(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022829
(43)【公開日】2023-02-15
(54)【発明の名称】アズレン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 5/32 20060101AFI20230208BHJP
C07C 13/52 20060101ALI20230208BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230208BHJP
【FI】
C07C5/32
C07C13/52
C07B61/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123369
(22)【出願日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2021127529
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391045392
【氏名又は名称】甲南化工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 崇知
(72)【発明者】
【氏名】中川 聡矢
(72)【発明者】
【氏名】増田 光一郎
(72)【発明者】
【氏名】甲村 長利
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC12
4H006BA25
4H006BA32
4H006BA60
4H006BA68
4H006BA71
4H006BA72
4H006BD84
(57)【要約】
【課題】より安全で効率の良いアズレン化合物の製造方法の提供。
【解決手段】アズレン骨格を有する化合物を製造する方法は、水素化アズレン骨格を有する化合物を含有する組成物をフロー式の脱水素反応に供する工程を含み、前記脱水素反応を、遷移金属触媒と、多孔質触媒及び/又は酸触媒との存在下で実施することにより、課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アズレン骨格を有する化合物を製造する方法であって、
水素化アズレン骨格を有する化合物を含有する組成物をフロー式の脱水素反応に供する工程を含み、前記脱水素反応を、遷移金属触媒と、多孔質触媒及び/又は酸触媒との存在下で実施する、方法。
【請求項2】
前記脱水素反応を、遷移金属触媒と多孔質触媒と酸触媒との存在下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属触媒が、周期表第8~10族遷移金属からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質触媒が、活性炭、ゼオライト、及びセライトからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記酸触媒が、陽イオン交換樹脂、酸性シリカ、及び無機酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記水素化アズレン骨格を有する化合物が、デカヒドロアズレン骨格を有する化合物、オクタヒドロアズレン骨格を有する化合物、デカヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格を有する化合物、及びオクタヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格を有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、前記水素化アズレン骨格を有する化合物を含有する植物精油を含有する、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アズレン骨格を有する化合物(アズレン化合物)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グアイアズレンは、口内炎、皮膚炎などの抗炎症薬として古くから使われており、その誘導体であるグアイアズレンスルホン酸ナトリウムは、抗炎症薬、消化性潰瘍薬といった医薬品、医薬部外品、及び化粧品等に広く利用されている。
【0003】
グアイアズレンの製造法としては、例えば、天然精油を脱水反応し、さらに硫黄と200℃以上で加熱脱水素反応する方法が知られている(特許文献1)。また、Eucalyptus globulus oilをホウ酸で脱水反応したのち、パラジウム炭素を用いて260℃で脱水素反応する方法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】CN 108863707 A
【特許文献2】CN 111943802 A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2のような従来の製造方法によると、脱水素反応に高い反応温度が必要なことに加えて、硫黄との反応によって有害な硫化水素が発生するため、工業的に製造する上で安全性及び効率に課題がある。
【0006】
本発明は、より安全で効率の良いアズレン化合物の製造方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、水素化アズレン骨格を有する化合物を含有する組成物をフロー式の脱水素反応に供し、当該脱水素反応を、遷移金属触媒と、多孔質触媒及び/又は酸触媒との存在下で実施すると、アズレン骨格を有する化合物をより安全に効率良く製造することができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、さらに検討を重ねて完成したものである。
【0008】
本発明は、以下の態様を包含する。
項1.
アズレン骨格を有する化合物を製造する方法であって、
水素化アズレン骨格を有する化合物を含有する組成物をフロー式の脱水素反応に供する工程を含み、前記脱水素反応を、遷移金属触媒と、多孔質触媒及び/又は酸触媒との存在下で実施する、方法。
項2.
前記脱水素反応を、遷移金属触媒と多孔質触媒と酸触媒との存在下で実施する、項1に記載の方法。
項3.
前記遷移金属触媒が、周期表第8~10族遷移金属からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、項1又は2に記載の方法。
項4.
