(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023021562
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/46 20060101AFI20230207BHJP
【FI】
C07D307/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021126501
(22)【出願日】2021-08-02
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】陳 鵬茹
(72)【発明者】
【氏名】三村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 有朋
【テーマコード(参考)】
4C037
【Fターム(参考)】
4C037HA22
(57)【要約】
【課題】環境汚染につながる廃液を発生させることなく、簡単な工程で目的生成物であるHMFを高収率、高選択率で製造する方法を提供する。
【解決手段】水相―有機相の二相溶媒中で、固定化酸触媒を用いた反応により、フルクトースから5-ヒドロキシメチルフルフラールを生成することを含む5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法であって、前記二相溶媒が、水と、1,4-ジオキサン及びメチルイソブチルケトンを混合した有機溶媒とからなり、水に対する前記有機溶媒の体積比率が5倍以上、かつ、前記二相溶媒中のメチルイソブチルケトンの体積比率が30%以上45%以下である、製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相―有機相の二相溶媒中で、固定化酸触媒を用いた反応により、フルクトースから5-ヒドロキシメチルフルフラールを生成することを含む5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法であって、
前記二相溶媒が、水と、1,4-ジオキサン及びメチルイソブチルケトンを混合した有機溶媒とからなり、
水に対する前記有機溶媒の体積比率が5倍以上、かつ、
前記二相溶媒中のメチルイソブチルケトンの体積比率が30%以上45%以下である製造方法。
【請求項2】
前記固定化酸触媒がスルホン基を有する強酸性イオン交換樹脂である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記固定化酸触媒を用いた反応が、温度100~130℃、圧力0.1~1.0MPaで行われる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
さらに、生成した5-ヒドロキシメチルフルフラールの抽出を、前記二相溶媒を用いて連続的に行うことを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法に関し、特に、フルクトースから固定化酸触媒を用いて製造する際の溶媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオマス資源である糖類の一種であるフルクトースを原料に用いて触媒を用いる化学反応により、有用物質である5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を合成する技術が知られている。
HMFは、酸化反応により樹脂原料となるフランジカルボン酸を生成し、水素化反応により燃料添加物等の活用が見込めるジメチルフランに誘導することができ、バイオマス由来の基幹原料といわれている。また、上記の二物質以外にも化学的変換により多くの有用物質(代表的な例として、ジホルミルフラン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)フラン、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフランなど)に誘導できることが知られている(特許文献1段落[0005]、[0006]非特許文献1、Introduction等)。そこで、効率的な手法でHMFを製造する技術が求められている。
【0003】
非特許文献1には、水溶性の酸触媒である塩酸を用い、水/ジメチルカーボネート(DMC)の二相溶媒系中でフルクトースからHMFを連続的に生成することが記載されている(Introduction、
