(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023094
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置
(51)【国際特許分類】
B24C 1/00 20060101AFI20230209BHJP
B24C 9/00 20060101ALI20230209BHJP
B24C 5/06 20060101ALN20230209BHJP
【FI】
B24C1/00 B
B24C9/00 Z
B24C5/06 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128298
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 明典
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 尚男
(57)【要約】
【課題】被処理物を安定した温度で効果的に冷却して脆化させることができ、被処理物を損傷させることなく、短時間且つ低コストでバリ取り処理を行うことが可能な冷凍バリ取り方法、それを用いた成型品の製造方法、並びに、冷凍バリ取り装置を提供する。
【解決手段】冷媒によって冷却される処理室と、処理室の内部空間に配置され、内部に被処理物を収容するバケットと、被処理物に向けてショット材を投射するショット機とを備えた冷凍バリ取り装置を用いて前記被処理物のバリ取りを行う方法であって、処理室の内部温度を測定し、測定した内部温度と、予め設定した予冷温度とに基づいて冷媒の噴射量を増減させながら、処理室の内部を予冷する予冷工程と、予め冷却された処理室に被処理物を投入してバリ取りをするバリ取り工程とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒によって冷却される処理室と、
前記処理室の内部空間に配置され、内部に被処理物を収容するバケットと、
前記被処理物に向けてショット材を投射するショット機と、を備えた冷凍バリ取り装置を用いて前記被処理物のバリ取りを行う方法であって、
前記処理室の内部温度を測定し、測定した内部温度と、予め設定した予冷温度とに基づいて冷媒の噴射量を増減させながら、前記処理室の内部を予冷する予冷工程と、
予め冷却された前記処理室に前記被処理物を投入してバリ取りをするバリ取り工程と、を有することを特徴とする冷凍バリ取り方法。
【請求項2】
前記予冷工程は、前記冷凍バリ取り装置を空運転の状態で冷却する請求項1に記載の冷凍バリ取り方法。
【請求項3】
前記予冷工程が、複数の予冷ステップを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の冷凍バリ取り方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の冷凍バリ取り方法によって成型品のバリを除去することを特徴とする成型品の製造方法。
【請求項5】
冷媒によって冷却される処理室と、
前記処理室の内部空間に配置され、内部に被処理物を収容するバケットと、
前記被処理物に向けてショット材を投射するショット機と、を備えた冷凍バリ取り装置であって、
前記バケットは、内部に前記被処理物を収容した状態で前記バケットを回転させるためのバケット駆動部と、前記バケットの回転数を測定するバケット回転センサとを有しており、
前記ショット機は、ショット機駆動部によって回転し、前記ショット材を吸い上げながら、前記被処理物に向けて前記ショット材を投射するインペラと、前記インペラの回転数を測定するインペラ回転センサとを有しており、
さらに、
前記処理室の内部温度を測定する温度センサと、
前記冷媒の、前記処理室の内部空間への噴射量を調整するバルブと、
前記温度センサで測定された内部温度、前記バケット回転センサで測定された前記バケットの回転数、及び、前記インペラ回転センサで測定された前記インペラの回転数の各々の測定信号に基づき、前記インペラの回転数、前記バケットの回転数、及び、前記バルブの開度を制御する制御部と、
を備え、
前記温度センサが、前記処理室内における前記バケットの下方に配置されていることを特徴とする冷凍バリ取り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製品や金属製品等(以下、被処理物と称する場合がある。)のバリを除去する装置として、例えば、冷凍した処理室内に配置されたバケット中に被処理物を投入し、ばバケットを回転させながら被処理物に向けてショット材を投射することにより、バリ取りを行う冷凍バリ取り装置が提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0003】
上記のような冷凍バリ取り装置は、冷凍設備によって処理室内を冷却し、回転するバケットに収容された被処理物を冷却することで脆化させながら、被処理物に向けてショット材を投射して衝突させ、加工過程で被処理物に残存したバリを除去する。
【0004】
また、冷凍バリ取り装置は、処理室の前面側に開閉可能な扉が配置され、この扉を開放することで、バケットへの被処理物の投入、並びに、バリ取りが完了した被処理物の装置外への搬出を実施するとともに、被処理物のバリ取り処理中は、扉を閉めて処理室内を密閉することで、被処理物の冷却効率を高めることが可能な構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-86215号公報
【特許文献2】特開平7-100767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載されたような冷凍バリ取り装置を用いて被処理物をバリ取り処理する場合、一般的に、処理室内の温度は被処理物の脆化の度合を左右することから、処理室の内部温度のバラつきは出来るだけ小さいことが好ましい。
【0007】
