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特開2023-20321貼り合わせ基板、圧電アクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置
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  • 特開-貼り合わせ基板、圧電アクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置 図1
  • 特開-貼り合わせ基板、圧電アクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020321
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】貼り合わせ基板、圧電アクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20230202BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B41J2/14 301
B41J2/14 607
B41J2/14 603
B41J2/14 605
B41J2/16 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125618
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌央
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF93
2C057AG12
2C057AG44
2C057AN01
2C057AP25
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】第一基板と第二基板との接合確認を、赤外線透過顕微鏡で容易に確認することができる貼り合わせ基板、貼り合わせ基板、圧電アクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置を提供する。
【解決手段】第一基板たるアクチュエータ基板200と、アクチュエータ基板200に接合される第二基板たる保持基板100とを備えた貼り合わせ基板において、保持基板100は、アクチュエータ基板200との接合面と反対側の面から凹ませた凹部たる共通液室102を有している。そして、共通液室102の底面102aの最大高さと最小高さとの差を、10μm未満とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板と、前記第一基板に接合される第二基板とを備えた貼り合わせ基板において、
前記第二基板は、前記第一基板との接合面と反対側の面から凹ませた凹部を有し、前記凹部の底面の最大高さと最小高さとの差が、10μm未満であることを特徴とする貼り合わせ基板。
【請求項2】
請求項1に記載の貼り合わせ基板において、
前記第一基板は、貫通孔を有し、
前記第二基板の前記凹部の底面に前記貫通孔に連通する連通孔を有することを特徴とする貼り合わせ基板。
【請求項3】
請求項2に記載の貼り合わせ基板において、
少なくとも前記底面の前記連通孔の周りの高さの差を10μm未満としたことを特徴とする貼り合わせ基板。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の貼り合わせ基板において、
前記第二基板は、赤外光を透過することを特徴とする貼り合わせ基板。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の貼り合わせ基板から製造されることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項6】
液滴を吐出する複数のノズルからなるノズル列が形成されたノズル基板と、請求項5に記載の圧電アクチュエータとを備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項6に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記第一基板は、液滴を吐出する複数のノズルからなるノズル列が形成されたノズル基板に接合され、各ノズルにそれぞれ連通しノズル列方向に沿って形成された、液体を収容する複数の個別液室と、前記個別液室内を昇圧する圧力発生手段とを有し、
前記第二基板の前記凹部が、各個別液室に供給する液体を収容する共通液室であり、前記第一基板の貫通孔と前記第二基板の連通孔とで、前記共通液室の液体を前記個別液室へ液体を供給する供給流路を構成したことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項6または7に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項9】
請求項6または7に記載の液体吐出ヘッド、または、請求項8に記載の液体吐出ユニットを備えたことを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼り合わせ基板、圧電アクチュエータ、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、第一基板と、第一基板に接合される第二基板とを備えた貼り合わせ基板が知られている。
【0003】