前記多孔質触媒が、活性炭、ゼオライト、及びセライトからなる群より選択される少なくとも一種である、項1~3のいずれかに記載の方法。
項5.
前記酸触媒が、陽イオン交換樹脂、酸性シリカ、及び無機酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、項1~4のいずれかに記載の方法。
項6.
前記水素化アズレン骨格を有する化合物が、デカヒドロアズレン骨格を有する化合物、オクタヒドロアズレン骨格を有する化合物、デカヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格を有する化合物、及びオクタヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格を有する化合物からなる群より選択される少なくとも一種である、項1~5のいずれかに記載の方法。
項7.
前記組成物が、前記水素化アズレン骨格を有する化合物を含有する植物精油を含有する、項1~6のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来のバッチ式の製造方法に比べて、より安全に効率良くアズレン化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は代表的なフロー反応装置の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施態様において、アズレン骨格を有する化合物を製造する方法は、水素化アズレン骨格を有する化合物を含有する組成物(以下、「組成物X」と称する場合がある。)をフロー式の脱水素反応に供する工程(以下、「工程(1)」と称する場合がある。)を含み、前記脱水素反応を、遷移金属触媒と、多孔質触媒及び/又は酸触媒との存在下で実施する、方法である。
【0012】
(水素化アズレン骨格を有する化合物)
本明細書において、「水素化アズレン骨格」は、アズレン環の炭素-炭素二重結合の少なくとも一部が炭素-炭素単結合に置き換わった環からなる骨格A、及び骨格Aに任意(例えばオルト位)の位置関係で置換する2個の置換基が互いに結合して環を形成している骨格Bを包含する意味で用いる。
【0013】
骨格Aとしては、例えば、デカヒドロアズレン骨格、オクタヒドロアズレン骨格、ヘキサヒドロアズレン骨格、テトラヒドロアズレン骨格などが挙げられる。骨格Aは、デカヒドロアズレン骨格又はオクタヒドロアズレン骨格であることが好ましい。
【0014】
骨格Bとしては、例えば、デカヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格、オクタヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格、ヘキサヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格、テトラヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格、1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-4,7-メタノアズレン骨格などが挙げられる。骨格Bは、デカヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格又はオクタヒドロ-1H-シクロプロパ[e]アズレン骨格であることが好ましい。
【0015】
水素化アズレン骨格を有する化合物(原料化合物)は、通常、水素化アズレン骨格に1個以上の置換基を有する。置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基などが挙げられる。
【0016】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基などが挙げられる。
【0017】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基などの直鎖又は分岐鎖状のC1-12アルキル基などが挙げられる。
【0018】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペン-1-イル基、2-プロペン-1-イル基、イソプロペニル基、2-ブテン-1-イル基、4-ペンテン-1-イル基、5-ヘキセン-1-イル基などの直鎖状又は分岐鎖状のC2-12アルケニル基などが挙げられる。
【0019】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのC3-20シクロアルキル基などが挙げられる。
【0020】
シクロアルケニル基としては、例えば、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基などのC3-20シクロアルケニル基などが挙げられる。
【0021】
脂肪族炭化水素基は、置換基として、例えば、ヒドロキシル基を有していてもよい。1個以上の置換基としてヒドロキシル基を有する脂肪族炭化水素基としては、例えば、前記アルキル基に1個以上のヒドロキシル基が置換したもの(ヒドロキシアルキル基)、前記アルケニル基、シクロアルキル基、又はシクロアルケニル基に1個以上のヒドロキシル基が置換したものなどが挙げられる。
