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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022647
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】化合物及び金属錯体
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/79 20060101AFI20230208BHJP
   C07F 5/00 20060101ALI20230208BHJP
   C07F 7/00 20060101ALI20230208BHJP
   C07F 3/00 20060101ALI20230208BHJP
   C07D 215/48 20060101ALI20230208BHJP
   C07D 471/04 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C07D213/79
C07F5/00 D CSP
C07F7/00 A
C07F3/00 E
C07D215/48
C07D471/04 112T
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127633
(22)【出願日】2021-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 謙太朗
(72)【発明者】
【氏名】細田 大
(72)【発明者】
【氏名】森 拓也
(72)【発明者】
【氏名】横藤田 敏之
【テーマコード(参考)】
4C055
4C065
4H048
4H049
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA03
4C055BA57
4C055CA01
4C055DA53
4C055DB02
4C055DB08
4C055EA02
4C055GA02
4C065AA04
4C065BB09
4C065CC09
4C065DD02
4C065EE02
4C065HH08
4C065JJ01
4C065KK08
4C065LL01
4C065PP01
4C065QQ09
4H048AA01
4H048VA32
4H048VB10
4H049VN06
4H049VP01
4H049VP04
4H049VQ93
(57)【要約】      (修正有)
【課題】錯形成した状態での金属保持力が高い錯体を形成することが可能な化合物を提供する。
【解決手段】式(1)で表される、化合物。

[式(1)中、nは0~6を表す。Q、Q、及びQは、カルボキシル基置換キノリン誘導体を含む部分構造からなる基、カルボキシル基置換ピリジン誘導体を含む部分構造からなる基、又はカルボキシル基置換フェナントロリン誘導体を含む部分構造からなる基の群から選ばれる基等である。Yは窒素原子等を表す。Z、Z、及びZは、2価の連結基等を表す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、化合物。
【化1】

[式(1)中、nは、0~6の整数を表す。
、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、群Bから選ばれる基、群Cから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、及びQの少なくとも2個は、群A、群B、又は群Cから選ばれる基である。
nが2以上である場合、複数存在するQは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
(群A)
群Aは、下記式(A-1)、式(A-2)、式(A-3)、及び式(A-4)で表される基からなる群である。
【化2】

(式(A-1)、式(A-2)、式(A-3)、及び式(A-4)中、R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
(群B)
群Bは、下記式(B-1)及び式(B-2)で表される基からなる群である。
【化3】

(式(B-1)及び式(B-2)中、R1b、R2b、及びR3bは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
(群C)
群Cは、下記式(C-1)、式(C-2)、式(C-3)、式(C-4)、式(C-5)、及び式(C-6)で表される基からなる群である。
【化4】

(式(C-1)、式(C-2)、式(C-3)、式(C-4)、式(C-5)、及び式(C-6)中、R1c、R2c、R3c、R4c、R5c、及びR6cは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
Yは、窒素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
nが2以上である場合、複数存在するYは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
は、単結合、-C(=O)-、又は置換基を有していてもよい、メチレン基若しくは少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基を表し、少なくとも2個の-CH-を有する基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよい。
及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。
、Q、及びQがすべて群Bから選ばれる基である場合、Z、Z、及びZは、末端に-CH-C(=O)NH-を有する2価の連結基であり、当該連結基は、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合している。
nが2以上である場合、複数存在するZ及びZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Z及びZは、互いに結合して環構造を形成していてもよい。]
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化5】

[式(2)中、Q、Q、Q、Z、Z、Z、及びnは、前記と同義である。]
【請求項3】
前記式(2)で表される化合物が、下記式(3)で表される化合物である、請求項2に記載の化合物。
【化6】

[式(2)中、Q、Q、Q、Z、Z、及びZは、前記と同義である。
は、0又は1を表す。]
【請求項4】
前記式(3)で表される化合物が、下記式(4)で表される化合物である、請求項3に記載の化合物。
【化7】

[式(4)中、Q、Q、Q、及びnは、前記と同義である。
1Aは、単結合又は置換基を有していてもよい、メチレン基若しくは少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基を表し、少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよい。
2A及びZ3Aは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基を表し、ヒドロカルビレン基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよい。
、Q、及びQがすべて群Bから選ばれる基である場合、Z1A、Z2A、及びZ3Aは、末端の-CH-が-CH-C(=O)NH-に置換されたヒドロカルビレン基であり、当該基は、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合している。]
【請求項5】
前記式(4)で表される化合物が、下記式(5A)、式(5B)、又は式(5C)で表される化合物である、請求項4に記載の化合物。
【化8】

[式(5A)、式(5B)、及び式(5C)中、R1a、R2a、R4a、R5a、R1b、R3b、R1c、R2c、R4c、R5c、R6c、Z1A、Z2A、Z3A、及びnは、前記と同義である。
2A及びQ3Aは、それぞれ独立に、下記式(A-2a)、式(B-2a)、及び式(C-3a)で表される基からなる群より選ばれる基である。
【化9】

((A-2a)、式(B-2a)、及び式(C-3a)中、環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子は、置換基によって置換されていてもよい。なお、*は、結合手を表す。)]
【請求項6】
金属元素と、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物に由来する配位子とを有する、金属錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物及び金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の金属イオンと安定的に錯形成することが可能な化合物及びこのような化合物に由来する配位子を有する金属錯体は、様々な用途に使用され有用である。このような化合物及び金属錯体の用途としては、例えば、金属除去剤、金属触媒、発光錯体、MRI造影剤、放射性核種医薬品、放射性廃棄物の分離等が挙げられる(例えば、特許文献1、2、非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2552714号公報
【特許文献2】特表平04-502574号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem.Soc.Rev.,2014,43,260-290.
【非特許文献2】Inorg.Chem.,2019,58,2275-2285.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、錯形成した状態での金属保持力が高い、新規な錯体を形成することが可能な化合物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような化合物に由来する配位子を有する金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、8-ヒドロキシキノリン-2-カルボン酸誘導体を含む部分構造、ピリジン-2,6-ジカルボン酸誘導体を含む部分構造、又は2,2’-ビピリジン-6,6’-ジカルボン酸誘導体を含む部分構造からなる群から選ばれる部分構造を2つ以上有する化合物が複数の金属種に対して錯体を形成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一側面は、化合物に関する。当該化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【化1】

[式(1)中、nは、0~6の整数を表す。
、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、群Bから選ばれる基、群Cから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、及びQの少なくとも2個は、群A、群B、又は群Cから選ばれる基である。
nが2以上である場合、複数存在するQは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
(群A)
群Aは、下記式(A-1)、式(A-2)、式(A-3)、及び式(A-4)で表される基からなる群である。
【化2】

(式(A-1)、式(A-2)、式(A-3)、及び式(A-4)中、R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
(群B)
群Bは、下記式(B-1)及び式(B-2)で表される基からなる群である。
【化3】

(式(B-1)及び式(B-2)中、R1b、R2b、及びR3bは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
(群C)
群Cは、下記式(C-1)、式(C-2)、式(C-3)、式(C-4)、式(C-5)、及び式(C-6)で表される基からなる群である。
【化4】

(式(C-1)、式(C-2)、式(C-3)、式(C-4)、式(C-5)、及び式(C-6)中、R1c、R2c、R3c、R4c、R5c、及びR6cは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
Yは、窒素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
nが2以上である場合、複数存在するYは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
は、単結合、-C(=O)-、又は置換基を有していてもよい、メチレン基若しくは少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基を表し、少なくとも2個の-CH-を有する基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよい。
及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。
、Q、及びQがすべて群Bから選ばれる基である場合、Z、Z、及びZは、末端に-CH-C(=O)NH-を有する2価の連結基であり、当該連結基は、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合している。
nが2以上である場合、複数存在するZ及びZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Z及びZは、互いに結合して環構造を形成していてもよい。]
【0008】
式(1)で表される化合物は、好ましくは、下記式(2)で表される化合物である。
【化5】

[式(2)中、Q、Q、Q、Z、Z、Z、及びnは、前記と同義である。]
【0009】
式(2)で表される化合物は、好ましくは、下記式(3)で表される化合物である。
【化6】

[式(2)中、Q、Q、Q、Z、Z、及びZは、前記と同義である。
は、0又は1を表す。]
【0010】
式(3)で表される化合物は、好ましくは、下記式(4)で表される化合物である。
【化7】

[式(4)中、Q、Q、Q、及びnは、前記と同義である。
1Aは、単結合又は置換基を有していてもよい、メチレン基若しくは少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基を表し、少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよい。
2A及びZ3Aは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基を表し、ヒドロカルビレン基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよい。
、Q、及びQがすべて群Bから選ばれる基である場合、Z1A、Z2A、及びZ3Aは、末端の-CH-が-CH-C(=O)NH-に置換されたヒドロカルビレン基であり、当該基は、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合している。]
【0011】
式(4)で表される化合物は、好ましくは、下記式(5A)、式(5B)、又は式(5C)で表される化合物である。
【化8】

[式(5A)、式(5B)、及び式(5C)中、R1a、R2a、R4a、R5a、R1b、R3b、R1c、R2c、R4c、R5c、R6c、Z1A、Z2A、Z3A、及びnは、前記と同義である。
2A及びQ3Aは、それぞれ独立に、下記式(A-2a)、式(B-2a)、及び式(C-3a)で表される基からなる群より選ばれる基である。
【化9】

