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特開2023-20865非水電解液及びこれを備える非水電解質二次電池
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  • 特開-非水電解液及びこれを備える非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020865
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】非水電解液及びこれを備える非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230202BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230202BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230202BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230202BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230202BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062673
(22)【出願日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021123363
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】青木 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】清森 歩
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴一
(72)【発明者】
【氏名】大沢 祐介
(72)【発明者】
【氏名】金里 脩平
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ13
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】向上した電池サイクル特性を実現可能な非水電解液、及びこの非水電解液を含む非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】非水溶媒と、前記非水溶媒中に溶解した電解質塩と、下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは、炭素数2~20のアルケニル基であり、Rは、炭素数8~20の置換又は非置換のアリールエチニル基であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基であり、Rは、炭素数2~20のアルキニル基である。また、l及びmは、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nは、0~2の整数を表し、かつ、l、m及びnは、2≦l+m+n≦4を満たす整数である。)
で示されるシラン化合物とを含むものであることを特徴とする非水電解液。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒と、
前記非水溶媒中に溶解した電解質塩と、
下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは、炭素数2~20のアルケニル基であり、Rは、炭素数8~20の置換又は非置換のアリールエチニル基であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基であり、Rは、炭素数2~20のアルキニル基である。また、l及びmは、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nは、0~2の整数を表し、かつ、l、m及びnは、2≦l+m+n≦4を満たす整数である。)
で示されるシラン化合物と
を含むものであることを特徴とする非水電解液。
【請求項2】
前記一般式(1)で示されるシラン化合物は、前記一般式(1)におけるRの置換アリールエチニル基が、アリール基の水素原子の一部又は全部が、炭素数1~6の炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、又はハロゲン原子で置換された炭素数8~20のアリールエチニル基であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
前記一般式(1)で示されるシラン化合物は、前記一般式(1)におけるl及びmが、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nが、0~1の整数を表し、かつ、l、m及びnが、l+m+n=4を満たす整数のものであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項4】
前記非水電解液中における前記シラン化合物の含有量が、0.1質量%~5.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液。
【請求項5】
正極及び負極と共に非水電解液を備える非水電解質二次電池であって、
前記非水電解液が請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解液であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記負極は負極活物質粒子を含み、前記負極活物質粒子は、LiSiOを含み、かつ炭素層で被覆されたケイ素酸化物粒子を含有し、前記LiSiOは結晶質のものを含むことを特徴とする請求項5に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記負極活物質粒子は、前記負極活物質粒子を充放電する前において、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因するピークを有し、該結晶面に対応する結晶子サイズは5.0nm以下であり、かつ、LiSiO(111)結晶面に起因するピークの強度Bに対する前記Si(111)結晶面に起因するピークの強度Aの比率A/Bは、下記式(2)
0.4≦A/B≦1.0 ・・・(2)
を満たすものであることを特徴とする請求項6に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液及びこれを備える非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で、高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は、小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極及び負極、並びにセパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素系活物質が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上のために、負極活物質材料としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材料としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。また、負極活物質形状は、炭素系活物質では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質の表層近傍で割れやすくなる。また、負極活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、負極活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費され、サイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成について様々な検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いてケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば、特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材料)を設けている(例えば、特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば、特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
