IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特開2023-20576面発光レーザ、レーザ装置、検出装置、移動体及び面発光レーザの駆動方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020576
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】面発光レーザ、レーザ装置、検出装置、移動体及び面発光レーザの駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/062 20060101AFI20230202BHJP
   H01S 5/183 20060101ALI20230202BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20230202BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
H01S5/062
H01S5/183
G01C3/06 120Q
G01S7/481 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126012
(22)【出願日】2021-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】軸谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】原坂 和宏
【テーマコード(参考)】
2F112
5F173
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112CA12
2F112DA25
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC35
5F173AC42
5F173AC52
5F173AR37
5F173AS07
5F173SA24
5F173SC10
5F173SE02
5F173SG08
5J084AA05
5J084AC02
5J084AC03
5J084AC04
5J084AC06
5J084AC07
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA05
5J084BA36
5J084BA39
5J084BA40
5J084CA03
5J084CA10
5J084CA34
5J084EA04
5J084EA07
5J084EA29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】裾引きを低減した短パルス光を得ることができる面発光レーザ、レーザ装置、検出装置、移動体及び面発光レーザの駆動方法を提供する。
【解決手段】活性層530と、活性層を挟んで対向する複数の反射鏡と、活性層及び複数の反射鏡により発せられる複数の半導体層からなるレーザ光の経路に設けられた多重量子井戸構造590と、第1の電源装置581に接続され、活性層に電流を注入可能な第1の電極対と、第2の電源装置582に接続され、多重量子井戸構造の井戸面に垂直な方向に電界を印加することが可能な第2の電極対と、を有し、第2の電源装置により電界が印加される期間を電界印加期間とし、電界印加期間の後であって電界印加期間における電界の大きさよりも低下する期間を電界減少期間として、電界印加期間の少なくとも一部に電流注入期間の少なくとも一部が含まれ、電界印加期間にレーザ発振せず、電界減少期間にレーザ発振する。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層と、
前記活性層を挟んで対向する複数の反射鏡と、
複数の半導体層からなり、前記活性層及び複数の反射鏡により発せられるレーザ光の経路に設けられた多重量子井戸構造と、
第1の電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入可能な第1の電極対と、
第2の電源装置に接続され、前記多重量子井戸構造の井戸面に垂直な方向に電界を印加することが可能な第2の電極対と、
を有し、
前記第1の電源装置により電流が注入される期間を電流注入期間とし、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間を電流減少期間とし、前記第2の電源装置により電界が印加される期間を電界印加期間とし、前記電界印加期間の後であって前記電界印加期間における電界の大きさよりも低下する期間を電界減少期間として、
前記電界印加期間の少なくとも一部に前記電流注入期間の少なくとも一部が含まれ、
前記電界印加期間にレーザ発振せず、前記電界減少期間にレーザ発振する、
ことを特徴とする面発光レーザ。
【請求項2】
前記複数の反射鏡は、前記活性層の下部に設けられた下部反射鏡と、前記活性層の上部に形成された第1の上部反射鏡とを備え、前記多重量子井戸構造は、前記活性層の上部に配置されている、請求項1記載の面発光レーザ。
【請求項3】
前記第1の上部反射鏡は柱状に形成され、前記第2の電極対のうち一方は、少なくともその一部が前記第1の上部反射鏡の中央部分に配置される、請求項2記載の面発光レーザ。
【請求項4】
前記電流注入期間よりも時間軸の短い光パルスを出力する請求項1から3のいずれか一項に記載の面発光レーザ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の面発光レーザと、
前記第1の電極対に接続された第1の電源装置と、
前記第2の電極対に接続された第2の電源装置と、
を備える、レーザ装置。
【請求項6】
前記電流注入期間の開始よりも先に前記電界印加期間が開始する、請求項5記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記電界減少期間の開始と同時または前記電界減少期間の開始よりも後に、前記電流減少期間が開始する、請求項5または6に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記電流注入期間と前記電流減少期間は複数回繰り返され、
前記電流減少期間に対する前記電流注入期間の比率は0.5%以下である、請求項5から7のいずれか一項に記載のレーザ装置。
【請求項9】
請求項5から請求項8のいずれか一項に記載のレーザ装置と、
前記面発光レーザから発せられ対象物で反射された光を検出する検出部と、
を備える検出装置。
【請求項10】
前記検出装置からの信号に基づき前記対象物との距離を算出する、請求項9に記載の検出装置。
【請求項11】
請求項10に記載の検出装置を備える移動体。
【請求項12】
活性層と、
前記活性層を挟んで対向する複数の反射鏡と、
複数の半導体層からなる、レーザ光の経路に設けられる多重量子井戸構造と、
第1の電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入可能な第1の電極対と、
第2の電源装置に接続され、前記多重量子井戸構造の井戸面に垂直な方向に電界を印加することが可能な第2の電極対と、
を有する面発光レーザの駆動方法であって、
前記第1の電源装置により電流が注入される期間を電流注入期間とし、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間を電流減少期間とし、前記第2の電源装置により電界が印加される期間を電界印加期間とし、前記電界印加期間の後であって前記電界印加期間における電界の大きさよりも低下する期間を電界減少期間として、
前記電界印加期間の少なくとも一部に前記電流注入期間の少なくとも一部が含まれ、
前記電界印加期間にレーザ発振せず、前記電界減少期間にレーザ発振する、
ことを特徴とする面発光レーザの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ、レーザ装置、検出装置、移動体及び面発光レーザの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の目に対するレーザの安全基準はアイセーフのクラスにより分類され、IEC.60825-1Ed.3(準ずる国内規格JIS C 6802)により規定されている。距離測定装置を様々な環境で使用するためには、安全対策や警告が不要となるクラス1の基準を満たすことが望ましい。クラス1の基準の一つとして平均パワーの上限が規定されている。パルス光の場合は、ピーク出力、パルス幅、デューティ比から平均パワーに換算して規格値と比較する。光パルスのパルス幅が短いほど許容されるピーク出力が高くなるため、高ピーク出力でパルス幅が短いレーザ光源は、アイセーフを満たしつつ、TOF(Time Of Flight)センサにおいて高精度化と長距離化の両立のために有用である。
