(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002303
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】水性外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/455 20060101AFI20221227BHJP
A61K 31/23 20060101ALI20221227BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221227BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221227BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221227BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
A61K31/455
A61K31/23
A61P9/00
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K47/10
A61K9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103470
(22)【出願日】2021-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】富岡 寿也
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA12
4C076BB31
4C076DD37
4C076DD37Q
4C076FF36
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC19
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA28
4C086MA63
4C086NA03
4C086ZA36
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB06
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA37
4C206MA48
4C206MA83
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明は、ミリスチン酸のエステル誘導体1重量部に対して0.005重量部以上のニコチン酸のエステル誘導体を含む水性外用組成物において、分離を抑制できる製剤処方を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)ニコチン酸のエステル誘導体及び(B)ミリスチン酸のエステル誘導体を含み、前記(B)成分1重量部に対する前記(A)成分の含有量が0.005重量部以上である水性外用組成物において、前記(A)及び前記(B)成分とともに(C)メントールを共存させると、水性外用組成物の分離が抑制される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ニコチン酸のエステル誘導体、(B)ミリスチン酸のエステル誘導体、及び(C)メントールを含み、前記(B)成分1重量部に対する前記(A)成分の含有量が0.005重量部以上である、水性外用組成物。
【請求項2】
前記(A)成分がニコチン酸ベンジルエステルである、請求項1に記載の水性外用組成物。
【請求項3】
前記(B)成分がミリスチン酸イソプロピルである、請求項1又は2に記載の水性外用組成物。
【請求項4】
前記(A)成分の含有量が0.011重量%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の水性外用組成物。
【請求項5】
前記(A)成分1重量部に対する前記(C)成分の含有量が4重量部以上である、請求項1~4のいずれかに記載の水性外用組成物。
【請求項6】
ローション剤、乳液剤、ゲル剤、又はクリーム剤である、請求項1~5のいずれかに記載の水性外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中にニコチン酸のエステル誘導体及びミリスチン酸のエステル誘導体を所定の比率で含みながらも、分離が抑制された水性外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチン酸ベンジルエステル等のニコチン酸エステル誘導体は、血行促進作用を有する薬剤として知られており、外用組成物としても使用されている。また、ニコチン酸エステル誘導体は水にほとんど溶けないため、特許文献1及び2等に示されるように、エタノールやイソプロパノールを用いた水性組成物として製剤化されている。
【0003】
また、ミリスチン酸イソプロピル等のミリスチン酸エステル誘導体は、経皮吸収促進剤として知られている油性成分であり、特許文献3及び4等に示されるように、外用貼付剤等において有効成分とともに配合されて用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-200909号公報
【特許文献2】特開2018-104369号公報
【特許文献3】国際公開第2004/084946号
【特許文献4】国際公開第2011/049038号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、ニコチン酸のエステル誘導体を一価低級アルコールとともに含む水性外用組成物においてニコチン酸のエステル誘導体の効力を高めるために、経皮浸透促進剤であるミリスチン酸のエステル誘導体を配合しつつ、ニコチン酸のエステル誘導体の含有量が多くなるように設計した。しかしながら、ニコチン酸のエステル誘導体とミリスチン酸のエステル誘導体とがいずれも低級一価アルコールに溶解するにもかかわらず、ミリスチン酸のエステル誘導体1重量に対してニコチン酸のエステル誘導体の比率が0.005重量部以上になると、顕著な分離が生じるという課題に直面した。
【0006】
