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特開2023-22280光ファイバ用ガラス母材、及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法
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  • 特開-光ファイバ用ガラス母材、及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法 図1
  • 特開-光ファイバ用ガラス母材、及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022280
(43)【公開日】2023-02-14
(54)【発明の名称】光ファイバ用ガラス母材、及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/018 20060101AFI20230207BHJP
   C03C 13/04 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
C03B37/018 C
C03C13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194981
(22)【出願日】2022-12-06
(62)【分割の表示】P 2021109906の分割
【原出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三田 怜
(57)【要約】
【課題】出発ロッドとダミーガラスとが分離しにくい光ファイバ用ガラス母材ならびにその製造方法を提供する。
【解決手段】ダミーガラスが出発ロッドの一端に嵌入しており、ダミーガラスの一部と出発ロッドとがクラッドガラスで取り囲まれている構造の光ファイバ用ガラス母材。出発ロッドとダミーガラスとを接続する際、鏝を接続部に当接させながら出発ロッド側からダミーガラス側に向けて荷重を掛けて移動させ形状を整える製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発ロッドと、
前記出発ロッドの一端に嵌入して一体接合されたダミーガラスと、
前記ダミーガラスの一部と前記出発ロッドとを取り囲むクラッドガラスと、
からなり、
前記ダミーガラスの外径が前記出発ロッドの外径以下である、光ファイバ用ガラス母材。
【請求項2】
前記出発ロッドと前記ダミーガラスが気密的に接合される、請求項1に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項3】
前記ダミーガラスの接合端の中央部が前記出発ロッドの接合端に嵌入している、請求項1または2に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項4】
前記ダミーガラスの接合端が前記出発ロッドの接合端に包み込まれるように嵌入している、請求項1から3のいずれか一項に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項5】
前記出発ロッドがゲルマニウムを含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項6】
前記出発ロッドがフッ素を含有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項7】
フッ素含有量が0.7重量%以下である、請求項6に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項8】
フッ素含有量が0.5重量%以下である、請求項6に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項9】
前記ダミーガラスの前記出発ロッドへの嵌入深さが、前記出発ロッドの外径の2%以上である、請求項1から8のいずれか一項に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項10】
前記ダミーガラスが中実ロッドまたは中空シリンダー状である、請求項1から9のいずれか一項に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項11】
前記出発ロッドが中実ロッドである、請求項1から9のいずれか一項に記載の光ファイバ用ガラス母材。
【請求項12】
