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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021037
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20230202BHJP
【FI】
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119941
(22)【出願日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2021126183
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231475
【氏名又は名称】日本真空光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高星 英明
(72)【発明者】
【氏名】竹本 和矢
(72)【発明者】
【氏名】河合 啓介
(72)【発明者】
【氏名】三宅 雅章
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148GA04
2H148GA14
2H148GA33
2H148GA51
(57)【要約】
【課題】400~680nmの可視光の遮蔽性と、高入射角であっても800nm以降の近赤外光の透過性に優れ、黒色を呈する光学フィルタを提供すること。
【解決手段】基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に低屈折率膜と高屈折率膜とが積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、前記誘電体多層膜は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含み、前記高屈折率膜の最小膜厚が1.5~5nmであり、最大膜厚が100nm以下であり、前記高屈折率膜は、波長600nmにおける消衰係数k600が0.12以上かつ800~1570nmにおける最小消衰係数k800-1570MINが0.01以下であるかスピン密度が5.0×1010(個/(nm*cm))以上であり、前記光学フィルタが特定の分光特性(ii-1)~(ii-4)をすべて満たす、光学フィルタ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜は、低屈折率膜と高屈折率膜とが積層された積層体であり、
前記誘電体多層膜は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含み、
前記高屈折率膜の最小膜厚が1.5~5nmであり、
前記高屈折率膜の最大膜厚が100nm以下であり、
前記高屈折率膜は、下記分光特性(i-1)および(i-2)を満たし、
前記光学フィルタは、下記分光特性(ii-1)~(ii-4)をすべて満たす、光学フィルタ。
(i-1)波長600nmにおける消衰係数k600が0.12以上
(i-2)800~1570nmの波長領域における最小消衰係数k800-1570MINが0.01以下
(ii-1)400~680nmの波長領域における入射角0度での最大透過率T400-680(0deg)MAXが6%以下
(ii-2)400~680nmの波長領域における入射角5度での最大反射率R400-680(5deg)MAXが20%以下
(ii-3)X~Ynmの波長領域における入射角0度で平均透過率TX-Y(0deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
(ii-4)X~Ynmの波長領域における入射角60度で平均透過率TX-Y(60deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
【請求項2】
基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜は、低屈折率膜と高屈折率膜とが積層された積層体であり、
前記誘電体多層膜は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含み、
前記高屈折率膜の最小膜厚が1.5~5nmであり、
前記高屈折率膜の最大膜厚が100nm以下であり、
前記高屈折率膜は、スピン密度が5.0×1010(個/(nm*cm))以上であり、
前記光学フィルタは、下記分光特性(ii-1)~(ii-4)をすべて満たす、光学フィルタ。
(ii-1)400~680nmの波長領域における入射角0度での最大透過率T400-680(0deg)MAXが6%以下
(ii-2)400~680nmの波長領域における入射角5度での最大反射率R400-680(5deg)MAXが20%以下
(ii-3)X~Ynmの波長領域における入射角0度で平均透過率TX-Y(0deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
(ii-4)X~Ynmの波長領域における入射角60度で平均透過率TX-Y(60deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
【請求項3】
下記分光特性(ii-5)をさらに満たす、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
(ii-5)視感反射率Yが5%以下
【請求項4】
下記分光特性(ii-3A)および(ii-4A)をさらに満たす、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
(ii-3A)1530~1570nmの波長領域における入射角0°での平均透過率T1530-1570(0deg)AVEが90%以上
