(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023910
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04L 9/12 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
H04L9/00 631
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129857
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 豪
(72)【発明者】
【氏名】東 浩司
(72)【発明者】
【氏名】玉木 潔
(72)【発明者】
【氏名】尾張 正樹
(57)【要約】
【課題】基準光が有限である効果による安全性への影響が無くなり、安全性証明が要求する条件を全て満たすことが可能となる測定装置を提供する。
【解決手段】信号光に位相を印加する位相変調器と、基準光を2分岐する第1のビームスプリッターと、位相が印加された信号光および前記2分岐された基準光の一方を2分岐して重ね合わせ出力する2分岐する第2のスプリッターと、第2のスプリッターからの第1の光の強度を観測する第1の光検出器と、第2のスプリッターからの第2の光の強度を観測する第2の光検出器と、2分岐された基準光の他方の強度を観測する第3の光検出器と、第1の光検出器からの観測値、第2の光検出器からの観測値、及び第3の光検出器からの観測値に基づいて、測定値を算出する計算部とを備えた。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された信号光に位相を印加する位相変調器と、
入力された基準光を2分岐する第1のビームスプリッターと、
前記位相が印加された信号光および前記2分岐された基準光の一方を重ね合わせて2分岐する第2のスプリッターと、
前記第2のスプリッターからの第1の光の強度を観測する第1の光検出器と、
前記第2のスプリッターからの第2の光の強度を観測する第2の光検出器と、
前記2分岐された基準光の他方の強度を観測する第3の光検出器と、
前記第1の光検出器からの観測値、前記第2の光検出器からの観測値、及び前記第3の光検出器からの観測値に基づいて、測定値を算出する計算部と
を備えた、測定装置。
【請求項2】
入力された信号光を2分岐する第1のビームスプリッターと、
入力された基準光を2分岐する第2のビームスプリッターと、
前記2分岐された基準光を2分岐する第3のビームスプリッターと、
前記2分岐された一方の信号光および前記第3のビームスプリッターで2分岐された一方の基準光を重ね合わせて2分岐する第4のビームスプリッターと、
前記第4のビームスプリッターからの第1の光の強度を観測する第1の光検出器と、
前記第4のビームスプリッターからの第2の光の強度を観測する第2の光検出器と、
前記2分岐された他方の測定光に位相を印加する位相変調器と、
前記位相が印加された信号光および前記第3のビームスプリッターで2分岐された他方の基準光を重ね合わせて2分岐する第5のビームスプリッターと、
前記第5のビームスプリッターからの第3の光の強度を観測する第3の光検出器と、
前記第5のビームスプリッターからの第4の光の強度を観測する第4の光検出器と、
前記2分岐された基準光の他方の強度を観測する第5の光検出器と、
前記第1の光検出器からの観測値、前記第2の光検出器からの観測値、前記第3の光検出器からの観測値、前記第4の光検出器からの観測値、および前記第5の光検出器からの観測値に基づいて、測定値を算出する計算部と
を備えた、測定装置。
【請求項3】
位相変調器で、入力された信号光に位相を印加することと、
第1のビームスプリッターで、入力された基準光を2分岐することと、
第2のスプリッターで、前記位相が印加された信号光および前記2分岐された基準光の一方を重ね合わせて2分岐することと、
第1の光検出器で、前記第2のスプリッターからの第1の光の強度を観測することと、
第2の光検出器で、前記第2のスプリッターからの第2の光の強度を観測することと、
第3の光検出器で、前記2分岐された基準光の他方の強度を観測することと、
