(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024267
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】表面処理方法、その表面処理方法を含む半導体基板の製造方法、表面処理組成物およびその表面処理組成物を含む半導体基板の製造システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230209BHJP
C11D 1/12 20060101ALI20230209BHJP
C11D 1/34 20060101ALI20230209BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20230209BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20230209BHJP
【FI】
H01L21/304 622Q
H01L21/304 622F
H01L21/304 622X
H01L21/304 622D
H01L21/304 622B
C11D1/12
C11D1/34
B24B37/00 H
B24B37/24 C
H01L21/304 647B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078423
(22)【出願日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2021129173
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉野 努
(72)【発明者】
【氏名】石田 康登
【テーマコード(参考)】
3C158
4H003
5F057
5F157
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣を十分に除去することができる手段を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、表面処理組成物を用いて、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、前記表面処理組成物は、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、前記表面処理組成物によって、前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理組成物を用いて、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、
前記表面処理組成物は、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、
前記表面処理組成物によって、前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法。
【請求項2】
前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、前記表面処理組成物によって、酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記残渣は、ポリウレタンをさらに含み、前記表面処理組成物によって、前記ポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御することをさらに含む、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記ゼータ電位調整剤は、分子量が1,000未満であるアニオン性界面活性剤である、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記アニオン性界面活性剤は、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびリン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有する、請求項4に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記表面処理組成物は、pH調整剤をさらに含む、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記表面処理組成物のpH値は、2以上5未満である、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項8】
リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項9】
研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、
無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物を使用して、酸化ケイ素を含む研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、
請求項1に記載の表面処理方法によって、前記研磨済半導体基板の表面における前記無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、
を含む、半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、
前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む、請求項9に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記研磨工程は、ポリウレタン製の研磨パッドを使用することを含み、
前記残渣は、前記ポリウレタンをさらに含み、
前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記ポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御することをさらに含む、請求項9に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記研磨パッドのショアA硬度は、40°以上100°以下である、請求項11に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項13】
酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減するために用いられる、表面処理組成物であって、
sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、
前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する、表面処理組成物。
【請求項14】
前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、前記表面処理組成物は、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する、請求項13に記載の表面処理組成物。
【請求項15】
前記残渣はポリウレタンをさらに含み、前記表面処理組成物は、前記ポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御する機能をさらに有する、請求項13に記載の表面処理組成物。
【請求項16】
リンス研磨用組成物または洗浄用組成物である、請求項13に記載の表面処理組成物。
【請求項17】
酸化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物、および請求項13に記載の表面処理組成物を含む、半導体基板の製造システムであって、