(ii-4A)1530~1570nmの波長領域における入射角60°での平均透過率T1530-1570(60deg)AVEが90%以上
【請求項5】
前記誘電体多層膜の総膜厚が2.0μm以下である請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記高屈折率膜がシリコン膜であり、前記低屈折率膜が酸化シリコン膜である、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記高屈折率膜がシリコン膜であり、前記高屈折率膜のスピン密度が5.0×1010(個/(nm*cm))以上である、請求項1または2に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
請求項1または2に記載の光学フィルタを備えたLiDARセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視域の光を遮断し近赤外域の光を透過する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
光検出測距(LiDAR)センサ等の、近赤外光を用いるリモートセンサモジュールのカバーには、センサの感度を高めるため、800nm以降の近赤外光を透過し、外乱要因となる可視光を遮断する光学フィルタが用いられる。また、車載用のカバーとしては、センサ内を外部から視認しにくくする観点およびカバー外観を意匠性の高い黒色とする観点からも、光学フィルタにおける400~680nmの可視領域の光の透過率は低い方が好ましい。
【0003】
光学フィルタとしては、例えば、透明基板の片面または両面に、屈折率が異なる誘電体薄膜を交互に積層(誘電体多層膜)し、光の干渉を利用して遮蔽したい光を反射する反射型のフィルタ等が知られている。
【0004】
光学フィルタとしてはまた、多層膜として光学的に吸収性を有する材料を用いた吸収型のフィルタも知られている。
たとえば、特許文献1には、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された誘電体多層膜を有する光学フィルタが記載され、ここで、高屈折率層は、800~1100nmの波長範囲における消衰係数kが0.0005未満の水素化シリコン層である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第9354369号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、可視光を反射することで遮蔽する反射型のフィルタでは、外観が鏡面となることから意匠性の確保が難しい。
また、吸収型の光学フィルタの場合、可視光吸収特性によって可視光透過性と可視光反射性を低減できる一方で、可視光を吸収する材料は近赤外領域も吸収しやすいことから、可視光吸収特性のみを強化すると近赤外透過性を維持することが難しい。
【0007】
さらに、センサ内では広角度範囲のスキャンが必要であるため、高入射角(広角度入射)における近赤外領域の透過性も確保する必要がある。
【0008】
なお、特許文献1に記載の光学フィルタは、可視光吸収性材料を用いているものの、高屈折率層の800~1100nmにおける消衰係数が小さいことから、可視領域を含む600~680nmにおける消衰係数も小さいこと、すなわちかかる波長範囲の透過率も高いことが推測される。また、600~680nmの遮蔽性を多層膜の反射能で補うためにかかる範囲の反射率を高めると、反射色が赤色を呈し意匠性が低下してしまう。
【0009】
本発明は、400~680nmの可視光の遮蔽性と、高入射角であっても800nm以降の近赤外光の透過性に優れ、黒色を呈する光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を検討した結果、可視光領域の吸収性が高く、かつ、近赤外光領域の吸収性が低い誘電体膜材料を用い、さらに、かかる誘電体膜の膜厚を制御することで、上記課題を解決できること見出した。
本発明は、以下の構成を有する光学フィルタを提供する。
〔1〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜は、低屈折率膜と高屈折率膜とが積層された積層体であり、
前記誘電体多層膜は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含み、
前記高屈折率膜の最小膜厚が1.5~5nmであり、
前記高屈折率膜の最大膜厚が100nm以下であり、
前記高屈折率膜は、下記分光特性(i-1)および(i-2)を満たし、
前記光学フィルタは、下記分光特性(ii-1)~(ii-4)をすべて満たす、光学フィルタ。
(i-1)波長600nmにおける消衰係数k600が0.12以上
(i-2)800~1570nmの波長領域における最小消衰係数k800-1570MINが0.01以下
(ii-1)400~680nmの波長領域における入射角0度での最大透過率T400-680(0deg)MAXが6%以下
(ii-2)400~680nmの波長領域における入射角5度での最大反射率R400-680(5deg)MAXが20%以下
(ii-3)X~Ynmの波長領域における入射角0度で平均透過率TX-Y(0deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
(ii-4)X~Ynmの波長領域における入射角60度で平均透過率TX-Y(60deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
〔2〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜は、低屈折率膜と高屈折率膜とが積層された積層体であり、
