などの培養検査が陰性であることと定義する)。
(16) 手術から1ヶ月以内の発症
【0045】
また、前記加療が、ホルモン療法を用いた加療である場合には、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記ホルモン療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記ホルモン療法を用いた加療
後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
前記ホルモン療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度は、例えば、下記(17)乃至(20)の4項目すべてに該当する場合に肺障害を発症したと判断することを前提に、例えば
、CTCAE version 5.0(肺臓炎)を用いて判断することが好ましい。CTCAE version 5.0(肺臓炎)は、肺臓炎の重症度(Grade 1からGrade 5)を区別できるものである。前記「所定の重症度以上」とは、例えば、Grade 1以上(All grade、すなわち、「加療後の肺障害の発症の有無」に基づいて予め設定される場合の「有」の場合と同義である。)、Grade 2以上、Grade 3以上、Grade 4以上、又はGrade 5であってよいが、Grade 3以上であるこ
とが好ましい。
(17) 1ヶ月以内の急性の呼吸困難の悪化または発症
(18) CTにおける新規の両側性すりガラス影・浸潤影の出現
(19) 明らかな心不全、肺癌の浸潤、または肺感染症の兆候がないこと(前記「肺感染症
の兆候がない」とは、抗生物質治療で改善が見られない、喀痰・血液などの培養検査が陰性であることと定義する。)
(20) ホルモン療法における最後の薬剤の投与から1ヶ月以内の発症
【0046】
また、前記加療が、分子標的薬療法を用いた加療である場合には、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記分子標的薬療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記分子標的薬療法を用い
た加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
前記分子標的薬療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度は、例えば、下記(21)乃至(24)の4項目すべてに該当する場合に肺障害を発症したと判断することを前提に、例え
ば、CTCAE version 5.0(肺臓炎)を用いて判断することが好ましい。CTCAE version 5.0(肺臓炎)は、肺臓炎の重症度(Grade 1からGrade 5)を区別できるものである。前記「所定の重症度以上」とは、例えば、Grade 1以上(All grade、すなわち、「加療後の肺障害の発症の有無」に基づいて予め設定される場合の「有」の場合と同義である。)、Grade 2以上、Grade 3以上、Grade 4以上、又はGrade 5であってよいが、Grade 3以上である
ことが好ましい。
(21) 1ヶ月以内の急性の呼吸困難の悪化または発症
(22) CTにおける新規の両側性すりガラス影・浸潤影の出現
(23) 明らかな心不全、肺癌の浸潤、または肺感染症の兆候がないこと(前記「肺感染症
の兆候がない」とは、抗生物質治療で改善が見られない、喀痰・血液などの培養検査が陰性であることと定義する。)
(24) 最後の分子標的薬の投与から1ヶ月以内の発症
【0047】
また、前記加療が、抗体薬物複合体療法を用いた加療である場合には、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記抗体薬物複合体療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記抗体薬物複合
体療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
前記抗体薬物複合体療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度は、例えば、下記(25)乃至(28)の4項目すべてに該当する場合に肺障害を発症したと判断することを前提に、
例えば、CTCAE version 5.0(肺臓炎)を用いて判断することが好ましい。CTCAE version
5.0(肺臓炎)は、肺臓炎の重症度(Grade 1からGrade 5)を区別できるものである。前記「所定の重症度以上」とは、例えば、Grade 1以上(All grade、すなわち、「加療後の肺障害の発症の有無」に基づいて予め設定される場合の「有」の場合と同義である。)、Grade 2以上、Grade 3以上、Grade 4以上、又はGrade 5であってよいが、Grade 3以上で
あることが好ましい。
(25) 1ヶ月以内の急性の呼吸困難の悪化または発症
(26) CTにおける新規の両側性すりガラス影・浸潤影の出現
(27) 明らかな心不全、肺癌の浸潤、または肺感染症の兆候がないこと(前記「肺感染症
の兆候がない」とは、抗生物質治療で改善が見られない、喀痰・血液などの培養検査が陰性であることと定義する。)
(28) 最後の抗体薬物複合体の投与から1ヶ月以内の発症
【0048】
前記加療がいずれの場合であっても、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、
解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記加療後の肺障害の発症の有無又は前記加療後に発症した肺障害の重
症度とによって変動するものであるが(換言すれば、前記解析対象の集団に含まれる各解析対象が変われば、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値も変動するが)、統計的
に意義のある前記HMGB1のレベルの基準値であればよく、普遍的なものである必要はない
。むしろ、本態様に係る方法を実施する機関等によって設定されてよいものである。前記HMGB1のレベルの基準値は、例えば、既出のようにして予め設定することができる。
例えば、後述する実施例では、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、前記加
療が、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療であって、前記「所定の重症度」がGrade 5である場合には19.29 ng/mlであり、細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療である場合には5.04 ng/mlであり、根治的放射線療法を用いた加療であって、前記「所定の重症度」がGrade 3以上である場合には6.196 ng/mlであり、手術である場合には3.82 ng/mlであったが、当該予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は普遍的にこれらの数値である必要
はない。
【0049】
前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、前記加療が一の加療であってそれに基
づく一の基準値であってもよいし、前記加療が複数の加療であってそれらに基づく複数の基準値であってもよい。尚、後者の場合、通常は、加療ごとに別個の解析対象を用いて設定されるものであり、同一の解析対象に対して複数の加療を施して設定されるものではないが、同一の解析対象に対して複数の加療を施して設定されるものであっても構わない。
例えば、前記加療が、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療という一の加療であって、前記HMGB1のレベルの基準値を予め設定した(例えば、当該基準値をAとする。
)場合を想定してみる。この場合、前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルが、A以
上であるときには、前記対象は前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた
加療後に前記肺障害を発症するリスクについてのみ、該リスクが高いと判定できる。
一方、例えば、前記加療が、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療であって、前記HMGB1のレベルの基準値を予め設定し(例えば、当該基準値をAとする。)、別途、
前記加療が、根治的放射線療法を用いた加療であって、前記HMGB1のレベルの基準値を予
め設定した(例えば、当該基準値をBとする。)場合を想定してみる。この場合、前記工程(a)で測定されたHMGB1のレベルが、A以上であるときには、前記対象は前記癌に対
する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に前記肺障害を発症するリスクが高いと判定でき、B以上であるときには、前記対象は前記癌に対する根治的放射線療法を用いた加療後に前記肺障害を発症するリスクが高いと判定でき、A以上かつB以上であるときには、前記対象は前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後でも、根治的放射線療法を用いた加療後でも、前記肺障害を発症するリスクが高いと判定できる。
【0050】
前記対象は、前記対象から取得された生体試料中のsRAGE (soluble Receptor for Advanced Glycation End-products)のレベルが、予め設定されたsRAGEのレベルの基準値以下
であることが好ましい。これは、そのような場合に前記肺障害を発症するリスクがより正確に判定できるからである。
【0051】
したがって、本態様に係る方法は、前記癌に罹患している対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルを測定する工程;及び、前記工程で測定されたsRAGEのレベルと、予め設定されたsRAGEのレベルの基準値とを比較する工程を含んでよい。
【0052】
前記生体試料中のsRAGEのレベルを測定する方法としては、前記生体試料中のHMGB1のレベルを測定する方法と同様の方法が挙げられる。
また、前記sRAGEのレベルの基準値は、既出の前記HMGB1のレベルの基準値と同様にして設定することができる。
【0053】
既出の通り、前記加療がいずれの場合であっても、前記予め設定されたHMGB1のレベル
の基準値は、統計的に意義のある前記HMGB1のレベルの基準値であればよく、普遍的なも