【0022】
水素化アズレン骨格に任意に置換する置換基は、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、及びヒドロキシアルキル基からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0023】
水素化アズレン骨格を有する化合物としては、例えば、グアイオール、グルジュネン、アロマデンドレン、グアイエン、レドール、レデン、パチュレンなどが挙げられる。
【0024】
組成物X(原料)は、水素化アズレン骨格を有する化合物を1種のみ含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0025】
植物精油は、通常、水素化アズレン骨格を有する化合物を含有する。したがって、水素化アズレン骨格を有する化合物は、植物精油の形態で組成物Xに含有されていてもよい。すなわち、組成物Xは、植物精油を含有する組成物であってもよい。植物精油としては、特に限定されるものではないが、例えば、樟脳油、ユーカリ油、げんのしょうこ、パチュリー油、ゼラニューム油、ハッカ油、Gurjun Balasam oil、Guaiac wood oil、Eucalyptus globulus oil、これら2種以上の混合油などが挙げられる。
【0026】
(溶媒)
一実施形態において、組成物Xは、溶媒を含有しない(無溶媒である)ことが好ましい。別の実施形態において、組成物Xは、さらに溶媒を含有することが好ましい。溶媒は、例えば、無極性溶媒、プロトン性極性溶媒、及び非プロトン性極性溶媒のいずれであってもよい。具体的な溶媒としては、例えば、下記の溶媒が挙げられる。
・シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、n-ドデカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒;
・メシチレン、プソイドクメン、キシレン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;
・クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;
・n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノールなどのアルコール系溶媒;
・ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;
・酢酸、ギ酸などのカルボン酸系溶媒;
・ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド系溶媒;
・N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;
・1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどのウレア系溶媒;及び
・テトラヘキシルアンモニウムブロミド、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムブロミド、トリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのイオン液体。
溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種類以上の溶媒を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0027】
組成物Xにおける溶媒の含有量は、特に限定されない。例えば、水素化アズレン骨格を有する化合物の濃度は、0.01mol/L以上又は0.05mol/L以上であることが好ましく、3.5mol/L以下又は3mol/L以下であることが好ましい。一実施形態において、水素化アズレン骨格を有する化合物の濃度は、2mol/L以下、又は1mol/L以下であることが好ましい。また、水素化アズレン骨格を有する化合物を植物精油の形態で用いる場合、植物精油1gに対して、溶媒の含有量は、0mL以上、0.5mL以上、1mL以上、1.5mL以上、又は2mL以上であることが好ましく、300mL以下、250mL以下、200mL以下、150mL以下、100mL以下、又は50mL以下であることが好ましい。
【0028】
組成物Xは、例えば、工程(1)の反応生成物に含まれ得る未反応残渣であることもできる。
【0029】
(遷移金属触媒)
遷移金属触媒に含有される遷移金属としては、例えば、ルテニウムなどの周期表第8族遷移金属;コバルト、ロジウムなどの周期表第9族遷移金属;ニッケル、パラジウム、白金などの周期表第10族遷移金属などが挙げられるが、これらに限定されない。遷移金属触媒は、遷移金属を1種のみ含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。遷移金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、又は白金であることが好ましく、パラジウムであることがさらに好ましい。