((A-2a)、式(B-2a)、及び式(C-3a)中、環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子は、置換基によって置換されていてもよい。なお、*は、結合手を表す。)]
【0012】
本発明の他の一側面は、金属錯体に関する。当該金属錯体は、金属元素と、上記の化合物に由来する配位子とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、錯形成した状態での金属保持力が高い、新規な錯体を形成することが可能な化合物が提供される。また、本発明によれば、このような化合物に由来する配位子を有する金属錯体が提供される。さらに、本発明の金属錯体は、錯形成した状態での金属保持力が高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[置換基]
本明細書において、個々に特に説明がない限り、「置換基」は3種類に分類される。
第一は、抗原と親和性のある構造体を有する基である(以下、「置換基A」という場合がある。)。
第二は、抗原と親和性のある構造体と架橋可能な部位を有する基である(以下、「置換基B」という場合がある。)。
第三は、有機化学(有機配位子)の分野で一般的に取り得る基である(以下、「置換基C」という場合がある。)。
【0016】
置換基A及び置換基Bにおける「抗原」とは、放射線を利用する治療又は診断において利用できる抗原を意味する。「抗原」は、好ましくは、がん細胞に由来する抗原である。
【0017】
置換基A及び置換基Bにおける「抗原と親和性のある構造体」とは、特定の抗原に対して選択的に相互作用する構造体を意味する。「抗原と親和性のある構造体」は、好ましくは、がん細胞に由来する抗原と親和性のある構造体である。がん細胞に由来する抗原と親和性のある構造体の例としては、抗体、抗体フラグメント、ペプチド鎖、酵素、核酸塩基含有成分(例えば、オリゴヌクレオチド、DNAベクター、RNAベクター、アプタマー)等が挙げられる。
【0018】
置換基Aは、「抗原と親和性のある構造体」と、置換基Bにおける「抗原と親和性のある構造体と架橋可能な部位」(以下、単に「架橋可能な部位」という場合がある。)とが化学結合した部分構造を含むことが好ましい。
【0019】
置換基Bにおける「架橋可能な部位」とは、抗原と親和性のある構造体中における「特定部位」(例えば、チオール基、アジド基、末端アミノ基等)に対して選択的に共有結合を形成できる構造を意味する。「架橋可能な部位」の構造は、抗原と親和性のある構造体中における特定部位に対して選択的に共有結合を形成するために一般的に取り得る基として特に限定されない。このような「架橋可能な部位」としては、例えば、下記式(D-1)~式(D-12)で表される基が挙げられる。
【0020】
【化10】
【0021】
式(D-1)~式(D-12)中、環構造の中央から伸びている直線は、環構造の任意の位置における結合を表す。*は、結合手を表し、後述する式(11)におけるLとの結合部位である。これらの基は、置換基を有していてもよい。
【0022】
置換基Aの好ましい態様である、「抗原と親和性のある構造体」と、置換基Bにおける「架橋可能な部位」とが化学結合した部分構造(以下、「架橋構造」という場合がある。)は、例えば、クリックケミストリーによって形成することができる。クリックケミストリーの例としては、下記式(6)で表される、アジド基とアルキニル基とを、触媒存在下で反応させることで、1,2,3-トリアゾール環を形成させる反応が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。
【0023】
【化11】
【0024】
クリックケミストリーの別の例としては、下記式(7)で表される、アジド基とシクロオクチン基との反応、又は、下記式(8)で表される、テトラジン基とアルキニル基との反応が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。
【0025】
【化12】
【0026】
【化13】
【0027】
また、「架橋構造」を形成するために、「架橋可能な部位」及び「特定部位」からなる群より選ばれる部位を2個以上有する架橋剤を用いることができる。このような架橋剤としては、例えば、下記式(9)で例示される架橋剤が挙げられる。架橋剤は、例えば、「架橋可能な部位」及び「特定部位」からなる群より選ばれる部位の一方を、後述の金属錯体における金属元素及び式(1)で表される化合物に由来する配位子の構造含有部位に、「架橋可能な部位」及び「特定部位」からなる群より選ばれる部位のその他の一方を、「抗原と親和性のある構造体」の構造含有部位に、それぞれ結合させる反応に使用することができる。
【0028】
【化14】
【0029】
置換基Aとしては、例えば、下記式(10)で表される基が挙げられる。
【0030】
【化15】
【0031】
式(10)中、Lは、直接結合、置換基Cを有していてもよいヒドロカルビレン基、又は置換基Cを有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。Lが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Lは、直接結合、C(=O)NRe1、C(=S)NRe2、OC(=O)NRe3、OC(=O)、C(=O)、C(=S)、NRe4、S、又はOを表す。Lが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Lは、上記「架橋構造」を表す。Lが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Spは、上記「抗原と親和性のある構造体」を表す。nは、1~10の整数を表し、nは1又は2を表す。なお、*は、結合手を表す。
【0032】
は、直接結合、置換基Cを有していてもよいヒドロカルビレン基又は置換基Cを有していてもよいヘテロアリーレン基であり、好ましくは直接結合又は置換基Cを有していてもよいヒドロカルビレン基である。
【0033】
における置換基Cを有していてもよいヒドロカルビレン基のヒドロカルビレン基としては、例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基が挙げられる。Lは、好ましくはアルキレン基、シクロアルキレン基であり、より好ましくはアルキレン基である。
【0034】
のヒドロカルビレン基におけるアルキレン基は、飽和脂肪族炭化水素を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基等が挙げられる。これらのアルキレン基中の-CH-の一部は、-O-に置換されていてもよい。アルキレン基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは1~8個である。
【0035】
のヒドロカルビレン基におけるシクロアルキレン基は、シクロアルカンを構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。シクロアルキレン基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロオクチレン基等が挙げられる。シクロアルキレン基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは6個である。
【0036】
のヒドロカルビレン基におけるアリーレン基は、芳香族炭化水素を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。アリーレン基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基等が挙げられる。アリーレン基は、好ましくはフェニレン基である。アリーレン基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは6~12個である。
【0037】
の置換基Cを有していてもよいヘテロアリーレン基は、例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N-アルキルピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、イソキノリン、キナゾリン等の複素環式化合物を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を2個除いた2価の基である。ヘテロアリーレン基は、好ましくはピリジレン基である。
【0038】
は、直接結合、C(=O)NRe1、C(=S)NRe2、OC(=O)NRe3、OC(=O)、C(=O)、C(=S)、NRe4、S、又はOであり、C(=O)NRe1は、L及びLと、-L-C(=O)NRe1-L-で結合してもよく、-L-C(=O)NRe1-L-で結合してもよい。C(=S)NRe2、OC(=O)NRe3、及びOC(=O)も同様である。Re1、Re2、Re3、及びRe4は、それぞれ水素原子又は炭素原子数1~8個のヒドロカルビル基を表す。Re1、Re2、Re3、及びRe4が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。Lは、好ましくは直接結合又はC(=O)NHである。
【0039】
e1、Re2、Re3、及びRe4における炭素原子数1~8のヒドロカルビル基としては、例えば、炭素原子数が1~8個である、アルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられる。炭素原子数1~8個のヒドロカルビル基は、好ましくは炭素原子数1~8個のアルキル基である。
【0040】
は、上記「架橋構造」である。Lとしては、例えば、下記式(E-1)~式(E-8)で表される2価の基が挙げられる。式(E-1)~式(E-8)で表される2価の基は、置換基を有していてもよい。なお、*は、結合手を表す。
【0041】
【化16】
【0042】
は1~10の整数であり、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは1である。
【0043】
は1又は2であり、上記式(9)で例示される架橋剤等の架橋剤を用いる場合、nは好ましくは2であり、架橋剤を用いない場合、nは好ましくは1である。
【0044】
Spは、「抗原と親和性のある構造体」である。「抗原と親和性のある構造体」は、上記の構造体が例示される。
【0045】
本実施形態の化合物及び/又は金属錯体は、分子内・分子間を含めた視点で置換基Aを有する構造体が複数ある場合、1個の「抗原と親和性のある構造体」が複数の本願の化合物及び/又は金属錯体と結合していてもよい。この場合、複数の置換基Aにおいて1個の「抗原と親和性のある構造体」が共有されていてもよい。
【0046】
置換基Bとしては、例えば、下記式(11)で表される基が挙げられる。
【0047】
【化17】
【0048】
式(11)中、L、L、及びnは、前記と同義である。Lkは、上記「架橋可能な部位」を表す。なお、*は、結合手を表す。
【0049】
置換基Cとしては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、ニトロ基、ホスホン酸基、ヒドロカルビル基、シリル基、ヘテロアリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、シリルオキシ基が挙げられる。置換基Cは、水溶性の液中で溶解して使用し易い観点から、好ましくはヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、ホスホン酸基、又はアルキルオキシ基である。これらの基の一部はハロゲン原子で置換されていてもよく、例えば、メチル基の水素原子がフッ素置換されてトリフルオロメチル基になっていてもよい。
【0050】
置換基Cで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子は、好ましくはフッ素原子である。
【0051】
置換基Cで表されるアミノ基において、窒素原子上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。アミノ基としては、例えば、無置換アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジフェニルアミノ基が挙げられる。アミノ基は、好ましくは無置換アミノ基である。
【0052】
置換基Cで表されるヒドロカルビル基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられる。ヒドロカルビル基は、好ましくはアルキル基である。
【0053】
置換基Cで表されるヒドロカルビル基におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ノルボニル基、ノニル基、デシル基、3,7-ジメチルオクチル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。これらのアルキル基中の-CH-の一部は、-O-に置換されていてもよい。アルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、入手の容易性及びコストの点から、好ましくは1~8個である。
【0054】
置換基Cで表されるヒドロカルビル基におけるアリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセニル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。アリール基は、好ましくはフェニル基である。アリール基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは6~18個である。
【0055】
置換基Cで表されるヒドロカルビル基におけるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、(2-メチルフェニル)メチル基、(3-メチルフェニル)メチル基、(4-メチルフェニル)メチル基、(2,4-ジメチルフェニル)メチル基、(エチルフェニル)メチル基、ナフチルメチル基が挙げられる。アラルキル基は、好ましくはベンジル基である。アラルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは7~18個である。
【0056】
置換基Cで表されるシリル基において、ケイ素原子上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。このような置換シリル基としては、例えば、メチルシリル基、エチルシリル基、フェニルシリル基等の1個の炭素原子数1~18個の炭化水素基で置換された一置換シリル基;ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、ジフェニルシリル基等の2個の炭素原子数1~18個の炭化水素基で置換された二置換シリル基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリ-n-ブチルシリル基、トリ-tert-ブチルシリル基、トリ-イソブチルシリル基、tert-ブチル-ジメチルシリル基、トリ-n-ペンチルシリル基等の3個の炭素原子数1~18個の炭化水素基で置換された三置換シリル基などが挙げられる。置換シリル基は、好ましくはトリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基である。
【0057】
置換基Cで表されるヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピロリル基、N-アルキルピロリル基、フリル基、チオフェンニル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、イソキノリニル基が挙げられる。ヘテロアリール基は、好ましくはピリジル基又はピリミジニル基である。
【0058】
置換基Cで表されるアルキルオキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-オクチルオキシ基等が挙げられる。これらのアルキルオキシ基中の-CH-の一部は、-O-に置換されていてもよい。アルキルオキシ基は、好ましくはメトキシ基である。アルキルオキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは1~8個である。
【0059】
置換基Cで表されるアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、3-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、2,4-ジメチルフェノキシ基、ナフトキシ基が挙げられる。アリールオキシ基は、好ましくはフェノキシ基である。アリールオキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは6~18個である。
【0060】
置換基Cで表されるアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、(2-メチルフェニル)メトキシ基、(3-メチルフェニル)メトキシ基、(4-メチルフェニル)メトキシ基、(2,4-ジメチルフェニル)メトキシ基、ナフチルメトキシ基が挙げられる。アラルキルオキシ基は、好ましくはベンジルオキシ基である。アラルキルオキシ基の炭素原子数は、特に限定されないが、好ましくは7~18個である。
【0061】
置換基Cで表されるシリルオキシ基において、ケイ素原子上の水素原子は、炭化水素基で置換されていてもよい。このような置換シリルオキシ基としては、例えば、トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリ-n-ブチルシリルオキシ基、トリフェニルシリルオキシ基、トリイソプロピルシリルオキシ基、tert-ブチルジメチルシリルオキシ基が挙げられる。置換シリルオキシ基は、好ましくはトリメチルシリルオキシ基又はtert-ブチルジメチルシリルオキシ基である。
【0062】
本明細書において、置換基は、個々に特に説明がない限り、好ましくは置換基B又は置換基Cであり、より好ましくは置換基Cである。
【0063】
本明細書において、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、Bnはベンジル基を表し、DMFはN,N-ジメチルホルムアミドを表す。
【0064】
本明細書において、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基などの分岐可能な基が直鎖構造、分岐構造の指定なく記載されている場合、これらは直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。これらの基は、好ましくは直鎖構造である。
【0065】
本明細書において、基の説明において炭素原子数を記載している場合、当該炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含まない炭素原子数を意味する。
【0066】
[化合物]
一実施形態の化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【0067】
【化18】