【0003】
1ns以下の短パルス化を実現する手段として、ゲインスイッチング、Qスイッチング、モードロックなどがある。ゲインスイッチングは、緩和振動現象を利用して100ps以下のパルス幅を実現する手段である。パルス電流の制御だけで実現できるため、Qスイッチングやモードロックに比べて構成が簡易である。
【0004】
しかし、ゲインスイッチングでは、緩和振動現象を利用するため先頭のパルス以後に複数のパルス列が出力されやすい。あるいは緩和振動がおさまった後に広いパルス幅のテール光(裾引き)が出力されやすい。これらの現象は応用する上で望ましくない。例えば、単一光子アバランシェダイオード(Single Photon Avalanche Diode:SPAD)を用いてガイガーモードで検出する場合、最も高いピーク出力だけがセンシング対象となり、対象とするパルス以外にパルスが複数あるとノイズとなり、またテール光は不要なエネルギーであるためアイセーフの観点で不利になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
裾引きを低減した短パルス光を発生することのできる面発光レーザには検討の余地がある。
【0006】
本発明は、で裾引きを低減した短パルス光を得ることができる面発光レーザ、レーザ装置、検出装置、移動体及び面発光レーザの駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術の一態様によれば、面発光レーザは、活性層と、前記活性層を挟んで対向する複数の反射鏡と、複数の半導体層からなる、前記活性層及び複数の反射鏡により発せられるレーザ光の経路に設けられた多重量子井戸構造と、第1の電源装置に接続され、前記活性層に電流を注入可能な第1の電極対と、第2の電源装置に接続され、前記多重量子井戸構造の井戸面に垂直な方向に電界を印加することが可能な第2の電極対と、を有し、前記第1の電源装置により電流が注入される期間を電流注入期間とし、前記電流注入期間の後であって前記活性層に注入される電流値が前記電流注入期間における電流値よりも低下する期間を電流減少期間とし、前記第2の電源装置により電界が印加される期間を電界印加期間とし、前記電界印加期間の後であって前記電界印加期間における電界の大きさよりも低下する期間を電界減少期間として、前記電界印加期間の少なくとも一部に前記電流注入期間の少なくとも一部が含まれ、前記電界印加期間にレーザ発振せず、前記電界減少期間にレーザ発振する。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、裾引きを低減した短パルス光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1参考例に係る面発光レーザを示す断面図である。
図2】第1参考例における酸化狭窄層及びその近傍を示す断面図である。
図3】第2参考例における酸化狭窄層及びその近傍を示す断面図である。
図4】実測に用いた回路を示す等価回路図である。
図5】第2参考例についての実測結果を示す図である。
図6】第1参考例についての実測結果を示す図である。
図7】構造による電界強度及び透過屈折率の分布の相違を示す図である。
図8】時間変化に伴う電界強度及び透過屈折率の分布の変化を示す図である。
図9】第2参考例におけるキャリア密度及びしきい値キャリア密度についてのシミュレーション結果を示す図である。
図10】第2参考例における光出力についてのシミュレーション結果を示す図である。
図11】第1参考例についてのシミュレーションで用いた関数の例を示す図である。
図12】第1参考例における光出力についてのシミュレーション結果を示す図である。
図13】第1参考例におけるキャリア密度、しきい値キャリア密度、光子密度及び横方向の光閉じ込め係数のシミュレーション結果を示す図である。
図14図13中の一部を拡大して示す図である。
図15】光パルスの実測結果及びシミュレーション結果の例を示す図である。
図16】電流狭窄面積とピーク光出力との関係を示す図である。
図17】第1実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
図18】第2実施形態に係る面発光レーザを示す断面図及びその上面図である。
図19】第3実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
図20】第4実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
図21】第5実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
図22】第6実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
図23】第7実施形態に係るレーザ装置を示す図である。
図24】デューティ比と光パルスのピーク出力との関係を示す図である。
図25】第8実施形態に係る距離測定装置を示す図である。
図26】第9実施形態に係る移動体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態を説明する前に、まずその原理を、参考例を用いて説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0011】
(第1参考例)
まず、第1参考例について説明する。第1参考例は面発光レーザに関する。図1は、第1参考例に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0012】
第1参考例に係る面発光レーザ100は、例えば酸化狭窄を採用した垂直共振器型面発光レーザ(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:VCSEL)である。面発光レーザ100は、n型GaAs基板110と、n型分布ブラッグ反射鏡(distributed Bragg reflector:DBR)120と、活性層130と、p型DBR140と、酸化狭窄層150と、上部電極160と、下部電極170とを有する。
【0013】
第1参考例においては、n型GaAs基板110の表面に垂直な方向に光が射出される。以下、n型GaAs基板110の表面に垂直な方向を縦方向、n型GaAs基板110の表面に平行な方向を横方向又は面内方向ということがある。
【0014】
n型DBR120はn型GaAs基板110上にある。n型DBR120は、例えば複数のn型半導体膜を積層して構成された半導体多層膜反射鏡である。活性層130はn型DBR120上にある。活性層130は、例えば、複数の量子井戸層及び障壁層を含む。活性層130は共振器に含まれる。p型DBR140は活性層130上にある。p型DBR140は、例えば複数のp型半導体膜を積層して構成された半導体多層膜反射鏡である。
【0015】
上部電極160は、平面視で環状に形成されp型DBR140の上面に接触する。下部電極170はn型GaAs基板110の下面に接触する。上部電極160と下部電極170との対は、電極対の一例である。ただし、電極の位置はこれには限定されず、活性層に電流を注入できる位置にあればよい。例えば、DBRを介してではなく共振器のスペーサ層に直接電極を配置するイントラキャビティ構造であってもよい。
【0016】
p型DBR140は、例えば酸化狭窄層150を含む。酸化狭窄層150はAlを含有する。酸化狭窄層150は、光の射出方向に垂直な面内に、酸化領域151と、非酸化領域152とを含む。酸化領域151は、環状の平面形状を有し、非酸化領域152を取り囲む。非酸化領域152は、p型AlAs層155と、縦方向でp型AlAs層155を間に挟む2つのp型Al0.85Ga0.15As層156とから構成される。酸化領域151はAlOから構成される。酸化領域151の屈折率は非酸化領域152の屈折率よりも低い。例えば、酸化領域151の屈折率は1.65であり、p型AlAs層155の屈折率は2.96であり、p型Al0.85Ga0.15As層156の屈折率は3.04である。平面視で、メサ180の酸化領域151の内縁の内側の部分は高屈折領域の一例であり、メサ180の酸化領域151の内縁の外側の部分は低屈折領域の一例である。なお、p型Al0.85Ga0.15As層156に代えて、p型AlGa1-xAs層(0.70≦x≦0.90)が設けられてもよい。本実施形態では、p型DBR140、活性層130及びn型DBR120がメサ180を構成している。ただし、酸化狭窄により電流狭窄領域を形成する本実施形態においては、少なくとも酸化狭窄層150および酸化狭窄層150より上に位置する半導体層がメサ形状に形成されていればよい。また、少なくとも活性層がメサに含まれるよう形成することで、活性層で発生した光が横方向へ漏れることを防ぐことができる。