しかしながら、従来の冷凍バリ取り装置を用いた方法では、処理室内の温度が初期の常温である状態からバリ取り処理を開始するため、処理室内の温度が不安定な状態でバリ取り処理を行う場合があった。その結果、従来の冷凍バリ取り装置を用いた方法においては、十分に脆化していない被処理物にショット材を衝突させることとなり、バリが除去され難いという問題があった。この場合、例えば、冷凍バリ取り装置の稼働時間を長めにして、バリ取り処理を長時間にわたって行うことでバリを確実に除去することも考えられるが、長時間にわたってバリ取り処理を行うと、被処理物が損傷するおそれがあった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、被処理物を安定した温度に冷却して脆化を促進させることができ、被処理物に損傷が生じることなく、短時間且つ低コストでバリ取り処理を行うことが可能な冷凍バリ取り方法、それを用いた成型品の製造方法、並びに、冷凍バリ取り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた。この結果、処理室の内部温度と、予め設定した予冷温度とに基づいて処理室内を予冷する予冷工程と、予冷された処理室に被処理物を投入してバリ取りをするバリ取り工程とを備えた方法を採用することにより、被処理物を安定した温度に冷却して脆化を促進させ、被処理物に損傷が生じることなく、短時間且つ低コストでバリ取り処理を行うことが可能となることを見いだし、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、請求項1に係る発明は、冷媒によって冷却される処理室と、前記処理室の内部空間に配置され、内部に被処理物を収容するバケットと、前記被処理物に向けてショット材を投射するショット機と、を備えた冷凍バリ取り装置を用いて前記被処理物のバリ取りを行う方法であって、前記処理室の内部温度を測定し、測定した内部温度と、予め設定した予冷温度とに基づいて冷媒の噴射量を増減させながら、前記処理室の内部を予冷する予冷工程と、予め冷却された前記処理室に前記被処理物を投入してバリ取りをするバリ取り工程と、を有することを特徴とする冷凍バリ取り方法を提供する。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の冷凍バリ取り方法であって、前記予冷工程は、前記冷凍バリ取り装置を空運転の状態で冷却する冷凍バリ取り方法である。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の冷凍バリ取り方法であって、前記予冷工程が、複数の予冷ステップを有することを特徴とする冷凍バリ取り方法である。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1~請求項3の何れかに記載の冷凍バリ取り方法によって成型品のバリを除去することを特徴とする成型品の製造方法である。
【0014】
また、請求項5に係る発明は、冷媒によって冷却される処理室と、前記処理室の内部空間に配置され、内部に被処理物を収容するバケットと、前記被処理物に向けてショット材を投射するショット機と、を備えた冷凍バリ取り装置であって、前記バケットは、内部に前記被処理物を収容した状態で前記バケットを回転させるためのバケット駆動部と、前記バケットの回転数を測定するバケット回転センサとを有しており、前記ショット機は、ショット機駆動部によって回転し、前記ショット材を吸い上げながら、前記被処理物に向けて前記ショット材を投射するインペラと、前記インペラの回転数を測定するインペラ回転センサとを有しており、さらに、前記処理室の内部温度を測定する温度センサと、前記冷媒の、前記処理室の内部空間への噴射量を調整するバルブと、前記温度センサで測定された内部温度、前記バケット回転センサで測定された前記バケットの回転数、及び、前記インペラ回転センサで測定された前記インペラの回転数の各々の測定信号に基づき、前記インペラの回転数、前記バケットの回転数、及び、前記バルブの開度を制御する制御部と、を備え、前記温度センサが、前記処理室内における前記バケットの下方に配置されていることを特徴とする冷凍バリ取り装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る冷凍バリ取り方法によれば、上記の予冷工程を備えることにより、冷凍バリ取り装置全体の温度が安定した状態となってからバリ取り処理を開始する方法を採用している。
本発明によれば、上記方法を採用することで、被処理物の温度が低温で安定し、被処理物の脆化が促進されることから、効率的にバリを除去できる。これにより、バリ取り時間が短縮され、冷媒の消費量を抑制できる。また、被処理物にショット材が衝突する時間を短縮することで、被処理物が過度に研磨されて損傷が生じるのを抑制できる。
従って、被処理物を安定した温度に冷却して脆化を促進させることができ、被処理物を損傷させることなく、短時間且つ低コストでバリ取り処理を行うことが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る成型品の製造方法によれば、上述した本発明に係る冷凍バリ取り方法を用いて成型品のバリ取り処理を行い、成型品を製造する方法を採用している。
本発明によれば、上記同様、冷凍バリ取り装置全体の温度が低温で安定した状態からバリ取りを開始することにより、被処理物である成型品の温度が低温で安定し、脆化が促進されることから、効率的にバリを除去できる。これにより、バリ取り時間が短縮され、成型品にショット材が衝突する時間を短縮できるので、成型品が過度に研磨されて損傷が生じるのを抑制することが可能になる。
【0017】
また、本発明に係る冷凍バリ取り装置によれば、上記のような、処理室の内部温度、バケットの回転数及びインペラの回転数の各々に基づき、インペラの回転数、バケットの回転数及びバルブの開度を制御する制御部を備えた構成を採用している。
本発明によれば、上記構成を採用することで、冷凍バリ取り装置全体の温度が安定してからバリ取り処理を開始する場合に、被処理物の温度が低温でさらに安定し、被処理物の脆化がより促進されるので、効率的にバリを除去できる。これにより、上記同様、バリ取り時間が短縮されることで冷媒の消費量を抑制でき、且つ、被処理物にショット材が衝突する時間が短縮されることで、被処理物が過度に研磨されて損傷が生じるのを効果的に抑制できる。
さらに、温度センサが処理室内におけるバケットの下方に配置されていることにより、ショット材や冷媒が温度センサに直接的には触れ難くなるので、処理室の内部温度の測定誤差を最小限に抑制できる。これにより、処理室の内部温度を正確に測定することができるので、冷凍バリ取り装置全体における制御処理の精度が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態である冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置について模式的に説明する図であり、冷凍バリ取り装置の内部構成を示す破断図である。
【