[式(1)中、nは、0~6の整数を表す。
、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、群Bから選ばれる基、群Cから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、及びQの少なくとも2個は、群A、群B、又は群Cから選ばれる基である。
nが2以上である場合、複数存在するQは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
(群A)
群Aは、下記式(A-1)、式(A-2)、式(A-3)、及び式(A-4)で表される基からなる群である。
【化19】

(式(A-1)、式(A-2)、式(A-3)、及び式(A-4)中、R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
(群B)
群Bは、下記式(B-1)及び式(B-2)で表される基からなる群である。
【化20】

(式(B-1)及び式(B-2)中、R1b、R2b、及びR3bは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
(群C)
群Cは、下記式(C-1)、式(C-2)、式(C-3)、式(C-4)、式(C-5)、及び式(C-6)で表される基からなる群である。
【化21】

(式(C-1)、式(C-2)、式(C-3)、式(C-4)、式(C-5)、及び式(C-6)中、R1c、R2c、R3c、R4c、R5c、及びR6cは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。なお、*は、結合手を表す。)
Yは、窒素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。
nが2以上である場合、複数存在するYは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
は、単結合、-C(=O)-、又は置換基を有していてもよい、メチレン基若しくは少なくとも2個の-CH2-を有するヒドロカルビレン基を表し、少なくとも2個の-CH-を有する基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよい。
及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。
、Q、及びQがすべて群Bから選ばれる基である場合、Z、Z、及びZは、末端に-CH-C(=O)NH-を有する2価の連結基であり、当該連結基は、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合している。
nが2以上である場合、複数存在するZ及びZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Z及びZは、互いに結合して環構造を形成していてもよい。]
【0068】
、Q、及びQは、それぞれ独立に、水素原子、群Aから選ばれる基、群Bから選ばれる基、群Cから選ばれる基、又は置換基を表す。ただし、Q、Q、及びQの少なくとも2個は、群A、群B、又は群Cから選ばれる基である。好ましくは、Q、Q、及びQのうち2個又は3個が、群A、群B、又は群Cから選ばれる基である。
【0069】
、Q、及びQがすべて群Bから選ばれる基である場合、Z、Z、及びZは、末端に-CH-C(=O)NH-を有する2価の連結基であり、当該連結基は、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合している。Z、Z、及びZは、Q、Q、及びQが、それぞれ独立に、群A、群B、又は群Cから選ばれる基である場合においても、末端に-CH-C(=O)NH-を有する2価の連結基であり、当該連結基が、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合していることが好ましい。
【0070】
群Aにおいて、R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基である。置換基は、好ましくは置換基B又は置換基Cである。置換基が置換基Bである場合、R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aのうち、置換基Bの数は、好ましくは0個又は1個である。置換基が置換基Cである場合、R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aのうち、置換基Cの数は、好ましくは0個又は1個である。R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aは、好ましくは水素原子である。群Aの各式において、R1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aの合計はいずれも4個であるが、合計4個のR1a、R2a、R3a、R4a、及びR5aのうち、水素原子の数は、好ましくは3個又は4個である。
【0071】
群Aから選ばれる基は、好ましくは、式(A-2)、及び式(A-3)で表される基からなる群から選ばれる基、より好ましくは式(A-2)で表される基である。
【0072】
群Aから選ばれる基としては、例えば、下記式(A-1a)~式(A-15a)で表される基が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。下記式(A-1a)~式(A-15a)で表される基は、結合手を有する複素環が水素原子を有しているとき、当該水素原子は置換基で置換されていてもよい。群Aから選ばれる基は、上記式(A-2)で表される基であることから、好ましくは、式(A-2a)、又は式(A-5a)~式(A-15a)で表される基である。
【0073】
【化22】
【0074】
群Bにおいて、R1b、R2b、及びR3bは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基である。置換基は、好ましくは置換基B又は置換基Cである。置換基が置換基Bである場合、R1b、R2b、及びR3bのうち、置換基Bの数は、好ましくは0個又は1個である。置換基が置換基Cである場合、R1b、R2b、及びR3bのうち、置換基Cの数は、好ましくは0個又は1個である。R1b、R2b、及びR3bは、好ましくは水素原子である。群Bの各式において、R1b、R2b、及びR3bの合計はいずれも2個であるが、合計2個のR1b、R2b、及びR3bのうち、水素原子の数は、好ましくは1個又は2個である。
【0075】
群Bから選ばれる基は、好ましくは、式(B-2)で表される基である。
【0076】
群Bから選ばれる基としては、例えば、下記式(B-1a)~式(B-8a)で表される基が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。式(B-1a)~式(B-8a)で表される基は、結合手を有する複素環が水素原子を有しているとき、当該水素原子は置換基で置換されていてもよい。群Bから選ばれる基は、上記式(B-2)で表される基であることから、好ましくは、式(B-1a)~式(B-4a)、式(B-7a)又は式(B-8a)で表される基である。
【0077】
【化23】
【0078】
群Cにおいて、R1c、R2c、R3c、R4c、R5c、及びR6cは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基である。置換基は、好ましくは置換基B又は置換基Cである。置換基が置換基Bである場合、R1c、R2c、R3c、R4c、R5c、及びR6cのうち、置換基Bの数は、好ましくは0個又は1個である。置換基が置換基Cである場合、R1c、R2c、R3c、R4c、R5c、及びR6cのうち、置換基Cの数は、好ましくは0個又は1個である。R1c、R2c、R3c、R4c、R5c、及びR6cは、好ましくは水素原子である。群Cの各式において、R1c、R2c、R3c、R4c、R5c、及びR6cの合計はいずれも5個であるが、合計5個のR1c、R2c、R3c、R4c、R5c、及びR6cのうち、水素原子の数は、好ましくは4個又は5個である。
【0079】
群Cから選ばれる基は、金属元素に剛直な骨格で強く配位できる観点から、好ましくは、ビピリジン誘導体であるよりフェナントロリン誘導体である式(C-4)、式(C-5)、又は式(C-6)で表される基であり、より好ましくは式(C-5)又は式(C-6)である。
【0080】
群Cから選ばれる基としては、例えば、下記式(C-1a)~式(C-9a)で表される基が挙げられる。なお、*は、結合手を表す。式(C-1a)~式(C-9a)で表される基は、結合手を有する複素環が水素原子を有しているとき、当該水素原子は置換基で置換されていてもよい。群Cから選ばれる基は、上記式(C-5)又は式(C-6)で表される基であることから、好ましくは、式(C-5a)、式(C-6a)、式(C-8a)、又は式(C-9a)で表される基である。
【0081】
【化24】
【0082】
Yは、窒素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を表す。Yにおける炭化水素基としては、例えば、メチン基、炭素原子数6~18の芳香環式炭化水素環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を3個除いた3価の基、炭素原子数4~18のシクロアルカントリイル基が挙げられる。シクロアルカントリイル基における-CH-の一部は、-O-又は-C(=O)-に置換されていてもよい。Yは、好ましくは窒素原子である。
【0083】
