(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020503
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法及び単結晶引上装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20230202BHJP
C30B 15/04 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B15/04
C30B29/06 502C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021125900
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】成松 真吾
(72)【発明者】
【氏名】石川 高志
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF06
4G077CF10
4G077EB03
4G077EG01
4G077EG18
4G077EG19
4G077EG25
4G077EH04
4G077EH05
4G077EJ02
4G077PB02
4G077PB05
4G077PB09
4G077PB11
(57)【要約】
【課題】単結晶の有転位化の発生有無にかかわらず、軸方向に沿った抵抗率を精度良く制御することができ、歩留まりを向上する。
【解決手段】ルツボ3内にシリコン溶融液Mを形成する際、該シリコン溶融液に主ドーパントを添加するステップと、前記主ドーパントが添加されたシリコン溶融液から単結晶Cを育成するステップと、前記単結晶を育成するステップにおいて、連続的または断続的に、前記主ドーパントとは反対の導電型を有する副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップとを備え、前記副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップにおいて、チャンバ内に対し進退可能な押込み棒19によりチップ状ドーパントを前記チャンバ内に搬送するステップと、前記押込み棒によりチャンバ内に搬送されたチップ状ドーパントを漏斗状治具23に落下させ、前記漏斗状治具に設けられた細管を介して前記チップ状ドーパントを前記シリコン溶融液に投入する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内においてヒータの加熱によりルツボ内にシリコン溶融液を形成し、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の製造方法であって、
前記ルツボ内にシリコン溶融液を形成する際、該シリコン溶融液に主ドーパントを添加するステップと、
前記主ドーパントが添加されたシリコン溶融液からシリコン単結晶を育成するステップと、
前記シリコン単結晶を育成するステップにおいて、連続的または断続的に、前記主ドーパントとは反対の導電型を有する副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップとを備え、
前記副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップにおいて、
チャンバ内に対し進退可能な押込み棒により1または複数のチップ状ドーパントを前記チャンバ内に搬送するステップと、
前記押込み棒によりチャンバ内に搬送された1または複数のチップ状ドーパントを漏斗状治具に落下させ、前記漏斗状治具に設けられた細管を介して前記チップ状ドーパントを前記シリコン溶融液に投入することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン単結晶を育成するステップにおいて、前記副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップの後に、シリコン単結晶が有転位化した場合には、
有転位化したシリコン単結晶を再溶融するステップと、
主ドーパントのチップ状ドーパントを、前記押込み棒と前記漏斗状治具とを用いてシリコン溶融液に添加するステップと、
前記シリコン溶融液からシリコン単結晶を再育成するステップと、
前記シリコン単結晶を再育成するステップにおいて、連続的または断続的に、前記主ドーパントとは反対の導電型を有する副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップと、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載されたシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン単結晶を育成するステップの前に、
前記ルツボ内のシリコン溶融液に対し水平磁場を印加するステップを備え、
前記シリコン単結晶を育成するステップの際、前記主ドーパントとは反対の導電型を有する副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップにおいて、
水平磁場におけるドーパント落下位置を、磁場印可方向を0°と定義した場合、45°~135°、及び225°~315°の領域とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
ヒータにより加熱されるチャンバ内に配置されたルツボ内でシリコン溶融液を形成し、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶引上装置において、
