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特開2023-23731ダイス、多層押出成形装置、及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023731
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】ダイス、多層押出成形装置、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/31 20190101AFI20230209BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20230209BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20230209BHJP
   B29C 48/86 20190101ALI20230209BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20230209BHJP
【FI】
B29C48/31
B29C48/08
B29C48/21
B29C48/86
B29C48/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129520
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑 勇輝
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AG01
4F207AG03
4F207AK09
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KB26
4F207KL55
4F207KL57
4F207KL84
4F207KL93
4F207KM15
(57)【要約】
【課題】厚み比プロフィールの調整を有効に行うことができ、樹脂材料及び厚み比の変更を容易に行うことができる、多層フィルムを製造するためのダイス及び多層押出成形装置並びに製造方法。
【解決手段】最外層(A)、最外層(B)、及び前記最外層(A)及び(B)の間に設けられた1層以上の内層(C)を備える多層フィルムを製造するためのダイスであって、溶融樹脂材料(A)を拡幅する最外層用マニホールド(A)、溶融樹脂材料(B)を拡幅する最外層用マニホールド(B)、溶融樹脂材料(C)を拡幅する内層用マニホールド(C)、前記マニホールド(A)よりも外側に位置する複数のヒーター(A)、前記マニホールド(B)よりも外側に位置する複数のヒーター(B)、前記マニホールド(C)と前記ヒーター(A)との間に位置する断熱材(A)、及び前記マニホールド(C)と前記ヒーター(B)との間に位置する断熱材(B)を備えるダイス等。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層(A)、最外層(B)、及び前記最外層(A)及び(B)の間に設けられた1層以上の内層(C)を備える多層フィルムを製造するためのダイスであって、
前記最外層(A)の材料である溶融樹脂材料(A)を拡幅して押出すための最外層用マニホールド(A)、
前記最外層(B)の材料である溶融樹脂材料(B)を拡幅して押出すための最外層用マニホールド(B)、
前記マニホールド(A)及び(B)より内側に位置し、前記内層(C)の材料である溶融樹脂材料(C)を拡幅して押出すための内層用マニホールド(C)、
前記マニホールド(A)よりも外側に位置し、前記ダイスの幅方向に整列して設けられる、複数のヒーター(A)、
前記マニホールド(B)よりも外側に位置し、前記ダイスの幅方向に整列して設けられる、複数のヒーター(B)、
前記マニホールド(A)より上流側であって、且つ厚み方向において前記マニホールド(C)と前記ヒーター(A)との間に位置する断熱材(A)、及び
前記マニホールド(B)より上流側であって、且つ厚み方向において前記マニホールド(C)と前記ヒーター(B)との間に位置する断熱材(B)
を備える、ダイス。
【請求項2】
前記ダイスが、ブロック(A)、ブロック(B)及びブロック(C)を備え、
前記ブロック(A)は、前記ブロック(C)に対向する面(Ac)を有し、
前記ブロック(B)は、前記ブロック(C)に対向する面(Bc)を有し、
前記ブロック(C)は、前記ブロック(A)に対向する面(Ca)及び前記ブロック(B)に対向する面(Cb)を有し、
前記マニホールド(A)は、その一部又は全部が、前記面(Ac)及び前記面(Ca)の一方又は両方に設けられた凹部により規定され、
前記マニホールド(B)は、その一部又は全部が、前記面(Bc)及び前記面(Cb)の一方又は両方に設けられた凹部により規定され、
前記断熱材(A)は、前記面(Ac)及び前記面(Ca)の間に設けられ、
前記断熱材(B)は、前記面(Bc)及び前記面(Cb)の間に設けられる、請求項1に記載のダイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイスと、
前記ダイスから押し出される多層フィルムの一層以上の層の厚みを、前記多層フィルムの幅方向に並ぶ複数箇所において計測する計測装置と、
前記計測装置が計測した前記厚みに基づいて、前記ヒーター(A)及び(B)の温度を制御する温度制御装置と
を備える、多層押出成形装置。
【請求項4】
多層フィルムの製造方法であって、
前記溶融樹脂材料(A)~(C)のそれぞれを、請求項1又は2に記載のダイスの前記マニホールド(A)~(C)へ供給し、それぞれの流路を拡幅して、前記マニホールド(A)~(C)のそれぞれから合流位置まで圧送する工程(I)、及び
前記合流位置において、前記溶融樹脂材料(A)~(C)を合流させ、前記ダイスのリップから、複数の層を有する平坦な流出物として押し出す工程(II)を含み、
前記工程(I)はさらに、前記マニホールド(A)より外側から、前記溶融樹脂材料(A)の流路を、複数の前記ヒーター(A)により独立して加熱し、且つ前記マニホールド(B)より外側から、前記溶融樹脂材料(B)の流路を、複数の前記ヒーター(B)により独立して加熱する工程(I-1)を含む、多層フィルムの製造方法。
【請求項5】
製造された前記多層フィルムの、1層以上の層の厚みを、前記多層フィルムの幅方向に並ぶ複数箇所において計測する工程(III)と、
前記工程(III)で計測された前記1層以上の層の前記厚みに基づき、前記工程(I-1)における前記ヒーター(A)及び前記ヒーター(B)による加熱条件を調整する工程(IV)とを更に含む、
請求項4に記載の多層フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の多層フィルムの製造方法により、多層フィルムを製造する工程、及び
前記多層フィルムを延伸する工程
を含む、多層延伸フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルムの製造に用いうるダイス及び多層押出成形装置、並びに多層フィルム及び多層延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層構造のフィルムを製造する装置として、マルチマニホールド方式のダイスを含む多層押出成形装置が知られている。マルチマニホールド方式のダイスは、複数のマニホールドを有するダイスである。当該技術分野において、マニホールドとは、ダイス内部の構造であって、その内部を通過する溶融樹脂材料の流路を拡幅するものである。マルチマニホールド方式のダイスを含む装置の使用においては、押出機より複数種の溶融樹脂材料が、複数のマニホールドのそれぞれに供給される。それぞれのマニホールドにおいては、溶融樹脂材料の流路が拡幅される。その後、複数の流路が合流し、複数の溶融樹脂材料が層をなした状態の流れが形成される。その後、溶融樹脂材料の流れはダイスリップに到達し、ダイスリップから、複数の溶融樹脂材料が層をなした状態で押し出される。押し出された溶融樹脂材料は、冷却、延伸等の操作等の任意の操作に供された後、多層フィルムとなる。
【0003】
マルチマニホールド方式のダイスを用いて多層フィルムを製造する場合、各層の厚みの比率が、所望の値であり、且つバラツキが少なく均一であることが求められる。多層フィルムとして光学用途のフィルムを製造する場合は、厚みの比率を特に厳密に制御することが求められる。また、長尺の多層フィルムをダイスにより連続的に製造する場合、フィルムの幅方向における各層の厚みを正確に制御することが求められる。フィルムの幅方向の厚みの制御のための手段として、ダイス内の、溶融樹脂材料の流路の各所における温度を、複数のヒーターで独立して制御することが提案されている(例えば特許文献1~2)。例えば、ある製造ラインにおいて製造される多層フィルムの幅方向の全領域のうち、ある一部分の領域における、ある層の厚みが所望の厚みより薄い場合、当該領域に対応する流路位置の近傍のヒーターにより、当該流路位置を加熱しうる。かかる加熱により、当該流路位置における溶融樹脂材料の流速を部分的に加速し、当該領域の厚みをより厚くするよう、製造工程を制御することができる。このようなヒーターによる厚み比の調整は、多層押出成形装置の製造工程の立ち上げ時の厚み比調整のみならず、製造工程実施中のフィードバックとしての厚み比調整としても行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-188018号公報
