(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023890
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】二本鎖PNAプローブ
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20230209BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20230209BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230209BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20230209BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6813 Z
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129821
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】北松 瑞生
(72)【発明者】
【氏名】重藤 元
(72)【発明者】
【氏名】山村 昌平
(72)【発明者】
【氏名】大槻 高史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 靖人
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 明
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】標的DNAとPNA部分がハイブリダイズした際に高い蛍光強度を得ることができる、クエンチャーとレポーターが分離するタイプのPNAプローブを提供する。
【解決手段】消光基22と、DNA領域26と、前記消光基と前記DNA領域の間をつなぐクエンチャーリンカー24を含むクエンチャーパーツ20、ならびに発光基12と、PNA領域16と、前記発光基と前記PNA領域の間をつなぐレポーターリンカー14を含むレポーターパーツ10を有し、前記DNA領域と前記PNA領域が相補的に結合した際に、前記消光基と前記発光基が同じ側に配置される二本鎖PNAプローブ1であって、前記レポーターリンカーは、主鎖中に酸素を2元素以上含有しておらず、直鎖炭素結合換算で、前記レポーターリンカーより短いことを特徴とする二本鎖PNAプローブを使用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消光基と、
DNA領域と、
前記消光基と前記DNA領域の間をつなぐクエンチャーリンカーを含む
クエンチャーパーツと、
発光基と、
PNA領域と、
前記発光基と前記PNA領域の間をつなぐレポーターリンカーを含む
レポーターパーツを有し、
前記DNA領域と前記PNA領域が相補的に結合した際に、前記消光基と前記発光基が同じ側に配置される二本鎖PNAプローブであって、
前記レポーターリンカーは、主鎖中に酸素を2元素以上含有しておらず、直鎖炭素結合換算で、前記レポーターリンカーより短いことを特徴とする二本鎖PNAプローブ。
【請求項2】
前記クエンチャーリンカーが直鎖炭素結合換算値で13であるときに、前記レポーターリンカーは直鎖炭素結合換算値で2~11であることを特徴とする請求項1に記載された二本鎖PNAプローブ。
【請求項3】
前記PNA領域が標的とするDNAは一塩基多型であることを特徴とする請求項1または2の何れかに記載された二本鎖PNAプローブ。
【請求項4】
前記PNA領域が標的とするDNAはT790MもしくはL858Rの変異種であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一の請求項に記載された二本鎖PNAプローブ。
【請求項5】
前記レポーターリンカーが、C7、bAla、C11、Ambzのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一の請求項に記載された二本鎖PNAプローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞内の変異遺伝子あるいは変異細胞の標的塩基配列を検出する際に利用できるペプチド核酸プローブに関するものであり、特にクエンチャーとレポーターが分離するタイプのPNAプローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リアルタイムPCRや標的遺伝子の検出等のように、検出対象がDNA構造を持っている場合、その塩基配列を検出するプローブが開発されている。このプローブは、標的とする塩基配列に相補的な塩基配列を有するプローブ配列に、発光基(レポーター)と消光基(クエンチャー)が連結される構造を有する。そして、プローブ中の塩基配列部分が標的の塩基配列と結合すると発光基と消光基が離れ離れになり、発光基が発光する。このようなプローブはDNAプローブと呼ばれる。