のである必要はない。前記予め設定されたsRAGEのレベルの基準値もこれと同様である。
例えば、後述する実施例では、当該予め設定されたsRAGEのレベルの基準値は、前記加
療が、細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療である場合には606.9 pg/mlであり、根治的放
射線療法を用いた加療であって、前記「所定の重症度」がGrade 3以上である場合には515.811 pg/mlであり、手術である場合には547.4 pg/mlであったが、当該予め設定されたsRAGEのレベルの基準値は普遍的にこれらの数値である必要はない。
【0054】
本発明の他の一態様は、
下記要素(A)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクを予測するためのキットである。
要素(A):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定
するための試薬。
【0055】
前記態様の説明を援用した上で、以下に本態様に関する説明を記載する。
【0056】
前記要素(A)の試薬としては、前記癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定することができるものである限り特に制限されない。
前記生体試料中のHMGB1のレベルを測定する方法としては、常法に従うことができる。
例えば、蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法/ELISA法(サンドイッチELISA法を含む。))、イムノクロマトグラフィー、放射免疫測定法(RIA法)、ウェスタンブロット法(WB法)等が挙げられる。
【0057】
例えば、前記HMGB1のレベルを蛍光免疫測定法(FIA法)で測定する場合の試薬としては、HMGB1に特異的に結合する抗体、結合した該抗体を検出するための蛍光標識抗体、検出
に必要な試薬、緩衝液等が挙げられる。
【0058】
また、前記HMGB1のレベルを酵素免疫測定法(EIA法/ELISA法(サンドイッチELISA法を
含む。))で測定する場合の試薬としては、HMGB1に特異的に結合する抗体、結合した該
抗体を検出するための酵素標識抗体、HMGB1に特異的に結合する酵素標識抗体、基質、検
出に必要な試薬、緩衝液等が挙げられる。
【0059】
また、前記HMGB1のレベルをイムノクロマトグラフィーで測定する場合の試薬としては
、HMGB1に特異的に結合する標識抗体(例えば、金コロイド標識抗体)、結合した該抗体
を検出するための抗体(キャプチャ抗体)、コントロール用抗体(コントロールライン用抗体)、ロードに必要な試薬、緩衝液等が挙げられる。
【0060】
また、前記HMGB1のレベルを放射免疫測定法(RIA法)で測定する場合の試薬としては、HMGB1に特異的に結合する抗体、結合した該抗体を検出するための放射性同位元素標識抗
体、検出に必要な試薬、緩衝液等が挙げられる。
【0061】
また、前記HMGB1のレベルをウェスタンブロット法(WB法)で測定する場合の試薬とし
ては、HMGB1に特異的に結合する抗体、結合した該抗体を検出するための蛍光標識抗体、
酵素標識抗体、基質、検出に必要な試薬、緩衝液、ブロッキング溶液等が挙げられる。
【0062】
また、前記いずれの方法で測定する場合も、前記キットは、その構成・使用目的などに応じて、当業者に公知の他の要素等を含んでよい。例えば、チューブ、プレート、メンブレン、パッド等を含んでよい。
【0063】
既出の通り、前記対象は、前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルが、予
め設定されたsRAGEのレベルの基準値以下である場合に、前記肺障害を発症するリスクを
より正確に判定できる。
したがって、本態様に係るキットは、要素(B)前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルを測定するための試薬を含んでよい。
前記要素(B)の試薬としては、前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベル
を測定することができるものである限り特に制限されない。
前記生体試料中のsRAGEのレベルを測定する方法としては、常法に従うことができる。
その詳細は、前記生体試料中のHMGB1のレベルを測定する方法と同様である。また、該
方法で用いることができる試薬、その構成・使用目的などに応じた当業者に公知の他の要素又は成分等についても同様である。
【0064】
本態様に係るキットは、さらに、前記態様に係る方法を記載した説明書等を含めることもできる。
また、前記要素(A)及び(B)の試薬の好ましい濃度条件や使用時の条件等としては、通常の条件を採用することができる。また、前記要素(A)及び(B)の試薬は、使用前には適宜濃縮されていてもよく、使用直前に水等で適宜希釈することができる。
また、本態様に係るキットは、前記癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときは、前記対象は前記癌に対する加療後に肺障害を発症するリスクが高いことを示す添付文書を含んでよい。
また、本態様に係るキットは、前記癌に罹患している対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルが、前記予め設定されたsRAGEのレベルの基準値未満であるときは、前記癌
に対する加療後に肺障害を発症するリスクをより正確に判定できることを示す添付文書を含んでよい。
【0065】
本発明の他の一態様は、
下記工程(I)及び(II)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法の決定を補助する方法である。
工程(I):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定
する工程;及び、
工程(II):前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値とを比較し、
前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、
前記対象における前記癌に対する加療法として、前記対象において前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を選択する工程。
【0066】
工程(I)は、癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定する工程である。その詳細は、前記態様の説明を援用する。
【0067】
工程(II)は、前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの基準値とを比較することを含む。その詳細は、前記態様の説明を援用する。
【0068】
工程(II)における、前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定
されたHMGB1のレベルの基準値以上であることの詳細は、前記態様の説明を援用する。
【0069】
工程(II)における、前記対象における前記癌に対する加療法として、前記対象において前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を選択することについて下記に説明する。
前記態様で説明した通り、工程(II)において、前記工程(I)で測定されたHMGB1
のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるとき、前記対象は、
前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクが高いと判定される。そのため、前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルに従って、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスク
の低い加療法を選択することが好ましい。
【0070】
ここで、癌に対する一般的な加療法としては、既出の通り、薬剤療法(例えば、免疫チェックポイント阻害剤療法、細胞障害性抗癌剤療法、ホルモン療法、分子標的薬療法、抗体薬物複合体療法等)、根治的放射線療法、手術のほか、緩和療法(緩和的放射線療法、抗疼痛剤を用いた療法等)等が挙げられる。そのため、前記選択においては、前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルに従って、前記癌に対する前記一般的な加療法のうち、
前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの高い加療法を除外(回避)することが好ましく、また、該除外(回避)により残った加療法を選択することが好ましい。
尚、本明細書において、前記薬剤療法に、抗疼痛剤を用いた療法は含まれないものとする。
また、緩和療法とは、前記癌による前記対象の苦痛を緩和するための療法をいい、当技術分野の当業者であれば容易に理解することができる用語である。
【0071】
例えば、前記加療が、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療である場合を想定してみる。この場合、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ
、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれ
る各解析対象における、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後
に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定される(例えば、当該基準値をAとする。)。
このとき、前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルが、A以上であるときには、前
記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施すのは適切でない。そのため、前記選択においては、前記癌に対する前記一般的な加療法のうち、免疫チェックポイント阻害剤療法を除外(回避)することが好ましく、また、該除外(回避)により残った加療法を選択することが好ましい。
【0072】
また、前記態様で説明した通り、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、前記
加療が一の加療であってそれに基づく一の基準値であってもよいし、前記加療が複数の加療であってそれらに基づく複数の基準値であってもよい。
