(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020631
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】全身性エリテマトーデスを検査する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/14 20060101AFI20230202BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20230202BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
C12Q1/14
C12Q1/68
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126109
(22)【出願日】2021-07-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業ステップタイプ(FORCE)」「メタゲノムワイド関連解析による疾患特異的微生物叢解明と個別化医療実装」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 随象
(72)【発明者】
【氏名】友藤 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】岸川 敏博
(72)【発明者】
【氏名】前田 悠一
(72)【発明者】
【氏名】猪頭 英里
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
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4B065AC20
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4B065CA23
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】全身性エリテマトーデスの新規バイオマーカー及びその利用方法を提供すること。
【解決手段】全身性エリテマトーデスを検査する方法であって、(1)被検体から採取された腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、を含む、検査方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全身性エリテマトーデスを検査する方法であって、
(1)被検体から採取された腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、
を含む、検査方法。
【請求項2】
さらに、(2)前記工程(1)で検出された前記バイオマーカーの量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が全身性エリテマトーデスに罹患していると判定する工程、
を含む、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記バイオマーカーが、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusである、請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記腸内細菌含有試料が糞便である、請求項1~3のいずれかに記載の検査方法。
【請求項5】
前記被検体がヒトである、請求項1~4のいずれかに記載の検査方法。
【請求項6】
Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、全身性エリテマトーデスの検査薬。
【請求項7】
Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、全身性エリテマトーデスの検査キット。
【請求項8】
被検物質で処理された動物から採取された腸内細菌含有試料腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、全身性エリテマトーデスの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法。
【請求項9】
被検物質で処理された動物から採取された腸内細菌含有試料腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、全身性エリテマトーデスの誘発性又は増悪性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全身性エリテマトーデスを検査する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
全身性エリテマトーデスをはじめとする自己免疫疾患の多くは単一のバイオマーカーによる診断が困難であり、複数の血液学的初見や組織学的初見、臨床症状を組み合わせることで初めて診断が可能となる。しかし、組織学的検査の侵襲度の高さや診断の専門性の高さなど、診断には解決すべき課題が多く存在しており、新規バイオマーカーの発見が望まれている。
【0003】
腸内細菌叢はヒトの免疫や代謝に大きく影響しており、炎症性腸疾患や大腸癌、糖尿病、自閉症など、様々な疾患の病因である可能性が報告され、発症予測のバイオマーカーとして有望視されている。近年、自己免疫疾患の診断に寄与する腸内細菌叢に関する発明が報告されている(特許文献1)。
【0004】