計算部で、前記第1の光検出器からの観測値、前記第2の光検出器からの観測値、及び前記第3の光検出器からの観測値に基づいて、測定値を算出することと
を含む、測定方法。
【請求項4】
第1のビームスプリッターで、入力された信号光を2分岐することと、
第2のビームスプリッターで、入力された基準光を2分岐することと、
第3のビームスプリッターで、前記2分岐された基準光を2分岐することと
第4のビームスプリッターで、前記2分岐された一方の信号光および前記第3のビームスプリッターで2分岐された一方の基準光を重ね合わせて2分岐することと、
第1の光検出器で、前記第4のビームスプリッターからの第1の光の強度を観測することと、
第2の光検出器で、前記第4のビームスプリッターからの第2の光の強度を観測することと、
位相変調器で、前記2分岐された他方の測定光に位相を印加することと、
第5のビームスプリッターで、前記位相が印加された信号光および前記第3のビームスプリッターで2分岐された他方の基準光を重ね合わせて2分岐することと、
第3の光検出器で、前記第5のビームスプリッターからの第3の光の強度を観測することと、
第4の光検出器で、前記第5のビームスプリッターからの第4の光の強度を観測することと、
第5の光検出器で、前記2分岐された基準光の他方の強度を観測することと、
計算部で、前記第1の光検出器からの観測値、前記第2の光検出器からの観測値、前記第3の光検出器からの観測値、前記第4の光検出器からの観測値、および前記第5の光検出器からの観測値に基づいて、測定値を算出することと
を含む、測定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の測定装置で測定するためのプログラムであって、前記測定装置がプロセッサを備え、前記プログラムは、前記プロセッサに、
前記位相変調器により前記入力された信号光に位相を印加させ、
前記第1の光検出器により前記第1の光の強度を観測させ、
前記第2の光検出器により前記第2の光の強度を観測させ、
第3の光検出器により前記2分岐された基準光の他方の強度を観測させ、
前記計算部により、前記第1の光検出器からの観測値、前記第2の光検出器からの観測値、及び前記第3の光検出器からの観測値に基づいて、測定値を算出させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホモダイン測定および2重ホモダイン測定に関する。
【背景技術】
【0002】
ホモダイン測定および2重ホモダイン測定は、情報通信を実現する上で重要な技術の一つである。これらの技術を実装した測定装置は、従来の通信にとどまらず、量子通信にまで利用されている。例えば、連続的な物理量である直交位相振幅を観測する連続量量子暗号は、ホモダイン測定装置または2重ホモダイン測定装置を利用することで、安全性(秘匿性)が保証される共通鍵が生成できる。ただし、ホモダイン測定および2重ホモダイン測定が理想的に実現されないと、安全性の保証はなされない。ホモダイン測定および2重ホモダイン測定は、位相基準となる基準光(複素数の偏角を(argβ)と表し、複素振幅をβと表す)を利用しており、この基準光は無限に大きな強度のコヒーレント光であるときに測定が理想的なものになる。
【0003】
図1(a)は、ホモダイン測定装置の構成を示す図である。
図1(a)に示すように、ホモダイン測定装置は、測定光に位相(θ)を印加する位相変調器1aと、位相が印加された測定光および基準光を分岐して重ね合わせて出力する透過率が1/2のビームスプリッター2aと、ビームスプリッター2aからの2つ出力光の強度x
1およびx
2をそれぞれ観測する光検出器3aおよび4aとを備える。
【0004】
図1(b)は、2重ホモダイン測定装置の構成を示す図である。
図1(b)に示すように、2重ホモダイン測定装置は、測定光を2分岐する透過率が1/2のビームスプリッター2gと、基準光を2分岐する透過率が1/2のビームスプリッター2gと、2分岐された一方の測定光および2分岐された一方の基準光を分岐して重ね合わせて出力する透過率が1/2のビームスプリッター2bと、ビームスプリッター2bからの2つ出力光の強度y
1およびy
2をそれぞれ観測する光検出器3bおよび4bと、2分岐された他方の測定光に位相(π/2)を印加する位相変調器1cと、位相が印加された測定光および2分岐された他方の基準光を2分岐して重ね合わせて出力する透過率が1/2のビームスプリッター2cと、ビームスプリッター2cからの2つ出力光の強度y
