(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023022934
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】金属の回収装置および金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/02 20060101AFI20230209BHJP
C22B 3/16 20060101ALI20230209BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C22B3/02
C22B3/16
C22B3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128042
(22)【出願日】2021-08-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、独立行政法人環境再生保全機構 環境研究総合推進費「環境調和型抽出剤の創製と高効率レアメタルリサイクル技術の構築」による委託研究業務 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】花田 隆文
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001AA34
4K001DB11
4K001DB22
4K001HA10
(57)【要約】
【課題】高濃度の無機酸による浸出や有機溶媒による抽出を行わない環境調和型の金属の回収装置の提供。
【解決手段】金属元素含有組成物に含まれる少なくとも1種類の金属成分を疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させる浸出部と、深共晶溶媒から金属成分を分離して回収する回収部とを含み、金属元素含有組成物が25℃において固体であり、かつ無機酸を含まず、金属成分が金属、金属化合物または金属イオンであり、深共晶溶媒が無機酸を含まない、金属の回収装置;金属の回収方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素含有組成物に含まれる少なくとも1種類の金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させる浸出部と、
前記深共晶溶媒から、前記金属成分を分離して回収する回収部とを含み、
前記金属元素含有組成物が、25℃において固体であり、かつ無機酸を含まず、
前記金属成分が金属、金属化合物または金属イオンであり、
前記深共晶溶媒が無機酸を含まない、金属の回収装置。
【請求項2】
前記深共晶溶媒の疎水性が、25℃の水に対する溶解度として1g/100mL以下である、請求項1に記載の金属の回収装置。
【請求項3】
前記深共晶溶媒が、単独で沸点150℃以下の有機溶媒を含まない、請求項1または2に記載の金属の回収装置。
【請求項4】
前記浸出部と前記回収部との間で、前記深共晶溶媒からその他の有機溶媒に前記金属成分を移動させる抽出工程を行わない、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項5】
25℃において、前記深共晶溶媒が液体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項6】
前記金属元素含有組成物が2種類以上の前記金属成分を含有し、
前記深共晶溶媒が、2種類以上の前記金属成分のうち特定の種類の金属成分を、他の種類の金属成分よりも高い濃度で選択的に浸出させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項7】
前記深共晶溶媒が、水素結合供与体および水素結合受容体の混合物であり、
25℃において、混合前の前記水素結合供与体および前記水素結合受容体が固体の粒子状であり、
前記金属含有組成物に対して、固体の粒子状である前記水素結合供与体および前記水素結合受容体を直接接触させることにより、前記金属成分を前記深共晶溶媒に接触させる、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項8】
前記深共晶溶媒が、水素結合供与体および水素結合受容体の混合物であり、
前記水素結合供与体がベンゾイルトリフルオロアセトンまたはデカン酸であり、
前記水素結合受容体がトリ-n-オクチルホスフィンオキシドである、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項9】
前記深共晶溶媒が、水素結合供与体および水素結合受容体の混合物であり、
前記水素結合供与体の濃度を、前記水素結合受容体の濃度に対して1.2~5倍に制御する、請求項1~8のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項10】
前記金属元素含有組成物が、金属酸化物を含有し、
前記深共晶溶媒にさらに還元剤を添加する、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項11】
前記還元剤が、L-アスコルビン酸、クエン酸またはリンゴ酸である、請求項10に記載の金属の回収装置。
【請求項12】
前記還元剤の濃度を、前記深共晶溶媒に対して、0.03~0.30mol/Lに制御する、請求項10または11に記載の金属の回収装置。
【請求項13】
前記金属元素含有組成物が、LiCoO2、またはLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を含有する、請求項10~12のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項14】
前記金属元素含有組成物が、白金族金属または白金族金属化合物を含有し、
前記深共晶溶媒にさらに酸化剤を添加する、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項15】
前記深共晶溶媒の含水率を、0.3~2.8質量%に制御する、請求項1~14のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項16】
前記回収部が、前記深共晶溶媒に親水性溶媒を接触させて、前記親水性溶媒に前記金属成分を分離して回収する、請求項1~15のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項17】
前記親水性溶媒にキレート剤を添加し、前記親水性溶媒に前記金属成分を塩として析出させて分離して回収する、請求項16に記載の金属の回収装置。
【請求項18】
前記回収部で前記金属成分を分離された前記深共晶溶媒を、前記浸出部に返送して再利用する再利用部を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
【請求項19】
前記再利用部が、キレート剤を除去できる洗浄液を用いて前記深共晶溶媒を洗浄する、請求項18に記載の金属の回収装置。
【請求項20】
前記浸出部で前記再利用部により返送された前記深共晶溶媒のみを用いて、前記浸出部、前記回収部および前記再利用部のサイクルを3回繰り返す場合に、前記金属成分の下記式1で表される浸出率が80%以上であり、前記金属成分の下記式2で表される回収率が95%以上である、請求項18または19に記載の金属の回収装置。
式1
【数1】
式1中、%Lは浸出率、C
M,DESは深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
DESは深共晶溶媒の体積、m
initは金属元素含有組成物の質量、mは金属元素含有組成物の分子量を表す。
式2
【数2】
式2中、%Sは回収率、C
M,S,DESは回収工程における深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
S,DESは回収工程における深共晶溶媒の体積、C
M,L,DESは浸出工程における深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
L,DESは浸出工程における深共晶溶媒の体積を表す。
【請求項21】
金属元素含有組成物に含まれる少なくとも1種類の金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させる浸出工程と、
前記深共晶溶媒から、前記金属成分を分離して回収する回収工程とを含み、
