(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023020890
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】診断装置、プログラムおよび診断方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087116
(22)【出願日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2021124583
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】相場 亮人
(72)【発明者】
【氏名】鷹見 淳一
(72)【発明者】
【氏名】野田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】萩原 智
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA12
3C223BA01
3C223BB09
3C223CC01
3C223EB02
3C223FF08
3C223FF17
3C223FF22
3C223FF52
(57)【要約】
【課題】対象装置で実行されている工程の情報を直接取得できない場合でも、異常検知を行うことができるようにする。
【解決手段】診断対象となる対象装置の動作に応じて変化する動作情報に基づいて、前記対象装置で実行される工程の順番を示す工程番号を推定する工程番号推定部と、前記工程番号推定部で推定した前記工程番号に対応するパラメータと、前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する装置状態推定部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象となる対象装置の動作に応じて変化する動作情報に基づいて、前記対象装置で実行される工程の順番を示す工程番号を推定する工程番号推定部と、
前記工程番号推定部で推定した前記工程番号に対応するパラメータと、前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する装置状態推定部と、
を備えることを特徴とする診断装置。
【請求項2】
前記対象装置の動作に応じて変化する動作情報を取得する動作情報取得部と、
動作情報に関する時系列情報を記憶した動作時系列情報記憶部と、
を備え、
前記工程番号推定部は、前記動作情報取得部が取得した動作情報と、前記動作時系列情報記憶部に記憶された動作情報に関する時系列情報から、工程番号を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
モデル番号と工程番号との対応関係に関連したモデル設定を記憶し、前記工程番号推定部の推定した工程番号に対応したモデル番号を出力するモデル設定記憶部と、
複数のモデルパラメータと、それらのモデル番号との対応関係を記憶し、前記モデル設定記憶部から読み込まれたモデル番号に対応したモデルパラメータを出力するモデルパラメータ記憶部と、
前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報を取得する状態情報取得部と、
を備え、
前記装置状態推定部は、前記モデルパラメータ記憶部から読み込まれたモデルパラメータと、前記状態情報取得部の取得した状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記動作情報から動作時系列情報を生成する動作時系列生成部を備え、
前記動作時系列情報記憶部は、前記動作時系列生成部が生成した動作時系列情報を記憶する、
ことを特徴とする請求項2に記載の診断装置。
【請求項5】
前記動作情報から変換した動作特徴量を記憶する動作特徴量履歴記憶部を備え、
前記工程番号推定部は、
工程番号が推定できない場合に現在の動作情報から変換した動作特徴量を前記動作特徴量履歴記憶部に記憶させ、
次の動作情報と、前記動作時系列情報記憶部に記憶された動作時系列情報と、前記動作特徴量履歴記憶部に記憶された動作特徴量履歴から、工程番号を推定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の診断装置。
【請求項6】
前記動作情報は、前記対象装置の所定動作の動作区間を示すデータを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項7】
前記動作情報は、前記対象装置の繰り返し動作を開始するタイミングを示すデータを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項8】
前記動作情報は、前記対象装置の振動をセンサで取得した信号を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項9】
前記動作情報は、前記対象装置の音をセンサで取得した信号を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項10】
コンピュータを、
診断対象となる対象装置の動作に応じて変化する動作情報に基づいて、前記対象装置で実行される工程の順番を示す工程番号を推定する工程番号推定部と、
前記工程番号推定部で推定した前記工程番号に対応するパラメータと、前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する装置状態推定部と、
として機能させるためのプログラム。
【請求項11】
診断装置で実行される診断方法であって、
診断対象となる対象装置の動作に応じて変化する動作情報に基づいて、前記対象装置で実行される工程の順番を示す工程番号を推定する工程番号推定ステップと、
前記工程番号推定ステップで推定した前記工程番号に対応するパラメータと、前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する装置状態推定ステップと、
を含むことを特徴とする診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置、プログラムおよび診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械等がワークを加工する上で、工具の異常ならびに加工品質の予知および推定を行う方法として、機械のモータの電流値の情報、振動、音または力等の物理量を検知して用いる方法が既に知られている。
【0003】