3およびy
4をそれぞれ観測する光検出器3cおよび4cとを備える。
図1(b)には、ビームスプリッター2gとビームスプリッター2bとの間に分岐された一方の測定光を反射する鏡5b、および、ビームスプリッター2hとビームスプリッター2cとの間に2分岐された他方の基準光を反射する鏡5cも示されている。
【0005】
図1(a)のホモダイン測定装置および
図1(b)の2重ホモダイン測定装置の光検出器3a、3b、3c、4a、4b、および4cにおける観測値の単位は、光子1個分が1となるように構成されている。また、基準光の複素振幅βの単位は、絶対値の二乗が光子数となるように構成されている。
図1(b)の2重ホモダイン測定装置における測定値αは、光検出器3b、4b、3cおよび4cにおける観測値y
1,y
2,y
3,およびy
4、並びに、基準光の既知の複素振幅βを用いて、α={(y
1-y
2,)+(y
3-y
4)i}/|β|により算出される。ここで、αは、位相と振幅の大きさを表す無次元の複素数である。αが十分に大きな古典的な光である場合、αの絶対値の二乗は光子数にほぼ一致するもので光の強度を表す。αの位相はその光の位相を表す。測定値αを算出する計算機(不図示)は、
図1(b)の2重ホモダイン測定装置に備えられていてもよく、2重ホモダイン測定装置と別個であってもよい。また、
図1(a)のホモダイン測定装置における測定値p
θは、光検出器3aおよび4aにおける観測値x
1およびx
2を用いて、p
θ=(x
1-x
2)/2|β|により算出される。測定値p
θを算出する計算機(不図示)は、
図1(a)のホモダイン測定装置に備えられていてもよく、ホモダイン測定装置と別個であってもよい。
【0006】
図1(a)のホモダイン測定装置または
図1(b)の2重ホモダイン測定装置は、条件を満たす基準光が使えない状況においても、簡便な手段で理想的なホモダイン測定装置の測定値p
θに関する統計量(共分散行列)または2重ホモダイン測定装置の測定値αに関する統計量(共分散行列)を与える手段を提供するものである。結果として、位相基準として理想的な基準光を使えない状況でも安全性が担保される連続量量子暗号の実装手段を簡便に提供するものである。量子暗号においてホモダイン測定を使用する場合には、
図1(a)のホモダイン測定装置が安全性を保障するために必要な測定値p
θを関便に提供することができる。また、量子暗号において2重ホモダイン測定を使用する場合には、
図1(b)の2重ホモダイン測定装置が安全性を保障するために必要な測定値αを関便に提供することができる。
【0007】
ホモダイン測定または2重ホモダイン測定を通信で利用する場合には、測定で利用する基準光の位相と、信号を生成する際の基準となる位相とを同期させる必要がある。この同期を実現するために、信号光と同期がとれた(通常、信号光を生成する時に利用した)光を参照光として信号光と同じ経路で送信者から受信者に送り、送信された参照光をホモダイン測定または2重ホモダイン測定の基準光として直接利用することが多い。実際、連続量量子暗号の現在の実装方法の多くにおいて、この手段によって同期を実現している。
【0008】
図2は、連続量量子暗号を実装した通信システムの典型的な構成であって、ホモダイン測定または2重ホモダイン測定を利用する通信システムの構成を示す図である。送信者側の装置は、光源6aと、透過率が1/2のビームスプリッター2pおよび2qと、ビームスプリッター2pおよび2qの間の位相・振幅変調器11とを備える。ここで、ビームスプリッター2pの透過率をT
pとし、ビームスプリッター2qの透過率をT
qとしたとき、一般的にはT
p×Tq<<(1-T
p)(1-T
q)の条件を満たすものとすることができる。ビームスプリッター2pは、光源6aからの光を2分岐する。2分岐された光の一方は参照光として利用され、2分岐された光の他方は信号光を生成として利用される。信号光および参照光はそれぞれ、ビームスプリッター2qへ入射され、通信路7へ出力される。