例えば、まず、前記加療が、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療である場合を想定してみる。この場合、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し
、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に
含まれる各解析対象における、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた
加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定される(例えば、当該基準値をAとする。)。
次に、前記加療が、根治的放射線療法を用いた加療である場合を想定してみる。この場合、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記根治的放射線療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、
前記根治的放射線療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定される(例えば、当該基準値をBとする。)。
このとき、前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルが、A以上であるときには、前
記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施すのは適切でない。そのため、前記選択においては、前記癌に対する前記一般的な加療法のうち、免疫チェックポイント阻害剤療法を除外(回避)することが好ましく、また、該除外(回避)により残った加療法を選択することが好ましい。
また、前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルが、B以上であるときには、前記対
象に根治的放射線療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に根治的放射線療法を用いた加療を施すのは適切でない。そのため、前記選択においては、前記癌に対する前記一般的な加療法のうち、根治的放射線療法を除外(回避)することが好ましく、また、該除外(回避)により残った加療法を選択することが好ましい。
これらに基づけば、前記工程(I)で測定されたHMGB1のレベルが、A以上かつB以上
であるときには、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施すのは適切でなく、かつ、前記対象に根治的放射線療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に根治的放射線療法を用いた加療を施すのは適切でない。そのため、前記選択においては、前記癌に対する前記一般的な加療法のうち、免疫チェックポイント阻害剤療法及び根治的放射線療法を除外(回避)することが好ましく、また、該除外(回避)により残った加療法を選択することが好ましい。
【0073】
また、臨床現場の実態に沿えば下記の態様も挙げられる。
前記加療が免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療であり、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値が、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のため
の解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記免疫
チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度(ここではAll grade、すなわち、「加療後の肺障害の発症の有無」に基づいて予め設定される場合の「有
」の場合と同義である。)とに基づいて予め設定されたものである場合に、前記対象が、間質性肺炎を合併している癌に罹患している場合であって、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルが該基準値未満である
場合には、前記選択において、免疫チェックポイント阻害剤療法が除外(回避)されてもよい。後述する実施例から把握できるように、該基準値の一例は11.24 ng/mlであるが、
既出の通り、該基準値は普遍的に当該数値である必要はない。
また、前記加療が根治的放射線療法を用いた加療であり、前記予め設定されたHMGB1の
レベルの基準値が、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析
に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記根治的放射線療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記根治的放射線療法を用いた
加療後に発症した肺障害の重症度(ここではgrade 3以上)とに基づいて予め設定された
ものである場合に、前記対象が、間質性肺炎を合併している癌に罹患している場合であって、前記根治的放射線療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルが該
基準値未満である場合には、前記選択において、根治的放射線療法が除外(回避)されてもよい。後述する実施例では、該基準値は6.196 ng/mlであったが、既出の通り、該基準
値は普遍的に当該数値である必要はない。
【0074】
前記対象は、前記対象から取得された生体試料中のsRAGEのレベルが、予め設定されたsRAGEのレベルの基準値以下であることが好ましい。これは、そのような場合に前記肺障害を発症するリスクをより正確に判定できるからである。その詳細は、前記態様の説明を援用する。
【0075】
本発明の他の一態様は、
下記工程(α)を含む、癌に罹患している対象における前記癌の治療方法である。
工程(α):癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上である対象に、前記癌に対する加療を施す工程。
【0076】
前記態様の説明を援用した上で、以下に本態様に関する説明を記載する。
前記態様で説明した通り、癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上である対象は、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクが高いと判定される。そのため、前記加療は、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルに従った、前記癌に対する加療後の
肺障害の発症リスクの低い加療法を用いた加療であることが好ましい。
【0077】
例えば、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値が、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に発症した肺障害
の重症度とに基づいて予め設定されたものであることを想定してみる(例えば、当該基準値をAとする。)。
このとき、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、A以上であるとき
には、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施すのは適切でない。そのため、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を用いた加療としては、
前記癌に対する前記一般的な加療法を用いた加療のうち、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を除外(回避)することが好ましく、また、該除外(回避)により残った加療法を用いた加療であることが好ましい。
【0078】
また、前記態様で説明した通り、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値は、前記
加療が一の加療であってそれに基づく一の基準値であってもよいし、前記加療が複数の加療であってそれらに基づく複数の基準値であってもよい。
例えば、まず、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値が、癌に罹患し、かつ、前
記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各
解析対象における、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に発症し
た肺障害の重症度とに基づいて予め設定されたものであることを想定してみる(例えば、当該基準値をAとする。)。
次に、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値が、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、根治的放射線療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、
前記根治的放射線療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定されたものであることを想定してみる(例えば、当該基準値をBとする。)。
このとき、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、A以上であるとき
には、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施すのは適切でない。そのため、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を用いた加療としては、前記癌に対する前記一般的な加療法を用いた加療のうち、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を除外(回避)することが好ましく、また、該除外(回避)により残った加療法を用いた加療であることが好ましい。
また、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、B以上であるときには