また、従来、多工程の加工にかかる処理工程ごとの異常検出を容易にする目的で、処理工程ごとに用いる検知パラメータをユーザが指定し、指定された検知パラメータを自動的に切り替えて異常検知を行う技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術によれば、現在どの処理工程が実行されているのかという情報(指定された検知パラメータなど)を取得する必要があるが、工作機械によってはこれらの情報を直接取得することは困難であり、各処理工程に対してユーザの指定通りに検知パラメータを切り替えることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、対象装置で実行されている工程の情報を直接取得できない場合でも、異常検知を行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、診断対象となる対象装置の動作に応じて変化する動作情報に基づいて、前記対象装置で実行される工程の順番を示す工程番号を推定する工程番号推定部と、前記工程番号推定部で推定した前記工程番号に対応するパラメータと、前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する装置状態推定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、診断対象となる対象装置の動作に応じて変化する動作情報から現在行われている工程を推定するので、対象装置で実行されている工程の情報を直接取得できない場合でも、異常検知を行うことができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態に係る診断システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、工作機械のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、診断装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、診断装置および工作機械の機能ブロックの構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、工程番号推定部による工程番号の推定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第2の実施の形態にかかる診断装置の機能ブロックの構成の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、工程番号推定部による工程番号の推定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第3の実施の形態にかかる診断装置の機能ブロックの構成の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、センサ信号の強度を表す平均パワーの算出例を示す図である。
【
図11】
図11は、平均スペクトルに対するスペクトル重心の算出例を示す図である。
【
図12】
図12は、平均スペクトルに対する周波数成分の算出例を示す図である。
【
図13】
図13は、平均スペクトルに対する周波数成分の別の算出例を示す図である。
【
図14】
図14は、平均スペクトルに対するクラスタ番号の算出例を示す図である。
【
図15】
図15は、平均スペクトルを時系列で表す例を示す図である。
【
図16】
図16は、動作時系列生成部による動作時系列情報の生成処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、診断装置、プログラムおよび診断方法の実施の形態を詳細に説明する。また、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではなく、以下の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想到できるもの、実質的に同一のもの、およびいわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下の実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換、変更および組み合わせを行うことができる。
【0010】
(第1の実施の形態)
(診断システムの全体構成)
図1は、第1の実施の形態に係る診断システムの全体構成の一例を示す図である。
図1を参照しながら、本実施形態に係る診断システム1の全体構成について説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る診断システム1は、診断装置100と、工作機械200と、を備える。工作機械200は、診断装置100に対して通信可能となるように接続されている。なお、
図1には1台の工作機械200が診断装置100に接続されている例が示されているが、これに限定されるものではなく、複数台の工作機械200が診断装置100に対して、それぞれ通信可能となるように接続されているものとしてもよい。
【0012】
診断装置100は、工作機械200に対して通信可能となるように接続され、工作機械200の動作について状態監視を行う装置である。
【0013】
工作機械200は、工具500を用いて、加工対象に対して切削、研削または研磨等の加工を行う工作機械である。工作機械200、診断装置100による状態監視の対象となる対象装置の一例である。なお、対象装置として工作機械に限定されるものではなく、状態監視の対象となり得る機械であればよく、例えば、組立機、測定機、検査機、または洗浄機等の機械が対象装置であってもよい。以下では、工作機械200を対象装置の一例として説明する。
【0014】
工作機械200は、工具500と、工作機械200に設置されたセンサ201と、工作機械200を制御するコントローラ202と、を備える。
【0015】
工具500は、ドリル、エンドミル、バイトチップもしくは砥石等である。工具500は、後述する被削材に対して各種の加工を施す。
【0016】
センサ201は、工作機械200に設置されたドリル、エンドミル、バイトチップもしくは砥石等の工具500と加工対象とが加工動作中に接触することにより発する振動もしくは音等、または、工具500もしくは工作機械200自体が発する振動もしくは音等の物理量を検知し、検知した物理量の情報を検知情報(センサデータ)として、診断装置100へ出力するセンサである。センサ201は、例えば、マイク、振動センサ、加速度センサ、またはAE(Acoustic Emission)センサ等で構成され、例えば、振動または音等が検出できる工具500の近傍や工作機械のモータ付近などに設置される。センサ201は、計測データとして波形データを診断装置100へ出力する。
【0017】
コントローラ202は、工作機械200の稼動情報として、加工時の主軸回転数、送り速度、主軸座標値、主軸の電流値、加えてユーザが情報を入力していれば、工具500の種類、工具500の工具メーカ、工具500の工具径などの情報を診断装置100へ出力する。
【0018】
なお、工作機械200と診断装置100とは、どのような接続形態で接続されてもよい。例えば、工作機械200と診断装置100とは、専用の接続線、有線LAN(Local Area Network)等の有線ネットワーク、または、無線ネットワーク等により接続されるものとすればよい。