図2には、ビームスプリッター2pとビームスプリッター2qとの間に鏡5pと5qも示されている。ビームスプリッター2pにより分岐された一方の光(参照光)は、鏡5pと5qによって反射されてビームスプリッター2qへ入射される分だけ光路長が長くなる。ビームスプリッター2pにより分岐された他方の光は、位相・振幅変調器11によって、位相が印加されるとともに強度が減衰されて信号光となる。ビームスプリッター2pおよび2qの透過率の積T
p×T
qが上記条件を満たす場合には、位相・振幅変調器11における強度変調は、入力された光の強度を大きく減させるものではなく、送信する情報に応じて光の強度を変化させるものであればよい。
【0009】
受信者側の装置は、信号光と同じ通信路7で送信者から送信された参照光を用いてホモダイン測定または2重ホモダイン測定する装置である。受信者側の装置は、同じ通信路7で送信者側の装置から送信された信号光と参照光とを分離する光スイッチ8と、光スイッチ8の後段に配置されたホモダイン測定装置または2重ホモダイン測定装置とを備える。ホモダイン測定装置の構成は
図1(a)を参照して上述した構成とすることができ、2重ホモダイン測定装置の構成は
図1(b)を参照して上述した構成とすることができる。
図2には、光スイッチ8とホモダイン測定装置または2重ホモダイン測定装置との間に鏡5rと5sも示されている。光スイッチ8により分離された信号光は、鏡5rと5sによって反射されてホモダイン測定装置または2重ホモダイン測定装置へ入射される分だけ光路長が長くなる。
【0010】
なお、参照光と信号光の位置関係は、
図2に示す位置関係に限られない。参照光と信号光の位置関係が逆になるように送信者側および受信側の装置の要素の配置を変更することができる。また、複数の信号光に対して1つの参照光が用いられるように、送信者側および受信側の装置の要素の配置を変更するもできる。
【0011】
しかし、このような実装方法では盗聴者の攻撃が大きく制限された場合にしか、理論的な安全性が保証できない。というのも、参照光が信号光と同じ経路で送られている場合は、盗聴者が参照光にも細工する可能性を考慮するのが妥当ある。しかし、そのような状況においては、細工された可能性のある参照光を基準光として利用せざるをえないため、実装した測定装置は理想的ホモダイン測定装置または2重ホモダイン測定装置であると保証できなくなる。現在知られている連続量量子暗号の全ての安全性証明においては、ホモダイン測定または2重ホモダイン測定が理想的に実施されることを前提としているため、参照光をも攻撃する盗聴者に対しては、従来の安全性を保証するための理論の前提条件を満たすことができない。そのため、従来の実施方法では、素朴に想定できる盗聴者に対する安全性が保証できない状況であった。
【0012】
安全性が保証される状況が制限されるという問題に対して、次のような形で解決する方法が提案されている(非特許文献1および2参照)。この提案されている方法では、送信された参照光を直接基準光として、ホモダイン測定または2重ホモダイン測定するのではなく、送信者側の装置から送信された参照光と信号光をともに、送信者側の装置からの参照光と同期のとれていない受信者側の装置で局所的に生成した基準光を用いて2重ホモダイン測定を行うというものである。より具体的には、二つの2重ホモダイン測定を用いて一つの測定値を次のように導出する。まず、参照光に対して局所的に生成した基準光を用いて2重ホモダイン測定によって得られるα1を得る。さらに、信号光に対して局所的に生成した基準光を用いて2重ホモダイン測定によって得られる測定値α2得る。このとき、信号光の位相から参照光の位相argα1を差し引いた結果、すなわちα2e-iargα1を二つの2重ホモダイン測定を用いて得られる測定値とする。これにより、信号光に対して参照光が指し示す位相を基準として理想的な2重ホモダイン測定を実施した場合の測定値を得ることができ、従来の安全性証明の理論によって、参照光にまで盗聴者がアクセスできる場合に対しても安全性が保証される。
【0013】
図3は、上記の提案されている方法を実装した通信システムの構成を示す図である。送信者側の装置の構成は、
図2を参照して説明した構成と同様である。受信者側の装置は、通信路7で送信者から送信された信号光および参照光の各々に対して2重ホモダイン測定するように構成されている。受信者側の装置は、同じ通信路7で送信者側の装置から送信された信号光と参照光とを分離する光スイッチ8と、光スイッチ8の後段に配置された2つの2重ホモダイン測定装置とを備える。2重ホモダイン測定装置の構成は