出発ロッドの一端とダミーガラスの一端とを向かい合わせて加熱して接合する工程、
前記出発ロッドと前記ダミーガラスとの接合部に前記ダミーガラスおよび前記出発ロッドよりも外径が太い太径部を形成する工程、
前記太径部に鏝を当接させ、前記太径部の前記出発ロッド側から前記ダミーガラス側に向けて荷重を加えながら前記鏝を移動させて、前記ダミーガラスの接合端が前記出発ロッドの接合端に嵌入したつなぎ目を形成する工程、
前記ダミーガラスと前記出発ロッドの外周にガラス微粒子層を堆積させる工程、
前記ガラス微粒子層を加熱して透明化する工程
を含む光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【請求項13】
前記出発ロッドにフッ素がドープされている、請求項12に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【請求項14】
前記出発ロッドに0.7重量%以下のフッ素がドープされている、請求項12または13に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【請求項15】
前記出発ロッドに0.5重量%以下のフッ素がドープされている、請求項12または13に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【請求項16】
前記出発ロッドの一端、または前記ダミーガラスの一端のうち少なくともいずれか一方を凸状に加工する工程を更に含む、請求項12から15のいずれか一項に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【請求項17】
前記ダミーガラスの外径が前記出発ロッドの外径以下である、請求項12から16のいずれか一項に記載の光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用ガラス母材、及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ用ガラス母材の製造方法として、VAD法やOVD法で得られた多孔質ガラス母材を焼結するという方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、出発ロッドの両端にダミーガラスを溶着した出発部材の外周すなわち、出発ロッド、出発ロッドとダミーガラスとのつなぎ目、ダミーガラスの一部の外周にクラッド用のガラス微粒子を堆積させ、堆積した多孔質ガラスを高温の炉で加熱して透明クラッドガラスにし、光ファイバ用のガラス母材を作製する方法が記載されている。
【0004】
出発ロッドとダミーガラスとの接続方法に関して、特許文献2には接続部に鏝を押し当てて「往復運動」させることにより接続部を平滑化する方法が記載されている。また、特許文献3には接続部を加熱しながらダミーガラスと出発ロッドとを押し合わせ、引き離しを繰り返すことによって瘤状部分の外径をダミーガラスの外径に揃える方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-189428号公報
【特許文献2】特開平6-199533号公報
【特許文献3】特開2014-80299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記方法で作製した光ファイバ用のガラス母材を、後工程でダミーガラス1を吊り下げシャフトなどに結合して垂下し(図1の(a))、荷重をかけた状態で加熱すると、つなぎ目付近で分離5が生じやすかった(図1の(b))。前記分離を起因として、光ファイバ用ガラス母材の破損6が発生しうるため、問題となっていた(図1の(c))。
【0007】
出発ロッドにはコアの屈折率上昇のためにドープされるゲルマニウムの他、クラッドにフッ素を適量ドープして屈折率を低下させたディプレスト部やトレンチ部を形成する場合がある。特に、ダミーロッドに接合している出発ロッド部分にフッ素がドープされている場合に、つなぎ目付近で分離が生じやすかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記を鑑みてなされたものであって、その目的は、出発ロッドとダミーガラスの分離を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の光ファイバ用ガラス母材は、出発ロッドと、前記出発ロッドの一端に嵌入して一体接合されたダミーガラスと、前記ダミーガラスの一部と前記出発ロッドとを取り囲むクラッドガラスと、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、出発ロッドがダミーガラスの一端に嵌入して一体接合されているため、ダミーガラスを垂下し、荷重をかけた状態で加熱しても、つなぎ目付近での分離が生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来の出発ロッドとダミーガラス接続及び光ファイバ用ガラス母材の例を示す概略図である。