また、ケイ素活物質の充放電に伴う電解液の分解反応を抑制する電解液添加剤として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を用いる報告がある(例えば、特許文献5参照)。フッ素系電解液は、ケイ素表面に安定したSolid Electrolyte Interphase(SEI)膜を形成する事から、ケイ素材の劣化を抑制する事が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001-185127号公報
【特許文献2】特開2002-042806号公報
【特許文献3】特開2006-164954号公報
【特許文献4】特開2006-114454号公報
【特許文献5】特開2006-134719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は、高性能化、多機能化が進んでおり、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれている。そこで、フッ素系の添加剤が開発され、電池特性は改善する傾向であったが、充放電を繰り返すことによりフッ素系溶媒は消費され、ケイ素材の表面に堆積する電解液分解物が増加し、可逆に動くリチウムが分解物に取り込まれる形で失活してしまい、電池サイクル特性が悪化するだけでなく、スウェリング現象による電池セルの膨張が起こるなど、炭素系活物質を使用した電池特性と比べ、十分でなかった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、向上した電池サイクル特性を実現可能な非水電解液、及びこの非水電解液を含む非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、非水溶媒と、
前記非水溶媒中に溶解した電解質塩と、
下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは、炭素数2~20のアルケニル基であり、Rは、炭素数8~20の置換又は非置換のアリールエチニル基であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基であり、Rは、炭素数2~20のアルキニル基である。また、l及びmは、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nは、0~2の整数を表し、かつ、l、m及びnは、2≦l+m+n≦4を満たす整数である。)
で示されるシラン化合物と
を含むものであることを特徴とする非水電解液を提供する。
【0014】
このように少なくとも1つ以上のアルケニル基と少なくとも1つ以上のアリールエチニル基とを併せ持ったシラン化合物は、充電時に負極表面上で分解されて良質な被膜を形成することができる。特に、ケイ素系負極活物質を構成するLiシリケート部の反応を安定化することが可能となり、良質な被膜が形成される。そして、ケイ素系負極材料を構成するLiSiOとの反応を抑制するだけでなく、充放電を繰り返すことにより、LiSiOが変換し形成されるLiSiOとも安定した被膜形成が可能となる。その結果、電池のサイクル特性が向上すると共に、電池膨れが抑制される。
【0015】
前記一般式(1)で示されるシラン化合物は、前記一般式(1)におけるRが、非置換のアリールエチニル基、又はアリール基の水素原子の一部又は全部が、炭素数1~6の炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、又はハロゲン原子で置換された炭素数8~20のアリールエチニル基であることが好ましい。
【0016】
このようなシラン化合物を含むものであれば、電池のサイクル特性を向上させると共に、電池膨れを抑制することができる。
【0017】
前記一般式(1)で示されるシラン化合物は、前記一般式(1)におけるl及びmが、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nが、0~1の整数を表し、かつ、l、m及びnが、l+m+n=4を満たす整数のものであることが好ましい。
【0018】
このようなシラン化合物を含むものであれば、電池特性をより十分に向上させることができる。
【0019】
前記非水電解液中における前記シラン化合物の含有量が、0.1質量%~5.0質量%であることが好ましい。
【0020】
このような濃度でシラン化合物を含むものであれば、電池特性をより十分に向上させることができる。
【0021】
また、本発明では、正極及び負極と共に非水電解液を備える非水電解質二次電池であって、
前記非水電解液が本発明の非水電解液であることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0022】
このような非水電解質二次電池は、本発明の非水電解液を含むので、向上したサイクル特性を示すことができると共に、電池膨れを抑制することができる。
【0023】
前記負極は負極活物質粒子を含み、前記負極活物質粒子は、LiSiOを含み、かつ炭素層で被覆されたケイ素酸化物粒子を含有し、前記LiSiOは結晶質のものを含むことが好ましい。
【0024】
このような非水電解質二次電池であれば、より高い容量及びより向上したサイクル特性を示すことができると共に、電池膨れを十分に抑制することができる。
【0025】
この場合、前記負極活物質粒子は、前記負極活物質粒子を充放電する前において、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因するピークを有し、該結晶面に対応する結晶子サイズは5.0nm以下であり、かつ、LiSiO(111)結晶面に起因するピークの強度Bに対する前記Si(111)結晶面に起因するピークの強度Aの比率A/Bは、下記式(2)
0.4≦A/B≦1.0 ・・・(2)
を満たすものであることが好ましい。
【0026】
このような負極活物質粒子は、LiSiOからLiSiOへの変換のし易さを損なわずに、高いスラリー安定性を示すことができる。そのため、このような負極活物質粒子を含む非水電解質二次電池であれば、より優れた電池特性を示すことができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明の非水電解液であれば、向上した電池サイクル特性を実現できると共に、電池膨れを抑制することができる。
【0028】
特に、本発明の非水電解液であれば、ケイ素系負極材料を用いた非水電解質二次電池においても十分な電池サイクル特性を実現できる。
【0029】
また、本発明の非水電解質二次電池であれば、向上した電池サイクル特性を実現することができると共に、電池膨れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の非水電解質二次電池の一例を示す概略分解図である。
図2】本発明の非水電解質二次電池が備えることができる負極の一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
上述のように、向上した電池サイクル特性を実現可能な非水電解液、及びこの非水電解液を含む非水電解質二次電池の開発が求められていた。
【0032】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、少なくとも1つ以上のアルケニル基と少なくとも1つ以上のアリールエチニル基とを有するシラン化合物を含む非水電解液を用いることにより、上記目的を達成し得ることを知見し、本発明を完成した。