【0030】
遷移金属触媒は、遷移金属を固相担体に担持させた固相触媒の形態で用いることが好ましい。固相担体としては、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。固相担体に対する遷移金属の担持量は、例えば、0.5質量%以上又は1質量%以上であってもよく、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は7質量%以下であってもよい。
【0031】
(多孔質触媒)
多孔質触媒としては、例えば、活性炭、セライト、活性白土、酸性白土、ゼオライトなどが挙げられる。これらのうち、ゼオライトは、合成ゼオライト、人工ゼオライト、及び天然ゼオライトのいずれであってもよい。また、ゼオライトの結晶構造としては、例えば、A型、X型、ベータ、ZSM-5、フェリエライト、モルデナイト、L型、Y型などが挙げられる。多孔質触媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。多孔質触媒としては、活性炭、ゼオライト、及びセライトからなる群より選択される少なくとも一種(例えば、活性炭単独、ゼオライト単独、セライト単独、ゼオライトとセライトとの組合せなど)が好ましい。
【0032】
多孔質触媒の粒径は、例えば、10メッシュ以上又は15メッシュ以上であってもよく、250メッシュ以下又は200メッシュ以下であってもよい。当該粒径は、例えば、JIS Z 88019に規定する標準ふるいを使用し、ふるい分けによってふるいの目の開き寸法の範囲で表示することができる。
【0033】
多孔質触媒の細孔径は、例えば、0.1nm以上、0.2nm以上、0.3nm以上、0.4nm以上、又は0.5nm以上であってもよく、200nm以下、150nm以下、又は100nm以下であってもよい。当該細孔径は、例えば、ガス吸着法により測定することができ、77Kでの窒素ガスの吸着等温線に基づいて求めることができる。
【0034】
多孔質触媒の比表面積は、例えば、20m2/g以上、50m2/g以上、100m2/g以上、300m2/g以上、500m2/g以上、700m2/g以上、又は1000m2/g以上であってもよく、2000m2/g以下であってもよい。当該比表面積は、例えば、ガス吸着法により測定することができ、77Kでの窒素ガスの吸着等温線に基づいて求めることができる。
【0035】
多孔質触媒の量は、遷移金属触媒100質量部に対して、50質量部以上又は100質量部以上であることが好ましい。一実施形態において、多孔質触媒の量は、遷移金属触媒100質量部に対して、200質量部以上、300質量部以上、400質量部以上、又は500質量部以上であることが好ましい。多孔質触媒の量は、遷移金属触媒100質量部に対して、5000質量部以下、4000質量部以下、3000質量部以下、2000質量部以下、又は1000質量部以下であることが好ましい。多孔質触媒の量は、遷移金属触媒中の遷移金属100質量部に対して、30000質量部以下、25000質量部、又は20000質量部以下であることが好ましい。
【0036】
(酸触媒)
酸触媒としては、例えば、陽イオン交換樹脂、酸性シリカ、無機酸などの固体酸触媒が挙げられる。陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(商標)、アンバーリスト(商標)などのスルホン酸型陽イオン交換樹脂、カルボン酸型陽イオン交換樹脂などが挙げられる。酸性シリカとしては、例えば、クロマトレックス(商標)SO3Hなどのスルホン酸基を有するシリカ、クロマトレックス(商標)COOHなどのカルボン酸基を有するシリカなどが挙げられる。無機酸としては、例えば、ホウ酸などが挙げられる。酸触媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの酸触媒をアミン類と組み合わせてもよい。アミン類は、鎖状アミン類であっても環状アミン類であってもよい。鎖状アミン類としては、例えば、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミンなどが挙げられる。環状アミン類としては、例えば、ピリジンなどの含窒素芳香族複素環などが挙げられる。アミン類は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。好適な実施形態において、酸触媒は、陽イオン交換樹脂、酸性シリカ、及び無機酸からなる群より選択される少なくとも一種を含み、さらにアミン類を含んでいてもよい。当該実施形態において、酸触媒は、クロマトレックス(商標)SO3Hなどのスルホン酸基を有するシリカ、及び当該シリカとトリエチルアミンなどのトリアルキルアミンとの組合せが好ましい。
【0037】