図2】本発明の一実施形態である冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置について模式的に説明する図であり、冷凍バリ取り装置内における電気的接続構成を概略で示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態である冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置について模式的に説明する図であり、冷凍バリ取り方法に備えられる各工程を概略で示すフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態である冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置について模式的に説明する図であり、冷凍バリ取り方法に備えられる予冷工程を詳細に示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態である冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置について模式的に説明する図であり、予冷工程における冷却時間と処理室の内部温度との関係を概略で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した一実施形態である冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置について、
図1~
図5を適宜参照しながら説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするため、便宜上、特徴となる部分を拡大あるいは簡略化して示している場合がある。また、以下の説明において例示される材料等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
本実施形態の冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置によってバリ取り処理が施される被処理物(成型品)Mとしては、特に限定されないが、例えば、プラスチック成型品やゴム成型品等のような樹脂製品、又は、ダイカスト成型品等の金属製品が挙げられる。
即ち、例えば、加熱した樹脂、ゴム又は金属を型によって所定の形状に固化した成型品は、一般に、型の合わせ目に対応する位置にバリが生じているが、本実施形態の冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置は、このようなバリを効率的に除去できるものである。
【0021】
<冷凍バリ取り装置>
以下、本実施形態の冷凍バリ取り方法で用いられる冷凍バリ取り装置の構成について詳述する。
図1は、本実施形態の冷凍バリ取り装置1の全体の外観を示す斜視図である。また、
図2は、冷凍バリ取り装置1内における電気的接続構成を概略で示すブロック図である。
【0022】
本実施形態の冷凍バリ取り装置1は、図視略の冷媒によって冷却される処理室2と、処理室2の内部空間Dに配置されるとともに、被処理物Mが投入される投入口3aが開口して設けられ、内部に被処理物Mを収容するバケット3と、被処理物Mに向けてショット材Sを投射するショット機4と、を備えて概略構成される。
【0023】
また、本実施形態の冷凍バリ取り装置1は、内部に被処理物Mを収容した状態でバケット3を回転させるためのギアボックス(バケット駆動部)32と、バケット3の回転数R1を測定するバケット回転センサ35とを有している。
また、ショット機4は、インペラ回転用モータ(ショット機駆動部)43によって回転し、ショット材Sを吸い上げながら、被処理物Mに向けてショット材Sを投射するインペラ42と、インペラの回転数R2を測定するインペラ回転センサ44とを有している。
【0024】
さらに、本実施形態では、処理室2の内部温度を測定する温度センサ29と、図示略の冷媒の、処理室2の内部空間Dへの噴射量を調整するバルブ28bと、温度センサ29で測定された内部温度T、バケット回転センサ35で測定されたバケット3の回転数R1、及び、インペラ回転センサ44で測定されたインペラ42の回転数R2の各々の測定信号に基づき、インペラ42の回転数R2、バケット3の回転数R1、及び、バルブ28bの開度を制御する制御部13と、を備える。
【0025】
そして、本実施形態の冷凍バリ取り装置1は、温度センサ29が、処理室2内におけるバケット3の下方に配置されている。
【0026】
また、本実施形態の冷凍バリ取り装置1には、上記の各構成に加え、さらに、排気部11と、上記のバルブ28bを含むとともに、冷媒供給管28a及び冷媒を噴射するノズル28cとを有する冷媒供給部28と、処理室2の開口部21を開閉する扉5とが備えられている。
上記の各構成要素は、冷凍バリ取り装置1全体の枠組体となる筐体10に組み付けられるか、あるいは、筐体10に収容されるように備えられる。
【0027】
処理室2は、内部に備えられるバケット3に収容された被処理物Mを冷凍しながら、内部空間Dで被処理物Mのバリ取り処理を実施するものである。
処理室2は、例えば、ステンレス材料からなる内壁板と外壁板との間に発泡スチレンやフォーミング材等の断熱材が介装され、断熱構造を有した複合板2Aによって、
図1に示すような内部空間Dが確保された構成を採用できる。
【0028】
処理室2には、冷凍バリ取り装置1の前面側に開口した開口部21が設けられ、この開口部21からバケット3が外部に露出することで、バケット3に収容するバリ取り処理前の被処理物Mの搬入、並びに、バリ取り処理が完了した被処理物Mの搬出が可能な構成とされている。即ち、図示例においては、開口部21が、扉5によって開閉可能に覆われており、バケット3への被処理物Mの搬入又は搬出を行う際に、扉5を開閉できるように構成されている。
【0029】
また、処理室2における開口部21の平面視で外側には、平面視囲繞形状で図視略のプレートが配置されており、このプレートの表面には、図示略のシール固定板及びボルトによって図視略のシール材が固定されている。
【0030】
処理室2の底部側は、排出孔24を有したホッパ25とされており、排出孔24から、被処理物Mから除去された図視略のバリ等の廃棄物、及び、使用したショット材Sの両方を、後述の選別器7に向けて送り込むことが可能な構造とされている。
【0031】
処理室2には、上述した冷媒供給部28が接続されており、この、冷媒供給部28から処理室2の内部に向けて図示略の冷媒を供給することで、処理室2(内部空間D)が冷却される構成とされている。冷媒供給部28としては、例えば、冷媒を貯留するタンクに加え、バルブ28bが介装された冷媒供給管28aと、処理室2の内部空間Dに向けて冷媒を噴射するノズル28cとからなるものを採用できる。
【0032】
上記の冷媒供給部28は、