図1)。また、表1には、水/DMC、水/メチルイソブチルケトン(MIBK)を含む種々の二相溶媒系におけるHMFの収率及び選択率が記載されている。
【0004】
非特許文献2には、フルクトースを塩酸の存在下、水/MIBK二相系溶媒中でHMFに変換し、MIBK相にHMFを抽出することが記載されている。
【0005】
一方、触媒に不均一系の強酸性イオン交換樹脂を用いる場合、ジメチルスルホキシド(DMSO)の単一溶媒中でフルクトースをHMFに変換することが、非特許文献3に記載されている。
【0006】
特許文献1には、フルクトースを含むコーンシロップ(フルクトースを含む水溶液)、ジオキサン溶媒及び固体酸触媒を混合して加熱することによって、HMFを含む反応物に転換する転換段階を含むHMFの製造方法が記載されている(請求項1、3)。また、HMFを含む反応物から前記固体酸触媒及びジオキサンを除去した後、有機溶媒と水を加えて、HMFを含む有機溶媒層と副産物を含む水層に分離することによりHMFを精製することが記載されている(請求項2、15、16)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Sayed et al. “5-Hydroxymethylfurfural from fructose: an efficient continuous processin a water-dimethyl carbonate biphasic system with high yield product recovery” Green Chem. (2020)22, p.5402-5413
【非特許文献2】T.Shimanouchi et al. “Chemical Conversion and Liquid-Liquid Extraction of 5-Hydroxymethylfurfuralfrom Fructose by Slug Flow Microreactor” AIChE Journal (2016) Vol. 62, No. 6, p.2135-2143
【非特許文献3】S-H.Pyo et al. “Batch and Continuous Flow Production of 5-Hydroxymethylfurfuralfrom a High Concentration of Fructose Using an Acidic Ion Exchange Catalyst”Org. Process Res. Dev. (2019) 23, 5, p.952-960
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のHMF製造においては、非特許文献1、2に記載のように、水溶性の酸触媒である塩酸を用い、水相-有機相の二相溶媒を用いてフルクトースの脱水反応及び生成したHMFの抽出・精製を行っている。しかし、塩酸は廃液処理の際に中和が必要で、製造コスト増につながっている。また、塩酸による金属腐食を回避するため、反応装置の素材を腐食性の高いものにする必要がある。
一方、非特許文献3に記載のように、イオン交換樹脂のような固体酸触媒を用い、DMSOよりなる単一溶媒中でフルクトースをHMFに変換することも、知られている。しかし、DMSOは沸点が189℃と高く、HMFを精製するための蒸留工程に多くのエネルギーを要する。また、DMSOの分子内に含まれる硫黄は、イオン交換樹脂の酸として樹脂と化学的結合をもって強固に固定されている硫黄とは異なり、製品に微量残留すると予想されるから、HMFを原料に用いて行う酸化反応や水素化反応で使用する貴金属触媒を被毒する危険性が高い。
特許文献1では、固体酸触媒を用い、水-ジオキサンの二相溶媒中でフルクトースをHMFに転換している。しかし、HMFの精製は、反応生成物から触媒とジオキサンを蒸留除去した後、ジオキサンと異なる有機溶媒と水の二相溶媒中で有機相にHMFを抽出することで行っているから、生成と抽出とを異なる溶媒で行う必要があり、工程が不連続化、煩雑化する。
【0010】
本発明は、環境汚染につながる廃液を発生させることなく、簡単な工程でフルクトースから目的生成物であるHMFを効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