Yにおける置換基を有していてもよい炭化水素基の具体例としては、下記式(D-1a)~式(D-5a)が挙げられる。式(D-1a)~式(D-5a)で表される基における水素原子は置換基で置換されていてもよい。なお、*は、結合手を表す。置換基を有していてもよい炭化水素基は、好ましくは式(D-1a)、式(D-2a)、又は式(D-5a)である。
【0084】
【化25】
【0085】
nが2以上である場合、複数存在するYは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。nが2以上である場合、複数存在するYは、好ましくは、同一である。
【0086】
は、単結合、-C(=O)-、又は置換基を有していてもよい、メチレン基若しくは少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基を表す。Zは、好ましくは置換基を有していてもよい、少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基である。少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基における-CH-数は、好ましくは3個以上であり、より好ましくは4個以上である。
【0087】
及びZは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよい2価の連結基を表す。Z及びZは、好ましくは置換基を有していてもよい2価の連結基である。
【0088】
2価の連結基としては、例えば、ヒドロカルビレン基が挙げられる。ヒドロカルビレン基としては、例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基等が挙げられる。シクロアルキレン基及びアリーレン基の具体例及び好ましい例は、上記Lにおけるそれらと同様であってよい。
【0089】
ヒドロカルビレン基は、好ましくはアルキレン基である。Z及びZのヒドロカルビレン基におけるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基等が挙げられる。Zの少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基におけるアルキレン基は、Z及びZのヒドロカルビレン基におけるアルキレン基のうち、少なくとも2個の-CH-を有するアルキレン基が挙げられる。Z、Z、及びZのアルキレン基は、直鎖状、分岐状、又は環状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。Zの少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基におけるアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは2~30個であり、より好ましくは6~30個である。Z及びZのヒドロカルビレン基におけるアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは1~30個であり、より好ましくは2~30個であり、さらに好ましくは6~30個である。これらのアルキレン基の炭素原子数は、Q、Q、又はQ中の配位結合部位が単一の金属元素に結合できる距離にあることが可能となることから、一定以上の数であることが好ましい。これらのアルキレン基のQ、Q、及びQとYとの間を連結する主鎖の炭素原子数は、好ましくは6個以上である。
【0090】
の少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基中の-CH-の一部又は全部、並びに、Z及びZのヒドロカルビレン基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよく、水溶液中の溶解性、及び、合成容易性の観点から、これらのヒドロカルビレン基中の-CH-の一部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていることが好ましく、-O-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-で置換されていることがより好ましく、-O-、-NHC(=O)-、及び-C(=O)NH-からなる群から選ばれる2個以上の基で置換されていることがさらに好ましく、当該群から選ばれる4個以上の基で置換されていることが特に好ましい。
【0091】
の少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基中の-CH-の2個以上、並びに、Z及びZのヒドロカルビレン基中の-CH-の2個以上が、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されている場合、-CH-の2個以上は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、及び-C(=O)NH-からなる群より選ばれる少なくとも2種に置換されていていることが好ましい。このとき、少なくとも2種のうち1種は、-O-であることが好ましい。
【0092】
におけるメチレン基若しくは少なくとも2個の-CH-を有する基、並びに、Z及びZにおける2価の連結基が有していてもよい置換基は、好ましくは置換基B又は置換基Cである。
【0093】
nが2以上である場合、複数存在するZ及びZは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、Z及びZは、互いに結合して環構造を形成していてもよい。nは、3~6であってよい。nが3~6である場合、Z及びZは、互いに結合して環構造を形成していることが好ましい。
【0094】
及びZが互いに結合して環構造を形成する場合、Q及びQは、好ましくは水素原子である。式(1)で表される化合物において、nが3~6であり、Z及びZが互いに結合して環構造を形成している化合物としては、例えば、下記式(E-1)~式(E-4)で表される化合物が挙げられる。当該化合物は、好ましくは、式(E-1)又は式(E-2)で表される化合物ある。
【0095】
【化26】
【0096】
他方、nは、0~2であってもよく、より好ましくは0又は1である。nが0~2である場合、Z及びZは、互いに結合して環構造を形成していないことが好ましい。Q及びQは、それぞれ独立に、好ましくは、群Aから選ばれる基、群Bから選ばれる基、群Cから選ばれる基、又は置換基である。式(1)で表される化合物において、nが0~2であり、Z及びZが互いに結合して環構造を形成していない化合物としては、例えば、下記式(F-1)~式(F-20)で表される化合物が挙げられる。なお、Spは、「抗原と親和性のある構造体」を表す。当該化合物は、nが0又は1であることから、好ましくは、式(F-1)~式(F-18)で表される化合物であり、末端に-CH-C(=O)NH-を有し、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合していることから、より好ましくは、式(F-1)、式(F-2)、式(F-7)、式(F-9)、式(F-16)、又は(F-19)で表される化合物ある。
【0097】
【化27】
【0098】
【化28】
【0099】
【化29】
【0100】
式(1)で表される化合物は、好ましくは、下記式(2)で表される化合物である。式(2)で表される化合物は、式(1)で表される化合物において、Yが窒素原子である化合物である。
【0101】
【化30】

[式(2)中、Q、Q、Q、Z、Z、Z、及びnは、前記と同義である。]
【0102】
式(2)で表される化合物は、好ましくは、下記式(3)で表される化合物である。式(3)で表される化合物は、式(2)で表される化合物において、nが0又は1である化合物である。
【0103】
【化31】

[式(2)中、Q、Q、Q、Z、Z、及びZは、前記と同義である。
は、0又は1を表す。]
【0104】
式(3)で表される化合物は、好ましくは、下記式(4)で表される化合物である。式(4)で表される化合物は、式(3)で表される化合物において、Z、Z、及びZがそれぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基である化合物である。
【0105】
【化32】

[式(4)中、Q、Q、Q、及びnは、前記と同義である。
1Aは、単結合又は置換基を有していてもよい、メチレン基若しくは少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基を表し、少なくとも2個の-CH-を有するヒドロカルビレン基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよい。
2A及びZ3Aは、それぞれ独立に、単結合又は置換基を有していてもよいヒドロカルビレン基を表し、ヒドロカルビレン基中の-CH-の一部又は全部は、-O-、-C(=O)-、-NHC(=O)-、又は-C(=O)NH-に置換されていてもよい。
、Q、及びQがすべて群Bから選ばれる基である場合、Z1A、Z2A、及びZ3Aは、末端の-CH-が-CH-C(=O)NH-に置換されたヒドロカルビレン基であり、当該基は、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合している。]
【0106】
式(4)で表される化合物は、好ましくは、下記式(5A)、式(5B)、又は式(5C)で表される化合物である。
【0107】
【化33】

[式(5A)、式(5B)、及び式(5C)中、R1a、R2a、R4a、R5a、R1b、R3b、R1c、R2c、R4c、R5c、R6c、Z1A、Z2A、Z3A、及びnは、前記と同義である。
2A及びQ3Aは、それぞれ独立に、下記式(A-2a)、式(B-2a)、及び式(C-3a)で表される基からなる群より選ばれる基である。
【0108】
【化34】