特許文献1には、上記貼り合わせ基板として、個別流路部材と振動板部材と圧電素子とを備えた第一基板に接合される第二基板としての共通流路部材を備えるものが記載されている。共通流路部材には、第一基板との接合面とは反対側の面から凹ませた凹部としての供給路支流が設けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、第一基板と第二基板との接合確認を、赤外線透過顕微鏡で容易に確認できない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、第一基板と、前記第一基板に接合される第二基板とを備えた貼り合わせ基板において、前記第二基板は、前記第一基板との接合面と反対側の面から凹ませた凹部を有し、前記凹部の底面の最大高さと最小高さとの差が、10μm未満であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、第一基板と第二基板との接合確認を、赤外線透過顕微鏡で容易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態の液体吐出ヘッドの概略断面図。
図2】従来の貼り合わせ基板の保持基板の概略断面図。
図3】従来の貼り合わせ基板を赤外線透過顕微鏡で撮像した撮像画像の概略図。
図4】本実施形態の保持基板の概略図。
図5図4の一点鎖線Bの位置の概略断面図。
図6】液体を吐出する装置の一例を示す要部平面説明図。
図7】液体吐出ユニットの一例を示す要部側面説明図。
図8】液体吐出ユニットの他の例を示す要部平面説明図。
図9】液体吐出ユニットの更に他の例を示す正面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、液体を吐出する装置である画像形成装置としてのインクジェット記録装置の液体吐出ヘッドにおける圧電アクチュエータを製造するための貼り合わせ基板に適用した一実施形態について説明する。
【0009】
まず、液体吐出ヘッドの構成について説明する。
図1は、本実施形態の液体吐出ヘッドの概略断面図である。
本実施形態の液体吐出ヘッドは、主に、第一基板としてアクチュエータ基板200と、第二基板として保持基板100とで構成される圧電アクチュエータ300と、ノズル基板400とから構成されている。
【0010】
アクチュエータ基板200は、振動板202と、圧力発生手段としての圧電素子201と、隔壁部203とを備えている。圧電素子201は、振動板202の素子取付面(図中上面)上に設けられている。圧電素子201は、下部電極である共通電極層201aと上部電極である個別電極層201bと、共通電極層201aと個別電極層201bとの間に配置された圧電体層201cと、を備えている。なお、下部電極を個別電極層201bとし、上部電極を共通電極層201aとしてもよい。
【0011】
共通電極層201aは、振動板202上に成膜される。共通電極層201aは、金属膜単層もしくは金属膜と酸化物膜とからなる複数層であることが好ましく、いずれの場合でも、振動板202と金属膜との間に密着層を入れて剥がれ等を抑制することが好ましい。
【0012】
共通電極層201a上には、圧電体層201cと、層間絶縁膜210とが成膜される。層間絶縁膜210は、圧電体層201c成膜後に成膜される。層間絶縁膜210は、この層間絶縁膜の上に成膜される配線層208と共通電極層201aとの間を絶縁するものである。
【0013】
層間絶縁膜210の上に成膜される配線層208は、圧電体層201c上の個別電極層201bと駆動ICとを接続するためのものである。この配線層208上には、配線層108の保護層として機能するパッシベーション膜212が成膜されている。なお、符号209は、保持基板100とアクチュエータ基板200とを接合する接着層209である。
【0014】
隔壁部203は、振動板202の素子取付面とは反対側の面(図中下面)に設けられている。振動板202と隔壁部203とノズル基板400によって囲まれる空間が個別液室204となる。なお、アクチュエータ基板200は、保持基板100とともに供給流路たる流体抵抗部11を形成する貫通孔206を有している。
【0015】
保持基板100は、共通液室102と、アクチュエータ基板200に接着されることにより、振動板202が撓んで変位できる空間を形成する空隙部103とを有している。また、共通液室102の底面102aは、貫通孔206に連通する連通孔106が形成されている。アクチュエータ基板200の貫通孔206と保持基板100の連通孔106とで流体抵抗部11が形成されている。保持基板100は、シリコンエッチング等により形成できる。
保持基板100は、後述するように、赤外線透過顕微鏡によりアクチュエータ基板200と保持基板100との接合確認が行えるように、赤外線を透過性の材料で構成されている。
【0016】
流体抵抗部11は、円筒型(丸穴形状)をしており、流体抵抗部11の直径は、30μm以上、100μm以下が好ましい。なお、流体抵抗部11の直径は、上記範囲に限らず、液体吐出ヘッドのレイアウト、アクチュエータ基板等のウェハの板厚などにより適宜決めればよい。
また、共通液室102のアクチュエータ基板200との接合面と反対側の面から、底面102aまでの距離(共通液室の深さ)は、100μm以上、300μm以下が好ましい。なお、共通液室102の深さも、上記範囲に限らず、液体吐出ヘッドのレイアウト、アクチュエータ基板等のウェハの板厚などにより適宜決めればよい。
【0017】
ノズル基板400は、個々の個別液室204に対応した位置にノズル孔400aが形成されている。ノズル基板400は、例えばSUSからなる板に対して、パンチ加工、エッチング、シリコンエッチング、ニッケル電気鋳造、樹脂レーザー加工などを施すことにより形成されたものを用いることができる。
【0018】