【0017】
ここで、酸化狭窄層150について詳細に説明する。図2は、第1参考例における酸化狭窄層及びその近傍を示す断面図である。
【0018】
図2に示すように、酸化領域151は、平面視で、環状の外側領域153と、環状の内側領域154とを有する。外側領域153はメサ180の側面に露出する。外側領域153は、断面視で表面の接触面が酸化領域151の外側に位置するように厚さが変化する領域であり、内側領域154は、断面視で表面の接触面が酸化領域151の内側に位置するように厚さが変化する領域である。内側領域154は外側領域153の内側にある。内側領域154の厚さは、外側領域153との境界において外側領域153の厚さと一致し、メサ180の中心に近づくほど薄くなっている。内側領域154は、断面視で、内縁から外側領域153との境界にかけて徐々に厚くなるテーパ形状を有する。非酸化領域152は外側領域153の内側にある。非酸化領域152の一部は縦方向で内側領域154を挟む。非酸化領域152の他の一部は平面視で内側領域154の内縁の内側にある。例えば、非酸化領域152の厚さは35nm以下である。外側領域153の厚さは非酸化領域152の厚さより大きくてもよい。なお、本開示において、非酸化領域152の厚さとは、酸化領域151の内縁(内側領域154の内縁)よりもメサ180の中心側の部分の厚さである。例えば、メサ180の側面から酸化領域151の内縁までの距離は、約8μm~11μmの範囲である。
【0019】
酸化領域151は、例えばp型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層の酸化狭窄により形成されている。例えば、高温水蒸気環境下でのp型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層の酸化処理により酸化領域151を形成できる。なお、同一のp型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層を酸化したとしても、酸化の条件により、p型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層から得られる酸化狭窄層の構造は相違し得る。従って、酸化により酸化狭窄層150となる層、例えばp型AlAs層及びp型Al0.85Ga0.15As層の酸化前の構造が同一であっても、酸化の条件によっては、酸化領域151及び非酸化領域152を備えた酸化狭窄層150が得られないことがある。
【0020】
ここで、第2参考例と比較しながら、第1参考例の作用効果について説明する。図3は、第2参考例における酸化狭窄層及びその近傍を示す断面図である。
【0021】
第2参考例では、酸化狭窄層150が、酸化領域151及び非酸化領域152に代えて、酸化領域951及び非酸化領域952を有する。酸化領域951は、環状の平面形状を有し、非酸化領域952を取り囲む。非酸化領域952は、p型AlAs層955と、縦方向でp型AlAs層955を間に挟む2つのp型Al0.85Ga0.15As層956とから構成される。酸化領域951は、平面視で、環状の外側領域953と、環状の内側領域954とを有する。外側領域953はメサ180の側面に露出する。外側領域953の厚さは面内方向で一定である。内側領域954は外側領域953の内側にある。内側領域954の厚さは、外側領域953との境界において外側領域953の厚さと一致し、メサ180の中心に近づくほど薄くなっている。内側領域954は、断面視で、内縁から外側領域953との境界にかけて徐々に厚くなるテーパ形状を有する。非酸化領域952は外側領域953の内側にある。非酸化領域952の一部は縦方向で内側領域954を挟む。非酸化領域952の他の一部は平面視で内側領域954の内縁の内側にある。例えば、メサ180の側面から酸化領域951の内縁までの距離は、約8μm~11μmの範囲である。酸化領域951及び非酸化領域952の厚さは酸化狭窄層150の厚さと等しい。
【0022】
まず、第1参考例及び第2参考例についての実測結果について説明する。図4は、実測に用いた回路を示す等価回路図である。
【0023】
この回路では、第1参考例又は第2参考例に対応する面発光レーザ11に直列に電流モニタ用の抵抗12が接続されている。また、抵抗12に並列に電圧計13が接続されている。また、面発光レーザ11から出力された光は広帯域の高速フォトダイオードで受光して電圧信号に変換し、その電圧信号をオシロスコープで観測した。
【0024】
図5は、第2参考例についての実測結果を示す図である。図5(a)は、パルス幅が約2nsの場合の実測結果を示し、図5(b)は、パルス幅が約9nsの場合の実測結果を示し、図5(c)は、パルス幅が約17nsの場合の実測結果を示す。図5(a)~(c)の実測において、バイアス電流の大きさ及びパルス電流の振幅は共通である。図5には、抵抗12を流れる電流及び高速フォトダイオードで測定した光出力を示す。抵抗12を流れる電流は、電圧計13を用いて算出できる。
【0025】
図5に示すように、第2参考例では、パルス幅の大きさに関係なく、パルス電流が注入された直後に光パルスが出力され、その後はパルス電流の注入が停止するまでは平衡状態になり、一定のテール光が出力されている。先頭の光パルスは緩和振動によるものであり、典型的なゲインスイッチング駆動である。パルス幅を変えても、光パルスが発生するタイミングは変わらない。緩和振動により生じる光パルスは、レーザ共振器内のキャリア密度がしきい値キャリア密度を超えた直後に生じるためである。テール光の出力を抑制するために、光パルスが出力された直後に電流注入を停止することが考えられる。しかし、緩和振動による光パルスの時間幅は100ps以下であるため、電流の大きさが10A以上と大きい場合には、光パルスが出力された直後に100ps以下の時間で電流の注入を停止することは難しい。
【0026】
図6は、第1参考例についての実測結果を示す図である。図6(a)は、パルス幅が約0.8nsの場合の実測結果を示し、図6(b)は、パルス幅が1.3nsの場合の実測結果を示し、図6(c)は、パルス幅が2.5nsの場合の実測結果を示す。図6(a)~(c)の実測において、バイアス電流の大きさ及びパルス電流の振幅は共通である。図6には、抵抗12を流れる電流及び高速フォトダイオードで測定した光出力を示す。抵抗12を流れる電流は、電圧計13を用いて算出できる。
【0027】
図6に示すように、第1参考例では、パルス電流が注入されている状態では光出力が生じておらず、パルス電流の注入が減少した直後に光パルスが出力されている。また、光パルスが出力された後のテール光はほぼ見られない。ゲインスイッチングによる光出力であれば、パルス電流の幅を変えたとしても、光パルスが生じるタイミングは変わらない。これに対し、第1参考例では、パルス電流の注入が減少したことをきっかけとして光パルスが出力されている。従って、第1参考例における光出力は、緩和振動現象を利用した通常のゲインスイッチングではないといえる。
【0028】
このように、第1参考例と第2参考例とでは、光出力の機構及び態様が明確に相違している。この相違は、下記のように説明される。
【0029】
面発光レーザでは、レーザ光は共振器中を酸化狭窄層と垂直方向に伝搬する。このため、酸化狭窄層が厚いほど、屈折率差に依存する等価的な導波路長が長くなり、横方向の光閉じ込め作用が大きくなる。酸化狭窄層を含むDBRを等価的な導波路構造と見なした場合、図7(a)のように等価屈折率差が大きいときには、レーザ光の電界強度分布は中央付近に集められる。これに対し、図7(b)のように等価屈折率差が小さいときには、レーザ光の電界強度分布は周辺の酸化領域にまで広がる。第1参考例と第2参考例とを比較すると、第1参考例では、酸化狭窄層150が内側領域154を含むため、第1参考例において、等価屈折率差が小さくなる。従って、第2参考例では、図7(a)に示すように、レーザ光の電界強度分布が中央付近に集められるのに対し、第1参考例では、図7(b)に示すように、レーザ光の電界強度分布が酸化領域151にまで広がる。
【0030】
ここで、横方向の光閉じ込め係数を「面発光レーザ素子の中心を通る横方向断面における電界の積分強度」に対する「電流通過領域と同じ半径領域中における電界の積分強度」の割合とし、式(1)で定義する。ここで、aは電流通過領域の半径に相当し、Φは基板に垂直な方向を回転軸とした回転方向を表す。