【特許文献2】特開2006-231763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで提案されている、ヒーターによるダイス内の温度の制御では、多層フィルムの幅方向の全領域のうち、狭い一部分の領域における厚みのムラを低減することは有効に行われていた一方、多層フィルムの幅方向の全領域またはそれに近い広い領域にわたる、相対的な厚みの差異が著しい厚み比のプロフィールを矯正することが困難であった。例えば、最外層(A)、最外層(B)、及び最外層(A)及び(B)の間に設けられた1層以上の内層(C)を備える多層フィルムの製造において、幅方向中央部における内層(C)の厚みが厚く、幅方向端部における内層(C)の厚みが薄く、中央部と端部の厚み比の差異が大きいプロフィールが測定された場合において、幅方向中央部のある程度広い領域における内層の厚みを厚くするようヒーターにて制御を行うと、所望の結果が得られない場合があった。
【0006】
このような、多層フィルムの幅方向の広い領域における、相対的な厚みの差異が著しい厚み比プロフィールの調整は、ダイスが備える他の機構により調整可能である。例えば、マニホールドより下流に位置するチョークバーと呼ばれる機構による調整が可能である。チョークバーは、流路の厚み方向の広さを、幅方向のそれぞれの領域において差異を有する態様で機械的に調整する機構である。このような機構による調整は、製造工程の立ち上げ時には有効に行うことができる。しかしながら、チョークバーのような、流路の広さを直接機械的に変更する機構による調整を、製造工程実施中のフィードバックとしての厚み比調整として行う場合、フィルム上におけるダイライン等の不具合を頻繁に発生させてしまうという問題が生じる。そのため、チョークバー等の機構による調整を行う場合、製造を安定させるための製造工程の再立ち上げといった手順が必要になり得る。
【0007】
多層フィルムの幅方向の広い領域における、相対的な厚みの差異が著しい厚み比プロフィールは、フィルムの製造に使用する樹脂材料の種類を変更した際に生じうる。例えば、最外層(A)、最外層(B)及び内層(C)を備える多層フィルムの製造において、それぞれの層を構成する材料としてある樹脂材料を用いて製造を行うにあたり、厚み比プロフィールが所望の状態となるよう、チョークバーによる調整を行い製造工程の立ち上げを行い製造を行い、その後に引き続いて、他のある樹脂材料を用いて別の多層フィルムを製造することが求められる場合がある。そのような場合、単に樹脂材料を変更すると、樹脂材料の物理的性質の相違に起因して、厚み比プロフィールが大きく変化しうる。そのような場合、チョークバーによる調整を再び行う必要が生じる。このように、樹脂材料の変更の度に、チョークバーによる調整を伴う工程の再立ち上げを行う必要が生じると、多層フィルムを多品種少量生産することが困難となるという問題が生じる。
【0008】
さらに、製品設計上の要求等の事情により、多層フィルムの厚み比を、それまでの製造における厚み比から変更することが求められる場合がある。厚み比をわずかに変更する場合であれば、ダイスに供給する溶融樹脂材料の圧力比の調節、及びヒーターによるダイス内の温度の調節といった製造条件の変更により容易に達成可能であるが、厚み比を大きく変更することが求められる場合には、多層フィルムの幅方向の広い領域における、相対的な厚みの差異が著しい厚み比プロフィールが生じうる。その場合、上に述べたチョークバーによる調整等の、工程の再立ち上げを伴う調整が求められうる。このような場合においても、多層フィルムを多品種少量生産することが困難となるという問題が生じる。
【0009】
したがって、本発明の目的は、多層フィルムの幅方向の広い領域における、相対的な厚みの差異が著しい厚み比プロフィールの調整を有効に行うことができ、樹脂材料及び厚み比の変更を容易に行うことができる、多層フィルムを製造するためのダイス及び多層押出成形装置並びに製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するべく検討を行った。その結果、本発明者は、ダイスの特定の位置に断熱材を配置することにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0011】
〔1〕 最外層(A)、最外層(B)、及び前記最外層(A)及び(B)の間に設けられた1層以上の内層(C)を備える多層フィルムを製造するためのダイスであって、
前記最外層(A)の材料である溶融樹脂材料(A)を拡幅して押出すための最外層用マニホールド(A)、
前記最外層(B)の材料である溶融樹脂材料(B)を拡幅して押出すための最外層用マニホールド(B)、
前記マニホールド(A)及び(B)より内側に位置し、前記内層(C)の材料である溶融樹脂材料(C)を拡幅して押出すための内層用マニホールド(C)、
前記マニホールド(A)よりも外側に位置し、前記ダイスの幅方向に整列して設けられる、複数のヒーター(A)、
前記マニホールド(B)よりも外側に位置し、前記ダイスの幅方向に整列して設けられる、複数のヒーター(B)、
前記マニホールド(A)より上流側であって、且つ厚み方向において前記マニホールド(C)と前記ヒーター(A)との間に位置する断熱材(A)、及び
前記マニホールド(B)より上流側であって、且つ厚み方向において前記マニホールド(C)と前記ヒーター(B)との間に位置する断熱材(B)
を備える、ダイス。
〔2〕 前記ダイスが、ブロック(A)、ブロック(B)及びブロック(C)を備え、
前記ブロック(A)は、前記ブロック(C)に対向する面(Ac)を有し、
前記ブロック(B)は、前記ブロック(C)に対向する面(Bc)を有し、
前記ブロック(C)は、前記ブロック(A)に対向する面(Ca)及び前記ブロック(B)に対向する面(Cb)を有し、
前記マニホールド(A)は、その一部又は全部が、前記面(Ac)及び前記面(Ca)の一方又は両方に設けられた凹部により規定され、
前記マニホールド(B)は、その一部又は全部が、前記面(Bc)及び前記面(Cb)の一方又は両方に設けられた凹部により規定され、
前記断熱材(A)は、前記面(Ac)及び前記面(Ca)の間に設けられ、
前記断熱材(B)は、前記面(Bc)及び前記面(Cb)の間に設けられる、〔1〕に記載のダイス。
〔3〕 〔1〕又は〔2〕に記載のダイスと、
前記ダイスから押し出される多層フィルムの一層以上の層の厚みを、前記多層フィルムの幅方向に並ぶ複数箇所において計測する計測装置と、
前記計測装置が計測した前記厚みに基づいて、前記ヒーター(A)及び(B)の温度を制御する温度制御装置と
を備える、多層押出成形装置。
〔4〕 多層フィルムの製造方法であって、
前記溶融樹脂材料(A)~(C)のそれぞれを、〔1〕又は〔2〕に記載のダイスの前記マニホールド(A)~(C)へ供給し、それぞれの流路を拡幅して、前記マニホールド(A)~(C)のそれぞれから合流位置まで圧送する工程(I)、及び
前記合流位置において、前記溶融樹脂材料(A)~(C)を合流させ、前記ダイスのリップから、複数の層を有する平坦な流出物として押し出す工程(II)を含み、
前記工程(I)はさらに、前記マニホールド(A)より外側から、前記溶融樹脂材料(A)の流路を、複数の前記ヒーター(A)により独立して加熱し、且つ前記マニホールド(B)より外側から、前記溶融樹脂材料(B)の流路を、複数の前記ヒーター(B)により独立して加熱する工程(I-1)を含む、多層フィルムの製造方法。
〔5〕 製造された前記多層フィルムの、1層以上の層の厚みを、前記多層フィルムの幅方向に並ぶ複数箇所において計測する工程(III)と、
前記工程(III)で計測された前記1層以上の層の前記厚みに基づき、前記工程(I-1)における前記ヒーター(A)及び前記ヒーター(B)による加熱条件を調整する工程(IV)とを更に含む、
〔4〕に記載の多層フィルムの製造方法。
〔6〕 〔4〕又は〔5〕に記載の多層フィルムの製造方法により、多層フィルムを製造する工程、及び
前記多層フィルムを延伸する工程
を含む、多層延伸フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多層フィルムの幅方向の広い領域における、相対的な厚みの差異が著しい厚み比プロフィールの調整を有効に行うことができ、樹脂材料及び厚み比の変更を容易に行うことができる、多層フィルムを製造するためのダイス及び多層押出成形装置並びに製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のダイスの一例を概略的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すダイスを、線1aに沿った面で切断した断面を示す縦断面図である。
図3図3は、図1及び図2に示すサブブロック110C1を、ブロック110Aから離隔した状態で、ブロック110A側の面から観察した状態を示す側面図である。
図4図4は、本発明の多層押出成形装置の一例を概略的に示す側面図である。
図5図5は、本発明の多層フィルムの製造方法により製造された長尺の多層フィルムの一例を、フィルム幅方向に平行な面で切断した断面を概略的に示す縦断面図である。
図6図6は、本発明の多層フィルムの製造方法により製造された長尺の多層フィルムの別の一例を、フィルム幅方向に平行な面で切断した断面を概略的に示す縦断面図である。