酸触媒の量は、遷移金属触媒100質量部に対して、0.1質量部以上、0.5質量部以上、又は1質量部以上であることが好ましく、100質量部以下、95質量部以下、又は90質量部以下であることが好ましい。一実施形態において、酸触媒の量は、遷移金属触媒100質量部に対して、80質量部以下、50質量部以下、又は30質量部以下であることが好ましい。別の実施形態において、酸触媒の量は、遷移金属触媒100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましい。酸触媒の量は、遷移金属触媒中の遷移金属100質量部に対して、2500質量部以下又は2000質量部以下であることが好ましい。また、酸触媒と多孔質触媒を組み合わせる場合、酸触媒の量は、多孔質触媒100質量部に対して、0.1質量部以上、0.5質量部、又は1質量部以上であることが好ましく、100質量部以下、90質量部以下、又は80質量部以下であることが好ましい。一実施形態において、酸触媒の量は、多孔質触媒100質量部に対して、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、又は10質量部以下であることが好ましい。
【0038】
(他の成分)
工程(1)は、さらに他の成分の存在下で実施してもよい。他の成分としては、例えば、塩基触媒、スカベンジャーなどが挙げられる。
【0039】
塩基触媒としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;アルカリ金属イオンで交換したゼオライトなどが挙げられる。
【0040】
スカベンジャーとしては、水素受容体となる化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、d-リモネンなどのオレフィン類;シクロヘキサノン、アセトフェノンなどのケトン類;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸;酸素、二酸化硫黄などを用いることができる。
【0041】
他の成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(フロー式の脱水素反応)
フロー式の脱水素反応は、従来のバッチ式の脱水素反応に比べて、例えば、反応場のみの温度コントロールで十分なため熱伝達効率が良く、また、反応スケールが大きくなっても反応場の条件が維持される点で好ましい。さらに、固相触媒を用いる場合は、反応後にろ過等の触媒を除去する操作が不要となる点で好ましい。これらのことは工業スケールで製造する場合において大きなメリットとなる。
【0043】
脱水素反応は、固相触媒として、遷移金属触媒と、多孔質触媒及び/又は酸触媒とを含有するカラムを備えるフロー反応装置で実施することが好ましい。
図1は、代表的なフロー反応装置の模式図を示す。当該フロー反応装置は、固相触媒を充填したカラム1と、カラム1の上部に組成物Xを供給する供給部2と、カラム1の上部にスカベンジャーを供給する供給部3と、カラム1の上部に不活性ガスを供給する供給部4と、カラム1の下部からの反応生成物を回収する回収部5とを備える。
【0044】
組成物Xの流量は、例えば0.01mL/min以上、好ましくは0.05mL/min以上、さらに好ましくは0.1mL/min以上である。また、当該流量は、例えば10000mL/min以下、好ましくは5000mL/min以下、さらに好ましくは1000mL/min以下である。
【0045】
脱水素反応の雰囲気は、例えば、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、又は空気であってもよい。好ましくは窒素又はアルゴンである。当該雰囲気の流量は、特に限定されるものではないが、例えば、0.01mL/min以上であってもよく、10mL/min以下であってもよい。
【0046】
脱水素反応の反応温度は、特に限定されるものではないが、例えば-70℃以上、好ましくは-20℃以上、より好ましくは0℃以上、さらに好ましくは20℃以上、さらにより好ましくは50℃以上、特に好ましくは100℃以上、特により好ましくは120℃以上である。当該反応温度は、例えば500℃以下、好ましくは400℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。
【0047】
脱水素反応は、常圧下、加圧下、及び減圧下のいずれでも行うことができる。具体的な圧力としては、例えば-3MPa以上又は0MPa以上であってもよく、3MPa以下又は1Mpa以下であってもよい。
【0048】
本発明の一実施態様において、アズレン骨格を有する化合物を製造する方法は、工程(1)に加えて、洗浄、乾燥、分離、及び精製の1以上の処理を行う工程(2)を含んでいてもよく、工程(1)の反応生成物を高濃度層と低濃度層に分離する工程を含む場合、低濃度層を組成物Xとして用い、脱水素反応に供する工程(3)をさらに含んでいてもよい。
【0049】
(生成物)
アズレン骨格を有する化合物(生成物)は、通常、アズレン骨格に1個以上の置換基を有する。置換基としては、例えば、ヒドロキシル基、1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基などが挙げられる。1個以上の置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基としては、例えば、「水素化アズレン骨格を有する化合物」の項目で記載したものと同じものが挙げられる。
【実施例0050】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこの実施例に限られるものではない。