【0003】
特許文献1には、ステム・ループ構造を有するDNAプローブを用いて、核酸分子の多重検出を行う方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、オリゴヌクレオチドの両端に発光基と消光基を設けた、互いに相補的な部分を有する2本鎖DNAプローブを用いた核酸の蛍光検出が記載されている。
【0005】
一方、標的となるDNAに結合する部分に、PNA(ペプチド核酸)を用いたPNAプローブも提案されている。PNAプローブとは、ヌクレオシドをペプチドで結合することで、DNAに似せた人工ペプチドと、発光基および消光基を組み合わせて、標的となる塩基配列を検出するものである。
【0006】
PNAプローブには、発光基を結合させたPNAと消光基を結合させたDNAを結合させた二本鎖PNAプローブと、PNAの両端に発光基と消光基をそれぞれ結合させたPNA分子ビーコンのタイプが知られている。特許文献3には、N末端とC末端に発光基と消光基を連結させたPNA分子ビーコンタイプのPNAプローブが開示されている。
【0007】
PNAプローブは、DNAプローブと比較し、ヌクレアーゼやプロテアーゼに耐性があり、また耐熱性も高い。また、DNAのようにリン酸結合でなく、ペプチド結合で連結されており、pHが中性なので、標的の遺伝子などとハイブリダイズしやすい、といった特徴があり注目されている。
【0008】
非特許文献1には、二本鎖PNAプローブの紹介と、PNA分子ビーコンと二本鎖PNAプローブとの比較がされている。非特許文献1では、二本鎖PNAプローブの方が発光強度を高くできることが報告されている。
【0009】
また、非特許文献2には、肺がん細胞の上皮成長因子受容体(EGFR)のmRNA配列に特有な遺伝子変異(エクソン19delのE746-A750、T790M、L858Rの変異)を発見するために開発された二本鎖PNA(ペプチド核酸(PNA)-DNA)プローブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2019-528772号公報
【特許文献2】特表2010-505440号公報
【特許文献3】特表2017-510301号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kathleen E. Mach, Aniruddha M. Kaushik, KuangwenHsieh, Pak Kin Wong, Tza-Huei Wangcand Joseph C. Liao:Analyst 2019,144,1565-1574
【非特許文献2】Hajime Shigeto, Takashi Ohtsuki, Akira Iizuka, Yasuto Akiyamac and Shohei Yamamura : Analyst 2019,144,4613-4621
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
PNAプローブは、標的DNAとハイブリダイズしやすいという特徴をもつ。しかし、ステム・ループ型で形成すると、プローブがPNAだけで構成されるため、細胞内への導入がしにくいという課題があった。また、同一分子内に発光基と消光基が存在するので、標的DNAと結合しても蛍光強度は消光基の影響を受けて低くなるという課題もあった。
【0013】
一方、PNAプローブをDNAの二本鎖型で形成すると、カチオン性を有するため細胞内に導入しやすい。また、二本鎖型であれば、PNAの部分が標的DNAとハイブリダイズした後は、DNAの部分は分離して離れ、同一分子内には消光基が存在せず、蛍光強度は高くできる。また、標的DNAとハイブリダイズしやすいという特徴も活かすことができる。
【0014】
しかし、二本鎖PNAプローブの蛍光強度(発光および消光間の輝度差)はまだ十分なものとは言えず、蛍光強度の向上の要請があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
蛍光強度を高くするためには、消光時に十分暗くなっており、発光時に暗くならないことが求められる。一般に消光時に蛍光を消すためには消光基を発光基に近づけることが必要であり、発光時に明るくするには、消光基を発光基から離すことが必要と考えられている。
【0016】
そのため二本鎖PNAプローブにおいては、互いの消光基と発光基が近接するように、標的DNAにハイブリダイズする部分と消光基、発光基の間に同じ構造のリンカーを配置させる(特許文献2)。
【0017】
しかしながら、本発明の発明者はレポーター側のリンカーとクエンチャー側のリンカーの長さを変えることで、むしろ蛍光強度が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