前記研磨用組成物および前記研磨パッドを用いて研磨した後の前記研磨対象物の表面を前記表面処理組成物と接触させる、半導体基板の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理方法、その表面処理方法を含む半導体基板の製造方法、表面処理組成物およびその表面処理組成物を含む半導体基板の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、例えば、シリカ、アルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤等の添加剤等を含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法である。研磨対象物(被研磨物)としては、例えば、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜(酸化ケイ素)、シリコン窒化物等、金属等からなる配線、プラグ等が挙げられる。
【0003】
CMP工程後の半導体基板表面には、不純物(異物または残渣とも称する)が多量に残留している。異物としては、例えば、CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料を研磨することによって生じたシリコン含有材料、研磨対象物である金属配線やプラグ等を研磨することによって生じた金属、さらには各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などが含まれる。
【0004】
半導体基板表面がこれらの異物により汚染されると、半導体の電気特性に悪影響を与え、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。したがって、CMP工程後に表面処理工程を導入し、半導体基板表面からこれらの異物を除去することが望ましい。
【0005】
かような洗浄工程に用いられる表面処理組成物としては、例えば、特許文献1には、ポリカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸と、スルホン酸型アニオン性界面活性剤と、カルボン酸型アニオン性界面活性剤と、水とを含有する、半導体デバイス用基板洗浄液が開示されている。当該表面処理組成物によれば、基板表面を腐食することなく、異物を除去しうるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1にかかる技術では、研磨済研磨対象物の洗浄(表面処理)に際して、異物(残渣)を十分に除去できないという問題があった。
【0008】
ここで、本発明者らは、研磨済研磨対象物の種類と異物(残渣)の種類との関係について検討を行った。その結果、半導体基板として特に好ましく用いられる酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面には、その研磨の際に用いられた研磨用組成物に含まれる無機酸化物砥粒が残渣として付着しやすく、かような無機酸化物砥粒を含む残渣は半導体デバイスの性能低下の原因となりうることを見出した。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣を十分に除去することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を進めた。その結果、表面処理組成物を用いて、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、前記表面処理組成物は、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、前記表面処理組成物によって、前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法により、研磨済研磨対象物表面において、無機酸化物砥粒を含む残渣を除去する効果が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の上記課題を解決するための一態様は、表面処理組成物を用いて、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、前記表面処理組成物は、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、前記表面処理組成物によって、前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法に関する。
【0012】
本発明の上記課題を解決するための他の一態様は、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減するために用いられる、表面処理組成物であって、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する、表面処理組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣を十分に除去することができる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。本明細書中、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。また、本明細書において、研磨用組成物に含まれる「無機酸化物砥粒」は、単に「砥粒」と称する場合もある。さらに、研磨した後の研磨対象物を、単に「研磨済研磨対象物」とも称する。
【0015】
上記したように、本発明の表面処理方法は、表面処理組成物を用いて、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、前記表面処理組成物は、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、前記表面処理組成物によって、前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む。
【0016】
表面処理組成物によって、酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む方法としては、特に制限されないが、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含む表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面とを接触させる方法であることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣を十分に除去することができる手段が提供される。
【0018】
また、本発明の他の一実施形態によれば、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面を、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含む表面処理組成物を用いて処理することを含む、表面処理方法を提供する。
【0019】
本明細書において、表面処理とは、研磨済研磨対象物の表面における残渣を除去する処理をいい、広義の洗浄を行う処理を表す。本発明の一形態に係る表面処理方法は、表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。表面処理は、特に制限されないが、例えば、リンス研磨処理または洗浄処理によって行われることが好ましい。
【0020】
本発明の一実施形態に係る表面処理方法は、リンス研磨処理による方法であることが好ましい。この理由は、研磨処理の方が圧力存在下での処理を行うことができ、物理的に基板表面の残渣を脱離させることと、より強くゼータ電位調整剤を基板または残渣に吸着させることができるため、無機酸化物砥粒を含む残渣をより効率よく低減することが可能となるためである。また、本発明の表面処理方法においては、無機酸化物砥粒を含む残渣をより効率よく低減するという観点から、研磨済研磨対象物の表面処理の後、水による洗浄(後述の後洗浄処理)を行うことが好ましい。
【0021】
表面処理(リンス研磨処理および、洗浄処理)、後洗浄処理については、後述する。
【0022】
本発明の他の一実施形態によれば、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減するために用いられる、表面処理組成物であって、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する、表面処理組成物も提供される。
【0023】
また、上述のように、本発明に係る表面処理組成物は、リンス研磨処理または洗浄処理において好適に用いられる。よって、本発明に係る表面処理組成物は、リンス研磨用組成物または洗浄用組成物でありうる。
