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特開2023-20889半導体装置、バイオセンサ、バイオセンサアレイおよび論理回路
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020889
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】半導体装置、バイオセンサ、バイオセンサアレイおよび論理回路
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20230202BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20230202BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20230202BHJP
   H10K 85/20 20230101ALI20230202BHJP
【FI】
G01N27/414 301P
G01N27/414 301U
G01N27/414 301V
G01N27/414 301R
H01L29/78 618B
H01L29/28 100A
H01L29/28 250E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087025
(22)【出願日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2021125807
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】須藤 亮太
(72)【発明者】
【氏名】氏本 勝也
【テーマコード(参考)】
5F110
【Fターム(参考)】
5F110BB04
5F110BB09
5F110CC01
5F110DD01
5F110DD05
5F110DD13
5F110EE02
5F110EE04
5F110EE14
5F110EE15
5F110EE25
5F110EE28
5F110EE30
5F110FF01
5F110FF02
5F110FF27
5F110FF29
5F110GG01
5F110GG02
5F110GG25
5F110GG26
5F110GG28
5F110GG29
5F110HK02
5F110HK04
5F110HK21
5F110HK22
5F110NN03
5F110NN05
5F110NN22
5F110NN24
5F110NN27
5F110NN33
5F110NN35
(57)【要約】
【課題】アレイ化された場合であっても、センサ間の特性ばらつきを抑制・制御でき、精度よく測定可能な半導体装置、バイオセンサ、バイオセンサアレイおよび論理回路を提供する。
【解決手段】第1のゲート電極と、輸送特性における基準電圧を制御する第2のゲート電極上に設けられる第1の絶縁手段と、前記第1の絶縁手段と接続されたソース電極と、前記第1の絶縁手段と接続されたドレイン電極と、前記第1の絶縁手段上における前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に設けられ、試料と接触可能な接触部と、を備え、前記試料は、前記第1のゲート電極と接触可能であり、前記試料は、前記接触部に対して前記第1の絶縁手段と対向する面において、前記接触部と接触する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のゲート電極と、
輸送特性における基準電圧を制御する第2のゲート電極上に設けられる第1の絶縁手段と、
前記第1の絶縁手段と接続されたソース電極と、
前記第1の絶縁手段と接続されたドレイン電極と、
前記第1の絶縁手段上における前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に設けられ、試料と接触可能な接触部と、
を備え、
前記試料は、前記第1のゲート電極と接触可能であり、
前記試料は、前記接触部に対して前記第1の絶縁手段と対向する面において、前記接触部と接触する、
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記接触部は、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間のチャネルを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記接触部は、前記試料に含まれる所定の物質と相互作用可能な受容手段を有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記受容手段は、前記チャネル上に設けられる、
ことを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記受容手段は、前記物質の分子型を有する分子鋳型である、
ことを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記チャネルは、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、または多数のCNTからなるCNTネットワークの何れかを含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第2のゲート電極は、基板上に設けられ、
前記第1のゲート電極は、前記第2のゲート電極が設けられた前記基板上に設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第2のゲート電極の幅は、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の距離以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか一項に記載の半導体装置を備え、
試料に含まれる所定の物質の濃度に応じた接触部の電荷の変化による特性変化を利用することで前記物質の検出を行う、
ことを特徴とするバイオセンサ。
【請求項10】
請求項9に記載のバイオセンサを複数組み合わせる、
ことを特徴とするバイオセンサアレイ。
【請求項11】
請求項1ないし8の何れか一項に記載の半導体装置を複数組み合わせる、
ことを特徴とする論理回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、バイオセンサ、バイオセンサアレイおよび論理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なセンサの研究開発がなされており、センサは工業的なものから医学的なものまで、或いは一般家庭にまで広く浸透しており、現代社会において欠くことのできない存在となっている。センサは、例えば測定対象、信号変換機能、又は構成材料等により分類され、信号変換機能は、物理センサ、化学センサ、又はバイオセンサに大別することができる。
【0003】
この中で、バイオセンサは、生体のもつ優れた分子認識能力を模倣、又は直接利用した計測デバイスであって、幅広い応用の可能性が予想され、注目されている。
【0004】