【0031】
【数1】
【0032】
次に、パルス電流の注入が停止された際に起きる現象のモデルについて説明する。パルス電流が注入されている状態では、酸化狭窄層により電流経路はメサの中央付近に集中し、キャリア密度が高い状態となっている。このとき、キャリア密度の高い非酸化領域では、キャリアプラズマ効果により屈折率が小さくなる作用が生じる。キャリアプラズマ効果は、自由キャリア密度に比例して屈折率が低下する現象である。例えば文献「Kobayashi, Soichi, et al. "Direct frequency modulation in AlGaAs semiconductor lasers." IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques 30.4 (1982): 428-441」によると、屈折率の変化量は式(2)で示される。ここで、Nはキャリア密度である。
【0033】
【数2】
【0034】
図8に、パルス電流が注入されている期間(図8(a))と、パルス電流の注入が停止されて減少する期間(図8(b))とでの等価屈折率及び電界強度分布を模式的に示す。パルス電流が注入されている期間では、酸化狭窄層により生じる等価屈折率差(n1-n0)を打ち消す方向にキャリアプラズマ効果が作用して、等価屈折率差は(n2-n0)となっている。この状態でパルス電流の注入が減少すると、キャリアプラズマ効果の作用がなくなり、等価屈折率差は(n1-n0)に戻る。これにより、メサの周辺部まで広がっていた光子がメサの中央部に集められ、非酸化領域での光子密度が上昇する。つまり、横方向光閉じ込めが強い状態に変化する。パルス電流の注入が停止すると、共振器内に蓄積されたキャリアはキャリア寿命時間をかけて減少する。しかし、キャリア密度が完全に減衰する前に横方向光閉じ込めが強くなると誘導放出が始まり、蓄積されていたキャリアが一気に消費されて光パルスが出力される。パルス電流が注入されている期間は電流注入期間の一例であり、パルス電流の注入が停止されて減少する期間は電流減少期間の一例である。
【0035】
以上のモデルをシミュレーションにより検証した結果を以下に示す。キャリア密度と光子密度のレート方程式を式(3),(4)に示す。
【0036】
【数3】
【0037】
【数4】
【0038】
ここで、式(3),(4)中の各文字が示す内容は下記の通りある。
N: キャリア密度[1/cm
S: 光子密度[1/cm
i(t): 注入電流[A]
e: 電荷素量[C]
V: 共振器体積[cm
τ(N): キャリア寿命時間[s]
: 群速度[cm/s]
g(N,S): 利得[1/cm]
Γ: 光閉じ込め係数
τ: 光子寿命時間[s]
β: 自然放出結合係数
: 利得係数[1/cm]
ε: 利得抑圧係数
tr: 透明キャリア密度[1/cm
η: 電流注入効率
α: 共振器ミラー損失[1/cm]
h: プランク定数[Js]
ν: 光の周波数[1/s]
【0039】
利得g(N,S)は式(5)で表される。
【0040】
【数5】
【0041】
光閉じ込め係数Γは、式(6)に示すように、横方向の光閉じ込め係数Γと縦方向の光閉じ込め係数Γとの積で定義される。
【0042】
【数6】
【0043】
しきい値キャリア密度Nthは式(7)で表される。
【0044】
【数7】
【0045】
しきい値電流Ithとしきい値キャリア密度Nthとの間には、式(8)の関係がある。
【0046】
【数8】
【0047】
共振器から出力される光出力Pと光子密度Sとの間には、式(9)の関係がある。
【0048】
【数9】
【0049】
ここで、第2参考例についてのシミュレーションの結果について説明する。第2参考例については、横方向の光閉じ込め係数Γは1とし、図5に示す電流モニタ波形を入力してシミュレーションを実施した。キャリア密度N及びしきい値キャリア密度Nthについてのシミュレーション結果を図9に示し、光出力についてのシミュレーション結果を図10に示す。
【0050】
図9及び図10に示すように、パルス電流が注入された約5nsの時点で、その直後にキャリア密度Nがしきい値キャリア密度Nthを超え、緩和振動による光パルスが出力されている。その後は平衡状態となり一定のテール光が出力されている。このように、シミュレーションにおいて、図5に示す実測結果に近い結果が得られている。
【0051】
次に、第1参考例についてのシミュレーションの結果について説明する。第1参考例については、横方向の光閉じ込め係数Γを1未満で、横方向の光閉じ込め係数Γをキャリア密度Nの増加に従って減少する関数とし、図6に示す電流モニタ波形を入力してシミュレーションを実施した。横方向の光閉じ込め係数Γを上記の関数としたのは、キャリアプラズマ効果による屈折率変化の影響を取り入れるためである。図11は、関数の例を示す図である。光出力のシミュレーション結果を図12に示す。
【0052】
図12に示すように、パルス電流の注入を停止したタイミングで光パルス出力が得られている。このように、シミュレーションにおいて、図6に示す実測結果に近い結果が得られている。
【0053】
この結果を詳しく解析するために、パルス幅が2.5nsの条件におけるキャリア密度N、しきい値キャリア密度Nth、光子密度S及び横方向の光閉じ込め係数Γのシミュレーション結果を図13に示す。図13(a)にキャリア密度N、しきい値キャリア密度Nth及び光子密度Sのシミュレーション結果を示し、図13(b)に横方向の光閉じ込め係数Γのシミュレーション結果を示す。
【0054】
横方向の光閉じ込め係数Γがキャリア密度Nの関数であるため、パルス電流が注入されている3ns~5.5nsの範囲では横方向の光閉じ込め係数Γが低下している。この範囲では、横方向の光閉じ込め係数Γの低下にともなってしきい値キャリア密度Nthが上昇し、N<Nthとなるため誘導放出が起こりにくく、光子密度Sは増えない。5.5nsの時点でパルス電流の注入が減少し始めると、横方向の光閉じ込め係数Γは再び上昇し、その過程において光子密度Sがパルス状に生じている。図13において5ns~6nsの範囲で時間軸を拡大したグラフを図14に示す。
【0055】
約5.5nsの時点でパルス電流の注入が減少し始めると、キャリア密度Nは低下し始める。それと同時に横方向の光閉じ込め係数Γも上昇し、しきい値キャリア密度Nthが低下する。キャリア密度Nが低下するよりもしきい値キャリア密度Nthの低下する方が早いため、キャリア密度Nが低下する過程でN>Nthとなる時間が生じる。この時間には、まず自然放出により光子密度Sが上昇し、ある程度まで光子密度Sが増加すると誘導放出が支配的となり、光子密度Sが急増する。同時にキャリア密度Nが急減し、再びN<Nthとなると光子密度は急減する。
【0056】
このように、パルス電流の注入が停止したことをきっかけとして光パルスが出力される現象がシミュレーションにより再現できた。
【0057】
光パルスの立ち上がり時間は、しきい値キャリア密度Nthがキャリア寿命時間よりも早く減少すると短くなる。つまり、式(6)より横方向光閉じ込め係数Γの増加が速いほど立ち上がり時間が短くなる。光パルスの減衰時間は、光子寿命時間に依存する。光パルスの実測結果及びシミュレーション結果の例を図15に示す。図15(a)は実測結果を示し、図15(b)はシミュレーション結果を示す。
【0058】
パルス幅をピーク値の1/e以上となる時間幅と定義すると、実測結果では86ps、シミュレーション結果では81psである。ここでeは自然対数である。このモデルによれば、光パルスの幅は注入するパルス電流よりも短く、注入するパルス電流の時間幅に制限されることなく短くすることができる。
【0059】
第1参考例においては、光パルス出力が生じた後に継続的な光パルス列が生じにくい。光パルスが生じるときにはパルス電流の注入が減少しており、緩和振動が生じにくいためである。
【0060】
また、光パルス出力が生じた後にテール光が生じにくい。光パルスが生じた後にはパルス電流の注入が減少しており、キャリア密度が増加しにくいためである。
【0061】
また、パルス電流の注入を停止した直後に光パルスが出力されるため、光パルスが出力されるタイミングを任意に制御することができる。
【0062】
また、第1参考例により生じる光パルスの幅は、注入したパルス電流幅よりも短い。大電流化した場合でもパルス電流幅を短くする必要がないため、寄生インダクタンスの影響を受けにくい。
【0063】
第1参考例に係る面発光レーザ100を並列に複数配置して面発光レーザアレイを形成し、同時に光パルスを出力させることで、より大きな光ピーク出力を得ることができる。面発光レーザアレイに注入する電流は1個の面発光レーザ100に注入する電流よりも大きくなるが、面発光レーザ100により出力される光パルスの幅が注入するパルス電流の幅よりも狭いため、小さい光パルス幅を出力させることができる。