【0024】
本発明の表面処理方法は、表面処理組成物と、その表面処理組成物を用いて表面処理が行われる(すなわち、表面処理される対象である)研磨済研磨対象物との関係性に特徴を有する。具体的には、本発明の表面処理方法は、表面処理組成物と、研磨済研磨対象物の含有成分と、その研磨済研磨対象物を研磨した研磨用組成物の含有成分(より詳しくは、残渣として研磨済研磨対象物表面に付着する研磨用組成物の成分:砥粒)との関係性が、研磨済研磨対象物表面の残渣の低減に影響を与えることを見出したものである。これは、後述するように、本発明の表面処理方法が、研磨済研磨対象物表面の電荷(ゼータ電位)および研磨済研磨対象物表面に残渣として存在する研磨用組成物の成分(砥粒)の電荷(ゼータ電位)に基づいて、本発明の効果が発現されると考えているためである。
【0025】
以下では、まず、研磨済研磨対象物表面に存在する残渣と、表面処理される対象である研磨済研磨対象物と、について説明する。
【0026】
[残渣]
本明細書において、残渣とは、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物を表す。残渣の例は、特に制限されないが、例えば、研磨用組成物に含まれる砥粒由来の粒子状の砥粒残渣、後述する有機物残渣、その他の異物等が挙げられる。
【0027】
本明細書において、有機物残渣とは、研磨済研磨対象物表面に付着した異物のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機物や有機塩等からなる成分を表す。
【0028】
研磨済研磨対象物に付着する有機物残渣は、例えば、後述の研磨処理もしくは表面処理において使用したパットから発生するパッド屑(例えばポリウレタン)、または研磨処理において用いられる研磨用組成物もしくは表面処理において用いられる表面処理組成物に含まれる添加剤に由来する成分等が挙げられる。本発明では、後述の実施例において、有機物残渣として、ポリウレタン残渣数を算出しているため、以下では、有機物残渣とは、ポリウレタンを含む有機物残渣を意味する。
【0029】
総残渣数とは、種類によらず、全ての残渣の総数を表す。総残渣数は、ウェーハ欠陥検査装置(例えば、ケーエルエー・テンコール株式会社製、光学検査機Surfscan(登録商標)SP5等)を用いて測定することができる。総残渣数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0030】
なお、砥粒残渣と、有機物残渣と、その他の異物とは色および形状が大きく異なることから、異物が、砥粒残渣、有機物残渣(例えば、ポリウレタン残渣)、その他の異物のいずれであるかの判断は、SEM観察によって行うことができる。また、異物が砥粒残渣、有機物残渣、およびその他の異物のいずれであるかの判断、砥粒残渣の種類の判断、ならびに有機物残渣の種類の判断は、必要に応じて、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析にて判断してもよい。砥粒残渣数、ポリウレタン残渣数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0031】
本発明の表面処理方法は、表面処理組成物により、研磨済研磨対象物表面における残渣のゼータ電位を制御することができる。具体的には、本発明の表面処理方法によれば、残渣に含まれる無機酸化物砥粒(好ましくは酸化セリウム砥粒)のゼータ電位は-30mV以下に制御される。ここで、本明細書中、無機酸化物砥粒とは、研磨用組成物において砥粒として用いられた無機酸化物を意味する。よって、残渣が無機酸化物砥粒を含む場合、当該無機酸化物砥粒は、砥粒残渣となる。
【0032】
本発明の効果の観点から、残渣に含まれる無機酸化物砥粒の好ましい例としては、特に制限されないが、後述する研磨用組成物で説明における好ましい砥粒である、酸化セリウム砥粒、アニオン修飾酸化ケイ素砥粒等が挙げられる。よって、本発明の好ましい一実施形態に係る表面処理方法によれば、無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方を含み、表面処理組成物によって、酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方のゼータ電位は-30mV以下に制御される。そして、本発明のより好ましい一実施形態に係る表面処理方法によれば、無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、表面処理組成物によって、酸化セリウム砥粒のゼータ電位は-30mV以下に制御される。残渣に含まれる無機酸化物砥粒のゼータ電位が-30mVを超える場合、残渣が凝集してしまい、粗大粒子を形成すると、表面処理により除去できないおそれがある。
【0033】
また、本発明の好ましい一実施形態においては、残渣に含まれるポリウレタンのゼータ電位は、-10mV以下に制御される。すなわち、本発明の好ましい一実施形態に係る表面処理方法によれば、残渣は、ポリウレタンをさらに含み、表面処理組成物によって、ポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御することをさらに含む。残渣に含まれるポリウレタンのゼータ電位が-30mVを超える場合、残渣が凝集してしまい、粗大粒子を形成すると、表面処理により除去できないおそれがある。
【0034】
残渣に含まれる無機酸化物砥粒(好ましくは酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方、より好ましくは酸化セリウム砥粒)のゼータ電位は、好ましくは-65mV以上、より好ましくは-60mV以上、さらに好ましくは-55mV以上、特に好ましくは-50mV以上である。また、残渣に含まれる無機酸化物砥粒(好ましくは酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方、より好ましくは酸化セリウム砥粒)のゼータ電位は、好ましくは-31mV以下、より好ましくは-32mV以下、さらに好ましくは-34mV以下、特に好ましくは-35mV以下である。表面処理方法において、無機酸化物砥粒のゼータ電位が上記範囲内の値に制御されることにより、本発明の効果がより発揮される。また、表面処理組成物は、無機酸化物砥粒のゼータ電位を上記範囲内の値に制御する機能を有することにより、本発明の効果がより発揮される。
【0035】
また、残渣に含まれるポリウレタンのゼータ電位は、好ましくは-75mV以上、より好ましくは-70mV以上、さらに好ましくは-69mV以上、特に好ましくは-65mV以上である。また、残渣に含まれるポリウレタンのゼータ電位は、好ましくは-30mV以下、より好ましくは-33mV以下、さらに好ましくは-35mV以下、特に好ましくは-40mV以下である。表面処理方法において、ポリウレタンのゼータ電位が上記範囲内の値に制御されることにより、本発明の効果がより発揮される。また、表面処理組成物は、ポリウレタンのゼータ電位を上記範囲内の値に制御する機能を有することにより、本発明の効果がより発揮される。
【0036】
本明細書中、残渣に含まれる無機酸化物砥粒のゼータ電位は、スペクトリス株式会社製(マルバーン事業部)のZetasizer Nano ZSPにより測定することができる。残渣に含まれるポリウレタンのゼータ電位は、アントンパールジャパン株式会社製の固体ゼータ電位測定器SurPASS3により測定することができる。なお、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0037】
残渣のゼータ電位は、例えば、ゼータ電位調整剤の種類、量および表面処理組成物のpH等によって制御することができる。表面処理組成物中における存在状態でのゼータ電位調整剤の負の電荷を大きくすることで、無機酸化物砥粒およびポリウレタンのゼータ電位を低下させることができる。例えば、ゼータ電位調整剤としてアニオン性界面活性剤を選択することや、アニオン性界面活性剤が有する基を選択することができる。その中でも後述するような特定の基を選択することで、無機酸化物砥粒およびポリウレタンのゼータ電位をより低下させることができる。また、pHを低すぎない範囲まで適度に低くすることで、無機酸化物砥粒およびポリウレタンのゼータ電位をより低下させることができる。そして、表面処理組成物中のゼータ電位調整剤の量を増加することで、ゼータ電位調整剤によるゼータ電位の低下作用をより高めることができる。