図2】本発明の出発ロッドとダミーガラス接続及び光ファイバ用ガラス母材の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る光ファイバ用ガラス母材の製造方法の例を添付図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0013】
本実施形態の光ファイバ用ガラス母材は、ダミーガラス1と出発ロッド2とを接合し(図2の(a)~(d))、ダミーガラス1の一部と出発ロッド2とを取り囲むようにクラッドガラス4を形成することで(図2の(e))、作成される。
【0014】
本発明の光ファイバ用ガラス母材においては、ダミーガラス1と出発ロッド2とのつなぎ目3において、ダミーガラス1が出発ロッド2に嵌入して一体接合されている。すなわち、ダミーガラス1の一部が出発ロッド2の端面よりも出発ロッド2側に入り込んだ状態で接合されている。後工程では、この様に接合されたダミーガラス1を支持して光ファイバ用ガラス母材を吊り下げることにより、つなぎ目3付近の分離が生じにくくなる。
【0015】
この様なダミーガラス1との接合を出発ロッド2の両端で施しても良く、この場合は両端どちらのダミーガラス1を支持して吊り下げてもつなぎ目付近の分離が生じにくくなる利点がある。
【0016】
ダミーガラス1と出発ロッド2とは、つなぎ目3において気密的に接合されていることが好ましい。つなぎ目3の中に空気の泡が残って閉じ込められることがあると、この空気の泡を起点として、出発ロッド2とダミーガラス1の分離が発生することがある。
【0017】
出発ロッド2は、製造する光ファイバ用ガラス母材の中心部になる部材であり、目的とする光ファイバの屈折率分布に対応するようにドーパントが添加されていることが好ましい。例えば、中心がゲルマニウム(Ge)をドープしたシリカガラスで、その周囲を純シリカガラスやフッ素(F)をドープしたシリカガラスで包囲した中空丸棒形状である。(出発ロッドは中空丸棒形状でも良い。)
【0018】
出発ロッド2の接合端にダミーガラス1の接合端が嵌入しているつなぎ目3の形状は特に限定しないが、ダミーガラス1と出発ロッド2の断面円の中心軸が合致する状態で接合されることが好ましい。こうすると、つなぎ目3において断面円周方向の応力分布が均一になる。ダミーガラス1が中実丸棒の場合、ダミーガラス1の接合端の中央部が出発ロッド2の接合端に嵌入した状態が好ましい(図2の(d))。特に、出発ロッドとダミーガラスの外径が同一の場合に好適に適応できる。
【0019】
しかしながら、ドーパント不純物を多く含むダミーガラスを用いる場合は、同温度に加熱した際に出発ロッドよりもダミーガラスの粘度が低くなる場合がある。この場合は、出発ロッドの接合端の中央部がダミーガラスの接合端に嵌入するようにつなぎ目を加工してもよい。このような加工によっても、本実施形態と同様の効果を得ることが出来る。
【0020】
また、図2のように、出発ロッド2の外径に対してダミーガラス1の外径が小さい場合は、ダミーガラス1の接合端が全体的に出発ロッドの接合端に嵌入した状態にするのも好ましい。一方、出発ロッドの外径に対してダミーガラスの外径が大きい場合は、出発ロッドの接合端が全体的にダミーガラスの接合端に嵌入した状態にしても良い。ダミーガラスは円管状(中空丸棒)でも良く、こうするとダミーガラスの重量が軽くなる。
【0021】
本発明は、ダミーガラス1、出発ロッド2およびクラッドガラス4に互いにドーパント組成が異なるガラスが含まれている場合に、特に効果を発揮する。この場合、接続部のつなぎ目3は、目視で観察可能である。
【0022】
例えば、光ファイバ用の出発ロッドは屈折率調整のためにゲルマニウム(Ge)やフッ素(F)などのドーパントが添加された合成石英ガラスであるのに対して、クラッドガラスはこれらのドーパントを殆ど含まない合成石英ガラスである。これらの合成石英ガラスは、光吸収を低減するために、OH基含有量を1ppm以下にするようにOH基を除去され、塩素(Cl)を100ppm以上含有している。一方で、ダミーガラスとしては安価な天然石英ガラスを用いることが多い。