【0019】
また、センサ201の個数は任意であってよい。また、同一の物理量を検知する複数のセンサ201を備えてもよいし、相互に異なる物理量を検知する複数のセンサ201を備えてもよい。
【0020】
また、センサ201およびコントローラ202は、工作機械200に予め備えられているものとしてもよく、または、完成機械である工作機械200に対して後から取り付けられるものとしてもよい。
【0021】
(工作機械200のハードウェア構成)
図2は、工作機械200のハードウェア構成の一例を示す図である。
図2を参照しながら、本実施形態の工作機械200のハードウェア構成について説明する。
【0022】
図2に示すように、工作機械200のコントローラ202は、CPU(Central Processing Unit)51と、ROM(Read Only Memory)52と、RAM(Random Access Memory)53と、通信I/F(インターフェース)54と、駆動制御回路55と、がバス59で通信可能に接続された構成となっている。センサ201は、診断装置100に通信可能に接続されている。
【0023】
CPU51は、工作機械200の全体を制御する演算装置である。CPU51は、例えば、RAM53をワークエリア(作業領域)としてROM52等に格納されたプログラムを実行することで、工作機械200全体の動作を制御し、加工機能を実現する。
【0024】
通信I/F54は、診断装置100等の外部装置と通信するためのインターフェースである。駆動制御回路55は、モータ56の駆動を制御する回路である。モータ56は、ドリル、エンドミル、バイトチップまたは砥石等、および、加工対象が載置され加工に合わせて移動されるテーブル等の加工に用いる工具500を駆動するモータである。センサ201は、上述の通りである。
【0025】
(診断装置100のハードウェア構成)
図3は、診断装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3を参照しながら、本実施形態に係る診断装置100のハードウェア構成について説明する。
【0026】
図3に示すように、診断装置100は、CPU61と、ROM62と、RAM63と、通信I/F64と、センサI/F65と、補助記憶装置66と、入力装置67と、ディスプレイ68と、がバス69で通信可能に接続された構成となっている。
【0027】
CPU61は、診断装置100の全体を制御する演算装置である。CPU61は、例えば、RAM63をワークエリア(作業領域)としてROM62等に格納されたプログラムを実行することで、診断装置100全体の動作を制御し、状態監視機能を実現する。
【0028】
通信I/F64は、工作機械200等の外部装置と通信するためのインターフェースである。通信I/F64は、例えば、TCP(Transmission Control Protocol)/IP(Internet Protocol)に対応したNIC(Network Interface Card)等である。
【0029】
センサI/F65は、工作機械200に設置されたセンサ201から検知情報を受信するためのインターフェースである。
【0030】
補助記憶装置66は、診断装置100の設定情報、工作機械200から受信された検知情報およびコンテキスト情報、OS(Operating System)、およびアプリケーションプログラム等の各種データを記憶するHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、またはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性の記憶装置である。なお、補助記憶装置66は、診断装置100が備えるものとしているが、これに限定されるものではなく、例えば、診断装置100の外部に設置された記憶装置であってもよく、または、診断装置100とデータ通信可能なサーバ装置が備えた記憶装置であってもよい。
【0031】
入力装置67は、文字および数字等の入力、各種指示の選択、ならびにカーソルの移動等の操作を行うためのマウスまたはキーボード等の入力装置である。
【0032】
ディスプレイ68は、文字、数字、および各種画面および操作用アイコン等を表示するCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、LCD(Liquid Crystal Display)、または有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等の表示装置である。
【0033】
なお、
図3に示したハードウェア構成は一例であり、すべての構成機器を備えている必要はなく、また、他の構成機器を備えているものとしてもよい。例えば、診断装置100が工作機械200の診断動作に特化し、診断結果を外部のサーバ装置等に送信する場合、入力装置67およびディスプレイ68は備えられていない構成としてもよい。
【0034】
(診断装置100および工作機械200の機能ブロックの構成および動作)
図4は、診断装置100および工作機械200の機能ブロックの構成の一例を示す図である。
図4を参照しながら、本実施形態に係る診断装置100および工作機械200の機能ブロックの構成および動作について説明する。
【0035】
図4に示すように、診断装置100の診断対象となる工作機械200は、加工部210を有する。加工部210は、モータ56を制御して工具500を駆動制御する機能部である。加工部210は、
図2に示すCPU51にプログラムを実行させること、すなわち、ソフトウェアにより実現してもよく、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現してもよく、または、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。
【0036】
工作機械200の加工部210は、工具500を駆動制御する動作を、工程単位で区切る。工作機械200の加工部210は、複数の工程を切り替えることにより、所定の工程を順に繰り返すことができる。工作機械200の加工部210は、工程にかかる所定動作の動作区間(加工区間)を示すデータ(切削送り信号など)を出力可能である。
【0037】
図4に示すように、診断装置100は、動作情報取得部101と、状態情報取得部102と、動作時系列情報記憶部103と、工程番号推定部104と、モデル設定記憶部105と、モデルパラメータ記憶部106と、装置状態推定部107と、を有する。なお、
図4に示す動作情報取得部101、状態情報取得部102、動作時系列情報記憶部103、工程番号推定部104、モデル設定記憶部105、モデルパラメータ記憶部106および装置状態推定部107は、
図3に示すCPU61にプログラムを実行させること、すなわち、ソフトウェアにより実現してもよく、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現してもよく、または、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。