図1(b)を参照して上述した構成とすることができる。
【0014】
図3に示すように送信者側の装置は、局所的な基準光を発生するための光源6cと、基準光を2分岐する透過率が1/2のビームスプリッター2rとを備える。ビームスプリッター2rにより2分岐された基準光をそれぞれ参照光2および参照光3としている。ビームスプリッター2rの等化率は、値が極端に大きい(小さい)ものでなく既知でれば、1/2に限られない。光スイッチ8により分離された信号光は、鏡5tにより反射されて、信号光についての2重ホモダイン測定における測定光として入力される。参照光2は、鏡5uおよび鏡5vにより反射され、信号光についての2重ホモダイン測定における基準光として入力される。光スイッチ8により分離された参照光は、参照光1として、参照光について2重ホモダイン測定における測定光として入力される。参照光3は、鏡5wにより反射され、参照光について2重ホモダイン測定における基準光として入力される。送信者側の装置は、1つの2重ホモダイン測定装置で、光スイッチ8により分離された信号光および参照光のそれぞれについて2重ホモダイン測定するように構成してもよい。この場合、信号光について2重ホモダイン測定と参照光について2重ホモダイン測定とに時間差をもって実行されるように、測定光および基準光が入力されるように構成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Bing Qi, et al., "Generating the Local Oscillator "Locally" in Continuous-Variable Quantum Key Distribution Based on Coherent Detection", Phys. Rev. X 5, 041009, 2015年10月
【非特許文献2】Daniel B. S. Soh, et al. "Self-Referenced Continuous-Variable Quantum Key Distribution Protocol", Phys. Rev. X 5, 041010, 2015年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記の提案されている方法は、盗聴者の参照光へのアクセスを原因とする、ホモダインおよび2重ホモダイン測定の理想からのずれをなくすことはできるものの、基準光の強度は有限にせざるを得ない。そのため、上記の提案されている方法を用いたところで、当該ホモダインおよび2重ホモダイン測定は理想的な測定とはなりえず、その影響が残る。しかし、この影響が安全性証明に与える影響を加味した理論は存在せず、安全であるという保障ができているわけではない点に問題が残る。
【0017】
また、上記の提案されている方法は、信号光を2重ホモダイン測定で測定することを必須としており、ホモダイン測定を用いる連続量量子暗号プロトコルには適用できない。さらに、信号光に加えて参照光も測定する必要があるため、実現するためには、光検出器を2倍用意する。または測定頻度を半分に落とす必要があり、通信効率が低下する。また、受信者側に安定した光源が必要となり余分な装置が必要となる。
【0018】
本願発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、基準光が有限である効果による安全性への影響が無くなり、安全性証明が要求する条件を全て満たすことが可能となる測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような目的を達成するために、本発明の一実施形態は、測定装置であって、入力された信号光に位相を印加する位相変調器と、入力された基準光を2分岐する第1のビームスプリッターと、位相が印加された信号光および2分岐された基準光の一方を重ね合わせて2分岐する第2のスプリッターと、第2のスプリッターからの第1の光の強度を観測する第1の光検出器と、第2のスプリッターからの第2の光の強度を観測する第2の光検出器と、2分岐された基準光の他方の強度を観測する第3の光検出器と、第1の光検出器からの観測値、第2の光検出器からの観測値、及び第3の光検出器からの観測値に基づいて、測定値を算出する計算部とを備えたことを特徴とする。