【0023】
ダミーガラス、出発ロッド、クラッドガラスの3種の異なるガラスの集合により形成されると、つなぎ目付近に応力が集中しやすい。後工程で、このつなぎ目に熱エネルギーが加えられ、更に光ファイバ用ガラス母材本体のほぼ全ての荷重などがかかることで、つなぎ目の分離が進行しやすくなる。本発明の光ファイバ用ガラス母材は、このような異なるガラスのつなぎ目の分離抑制に効果を発揮し、特に、出発ロッドにフッ素がドープされている場合に、より効果を発揮する。この場合、フッ素のドープ量が0.7重量%以下の場合に効果的であり、0.5重量%以下の場合に更に効果的である。
【0024】
本発明の光ファイバ用ガラス母材の製造方法においては、ダミーガラス1と出発ロッド1は、ガラス旋盤などの加工装置にて双方の末端を向かい合わせた後(図2の(a))、図示されていない火炎などで加熱して軟化された後に押圧されて溶着され、接合部にダミーガラス1または出発ロッド2よりも外径が太い太径部7を作製する(図2の(b))。太径部7に加工用鏝8を当接させて均す際に、加工用鏝8を太径部に当接させて、出発ロッド2側からダミーガラス1側に向けて荷重を加えながら移動させることで、太径部7の膨らみを均しつつ(図2の(c))、ダミーガラス1の接合端が出発ロッド2の接合端に嵌入したつなぎ目3を形成する(図2の(d))。ここで、太径部7の膨らみを「均す」とは、太径部7の外径を出発ロッド2の外径との差異が小さくなるように揃えることを言い、両者の差異を出発ロッド2の外径の10%以下にすることが好ましく、5%以下にすることがより好ましい。太径部7の均しを行わないと、後工程のガラス微粒子堆積工程で出発ロッド2に吹き付けるガラス微粒子の流れが損なわれ、ガラス微粒子堆積層の形成に乱れが生じやすい。
【0025】
この方法を採用することにより、容易に太径部7を整形し、ダミーガラス1と出発ロッド2の加工を完了させることができる。ダミーガラス1の末端が出発ロッド2に嵌入する(図2の(d))ことにより、局所的な応力や荷重の集中が発生しづらくなるため、ガラスの分離が発生しにくくなる。尚、図に点線で示した接続部のつなぎ目3は、目視で観察可能である。
【0026】
ダミーガラスの出発ロッドへの嵌入深さは、例えば軟化したダミーガラスと出発ロッドの端面同士を溶着させて形成した太径部の径の大小によって調節することができる。太径部が大きいと嵌入深さを大きく、太径部が小さいと嵌入深さを小さく仕上げることができる。また、太径部を成型する際の加熱温度を調節してガラスの軟化度合いを変えることによって調節してもよく、或いは、太径部を成型する際に鏝で加える荷重や鏝の移動速度を調節しても良い。
【0027】
また本発明においては、溶着される前の出発ロッドとダミーガラスの端面のうち、少なくとも一方が凸状になっていることが望ましい。出発ロッドとダミーガラスの両端面が平坦である場合、両端面の溶着時に空気の泡が残って、つなぎ目の中に閉じ込められることがある。両端面のうち、少なくとも一方を凸状にすることで、凸部が変形しながら溶着されることでつなぎ目が形成されていくため、空気の泡が残らない。また、溶着時に作製した太径部を加工用鏝で整形する場合、凸部同士もしくは凸部と平坦面の接続により形成された太径部は、平坦面同士の接続により形成された太径部と比較して、滑らかであるため、整形しやすいという利点もある。
【0028】
先端の凸状への加工は、予めグラインダーなどで研削しておくのが好ましい。凸部の突き出しは、中心が盛り上がっていても良いが、凸部が中心から外側にずれて偏っていても良い。
【0029】
突き出し量は半径の0.5倍以上2倍以下が好ましい。突き出し量が0.5倍未満だと気泡が残りやすく、2倍を超えると凸部が火炎による加熱中に変形して垂れ下りやすくなってしまう。
【0030】
また本発明においては、ダミーガラスの外径は出発ロッドの外径より細いことが好ましい。ダミーガラスはガラス微粒子堆積や焼結の工程において出発ロッドを支えることが主目的であるため、ダミーガラスを必要以上に太くする必要はない。また、前記の通り出発ロッドとダミーガラスのつなぎ目に形成した太径部(外径が太くなった部分)の出発ロッド側に鏝を当ててダミーガラス側に向けて荷重を加えて、太径部を均すことによって、容易にダミーガラスの接合端を出発ロッドの接合端に嵌入させることが出来る。(出発ロッドのサイズは、目的とする光ファイバ用ガラス母材のサイズや屈折率分布の設計によって決まってしまうが、)ダミーガラスは可能な限り細い方が加熱、接合にかかる熱量、時間、荷重が少なくて済み、加工が容易になる。
【実施例0031】