図1中に示す例において、バケット3の下方に配置した温度センサ29で測定される処理室2の内部温度Tに応じて、制御部13からに指令によってバルブ28bが自動的に開閉されることで、処理室2の温度を自動調整できる。このような処理室2の温度の調整は、例えば、制御部13に備えられる図示略の操作パネルを操作して冷却温度を設定することで、制御部13によって行われる。
【0033】
バルブ28bは、上述したように、冷媒供給部28を構成するタンクとノズル28cとの間に、冷媒供給管28aを介して設けられており、ノズル28cから噴射される冷媒の噴射量を調整する。バルブ28bは、制御部13からの制御信号を受けて動作することから、例えば、電磁バルブ等から構成されることが好ましい。
【0034】
上述した冷媒の噴射量は、例えば、測定した処理室2の内部温度Tと、予め設定した予冷温度PTとに基づき、バルブ28bをオンオフ制御することで増減することができる。例えば、処理室2の内部温度Tが予冷温度PTよりも高い場合には、バルブ28bを全開にすることで、処理室2の内部温度Tを低下させることができる。一方、処理室2の内部温度Tが予冷温度PTよりも低い場合には、バルブ28bを全閉にすることで、処理室2の温度を上昇させることができる。
【0035】
処理室2の冷却、ひいては被処理物Mの冷却に用いる冷媒としては、被処理物Mを脆化温度以下に冷却でき、且つ、不活性な物質を使用することができ、例えば、液化窒素、液化炭酸ガス等の液化不活性ガスからなる冷媒が挙げられる。
【0036】
さらに、本実施形態では、
図1に示す例のように、処理室2内で発生した冷媒を含む気化ガスを大気中に放出するための配管からなる排気部11を備えた構成を採用できる。排気部11としては、排気管に加え、さらに、大気の処理室2内への流入を制限する図視略のダンパと、処理室2内で発生した塵埃を集塵する図視略の集塵機とを備えた構成を採用できる。
【0037】
温度センサ29は、上述したように、処理室2の内部温度Tを測定するものであり、この測定値は、図示略のA/D(アナログ/デジタル)変換器を介して制御部13に送信される。図示例においては、温度センサ29は、処理室2を構成するホッパ25の、バケット3の真下付近に配置されている。即ち、温度センサ29は、バケット3の下方であって、詳細を後述するショット機4から投射されるショット材Sや、ノズル28cから噴射された冷媒が、直接的に流れ着くことのない位置に配置される。これにより、ショット材Sや冷媒が温度センサ29に直接的には触れ難くなるので、処理室2の内部温度Tの測定誤差を最小限に抑制できる。これにより、処理室2の内部温度Tを正確に測定することができるので、詳細を後述するように、冷凍バリ取り装置1全体における制御処理の精度が高められる。
具体的には、ショット材Sや冷媒は、一般に、バケット3の外面や処理室2の壁面に一度接触した後に、間接的に温度センサ29に接触する形となるため、温度センサ29による測定値に与える影響を最小限に抑制することが可能となる。
【0038】
温度センサ29を構成する温度測定手段としては、特に限定されず、バリ取り処理を行う際の温度を測定可能なものであれば如何なるものであっても採用することができ、例えば、一般的な熱電対からなるもの等が挙げられる。
【0039】
バケット3は、処理室2内に設置され、内部に被処理物Mを収容しながら軸線を中心に回転する、底部側の側壁が膨らんだ概略筒状の籠状部材からなる。バケット3の材料には、例えば、詳細を後述するショット機4から投射されるショット材Sが通過可能な透孔を有する多孔板等が用いられる。
【0040】
上述したように、本実施形態の冷凍バリ取り装置1は、内部に被処理物Mを収容した状態でバケット3を回転させるギアボックス32と、バケット3の回転数を測定するバケット回転センサ35とを有している。
【0041】
また、本実施形態でも用いられるバケット3は、一対の回動軸32c、32cの他端側が取り付けられたギアボックス32に対し、水平方向に回動可能に取付けられることで、処理室2の内部空間D内に浮かぶように設置されている。一対の回動軸32c、32cの一端側は、筐体10の両側壁に、一対の回動軸32c、32cが同一軸心となるように取り付けられている。
【0042】
ギアボックス32の内部には、このギアボックス32と一体に設けられるバケット回転用モータ(バケット駆動部)32aの回転運動を、このバケット回転用モータ32aに接続された回転伝達軸を介して、筒状のバケット3を、軸線を中心として正逆転方向で回転させる回転伝達機構が備えられている。この回転伝達機構は、例えば、図視略の回転伝達軸に取付けられる小傘歯車と、この小傘歯車と噛み合うように回転可能に設けられる大傘歯車と、この大傘歯車に一端部が固定され、他端部がバケット3の底面に取付けられるバケット軸32bとから構成される。
また、バケット回転用モータ32aは、制御部13によって回転数が制御される。
【0043】
また、筐体10内には、上記の一方の回動軸32cを回動させることで、バケット3の投入口3aを処理室2内の所望の位置に移動させるか、バケット3の投入口3aを開口部21よりも装置外方へ移動させ、被処理物Mをバケット3内に搬入あるいは搬出できる位置に配置することが可能な、図視略のバケット回動手段が備えられている。
【0044】
上記のバケット回動手段は、詳細な図示は省略するが、例えば、正・逆回転が可能なバケット回動用モータと、このバケット回動用モータの駆動軸に接続され、該駆動軸の軸心方向とは直角方向に出力される出力軸と、この出力軸に取付けられる駆動プーリーと、この駆動プーリーと対応する位置の一方の回動軸32cに取り付けられるプーリーと、このプーリーと上記の駆動プーリーに掛け渡されたベルトとから構成される。さらに、バケット回動手段は、例えば、バケット3の位置が、ショット材Sが投射される位置、バリ取りする被処理物Mの投入位置、及び、バリ取りされた被処理物Mの排出位置の各位置を検出して、上記のバケット駆動用モータを停止させるための、上記のプーリーを用いたセンサを備えた構成とすることができる。
【0045】
バケット回転センサ35は、上述したように、バケット3が軸線を中心として回転する際の回転数R1を測定するものであり、この回転数R1の測定信号は、A/D変換器等を介して制御部13に送信される。
バケット回転センサ35に用いる回転数測定手段としては、特に限定されず、一般的な回転数検出素子等を何ら制限無く用いることができる。
【0046】
扉5は、処理室2の開口部21を開閉するものであり、例えば、図視略の蝶番部材によって開閉自在に構成される。即ち、扉5は、被処理物Mをバケット3内に搬入あるいは搬出する際に、作業者あるいは図視略の自動開閉機構によって開閉動作が行われる。扉5は、処理室2内で被処理物Mにバリ取り処理を施す際、処理室2の開口部21を覆うことで内部空間D並びに被処理物Mの冷却効率を向上させることにより、効果的なバリ取り処理が可能になるという効果を奏する。