前記誘電体多層膜は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含み、
前記高屈折率膜の最小膜厚が1.5~5nmであり、
前記高屈折率膜の最大膜厚が100nm以下であり、
前記高屈折率膜は、スピン密度が5.0×1010(個/(nm*cm))以上であり、
前記光学フィルタは、下記分光特性(ii-1)~(ii-4)をすべて満たす、光学フィルタ。
(ii-1)400~680nmの波長領域における入射角0度での最大透過率T400-680(0deg)MAXが6%以下
(ii-2)400~680nmの波長領域における入射角5度での最大反射率R400-680(5deg)MAXが20%以下
(ii-3)X~Ynmの波長領域における入射角0度で平均透過率TX-Y(0deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
(ii-4)X~Ynmの波長領域における入射角60度で平均透過率TX-Y(60deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、400~680nmの可視光の遮蔽性と、高入射角であっても800nm以降の近赤外光の透過性に優れ、黒色を呈する光学フィルタが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
図3図3は例2および例3の光学フィルタの入射角0度における分光透過率曲線を示す図である。
図4図4は例2および例3の光学フィルタの入射角60度における分光透過率曲線を示す図である。
図5図5は例2および例3の光学フィルタの入射角5度における分光反射率曲線を示す図である。
図6図6はスピン密度と消衰係数k600の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。特定の波長域における平均透過率は、該波長域の1nm毎の透過率の相加平均である。なお、特に断らない限り、屈折率は、20℃における波長1550nmの光に対する屈折率をいう。
【0014】
分光特性は、分光光度計を用いて測定できる。
消衰係数は、石英基板に成膜した単層膜の反射率と透過率そして膜厚を測定し、光学薄膜計算ソフトを用いて算出できる。
可視反射率はCIE表色系に基づく視感反射率Y値とする。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0015】
スピン密度は電子スピン共鳴装置を用いて測定できる。電子スピン共鳴装置で測定できるスピン密度は、シリコンのダングリングボンドの他、シリカ膜のダングリングボンドやガラス中の遷移金属イオンなども含まれるので、測定前の試料の加工、および測定後のピーク分離が必要である。
試料の加工は、多層膜を含む光学フィルタを適宜切断後、多層膜が付与されている基材ガラスを研磨により極力除去する。それにより基材ガラス由来のスピン信号の影響を低減できる。また、測定後のピーク分離は、例えばカーブフィッティングにより可能である。シリコンダングリングボンドの信号は、g=2.004~2.007、線幅4~8gaussの等方的信号として観測され、線幅をそろえたガウス関数とローレンツ関数の線形結合関数を使ったカーブフィッティングによるピーク分離の結果としてこのパラメータが得られる。ここでいう線幅は、微分形で得られる電子スピン共鳴スペクトルの、ピークトップとピークボトムの磁場の差を意味する。
スピン密度はまた、消衰係数と相関関係にあるため、消衰係数から算出することもできる。たとえばアモルファスシリコンのスピン密度は、消衰係数k600を元に図6の近似式を用いて算出できる。
【0016】
<光学フィルタ>
本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」ともいう)は、基材と、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタである。
【0017】
図面を用いて本フィルタの構成例について説明する。図1~2は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図1に示す光学フィルタ1Aは、基材10の一方の主面側に誘電体多層膜30を有する例である。なお、「基材の主面側に特定の層を有する」とは、基材の主面に接触して該層が備わる場合に限らず、基材と該層との間に、別の機能層が備わる場合も含む。
【0018】
図2に示す光学フィルタ1Bは、基材10の両方の主面側に誘電体多層膜30を有する例である。
【0019】
なお、本発明の光学フィルタを実装する際は、誘電体多層膜を一方の面のみに有するフィルタの場合は誘電体多層膜側を外部側とし、反対側をセンサ側とすることが好ましい。誘電体多層膜を両面に有するフィルタの場合は、後述する特定の膜厚および分光特性を満たす誘電体多層膜側を外部側とし、他方の誘電体多層膜側をセンサ側とすることが好ましい。
【0020】
<誘電体多層膜>
本フィルタにおいて、誘電体多層膜は、基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層される。
【0021】
誘電体多層膜は波長選択性を有するように設計され、少なくとも一方は可視光を主に吸収により遮断し、近赤外光を透過する可視光吸収層である。また、誘電体多層膜が基材の両面に積層される場合、両方の誘電体多層膜が可視光吸収層であってもよいし、一方のみが可視光吸収層であってもよい。また、一方が可視光吸収層である場合、他方の誘電体多層膜は、反射防止層等の他の目的を有する層として設計されてもよい。
【0022】
誘電体多層膜は、低屈折率膜と高屈折率膜とが積層された積層体である。屈折率の異なる薄膜を積層することで、光の干渉作用を利用して反射率を増減できる。反射率が大きいほど透過率が低下する。低屈折率膜と高屈折率膜は交互に積層されていてもよい。