例えば、電界効果型トランジスタ(FET)を利用したバイオセンサは、チャネルの電荷量が標的物質の濃度に応じて変化することを利用してセンシングができ、簡便にセンシング可能であることから近年注目を集めている。より微量なセンシングを可能にするため、チャネル材料に高い電界効果移動度を持ち、かつ表面積が広いグラフェン等の原子層材料やカーボンナノチューブ(CNT)等の微細繊維材料を用いることで、高感度なセンシングを可能にする技術が既に知られている。
【0005】
特許文献1には、高感度検出かつ安定した電気特性測定が目的で、半導体層の上層領域にチャネルを形成するための第1のゲートと、チャネルから溶液中への漏れ電流を軽減させるためにクーロン力を加えるための第2のゲートとを備えたデュアルゲートトランジスタセンサが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のグラフェン等の原子層材料やCNT等の微細繊維材料をチャネルに用いたFETを利用したバイオセンサは、輸送特性(ゲート電圧(V)対ドレイン電流(I)特性)における基準電圧(グラフェンFETのような両極性デバイス場合は電流が極小となる電圧(=ディラック電圧)、P型またはN型特性のFETの場合はしきい値電圧)のセンサ間ばらつきが大きく、アレイ化した場合に精度よく測定できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、アレイ化された場合であっても、センサ間の特性ばらつきを抑制・制御でき、精度よく測定可能な半導体装置、バイオセンサ、バイオセンサアレイおよび論理回路の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、第1のゲート電極と、輸送特性における基準電圧を制御する第2のゲート電極上に設けられる第1の絶縁手段と、前記第1の絶縁手段と接続されたソース電極と、前記第1の絶縁手段と接続されたドレイン電極と、前記第1の絶縁手段上における前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に設けられ、試料と接触可能な接触部と、を備え、前記試料は、前記第1のゲート電極と接触可能であり、前記試料は、前記接触部に対して前記第1の絶縁手段と対向する面において、前記接触部と接触する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アレイ化された場合であっても、センサ間の特性ばらつきを抑制・制御でき、精度よく測定可能な半導体装置、バイオセンサ、バイオセンサアレイおよび論理回路を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、従来のシングルゲートFETを概略的に示す断面図である。
図2図2は、従来のシングルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。
図3図3は、従来のシングルゲートFETアレイを概略的に示す断面図である。
図4図4は、従来のシングルゲートFETを用いたセンサアレイを概略的に示す断面図である。
図5図5は、第1の実施の形態にかかるデュアルゲートFETを概略的に示す断面図である。
図6図6は、デュアルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。
図7図7は、チャネルとしてCNTネットワークを用いた例を示す図である。
図8図8は、デュアルゲートFETアレイを概略的に示す断面図である。
図9図9は、デュアルゲートFETを用いたセンサアレイを概略的に示す断面図である。
図10-1】図10-1は、第2のゲート電極の幅がチャネル長より小さい場合を示す図である。
図10-2】図10-2は、固体絶縁膜とチャネルの層間に疎水性を有する膜を設けた例を示す図である。
図11図11は、第1のゲート電極の配置の変形例を示す図である。
図12-1】図12-1は、バイオセンサアレイを示す平面図である。
図12-2】図12-2は、バイオセンサアレイの変形例を示す平面図である。
図12-3】図12-3は、バイオセンサアレイの別の変形例を示す平面図である。
図12-4】図12-4は、バイオセンサアレイのさらに別の変形例を示す平面図である。
図13-1】図13-1は、ホルモンの偏りを可視化した例を示す図である。
図13-2】図13-2は、ストレス度合い、幸福感、健康度合い、意欲を可視化した例を示す図である。
図14図14は、具体的な基準電圧(ディラック電圧)の制御方法についての説明図である。
図15図15は、基準電圧の把握方法を示す図である。
図16図16は、相互コンダクタンスを例示的に示す図である。
図17図17は、図12-1のバイオセンサアレイの各センサの輸送特性の一例を示す図である。
図18図18は、図17の各センサのバンド構造を示す図である。
図19図19は、図12-1のバイオセンサアレイの各センサの輸送特性の一例を示す図である。
図20図20は、図19の各センサのバンド構造を示す図である。
図21図21は、第2の実施の形態にかかるデュアルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。
図22図22は、第3の実施の形態にかかるデュアルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。
図23図23は、第4の実施の形態にかかるデュアルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。
図24図24は、第5の実施の形態にかかるデュアルゲートFETアレイを概略的に示す断面図である。
図25図25は、低電圧CMOSインバータ回路(論理反転回路)を示す回路図である。
図26図26は、低電圧CMOSインバータ回路の入出力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、半導体装置、バイオセンサ、バイオセンサアレイおよび論理回路の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
まず、従来のシングルゲートFETおよびシングルゲートFETを用いたバイオセンサについて説明する。
【0013】
ここで、図1は従来のシングルゲートFETを概略的に示す断面図である。図1に示すように、シングルゲートFETは、1つのゲート電極11を有する。シングルゲートFETは、基板1と、絶縁膜2と、チャネル3と、ソース・ドレイン電極5,6と、絶縁膜7と、ゲート電極11と、を備える。シングルゲートFETは、ゲート電極11に電圧を印加することでチャネル3とチャネル3上に配置された試料8との界面に電気二重層を形成し、ソース・ドレイン電極5,6間に流れるドレイン電流を制御し、電界効果トランジスタ(FET)として動作する。
【0014】
ここで、図2は従来のシングルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。図2に示すように、シングルゲートFETを用いたセンサは、基板1と、絶縁膜2と、チャネル3と、ソース・ドレイン電極5,6と、絶縁膜7と、ゲート電極11とに加え、チャネル3上に配置される試料8が含む標的物質10を捕捉する受容層4を、チャネル3の表層に備える。また、試料8は、標的物質10以外の物質9を含んでいてもよい。
【0015】