これまで腸内細菌叢を用いたスクリーニングは、16S rRNA等から推定可能な属レベルやOTU単位での菌種によって測定されており、精密さに欠ける手法であった。近年は糞便中の微生物の全DNAを対象に包括的な評価・解析が可能であるショットガンシークエンスという次世代シークエンスを用いた手法が実施されている。しかし、この手法は、細菌叢の膨大なゲノムデータに対して複雑な解析を施行した後に得られるゲノムデータが必要であり、一般のスクリーニングに応用するには困難であった。こうした背景から、より簡便で正確に細菌叢をスクリーニングする技術の開発と適応が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、全身性エリテマトーデスの新規バイオマーカー及びその利用方法を提供することを課題とする。好ましくは、全身性エリテマトーデスの簡便な検査技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を進めた結果、全身性エリテマトーデスを検査する方法であって、(1)被検体から採取された腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、を含む、検査方法、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 全身性エリテマトーデスを検査する方法であって、
(1)被検体から採取された腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、
を含む、検査方法。
【0009】
項2. さらに、(2)前記工程(1)で検出された前記バイオマーカーの量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が全身性エリテマトーデスに罹患していると判定する工程、
を含む、項1に記載の検査方法。
【0010】
項3. 前記バイオマーカーが、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusである、項1又は2に記載の検査方法。
【0011】
項4. 前記腸内細菌含有試料が糞便である、項1~3のいずれかに記載の検査方法。
【0012】
項5. 前記被検体がヒトである、項1~4のいずれかに記載の検査方法。
【0013】
項6. Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、全身性エリテマトーデスの検査薬。
【0014】
項7. Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、全身性エリテマトーデスの検査キット。
【0015】
項8. 被検物質で処理された動物から採取された腸内細菌含有試料腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、全身性エリテマトーデスの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法。
【0016】
項9. 被検物質で処理された動物から採取された腸内細菌含有試料腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、全身性エリテマトーデスの誘発性又は増悪性の評価方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、全身性エリテマトーデスのバイオマーカーを提供することができる。該バイオマーカーを利用することにより、全身性エリテマトーデスの検査、全身性エリテマトーデスの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング、全身性エリテマトーデスの誘発性又は増悪性の評価等が可能になり得る。本発明の検査技術は、簡便に採取できる試料を利用し得るので、簡便に実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】試験例1のスクリーニング結果を示す図である。プロットは各々の細菌を示す。横軸は、全身性エリテマトーデスの患者群における発現量を対照群における発現量で除した値の対数値を示し、縦軸は発現量に差がないという帰無仮説を否定する際の偽発見率を、底を10とした対数変換を行い負の符号をつけたものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0020】
1.全身性エリテマトーデスの検査方法
本発明は、その一態様において、全身性エリテマトーデスを検査する方法であって、(1)被検体から採取された腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、を含む、検査方法(本明細書において、「本発明の全身性エリテマトーデス検査方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0021】
1-1.工程(1)
検査対象である全身性エリテマトーデスの種類は、特に制限されない。全身性エリテマトーデスの各種分類基準における全てのクラス、グレード、ステージの全身性エリテマトーデスが検査対象となる。また、病変部位も特に制限されない。
【0022】
被検体は、本発明の検査方法の対象生物であり、その生物種は特に制限されない。被検体の生物種としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギなどの種々の哺乳類動物が挙げられ、好ましくはヒトが挙げられる。
【0023】
被検体の状態は、特に制限されない。被検体としては、例えば全身性エリテマトーデスに罹患しているかどうか不明な検体、全身性エリテマトーデスに罹患していると既に別の方法により判定されている検体、全身性エリテマトーデスに罹患していないと既に別の方法により判定されている検体、全身性エリテマトーデスの治療中の検体等が挙げられる。
【0024】
腸内細菌含有試料は、腸内細菌を含有するものである限り、特に制限されない。腸内細菌含有試料としては、例えば腸液、糞便等の消化管内容物が挙げられる。これらの中でも、被検体に対する負担の観点から、糞便が好ましい。腸内細菌含有試料は、1種単独で採用してもよいし、2種以上を組み合わせて採用してもよい。腸内細菌含有試料は、当業者に公知の方法で被検体から採取することができる。
【0025】