また、多層膜を構成する材料によって消衰係数またはスピン密度は異なる。消衰係数が大きいほど光の吸収が大きく、透過率が低下する。スピン密度が大きいほど光の吸収が高くなる。
本発明では、各多層膜の屈折率と消衰係数またはスピン密度を考慮することで目的の分光特性を有する光学フィルタを設計する。
【0023】
また、低屈折率膜と高屈折率膜の各膜厚によっても多層膜全体の分光特性は変化する。可視光反射性抑制(可視光吸収性向上)の観点からは、吸収性の誘電体膜の厚膜化が有利である。しかし、一般的に光吸収特性は連続的であるため、可視光だけでなく近赤外も含めた吸収能が全体的に向上してしまい、近赤外域透過性が低下するおそれがある。本発明では、後述するように、特に可視光吸収性材料でもある高屈折率膜の膜厚を制御することで、可視光反射性の抑制と、高入射角であっても近赤外光の高い透過性とを両立する光学フィルタを設計する。
【0024】
本発明において、高屈折率膜は、下記分光特性(i-1)を満たし、かつ、分光特性(i-2)を満たす。または、本発明において高屈折率膜は、スピン密度が5.0×1010(個/(nm*cm))以上である。
(i-1)波長600nmにおける消衰係数k600が0.12以上
(i-2)800~1570nmの波長領域における最小消衰係数k800-1570MINが0.01以下
【0025】
分光特性(i-1)は、波長600nmの赤色光の吸収性を規定する特性である。分光特性(i-1)に関し、高屈折率膜のk600が0.12以上であることで、600nm付近の赤色光を、反射によらず吸収により遮断できる。これにより600nm付近の反射率を高める必要がないため、反射色が赤色を呈しにくい光学フィルタが得られる。k600は、好ましくは0.18以上であり、また、好ましくは1.00以下である。
【0026】
高屈折率膜のk600を上記範囲にするためには、例えば、高屈折率膜材料として、水素がドープされていないアモルファスシリコン、またはドープされた場合であっても水素ドープ量が20sccm以下のアモルファスシリコンを用いることが挙げられる。また、多層膜の成膜方法によってもk600を制御できる。
【0027】
分光特性(i-2)は、800nm以降の近赤外領域の光の吸収性を規定する特性である。
分光特性(i-2)に関し、800~1570nmの波長領域における最小消衰係数k800-1570MINが0.01以下であることで、800~1570nm領域の近赤外光の吸収性が小さいことを意味する。
【0028】
高屈折率膜のk800-1570MINを上記範囲にするためには、例えば、高屈折率膜材料として、水素がドープされていないアモルファスシリコン、またはドープされた場合であっても水素ドープ量が20sccm以下のアモルファスシリコンを用いることが挙げられる。また、多層膜の成膜方法によってもk800-1570MINを制御できる。
【0029】
消衰係数k600、最小消衰係数k800-1570MINが上記特定の範囲である高屈折率膜を用いることで、可視光の吸収性が大きく、近赤外光の吸収性が小さい誘電体多層膜が得られる。
【0030】
スピン密度とは、膜中のダングリングボンドの量を表す。本発明において、高屈折率膜のスピン密度が5.0×1010(個/(nm*cm))以上であることで、上記特定の消衰係数k600が達成しやすい。すなわち可視光の吸収性が大きい誘電体多層膜が得られる。高屈折率膜のスピン密度は好ましくは1.0×1012(個/(nm*cm))以上である。
【0031】
高屈折率膜のスピン密度を上記範囲とするには、例えば、高屈折率膜材料として、水素がドープされていないアモルファスシリコン、またはドープされた場合であっても水素ドープ量が20sccm以下のアモルファスシリコンを用いることが挙げられる。
【0032】
高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が3.0以上であり、より好ましくは4.0以上である。高屈折率膜の材料としては、例えばシリコン(Si)、Ge、ZnSe、Ta、TiO、Nb、SiN等が挙げられる。これらのうち、上記特定の消衰係数またはスピン密度が達成しやすい観点から、シリコンが好ましく、特にアモルファスシリコンが好ましい。
【0033】
また、シリコンとしては、k600を0.12以上とする観点またはスピン密度を5.0×1010(個/(nm*cm))以上とする観点から、水素がドープされていないシリコンまたは水素のドープ量が抑制されたシリコンがさらに好ましい。水素は公知の方法によりドープでき、またドープ量は20sccm以下が好ましく、特に、ドープされていないシリコンが好ましい。
【0034】
低屈折率膜は、上記高屈折率膜よりも屈折率が低い膜であればよく、低屈折率膜の材料としては、例えばSiO、SiO、Ta、TiO、SiO等が挙げられ、これらの中から高屈折率膜材料よりも屈折率が低い材料を組み合わせて用いることができる。低屈折率膜材料を組み合わせて用いる場合、屈折率が相対的に高い膜を中屈折率膜として、低い膜を低屈折率膜として積層してもよい。低屈折率膜は、好ましくは、屈折率が2.5以下であり、より好ましくは1.5以下である。生産性の観点から、SiOが好ましい。
【0035】
本発明における誘電体多層膜は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含む。特定の薄さの高屈折率膜を特定量含むことで、可視光領域が低反射である光学フィルタが得られる。さらに、膜厚が5nm以下の高屈折率膜を1層以上含むことが好ましい。なお、本発明の光学フィルタが誘電体多層膜を2以上備える場合は、少なくとも一つの誘電体多層膜において上記要件を満たすことが好ましい。
【0036】