さらに、生成、抽出分離を同一溶媒系で連続的に行うHMFの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用するものである。
[1]水相―有機相の二相溶媒中で、固定化酸触媒を用いた反応により、フルクトースから5-ヒドロキシメチルフルフラールを生成することを含む5-ヒドロキシメチルフルフラールの製造方法であって、前記二相溶媒が、水と、1,4-ジオキサン及びメチルイソブチルケトンを混合した有機溶媒とからなり、水に対する前記有機溶媒の体積比率が5倍以上、かつ、前記二相溶媒中のメチルイソブチルケトンの体積比率が30%以上45%以下である製造方法。
[2]前記固定化酸触媒がスルホン基を有する強酸性イオン交換樹脂である前記[1]の製造方法。
[3]前記固定化酸触媒を用いた反応が、温度100~130℃、圧力0.1~1.0MPaで行われる前記[1]又は[2]の製造方法。
[4]さらに、生成した5-ヒドロキシメチルフルフラールの抽出を、前記二相溶媒を用いて連続的に行うことを含む前記[1]~[3]のいずれか1の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境汚染につながる廃液を発生させることなく、簡単な工程でフルクトースから目的生成物であるHMFを効率的に製造することができる。
さらに、生成、抽出分離を同一溶媒系で連続的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の製造方法に使用する装置の一例を示す概要図
【
図2】本発明の製造方法による劣化試験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、水相―有機相の二相溶媒中で、固定化酸触媒を用いた反応により、フルクトースから5-ヒドロキシメチルフルフラールを生成する方法に関し、前記二相溶媒が、水と、1,4-ジオキサン及びメチルイソブチルケトンを混合した有機溶媒とからなることに特徴を有する。
以下、本発明の実施形態に基づいて説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0015】
<水相―有機相の二相溶媒>
本発明に係る二相溶媒は、水と、1,4-ジオキサン及びメチルイソブチルケトン(MIBK)を混合した有機溶媒とからなる。
1,4-ジオキサンは、環状構造内にエーテル結合(C-О-C)を2個有する分子構造を持つ分子であり、水溶性または水と完全に混和する有機溶媒として選択される。
水は基質原料となるフルクトースの水溶液として供給することが好ましく、フルクトースを含むコーンシロップとして供給されてもよい。
水に対する有機溶媒の体積比率は、フルクトースの収率を高めるために、5倍以上が好ましい。ただし、有機溶媒の体積比率が高すぎると、HMFの精製にコストがかかる恐れがあるから8倍以下とすることが好ましい。
また、有機溶媒中の1,4-ジオキサンに対するMIBKの体積比率は、40%~60%であることが好ましい。MIBKの比率が大きすぎると、蒸留等の精製工程に係るエネルギーコストが上昇し、かつ、収率が低くなる。また、1,4-ジオキサンの比率が大きすぎると、水との親和性が大きくなり、生成物溶液が二相に分離せず、収率が低下する。
水:有機溶媒の体積比率、及び1,4-ジオキサン:MIBKの体積比率を勘案すると、全溶媒に対するMIBKの体積比率は、30%~45%程度であることが好ましい。
【0016】
<固定化酸触媒>
本発明に係る固定化酸触媒は、スルホン基(SO3
-)を有する強酸性イオン交換樹脂であることが好ましく、この陰イオンに対応する陽イオンとして水素イオン(H+)を有していることが好ましい。容易に入手できる市販品としては、アンバーリスト(登録商標)70等が例示される。
適切な触媒量は、触媒量(g)を流速(mL/分)で除した値が2.5~3.0程度(g・分/mL)またはそれ以上の値になるように触媒使用量を選択することが好ましい。
【0017】
<触媒反応条件>
固定化触媒を用いてフルクトースからHMFを生成する反応条件は、温度が100℃~130℃、圧力は0.1~1.0MPaであることが好ましい。反応温度が水や有機溶媒の沸点を上回っている場合は、反応管内部で急激な突沸等が生じないように圧力を0.5MPa以上とすることが好ましい。0.5MPaに保つことで、より安全に反応を実施できる。
【0018】
<製造装置>