、前記対象に根治的放射線療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該根治的放射線療法を用いた加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に根治的放射線療法を用いた加療を施すのは適切でない。そのため、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を用いた加療としては、前記癌に対する前記一般的な加療法を用いた加療のうち、根治的放射線療法を除外(回避)することが好ましく、また、該除外(回避)により残った加療法を用いた加療であることが好ましい。
これらに基づけば、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、A以上か
つB以上であるときには、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施すのは適切でなく、かつ、前記対象に根治的放射線療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該根治的放射線療法を用いた加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に根治的放射線療法を用いた加療を施すのは適切でない。そのため、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクの低い加療法を用いた加療としては、前記癌に対する前記一般的な加療法を用いた加療のうち、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療及び根治的放射線療法を用いた加療を除外(回避)することが好ましく、また、該除外(回避)により残った加療法を用いた加療であることが好ましい。
【0079】
前記態様で記載した臨床現場の実態に沿って説明した態様は、本態様にも援用する。
【0080】
本発明の一態様は、
下記工程(a’)及び(b’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性の予測を補助する方法である。
工程(a’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定する工程;及び、
工程(b’):前記工程(a’)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの第一、第二基準値(ただし、前記第一基準値<前記第二基準値)とを比較し、
前記工程(a’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満であるときに、
前記対象は前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性が高いと判定される工程。
【0081】
前記態様の説明を援用した上で、以下に本態様に関する説明を記載する。
前記態様で説明した通り、前記HMGB1のレベルの基準値を設定するに際し、前記加療が
、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療である場合、前記予め設定されたHMGB1
のレベルの基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの基準値の設定のための解
析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記免疫チェ
ックポイント阻害剤療法を用いた加療後に発症した肺障害の重症度とに基づいて予め設定される。本態様に係る方法では、当該基準値が前記第二基準値に相当する(例えば、当該基準値をAとする。)。
前記工程(a’)で測定されたHMGB1のレベルがA以上であるときには、前記対象に免
疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施せば、前記対象は、該加療後に肺障害を発症するリスクが高いため、前記対象に免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施すのは適切でない。
【0082】
一方で、一般には、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療は、該加療後に重度の肺障害を発症した対象では予後の悪化につながるという報告がされているが(例えば、Thorac. Cancer, 2019; 10(10): 2006-2012)、該加療後に重度でない肺障害を発症した
対象では予後の悪化につながりにくく、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療が奏功しやすいことが示唆されている(例えば、Ther Adv Med Oncol. 2020 May 9;12:1758835920922033)。
したがって、前記対象が後者であると判定されるためには、前記第一基準値を設けることが好ましい(例えば、当該基準値をCとする。)。
後述する実施例及び図10図15から示唆されるように、前記工程(a’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値(基準値C)以上、かつ、第二基準値(基準値A)未満であるときに、前記対象は前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性が高いと判定できるといえる。
【0083】
前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの第一基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の抗腫瘍効果
としての奏効率とに基づいて予め設定されることが好ましい。
【0084】
前記集団に含まれる解析対象の数は、統計的に意義のある前記HMGB1のレベルの第一基
準値が設定できる数であれば特に制限されない。好ましくは40以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは80以上であり、一方で、上限は特に制限されないが、大きいほど好ましい。例えば200以下である。
【0085】
前記HMGB1のレベルの第一基準値の設定のための解析は、前記各解析対象において、免
疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベル
と、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の抗腫瘍効果としての奏効率と
に基づいて、前記HMGB1のレベルの第一基準値を予め設定できるものであれば特に制限さ
れない。
例えば、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルのデータと、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の抗腫瘍
効果としての奏効率のデータとを用いて、ROCカーブ解析により、前記HMGB1のレベルの第一基準値を予め設定することなどが挙げられる。
【0086】
前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の抗腫瘍効果としての奏効率は、例えば、下記RECIST criteriaを用いて判断することが好ましい。RECIST criteriaは下記を区別できるものである。前記「奏効率」(Response Rate, RR)とは、下記CR + PRの割合であることが好ましい。
【0087】
(RECIST criteria)
CR(complete response; 完全奏効):すべての標的病変の消失
PR(partial response; 部分奏効):ベースラインの長径和と比較して標的病変の最長径の和が30%以上減少
PD(progressive disease; 進行):治療開始以降に記録された最小の最長径の和と比較
して標的病変の最長径の和が20%以上増加
SD(stable disease; 安定):PRとするには腫瘍の縮小が不十分で、かつPDとするには治療開始以降の最小の最長径和に比して腫瘍の増大が不十分
【0088】
また、後述する実施例及び図10図15から示唆されるように、本態様に係る方法においては、前記対象において前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の抗腫瘍効果としての奏効率が高いことと、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に肺障害を発症するリスク(本態様では、肺障害を発症すること自体のリスク)とには関連がある。
【0089】
ここで、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後に肺障害を発症するリスク(ここでは、肺障害を発症すること自体のリスク)の側面から前記HMGB1のレベルの第一基
準値を考えると、前記HMGB1のレベルの第一基準値は、癌に罹患し、かつ、前記HMGB1のレベルの第一基準値の設定のための解析に用いられる解析対象の集団に含まれる各解析対象における、前記加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルと、前記加療後の肺障害
の発症の有無とに基づいて予め設定されたものであることが好ましい。
【0090】
前記集団に含まれる解析対象の数は、統計的に意義のある前記HMGB1のレベルの第一基
準値が設定できる数であれば特に制限されない。好ましくは40以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは80以上であり、一方で、上限は特に制限されないが、大きいほど好ましい。例えば200以下である。
【0091】
前記HMGB1のレベルの第一基準値の設定のための解析は、前記各解析対象において、免
疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベル
と、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の肺障害の発症の有無とに基づいて、前記HMGB1のレベルの第一基準値を予め設定できるものであれば特に制限されない

前記HMGB1のレベルの第一基準値は、例えば、既出のようにして予め設定することがで
きる。例えば、後述する実施例のように、前記免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療前に取得された生体試料中のHMGB1のレベルのデータと、前記免疫チェックポイント
阻害剤療法を用いた加療後の肺障害の発症の有無のデータとを用いて、ROCカーブ解析に
より、前記HMGB1のレベルの第一基準値を予め設定することなどが挙げられる。
免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の肺障害の発症の有無は、例えば、前