VAD法を用いて製造された、コアを含む合成石英ガラスからなる外径50mm、長さ1500mmの両端が平坦面からなる出発ロッドを用意した。この出発ロッドは、VAD法による製造開始側と、製造終了側とを区別される。またここで用意された出発ロッドには、フッ素はドープされていない。
【0032】
ガラス旋盤の一方のチャックで、出発ロッドのVAD法による製造開始側の端面をもう一方のチャックに向けて把持し、もう一方のチャックで、天然石英ガラスからなる外径50mm、長さ500mmのダミーガラスを把持し、チャックを回転させながら、出発ロッドの製造開始側の端面と、ダミーガラスの端面とを、バーナーから出る酸水素火炎で約2000℃に加熱して軟化させた。この状態を(α)とする。
【0033】
[実施例1]
(α)に対して、チャック同士を近づけることで端面同士を溶着させて接続部を膨らませた(太径部を形成した)。膨らんだ接続部(太径部)の最大径は54mmであった。酸水素火炎による接続部の加熱を続けたまま、膨らんだ接続部(太径部)の出発ロッド側に高純度炭素からなる加工用鏝を当接させてダミーガラス側に向けて荷重を加えて移動させることで、接続部の膨らみ(太径部)を均す作業を行った。作業後の接続部の最大径は51mmであった。つなぎ目においてダミーガラスが出発ロッドに1mm嵌入した。
【0034】
[実施例2]
(α)に対して、チャック同士を近づけることで端面同士を溶着させて接続部を膨らませた(太径部を形成した)。膨らんだ接続部(太径部)の最大径は56mmであった。酸水素火炎による接続部の加熱を続けたまま、膨らんだ接続部(太径部)の出発ロッド側に高純度炭素からなる加工用鏝を当接させてダミーガラス側に向けて荷重を加えて移動させることで、接続部の膨らみ(太径部)を均す作業を行った。作業後の接続部の最大径は52mmであった。つなぎ目においてダミーガラスが出発ロッドに3mm嵌入した。
【0035】
[実施例3]
(α)に対して、チャック同士を近づけることで端面同士を溶着させて接続部を膨らませた(太径部を形成した)。膨らんだ接続部(太径部)の最大径は57mmであった。酸水素火炎による接続部の加熱を続けたまま、膨らんだ接続部(太径部)の出発ロッド側に高純度炭素からなる加工用鏝を当接させてダミーガラス側に向けて荷重を加えて移動させることで、接続部の膨らみ(太径部)を均す作業を行った。作業後の接続部の最大径は52mmであった。つなぎ目においてダミーガラスが出発ロッドに5mm嵌入した。
【0036】
実施例1、2、3の出発ロッドとダミーガラスの接続体に対して、ダミーガラスのチャックは把持したまま、出発ロッドのチャックによる把持を開放して、開放した側のチャックに天然石英ガラスからなるもう1本の外径50mm、長さ500mmのダミーガラスを把持し、チャックを回転させながらそれぞれの端面をバーナーから出る酸水素火炎で約2000℃に加熱して軟化させた後、チャック同士を近づけることで、ダミーガラスと出発ロッドのVAD法による製造終了側の端面同士を溶着させて接続部を膨らませた太径部を形成した。膨らんだ接続部(太径部)の最大径は54mmであった。酸水素火炎による接続部(太径部)の加熱を続けたまま、膨らんだ接続部(太径部)に加工用鏝を当てながらつなぎ目の出発ロッド側とダミーガラス側との間を往復させることで、接続部の膨らみ(太径部)を均す作業を行った。これにより、出発ロッドの両端にダミーガラスを有するターゲットを形成した。
【0037】
上記実施例1、2、3によって形成されたターゲットの、両端のダミーガラスを、チャンバー内の両端に配置されたチャックにて把持し、OVD法によりターゲット外周にガラス微粒子を堆積させることで、外径300mmの多孔質ガラス母材を生成した。この多孔質ガラス母材の、出発ロッドにおけるVAD法による製造開始側に接合されたダミーガラスを、脱水焼結装置の昇降機構のシャフトの先端に接続し、出発ロッドにおけるVAD法による製造開始側を上に向けて鉛直に吊り下げた状態で脱水焼結装置の炉心管内に挿入し、1500℃で加熱しながら下方に移動させ、多孔質ガラスを焼結させて透明ガラス化することで光ファイバ用ガラス母材を製造した。
【0038】
上記実施例1、2、3の構成で、それぞれ10本ずつ光ファイバ用ガラス母材を製造し、VAD製造開始側のダミーガラスを把持して鉛直に吊り下げた状態で下向きに50kgfの荷重を与え、VAD製造開始側の出発ロッドとダミーガラスのつなぎ目を目視観察し、分離の発生率を調べた。結果を表1にしめす。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1、2、3の全てにおいて、分離発生率30%以下という高い分離抑制効果を確認できた。実施例1、2、3の比較より、嵌入深さが深い方が分離発生を抑制する効果が高くなる傾向にある。実施例1のダミーガラスの出発ロッドへの嵌入深さが1mmであり、出発ロッドの外径50mmの2%にあたる長さであったことから、ダミーガラスの出発ロッドへの嵌入深さは出発ロッドの外径の2%以上で特に優れた効果を発揮すると考えられる。