((A-2a)、式(B-2a)、及び式(C-3a)中、環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子は、置換基によって置換されていてもよい。なお、*は、結合手を表す。)]
【0109】
2A及びQ3Aは、同一であっても異なっていてもよく、好ましくは、置換されていてもよい置換基以外の部位において、同一である。
【0110】
式(5A)、式(5B)、又は式(5C)で表される化合物は、環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子が置換基Bで0個又は1個置換されていることが好ましく、「抗原と親和性のある構造体」と組み合わせて用いることができることから、1個置換されていることがより好ましい。
【0111】
式(5A)、式(5B)、又は式(5C)で表される化合物としては、例えば、下記式(G-1)~式(G-16)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物は、置換基を有していてもよい。なお、Spは、「抗原と親和性のある構造体」を表す。
【0112】
【化35】
【0113】
【化36】
【0114】
【化37】
【0115】
【化38】
【0116】
【化39】
【0117】
本実施形態の化合物は、酸又は塩基との相互作用で塩を形成していてもよく、水和していてもよい。塩を形成していてもよい酸の種類としては、例えば、塩酸、臭素酸、ヨウ素酸、リン酸、酢酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフェニルホウ酸などが挙げられる。酸は、好ましくは塩酸又は臭素酸である。酸による塩構造としては、例えば、本実施形態の化合物中の窒素部位が酸と相互作用している塩構造が挙げられる。
【0118】
塩を形成していてもよい塩基の種類としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウムの水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩などが挙げられる。塩基による塩構造としては、例えば、本実施形態の化合物中のカルボン酸部位のプロトンが別のカチオンで置き換わった塩構造が挙げられる。
【0119】
本実施形態の化合物は、一部のプロトンが分子内で移動していてもよい。例えば、式(G-1)で表される化合物は、カルボン酸のうち1個又は2個のプロトンが、キノリン構造中の窒素原子の近傍に移動していてもよい。
【0120】
[化合物の製造方法]
次に、本実施形態の化合物の製造方法について説明する。
【0121】
式(1)で表される化合物は、Z、Z、及びZとなり得る部位に、それぞれQ、Q、及びQとなり得る化合物を連結することができる公知の手法を適宜組み合わせて製造することができる。
【0122】
以下では、Z、Z、及びZ(以下、Z、Z、及びZを単に「Z」という場合がある。)となり得る部位に、それぞれQ、Q、及びQとなり得る部位を連結する結合部位の形成方法を具体的に説明する。
【0123】
が、末端の-CH-が-CH-C(=O)NH-に置換されたヒドロカルビレン基であり、当該基は、-CH-C(=O)NH-中の窒素原子を介してQ、Q、及びQとそれぞれ結合している場合において、このようなヒドロカルビレン基による結合部位の形成方法としては、下記式(10)に例示するように、ヒドロカルビレン基にカルボン酸基が結合している化合物と、アミノ基を有する化合物とを、塩化オキサリル等の公知のカルボン酸部位活性化剤や縮合剤等を用いて、DMF、トルエン、ジクロロメタン等の溶媒中で混合させる方法が挙げられる。
【0124】
【化40】
【0125】
また、例えば、Zがアルキレン基である場合において、このようなアルキレン基による結合部位の形成方法としては、下記式(11)に例示するように、アルデヒド構造を有する化合物と、アミノ基を有する化合物とをエタノ-ル等の溶媒中で混合させた後、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を反応させる方法等が挙げられる。
【0126】
【化41】
【0127】
式(10)及び式(11)において、得られる化合物は、カルボン酸がエステル構造で保護されている。エステル部位は、一般的に知られている脱エステル化反応等を行い脱保護することによって、カルボン酸に誘導することができる。このように、Zの結合部位を形成する工程では、適宜保護基を導入しておいて、後に脱保護を行うことによって、本実施形態の化合物を製造することができる。
【0128】
上記を例とした公知の手法を組み合わせることによって、式(1)で表される化合物を得ることができる。それぞれの反応における出発物質の例であるカルボン酸構造を有する化合物、及び、アミノ基を有する化合物等についても、公知のカルボン酸誘導体の合成法、及び、アミノ化合物誘導体の合成法を適宜組み合わせることで製造することができる。
【0129】
なお、「抗原と親和性のある構造体と架橋可能な部位」を有する置換基Bを有する式(1)で表される化合物についても、部分的に置換基Bの構造を有する化合物を合成する公知の手法を適宜組み合わせることで製造することができる。
【0130】
例えば、置換基Bが-CNCS構造(式(D-1)で表される基)を有する化合物の製造方法としては、上記式(10)又は式(11)において原料のいずれかにニトロフェニル基を有する化合物を用い、Zよる結合部位を形成する反応を行う。続いて、適宜脱保護反応を行い、エステル部位をカルボン酸へ変換した後、パラジウム触媒と水素を組み合わせて用いる等の一般的な還元剤によって、エタノール等の溶媒中でニトロ部位をアミンに変換した後、クロロホルム等の溶媒中でチオホスゲンと混合することによって、-CNCS構造を有する化合物を製造することができる。
【0131】
[金属錯体]
次に、本実施形態の化合物に由来する配位子を有する金属錯体について説明する。
【0132】
本実施形態の金属錯体は、上記化合物に金属元素が相互作用している。より具体的には、上記化合物中のヘテロ原子と金属元素とが相互作用しており、式(1)で表される化合物における含窒素複素環中の窒素原子及び/又は酸素含有官能基中の酸素原子と相互作用している。相互作用は、通常、配位結合である。
【0133】
金属錯体は、式(1)で表される化合物のヘテロ原子(例えば、窒素含有複素環基中の窒素原子、1~3級アミン中の窒素原子、-OH(-Oを含む)中の酸素原子、-COH(-CO を含む)中の酸素原子等)のいずれかいずれかと配位結合しており、配位結合の数は、好ましくは4~12個、より好ましくは6~10個である。本実施形態の化合物は、金属元素を結合させたときに、三次元的に上述の相互作用を示すことが可能である。なお、配位結合の形成の有無は、普及している3D分子構造をシミュレーションできるソフトウェアを用いた構造最適化計算によって、金属元素とヘテロ原子との距離を特定することにより確認することができる。
【0134】
式(1)で表される化合物に由来する配位子において、Q、Q、及びQの少なくとも2個は、群A、群B、又は群Cから選ばれる基である。ここで、群A、群B、又は群Cから選ばれる基の全てにおいて、それぞれ少なくとも1個のヘテロ原子が金属元素と相互作用していることが好ましく、少なくとも2個が金属元素と相互作用していることがより好ましく、少なくとも3個が金属元素と相互作用していることがさらに好ましい。
【0135】
金属元素は、無電荷であっても荷電しているイオンであってもよく、好ましくは荷電しているイオンである。金属元素が荷電している場合、好ましくは1~4価であり、より好ましくは2~4価である。
【0136】
金属元素は、典型金属元素、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、又は希土類元素であってよく、放射性元素であっても非放射性元素であってもよい。
【0137】
非放射性元素である金属元素としては、例えば、Mg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Biが挙げられる。非放射性元素である金属元素は、好ましくは、安定的に2~4価の金属カチオン状態として使用可能な金属元素である。
【0138】
放射性元素である金属元素としては、例えば、44Sc、47Sc、51Cr、59Fe、57Co、58Co、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、66Ga、67Ga,68Ga、75Se、83Sr、86Y、90Y、89Zr、99Mo、94mTc、99mTc、97Ru、103Ru、105Rh、109Pd、111Ag、110In、111In、114mIn、132La、135La、153Sm、149Tb、60Tb、161Tb、166Ho、167Tm、169Yb、177Lu、186Re、188Re、199Au、201Tl、212Pb、212Bi、213Bi、233Ra、225Ac、227Th、241Am、244Cmが挙げられる。放射性元素である金属元素は、好ましくは、2~4価の金属カチオン状態として使用可能な金属元素である。
【0139】
金属錯体1分子中に存在する金属元素の数は、1個であっても複数であってもよい。金属錯体1分子中に存在する金属元素の数は、好ましくは1個又は2個、より好ましくは1個である。
【0140】
金属錯体1分子中に存在する金属元素の種類は、1種類であっても2種類以上であってもよい。金属錯体1分子中に存在する金属元素の種類は、好ましくは1種類である。
【0141】
金属錯体は、金属錯体を電気的に中性にするための対イオンを含んでいてもよい。金属錯体が正に帯電している場合、これを中和する陰イオンが選ばれる。陰イオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等が挙げられる。陰イオンは、好ましくは塩酸イオン又は酢酸イオンである。金属錯体が負に帯電している場合、これを中和する陽イオンが選ばれる。陽イオンとしては、例えば、プロトン、アンモニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、テトラアリールホスホニウムイオン等が挙げられる。対イオンは複数存在していてもよく、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0142】