【0038】
[研磨済研磨対象物]
本明細書において、研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0039】
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を低減するために用いられる。酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜等が挙げられる。
【0040】
研磨済研磨対象物は、研磨済半導体基板であることが好ましく、CMP後の半導体基板であることがより好ましい。かかる理由は、残渣は半導体デバイスの破壊の原因となりうるため、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合は、半導体基板の洗浄工程としては、残渣をできる限り除去しうるものであることが必要とされるからである。
【0041】
酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物としては、特に制限されないが、酸化ケイ素単体からなる研磨済研磨対象物や、酸化ケイ素以外の材料が表面に露出している状態の研磨済研磨対象物等が挙げられる。ここで、前者としては、例えば、半導体基板である酸化ケイ素基板が挙げられる。また、後者について、酸化ケイ素以外の材料は、例えば、窒化ケイ素、ポリシリコン、タングステン等が挙げられる。かかる研磨済研磨対象物の具体例としては、窒化ケイ素、ポリシリコンまたはタングステン上に、酸化ケイ素膜が形成された構造を有する研磨済半導体基板や、窒化ケイ素、ポリシリコンまたはタングステン部分と、酸化ケイ素膜と、が全て露出した構造を有する研磨済半導体基板等が挙げられる。
【0042】
本発明の表面処理方法は、表面処理組成物により、研磨済研磨対象物に含まれる酸化ケイ素のゼータ電位を制御することができる。具体的には、本発明の表面処理方法によれば、酸化ケイ素のゼータ電位は、負に制御される。
【0043】
研磨済研磨対象物に含まれる酸化ケイ素のゼータ電位は、好ましくは-55mV以上-1mV以下であり、より好ましくは-50mV以上-2mV以下であり、さらに好ましくは-49mV以上-10mV以下であり、さらにより好ましくは-45mV以上-20mV以下であり、最も好ましくは-42mV以上-30mV以下である。酸化ケイ素のゼータ電位が上記範囲であることにより、本発明の初期の効果がより発揮される。
【0044】
酸化ケイ素のゼータ電位は、例えば、ゼータ電位調整剤の種類、量および表面処理組成物のpH等によって制御することができる。表面処理組成物中における存在状態でのゼータ電位調整剤の負の電荷を大きくすることで、研磨済研磨対象物に含まれる酸化ケイ素のゼータ電位を低下させることができる。例えば、ゼータ電位調整剤としてアニオン性界面活性剤を選択することや、アニオン性界面活性剤が有する基を選択したり、その中でも後述するような特定の基を選択することで、研磨済研磨対象物に含まれる酸化ケイ素のゼータ電位をより低下させることができる。また、pHを低すぎない範囲まで適度に低下させることで、研磨済研磨対象物に含まれる酸化ケイ素のゼータ電位をより低下させることができる。そして、表面処理組成物中のゼータ電位調整剤の量を増加することで、ゼータ電位調整剤によるゼータ電位の低下作用をより高めることができる。
【0045】
本発明の表面処理方法においては、酸化ケイ素以外の材料として、窒化ケイ素を含んでいてもよい。残渣に含まれる無機酸化物砥粒として、窒化ケイ素が含まれる場合、例えば、pH4未満において、窒化ケイ素のゼータ電位を負に制御することができる。この場合、研磨済研磨対象物に含まれる窒化ケイ素のゼータ電位は、好ましくは-65mV以上-1mV以下であり、より好ましくは-62mV以上-2mV以下であり、さらに好ましくは-60mV以上-10mV以下であり、さらにより好ましくは-58mV以上-15mV以下であり、なおさらにより好ましくは-55mV以上-30mV以下であり、最も好ましくは-52mV以上-35mV以下である。
【0046】
次に、本発明の表面処理方法において用いられる表面処理組成物について説明する。
【0047】
[表面処理組成物]
本発明の一形態は、sp値が9を超えて11以下であり、かつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、研磨済研磨対象物の表面を処理するために用いられる、表面処理組成物である。ここで、研磨用組成物のいくつかの成分は、研磨済研磨対象物の表面に付着しやすく、研磨処理の後に研磨済研磨対象物の表面に残存してしまう。特に、研磨用組成物に含まれる無機酸化物砥粒は、研磨済研磨対象物の表面に残存する傾向がある。この場合、研磨済研磨対象物の表面に残存した無機酸化物砥粒は、異物の原因となる場合がある。本発明に係る表面処理組成物は、このような研磨済研磨対象物の表面上に残存する研磨用組成物由来の残渣(すなわち、無機酸化物砥粒)を除去することができる。
【0048】
本発明に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物に含まれる酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、研磨済研磨対象物の表面上に残渣として存在する無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することができる。すなわち、研磨済研磨対象物が本発明に係る表面処理組成物と接することにより、研磨済研磨対象物表面の酸化ケイ素および無機酸化物砥粒のゼータ電位が上記範囲に制御される。これにより、本発明に係る表面処理組成物によれば、表面処理工程において、残渣(無機酸化物砥粒)を効率的に除去することができるための残渣低減剤として用いることができる。
【0049】
よって、本発明によれば、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減するために用いられる、表面処理組成物であって、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒とを含み、前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する、表面処理組成物も提供される。
【0050】
また、上記表面処理組成物において、前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、前記表面処理組成物は、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する。
【0051】
また、本発明に係る表面処理組成物は、研磨処理もしくは表面処理において使用したパットから発生するパッド屑(ポリウレタン)についても効率的に除去することができる。すなわち、これらパッド屑も、研磨済研磨対象物の表面上に残渣として存在するが、本発明に係る表面処理組成物は、パッド屑がポリウレタンである場合において、研磨済研磨対象物表面のポリウレタンのゼータ電位を制御することにより、効率的に除去することができる。よって、本発明に係る表面処理組成物は、前記残渣はポリウレタンをさらに含み、前記表面処理組成物は、前記ポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御する機能をさらに有する。
【0052】
本発明者らは、本発明によって上記課題が解決されるメカニズムを以下のように推定している。
【0053】
表面処理組成物に含まれるゼータ電位調整剤は、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するため、研磨済研磨対象物表面に存在する残渣(無機酸化物砥粒、ポリウレタン)の表面に付着して親水層を形成する。また、ゼータ電位調整剤は、表面処理組成物中の研磨済研磨対象物の表面にも付着し、親水層を形成する。親水層が形成された残渣は、親水化された研磨済研磨対象物表面と親和性を有するため、表面処理工程中に研磨済研磨対象物表面から移動(例えば、研磨パッド側への移動)することなく、研磨済研磨対象物への付着状態を維持する。その後、水による洗浄(後述の後洗浄処理)により、研磨済研磨対象物の表面の親水層が容易に除去され、研磨済研磨対象物表面の残渣も除去される。
【0054】