また、本発明の一実施形態は、測定装置であって、入力された信号光を2分岐する第1のビームスプリッターと、入力された基準光を2分岐する第2のビームスプリッターと、2分岐された基準光を2分岐する第3のビームスプリッターと、2分岐された一方の信号光および第3のビームスプリッターで2分岐された一方の基準光を重ね合わせて2分岐する第4のビームスプリッターと、第4のビームスプリッターからの第1の光の強度を観測する第1の光検出器と、第4のビームスプリッターからの第2の光の強度を観測する第2の光検出器と、2分岐された他方の測定光に位相を印加する位相変調器と、位相が印加された信号光および第3のビームスプリッターで2分岐された他方の基準光を重ね合わせて2分岐する第5のビームスプリッターと、第5のビームスプリッターからの第3の光の強度を観測する第3の光検出器と、第5のビームスプリッターからの第4の光の強度を観測する第4の光検出器と、2分岐された基準光の他方の強度を観測する第5の光検出器と、第1の光検出器からの観測値、第2の光検出器からの観測値、第3の光検出器からの観測値、第4の光検出器からの観測値、および第5の光検出器からの観測値に基づいて、測定値を算出する計算部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の一実施形態のホモダイン測定装置および2重ホモダイン測定装置によれば、基準光が有限である効果による安全性への影響が無くなり、安全性証明が要求する条件を全て満たすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)はホモダイン測定装置の構成を説明するための図、(b)は2重ホモダイン測定装置の構成を説明するための図である。
【
図2】連続量量子暗号を実装した通信システムの典型的な構成を説明する図である。
【
図3】受信者側の装置で局所的に生成した基準光を用いて2重ホモダイン測定を行う通信システムの構成を説明する図である。
【
図4】(a)は一実施形態にかかるホモダイン測定装置の構成を説明するための図、(b)は一実施形態にかかる2重ホモダイン測定装置の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。同一または類似の符号は、同一または類似の要素を示し、繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0023】
連続量量子暗号と呼ばれるプロトコルは複数存在し、ホモダインまたは2重ホモダイン測定の測定値から得られるビット列のエラー訂正情報を公開する側が送信者か受信者かで直接調整(direct reconciliation)と逆調整(reverse reconciliation)とに分けられる。連続量量子暗号のプロトコルは一般的に、相関1のビット列を共有することを目的とする。送信者と受信者は、エラー訂正情報の送受の結果として、ある程度相関のあるビット列を共有する。そして、完全な相関を得るためには、このある程度相関のあるビット列を基に、このビット列の違いを修正(調整)する。ここで示す解決方法は、直接調整に分類される連続量量子暗号に適応できるものである。というのも、直接調整の場合には、その安全性を評価するために必要な測定情報は、理想的なホモダインまたは2重ホモダイン測定の測定値に対する統計量である共分散行列(covariant matrix)のみであり、個々の測定値は必ずしも理想的なホモダインまたは2重ホモダイン測定に対するものである必要がない。実際、理想的な測定からのズレの影響は生成する共通鍵の生成効率に影響を与えるのみであり、安全性には影響を与えない。よって理想的なホモダインまたは2重ホモダイン測定の測定値の共分散行列さえ得られれば、安全性を保証することができる。
【0024】
【0025】
本実施形態は、2モード入力の測定装置を利用する通信システムである。ここで、2モード入力の測定装置は、基準光を受け取るモードと測定光を受け取るモードという2つの入力のためのモードを持っている測定装置のことである。
図4は、本実施形態の通信システムの受信者側の装置の構成を示す図である。本実施形態の通信システムの送信者側の装置の構成は、