【0041】
[実施例4~7]
別途検討として、VAD法を用いて製造された、コアを含む合成石英ガラスからなる外径50mm、長さ1500mmの出発ロッドを用意した。この出発ロッドには、コアの外周にディプレスト部を形成するためにフッ素を0wt%(…実施例1)、0.1wt%(…実施例4)、0.3wt%(…実施例5)、0.5wt%(…実施例6)、0.7t%(…実施例7)の5種類に分けてドープした。出発ロッドのフッ素濃度は、出発ロッドを粉砕して得られたガラス片の一部を溶かし、イオンクロマトグラフ法で分析して得られた数値である。これらの出発ロッドに対して、実施例1と同様の手順で、それぞれ10本ずつ光ファイバ用ガラス母材を製造した。
【0042】
[比較例1、2]
また、VAD法を用いて製造された、コアを含む合成石英ガラスからなる外径50mm、長さ1500mmの出発ロッドを用意した。この出発ロッドには、コアの外周にディプレスト型を形成するためにフッ素を0.5wt%(…比較例1)、0.7wt%(…比較例2)の2種類に分けてドープすることで、線引きして得られる光ファイバの伝送損失低減を図った。出発ロッドのフッ素濃度は、出発ロッドを粉砕して得られたガラス片の一部を溶かし、イオンクロマトグラフ法で分析して得られた数値である。
【0043】
比較例1、2の出発ロッドに対して、ガラス旋盤の一方のチャックで、出発ロッドのVAD法による製造開始側の端面をもう一方のチャックに向けて把持し、もう一方のチャックで、天然石英ガラスからなる外径50mm、長さ500mmのダミーガラスを把持し、チャックを回転させながら、出発ロッドの製造開始側の端面と、ダミーガラスの端面とを、バーナーから出る酸水素火炎で約2000℃に加熱して軟化させた。これに対して、チャック同士を近づけることで端面同士を溶着させて接続部を膨らませた(太径部を形成した)。膨らんだ接続部(太径部)の最大径は54mmであった。その後、酸水素火炎による加熱を続けたまま、膨らんだ接続部(太径部)に加工用鏝を当てながらつなぎ目の出発ロッド側とダミーガラス側との間を往復させることで、接続部の膨らみを均す作業を行った。作業後の接続部の最大径は53mmであった。ただし、実施例1~7とは異なり、ダミーガラスの接合端と出発ロッドの接合端とのつなぎ目は平面的に接合した。
【0044】
比較例1、2の出発ロッドとダミーガラスの接続体に対して、ダミーガラスのチャックは把持したまま、出発ロッドのチャックによる把持を開放して、開放した側のチャックに天然石英ガラスからなるもう1本の外径50mm、長さ500mmのダミーガラスを把持し、チャックを回転させながらそれぞれの端面をバーナーから出る酸水素火炎で約2000℃に加熱して軟化させた後、チャック同士を近づけることで、ダミーガラスと出発ロッドのVAD法による製造終了側の端面同士を溶着させて接続部を膨らませた太径部を形成した。膨らんだ接続部(太径部)の最大径は54mmであった。酸水素火炎による接続部(太径部)の加熱を続けたまま、膨らんだ接続部(太径部)に加工用鏝を当てながらつなぎ目の出発ロッド側とダミーガラス側との間を往復させることで、接続部の膨らみ(太径部)を均す作業を行った。これにより、出発ロッドの両端にダミーガラスを有するターゲットを形成した。
【0045】
上記比較例1、2によって形成されたターゲットの、両端のダミーガラスを、チャンバー内の両端に配置されたチャックにて把持し、OVD法によりターゲット外周にガラス微粒子を堆積させることで、外径300mmの多孔質ガラス母材を生成した。この多孔質ガラス母材の、出発ロッドにおけるVAD法による製造開始側に接合されたダミーガラスを、脱水焼結装置の昇降機構のシャフトの先端に接続し、出発ロッドにおけるVAD法による製造開始側を上に向けて鉛直に吊り下げた状態で脱水焼結装置の炉心管内に挿入し、1500℃で加熱しながら下方に移動させ、多孔質ガラスを焼結させて透明ガラス化することで、それぞれ10本ずつ光ファイバ用ガラス母材を製造した。
【0046】
上記の光ファイバ用ガラス母材に対して、製造開始側の出発ロッドとダミーガラスのつなぎ目を目視観察し、分離の発生率を調べた。結果を表2にしめす。
【0047】
【表2】