よって、本発明に係る表面処理組成物は、表面処理組成物に含有される各成分と、研磨済研磨対象物表面および研磨済研磨対象物表面の残渣との化学的な相互作用により、研磨済研磨対象物表面の残渣を除去する機能、または除去を容易にする機能を有する。
【0055】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0056】
以下、表面処理組成物に含まれる各成分について説明する。
【0057】
[ゼータ電位調整剤]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、sp値が9を超えて11以下であり、かつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤を含む。ここで、sp値とは、溶解度パラメータであり、本明細書におけるゼータ電位調整剤のsp値は、Fedors法(文献:R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14[2]147(1974))により算出される値である。
【0058】
ゼータ電位調整剤のsp値は、9を超えて11以下であり、好ましくは9を超えて10.9以下であり、より好ましくは9.5以上10.8以下である。当該sp値が9を超えて11以下の場合、ゼータ電位調整剤と研磨済研磨対象物表面の残渣との親和性が高まり、ゼータ電位調整剤が残渣に付着しやすくなる。ゼータ電位調整剤のsp値が9以下の場合、水のsp値(23)から大きく離れるため、ゼータ電位調整剤が分散媒(例えば、水)に溶解しにくくなり、ゼータ電位調整剤自体が表面の残渣になりやすくなる。ゼータ電位調整剤のsp値が11を超えた場合、水のsp値(23)に近づくことに基づいて、ゼータ電位調整剤は、研磨済研磨対象物表面または残渣に吸着するよりも、周辺の分散媒(例えば、水)になじむ方が安定になり、本発明の効果が発揮されない。
【0059】
ゼータ電位調整剤は、負に帯電した官能基を有する。このような官能基としては、例えば、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびリン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基が挙げられる。負に帯電した官能基がこれらの基であると、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより向上する。この理由は、研磨済み研磨対象物と残渣の表面の電荷とを同じ負に帯電させることで、電荷反発を有効にさせ、残渣の脱離、再付着防止が可能になるからであると推測される。
【0060】
ゼータ電位調整剤は、アニオン性界面活性剤であるのが好ましく、重量平均分子量が1,000未満であるアニオン性界面活性剤であるのがより好ましい。アニオン性界面活性剤は、残渣に対して親水層を形成しやすく、また、水による洗浄(後述の後洗浄処理)により、形成された親水層を容易に除去することができ、表面処理組成物による残渣の除去に寄与する。よって、アニオン性界面活性剤を含む表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面処理において、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去することができる。
【0061】
アニオン性界面活性剤の重量平均分子量は、1,000未満であるのが好ましく、200以上1,000未満であるのがより好ましく、500以上980以下であるのがさらに好ましく、800以上959以下であるのがさらに好ましい。アニオン性界面活性剤の重量平均分子量が上記範囲であることにより、残渣に対する親和性を向上させることができ、本発明の所期の効果をより一層発揮できる。なお、アニオン性界面活性剤の重量平均分子量は、分子式により算出したり、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリエチレングリコール換算の値として測定することができる。
【0062】
このようなアニオン性界面活性剤としては、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基およびリン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を含む化合物が挙げられる。このうち、官能基としては、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、リン酸(塩)基が好ましく、硫酸(塩)基、リン酸(塩)基がより好ましい。
【0063】
なお、本明細書における酸(塩)とは、注目する基または化合物が酸の形態であっても塩の形態であってもよいことを表す。ここで、スルホン酸基とは、スルホ基であり、硫酸基とは、-OSO3Hで表される基を表し、ホスホン酸基とは、ホスホ基であり、リン酸基とは、-OPO3H2で表される基を表す。なお、ホスホン酸塩基およびリン酸塩基は、1つのHが残存する酸性塩基であってもよい。これらの基は、塩の形態であってもよく、塩としては、特に制限されないが、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。塩の種類は、1種単独でもよいしまたは2種以上の組み合わせであってもよい。
【0064】
本発明で用いられるアニオン性界面活性剤の種類について説明する。以下に述べるアニオン性界面活性剤は、低分子型界面活性剤であってもよく、高分子型界面活性剤であってもよいが、本発明の効果をより一層発揮させるためには、低分子型界面活性剤であるのが好ましい。なお、本明細書中、「低分子型界面活性剤」とは、その分子量が1000未満である化合物をいう。当該化合物の分子量は、例えば、TOF-MSやLC-MS等の公知の質量分析手段を用いて行うことができる。他方、本明細書中、「高分子型界面活性剤」とは、その分子量(重量平均分子量)が1000以上である化合物をいう。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0065】
(スルホン酸(塩)基を有する化合物)
本発明に係るアニオン性界面活性剤としてのスルホン酸(塩)基を有する化合物は、スルホン酸(塩)基を有する界面活性剤であれば特に制限されない。
【0066】
スルホン酸(塩)基を有する化合物として、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸(例えばn-ドデシルベンゼンスルホン酸)、アルキルスルホン酸(例えばラウリルスルホン酸)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸(例えばラウリルジフェニルエーテルジスルホン酸)、アルキルナフタレンスルホン酸(例えばラウリルナフタレンスルホン酸)等のスルホン酸またはその塩が挙げられる。これらスルホン酸の塩の例としては、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。特に、研磨済研磨対象物がCMP工程後の半導体基板である場合には、基板表面の金属を極力除去するという観点から、ナトリウム塩、アミン塩またはアンモニウム塩であると好ましい。例えば、スルホン酸(塩)基を有するアニオン性界面活性剤としては、ラウリルスルホン酸アンモニウム、ラウリルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0067】
上記市販品としては、例えば、スルホン酸基含有変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、ゴーセネックスLシリーズ)、スルホン酸基含有共重合体(東亞合成株式会社製、アロン(登録商標)Aシリーズ)、スルホン酸基含有共重合体(アクゾ
ノーベル社製、VERSA(登録商標、以下同じ)シリーズ、NARLEX(登録商標、以下同じ)シリーズ;東ソー・ファインケム株式会社製、STシリーズ、MAシリーズ)、ポリスチレンスルホン酸(塩)(東ソー・ファインケム株式会社製、ポリナス(登録商標、以下同じ)シリーズ)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩(竹本油脂株式会社製、パイオニン(登録商標、以下同じ)A-43-D、A-43-S;タケサーフA-43-NQ)等を用いることができる。
【0068】