前記金属元素含有組成物が、25℃において固体であり、かつ無機酸を含まず、
前記金属成分が金属、金属化合物または金属イオンであり、
前記深共晶溶媒が無機酸を含まない、金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の回収装置および金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
資源の効率的な利活用をするために、金属の精錬やリサイクルに用いる金属の回収装置が求められている。例えば近年では、リチウムイオン電池(LiB)の普及により、陽極材(陽極活物質)に使われるレアメタルであるコバルトやニッケルの需要も増加している。これらの金属は産出地の偏在や資源の枯渇問題などから、廃棄LiBからのレアメタルリサイクル技術が求められている。
従来は乾式精錬法によるリサイクルが行われていたが、エネルギー消費や純度不足などの問題から湿式精錬法の開発が進められている。湿式精錬法は、陽極材を酸などにより溶液中に浸出させ、その後に溶媒抽出や沈殿法により目的金属をそれぞれ個別に回収するプロセスである。代表的な陽極材であるLiCoO2のCoの酸化数は+3価であり、酸化物が安定なために水溶液中には溶出しにくい。そこで、無機酸とともに還元剤を併用することでCo(II)とし、効率的に水相へ浸出させる浸出法が知られているが、この方法では多量の酸廃水による環境汚染が懸念されている。
これに対して、環境調和型の浸出媒体として深共晶溶媒(DES)やイオン液体が注目されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
特許文献1には、特定の構造で表される少なくとも一種のアミン塩を、特定の陰イオンと共に水素結合を形成する能力を有する少なくとも一種の有機化合物(II)に反応させることによって形成される、凝固点が100℃までであるイオン性化合物が記載されている。特許文献1の[0055]にはこのようなイオン性液体のうち2:1尿素-塩化コリンのイオン性液体は、鉱石から金属酸化物を抽出するのに使用することができ、かかる金属は電解採取法を使用することによってイオン性液体から抽出することができると記載されている。また、特許文献1の[0058]~[0060]にはこのようなカルボン酸(シュウ酸)-塩化コリンのイオン性液体は、貴金属、特に白金及びパラジウムを酸化物として含有する材料・物質から回収することができ、アルミナ担体に担持させたPdO含有する自動車触媒の資料からPdを回収することができると記載されている。
【0004】
特許文献2には、ジケトンと中性抽出剤とを含有する希土類抽出剤が記載されており、また、この希土類抽出剤は低いpH領域であっても希土類を選択的に抽出できると記載されている。特許文献2では、具体的にはジケトン(2-テノイルトリフルオロアセトン;融点40~44℃)と中性抽出剤(トリオクチルフォスフィンオキシド;TOPO)を含有する希土類抽出剤が記載されており、[0030]には常温で液体となっていることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004-509945号公報
【特許文献2】特開2015-057505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、親水性である尿素やシュウ酸を用いた、親水性のイオン液体または深共晶溶媒であり、金属成分をイオン液体相または深共晶溶媒相に浸出した後に一度有機溶媒と接触させて有機相に金属成分を抽出してから、さらに回収用の親水性溶媒と接触する必要がある。有機溶媒による抽出を行う点で、環境調和型の金属の回収方法とするにはさらなる改善が求められるものであった。
【0007】
特許文献2に記載の方法は、金属元素含有組成物から金属成分を酸により浸出させた後、金属成分を浸出した酸性溶液に対して希土類抽出剤を適用しています。そのため、固体の金属元素含有組成物の金属成分を、無機酸を含まない疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させるものではなく、酸廃液が生じる点で、環境調和型の金属の回収方法とするにはさらなる改善が求められるものであった。また、希土類抽出剤としてジケトンと中性抽出剤を有機溶媒である希釈剤(トルエン)に溶解させたものを用いており、実質的にはある程度の量の有機溶媒を用いて抽出している点でも、環境調和型の金属の回収方法とするにはさらなる改善が求められるものであった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、高濃度の無機酸による浸出や有機溶媒による抽出を行わない環境調和型の金属の回収装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、従来の無機酸を用いる浸出法で用いられてきた酸の代わりに深共晶溶媒を固体の金属元素含有組成物に直接接触させることで酸廃液の問題を解決し、かつ、深共晶溶媒として疎水性のものを用いることで有機溶媒による抽出を行わずにそのまま親水性溶媒と接触させて金属を回収できることを見出し、上記課題を解決した。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明の構成と、本発明の好ましい構成を以下に記載する。
【0010】
[1] 金属元素含有組成物に含まれる少なくとも1種類の金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させる浸出部と、
深共晶溶媒から、金属成分を分離して回収する回収部とを含み、
金属元素含有組成物が、25℃において固体であり、かつ無機酸を含まず、
金属成分が金属、金属化合物または金属イオンであり、
深共晶溶媒が無機酸を含まない、金属の回収装置。
[2] 深共晶溶媒の疎水性が、25℃の水に対する溶解度として1g/100mL以下である、[1]に記載の金属の回収装置。
[3] 深共晶溶媒が、単独で沸点150℃以下の有機溶媒を含まない、[1]または[2]に記載の金属の回収装置。
[4] 浸出部と回収部との間で、深共晶溶媒からその他の有機溶媒に金属成分を移動させる抽出工程を行わない、[1]~[3]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[5] 25℃において、深共晶溶媒が液体である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[6] 金属元素含有組成物が2種類以上の金属成分を含有し、
深共晶溶媒が、2種類以上の金属成分のうち特定の種類の金属成分を、他の種類の金属成分よりも高い濃度で選択的に浸出させる、[1]~[5]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[7] 深共晶溶媒が、水素結合供与体および水素結合受容体の混合物であり、
25℃において、混合前の水素結合供与体および水素結合受容体が固体の粒子状であり、
金属含有組成物に対して、固体の粒子状である水素結合供与体および水素結合受容体を直接接触させることにより、金属成分を深共晶溶媒に接触させる、[1]~[6]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[8] 深共晶溶媒が、水素結合供与体および水素結合受容体の混合物であり、
水素結合供与体がベンゾイルトリフルオロアセトンまたはデカン酸であり、
水素結合受容体がトリ-n-オクチルホスフィンオキシドである、[1]~[7]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[9] 深共晶溶媒が、水素結合供与体および水素結合受容体の混合物であり、
水素結合供与体の濃度を、水素結合受容体の濃度に対して1.2~5倍に制御する、[1]~[8]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[10] 金属元素含有組成物が、金属酸化物を含有し、
深共晶溶媒にさらに還元剤を添加する、[1]~[9]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[11] 還元剤が、L-アスコルビン酸、クエン酸またはリンゴ酸である、[10]に記載の金属の回収装置。
[12] 還元剤の濃度を、深共晶溶媒に対して、0.03~0.30mol/Lに制御する、[10]または[11]に記載の金属の回収装置。
[13] 金属元素含有組成物が、LiCoO