記(1)乃至(4)の4項目すべてに該当する場合には「有」であり、1項目でも該当しない場合には「無」であると判断することが好ましい。
【0092】
尚、既出と同様に、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一、第二基準値は、統計的
に意義のある前記HMGB1のレベルの第一、第二基準値であればよく、普遍的なものである
必要はない。
例えば、後述する実施例では、当該予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値は11.24
ng/mlであり、第二基準値(前記「所定の重症度」がGrade 5である場合)は19.29 ng/mlであったが、当該予め設定されたHMGB1のレベルの第一、第二基準値は普遍的にこれらの
数値である必要はない。
【0093】
また、後述する実施例及び図10図15から示唆されるように、前記対象は、対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合が5
0%以上であるときに、前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性をより正確に判定できる。
そのため、前記対象は、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合が50%以上であることが好ましい。
【0094】
前記腫瘍は、当該割合を算出できるのに十分な量の腫瘍であればよく、例えば、腫瘍の一部でよい。また、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数としては、前記割合が統計的に意義のある数であればよい。例えば100以上であり、上限は特に制限されないが、大きい方が好ましく、例えば、1000以下である。
また、前記対象から腫瘍を取得する方法としては特に制限されず、当技術分野における常法であってよい。
前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の計数方法としては特に制限されず、当技術分野における常法であってよい。例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色法等が挙げられる。
前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞であって、PD-L1を発現している細胞の計
数方法としては特に制限されず、当技術分野における常法であってよい。例えば、抗PD-L1抗体を用いた免疫染色法等が挙げられる。
【0095】
本発明の他の一態様は、
下記要素(A’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性を予測するためのキットである。
要素(A’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定するための試薬。
【0096】
前記要素(A’)の試薬としては、前記癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測定することができるものである限り特に制限されない。その詳細
は、前記態様の説明を援用する。
【0097】
また、既出の通り、前記対象は、対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合が50%以上であるときに、前記癌に対する免疫チ
ェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性をより正確に判定できる。
そのため、前記対象は、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合が50%以上であることが好ましい。
本態様に係るキットは、要素(B’)前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合を算出するための試薬を含んでよい。
前記要素(B’)の試薬としては、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合を算出することができるものである限り特に
制限されない。
前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞を計数するための試薬としては、例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色で用いる試薬(具体例としては、ヘマトキシリン、エオジン等)等が挙げられる。
PD-L1を発現している細胞を計数するための試薬としては、例えば、抗PD-L1抗体を用いた免疫染色法で用いる試薬(具体例としては、Dako 28-8、Dako 22C3、Ventana SP142、Ventana SP263、Dako 73-10等)等が挙げられる。
【0098】
また、本態様に係るキットは、前記癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときは、前記対象は前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性が高いことを示す添付文書を含んでよい。
【0099】
本発明の他の一態様は、
下記工程(I’)及び(II’)を含む、癌に罹患している対象に前記癌に対する奏功性の高い加療法の決定を補助する方法である。
工程(I’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを測
定する工程;及び、
工程(II’):前記工程(I’)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定されたHMGB1のレベルの第一、第二基準値(ただし、前記第一基準値<前記第二基準値)とを比較し、
前記工程(I’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満であるときに、
前記対象における前記癌に対する奏功性の高い加療法として、免疫チェックポイント阻害剤療法を選択する工程。
【0100】
前記態様の説明を援用した上で、以下に本態様に関する説明を記載する。
前記態様の説明から分かる通り、癌に罹患している対象であって、前記工程(I’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満である対象では、前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療が奏功しやすい。
そのため、前記工程(I’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満であるときに、前記対象における前記癌に対する奏功性の高い加療法として、免疫チェックポイント阻害剤療法を選択することができる。
【0101】
また、既出の通り、前記対象は、対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合が50%以上であるときに、前記癌に対する免疫チ
ェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性をより正確に判定できる。
そのため、前記対象は、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合が50%以上であることが好ましい。
【0102】
本発明の他の一態様は、
下記工程(α’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌の治療方法である。
工程(α’):癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満(ただし、前記第一基準値<前記第二基準値)である対象に、前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施す工程。
【0103】
前記態様の説明を援用した上で、以下に本態様に関する説明を記載する。
前記態様の説明から分かる通り、癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満である対象では、前記癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療が奏功しやすい。
そのため、癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが、予め設定されたHMGB1のレベルの第一基準値以上、かつ、第二基準値未満である対象には、前記癌に対する有効な加療として、免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療を施すことができる。
【0104】
また、既出の通り、前記対象は、対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合が50%以上であるときに、前記癌に対する免疫チ
ェックポイント阻害剤療法を用いた加療の奏功性をより正確に判定できる。
そのため、前記対象は、前記対象から取得された腫瘍に含まれる細胞の数に対するPD-L1を発現している細胞の数の割合が50%以上であることが好ましい。
【0105】
本発明の他の一態様は、
下記工程(I’’)及び(II’’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の予防法の決定を補助する方法である。
工程(I’’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルを
測定する工程;及び、
工程(II’’):前記工程(I’’)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定され
たHMGB1のレベルの基準値とを比較し、
前記工程(I’’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、
前記対象における前記肺障害の予防法として、前記対象にHMGB1阻害剤を投与する加療
法を選択する工程。
【0106】
前記態様の説明を援用した上で、以下に本態様に関する説明を記載する。
前記態様で説明した通り、癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上である対象は、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクが高いと判定される。
ここで、既出の通り、HMGB1は、炎症誘発性シグナル伝達を促進する既知の急性肺障害
のメディエータとして知られている。よって、前記対象にHMGB1阻害剤を投与することに