より具体的に本発明に係る二本鎖PNAプローブは、
消光基と、
DNA領域と、
前記消光基と前記DNA領域の間をつなぐクエンチャーリンカーを含む
クエンチャーパーツと、
発光基と、
PNA領域と、
前記発光基と前記PNA領域の間をつなぐレポーターリンカーを含む
レポーターパーツを有し、
前記DNA領域と前記PNA領域が相補的に結合した際に、前記消光基と前記発光基が同じ側に配置される二本鎖PNAプローブであって、
前記レポーターリンカーは、主鎖中に酸素を2元素以上含有しておらず、直鎖炭素結合換算で、前記レポーターリンカーより短いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る二本鎖PNAプローブは、発光基とPNAを繋ぐリンカーの部分の構造を消光基とDNAを繋ぐリンカーの部分の構造と異なる構造を選択し、直鎖炭素結合換算で、短くすることとしたので、二つのリンカーの長さをそろえた場合よりも、蛍光強度(発光・消光間の輝度差)が高まった。
【0020】
また、このリンカーを用いた二本鎖PNAプローブに、上皮成長因子受容体(EGFR)のT790MまたはL858Rの遺伝子変異を検出させたところ、従来より高い感度で検出することができた。すなわち、本発明に係る二本鎖PNAプローブは、標的となるmRNAの一塩基多型を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る二本鎖PNAプローブの構造を示す模式図である。
【
図2】本発明に係る二本鎖PNAプローブの発光基と消光基の近傍の構造を表す図である。
【
図4】本発明に係る二本鎖PNAプローブでT790Mを検出した結果を示す図である。
【
図5】本発明に係る二本鎖PNAプローブでL858Rを検出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明に係る二本鎖PNAプローブについて図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0023】
図1に本発明に係る二本鎖PNAプローブの構成および原理について説明する。本発明に係る二本鎖PNAプローブ1は、レポーターパーツ10と、クエンチャーパーツ20で構成される。レポーターパーツ10は発光基12と、レポーターリンカー14と、PNA領域16と、末端部18で構成されている(
図1(a)参照。)。なお、ここでは、レポーターリンカー14は、PNA領域16のN末端側に結合するとして説明する。しかし、C末端側に結合することにしてもよい。
【0024】
クエンチャーパーツ20は、消光基22と、クエンチャーリンカー24と、DNA領域26で構成されている。なお、クエンチャーパーツ20にも末端部が接合されていてもよい。なお、ここでは、クエンチャーリンカー24はDNA領域26の3’末端側に結合するとして説明する。しかし、5’末端側に結合することにしてもよい。
【0025】
PNA領域16は、ヌクレオシド同士がペプチド結合した所謂核酸ペプチド構造でできた領域である。PNA領域16は、標的DNA52の塩基配列とハイブリダイズするように設計される。
【0026】
一方DNA領域26は、ポリヌクレオチド構造でできた領域である。DNA領域26は、PNA領域16とハイブリダイズするように設計される。
【0027】
発光基12は蛍光発光する物質で、Fam(6‐carboxyfluorescein)が好適に利用できる。しかし、発光基12には、その他の公知のものも使用することができる。例えば、Texas red、JOE、TAMRA、CY5、CY3等である。
【0028】
消光基22は発光基12の発光を消光する作用を有する物質で、DABCYLが好適に利用できる。しかし、消光基22もその他の公知のものを使用することができる。例えば、TAMRA(6‐carboxytetramethyl-rhodamine)、BHQ1、BHQ2等である。
【0029】
PNA領域16と発光基12を繋ぐのがレポーターリンカー14である。また、DNA領域26と消光基22を繋ぐのがクエンチャーリンカー24である。
【0030】
末端部18は発光基12とPNA領域16を挟んで反対側の末端に結合されるもので、二本鎖PNAプローブ1になんらかの機能を付与するために結合される部分である。ここで付与される機能とは、溶解性を向上させたり、標的DNAとのハイブリダイズが行われやすくするためのものであってもよい。また、標的DNAとのハイブリダイズ以外に、例えば、二本鎖PNAプローブ1が細胞内に取り込まれやすくする機能であってもよい。
【0031】
また、すでに説明したように、末端部18はクエンチャーパーツ20において消光基22とDNA領域26を挟んで反対側の末端に結合されていてもよい。また、レポーターパーツ10とクエンチャーパーツ20の末端部18は、全く同じ構造であってもよいし、異なる構造にしてもよい。