前記ルツボの上方において育成するシリコン単結晶を囲むように配置された遮蔽シールドと、
前記遮蔽シールドに取り付けられ、上方に開口する円錐部と該円錐部の下頂部から下方に伸びる細管とからなる漏斗状治具と、
チャンバ内に対し進退可能に設けられ、先端部に載せられた1または複数のチップ状ドーパントを前記漏斗状治具における円錐部の開口に投入する押込み棒と、を備え、
前記漏斗状治具における円錐部の開口に投入されたチップ状ドーパントは、前記漏斗状治具の細管を通って前記シリコン溶融液に落下することを特徴とする単結晶引上装置。
【請求項5】
前記押込み棒の先端部は、スプーン状に形成され、
前記押込み棒は、軸回りに回転可能に設けられていることを特徴とする請求項4に記載された単結晶引上装置。
【請求項6】
前記ルツボ内のシリコン溶融液に対し水平磁場を印加する水平磁場印加手段を備え、
前記漏斗状治具は、水平磁場におけるドーパント落下位置が、磁場印可方向を0°と定義した場合、45°~135°、及び225°~315°の領域となるように配置されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載された単結晶引上装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造方法及び単結晶引上装置に関し、特に軸方向に沿った抵抗率を規格範囲内に収めることのできるシリコン単結晶の製造方法及び単結晶引上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の育成は、チャンバ内に設置した石英ルツボに原料であるポリシリコンを充填し、前記石英ルツボの周囲に設けられたヒータによってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン溶融液とする。その後、シードチャックに取り付けた種結晶(シード)を当該シリコン溶融液に浸漬し、シードチャックおよび石英ルツボを同方向または逆方向に回転させながらシードチャックを引上げることにより行う。
【0003】
ところで、このようなCZ法により製造されたシリコン単結晶の多くは、半導体材料として使用される。育成されるシリコン単結晶の抵抗率は、シリコン溶融液に添加されるドーパントにより調整される。ドーパントは、n型とp型とに分類され、n型結晶を育成する場合のドーパントとしては、P(リン)が多く用いられている。
【0004】
CZ法によるシリコン単結晶の育成において、ドーパントを添加した際、結晶成長方向に抵抗率が変化する現象が見られる。これは、ドーパントの偏析によるものであり、単結晶成長に伴うルツボ内のシリコン溶融液の減少に応じ、徐々に残液中のドーパント濃度が高くなり、それに伴い単結晶の抵抗率も連続的に低下していくためである。リンの偏析係数は、0.35であるが、p型結晶のドーパントとして広く用いられているボロンの偏析係数0.8よりも低く、p型結晶と比べてトップ部からボトム部にかけての抵抗率の低下が顕著である。そのため、製品として使用できる部分が少なくなり、歩留の向上が厳しいという課題がある。
【0005】
このような課題に対し、例えば特許文献1には、主ドーパントと、この主ドーパントとは反対極性で偏析係数のより小さい副ドーパントとを結晶引上前に添加する(すなわち、カウンタードープする)方法が開示されている。この方法を用いることによって、主ドーパントによる抵抗率の低下が副ドーパントによって相殺され、単結晶の軸方向の抵抗率分布を改善することが可能である。
ここで、前記したようにn型単結晶の製造において最も良く用いられるドーパントはリン(P)であり、その偏析係数は0.35程度であるが、反対極性の元素としてデバイスを作製する上で広く用いられているボロン(B)は、その偏析係数が0.8程度と、リン(P)より偏析係数が大きく、上述の技術をそのまま用いることができない。
【0006】
このような課題に対し特許文献2には、単結晶の引き上げ中において、主ドーパントのリン(P)に対してボロン(B)を連続的に添加する方法が開示されている。この方法を用いれば主ドーパントをリン(P)とし、副ドーパントをボロン(B)としたカウンタードープにより軸方向抵抗率分布を改善したn型単結晶を製造することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示された方法にあっては、結晶育成途中に有転位化が発生すると、その時点では、すでに反対極性の副ドーパントが単結晶及び原料融液中に含まれているため、これを再溶融してしまうと、主ドーパントが不足した状態となってしまい、製品を得ることができない。したがって、有転位化した部分までを原料融液から切り離して取り出し、廃棄処分することとなり、歩留まりが大きく低下するという課題があった。
【0008】
特許文献2が有する課題に対し、特許文献3に開示された発明にあっては、チャンバ内に副ドーパント細棒と主ドーパント細棒とを有し、直胴部の育成中では、連続的あるいは断続的に、副ドーパント細棒をシリコン溶融液中に押込み、有転位化した場合には、シリコン単結晶を再溶融し、引き上げ前に、主ドーパント細棒をシリコン融液に押し込んで、主ドーパントを追加する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-307305号公報
【特許文献2】特開平3-247585号公報