工程(1)の検出対象は、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(本明細書において、これらをまとめて「対象バイオマーカー」と示すこともある。)である。
【0026】
対象バイオマーカーは、全身性エリテマトーデスにおいてその量が変化しているバイオマーカーであり、これを指標とすることにより全身性エリテマトーデスを鑑別可能である。
【0027】
Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusは、全身性エリテマトーデス検体における量が健常検体における量よりも高い対象バイオマーカーである。
【0028】
工程(1)における対象バイオマーカーの数は、1種のみでもよいが、Streptococcus anginosusとStreptococcus intermediusとを組み合わせることにより、全身性エリテマトーデスの検査等を、より正確に行うことが可能になる。
【0029】
検出は、通常は、対象バイオマーカーの量又は濃度を測定することによって行われる。「濃度」とは、絶対濃度に限らず、相対濃度や、単位体積あたりの重量や、試料中の総菌体量又は総核酸量あたりの量や、絶対濃度を知るために測定した生データなどでもよい。
【0030】
対象バイオマーカーを検出する方法としては、対象バイオマーカーの一部又は全部を特異的に検出できる方法であれば特に制限されない。検出方法としては、具体的には、例えば、あらかじめ予測した選択培地において腸内細菌を培養し、対象とする腸内細菌のコロニーの有無を確認する培養法、ある腸内細菌特有の遺伝子や遺伝子由来のmRNAを検出するサザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、DNAマイクロアレイ法等が挙げられる。また、試料中のDNAのショットガンシークエンスを利用した方法(例えば後述の試験例1の方法)も利用することができる。さらに、細菌代謝物の代謝検出、細菌タンパク質のプロテオミクス検出の抗体に基づく方法等も利用することができる。
【0031】
また、試料中の細菌を測定する手段としては、例えばあらかじめ予測した選択培地において腸内細菌を培養し菌数を計測する方法、選択液体培地中で腸内細菌を培養し濁度や吸光度を測定する方法、FISH法、リアルタイムPCR法、RT-PCR法等が挙げられる。
【0032】
ここで、RT-PCR法について説明する。RT-PCR法を用いる分析方法は、例えば、(1)試料中の目的とする腸内細菌のRNAを抽出する工程、(2)抽出したRNAにハイブリダイズする核酸断片(プライマー)を用いてRT-PCRを行う工程、及び(3)工程(2)により増幅されたDNA断片を検出する工程により行うことができる。検体由来の鋳型cDNAに上記核酸断片を組み合わせ、増幅反応を行うことにより、目的とする腸内細菌に特異的なDNA断片(PCR産物)を得ることができる。PCR産物を経時的に観察し、一定のDNA量に達した時のPCRサイクル数を特定することにより、試料中の目的とする腸内細菌数を定量することが可能となる。
【0033】
増幅されるPCR産物の経時的な観察は、PCR産物をSYBR(R)GreenI等のインターカレーター性蛍光色素により標識し、各PCR段階での蛍光強度を測定することにより行うことができる。インターカレーター性色素は二本鎖核酸にインターカレーションすることで蛍光強度が増加する性質を有することから、標的細菌のcDNAからPCR反応により生成するPCR産物を正確に測定することができ、特にSYBR(R)GreenIが好適に用いられる。
【0034】
任意に設定された一定の蛍光強度(DNA量)に達した時のPCRサイクル数(以下CT値とする)を特定することにより、試料中の目的とする腸内細菌の定量が可能となる。また、蛍光色素により標識したTaqManプローブやMoleculerBeacon等を使用することもできる。TaqManプローブやMoleculerBeaconは、PCRにより増幅される領域の内部配列と相同性を有するオリゴヌクレオチドに蛍光色素とクエンチャーを結合させたプローブであり、PCR反応に共存させて用いる。プローブに結合した蛍光色素とクエンチャーの相互作用でPCR増幅反応に応じた蛍光を発するため、各PCR段階での蛍光強度を測定することにより増幅されるPCR産物の経時的な観察を行うことができる。
【0035】
試料中の目的とする腸内細菌の定量は、DAPIカウント法や培養法等により計測した細菌数の対数値とCT値の検量線により求めることができる。すなわち、標的とする細菌数の対数値を横軸に、CT値を縦軸にプロットした検量線を予め作成し、PCR反応の結果得られたCT値を該検量線に適用して、試料中の目的とする腸内細菌の定量を行う。
【0036】
工程(1)を含む本発明の検査方法によれば、全身性エリテマトーデスの検出指標である対象バイオマーカーの量及び/又は濃度を提供することができ、これにより全身性エリテマトーデスの検出などを補助することができる。
【0037】
工程(1)を含む本発明の検査方法による検査結果は、治療効果判定、全身性エリテマトーデスの病態解明、全身性エリテマトーデスの予後予測、患者層別化、治療方法の選択(個別化医療、治療反応性)等に利用し得る。
【0038】
1-2.工程(2)
本発明の検査方法は、一態様として、さらに、(2)前記工程(1)で検出された前記バイオマーカーの量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が全身性エリテマトーデスに罹患していると判定する工程、
を含むことが好ましい。該工程2を含む本発明の検査方法によれば、全身性エリテマトーデスを判定することが可能となる。
【0039】
カットオフ値は、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などの観点から当業者が適宜設定することができ、例えば、全身性エリテマトーデスに罹患していない被検体から採取された腸内細菌含有試料における対象バイオマーカーの量及び/又は濃度に基づいて、その都度定められた値、或いは予め定められた値とすることができる。カットオフ値は、例えば、全身性エリテマトーデスに罹患していない被検体から採取された腸内細菌含有試料における対象バイオマーカーの量及び/又は濃度(被検体が複数の場合は、平均値、中央値など)の、例えば0.5~1.4倍、0.6~1.3倍、0.7~1.2倍、0.8~1.1倍、0.9~1倍の値とすることができる。