2、またはLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2を含有する、[10]~[12]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[14] 金属元素含有組成物が、白金族金属または白金族金属化合物を含有し、
深共晶溶媒にさらに酸化剤を添加する、[1]~[9]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[15] 深共晶溶媒の含水率を、0.3~2.8質量%に制御する、[1]~[14]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[16] 回収部が、深共晶溶媒に親水性溶媒を接触させて、親水性溶媒に金属成分を分離して回収する、[1]~[15]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[17] 親水性溶媒にキレート剤を添加し、親水性溶媒に金属成分を塩として析出させて分離して回収する、[16]に記載の金属の回収装置。
[18] 回収部で金属成分を分離された深共晶溶媒を、浸出部に返送して再利用する再利用部を含む、[1]~[17]のいずれか一項に記載の金属の回収装置。
[19] 再利用部が、キレート剤を除去できる洗浄液を用いて深共晶溶媒を洗浄する、[18]に記載の金属の回収装置。
[20] 浸出部で再利用部により返送された深共晶溶媒のみを用いて、浸出部、回収部および再利用部のサイクルを3回繰り返す場合に、金属成分の下記式1で表される浸出率が80%以上であり、金属成分の下記式2で表される回収率が95%以上である、[18]または[19]に記載の金属の回収装置。
式1
【数1】
式1中、%Lは浸出率、C
M,DESは深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
DESは深共晶溶媒の体積、m
initは金属元素含有組成物の質量、mは金属元素含有組成物の分子量を表す。
式2
【数2】
式2中、%Sは回収率、C
M,S,DESは回収工程における深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
S,DESは回収工程における深共晶溶媒の体積、C
M,L,DESは浸出工程における深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
L,DESは浸出工程における深共晶溶媒の体積を表す。
[21] 金属元素含有組成物に含まれる少なくとも1種類の金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させる浸出工程と、
深共晶溶媒から、金属成分を分離して回収する回収工程とを含み、
金属元素含有組成物が、25℃において固体であり、かつ無機酸を含まず、
金属成分が金属、金属化合物または金属イオンであり、
深共晶溶媒が無機酸を含まない、金属の回収方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高濃度の無機酸による浸出や有機溶媒による抽出を行わない環境調和型の金属の回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の金属の回収装置の一例の模式図である。
【
図2】
図2は、親水性の深共晶溶媒を用いた金属の回収装置の模式図である。
【
図3】
図3は、無機酸を用いた浸出法による金属の回収装置の模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1~8の金属の回収方法におけるLiおよびCoの浸出率を示した棒グラフである。
【
図5】
図5は、実施例11~14の金属の回収方法におけるLiおよびCoの浸出率を示した棒グラフである。
【
図6】
図6は、実施例21~24の金属の回収方法におけるLiおよびCoの浸出率を示した棒グラフである。
【
図7】
図7は、実施例31~33の金属の回収方法におけるLiおよびCoの深共晶溶媒(DES)相、水相および沈殿物中の存在比率を示した積み上げ棒グラフである。
【
図8】
図8は、実施例41の金属の回収方法における各サイクルでのLiおよびCoの浸出率%Lおよび回収率%Sを示した棒グラフである。
【
図9】
図9は、実施例51および52の金属の回収方法におけるLi、Mn、Co、Niの浸出率%Lおよび回収率%Sを示した棒グラフである。
【
図10】
図10は、浸出前の陽極材、実施例52の浸出後の陽極材、比較例53の浸出後の陽極材を、X線分光器付き走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)にて観察した電子顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、浸出前の陽極材について、エネルギー分散型X線分光器(EDS)による元素分析を行ったEDSチャートである。
【
図12】
図12は、実施例52の浸出後の陽極材について、エネルギー分散型X線分光器による元素分析を行ったEDSチャートである。
【
図13】
図13は、比較例53の浸出後の陽極材について、エネルギー分散型X線分光による元素分析を行ったEDSチャートである。
【
図14】
図14は、本発明の金属の回収装置の他の一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[金属の回収装置]
本発明の金属の回収装置は、金属元素含有組成物に含まれる少なくとも1種類の金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させる浸出部と、
深共晶溶媒から、金属成分を分離して回収する回収部とを含み、
金属元素含有組成物が、25℃において固体であり、かつ無機酸を含まず、
金属成分が金属、金属化合物または金属イオンであり、
深共晶溶媒が無機酸を含まない。
この構成により、高濃度の無機酸による浸出や有機溶媒による抽出を行わない環境調和型の金属の回収装置を提供できる。
以下、本発明の好ましい態様を説明する。
【0015】
<金属の回収方法>
本発明の金属の回収装置について、本発明の金属の回収方法とあわせて、図面を参照して好ましい態様を説明する。
ここで、本発明の金属の回収方法は、金属元素含有組成物に含まれる少なくとも1種類の金属成分を疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させる浸出工程と、深共晶溶媒から金属成分を分離して回収する回収工程とを含み、金属元素含有組成物が25℃において固体であり、かつ無機酸を含まず、金属成分が金属、金属化合物または金属イオンであり、深共晶溶媒が無機酸を含まない。本発明の金属の回収方法の好ましい態様は、本発明の金属の回収装置の好ましい態様と同様である。
図1は、本発明の金属の回収装置の一例の模式図である。
図1に示した金属の回収装置は、金属元素含有組成物に含まれる少なくとも1種類の金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させる浸出部と、深共晶溶媒から金属成分を分離して回収する回収部とを含む。
まず、疎水性の深共晶溶媒による金属元素含有組成物からの金属成分(Li、Co)の浸出を行い、目的の金属成分を疎水性の深共晶溶媒(DES phase)中に溶解(浸出)させる。
次に、回収部において、金属成分が浸出した疎水性の深共晶溶媒を親水性溶媒(Aqueous phase)と接触させることで疎水性の深共晶溶媒中から目的の金属成分(Li、Co)を完全に親水性溶媒中に回収する。
図1のように目的の金属成分の一部の種類(Co)は金属成分の塩である沈殿として回収し、他の種類の金属成分(Li)は親水性溶媒中に金属イオンとして回収することができる。
図1に示した金属の回収装置は、さらに金属成分を分離させた深共晶溶媒を、再利用部に移動させて、その後に浸出部で深共晶溶媒を再利用する。ただし、再利用部は本発明の金属の回収装置において必須の構成ではない。
【0016】
金属の回収装置は、浸出部と回収部との間で、深共晶溶媒からその他の有機溶媒に金属成分を移動させる抽出工程を行わないことが好ましい。疎水性の深共晶溶媒を用いることで、抽出工程を行わず、浸出工程と回収工程の溶媒を兼ねる効果がある。
ここで、
図2および
図3に従来の湿式精錬法を用いた金属の回収装置の例を示した。
図2は、親水性の深共晶溶媒を用いた金属の回収装置の模式図である。