【0033】
即ち、本発明は、非水溶媒と、
前記非水溶媒中に溶解した電解質塩と、
下記一般式(1)
【化2】
(一般式(1)中、Rは、炭素数2~20のアルケニル基であり、Rは、炭素数8~20の置換又は非置換のアリールエチニル基であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基であり、Rは、炭素数2~20のアルキニル基である。また、l及びmは、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nは、0~2の整数を表し、かつ、l、m及びnは、2≦l+m+n≦4を満たす整数である。)
で示されるシラン化合物と
を含むものであることを特徴とする非水電解液である。
【0034】
また、本発明は、正極及び負極と共に非水電解液を備える非水電解質二次電池であって、
前記非水電解液が本発明の非水電解液であることを特徴とする非水電解質二次電池である。
【0035】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
[非水電解液]
本発明の非水電解液は、下記一般式(1)で示されるシラン化合物であって、少なくとも1つ以上のアルケニル基と少なくとも1つ以上のアリールエチニル基とを有するシラン化合物(以下、「化合物(1)」という。)を含有する。
【0037】
【化3】
【0038】
以下、化合物(1)をより詳細に説明する。
【0039】
一般式(1)において、Rは、炭素数2~20、好ましくは2~10、より好ましくは2~5のアルケニル基である。
【0040】
のアルケニル基の具体例としては、ビニル基、n-プロペニル基、n-ブテニル基、n-ペンテニル基、n-ヘキセニル基、n-ヘプテニル基、n-オクテニル基、n-ノネニル基、n-デセニル基、n-ウンデセニル基、n-ドデセニル基などの直鎖状アルケニル基;イソプロペニル基、イソブテニル基、イソペンテニル基、イソヘキセニル基、イソヘプテニル基、イソオクテニル基、イソノニル基、イソデセニル基、イソウンデシル基などの分岐状アルケニル基が挙げられる。
【0041】
これらの中でも、電池特性を十分に向上させるという観点から、ビニル基、n-プロペニル基が好ましい。
【0042】
アルケニル基は、充電時に負極表面上において分解され、良質な被膜となる。この被膜は、非水電解液と電極活物質との間の直接の接触を抑制して非水溶媒や溶質の分解を防ぎ、電池性能の劣化を抑制する。
【0043】
一般式(1)において、Rは、炭素数8~20、好ましくは8~16、より好ましくは8~12の置換又は非置換のアリールエチニル基である。
【0044】
の非置換のアリールエチニル基の具体例としては、フェニルエチニル基、1-ナフチルエチニル基、2-ナフチルエチニル基、1-アントラセニルエチニル基、2-アントラセニルエチニル基、9-アントラセニルエチニル基などの非置換のアリールエチニル基が挙げられる。
【0045】
また、Rのアリールエチニル基におけるアリール基の水素原子の一部又は全部は、炭素数1~6、好ましくは1~3の炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよく、該炭化水素基の例としては、具体的には、メチル基、エチル基等の炭素数1~6、好ましくは1~3のアルキル基;ビニル基、n-プロペニル基などの炭素数2~6、好ましくは2~4のアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基などの炭素数2~6、好ましくは2~4のアルキニル基が挙げられる。該アルコキシ基の例としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピオキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1~6、好ましくは1~3のアルコキシ基が挙げられ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。該ハロゲン原子の例としては、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは、フッ素原子である。
【0046】
の炭化水素基で置換されたアリールエチニル基の具体例としては、2-メチルフェニルエチニル基、3-メチルフェニルエチニル基、4-メチルフェニルエチニル基、2-エチルフェニルエチニル基、3-エチルフェニルエチニル基、4-エチルフェニルエチニル基、3-アセナフテニルエチニル基、4-アセナフテニルエチニル基、5-アセナフテニルエチニル基などのアリール基の水素原子がアルキル基で置換されたアリールエチニル基;2-ビニルフェニルエチニル基、3-ビニルフェニルエチニル基、4-ビニルフェニルエチニル基などのアリール基の水素原子がアルケニル基で置換されたアリールエチニル基;2-エチニルフェニルエチニル基、3-エチニルフェニルエチニル基、4-エチニルフェニルエチニル基などのアリール基の水素原子がアルキニル基で置換されたアリールエチニル基などが挙げられる。
【0047】
のアルコキシ基で置換されたアリールエチニル基の具体例としては、2-メトキシフェニルエチニル基、3-メトキシフェニルエチニル基、4-メトキシフェニルエチニル基、2-エトキシフェニルエチニル基、3-エトキシフェニルエチニル基、4-エトキシフェニルエチニル基、2,3-ジメトキシフェニルエチニル基、2,4-ジメトキシフェニルエチニル基、2,5-ジメトキシフェニルエチニル基、2,6-ジメトキシフェニルエチニル基、3,4-ジメトキシフェニルエチニル基、3,5-ジメトキシフェニルエチニル基などが挙げられる。
【0048】
のハロゲン原子で置換されたアリールエチニル基の具体例としては、2-フルオロフェニルエチニル基、3-フルオロフェニルエチニル基、4-フルオロフェニルエチニル基、2-クロロフェニルエチニル基、3-クロロフェニルエチニル基、4-クロロフェニルエチニル基、2-ブロモフェニルエチニル基、3-ブロモフェニルエチニル基、4-ブロモフェニルエチニル基、2-ヨードフェニルエチニル基、3-ヨードフェニルエチニル基、4-ヨードフェニルエチニル基、2,3-ジフルオロフェニルエチニル基、2,4-ジフルオロフェニルエチニル基、2,5-ジフルオロフェニルエチニル基、2,6-ジフルオロフェニルエチニル基、3,4-ジフルオロフェニルエチニル基、3,5-ジフルオロフェニルエチニル基などが挙げられる。
【0049】
これらの中でも、電池特性を十分に向上させるという観点から、フェニルエチニル基などの非置換のアリールエチニル基、4-メチルフェニルエチニル基、4-エチルフェニルエチニル基などのアルキル基で置換されたアリールエチニル基、4-メトキシフェニルエチニル基、4-エトキシフェニルエチニル基などのアルコキシ基で置換されたアリールエチニル基、4-フルオロフェニルエチニル基、4-ブロモフェニルエチニル基、4-クロロフェニルエチニル基、4-ヨードフェニルエチニル基などのハロゲン原子で置換されたアリールエチニル基が好ましい。
【0050】
アリールエチニル基は、充電時に負極表面上において分解され、良質な被膜となる。この被膜は、非水電解液と電極活物質との間の直接の接触を抑制して非水溶媒や溶質の分解を防ぎ、電池性能の劣化を抑制する。また、アリールエチニル基におけるアリール基は、化合物の最低空軌道(LUMO)準位を下げる効果が大きい。このため、アリールエチニル基を有する化合物は、充電時に負極表面上で比較的分解されやすく、良質な被膜を形成しやすい。
【0051】
一般式(1)において、Rは、炭素数1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~4のアルキル基である。
【0052】
のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基などの直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、tert-オクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基などの分岐状アルキル基が挙げられる。