(硫酸(塩)基を有する化合物)
本発明に係るアニオン性界面活性剤としての硫酸(塩)基を有する化合物は、硫酸(塩)基を含む界面活性剤であれば特に制限されない。
【0069】
硫酸(塩)基を有する化合物として、例えば、アルキル硫酸エステル塩(例えばラウリル硫酸アンモニウム)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えばポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル硫酸エステル塩)、ポリオキシアルキレンアルキルアリルフェニルエーテル硫酸エステル塩、(例えばポリオキシエチレンアルキルアリルフェニルエーテル硫酸エステル塩)、ポリオキシアルキレンフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えばポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル塩)、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独でもまたは二種以上組み合わせても用いることができる。なお、塩の例としては、上述の(スルホン酸(塩)基を有する化合物)に記載のものと同様である。例えば、硫酸(塩)基を有するアニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル硫酸アンモニウムが好ましい。
【0070】
硫酸(塩)基を有するアニオン性界面活性剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。上記市販品としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル硫酸エステル塩(塩)(竹本油脂株式会社製、ニューカルゲン(登録商標、以下同じ)FS-7S)、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル硫酸エステル塩(第一工業製薬株式会社製、ハイテノール(登録商標、以下同じ)NF08)、ポリオキシエチレンアルキルアリルフェニルエーテル硫酸エステル塩(第一工業製薬株式会社製、アクアロン(登録商標、以下同じ)HS-10)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤株式会社製、ニューコール(登録商標、以下同じ)1020-SN)、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤株式会社製、ニューコール707シリーズ)、ポリオキシエチレンアリルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤株式会社製のニューコールB4-SN)等が挙げられる。
【0071】
(ホスホン酸(塩)基を有する化合物)
本発明に係るアニオン性界面活性剤としてのホスホン酸(塩)基を有する化合物は、ホスホン酸(塩)基を有する界面活性剤であれば特に制限されない。
【0072】
ホスホン酸(塩)基を有する化合物として、例えば、ドデシルホスホン酸等、公知のものを使用することができる。これらの化合物は、単独でもまたは二種以上組み合わせても用いることができる。なお、塩の例としては、上述の(スルホン酸酸(塩)基を有する化合物)に記載のものと同様である。
【0073】
(リン酸(塩)基を有する化合物)
本発明に係るアニオン性界面活性剤としてのリン酸(塩)基を有する化合物は、リン酸(塩)基を含む界面活性剤であれば特に制限されない。
【0074】
リン酸(塩)基を有する化合物として、例えば、モノアルキルリン酸、アルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でもまたは二種以上組み合わせても用いることができる。なお、塩の例としては、上述の(スルホン酸(塩)基を有する化合物)に記載のものと同様である。
【0075】
リン酸(塩)基を有する化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。上記市販品としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸(日光ケミカルズ株式会社製、NIKKOL(登録商標、以下同じ)DLP、DOP、DDP、TLP、TCP、TOP、TDP の各シリーズ)、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルリン酸塩(竹本油脂株式会社製、リン酸エステル(ホスフェート)型シリーズ(ニューカルゲンFS-3AQ、ニューカルゲンFS-3PG等))が挙げられる。
【0076】
アニオン性界面活性剤は、アルキル基を有する場合、炭素数6~20の直鎖または分岐のアルキル基であるのが好ましい。また、アニオン性界面活性剤は、エチレンオキサイドが付加した構造を有するのが好ましく、エチレンオキサイドの付加モル数は、好ましくは2~18であり、より好ましくは3~15であり、さらに好ましくは3~12である。
【0077】
ゼータ電位調整剤は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。合成する場合の製造方法は特に制限されず、公知の合成方法により得ることができる。
【0078】
ゼータ電位調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0079】
ゼータ電位調整剤の含有量(濃度)(2種以上の場合はその合計量)は、特に制限されないが、表面処理組成物の全質量に対して、好ましくは0.001g/kg以上であり、より好ましくは0.01g/kg以上であり、さらに好ましくは0.03g/kg以上であり、特に好ましくは0.05g/kg以上であり、最も好ましくは0.08g/kg以上である。ゼータ電位調整剤の含有量が0.001g/kg以上であると、本発明の効果がより向上する。また、ゼータ電位調整剤の含有量の上限は、特に制限されないが、表面処理組成物の全質量に対して、好ましくは10g/kg以下であり、より好ましくは5g/kg以下であり、さらに好ましくは1g/kg以下であり、特に好ましくは0.5g/kg以下であり、最も好ましくは0.3g/kg以下である。ゼータ電位調整剤の含有量が10g/kg以下であると、表面処理後のゼータ電位調整剤自体の除去が容易となる。
【0080】
[分散媒]
本発明に係る表面処理組成物は、各成分を溶解または分散するための分散媒(溶媒)を含む。分散媒は、水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;アセトン等のケトン類;アセトニトリル等が挙げられる。よって、分散媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;アセトン等のケトン類;アセトニトリル;等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。水以外の分散媒を含む場合、分散媒の全質量に対する水の含有量は、好ましくは90質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下である。ただし、分散媒は、水のみであることが最も好ましい。
【0081】
表面処理組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した脱イオン水、純水、超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0082】
[pHおよびpH調整剤]
本発明に係る表面処理組成物のpHは、好ましくは2以上5未満である。表面処理組成物のpHが上記範囲であると、酸化セリウムのゼータ電位は正に帯電しており、ゼータ電位調整剤と電気的に引き合うため、結果として、砥粒残渣(例えば、酸化セリウム)を負に帯電させることが可能となる。これにより、本発明の所期の効果がより発揮される。本発明に係る表面処理組成物のpHは2以上であればよいが、好ましくは2.5以上であり、より好ましくは3以上である。本発明に係る表面処理組成物のpHは5以下であればよいが、好ましくは4.5未満であり、より好ましくは4以下であり、さらに好ましくは4.5以下である。
【0083】
なお、表面処理組成物のpHは、例えばpHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)により測定することができる。