図2の金属の回収装置は、金属元素含有組成物に含まれる金属成分を親水性の深共晶溶媒に直接浸出させる浸出部と、親水性の深共晶溶媒からその他の有機溶媒(Organic phase)に金属成分を移動させる抽出部と、有機溶媒から金属成分を親水性溶媒に移動させて分離して回収する回収部を備える。
図3は、無機酸を用いた浸出法による金属の回収装置の模式図である。
図3の金属の回収装置は、金属元素含有組成物に含まれる金属成分を無機酸含有水溶液(Aqueous phase)に浸出させる浸出部と、無機酸含有水溶液から有機溶媒(Organic phase)に金属成分のうち1種類(Co)を分離するために移動させる抽出部と、有機溶媒から金属成分(Co)を親水性溶媒に移動させて分離して回収する回収部を備える。現状では、
図3の金属の回収装置が、家電製品のリサイクルに適用されており、金属元素含有組成物を粉砕して粉体とし、無機酸を含む水溶液に可能な限り多種類の金属を溶解させて、抽出剤というCoなどのレアメタルを選択的に抽出できる化合物を含ませた有機溶媒に移動させている。
図3の金属の回収装置では、金属成分の選択的浸出が困難である。
【0017】
<浸出部>
浸出部では、金属元素含有組成物に含まれる少なくとも1種類の金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出させる。
さらに、浸出部では、浸出効率が高いことが好ましい。金属成分の浸出率は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、50%以上であることが特に好ましく、70%以上であることがより特に好ましく、80%以上であることがさらにより特に好ましい。
浸出部では、金属成分の選択性が高いことが好ましい。特に、Co、Ni、白金族元素などのレアメタルだけを選択的に浸出することが好ましい。一方、浸出部では、Fe、Al、Si、Tiなどの浸出率は低いことが好ましい。浸出部における金属成分の選択性は、深共晶溶媒の種類や混合比率、還元剤または酸化剤の種類や添加量によって制御することができる。
【0018】
(金属元素含有組成物)
本発明では、金属元素含有組成物が、少なくとも1種類の金属成分を含み、25℃において固体であり、かつ無機酸を含まない。
25℃において固体である金属元素含有組成物を用いることで、回収部での回収工程の前に金属元素含有組成物を溶媒や分散媒や無機酸などに溶解させる必要がなく、またpH調整をする必要がなく、環境調和型の金属の回収装置を提供できる。 また、このように無機酸を含まない深共晶溶媒を用いることで、環境調和型の金属の回収装置を提供できる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、王水などを挙げることができる。
【0019】
本発明では、金属元素含有組成物に含まれる金属成分が金属、金属化合物または金属イオンである。
金属元素含有組成物の種類は特に制限はない。例えば、金属元素含有組成物が、金属酸化物などの金属化合物を含有してもよく、金属を含有してもよいが、金属酸化物を含有することが好ましい。
金属元素含有組成物が金属を含有する場合、アルカリ金属、アルカリ土類金属または遷移金属を含有することが好ましく、アルカリ金属または遷移金属を含有することがより好ましい。
アルカリ金属の中でもLiを含有することが、リチウムイオン電池などの電池リサイクルの観点から好ましい。
遷移金属の中でも第一遷移元素(3d遷移元素)、第二遷移元素(4d遷移元素)または第三遷移元素を含有することがより好ましく、第二遷移元素または第三遷移元素を含有することが特に好ましい。第一遷移元素の中では、Mn、Co、Niを含有することが好ましい。第二遷移元素および第三遷移元素の中では、白金族金属を含有することがより好ましい。
金属元素含有組成物が金属化合物や金属イオンを含有する場合の好ましい金属成分の種類は、金属の場合と同様である。
本発明の金属の回収装置は、レアメタルの分離や電池リサイクルに有用である。本発明の金属の回収装置をリチウムイオン電池などの電池リサイクルに用いる場合、金属元素含有組成物が、金属酸化物を含有することが好ましく、Li元素を含む金属酸化物を含有することがより好ましく、リチウムイオン電池の陽極材としてよく用いられるLiCoO2またはLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を含有することが特に好ましい。本発明の金属の回収装置を自動車の排ガス触媒からのレアメタルのリサイクルに用いる場合、白金、パラジウム、ロジウムなどの金属やそれらの金属化合物を含有することが好ましく、白金族金属または白金族金属化合物を含有することがより好ましく、白金族金属を含有することが特に好ましい。本発明の金属の回収装置を鉱石からのレアメタルのリサイクルに用いる場合、Ni、Coなどの金属やそれらの金属化合物(特に金属酸化物)を含有することが好ましい。
【0020】
(深共晶溶媒)
本発明では、深共晶溶媒として、疎水性の深共晶溶媒を用いる。
深共晶溶媒とは、2種類以上の化合物を混合することにより融点低下して、25℃で液体として調製される材料のことを言う。深共晶溶媒は、低揮発性、難燃性、デザイン性などの優れた性質を持つことが好ましい。深共晶溶媒は特異的な金属配位能や酸性度により、金属酸化物などの溶解に優れた性能を発揮する。
深共晶溶媒を調製するために用いる化合物は2種類以上であり、例えば3~5種類であってもよい。
疎水性の深共晶溶媒は、水と混和しない深共晶溶媒のことを言う。深共晶溶媒の疎水性が、25℃の水に対する溶解度として1g/100mL以下であることが好ましく、0.1g/100mL以下であることがより好ましく、0.01g/100mL以下であることが特に好ましい。
【0021】
金属元素含有組成物が2種類以上の金属成分を含有する場合、深共晶溶媒が、2種類以上の金属成分のうち特定の種類の金属成分を、他の種類の金属成分よりも高い濃度で選択的に浸出させることが好ましい。
【0022】
深共晶溶媒は、水素結合性の2種類以上の化合物を混合して調製されることが好ましい。すなわち、深共晶溶媒が、水素結合供与体(HBD)および水素結合受容体(HBA)の混合物であることが好ましい。
水素結合供与体としては、アルコールなどの水酸基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物などを挙げることができ、金属配位性の官能基を有する化合物であることが好ましい。水素結合供与体としては、例えば、脂肪酸、尿素、グルコース、グリセロール、ベンゾイルトリフルオロアセトン(HBTA)またはデカン酸(decA)などを挙げることができる。これらの中でも疎水性の水素結合供与体であるオクチルフェノール、リン酸ジフェニル、脂肪酸アミン、脂肪酸アミド、長鎖アルキルベンゼンスルホン酸、脂肪酸、ベンゾイルトリフルオロアセトン(HBTA)またはデカン酸(decA)が好ましい。本発明では、水素結合供与体がベンゾイルトリフルオロアセトンまたはデカン酸であることが、浸出効率を高める観点から好ましい。
水素結合受容体としては、アミン系化合物、塩化コリン、エーテル、ケトン、アミドなどの電子のローンペアを有する化合物などを挙げることができる。これらの中でも疎水性の水素結合受容体であるテトラオクチルアンモニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、トリオクチルアミン、ジフェニルスルホキシド、ジフェニルアミン、ステアリルアミン、リン酸トリフェニル、ベタインおよびテトラブチルアンモニウムブロミド、トリ-n-オクチルホスフィンオキシド(TOPO)が好ましい。本発明では、水素結合受容体がトリ-n-オクチルホスフィンオキシドであることが、浸出効率を高める観点から好ましい。
【0023】
水素結合供与体の濃度を、水素結合受容体の濃度の割合は特に制限はなく、例えば水素結合供与体の濃度を、水素結合受容体の濃度に対して0.1~10倍としてもよい。本発明では、水素結合供与体の濃度を、水素結合受容体の濃度に対して1.2~5倍に制御することがより低いpH側で金属成分を浸出しやすい観点から好ましく、1.5~3倍に制御することがより好ましく、2~2.5倍に制御することが特に好ましい。
【0024】
深共晶溶媒は、水素結合供与体および水素結合受容体以外のその他の成分を含んでいてもよい。深共晶溶媒が含んでいてもよいその他の成分として、水、還元剤、酸化剤などを挙げることができる。
【0025】
-深共晶溶媒の含水率-