【0053】
これらの中でも、電池特性を十分に向上させるという観点から、メチル基、エチル基、n-プロピル基が好ましい。
【0054】
一般式(1)において、Rは、炭素数2~20、好ましくは2~10、より好ましくは2~5のアルキニル基を表す。
【0055】
のアルキニル基の具体例としては、エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基、1-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、1-ヘプチニル基、1-オクチニル基、1-ノニニル基、1-デシニル基、1-ウンデシニル基、1-ドデシニル基などの直鎖状アルキニル基;3-メチル-1-ブチニル基、3,3-ジメチル-1-ブチニル基、3-メチル-1-ペンチニル基、4-メチル-1-ペンチニル基、3,3-ジメチル-1-ペンチニル基、3,4-メチル-1-ペンチニル基、4,4-ジメチル-1-ペンチニル基などの分岐状アルキニル基が挙げられる。
【0056】
これらの中でも、電池特性を十分に向上させるという観点から、エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基が好ましい。
【0057】
一般式(1)において、l及びmは、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nは、0~2の整数を表し、l、m及びnは、2≦l+m+n≦4を満たす整数である。電池特性を十分に向上させるという観点から、一般式(1)において、l及びmが、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nが、0~1を表し、かつ、l、m及びnが、l+m+n=4を満たす整数であることが好ましい。
【0058】
このように少なくとも1つ以上のアルケニル基と少なくとも1つ以上のアリールエチニル基とを併せ持った化合物(1)は、充電時に負極表面上で分解されて良質な被膜を形成する。特にケイ素系負極活物質を構成するLiシリケート部の反応を安定化することが可能となり、良質な被膜が形成される。そして、ケイ素系負極材料を構成するLiSiOとの反応を抑制するだけでなく、充放電を繰り返すことにより、LiSiOが変換し形成されるLiSiOとも安定した被膜形成が可能となる。その結果、電池のサイクル特性が向上すると共に、電池膨れが抑制される。
【0059】
化合物(1)の具体例としては、フェニルエチニルトリビニルシラン、ビス(フェニルエチニル)ジビニルシラン、トリス(フェニルエチニル)ビニルシラン、4-メチルフェニルエチニルトリビニルシラン、ビス(4-メチルフェニルエチニル)ジビニルシラン、トリス(4-メチルフェニルエチニル)ビニルシラン、4-メトキシフェニルエチニルトリビニルシラン、ビス(4-メトキシフェニルエチニル)ジビニルシラン、トリス(4-メトキシフェニルエチニル)ビニルシラン、4-フルオロフェニルエチニルトリビニルシラン、ビス(4-フルオロフェニルエチニル)ジビニルシラン、トリス(4-フルオロフェニルエチニル)ビニルシラン、フェニルエチニルメチルジビニルシラン、ビス(フェニルエチニル)メチルビニルシラン、4-メチルフェニルエチニルメチルジビニルシラン、ビス(4-メチルフェニルエチニル)メチルビニルシラン、4-メトキシフェニルエチニルメチルジビニルシラン、ビス(4-メトキシフェニルエチニル)メチルビニルシラン、4-フルオロフェニルエチニルメチルジビニルシラン、ビス(4-フルオロフェニルエチニル)メチルビニルシラン、フェニルエチニルジメチルビニルシラン、4-メチルフェニルエチニルジメチルビニルシラン、4-メトキシフェニルエチニルジメチルビニルシラン、4-フルオロフェニルエチニルジメチルビニルシラン、エチニルフェニルエチニルメチルビニルシラン、エチニル-4-メチルフェニルエチニルメチルビニルシラン、エチニル-4-メトキシフェニルエチニルメチルビニルシラン、エチニル-4-フルオロフェニルエチニルメチルビニルシランなどが挙げられる。
【0060】
なお、上記一般式(1)で示されるシラン化合物は、例えば、ビニルハロシランと、アリールエチニルマグネシウムハライド又はアリールエチニルリチウムとを反応させることにより得られる。
【0061】
前記非水電解液中における前記化合物(1)の含有量は、電池性能を十分に向上させる観点から、好ましくは0.1質量%~5.0質量%、より好ましくは0.1質量%~4.0質量%、更に好ましくは0.1質量%~2.0質量%である。
【0062】
本発明の非水電解液は、上記化合物(1)に加え、非水溶媒と、非水溶媒中に溶解した電解質塩とを更に含むものである。本発明の非水電解液は、添加剤として他の材料を含んでいても良い。
【0063】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、より良い特性が得られる観点から、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。また、この場合、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの高粘度溶媒と、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、電解質塩の解離性やイオン移動度が向上して、より優位な特性を得ることができる。
【0064】
ケイ素系負極材料を含む合金系負極を用いる場合、特に非水溶媒として、ハロゲン化鎖状炭酸エステル又はハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において、負極活物質表面に安定な被膜が形成される。ここで、ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。また、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(すなわち、少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0065】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、他のハロゲンよりも良質な被膜を形成する観点から、フッ素が好ましい。また、ハロゲン数は、得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応の低減から、多いほど望ましい。
【0066】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルとしては、例えば、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネートなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンなどが挙げられる。
【0067】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などが挙げられる。
【0068】
電解質塩の含有量は、高いイオン伝導性が得られる観点から、非水溶媒に対して好ましくは0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下、より好ましくは0.8mol/kg以上2.0mol/kg以下、更に好ましくは0.8mol/kg以上1.5mol/kg以下である。
【0069】
本発明の非水電解液には、化合物(1)以外の添加剤として、例えば、不飽和炭素結合環状炭酸エステル、スルトン(環状スルホン酸エステル)及び酸無水物を含むことができる。
【0070】
不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、充放電時における負極表面の安定な被膜形成の観点から、及び非水電解液の分解反応抑制の観点から含むことができ、例えば、ビニレンカーボネート又はビニルエチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0071】