【0047】
扉5は、例えば、処理室2の開口部21に対して、所謂プルダウン方式で開閉する構造を有していてもよいし、あるいは、他の構造を採用してもかまわない。
【0048】
選別器7は、処理室2に備えられたホッパ25(排出孔24)から下方に落下するバリ等の廃棄物を含んだ状態のショット材Sを、このショット材Sよりもサイズが大きなバリ、ショット材S、及びショット材Sよりもサイズが小さなバリに選別する。
具体的には、
図1に示す選別器7は、詳細な図示を省略するが、大バリ収納タンクを備える大バリ選別用振動篩と、ショット材貯槽73及び小バリ収納タンクを有するショット材選別用振動篩を備えた選別部とを備える。
選別器7は、上記構成により、処理室2からホッパ25を介して落下排出される、バリ等の廃棄物を含んだ状態のショット材Sを、外気に触れることなく選別する。
【0049】
ショット機4は、上述したように、被処理物Mに向けてショット材Sを投射する。
具体的には、ショット機4は、上述した選別器7に備えられるショット材貯槽73内に収容されたショット材Sを、インペラ回転用モータ43で駆動されるインペラ42の回転によって吸引ホース41で吸引し、バケット3内に向けて投射する。バリを有する被処理物Mは、ショット材Sの投射に伴う衝撃により、バリが除去される。
【0050】
より具体的には、インペラ回転用モータ43は、インペラ42と一体化するように設けられ、例えば、軸受けや回転軸等を介してインペラ42に接続される。即ち、インペラ42は、インペラ回転用モータ43によって回転運動を生じることで負圧を発生させ、上述したショット材貯槽73からショット材Sを吸い上げる。吸い上げられたショット材Sは、インペラ42に衝突した後、バケット3の方向に向けて投射される。
また、インペラ回転用モータ43に用いられるモータは、制御部13によって回転制御される。
【0051】
ショット機4のケース体は、特に限定されないが、例えば、断熱構造を有するものを使用することができる。
また、ショット機4によって投射されるショット材Sとしては、一般的なプラスチック材料からなるものが用いられる。
【0052】
また、本実施形態においては、扉5が開口部21を覆って閉じているとき、バケット3の投入口3aと、ショット機4における投射口4aとが対向するように配置されることがより好ましい。
このように、バケット3の投入口3aと、ショット機4の投射口4aとが対向することで、被処理物Mに対してショット材Sを効率的に投射できるので、効率的なバリ取り処理が可能となる。
【0053】
インペラ回転センサ44は、上述したように、インペラ回転用モータ43によって回転するインペラ42の回転数R2を測定するものでありこの回転数R2の測定信号は、バケット3の回転数R1の場合と同様、例えば、A/D変換器等を介して制御部13に送信される。
インペラ回転センサ44に用いる回転数測定手段としても、バケット回転センサ35の場合と同様、特に限定されず、一般的な回転数検出素子等を何ら制限無く用いることができる。
【0054】
本実施形態の冷凍バリ取り装置1の各構造部材に用いられる材料としては、特に限定されず、適宜選択することが可能である。例えば、本実施形態の冷凍バリ取り装置1が、処理室2及び被処理物M等を冷却し、さらに、その周辺部材も冷却されるであろうことを考慮すると、各部材の材料には、強度、防錆性及び耐低温特性等の観点から、ステンレス材料を用いることが好ましい。
【0055】
制御部13は、上述したように、温度センサ29で測定された内部温度T、バケット回転センサ35で測定されたバケット3の回転数R1、及び、インペラ回転センサ44で測定されたインペラ42の回転数R2の各々に基づき、インペラ42の回転数R2、バケット3の回転数R1、及び、バルブ28bの開度を制御する。
即ち、制御部13は、
図2中に示すように、温度センサ29、バケット回転センサ35及びインペラ回転センサ44、入力装置13a及び表示装置13bと電気的に接続されている。
さらに、制御部13は、冷媒の流量を調整するバルブ28b、バケット回転用モータ32a及びインペラ回転用モータ43と、それぞれ、バルブ駆動回路13A、バケット回転用モータ駆動回路13B又はインペラ回転用モータ駆動回路13Cを介して電気的に接続されている。
【0056】
入力装置13aは、例えば、タッチキー等からなるインターフェイスを備えるものである。入力装置13aは、例えば、バリ取りモードの選択、バケット3の回転数R1、インペラ42の回転数R2、予冷温度PT、並びにバリ取り処理時の処理室2の内部温度Tを設定する。
【0057】
表示装置13bは、例えば、ディスプレイやLED表示器等から構成される。表示装置13bは、例えば、処理室2の内部温度T、バケット3の回転数R1、インペラ42の回転数R2等を表示する。さらに、表示装置13bは、上述した入力装置13aで入力した情報も表示する。
【0058】
なお、本実施形態の冷凍バリ取り装置1においては、扉5によって開口部21が覆われた処理室2(内部空間D)の密閉性を高めるため、図視略のシール材を設けることができる。シール材は、例えば、処理室2の開口部21を取り囲むように配置される図視略のフレームに沿って設置され、全体として平面視で囲繞形状となるように配置される長尺の部材からなる。シール材は、例えば、図視略のフレームに接着されるか、あるいは、フレームとシール固定板との間に狭持されることで、フレームに固定することができる。
シール材は、処理室2の開口部21を扉5で覆ったとき、扉5と図視略のフレームとの間で圧縮されることで、扉5と開口部21との間をシールする作用が得られるものである。
【0059】
シール材は、長尺状、例えば、平面視で紐状に構成され、耐寒性(耐低温性)に優れる弾性体材料からなる。このようなシール材を構成する弾性体材料としては、特に限定されないが、ニトリルゴムやシリコーンゴム等のゴム材料が挙げられる。
【0060】
また、シール材は、例えば、長手方向に沿った中空構造とされているとともに、その表面に、シール材の長手方向で連続するように長尺に形成された複数の突起を設けた構成とすることで、扉5を閉めた際にシール材が圧縮され、処理室2(内部空間D)の密閉性をより高めることが可能となる。
【0061】