図2を参照して説明した構成と同様である。
図4(a)は、2モード入力のホモダイン測定装置の構成を示す図であり、
図4(b)は、2モード入力の2重ホモダイン測定装置の構成を示す図である。送信者側の装置の構成は、
図2を参照して説明した構成と同様である。
図4(a)に示すホモダイン測定装置は、
図1(a)に示すホモダイン測定装置に置き換えて利用することができ、
図4(b)に示す2重ホモダイン測定装置は、
図1(b)に示す2重ホモダイン測定装置に置き換えて利用することができる。
【0026】
図4(a)に示すように、本実施形態のホモダイン測定装置は、位相変調器1dと、透過率T(ただし0<T<1)のビームスプリッター9dと、透過率1/2のビームスプリッター2dと、光検出器3d、4dおよび10dとを備える。位相変調器1d、ビームスプリッター2d、並びに、光検出器3dおよび4dの機能は、
図1(a)を参照し説明した位相変調器1a、ビームスプリッター2a、並びに、光検出器3aおよび4aの機能と同様である。
【0027】
位相変調器1dは、測定光に位相(θ)を印加して出力する。ビームスプリッター9dは、基準光を2分岐して、ビームスプリッター2dおよび光検出器10dに向けて出力する。ビームスプリッター2dは、位相が印加された測定光および2分岐された基準光の一方を2分岐して重ね合わせて、光検出器3dおよび4dに向けて出力する。光検出器10dは、ビームスプリッター9dによって2分岐された基準光の他方のx’0を観測する。光検出器3dおよび4dは、ビームスプリッター2dからの2つ出力光の強度x’1およびx’2をそれぞれ観測する。
【0028】
また、
図4(b)に示すように、本実施形態の2重ホモダイン測定装置は、測定光を2分岐する透過率が1/2のビームスプリッター2iと、基準光を2分岐する透過率がT(ただし0<T<1)のビームスプリッター9gと、2分岐された基準光を2分岐する透過率が1/2のビームスプリッター2jとを備える。また、本実施形態の2重ホモダイン測定装置は、2分岐された一方の測定光およびビームスプリッター2jで2分岐された一方の基準光を2分岐して重ね合わせて出力する透過率が1/2のビームスプリッター2eと、ビームスプリッター2eからの2つ出力光の強度y’
1およびy’
2をそれぞれ観測する光検出器3eおよび4eとを備える。さらに、本実施形態の2重ホモダイン測定装置は、ビームスプリッター2iで2分岐された他方の測定光に位相(π/2)を印加する位相変調器1fと、位相が印加された測定光およびビームスプリッター2jで2分岐された他方の基準光を2分岐して重ね合わせて出力する透過率が1/2のビームスプリッター2fと、ビームスプリッター2fからの2つ出力光の強度y’
3およびy’
4をそれぞれ観測する光検出器3fおよび4fとを備える。
図4(b)には、ビームスプリッター2iとビームスプリッター2eとの間に分岐された一方の測定光を反射する鏡5e、および、ビームスプリッター2jとビームスプリッター2fとの間に分岐された他方の基準光を反射する鏡5fも示されている。ビームスプリッター2e、光検出器3eおよび4e、位相変調器1f、ビームスプリッター2f、並びに、光検出器3fおよび4fの機能は、
図1(b)を参照し説明したビームスプリッター2c、光検出器3cおよび4c、位相変調器1c、ビームスプリッター2c、並びに、光検出器3cおよび4cの機能と同様である。
【0029】
図4(a)のホモダイン測定装置および
図4(b)の2重ホモダイン測定装置の光検出器3d、3e、3f、4d、4e、4f、10d、および10gにおける観測値の単位は、光子1個分が1となるように構成されている。また、ビームスプリッター9dおよび9gに入力される基準光の複素振幅βの単位は、絶対値の二乗が光子数となるように構成されている。
図4(b)の2重ホモダイン測定装置における測定値α’は、光検出器3e、4e、3f、4f、および10gにおける観測値y’
1,y’
2,y’
3,y’
4、およびy’
0、並びに、基準光の既知の透過率Tを用いて、α’={(y’
1-y’
2,)+(y’
3-y’
4)i}/√{(1-T)(y’
0+y’
1+y’
2+y’
3+y’
4+1}により算出される。測定値α’を算出する計算機(不図示)は、
図4(b)の2重ホモダイン測定装置に備えられていてもよく、2重ホモダイン測定装置と別個であってもよい。また、