本発明では、深共晶溶媒の含水率を、0.2質量%以上に制御することが好ましく、0.3~2.8質量%に制御することが浸出効率を高める観点からより好ましく、1.0~2.5質量%に制御することが特に好ましい。
【0026】
-還元剤-
金属元素含有組成物が、金属酸化物を含有する場合、深共晶溶媒にさらに還元剤を添加することが好ましい。
還元剤の種類は特に制限はなく、公知の還元剤を用いることができる。金属元素含有組成物の種類に応じて、必要な還元力にあわせて還元剤を選択することができる。本発明では、還元剤が、金属への配位能力を有することが好ましい。具体的には還元剤が2個以上の水酸基を分子内に有していることがより好ましく、3個以上の水酸基を分子内に有していることが特に好ましく、4個以上の水酸基を分子内に有していることがより特に好ましい。金属への配位能力を有する還元剤としては、L-アスコルビン酸、クエン酸またはリンゴ酸であることが好ましく、L-アスコルビン酸であることが浸出効率を高める観点からより好ましい。
還元剤は単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
還元剤の濃度は特に制限はない。本発明では浸出効率を高める観点から、還元剤を、深共晶溶媒に対して、0.03~0.30mol/Lに制御することが好ましく、0.06~0.25mol/Lに制御することがより好ましく、0.07~1.9mol/Lに制御することが特に好ましく、1.1~1.8mol/Lに制御することがより特に好ましい。
【0027】
-酸化剤-
金属元素含有組成物が、白金族金属または白金族金属化合物を含有する場合、深共晶溶媒にさらに酸化剤を添加することが好ましい。
酸化剤の種類は特に制限はなく、公知の酸化剤を用いることができる。金属元素含有組成物の種類に応じて、必要な酸化力にあわせて酸化剤を選択することができる。
酸化剤は単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
25℃において、混合前の水素結合供与体および水素結合受容体が固体の粒子状であることが好ましい。
金属含有組成物に対して、固体の粒子状である水素結合供与体および水素結合受容体を直接接触させることにより、金属成分を深共晶溶媒に接触させることが、深共晶溶媒を調製するプロセス削減の観点から好ましい。
【0029】
深共晶溶媒ではないが類似の機能を持つ媒体として、常温イオン液体が知られている。イオン液体は、イオン性液体、低融点溶融塩などとも呼ばれる。イオン液体は、液体で存在する塩のことをいう。常温イオン液体は、25℃、1気圧で液体状態のイオン液体のことを言う。イオン液体は主に1つの化合物で構成され、電離して正または負の電荷を有する。イオン液体と他の有機溶媒の組合せで用いられることもあるが、イオン液体と他の有機溶媒の組合わせは両者が水素結合で結合するものではない。
疎水性の深共晶溶媒を用いることで、イオン液体を用いる場合よりも浸出効率および回収効率が高くなる。なお、一般的な単体のイオン液体の単体は、金属成分を浸出させる力は少なく、イオン液体は還元剤と併用する必要がある。また、イオン液体は高価であり、工業的に利用し難い。疎水性の深共晶溶媒は工業的に(有機溶媒と併用して)利用されてきた実績のある水素結合供与体および水素結合受容体の組合せを用いることができ、安価に工業化しやすい。
【0030】
本発明では、深共晶溶媒が無機酸を含まない。このように無機酸を含まない深共晶溶媒を用いることで、環境調和型の金属の回収装置を提供できる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、王水などを挙げることができる。
【0031】
深共晶溶媒が、単独で沸点150℃以下の有機溶媒を含まないことが、環境調和型の金属の回収装置とする観点から好ましい。深共晶溶媒に含まれる、単独で沸点150℃以下の有機溶媒は5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。
【0032】
(浸出工程)
浸出部での浸出温度は、40℃以上で行うことが好ましく、浸出速度を高める観点から50℃以上で行うことがより好ましく、60℃以上で行うことが特に好ましい。浸出部での浸出工程の温度は、100℃以下で行うことがエネルギー効率の観点から好ましく、80℃以下で行うことがより好ましく、70℃以下で行うことが特に好ましい。
【0033】
<回収部>
回収部では、深共晶溶媒から、金属成分を分離して回収する。
回収部では、深共晶溶媒に親水性溶媒を接触させて、親水性溶媒に金属成分を分離して回収することが好ましい。 さらに、回収部では、回収効率が高いことが好ましい。金属成分の回収率は80%以上であることが特に好ましく、90%以上であることがより特に好ましく、95%以上であることがさらにより特に好ましい。
【0034】
(親水性溶媒)
回収部で用いられる親水性溶媒としては特に制限はなく、公知の親水性溶媒を用いることができる。例えば、水、アルコール類などを挙げることができる。
【0035】
(キレート剤、沈殿剤)
本発明では、親水性溶媒にキレート剤や難溶性塩を析出させるための沈殿剤を添加し、親水性溶媒に金属成分を塩として析出させて分離して回収することが好ましい。親水性溶媒にキレート剤を添加することが、深共晶溶媒の再利用性を高める観点から好ましい。キレート剤としては特に制限はなく、公知のキレート剤を用いることができる。キレート剤としてシュウ酸、ジメチルグリオキシムを挙げることができ、シュウ酸を用いることがより好ましい。難溶性塩を析出させるための沈殿剤としては特に制限はなく、公知の酸やアルカリや塩などの沈殿剤を用いることができる。沈殿剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムを用いることがより好ましい。
キレート剤や沈殿剤の濃度は、0.1mol/L以上であることが好ましく、0.3mol/L以上であることがより好ましく、0.5mol/L以上であることが特に好ましい。
【0036】
(回収工程)
金属の回収装置は、金属成分を分離して回収でき、すなわち少なくとも1種類の金属成分を分離して回収できればよい。例えば、金属元素含有組成物が3種類以上の金属成分を含有する場合は、1種類の金属成分を分離して回収できればよく、2種類の金属成分をそれぞれ分離して回収できることが好ましく、3種類の金属成分をそれぞれ分離して回収できることがより好ましい。
一方、1種類の金属成分を水相にイオンとして分離し、2種類以上の金属成分の混合塩を沈殿として分離して回収してもよい。2種類以上の金属成分の混合塩は、公知の方法により、さらに1種類ずつ分離されて回収されてもよい。
最初に生じた沈殿を回収した後に、水相にイオンとして分離した金属成分を公知の方法により金属塩としてさらに沈殿させて回収することが好ましい。例えば、水相にイオンとして分離した金属成分が溶解度の低い炭酸塩を形成する場合、炭酸ガスを水相に吹き込んで水相にイオンとして分離した金属成分を炭酸塩として沈殿させて回収することができる。
【0037】
<再利用部>
本発明の金属の回収装置は、回収部で金属成分を分離された深共晶溶媒を、浸出部に返送して再利用する再利用部を含むことが好ましい。
【0038】
(洗浄液)
本発明では、再利用部が、キレート剤を除去できる洗浄液を用いて深共晶溶媒を洗浄することが、深共晶溶媒をより再生して、高い浸出率、高い回収率および高い再利用性を実現する観点から好ましい。洗浄液としては特に制限はなく、公知のものを用いることができる。洗浄液としては例えば、アンモニア水や純水などを挙げることができる。
アンモニア水の濃度は特に制限はないが、例えば0.5~2mol dm-3とすることができる。
【0039】
浸出部で再利用部により返送された深共晶溶媒のみを用いて、浸出部、回収部および再利用部のサイクルを3回繰り返す場合に、金属成分の下記式1で表される浸出率が80%以上であり、金属成分の下記式2で表される回収率が95%以上であることが好ましく;浸出率が90%以上であり、回収率が97%以上であることがより好ましく;浸出率が99%以上であり、回収率が99%以上であることが特に好ましい。式1
【数3】
式1中、%Lは浸出率、C
M,DESは深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
DESは深共晶溶媒の体積、m
initは金属元素含有組成物の質量、mは金属元素含有組成物の分子量を表す。
式2
【数4】
式2中、%Sは回収率、C
M,S,DESは回収工程における深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