【0040】
工程(2)の好ましい一態様においては、被検体が全身性エリテマトーデスの治療中の検体である場合、カットオフ値を、例えば同一検体についての過去の試料における対象バイオマーカーの量及び/又は濃度に基づいた値とすることにより、治療効果を判定することができる。
【0041】
2.全身性エリテマトーデスのより高い精度での診断
工程(2)を含む本発明の検査方法により、被検体が全身性エリテマトーデスに罹患していると判定された場合、本発明の検査方法に、さらに全身性エリテマトーデスの医師による診断を適用する工程を組み合わせることによって、より高い精度で全身性エリテマトーデスを診断することができる。また、本発明の検査方法はより正確に全身性エリテマトーデスを検出できるので、本発明の検査方法に上記工程を組み合わせることによって、より効率的且つより正確に「全身性エリテマトーデスに罹患している」と診断できる。
【0042】
3.全身性エリテマトーデスの治療
工程(2)を含む本発明の検査方法により被検体が全身性エリテマトーデスに罹患していると判定された場合は本発明の検査方法に対してさらに、或いは上記「2.全身性エリテマトーデスのより高い精度での診断」に記載の様に全身性エリテマトーデスに罹患していると診断された場合は本発明の検査方法と医師による診断を適用する工程との組合せに対してさらに、(3)全身性エリテマトーデスに罹患していると判定又は診断された被検体に対して、該疾患の治療を行う工程を行うことによって、被検体の該疾患を治療することが可能となる。また、本発明の検査方法はより正確に全身性エリテマトーデスを検出できるので、本発明の検査方法に対して、或いは本発明の検査方法と医師による診断を適用する工程との組合せに対して工程(3)を組み合わせることによって、全身性エリテマトーデスに罹患している被検体をより効率的に、より確実に治療できる。
【0043】
全身性エリテマトーデスの治療方法は、特に制限されないが、代表的には投薬治療が挙げられる。投薬治療に用いる医薬としては、特に制限されないが、例えば非ステロイド系消炎鎮痛剤、ステロイド剤等が挙げられる。医薬は、1種、2種、又は3種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
4.全身性エリテマトーデスの検査薬
本発明は、その一態様において、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤(本明細書において、「本発明の検査薬」と示すこともある。)を含む、全身性エリテマトーデスの検査薬(本明細書において、「本発明の検査薬」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0045】
本発明の検出剤は、対象バイオマーカーを特異的に検出できるものである限り特に制限されない。該検出剤としては、例えば対象バイオマーカーである細菌の遺伝子、又はそれらの発現産物に対するプライマー、プローブ、抗体等が挙げられる。
【0046】
本発明の検出剤は、その機能が著しく損なわれない限りにおいて、修飾が施されていてもよい。修飾としては、例えば、標識物、例えば蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等の付加が挙げられる。
【0047】
本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の検出や定量に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxylfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄色蛍光色素)、あるいは、6-FAM(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体〔例えば、テトラメチルローダミン(TMR)〕を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用することができる〔Nature Biotechnology, 14, 303-308 (1996)参照〕。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製、オリゴヌクレオチドECL 3’-オリゴラベリングシステム等)。
【0048】
本発明の検出剤は、任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明の検査薬は、検出剤を固定化した基板(例えばプローブを固定化したマイクロアレイチップ等。)の形態として提供することができる。
【0049】
固定化に使用される固相は、ポリヌクレオチド等を固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相への検出剤の固定は、特に制限されない。固定方法は、例えばマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製など)を利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である〔例えば、photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等〕。
【0050】