【0084】
本発明に係る表面処理組成物は、ゼータ電位調整剤および分散媒を必須成分とするが、これらのみによって所望のpHを得ることが難しい場合は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、pH調整剤(上記のゼータ電位調整剤とは異なる化合物であるpH調整剤)を添加してpHを調整してもよい。本発明に係る表面処理組成物は、一実施形態において、pH調整剤をさらに含む。
【0085】
pH調整剤は、公知の酸、塩基、またはそれらの塩を使用することができる。
【0086】
pH調整剤として使用できる酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、2-メチル酪酸、ヘキサン酸、3,3-ジメチル-酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、2-ヒドロキシイソ酪酸およびフェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。pH調整剤として無機酸を使用した場合、特に硫酸、硝酸、亜リン酸、リン酸等が好ましい。また、pH調整剤として有機酸を使用した場合、酢酸、乳酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、ヒドロキシイソ酪酸が好ましく、マレイン酸、クエン酸、酒石酸がより好ましい。
【0087】
pH調整剤として使用できる塩基としては、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン、アンモニウム溶液、水酸化第四アンモニウム等の有機塩基、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、第2族元素の水酸化物、ヒスチジン等のアミノ酸、アンモニア等が挙げられる。
【0088】
表面処理組成物は、酸を含むことが好ましく、無機酸を含むことがより好ましく、硫酸、硝酸、亜リン酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがさらに好ましく、硝酸を含むことが特に好ましい。
【0089】
pH調整剤は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。pH調整剤の添加量は、特に制限されず、表面処理組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0090】
[他の添加剤]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、本発明の一形態に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、異物の原因となりうるため、できる限り添加しないことが望ましい。よって、必須成分以外の成分は、その添加量はできる限り少ないことが好ましく、含まないことがより好ましい。他の添加剤としては、例えば、砥粒、アルカリ、高分子化合物、防カビ剤(防腐剤)、溶存ガス、還元剤、酸化剤およびアルカノールアミン類等が挙げられる。なかでも、異物除去効果のさらなる向上のため、表面処理組成物は、砥粒を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「砥粒を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物全体に対する砥粒の含有量が0.01質量%以下(下限0質量%)である場合を指し、0.005質量%以下(下限0質量%)であることが好ましく、0.001質量%以下(下限0質量%)であることがより好ましい。
【0091】
(高分子化合物)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、高分子化合物を含有していてもよい。高分子化合物としては、重量平均分子量が1,000以上である、アニオン性基を有する高分子化合物であることが好ましい。高分子化合物は、重量平均分子量が1,000以上である、酸(塩)基を有する高分子であることが好ましい。高分子化合物は、重量平均分子量が1,000以上である、スルホン酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基およびリン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有する高分子化合物であることがさらに好ましい。
【0092】
高分子化合物は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。また、高分子化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0093】
表面処理組成物が高分子化合物を含む場合、高分子化合物の含有量の下限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましい。また、表面処理組成物中の高分子化合物の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。なお、表面処理組成物が2種以上の高分子化合物を含む場合、高分子化合物の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0094】
[防カビ剤]
本発明に係る表面処理組成物は、防カビ剤(防腐剤)を含むことが好ましい。本発明に係る表面処理組成物が防カビ剤(防腐剤)を含む場合に使用できる、防カビ剤(防腐剤)は、特に制限されず、高分子の種類に応じて適切に選択できる。具体的には、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。
【0095】
上記防カビ剤(防腐剤)は、単独で使用されてもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0096】
表面処理組成物が防カビ剤(防腐剤)を含む場合の、防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。また、防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、表面処理組成物中の防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)は、好ましくは0.0001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上1質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以上0.5質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下である。このような範囲であれば、微生物を不活性化または破壊するのに十分な効果が得られる。なお、表面処理組成物が2種以上の防カビ剤(防腐剤)を含む場合には、上記含有量はこれらの合計量を意図する。
【0097】
すなわち、本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、ゼータ電位調整剤、pH調整剤および水、ならびに防カビ剤、有機溶媒および高分子化合物からなる群より選択される少なくともひとつから実質的に構成される。本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、ゼータ電位調整剤、pH調整剤および水、ならびに防カビ剤および有機溶媒の少なくとも一方から実質的に構成される。本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、ゼータ電位調整剤、pH調整剤および水から実質的に構成される。当該形態において、「表面処理組成物が、Xから実質的に構成される」とは、Xの合計含有量が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意味する。好ましくは、表面処理組成物は、Xから構成される(上記合計含有量=100質量%)。例えば、「表面処理組成物が、ゼータ電位調整剤、pH調整剤および水、ならびに防カビ剤、有機溶媒および高分子化合物の少なくともひとつから実質的に構成される」とは、ゼータ電位調整剤、pH調整剤および水、ならびに防カビ剤、有機溶媒および高分子化合物の合計含有量が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意味し、表面処理組成物が、ゼータ電位調整剤、pH調整剤および水、ならびに防カビ剤、有機溶媒および高分子化合物の少なくともひとつから構成される(上記合計含有量=100質量%)ことが好ましい。