S,DESは回収工程における深共晶溶媒の体積、C
M,L,DESは浸出工程における深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
L,DESは浸出工程における深共晶溶媒の体積を表す。
【0040】
浸出部で再利用部により返送された深共晶溶媒を用いる場合、前のサイクルとは異なる還元剤や酸化剤などの添加剤を再利用部または浸出部で添加してもよい。
【0041】
<洗浄部>
金属の回収装置は、その他の機能や装置を備えていてもよい。例えば、
図14に示した本発明の金属の回収装置の他の一例の模式図のように、浸出部と回収部の間に洗浄部を備えていてもよい。
洗浄部は、浸出部で得られた疎水性の深共晶溶媒に含まれる不純物や不要な金属成分の除去を行うものであり、回収目的とする金属成分は疎水性の深共晶溶媒相から移動させないため、抽出工程を行うものではない。
【実施例0042】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0043】
[実施例1~8]
<疎水性の深共晶溶媒の調製>
図1に記載の金属回収装置を用いて、金属回収を行った。
まず、所定のモル比となるように25℃において、固体の粒子状の水素結合供与体(HBD)および水素結合受容体(HBA)をそれぞれ秤量し、よく振り混ぜた後に温浴中で超音波照射することにより完全に溶解させ、液体である疎水性の深共晶溶媒(DES)を調製した。使用した化合物の化学構造を以下に示す。HBTA/TOPO(2:1)およびdecA/TOPO(1:1)の組成(カッコ内はHBD:HBAのモル比)で疎水性の深共晶溶媒を調製した。
【化1】
【0044】
25℃において固体である金属元素含有組成物として、25℃で固体である、LiCoO
2(LCO)を用いた。リチウムイオン電池(LiB)の代表的な陽極活物質であるLiCoO
2の浸出では、Co(III)のCo(II)への還元が浸出効率の向上に効果的である。LCOを疎水性の深共晶溶媒中に高効率に浸出させるために、還元剤として(a)L-アスコルビン酸(ascA)、(b)クエン酸(citricA)または(c)リンゴ酸(malicA)を使用した。使用した還元剤の分子構造を以下に示す。
【化2】
【0045】
実施例1では、疎水性の深共晶溶媒として、還元剤を添加していないHBTA/TOPO(2:1)を用いた。
実施例2~4では、HBTA/TOPO(2:1)に還元剤として0.1mol dm-3の所定濃度となるようにascA、citricAまたはmalicAを溶解し、所定量の純水を添加して60℃、400rpmで1時間撹拌して均一溶液としたものを疎水性の深共晶溶媒として用いた。
実施例5では、疎水性の深共晶溶媒として、還元剤を添加していないdecA/TOPO(1:1)を用いた。
実施例6~8では、decA/TOPO(1:1)に還元剤として0.1mol dm-3の所定濃度となるようにascA、citricAまたはmalicAを溶解し、所定量の純水を添加して60℃、400rpmで1時間撹拌して均一溶液としたものを疎水性の深共晶溶媒として用いた。
各実施例で用いる疎水性の深共晶溶媒の含水率は2.5%となるように調整した。
【0046】
<浸出>
金属回収装置の浸出部に導入された、各実施例で用いる疎水性の深共晶溶媒に対して、金属元素含有組成物としてLiCoO2をパルプ濃度として10g/Lとなるように加え、60℃、400rpmで撹拌して浸出反応を開始させ、24時間の浸出を行った。
【0047】
<浸出後の深共晶溶媒からのLiおよびCoの回収>
回収部で用いる親水性溶媒として、純水にキレート剤としてシュウ酸を添加したシュウ酸水溶液を調製した。
LiCoO2を浸出した疎水性の深共晶溶媒と所定濃度のシュウ酸溶液と体積比1:1で接触させ、室温で3時間、ボルテックスで強撹拌した。反応液を遠心分離することにより深共晶溶媒相(DES相)、水相および沈殿に完全に分離した。
水相および深共晶溶媒相中の金属濃度をICP-OESで測定し、マスバランスより各金属の水相、深共晶溶媒相および沈殿中の存在比率を算出した。その結果、金属成分を1種類ずつ分離して回収できたことがわかった。
【0048】
[評価]
<浸出部での浸出効率>
実施例1~8で調製した疎水性の深共晶溶媒を浸出媒体として、LCOの浸出挙動を検討した。
浸出率%Lは下記の式で計算した。
【数5】
ここで、%Lは浸出率、C
M,DESはICP-OESから求められる深共晶溶媒中の金属成分の濃度[mg dm
-3]、V
DESは浸出工程に用いた深共晶溶媒の体積[dm
-3]、m
initは金属元素含有組成物の秤量重量[mg]、そして97.87は金属元素含有組成物であるLiCoO
2の分子量(式量)である。
ICP発光分光分析装置(ICP-OES)による疎水性の深共晶溶媒中の金属濃度の直接定量は、マトリックスマッチング法およびYを内部標準として用いる内部標準法を併用して行った。溶液は2ppmのYおよび0.2mol dm
-3のHClを含む20%の水/エタノール溶液として調製し、DESを100倍希釈してICP-OES測定サンプルとした。内径1mmのインジェクターに交換し、冷却チャンバーを強冷条件で使用した。ICP-OESのプラズマ条件はプラズマガス10L/min、補助ガス0L/minおよびネブライザガス0.5L/minとし、その他はデフォルト設定とした。本条件で得られた検量線の相関係数はR>0.9995であり、良好な直線性が得られた。
得られた結果を
図4に示す。
【0049】
図4より、実施例1~8では、金属元素含有組成物に含まれる金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出できたことがわかった。
実施例1~4のHBTA/TOPO(2:1)はいずれの還元剤の種類においても実施例5~8のdecA/TOPO(1:1)より高い浸出効率を示した。HBTA/TOPO(2:1)の高い浸出効率は、decA/TOPO(1:1)よりも高い配位能を有することに起因すると考えられる。
実施例2では、HBTA/TOPO(2:1)に還元剤としてascAを加えることでLiおよびCoいずれも90%以上の高い浸出効率を達成した。
一方、還元剤としてascAを用いた実施例2および6の系と、還元剤としてcitricAまたはmalicAを用いた実施例3、4、7および8の系と、還元剤を加えない実施例1および5の系とを比較した場合、還元剤としてcitricAまたはmalicAを用いた実施例3、4、7および8の系が最も低い浸出効率を示した。
【0050】
[実施例11~14]
<疎水性の深共晶溶媒の調製>
HBTA/TOPO(2:1)へのLCO浸出に及ぼすascA濃度の影響を検討した。
実施例11~14では、HBTA/TOPO(2:1)に還元剤として0.05mol dm-3、0.10mol dm-3、0.15mol dm-3、0.20mol dm-3となるようにascAを溶解し、所定量の純水を添加して60℃、400rpmで1時間撹拌して均一溶液としたものを疎水性の深共晶溶媒として用いた。
各実施例で用いる疎水性の深共晶溶媒の含水率は2.5%となるように調整した。
【0051】
<浸出>
金属回収装置の浸出部に導入された、各実施例で用いる疎水性の深共晶溶媒に対して、金属元素含有組成物としてLiCoO2をパルプ濃度として10g/Lとなるように加え、60℃、400rpmで撹拌して浸出反応を開始させ、3時間の浸出を行った。
【0052】
<浸出後の深共晶溶媒からのLiおよびCoの回収>
回収部で用いる親水性溶媒として、純水にキレート剤としてシュウ酸を添加したシュウ酸水溶液を調製した。
LiCoO2を浸出した疎水性の深共晶溶媒と所定濃度のシュウ酸水溶液と体積比1:1で接触させ、室温で3時間、ボルテックスで強撹拌した。反応液を遠心分離することにより深共晶溶媒相(DES相)、水相および沈殿に完全に分離した。
水相および深共晶溶媒相中の金属濃度をICP-OESで測定し、マスバランスより各金属の水相、深共晶溶媒相および沈殿中の存在比率を算出した。その結果、金属成分を1種類ずつ分離して回収できたことがわかった。
【0053】
[評価]
<浸出部での浸出効率>
実施例1~8と同様の方法で、実施例11~14における浸出率%Lを求め、浸出部での浸出効率を求めた。
得られた結果を
図5に示した。
図5より、実施例11~14では、金属元素含有組成物に含まれる金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出できたことがわかった。