また、シール材は、処理室2の開口部21に沿って完全に繋がった平面視囲繞形状であってもよいが、例えば、長手方向の少なくとも一部が分割された、複数の部材からなるシール材としてもよい。このように、シール材を複数の部材に分割することで、開口部21の周囲に配置されたフレームにシール材を固定する際の作業性が向上する効果が得られる。また、処理室2の形状に沿うように変形させた部分から、シール材を段階的に固定できるので、シール材の設置作業が容易になる。また、シール材を紐状として平面視囲繞形状に配置することで、シール材を特注仕様とすることなく、処理室2の開口部21に応じた形状に形成することができるので、冷凍バリ取り装置1のコストダウンが可能となる。
【0062】
また、図示を省略するが、シール材は、例えば、中空構造の内部にヒータが設置された構成を採用することも可能である。シール材にヒータを設置することにより、例えば、処理室2の内部空間Dが所定の温度まで低下したときに、通電加熱により、シール材が硬化するのを抑制する。
一般的に、シール材には、上述したようなゴム等の樹脂材料が用いられるが、このような材料は、冷却によって弾性を失い、シール性やシール耐久性が低下する傾向がある。シール材の内部にヒータを設けた構成を採用することにより、シール材の温度が低下するのを防止できるので、シール性及びシール耐久性が向上する顕著な効果が得られる。
【0063】
なお、上述した「平面視囲繞形状」とは、平面視で中心方向を囲むように長尺で配置、形成された形状を含み、例えば、平面視で矩形状や環状の他、これらの中間的な形状も含むものである。
【0064】
本実施形態の冷凍バリ取り装置1は、処理室2の内部温度T、バケット3の回転数R1及びインペラ42の回転数R2の各々の測定信号に基づき、インペラ42の回転数R2、バケット3の回転数R1及びバルブ28bの開度を制御する制御部13を備える。これにより、冷凍バリ取り装置1全体の温度が安定してからバリ取り処理を開始する場合に、被処理物Mの温度が低温でさらに安定し、被処理物Mの脆化がより促進されるので、効率的にバリを除去できる。これにより、バリ取り時間が短縮されるので、冷媒の消費量を抑制でき、且つ、被処理物Mにショット材Sが衝突する時間が短縮されることで、被処理物Mが過度に研磨されて損傷が生じるのを効果的に抑制できる。
さらに、温度センサ29が処理室2内におけるバケット3の下方に配置されていることにより、ショット材Sや冷媒が温度センサ29に直接的には触れ難くなるので、処理室2の内部温度Tの測定誤差を最小限に抑制できる。これにより、処理室2の内部温度Tを正確に測定することができるので、冷凍バリ取り装置1全体における制御処理の精度が高められる。
【0065】
<冷凍バリ取り方法>
次に、本実施形態の冷凍バリ取り方法の手順について詳述する。
本実施形態においては、
図1及び
図2に示した本実施形態の冷凍バリ取り装置1を用いて被処理物Mのバリ取り処理を行う手順を例示し、冷凍バリ取り装置1の構成については、上記同様、
図1及び
図2を参照しながら説明するとともに、さらに、
図3~
図5を適宜参照しながら説明する。
【0066】
図3は、本実施形態の冷凍バリ取り方法に備えられる各工程を概略で示すフローチャートである。また、
図4は、本実施形態の冷凍バリ取り方法に備えられる予冷工程を詳細に示すフローチャートである。また、
図5は、予冷工程における冷却時間と処理室の内部温度との関係を概略で示すグラフである。
【0067】
本実施形態の冷凍バリ取り方法は、冷媒によって冷却される処理室2と、処理室2の内部空間Dに配置され、内部に被処理物Mを収容するバケット3と、被処理物Mに向けてショット材Sを投射するショット機4とを備えた冷凍バリ取り装置1を用いて被処理物Mのバリ取りを行う方法である。
そして、本実施形態の冷凍バリ取り方法は、
図3及び
図4のフローチャートに示すように(
図1及び
図2も参照)、処理室2の内部温度Tを測定し、測定した内部温度Tと、予め設定した予冷温度PTとに基づいて冷媒の噴射量を増減させながら、処理室2の内部を予冷する予冷工程(予冷モード)と、予め冷却された処理室2に被処理物Mを投入してバリ取りをするバリ取り工程(バリ取りモード)とを備える。
【0068】
本実施形態の冷凍バリ取り方法で被処理物Mのバリ取りを行う際は、
図3のフローチャートに示すように、まず、作業者が入力装置13aを操作することにより、運電モードを選択する。この際に選択する運転モードには、バリ取りモード(バリ取り工程)及び予冷モード(予冷工程)がある。
【0069】
例えば、室温の状態から冷凍バリ取り装置を稼働させる場合には、作業者は、入力装置13aの操作により、予冷モードを選択する。一方、バリ取り作業を連続的に継続して実施する場合において、2回目以降のバリ取り処理を実施する際には、既に冷凍バリ取り装置1全体が冷却されており、温度が低温で安定しているので、バリ取りモードを選択する。
また、
図3に示すように、予冷モードを選択した場合には、この予冷モードによって冷凍バリ取り装置1全体が冷却され、温度が低温で安定した状態とされた後、引き続いてバリ取りモードを実施する。
【0070】
予冷モードにおいては、例えば、冷凍バリ取り装置1を、所定の予冷温度PT及び所定の予冷時間で空運転を行い、冷凍バリ取り装置1全体を冷却することができる。ここで、本発明における説明する空運転とは、バケット3に被処理物Mを収容しない状態で、処理室2内を冷却しながら、バケット3及びショット機4のインペラ42を回転させることで、冷凍バリ取り装置1内でショット材Sを循環させる運転のことをいう。
【0071】
予冷モードを、上記のような空運転で行う場合、予冷温度PT及び予冷時間は、冷凍バリ取り装置1の熱容量及び保冷性能等により、適宜決定することができる。ここで、本発明における予冷時間とは、ノズル28cからの冷媒の噴射を開始した時点から、噴射を終了した時点までの間の時間のことをいう。
【0072】
本実施形態における予冷モード(予冷工程)は、1回の予冷ステップのみ行う手順・条件としてもよいし、複数の予冷ステップを行う手順・条件としてもよい。
一方、予冷モードは、処理室2の内部温度Tを低温で安定させる観点から、複数ステップで実施することがより好ましい。
【0073】
以下、
図4のフローチャート及び
図5のグラフを参照しながら、予冷モードについてより詳細に説明する(
図1及び
図2も参照)。
まず、入力装置13aの操作によって予冷モードを選択した作業者は、引き続き、冷却ステップ(冷却モード)の回数、各冷却ステップにおける到達温度(
図5のグラフ中に示すT1,T2,T3、及びバリ取り時の温度を参照)、並びに、各冷却ステップの予冷時間を、入力装置13aから設定する。即ち、
図4中に示すように、入力装置13aの操作により、予冷モードにおける、予冷ステップの繰り返し回数n、n回目の設定温度、n回目の予冷時間を設定する(
図4中のS1を参照)。
【0074】