図7図7は、本発明の多層フィルムの製造方法により製造された長尺の多層フィルムのさらに別の一例を、フィルム幅方向に平行な面で切断した断面を概略的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0015】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0016】
〔ダイス〕
本発明のダイスは、最外層(A)、最外層(B)、及び前記最外層(A)及び(B)の間に設けられた1層以上の内層(C)を備える多層フィルムを製造するためのダイスである。
【0017】
本発明のダイスは、最外層(A)の材料である溶融樹脂材料(A)を拡幅して押出すための最外層用マニホールド(A)、最外層(B)の材料である溶融樹脂材料(B)を拡幅して押出すための最外層用マニホールド(B)、及びマニホールド(A)及び(B)より内側に位置し、内層(C)の材料である溶融樹脂材料(C)を拡幅して押出すための内層用マニホールド(C)を備える。
【0018】
好ましい例において、本発明のダイスは、ブロック(A)、ブロック(B)及びブロック(C)を備え、ブロック(A)は、ブロック(C)に対向する面(Ac)を有し、ブロック(B)は、ブロック(C)に対向する面(Bc)を有し、ブロック(C)は、ブロック(A)に対向する面(Ca)及びブロック(B)に対向する面(Cb)を有し、マニホールド(A)は、その一部又は全部が、面(Ac)及び面(Ca)の一方又は両方に設けられた凹部により規定され、マニホールド(B)は、その一部又は全部が、面(Bc)及び面(Cb)の一方又は両方に設けられた凹部により規定される。
【0019】
本発明のダイスの一例を、図1図2を参照して説明する。図1は、本発明のダイスの一例を概略的に示す斜視図である。図2は、図1に示すダイスを、線1aに沿った面で切断した断面を示す縦断面図である。
【0020】
図1及び図2において、ダイス100は、溶融樹脂材料の流路の上流端側を上側、下流端側を下側とした状態で図示される。そのため、図1中の座標軸のZ軸に沿った上側及び下側をそれぞれ上流の方向及び下流の方向と表現する場合がある。また、座標軸のX軸方向及びY軸方向は、製造されるフィルムの幅方向及び厚み方向に対応するので、この方向をダイスの幅方向及び厚み方向と表現する場合がある。さらに、内層(C)及び内層(C)を形成するための溶融樹脂材料(C)の流路に近い側を、厚み方向における内側、遠い側を、厚み方向における外側と表現する場合がある。さらに文脈上明らかな場合は、厚み方向における内側及び外側を、単に「内側」「外側」と表現する場合がある。
【0021】
ダイス100は、上に述べたブロック(A)~(C)のそれぞれに相当する、ブロック110A~110Cを備える。これらのうちブロック110Cは、一対のサブブロック110C1及び110C2を備える。ブロック110Aは、ブロック110Cのサブブロック110C1側の側面に隣接して設けられる。ブロック110Bは、ブロック110Cのサブブロック110C2側の側面に隣接して設けられる。ダイス100はさらに、ブロック110A及びサブブロック110C1の下側に位置するブロック110D、及びブロック110B及びサブブロック110C2の下側に位置するブロック110Eを備える。但し本発明はこれに限られず、例えば、ブロック(A)が、ブロック110Aに加えてブロック110Dに相当する構成を含んで一体の形状となったものであってもよく、またブロック(B)が、ブロック110Bに加えてブロック110Eに相当する構成を含んで一体の形状となったものであってもよい。
【0022】
ダイス100は、その上面に、流入口121A、121B及び121Cを有する。流入口121A、121B及び121Cのそれぞれは、上流側流路122A、122B及び122Cを経由して、マニホールド123A、123B及び123Cと連通する。マニホールド123A、123B及び123Cは、それぞれ、上に述べたマニホールド(A)~(C)のそれぞれに相当する。従って、これらはそれぞれ、最外層(A)の材料である溶融樹脂材料(A)の流路、最外層(B)の材料である溶融樹脂材料(B)の流路、及び内層(C)の材料である溶融樹脂材料(C)の流路に係るものである。マニホールド123A、123B及び123Cのそれぞれは、流路を拡幅する形状を有し、下流側流路124A、124B及び124Cのそれぞれを経由して、合流位置131と連通し、ここでこれらの流路が合流する。合流位置131より下流の流路は、ダイスリップの開口132と連通する。
【0023】
ダイスリップ、即ちダイス100の開口132及びその近傍の部分を構成する材料としては、既知の材料を適宜選択しうる。かかる材料の具体例としては、ブロック110D及び110Eを構成する金属の表面に設けられたセラミックコート、及びH-Crメッキが挙げられる。溶融樹脂材料の付着の低減、多層フィルム上のダイライン発生の低減、及び多層フィルムの厚みムラの低減の観点からは、セラミックコートが好ましい。ダイスの開口部分は、適切な先端加工が施されたものであってもよい。先端加工の例としては、シャープエッジ及びR加工が挙げられる。ダイライン防止のためリップ部を研磨すると、リップ部を滑らかにすることができ、ダイライン発生の低減及び厚みムラの抑制を図ることができる。
【0024】
この例では、最外層用の下流側流路124A及び124Bのそれぞれの途中には、チョークバー129A及び129Bが設けられている。チョークバー129A及び129Bのそれぞれは、拡幅された流路124A及び124Cの幅方向全域にわたって延長し、サブブロック110C1の凹部129Ac及びサブブロック110C2の凹部129Bcに挿入され、かかる凹部の空間の一部を占める態様で設けられる。チョークバー129A及び129Bのそれぞれには、複数のボルト128A及び128Bが取り付けられる。これらのボルトを、その軸方向に沿って移動させることにより、ダイス100内のチョークバーの位置を調節し、チョークバー近傍の流路124A及び124Bのギャップ129Ag及び129Bgの大きさを調節することができる。
【0025】
簡略化した図示のため、図1には、1本のチョークバー129Bを調整するためのボルトとして、幅方向に1列に並んだ7本のボルト128Bが図示されているが、チョークバー1本当たりのボルトの数はこれに限定されず、例えばより多数としうる。これらのボルトを独立して調整することにより、多層フィルム厚みに占める各層厚みの比の、幅方向にわたるプロフィールを、容易に大きく調整することができる。
【0026】
ダイス100の例において、溶融樹脂材料の流路は、ダイス100を構成するブロック(サブブロックを含む)の界面において形成される。具体的には、流入口121Aからチョークバー129Aまでの流路はブロック110A及びサブブロック110C1の界面に形成され、流入口121Bからチョークバー129Bまでの流路はブロック110B及びサブブロック110C2の界面に形成され、流入口121Cから合流位置131までの流路はサブブロック110C1及びサブブロック110C2の界面に形成され、合流位置131から開口132までの流路はブロック110D及び110Eの界面に形成される。ブロックの界面において形成される流路は、かかる界面を構成する2つのブロックの表面うちの一方又は両方に設けられた凹部により規定される。例えば、ダイス100において、マニホールド123Aは、ブロック110Aの、サブブロック110C1に対向する面上の凹部123Aa、及びサブブロック110C1の、ブロック110Aに対向する面上の凹部123Acにより規定される。マニホールド123Bは、ブロック110Bの、サブブロック110C2に対向する面上の凹部123Bb、及びサブブロック110C1の、ブロック110Bに対向する面上の凹部123Bcにより規定される。マニホールド123Cは、サブブロック110C1の、サブブロック110C2に対向する面上の凹部123C1、及びサブブロック110C2の、サブブロック110C1に対向する面上の凹部123C2により規定される。
【0027】
図3は、図1及び図2に示すサブブロック110C1を、ブロック110Aから離隔した状態で、ブロック110A側の面から観察した状態を示す側面図である。この面は、上に述べた面(Ca)に相当する。図3において、サブブロック110C1は、上に述べた凹部123Ac及び129Acに加え、流入口121Aに対応する凹部121Ac、上流側流路122Aに対応する凹部122Ac、及び下流側流路124Aに対応する凹部124Acを有する。これらの凹部の形状により示される通り、流路は、上流側流路122Aにおいては狭い幅を有するが、マニホールド123Aにより、ダイス100の幅方向の略全域にわたる幅に拡幅され、下流側流路124Aにおいては拡幅された流路となる。さらに、下流側流路124Aの幅方向全域にわたり、凹部129Acに挿入されたチョークバー129Aによるギャップ129Agの大きさの調節が行われる。また、マニホールド123B及び123Cも、マニホールド123Aと同じ幅に、流路を拡幅する形状としうる。
【0028】
〔ヒーター(A)(B)〕
本発明のダイスはさらに、マニホールド(A)よりも外側に位置する複数のヒーター(A)、及びマニホールド(B)よりも外側に位置する複数のヒーター(B)を備える。ダイス100の例では、上に述べたヒーター(A)及びヒーター(B)に相当する、ヒーター141A及びヒーター141Bが設けられる。図2に示す通り、ヒーター141Aは、マニホールド123Aの外側(即ち溶融樹脂材料(C)の流路から遠い側)に位置し、ヒーター141Bは、マニホールド123Bの外側に位置する。ヒーター141A及び141Bのそれぞれは、ダイス上面における陥入部142A及び142Bよりもさらに下側に設けられた空隙に埋め込まれる状態で設けられ、電線等の適切なエネルギー供給経路(図1図2において不図示)に接続され、そこから電気等のエネルギーを供給することにより、温度調節可能な状態で発熱しうる。