本発明における高屈折率膜は、最小膜厚が1.5~5nmである。高屈折率膜の最小膜厚がかかる範囲であることで、高入射角であっても、近赤外領域の透過性が高い光学フィルタが得られる。最小膜厚は好ましくは1.5~3.0nmである。なお、本発明の光学フィルタが誘電体多層膜を2層以上(1群の誘電体多層膜を2層以上)備える場合は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含む誘電体多層膜における高屈折率膜が上記要件を満たすことが好ましい。
【0037】
本発明における高屈折率膜の最大膜厚は100nm以下である。高屈折率膜の最大膜厚がかかる範囲であることで、高入射角であっても、近赤外領域の透過性が高い光学フィルタが得られる。最大膜厚は好ましくは90nm以下、また、近赤外領域の透過特性の観点から好ましくは30nm以上である。なお、本発明の光学フィルタが誘電体多層膜を2層以上備える場合は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含む誘電体多層膜における高屈折率膜が上記要件を満たすことが好ましい。
【0038】
誘電体多層膜を可視光吸収層として設計する場合、誘電体多層膜の合計積層数は、可視光領域における遮光性の観点から、好ましくは10層以上、より好ましくは20層以上、さらに好ましくは30層以上である。ただし、合計積層数が多くなると、反り等が発生したり、膜厚が増加したりするため、合計積層数は70層以下が好ましく、60層以下がより好ましく、50層以下がより一層好ましい。
【0039】
また、誘電体多層膜の膜厚は、生産性の観点から好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下である。なお、誘電体多層膜を2以上有する場合、膜厚の総厚は好ましくは2.0μm以下である。
本発明では、誘電体多層膜の積層数や膜厚が小さくても可視光領域を十分に遮蔽できる。これは本発明における誘電体多層膜の可視光領域の消衰係数が大きく、吸収により可視光を遮蔽できるためである。
【0040】
誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。なかでも、上記した薄膜層が制御された高屈折率膜が得られやすい観点から乾式成膜プロセスが好ましい。
【0041】
誘電体多層膜は、1層で所定の分光特性を与えたり、2層以上で所定の分光特性を与えてもよい。2層以上有する場合、各誘電体多層膜は同じ構成でも異なる構成でもよい。2層の誘電体多層膜を設ける場合、一方を、近赤外域を透過し、可視域の光を遮蔽する可視光吸収層とし、他方を、近赤外域も可視域も透過する可視・近赤外光透過層としてもよい。
【0042】
誘電体多層膜を反射防止層として設計する場合も、可視光吸収層と同様に屈折率の異なる誘電体膜を積層して得られる。なお、反射防止層は、誘電体多層膜以外に、中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造等から形成されてもよい。
【0043】
<基材>
本フィルタにおける基材は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。また基材の材質としては近赤外光を透過する透明性材料であれば、有機材料でも無機材料でもよく、特に制限されない。また、異なる複数の材料を複合して用いてもよい。
【0044】
透明性無機材料としては、ガラスや結晶材料が好ましい。
ガラスとしては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス等が挙げられる。
ガラスとしては、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、ガラス板主面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリイオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換して得られる化学強化ガラスを使用してもよい。
【0045】
結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイア等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0046】
基材の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状でもよい。
また基材の厚さは、誘電体多層膜成膜時の反り低減、光学フィルタ低背化、割れ抑制の観点から、0.1~5mmが好ましく、より好ましくは2~4mmである。
【0047】
<光学フィルタの特性>
上記基材と誘電体多層膜を備える本発明の光学フィルタは、可視光を遮断し、近赤外光を透過する、IRバンドパスフィルタとして機能する。
【0048】
光学フィルタは、下記分光特性(ii-1)~(ii-4)をすべて満たす。
(ii-1)400~680nmの波長領域における入射角0度での最大透過率T400-680(0deg)MAXが6%以下
(ii-2)400~680nmの波長領域における入射角5度での最大反射率R400-680(5deg)MAXが20%以下
(ii-3)X~Ynmの波長領域における入射角0度で平均透過率TX-Y(0deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
(ii-4)X~Ynmの波長領域における入射角60度で平均透過率TX-Y(60deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
【0049】