【0038】
動作情報取得部101は、診断の診断対象となる工作機械200から、その動作に関連した情報(動作情報)を取得する。
【0039】
動作情報は、例えば、工作機械200の所定動作の動作区間(加工区間)を示すデータ(切削送り信号など)を含む。なお区間とは、工程において、例えば工具が実際に動作している区間を表す。この信号は、加工のために工具500を動かしている間のみ所定の値を示し、それ以外では0を示す。これにより、精度よく工程番号を推定可能になる効果がある。
【0040】
また、動作情報は、例えば、工作機械200の繰り返し動作を開始するタイミングを示すデータを含む。具体的には、動作情報は、プログラムの実行開始/終了を示す信号、実行中のプログラムのプログラムID情報などである。これにより、精度よく工程番号を推定可能になる効果がある。
【0041】
また、動作情報は、例えば、工作機械200の振動をセンサ201で取得した振動センサ信号を含む。これにより、精度よく工程番号を推定可能になる効果がある。
【0042】
また、動作情報は、例えば、工作機械200の音をセンサ201で取得したマイクデバイス信号を含む。これにより、精度よく工程番号を推定可能になる効果がある。
【0043】
状態情報取得部102は、工作機械200から、工作機械200の状態に関連した情報(状態情報)を取得する。ここで、状態情報は、例えば工作機械200に取り付けたセンサ201からの信号である。より具体的には、状態情報は、振動センサや、マイクデバイスなどから取得した信号である。
【0044】
動作時系列情報記憶部103は、工作機械200がどのような順番で動作しているかに関連した情報(動作時系列情報)を記憶する。ここで、動作時系列情報は、例えば、工作機械200で実行される工程の順番を示す工程番号と、その工程で動作情報が示す特徴との対応関係である。また、動作時系列情報は、例えば、工程番号と、その工程で用いる工具500を示す工具番号との対応関係である。工程における加工区間の長さを動作情報が示す特徴とした場合における、動作時系列情報の一例を下記の表1に示す。
【0045】
【0046】
動作時系列情報は、事前に分かっている場合には、あらかじめユーザが入力するようにしてもよい。また、動作時系列情報は、工作機械200を一旦動作させ、実際の動作情報を取得・変換して生成し、記憶させてもよい。この場合の実施例については後述する。
【0047】
工程番号推定部104は、動作情報取得部101で取得した動作情報と、動作時系列情報記憶部103に記憶してある動作時系列情報とを参照して、工作機械200で現在実行されている工程の工程番号を推定する。
【0048】
例えば、動作情報として加工区間を示す信号が取得され、動作時系列情報として各工程の加工区間長が記憶されている場合、工程番号推定部104は、加工区間を示す信号から現在の加工区間の長さを計算し、動作時系列情報に記憶されている中で最も近い加工区間長に対応した工程番号を推定結果として出力する。このようにして、工作機械200から工程番号が直接取得できない場合でも、工程番号を推定して利用できるようになる。
【0049】
モデル設定記憶部105は、工作機械200の状態推定に用いる複数のモデルパラメータに対する識別番号であるモデル番号と、工程番号との対応(モデル設定)を記憶する。ここで、モデル設定の一例を下記の表2に示す。
【0050】
【0051】
なお、モデル番号と工程番号とは、ユーザによって事前に入力するようにしてもよい。
【0052】
モデルパラメータ記憶部106は、工作機械200の状態推定に用いる複数のモデルパラメータと、それらの識別番号であるモデル番号との対応関係(モデル設定)を記憶する。モデルパラメータは、例えば、状態情報が振動センサ信号だった場合、信号パワーの平均値・標準偏差値などの統計値、周波数特性を混合ガウスモデル(GMM)などの確率・統計モデルで表現した際のパラメータ、入力信号からクラス分類を行うニューラルネットワークのパラメータ、種々の計算値から装置状態を分類する際の閾値、信号を短時間フーリエ変換(STFT)する際の窓長などである。ここで、信号パワー平均値をモデルパラメータとした際の、モデル設定の一例を下記の表3に示す。
【0053】
【0054】
なお、モデル番号とモデルパラメータとは、事前にユーザが入力するようにしてもよい。あるいは、モデル番号とモデルパラメータとは、一旦工作機械200を動作させ、実際の動作情報や状態情報を取得・変換し、そこから適切なモデル番号とモデルパラメータを生成して記憶させてもよい。
【0055】
装置状態推定部107は、状態情報取得部102で取得した状態情報と、モデルパラメータ記憶部106のモデルパラメータとを用いて、工作機械200の状態を推定する。例えば、状態情報がセンサ201である振動センサの信号、モデルパラメータが正常状態における信号パワーの平均値である場合に、装置状態推定部107は、振動センサ信号のパワーの平均を計算し、モデルパラメータとの差分を計算する。そして、装置状態推定部107は、差分値を異常スコア(装置状態)として出力する、または、差分値がある閾値を超えたら異常状態、そうでなければ正常状態を表す値や文字列を出力するなどする。
【0056】
以上の構成により、診断装置100は、所望のモデル設定をモデル設定記憶部105に記憶させることで、どの工程にどのモデルパラメータを適用するかを詳細に指定させることができ、また、工程番号を推定することで、その指定に沿ったモデルパラメータの適用を実施することが可能である。
【0057】
なお、工作機械200に複数のプログラムが登録されている場合、動作時系列情報とモデル設定はプログラムIDごとに記憶される。そして、工程番号推定部104は、プログラムIDと工程番号の組み合わせを推定し、モデル設定記憶部105はその組み合わせに対応したモデル番号を出力する。なお工程番号推定部104は、プログラムIDに基づいて工程番号を推定し、モデル設定記憶部105は、例えば、表2から推定された工程番号に対応したモデル番号を取得して出力してもよい。以上の処理は、任意の単位時間ごとに実行してもよいし、加工区間など、何らかのイベント区切りで実行してもよい。
【0058】
次に、工程番号推定部104による工程番号の推定処理の流れについて説明する。
【0059】
ここで、
図5は工程番号推定部104による工程番号の推定処理の流れを示すフローチャートである。
図5に示すように、工程番号推定部104は、まず、初期値1のループカウンタ‘i’を生成する(ステップS1)。
【0060】
次に、工程番号推定部104は、動作時系列情報記憶部103から動作時系列情報を読み込む(ステップS2)。併せて、工程番号推定部104は、工作機械200のi番目の動作情報を、動作情報取得部101を介して取得する(ステップS3)。
【0061】
次に、工程番号推定部104は、取得したi番目の動作情報を元に、i番目の動作特徴量(加工区間長など)を計算する(ステップS4)。
【0062】