【0051】
[グアイアズレンの転化率及び生成率の測定方法]
グアイアズレンの転化率及び生成率(%)は、グアイアズレン、基質(グルジュネンやグアイオール等)の各モル量から下式により算出される値である。各モル量は反応液のガスクロマトグラフ分析から内部標準法によって求めた。
転化率(%)=(1-[反応後の基質]/[反応前の基質])×100
生成率(%)=[反応液のグアイアズレン]/[反応前の基質]×100
【0052】
ガスクロマトグラフ分析の条件は以下の通りである。
装置:ガスクロマトグラフAgilent Technologies 7820A
(アジレントテクノロジーズ社製)
カラム:Inertcap5 0.53mm×30m、2.0μm(ジーエルサイエンス社製)
検出器:FID
インジェクション温度:250℃
ディテクター温度:250℃
カラム温度:50℃から250℃に10℃/minで昇温
【0053】
[実施例1]
フロー反応用SUS製のカラム管(10mm×300mm、SUSフィルター付き)に、遷移金属触媒としての5%Pd/C(Type STD、エヌ・イー・ケムキャット社製)0.4gと多孔質触媒としての活性炭4g(ナカライテスク社製、製品コード07912-05)と酸触媒としてのクロマトレックス(商標)SO
3H MB100-75/200 0.1g(富士シリシア化学社製)との混合物を充填し、
図1に示すフロー反応装置に取り付けた。原料溶液として、Gurjun Balasam oil 78.6gをデカリン500mlに溶解した溶液を用意した。窒素を1mL/minで流し、溶媒のデカリンを1mL/minの速度で送液してカラム内を置換した。次いで、カラム恒温槽を200℃に加熱し、原料溶液に流路を切り替えカラム内へ送液した。原料溶液の流量は0.5mL/minで流した。留出した反応液はガスクロマトグラフ(FID-GC)を用いて分析した。反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は15.6%であった。
【0054】
[実施例2]
酸触媒の量を0.04gに変更した以外は、実施例1と同様に操作した。ガスクロマトグラフ分析の結果、反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は13.8%で得られた。
【0055】
[実施例3]
多孔質触媒をセライトに変更した以外は、実施例1と同様に操作した。ガスクロマトグラフ分析の結果、反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は10.7%で得られた。
【0056】
[実施例4]
酸触媒を使用しなかった以外は、実施例1と同様に操作した。ガスクロマトグラフ分析の結果、反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は8.6%で得られた。
【0057】
[実施例5]
遷移金属触媒を3%Pt/Cに変更した以外は、実施例1と同様に操作した。ガスクロマトグラフ分析の結果、反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は5.5%で得られた。
【0058】
[実施例6]
遷移金属触媒を5%Rh/Cに変更した以外は、実施例1と同様に操作した。ガスクロマトグラフ分析の結果、反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は5.1%で得られた。
【0059】
[実施例7]
遷移金属触媒を5%Ru/Cに変更した以外は、実施例1と同様に操作した。ガスクロマトグラフ分析の結果、反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は5.2%で得られた。
【0060】
[実施例8]
原料を、Guaiac wood oil 13.1gをデカリン500mlに溶かした溶液に変更し、カラム恒温槽を180℃に加熱した以外は、実施例1と同様に操作した。ガスクロマトグラフ分析の結果、反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は10.5%で得られた。
【0061】
[実施例9]
原料を、Gurjun Balasam oil 78.6gをデカリン250mlに溶かした溶液に変更し、遷移金属触媒の量を0.8gに変更し、多孔質触媒をゼオラムA-4 LPH(東ソー社製)2g及びセライト4gに変更し、酸触媒をクロマトレックス(商標)SO3H-TEA(トリエチルアミンを付したもの)0.7gに変更した以外は、実施例1と同様に操作した。ガスクロマトグラフ分析の結果、反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は15.0%で得られた。
【0062】
[比較例1]
遷移金属触媒も酸触媒も使用しなかった以外は、実施例1と同様に操作した。ガスクロマトグラフ分析の結果、反応開始から3時間後のグアイアズレンの生成率は2.5%で得られた。
【0063】
[比較例2]
多孔質触媒も酸触媒も使用しなかった以外は、実施例1と同様に操作した。反応中にカラムが目詰まりし、反応液を得ることができなかった。
【0064】