分光特性(ii-1)は400~680nmの可視光領域の透過性が低いことを意味し、分光特性(ii-2)は可視光領域の反射率が低いことを意味する。分光特性(ii-1)~(ii-2)を満たすことで、透過色も反射色も黒色となり、意匠性の高い光学フィルタが得られる。分光特性(ii-1)は、例えば、上記特性(i-1)に記載したように消衰係数k600が特定以上である、またはスピン密度が特定以上である、すなわち可視光領域の吸収性が大きい高屈折率膜を用いることで達成できる。分光特性(ii-2)は、所望の可視光反射率となるように誘電体多層膜を設計することで達成できる。分光特性(ii-1)に示すように可視光領域の透過率が低いことで、分光特性(ii-2)に示すように反射率を高めずとも、可視光領域を十分に遮光できる。
最大透過率T400-680(0deg)MAXは好ましくは5%以下である。
最大反射率R400-680(5deg)MAXは好ましくは10%以下である。
【0050】
なお、特性(ii-2)の反射率は、上述した分光特性(i-1)および(i-2)を満たす高屈折率膜、または上述したスピン密度が特定以上である高屈折率膜を有する誘電体多層膜側から測定した値である。
【0051】
分光特性(ii-3)~(ii-4)は、800~1570nmの近赤外領域内の任意の40nm波長幅領域における平均透過率が、高入射角であっても良好であることを意味する。
分光特性(ii-3)~(ii-4)を満たすことで、光学フィルタを実装した際に、高入射角の光が入射してもセンサの感度を高めることができる。
特性(ii-3)に示すTX-Y(0deg)AVEを上記範囲とするには、例えば、誘電体多層膜として、上記特性(i-2)に示した最小消衰係数k800-1570MINが特定以下である、すなわち近赤外光領域の吸収性が小さい高屈折率膜を用い、かつ、X~Ynmの波長領域における反射率を低く設計することで達成できる。特性(ii-4)に示すTX-Y(60deg)AVEを上記範囲とするには、例えば、上記した高屈折率膜の膜厚が制御された誘電体多層膜を用いることで達成できる。
【0052】
任意の40nm波長幅領域(X~Ynm)は、センサ感度に応じて選択できる。また、X~Ynm以外の近赤外領域は、必要に応じて反射により遮光できるように誘電体多層膜を設計してもよい。
X~Ynmは、好ましくは1310~1350nmまたは1530~1570nmである。
すなわち、光学フィルタはさらに、下記分光特性(ii-3A)~(ii-4A)をすべて満たすか、または、下記分光特性(ii-3B)~(ii-4B)をすべて満たすことが好ましい。
(ii-3A)1530~1570nmの波長領域における入射角0°での平均透過率T1530-1570(0deg)AVEが90%以上
(ii-4A)1530~1570nmの波長領域における入射角60°での平均透過率T1530-1570(60deg)AVEが90%以上
(ii-3B)1310~1350nmの波長領域における入射角0°での平均透過率T1310-1350(0deg)AVEが90%以上
(ii-4B)1310~1350nmの波長領域における入射角60°での平均透過率T1310-1350(60deg)AVEが90%以上
【0053】
分光特性(ii-3A)~(ii-4A)は、高入射角であっても1530~1570nmの近赤外領域の透過性に優れることを意味する。
分光特性(ii-3B)~(ii-4B)は、高入射角であっても1310~1350nmの近赤外領域の透過性に優れることを意味する。
分光特性(ii-3A)~(ii-4A)または分光特性(ii-3B)~(ii-4B)を満たすことで、光学フィルタを実装した際に、高入射角の光が入射してもセンサの感度を高めることができる。
【0054】
平均透過率T1530-1570(0deg)AVEはより好ましくは95%以上である。
平均透過率T1530-1570(60deg)AVEはより好ましくは92%以上である。
平均透過率T1310-1350(0deg)AVEはより好ましくは92%以上である。
平均透過率T1310-1350(60deg)AVEはより好ましくは94%以上である。
【0055】
光学フィルタはさらに、下記分光特性(ii-5)をさらに満たすことが好ましい。
(ii-5)視感反射率Yが5%以下
分光特性(ii-5)を満たすことで、可視光領域の反射率がさらに低いことで、反射色が黒色となり、意匠性に優れた光学フィルタが得られる。
視感反射率Yは好ましくは4%以下である。
【0056】
本発明の光学フィルタはさらに、分光特性(ii-6)および(ii-7)を満たすことが好ましい。
(ii-6)反射色a*が±30以内
(ii-7)反射色b*が±30以内
分光特性(ii-6)および(ii-7)を満たすことで、反射色が黒色である意匠性の高い光学フィルタが得られやすい。
なお色指標はJIS Z 8781-4:2013に基づくL*a*b*を用いる。
反射色a*はより好ましくは±10以内である。反射色b*はより好ましくは±10以内である。
【0057】
以上説明した実施形態によれば、可視域の遮蔽性と近赤外光の透過性に優れ、黒色を呈する光学フィルタが得られる。本発明では、消衰係数k600が大きい、すなわち可視領域の吸収性が高く、かつ、最小消衰係数k800-1570MINが小さい、近赤外領域の吸収性が低い多層膜材料を用い、またはスピン密度が特定である多層膜材料を用い、かつ、多層膜の膜厚制御を行うことで、光学干渉による可視反射率の抑制と近赤外光透過率の確保の両立を実現した。
【0058】
また、本発明のLiDARセンサは、上記本発明の光学フィルタを備える。これにより感度と外観に優れたセンサが得られる。
【0059】
すなわち本明細書は下記の光学フィルタ等を開示する。
〔1〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜は、低屈折率膜と高屈折率膜とが積層された積層体であり、
前記誘電体多層膜は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含み、