【0032】
レポーターパーツ10とクエンチャーパーツ20は別々に合成され、混合される。混合されるとPNA領域16とDNA領域26は、予め設計されている構造に従ってハイブリダイズする(
図1(b)参照。)。このとき、発光基12と消光基22は接近し、消光される。少なくとも、二本鎖PNAプローブ1は使用される前にはこのように、レポーターパーツ10とクエンチャーパーツ20がハイブリダイズされ、消光した状態にされる。
【0033】
なお、ここでは、発光基12はPNA領域16のN末端側に、消光基22はDNA領域26の3’末端側に配置するように示したが、発光基12をPNA領域16のC末端側に、消光基22をDNA領域26の5’末端側に配置するようにしてもよい。また、PNA領域16とDNA領域26がハイブリダイズした時に消光基22と発光基12が同じ側にある状態を、「消光基22と発光基12は同じ側に配置される」と言ってよい。
【0034】
次に標的塩基配列52を含む被検査塩基配列50に二本鎖PNAプローブ1が投入されると、二本鎖PNAプローブ1が分離し、レポーターパーツ10のPNA領域16が標的塩基配列52とハイブリダイズする。この際、クエンチャーパーツ20がレポーターパーツ10と離れることで、発光基12が発光する(
図1(c)参照。)。
【0035】
さて、二本鎖PNAプローブ1が、標的塩基配列52を検出した際の蛍光強度を高くするには、レポーターパーツ10とクエンチャーパーツ20がハイブリダイズした際の蛍光発光(消光時の発光量)を低く抑えることが重要となる。消光における消光のメカニズムを考えると、通常、発光基12と消光基22をできるだけ接近させればよいと考えられている。
【0036】
発光基12と消光基22をできるだけ接近させるには、レポーターリンカー14と、クエンチャーリンカー24は同じものを使用するのがよいと考えられる。しかし、後述する実施例が示すように、実際はレポーターリンカー14とクエンチャーリンカー24を意図的に構造が異なる(長さの違う)ものを用いた方が消光時の発光量が低下し、標的塩基配列52を検出した際の蛍光強度(消光時と発光時の差)は高くなった。
【0037】
図2は、実施例で用いた二本鎖PNAプローブ1のリンカー近傍を示す構造図である。レポーターパーツ10では、発光基12はFamである。レポーターパーツ10のPNA領域16は、ペプチド結合が連なり、各ペプチド部分に塩基が結合している。レポーターリンカー14は、Famのアミノ基とPNA領域16のC末端のカルボキシル基を繋ぐ。ここでは、炭素7つの直鎖構造体である。
【0038】
クエンチャーパーツ20では、消光基22はDABCYLである。クエンチャーパーツ20のDNA領域26は、ヌクレオシド同士がリン酸で結合されている。クエンチャーパーツ20のクエンチャーリンカー24は、DABCYLのアミノ基とDNA領域26の3’末端直前の塩基(
図2では、5-メチルシトシン)のアミノ基に結合している。ここでは、ジエチレングリコールジプロピルエーテルの基本骨格の構造体である。
【0039】
なお、本発明に係る二本鎖PNAプローブ1では、クエンチャーパーツ20の消光基22が結合する側のDNA領域26の最後の塩基に対応する核酸ペプチドはない。この意味で、DNA領域26は、レポーターパーツ10と結合しない未使用の塩基があってもよい。DNA領域26とPNA領域16は互いにハイブリダイズするように設計される。ここでは、レポーターパーツ10とクエンチャーパーツ20の連結部30が、T-AとC-Gで構成されていることが示されている。
【0040】
次に本発明においてリンカー部分を評価する際に用いる「直鎖炭素結合換算値」という指標について説明する。直鎖炭素結合換算値とは、リンカーの構造で発光基12(若しくは消光基22)からPNA領域16(若しくはDNA領域26)までの間を直鎖炭素結合と見なして連結元素の数を数えた数とする。直鎖炭素結合換算値は符号「egC」で表す。
【0041】
例えば、
図2ではレポーターリンカー14は、炭素7の直鎖構造であるので、「egC7」若しくは「直鎖炭素結合換算値で7」と表記する。またクエンチャーリンカー24は、直鎖炭素結合と、エーテル結合が3か所あるが、酸素の部分は炭素で置き換える。したがって、クエンチャーリンカー24の直鎖炭素結合換算値は、13(egC13)である。
【0042】
なお、レポーターリンカー14には、主鎖に酸素は2元素以上含まれない。また、リンカーの途中にベンゼン環があった場合は、連結端同士を最短に結ぶ元素を炭素に置き換えて直鎖炭素結合換算する。
【0043】
図3を参照する。例えば、リンカーが1,2-ジエチルベンゼン(
図3(a))の場合は、エチル基同士を最短でつなぐのは(-C=C-)であるので、直鎖炭素結合換算値は6(egC6)である。1,4-ジエチルベンゼン(
図3(b))であれば、エチル基同士をつなぐのは(-C=C-C-)となるので、直鎖炭素結合換算値は8(egC8)である。)また、リンカーの途中に側鎖がある場合、側鎖は数えない。