より、前記対象における前記癌に対する加療後の肺障害の発症を予防することができる。
【0107】
前記HMGB1阻害剤としては、例えば、HMGB1の放出を阻害する薬剤や、HMGB1に直接結合
してHMGB1の活性を阻害する薬剤、HMGB1とその受容体との結合を阻害する薬剤、HMGB1の
発現を抑制する薬剤、HMGB1が誘導する炎症シグナルを遮断する薬剤等が挙げられる。具
体的には、Pharmacol. Res., 2016;111:534-544やJ. Clin. Invest., 2005;115(5):1267-74等の文献に記載されているように、アスピリン、グリチルリチン、ピルビン酸エチル、sRAGE、抗RAGE抗体、RAGE阻害剤、抗TLR4抗体、TLR4阻害剤、トロンボモジュリン、抗HMGB1抗体、エダラボン、ミノサイクリン、カンナビジオール等が挙げられる。
前記HMGB1阻害剤としては、一の薬剤であってもよいし、複数の薬剤であってもよい。
【0108】
本発明の他の一態様は、
下記工程(α’’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療後の肺障害の予防法である。
工程(α’’):癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上である対象に、HMGB1阻害
剤を投与する工程。
【0109】
前記態様の説明を援用した上で、以下に本態様に関する説明を記載する。
前記態様で説明した通り、癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上である対象は、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクが高いと判定される。また、HMGB1は、炎症誘
発性シグナル伝達を促進する既知の急性肺障害のメディエータとして知られている。そのため、前記対象にHMGB1阻害剤を投与することにより、前記対象における前記癌に対する
加療後の肺障害の発症を予防することができる。
【0110】
本発明の他の一態様は、
下記工程(I’’’)乃至(III’’’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌に対する加療法の決定を補助する方法である。
工程(I’’’):癌に罹患している対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベル
を測定する工程;
工程(II’’’):前記工程(I’’’)で測定されたHMGB1のレベルと、予め設定
されたHMGB1のレベルの基準値とを比較し、
前記工程(I’’’)で測定されたHMGB1のレベルが、前記予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上であるときに、
前記対象におけるHMGB1阻害剤を投与する加療法を選択する工程;及び、
工程(III’’’):前記対象における前記癌に対する加療法を選択する工程。
【0111】
前記態様の説明を援用した上で、以下に本態様に関する説明を記載する。
前記態様で説明した通り、癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上である対象は、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクが高いと判定される。また、HMGB1は、炎症誘
発性シグナル伝達を促進する既知の急性肺障害のメディエータとして知られている。そのため、前記対象にHMGB1阻害剤を投与することにより、前記対象における前記癌に対する
加療後の肺障害の発症を予防することができる。
そして、前記対象において、前記癌に対する加療後の肺障害の発症が予防された状態で、前記対象における前記癌に対する加療法を選択することができる。このとき、前記癌に対する加療法としては、前記態様に記載したような、前記癌に対する一般的な加療法のうち、所定の加療法を除外(回避)してもよいがしなくてもよく、また、該除外(回避)により残った加療法を選択してもよいがしなくてもよい。すなわち、前記癌に対する一般的な加療法を選択してよい。
【0112】
本発明の他の一態様は、
下記工程(α’’’)及び工程(β’’’)を含む、癌に罹患している対象における前記癌の治療方法である。
工程(α’’’):癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上である対象に、HMGB1阻
害剤を投与する工程;及び、
工程(β’’’):前記HMGB1阻害剤が投与された対象に、前記癌に対する加療を施す
工程。
【0113】
前記態様の説明を援用した上で、以下に本態様に関する説明を記載する。
前記態様で説明した通り、癌に罹患している対象であって、前記対象から取得された生体試料中のHMGB1のレベルが予め設定されたHMGB1のレベルの基準値以上である対象は、前記癌に対する加療後の肺障害の発症リスクが高いと判定される。また、HMGB1は、炎症誘
発性シグナル伝達を促進する既知の急性肺障害のメディエータとして知られている。そのため、前記対象にHMGB1阻害剤を投与することにより、前記対象における前記癌に対する
加療後の肺障害の発症を予防することができる。
そして、前記HMGB1阻害剤が投与された対象(すなわち、前記癌に対する加療後の肺障
害の発症が予防された対象)に、前記癌に対する加療を施すことができる。このとき、前記癌に対する加療としては、前記態様に記載したような、前記癌に対する一般的な加療法を用いた加療のうち、所定の加療を除外(回避)してもよいがしなくてもよく、また、該除外(回避)により残った加療を選択してもよいがしなくてもよい。すなわち、前記癌に対する一般的な加療法を用いた加療を選択してよい。
【実施例0114】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、図中のNSはNot significantを示し、*はP < 0.05を示し、**
はP < 0.01を示し、***はP < 0.005を示す。
【0115】
<実施例1>肺癌患者における前記肺癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療後の肺障害(Checkpoint inhibitor pneumonitis, CIP)の発症リスクの予測
(1) 患者背景と研究デザイン
2015年12月から2020年10月までに広島大学病院または川崎医科大学病院で、抗PD-1/PD-L1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ)による単剤治療を受けた非小細胞肺癌患者のうち、治療前に血液検体を保存していた139例を対象とし後方視的な検討
を行った。この研究は、各々の倫理委員会による審査を受け、患者からは事前に書面で同意を得て行われた。
【0116】
(2) CIPの診断と抗腫瘍効果の評価
前記(1)乃至(4)の4項目すべてに該当する場合に肺障害(CIP)を発症したと判断した。具体的には、CIPは、抗PD-1/PD-L1抗体で加療開始後3ヶ月以内に胸部CTや胸部単純X線写真で両肺に新規のすりガラス陰影や浸潤影を呈したもので、明らかな心不全や癌の浸潤、感染症を除外できるものとした。肺障害の重症度は、CTCAE version 5.0を用いて下記の
ように判断した。
【0117】
(CTCAE ver5.0 肺臓炎)
Grade1:症状がない、臨床初見または検査初見のみ、治療を要さない。
Grade2:症状がある、内科的治療を要する、身の回り以外の日常生活動作の制限がある。Grade3:高度の症状、身の回りの日常生活動作の制限がある、酸素投与を要する。
Grade4:生命を脅かす、緊急処置を要する。
Grade5:死亡
【0118】
(3) 血清中のHMGB1のレベルの測定
広島大学病院および川崎医科大学病院で治療前に患者から血清を採取し、-80℃で保存
した。その保存血清を市販のELISAキット(HMGB1 ELISA Kit II [Shino-Test Corporation、Tokyo])を用いて血清中のHMGB1のレベルを測定した。
【0119】
(4) 基準値の設定
群間比較は、マン・ホイットニーのU検定やピアソンのカイ二乗検定を用いた。血清中
のHMGB1のレベルの最適カットオフ値(基準値)はROCカーブ解析を用いて評価した。すべてのP値は、0.05未満を有意とした。これらのデータはJMP version 15.0.0を用いて解析
を行った。
【0120】
(5) 結果
(患者背景)
抗PD-1/PD-L1抗体投与後のフォローアップ中央値は、8.1か月(3.1-22.9か月)であっ
た。川崎医科大学コホートと比較して広島コホートでは、非扁平上皮癌、PD-L1 TPS≧50%、治療前から間質性肺疾患が存在している患者が多かった。広島大学コホートでは抗PD-1/PD-L1抗体を一次治療として受けた患者が多く、ペムブロリズマブの使用頻度が多かったが、二次治療として抗PD-1/PD-L1抗体による治療を受けた患者は川崎医科大学コホートより少なかった。139例中15例がCIPを発症した。
【0121】
(血清中のHMGB1のレベルによるCIPの予測)
CIPを発症した15例のうち、Grade 1-2は8例、Grade 3は4例、Grade 5は3例であった。ROCカーブ解析では、血清中のHMGB1のレベルを用いて全てのGradeのCIPを検出する際のAUCは0.802であったが、Grade 3以上のCIPではAUC:0.818、Grade 5のCIPではAUC:0.985と
、より重症度の高いCIPを予測する場合にその弁別能は上昇した。表1に結果を示す。
【表1】
【0122】
これらの基準値(11.24と19.29)を用いて、患者を3群に分け、それぞれの群におけるCIPの発症率および重症度を検討したところ、血清中のHMGB1のレベルが高くなるとCIPの発症率ならびに重症度とも上昇しており、特に血清中のHMGB1のレベルが19.29 ng/mL以上の場合、7人中3人(43%)が肺障害によって死亡していた(Grade 5のCIP)。結果を図1
表2に示した。
【表2】
【0123】
<実施例2>肺癌患者における前記肺癌に対する根治的放射線療法を用いた加療後の肺障害の発症リスクの予測
(1) 患者背景と研究デザイン
2007年8月から2021年1月までの期間に広島大学病院で非小細胞肺癌と診断され、根治的放射線療法又は根治的化学放射線療法で加療された症例で、初回治療前の血清サンプルを有する73例について検討した。対象とした症例は以下の条件を満たすものとした。
【0124】
1. 20歳以上の症例である。
2. 病理学的に非小細胞肺癌と診断されている。
3. 過去に胸部放射線照射を施行されていない。
4. 放射線照射後3か月以上の経過観察がなされている(ただし、3か月以内に病勢の進行や有害事象等により死亡した症例は含む)。