【特許文献3】特開2016-60667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に開示された方法によれば、育成中にカウンタードープしたシリコン単結晶が有転位化したとしても、再溶融の際に、主ドーパントの細棒を押し込んで、主ドーパントの不足濃度を補うことができる。
しかしながら、ドーパントの細棒を融液中に押し込む構成は、機構が複雑であり、細棒自体が偏析により長さ方向に濃度が変化するため、主ドーパント、及び副ドーパントの濃度の正確な制御が困難であるという課題があった。
【0011】
また、特許文献3には、前記のようなドーパントの細棒を融液中に押し込む構成を用いる代わりに、粒状のドーパントを融液中に投入するようにしてもよいと記載されている。
しかしながら、粒状のドーパントを融液中に投入する場合の具体的構成については開示されず、単純に粒状のドーパントを融液に投入するとすれば、融液面が波立ち、有転位化する虞があるという課題があった。
【0012】
本願発明者は、シリコン単結晶の引上中において副ドーパントを投入し、軸方向の抵抗率を制御するカウンタードープを行うことを前提に鋭意検討を行い、本発明をするに至った。
本発明の目的は、シリコン単結晶の引上中において副ドーパントを投入し、軸方向の抵抗率を制御するカウンタードープを行うにあたり、比較的簡易な構成で副ドーパントの供給が可能となり、結晶の有転位化による再溶融を行った場合であっても、同構成により主ドーパントを供給し、主ドーパントの濃度不足を行うことのできるシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。即ち、シリコン単結晶の有転位化の発生有無にかかわらず、軸方向に沿った抵抗率を精度良く制御することができ、歩留まりを向上することができるシリコン単結晶の製造方法及び単結晶引上装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法は、チャンバ内においてヒータの加熱によりルツボ内にシリコン溶融液を形成し、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の製造方法であって、前記ルツボ内にシリコン溶融液を形成する際、該シリコン溶融液に主ドーパントを添加するステップと、前記主ドーパントが添加されたシリコン溶融液からシリコン単結晶を育成するステップと、前記シリコン単結晶を育成するステップにおいて、連続的または断続的に、前記主ドーパントとは反対の導電型を有する副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップとを備え、前記副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップにおいて、チャンバ内に対し進退可能な押込み棒により1または複数のチップ状ドーパントを前記チャンバ内に搬送するステップと、前記押込み棒によりチャンバ内に搬送された1または複数のチップ状ドーパントを漏斗状治具に落下させ、前記漏斗状治具に設けられた細管を介して前記チップ状ドーパントを前記シリコン溶融液に投入することに特徴を有する。
【0014】
尚、前記シリコン単結晶を育成するステップにおいて、前記副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップの後に、シリコン単結晶が有転位化した場合には、有転位化したシリコン単結晶を再溶融するステップと、主ドーパントのチップ状ドーパントを、前記押込み棒と前記漏斗状治具とを用いてシリコン溶融液に添加するステップと、前記シリコン溶融液からシリコン単結晶を再育成するステップと、前記シリコン単結晶を再育成するステップにおいて、連続的または断続的に、前記主ドーパントとは反対の導電型を有する副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップと、を更に備えることが望ましい。
また、前記シリコン単結晶を育成するステップの前に、前記ルツボ内のシリコン溶融液に対し水平磁場を印加するステップを備え、前記シリコン単結晶を育成するステップの際、前記主ドーパントとは反対の導電型を有する副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加するステップにおいて、水平磁場におけるドーパント落下位置を、磁場印可方向を0°と定義した場合、45°~135°、及び225°~315°の領域とすることが望ましい。
【0015】
このような方法によれば、主ドーパントを添加したシリコン溶融液からシリコン単結晶を引き上げて育成する際、連続的または断続的に、主ドーパントとは反対の導電型を有するチップ状の副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加することにより、シリコン単結晶の軸方向に沿った抵抗率を規格範囲内に収めることができる。
特に、チップ状ドーパントをシリコン溶融液に添加する際に、チャンバ内に配置された漏斗状治具を介してチップ状ドーパントをピンポイントで液面の正確な位置に落下させるため、融液表面の流れに影響を与えず、ドーパント投入に起因する有転位の発生を抑制することができる。また、漏斗状治具には、押込み棒により搬送されたチップ状ドーパントを投入する構成としたため、チップ状ドーパントは、自由落下により漏斗状治具に供給され、勢いある状態で細管部を通ってシリコン溶融液の液面に落下する。そのため、漏斗状治具の細管部に詰まることなく、シリコン溶融液へのドーパント添加が可能となる。
また、シリコン単結晶の育成中にドーパントを追加する構成として、比較的簡易な構成により実現でき、且つチップ単位で必要な量のドーパントを追加することができるため、正確な抵抗率の制御を可能とすることができる。