また、スルトンは、電池の化学的安定性の向上の観点から含むことができ、例えば、プロパンスルトン、プロペンスルトンなどが挙げられる。
【0072】
さらに、酸無水物は、電解液の化学的安定性の向上の観点から含むことができ、例えば、プロパンジスルホン酸無水物などが挙げられる。
【0073】
非水電解液中の化合物(1)の定性及び定量分析は、例えば、ガスクロマトグラフィ-質量分析法(GC/MS)等によって行うことができる。
【0074】
[非水電解質二次電池]
本発明の非水電解質二次電池は、上記非水電解液の他に、正極及び負極を備える。すなわち、先に説明した本発明の非水電解液は、非水電解質二次電池用非水電解液として用いることができる。
【0075】
以下、本発明の非水電解質二次電池が備えることができる正極及び負極について説明する。
【0076】
[正極]
正極は、例えば、正極集電体の両面または片面に正極活物質層を有する構成になっている。
【0077】
ここで、正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成されている。
【0078】
一方、正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、結着剤、導電助剤は、例えば、後述の負極結着剤、負極導電助剤と同様のものを用いることができる。
【0079】
正極材料としては、高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性を得られる観点から、例えば、リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物又はリチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物などのリチウム含有化合物が挙げられる。
【0080】
遷移金属元素としては、ニッケル、鉄、マンガン、コバルトが好ましく、前記リチウム含有化合物は、これらの遷移金属元素を少なくとも1種以上を有する化合物である。
【0081】
リチウム含有化合物の化学式としては、例えば、LiM1OあるいはLiM2POで表される。式中、M1及びM2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。a及びbの値は、電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦a≦1.10、0.05≦b≦1.10を満たす数である。
【0082】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物の具体例としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物;NCA、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物+NCM)などが挙げられる。
【0083】
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物の具体例としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO)、リチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnPO、但し、0<u<1)などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量を得ることができるとともに、優れたサイクル特性も得ることができる。
【0084】
[負極]
負極は、例えば、負極集電体の上に負極活物質層を有する構成になっている。この負極活物質層は、負極集電体の両面又は片面だけに設けられていてもよい。
【0085】
[負極集電体]
負極集電体は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けたもので構成される。負極集電体に用いることができる導電性材料として、例えば、銅(Cu)やニッケル(Ni)が挙げられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0086】
負極集電体は、負極集電体の物理的強度向上の観点から、前記銅(Cu)やニッケル(Ni)以外に、炭素(C)や硫黄(S)を含むことが好ましい。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含むことにより、集電体を含む電極変形を抑制する効果を有する。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、より高い変形抑制効果が得られる観点から、それぞれ100質量ppm以下であることが好ましい。このような変形抑制効果によりサイクル特性をより向上できる。
【0087】
また、負極集電体の表面は粗化されていてもよいし、粗化されていなくてもよい。粗化されている負極集電体としては、例えば、電解処理、エンボス処理又は化学エッチング処理された金属箔などである。粗化されていない負極集電体としては、例えば、圧延金属箔などである。
【0088】
[負極活物質層]
負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵(挿入)及び放出可能な負極活物質を含むことができ、負極活物質は、負極活物質粒子を含むことができる。負極活物質粒子は、例えば、酸素が含まれるケイ素化合物を含有するケイ素化合物粒子(ケイ素酸化物粒子)を含む。
【0089】
負極活物質は、ケイ素化合物粒子(ケイ素系負極活物質)を含み、ケイ素化合物粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有する酸化ケイ素材が好ましい。このケイ素化合物であるSiOを構成するケイ素と酸素の組成比であるxは、サイクル特性、ケイ素酸化物の抵抗の観点から、0.8≦x≦1.2を満たす数であることが好ましい。中でも、SiOの組成はxが1に近い方が、高いサイクル特性が得られるため好ましい。
【0090】
なお、本発明におけるケイ素化合物の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいてもよい。
【0091】
ケイ素化合物は、結晶性Siを極力含まないことが好ましい。結晶性Siを極力含まないことにより、電解液との反応性が高くなり過ぎることを防ぐことができ、その結果、電池特性が悪化するのを防ぐことができる。実質的には非晶質が好ましい。
【0092】
ケイ素化合物はLiを含んでおり、その一部がシリケートとしてLiSiOになっていることが好ましい。このLiSiOは結晶質のものを含むが、充放電に対して活性であり、スラリー状態ではLiSiOのままであるが、充放電を繰り返すことによりLiSiOへ変化する。
【0093】
負極は負極活物質粒子を含み、負極活物質粒子は、LiSiOを含み、かつ炭素層で被覆されたケイ素酸化物粒子を含有し、LiSiOは結晶質のものを含むことが特に好ましい。
【0094】
負極がこのような負極活物質粒子を含むことにより、より高い容量及びより向上したサイクル特性を実現できると共に、電池膨れを十分に抑制することができる。
【0095】
また、LiSiOは、結晶性が高い程、LiSiOに変換し辛くなる。一方、低結晶の場合、スラリーに溶出しやすくなるため、最適な範囲が存在する。
【0096】
具体的には、負極活物質粒子は、負極活物質粒子を充放電する前において、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因するピークを有し、該結晶面に対応する結晶子サイズは5.0nm以下であり、かつ、LiSiO(111)結晶面に起因するピークの強度Bに対するSi(111)結晶面に起因するピークの強度Aの比率A/Bは、下記の式(2)
0.4≦A/B≦1.0 ・・・(2)
を満たすことが好ましい。
【0097】
Liシリケートの肥大化程度、Siの結晶化程度(例えば、Si(111)結晶面に対応する結晶子サイズ)は、X線回折法(X-ray diffraction、以下、「XRD」ともいう。)で確認することができる。