5. 他に重篤な他臓器合併症を有していない。
6. 他に活動性の悪性腫瘍を合併していない。
なお、照射前の画像にて明らかな間質影を認めた症例は除外した。
【0125】
(2) 放射線肺臓炎の評価
前記(9)乃至(12)の4項目すべてに該当する場合に肺障害(放射線肺臓炎)を発症したと判断した。具体的には、放射線肺臓炎の診断は胸部単純写真もしくは胸部CTにて行い、照射後6か月以内に照射前に認められなかった陰影が照射野にほぼ一致して認められた場合
に、放射線肺臓炎と診断した。また、陰影が照射野外に及んだ場合は臨床所見、各種抗体検査、喀痰検査等にて他のびまん性肺疾患を除外した後、放射線肺臓炎と診断した。
肺障害の重症度の評価は、以下に示すCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 5.0で行った。
【0126】
(CTCAE version 5.0 肺臓炎)
Grade1:症状がない、臨床所見または検査所見のみ、治療を要さない。
Grade2:症状がある、内科的治療を要する、身の回り以外の日常生活動作の制限がある。Grade3:高度の症状、身の回りの日常生活動作の制限がある、酸素投与を要する。
Grade4:生命を脅かす、緊急処置を要する。
Grade5:死亡
【0127】
(3) 血清中のHMGB1のレベル及びsRAGEのレベルの測定
細胞障害性抗癌剤投与前かつ放射線照射前に血清サンプルを採取し、当院にて-80℃で
保存した。血清中のHMGB1レベル及びsRAGEレベルは、市販のELISAキット(HMGB1 ELISA kit II [Shino-Test Corporation、Tokyo]、およびHuman RAGE Quantikine ELISA Kit [R&D Systems、Minneapolis、MN、USA])を使用して測定した。
【0128】
(4) 基準値の設定
グループ間の差異は、ピアソンのカイ2乗検定を使用して評価した。多重比較で有意差
があった場合は、ボンフェローニ補正を使用した個別の比較を実施した。ROCカーブ解析
を実施して、放射線照射開始6か月以内の放射線肺臓炎の発症を予測するための、血清中
のHMGB1のレベル及びsRAGEのレベルの最適なカットオフ値(基準値)を決定した。P <0.05を、統計学的に有意差を示すとみなした。すべてのデータ分析は、JMPバージョン14.1.0
(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を使用した実施した。
【0129】
(5) 結果
結果を図2図3に示す。73症例中、66症例に全身化学療法を同時または異時併用し、化学療法はプラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)と第3世代抗癌剤(パクリタ
キセル、ドセタキセル、「テガフール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムの混合剤」、ビノレルビン)との併用療法、または第3世代抗癌剤(「テガフール、ギメラシル、及
びオテラシルカリウムの混合剤」)単剤を施行した。
併用療法については、具体的には、シスプラチンとドセタキセルとを用いた併用療法、シスプラチンと「テガフール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムの混合剤」とを用いた併用療法、シスプラチンとビノレルビンとを用いた併用療法、カルボプラチンとパクリタキセルとを用いた併用療法、カルボプラチンと「テガフール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムの混合剤」とを用いた併用療法のいずれかを施行した。
73例中、27例が照射後6か月内にGrade 2以上の放射線肺臓炎を発症し、そのうち6例がGrade 3以上の放射線肺臓炎を発症していた。
ROCカーブ解析により、Grade3以上の放射線肺臓炎の発症を予測するための最適なカッ
トオフ値(基準値)は、血清中のHMGB1のレベルについては6.196 ng/ml(AUC=0.69、特異度=82.1%、感度=66.6%)であり、血清中のsRAGEのレベルについては515.811 pg/ml(AUC=0.59、特異度=73.1%、感度39.8%)であることが示された。
血清中のHMGB1のレベルの上昇(≧6.196 ng/ml)は、Grade 3以上の放射線肺臓炎の発
症を有意に増加させた(HMGB1-high 25.0% vs HMGB1-low 3.5%)。
【0130】
また、図3から、血清中のsRAGEのレベルの低下(≦515.811 pg/ml)は、血清中のHMGB
1のレベルが高値の患者においてのみ、Grade 3以上の放射線肺臓炎の発症を有意に増加させることがわかった[sRAGE-high/HMGB1-low 1/41 (2.4%), sRAGE-low/HMGB1-low 1/16 (6.3%), sRAGE-high/HMGB1-high 1/10 (10.0%), and sRAGE-low/HMGB1-high 3/6 (50.0%),
p=0.020]。
【0131】
<実施例3>間質性肺炎を合併した肺癌患者における前記肺癌に対する細胞障害性抗癌剤療法を用いた加療後の肺障害の発症リスクの予測
(1) 患者背景と研究デザイン
本研究では、2003年10月から2018年12月までの期間に広島大学病院で診断され、治療を受けた初回治療前の血清サンプルを有する進行肺癌患者743例のうち、interstitial lung
disease (ILD)を有した144例から根治的放射線照射やドライバー遺伝子陽性例などを除
き、細胞障害性抗癌剤で治療を受けた83例のILD合併進行肺癌を対象とした。また、ILD合併肺癌と年齢、性別、喫煙歴、パフォーマンスステータス、病期、および組織型などの背景因子を調整した非ILD合併肺癌83例も対象とした。さらに健常者83人も対象とした。
進行肺癌は、TNM分類を使用して、切除不能なステージIII/ステージIV/術後再発と定義した。この研究は広島大学病院の倫理委員会(M326)によって承認され、参加者全員から書面によるインフォームドコンセントが得られた。
なお、治療に用いた細胞障害性抗がん剤は主治医が選択し、プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)、代謝拮抗剤(ペメトレキセド、ゲムシタビン、「テガフール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムの混合剤」)、タキサン系抗癌剤(パクリタキセル、ドセタキセル、ナブパクリタキセル)、アンスラサイクリン系抗癌剤(アムルビシン)、トポイソメラーゼ阻害薬(エトポシド、イリノテカン、ノギテカン)、ビンアルカロイド系抗癌剤(ビノレルビン)が含まれていた。
【0132】
(2) ILDおよび細胞障害性抗癌剤に起因する薬剤性肺障害の診断基準
ILDは、治療開始前1か月以内に実施されたコンピューター断層撮影(CT)で両側性の網状影およびconsolidationやGGOを確認することで診断された。
Usual interstitial pneumonia (UIP)パターンは、ATS/ERS/JRS/ALATによるidiopathic
pulmonary fibrosis (IPF)の診断ガイドラインで示されたUIPとprobable UIPのCT所見として定義した。
間質性肺炎の形態学的分類は、患者の臨床経過の詳細を知らされていない2人の呼吸器
内科医によって独立して分類された。両者の一致率は84.3%(70/83)であった。
結果が一致しない13例においては、3人目の経験豊富な呼吸器内科医がCT画像を追加で
評価し、最終決定は3者の多数決によって行われた。
細胞障害性抗癌剤に起因する薬剤性肺障害は、IPFの診断基準を下記の4項目のように化学療法の実践的な側面に合うように修正した基準を使用して診断された。具体的には、前記(5)乃至(8)の4項目すべてに該当する場合に細胞障害性抗癌剤に起因する薬剤性肺障害
を発症したと判断した。
【0133】
(3) 血清中のHMGB1のレベル及びsRAGEのレベルの測定と腫瘍量の測定
細胞障害性抗癌剤投与前に血清サンプルを採取し、当院にて-80℃で保存した。
血清中のHMGB1のレベルおよびsRAGEのレベルは、市販のELISAキット(HMGB1 ELISA Kit
II [Shino-Test Corporation、Tokyo]、およびHuman RAGE Quantikine ELISA Kit [R&D
Systems、Minneapolis、MN、USA])を使用して測定した。
腫瘍量は、RECISTで定義された計測基準を使用して、測定可能な標的病変の直径(非リンパ節病変の長軸とリンパ節病変の短軸)の合計として定量化した。
ベースラインCTで測定可能な標的病変(非リンパ節病変の場合は長軸が10 mm以上、リ
ンパ節病変の場合は短軸が15 mm以上)を選択し、臓器あたり最大2病変、合計で最大5病
変を計測対象とした。
【0134】
(4) 基準値の設定
計測値は、中央値(四分位範囲)を表示した。グループ間の差異は、ピアソンのカイ2
乗検定とクラスカル・ウォリス検定を使用して評価した。多重比較のクラスカル・ウォリス検定に有意差があった場合は、ボンフェローニ補正を使用したマン・ホイットニーU検
定を個別の比較に対して実施した。
ROCカーブ解析を実施して、細胞障害性抗癌剤を開始してから1年以内の薬剤性肺障害の発症を予測するための血清中のHMGB1のレベル、腫瘍量、および血清中のsRAGEのレベルの最適なカットオフ値を決定した。
カプランマイヤー分析とログランク検定を使用して、血清中のHMGB1のレベルと治療開
始1年以内の薬剤性肺障害の発症までの期間との関連について解析した。また、RAGEの可
溶性アイソフォームでHMGB1に対してデコイ受容体として働き、抗炎症作用を持つ、血清
中のsRAGEのレベルの上昇は、IPF患者において急性増悪の発症を減少させることが報告されており、血清中のsRAGEのレベルに関しても合わせて解析した。本解析では癌の進行に
よる死亡は打ち切りイベントと見なした。
さらに、コックス比例ハザード分析を使用して、薬剤性肺障害発症における予測因子を特定した。P <0.05を、統計学的に有意性を示すと見なした。すべてのデータ分析は、JMPバージョン14.1.0 (SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を使用して実施した。
【0135】
(5) 結果
結果を図4に示す。ILD合併肺癌患者83例中、25例が1年以内の細胞障害性抗癌剤に起因する薬剤性肺障害を発症していた。ROCカーブ解析により、細胞障害性抗癌剤に起因する