その後、予冷モードの運転を開始すると、制御部13からの信号により、バケット回転用モータ32a、及び、インペラ回転用モータ43を稼働させることで空運転が開始される(
図4中のS2を参照)。
予冷モードにおけるバケット3の回転数R1並びにインペラ42の回転数R2としては、特に限定されるおのではないが、装置全体の温度が安定するという観点から、後述のバリ取りモード(バリ取り工程)で予定する各回転数R1,R2と同条件であることが好ましい。
【0075】
バケット3の回転数R1並びにインペラ42の回転数R2が予定の回転数に達し、空運転の状態が安定した後、制御部13からの信号により、バルブ28bが開くことで、処理室2内にノズル28cから冷媒(例えば、液化窒素)が噴射される(
図4中のS3を参照)。
この際、処理室2の内部温度Tは温度センサ29によって測定され、この測定値が制御部13に送信される。即ち、処理室2の内部温度Tが、n回目の設定温度(到達温度:
図5中に示した温度T1,T2,T3、又はバリ取り時の温度)であるかどうかを判定し、設定温度に達していない場合には、制御部13はバルブ28bの開度をさらに上げるように制御する。一方、処理室2の内部温度Tが目標とする上記の到達温度に達した場合には、制御部13はバルブ28bの開度を下げるように制御する(
図4中のS4を参照)。
【0076】
ここで、予冷モードを複数の予冷ステップで行う場合、制御部13は、各々の予冷時間(
図4中に示したn回目の予冷時間)が経過した後、バルブ28bの開度を上げる信号を送出することにより、次の予冷ステップの到達温度まで処理室2を冷却するように制御する(
図4中に示したS5、並びに、
図5中に示した1~4回目の予冷時間も参照)。
【0077】
そして、最終ステップの予冷時間(
図4中のS6、並びに、
図5中に示した4回目の予冷時間を参照)が経過した後、制御部13は、バケット回転用モータ32a及びインペラ回転用モータ43に停止信号を送信し、空運転を停止させることで予冷モードを終了させる(
図4中のS7、並びに、
図5中に示した予冷終了を参照)。
【0078】
なお、
図5のグラフ中に示したバリ取り時の温度としては、特に限定されないが、被処理物Mが脆化する温度以下とすることができる。特に、被処理物Mが樹脂やゴムからなる場合には、ガラス転移温度以下に冷却することが好ましいが、脆化温度以上の冷却温度であってもよい。
【0079】
次に、バリ取りモード(バリ取り工程)においては、まず、扉5を開放することで処理室2の開口部21を開放し、バケット3の投入口3aが開口部21側を向いた状態として、バケット3にバリ取り処理を行う被処理物Mを収容する。
この際、扉5を開放する時間は、冷凍バリ取り装置1全体が低温に保たれている状態を維持する観点から、できる限り短いことが好ましい。
【0080】
次いで、制御部13からの信号により、ショット機4に備えられるインペラ42を所定の回転速度で回転させる。これにより、ショット材Sがショット材貯槽73から吸引ホース41を介して吸い上げられ、投射口4aからバケット3に向けて投射される。このとき、ショット材Sは、バケット3に形成された透孔を通過して被処理物Mに衝突し、この被処理物Mのバリが除去される。また、バケット3が所定の速度で回転するのに伴い、内部に収容された被処理物Mが攪拌される。
【0081】
ショット機4で投射されたショット材Sと、被処理物Mから除去されたバリは、ホッパ25から選別器7に向けて落下し、選別器7に備えられる図視略の大バリ選別用振動篩において、大きなバリを大バリ収納タンクへ回収する。一方、大バリ選別用振動篩を通過したショット材Sや小さなバリは、図視略のショット材選別用振動篩においてショット材Sと小さなバリに選別し、ショット材Sをショット材貯槽73へ、小さなバリを図視略の小バリ収納タンクへ収納する。
上記のような篩を備える各選別手段としては、公知のものを何ら制限無く用いることができる。
【0082】
上記の手順により、ショット材Sは、ショット材貯槽73、吸引ホース41、ショット機4、処理室2、ホッパ25及び選別器7の間で循環して使用され、ショット機4及び選別器7が連動して作動するので、ショット材Sが経路中に滞留することなく、高効率でバリ取り処理を行うことができる。
【0083】
ショット材Sの投射により、バケット3内の被処理物Mからバリが除去された後、バケット3、ショット機4(インペラ42)、選別器7(ショット材貯槽73を含む)の駆動を停止させる。
次いで、扉5を開放することで、再び、バケット3の投入口3aが開口部21側を向いた状態とする。
次いで、バケット3内から、バリが除去された被処理物Mを取り出した後、次にバリ取り処理を予定する被処理物Mをバケット3内に収容し、再び扉5を閉めて開口部21を覆う。
次いで、上記同様、被処理物Mの温度が脆化温度以下になった後、所定の回転速度でショット機4に備えられるインペラ42を回転させ、ショット材Sをバケット3に向けて投射することで、バケット3に収容された被処理物Mのバリ取り処理を行う。
これにより、上記同様のバリ取り処理作業を繰り返すことができる。
【0084】
以下に、本実施形態の冷凍バリ取り方法で得られる作用効果について、より詳細に説明する。
本実施形態の冷凍バリ取り方法によれば、上記の予冷工程を実施し、冷凍バリ取り装置1全体の温度が低温で安定した状態となってからバリ取り処理を開始する方法なので、冷凍バリ取り装置1全体が予め冷却された状態でバリ取り工程を開始するので、被処理物の脆化が促進され、効率的にバリを除去できる。これにより、バリ取り時間が短縮されるとともに、冷媒の消費量も抑制できる。また、被処理物Mにショット材Sが衝突する時間を短縮できるので、被処理物Mが過度に研磨されて損傷が生じるのを抑制することができる。さらに、常に安定した温度でバリ取り処理を実施できるため、例えば、ロット違いや、雰囲気温度の季節変動がある場合でも、被処理物Mのバリ取り後の品質が安定する。
【0085】
また、本実施形態の冷凍バリ取り方法によれば、予冷モード(予冷工程)を、冷凍バリ取り装置1を空運転の状態で冷却する方法とすることで、冷却されたショット材Sが装置内を循環するため、装置全体の温度が低温で素早く均一となる。また、バケット3が回転することにより、ギアボックス32等の駆動部の内部まで冷熱が伝わりやすくなるので、上記同様、装置全体の温度が低温で素早く均一となる。そして、装置全体の温度が均一になった状態でバリ取り工程を行うため、バリ取り工程における温度変化を抑制することができる。これにより、被処理物Mの脆化が促進されるので、バリ取り時間を短縮できるとともに、冷媒の消費量も抑制できる。また、被処理物Mにショット材Sが衝突する時間を短縮できるので、被処理物Mが過度に研磨されて損傷が生じるのをさらに抑制することができる。さらに、上記同様、常に安定した温度でバリ取り処理を実施できるため、例えば、ロット違いや、雰囲気温度の季節変動がある場合でも、被処理物Mのバリ取り後の品質が安定する。