プライマーやプローブ等は、対象バイオマーカーやそれに由来する核酸等を選択的に(特異的に)認識するものであれば、特に限定されない。ここで、「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、対象バイオマーカーが特異的に検出できること、またRT-PCR法においては対象バイオマーカー若しくはそれに由来する核酸(cDNA等)が特異的に増幅されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または増幅物が対象バイオマーカーに由来するものであると判断できるものであればよい。
【0051】
プライマーやプローブの具体例としては、下記(a)に記載するポリヌクレオチド並びに下記(b)に記載するポリヌクレオチド:
(a)対象バイオマーカーが有する塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/若しくは当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、並びに
(b)対象バイオマーカーが有する塩基配列若しくはそれに相補的な塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0052】
相補的なポリヌクレオチド又は相補的な塩基配列(相補鎖、逆鎖)とは、対象バイオマーカーの塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチド又は塩基配列を意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0053】
プライマーやプローブ等は、例えば対象バイオマーカーが有する塩基配列をもとに、例えば各種設計プログラムを利用して設計することができる。具体的には前記対象バイオマーカーの塩基配列を設計プログラムにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含む配列を、プライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0054】
プライマーやプローブ等の塩基長は、上述のように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであれば特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。塩基長としては、例えばプライマーとして用いる場合であれば、例えば15塩基~35塩基が例示でき、例えばプローブとして用いる場合であれば、例えば15塩基~35塩基が例示できる。
【0055】
本発明の検査薬には、本発明の検出剤以外の、他の検出剤(例えば、他の核酸を検出するためのプローブや、抗体等)が含まれていてもよい。この場合の本発明の検査薬は、全身性エリテマトーデスの他に、他の疾患や状態も検査することができる検査薬であってもよい。この場合、本発明の検出剤は、全身性エリテマトーデス検査用の検出剤として含まれている。この観点から、本発明の検査薬は、その一態様において、本発明の検出剤からなる全身性エリテマトーデス検査用検出剤を含む、全身性エリテマトーデスの検査薬である。
【0056】
本発明の検査薬は、組成物の形態であってもよい。該組成物には、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0057】
本発明の検査薬は、キットの形態であってもよい。該キットには、上記検出剤或いはこれを含む上記組成物のほかに、被検体の腸内細菌含有試料における対象バイオマーカーの検出に使用し得るものを含んでいてもよい。このようなものの具体例としては、各種試薬(例えば核酸抽出試薬、緩衝液等)、器具(例えば腸内細菌含有試料の精製、分離用器具)等が挙げられる。
【0058】
5.全身性エリテマトーデスの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法
本発明は、その一態様において、被検物質で処理された動物から採取された腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、全身性エリテマトーデスの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法(本明細書において、「本発明の有効成分スクリーニング方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0059】
動物の生物種は特に制限されない。動物の生物種としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギなどの種々の哺乳類動物が挙げられる。
【0060】
被検物質としては、天然に存在する化合物又は人工に作られた化合物を問わず広く使用することができる。また、精製された化合物に限らず、多種の化合物を混合した組成物や、動植物の抽出液も使用することができる。化合物には、低分子化合物に限らず、タンパク質、核酸、多糖類等の高分子化合物も包含される。
【0061】
本発明の有効成分スクリーニング方法は、より具体的には、上記指標の値が、被検物質で処理されていない動物から採取された腸内細菌含有試料における対応バイオマーカーの量又は濃度(対照値)よりも低い場合に、前記被検物質を全身性エリテマトーデスの予防又は治療剤の有効成分(或いは、全身性エリテマトーデスの予防又は治療剤の有効成分の候補物質)として選択する工程を含む。
【0062】
対応バイオマーカーとは、指標としている対象バイオマーカーと同じ細菌を意味する。
【0063】
「低い」とは、例えば指標の値が、対照値の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、1/100であることを意味する。
【0064】
6.全身性エリテマトーデスの誘発性又は増悪性の評価方法
本発明は、その一態様において、被検物質で処理された動物から採取された腸内細菌含有試料における、Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、全身性エリテマトーデスの誘発性又は増悪性の評価方法(本明細書において、「本発明の毒性評価方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0065】