【0029】
ダイス100において、ヒーター141A及び141Bのそれぞれは、複数個設けられる。具体的には、ヒーター141A及び141Bのそれぞれはダイス幅方向に整列して、1列又は複数列設けうる。ダイス100の例では、図1に示す通り、陥入部142A及び142Bのそれぞれは、ブロック110A及びブロック110Bの上面に、幅方向に1列に並んで設けられ、これらの陥入部の個々に対応してヒーターが設けられる。簡略化した図示のため、図1には1列当たり7個の陥入部が図示されているが、1列当たりのヒーターの数はこれに限定されず、例えばより多数としうる。複数個設けられるヒーターのそれぞれに、電気等のエネルギーを供給する経路は、独立して設けうる。そのような経路を介して、これらのヒーターを独立して調整することにより、多層フィルム厚みに占める各層厚みの比の、幅方向にわたるプロフィールを、容易に大きく調整することができる。
【0030】
ヒーター(A)及びヒーター(B)により加熱される、溶融樹脂材料(A)及び(B)の流路上の加熱位置は、マニホールドにより拡幅された部位及びそれより下流における領域の一部又は全部を含む位置としうる。かかる流路上の領域を、幅方向に独立して加熱することにより、多層フィルム厚みに占める各層厚みの比の、幅方向にわたるプロフィールを、容易に大きく調整することができる。
【0031】
〔断熱材(A)(B)〕
本発明のダイスはさらに、断熱材(A)及び(B)を備える。ダイス100の例では、上に述べた断熱材(A)及び(B)に相当する、断熱材151A及び151Bが設けられる。ダイス100の例では、断熱材151A及び151Bは、図1の線1aに沿った面上には存在しないので、図2においてそれらは、それらをダイス幅方向から観察した際に存在する内部位置に対応する位置において、破線にて示す。
【0032】
断熱材(A)は、ダイスの厚み方向において、マニホールド(C)とヒーター(A)との間となる位置に設けられる。断熱材(B)は、ダイスの厚み方向において、マニホールド(C)とヒーター(B)との間となる位置に設けられる。このような位置に断熱材(A)及び(B)を設けることにより、多層フィルムの幅方向の広い領域における厚み比プロフィールの調整を有効に行うことができ、樹脂材料の変更を容易に行うことができる。これらの効果が得られる機構については、製造方法の説明において詳述する。
【0033】
好ましい例において、断熱材(A)は、面(Ac)及び面(Ca)の間に設けられ、断熱材(B)は、面(Bc)及び面(Cb)の間に設けられる。より具体的には、断熱材(A)は、面(Ac)及び面(Ca)の一方又は両方に設けられた凹部内に設けうる。断熱材(B)は、面(Bc)及び面(Cb)の一方又は両方に設けられた凹部内に設けうる。
【0034】
ダイス100の例では、断熱材151Aは、ヒーター141Aと、マニホールド123Cとの間に設けられる。断熱材151Bは、ヒーター141Bと、マニホールド123Cとの間に設けられる。断熱材151Aは、ブロック110Aのブロック110C側の面(面(Ac)に相当)及びブロック110Cのブロック110A側の面(面(Ca)に相当)の間に設けられ、断熱材151Bは、ブロック110Aのブロック110C側の面(面(Ac)に相当)及びブロック110Cのブロック110A側の面(面(Ca)に相当)の間に設けられる。
【0035】
このように、ブロックの界面に断熱材(A)及び(B)を位置させることにより、ダイス内への断熱材(A)及び(B)の設置が容易となる。また、断熱材(A)及び(B)の種類の変更が必要な場合又は断熱材(A)及び(B)に劣化が生じた場合等の、断熱材(A)及び(B)の交換が必要になった場合に、ブロックを分離することにより、容易に断熱材(A)及び(B)へアクセスすることができる。
【0036】
但し本発明はこれには限られず、断熱材(A)及び(B)は、これ以外の位置に設けてもよい。例えば、マニホールド(A)と(C)とを、及びマニホールド(B)と(C)とを、熱的に分離し、断熱材(A)及び(B)の機能をより有効に発現する観点からは、これらをより内側の位置に設けることが好ましい。具体的には、ブロック(C)に適切な陥入部又は割面を設けることにより、断熱材(A)を、マニホールド(A)とマニホールド(C)との間に設けてもよく、断熱材(B)を、マニホールド(B)とマニホールド(C)との間に設けてもよい。
【0037】
断熱材(A)及び(B)は、ダイスの幅方向の広い領域にわたり設けられることが好ましい。図3を参照して断熱材151Aを例にとり説明すると、断熱材151Aは、厚み方向においては上流側流路122Aと同じ位置に存在するので、幅方向において上流側流路122Aの位置(図3において当該位置は凹部122Acにより示される)と同じ位置には存在できないが、それ以外の幅方向の領域において、中央部近傍から端部まで延長して存在している。このように幅方向の広い領域において断熱材(A)及び(B)が存在することにより断熱材(A)及び(B)の機能をより有効に発現することができる。
【0038】
断熱材(A)は、マニホールド(A)より上流側に設けられる。断熱材(B)は、マニホールド(B)より上流側に設けられる。断熱材(A)を、マニホールド(A)より上流側であって、且つマニホールド(C)とヒーター(A)との間に設け、且つ断熱材(B)を、マニホールド(B)より上流側であって、且つマニホールド(C)とヒーター(B)との間に設けることにより、ブロックの界面への断熱材の設置を容易にすることができる。
【0039】
断熱材(A)及び(B)は、マニホールドより上流側のみに延長していてもよいが、配置が可能であれば、その下端は、マニホールドと同じ高さの位置まで延長していてもよく、マニホールドより下流の位置まで延長していてもよい。
【0040】
断熱材(A)及び(B)は、ダイスの上流-下流方向の広い領域にわたり設けられることが好ましい。図3を参照して断熱材151Aを例にとり説明すると、断熱材151Aは、上流-下流方向においては、ダイス上端の近傍から、マニホールド123A(図3において当該位置は凹部123Acにより示される)の直上まで延長して存在している。このように上流-下流方向の広い領域において断熱材(A)及び(B)が存在することにより断熱材(A)及び(B)の機能をより有効に発現することができる。
【0041】
断熱材(A)及び(B)を構成する材料の例としては、セメント、ケイ酸カルシウム、無機質鉱物などが挙げられる。断熱材(A)及び(B)のそれぞれの好ましい厚みは、使用する材料の種類、所望される断熱性等の種々の要因によって異なる。一般的な断熱材を使用した場合の厚みは、好ましくは5mm以上、より好ましくは10mm以上であり、一方好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下である。
【0042】
〔任意の構成要素:追加のヒーター〕
本発明のダイスは、上に述べた構成要素に加えて、任意の構成要素を備えうる。例えば、本発明のダイスは、上に述べたヒーター(A)及び(B)以外の追加のヒーターを備えうる。図1図3に示すダイス100を参照して説明すると、ダイス100が備えうる追加のヒーターの一例としては、上流側流路122A、122B及び122Cの近傍に設けられるヒーターが挙げられる。ダイス100の例では、かかるヒーターとして、上流流路近傍ヒーター143A及び144Bが設けられている。上流側流路は、比較的多量の溶融樹脂材料をより高い温度で円滑に流動させることが求められるところ、かかる上流流路近傍ヒーターを有することにより、そのような多量の溶融樹脂材料の円滑な流動を容易に行うことができる。
【0043】
上流流路近傍ヒーター143A及び143Bは、ダイス上面における陥入部144A及び144Bよりもさらに下側に設けられた空隙に埋め込まれる状態で設けられ、電線等の適切なエネルギー供給経路(不図示)に接続され、そこから電気等のエネルギーを供給することにより、温度調節可能な状態で発熱しうる。上流流路近傍ヒーター143A及び143Bは、ヒーター141A及び141Bとは異なり、上流流路のみを加熱する目的で設けられるので、ダイス幅方向に多数設ける必要は無い。ダイス100の例では、上流流路近傍ヒーター143A及び143Bは、図1に示す一つずつの陥入部144A及び144Bに対応する位置に、一つずつのみ設けられている。
【0044】
ダイス100が備えうる追加のヒーターの別の一例としては、チョークバー129A及び129Bの位置において流路を加熱するために、チョークバー129A及び129B、又はロッド128A及び128Bの内部又は近傍に設けられたチョークバーヒーター(不図示)が挙げられる。かかるチョークバーヒーターは、複数のチョークバー129A及び129Bのそれぞれを、独立した温度調節にて加熱することにより、多層フィルムの幅方向の対応する領域における厚み比のプロフィールを調整することを可能とする。
【0045】