前記高屈折率膜の最小膜厚が1.5~5nmであり、
前記高屈折率膜の最大膜厚が100nm以下であり、
前記高屈折率膜は、下記分光特性(i-1)および(i-2)を満たし、
前記光学フィルタは、下記分光特性(ii-1)~(ii-4)をすべて満たす、光学フィルタ。
(i-1)波長600nmにおける消衰係数k600が0.12以上
(i-2)800~1570nmの波長領域における最小消衰係数k800-1570MINが0.01以下
(ii-1)400~680nmの波長領域における入射角0度での最大透過率T400-680(0deg)MAXが6%以下
(ii-2)400~680nmの波長領域における入射角5度での最大反射率R400-680(5deg)MAXが20%以下
(ii-3)X~Ynmの波長領域における入射角0度で平均透過率TX-Y(0deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
(ii-4)X~Ynmの波長領域における入射角60度で平均透過率TX-Y(60deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
〔2〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に最外層として積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜は、低屈折率膜と高屈折率膜とが積層された積層体であり、
前記誘電体多層膜は、膜厚が15nm以下の高屈折率膜を4層以上含み、
前記高屈折率膜の最小膜厚が1.5~5nmであり、
前記高屈折率膜の最大膜厚が100nm以下であり、
前記高屈折率膜は、スピン密度が5.0×1010(個/(nm*cm))以上であり、
前記光学フィルタは、下記分光特性(ii-1)~(ii-4)をすべて満たす、光学フィルタ。
(ii-1)400~680nmの波長領域における入射角0度での最大透過率T400-680(0deg)MAXが6%以下
(ii-2)400~680nmの波長領域における入射角5度での最大反射率R400-680(5deg)MAXが20%以下
(ii-3)X~Ynmの波長領域における入射角0度で平均透過率TX-Y(0deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
(ii-4)X~Ynmの波長領域における入射角60度で平均透過率TX-Y(60deg)AVEが90%以上(ただしX=800~1530nm、Y=840~1570nm、Y-X=40nm)
〔3〕下記分光特性(ii-5)をさらに満たす、〔1〕または〔2〕に記載の光学フィルタ。
(ii-5)視感反射率Yが5%以下
〔4〕下記分光特性(ii-3A)および(ii-4A)をさらに満たす、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
(ii-3A)1530~1570nmの波長領域における入射角0°での平均透過率T1530-1570(0deg)AVEが90%以上
(ii-4A)1530~1570nmの波長領域における入射角60°での平均透過率T1530-1570(60deg)AVEが90%以上
〔5〕前記誘電体多層膜の総膜厚が2.0μm以下である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
〔6〕前記高屈折率膜がシリコン膜であり、前記低屈折率膜が酸化シリコン膜である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
〔7〕前記高屈折率膜がシリコン膜であり、前記高屈折率膜のスピン密度が5.0×1010(個/(nm*cm))以上である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
〔8〕〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の光学フィルタを備えたLiDARセンサ。
【実施例0060】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
誘電体膜の消衰係数は石英基板に成膜した単層膜の反射率と透過率そして膜厚を測定し、光学薄膜計算ソフトを用いて算出した。
誘電体膜のスピン密度は消衰係数を元に図6に示す近似式を用いて算出した。なお、図6に示す近似式は、石英基板に成膜した、水素導入量やダングリングボンドが異なる複数のSi単層膜の消衰係数とスピン密度から算出した。Si単層膜の消衰係数は上記方法により算出し、スピン密度は電子スピン共鳴装置(Bruker製 EMX-nano)を用いて測定した。
分光特性は分光光度計(島津製作所社製Solid Spec-3700)を用いて測定した。
分光特性に関し、入射角が特に表記されていない場合は0°(光学フィルタ主面に対し垂直方向)での測定値である。
可視波長領域の色度評価はKONICA MINOLTA社製(CM-26d)を用いて測定した。
【0061】
透明ガラス基板として縦100mm×横100mm×厚さ3.3mmのホウケイ酸ガラス板(Schott社製Tempax(登録商標))を用いた。
【0062】
誘電多層膜の形成には、屈折率3.5のSi(水素をドープしていないアモルファスシリコン)と屈折率1.47のSiOとを用いた。なおSiOは、Siターゲットを用いて、酸素ガス雰囲気中で反応性スパッタにより成膜した。
【0063】
(例1)
透明ガラス基板の一方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に23層積層して、厚さ1.8μmの誘電体多層膜(S1-1)を形成した。Siの最薄層は2.1nm(最表層より2層目)であり、膜厚15nm以下の層としてはさらに6.0nm(最表層より4層目)、5.9nm(最表層より8層目)、9.4nm(最表層より14層目)の膜厚の層を有することとした。Si層の最厚層は89.3nm(最表層より12層目)とした。