【0086】
さらに、本実施形態の冷凍バリ取り方法によれば、予冷モードが複数の予冷ステップを有することにより、処理室2が段階的に冷却されるので、処理室2の内部温度Tが、設定したバリ取り温度に対して下降上昇するサイクリング現象を抑制することができる。特に、処理室2の内部温度Tがバリ取り温度を超えて過剰にオーバーシュートするのを防止できるので、処理室の温度が低温で早期に安定するとともに、冷媒の処理量も削減できる。
【0087】
<成型品の製造方法>
次に、本実施形態の成型品の製造方法について詳述する。
本実施形態の成型品の製造方法は、上述した本実施形態の冷凍バリ取り方法によって成型品のバリを除去することで、成型品を製造する方法である。従って、以下の説明においては、上記同様、
図1~
図5を引用しながら説明するとともに、その手順や条件等の詳細な説明を省略する。
【0088】
本実施形態の製造方法が適用される成型品としては、上述したような被処理物Mと同様のもの、例えば、プラスチック成型品やゴム成型品等のような樹脂製品、又は、ダイカスト成型品等の金属製品が挙げられる。
【0089】
本実施形態の成型品の製造方法によれば、上記同様、冷凍バリ取り装置1全体の温度が低温で安定した状態からバリ取りを開始することにより、成型品(被処理物M)の温度が低温で安定し、脆化が促進されることから、効率的にバリを除去できる。これにより、バリ取り時間が短縮され、成型品にショット材Sが衝突する時間を短縮できるので、成型品が過度に研磨されて損傷が生じるのを抑制することが可能になる。
【0090】
<その他の形態>
以上、実施形態により、本発明に係る冷凍バリ取り方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置の一例を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【0091】
例えば、本実施形態においては、扉5の下側に設けられた図示略の蝶番を支点に扉5が開閉動作を行う、所謂プルダウン方式とされた例を挙げて説明しているが、これには限定されない。扉の開閉構造としては、例えば、扉の左右の何れかの側に蝶番が設けられた片開き方式の構造を採用してもよいし、あるいは、バケット3の取り付け構造等を最適化することで、両開き方式、即ち、所謂観音開き構造を採用しても構わない。
【0092】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の冷凍バリ取り方法によれば、上記の予冷工程を備えることにより、冷凍バリ取り装置1全体の温度が安定した状態となってからバリ取り処理を開始する方法を採用している。
本実施形態の冷凍バリ取り方法は、上記方法を採用することにより、被処理物Mの温度が低温で安定し、被処理物Mの脆化が促進されることから、効率的にバリを除去できる。これにより、バリ取り時間が短縮され、冷媒の消費量を抑制できる。また、被処理物Mにショット材が衝突する時間を短縮することで、被処理物Mが過度に研磨されて損傷が生じるのを抑制できる。
従って、被処理物Mを安定した温度に冷却して脆化を促進させることができ、被処理物Mを損傷させることなく、短時間且つ低コストでバリ取り処理を行うことが可能となる。
【0093】
また、本実施形態の成型品の製造方法によれば、上述した本実施形態の冷凍バリ取り方法を用いて成型品(被処理物M)のバリ取り処理を行い、成型品を製造する方法を採用している。
本実施形態の成型品の製造方法によれば、上記同様、冷凍バリ取り装置1全体の温度が低温で安定した状態からバリ取りを開始することにより、被処理物Mである成型品の温度が低温で安定し、脆化が促進されることから、効率的にバリを除去できる。これにより、バリ取り時間が短縮され、成型品にショット材が衝突する時間を短縮できるので、成型品が過度に研磨されて損傷が生じるのを抑制することが可能になる。
【0094】
また、本実施形態の冷凍バリ取り装置1によれば、上記のような、処理室2の内部温度T、バケット3の回転数R1及びインペラ42の回転数R2の各々の測定信号に基づき、インペラ42の回転数R2、バケットの回転数R1及びバルブ28bの開度を制御する制御部13を備えた構成を採用している。
本実施形態の冷凍バリ取り装置1によれば、上記構成を採用することで、冷凍バリ取り装置1全体の温度が安定してからバリ取り処理を開始する場合に、被処理物Mの温度が低温でさらに安定し、被処理物Mの脆化がより促進されるので、効率的にバリを除去できる。これにより、上記同様、バリ取り時間が短縮されることで冷媒の消費量を抑制でき、且つ、被処理物Mにショット材Sが衝突する時間が短縮されることで、被処理物Mが過度に研磨されて損傷が生じるのを効果的に抑制できる。
さらに、温度センサ29が処理室2内におけるバケット3の下方に配置されていることにより、ショット材Sや冷媒が温度センサ29に直接的には触れ難くなるので、処理室2の内部温度Tの測定誤差を最小限に抑制できる。これにより、処理室2の内部温度Tを正確に測定することができるので、冷凍バリ取り装置1全体における制御処理の精度が高められる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の冷凍バリ取り方法は、上記のように、被処理物を安定した温度に冷却して脆化を促進させることができ、被処理物を損傷させることなく、短時間且つ低コストでバリ取り処理を行うことが可能な方法である。従って、本発明は、例えば、ショットブラスト方式により、樹脂製品や金属製品等の被処理物からバリを除去する方法、成型品の製造方法、並びに冷凍バリ取り装置において、極めて有用である。
【符号の説明】
【0096】
1…冷凍バリ取り装置
2…処理室
2A…複合板
21…開口部
24…排出孔
25…ホッパ
28…冷媒供給部
28a…冷媒供給管
28b…バルブ
28c…ノズル
29…温度センサ
D…内部空間
3…バケット
3a…投入口
32…ギアボックス
32a…バケット回転用モータ(バケット駆動部)
32b…バケット軸
32c…回動軸(一対の回動軸)
35…バケット回転センサ
4…ショット機
4a…投射口
41…吸引ホース
42…インペラ
43…インペラ回転用モータ(ショット機駆動部)
44…インペラ回転センサ
5…扉
7…選別器
73…ショット材貯槽
10…筐体
11…排気部
13…制御部
13A…バルブ駆動回路
13B…バケット回転用モータ駆動回路
13C…インペラ回転用モータ駆動回路
13a…入力装置
13b…表示装置
M…被処理物
S…ショット材