金属錯体は、金属錯体化の反応時又は精製時に使用した溶媒等の中性分子を含んでいてもよい。中性分子としては、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、N,N-ジメチルホルミアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ジエチルエーテル、酢酸、プロピオン酸、塩酸等が挙げられる。なお、中性分子は、複数存在していてもよく、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0143】
金属錯体は、置換基A又は置換基Bを1個有していることが好ましい。
【0144】
本実施形態の金属錯体としては、例えば、下記式(H-1)~式(H-16)で表される金属錯体が挙げられる。これら金属錯体は置換基を有していてもよい。
【0145】
【化42】
【0146】
【化43】
【0147】
【化44】
【0148】
【化45】
【0149】
【化46】
【0150】
式中、Mは金属元素を表す。Mとヘテロ原子との破線は、相互作用する可能性があることを表す。なお、Mとヘテロ原子との破線は、便宜的なものであり、必ずしも全ての破線において相互作用が存在することを意味するものではなく、一方、Mとヘテロ原子との破線が表記されていない箇所が、部分的に相互作用していてもよい。また、酸素アニオンとして表記されている部分の一部は、プロトンと結合してOH構造となっていてもよい。また、上記式で表される金属錯体は、上記のとおり、対イオン及び/又は中性分子を有していてもよく、上記の化合物に由来する配位子は置換基を有していてもよい。なお、Spは、「抗原と親和性のある構造体」を表す。
【0151】
[金属錯体の製造方法]
次に、本実施形態の金属錯体の製造方法について説明する。本実施形態の金属錯体の製造方法は、金属元素を付与する反応剤と式(1)で表される化合物とを混合する工程を備えている。
【0152】
本実施形態の金属錯体は、例えば、本実施形態の化合物を有機化学的に合成した後、得られた化合物を、金属元素を付与する反応剤(以下、「金属付与剤」という場合がある。)と混合し、反応させることにより得られる。反応させる金属付与剤の量は、目的とする金属錯体に応じて適宜調整することができる。
【0153】
金属付与剤としては、例えば、上記で例示した金属元素の酢酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物、過塩素酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、テトラフェニルホウ酸塩等が挙げられる。金属付与剤は、好ましくは金属元素の塩化物又は酢酸塩である。金属付与剤は、水和物であってもよい。
【0154】
化合物と金属付与剤との反応は、溶媒(すなわち、反応溶媒)中で行うことが好ましい。
【0155】
反応溶媒としては、例えば、水、酢酸、プロピオン酸、塩酸、アンモニア水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、N,N-ジメチルホルミアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ジエチルエーテル等が挙げられる。反応溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。反応溶媒は、例えば、反応液のpHを調整するための酸、塩基、緩衝剤等の別成分を含有していてもよい。
【0156】
反応温度は、通常、-10~200℃であり、好ましくは0~100℃、より好ましくは10~40℃である。反応時間は、通常、1分~1週間であり、好ましくは1分~24時間、より好ましくは1分~6時間である。
【0157】
これら反応溶媒、反応温度、反応時間等の条件は、化合物の種類、金属付与剤の種類等に合わせて適宜最適化できる。
【0158】
金属錯体を単離精製する場合、反応後の精製方法としては、公知の再結晶法、再沈殿法、クロマトグラフィー法等から適宜最適な手段を選択して用いることができる。条件によっては、生成した金属錯体が析出する場合があり、析出した金属錯体をろ過操作により分取しても、金属錯体を単離精製することができる。
【0159】
置換基Aを有する金属錯体は、置換基Aを有する化合物に対して金属付与剤を反応させることにより得ることができる。また、置換基Bを有する化合物に対して金属付与剤を反応させ錯体とした後、上記式(6)~式(8)に例示する、「抗原と親和性のある構造体」と、「架橋可能な部位」との結合反応を行うことによっても得ることができる。
【0160】
[化合物及び/又は金属錯体の有用性]
次に、本実施形態の化合物及び/又は金属錯体の有用性について説明する。
【0161】
本実施形態の化合物は、例えば、Co、Fe、Ni等の酸化還元活性のある金属元素と錯体化させることによって、過酸化水素分解等の反応の触媒、二酸化炭素還元の電極触媒などに利用することができる。
【0162】
本実施形態のいくつかの形態の化合物は、金属保持力が高いため、非常に低濃度の金属と錯体を形成できる。そのため、例えば、放射性廃棄物中又は海水中から有価金属元素を捕集することができる。いくつかの形態の化合物は、金属元素と強く配位結合を形成するため、例えば、金属粒子の表面被覆材として使用することができる。本実施形態のいくつかの形態の化合物は、特定の金属元素を用いることで発光特性を付与することが可能であり、発光材料として使用することができる。さらに、本実施形態のいくつかの形態の化合物を配位子として用いた場合、放射性金属元素の保持力が高いため、放射性医薬に用いることができる。
【実施例0163】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0164】
化合物の構造は、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)等の公知の方法で、その構造を確認した。
【0165】
以下において、中圧分取カラムクロマトグラフィーは、山善株式会社製EPCLC-AI-580Sに、逆相カラムとして山善株式会社製のODS M W917とODS-SM L UW113とを連結したものを用いた。
ゲルろ過カラムクロマトグラフィーは、日本分析工業社製LC-9104に、カラムとして日本分析工業社製のJAIGEL-2H-40とJAIGEL-1H-40とを連結したものを用いた。
NMR測定にはBRUKER社製AV NEO 300MHz NMRスペクトロメーターを用いた。
紫外可視吸収スペクトル分析は島津製作所製UV-2400PCを用いた。
【0166】
合成例1
<化合物(S-2)の合成>
【化47】
【0167】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-二酸0.250g(0.788mmol)、塩化オキサリル6.00g(47.3mmol)、及びDMF0.0600mLを加え、65℃に昇温して還流させながら1時間撹拌した後、未反応の塩化オキサリル及びDMFを減圧濃縮した。別の反応容器内を窒素ガス雰囲気とした後、室温で化合物(S-1)0.455g(1.97mmol)をDMF11.0mLに溶解させた。この溶液を上記反応液に滴下し、室温で15分間撹拌した後にトリエチルアミン0.239g(2.36mmol)を滴下した。上記反応液をさらに2時間撹拌した後、減圧濃縮により乾固させた。この粗生成物をメタノールに再溶解させ、水/メタノール及びアセトニトリル/メタノールを移動相とする逆相クロマトグラフィーにより精製した。分取した溶液を減圧濃縮、減圧乾燥することにより化合物(S-2)を収率41%で得た。得られた化合物(S-2)の同定データを以下に示す。
【0168】
H-NMR(300MHz,DMSO-d6):δ(ppm)=3.74(d,J=3.3Hz,8H),3.96(s,6H),4.14(s,4H),7.16(d,J=8.6Hz,2H),7.51(d,J=8.2Hz,2H),8.08(d,J=8.6Hz,2H),8.36(d,J=8.2Hz,2H),9.69(s,2H),10.0(br,2H).
【0169】
実施例1
<化合物(G-1)の合成>
【化48】
【0170】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、化合物(S-2)130mg(0.205mmol)を、メタノール3.06mL及び水1.53mLの混合溶媒に加え溶解させた。ここに4.0M水酸化ナトリウム水溶液1.52mLを滴下し室温で30分間撹拌した。次に上記反応液に36%塩酸水溶液を0.530mL滴下し30分間撹拌した後、減圧濃縮により乾固させた。この粗生成物を水に再溶解させ、水/メタノール及びアセトニトリル/メタノールを移動相とする逆相クロマトグラフィーにより精製した。分取した溶液を減圧濃縮、減圧乾燥することにより化合物(G-1)の生成をNMRで確認した。得られた化合物(G-1)の同定データを以下に示す。
【0171】
H-NMR(300MHz,DMSO-d6):δ(ppm)=3.94(br,8H),4.25(s,4H),6.92(d,J=8.1Hz,2H),7.19(d,J=8.1Hz,2H),7.83(d,J=8.7Hz,2H),8.00(d,J=8.7Hz,2H).
【0172】
合成例2
<化合物(S-4)の合成>
【化49】
【0173】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-二酸80.0mg(0.252mmol)、塩化オキサリル1.92g(15.1mmol)、及びDMF0.0190mLを加え、65℃に昇温して還流させながら1時間撹拌した後、未反応の塩化オキサリル及びDMFを減圧濃縮した。別の反応容器内を窒素ガス雰囲気とした後、室温でジメチル-4-アミノピリジン-2,6-ジカルボキシレート(化合物(S-3))0.135g(0.630mmol)をDMF3.53mLに溶解させた。この溶液を上記反応液に滴下し、室温で10分間撹拌した後にトリエチルアミン0.0770g(0.756mmol)を滴下した。上記反応液をさらに3時間撹拌した後、減圧濃縮により乾固させた。この粗生成物をメタノールに再溶解させ、水/メタノール及びアセトニトリル/メタノールを移動相とする逆相クロマトグラフィーにより精製した。分取した溶液を減圧濃縮、減圧乾燥することにより化合物(S-4)を収率54%で得た。得られた化合物(S-4)の同定データを以下に示す。
【0174】
H-NMR(300MHz,DMSO-d6):δ(ppm)=3.70(m,8H),3.91(s,12H),4.19(s,4H),8.56(s,4H),10.5(s,2H).
【0175】
実施例2
<化合物(G-10)の合成>
【化50】