【0064】
第1参考例に係る面発光レーザ100から出力される光のパルス幅は限定されないが、例えば1ns以下であり、好ましくは500ps以下であり、より好ましくは100ps以下である。
【0065】
なお、第1参考例において、内側領域154の内縁から外側に3μm離れた位置、すなわち非酸化領域152と酸化領域151との境界の先端部から3μmの位置における酸化領域151の厚さは、非酸化領域152の厚さの2倍以下であることが好ましい。例えば、非酸化領域152の厚さが31nmの場合、内側領域154の内縁から外側に3μm離れた位置における厚さは62nm以下であることが好ましく、54nmであってもよい。メサ180の側面から酸化領域151の内縁までの距離(酸化距離)が8μm~11μmの範囲である場合、3μmという距離は酸化距離の28%~38%に相当する。上記の参考例の実測を行った際に酸化領域951の内縁から外側に3μm離れた位置で酸化領域951の厚さと、非酸化領域152の厚さとを測定したところ、前者は79nm、後者は31nmであり、前者は後者の2.55倍であった。発明者らが様々な酸化狭窄構造の素子を比較評価した結果、比率が2以下の場合に横方向の光閉じ込め係数Γが小さくなり、高出力で裾引きのない短パルス光を得やすいことが判明した。
【0066】
平面視での非酸化領域152の面積(電流狭窄面積)は120μm以下であることが望ましい。発明者らが様々な非酸化領域152の素子を比較評価した結果、非酸化領域152が120μm超の場合には、パルス電流の注入を停止した直後に光パルスが出力される現象が生じにくいことがあることが判明した。また、非酸化領域152が小さい方がピーク出力の高い光パルスが得られやすいことも判明した。図16は、非酸化領域の面積が50μm~120μmの範囲のサンプルに対するピーク光出力の測定結果を示す図である。
【0067】
上述の第1参考例で示された原理からわかるように、得られる短パルス出力を向上させるためには、活性層に蓄積されるキャリアの数を多くするほうが好ましい。また、電流注入が停止した後、できるだけ短時間でN>Nthとなる状態を作り出すことが重要である。
【0068】
つまり、電流注入を停止すると、キャリアの拡散や自然放出や非発光再結合により、電流狭窄構から活性層付近の中央部におけるキャリア密度が低下し、プラズマ効果によって広がっていた横モード分布が、素子中央部に分布を持つようになる。それによってN>Nthとなる状態が作り出され短パルス発振が生じているが、この間に再結合によって失われるキャリアを少なくすることが、パルス出力を向上させる上で重要である。
【0069】
上記の例では、出力を得るための電流注入が、プラズマ効果による屈折率変化を生じて発振を抑制する手段となっているために、短パルス発振が生じるまでにある程度の蓄積キャリアの消滅が要求される。もし、注入電流量、蓄積キャリア量に関係なくプラズマ効果以外の別の手段で屈折率を変化させることができれば、蓄積キャリアを有効に短パルスの出力に変換して取り出すことが可能であり、より高効率、高出力な短パルス動作が可能である。
【0070】
この屈折率を外部から変調する手段として、多重量子井戸構造の電界効果が有効である。多重量子井戸構造においては井戸面に垂直な方向に電界を印加することにより、屈折率の変化、すなわち屈折率の減少を得ることができる。
【0071】
量子井戸構造の電界による屈折率変化については、例えば非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4等で報告がある。非特許文献1では厚さ30nmのInGaAsP及びInPからなる量子井戸構造において(Δn/n)/E=3×10-8[cm/V]の値が得られることが理論的に報告されている。これは例えば100[kV/cm]の電界印加時(量子井戸30nmに対して0.3Vのバイアス)に、Δn/n=3×10-3、つまりΔn≒-9×10-3程度の値となる。
【0072】
非特許文献2、3では実際に厚さ10nmのGaAs及び厚さ30nmのAlAsからなる多重量子井戸構造において、測定を行い、室温において(Δn/n)/E=4×10-7[cm/V]という値を観測している。これは100[kV/cm]の電界印加時において、Δn≒-4×10-2となり、非特許文献1における理論値よりも大きな値が観測されている。非特許文献3には、電界印加に伴う量子閉じ込めシュタルク効果によるバンド間遷移エネルギーのレッドシフトと屈折率変化が示されている。また、非特許文献4では、Δn≒-3×10-2という値が実験結果として報告されている。
【0073】
以上のように、多重量子井戸構造の電界効果を利用することにより、100[kV/cm]という現実的な印加電界によってΔn≒-1×10-2オーダーのプラズマ効果と同等以上屈折率変化を得ることが可能である。これを利用することにより、短パルス動作の制御性、出力をより向上させることが可能になる。
【0074】
したがって、この多重量子井戸構造を、共振器の近くに配置し電界を印加することにより、多重量子井戸部の屈折率が減少し、図8に示すように、酸化構造によって得られる有効屈折率差Δn0を打ち消す方向に作用する。このように、プラズマ効果以外にも有効屈折率差Δnを変化させる手段を新たに設けることが可能となる。更に、多重量子井戸に印加する電界によって有効屈折率差Δnを制御することで、レーザ発振である短パルス発振のタイミングを制御することが可能になる。
【0075】
(第1実施形態)
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。第1実施形態は面発光レーザに関する。図17は、第1実施形態に係る、上記の原理に基づいて作成された波長が940nm帯の上面出射型の面発光レーザ500の断面図である。
【0076】
この面発光レーザ500は、第1参考例と同様に、例えば酸化狭窄を採用したVCSELである。面発光レーザ500は、n型GaAs基板510と、n型DBR520と、活性層530と、第1p型DBR541と、酸化狭窄層550と、コンタクト層563と、コンタクト層565と、第1上部電極561と、下部電極570とを有する。さらに面発光レーザ500は、共振器スペーサ層511、512と、多重量子井戸構造590と、第2p型DBR542と第2上部電極562とを有する。円柱状のメサポスト580は、n型DBR520と、共振器スペーサ層512と、活性層530と、共振器スペーサ層511と、酸化狭窄層550と、第1p型DBR541とコンタクト層563とを有する。なお、第1の電源装置581及び第2の電源装置582は、それぞれ面発光レーザ500に電流及び電界を供給する電源装置を示している。
【0077】
n型DBR520は、下部反射鏡としてn型GaAs基板510上にある。n型DBR520は40ペアのn型Al0.1Ga0.9As及びAl0.9Ga0.1Asからなる。共振器スペーサ層511はn型DBR520上にある。共振器スペーサ層511はAl0.2Ga0.8Asからなる。活性層530は共振器スペーサ層511上にある。活性層530はInGaAsを井戸層とし、AlGaAsをバリア層とする多重量子井戸活性層である。共振器スペーサ層512は活性層530上にある。共振器スペーサ層512はAl0.2Ga0.8Asからなる。第1p型DBR541は第1の上部反射鏡として共振器スペーサ層512上にある。第1p型DBR541は4ペアのp型Al0.1Ga0.9As及びAl0.9Ga0.1Asからなる。コンタクト層563は第1p型DBR541上にある。コンタクト層563はp型GaAsからなる。
【0078】
面発光レーザ500は、更に、アンドープの屈折率変調用の多重量子井戸構造590と、第2p型DBR542と、コンタクト層564とを有する。多重量子井戸構造590は、コンタクト層563の上にある。多重量子井戸構造590は、複数の半導体層からなり、一例として20ペアのInGaAs及びAlGaAsからなる。第2p型DBR542は、第2の上部反射鏡として多重量子井戸構造590上にある。第2p型DBR542は16ペアのp型Al0.1Ga0.9As及びAl0.9Ga0.1Asからなる。コンタクト層564は第2p型DBR542上にある。コンタクト層564はp型GaAsからなる。コンタクト層565はn型GaAs基板510の裏面にある。コンタクト層565はn型GaAsからなる。
【0079】