ダイス100が備えうる追加のヒーターの別の一例としては、内層用マニホールドの近傍に設けられる内層用ヒーター145A及び145Bが設けられる。ダイス100の例では、内層用ヒーター145A及び145Bは、図1の線1aに沿った面上には存在しないので、図2においてそれらは、それらをダイス幅方向から観察した際に存在する内部位置に対応する位置において、破線にて示す。この例において、内層用ヒーター145A及び145Bは、上流流路近傍ヒーター143A及び143Bの幅方向両脇において、ヒーター143A及び143Bの近傍から、マニホールドにより拡幅された流路幅の端部までの領域にわたって整列して、それぞれ複数設けられる。複数のヒーター143A及び143Bのそれぞれを、独立した温度調節にて加熱することにより、多層フィルムの幅方向の対応する領域における厚み比のプロフィールを調整することを可能とする。
【0046】
多層フィルムの幅方向の全領域またはそれに近い広い領域にわたる著しい厚みの差異を、ヒーター141A及び141Bの温度の設定により矯正させた場合、矯正後のプロフィールにおいて、局所的な、微小な厚み比のバラつきが発生しうる。そのような場合は、上に述べた内層用ヒーター145A及び145B、及びチョークバーヒーターを用いて、さらなる厚み比のバラつきの、微調整としての矯正を行いうる。
【0047】
〔任意の構成要素:追加の断熱材〕
本発明のダイスはまた、上に述べた断熱材(A)及び(B)以外の追加の断熱材を備えうる。追加の断熱材の一例としては、上に述べた内層用ヒーター145Aと溶融樹脂材料(A)の流路(特にマニホールド123A及びその近傍)との間を断熱する断熱材153A、及び内層用ヒーター145Bと溶融樹脂材料(B)の流路(特にマニホールド123B及びその近傍)との間を断熱する断熱材153Bが挙げられる。これらの断熱材を備えることにより、溶融樹脂材料(A)及び(B)の流路の温度と、溶融樹脂材料(C)の流路の温度とを独立して調節することがより容易となる。これらの追加の断熱材を構成する材料は、断熱材(A)及び(B)を構成する材料と同じものであってもよく、異なっていてもよい。かかる材料の具体例としては、断熱材(A)及び(B)を構成する材料の例と同じものが挙げられる。
【0048】
〔任意の構成要素:その他〕
本発明のダイスはまた、上に述べたものの他に、各種の任意の構成要素を備えうる。
任意構成要素の一例としては、ヒーターの温度をモニターするための温度センサーが挙げられる。具体的には、ヒーター141A及び141B並びにその他のヒーターは、その内部又は近傍に設けられた、それらの一つ又は複数により調節されるダイス内の温度をモニターするための温度センサーを伴いうる。かかる温度センサーから得られた温度情報をもとに、それぞれのヒーターにより加熱される領域が、所望の温度を維持するよう制御しうる。
【0049】
任意構成要素の別の例としては、従来技術におけるダイスが有する各種の構成要素が挙げられる。例えば、ダイスリップの開口の大きさを調整するボルトが挙げられる。かかるボルトを、ダイスの幅方向にわたり多数設けることにより、多層フィルムの総厚みを、幅方向にわたり独立に調整し、幅方向に均一な厚み分布を有する多層フィルムを製造することができる。
【0050】
〔多層押出成形装置〕
本発明の多層押出成形装置は、上に述べた本発明のダイスと、計測装置と、温度制御装置とを備える。計測装置は、ダイスから押し出される多層フィルムの一層以上の層の厚みを、多層フィルムの幅方向に並ぶ複数箇所において計測する装置である。温度制御装置は、計測装置が計測した厚みに基づいて、ヒーター(A)及び(B)の温度を制御する装置である。
【0051】
本発明の多層押出成形装置は、さらに任意の構成要素を備えうる。任意の構成要素の例としては、ペレット状等の固形の樹脂材料を溶融させて溶融樹脂材料とし、ダイスの流入口のそれぞれに圧送する押出機、ダイスから吐出された溶融状態の多層フィルムを冷却するキャストロール、冷却された後の多層フィルムを、搬送経路に沿って搬送させる搬送装置、多層フィルムに対して延伸等の処理を行う処理装置、計測装置で得られた情報を温度制御装置へ伝達するための配線、及び温度制御装置からヒーターへ、制御された態様で電気等のエネルギーを供給するための配線が挙げられる。
【0052】
図4は、本発明の多層押出成形装置の一例を概略的に示す側面図である。図4において、多層押出成形装置10は、図1図3を参照して説明したダイス100、計測装置200及び温度制御装置300を備える。多層押出成形装置10はさらに、任意の構成要素として、ペレット状等の固形の樹脂材料を溶融させて溶融樹脂材料としダイス100の流入口121A、121B及び121Cのそれぞれに圧送する押出機(不図示)、ダイス100から吐出された溶融状態の多層フィルム11を冷却するキャストロール410、冷却された後の多層フィルム12を搬送経路に沿って搬送させる搬送装置(不図示)、多層フィルム12に対して延伸等の処理を行う処理装置420、計測装置200で得られた情報を温度制御装置300へ伝達するための配線201、及び温度制御装置300から、ダイス100内のヒーターへ、制御された態様で電気エネルギーを供給するための配線301を備える。
【0053】
計測装置200としては、搬送される多層フィルムを構成する各層の厚みを計測しうる装置を適宜選択しうる。計測装置の具体的としては、赤外線厚さ計、X線厚さ計、及び干渉式膜厚計が挙げられる。測定の精度の高さ、及び搬送速度の速い製造ラインへの対応力の高さの観点からは、干渉式膜厚系が好ましい。
【0054】
温度制御装置300としては、既知の適切なヒーター制御のための装置を使用しうる。具体的には、温度制御装置300は、計測装置200で得られた、多層フィルム12の各層厚みについての情報を受信し、厚み比を計算するユニット(i)と、ユニット(i)の計算結果を元に各ヒーターによる加熱温度を決定するユニット(ii)と、ユニット(ii)の決定結果及びダイス100に設けられた温度センサーから受信した温度情報を元に、各ヒーターに、所望の加熱温度が維持されるよう制御された態様で電気等のエネルギーを供給するユニット(iii)を備えるものとしうる。但し温度制御装置300はこれに限られず、例えばユニット(i)~(iii)の一部を、操作者が手動で行うよう構成されてもよい。
【0055】
〔多層フィルムの製造方法〕
本発明の多層フィルムの製造方法は、下記工程(I)~(II)を含む。本発明の多層フィルムの製造方法はさらに、下記工程(III)及び(IV)を含みうる。
工程(I):溶融樹脂材料(A)~(C)のそれぞれを、上に述べた本発明のダイスのマニホールド(A)~(C)へ供給し、それぞれの流路を拡幅して、マニホールド(A)~(C)のそれぞれから合流位置まで圧送する工程。
工程(II):合流位置において、溶融樹脂材料(A)~(C)を合流させ、ダイスのリップから、複数の層を有する平坦な流出物として押し出す工程。
工程(III):製造された多層フィルムの、1層以上の層の厚みを、多層フィルムの幅方向に並ぶ複数箇所において計測する工程。
工程(IV):工程(III)で計測された1層以上の層の厚みに基づき、工程(I-1)におけるヒーター(A)及びヒーター(B)による加熱条件を調整する工程。
【0056】
工程(I)はさらに、マニホールド(A)より外側から、溶融樹脂材料(A)の流路を、複数のヒーター(A)により独立して加熱し、且つマニホールド(B)より外側から、溶融樹脂材料(B)の流路を、複数のヒーター(B)により独立して加熱する工程(I-1)を含む。
【0057】
工程(I)及び(II)は、本発明のダイスを用いて行われる。工程(III)及び(IV)は、本発明の多層押出成形装置に設けられた計測装置及び温度制御装置を、ダイスと共に用いて行いうる。
【0058】
〔溶融樹脂材料〕
溶融樹脂材料(A)~(C)のそれぞれとしては、多層フィルムを構成する層として所望の材料を適宜選択しうる。溶融樹脂材料(A)~(C)は、それぞれ互いに異なる材料としうるが、これに限られず、例えば溶融樹脂材料(A)及び(B)を同じ材料として、最外層(A)及び(B)を同じ材料からなる層としてもよい。
【0059】
溶融樹脂材料(A)~(C)の組み合わせの一例として、正の固有複屈折値を有する材料(以下、単に「正の材料」という場合がある)と、負の固有複屈折値を有する材料(以下、単に「負の材料」という場合がある)との組み合わせが挙げられる。正の固有複屈折値を有する樹脂とは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも大きくなる樹脂を意味する。また、負の固有複屈折値を有する樹脂とは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも小さくなる樹脂を意味する。固有複屈折値は、誘電率分布から計算しうる。より具体的には、溶融樹脂材料(A)及び(B)として正の材料を採用し、溶融樹脂材料(C)として負の材料を採用することにより、光学的に有用な特性を有する多層フィルムを得ることができる。
【0060】
正の材料を構成する重合体の例としては、オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、ノルボルネン、シクロオレフィンなど)、エステル(例えば、エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートなど)、アリーレンサルファイド(例えば、フェニレンサルファイドなど)、ビニルアルコール、カーボネート、アリレート、セルロースエステル(固有複屈折値が負であるものもある)、エーテルスルホン、スルホン、アリルサルホン、塩化ビニルなどの単量体の1種単独の重合体、及び前記単量体の多元(二元、三元等)共重合体が挙げられる。
【0061】