次に、工程番号推定部104は、ステップS2で読み込んだ動作時系列情報の動作特徴量(加工区間長)を参照する(ステップS5)。そして、工程番号推定部104は、計算した動作特徴量(加工区間長)と最も近い、動作特徴量を動作時系列情報(表1)から抽出する(ステップS6)。
【0063】
次に、工程番号推定部104は、動作時系列情報において、抽出した動作特徴量と対応付けられた工程番号を現在の工程番号を推定する(ステップS7)。
【0064】
加えて、工程番号推定部104は、工程番号を推定した後に、推定結果をユーザに通知する(ステップS20)。本実施形態においては、工程番号推定部104は、GUI(Graphical User Interface)画面を表示して、推定結果をユーザに通知する。
【0065】
ここで、
図6はGUI画面の一例を示す図である。
図6に示すGUI画面は、工程番号推定部104が推定した工程番号aおよび装置状態推定部107が出力した異常スコア(装置状態)bに対応づけて、振動波形(状態情報)cと、振動スペクトログラム(状態情報の変換)dと、加工区間(動作情報)eと、を表示する。振動波形(状態情報)cは、センサ201が検知した波形データである。振動スペクトログラム(状態情報の変換)dは、振動波形(状態情報)cについての周波数ごとの振動パワーを示すものである。加工区間(動作情報)eは、工作機械200の所定動作の動作区間を示すデータである。
【0066】
なお、
図6に示すGUI画面に表示される内容は、リアルタイムで更新される。
【0067】
このように本実施形態によれば、診断対象となる対象装置の動作情報から現在行われている工程を推定するので、対象装置で実行されている工程の情報を直接取得できない場合でも、異常検知を行うことができる、という効果を奏する。
【0068】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0069】
第2の実施の形態は、より長時間の情報から工程番号を精度よく推定できるようにした点が、第1の実施の形態と異なる。以下、第2の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0070】
ここで、
図7は第2の実施の形態にかかる診断装置100の機能ブロックの構成の一例を示す図である。
図7に示すように、診断装置100は、第1の実施の形態で説明した動作情報取得部101、状態情報取得部102、動作時系列情報記憶部103、工程番号推定部104、モデル設定記憶部105、モデルパラメータ記憶部106および装置状態推定部107に加え、動作特徴量履歴記憶部108を有する。なお、
図7に示す動作特徴量履歴記憶部108は、
図3に示すCPU61にプログラムを実行させること、すなわち、ソフトウェアにより実現してもよく、IC等のハードウェアにより実現してもよく、または、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。
【0071】
第1の実施の形態で説明したように、工程番号推定部104は、動作情報取得部101で取得した動作情報と、動作時系列情報記憶部103に記憶してある動作時系列情報とを参照して、工作機械200で現在実行されている工程の工程番号を推定する。しかしながら、工程番号推定部104は、動作時系列情報記憶部103に記憶されている動作時系列情報の内容と、動作情報取得部101で取得した動作情報の内容との組み合わせによっては、工程番号を推定できない場合がある。
【0072】
例えば、加工区間長を動作特徴量として、表4のような動作時系列情報が動作時系列情報記憶部103に記憶されており、取得した動作情報から求められた加工区間長が500msであった場合、工程番号推定部104は、工程番号が「1」であるか「4」であるかを推定することは困難である。
【0073】
【0074】
そこで、本実施形態においては、上述のように工程番号が推定できなかった場合、工程番号推定部104は、現在の動作特徴量を、動作特徴量履歴記憶部108に記憶する。そして、工程番号推定部104は、次に動作情報取得部101で取得した動作情報から計算した動作特徴量と、動作特徴量履歴記憶部108に記憶された動作特徴量履歴とを、動作時系列情報記憶部103に記憶された動作時系列情報と照らし合わせて、表4のような動作時系列情報を参照して工程番号を推定する。
【0075】
例えば、前述のケースでは、工程番号推定部104は、加工区間長500msという情報を一旦動作特徴量履歴記憶部108に記憶し、次に動作情報取得部101で取得した動作情報から計算された加工区間長と合わせて、工程番号を推定する。そして、工程番号推定部104は、次に計算された加工区間長が1000msであった場合、先ほどの500msと合わせて、表4を参照して工程番号は「5」であると推定する。
【0076】
なお、工程番号が推定できない間、工程番号推定部104は、工程番号が推定できないことを示す値(例えば「0」など)を出力してもよい。
【0077】
モデル設定記憶部105は、工程番号が推定できないことを示す値が工程番号として入力された場合、同様にモデル番号が不確定であることを示す値(例えば「0」)を出力してもよいし、ほかの工程番号と同じように扱って、対応したモデル番号を出力してもよい。
【0078】
モデルパラメータ記憶部106は、モデル番号が不確定であった場合、モデルパラメータの代わりに、モデルが不確定であることを示す値を出力する。
【0079】
装置状態推定部107は、モデルが不確定であった場合に、工作機械200の状態として何らかの規定値(例えば異常スコア0という値や、「状態不定」といった文字列)を出力してもよい。
【0080】
また、動作情報取得部101でプログラムの実行開始/終了信号が取得できた場合、工程番号推定部104は、動作時系列情報の先頭、もしくは末尾であると判定することができる。工程番号が長く不確定のままであっても、これによって最低限の動作保証がなされる。
【0081】
工程番号推定部104は、一度工程番号を推定した後は、動作時系列情報との照合処理を省いて、区間ごとに工程番号をインクリメントして出力してもよい。この場合、プログラムの実行開始/終了信号などで工程が一巡したことを検知したら、工程番号推定部104は、工程番号を先頭にリセットする。
【0082】
次に、工程番号推定部104により、より長時間の情報から特徴量履歴を用いて工程番号を精度よく推定する処理の流れについて説明する。
【0083】
ここで、
図8は工程番号推定部104による工程番号の推定処理の流れを示すフローチャートである。
図8に示すように、工程番号推定部104は、まず、初期値1のループカウンタ‘i’を生成する(ステップS1)。
【0084】
次に、工程番号推定部104は、動作時系列情報記憶部103から動作時系列情報を読み込む(ステップS2)。併せて、工程番号推定部104は、工作機械200のi番目の動作情報を、動作情報取得部101を介して取得する(ステップS3)。
【0085】
次に、工程番号推定部104は、取得したi番目の動作情報を元に、i番目の動作特徴量(加工区間長など)を計算する(ステップS4)。