なお、受容層4が標的物質10を捕捉するとは、標的物質10のみが特異的に受容層4に相互作用をするであることを意味する。例えば、受容層4による標的物質10の捕捉としては、水素結合やファンデルワールス力による結合、キャリア-イオノフォア、抗原-抗体反応等のたんぱく質相互作用、アミノ酸-たんぱく質相互作用、RNA-たんぱく質相互作用、DNA-DNA相互作用、酵素-基質反応などが挙げられる。
【0016】
シングルゲートFETを用いたセンサは、ゲート電極11に電圧を印加することで受容層4と試料8の界面に電気二重層を形成する。シングルゲートFETを用いたセンサは、閾値電圧以上の電圧をゲート電極11に印加するとソース・ドレイン電極5,6間にドレイン電流を流す。これにより、標的物質10の濃度に応じてドレイン電流が変化するため、シングルゲートFETを用いたセンサは、このドレイン電流を利用することで試料8が含む標的物質10の検出を行うことができる。
【0017】
図3は従来のシングルゲートFETアレイを概略的に示す断面図、図4は従来のシングルゲートFETを用いたセンサアレイを概略的に示す断面図である。図3および図4に示すように、トランジスタ又はセンサをアレイ化した場合、チャネル3に接する絶縁膜2や受容層4、試料8等とチャネル3の間でキャリア(電子またはホール)の授受が発生し、輸送特性(ゲート電圧(Vg)対ドレイン電流(Id)特性)における基準電圧(しきい値電圧)がセンサ間またはロット間でばらついてしまい、精度よく測定することが困難であるという懸念があった。特に図4に示すようなセンサアレイの場合、異なる標的物質10と10’をセンシングする際においては、受容層4と4’とが異なる構成である可能性があり、この場合、必然的に基準電圧は異なるものとなる。
【0018】
この点、図1および図2に示したような、単一のトランジスタまたはセンサであれば、基板1として導電性を有するもの、例えば高濃度にドーピングされたシリコンを用い、基板1に電圧を印加することでチャネルにキャリアを誘起させて基準電圧を制御することはできる。しかしながら、図3および図4に示すように、トランジスタ又はセンサをアレイ化した場合、全センサに同じだけの電圧が印加されてしまい、個々のセンサで個別に基準電圧を制御できないため、センサ間またはロット間の基準電圧のばらつきは解消できない。
【0019】
そこで、本実施形態においては、トランジスタアレイのセンサ間の特性ばらつきを抑制・制御し、精度よく測定することを目的とするものとする。
【0020】
図5は、第1の実施の形態にかかるデュアルゲートFETを概略的に示す断面図である。図5に示すように、半導体装置であるデュアルゲートFETは、2つのゲート電極11,12を有する。デュアルゲートFETは、基板1と、絶縁膜2と、チャネル3と、ソース・ドレイン電極5,6と、絶縁膜7と、第1のゲート電極11と、を備えた従来のシングルゲートFETの構成に加えて、第2のゲート電極12と、第1の絶縁手段である固体絶縁膜層13と、を備える。デュアルゲートFETは、ゲート電極11に電圧を印加することでチャネル3と、チャネル3上に配置された試料8との界面に電気二重層を形成する。そして、デュアルゲートFETは、ゲート電極11への印加電圧を制御することで、ソース・ドレイン電極5,6間に流れるドレイン電流を制御し、電界効果トランジスタ(FET)として動作する。
【0021】
図6は、デュアルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。図6に示すように、デュアルゲートFETを用いたセンサは、基板1と、絶縁膜2と、チャネル3と、ソース・ドレイン電極5,6と、絶縁膜7と、第1のゲート電極11と、第2のゲート電極12と、固体絶縁膜層13とに加え、試料8に含まれる標的物質10を捕捉する受容手段である受容層4を備える。また、試料8は、標的物質10以外の物質9を含んでいてもよい。
【0022】
デュアルゲートFETを用いたセンサは、第1のゲート電極11に電圧を印加することで受容層4と試料8の界面に電気二重層を形成する。デュアルゲートFETを用いたセンサは、閾値電圧以上の適切なゲート電圧を第1のゲート電極11に印加するとソース・ドレイン電極5,6間にドレイン電流を流す。これにより、標的物質10の濃度に応じてドレイン電流が変化するため、デュアルゲートFETを用いたセンサは、このチャネル3の電荷の変化による特性変化であるドレイン電流を利用検出することで標的物質の検出を行うことができる。
【0023】
なお、チャネル3の材料は、高い電界効果移動度を持ち、かつ表面積が広いグラフェン等の原子層材料やカーボンナノチューブ(CNT)等の微細繊維材料を用いることができる。このように原子層材料や微細繊維材料を含むナノ材料を用いることにより、チャネル3の厚さは、10nm未満であり、好ましくは1nm以下(原子層数層分)である。このように、表面積の広い原子層材料や微細繊維材料を用いることで高感度化が期待できる。
【0024】
なお、グラフェンについては、グラフェンとしての機能を発現するのが原子層数層分(1層=3.5Å)であるため、チャネル領域全てが原子層数層分であるのが理想だが、実際には原子層上のシートの上に島状に多層領域が形成されていることが多く、その高さを実際にAFMで測定すると10nm以下程度の高さとなる。また、カーボンナノチューブ(CNT)については、直径が0.4~50nmと定義される。トランジスタとして用いる場合、一般的に直径数nmのCNTを用いることが多く、それらが積層された領域も考慮に入れると約10nm程度の厚さとなる。
【0025】
ここで、図7はチャネル3としてCNTネットワークを用いた例を示す図である。図7に示すように、チャネル3は、多数のカーボンナノチューブ(CNT)からなるCNTネットワークであってもよい。このようなCNTネットワークは、表面積が広く、かつ高い電界効果移動度を持つため、高感度化が期待できるという効果がある。
【0026】
図8はデュアルゲートFETアレイを概略的に示す断面図、図9はデュアルゲートFETを用いたセンサアレイを概略的に示す断面図である。図8および図9に示すように、トランジスタ又はセンサをアレイ化した場合、図3および図4と同様に、チャネル3に接する絶縁膜2や受容層4、試料8等とチャネル3の間でキャリア(電子またはホール)の授受が発生する。特に、図9に示すようなセンサアレイの場合、異なる標的物質10と10’をセンシングする際は受容層4と4’も異なることがあり、チャネル3と3’へのキャリアの移動量が異なるため、フェルミ準位も異なる。
【0027】
しかし、図8および図9に示すような第2のゲート電極12に電圧が印加すると、アレイ化した場合でも個々のセンサが個別に第2のゲート電極12、12’を持つため、それぞれ個別に第2のゲート電圧を印加可能であり、個々のチャネル3、3’に個別で任意のキャリアを誘起させることができ、基準電圧の制御が可能である。
【0028】
つまり、本実施形態によれば、個々のセンサの第2のゲート電極12、12’にチャネル3、3’に意図した分のキャリアを注入(誘起)または抽出させるような適切な電圧を印加することで、トランジスタアレイまたはセンサアレイのセンサ間またはロット間でも基準電圧を制御することが可能である。また、アレイ中の全てのセンサの基準電圧を揃えることも可能であるし、意図的にずらすことも可能である。このような構成とすることにより各チャネルでの基準電圧を制御することができ、トランジスタアレイ又はセンサアレイの精度を向上させることができる。