本発明に係る製造方法は、バッチ(回分)方式、フロー(連続)方式のどちらにも適用できるが、今後の実用化に向けては、自動運転や装置のコンパクト化が可能であることから、フロー方式であることが好ましい。
図1に、本発明の製造方法をフロー方式で行う場合の製造装置の一例を示す。
本製造装置は、基質原料であるフルクトースを含む水溶液(1)を送液するポンプ(2)、1,4-ジオキサン及びMIBKを含む有機溶媒(3)を送液するポンプ(4)、各ポンプで送液される液体が合流した混合流が導入される触媒反応系(6)~(11)、触媒反応系の温度を制御する加熱装置(12)、反応温度をモニターする温度測定用センサー(5)、触媒反応系の圧力を制御する背圧弁(13)、及び触媒反応系から流出したHMFを含む溶液を捕集する生成物捕集容器(14)を含む。
前記触媒反応系は、反応管(6)内の入口側フィルター(7)と出口側フィルター(11)の間に充填されたシリカ粒子(8)、固定化酸触媒(10)、及びシリカ粒子(8)と固定化酸触媒(10)の間を仕切る少量の石英ウール(9)で構成される。入口側フィルター(7)は、原料溶液中に不要な固形物が混入した場合に反応管内への流入を防止し、出口側フィルター(11)は、反応管内の充填物の管外への流出を防止し、両フィルター(7)、(11)によりシリカ粒子(8)及び触媒粒子(10)は反応管内で固定される。
加熱装置(12)は、前記触媒反応系を所定の反応温度に制御し、反応温度は、温度測定用センサー(5)によりモニターされる。
背圧弁(13)は、反応管(6)の下流側流路に設置され、触媒反応系の圧力を所定の圧力に維持するように制御する。なお、背圧弁(13)の下流側は大気圧に戻る。
【0019】
<フロー方式による製造方法>
上記の製造装置を用いたフロー方式による本発明に係る製造方法の実施形態を以下に示す。
基質原料であるフルクトースを含む水溶液(1)をポンプ(2)で送液し、1,4-ジオキサン及びMIBKを含む有機溶媒(3)をポンプ(4)で送液し、各ポンプで送液される液体を合流した混合流を反応管(6)内に導入し、固定化酸触媒(10)と接触させ、生成物であるHMFを含む溶液を生成する。この溶液を生成物捕集容器(14)に捕集し、水相及び有機相をそれぞれ分離回収した後、水相、及び有機相にそれぞれ抽出された目的生成物であるHMFを回収する。
なお、生成物捕集容器(14)は、生成物溶液の捕集と水相と有機相の分離回収とを連続的に行う機能を兼ね備えていてもよい。その場合、原料の供給から反応及び生成物の回収までの全工程を、一貫してフロー方式で行うことができ、好ましい。
【0020】
<収率、選択率、転化率、及び炭素バランス>
本発明の製造方法により生成されたHMFの生産効率は、水相からの液体クロマトグラフによる分析、及び有機相からのガスクロマトグラフによる分析により、以下の計算式で求めた収率、選択率、及び原料転化率として把握することができる。
収率=B/A×100(%)
選択率=B/(A-C)×100(%)
原料転化率=(A-C)/A×100(%)=収率/選択率
A:供給された原料の量(mol)
B:目的生成物の生成量(mol)
C:反応後に残存している未反応の原料の量(mol)
すなわち、原料転化率は、フルクトース原料が反応(主反応及び副反応を含む。)により反応生成物(主生成物及び副生成物)に転化した割合であるから、反応性の指標であり、100%に近いほど反応性が高いといえる。
【0021】
また、以下の計算式で求めた炭素バランスにより、本実施形態における分析の正確性を確認することができる。
炭素バランス=(b+c)/a×100%
a:供給された原料中に含まれる炭素の総量(mol)
b:定量分析可能な反応生成物(主生成物、副生成物を含む)中に含まれる炭素量の総和(mol)
c:定量された残存(未反応)原料に含まれる炭素量の総和(mol)
すなわち、炭素バランスは、すべての反応生成物が定量分析可能であれば100%になる値であるから、分析の正確性を表す指標である。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、実施例は、本発明の好適な例を示すものであり、本発明は、実施例によって何ら限定されるものではない。
【0023】
<実施例1: 3成分混合溶媒>
流通式の反応装置として東京理化器械製MCR-1000を用い、フルクトース水溶液の送液ポンプとして日本精密科学製NP-KX-210Pを用い、有機溶媒の送液ポンプとして東京理化器械製EUI-22-110Sを用いた。