【0176】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、化合物(S-4)68.0mg(0.110mmol)を、メタノール1.61mL及び水1.61mLの混合溶媒に加え溶解させた。ここに4.0M水酸化ナトリウム水溶液0.410mLを滴下し室温で30分間撹拌した。次に上記反応液に36%塩酸水溶液を0.142mL滴下し30分間撹拌した後、減圧濃縮により乾固させた。この粗生成物を水に再溶解させ、水/メタノール及びアセトニトリル/メタノールを移動相とする逆相クロマトグラフィーにより精製した。分取した溶液を減圧濃縮、減圧乾燥することにより化合物(G-10)の生成をNMRで確認した。得られた化合物(G-10)の同定データを以下に示す。
【0177】
H-NMR(300MHz,DMSO-d6):δ(ppm)=3.64(m,8H),4.20(s,4H),8.54(s,4H),10.9(s,2H).
【0178】
合成例3
<化合物(S-5)の合成>
【化51】
【0179】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、4,7,10,13,16-ペンタオキサノナデカン-1,19-二酸80.0mg(0.166mmol)、塩化オキサリル1.26g(9.93mmol)、及びDMF0.0130mLを加え、65℃に昇温して還流させながら1時間撹拌した後、未反応の塩化オキサリル及びDMFを減圧濃縮した。別の反応容器内を窒素ガス雰囲気とした後、室温で化合物(S-3)0.0890g(0.414mmol)をDMF3.36mLに溶解させた。この溶液を上記反応液に滴下し、室温で5分間撹拌した後にトリエチルアミン0.0500g(0.497mmol)を滴下した。上記反応液をさらに3時間撹拌した後、減圧濃縮により乾固させた。この粗生成物をメタノールに再溶解させ、水/メタノール及びアセトニトリル/メタノールを移動相とする逆相クロマトグラフィーにより精製した。分取した溶液を減圧濃縮、減圧乾燥することにより化合物(S-5)を収率40%で得た。得られた化合物(S-5)の同定データを以下に示す。
【0180】
H-NMR(300MHz,CDCl):δ(ppm)=2.68(t,J=6.0Hz,4H),3.64(m,16H),3.79(t,J=6.0Hz,4H),3.97(s,12H),8.56(s,4H),9.66(s,2H).
【0181】
実施例3
<化合物(G-12)の合成>
【化52】
【0182】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、化合物(S-5)48.0mg(0.0650mmol)を、メタノール1.14mL及び水1.14mLの混合溶媒に加え溶解させた。ここに4.0M水酸化ナトリウム水溶液0.195mLを滴下し室温で1時間撹拌した。次に上記反応液に36%塩酸水溶液を0.0670mL滴下し30分間撹拌した後、減圧濃縮により乾固させた。この粗生成物を水に再溶解させ、水/メタノール及びアセトニトリル/メタノールを移動相とする逆相クロマトグラフィーにより精製した。分取した溶液を減圧濃縮、減圧乾燥することにより化合物(G-12)の生成をNMRで確認した。得られた化合物(G-12)の同定データを以下に示す。
【0183】
H-NMR(300MHz,DMSO-d6):δ(ppm)=2.63(t,J=6.0Hz,4H),3.46(m,16H),3.71(t,J=6.0Hz,4H),8.45(s,4H),10.8(s,2H).
【0184】
合成例4
<化合物(S-6)の合成>
【化53】
【0185】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、5-ニトロ-1,10-フェナントロリン-2,9-二酸水和物50.0mg(0.160mmol)、塩化オキサリル0.406g(3.19mmol)、及びメタノール0.588mLを加えた。室温で1間撹拌した後、水3.00mLを加え析出した黄色沈殿をろ過した。得られたろ過物を水3.00mLで洗浄した後、減圧乾燥して化合物(S-6)を収率83%で得た。得られた化合物(S-6)の同定データを以下に示す。
【0186】
H-NMR(300MHz,CDCl):δ(ppm)=4.05(s,6H),8.53(d,J=8.4Hz,1H),8.56(d,J=9.0Hz,1H),9.01(d,J=8.4Hz,1H),9.10(d,J=9.0Hz,1H),9.24(s,1H).
【0187】
合成例5
<化合物(S-7)の合成>
【化54】
【0188】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、化合物(S-6)42.0mg(0.123mmol)、Pd/fibroin33.6mg、メタノール10.6mLを加えた。反応容器内を再度窒素ガス置換した後に水素雰囲気にした。室温で2日間撹拌した後、ろ過を行いろ液を得た。得られたろ液を濃縮し、減圧乾燥して化合物(S-7)を収率37%で得た。得られた化合物(S-7)の同定データを以下に示す。
【0189】
H-NMR(300MHz,CDOD):δ(ppm)=4.08(s,6H),7.09(s,1H),8.30(d,J=9.0Hz,1H),8.32(d,J=9.0Hz,1H),8.48(d,J=9.0Hz,1H),8.89(d,J=9.0Hz,1H).
【0190】
合成例6
<化合物(S-8)の合成>
【化55】
【0191】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、4,7,10,13,16-ペンタオキサノナデカン-1,19-二酸9.15mg(0.0190mmol)、塩化オキサリル0.142g(0.0960mmol)、及びDMF1μLを加え、65℃に昇温して還流させながら30分間撹拌した後、未反応の塩化オキサリル及びDMFを減圧濃縮した。別の反応容器内を窒素ガス雰囲気とした後、室温で化合物(S-7)15.0mg(0.0470mmol)をDMF0.397mLに溶解させた。この溶液を上記反応液に滴下し、室温で10分間撹拌した後にトリエチルアミン10mg(0.0560mmol)を滴下した。上記反応液をさらに1時間撹拌した後、減圧濃縮により乾固させた。この粗生成物をメタノールに再溶解させ、水/メタノール及びアセトニトリル/メタノールを移動相とする逆相クロマトグラフィーにより精製した。分取した溶液を減圧濃縮、減圧乾燥することにより化合物(S-8)を得た。化合物(S-8)の生成は下記のとおりマススペクトル分析により確認した。
【0192】
HRMS(ESI)m/z(M+H) calcd for C403613:809.2,found:809.2.
【0193】
実施例4
<化合物(G-13)の合成>
【化56】
【0194】
化合物(G-13)を、実施例3に記載した化合物(S-5)の代わりに化合物(S-8)を用い、実施例3と同様の方法で合成した。化合物(G-13)の生成は下記のとおりマススペクトル分析により確認した。
【0195】
HRMS(ESI)m/z(M+H) calcd for C362813:753.2,found:753.2.
【0196】
合成例7
<化合物(S-9)の合成>
【化57】
【0197】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、N,N’,N’’-トリス(カルボキシエトキシエチル)アミン塩酸塩0.110g(0.272mmol)、塩化オキサリル1.55g(12.2mmol)、及びDMF0.0190mLを加え、2時間撹拌した後、未反応の塩化オキサリル及びDMFを減圧濃縮した。別の反応容器内を窒素ガス雰囲気とした後、室温で化合物(S-1)0.297g(1.36mmol)をDMF2.72mLに溶解させた。この溶液を上記反応液に滴下し、室温で10分間撹拌した後にトリエチルアミン0.138g(1.36mmol)を滴下した。上記反応液をさらに20時間撹拌した後、減圧濃縮により乾固させた。この粗生成物をメタノールに再溶解させ、水/メタノール及びアセトニトリル/メタノールを移動相とする逆相クロマトグラフィーにより精製した。分取した溶液を減圧濃縮、減圧乾燥することにより化合物(S-9)を収率38%で得た。
【0198】
実施例5
<化合物(G-5)の合成>
【化58】
【0199】
化合物(S-9)0.013g(0.016mmol)をメタノール0.16mLと水0.16mLの混合溶媒に加え溶解させた。ここに4.0M水酸化ナトリウム水溶液0.06mLを滴下し室温で2時間撹拌した。氷水浴中で0℃に冷却した後に6M塩酸を滴下し、析出した白色固体をろ過することにより化合物(G-5)を得た。得られた化合物(G-5)の同定データを以下に示す。
【0200】
H-NMR(300MHz,DMSO-d6):δ(ppm)=2.69(t,J=6.6Hz,6H),3.45(t,J=6.6Hz,6H),3.73(t,J=6.6Hz,6H),3.75(t,J=6.6Hz,6H),7.16(d,J=7.8Hz,3H),7.60(d,J=7.8Hz,3H),8.15(d,J=7.8Hz,3H),8.50(d,J=7.8Hz,3H),9.96(s,3H),10.18(s,3H),13.00(s,3H).
【0201】
合成例8
<化合物(S-10)の合成>
【化59】
【0202】
反応容器内を窒素ガス雰囲気にした後、N,N’,N’’-トリス(カルボキシエトキシエチル)アミン塩酸塩0.130g(0.322mmol)、塩化オキサリル1.84g(14.5mmol)、及びDMF0.0190mLを加え、2時間撹拌した後、未反応の塩化オキサリル及びDMFを減圧濃縮した。別の反応容器内を窒素ガス雰囲気とした後、室温で化合物(S-3)0.245g(1.13mmol)をDMF3.22mLに溶解させた。この溶液を上記反応液に滴下し、室温で10分間撹拌した後にトリエチルアミン0.114g(1.13mmol)を滴下した。上記反応液をさらに20時間撹拌した後、減圧濃縮により乾固させた。この粗生成物をメタノールに再溶解させ、水/メタノール及びアセトニトリル/メタノールを移動相とする逆相クロマトグラフィーにより精製した。分取した溶液を減圧濃縮、減圧乾燥することにより化合物(S-10)を収率20%で得た。得られた化合物(S-10)の同定データを以下に示す。
【0203】
H-NMR(300MHz,DMSO-d6):δ(ppm)=2.73(t,J=6.3Hz,6H),2.89(t,J=6.3Hz,6H),2.36(t,J=6.3Hz,6H),3.77(t,J=6.3Hz,6H),3.87(s,18H),7.40(s,6H),10.60(s,3H).
【0204】
実施例6
<化合物(G-6)の合成>
【化60】
【0205】
化合物(S-10)3.0mg(0.004mmol)をメタノール0.036mLと水0.036mLの混合溶媒に加え溶解させた。ここに4M水酸化ナトリウム水溶液0.014mLを滴下し室温で2時間撹拌した。氷水浴中で0℃に冷却した後に6M塩酸を滴下し、析出した白色固体をろ過することにより化合物(G-6)を得た。化合物(G-6)の生成は下記の通りマススペクトル分析により確認した。