そこで本発明は、ミリスチン酸のエステル誘導体1重量部に対して0.005重量部以上のニコチン酸のエステル誘導体を含む水性外用組成物において、分離を抑制できる製剤処方を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討の結果、ミリスチン酸のエステル誘導体1重量部に対して0.005重量部以上のニコチン酸のエステル誘導体を含む水性外用組成物においてメントールを配合することによって、分離を抑制し得ることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)ニコチン酸のエステル誘導体、(B)ミリスチン酸のエステル誘導体、及び(C)メントールを含み、前記(B)成分1重量部に対する前記(A)成分の含有量が0.005重量部以上である、水性外用組成物。
項2. 前記(A)成分がニコチン酸ベンジルエステルである、項1に記載の水性外用組成物。
項3. 前記(B)成分がミリスチン酸イソプロピルである、項1又は2に記載の水性外用組成物。
項4. 前記(A)成分の含有量が0.011重量%以上である、項1~3のいずれかに記載の水性外用組成物。
項5. 前記(A)成分1重量部に対する前記(C)成分の含有量が4重量部以上である、項1~4のいずれかに記載の水性外用組成物。
項6. ローション剤、乳液剤、ゲル剤、又はクリーム剤である、項1~5のいずれかに記載の水性外用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ミリスチン酸のエステル誘導体1重量部に対して0.005重量部以上のニコチン酸のエステル誘導体を含む水性外用組成物において、分離を抑制できる製剤処方が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水性外用組成物は、(A)ニコチン酸のエステル誘導体(以下、「(A)成分」と表記することもある)、(B)ミリスチン酸のエステル誘導体(以下、「(B)成分」と表記することもある)、及び(C)メントール(以下、「(C)成分」と表記することもある)を含み、前記(B)成分1重量部に対する前記(A)成分の含有量が0.005重量部以上であることを特徴とする。以下、本発明の水性外用組成物について詳述する。
【0011】
(A)ニコチン酸のエステル誘導体
本発明の水性外用組成物は、(A)成分としてニコチン酸のエステル誘導体を含有する。ニコチン酸のエステル誘導体は、血行促進作用、細胞賦活作用等が知られている公知の成分である。
【0012】
ニコチン酸のエステル誘導体は、ニコチン酸とアルコールとのエステルであり、具体的には、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β-ブトキシエチルエステル、ニコチン酸メチルエステル等が挙げられる。これらのニコチン酸のエステル誘導体は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのニコチン酸のエステル誘導体の中でも、好ましくはニコチン酸ベンジルエステルが挙げられる。
【0013】
本発明の水性外用組成物における(A)成分の含有量は、(B)成分1重量部に対して0.005重量部以上となる量である。水性外用組成物において、(B)成分1重量部に対して0.005重量部以上となる量の(A)成分が含まれていると、本来的には分離を生じるが、本発明の水性外用組成物では、分離が抑制されている。
【0014】
本発明の水性外用組成物は分離抑制効果に優れているため、(B)成分1重量部に対する(A)成分の含有量が多くても効果的に分離を抑制することができる。このような観点から、(B)成分1重量部に対する(A)成分の含有量の好適な例としては、0.007重量部以上、0.009重量部以上、0.012重量部以上、0.02重量部以上、0.03重量部以上、0.04重量部以上、0.05重量部以上、0.06重量部以上、0.07重量部以上、又は0.08重量部以上が挙げられる。
【0015】
(B)成分1重量部に対する(A)成分の含有量の上限としては特に限定されないが、例えば0.2重量部以下、0.15重量部以下、0.1重量部以下、又は0.09重量部以下が挙げられる。
【0016】
本発明の水性外用組成物における(A)成分の具体的な含有量は、水性外用組成物に備えさせるべき薬効等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.005重量%以上が挙げられ、好ましくは0.008重量%以上、より好ましくは0.011重量%以上、さらに好ましくは0.018重量%以上、一層好ましくは0.03重量%以上が挙げられる。(A)成分の具体的な含有量の上限としては、例えば0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.03重量%以下が挙げられる。
【0017】
(B)ミリスチン酸のエステル誘導体
本発明の水性外用組成物は、(B)成分としてミリスチン酸のエステル誘導体を含有する。ミリスチン酸のエステル誘導体は、経皮浸透促進作用等が知られている公知の成分である。
【0018】
ミリスチン酸のエステル誘導体は、ミリスチン酸とアルコールとのエステルであり、具体的には、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ミリスチン酸オクチルドデシル等が挙げられる。これらのミリスチン酸のエステル誘導体は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのミリスチン酸のエステル誘導体の中でも、好ましくはミリスチン酸イソプロピルが挙げられる。
【0019】
本発明の水性外用組成物における(B)成分の含有量については、上記の(B)成分1重量部に対する(A)成分の含有量(重量部)、及び(A)成分の具体的な含有量(重量%)に応じて定まるが、例えば1~8重量%、好ましくは2~6重量%が挙げられる。
【0020】
(C)メントール
本発明の水性外用組成物は、(C)成分としてメントールを含む。メントールとしては、d体、l体、dl体のいずれであってもよい。また、メントールの配合のために、メントールを含む精油が配合されていてもよい。
【0021】