本実施形態の液体吐出ヘッド10は、各個別液室204内にインクを満たした状態で、制御部の制御の下、駆動ICから駆動電圧信号を各個別電極層201bに印加する。この駆動電圧信号としては、発振回路により生成したパルス電圧を用いることができる。このようなパルス電圧を印加することにより、圧電体層201cは、圧電効果により圧電体層201cそのものが振動板202と平行方向に縮む。これにより、振動板202が個別液室204側へ凸になるように撓む結果、個別液室204内の圧力が急激に上昇し、個別液室204に連通するノズル孔400aからインクが吐出される。
【0019】
パルス電圧が印加された後は、縮んだ圧電体層201cが元に戻り、これに伴って撓んだ振動板202も元の位置に戻る。このため、個別液室204内が共通液室102内に比べて負圧となり、インクカートリッジからインク供給口を介して供給されているインクが共通液室102、流体抵抗部11を介して個別液室204へ供給される。これを繰り返すことで、インクの液滴を連続的に吐出でき、液体吐出ヘッドに対向して配置される記録材に画像が形成される。
【0020】
従来は、共通液室102を、保持基板100とアクチュエータ基板200とノズル基板400とで構成し、アクチュエータ基板200の隔壁部203に流路抵抗部を設けていた。より具体的には、ノズル基板400の一部が、共通液室の底面となり、隔壁部203の個別液室204と共通液室102との間に流路抵抗部を設ける構成である。この従来の構成においては、個別液室204は、振動板202が凹んだ際に所望の圧力が得られるようにする必要があるため、個別液室の容積は、容易に変更できない。そのため、液体吐出ヘッドを小型化したとき、流路抵抗部として所望の流路抵抗を得るための流路長を容易に確保できない。
【0021】
一方、本実施形態の液体吐出ヘッド10は、保持基板100に流体抵抗部11の一部を構成する連通孔106を設けている。連通孔106の長さにより、共通液室102の大きさ(インク容量)が、多少が増減しても、吐出性能に影響を及ぼすことがない。よって、流路抵抗部として所望の流路抵抗を得るための流路長を容易に確保することができる。
【0022】
図2は、アクチュエータ基板200に保持基板100を接合して構成される従来の貼り合わせ基板の概略断面図である。なお、この図2は、図1のA-A断面である。なお、図2では、従来の構成について、理解しやすいように、底面102aの凹形状を強調している。
従来の貼り合わせ基板の保持基板100の共通液室102は、シリコンエッチングにより形成される。シリコンエッチングでの加工条件によっては、図2に示すように、共通液室102の底面102aの中央部分が数十μm程度凹んだ凹形状となることがあった。なお、特許文献1の図14では、共通液室としての供給路支流の底面が平面状に見えるが、底面を拡大すると、供給路支流の底面が数十μm程度凹んだ凹形状となっている場合がある。
【0023】
保持基板100をアクチュエータ基板200に接着剤により接合した後、保持基板100とアクチュエータ基板200との接合箇所からインク漏れが起きないことを保証する必要がある。具体的には、図2に示す破線で囲った接合確認領域Sについて、接合確認を行いインク漏れが起きないことを保証する必要がある。この接合確認領域Sは、互いに距離が近い2つの流路抵抗部間である。
【0024】
流体抵抗部11の周囲の保持基板100とアクチュエータ基板200との接合箇所は視認できないため、赤外線透過顕微鏡500を用いて接合確認を行う。上述したように、保持基板100は、赤外光を透過する材料で構成されている。そのため、赤外線透過顕微鏡500を用いて保持基板100の共通液室102の底面102a越しに、保持基板100とアクチュエータ基板200との接合箇所を撮像する。そして、赤外線透過顕微鏡500が撮像した画像に基づいて、接合確認領域Sに気泡(ボイド)があるか否かを確認し、気泡が確認された場合は、接合不良と判断する。
【0025】
図3は、図2に示す従来の貼り合わせ基板を赤外線透過顕微鏡500で撮像した撮像画像の概略図である。
共通液室102の底面の凹形状の最大高さと最小高さの差が大きいと、図3に示すように、赤外線透過顕微鏡500が撮像した画像の共通液室102の側壁102b近傍付近に不鮮明な部分Kが生じる。このような不鮮明な部分Kが生じることで、接合確認領域Sについて、気泡の有無の確認できない場合がある。なお、図3の図中左側の2つの連通孔106は、ノズル板に形成された2つのノズル列のうち、一方のノズル列の各ノズルに対応する個別液室に連通している。一方、図3の図中右側の2つの連通孔106は、ノズル板に形成された2つのノズル列のうち、他方のノズル列の各ノズルに対応する個別液室に連通している。
【0026】
これは、共通液室102の底面102aの高さ差の差が大きいと、高さが高い底面102aの共通液室102の側壁近傍の傾斜がきつくなる。このような底面の傾斜がきつい共通液室102の側壁近傍では、接合箇所で反射した赤外光が、共通液室102の底面を透過する際に大きく屈折する。その結果、赤外線透過顕微鏡の撮像素子に向かう方向とは異なる方向に赤外光が向かい、撮像素子に入射する赤外光が減少する。これにより、図3に示すように、外線透過顕微鏡の画像の底面102aの高さが高い共通液室102の側壁102b近傍付近が不鮮明となるのである。
【0027】
そこで、本実施形態では、共通液室の底面の最大高さと最小高さのとの差を、10μm未満、より好ましくは、6μm以下とし、赤外線透過顕微鏡が撮像した画像の接合確認領域Sに不鮮明な部分が生じないようにした。
【0028】
図4は、本実施形態の保持基板100の概略図であり、図5は、図4の一点鎖線Bの位置の概略断面図である。