【0098】
X線回折装置としては、Bruker社製のD8 ADVANCEを使用することができる。X線源は、Cu Kα線、Niフィルターを使用して、出力40kV/40mA、スリット幅0.3°、ステップ幅0.008°、1ステップあたり0.15秒の計数時間にて10~40°まで測定する。
【0099】
Si(111)結晶面に起因するピークは、X線回折チャートにおいて、2θ=28.4°付近に現れる。
【0100】
Si(111)結晶面に対応する結晶子サイズは、好ましくは5.0nm以下、より好ましくは4.0nm以下、より好ましくは2.5nm以下である。
【0101】
LiSiO(111)結晶面に起因するピークの強度Bに対するSi(111)結晶面に起因するピークの強度Aの比率A/Bは、好ましくは0.40≦A/B≦1.00、より好ましくは0.45≦A/B≦0.75、さらに好ましくは0.50≦A/B≦0.70である。
【0102】
ここで、LiSiO(111)結晶面に起因するピークは、X線回折チャートにおいて、2θ=17°~21°の範囲に現れる。
【0103】
前記負極活物質のレーザー回折法によるメジアン径は、電解液との反応の制御又は充放電に伴う負極活物質の膨張の抑制の観点から、好ましくは5.0μm以上15.0μm以下、より好ましくは5.5μm以上10.0μm以下、さらに好ましくは6.0μm以上8.0μm以下である。
【0104】
負極活物質層は、前記ケイ素系負極活物質と炭素系活物質とを含む混合負極活物質材料を含んでいても良い。これにより、負極活物質層の電気抵抗が低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。炭素系活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。
【0105】
負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な負極活物質を含んでおり、電池設計上の観点から、さらに、負極結着剤(バインダ)や導電助剤など他の材料を含んでいてもよい。
【0106】
負極結着剤としては、例えば、高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。合成ゴムとしては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエンなどが挙げられる。
【0107】
負極導電助剤としては、例えば、炭素微粒子、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどが挙げられ、これらのいずれか1種以上を用いることができる。
【0108】
負極活物質層は、例えば、塗布法により形成される。塗布法とは、ケイ素系負極活物質と結着剤などに、必要に応じて負極導電助剤、炭素系活物質を混合した後に、有機溶剤や水などに分散させて塗布する方法である。
【0109】
[セパレータ]
本発明の非水電解質二次電池は、セパレータを更に含むこともできる。
【0110】
セパレータは、リチウムメタル又は正極と負極とを隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば、合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0111】
本発明の非水電解質二次電池において、非水電解液は、例えば、正極活物質層の少なくとも一部、負極活物質層の少なくとも一部、及びセパレータの少なくとも一部に含浸され得る。
【0112】
[非水電解質二次電池の構成例]
次に、本発明の非水電解質二次電池の具体例として、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池の例について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明の非水電解質二次電池は、以下の具体例に限定されるものではない。
【0113】
図1に示すラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池10は、主にシート状の外装部材5の内部に電極体1が収納されたものである。この電極体1は正極、負極、及びこれらの間のセパレータを有し、巻回されたものである。また、巻回はせずに、正極、負極、及びこれらの間のセパレータを有した積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード2が取り付けられ、負極に負極リード3が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0114】
負極は、例えば、図2に断面を示す構造を有することができる。図2に示す負極30は、負極集電体31の上に負極活物質層32を有する構成になっている。
【0115】
図示しないが、正極は、負極30と同様に、例えば、正極集電体の上に正極活物質層を有する構成になっている。
【0116】
正極リード2及び負極リード3は、例えば、外装部材5の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード2は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード3は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0117】
外装部材5は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体1と対向するように、2枚のラミネートフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は、例えば、ナイロンなどである。
【0118】
外装部材5と正極リード2及び負極リード3のそれぞれとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム4が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0119】
外装部材5には、本発明の非水電解液が更に収容されている。非水電解液は、電極体1に含まれる正極活物質層の少なくとも一部、負極活物質層32の少なくとも一部、及びセパレータの少なくとも一部に含浸されている。
【実施例0120】
以下、本発明の合成例、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0121】
[シラン化合物]
(合成例1)
撹拌機、滴下漏斗、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、1.4[mol/L]塩化ビニルマグネシウムテトラヒドロフラン溶液500mL(700mmol)を仕込み、室温で攪拌した。そこに、エチニルベンゼン45.3g(443mmol)を滴下し、室温で1時間攪拌した。続いて、トリクロロビニルシラン37.7g(233mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌した。10%塩酸123gを加えた後、分液操作にて水相を除去した。得られた有機相を単蒸留し、沸点180~181℃/0.4kPaの留分としてビス(フェニルエチニル)ジビニルシラン(PEDVS)32.7gを得た。
【0122】
(合成例2)
撹拌機、滴下漏斗、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、387[g/mol]塩化メチルマグネシウムテトラヒドロフラン溶液154.8g(400mmol)、テトラヒドロフラン120mLを仕込み、室温で攪拌した。そこに、エチニルベンゼン40.8g(400mmol)を滴下し、室温で1時間攪拌した。続いて、ジクロロメチルビニルシラン28.2g(200mmol)を滴下し、室温で2時間攪拌した。10%塩酸70.4g、純水12.0gを加えた後、分液操作にて水相を除去した。得られた有機相を単蒸留し、沸点179℃/0.3kPaの留分としてビス(フェニルエチニル)メチルビニルシラン(PEMVS)46.1gを得た。
【0123】