負の材料を構成する重合体の例としては、スチレン、スチレン誘導体、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、無水マレイン酸、ブタジエン、セルロースエステル(固有複屈折値が正であるものもある)などの単量体の1種単独の重合体、及び前記単量体の多元(二元、三元等)共重合体が挙げられる。
【0062】
溶融樹脂材料(A)~(C)のそれぞれは、必要に応じて、各種添加剤(例えば酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤など)を含んでいてもよい。
【0063】
本発明の製造方法により得られる多層フィルムにおける、内層(C)の平均厚さは、例えば10~250μmの範囲としうる。一方最外層(A)及び(B)のそれぞれの平均厚さは、10~200μmの範囲としうる。
【0064】
〔製造方法の具体例〕
図1図4に示す装置を用いた、多層フィルムの製造方法の一例を具体的に説明する。
まず、押出機等の適切な装置を用いて、ペレット状等の固形の樹脂材料を溶融させて溶融樹脂材料(A)~(C)とし、それぞれを、ダイス100の流入口121A~121Cのそれぞれに、加圧して流入させる。溶融樹脂材料(A)~(C)は、それぞれの上流側流路122A、122B及び122Cを通り、マニホールド123A、123B及び123Cに供給される。ここで溶融樹脂材料(A)~(C)の流路が拡幅され、これらはマニホールド123A、123B及び123Cから流出し、下流側流路124A、124B及び124Cのそれぞれを経由して、合流位置131まで圧送される(工程(I))。このように溶融樹脂材量(A)~(C)が圧送されることにより、合流位置131においてこれらが合流し、ダイスのリップの開口132から、溶融状態の多層フィルム11が、複数の層を有する平坦な流出物として押し出される(工程(II))。
【0065】
ここで、工程(I-1)として、溶融樹脂材料(A)の流路(即ち、流入口121A~合流位置131までの流路)を、マニホールド123Aより外側に位置するヒーター141Aにより、独立して加熱し、且つ溶融樹脂材料(B)の流路(即ち、流入口121B~合流位置131までの流路)を、マニホールド123Bより外側に位置するヒーター141Bにより、独立して加熱する。ここで、独立した加熱とは、整列して設けられた複数個のヒーター141Aのそれぞれ、及び複数個のヒーター141Bのそれぞれの近傍の領域を、所望の温度とするよう、それぞれのヒーターの温度を独立して設定して、それぞれのヒーターが当該設定温度となるようヒーターを制御して発熱させることをいう。このような独立した加熱を行うことにより、マニホールドにより拡幅された部位及びそれより下流における流路の、幅方向の温度の分布を独立して調整することができ、それにより、多層フィルム厚みに占める各層厚みの比の、幅方向にわたるプロフィールを、容易に大きく調整することができる。
【0066】
一般的な溶融樹脂材料はいずれも、溶融状態において温度が高まると、流動性が高まる。そのため、幅方向に拡幅された流路のある部分を局所的に加熱し、幅方向のある部分の温度を相対的に高い温度とすると、その部分を流れる溶融樹脂材料の流量が相対的に大きくなる。したがって、層の厚みを厚くすることが求められる領域に対応する部分が相対的に高い温度となるよう、複数個のヒーターによる加熱を独立して行うことにより、厚み比プロフィールの調整を行うことができる。
【0067】
ダイス100から吐出された溶融状態の多層フィルム11は、キャストロール410にキャストされる。キャストされた多層フィルム11は、キャストロール410により冷却され、硬化した状態の長尺の多層フィルム12が連続的に製造される。多層フィルム12の各層の厚みを、計測装置200にて測定する(工程(III))。ここで、計測装置200による測定は、多層フィルム12の幅方向にわたって行われ、それにより、多層フィルム12の各層について、フィルムの幅方向端部の一方からの距離と、層厚みとから構成される、厚みプロフィールが得られ、さらにそれに基づいて、多層フィルム厚みに占める各層厚みの比の、幅方向にわたるプロフィールが得られる。得られた測定値は、配線201を経由して温度制御装置300に送信される。
【0068】
温度制御装置300は、受信した各層厚み比のプロフィールのデータに基づき、ヒーター141A、ヒーター141B及びその他のヒーターによる加熱条件を調整する(工程(IV))。具体的には、計測装置200で得られた、多層フィルム12の各層厚みについての情報を受信し、多層フィルム厚み比を計算し、計算結果を元に各ヒーターによる加熱温度を決定し、決定結果と、ダイス100に設けられた温度センサーから受信した温度情報とを対比し、各ヒーターに、所望の加熱温度が維持されるよう制御された態様で電気等のエネルギーを供給することにより、所望の加熱条件による加熱を達成することができる。
【0069】
〔温度設定の具体例〕
ヒーターの温度の設定の具体例を、図5図7を参照して説明する。
図5は、本発明の多層フィルムの製造方法により製造された長尺の多層フィルムの一例を、フィルム幅方向に平行な面で切断した断面を概略的に示す縦断面図である。図5において多層フィルム500は、最外層(A)及び(B)のそれぞれに相当する層501A及び501B、並びに内層(C)に相当する層501Cを備える。図中領域R1~R7は、図1図2に模式的に示す、7本のヒーター141Aのそれぞれ、及び7本のヒーター141Bのそれぞれに対応する領域である。
【0070】
多層フィルム500において、層501A~501Cは、いずれも、厚みのバラつきが無い理想的な状態である。このような状態の多層フィルムが本発明の製造方法により連続的に製造されている状態においては、ヒーター141A、141Bの設定条件及びその他の製造の条件を、現状の通り維持することにより、良好な製造を継続することができる。
【0071】
図6は、本発明の多層フィルムの製造方法により製造された長尺の多層フィルムの別の一例を、フィルム幅方向に平行な面で切断した断面を概略的に示す縦断面図である。図6において多層フィルム600は、最外層(A)及び(B)のそれぞれに相当する層601A及び601B、並びに内層(C)に相当する層601Cを備える。この例において、層601Aは、領域R2において、相対的な厚み比が薄くなっており、厚みのバラつきがある状態である。このような状態においては、多数のヒーター141Aのうち、領域Rに対応するヒーターの設定温度を高温側にシフトするよう、設定温度を変更しうる。多層フィルムの総厚みは、ダイスリップの開口132の大きさ等の他の要因により一定に制御されているので、溶融樹脂材料(A)の流量が相対的に大きくなった領域においては、層601Cの厚みが相対的に薄くなる。その結果、厚み比が変更され、図5の多層フィルム500として示した、各層の厚みのバラつきが無い理想的な状態に近づくよう、厚み比バラつきを低減させることができる。
【0072】
図7は、本発明の多層フィルムの製造方法により製造された長尺の多層フィルムのさらに別の一例を、フィルム幅方向に平行な面で切断した断面を概略的に示す縦断面図である。図7において多層フィルム700は、最外層(A)及び(B)のそれぞれに相当する層701A及び701B、並びに内層(C)に相当する層701Cを備える。この例において、層701A及び層701Bはいずれも、領域R4において、相対的な厚み比が大きく減少しており、且つその周辺の領域でも厚みが減少しており、著しい厚みの差異を伴う厚みのバラつきがある状態である。
【0073】
このような状態においては、多数のヒーター141A及び141Bのうち、例えば、領域R1及びR7に対応するヒーターの温度よりも、領域R2及びR6に対応するヒーターの温度をより高く設定し、領域R3及びR5に対応するヒーターの温度をさらにより高く設定し、且つ領域R4に対応するヒーターの温度をさらにより高く設定することで、厚みのバラツキを低減させることができると期待される。
【0074】
本発明者が見出したところによれば、断熱材151A及び151Bが存在しない従来技術のダイスにおいて、このような著しい厚みの差異を、ヒーター温度の設定により低減させるべく、一部のヒーターの温度を著しく高くした場合、結果的に相対的な厚みの変化を大きくすることが逆に困難となる。そのような現象の理由は、特定の理論に拘束されるものでは無いが、ダイス内における一部のヒーターの温度を著しく高くすると、その熱が容易に広範に伝播し、熱の勾配が小さくなり、結果として相対的な厚みの変更を阻害することによるものと思われる。例えば、領域R4に対応するヒーター141A及び141Bの温度を著しく高く設定すると、内層用の溶融樹脂材料(C)の流路も加熱され、流路間の熱の勾配が小さくなり、その結果所望の相対的な厚みの変更が達成されないと考えられる。
【0075】
ここで、本発明のダイスでは、内層用の溶融樹脂材料(C)の流路と、ヒーター141A及び141Bとの間に、断熱材151A及び151Bが存在することにより、ヒーター141Aが存在するブロック110A及びヒーター141Bが存在するブロック110Bにおける温度と、内層用の溶融樹脂材料(C)の流路が存在するブロック110Cにおける温度との独立性が高くなる。そのため内層用の溶融樹脂材料(C)の流路温度と独立して、最外層用の溶融樹脂材料(A)及び(B)の流路の温度を調節することが容易となる。結果的に、本発明のダイス100を用いた多層フィルムの製造においては、多層フィルムの幅方向の全領域またはそれに近い広い領域にわたる、相対的な厚みの差異が著しい厚み比のプロフィールを容易に矯正することができる。
【0076】