【0016】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上装置は、ヒータにより加熱されるチャンバ内に配置されたルツボ内でシリコン溶融液を形成し、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶引上装置において、前記ルツボの上方において育成するシリコン単結晶を囲むように配置された遮蔽シールドと、前記遮蔽シールドに取り付けられ、上方に開口する円錐部と該円錐部の下頂部から下方に伸びる細管とからなる漏斗状治具と、チャンバ内に対し進退可能に設けられ、先端部に載せられた1または複数のチップ状ドーパントを前記漏斗状治具における円錐部の開口に投入する押込み棒と、を備え、前記漏斗状治具における円錐部の開口に投入されたチップ状ドーパントは、前記漏斗状治具の細管を通って前記シリコン溶融液に落下することに特徴を有する。
【0017】
尚、前記押込み棒の先端部は、スプーン状に形成され、前記押込み棒は、軸回りに回転可能に設けられていることが望ましい。
また、前記ルツボ内のシリコン溶融液に対し水平磁場を印加する水平磁場印加手段を備え、前記漏斗状治具は、水平磁場におけるドーパント落下位置が、磁場印可方向を0°と定義した場合、45°~135°、及び225°~315°の領域となるように配置されていることが望ましい。
【0018】
このような構成によれば、主ドーパントを添加したシリコン溶融液からシリコン単結晶を引き上げて育成する際、連続的または断続的に、主ドーパントとは反対の導電型を有するチップ状の副ドーパントを前記シリコン溶融液に添加することにより、シリコン単結晶の軸方向に沿った抵抗率を規格範囲内に収めることができる。
特に、チップ状ドーパントをシリコン溶融液に添加する際に、チャンバ内に配置された漏斗状治具を介してチップ状ドーパントをピンポイントで液面の正確な位置に落下させるため、融液表面の流れに乗って成長中の結晶に付着することによる有転位発生を抑制することができる。また、漏斗状治具には、押込み棒により搬送されたチップ状ドーパントを投入する構成としたため、チップ状ドーパントは、自由落下により漏斗状治具に供給され、勢いある状態で細管部を通ってシリコン溶融液の液面に落下する。そのため、漏斗状治具の細管部に詰まることなく、シリコン溶融液へのドーパント添加が可能となる。
また、シリコン単結晶の育成中にドーパントを追加する構成として、比較的簡易な構成により実現でき、且つチップ単位で必要な量のドーパントを追加することができるため、正確な抵抗率の制御を可能とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シリコン単結晶の引上中において副ドーパントを投入し、軸方向の抵抗率を制御するカウンタードープを行うにあたり、比較的簡易な構成で副ドーパントの供給が可能となり、結晶の有転位化による再溶融を行った場合であっても、同構成により主ドーパントを供給し、主ドーパントの濃度不足を行うことができる。その結果、シリコン単結晶の有転位化の発生有無にかかわらず、軸方向に沿った抵抗率を精度良く制御することができ、歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法が実施される単結晶引上装置の断面図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、
図1の単結晶引上装置を一部拡大して示す断面図である。
【
図3】
図3は、水平磁場の影響による溶融液表面の流れ方向を示す平面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法のフロー図である。
【
図6】
図6は、実施例の実験1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法について図面を用いながら説明する。
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法が実施される単結晶引上装置の断面図である。
この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ10aの上にプルチャンバ10bを重ねて形成された炉体10を備え、この炉体10内に鉛直軸回りに回転可能、且つ昇降可能に設けられたカーボンルツボ(或いは黒鉛ルツボ)2と、前記カーボンルツボ2によって保持された石英ガラスルツボ3(以下、単にルツボ3と称する)とを具備している。このルツボ3は、カーボンルツボ2の回転とともに鉛直軸回りに回転可能となされている。
【0022】
また、カーボンルツボ2の下方には、このカーボンルツボ2を鉛直軸回りに回転させる回転モータなどの回転駆動部14と、カーボンルツボ2を昇降移動させる昇降駆動部15とが設けられている。
尚、回転駆動部14には回転駆動制御部14aが接続され、昇降駆動部15には昇降駆動制御部15aが接続されている。
【0023】
また単結晶引上装置1は、ルツボ3に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)を溶融してシリコン溶融液M(以下、単に溶融液Mと呼ぶ)とする抵抗加熱によるサイドヒータ4と、ワイヤ6を巻き上げ、育成される単結晶Cを引き上げる引き上げ機構9とを備えている。前記引き上げ機構9が有するワイヤ6の先端には、種結晶Pが取り付けられている。
【0024】