屈折率変調用の多重量子井戸構造590はバンド間のエネルギーが、電界が印加された状態で発振波長のフォトンエネルギーに対して同程度を目安に設定されている。電界が印加されることにより、量子閉じ込めシュタルク効果により実効的なバンドギャップエネルギーが小さくなる。そのため、吸収端の波長がレッドシフトすることで、より長波の光を吸収するようになる。この電界印加時の実行バンドギャップエネルギーがフォトンエネルギーより大きい場合は、吸収損失が低減でき、小さい場合には、吸収損失により発振をより抑制することができる。また、第1p型DBR541の中に設けられる酸化狭窄層550は、第1p型DBR541中に厚さ20nmのp型AlAs選択酸化層を形成し、円柱状のメサポスト580を形成した後、p型AlAs選択酸化層を加熱水蒸気中で酸化し形成される。円柱状のメサポスト580は、n型DBR520と、共振器スペーサ層511、512と、活性層530と、第1p型DBR541と、コンタクト層563とからなる。なお、多重量子井戸構造590と、第2p型DBR542と、コンタクト層564は、円柱状である。なお、メサポストの形状は円形には限定されず、正方形や長方形、六角形等、任意の形状であってよい。
【0080】
また、下部電極570は、n型GaAs基板510上のコンタクト層565の裏面にある。第1上部電極561は、環状であり、第1p型DBR541上のコンタクト層563の表面にある。第2上部電極562は、環状であり、第2p型EDBR542上のコンタクト層564の表面にある。第1の電源装置581は、第1上部電極561及び下部電極570からなる第1の電極対を介して活性層への電流注入を行う。第2の電源装置582は、下部電極570及び第2上部電極562からなる第2の電極対を介して屈折率変調用の多重量子井戸構造590への電界印加を行う。ここで、第2p型DBR542は、アンドープとしても良いが、ドープを行った場合には第2の電源装置582から多重量子井戸構造590への印加電圧を低減することができる。
【0081】
次に面発光レーザ500の動作原理について具体的に説明する。先ず初めに第2の電源装置582は、予め多重量子井戸構造590に電界を印加する。素子中央部の有効屈折率は、電界を印加することにより、電界が印加されていないときの酸化狭窄層550によって得られる有効屈折率差Δn0に対して減少する。すなわち、有効屈折率差Δnが有効屈折率差Δn0より小さくなっている状態にしておく。
【0082】
次に第1の電源装置581は、活性層530への電流注入を開始する。この際プラズマ効果により、更に有効屈折率差Δnが小さくなる。以上の2つの作用により、素子中央部分の横モード分布が小さくなり、発振が抑制され活性層530にキャリアが蓄積された状態になる。
【0083】
多重量子井戸構造の電界効果を組み合わせて用いる場合では、酸化狭窄層550による有効屈折率差Δn0はやや大きめに設定する。そして、多重量子井戸構造590の電界効果とキャリアのプラズマ効果による屈折率変化を合わせて、図13(a)に示す様なしきい値キャリア密度Nthとキャリア密度Nの関係になるようにする。つまり、プラズマ効果及び電界効果の両方によって発振抑制が行われている状態に設定する。
【0084】
次に、第2の電源装置582が、屈折率変調用の多重量子井戸構造590への電界の印加を停止すると、この多重量子井戸構造590のバンド間遷移エネルギーが大きくなる。すなわち量子閉じ込めシュタルク効果によるレッドシフトが無くなり、発振波長に対して透明になるとともに有効屈折率差Δnが増加する。有効屈折率差Δnが増加したことにより、素子中央部の横モード分布が大きくなることで発振閾値が低減し、直ちに短パルス発振が生じる。この際に、第1の電源装置581が活性層530への電流注入も同時に停止すると、より大きな屈折率変化を得ることができる。
【0085】
プラズマ効果のみによって発振を抑制していた場合には、活性層530への電流注入の停止後、プラズマ効果により減少していた有効屈折率差Δnは以下のように発振可能な状態に回復する。すなわち、活性層530に蓄積されていたキャリアが電流注入経路から拡散、或いは活性領域における再結合過程により減少することによって回復する。しかし、その間の発振に寄与しないキャリアが損失となる。
【0086】
これに対して、第1実施形態では、屈折率変化は多重量子井戸構造590への第2の電源装置582からの印加電界の制御によって直ちに生じるため、発振に寄与しないキャリアを大幅に低減することが可能である。従って、特に発振開始時のピーク出力を大幅に向上させることができる。尚、酸化狭窄層550による有効屈折率差Δn0は、酸化狭窄層550の厚さ等を変えることで変化させることが可能であり、酸化狭窄層550を厚くすることにより大きくすることができる。
【0087】
また、多重量子井戸構造590への電界印加が停止すると発振が開始するように酸化狭窄層550による有効屈折率差Δn0が設定されている。このため、第1実施形態によれば、プラズマ効果と電界効果を合わせることができる。したがって、プラズマ効果単独の場合に比べて、より強く発振を抑制することができる。そのため、活性層に蓄積されるキャリア数を増加させることができ、短パルス発振時のピーク出力を向上させることができる。
【0088】
このように、電界効果による屈折率変化量が大きい程、大きな発振の抑制効果が得られ蓄積されるキャリア数を増大させることが可能である。また、この発振抑制効果を維持しつつ、酸化狭窄層550による有効屈折率差Δn0を大きく設定して、電界印加を停止した場合の発振閾値の変化量を大きくすることが可能になる。そのため、短パルスの発振開始迄に消滅する無効キャリア数を低減することができ、いずれも高出力化に対して効果を得ることができる。
【0089】
尚、多重量子井戸構造590は、電界効果による屈折率変化が得られる場所であればレーザ光の経路のいずれに配置しても効果を得ることができる。加えて、さらに多重量子井戸構造590を活性層530に近づけること、又は量子井戸数を増やすことにより多重量子井戸構造への電界効果による屈折率変化量を大きくすることができる。
【0090】
第1実施形態においては、多重量子井戸構造への電界印加を停止すると直ちに光パルスが出力されるため、光パルスが出力されるタイミングを任意に設定することができる。
【0091】
また、蓄積されるキャリア数を増大させることができるとともに、発振に寄与しない無効キャリアを低減することができるため高出力を得ることができる。
【0092】
第1実施形態においては、光パルス出力が生じた後に継続的な光パルス列が生じにくい。その理由は、電界印加を停止するとともに電流印加を停止する場合、光パルスが生じるときにはパルス電流の注入が減少しており、緩和振動が生じにくいためである。
【0093】
また、光パルス出力が生じた後にテール光が生じにくい。その理由は、電界印加を停止するとともに電流印加を停止する場合、光パルスが生じた後にはパルス電流の注入が減少しており、キャリア密度が増加しにくいためである。
【0094】
また、第1実施形態により生じる光パルスの幅は、注入したパルス電流幅よりも短い。大電流化した場合でもパルス電流幅を短くする必要がないため、寄生インダクタンスの影響を受けにくい。
【0095】
第1参考例と同様に、第1実施形態に係る面発光レーザ500を並列に複数配置して面発光レーザアレイを形成し、同時に光パルスを出力させることで、より大きな光ピーク出力を得ることができる。面発光レーザアレイに注入する電流は1個の面発光レーザ500に注入する電流よりも大きくなるが、面発光レーザ500により出力される光のパルスの幅が注入するパルス電流の幅よりも狭いため、小さい光パルス幅を出力させることができる。
【0096】
第1参考例と同様に、第1実施形態に係る面発光レーザ500から出力される光のパルス幅は限定されないが、例えば1ns以下であり、好ましくは500ps以下であり、より好ましくは100ps以下である。
【0097】
なお、第1実施形態において、酸化狭窄層550が第1参考例と同様の構成を有するとき、内側領域554の内縁から外側に3μm離れた位置、すなわち非酸化領域552と酸化領域551との境界の先端部から3μmの位置における酸化領域551の厚さは、非酸化領域552の厚さの2倍以下であることが好ましい。
【0098】
また、第1参考例と同様に、第1実施形態においても第1参考例の図16にて説明した通り、平面視での非酸化領域552の面積(電流狭窄面積)は120μm以下であることが望ましい。
【0099】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は面発光レーザに関する。図18は、第2実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0100】
第2実施形態に係る面発光レーザ600は、第2p型DBR542上に形成された第2上部電極662を除き、第1実施形態と同じため、第2上部電極662以外については、説明を省略する。