本発明の水性外用組成物における(C)成分の含有量については特に限定されないが、例えば1重量%以上が挙げられ、分離抑制効果をより一層高める観点から、好ましくは2.5重量%以上、より好ましくは3.5重量%以上、さらに好ましくは4.5重量%以上、一層好ましくは5.5重量%以上が挙げられる。(C)成分の含有量の上限としては特に限定されないが、例えば8重量%以下、7重量%以下、又は6.5重量%以下が挙げられる。
【0022】
本発明の水性外用組成物において、(A)成分と(C)成分との比率については、上記各成分の含有量に応じて定まるが、分離抑制効果をより一層高める観点から、(A)成分1重量部に対する(C)成分の含有量として、好ましくは4重量部以上、より好ましくは10重量部以上、さらに好ましくは50重量部以上、一層好ましくは70重量部以上、より一層好ましくは100重量部以上、150重量部以上、200重量部以上、250重量部以上、300重量部以上、400重量部以上、又は500重量部以上が挙げられる。(A)成分1重量部に対する(C)成分の含有量の上限としては特に限定されないが、例えば600重量部以下、550重量部以下、450重量部以下、350重量部以下、又は250重量部以下が挙げられる。
【0023】
水
本発明の水性外用組成物は、水を含有する。水としては特に制限されず、精製水、蒸留水、イオン交換水、超純水、滅菌水などが挙げられ、好ましくは精製水が挙げられる。
【0024】
水の含有量としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、5~0重量%、好ましくは10~30重量%が挙げられる。
【0025】
その他の成分
本発明の水性外用組成物には、本発明の効果を妨げない限り、前述する成分の他に、必要に応じて、他の薬理成分を含んでいてもよい。本発明の水性外用組成物に配合可能な他の薬理成分については、特に制限されないが、例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルリチン酸ステアリル、インドメタシン、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェンナトリウム等の抗炎症剤;ジフェニルイミダゾール、ジフェンヒドラミン及びその薬学的に許容される塩、マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤;リドカイン及びその薬学的に許容される塩、ジブカイン及びその薬学的に許容される塩、アミノ安息香酸エチル等の局所麻酔剤;カプサイシノイド(具体的には、ノナン酸バニリルアミド;及びカプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン等のカプサイシン類等)、酢酸トコフェロール等の血行促進剤(上記(A)成分以外);アルニカチンキ、オウバクエキス、サンシシエキス、セイヨウトチノキエキス、ロートエキス、ベラドンナエキス、トウキエキス、シコンエキス、サンショウエキス等の生薬等が挙げられる。
【0026】
更に、本発明の水性外用組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、水性外用組成物に通常使用される溶剤や他の添加剤が含まれていてもよい。このような溶剤としては、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール等の炭素数1~5の一価低級アルコールが挙げられ、好ましくはエタノール及びイソプロパノールが挙げられ、より好ましくはエタノールが挙げられる。本発明の水性外用組成物において、上記一価低級アルコールの含有量としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、60~80重量%が挙げられる。また、添加剤としては、例えば、pH調節剤、界面活性剤、乳化剤、可溶化剤、防腐剤、保存剤、酸化防止剤、安定化剤、キレート剤、増粘剤、香料、着色料等が挙げられる。
【0027】
製剤形態
本発明の水性外用組成物の製剤形態については、経皮適用可能であることを限度として特に制限されない。本発明の水性外用組成物は分離が抑制されているため有効成分が良好に溶解性しており、これによって、どのような製剤形態であっても、有効成分を有効に作用させることができる。
【0028】
本発明の水性外用組成物の製剤形態の具体例としては、液剤(ローション剤、スプレー剤、エアゾール剤、及び乳液剤が挙げられる)、フォーム剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、貼付剤等が挙げられ、好ましくは、ローション剤、乳液剤、ゲル剤、又はクリーム剤が挙げられる。これらの製剤形態への調製は、第十七改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法に従って、製剤形態に応じた添加剤を用いて製剤化することにより行うことができる。
【実施例0029】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
試験例1
表2~4に示す組成の水性外用組成物(ローション剤)を調製し、調製完了時における分離の程度について、以下の基準で評価した。
【0031】
[分離抑制性効果の評価]
調製した水性外用組成物10gを、胴径21mmの透明スクリュー管に入れ、側面から外観を目視し、表1の基準に基づいて分離抑制性効果を評価した。スコアが5以上であれば、所定の分離抑制効果を奏しており、スコアが高いほど分離抑制効果が高い。結果を表2~4に示す。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
表2~4に示すように、ミリスチン酸イソプロピルに対するニコチン酸ベンジルエステルの比率(表中、「(A)/(B)」で示される数値)が参考例2~4に示す程度であれば、顕著な分離は生じないが、当該比率が比較例1~5に示す程度になると、分離が顕著となった。中でも、ミリスチン酸イソプロピルに対するニコチン酸ベンジルエステルの比率である(A)/(B)が0.01以上である比較例3~5では分離が特に顕著となった。一方で、比較例1~5に示す程度の当該比率を有する組成にさらにメントールを加えることで、実施例1~13に示すように、高い分離抑制効果が奏された。また、実施例1~13のエタノールの含有量を60重量%又は80重量%に変更した場合においても実施例1~13と同様に分離抑制効果が奏された。