(合成例3)
撹拌機、滴下漏斗、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、387[g/mol]塩化メチルマグネシウムテトラヒドロフラン溶液24.4g(63mmol)、テトラヒドロフラン19mLを仕込み、50℃で攪拌した。そこに、4-エチニルアニソール10.0g(32mmol)を滴下し、50℃で1時間攪拌した。続いて、ジクロロメチルビニルシラン4.5g(32mmol)を滴下し、50℃で2時間攪拌した。純水15.0gを加えた後、分液操作にて水相を除去した。有機相をエバポレーターで濃縮し、固体の粗生成物を得た。その粗生成物を加熱したアセトン5.0gに溶かし、再結晶を行うことによって、ビス(4-メトキシフェニルエチニル)メチルビニルシラン(M-PEMVS)6.8gを得た。
【0124】
(合成例4)
撹拌機、滴下漏斗、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、387[g/mol]塩化メチルマグネシウムテトラヒドロフラン溶液101.5g(263mmol)を仕込み、40℃で攪拌した。そこに、4-フルオロフェニルアセチレン31.5g(263mmol)を滴下し、40℃で1時間攪拌した。続いて、ジクロロメチルビニルシラン18.5g(131mmol)を滴下し、40℃で2時間攪拌した。純水54.0gを加えた後、分液操作にて水相を除去した。得られた有機相を単蒸留し、沸点181℃/0.1kPaの留分としてビス(4-フルオロフェニルエチニル)メチルビニルシラン(F-PEMVS)30.0gを得た。
【0125】
(実施例1)
[負極の作製]
負極集電体として、厚さ15μmの電解銅箔を用いた。この電解銅箔には、炭素及び硫黄がそれぞれ70質量ppm含まれていた。
【0126】
ケイ素系負極活物質粒子として、KSC-7130(LiSiOを含み、かつ炭素層で被覆されたケイ素酸化物粒子;メジアン径6.5μm、信越化学工業社製)を準備した。このケイ素系負極活物質粒子をXRDで分析した。以下の表1に、ケイ素系負極活物質粒子についての、LiSiO(111)結晶面に起因するピーク(2θ=17°~21°の範囲に現れる)の強度Bに対するSi(111)結晶面に起因するピーク(2θ=28.4°付近に現れる)の強度Aの比率A/Bを示す。XRDでの分析の結果、実施例1で準備したケイ素系負極活物質粒子において、Siは、結晶性が低く、実質的に非晶質であった。
【0127】
準備したケイ素系負極活物質粒子、炭素系負極活物質として、人造黒鉛(メジアン径15μm)、負極導電助剤として、カーボンナノチューブ及びメジアン径が約50nmの炭素微粒子、負極結着剤として、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースをそれぞれ9.3:83.7:1:1:4:1の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈して負極合剤スラリーとした。
【0128】
前記負極合剤スラリーを前記負極集電体に塗布して、真空雰囲気中で100℃にて1時間の乾燥を行った。乾燥後の負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度)は、7.0mg/cmであった。
【0129】
[非水電解液の調製]
非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を混合した後、電解質塩として、六フッ化リン酸リチウム:LiPFを溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でEC:DMC=30:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0130】
添加剤として、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビス(フェニルエチニル)ジビニルシラン(上記一般式(1)で示されるシラン化合物;以下、「PEDVS」という。)をそれぞれ、1.0質量%、2.0質量%、0.1質量%添加し、実施例1の非水電解液を調製した。
【0131】
[試験用コイン電池の作製]
次に、以下のようにして試験用コイン電池を組み立てた。
最初に厚さ1mmのLi箔を直径16mmに打ち抜き、アルミクラッドに張り付けた。
上記の方法で得られた負極電極を直径15mmに打ち抜き、セパレータを介してLi箔と向い合せ、上記の方法で得られた非水電解液を注液後、初回効率試験用の非水電解質二次電池である2032コイン電池(直径20.0mm、厚さ3.2mm)を作製した。
【0132】
[初回効率の測定]
まず、作製した初回効率試験用のコイン電池に対し、充電レートを0.03C相当とし、CCCVモードで充電(初回充電)を行った。CVは0Vとし、終止電流は0.04mAとした。次に、放電レートを同様に0.03Cとし、放電終止電圧を1.2Vとして、CC放電(初回放電)を行った。
【0133】
初期充放電特性を調べる場合には、初回効率を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。
【0134】
[非水電解質二次電池の製造]
得られた初期データから、負極の利用率が95%となるように対正極を設計した。利用率は、対極Liで得られた正負極の容量から、下記式に基づいて算出した。
利用率=(正極容量-負極ロス)/(負極容量-負極ロス)×100
この設計に基づいて実施例1の非水電解質二次電池を製造した。
【0135】
[500サイクル後の放電容量維持率]
サイクル特性として、500サイクル後の放電容量維持率を評価した。
最初に電池安定化のため、実施例1の非水電解質二次電池に対し、25℃の雰囲気下、0.2Cで2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。サイクル特性は3サイクル目の放電容量から計算し、500サイクル目まで、充電0.7C、放電0.5Cで充放電を行い、2サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量を500サイクル後の放電容量維持率として求めた。この際、充電電圧は4.3V、放電終止電圧は2.5V、充電終止レートは0.07Cとした。
【0136】
[電池厚さの増加率(スウェリングの評価)]
前記サイクル特性の評価における2サイクル目の放電容量を測定時に、併せて電池の膨張部分の厚さを測定した。その後、3サイクル目から500サイクル目まで上記条件で充放電を行い、500サイクル後の電池の厚さを測定した。そして、2サイクル後の電池の厚さを基準として、500サイクル後の体積増加に伴う電池の厚さの増加率を求めた。
【0137】
なお、電池厚さの増加率は、543436サイズの電池(厚み5.4mm、幅34mm、縦36mm)で評価した。また、厚さは、最も広い面積部分の中央で測定した。
【0138】
(実施例2~実施例6)
添加剤のPEDVSの添加量を下記表1に示すように変化させた以外は実施例1と同様にして、実施例2~実施例6の非水電解液を調製した。また、各非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~実施例6の非水電解質二次電池を作製した。得られた電池について、実施例1と同様に、電池特性の評価を行った。
【0139】
(実施例7)
添加剤のPEDVSをビス(フェニルエチニル)メチルビニルシラン(上記一般式(1)で示されるシラン化合物;以下、「PEMVS」という。)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例7の非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の非水電解質二次電池を作製した。得られた電池について、実施例1と同様に、電池特性の評価を行った。
【0140】
(実施例8~実施例12)
添加剤のPEMVSの添加量を下記表1に示すように変化させた以外は実施例7と同様にして、実施例8~実施例12の非水電解液を調製した。また、各非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8~実施例12の非水電解質二次電池を作製した。得られた電池について、実施例1と同様に、電池特性の評価を行った。