尚、サイドヒータ4には供給電力量を制御するヒータ制御部4aが接続され、引き上げ機構9には、その回転駆動の制御を行う回転駆動制御部9aが接続されている。
また、本実施の形態において、この単結晶引上装置1においては、例えば、炉体10の外側に磁場印加用電磁コイル8(水平磁場印加手段)が設置される。この磁場印加用電磁コイル8に所定の電流が印加されると、ルツボ3内のシリコン溶融液Mに対し所定強度(1000~4000Gauss)の水平磁場が印加されるようになっている。磁場印加用電磁コイル8には、その動作制御を行う電磁コイル制御部8aが接続されている。
即ち、本実施形態においては、溶融液M内に横磁場を印加して単結晶を育成するMCZ法(Magnetic field applied CZ法)が実施され、それによりシリコン溶融液Mの対流を制御し、単結晶化の安定を図るようになされる。
【0025】
また、ルツボ3内に形成される溶融液Mの上方には、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド7が配置されている。この輻射シールド7は、上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cに対するサイドヒータ4や溶融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽すると共に、炉内のガス流を整流するものである。
尚、輻射シールド7の下端と溶融液面との間のギャップは、育成する単結晶の所望の特性に応じて所定の距離を一定(例えば50mm)に維持するよう制御される。
【0026】
また、単結晶引上装置1は、シリコン単結晶の径を測定するためのCCDカメラ等の光学式の測定センサ16を備える。メインチャンバ10aの上面部には、観測用の小窓10a1が設けられており、この小窓10a1の外側から固液界面の位置変化を検出するようになされている。尚、測定された単結晶径及び結晶長さから、単結晶重量/初期シリコン原料の重量で表される固化率が求められ、結晶の抵抗率が推定される。
【0027】
具体的に説明すると、ドーパント濃度と抵抗率との関係については、単結晶は、その長さ方向(引上げ時の鉛直方向)にドーパントの濃度分布が生じる。
シリコンの固化率をgとした時のドーパントの濃度分布Csは、次式(1)で表される。
Cs=k×C0×(1-g)k-1 ・・・(1)
(式(1)において、kは平衡偏析係数、C0はシリコン溶融液における初期ドーパント濃度である。尚、p型ドーパントとして最も一般的に使用されるボロン(B)の平衡偏析係数は0.8、n型ドーパントとして最も一般的に使用されるリン(P)の平衡偏析係数は0.35である。)
【0028】
抵抗率を規定範囲とするには、シリコン単結晶の育成においてドーパント濃度と固化率との関係を求めておき、これらの関係からドーパント濃度の調整により、単結晶の抵抗率が所望の範囲となるように調整すればよい。例えば、リンをドーパントとし、単結晶ヘッド部の抵抗率を20~100Ω・cmの範囲で設定した場合、1ロット150kg程度のシリコンにドーパント0.1~3.5g(抵抗率1~5mΩ・cmの高濃度(10 19cm-3台)でリンを含んだシリコンの破片)を投入すればよい。
【0029】
また、単結晶引上装置1は、溶融液Mにチップ状のドーパントを供給するためのドーパント供給治具17を備える。メインチャンバ10aの上面部には、開口10a2が設けられており、この開口10a2にドーパント供給治具17の有する管棒状部18の下端部が連結されている。
管棒状部18内には、先端がスプーン状の押込み棒19が軸方向に進退可能に設けられている。押込み棒19内にはピストンロッド20が挿入されており、エアシリンダ21の駆動によって押込み棒19がピストンロッド20に沿って進退するように構成されている。シリンダ管棒状部18にはゲートバルブ22が設けられており、ゲートバルブ22を開くことにより、押込み棒19がメインチャンバ10a内に前進して侵入できるようになされている。尚、エアシリンダ21には、エアシリンダ駆動部21aが接続されている。
【0030】
前記押込み棒19は、チップ状ドーパントDpをシリコン溶融液Mに供給するためのものである。
図2(a)、(b)に示すように、押込み棒19の先端には、スプーン部19aが設けられている。このスプーン部19aに1~10個のチップ状のドーパントDpを載せることが可能となっている。前記ピストンロッド20及び押込み棒19は、回転駆動部25によって軸回りに回転可能となされており、押込み棒19が軸回りに回転することによりスプーン部19aに載せられたチップ状ドーパントDpが下方に自由落下するように構成されている。
尚、回転駆動部25には回転駆動制御部25aが接続されている。
【0031】
また、
図2(a)、(b)に示すように、ドーパント供給治具17は、輻射シールド7に取り付けられた石英ガラスからなる漏斗状治具23を有する。図示するように漏斗状治具23は、開口した円錐部23aと、円錐部23aの先端(下頂部)から脚状に伸びる細管部23bとを有する。円錐部23aの開口部23a1は、上方に向けて開口するように配置され、前記押込み棒19がメインチャンバ19a内に最も深く挿入された際、スプーン部19aの直下に前記円錐部23aの開口部23a1が位置するようになっている。
【0032】
円錐部23aの開口径は、スプーン部19aから落下した全てのチップ状ドーパントDpを溢すことなく受けることができるように例えば50mm~100mmに形成され、細管部23bの内径は、チップ状ドーパントDpが詰まることなく通過できるように、例えば10mm~15mmに形成されている。また、細管部23bの先端(下端)と融液面との距離d1は、輻射シールド7の上下移動に伴い、融液面の状態に悪影響を及ぼさないように例えば5mm~50mmの間、好ましくは20mm~30mmの間になるよう制御される。