【0044】
本発明の二本鎖PNAプローブ1においては、レポーターリンカー14が、クエンチャーリンカー24より直鎖炭素結合換算値で90%以下10%以上である。すなわち、レポーターリンカー14の直鎖炭素結合換算値をクエンチャーリンカー24の直鎖炭素結合換算値で除した場合、0.1以上0.9以下の値となる。また、2つの直鎖炭素結合換算値を比較した時には、小さい方を「直鎖炭素結合換算で短い」ということができる。
【実施例0045】
以下に本発明に係る二本鎖PNAプローブ1の効果を確認する実施例を示す。実施例は標的DNAを決め、その標的DNAを検出する二本鎖PNAプローブ1を製作し、その二本鎖PNAプローブ1で同じ濃度の標的DNAを検出した際の蛍光強度を測定することで行った。
【0046】
<標的塩基配列>
標的塩基配列としては、肺がん細胞の上皮成長因子受容体(EGFR)のmRNA配列に特有な遺伝子変異のうち、T790MおよびL858Rの2種類とした。それぞれの標的塩基配列を表1に示す。各標的は野生種と変異種を作製した。なお、標的遺伝子は
図1の符号52の標的DNAに相当するものである。
【0047】
【0048】
<二本鎖PNAプローブ>
二本鎖PNAプローブはレポーターパーツとクエンチャーパーツの2種の配列で構成される。なお、発光基および消光基が結合している方を「先頭」と呼ぶ。
【0049】
(1)レポーターパーツ
レポーターパーツの発光基12としては、蛍光色素Famを用いた。レポーターリンカー14としてSp2、C7、bAla、C11およびAmbzの5種類を用意した。それぞれの組成式および直鎖炭素結合換算値(egC)を表2に示す。構造中に酸素を2つ以上有するものは「(2O)」を付加した。レポーターリンカーは表2中の括弧内の構造である。「N」は、発光基の末端(レポーターパーツの先頭)であり、「CO」はPNA領域の先頭(レポーターパーツの末尾)を示す。なお、後述する末端部に使われるSp6の構造も示す。末端部18に使用される構造には酸素が2つ以上含まれていてもよい。
【0050】
Sp6の場合は「N」はSp6の先頭であり、「CO」はSp6の末尾である。Sp6の末尾にはアミノ基が結合する。なお、Sp2は、非特許文献1で示された従来例のレポーターリンカーである。
【0051】
【0052】
標的塩基配列(変異種)を検出するためのPNA領域はそれぞれ非特許文献2に記載されたものを用いた。このPNA領域は、野生種にはほとんど反応(ハイブリダイズ)せず、変異種にはよく反応する。表3と表4に、標的塩基配列毎のレポーターパーツの構成を示す。なお、「PNA」の後ろの括弧内は核酸ペプチド(PNA領域)であり、右から左に向けてN末端からC末端を表す。これらは、リン酸結合で構成されるポリペプチドではない。
【0053】
【0054】
表3を参照して、「Fam」は発光基12であり、「Sp2、C7、bAla、C11、Ambz」はレポーターリンカーであり、「PNA(CTGCATGATTG)」は、T790M用のPNA領域であり、「KK-Sp6-NH2」は末端部18である。
【0055】
【0056】
表4を参照して、「Fam」は発光基12であり、「Sp2、C7、bAla、C11、Ambz」はレポーターリンカーであり、「PNA(TGGCCCGCCC)」は、L858R用のPNA領域であり、「KK-Sp6-NH2」は末端部18である。
【0057】
表3および表4より、標的DNAの先頭2文字の後に、レポーターリンカーの先頭2文字若しくは3文字をつけたものを配列の名称とした。全ての配列は、発光基(Fam)に続いてレポーターリンカーが結合され、そのあとに、検出用のPNA領域が形成される。その後に、末端部として連続するリシン(K)とSp6(表2参照)とアミノ基が結合されるようにした。表3および表4については左側が先頭となる。
【0058】
(2)クエンチャーパーツ
クエンチャーパーツは、消光基とクエンチャーリンカーとDNA領域で構成される。消光基はDABCYLを用いた。またクエンチャーリンカー24は
図2で示したクエンチャーリンカー24のものを用いた。この直鎖炭素結合換算値(egC)は13である。クエンチャーパーツのDNA領域は、レポーターパーツのPNA領域に対応したものが利用される。したがって、レポーターパーツ毎に設計した。標的塩基配列毎のクエンチャーパーツの配列を表5に示す。消光基およびクエンチャーリンカーはDNA領域の3’末端に結合される。したがって、表5は、右側が先頭となる。
【0059】
【0060】
表5を参照して、「DAB」は消光基22であり、「Linker」はクエンチャーリンカー22である。ここでは、
図2の符号22の構造体である。「TCATGCAG」は、T790M用のDNA領域であり、「GCGGGCCA」はL858R用のDNA領域である。クエンチャーパーツには末端部は付加しなかった。
【0061】
表5を参照して、クエンチャーパーツは、頭文字「Q」の次に標的遺伝子の頭文字を続けて名称とした。