【0029】
なお、基板1および絶縁膜2としては、上層の素子と電気的に絶縁できていれば特に制限はないが、上層の素子に意図しない応力がかかり意図しない特性変化を生じさせないため、平坦性の高いシリコン(Si)基板、熱酸化膜(SiO)が好ましい。また、基板1および絶縁膜2としては、フレキシブル性を持たせるため、ポリイミドやPEN、PET等のプラスチック基板としても良い。
【0030】
チャネル3としては、電界効果トランジスタ(FET)のチャネルとして動作する材料であれば特に制限はないが、微量なセンシングをする場合(例えば唾液中のホルモン等の生体分子)、高感度なセンシングが求められるため、高移動度を有するグラフェンや半導体特性を持つカーボンナノチューブ(CNT)が好ましい。グラフェンとは、炭素原子がsp軌道で結合した原子層物質であり、グラフェンを筒状にしたのがカーボンナノチューブ(CNT)である。CNTはカイラリティ(巻き方)によって金属特性を持つものと半導体特性を持つものがあるが、ここでは半導体型CNT、または半導体CNTを多く含むCNTネットワークが適用できる。その他、Siナノワイヤ、グラフェンと同じ原子層材料の二硫化モリブデン(MoS)、二セレン化タングステン(WSe)等に代表される遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC:Transition Metal DiChalcogenide)でも良い。
【0031】
受容層4としては、標的物質10のみを特異的に捕捉できる捕捉体からなる層であれば特に制限はない。例えば、標的物質10が分子の場合、受容層4は、標的物質10の分子型を有する分子鋳型とする。生体由来の材料だと繰り返し使えないが、分子鋳型だと洗浄することで分子が脱離できて、繰り返し使える。このとき、脱離が不十分でも、その都度の洗浄後のトランジスタ特性を第2のゲート電極12で制御することでセンシング感度の再現性を保つことができる。
【0032】
標的物質10がイオンの場合、受容層4は、イオノフォアやイオン交換膜でも良い。受容層4は、特異的に標的物質10を捕捉することができるため、試料8に標的物質10以外の物質9が含まれていたとしてもセンシングが可能である。受容層4と標的物質10は、他にも、受容層4は、抗原-抗体反応などのたんぱく質相互作用やDNA-DNA相互作用などを利用する場合、抗原や抗体などのたんぱく質、DNAなどでもよい。以上のように、受容層4は、標的物質10に応じて適宜選択される。
【0033】
ソース・ドレイン電極5,6は、電極であれば特に制限はないが、例えば、Cr/Au、Ni/Au、Pd/Au、TI/Ni/AuやTI/Pd/Auとする。CrやTiは基板との密着層、NiやPdは例えばチャネル3がグラフェンだった場合、接触抵抗の低減層として機能する。
【0034】
絶縁膜7としては、パッシベーション膜として機能すれば特に制限はないが、防湿性に優れるALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)法で形成した酸化アルミニウム膜(Al)が望ましい。
【0035】
また、絶縁膜7としては、試料8がチャネル3上に開口する開口領域に確実に入り込むようにするため、チャネル3の開口領域以外の領域は撥水性を有する膜、例えば、パリレンやフッ素樹脂等の有機膜や、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成した窒化シリコン膜(SiN)でも良い。また、絶縁膜7としては、それらの積層膜でも良い。または、絶縁膜7としては、表面に微細な凹凸構造を配することでロータス効果を利用して撥水機能を付与する膜であっても良い。
【0036】
また、ソース・ドレイン電極5,6間のチャネル3と絶縁膜7とが接する領域は、できるだけ小さいほうが望ましい。具体的には、絶縁膜7は、半導体製造工程における写真製版工程とエッチング工程とで形成する際の写真製版工程の寸法誤差と、エッチング工程の水平方向のオーバーエッチング量との和を考慮したマスクによって、ソース・ドレイン電極5,6と試料8とが直接接する部分がないようにエッチング加工される。
【0037】
ソース・ドレイン電極5,6間のチャネル3と絶縁膜7とが接する領域はチャネル3のチャネル領域内で試料8が接しない領域であるため、ソース・ドレイン電極5,6間のチャネル3と絶縁膜7とが接する領域では第1のゲート電極11に印加したゲート電圧によってキャリアを誘起させることができない。そのため、絶縁膜7がない場合と比べて同一量のキャリアを誘起させるのにより大きな電圧が必要となり、センサの性能(具体的には輸送特性における傾きである相互コンダクタンス)が落ちてしまうという問題がある。
【0038】
一方、図5などに示すように、ソース・ドレイン電極5,6の断面形状は、順テーパである。ソース・ドレイン電極5,6の断面形状が順テーパであることによって、絶縁膜7がソース・ドレイン電極5,6を確実に被覆することができる。それによって、ソース・ドレイン電極5,6と試料8とが直接接する部分がないようになる。また、絶縁膜7はソース・ドレイン電極5,6の形状に沿って被覆するのでソース・ドレイン電極5,6と絶縁膜7を含む断面形状も順テーパとなることで、試料8がチャネル3を含む凹部に入り込みやすくなるという効果がある。
【0039】
試料8としては、第1のゲート電極11と受容層4(FETとして利用する(受容層4がない)場合はチャネル3)の間に満たされることによって第1のゲート電極11に対するゲート絶縁膜として機能し、第1のゲート電極11に電圧を印加することで受容層4の表面に電気二重層を形成できる試料であれば特に制限はないが、電気二重層を形成しやすいリン酸緩衝液(PBS)や塩化カリウム(KCl)溶液とする。
【0040】
第1のゲート電極11としては、電極であれば特に制限はないが、電位の基準点を与える参照電極として使用する場合は、Ag/AgCl電極、あるいはPt電極は好ましい。第1のゲート電極11の形状は、試料8が液体であれ、ゲル状であれ、突き刺すことができる棒状が好ましいが、試料8を介していれば形状はその限りではない。第1のゲート電極11の配置は、絶縁膜7には接しない。第1のゲート電極11は、図5および図6では1つのゲート電極11とチャネル3が対応しているが、図8および図9では、1つのゲート電極11と複数のチャネル3が対応している。
【0041】
第2のゲート電極12としては、電極であれば特に制限はないが、例えば、Cr/Au、TI/Ni/Auや、TI/Pt/Auとする。CrやTiは基板との密着層、NiやPtはAuの基板への拡散を抑制するバリア層として機能する。第2のゲート電極12としては、ICで一般的なAlや、印刷で形成可能なAgでも良い。
【0042】
第2のゲート電極12の幅は、チャネル長(ソース・ドレイン電極5,6間距離)以上であることが好ましい。これにより、チャネル3の平坦性が保てるため、チャネル3に欠陥や応力が入りにくく、特性が劣化しにくいという効果がある。
【0043】
ここで、図10-1は第2のゲート電極12の幅がチャネル長より小さい場合を示す図である。図10-1に示すように、第2のゲート電極12の幅がチャネル長(ソース・ドレイン電極5,6間距離)より小さい場合、チャネル3が曲がってしまい、チャネル3に欠陥や応力が導入されトランジスタ特性が劣化してしまう恐れがある。なお、受容層4についても同様である。