【0033】
また、細管部23bの先端の位置は、少なくとも単結晶Cの外表面から径方向にd2(例えば結晶直径の1/10の距離)以上離れた位置に配置されている。これは、チップ状ドーパントDpの落下位置が結晶に近すぎると(径方向にd2未満の距離であると)、落下後に溶融する前に結晶に付着する可能性があるため、また、溶融したドーパントが十分に拡散しないうちに結晶界面に到達することで、取り込まれる副ドーパント量が局所的に増えるリスクがあるためである。
【0034】
また、
図3に平面図を示すように、本実施の形態のように1000~4000Gaussの水平磁場印加条件においては、磁場印可方向を0°と定義した場合、周方向に45°~135°、及び225°~315°の領域に、前記細管部23bの先端位置が配置されている。
これは以下の理由による。
図3に矢印で示すように、融液表面の流れ方向が変化しており、磁場印可方向(0°方向)に対し、垂直な向きでは、結晶から石英ルツボに向かう、外向きの流れが支配的である。それに対し、磁場印可方向においては、一部内側に向かう流れが存在する。前者においては、落下したドーパントチップは、外向きの流れに乗って溶解しながらドーパントが拡散していくので、追加されたドーパントが固液界面に到達するまでに、十分な時間を生み出すことができる。
【0035】
しかしながら、後者においては、結晶回転方向への流れが支配的でかつ、一部は内側への流れが発生することから、落下したドーパントチップが、溶解する前に結晶に到達するリスクがある。更に、溶解しても、ドーパントが十分に拡散する前に固液界面に到達しやすくなるため、局所的に副ドーパントの取り込みが多くなり、面内の抵抗率分布が一時的に不安定になる。よって、水平磁場におけるドーパント落下位置は、磁場印可方向を0°と定義した場合、45°~135°、及び225°~315°の領域とするのが望ましい。なお、無磁場、及びカスプ磁場条件においては、全周で内側に向かう表面流は無いため、この限りではない。
【0036】
シリンダ管棒状部18において、ゲートバルブ22よりも上方には、前記スプーン部19aにチップ状ドーパントDpを供給するための開閉自在なドーパント供給用開口部18aが設けられている。すなわち、ゲートバルブ22が閉じられた状態で、スプーン部19aが前記ドーパント供給用開口部18aの高さ位置に配置され、ドーパント供給用開口部18aからスプーン部19aにチップ状ドーパントDpが1~10個載せられる。そして、ドーパントの融液への追加供給の際には、ドーパント供給用開口部18aが閉じられ、ゲートバルブ22が開かれて、エアシリンダ21の駆動により押込み棒19が先端側から開口10a2からメインチャンバ10a内に進入するようになっている。このときスプーン部19aには、
図2(a)に示すように、チップ状ドーパントDpが載せられた状態であり、前記円錐部23aの開口部23a1の直上にスプーン部19aが位置すると、回転駆動部25によって押込み棒19が軸回りに回転し、
図2(b)に示すように、スプーン部19aからチップ状ドーパントDpが漏斗状治具23に落下するようになされている。
【0037】
また、本実施の形態において、溶融液Mに投入されるチップ状ドーパントDpは、副ドーパントを含むシリコン単結晶、或いは主ドーパントを含むシリコン単結晶のそれぞれからスライスした厚さ500μm以上1000μm以下のシリコンウェーハをへき開して得られるチップであり、これを添加材として用いる。ドーパント用チップDpとして使用するシリコン単結晶は、抵抗率を測定し、所望のサイズに加工する。抵抗率からドーパント濃度を算出し、チップの重量にて添加されるドーパント量を管理することができる。
【0038】
より具体的には、チップ状ドーパントDpは、融液面への投入時に、融液面直上を通過する不活性ガスによりチャンバ外に排出されないよう、最低限の重量が必要である。そのため、チップ1個当たりの表面積は4mm2以上が望ましい。但し、チップのサイズが大きすぎると、溶融に時間がかかり、育成中の単結晶に付着するリスクが増加することから、25mm2以下が望ましい。同じく、チップの厚さも、重量、および溶解しやすさの観点から、500μm以上1000μm以下が望ましい。
【0039】
また、この単結晶引上装置1は、記憶装置11aと演算制御装置11bとを有するコンピュータ11を備え、回転駆動制御部14a、昇降駆動制御部15a、電磁コイル制御部8a、回転駆動制御部9a、測定センサ16、エアシリンダ駆動部21a、回転駆動制御部25aは、それぞれ演算制御装置11bに接続されている。
【0040】
このように構成された単結晶引上装置1において、例えば、直径200mmの単結晶Cを育成する場合、次のように引き上げが行われる。
即ち、最初にルツボ3に原料ポリシリコン(例えば150kg)とドーパント添加用シリコンチップとを装填し、コンピュータ11の記憶装置11aに記憶されたプログラムに基づき結晶育成工程が開始される。尚、n型シリコン単結晶を製造する場合には、主ドーパントとして、P(リン)を含むシリコンチップを用いる。
【0041】
次いで、炉体10内が所定の雰囲気(主にアルゴンガスなどの不活性ガス)となされる。例えば、炉内圧60~110torr、アルゴンガス流量40~110l/minの炉内雰囲気が形成される。
そして、ルツボ3が所定の回転速度(rpm)で所定方向に回転動作された状態で、ルツボ3内に装填された原料ポリシリコンと主ドーパントとが、サイドヒータ4による加熱によって溶融され、溶融液Mとされる(