【0062】
<検出手順>
(1)二本鎖PNAプローブ溶液の作製
表3および表4のレポーターパーツと、表5のクエンチャーパーツを、表6の組成で混合し二本鎖PNAプローブ溶液を作製した。あらわに示すと、レポーターパーツT7Sp、T7C7、T7bAl、T7C11、T7AmはクエンチャーパーツQTとそれぞれ混合し、レポーターパーツL8Sp、L8C7、L8bAl、L8C11、L8AmにはクエンチャーパーツQLとそれぞれ混合した。
【0063】
【0064】
具体的な手順としては、レポーターパーツとクエンチャーパーツを1:1の割合でPBSバッファーにて融解した。次に、非特異的な結合を防ぐために95℃で5minインキュベートした後、グラジエント-0.3℃/secで30℃になるまで徐々に温度を低下した。
【0065】
(2)標的塩基配列との反応
作製した二本鎖PNAプローブ溶液(5μM)10μLと、表1の標的遺伝子配列(今回の場合はmRNA)(5μM)10μLと、PBS80μLを混合し(全量100μL)、37℃で2hインキュベートした後、蛍光スペクトロメーターで蛍光を測定した。
【0066】
(3)蛍光スペクトル測定
二本鎖PNAプローブと標的遺伝子配列との反応後、直ちに石英セルに全量を移し、分光蛍光光度計F-7000(株式会社日立ハイテクサイエンス)を使用して蛍光スペクトル測定した。なお、測定機器と測定条件は以下の通りとした。
【0067】
【0068】
(4)測定結果
図4および
図5に測定結果を示す。
図4は、被検査塩基配列(標的遺伝子配列)がT790Mであり、
図5は被検査塩基配列(標的遺伝子配列)がL858Rである。いずれのグラフも横軸は標的塩基配列の種類とレポーターリンカーの種類を示し、縦軸は蛍光強度である。蛍光強度は「標的無」の発光量を1とし、標的DNAとハイブリダイズした時の発光量の比をとったものである。なお、コントロールはSp2である。
【0069】
図4および
図5を参照し、標的塩基配列は、「標的無」、「野生種」、「変異種」の3種がある。「標的無」は標的となるmRNAを入れなかった場合であり、標的RNA(5μM)10μLを二本鎖PNAプローブ溶液と混合する代わりに、PBSを10μLを入れたものである。「野生種」および「変異種」は表1に示したものである。
【0070】
図4を参照する。被検査塩基配列がT790Mに対しては、表3のレポーターパーツとクエンチャーパーツQT(表5参照)を用いた二本鎖PNAプローブが用いられた。レポーターリンカーがC7、bAla、C11、Ambzにおいて、蛍光強度は、変異種に対して非常に高くなった。これより、変異種の検出感度が非常に高いことがわかる。また、従来例(コントロール)であるSp2と比較して発光・消光間の輝度差は桁違いに高くなった。
【0071】
この場合、直鎖炭素結合換算値はSp2では7であり、C7やC11と大きくは変わらない。しかし、レポーターリンカーのSp2は、蛍光強度が他のリンカーよりも明らかに小さかった。これは、レポーターリンカーがSp2の場合、消光時に十分発光が抑えられていなかったからである。これは、レポーターリンカーのSp2には、主鎖に酸素が2つ入っていたためと考えられる。
【0072】
一方、直鎖炭素結合換算値が5であるAmbzも非常に高い蛍光強度を示した。これは一見発光基と消光基をより近づけることが十分な消光に寄与するという従来の知見に反する。
【0073】
図5を参照する。被検査塩基配列がL858Rに対しては、表4のレポーターパーツとクエンチャーパーツQL(表5参照)を用いた二本鎖PNAプローブが用いられた。蛍光強度は、変異種に対して高くなり、変異種の検出感度が高いことがわかる。また、従来例(コントロール)であるSp2と比較して発光・消光間の輝度差は桁違いに高くなった。
【0074】
ここでも、直鎖炭素結合換算値egCが2から11で高い蛍光強度を示した。また、L858Rの場合は、クエンチャーリンカー(egC=13)により近くなるC11より、egC7やegC2、5の方が蛍光強度は高かった。
【0075】
以上のように、二本鎖PNAプローブの場合は、レポーターリンカーとクエンチャーリンカーの構造を意図的に異ならせることで、標的DNAとハイブリダイズする際に蛍光強度が高くなることが分かった。
【0076】
また、本発明に係るT790MとL858Rに対する二本鎖PNAプローブは、レポーターリンカーの種類を従来用いていたSp2から変更することで、標的塩基配列と反応した時の蛍光強度を消光時の強度より高めることができ、検出感度を向上させることができる。これは、一塩基多型の検出において、従来よりも高い感度で検出することができることを示している。
本発明に係る二本鎖PNAプローブは、標的塩基配列の検出をする際に高い検出力を得ることができる。特に肺がん細胞の上皮成長因子受容体(EGFR)のmRNA配列に特有な遺伝子変異(T790M、L858Rの変異)の一塩基多型を検出する際には非常に有効である。