図4(a)のホモダイン測定装置における測定値p’
θは、光検出器3d、4dおよび10dにおける観測値x
1、x
2、およびx
0を用いて、p’
θ=(x
1-x
2)/√{(1-T)(x’
0+x’
1+x’
2+1}により算出される。測定値p’
θを算出する計算機(不図示)は、
図4(a)のホモダイン測定装置に備えられていてもよく、ホモダイン測定装置と別個であってもよい。
【0030】
本実施形態の通信システムでは、
図4(a)のホモダイン測定装置の測定値p’
θまたは
図4(b)の2重ホモダイン測定装置の測定値α’を、ホモダイン測定または2重ホモダイン測定の測定値と見なす。
【0031】
【0032】
さらに本実施形態の通信システムにおいて、ホモダイン測定装置および2重ホモダイン測定装置の測定結果の異なる統計量が、近似値と理想的値との差分の理論的上限となる。より正確には、本実施形態の通信システムにおいて、ホモダイン測定装置および2重ホモダイン測定装置における測定値と理想的なホモダインおよび2重ホモダイン測定の測定値との間の平均および分散の誤差の上限が、当該装置の測定結果の異なる統計量で与えられる。
【0033】
【0034】
上記の性質によって、本実施形態の通信システムは、直接調整による連続量量子暗号を実装するにあたって、
図1に示すホモダイン測定措置および2重ホモダイン測定装置を使わず、
図4に示すホモダイン測定措置および2重ホモダイン測定装置を利用する。さらに、本実施形態の通信システムにおける安全性の評価に
図4に示すホモダイン測定措置および2重ホモダイン測定装置の共分散行列を利用する際、その誤差として、実際の統計誤差に加えて上記に示す差分の上限を加味して評価をする。本実施形態によれば、直接調整の連続量量子暗号が、従来の実装方法では参照光への攻撃が行われていないことを仮定としなければならなかったのに対して、通信路を通る光に対する任意の攻撃がなされても安全が保障できるようになる。ホモダイン測定措置および2重ホモダイン測定装置における共分散行列、共分散行列の誤差、実際の統計誤差、および、上記に示す差分の上限の計算は、ホモダイン測定措置および2重ホモダイン測定装置に関連付けられた計算機で行われる。計算機は、典型的に、プロセッサと、プロセッサに結合されたメモリおよび記憶装置とを備える。記憶装置は、位相変調器による位相の印加、光検出器による光の強度の観測を制御するためのプログラムを記憶する。また、記憶装置は、共分散行列、共分散行列の誤差、実際の統計誤差、および、上記に示す差分の上限の計算をプロセッサに実行させるためのプログラムを記憶する。プロセッサは、記憶装置に記憶されたプログラムをメモリにロードして実行する。
【0035】
本実施形態のホモダイン測定装置およびヘテロダイン測定装置により、理想的なホモダインおよびヘテロダイン測定の測定結果に対する共分散行列の推定ができるため、基準光が有限である効果による安全性への影響が無くなり、安全性証明が要求する条件を全て満たすことができる。
【0036】
また、本実施形態のホモダイン測定装置およびヘテロダイン測定装置は、ホモダイン測定および2重ホモダイン測定の構成にそれぞれ、1つの光検出器を追加するのみで実現できる。そのため、従来技術と異なり、連続量量子暗号の長所である簡便さを犠牲にすることなく理想的な安全性を実現することができる。
【0037】
さらに、従来技術は、2重ホモダイン測定を利用するプロトコルにしか適用できなかったが、本実施形態のホモダイン測定装置およびヘテロダイン測定装置は、ホモダイン測定および2重ホモダイン測定のどちらを使うプロトコルに対しても適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1a、1c、1d、1f 位相変調器
2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g、2h、2i、2j、2p、2q、2r ビームスプリッター
3a、3b、3c、3d、3e、3f、4a、4b、4c、4d、4e、4f、10d、10g 光検出器
5b、5c、5e、5f、5p、5q、5r、5s、5t、5u、5v、5w 鏡
6a、6c 光源
7 通信路
8 光スイッチ
9d、9g ビームスプリッター
11 位相・振幅変調器