【0044】
固体絶縁膜層13としては、ゲート電極12に対するゲート絶縁膜として機能すれば特に制限はないが、絶縁耐圧の高い緻密な絶縁膜、例えば上記ALD法で形成した酸化アルミニウム膜(Al)が好ましい。ALD法で形成した酸化シリコン(SiO)や高誘電率の酸化ハフニウム(HfO)、PE-CVD(Plasma Enhanced-Chemical Vapor Deposition)法で形成した酸化シリコンでも良い。また、それらの積層膜でも良い。
【0045】
ここで、図10-2は、試料8がチャネル3と固体絶縁膜層13の間に浸み込むのを防ぐため、固体絶縁膜層13とチャネル3の層間に疎水性を有する疎水性膜14を設けた例を示す図である。図10-2に示す例は、疎水性膜14として、例えばパリレン膜やフッ素樹脂、疎水性を発現させるSAM膜(Self-Assembled Monolayer:自己組織化膜)でコーティングした例である。
【0046】
ここで、図11は、第1のゲート電極11の配置の変形例を示す図である。図5ないし図9においては、受容層4の上部になるように第1のゲート電極11を配置したが、試料8を介することが可能であれば受容層4の上部ではなくてもよい。例えば、図11に示すように、第1のゲート電極11は、ソース・ドレイン電極5,6と同一平面上に形成しても良い。
【0047】
次に、上述のセンサアレイを備えたバイオセンサアレイについて説明する。
【0048】
ここで、図12-1は、バイオセンサアレイを示す平面図である。図12-1に示す4×4のバイオセンサアレイは、本実施形態に係るセンサS11~S44を備える。図12-1に示す符号3がチャネル、符号5,6がソース・ドレイン電極、符号7が絶縁膜、符号12が第2のゲート、符号13が固体絶縁膜層を表している。特に図示しないが、図12-1に示す構成の上に、受容層4(チャネル3上の絶縁膜7が存在しない領域)と、標的物質10以外の物質9および標的物質10を含んだ試料8と、第1のゲート11とが形成される。
【0049】
ソースは、全センサ共通であり、各センサに第2のゲート電圧、ドレイン電圧を印加可能な構成である。例えば、センサS11の第2のゲート電圧は第2のゲート電極12上に開口する開口領域G11、ドレイン電圧はドレイン電極上に開口する開口領域D11から印加する。
【0050】
図12-2は、バイオセンサアレイの変形例を示す平面図である。
【0051】
各センサS11~S44のチャネル3上に開口する開口領域には試料8が浸る必要があり、ドレイン電極6上に開口する開口領域D11~D44とソース電極5上に開口する開口領域は試料8が浸らないのが望ましく、第2のゲート電極12上に開口する開口領域G11~G44には試料8が浸ってはならない。そこで、図12-2に示す変形例においては、各センサS11~S44のチャネル3の開口領域と各電極の開口領域とを隔てるため、チャネル3の開口領域を切れ目なく囲むダム材X1を備える。ダム材X1は、被検体である試料8を滴下した時に試料8が各電極の開口領域へ濡れ広がるのを防ぐことができる。
【0052】
ダム材X1は、試料8が各電極の開口領域に触れるのを防ぐことができるものであれば形状や大きさ、材質に制限はない。しかしながら、ダム材X1の中から試料8が溢れるのを防ぐため、ダム材X1の高さは1mm以上が好ましい。また、ダム材X1は、二重に配置してもよい。
【0053】
また、ダム材X1は、ダム材X1と基板1との接地面から試料8が漏れ出るのを防ぐため、基板1との密着性が高いものが好ましい。さらに、ダム材X1は、チャネル3の開口領域を全て試料8に浸す必要があるため、試料8が濡れ広がりにくい撥水性を有するものが好ましい。そこで、ダム材X1は、例えばシリコーンゴムなどで形成される。
【0054】
図12-3は、バイオセンサアレイの別の変形例を示す平面図である。
【0055】
図12-3に示す変形例においては、各センサS11~S44を囲繞する第1のダム材X1に加え、ドレイン電極の開口領域D11~D44を囲繞する第2のダム材X2と、第2のゲート電極の開口領域G11~G44を囲繞する第3のダム材X3と、を備える。このような構成により、試料8である溶液の一部が振動や傾きによって第1のダム材X1を溢れた場合でも、溢れ出た試料8がドレイン電極6、または第2のゲート電極12に触れることを防ぐ効果がある。第2のダム材X2と第3のダム材X3とは、第1のダム材X1と同様に、例えばシリコーンゴムなどで形成される。第2のダム材X2と第3のダム材X3との高さは、第1のダム材X1と同様に、1mm以上が好ましい。
【0056】
図12-4は、バイオセンサアレイのさらに別の変形例を示す平面図である。
【0057】
図12-4に示す変形例においては、各センサS11~S44を含むように配置されたダム材X4を備える。図12-4に示すように、ダム材X4の四つの隅部は、丸みを帯びている。このようにダム材X4の四隅に丸みを帯びさせることにより、ダム材X4を壊れにくくする効果と、試料8である溶液を入れ替える時に、ダム材X4の四つの隅部に試料8の成分が残らないようにする効果がある。
【0058】
また、図12-4に示すように、ダム材X4は、各センサS11~S44上に開口する開口領域だけではなく、各センサS11~S44のソース領域とドレイン領域とを含むように配置されている。このような構成により、試料8である溶液と基板1との温度が異なる場合に、ダム材X4によって各センサS11~S44のソース領域とドレイン領域との温度差をなくすことができるので、温度差によって生じる各センサS11~S44の誤差をなくすことができるという効果がある。
【0059】
ダム材X4は、ダム材X1と同様に、例えばシリコーンゴムなどで形成される。ダム材X4の高さは、ダム材X1と同様に、1mm以上が好ましい。
【0060】
なお、各センサS11~S44は、全てのセンサS11~S44のチャネル3の開口領域に試料8が濡れ広がるようにするため、試料8の滴下部に対して点対象に配置されることが好ましい。
【0061】
なお、各センサS11~S44に異なる受容層4を形成することも可能であり、アレイ化したセンサの数の種類の物質をセンシング可能である。受容層4の種類によってチャネル3へのキャリア移動量も異なってくるため、フェルミ準位も異なり、各センサS11~S44において基準電圧は異なると考えられる。この異なる基準電圧を第2のゲート電圧によって個々のセンサS11~S44で制御が可能である。
【0062】
図12-1に示す4×4のバイオセンサアレイを用いて、例えば唾液や血液や尿、涙、汗からホルモンバランスをセンシングする場合、エストロン、エストラジオール、エストリオール、プロゲステロン、テストステロン、DHT(ジヒドロテストステロン)、アンドロステンジオン、アンドロステロン、コルチゾール(ヒドロコルチゾン)、セロトニン、ドーパミン、オキシトシン、アドレナリン、ノルアドレナリン、メラトニン、エリスロポイエチン等の複数のホルモンを一度にセンシングすることができる。図12-1に示す4×4のバイオセンサアレイによれば、複数のホルモンのそれぞれの絶対量が分かるだけでなく、単一のサンプルから各ホルモン同士を比較した場合のバランスも把握可能となる。
【0063】