【0086】
次に、工程番号推定部104は、動作特徴量履歴記憶部108から動作特徴量履歴を読み込む(ステップS5)。そして、工程番号推定部104は、動作時系列情報と動作特徴量履歴とi番目の動作特徴量(加工区間長など)とを照合する(ステップS6)。
【0087】
次に、工程番号推定部104は、照合結果より工程番号を推定する(ステップS7)。
【0088】
工程番号推定部104は、工程番号が一意に決まる場合(ステップS8のYes)、工程番号を確定する(ステップS9)。
【0089】
加えて、工程番号推定部104は、工程番号を確定した後に、確定結果をユーザに通知する(ステップS30)。本実施形態においては、工程番号推定部104は、
図6に示すGUI画面を表示して、確定結果をユーザに通知する。
【0090】
一方、工程番号推定部104は、工程番号が一意に決まらない場合(ステップS8のNo)、動作特徴量履歴記憶部108に現在の動作特徴量を記憶する(ステップS10)。
【0091】
次に、工程番号推定部104は、ループカウンタ‘i’に1を加算し(ステップS11)、加工プログラム末尾に到達したかを判定する(ステップS12)。
【0092】
工程番号推定部104は、加工プログラム末尾に到達していないと判定した場合(ステップS12のNo)、ステップS3に進み、工作機械200のi番目の動作情報を、動作情報取得部101を介して取得する。
【0093】
一方、工程番号推定部104は、加工プログラム末尾に到達していると判定した場合(ステップS12のYes)、ステップS9に進み、工程番号を確定する。
【0094】
このように本実施形態によれば、工程番号が推定できない場合に現在の動作情報から変換した動作特徴量を動作特徴量履歴記憶部108に記憶させ、次の動作情報と、動作時系列情報記憶部103に記憶された動作時系列情報と、動作特徴量履歴記憶部108に記憶された動作特徴量履歴から、工程番号を推定する。これにより、長期間の特徴を用いて、精度よく工程を推定することができる、という効果を奏する。
【0095】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態について説明する。
【0096】
第3の実施の形態は、動作時系列情報を自動的に生成するようにした点が、第1の実施の形態および第2の実施の形態と異なる。以下、第3の実施の形態の説明では、第1の実施の形態と同一部分の説明については省略し、第1の実施の形態または第2の実施の形態と異なる箇所について説明する。
【0097】
ここで、
図9は第3の実施の形態にかかる診断装置100の機能ブロックの構成の一例を示す図である。
図9に示すように、診断装置100は、第2の実施の形態で説明した動作情報取得部101、状態情報取得部102、動作時系列情報記憶部103、工程番号推定部104、モデル設定記憶部105、モデルパラメータ記憶部106、装置状態推定部107および動作特徴量履歴記憶部108に加え、動作時系列生成部109を有する。なお、
図9に示す動作時系列生成部109は、
図3に示すCPU61にプログラムを実行させること、すなわち、ソフトウェアにより実現してもよく、IC等のハードウェアにより実現してもよく、または、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。
【0098】
動作時系列生成部109は、動作情報取得部101により取得した動作情報から動作時系列情報を自動的に生成する。具体的には、動作時系列生成部109は、動作情報取得部101により取得される下記の情報を使用する。
切削送り信号:工作機械200における切削送り動作中はON、それ以外はOFFになるような2値信号
センサ信号:振動センサやマイクデバイスなどのセンサ201から得られる信号
【0099】
さらに、工作機械200側から下記の情報が取得可能であれば、これらも合わせて使用する。なお、取得できない場合の代替手段についても以下で述べる。
プログラムID:工作機械200において動作中の加工プログラムの種別を示すID情報
プログラム開始信号:加工プログラムの先頭を示すトリガ信号
【0100】
なお、動作時系列生成部109は、動作時系列情報の生成について、加工プログラムの先頭から末尾までの間の一連の加工動作に対して行う。動作時系列生成部109は、動作時系列生成処理を開始後、最初にプログラム開始信号を受け取ってから、加工プログラムが一巡して再びプログラム開始信号を受け取るまでの期間を、加工プログラムの先頭から末尾までの期間として抽出することができる。そのため、連続稼働中の工程においても、この期間を指定するための作業者による特別な操作は不要である。
【0101】
ただし、工作機械200側からプログラム開始信号を取得する仕組みが存在しない場合には、作業者が動作時系列生成部109に対して、加工プログラムの開始時と終了時を何らかの方法で明示的に指示する必要がある。この方法としては、例えば、診断システム1の診断装置100のディスプレイ68に表示されたGUI上に、動作時系列情報の生成開始と終了を指示するスタートボタンおよびストップボタンを設けておく。そして、スタートボタンを押した後に加工プログラムの先頭から動作を開始し、プログラムの末尾に達した時点でストップボタンを押すなどの操作を可能にする仕組みを設けたり、作業者に対して本処理実行中に加工プログラムの先頭から末尾までを1度だけ実行してもらったりする、という運用上のルールを設けるといった方法が考えられる。
【0102】
動作時系列生成部109による動作時系列情報の生成は、概略的には下記の(1)~(6)の処理を行うことで実行される。
【0103】
(1)まず、動作時系列生成部109は、動作情報取得部101を介して実行中のプログラムIDを取得する。なお、工作機械200側からプログラムIDを取得する仕組みが存在しない場合には、診断システム1の診断装置100のディスプレイ68のGUI上からこの値を明示的に指示する仕組みを設けることで実現することができる。
【0104】
(2)次に、動作時系列生成部109は、取得したプログラムIDに対応する動作時系列情報が、既に動作時系列情報記憶部103上に存在する場合には、以降の処理をスキップする。動作時系列生成部109は、取得したプログラムIDに対応する動作時系列情報が、動作時系列情報記憶部103上に存在しない場合は、このプログラムIDに対応する空のテーブルを生成する。
【0105】
(3)次に、動作時系列生成部109は、プログラム開始時点から何番目の切削送り信号であるかをカウントするカウンタを用意し、カウンタ値が増える度に(2)で生成したテーブルに行を追加して「工程番号」の欄にそのカウンタ値を記録する。
【0106】
(4)次に、動作時系列生成部109は、工程番号で切削送り信号がONになっている期間の時間長(切削送り区間長)を求めて、その工程番号に対応する「切削送り区間長」の欄に記録する。
【0107】