実施例11~13より、HBTA/TOPO(2:1)中のascA濃度が0.05~0.15mol dm
-3の範囲ではascA濃度の増加に伴って浸出効率は上昇し、[ascA]=0.15mol dm
-3のときLiCoO
2の浸出効率は最大となった。LiCoO
2のパルプ密度が10g/L(10g dm
-3)の条件では約0.1mol dm
-3のCo(III)が存在し、その還元に1当量以上の還元剤を要することが示唆された。
一方、実施例14より、ascAがより高濃度の0.20mol dm
-3になると浸出効率は実施例12および13よりも低下した。これは過剰のascAが反応中にLiCoO
2粉末の表面に付着して浸出を阻害したことに起因すると考えられる。
【0054】
[実施例21~24]
<疎水性の深共晶溶媒の調製>
HBTA/TOPO(2:1)および還元剤AscAを含む疎水性の深共晶溶媒のLCO浸出に及ぼす水分量の影響を検討した。
実施例21では、HBTA/TOPO(2:1)に還元剤として0.10mol dm-3となるようにascAを溶解し、純水を添加せずに調整60℃、400rpmで1時間撹拌して均一溶液とし、水分量0%としたものを疎水性の深共晶溶媒として用いた。
実施例22~24では、HBTA/TOPO(2:1)に還元剤として0.10mol dm-3となるようにascAを溶解し、所定量の純水を添加して60℃、400rpmで1時間撹拌して均一溶液とし、水分量0.5%、1.25%および2.5%としたものを疎水性の深共晶溶媒として用いた。
【0055】
<浸出>
金属回収装置の浸出部に導入された、各実施例で用いる疎水性の深共晶溶媒に対して、金属元素含有組成物としてLiCoO2をパルプ濃度として10g/Lとなるように加え、60℃、400rpmで撹拌して浸出反応を開始させ、3時間の浸出を行った。
【0056】
<浸出後の深共晶溶媒からのLiおよびCoの回収>
回収部で用いる親水性溶媒として、純水にキレート剤としてシュウ酸を添加したシュウ酸水溶液を調製した。
LiCoO2を浸出した疎水性の深共晶溶媒と所定濃度のシュウ酸水溶液と体積比1:1で接触させ、室温で3時間、ボルテックスで強撹拌した。反応液を遠心分離することにより深共晶溶媒相(DES相)、水相および沈殿に完全に分離した。
水相および深共晶溶媒相中の金属濃度をICP-OESで測定し、マスバランスより各金属の水相、深共晶溶媒相および沈殿中の存在比率を算出した。その結果、金属成分を1種類ずつ分離して回収できたことがわかった。
【0057】
[評価]
<浸出部での浸出効率>
実施例1~8と同様の方法で、実施例21~24における浸出率%Lを求め、浸出部での浸出効率を求めた。
得られた結果を
図6に示した。
図6より、実施例21~24では、金属元素含有組成物に含まれる金属成分を、疎水性の深共晶溶媒に直接浸出できたことがわかった。
実施例21より、還元剤としてascAを添加しているにも関わらず、水を添加しない条件ではLiおよびCoいずれも極めて低い浸出効率を示すことがわかった。
実施例22~24より、水分量の増加に伴ってLiおよびCoの浸出効率は劇的に向上した。このことから、水分子の存在はascAによるCo(III)のCo(II)への還元に関与していることが示唆された。ascAの酸化生成物であるデヒドロアスコルビン酸(DHA)は化学的に不安定であり、加水分解やさらなる酸化反応を経てL-スレオン酸やシュウ酸といった最終産物を生じる。添加した水は疎水性の深共晶溶媒中で安定なascA酸化生成物を生じるための加水分解反応で消費されていると考えられる。
【0058】
[実施例31~33]
<疎水性の深共晶溶媒の調製>
回収部で用いる親水性溶媒の種類の影響を検討した。
実施例31~33では、HBTA/TOPO(2:1)に還元剤として0.10mol dm-3となるようにascAを溶解し、所定量の純水を添加して60℃、400rpmで1時間撹拌して均一溶液とし、水分量2.5%としたものを疎水性の深共晶溶媒として用いた。
【0059】
<浸出>
金属回収装置の浸出部に導入された、各実施例で用いる疎水性の深共晶溶媒に対して、金属元素含有組成物としてLiCoO2をパルプ濃度として10g/Lとなるように加え、60℃、400rpmで撹拌して浸出反応を開始させ、3時間の浸出を行った。
【0060】
<浸出後の深共晶溶媒からのLiおよびCoの回収>
回収部で用いる親水性溶媒として、純水にキレート剤としてシュウ酸を添加したシュウ酸水溶液を調製した。
LiCoO
2を浸出した疎水性の深共晶溶媒と所定濃度のシュウ酸水溶液と体積比1:1で接触させ、室温で3時間、ボルテックスで強撹拌した。反応液を遠心分離することにより深共晶溶媒相(DES相)、水相および沈殿に完全に分離した。シュウ酸はCo(II)と反応することで難溶性のCo(C
2O
4)・2H
2Oの桃色沈澱を生じる。また、HBTA/TOPO(2:1)はLiおよびCoに対してpH依存的な抽出曲線を示すことから、いずれの金属もシュウ酸酸性である水相側に回収、すなわち逆抽出される。
実施例31~33では、それぞれシュウ酸水溶液の濃度を1.00M、0.50M、0.25M(mol dm
-3)とした。
水相および深共晶溶媒相中の金属濃度をICP-OESで測定し、マスバランスより各金属の水相(Aqueous)、深共晶溶媒相(DES)および沈殿中(Precipitate)の存在比率を算出した。その結果を
図7に示す。
図7より、実施例31~33では、金属成分を1種類ずつ分離して回収できたことがわかった。詳しくは、いずれのシュウ酸濃度においてもLiは定量的に水相中に回収された。特に、Coは実施例32および33のシュウ酸濃度0.5mol dm
-3以上で99%がシュウ酸塩として沈殿回収された。すなわち、実施例32および33では、各金属成分の回収率および純度がいずれも99%以上であることがわかった。したがって、シュウ酸水溶液を用いることでLiおよびCoいずれも定量的に深共晶溶媒から除去することができ、深共晶溶媒を完全に再生できることが示唆された。
【0061】
[実施例41]
<疎水性の深共晶溶媒の調製>
HBTA/TOPO(2:1)によるLCOの浸出および回収(逆抽出)を繰り返して深共晶溶媒の再利用性を検討した。
実施例41では、HBTA/TOPO(2:1)に還元剤として10mol dm-3となるようにascAを溶解し、所定量の純水を添加して60℃、400rpmで1時間撹拌して均一溶液とし、水分量2.5%に調製したものを疎水性の深共晶溶媒として用いた。
【0062】
<浸出>
金属回収装置の浸出部に導入された、疎水性の深共晶溶媒に対して、金属元素含有組成物としてLiCoO2をパルプ濃度として10g/Lとなるように加え、60℃、400rpmで撹拌して浸出反応を開始させ、3時間の浸出を行った。
【0063】
<浸出後の深共晶溶媒からのLiおよびCoの回収>
回収部で用いる親水性溶媒として、純水にキレート剤としてシュウ酸を添加したシュウ酸水溶液を調製した。
LiCoO2を浸出した疎水性の深共晶溶媒と0.50mol dm-3のシュウ酸水溶液と体積比1:1で接触させ、室温で1時間、ボルテックスで強撹拌した。反応液を遠心分離することにより深共晶溶媒相(DES相)、水相および沈殿に完全に分離した。
水相および深共晶溶媒相中の金属濃度をICP-OESで測定し、マスバランスより各金属の水相、深共晶溶媒相および沈殿中の存在比率を算出した。その結果、深共晶溶媒相(DES相)からCoおよびLi成分を完全に回収できたことがわかった。
【0064】
<金属成分を分離された深共晶溶媒の再利用>
金属成分を分離された深共晶溶媒を再利用部に移動させ、洗浄工程として1mol dm-3のアンモニア水および純水(MilliQ)でそれぞれ30分間ずつ洗浄した。
その後、洗浄後の深共晶溶媒を再利用部から浸出部に移動させ、次のサイクルの浸出に使用した。
以上の浸出、回収および再利用を合計3サイクル行った。
【0065】
[評価]
<再利用した深共晶溶媒による浸出効率および回収効率>
各サイクルでの深共晶溶媒中のCoおよびLi濃度をICP-OESにより測定し、浸出率%Lおよび回収率%Sを検討した。
実施例1と同様の方法で、実施例41の各サイクルにおけるCoおよびLiの浸出率%Lを求め、浸出部での浸出効率を求めた。
各サイクルにおけるCoおよびLiの回収率%Sは、深共晶溶媒からの各金属成分の除去率を示している。回収率%Sは以下の式2から求めた。
【数6】
式2中、%Sは回収率、C
M,S,DESは回収工程における深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