次に、透明ガラス基板の他方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に11層積層して、厚さ1.1μmの誘電体多層膜(S2-1)を形成した。Siの最薄層は8.8nm(最表層より10層目)とし、Si層の最厚層は35nm(最表層より4層目)とした。
上記より、例1の光学フィルタを得た。
【0064】
(例2)
透明ガラス基板の一方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に21層積層して、厚さ2.0μmの誘電体多層膜(S1-2)を形成した。Siの最薄層は1.6nm(最表層より2層目)であり、膜厚15nm以下の層としてはさらに5.8nm(最表層より4層目)、11.2nm(最表層より8層目)、6.7nm(最表層より14層目)の膜厚の層を有することとした。Si層の最厚層は71.8nm(最表層より12層目)とした。
次に、透明ガラス基板の他方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に11層積層して、厚さ1.4μmの誘電体多層膜(S2-2)を形成した。Siの最薄層は13.4nm(最表層より10層目)であり、Si層の最厚層は39.8nm(最表層より4層目)とした。
上記より、例2の光学フィルタを得た。
【0065】
(例3)
透明ガラス基板の一方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に21層積層して、厚さ1.7μmの誘電体多層膜(S1-3)を形成した。Siの最薄層は0.9nm(最表層より2層目)であり、膜厚15nm以下の層としてはさらに4.5nm(最表層より4層目)、9.8nm(最表層より8層目)の膜厚の層を有することとした。Si層の最厚層は80.8nm(最表層より12層目)とした。
次に、透明ガラス基板の他方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に11層積層して、厚さ1.3μmの誘電体多層膜(S2-3)を形成した。Siの最薄層は4.8nm(最表層より10層目)であり、Si層の最厚層は47nm(最表層より4層目)とした。
上記より、例3の光学フィルタを得た。
【0066】
(例4)
透明ガラス基板の一方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に23層積層して、厚さ1.9μmの誘電体多層膜(S1-4)を形成した。Siの最薄層は2.1nm(最表層より2層目)であり、膜厚15nm以下の層としてはさらに6.0nm(最表層より4層目)の膜厚の層を有することとした。Si層の最厚層は89.3nm(最表層より12層目)とした。
次に、透明ガラス基板の他方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に11層積層して、厚さ1.3μmの誘電体多層膜(S2-4)を形成した。Siの最薄層は4.8nm(最表層より10層目)であり、Si層の最厚層は47nm(最表層より4層目)とした。
上記より、例4の光学フィルタを得た。
【0067】
(例5)
透明ガラス基板の一方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に14層積層して、厚さ1.0μmの誘電体多層膜(S1-5)を形成した。Siの最薄層は5.2nm(最表層より2層目)であり、膜厚15nm以下の層としてはさらに13.4nm(最表層より4層目)の膜厚の層を有することとした。Si層の最厚層は266.7nm(最表層より12層目)とした。
次に、透明ガラス基板の他方の主面に、DCマグネトロンスパッタリング法で、初期層をSiOとし、最表層をSiOとして、SiとSiOとを交互に14層積層して、厚さ0.7μmの誘電体多層膜(S2-5)を形成した。Siの最薄層は4.3nm(最表層より13層目)であり、Si層の最厚層は152nm(最表層より4層目)とした。
上記より、例5の光学フィルタを得た。
【0068】
上記各例の光学フィルタの分光特性と、高屈折率膜(Si層)の特性を下記表に示す。
また上記例2および例3で得られた光学フィルタの、分光透過率曲線(入射角0度)を図3に、分光透過率曲線(入射角60度)を図4に、分光反射率曲線(入射角5度)を図5に、それぞれ示す。なお、反射特性は多層膜S1側における測定値である。
例1~2が実施例であり、例3~5が比較例である。
【0069】
【表1】
【0070】
上記結果より、例1および例2の光学フィルタは、可視光の遮蔽性と、60度の高入射角であっても1530~1570nmの近赤外光透過性に優れ、また可視光の透過率および反射率が低い黒色を呈する光学フィルタであることが分かる。
例3および例4の光学フィルタは、膜厚が15nm以下の高屈折率膜が4層未満であり、可視光領域の反射率が高い結果となった。
例5の光学フィルタは、膜厚が15nm以下の高屈折率膜が4層未満であり、高屈折率膜の最小膜厚が5nmを超え、高屈折率膜の最大膜厚が100nmを超え、入射角60度での可視光透過率が低い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の光学フィルタは、近赤外光の透過性と、可視光の遮蔽性に優れることから、近年、高性能化が進む、例えば、輸送機用のカメラやセンサ等、特にLiDARセンサ等の情報取得装置の用途に有用である。
【符号の説明】
【0072】
1A、1B…光学フィルタ、10…基材、30…誘電体多層膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6