(5)加えて、動作時系列生成部109は、切削送り区間内のセンサ信号から計算された、切削送り区間全体における信号パターンの特徴を表すパラメータをその工程番号に対応する「特徴量」の欄に記録しても良い。このパラメータとしては、センサ信号に対する信号処理で得られるものであれば、どのようなものを用いても良いが、工程番号推定部104での計算コストを考えれば、センサ信号の特徴をスカラ値や比較的低次元のベクトルとして端的に表現することのできる簡素な指標を用いるのが好ましい。このような指標としては、例えば以下のようなものが考えられる。
【0108】
指標としては、センサ信号の強度を表す平均パワーが挙げられる。
図10は、センサ信号の強度を表す平均パワーの算出例を示す図である。
図10に示すように、センサ201から得られるセンサ信号に基づき、式(1)によりセンサ信号の強度を表す平均パワーを算出する。
【0109】
また、指標としては、FFT等で求めた平均スペクトルに対するスペクトル重心が挙げられる。
図11は、平均スペクトルに対するスペクトル重心の算出例を示す図である。
図11に示すように、FFT等で求めた平均スペクトルに基づき、式(2)によりスペクトル重心を算出する。
【0110】
また、指標としては、FFT等で求めた平均スペクトルに対する周波数成分が挙げられる。
図12は、平均スペクトルに対する周波数成分の算出例を示す図である。
図12に示すように、FFT等で求めた平均スペクトルに対し、バンドパスフィルタによる特定帯域の抽出を行い、次元を圧縮する。
図13は、平均スペクトルに対する周波数成分の別の算出例を示す図である。
図13に示すように、FFT等で求めた平均スペクトルに対し、異なる帯域のバンドパスフィルタを複数並べて各帯域の平均パワーを求めるフィルタバンク処理、主成分分析等で次元を圧縮する。
【0111】
また、指標としては、FFT等で求めた平均スペクトルに対するクラスタ番号が挙げられる。
図14は、平均スペクトルに対するクラスタ番号の算出例を示す図である。
図14に示すように、FFT等で求めた平均スペクトルに対し、別途用意したAI的な手法によるクラスタリング器を適用してクラスタ番号を算出する。
【0112】
ここで、
図15は平均スペクトルを時系列で表す例を示す図である。
図15に示すように、切削送り区間を数百ミリ秒~数秒程度毎に時分割し、各分割区間に対して求めた上記指標の時系列として表しても良い。さらに、複数の指標の組み合わせとして定義しても良い。
【0113】
(6)次に、動作時系列生成部109は、工作機械200の加工部210の工程を示す加工プログラムが末尾に達したことが判明した時点(加工プログラムが先頭に戻って再びプログラム開始信号を受信した時点、あるいは作業者が明示的にプログラムの終了を指示した時点)で、生成したテーブルを動作時系列情報記憶部103上に保存する。
【0114】
ここで、
図16は動作時系列生成部109による動作時系列情報の生成処理の流れを示すフローチャートである。
図16に示すように、まず、動作時系列生成部109は、工作機械200からプログラムIDを取得できるかを判定する(ステップS21)。
【0115】
動作時系列生成部109は、工作機械200からプログラムIDを取得できると判定した場合(ステップS21のYes)、動作情報取得部101から実行中のプログラムIDを取得し(ステップS22)、ステップS24に進む。
【0116】
一方、動作時系列生成部109は、工作機械200からプログラムIDを取得できないと判定した場合(ステップS21のNo)、ユーザによるGUIでのプログラムIDの入力を受け付け(ステップS23)、ステップS24に進む。
【0117】
ここで、
図17はGUI画面の一例を示す図である。
図17に示すGUI画面は、後述する「表5」を作成するために、ユーザから各種の設定情報の入力を受け付けるGUIである。
図17に示すGUI画面は、事前に登録された複数のプログラム群fの中から所望のプログラムのプログラムIDを選択可能となっている。なお、
図17に示すGUI画面は、新規のプログラムのプログラムIDの新規登録も可能である。ユーザは、複数のプログラム群fの中から所望のプログラムのプログラムIDを選択し、「OK」ボタンgを操作することで、プログラムIDを決定することができる。
【0118】
次いで、動作時系列生成部109は、動作時系列情報記憶部103から、動作時系列情報を読み込む(ステップS24)。その後、動作時系列生成部109は、取得したプログラムIDに対応する動作時系列情報を検索する(ステップS25)。
【0119】
ここで、動作時系列生成部109は、取得したプログラムIDに対応する動作時系列情報が存在するかを判定する(ステップS26)。
【0120】
動作時系列生成部109は、取得したプログラムIDに対応する動作時系列情報が存在すると判定した場合(ステップS26のYes)、そのまま処理を終了する。
【0121】
一方、動作時系列生成部109は、取得したプログラムIDに対応する動作時系列情報が存在しないと判定した場合(ステップS26のNo)、取得したプログラムIDに対応する空のテーブルを生成する(ステップS27)。
【0122】
図17に示すGUI画面は、ステップS23で選択されたプログラムIDの動作時系列情報を表示する。
図17に示すGUI画面においては、動作時系列情報として、工作機械200で実行される工程の順番を示す工程番号hと、その工程における加工区間の長さiと、加工区間全体に対する「平均パワー」と「スペクトル重心」の組み合わせである特徴量jと、を表示する。
【0123】
なお、
図17に示すGUI画面は、動作時系列情報に対する編集も可能とする。また、
図17に示すGUI画面は、取得したプログラムIDに対応する動作時系列情報が存在しないと判定した場合、「空」で表示する。
【0124】
次に、動作時系列生成部109は、プログラム開始時点から何番目の切削送り信号であるかをカウントする、切削送り信号カウンタを生成する(ステップS28)。
【0125】
次に、動作時系列生成部109は、動作情報取得部101から、切削送り信号を取得する(ステップS29)。そして、動作時系列生成部109は、切削送り信号カウンタ値を加算する(ステップS30)。
【0126】
次に、動作時系列生成部109は、テーブルに行を追加し、テーブルの「工程番号」の欄に、切削送り信号カウンタ値を記録する(ステップS31)。併せて、動作時系列生成部109は、テーブルの「区間長」の欄に、切削送り信号がONになっている期間の時間長(切削送り区間長)を記録する(ステップS32)。さらに、動作時系列生成部109は、テーブルの「特徴量」の欄に、センサ信号から計算された、切削送り区間全体における信号パターンの特徴を表すパラメータを記録する(ステップS33)。
【0127】
次に、動作時系列生成部109は、プログラムが末尾に到達したか判定する(ステップS34)。
【0128】
動作時系列生成部109は、プログラムが末尾に到達したと判定した場合(ステップS34のYes)、テーブルを動作時系列情報として動作時系列情報記憶部103に保存し(ステップS35)、処理を終了する。
【0129】