前記反応装置の反応管の下部に出口側フィルターを設置し、固体酸触媒としてアンバーリスト(登録商標)70を0.5g充填し、東ソー株式会社製石英ウール(Fineグレード)を少量用いて仕切り、その上部にSiO2粒子(富士フイルム和光純薬株式会社製石英砂)を反応管一杯に充填し、入口側フィルターで蓋をして、触媒反応系を構成した。
前記反応系内を加熱し、また、反応管の下流側に接続した背圧弁で前記反応系内を加圧した。
ビーカーに貯留した0.3Mフルクトース水溶液を、流速0.03mL/minで送液し、同時に、他のビーカーに貯留した1:1(体積比)に混合した1,4-ジオキサンとメチルイソブチルケトン(MIBK)より成る有機溶媒を、流速0.15mL/minで送液した。なお、2台のポンプの流速値は、実測値を基にして校正して用いた。
前記フルクトース水溶液と前記有機溶媒とを合流し、合流した溶液を前記反応装置の反応管内に導入した。
触媒反応系内の温度が120℃、圧力が0.5MPaの条件で安定化したことを確認後、40分間反応管から流出する出口液(生成物溶液)をメスシリンダーに回収した。
生成物溶液は二相に分離した。生成物は、液体クロマトグラフ(島津製作所製)を用いて水相の分析を行い、ガスクロマトグラフを用いて有機相の分析を行って得た。
それぞれの分析の結果、目的生成物であるHMFは、有機相と水相の合計で84%(水相中に25%、有機相中に59%)の収率で得られ、選択率は93%であった。
【0024】
<比較例1:2成分混合溶媒(水+1,4-ジオキサン)>
有機溶媒として、1,4-ジオキサンのみを使用した以外は実施例1と同条件で、HMFの合成反応を行った。
その結果、生成物溶液は分離せずに一相で得られたので、ガスクロマトグラフは使用せず、液体クロマトグラフのみで分析を行ったところ、HMFの収率は63%、選択率は75%であった。
【0025】
<比較例2:2成分一相混合溶媒、低基質濃度>
原料となるフルクトースの含有率を0.05Mへ下げた以外は、比較例1と同条件でHMFの合成反応を行った(比較例2a)。生成物溶液は、二相に分離せず、一相で得られたので、分析は液体クロマトグラフを用いて行った。
比較例2aの結果は、HMFの収率が75%、選択率が81%であり、比較例1を上回った。これは、比較例1よりも原料の濃度が低く、収率、選択率の数値が高くなりやすい反応条件であったためである。
そこで、収率、選択率の数値が高くなりやすい0.05Mのフルクトース水溶液を使用するという条件で、水との親和性が高く、水と混合した場合に一相になる有機溶媒について、1,4-ジオキサン以外にも同様の実験を行い、HMFの合成を行った。
その結果、有機溶媒が2-ブタノール(比較例2b)では、収率70%、選択率77%、アセトン(比較例2c)では収率57%、選択率60%、テトラヒドロフラン(比較例2d)では、収率71%、選択率80%であった。
したがって、比較例2の中では、水と混合する有機溶媒の成分として、1,4-ジオキサンが最適であることがわかったが、いずれの比較例も、有機溶媒が2成分からなる実施例1を上回る収率、選択率を示さなかった。
【0026】
<比較例3:2成分二相混合溶媒(H2O+MIBK)>
有機溶媒として、水と混和しにくいMIBKの1成分を使用した以外は実施例1と同様にしてHMFの合成を行った。生成物溶液は水相、有機相の二相に分離した状態で得られた。実施例1と同様の定量分析を行った結果、HMFの収率が56%(水中に8%、MIBK中に48%)、選択率は87%であった。
【0027】
<比較例4:1,4-ジオキサンと組み合わせる有機溶媒>
実施例1と同様の条件で、MIBKに代えてエーテル系溶媒または環状エーテル系溶媒としてよく知られているシクロペンチルメチルエーテル(CPME)(比較例4a)、または、4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)(比較例4b)を使用した実験を行った。
その結果、生成物溶液は二相に分離し、比較例4aでは、HMFの収率が69%(水中に30%、CPME中に39%)、選択率が84%であり、比較例4bでは、HMFの収率が75%(水中に26%、MTHP中に49%)、選択率が91%であり、いずれも実施例1での結果に比べて劣っていた。
実施例1と比較例1~4の結果を以下の表1にまとめた。
【0028】
【0029】