【0101】
面発光レーザ600は上面出射型であるため、第2p型DBR542の上に形成された第2上部電極662は、レーザの透過を妨げないよう透明電極になっている。図18(b)は面発光レーザ600の上面図であり、線分A-A'の断面が図18(a)に示される。第2上部電極662は、円形であり、図18(b)に示すように、平面視で円柱状の第1p型DBR541の中央部にある。第2上部電極662は、図18(a)に示すように、中央部分から引き出されレーザの透過を妨げない外側の部分で第2の電源装置582と接続する。図18に示される様な電極構成とすると、平面視で面発光レーザ600の中央部分の屈折率変調用多重量子井戸構造に集中して電界を印加できる。そのため、面発光レーザ600は、選択的に素子の中央部分の有効屈折率を低減することができる。
【0102】
したがって、素子中央部分の横モード分布の強度を低下させ、素子周辺部分へ分布を広げることが可能になり、効果的に有効屈折率差Δnを低下させることができる。また、第2p型DBR542もアンドープとし、第2p型DBR542上のコンタクト層を除いた構成とすることにより、横方向への電界の広がりを抑えることができるので、更に選択性が向上できる。また、第2p型DBR542を、例えば、SiNまたはSiOなどの誘電体などの材料を用いて構成しても良い。
【0103】
以上のように、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができると共に、さらに第2上部電極を素子中央部分に設けることにより屈折率変化量を大きくすることができるため、高出力のレーザ光を得ることができる。
【0104】
(第3実施形態)
次に第3実施形態について説明する。第3実施形態は面発光レーザに関する。図19は、第3実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0105】
第3実施形態に係る面発光レーザ700は、裏面射出型の940nm帯の面発光レーザ素子である。図19の面発光レーザ700は、第1p型DBR541と第2p型DBR542からなる上部多層膜反射鏡のペア数が合計で40ペア、n型DBR520からなる下部多層膜反射鏡のペア数が20ペアとなっており、光出力は基板側すなわち裏面側へ出射される。
【0106】
基板側の素子出射部分に当たる下部電極770には開口が設けられており、光出力が取り出せるようになっている。また第2p型DBR542の素子中央部分には第2上部電極762が設けられており、素子の中央部分の屈折率変調用多重量子井戸構造へ選択的に電界が印加できるようになっている。このように素子中央部分に電極を形成すると、上述の第2実施形態と同様に素子の中央部分の有効屈折率を低減することができる。
【0107】
したがって、素子中央部分の横モード分布の強度を低下させ、素子周辺部分へ分布を広げることが可能になり、効果的に有効屈折率差Δnを低下させることができる。また、第2p型DBR542がアンドープであり、第2p型DBR542上のコンタクト層が除かれていると、横方向への電界の広がりを更に抑えることができる。横方向への電界の広がりが更に抑制されることで、更に選択性を向上できる。また、第2p型DBR542を、例えば、SiNまたはSiOなどの誘電体などの材料を用いて構成しても良い。
【0108】
以上のように、第3実施形態においても、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0109】
(第4実施形態)
次に第4実施形態について説明する。第4実施形態は面発光レーザに関する。図20は、第4実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0110】
第4実施形態に係る面発光レーザ800は、例えばBTJ(Buried tunnel junction)による電流狭窄構造を備えたVCSELである。面発光レーザ800は、裏面射出型である第3実施形態の面発光レーザ700において、電流狭窄構造を選択酸化構造から、埋め込みトンネル接合850に変えたものである。
【0111】
埋め込みトンネル接合850は、以下のようにして構成される。第1p型DBR841形成の途中に、第1p型DBR841よりも高濃度のpをドーピングしたp++GaAs層およびn型DBR520よりも高濃度のpをドーピングしたn++GaAsを成長する。その後、一度成長を中止して、湿式の選択エッチングにより、素子中央部分以外の上記の2層の除去を行うことによって形成される。埋め込みトンネル接合850を形成したのち、その上に第1p型DBR841の残りを再成長する。
【0112】
活性層530への電流注入用電極である下部電極770及び第1上部電極561に順バイアスを加えると、p++GaAs層とn++GaAs層には逆バイアスが印加される。この結果、p++GaAs層からn++GaAs層へ電子がバンド間トンネルすることによってp++GaAs層に正孔が生じ、活性層530へ注入される。
【0113】
この埋め込みトンネル接合部分では、横方向にAlGaAs材料のAl組成の違いによる小さな屈折率差が生じており、この屈折率差に基づいて弱い横方向光閉じ込めが形成されている。その大きさは、キャリアのプラズマ効果や、多重量子井戸の電界効果等によって生じる屈折率変化で、有効屈折率差Δnを変化させることができる程度のものであり、短パルス発振を行うことができる。
【0114】
以上のように、第4実施形態においても、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0115】
(第5実施形態)
次に第5実施形態について説明する。第5実施形態は面発光レーザに関する。図21は、第5実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0116】
第5実施形態に係る面発光レーザ900は、表面射出型である第1実施形態の面発光レーザ500において、第2p型DBRと第2上部電極とを変形させたものである。面発光レーザ900では、第2上部電極962は、第2p型DBR942の上面ではなく、多重量子井戸構造590の上面に設けられている。このような構造によって、第2p型DBR942を介することなく多重量子井戸構造590に電界を印加することができ、第5実施形態では多重量子井戸構造590の電界を第1の実施形態よりも強化することができる。そのため第5実施形態では、電界効果による屈折率変化量を大きくすることができる。
【0117】
したがって、第5実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができると共に、さらに屈折率変化量を多くすることができることによって、高出力のレーザ光を得ることができる。
【0118】
(第6実施形態)
次に第6実施形態について説明する。第6実施形態は面発光レーザに関する。図22は、第6実施形態に係る面発光レーザを示す断面図である。
【0119】
第6実施形態に係る面発光レーザ1000は、表面射出型である第1実施形態の面発光レーザ500において、第1p型DBR541の代わりに共振器スペーサ層1012を厚く形成したものである。さらに、面発光レーザ1000では、共振器スペーサ層1012の内部に酸化狭窄層1050が形成されている。このような構造としても、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。
【0120】
なお、第1乃至第6実施形態では、電界効果を得るための多重量子井戸構造が活性層と第2p型DBRとの間に設けられている構造について説明したが、これに限定されることなく、多重量子井戸構造は、電界効果による屈折率変化が得られる場所であればレーザ光の経路のいずれに配置しても効果を得ることができる。
【0121】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について説明する。第7実施形態はレーザ装置に関する。図23は、第7実施形態に係るレーザ装置を示す図である。
【0122】
第7実施形態に係るレーザ装置300は、第1実施形態に係る面発光レーザ500と、電源装置301とを有する。電源装置301は、第1の電源装置581と、第2の電源装置582とを有する。第1の電源装置581は、第1上部電極561及び下部電極570に接続されている。第2の電源装置582は、第1上部電極561及び第2上部電極562に接続されている。第1の電源装置581は、面発光レーザ500に電流を注入し、第2の電源装置582は面発光レーザ500に電界を供給する。
【0123】