一方、動作時系列生成部109は、プログラムが末尾に到達していないと判定した場合(ステップS34のNo)、ステップS29に戻り、動作情報取得部101から切削送り信号を取得する。
【0130】
動作時系列生成部109は、上記の処理を行った結果として、プログラムID毎に例えば以下のようなテーブル(表5)を生成し、動作情報記憶部101上に記録する。表5は、切削送り区間全体に対する「平均パワー」と「スペクトル重心」の組み合わせで特徴量を定義した場合の例である。
【0131】
【0132】
このように本実施形態によれば、動作情報から動作時系列情報を生成する動作時系列生成部109を備え、動作時系列情報記憶部103は、動作時系列生成部109が生成した動作時系列情報を記憶する。これにより、人手などではなく、実際のデータから動作時系列情報を生成することができる、という効果を奏する。
【0133】
(その他の変形例)
上述の実施形態では、検知情報は、例えば、振動データまたは音響データ等であるとしたが、モータの電流値、負荷、トルク等、他のデータであっても検知情報として用いることができる。
【0134】
なお、上述の実施形態および各変形例の診断システムで実行されるプログラムは、ROM等に予め組み込まれて提供するように構成してもよい。
【0135】
また、上述の実施形態および各変形例の診断システムで実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Compact Disc-Recordable)、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録してコンピュータ・プログラム・プロダクトとして提供するように構成してもよい。
【0136】
また、上述の実施形態および各変形例の診断システムで実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、上述の実施形態および各変形例の診断システムで実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0137】
また、上述の実施形態および各変形例の診断システムで実行されるプログラムは、上述した各機能部を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPU(プロセッサ)がROMからプログラムを読み出して実行することにより上述の各機能部が主記憶装置上にロードされ、各機能部が主記憶装置上に生成されるようになっている。
【0138】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1>
診断対象となる対象装置の動作に応じて変化する動作情報に基づいて、前記対象装置で実行される工程の順番を示す工程番号を推定する工程番号推定部と、
前記工程番号推定部で推定した前記工程番号に対応するパラメータと、前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する装置状態推定部と、
を備えることを特徴とする診断装置である。
<2>
前記対象装置の動作に応じて変化する動作情報を取得する動作情報取得部と、
動作情報に関する時系列情報を記憶した動作時系列情報記憶部と、
を備え、
前記工程番号推定部は、前記動作情報取得部が取得した動作情報と、前記動作時系列情報記憶部に記憶された動作情報に関する時系列情報から、工程番号を推定する、
ことを特徴とする<1>に記載の診断装置である。
<3>
モデル番号と工程番号との対応関係に関連したモデル設定を記憶し、前記工程番号推定部の推定した工程番号に対応したモデル番号を出力するモデル設定記憶部と、
複数のモデルパラメータと、それらのモデル番号との対応関係を記憶し、前記モデル設定記憶部から読み込まれたモデル番号に対応したモデルパラメータを出力するモデルパラメータ記憶部と、
前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報を取得する状態情報取得部と、
を備え、
前記装置状態推定部は、前記モデルパラメータ記憶部から読み込まれたモデルパラメータと、前記状態情報取得部の取得した状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する、
ことを特徴とする<1>または<2>に記載の診断装置である。
<4>
前記動作情報から動作時系列情報を生成する動作時系列生成部を備え、
前記動作時系列情報記憶部は、前記動作時系列生成部が生成した動作時系列情報を記憶する、
ことを特徴とする<2>に記載の診断装置である。
<5>
前記動作情報から変換した動作特徴量を記憶する動作特徴量履歴記憶部を備え、
前記工程番号推定部は、
工程番号が推定できない場合に現在の動作情報から変換した動作特徴量を前記動作特徴量履歴記憶部に記憶させ、
次の動作情報と、前記動作時系列情報記憶部に記憶された動作時系列情報と、前記動作特徴量履歴記憶部に記憶された動作特徴量履歴から、工程番号を推定する、
ことを特徴とする<2>に記載の診断装置である。
<6>
前記動作情報は、前記対象装置の所定動作の動作区間を示すデータを含む、
ことを特徴とする<1>ないし<5>の何れかに記載の診断装置である。
<7>
前記動作情報は、前記対象装置の繰り返し動作を開始するタイミングを示すデータを含む、
ことを特徴とする<1>ないし<5>の何れかに記載の診断装置である。
<8>
前記動作情報は、前記対象装置の振動をセンサで取得した信号を含む、
ことを特徴とする<1>ないし<5>の何れかに記載の診断装置である。
<9>
前記動作情報は、前記対象装置の音をセンサで取得した信号を含む、
ことを特徴とする<1>ないし<5>の何れかに記載の診断装置である。
<10>
コンピュータを、
診断対象となる対象装置の動作に応じて変化する動作情報に基づいて、前記対象装置で実行される工程の順番を示す工程番号を推定する工程番号推定部と、
前記工程番号推定部で推定した前記工程番号に対応するパラメータと、前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する装置状態推定部と、
として機能させるためのプログラムである。
<11>
診断装置で実行される診断方法であって、
診断対象となる対象装置の動作に応じて変化する動作情報に基づいて、前記対象装置で実行される工程の順番を示す工程番号を推定する工程番号推定ステップと、
前記工程番号推定ステップで推定した前記工程番号に対応するパラメータと、前記対象装置の状態に応じて変化する状態情報とを用いて、前記対象装置の状態を推定する装置状態推定ステップと、
を含むことを特徴とする診断方法である。
【符号の説明】
【0139】
100 診断装置
101 動作情報取得部
102 状態情報取得部
103 動作時系列情報記憶部
104 工程番号推定部
105 モデル設定記憶部
106 モデルパラメータ記憶部
107 装置状態推定部
108 動作特徴量履歴記憶部
109 動作時系列生成部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0140】