以上の結果から、フルクトースからHMFへの合成にあたり、2成分系溶媒であれば、水と1,4-ジオキサンの組み合わせが優れているが、これに第3成分としてMIBKを組み合わせると、収率が80%以上と大幅に向上し、かつ、選択率も高いという顕著な効果を奏することがわかった。
【0030】
<実施例2、比較例5:水と有機溶媒の体積比率>
水と有機溶媒の好ましい体積比率を求めるため、有機溶媒である1,4-ジオキサンとMIBKの混合比率を1:1に固定し、かつ、水と有機溶媒の送液量の和を0.18mL/minに固定したまま(但し、実施例2aのみ0.20mL/minに変更)、原料フルクトースを0.3Mで含む水の送液量(流速)と、混合有機溶媒の送液量(流速)との比率を以下の表2に示すように変化させた。
その結果、水:有機溶媒=1:2.6(比較例5a)の条件では、HMFの収率が54%、選択率93%、水:有機溶媒=1:3.5(比較例5b)の場合には、収率69%、選択率91%、水:有機溶媒=1:4(比較例5c)では、収率73%、選択率92%と、選択率は、実施例1と同程度であるものの、収率は及ばず、反応性の低さが際立った。
これに対して、実施例1より有機溶媒の割合を1:8と高めた実施例2bでは、実施例1と同様の84%という高い収率が得られ、さらに、選択率は実施例1を上回った。
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0031】
【0032】
表2からは、有機溶媒の使用量の和は、少なくとも反応原料を溶解している水溶媒に対して5倍以上の比率(体積比率、体積流速比率)で使用する場合に、高収率と高選択率がともに得られることがわかった。
なお、比較例5cにおいて、有機溶媒とフルクトース水溶液の送液量の和を0.20mL/minとしたのは、送液ポンプの性能上、流速を0.01mL/min単位でしか設定できないためであり、流速に対する触媒量を他の例と同じになるように0.55gに増量した。
【0033】
<実施例3、比較例6:有機溶媒内の体積比率>
有機溶媒の成分間の好ましい体積比率を求めるために、送液量(流速)の比率を実施例1と同じ水:有機溶媒=1:5に固定し、さらに、水と有機溶媒の流速の和を0.18mL/minに固定して、2種類の有機溶媒を混合する体積比率を表3に示すように変化させた。
1,4-ジオキサン:MIBK=1:2(比較例6a)では、生成物溶液は2相に分離して得られ、収率は72%、選択率は90%であった。
これに対して、1,4-ジオキサン:MIBK=1:1(実施例1)、1,4-ジオキサン:MIBK=3:2(実施例3)では、いずれも2相に分離した生成物溶液が得られ、実施例3aでは、収率は80%、選択率は90%と、実施例1の収率84%、選択率93%より低いものの、十分な反応効率が得られた。
1,4-ジオキサン:MIBK=7:3(比較例6b)の場合は、生成物溶液は二相に分離することなく一相で得られた。収率80%、選択率86%であるから、収率は良いものの、選択率は実施例1~3に及ばなかった。
以下の表3に結果をまとめた。
【0034】
【0035】
この結果より、溶媒全体を100%としたときに、MIBKが混合前の体積比率で30%以上45%以下程度であることが好ましいことがわかった。
【0036】
<実施例4:長時間連続合成による劣化試験>
実施例1と同じ条件で、HMFの合成反応を10時間連続して行い、1時間毎に生成物溶液を採取し、HMFの収率と選択率に加えて、原料転化率と炭素バランスを測定した。炭素量は、定量分析が可能であった生成物の生成量(収率)をもとにして計算で求めた。
図2に本実施例による劣化試験の結果を示す。
【0037】
図2からは、反応開始から10時間にわたって、フルクトースからHMFの収率は80%以上、選択率と原料転化率はほぼ90%と、安定的に推移していることが見て取れるから、本発明の方法によれば、劣化することなく高い反応性を維持し、収率及び選択性に優れた長時間の連続合成が可能であることがわかった。
また、10時間経過しても、炭素バランスは90%を超えているから、本発明に係る反応において、定量分析不可能な生成物(例えばフミン類)の生成は少なく、ガスクロマトグラフおよび液体クロマトグラフによって正確性が高い定量分析がなされたことが裏付けられた。
本発明は、環境汚染につながる廃液が発生しない条件下で、フルクトースからバイオマス由来の基幹原料であるHMFを簡単な工程で効率的に製造することができるから、環境負荷の少ない条件下、かつ低コストでバイオマス資源を有効に活用することができる。