図4に示すように、本実施形態の液体吐出ヘッドは、保持基板100の接合面とは反対側の面から底面までの最大距離Aと、接合面とは反対側の面から底面までの最小距離Bとの差|A-B|を10μm未満としている(|A-B|<10μm)。この例では、底面102aの高さとして、保持基板100の接合面とは反対側の面を基準としているが、保持基板のアクチュエータ基板との接合面を基準とした高さでもよい。
【0029】
このように、底面102aの高さの差を10μm未満とすることで、図5に示す接合確認領域Sにおける底面102aの傾斜をほぼなくすことができる。これにより、接合箇所で反射した赤外光は、ほとんど屈折せずに、底面102aを通過する。これにより、接合箇所で反射した赤外光を良好に赤外線透過顕微鏡の撮像素子で受光することができ、赤外線透過顕微鏡500が撮像した画像に不鮮明な部分が生じるのを抑制できる。これにより、赤外線透過顕微鏡500が撮像した画像から接合確認領域Sについて、気泡(ボイド)の有無について容易に調べることができ、接合確認を容易に行うことができる。
【0030】
共通液室102の底面102a付近までエッチングしたら、エッチング条件を変更することで、共通液室102の底面102aの高さの差を10μm未満にすることができる。
また、本実施形態では、底面102a全体を、ほぼ平面としているが、少なくとも、底面102aの流体抵抗部11(連通孔106の周囲)がほぼ平面状(高さの差:10μm未満)であればよい。かかる構成では、少なくとも赤外線透過顕微鏡500の撮像画像の接合確認領域Sは、鮮明にでき、容易に気泡の有無について調べることができ、容易に接合確認を行うことができる。なお、加工の手間などを鑑みれば、底面全体をほぼ平面(高さの差:10μm未満)にするのが好ましい。
【0031】
下記表1は、底面102aの高さの差が互いに異なる3つの貼り合わせ基板(アクチュエータ基板200と保持基板100とを接合したもの)について、接合確認領域Sにおける気泡の確認の容易性について評価した結果を示すものである。なお、流体抵抗部11は、直径70μmの丸孔形状である。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すように、赤外線透過顕微鏡500の倍率が10倍のときは、倍率が低すぎて接合確認領域Sの気泡の有無についての判断を行うことができなかった。一方、赤外線透過顕微鏡500の倍率が20倍のときは、底面102aの高さの差が1μmの貼り合わせ基板、底面102aの高さの差が6μmの貼り合わせ基板については、赤外線透過顕微鏡500が撮像した画像から接合確認領域Sの気泡の有無について容易に確認を行うことができた。そのため、接合確認評価判定は、「〇」評価となった。一方、底面102aの高さの差が10μmの貼り合わせ基板については、赤外線透過顕微鏡500が撮像した画像の接合確認領域S付近が不鮮明となり、接合確認領域Sの気泡の有無の確認を容易に行うことができなかった。そのため、接合確認評価判定は、「×」評価となった。
以上のことから、底面102aの高さの差は、少なくとも10μm未満にする必要があり、好ましくは、6μm以下にする必要があることが確認された。
【0034】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について図6及び図7を参照して説明する。図6は同装置の要部平面説明図、図7は同装置の要部側面説明図である。
【0035】
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0036】
このキャリッジ403は、本発明に係る液体吐出ヘッド404及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド404は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド404は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
【0037】
液体吐出ヘッド404の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド404に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
【0038】
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
【0039】
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
【0040】
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド404に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
【0041】
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0042】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド404の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
【0043】
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド404のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
【0044】
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0045】