肺障害の発症を予測するための最適なカットオフ値は、血清中のHMGB1のレベルが5.04 ng/mL(AUC = 0.68、特異度= 55.2%、感度= 80.0%)であり、血清中のsRAGEのレベルが606.9 pg/mL(AUC = 0.66、特異度= 76.0%、感度= 76.0%)であることが示された。血清
中のHMGB1のレベルの上昇(≧5.04 ng/mL)は、細胞障害性抗癌剤に起因する薬剤性肺障
害の発症を有意に増加させた(log rank p=0.007)。
更なる結果を図5図6に示す。血清中のsRAGEのレベルの上昇(>606.9 pg/mL)は、血清中のHMGB1のレベルが高値の患者においてのみ、細胞障害性抗癌剤に起因する薬剤性
肺障害の発症を有意に減少させた(log rank p=0.007)。
【0136】
<実施例4>間質性肺炎を合併した肺癌患者における前記肺癌に対する手術後の肺障害の発症リスクの予測
(1) 患者背景と研究デザイン
2011年1月から2018年8月までの期間に広島大学病院で診断された間質性肺炎(interstitial lung disease: ILD)合併肺癌患者のうち、手術を受け、術前の血清サンプルが保存されていた患者を対象とした。術式は低肺機能によって肺葉切除が困難な患者、腫瘍径が20mm以下の患者では縮小手術を選択した。縮小手術のうち、部分切除か区域切除かの選択は腫瘍が肺の末梢側か中枢側にあるかを基準に選択した。肺癌の病期がTNM分類第8版にしたがって決定した。
この研究は広島大学病院の倫理委員会によって承認され、血清保存については参加者全員から書面によるインフォームドコンセントが得られた(Gen-38)。また患者情報を遡及的に使用することに関してはオプトアウトで承諾を得た(E-1707)。
【0137】
(2) ILDおよび手術に起因する肺障害の診断基準
ILDは、胸部のコンピューター断層撮影(CT)で両側性の網状影および浸潤影やすりガ
ラス陰影を確認することで診断された。
間質性肺炎の画像パターンは、ATS/ERS/JRS/ALATが作成したidiopathic pulmonary fibrosis (IPF)の診断ガイドラインをもとに、usual interstitial pneumonia (UIP) 、probable UIP、indeterminate UIP、alternative diagnosisの4つに分類した。
術後の肺障害はIPF急性増悪の診断基準をもとに、前記(13)乃至(16)の4項目すべてに該
当する場合に肺障害(AE-ILD)を発症したと判断した。
1. 急性の呼吸困難の悪化または発症
2. CTにおける新規の両側性すりガラス影・浸潤影の出現
3. 明らかな心不全、肺癌の浸潤、または肺感染症の兆候がないこと(前記「肺感染症の
兆候がない」とは、抗生物質治療で改善が見られない、喀痰・血液などの培養検査が陰性であることと定義した。)
4. 手術から1ヶ月以内の発症
【0138】
(3) 基準値の設定
細胞障害性抗癌剤投与前に血清サンプルを採取し、当院にて-80℃で保存した。
血清中のHMGB1のレベルおよび血清中のsRAGEのレベルは、市販のELISAキット(HMGB1 ELISA Kit II [Shino-Test Corporation、Tokyo]、およびHuman RAGE Quantikine ELISA Kit [R&D Systems、Minneapolis、MN、USA])を使用して測定した。
【0139】
(4) 基準値の設定
ROCカーブ解析を実施して、手術後30日以内の肺障害の発症を予測するための、血清中
のHMGB1のレベルおよび血清中のsRAGEのレベルの最適なカットオフ値を決定した。グループ間の差異は、ピアソンのカイ2乗検定を使用して評価した。P <0.05を、統計学的に有意と見なした。 すべてのデータ分析は、JMPバージョン14.1.0(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を使用して実施した。
【0140】
(5) 結果
結果を図7に示す。152例中17例で術後30日以内に肺障害を発症していた。ROCカーブ解析で30日以内の肺障害を検出するためのカットオフ値を求めたところ、血清中のHMGB1の
レベルは3.82 ng/mL(area under the curve [AUC] 0.661, specificity 51.9%, and sensitivity 76.5%)であり、血清中のsRAGEのレベルは547.4 pg/mL(AUC of 0.63; specificity, 79.3%; and sensitivity, 47.1%)であった。血清中のHMGB1のレベルが3.82 ng/mL以上の患者78人のうち13人が肺障害を発症しており、一方で血清中のHMGB1のレベルが3.82 ng/mL未満の患者74人のうち4人が肺障害を発症していた (16.7% 対 5.4%, p=0.028)
【0141】
更なる結果を図8に示す。血清中のsRAGEのレベルを組み合わせて4群に分けたところ、血清中のHMGB1のレベルが高く、かつ血清中のsRAGEのレベルが低い患者では25人中7人(28%)と最も高い肺障害の発症率であった[sRAGE-high/HMGB1-low 3/63 (4.8%), sRAGE-low/HMGB1-low 1/11 (9.1%), sRAGE-high/HMGB1-high 6/53 (11.3%), and sRAGE-low/HMGB1-high 7/25 (28.0%), p=0.002]。
【0142】
<実施例5>肺癌患者における前記肺癌に対する免疫チェックポイント阻害剤療法を用いた加療の有効性の予測
(1) 患者背景と研究デザイン
2015年12月から2020年10月までに広島大学病院または川崎医科大学病院で、抗PD-1/PD-L1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ)による単剤治療を受けた非小細胞肺癌患者のうち、治療前に血液検体を保存していた139例を対象とし後方視的な検討
を行った。この研究は、各々の倫理委員会による審査を受け、患者からは事前に書面で同意を得て行われた。
【0143】
(2) 抗腫瘍効果の評価
抗PD-1/ PD-L1抗体の有効性はRECIST criteriaを用いて評価した。
【0144】
(RECIST criteria)
奏効率(Response Rate, RR):CR+PRの割合
CR(complete response; 完全奏効):すべての標的病変の消失
PR(partial response; 部分奏効):ベースラインの長径和と比較して標的病変の最長径の和が30%以上減少
PD(progressive disease; 進行):治療開始以降に記録された最小の最長径の和と比較
して標的病変の最長径の和が20%以上増加
SD(stable disease; 安定):PRとするには腫瘍の縮小が不十分で、かつPDとするには治療開始以降の最小の最長径和に比して腫瘍の増大が不十分
【0145】
(3) 血清中のHMGB1のレベルの測定
広島大学病院および川崎医科大学病院で治療前に患者から血清を採取し、-80℃で保存
した。その保存血清を市販のELISAキット(HMGB1 ELISA Kit II [Shino-Test Corporation、Tokyo])を用いて血清中のHMGB1のレベルを測定した。
【0146】
(4) 基準値の設定
群間比較は、マン・ホイットニーのU検定やピアソンのカイ二乗検定を用いた。血清中
のHMGB1のレベルの最適カットオフ値(基準値)はROCカーブ解析を用いて評価した。無増悪生存期間(progression free survival, PFS)はカプランマイヤー曲線ならびにログランク解析を用いて評価した。すべのP値は、0.05未満を有意とした。これらのデータはJMP
version 15.0.0を用いて解析を行った。
【0147】
(5) 結果
(患者背景)
抗PD-1/PD-L1抗体投与後のフォローアップ中央値は、8.1か月(3.1-22.9か月)であっ
た。川崎医科大学コホートと比較して広島コホートでは、非扁平上皮癌、PD-L1 TPS≧50%、治療前から間質性肺疾患が存在している患者が多かった。広島大学コホートでは抗PD-1/PD-L1抗体を一次治療として受けた患者が多く、ペムブロリズマブの使用頻度が多かったが、二次治療として抗PD-1/PD-L1抗体による治療を受けた患者は川崎医科大学コホートより少なかった。
【0148】
(血清中のHMGB1のレベルとPD-L1 TPSに基づく抗PD-1/PD-L1抗体の効果と早期発症CIPの
層別化)
結果を図9に示した。奏効した患者(PRおよびCR)では、奏効しなかった患者に比べて、血清中のHMGB1のレベルが高い傾向にあった。
免疫チェックポイント阻害剤は副作用が発生した症例でその有効性が高いことが報告されており、All gradeのCIPを予測するためのカットオフ値(基準値)として算出した血清中のHMGB1のレベルである11.24 ng/mLと、RRの関連性を調べた。
図10に示す通り、すべての患者において、血清中のHMGB1のレベルが高い患者ほどRR
が高い傾向にあった(23% vs 39%, P=0.09)。サブグループ解析の結果、図12に示す通り、PD-L1 TPSが50%以上の患者では、血清中のHMGB1のレベルが高いことはRRの上昇と有意に関連していたが(33.3% vs 70.0%, P=0.037)、図14に示す通り、PD-L1 TPSが50%未満または不明の患者では、血清中のHMGB1のレベルとRRの間に関連を認めなかった
(18.7% vs 22.2%, P=0.732)。
一方、PD-L1 TPSが50%以上の患者と、PD-L1 TPSが50%未満または不明の患者の両方において、血清中のHMGB1のレベルが高いこととCIP発症率が高いこととの間に有意な関連が認められた(PD-L1 TPS 50%以上2.7% vs 44.4%, P<0.001; PD-L1 TPSが50%未満または不明, 5.6% vs 30.0%, P=0.028)。
【0149】
また、カプランマイヤー曲線で検討した。すべての患者については図11に、PD-L1 TPSが50%以上の患者については図13に、PD-L1 TPSが50%未満または不明の患者について
図15に示した。PD-L1 50%以上の症例では、血清中のHMGB1のレベルが11.24 ng/mL以
上である場合は、肺障害の発症率を上昇する一方で、RRも上昇させており、無増悪生存期間(progression free survival; PFS)が長かった。しかし、PD-L1 50%未満もしくは不
明の症例では、血清中のHMGB1のレベルが11.24 ng/mL以上である場合は、肺障害の発症率だけ上昇させ、RRに影響しないため、PFSは、血清中のHMGB1のレベルが低値だった群よりも短縮していた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15