【0206】
HRMS(ESI)m/z(M+H) calcd for C364018:858.2,found:858.2.
【0207】
実施例7
<化合物(G-1)のLa錯体合成>
緩衝液として0.1mol/LのHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid))水溶液を調製した(以下、「緩衝液1」という。)。緩衝液1中に化合物(G-1)を30μmol/Lの濃度で溶解し、溶液1aとした。別の容器にて、緩衝液1中にLaClを3mmol/Lの濃度で溶解し、溶液1bとした。次いで、溶液1aに、化合物(G-1)とLaClとが同モル量になるように、溶液1bを添加することによって、溶液1cを得た。溶液1a及び溶液1cの添加前後で紫外可視吸収スペクトル分析を行ったところ、LaClの添加に伴って390nmに最大吸収波長を示すピークが出現した。このことから、La錯体の形成が確認された。
【0208】
実施例8
<化合物(G-1)のLa錯体の金属保持力>
上記溶液1cに、化合物(G-1)に対して1当量のエチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと記す)を添加し、添加前後で紫外可視吸収スペクトル分析を行った。最大吸収波長である390nmの吸収強度変化量から、化合物(G-1)のLa錯体が96%残存していることを確認した。続いて、この溶液中にEDTAを追加し、EDTAの添加量を化合物(G-1)に対して合計10当量とした。紫外可視吸収スペクトル分析を行い、EDTAを1当量添加したときと同様の分析手法によって、化合物(G-1)のLa錯体が91%残存していることを確認した。
【0209】
実施例9
<化合物(G-5)のLa錯体合成>
上記実施例7における化合物(G-1)を化合物(G-5)に変更した以外は上記実施例7と同様の操作を行い、LaClの添加に伴って400nmに最大吸収波長を示すピークが出現した。このことから、La錯体の形成が確認された。
【0210】
実施例10
<化合物(G-5)のLa錯体の金属保持力>
上記実施例8における化合物(G-1)を化合物(G-5)に変更した以外は上記実施例8と同様の操作を行い、EDTAを化合物(G-5)に対して1当量添加したところ、化合物(G-5)のLa錯体が92%残存していることを確認した。続いて、この溶液中にEDTAを追加し、EDTAの添加量を化合物(G-5)に対して合計10当量としたところ、化合物(G-5)のLa錯体が63%残存していることを確認した。
【0211】
実施例11
<化合物(G-6)のLa錯体合成>
上記実施例7における化合物(G-1)を化合物(G-6)に変更した以外は上記実施例7と同様の操作を行い、LaClの添加に伴って270nmに最大吸収波長を示すピークが出現した。このことから、La錯体の形成が確認された。
【0212】
実施例12
<化合物(G-6)のLa錯体の金属保持力>
上記実施例8における化合物(G-1)を化合物(G-6)に変更した以外は上記実施例8と同様の操作を行い、EDTAを化合物(G-6)に対して1当量添加したところ、化合物(G-6)のLa錯体が80%残存していることを確認した。続いて、この溶液中にEDTAを追加し、EDTAの添加量を化合物(G-6)に対して合計10当量としたところ、化合物(G-6)のLa錯体が72%残存していることを確認した。
【0213】
実施例13
<化合物(G-12)のLa錯体合成>
上記実施例7における化合物(G-1)を化合物(G-12)に変更した以外は上記実施例7と同様の操作を行い、LaClの添加に伴って265nmに最大吸収波長を示すピークが出現した。このことから、La錯体の形成が確認された。
【0214】
実施例14
<化合物(G-12)のLa錯体の金属保持力>
上記実施例8における化合物(G-1)を化合物(G-12)に変更した以外は上記実施例8と同様の操作を行い、EDTAを化合物(G-12)に対して1当量添加したところ、化合物(G-12)のLa錯体が89%残存していることを確認した。続いて、この溶液中にEDTAを追加し、EDTAの添加量を化合物(G-12)に対して合計10当量としたところ、化合物(G-12)のLa錯体が45%残存していることを確認した。
【0215】
実施例15
<化合物(G-10)のLa錯体合成>
上記実施例7における化合物(G-1)を化合物(G-10)に変更した以外は上記実施例7と同様の操作を行い、LaClの添加に伴って250nmの最大吸収波長が顕著に低下した。このことから、La錯体の形成が確認された。
【0216】
実施例16
<化合物(G-10)のLa錯体の金属保持力>
上記実施例8における化合物(G-1)を化合物(G-10)に変更した以外は上記実施例8と同様の操作を行い、EDTAを化合物(G-10)に対して1当量添加したところ、化合物(G-10)のLa錯体が90%残存していることを確認した。続いて、この溶液中にEDTAを追加し、EDTAの添加量を化合物(G-10)に対して合計10当量としたところ、化合物(G-10)のLa錯体が83%残存していることを確認した。
【0217】
実施例17
<化合物(G-10)のZr錯体合成>
緩衝液として0.1mol/Lの酢酸ナトリウム水溶液とジメチルスルホキシドの1:1(体積比)混合溶液を調製した(以下、「緩衝液2」という。)。緩衝液2に化合物(G-10)を30μmol/Lの濃度で溶解し、溶液2aとした。別の容器にて、0.1mol/Lの塩酸水溶液にZrClを3mmol/Lの濃度で溶解し、溶液2bとした。次いで、溶液2aに、化合物(G-10)とZrClが同モル量になるように、溶液2bを添加することによって、溶液2cを得た。溶液2a及び溶液2cの紫外可視吸収スペクトル分析を行ったところ、ZrClの添加に伴って272nmに吸収ピークが出現した。このことから、Zr錯体の形成が確認された。続いて、溶液2cに対して化合物(G-10)に対してZrClが合計3当量になるように溶液2bを添加し、溶液2dを得た。
【0218】
実施例18
<化合物(G-10)のZr錯体の金属保持力>
上記溶液2dに、化合物(G-10)に対して1当量のエチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと記す)を添加し、添加前後で紫外可視吸収スペクトル分析を行った。最大吸収波長である272nmの吸収強度は低下しなかった。続いて、この溶液中にEDTAを追加し、EDTAの添加量を化合物(G-10)に対して合計10当量とした。紫外可視吸収スペクトル分析を行い、EDTAを1当量添加したときと同様に、272nmの吸収強度が低下しなかったことから、化合物(G-10)のZr錯体が100%残存していることを確認した。
【0219】
実施例19
<化合物(G-6)のSr錯体合成>
緩衝液として0.01mol/LのHEPES水溶液、金属塩としてSrClを用い、化合物(G-6)の濃度を50μmol/Lとした以外は、実施例7と同様の操作を行い、溶液3aを得た。SrClの添加に伴って285nmに顕著な吸光度の低下が観測された。このことから、Sr錯体の形成が確認された。
【0220】
<化合物(G-6)のSr錯体の金属保持力>
上記溶液3aに、化合物(G-6)に対して1当量のEDTAを添加し、添加前後で紫外可視吸収スペクトル分析を行った。最大吸収波長である285nmの吸収強度変化から、化合物(G-6)のSr錯体が50%残存していることを確認した。
【0221】
比較例1
<化合物(a-2)のLa錯体の合成及びその金属保持力>
【化61】
【0222】
緩衝液として0.1mol/Lの酢酸アンモニウム水溶液を調製した(以下、「緩衝液4」という。)。緩衝液4中に8-ヒドロキシキノリン-2-カルボン酸(化合物(HQA))を30μmol/Lの濃度で溶解し、溶液4aとした。別の容器にて、緩衝液4中にLaClを3mmol/Lの濃度で溶解し、溶液4bとした。次いで、溶液4aに、化合物(HQA)とLaClとが同モル量になるように、溶液4bを添加することによって、溶液4cを得た。溶液4a及び溶液4cの添加前後で紫外可視吸収スペクトル分析を行ったところ、LaClの添加に伴って270nmに最大吸収波長を示すピークが出現した。このことから、La錯体の形成が確認された。
【0223】
上記溶液4cに、化合物(HQA)に対して1当量のEDTAを添加し、添加前後で紫外可視吸収スペクトル分析を行った。最大吸収波長である270nmの吸収強度変化量から、化合物(HQA)のLa錯体が23%しか残存していないことを確認した。続いて、この溶液中にEDTAを追加し、EDTAの添加量を化合物(HQA)に対して合計10当量とした。紫外可視吸収スペクトル分析を行い、EDTAを1当量添加したときと同様の分析手法によって、化合物(HQA)のLa錯体は残存していないことを確認した。
【0224】
比較例2
<化合物(PyDA)のLa錯体の合成及びその金属保持力>
【化62】
【0225】
緩衝液として0.01mol/LのHEPES水溶液を用い、化合物として2,6-ピリジンジカルボン酸(化合物(PyDA))を用い、測定時の化合物(PyDA)の濃度として200μmol/Lとした以外は比較例1と同様に、化合物(PyDA)と同モル量のLaClとを混合し、化合物(PyDA)のLa錯体を得た。LaClの添加に伴って280nmに最大吸収波長を示すピークが出現した。このことから、La錯体の形成が確認された。
【0226】
上記溶液に、化合物(PyDA)に対して1当量のEDTAを添加し、添加前後で紫外可視吸収スペクトル分析を行った。最大吸収波長である280nmの吸収強度変化量から、化合物(PyDA)のLa錯体が22%しか残存していないことを確認した。
【0227】
以上の結果により、本発明の化合物は、Laと錯体を形成し、La錯体に対して第三成分としてEDTAを添加しても金属を保持したままであった。EDTAはカルボン酸部位を4個有する強いキレート剤であるため、本発明の金属錯体は、金属と強く相互作用する第三成分が共存していても安定的に金属を保持できることが判明した。また、本発明の化合物は、4価の金属種であるZr4+、3価の金属種であるLa3+、及び2価の金属種であるSr2+を含む複数の価の金属種に対して錯体を形成することが可能であることが確認された。Zr4+、La3+、及びSr2+は、いずれも最外電子殻が閉殻構造をとる金属元素であり、このような閉殻構造の金属元素は一般的に錯体化形成し難いことで知られている。本発明の化合物は、閉殻構造をとる金属元素と錯形成できることから、閉殻構造ではない他の多くの金属元素に対しても同等以上に錯形成が容易であると推測される。