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
【0046】
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド404を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0047】
このように、この装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
【0048】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について図8を参照して説明する。図8は同ユニットの要部平面説明図である。
【0049】
この液体吐出ユニットは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド404で構成されている。
【0050】
なお、この液体吐出ユニットの例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420、及び供給機構494の少なくともいずれかを更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0051】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について図9を参照して説明する。図9は同ユニットの正面説明図である。
【0052】
この液体吐出ユニットは、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド404と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0053】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド404と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0054】
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0055】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0056】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0057】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0058】
前記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0059】
前記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、壁紙や床材などの建材、衣料用のテキスタイルなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0060】
また、「液体」は、インク、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液なども含まれる。
【0061】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0062】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0063】
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0064】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0065】
例えば、液体吐出ユニットとして、図7で示した液体吐出ユニット440のように、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0066】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0067】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、図8で示したように、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0068】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0069】
また、液体吐出ユニットとして、図9で示したように、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
【0070】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0071】
また、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、前記実施形態で説明したような圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものでもよい。
【0072】
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0073】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
アクチュエータ基板200などの第一基板と、第一基板に接合される保持基板100たる第二基板とを備えた貼り合わせ基板において、第二基板は、第一基板との接合面と反対側の面から凹ませた共通液室102などの凹部を有し、凹部の底面の最大高さと最小高さとの差が10μm未満である。