図13-1は、ホルモンの偏りを可視化した例を示す図である。センサアレイにおける各センサS11~S44の位置を工夫することで、図13-1に示すように、ホルモンの偏り等を可視化することも実現可能となる。
【0064】
加えて、図13-2は、ストレス度合い、幸福感、健康度合い、意欲を可視化した例を示す図である。図13-2に示す例では、バイオセンサアレイは、センサS11~S14によってヒトがストレスを感じると分泌されるホルモン(例えば、コルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリン)をセンシングする。このセンシング結果を表示することにより、ストレス度合いをわかりやすくする。
【0065】
次に、バイオセンサアレイは、センサS21~S24によって幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンやセロトニン、ドーパミンをセンシングする。このセンシング結果を表示することにより、幸福感をわかりやすくする。
【0066】
さらに、バイオセンサアレイは、センサS31~S34によって、健康に関するホルモン(例えば、メラトニンやエリスロポイエチン)をセンシングする。このセンシング結果を表示することにより、健康度合いをわかりやすくする。
【0067】
最後に、バイオセンサアレイは、センサS41~S44によって、意欲に関するホルモン(例えば、アドレナリン、またはテストステロンやプロゲステロン、エストロゲン、エストリオールなどの性ホルモン)をセンシングする。このセンシング結果を表示することにより、やる気などの意欲をわかりやすくする。
【0068】
図13-2に示す例では、ストレス度合い、幸福度合い、健康度合い、意欲の4領域のバランスを総合的に可視化した様子を示している。このように可視化することで、心の健康状態を把握することができる。そして、これらを日常的にモニタリングすることで、ユーザのメンタル状態や生活習慣病に関するバイオマーカーなどを把握でき、メンタルヘルスケアや生活習慣病予防などに役立てるこができる。
【0069】
次に、具体的な基準電圧(ディラック電圧)の制御方法について説明する。
【0070】
ここで、図14は具体的な基準電圧(ディラック電圧)の制御方法についての説明図である。図14に示すデュアルゲートFETにおいて、チャネル3がグラフェンの場合であって、第2のゲート電極12に電圧を印加しない(Vbg=0)場合、第1のゲート電極11の電圧(Vtg)対ソース・ドレイン電極5,6間に流れるドレイン電流(I)の輸送特性とその時のバンド構造は、チャネル3に接する絶縁膜2や受容層4、試料8等からチャネル3に意図せずキャリアが移動してホール(正孔)またはエレクトロン(電子)ドープされ、図14(a)のどちらか(図中左:ホールドープ、図中右:エレクトロンドープ)のように、輸送特性におけるドレイン電流Iの極小点における第1のゲート電圧である基準電圧(Vdirac)が0からずれる(ホールドープの場合Vdirac>0、エレクトロンドープの場合Vdirac<0)。なお、図14中のバンド図の価電子帯において、色付き領域は電子で満たされ、色無し領域はホールで満たされていることを表し、Eはフェルミ準位を表している。
【0071】
ここで、簡単のため、ホールドープまたはエレクトロンドープされたチャネル3を電気的中性な輸送特性(Vdirac=0)に制御することを考える。まず、ホールドープの場合(図14(a)左)、あらかじめ第2のゲート電極12に正の電圧を印加する(Vbg>0)ことでチャネル3に電子を誘起させ、チャネル3のフェルミ準位(電子密度)を制御する。第2のゲート電極12にその適切な負電圧を印加した状態で第1のゲート電極11の電圧(Vtg)対ソース・ドレイン電極5,6間に流れるドレイン電流(I)の輸送特性を測定すると、ドレイン電流Iの極小点における第1のゲート電圧(Vdirac)を0に制御することが可能となる(図14(b)左)。エレクトロンドープの場合(図14(a)右)、あらかじめ第2のゲート電極12に負の電圧を印加する(Vbg<0)ことでチャネル3にホールを誘起させることでチャネル3のフェルミ準位(電子密度)を制御する。第2のゲート電極12に適当な正電圧を印加した状態で第1のゲート電極11の電圧(Vtg)対ソース・ドレイン電極5,6間に流れるドレイン電流(I)の輸送特性を測定すると、ドレイン電流Iの極小点における第1のゲート電圧(Vdirac)を0に制御することが可能となる(図14(b)右)。
【0072】
図1ないし図4に示した従来の構造においても、基板1として導電性を有するもの(例えば高濃度にドーピングされたシリコン)を用い、基板1に電圧を印加することでチャネル3にキャリアを誘起させて基準電圧を制御することはできるが、アレイ化されている場合は全センサに同じだけの電圧が印加されてしまい、各センサでの基準電圧の制御はできない。
【0073】
なお、ここでは簡単のためにチャネル3の電子状態を電気的中性に制御する手法を説明したが、上記の方法で任意のフェルミ準位に制御可能である。つまり、アレイ化した場合に全てのフェルミ準位、Vdiracを揃えることも可能であるし、各センサで異なるフェルミ準位Vdiracを設定することも可能である。
【0074】
上述のように、基準電圧Vdiracは、第2のゲート電極12に電圧を印加せずに(Vbg=0)、第1のゲート電極11に適当な範囲で電圧Vtgを掃引した時のソース・ドレイン電極5,6間に流れるドレイン電流Iを測定することで把握できる。例えば、Vbg=0で電圧Vtgを-1V~+1V、step0.01Vで掃引した時に、ドレイン電流Iが最小となるときの電圧Vtgが基準電圧Vdiracとなる。ここで、図15は基準電圧の把握方法を示す図である。図15(a)に示す例では、基準電圧Vdirac=0.5Vとなる。
【0075】
第2のゲート電極12に適切な電圧を印加することで基準電圧Vdiracを任意の電圧に制御可能となる。ここでは、基準電圧Vdirac=0Vにすることを考える。図15(a)に示す例で、基準電圧Vdirac>0のため、チャネル3はホールドープされていることがわかる。基準電圧Vdirac=0にするためには、チャネル3に電子を誘起させる必要があるため、第2のゲート電極12に正の電圧を印加することで、固体絶縁膜層13を介してチャネル3には電子が誘起される。適切な電圧を印加することで、基準電圧Vdirac=0Vに調整可能となる。
【0076】
実際にデバイスとして動作させる場合、電圧Vtg(第1のゲート電圧)、電圧Vbg(第2のゲート電圧)、V(ドレイン電圧)は固定した状態でI(ドレイン電流)を測定し、ドレイン電流Iの変化量を検出する。その際、ドレイン電流Iの変化量が大きくなる点、つまり相互コンダクタンスgm(輸送特性Vtg-Iのグラフの傾き:ΔI/ΔVtg)の絶対値が大きくなる点にVtgを固定することで、小さな基準電圧Vdiracの変化でより大きなIの変化を捉えることができる。
【0077】
ここで、図16は相互コンダクタンスを例示的に示す図である。図16に示すように、ホール動作側(V<Vdirac)で用いる場合、相互コンダクタンスの絶対値が最大となるV=-2V、電子動作側(V>Vdirac)で用いる場合、V=14Vを印加することでより高感度な測定ができる。
【0078】