【0048】
実施例5と比較例1、実施例7と比較例2の比較から、出発ロッドのフッ素ドープ濃度が同一であっても、嵌入深さ/出発ロッドの外径を2%以上とすることで、つなぎ目の分離発生を大幅に抑制できることが確認できた。出発ロッドのフッ素ドープ量が0.7重量%以下の範囲において本発明の効果を確認出来た。出発ロッドのフッ素ドープ濃度が0.5wt%以下の範囲で特に高い効果を確認出来た。
【0049】
[実施例8]
別途検討として、VAD法を用いて製造された、コアを含む合成石英ガラスからなる外径50mm、長さ1500mmの出発ロッドを用意した。前記出発ロッドの製造開始側の先端を、ディスクグラインダーを用いて凸状の高さ30mmの円錐形状に研削した。
【0050】
[実施例9]
また、VAD法を用いて製造された、コアを含む合成石英ガラスからなる外径50mm、長さ1800mmの出発ロッドの両端をガラス旋盤の両側のチャックで把持し、製造開始側から300mmの位置を酸水素火炎で加熱して軟化させながら一方のチャックを移動させて、溶断することで、長さ1500mmの出発ロッドの製造開始側の先端を、凸状の高さ30mmの放物線テーパー状に成型した。
【0051】
実施例8、9の出発ロッドに対して、実施例1と同様の手順で、それぞれ10本ずつ光ファイバ用ガラス母材を製造し、製造開始側の出発ロッドとダミーガラスのつなぎ目を目視観察し、分離の発生率を調べた。結果を表3にしめす。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例8、9のいずれも、つなぎ目の分離発生率は0%になった。先端が凸状になったことで、つなぎ目に泡が入らなくなったため、分離の起点が無くなったことが影響していると考えられる。実施例8、9では出発ロッドの端面形状を変更したが、ダミーガラスの端面形状を変更しても同等の効果が得られる。
【0054】
[実施例10]
別途検討として、VAD法を用いて製造された、コアを含む合成石英ガラスからなる外径50mm、長さ1500mmの出発ロッドを用意した。
ガラス旋盤の一方のチャックで、出発ロッドの製造開始側の端面をもう一方のチャックに向けて把持し、もう一方のチャックで、天然石英ガラスからなる外径40mm、長さ500mmのダミーガラスを把持し、チャックを回転させながら、出発ロッドの製造開始側の端面と、ダミーガラスの端面とを、バーナーから出る酸水素火炎で約2000℃に加熱して軟化させた後、チャック同士を近づけることで端面同士を溶着させて接続部を膨らませた。膨らんだ接続部の最大径は48mmであった。これに対して、酸水素火炎による接続部の加熱を続けたまま、膨らんだ接続部の出発ロッド側からダミーガラス側に向けて高純度炭素からなる加工用鏝を当接させることで、接続部の膨らみを均す作業を行った。作業後の接続部の最大径は45mmであった。
【0055】
[実施例11]
ガラス旋盤の一方のチャックで、出発ロッドの製造開始側の端面をもう一方のチャックに向けて把持し、もう一方のチャックで、天然石英ガラスからなる外径60mm、長さ500mmのダミーガラスを把持し、チャックを回転させながら、出発ロッドの製造開始側の端面と、ダミーガラスの端面とを、バーナーから出る酸水素火炎で約2000℃に加熱して軟化させた後、チャック同士を近づけることで端面同士を溶着させて接続部を膨らませた。膨らんだ接続部の最大径は59mmであった。これに対して、酸水素火炎による接続部の加熱を続けたまま、膨らんだ接続部の出発ロッド側からダミーガラス側に向けて高純度炭素からなる加工用鏝を当接させることで、接続部の膨らみを均す作業を行った。作業後の接続部の最大径は54mmであった。
【0056】
実施例10、11の出発ロッドとダミーガラスの接合体に対して、実施例1と同様の手順で、それぞれ10本ずつ光ファイバ用ガラス母材を製造し、製造開始側の出発ロッドとダミーガラスのつなぎ目を目視観察し、分離の発生率を調べた。結果を表4にしめす。
【0057】
【表4】
【0058】
出発ロッドの外径がダミーガラスの外径より太い実施例10にて、つなぎ目の分離発生率は0%になった。ダミーガラスのコストと合わせて考慮すると、出発ロッドの外径がダミーガラスの外径より太い方が望ましいと考えられる。
【0059】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変形、改良などが自在である。
【符号の説明】
【0060】
1:ダミーガラス
2:出発ロッド
3:つなぎ目
4: クラッドガラス
5:分離
6:光ファイバ用ガラス母材の破損
7:太径部
8:加工用鏝
図1
図2