第1の電源装置581からの電流の注入のデューティ比は0.5%以下であることが好ましい。すなわち、電流注入期間と電流減少期間とが複数回繰り返され、電流減少期間に対する電流注入期間の比率は0.5%以下であることが好ましい。デューティ比は、単位時間のうちで電流パルスが注入されている時間の比率である。パルス電流幅をt[s]、パルス電流の繰り返し周波数をf[Hz]とすると、デューティ比はf×t(%)に対応する。図24は、パルス電流幅が2.5nsの場合のデューティ比と光パルスのピーク出力との関係を示す図である。
【0124】
図24に示すように、デューティ比が0.5%を超える場合に、光ピーク出力が低下する傾向がある。この理由としては、以下のモデルが考えられる。まず、デューティ比を大きくしていくと注入したパルス電流による電流狭窄領域(非酸化領域152)での発熱量が増大する。これにより、電流狭窄領域の周辺部に対して、電流が集中する中心部の温度が上昇し、温度差が生じる。その結果、熱レンズ効果により電流狭窄領域の中心部の屈折率が上昇し、横方向の光閉じ込め係数が大きくなる。熱レンズ効果により横方向の光閉じ込め係数が大きくなると、パルス電流の増減により発生するキャリアプラズマ効果に起因した屈折率変化の影響が小さくなる。屈折率変化の影響が小さくなると、パルス電流の注入を停止した直後に光パルスが出力される現象が生じにくくなる。これに対し、デューティ比が0.5%以下であれば、熱レンズ効果による屈折率変化の影響が十分小さくなり、狭窄構造に由来の屈折率変化が支配的となるため、ピーク出力はほぼ一定で変わらないと考えられる。
【0125】
なお、第1実施形態に係る面発光レーザ500に代えて、第2乃至第6実施形態に係る面発光レーザ600乃至1000のいずれかが用いられてもよい。
【0126】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態について説明する。第8実施形態は距離測定装置に関する。図25は、第8実施形態に係る距離測定装置を示す図である。距離測定装置は検出装置の一例である。
【0127】
第8実施形態に係る距離測定装置400は、TOF(Time of Flight)法の距離測定装置である。距離測定装置400は、発光素子410と、受光素子420と、駆動回路430とを有する。発光素子410は、発光ビーム(照射光411)を測距の測距対象物450へと向けて照射する。受光素子420は、測距対象物450からの反射光421を受光する。駆動回路430は、発光素子410を駆動するとともに、発光ビームの発光タイミングと、受光素子420による反射光421の受光タイミングとの時間差を検出することにより、測距対象物450までの往復の距離を算出する。
【0128】
発光素子410は、第1乃至第6実施形態に係る面発光レーザ500乃至1000を複数含んでもよい。パルスの繰り返し周波数は、例えば数kHzから数10MHzの範囲である。
【0129】
受光素子420は、例えば、フォトダイオード(PD)、アバランシェフォトダイオード(APD)又は単一光子アバランシェダイオード(SPAD)である。受光素子420は、アレイ状に配列された受光素子を複数含んでもよい。受光素子420は検出部の一例である。
【0130】
TOF法での測距では、測距対象物からの信号とノイズを分離することが重要である。より遠くにある測距対象物を測定する場合、及びより反射率の低い測距対象物を測定する場合には、より高感度の受光素子を用いて対象物からの信号を得ることが好ましい。しかしながら、より高感度の受光素子を用いると、背景光ノイズ又はショットノイズを誤検出する可能性が高くなる。信号とノイズとを分離するために、受光信号のしきい値を上げることも考えられるが、その分だけ発光ビームのピーク出力を高くしなければ、測距対象物からの信号光を受光しにくくなる。ただし、発光ビームの出力はレーザの安全基準による制限を受ける。
【0131】
第1乃至第6実施形態に係る面発光レーザ500乃至1000によれば、パルス幅が100ps程度の光パルスを出力することができる。これは、従来の面発光レーザにより出力される光パルス幅の数nsに比べて約1/10である。第8実施形態に係る距離測定装置によれば、光パルスのパルス幅が短いほど安全基準で許容されるピーク出力が高くなるため、アイセーフを満たしつつ、高精度化と長距離化と両立することができる。
【0132】
(第9実施形態)
次に、第9実施形態について説明する。第9実施形態は移動体に関する。図26は、第9実施形態に係る移動体の一例としての自動車を示す図である。第9実施形態に係る移動体の一例としての自動車1100の前面上方(例えばフロントグラスの上部)には、第8実施形態で説明した距離測定装置400が設けられている。距離測定装置400は、自動車1100の周囲の物体1102までの距離を計測する。距離測定装置400の計測結果は、自動車1100の有する制御部に入力され、制御部はこの計測結果に基づいて、移動体の動作の制御を行う。若しくは、制御部は、距離測定装置400の計測結果に基づいて、自動車1100の運転者1101へ向けて自動車1100内に設けられた表示部に警告表示を行ってもよい。
【0133】
このように、第9実施形態では、距離測定装置400を自動車1100に設けることで、高精度に自動車1100の周辺の物体1102の位置を認識することができる。なお、距離測定装置400の搭載位置は、自動車1100の上部前方に限定されず、側面や後方に搭載されてもよい。また、この例では、距離測定装置400を自動車1100に設けたが、距離測定装置400を航空機又は船舶に設けてもよい。また、ドローン及びロボット等の、運転者が存在しない、自律移動を行う移動体に設けてもよい。
【0134】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0135】
300 レーザ装置
400 距離測定装置
500、600、700、800、900、1000 面発光レーザ
511、512、1012 共振器スペーサ層
520 n型DBR
530 活性層
541 第1p型DBR
542 第2p型DBR
550、1050 酸化狭窄層
551 酸化領域
552 非酸化領域
561 第1上部電極
562、662、762、962 第2上部電極
563、564、565 コンタクト層
570、770 下部電極
580 メサポスト
590 多重量子井戸構造
850 トンネル接合
1100 自動車(移動体)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0136】
【特許文献1】米国特許第8,934,514号明細書
【非特許文献】
【0137】
【非特許文献1】H. Yamamoto, M. Asada and Y. Suematsu, "Electric-field-induced refractive index variation in quantum-well structure", Electron. Lett., 21 p.p. 579-580 (1985)
【非特許文献2】H. Nagai, M. Yamanishi, Y. Kan and I. Suemune, "Field-induced modulation of refractive index and absorption coefficient in a GaAs/AlGaAs quantum well structure", Elect. Lett., 22 p.p. 888-889 (1986)
【非特許文献3】H. Nagai, M. Yamanishi, Y. Kan, I. Suemune, Y. Ide and R. Lang, "Exciton-induced dispersion of electroreflectance in a GaAs/AlAs quantum well structure at room temperature", Extended abstract of the 18th conference on Solid State Devices and Materials, p.p. 591-594 (1986)
【非特許文献4】J. S. Weiner, D. A. B. Miller and D. S. Chemla, "Quadratic electro-optics effect due to the quantum confined Stark effect in quantum wells", Appl. Phys. Lett., 50, 13, p.p. 842-844 (1987)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26