この例のように、多層フィルムの幅方向の全領域またはそれに近い広い領域にわたる著しい厚みの差異を、ヒーター141A及び141Bの温度の設定により矯正させた場合、矯正後のプロフィールにおいて、局所的な、微小な厚み比のバラつきが発生しうる。そのような場合は、他のヒーター(例えば内層マニホールド近傍の内層用ヒーター145A及び145B、及びチョークバー129A及び129Bを加熱するチョークバーヒーター)を用いて、さらなる厚み比のバラつきの、微調整としての矯正を行いうる。
【0077】
図7に例示した、多層フィルムの幅方向の全領域またはそれに近い広い領域にわたる著しい厚みの差異は、フィルムの製造に使用する樹脂材料の種類を変更した際、及び設計上の要求等の事情により多層フィルムの厚み比をそれまでの製造における厚み比から大きく変更した際等の製造条件を変更した際に、特に多く発生しうる。本発明の製造方法では、そのような著しい厚みの差異をも容易に矯正することが可能であるので、製造工程の再立ち上げといった煩雑な工程を伴わずに、製造条件を大きく変更した製造を行うことが可能となる。その結果、多層フィルムの多品種少量生産を容易に行うことができるという有用な効果が得られる。
【0078】
多層フィルムの厚み比の変更は、例えば内層の厚み比を変更する場合において、断熱材151A及び151Bが存在しない従来技術のダイスのある例において、内層厚み比の変更前の値に対する変更後の値の変動を7%以上とする場合には、装置の調整及び再立ち上げが必要であったのに対し、断熱材151A及び151B及びその他の構成要素を備えた本発明のダイスを含む製造では、17%といった大きな変動を伴う場合であっても、装置の調整及び再立ち上げを行わずに達成することができる。
【0079】
〔任意の工程:多層延伸フィルムの製造方法〕
本発明の多層フィルムの製造方法は、上に述べた工程の他に、任意の工程を含みうる。例えば、得られた多層フィルムを延伸し、多層延伸フィルムを製造しうる。延伸の態様は特に限定されず、縦延伸(長尺のフィルムの長手方向の延伸)、横延伸(幅方向の延伸)、斜め延伸、及びこれらの組み合わせとしうる。
【0080】
〔変形例〕
本発明のダイス、本発明の多層押出成形装置、及び本発明の製造方法は、上に述べた例に限られず、さらなる変更を伴っていてもよい。例えば、上に述べた例では、内層(C)が一層のみである多層フィルムの製造のための方法及び装置を例示したが、本発明はこれに限られず、内層が2層以上であってもよい。
【0081】
〔多層フィルムの用途〕
本発明のダイス、本発明の多層押出成形装置、又は本発明の製造方法により製造された多層フィルム及び多層延伸フィルムは、幅方向の各層の厚み比のバラつきが低減されているので、例えば、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、透明導電フィルムなどの光学フィルムの素材として好適に使用できる。
【実施例0082】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0083】
〔評価方法〕
〔光学特性の評価〕
実施例及び比較例で得られた多層フィルムを、面内位相差Reが、λ/4波長板としての機能を発現しうる137nmとなるように延伸を行い、多層延伸フィルムを得た。多層延伸フィルムを、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)で測定することにより光学特性を評価した。延伸により発現させる光学特性及び評価の条件は、全ての実施例及び比較例において同一とした。測定された多数のReの値の最大値と最小値との差を、ばらつきとして求めた。評価結果は、下記の評価指標に従って三段階に分けた。
○:延伸後の位相差値ばらつきが5nm未満。
△:延伸後の位相差値ばらつきが5nm以上、15nm未満。
×:延伸後の位相差値ばらつきが15nm以上。
【0084】
〔製造例1〕
下記表1に示す物性を有する、4種類の樹脂(1)~(4)のペレットを用意した。
【0085】
【表1】
【0086】
〔実施例1〕
図1図4に概略的に示す、ダイス100を含む多層押出成形装置10を用いて、多層フィルムの製造及び評価を行った。ダイス100のダイスリップ開口132の、フィルム幅方向の広さは1850mmとした。
但し、断熱材としては、断熱材151A及び151Bをダイス100内に設置してこれらを使用した一方、断熱材153A及び153Bは設置せず、使用しなかった。断熱材151A及び151B及びその他の断熱材の材質としては、セメント板を用いた。断熱材151A及び151Bのそれぞれの厚みは、20mmとした。
ヒーターとしては、ヒーター141A及び141B、143A及び143B、並びにチョークバー129A及び129Bを加熱するヒーター(不図示)を使用した一方、ヒーター145A及び145Bは使用しなかった。
図1には、ヒーター141A及び141Bのそれぞれは、幅方向に1列7個ずつを図示しているが、実際に使用した装置は、ヒーター141A及び141Bのそれぞれを、幅方向に2列21個ずつを備えていた。
図1には、チョークバー129A及び129Bのそれぞれは、幅方向に7個ずつを図示しているが、実際に使用した装置は、チョークバー129A及び129Bのそれぞれを、幅方向に41個ずつを備えていた。
また、冷却された多層フィルム12は、計測装置200による各層の厚みの測定を行った後、処理装置420による処理には供さず、そのまま製品として回収した。計測装置200としては、干渉式膜厚計を使用した。
最外層(A)及び最外層(B)を構成する樹脂材料としては、樹脂(3)を用い、内層(C)を構成する樹脂材料としては、樹脂(4)を用いた。
【0087】
(1-1.ヒーター調整前の多層フィルムの製造における予備調整)
押出機において樹脂(3)のペレットを溶融させて溶融樹脂材料とし、流入口121A及びBに圧送し、一方別の押出機において樹脂(4)のペレットを溶融させて溶融樹脂材料とし、流入口121A及びBに圧送した。押出機から押し出す時点の樹脂温度は、いずれも260℃とした。圧送に際し、上流側流路122A、122B及び122Cは、上流流路近傍ヒーター143A及び144Bで加熱して、円滑な流動を確保した。
【0088】
圧送の結果、ダイスリップの開口132から、(溶融樹脂材料(A))/(溶融樹脂材料(C))/(溶融樹脂材料(B))の層構成を有する、溶融状態の多層フィルム11を吐出させ、キャストロール410にキャストした。開口132における溶融樹脂材料の温度は260℃とした。キャストされた多層フィルム11は、キャストロール410により冷却され、硬化した状態の多層フィルム12となった。多層フィルム12の総厚み及び各層の厚みを、計測装置200にて測定し、その後多層フィルム12を回収した。計測装置200による測定は、干渉式膜厚計において行い、平均厚み、最大厚み及び最小厚みを求めた。最大厚みと最小厚みとの差の、平均厚みに対する百分率を、厚みバラつきとして求めた。
【0089】
計測装置200から得られたデータを元に総厚み及び各層の厚みを調整した。この段階での厚み調整は、押出機からの、それぞれの溶融樹脂材料の圧送速度の調整、チョークバー129A及び129Bによるギャップ129Ag及び129Bgの大きさの調整、ダイスリップの開口の広さの調整、及びキャストロール410の回転速度調整による、溶融状態の多層フィルム11の引き取り速度の調整により行った。この時点では、ヒーター141A及び141B並びにチョークバー129A及び129Bを加熱するヒーターは使用しなかった。その結果、最外層(A)及び最外層(B)の厚みをそれぞれ40μmとし、内層(C)の厚みを40μmとした状態において、内層(C)の厚みバラつきを4.8%とした、多層フィルム12の製造が可能である状態に、装置を調整した。
【0090】
(1-2.ヒーター調整を伴う多層フィルムの製造)
(1-1)の調整が完了し、多層フィルム12が連続的に製造されている状態において、ヒーター141A及び141Bを用いた、厚み比の調整を行った。具体的には、多層フィルム幅方向の、最外層(A)の厚みプロフィールのうち、厚みが薄い領域に対応するヒーター141Aの温度を相対的に高温に調節し、最外層(B)の厚みプロフィールのうち、厚みが薄い領域に対応するヒーター141Bの温度を相対的に高温に調節し、最外層(A)及び(B)の大まかな厚みプロフィールを平坦に近い厚みに調節した。続いて、それに加えて、多層フィルム幅方向の、最外層(A)の厚みプロフィールのうち、厚みが薄い微小領域に対応するチョークバー129Aの温度を相対的に高温に調節し、多層フィルム幅方向の、最外層(B)の厚みプロフィールのうち、厚みが薄い微小領域に対応するチョークバー129Bの温度を相対的に高温に調節し、最外層(A)及び(B)の局部的な厚みプロフィールを平坦に近い厚みに調節した。これらの温度調節は、計測装置200からの厚み測定結果の情報を温度制御装置300にて受信し、当該情報に基づいて温度制御装置300に接続されたヒーターの温度を、温度制御装置300により調節することにより行った。その結果、内層(C)の厚みバラつきを、0.4%に低減することができた。この製造条件による製造で得られた多層フィルムの光学特性を評価した。
【0091】
〔実施例2〕
(2-1.予備調整)
実施例1の(1-1)において調整した状態のダイス100を用い、樹脂材料を変更して、多層フィルムの製造を行った。