ここで、図17図12-1のバイオセンサアレイの各センサの輸送特性の一例を示す図、図18図17の各センサのバンド構造を示す図である。図17および図18は、図12-1のバイオセンサアレイにおいてG11~G14に電圧を印加しなかった場合(Vbg=0)の各センサ(S11~S14)における輸送特性の一例である。図18に示すように、各センサ(S11~S14)のドレイン電流Iの極小点における第1のゲート電圧(S11の場合Vd11)は、絶縁膜2や受容層4からのキャリアドーピングによりばらつく。各センサによってセンシング標的物質を変えたい場合、受容層4がそれぞれ異なるため、必然的に各センサ(S11~S14)のドレイン電流Iの極小点における第1のゲート電圧は異なると考えられる。
【0079】
図19図12-1のバイオセンサアレイの各センサの輸送特性の一例を示す図、図20図19の各センサのバンド構造を示す図である。図19および図20は、G11~G14に適当な電圧を印加した場合の各センサ(S11~S14)における輸送特性について説明する図である。図12-1のバイオセンサアレイにおいてG11~G14に対し、Vd11=Vd12=・・・=Vd44=0となるように第2のゲート電圧(Vbg=V11~V44)を印加した場合の各センサ(S11~S14)における輸送特性である。簡単のためVd11=Vd12=・・・=Vd44=0となるように第2のゲート電圧を印加した場合を示したが、各センサ(S11~S14)で任意のドレイン電流Iの極小点における第1のゲート電圧(S11の場合Vd11)を設定することも可能である。
【0080】
次に、図5に示したデュアルゲートFETの具体的な製造方法を説明する。
【0081】
まず、シリコン(Si)基板1を熱酸化し、熱酸化膜(SiO)100nmを絶縁膜2とする。
【0082】
次に、絶縁膜2の上に、フォトリソグラフィー技術でフォトレジストをパターニングし、下から順にTI/Pt/Au(5/80/100nm)を蒸着し、フォトレジストを剥離して(リフトオフして)第2のゲート電極12を形成する。
【0083】
次に、その上にALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)法でAl膜75nmを成膜し、絶縁膜13とする。
【0084】
次に、絶縁膜13上にチャネル3の材料となるグラフェンを転写し、その後フォトリソグラフィー技術でフォトレジストをパターニングしてグラフェンの不要な領域をOプラズマで灰化させ、レジストを剥離することでグラフェンをトランジスタのチャネル領域にのみ形成する。
【0085】
続いて、フォトリソグラフィー技術でフォトレジストをゲート長(ソース電極とドレイン電極の間隔)100μm、ゲート幅100μmとなるようパターニングし、下から順にTI/Ni/Au(5/20/150nm)を蒸着し、レジストを剥離して(リフトオフして)ソース・ドレイン電極5,6を形成する。
【0086】
さらに、ソース・ドレイン電極5,6と試料8が接触しないように、フォトリソグラフィー技術でフッ素系感光性樹脂からなる絶縁膜7を形成する。絶縁膜7は、パリレンの蒸着や、上記ALD法でAlまたはSiOを成膜し、チャネル開口部とPAD部をウェットエッチングによって開口する方法でも良い。
【0087】
受容層4は、例えば分子鋳型であり、上記グラフェン上に例えば電界重合によって形成する。例えば、フェニレンジアミンをモノマーとし、検出したい分子(テンプレート)と共に溶液とし、上記のソース電極とドレイン電極を介してこの溶液-グラフェン間で電荷の授受を行いグラフェン上で重合反応を生じさせる。
【0088】
その後、テンプレートを洗浄で除去することで、テンプレートを特異的に捕捉する分子鋳型を形成する。
【0089】
このように本実施形態によれば、輸送特性の基準電圧を制御する第2のゲートを制御することで、トランジスタアレイ中で個々のセンサに異なるボトムゲート電圧を個別に印加することを可能とし、トランジスタアレイのセンサ間の特性ばらつきを抑制・制御し、精度よく測定することができる、という効果を奏する。
【0090】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0091】
第2の実施の形態は、チャネル3がソース・ドレイン電極5,6上に配置される点が、第1の実施の形態と異なる。以下、第2の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0092】
ここで、図21は第2の実施の形態にかかるデュアルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。図21に示すデュアルゲートFETを用いたセンサは、チャネル3がソース・ドレイン電極5,6上に配置されるという点で、図5ないし図9に示した構造と異なるが、図5ないし図9に示した構造と同等の機能を有する。
【0093】
図21に示すデュアルゲートFETを用いたセンサによれば、デバイス作製のプロセス上、ソース・ドレイン電極5,6を形成した後にチャネル3を形成する為、プロセス中のチャネル3へのダメージや意図しないドーピングなどを抑制することが可能である。
【0094】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態について説明する。
【0095】
第3の実施の形態は、第2のゲート電極12が絶縁膜2に埋め込まれているという点が、第1の実施の形態と異なる。以下、第3の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0096】
ここで、図22は第3の実施の形態にかかるデュアルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。図22に示すデュアルゲートFETを用いたセンサは、第2のゲート電極12が絶縁膜2に埋め込まれているという点で、図5ないし図9に示した構造と異なるが、図5ないし図9に示した構造と同等の機能を有する。
【0097】
図22に示すデュアルゲートFETを用いたセンサによれば、チャネル3を平坦に形成可能であり、応力による、意図しないダメージやドーピングなどを抑制することが可能である。
【0098】
(第4の実施の形態)
次に、第4の実施の形態について説明する。
【0099】
第4の実施の形態は、ソース・ドレイン電極5,6が絶縁膜13に埋め込まれているという点が、第1の実施の形態と異なる。以下、第4の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0100】
ここで、図23は第4の実施の形態にかかるデュアルゲートFETを利用したセンサを概略的に示す断面図である。図23に示すデュアルゲートFETを用いたセンサは、ソース・ドレイン電極5,6が絶縁膜13に埋め込まれているという点で図5ないし図9に示した構造と異なるが、図5ないし図9に示した構造と同等の機能を有する。
【0101】
図23に示すデュアルゲートFETを用いたセンサによれば、デバイス作製のプロセス上、ソース・ドレイン電極5,6を形成した後にチャネル3を形成することと、チャネル3を平坦に形成可能であり、プロセス中のチャネル3へのダメージや意図しないドーピングなど、また応力による意図しないダメージやドーピングなどを抑制することが可能である。
【0102】
(第5の実施の形態)
次に、第5の実施の形態について説明する。
【0103】