図4のステップS1)。
尚、このステップS1においては、原料ポリシリコンを溶融しながら、ドーパント添加用シリコンチップをルツボ3内に投入してもよい。
【0042】
次いで、磁場印加用電磁コイル8に所定の電流が流され、溶融液M内に1000~4000Gaussの範囲内で設定された磁束密度(例えば3000Gauss)で水平磁場が印加開始される(
図4のステップS2)。
また、サイドヒータ4への供給電力や、引き上げ速度、磁場印加強度などをパラメータとして引き上げ条件が調整され、種結晶Pが軸回りに所定の回転速度で回転開始される。回転方向はルツボ3の回転方向とは逆方向になされる。そして、ワイヤ6が降ろされて種結晶Pが溶融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解した後、ネッキングが行われ、ネック部P1が形成される。
【0043】
そして、単結晶引上工程が開始される。すなわち、結晶径が徐々に拡径されて肩部C1が形成され、製品部分となる直胴部C2を形成する工程に移行する(
図4のステップS3)。
単結晶Cの育成が開始されると、コンピュータ11は、測定センサ16の測定結果を用いてシリコン単結晶の固化率を求め、これに基づき引き上げた単結晶の抵抗率を推定する(
図4のステップS4)。
ここで、抵抗率が規格範囲下限に近い閾値以下に低下した場合には、主ドーパントとは反対の導電型を有する副ドーパントとして例えばB(ボロン)を融液面に添加する(
図4のステップS8)。すなわち、シリコン単結晶の長さが長くなり固化率が大きくなるに伴って、抵抗率が低下するので、抵抗率が規格を下回ってしまうのを防ぐために、連続的または断続的に固化率に対して副ドーパントのドープ量を適切な量に調整しながら追加することになる。例えば、抵抗規格の上限値を60Ω、下限値を50Ωとしたとき、推定した抵抗値が、例えば、下限値+下限値の1%(この場合、50.5Ω)以下となる度に副ドーパントを追加すればよい。また、抵抗狙い値を、例えば、上限値-上限値の1%(この場合、59.4Ω)とすれば、抵抗値がこの値に近づくようにチップ状ドーパントDpを追加すればよい。
【0044】
このとき、ドーパント供給治具17において、ドーパント供給用開口部18aが開かれ、スプーン部19aにB(ボロン)を含むチップ状ドーパントDpが1~10個載せられる。そして、ドーパント供給用開口部18aが閉じられ、サブポンプ(図示せず)によりシリンダ管棒状部18内のガス置換を行った後、ゲートバルブ22が開かれて、エアシリンダ21の駆動により押込み棒19が先端側から開口10a2からメインチャンバ10a内に進入する。このときスプーン部19aには、チップ状ドーパントDpが載せられた状態であり、漏斗状治具23の円錐部23aの開口部23a1の直上にスプーン部19aが位置すると、回転駆動部25によって押込み棒19が軸回りに回転し、スプーン部19aからチップ状ドーパントDpが漏斗状治具23における円錐部23aの開口部23a1に落下する。この自由落下による加速を持ってチップ状ドーパントDpは漏斗状治具23の細管部23bを通過し、溶融液に添加される。このステップ8は、単結晶Cの推定した抵抗率が規格範囲の下限に近づく度に繰り返す。
【0045】
このようにすることで、単結晶Cの軸方向に沿った抵抗率が規格範囲内に維持される。また、漏斗状治具23を介して溶融液面にチップ状ドーパントDpを供給するため、予め設定した液面上の位置にピンポイントで正確に投入することができる。また、チップ状ドーパントDpをピンポイントで投入することで、融液表面の流れに乗って成長中の結晶に付着することによる有転位発生を抑制することができる。
【0046】
また、単結晶の育成が継続され、有転位することなく所望の長さまで単結晶が引き上げられると単結晶育成が完了する(
図4のステップS6,S7)。即ち、所定の長さまで直胴部C2が形成されると、最終のテール部工程に移行し、このテール部工程において、結晶下端と溶融液Mとの接触面積が徐々に小さくされ、単結晶Cと溶融液Mとが切り離されてシリコン単結晶が製造される。
【0047】
一方、単結晶の育成途中において有転位化すると(
図4のステップS6)、それまで育成した単結晶の固化率が規定の値に達していなければ(
図5のステップS9)、結晶を再溶融する(
図5のステップS10)。
再溶融後、再溶融した単結晶の固化率に基づく量の、主ドーパントであるP(リン)のチップ状ドーパントDpを、ドーパント供給治具17を用いて溶融液面に添加する(
図5のステップS11)。これにより、溶融液M中のリン濃度を十分補うことができる。
その後、
図4のステップS2に戻り、単結晶Cの引き上げを再度行うことになる。
【0048】
以上のように、本実施の形態によれば、主ドーパント(リン)を添加したシリコン溶融液からシリコン単結晶を引き上げて育成する際、連続的または断続的に、主ドーパントとは反対の導電型を有するチップ状の副ドーパント(ボロン)を前記シリコン溶融液に添加することにより、シリコン単結晶Cの軸方向に沿った抵抗率を規格範囲内に収めることができる。
特に、チップ状ドーパントDpをシリコン溶融液Mに添加する際に、チャンバ内に配置された漏斗状治具を介してチップ状ドーパントをピンポイントで液面の正確な位置に落下させるため、融液表面の流れに乗って成長中の結晶に付着することによる有転位発生を抑制することができる。また、漏斗状治具23には、押込み棒19の先端のスプーン部19aに載せた1または複数のチップ状ドーパントDpを投入する構成としたため、チップ状ドーパントDpは、自由落下により漏斗状治具23に供給され、勢いある状態で細管部23bを通ってシリコン溶融液Mの液面M1に落下する。そのため、漏斗状治具23の細管部23bに詰まることなく、シリコン溶融液Mへのドーパント添加が可能となる。