【0141】
(実施例13~実施例18)
ケイ素材料(ケイ素系負極活物質)に追加の熱処理を行い、SiとLiSiOの結晶性をコントロールして電池特性の評価を行った。温度は600~700℃の範囲で調整した。
【0142】
実施例13~18で用いたケイ素系負極活物質粒子を、実施例1で用いたケイ素系負極活物質粒子と同様にXRDで分析した。以下の表1に、各ケイ素系負極活物質粒子についての、LiSiO(111)結晶面に起因するピーク(2θ=17°~21°の範囲に現れる)の強度Bに対するSi(111)結晶面に起因するピーク(2θ=28.4°付近に現れる)の強度Aの比率A/Bを示す。
【0143】
また、Si(111)結晶面に対応する結晶子サイズを、Si(111)結晶面に起因するピークから、Scherrerの式に基づいて算出した。その結果を以下の表1に示す。
【0144】
表1に示した結果から、熱処理温度を上げることにより、Siの結晶化が促進され、電池特性が悪化する傾向を確認した。
【0145】
実施例13~18では、上記のように追加の熱処理を行ったケイ素系負極活物質を用いたこと以外は実施例3と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。得られた電池について、実施例1と同様に、電池特性の評価を行った。
【0146】
(実施例19)
添加剤のPEDVSをビス(4-メトキシフェニルエチニル)メチルビニルシラン(上記一般式(1)で示されるシラン化合物;以下、「M-PEMVS」という。)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例19の非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例19の非水電解質二次電池を作製した。得られた電池について、実施例1と同様に、電池特性の評価を行った。
【0147】
(実施例20~実施例24)
添加剤のM-PEMVSの添加量を下記表1に示すように変化させた以外は実施例19と同様にして、実施例20~実施例24の非水電解液を調製した。また、各非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例20~実施例24の非水電解質二次電池を作製した。得られた電池について、実施例1と同様に、電池特性の評価を行った。
【0148】
(実施例25)
添加剤のPEDVSをビス(4-フルオロフェニルエチニル)メチルビニルシラン(上記一般式(1)で示されるシラン化合物;以下、「F-PEMVS」という。)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例25の非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例25の非水電解質二次電池を作製した。得られた電池について、実施例1と同様に、電池特性の評価を行った。
【0149】
(実施例26~実施例30)
添加剤のF-PEMVSの添加量を下記表1に示すように変化させた以外は実施例25と同様にして、実施例26~実施例30の非水電解液を調製した。また、各非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例26~実施例30の非水電解質二次電池を作製した。得られた電池について、実施例1と同様に、電池特性の評価を行った。
【0150】
(比較例1)
添加剤としてPEDVSを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の非水電解液を調製した。また、この非水電解液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の非水電解質二次電池を作製した。得られた電池について、実施例1と同様に、電池特性の評価を行った。
【0151】
[結果]
実施例1~30及び比較例1で得られた非水電解質二次電池の評価結果を、以下の表1にまとめて示す。
【0152】
【表1】
【0153】
表1に示した結果から、上記式(1)で示されるシラン化合物を含んだ非水電解液を用いて作製した実施例1~30の非水電解質二次電池は、上記シラン化合物を含まない非水電解液を用いて作製した比較例1の非水電解質二次電池よりも、500サイクル後の放電容量維持率が高く、すなわちサイクル特性に優れていたことが分かる。また、実施例1~30の非水電解質二次電池は、比較例1の非水電解質二次電池よりも、電池厚さの増加量を抑えることができ、すなわち電池膨れを抑制することができたことが分かる。
【0154】
また、実施例3と、実施例13~18との結果の比較から、ケイ素系負極活物質粒子のXRDのピーク強度比率A/Bが0.4以上1.0以下であることが好ましく、Si(111)の結晶子サイズは5.0nm以下であることが好ましく、Siが非晶質であることが特に好ましいことが分かる。
【0155】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]非水溶媒と、
前記非水溶媒中に溶解した電解質塩と、
下記一般式(1)
【化4】
(一般式(1)中、Rは、炭素数2~20のアルケニル基であり、Rは、炭素数8~20の置換又は非置換のアリールエチニル基であり、Rは、炭素数1~20のアルキル基であり、Rは、炭素数2~20のアルキニル基である。また、l及びmは、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nは、0~2の整数を表し、かつ、l、m及びnは、2≦l+m+n≦4を満たす整数である。)
で示されるシラン化合物と
を含むものであることを特徴とする非水電解液。
[2]前記一般式(1)で示されるシラン化合物は、前記一般式(1)におけるRの置換アリールエチニル基が、アリール基の水素原子の一部又は全部が、炭素数1~6の炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、又はハロゲン原子で置換された炭素数8~20のアリールエチニル基であることを特徴とする[1]に記載の非水電解液。
[3]前記一般式(1)で示されるシラン化合物は、前記一般式(1)におけるl及びmが、それぞれ独立して1~3の整数を表し、nが、0~1の整数を表し、かつ、l、m及びnが、l+m+n=4を満たす整数のものであることを特徴とする[1]または[2]に記載の非水電解液。
[4]前記非水電解液中における前記シラン化合物の含有量が、0.1質量%~5.0質量%であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の非水電解液。
[5]正極及び負極と共に非水電解液を備える非水電解質二次電池であって、
前記非水電解液が[1]~[4]のいずれか1つに記載の非水電解液であることを特徴とする非水電解質二次電池。
[6]前記負極は負極活物質粒子を含み、前記負極活物質粒子は、LiSiOを含み、かつ炭素層で被覆されたケイ素酸化物粒子を含有し、前記LiSiOは結晶質のものを含むことを特徴とする[5]に記載の非水電解質二次電池。
[7]前記負極活物質粒子は、前記負極活物質粒子を充放電する前において、Cu-Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因するピークを有し、該結晶面に対応する結晶子サイズは5.0nm以下であり、かつ、LiSiO(111)結晶面に起因するピークの強度Bに対する前記Si(111)結晶面に起因するピークの強度Aの比率A/Bは、下記式(2)
0.4≦A/B≦1.0 ・・・(2)
を満たすものであることを特徴とする[6]に記載の非水電解質二次電池。
【0156】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0157】
1…電極体、 2…正極リード、 3…負極リード、 4…密着フィルム、 5…外装部材、 10…リチウムイオン二次電池、 30…負極、 31…負極集電体、 32…負極活物質層。
図1
図2