S,DESは回収工程における深共晶溶媒の体積、C
M,L,DESは浸出工程における深共晶溶媒中の金属成分の濃度、V
L,DESは浸出工程における深共晶溶媒の体積を表す。
【0066】
得られた結果を
図8に示した。
図8より、1サイクル目(1st)、2サイクル目(2nd)および3サイクル目(3rd)のいずれでも、金属成分を1種類ずつ分離して回収できたことがわかった。詳しくは、LiおよびCoの浸出効率はサイクルを重ねるにつれ若干低下した。シュウ酸水溶液によるLiおよびCoの回収(逆抽出)はいずれもほぼ100%を示した。以上の結果から、深共晶溶媒がLCOの浸出溶媒として再利用可能であることがわかった。
なお、シュウ酸水溶液と接触したDESには少量のシュウ酸が溶解しておりLCOの浸出の阻害要因となると予想されたが、再利用部での洗浄工程を行うことにより2サイクル目および3サイクル目の浸出効率および回収効率を十分に高められ、深共晶溶媒を再利用しやすくなることがわかった。
【0067】
[実施例42]
実施例41の疎水性の深共晶溶媒の調製および浸出において、固体の粒子状の水素結合供与体(HBD)および水素結合受容体(HBA)をそれぞれ秤量した後に混合せずに、金属回収装置の浸出部で金属元素含有組成物であるLiCoO2に対して、固体の粒子状である水素結合供与体および水素結合受容体をふりかけて直接接触させた以外は実施例41と同様にして、金属の回収を行った。
その結果、実施例41と同等の評価結果となることがわかった。
【0068】
[実施例51および52]
<疎水性の深共晶溶媒の調製>
HBTA/TOPO(2:1)による多様な陽極剤の浸出および回収を検討した。
実施例51および52では、HBTA/TOPO(2:1)に還元剤として10mol dm-3となるようにascAを溶解し、所定量の純水を添加して60℃、400rpmで1時間撹拌して均一溶液とし、水分量2.5%に調製したものを疎水性の深共晶溶媒として用いた。
【0069】
<浸出>
実施例51では、金属回収装置の浸出部に導入された、疎水性の深共晶溶媒に対して、金属元素含有組成物として市販のLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NMC111)をパルプ濃度として10g/Lとなるように加え、60℃、400rpmで撹拌して浸出反応を開始させ、3時間の浸出を行った。なお、NMC111は次世代リチウムイオン電池陽極材のモデル化合物であり、25℃で固体である。
実施例52では、金属元素含有組成物として使用済みのリチウムイオン電池陽極材(spent cathode)を用いた以外は実施例51と同様にして、浸出を行った。使用済みのリチウムイオン電池陽極材(spent cathode)は、車載用のリチウムイオン電池陽極材であって、色々な物から回収した陽極材の粉末を混合したものであり、25℃で固体である。
【0070】
<浸出後の深共晶溶媒からの金属の回収>
回収部で用いる親水性溶媒として、純水にキレート剤としてシュウ酸を添加したシュウ酸水溶液を調製した。
陽極材を浸出した疎水性の深共晶溶媒と0.50mol dm-3のシュウ酸水溶液と体積比1:1で接触させ、室温で1時間、ボルテックスで強撹拌した。反応液を遠心分離することにより深共晶溶媒相(DES相)、水相および沈殿に完全に分離した。
水相および深共晶溶媒相中の金属濃度をICP-OESで測定し、マスバランスより各金属の水相、深共晶溶媒相および沈殿中の存在比率を算出した。
【0071】
[評価]
<浸出効率および回収効率>
浸出率%Lおよび回収率%Sは下式により算出した。
【数7】
各式中、%Lは浸出率、%Sは回収率、C
M,DESはICP-OESによるDES中の金属濃度の測定値[mg dm
-3]、V
DESは浸出に用いた深共晶溶媒の体積[dm
-3]、m
initは陽極材の重量[mg]、R
Mは陽極材中の金属Mの重量比[-]である。下付きLおよびSは、浸出および回収操作を示す。
得られた結果を
図9に示した。
図9中、%Lおよび%Sのそれぞれ4系列の組からなる棒グラフは、左から順にLi、Mn、Co、Niの系列を表す。
図9より、実施例51および52では、金属成分を少なくとも1種類ずつ分離して回収できたことがわかった。詳しくは、NMC111およびSpent cathodeいずれの陽極材からも高効率で金属成分を浸出することができたことがわかった。また、回収部において、浸出後の深共晶溶媒にシュウ酸溶液を接触させることにより、Liは水溶液として分離して回収でき、Ni、MnおよびCoは混合シュウ酸塩として回収できたことがわかった。
【0072】
<浸出後の陽極材の残渣の比較>
比較例53として、実施例52で用いた陽極材と同様の陽極材(Spent cathode)に対して、5MのHClおよび5質量%のH
2O
2による可溶性金属の浸出を行った。
比較例53と、実施例52の深共晶溶媒による浸出後の陽極材(残渣)との違いを、形態および元素分析の点で比較した。
浸出前の陽極材、実施例52の浸出後の陽極材、比較例53の浸出後の陽極材を、X線分光器付き走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)にて観察した電子顕微鏡写真を
図10に示した。
図10中、High mag.は高倍率モード(High-mag mode)での写真であり、Low mag.は低倍率モード(Low-mag mode)での写真である。
浸出前の陽極材、実施例52の浸出後の陽極材、比較例53の浸出後の陽極材を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)による元素分析を行ったEDSチャートをそれぞれ
図11~13に示した。
図11~13より、実施例52および比較例53で用いた陽極材には活物質であるCoやMnの酸化物のほかに、Al、SiおよびTiなどが含まれていることがわかった。実施例52の深共晶溶媒による浸出後では、Al、SiおよびTiが残渣中に残留していることがEDSの結果からわかる。一方、比較例53のHClによる浸出後では、AlおよびTiのピークが小さくなっており、これらの金属がレアメタル(CoやMn)と同時に酸溶液中に浸出していることが示唆された。
したがって、本発明の金属の回収方法である、疎水性の深共晶溶媒による金属浸出および回収が、従来法よりも高効率かつ選択的であり、産業上の利用可能性が高いことが示された。
【0073】
[実施例61]
図14に記載の金属回収装置を用いて、鉱石(リモナイト・サプロライト)からの金属回収を検討した。
HBTA/TOPO(2:1)に還元剤として0.1mol dm
-3となるようにascAを溶解し、所定量の純水を添加して60℃、400rpmで1時間撹拌して均一溶液とし、水分量2.5%に調製したものを疎水性の深共晶溶媒として用いた。
【0074】
<浸出>
金属回収装置の浸出部に導入された、疎水性の深共晶溶媒に対して、金属元素含有組成物として25℃で固体の鉱石(リモナイト・サプロライト)となるように加え、60℃、400rpmで撹拌して浸出反応を開始させ、3時間の浸出を行った。鉱石から、Fe、Ni、Coの選択的浸出ができることがわかった。
【0075】
<洗浄>
金属回収装置の洗浄部に導入された、浸出工程後の疎水性の深共晶溶媒に対して、適切な金属補足剤(0.1~5mol dm-3の水酸化ナトリウムおよび/または亜硫酸ナトリウム)を添加した親水性溶媒を加え、水相に不純物である鉄を沈殿させた。
【0076】
<浸出後の深共晶溶媒からの金属の回収>
回収部で用いる親水性溶媒として、純水にキレート剤としてシュウ酸を添加したシュウ酸水溶液と、硫酸を調製した。
陽極材を浸出した疎水性の深共晶溶媒とシュウ酸水溶液および/または硫酸に接触させ、室温で強撹拌した。反応液を遠心分離することにより深共晶溶媒相(DES相)、水相および沈殿に完全に分離した。
水相より、ニッケル硫酸塩、ニッケルシュウ酸塩、コバルト硫酸塩および/またはコバルトシュウ酸塩を回収し、その後にニッケル酸化物およびコバルト酸化物を得た。
【0077】
<金属成分を分離された深共晶溶媒の再利用>
金属成分を分離された深共晶溶媒を再利用部に移動させ、洗浄工程として1mol dm-3のアンモニア水および純水(MilliQ)でそれぞれ洗浄した。
その後、洗浄後の深共晶溶媒を再利用部から浸出部に移動させ、次のサイクルの浸出に使用した。
以上の浸出、回収および再利用を合計3サイクル行った。
実施例61より、各サイクルで金属塩を回収することができ、深共晶溶媒が鉱石(リモナイト・サプロライト)の浸出溶媒として有用であり、かつ再利用可能であることがわかった。