また、シリコン単結晶Cの育成中にドーパントを追加する構成として、比較的簡易な構成により実現でき、且つチップ単位で必要な量のドーパントを追加することができるため、正確な抵抗率の制御を可能とすることができる。
【0049】
尚、前記実施の形態においては、n型シリコン単結晶を製造する場合の例として、説明したが、本発明にあっては、それに限定されるものではなく、P型シリコン単結晶を製造する場合についても適用することができる。
また、前記実施の形態においては、シリコン溶融液に水平磁場を印加する構成としたが、本発明にあっては、水平磁場に限定されるものではなく、カスプ磁場、或いは無磁場の構成にも適用することができる。
【実施例0050】
本発明に係るシリコン単結晶の製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
(実験1)
実験1では、石英ルツボ内に135kgのシリコン原料を充填し、主ドーパントとしてリンを添加して溶融した。また、輻射シールドと融液面との距離を50mmとし、炉内圧65torr、アルゴンガスを流量90l/minで流し、横磁場の強度を3000Gaussの炉内環境を作った。そして、ルツボ回転数を0.5rpm、結晶回転数を10.0rpm(ルツボ回転とは逆方向)とし、引上げ速度0.55mm/minで結晶径200mmを目標として単結晶育成を行った。また、抵抗率規格は、60~50Ωcmとし、直胴部開始時の狙い抵抗率を59Ωmとした。
【0051】
(実施例1)
実施例1では、前記した本実施の形態に沿った単結晶育成を行った。
副ドーパントを含む導入のタイミングと投入量とは、結晶の固化率と融液中のリン、およびチップ中ボロン濃度から算出した。抵抗率規格下限が近づいた段階で、所望のボロン濃度を含むチップ状ドーパント(副ドーパント)を、押込み棒先端のスプーン部にセットした。ゲートバルブ解放後、スプーン先端を漏斗状治具の上部開口から10mmの高さまで近づけ、スプーン部を回転させてチップ状ドーパントを漏斗状治具に投入した。
【0052】
チップ状ドーパントは、漏斗状治具の細管部の中を通って融液面に落下し溶融した。落下後も、波面の発生や融液面上での固化等なく、良好な単結晶育成が可能であった。抵抗率を推定しながら、この操作を5回繰り返したが、転位発生することなく、無転位で終了させることができた。
結晶成長方向に対する抵抗率の推移を
図6に示す。
図6に示すように、カウンタードープを繰り返すごとに規格下限近傍まで下がった抵抗率を規格上限付近まで持ち上げることができた。これにより、抵抗率が狭い製品であっても、抵抗率収率を大幅に伸ばすことができることを確認した。
【0053】
(比較例1)
比較例1では、シリコン単結晶の育成中における副ドーパントの追加を行わなかった。その他の条件は、実施例1と同様である。
この比較例1の結果を
図6に示す。
図6に示すように、比較例1のように副ドーパントの追加を行わない場合には、固化率が高くなるに伴い、軸方向に沿って抵抗率が低下し、規格外となることを確認した。
【0054】
(実験2)
実験2では、実施例1と同様の引き上げ条件で引き上げ開始し、2回のカウンタードープ(副ドーパントの追加)を行った時点で、直胴部の育成を中断し、結晶の再溶融を行なった。
そして、カウンタードープで添加されたボロンによるリン原子の不足分を、再溶融後に主ドーパントのチップ状シリコンにより添加した。その後、シリコン単結晶の引き上げを開始し、直胴部形成開始時の抵抗率を推定した。
同様の条件で実施例2~4を実施し、それぞれ引き上げ中断前(再溶融前)の直胴部開始時の抵抗率と、再溶融後の直胴部形成開始時の抵抗率を推定し、検証した。
実施例2~4の結果を表1に示す。表1に示すように再溶融前と再溶融後とで抵抗率は規格範囲内となり、直胴部開始時の抵抗率を安定させることができた。
【0055】
【0056】
(実験3)
実験3では、水平磁場3D計算機シミュレーションにおいて、実施例1と同様の条件下で単結晶引き上げを実施し、引き上げ中における溶融液表面の流れ方向を検証した。
その他、引き上げ条件としては、単結晶の直径200mm、300mm、450mmのそれぞれについて溶融液表面の流れを観察した。
この結果、上記いずれの結晶径においても、融液表面の流れ方向が変化しており、磁場印可方向(0°方向)に対し、垂直な向きでは、結晶から石英ルツボに向かう、外向きの流れが支配的となった。それに対し、磁場印可方向においては、一部内側に向かう流れが存在した。
【0057】
このことから、結晶から石英ルツボに向かう、外向きの流れが支配的な領域にドーパントチップを落とせば、落ちたドーパントチップは、外向きの流れに乗って溶解しながらドーパントが拡散していくので、追加されたドーパントが固液界面に到達するまでに、十分な時間を生み出すことができることがわかった。
一方、一部内側に向かう流れが存在する領域にドーパントチップを落とせば、落下したドーパントチップが、溶解する前に結晶に到達するリスクがある。更に、溶解しても、ドーパントが十分に拡散する前に固液界面に到達しやすくなるため、局所的に副ドーパントの取り込みが多くなり、面内の抵抗率分布が一時的に不安定になると考えられる。
よって、実験3の結果より、水平磁場におけるドーパント落下位置は、磁場印可方向を0°と定義した場合、45°~135°、及び225°~315°の領域とするのが望ましいことを確認した。