即ち、ギャップ129Ag及び129Bg及びダイスリップの開口の状態を、実施例1の(1-1)で調整した状態のままで、最外層(A)及び最外層(B)を構成する樹脂材料として樹脂(3)に代えて樹脂(1)を用い、内層(C)を構成する樹脂材料として樹脂(4)に代えて樹脂(2)を用い、多層フィルムの製造を行った。
【0092】
押出機からのそれぞれの溶融樹脂材料の圧送速度、及びキャストロール410の回転速度を調整することにより、最外層(A)及び最外層(B)の厚みをそれぞれ32.5μmとし、内層(C)の厚みを65μmとした。この時点では、ヒーター141A及び141B並びにチョークバー129A及び129Bを加熱するヒーターは使用しなかった。この状態において、内層(C)の厚みバラつきは13.9%であった。
【0093】
(2-2.ヒーター調整を伴う多層フィルムの製造)
(2-1)の調整が完了し、多層フィルム12が連続的に製造されている状態において、実施例1の(1-2)と同じ操作により、厚み比の調整を行った。その結果、内層(C)の厚みバラつきを、0.5%に低減することができた。この製造条件による製造で得られた多層フィルムの光学特性を評価した。
【0094】
〔実施例3〕
(3-1.予備調整)
実施例1の(1-1)において調整した状態のダイス100を用い、樹脂材料を変更して、多層フィルムの製造を行った。
即ち、ギャップ129Ag及び129Bg及びダイスリップの開口の状態を、実施例1の(1-1)で調整した状態のままで、最外層(A)及び最外層(B)を構成する樹脂材料として樹脂(3)に代えて樹脂(2)を用い(内層(C)を構成する樹脂材料は樹脂(4)のまま変更なし)、多層フィルムの製造を行った。
【0095】
押出機からのそれぞれの溶融樹脂材料の圧送速度、及びキャストロール410の回転速度を調整することにより、最外層(A)及び最外層(B)の厚みをそれぞれ30μmとし、内層(C)の厚みを210μmとした。この時点では、ヒーター141A及び141B並びにチョークバー129A及び129Bを加熱するヒーターは使用しなかった。この状態において、内層(C)の厚みバラつきは17.8%であった。
【0096】
(3-2.ヒーター調整を伴う多層フィルムの製造)
(3-1)の調整が完了し、多層フィルム12が連続的に製造されている状態において、実施例1の(1-2)と同じ操作により、厚み比の調整を行った。その結果、内層(C)の厚みバラつきを、0.6%に低減することができた。この製造条件による製造で得られた多層フィルムの光学特性を評価した。
【0097】
〔比較例1〕
以下の変更点以外は、実施例1と同じ操作を行い、多層フィルムの製造及び評価を行った。
・ヒーター141A及び141B並びにチョークバー129A及び129Bを加熱するヒーターを使用しなかった一方、ヒーター145A及び145Bを使用した。
・断熱材としては、断熱材151A及び151Bを設置せず、使用しなかった一方、断熱材153A及び153Bを設置してこれらを使用した。
【0098】
予備調整後の内層(C)の厚みバラつきは、4.6%に調整された。ヒーター調整を伴う多層フィルムの製造では、内層(C)の厚みバラつきを、1.2%に低減することができた。この製造条件による製造で得られた多層フィルムの光学特性を評価した。
【0099】
〔比較例2〕
以下の変更点以外は、実施例3と同じ操作を行い、多層フィルムの製造及び評価を行った。
・ヒーター141A及び141B並びにチョークバー129A及び129Bを加熱するヒーターを使用しなかった一方、ヒーター145A及び145Bを使用した。
・断熱材としては、断熱材151A及び151Bを設置せず、使用しなかった一方、断熱材153A及び153Bを設置してこれらを使用した。
【0100】
予備調整後の内層(C)の厚みバラつきは、17.2%に調整された。ヒーター調整を伴う多層フィルムの製造では、内層(C)の厚みバラつきを、13.3%に低減することができた。この製造条件による製造で得られた多層フィルムの光学特性を評価した。
【0101】
〔比較例3〕
以下の変更点以外は、実施例1と同じ操作を行い、多層フィルムの製造及び評価を行った。
・ヒーター141A及び141Bを使用しなかった(チョークバー129A及び129Bを加熱するヒーターについては使用した)。
・断熱材は、断熱材151A及び151Bも、断熱材153A及び153Bも設置せず、使用しなかった。
【0102】
予備調整後の内層(C)の厚みバラつきは、4.5%に調整された。ヒーター調整を伴う多層フィルムの製造では、内層(C)の厚みバラつきを、0.5%に低減することができた。この製造条件による製造で得られた多層フィルムの光学特性を評価した。
【0103】
〔比較例4〕
以下の変更点以外は、実施例2と同じ操作を行い、多層フィルムの製造及び評価を行った。
・ヒーター141A及び141Bを使用しなかった(チョークバー129A及び129Bを加熱するヒーターについては使用した)。
・断熱材は、断熱材151A及び151Bも、断熱材153A及び153Bも設置せず、使用しなかった。
【0104】
予備調整後の内層(C)の厚みバラつきは、14.1%に調整された。ヒーター調整を伴う多層フィルムの製造では、内層(C)の厚みバラつきを、7.0%に低減することができた。この製造条件による製造で得られた多層フィルムの光学特性を評価した。
【0105】
〔比較例5〕
以下の変更点以外は、実施例3と同じ操作を行い、多層フィルムの製造及び評価を行った。
・ヒーター141A及び141Bを使用しなかった(チョークバー129A及び129Bを加熱するヒーターについては使用した)。
・断熱材は、断熱材151A及び151Bも、断熱材153A及び153Bも設置せず、使用しなかった。
【0106】
予備調整後の内層(C)の厚みバラつきは、17.4%に調整された。ヒーター調整を伴う多層フィルムの製造では、内層(C)の厚みバラつきを、10.6%に低減することができた。この製造条件による製造で得られた多層フィルムの光学特性を評価した。
【0107】
実施例及び比較例の実施条件の概要、及び光学特性の評価の結果を、表2に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
※1:使用した断熱材の種類。151:図2に示す断熱材151A及び151B。153:図2に示す断熱材153A及び153B。
※2:使用したヒーターの種類。141:図2に示すヒーター141A及び141B。143:図2に示すヒーター143A及び143B。145:図2に示すヒーター145A及び145B。129:図2に示すチョークバー129A及び129Bを加熱するヒーター。
【0110】
実施例1~3の結果から明らかな通り、本発明のダイスを備える本発明の多層押出成形装置を用い、本発明の製造方法を実施することにより、装置の再立ち上げ及びチョークバー開口の調整といった調整を行わずに、使用する樹脂及び各層の厚み比を容易に変更し、少ない厚み比バラつきでの多層フィルムの製造を容易に実行することができる。
これに対し、比較例1と2との結果の対比、及び比較例3と比較例4又は5との対比により、本発明に規定する構成要素を備えないダイスを用いた製造では、使用する樹脂及び各層の厚み比の変更後における製造(比較例2、比較例4及び比較例5)において、多層フィルムの厚み比バラつきが著しく大きくなり、且つ得られた多層フィルムの光学特性の評価結果が大きく劣っていた。
【符号の説明】
【0111】
10:多層押出成形装置
11:溶融状態の多層フィルム
12:冷却された後の多層フィルム
100:ダイス
110A:ブロック(ブロック(A))
110B:ブロック(ブロック(B))
110C:ブロック(ブロック(C))
110C1:サブブロック
110C2:サブブロック
110D:ブロック
110E:ブロック
121A:流入口
121Ac:凹部
121B:流入口
121C:流入口
122A:上流側流路
122Ac:凹部
122B:上流側流路
122C:上流側流路
123A:マニホールド(マニホールド(A))
123Aa:凹部
123Ac:凹部
123B:マニホールド(マニホールド(B))
123Bb:凹部
123Bc:凹部
123C:マニホールド(マニホールド(C))
123C1:凹部
123C2:凹部
124A:下流側流路
124Ac:凹部
124B:下流側流路
124C:下流側流路
128A:ボルト
128B:ボルト
129A:チョークバー
129Ac:凹部
129Ag:ギャップ
129B:チョークバー
129Bc:凹部
129Bg:ギャップ
131:合流位置
132:開口
141A:ヒーター(ヒーター(A))
141B:ヒーター(ヒーター(B))
142A:陥入部
142B:陥入部
143A:上流流路近傍ヒーター
144A:陥入部
144B:上流流路近傍ヒーター
144B:陥入部
145A:内層用ヒーター
145B:内層用ヒーター
151A:断熱材(断熱材(A))
151B:断熱材(断熱材(B))
153A:断熱材
153B:断熱材
200:計測装置
201:配線
300:温度制御装置
301:配線
410:キャストロール
420:処理装置
500:多層フィルム
501A:層(最外層(A))
501B:層(最外層(B))
501C:層(内層(C))
600:多層フィルム
601A:層(最外層(A))
601B:層(最外層(B))
601C:層(内層(C))
700:多層フィルム
701A:層(最外層(A))
701B:層(最外層(B))
701C:層(内層(C))
R1:領域
R2:領域
R3:領域
R4:領域
R5:領域
R6:領域
R7:領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7