本発明の毒性評価方法は、より具体的には、上記指標の値が、被検物質で処理されていない動物から採取された腸内細菌含有試料における対応バイオマーカーの量又は濃度(対照値)よりも高い場合に、前記被検物質を全身性エリテマトーデスの誘発性又は増悪性があると判定する工程を含む。
【0066】
対応バイオマーカーとは、指標としている対象バイオマーカーと同じ細菌を意味する。
【0067】
「高い」とは、例えば指標の値が、対照値の2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍であることを意味する。
【実施例0068】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0069】
試験例1.全身性エリテマトーデスのバイオマーカーのスクリーニング
発明者はショットガンシークエンスによって得られる膨大な細菌叢のゲノム情報(メタゲノム)に対して、系統解析、遺伝子解析、及びパスウェイ解析の3つを軸に網羅的な解析を行う独自のパイプラインを構築した。メタゲノム解析パイプラインにおいては、まず、全身性エリテマトーデス患者47名及び健常者203名の糞便サンプルを回収、ビーズ法によって溶菌し、DNAを抽出した。Hiseq3000を用いた150bpのペアエンドシークエンスにより、1サンプルあたり平均6.3Gbのシークエンスリードを得た。
【0070】
シーケンスリードの品質管理は次のようにして行った。データセットの品質を最大限に高めるために、一連の品質管理ステップを実行した。品質管理プロセスの主な手順は次の通りである:(i) 低品質な塩基のトリミング、(ii) ヒトのリードの識別とマスキング、(iii) 重複リードの除去。重複リードのマークは、PRINSEQ-lite(バージョン0.20.4、パラメータ:-derep 1)を用いて行った。Trimmomatic (version 0.39; parameters: ILLUMINACLIP:TruSeq3-PE-2.fa:2:30:10:8:true LEADING:20 TRAILING:20 SLIDINGWINDOW:3:15 MINLEN:60)を用いて、生のリードをトリミングし、Illuminaアダプターをクリップし、両端の低品質な塩基をカットした。トリミング後の長さが60bp未満のリードは破棄した。次に、同じ配列を持つ重複したリードのうち、最長のリードのみを残して重複部分の除去を行った。最終的には、bowtie2(バージョン2.3.5)のデフォルトパラメータとBMTagger(バージョン3.101)を用いて、品質フィルタリングされたリードをヒト参照ゲノム(hg38)にアライメントした。いずれのツールでもペアエンドの両方が揃わなかったリードのみを残した。
【0071】
メタゲノムの分類学的アノテーションの効率と精度を向上させるために、キュレートされたリファレンスメタゲノムを使用した。既報において構築された日本人集団のリファレンスメタゲノムを、ヒト腸内細菌プロジェクトから同定されたメタゲノムと組み合わせた。50本以上の参照ゲノムを持つ種にアノテーションされたゲノムにフィルターをかけた結果、7,881本のゲノムからなる分類学上の参照ゲノムデータセットが得られた。フィルタリングされたペアエンドリードは、デフォルトのパラメータでbowtie2を用いて参照ゲノムデータセットにアラインメントされた。マルチプルマップされたリードに関しては、アラインメントスコアによって可能な限り最適なアラインメントのみが選択された。各ゲノムにマッピングされたリードの数を、ゲノムの長さで割った。各ゲノムの値を各サンプルごとに合計し、6つのレベル(L2:門、L3:階級、L4:目、L5:科、L6:属、L7:種)で各クレードの相対的な組成割合を算出した。そして、PCAにより外れ値のサンプルを検出した。一方、遺伝子およびパスウェイ解析では、各リードに対してde novo アセンブリを行い、可及的に長鎖の塩基配列(コンティグ)を作成した。コンティグ中の遺伝子をコードしている領域を同定し、サンプル間で類似している領域のクラスタリングを施行した。公共のデータベースに登録された遺伝子や蛋白単位でのアミノ酸配列情報やパスウェイ情報に照合することで、各サンプルに含まれる遺伝子配列の相対量を網羅的に算出した。上記より得た微生物の組成割合、遺伝子の相対量に対してケースコントロール解析を施行し、バイオマーカーとして2個の菌種を同定した(Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermedius)。
【0072】
これらのバイオマーカーを用いて、年齢と性別を調製した回帰式(細菌~SLE + 年齢+ 性別+ Dataset + 細菌主成分(PC1~PC25))で線形回帰を行い、全身性エリテマトーデスの項のWald統計量に対して検定を行った結果、これらのバイオマーカーは全身性エリテマトーデスの診断に有意に寄与することが分かった。
【0073】
【0074】
表1に、Effect size、標準誤差(SE)、及びP-value(P)を示す。
【0075】
【0076】
なお、サンプルとして男性サンプルを除外した場合や各種薬剤使用者サンプルを除外した場合でも、表1に示される2種の細菌と全身性エリテマトーデスとの関連が確認できた。
【0077】
Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermedius共に、全身性エリテマトーデスにおける組成割合が、健常者における組成割合より高かった(Streptococcus anginosus:2.9倍、Streptococcus intermedius:2.2倍)。
【0078】
Streptococcus anginosus、及びStreptococcus intermediusを組み合わせて全身性エリテマトーデス診断した場合の、受信者動作特性(ROC)曲線を作成したところ、AUCは0.79(95%信頼区間0.73~0.86)であった。