赤外光透過顕微鏡を用いて、第二基板の凹部ごしから第二基板と第一基板との接合状態の確認を行う際に、凹部の底面が平面でない場合、凹部の底面を透過し、第二板と第一基板との接合部から反射した赤外光の一部が、この底面で屈折するなどして赤外光顕微鏡の撮像素子へ向かわなくなる。その結果、この撮像素子に入射する赤外光の光量が低下し、図3に示すように、赤外線顕微鏡の撮像画像の一部が暗くなった不鮮明部分Kが生じる。これにより、赤外線顕微鏡の撮像画像から第一基板と第二基板との接合部に気泡(ボイド)があるか否かなどの接合状態の確認が困難となる場合があった。
態様1では、第二基板の凹部の底面の高さの差を10μm未満とすることで、接合箇所で反射した赤外光の底面での屈折を抑制でき、多くの赤外光を赤外線透過顕微鏡の撮像素子へ入射させることができる。その結果、赤外線透過顕微鏡の撮像画像に暗い部分が生じるのを抑制することができ、赤外線透過顕微鏡の撮像画像から容易に第一基板と第二基板との接合確認を行うことができる。
【0074】
(態様2)
態様1において、アクチュエータ基板200などの第一基板は、貫通孔206を有し、保持基板100などの第二基板の共通液室102などの凹部の底面102aに貫通孔206に連通する連通孔106を有する。
これによれば、実施形態で説明したように、連通孔106と貫通孔206との接合箇所の接合確認を、凹部の底面102a越しに赤外線透過顕微鏡で撮像した画像から容易に行うことができる。
【0075】
(態様3)
態様2において、少なくとも底面102aの連通孔106の周りの高さの差を10μm以下とした。
これによれば、実施形態で説明したように、少なくとも、凹部の底面102a越しに赤外線透過顕微鏡で撮像した画像の連通孔106と貫通孔206との接合箇所付近が不鮮明になるのを抑制できる。これにより、赤外線透過顕微鏡で撮像した画像から連通孔106と貫通孔206との接合箇所の接合確認を容易に行うことができる。
【0076】
(態様4)
態様1乃至3いずれかにおいて、保持基板100などの第二基板は、赤外光を透過する。
これによれば、実施形態で説明したように、保持基板の凹部の底面102a越しに赤外線透過顕微鏡を用いて、第一基板と第二基板との接合の確認を行うことができる。
【0077】
(態様5)
圧電アクチュエータ300において、態様1乃至4いずれかの貼り合わせ基板から製造される。
これによれば、基板同士が適切に接合された信頼性の高い圧電アクチュエータを得ることができる。
【0078】
(態様6)
液体吐出ヘッド10において、液滴を吐出する複数のノズルからなるノズル列が形成されたノズル基板400と、態様5の圧電アクチュエータ300とを備える。
これによれば、基板同士が適切に接合された信頼性の高い液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0079】
(態様7)
態様6において、アクチュエータ基板200などの第一基板は、液滴を吐出する複数のノズルからなるノズル列が形成されたノズル基板400に接合され、各ノズルにそれぞれ連通しノズル列方向に沿って形成された、液体を収容する複数の個別液室204と、個別液室内を昇圧する圧電素子201などの圧力発生手段とを有し、保持基板100などの第二基板の凹部が、各個別液室204に供給する液体を収容する共通液室102であり、第一基板の貫通孔206と第二基板の連通孔106とで、共通液室102の液体を個別液室204へ液体を供給する流体抵抗部11などの供給流路を構成した。
これによれば、実施形態で説明した連通孔106と貫通孔206との接合箇所から液体の漏れが生じるのを抑制できる。また、所望の流体抵抗が得られる流体抵抗部11などの供給流路の流路長を容易に確保することがきる。
【0080】
(態様8)
液体吐出ユニットにおいて、態様6または7の液体吐出ヘッドを備える。
これによれば、液漏れの発生が抑制され信頼性の高い液体吐出ユニットを得ることができる。
【0081】
(態様9)
液体を吐出する装置において、態様6または7の液体吐出ヘッド、または、態様8の液体吐出ユニットを備える。
これによれば、液漏れの発生が抑制され信頼性の高い液体を吐出する装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0082】
10 :液体吐出ヘッド
11 :流体抵抗部
100 :保持基板
102 :共通液室
102a :底面
102b :側壁
103 :空隙部
106 :連通孔
200 :アクチュエータ基板
201 :圧電素子
201a :共通電極層
201b :個別電極層
201c :圧電体層
202 :振動板
203 :隔壁部
204 :個別液室
206 :貫通孔
208 :配線層
209 :接着層
210 :層間絶縁膜
212 :パッシベーション膜
300 :圧電アクチュエータ
400 :ノズル基板
400a :ノズル孔
404 :液体吐出ヘッド
440 :液体吐出ユニット
441 :ヘッドタンク
442 :カバー
443 :コネクタ
444 :流路部品
450 :液体カートリッジ
451 :カートリッジホルダ
452 :送液ユニット
456 :チューブ
491A :側板
491B :側板
491C :背板
493 :主走査移動機構
494 :供給機構
495 :搬送機構
500 :赤外線透過顕微鏡
K :不鮮明部分
S :接合確認領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開2015-126773号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9