第5の実施の形態は、ソース・ドレイン電極5’とソース・ドレイン電極6とを同一化している点が、第1の実施の形態と異なる。以下、第5の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0104】
本実施形態においては、デュアルゲートFETを複数組み合わせたトランジスタアレイやインバータ、リングオシレータ等のデジタル論理回路について説明する。
【0105】
ここで、図24は第5の実施の形態にかかるデュアルゲートFETアレイを概略的に示す断面図である。図24に示すように、実施の形態にかかるデュアルゲートFETアレイは、ソース・ドレイン電極5’=6としている。
【0106】
上述したように、第2のゲート電極12に印加する電圧によって基準電圧を制御できるということは、N型あるいはP型を任意に制御できるということである。
【0107】
図25は低電圧CMOSインバータ回路(論理反転回路)を示す回路図、図26は低電圧CMOSインバータ回路の入出力特性を示す図である。図25に示す回路において、VddとVssは電源線(VddはVssに対して、0.5~1.0V程度の電位差を有する)で、VINが入力信号線であり、VOUTが出力信号線である。Vdd側がpMOSFET(p-channel Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)MPであり、Vss側がnMOSFET(n-channel Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)MNである。入力VINがVssと同じ電位を持つとき、上のPMOSFETがオンになり、下のnMOSFETがオフになる。このとき、出力VOUTの電位はVddとほぼ等しくなる。また、入力VINがVddと同じ電位を持つとき、上のpMOSFETがオフになり、下のnMOSFETがオンになる。このため、出力VOUTの電位はVssとほぼ等しくなる。このように、入力VINと反対の電位が出力VOUTに現れることになる。
【0108】
図26に示すように、電源電圧Vddは450mVである。この例では、入力VINの電位が0.15Vを超えた場合に、出力VOUTの電位が電源電圧Vddの0.45Vから0Vに変化する。すなわち、“0”と“1”の論理を判定する入力電位(論理反転閾値の入力電位)が0.15Vとなっている。そして、図26の低電圧CMOSインバータ回路の入出力特性に示すように、それぞれpMOSFETの論理反転閾値電位、nMOSFETの論理反転閾値電位である。
【0109】
図24においては、1つはP型、1つはN型として動作するように第2のゲート電圧を調整することも可能であり、同一平面上でN型とP型が作製できるため、論理回路のインバータ回路が実現可能である。図24に示すように、ソース・ドレイン電極5’とソース・ドレイン電極6を電気的に接続(同一化)して、第2のゲート電極12でそれぞれN型、P型として動作するように調整すれば、インバータ回路(NOTゲート)として利用できる(第1のゲート電極11に印加する電圧をVIN、そのときのソース・ドレイン電極5’=6の電圧がVOUTとなり、VIN=HighのときVOUT=Low、VIN=LowのときVOUT=Highとなる)。
【0110】
また、奇数個のインバータ(NOTゲート)を環状に接続することでできるリングオシレータ発振回路も実現可能である。
【0111】
なお、チャネル3について、グラフェンは電流ON/OFF比が小さく、電流が飽和しにくい(飽和領域がほとんどない)ため、グラフェンは論理回路には向いておらず、大きなON/OFF比を持ちはっきりとした飽和領域を持つカーボンナノチューブ等の方が論理回路として利用する場合は好ましい。
【0112】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0113】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1>
第1のゲート電極と、
輸送特性における基準電圧を制御する第2のゲート電極上に設けられる第1の絶縁手段と、
前記第1の絶縁手段と接続されたソース電極と、
前記第1の絶縁手段と接続されたドレイン電極と、
前記第1の絶縁手段上における前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に設けられ、試料と接触可能な接触部と、
を備え、
前記試料は、前記第1のゲート電極と接触可能であり、
前記試料は、前記接触部に対して前記第1の絶縁手段と対向する面において、前記接触部と接触する、
ことを特徴とする半導体装置である。
<2>
前記接触部は、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間のチャネルを有する、
ことを特徴とする<1>に記載の半導体装置である。
<3>
前記接触部は、前記試料に含まれる所定の物質と相互作用可能な受容手段を有する、
ことを特徴とする<2>に記載の半導体装置である。
<4>
前記受容手段は、前記チャネル上に設けられる、
ことを特徴とする<3>に記載の半導体装置である。
<5>
前記受容手段は、前記物質の分子型を有する分子鋳型である、
ことを特徴とする<3>または<4>に記載の半導体装置である。
<6>
前記チャネルは、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、または多数のCNTからなるCNTネットワークの何れかを含む、
ことを特徴とする<2>ないし<5>の何れかに記載の半導体装置である。
<7>
前記第2のゲート電極は、基板上に設けられ、
前記第1のゲート電極は、前記第2のゲート電極が設けられた前記基板上に設けられる、
ことを特徴とする請求項<1>ないし<6>の何れかに記載の半導体装置である。
<8>
前記第2のゲート電極の幅は、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の距離以上である、
ことを特徴とする請求項<1>ないし<7>の何れかに記載の半導体装置である。
<9>
<1>ないし<8>の何れかに記載の半導体装置を備え、
試料に含まれる所定の物質の濃度に応じた接触部の電荷の変化による特性変化を利用することで前記物質の検出を行う、
ことを特徴とするバイオセンサである。
<10>
<9>に記載のバイオセンサを複数組み合わせる、
ことを特徴とするバイオセンサアレイである。
<11>
<1>ないし<8>の何れかに記載の半導体装置を複数組み合わせる、
ことを特徴とする論理回路である。
【符号の説明】
【0114】
1 基板
3 接触部、チャネル
4 受容手段
5 ソース電極
6 ドレイン電極
8 試料
10 標的物質
11 第1のゲート電極
12 第2のゲート電極
13 第1の絶縁手段
14 疎水性膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0115】
【特許文献1】特許第4777159号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図12-4】
図13-1】
図13-2】
図14
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図18
図19
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