【0098】
本発明に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物に含まれる酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ研磨済研磨対象物に付着している無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することができる。このような制御が可能な理由としては、表面処理組成物に含まれるゼータ電位調整剤が、研磨済研磨対象物に含まれる酸化ケイ素および無機酸化物砥粒に対して親和性が高く、酸化ケイ素および無機酸化物砥粒の表面に付着しやすいことが考えられる。ゼータ電位調整剤は、酸化ケイ素および無機酸化物砥粒を負に帯電させ、さらに無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下へと導くものと考えられる。
【0099】
[表面処理組成物の製造方法]
上記表面処理組成物の製造方法は特に制限されない。例えば、sp値が9を超えて11以下であり、かつ負の官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒(例えば、水)と、を混合することにより製造できる。すなわち、本発明の他の形態によれば、sp値が9を超えて11以下であり、かつ負の官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を混合することを含む、上記表面処理組成物の製造方法もまた提供される。上記のゼータ電位調整剤の種類、添加量等は、前述の通りである。さらに、本発明の一形態に係る表面処理組成物の製造方法においては、必要に応じて、ゼータ電位調整剤および分散媒以外の他の成分をさらに混合してもよい。これらの種類、添加量等は、前述の通りである。
【0100】
表面処理組成物に含有される各成分の添加順、添加方法は特に制限されない。上記各成分を、一括してもしくは別々に、または段階的にもしくは連続的に加えてもよい。また、混合方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。好ましくは、上記表面処理組成物の製造方法は、ゼータ電位調整剤と、分散媒と、必要に応じて添加される他の成分と、を順次添加し、分散媒中で攪拌することを含む。加えて、上記表面処理組成物の製造方法は所望のpHとなるように、表面処理組成物のpHを測定し、調整することをさらに含んでいてもよい。
【0101】
ここで、本発明に係る表面処理組成物により除去される研磨済研磨対象物表面上の残渣は、研磨対象物に対する研磨処理により付着するものである。すなわち、無機酸化物砥粒は、研磨用組成物に由来する残渣であり、パッド屑(例えばポリウレタン)は、研磨処理において用いられる研磨パッドに由来する残渣である。そこで、これら残渣の由来となる研磨用組成物および研磨処理について説明する。換言すれば、本発明の表面処理方法において表面処理の対象である研磨済研磨対象物がどのように得られるかについて説明する。
【0102】
[研磨用組成物]
研磨用組成物は、無機酸化物砥粒と、分散媒と、必要に応じて、添加剤と、を含む。本発明において、研磨用組成物は、無機酸化物砥粒および分散媒を必須とする以外は、その構成は特に制限されないが、以下に好ましい研磨用組成物の構成について説明する。
【0103】
[砥粒]
研磨用組成物に含まれる砥粒(無機酸化物砥粒)としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化セリウム(セリア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化チタン(チタニア)等の無機酸化物(金属酸化物)からなる粒子が挙げられる。これらの金属酸化物は、表面修飾されていてもよい。例えば、カルボン酸やスルホン酸等の有機酸を固定化したアニオン修飾無機酸化物であってもよい。このようなアニオン修飾無機酸化物としては、カルボン酸やスルホン酸等の有機酸を固定化したアニオン修飾酸化ケイ素であるのが好ましく、カルボン酸やスルホン酸等の有機酸を固定化したアニオン修飾コロイダルシリカであるのがより好ましい。このような無機酸化物の表面への有機酸の固定化は、例えば無機酸化物の表面に有機酸の官能基が化学的に結合することにより行われている。無機酸化物有機酸を単に共存させただけでは無機酸化物への有機酸の固定化は果たされない。例えば、有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたアニオン修飾コロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica
Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたアニオン修飾コロイダルシリカを得ることができる。これらの中でも、スルホン酸が表面に固定化されたアニオン修飾酸化ケイ素(本明細書において、スルホン酸修飾酸化ケイ素とも称する)が好ましく、スルホン酸が表面に固定化されたアニオン修飾コロイダルシリカ(本明細書において、スルホン酸修飾コロイダルシリカとも称する)がより好ましい。無機酸化物の表面に固定化された有機酸は、酸の状態であっても、塩の状態であってもよい。
【0104】
砥粒(無機酸化物砥粒)は、表面処理組成物による除去効果の観点から、アニオン修飾酸化ケイ素砥粒、および酸化セリウム砥粒の少なくとも一方であるのがより好ましく、アニオン修飾コロイダルシリカ砥粒および酸化セリウム砥粒のうちの少なくとも一方がさらに好ましく、酸化セリウム砥粒であるのが特に好ましい。アニオン修飾酸化ケイ素砥粒および酸化セリウム砥粒は、表面処理組成物と接触した場合に親和層を形成しやすく、表面処理後の洗浄処理等により研磨済研磨対象物の表面から除去されやすい。
【0105】
よって、本発明の表面処理方法の好ましい一実施形態によれば、残渣に含まれる無機酸化物砥粒は、アニオン修飾酸化ケイ素砥粒および酸化セリウム砥粒の少なくとも一方であり、表面処理組成物によって、アニオン修飾酸化ケイ素砥粒および酸化セリウム砥粒の少なくとも一方のゼータ電位を-30mV以下に制御する。本発明の表面処理方法のより好ましい一実施形態によれば、残渣に含まれる無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒であり、表面処理組成物によって、酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する。
【0106】
砥粒の平均一次粒子径の下限は、特に制限されないが、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがより好ましい。この範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、特に制限されないが、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、本発明に係る表面処理組成物による効果がより発揮される。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて、無機酸化物砥粒の粒子形状が真球であると仮定して算出することができる。
【0107】
砥粒の平均二次粒子径の下限は、特に制限されないが、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。また、砥粒の平均二次粒子径の上限は、特に制限されないが、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、本発明に係る表面処理組成物による効果がより発揮される。なお、砥粒の平均二次粒子径の値は、レーザー光を用いた光散乱法に基づいて算出することができる。
【0108】
砥粒は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0109】
研磨用組成物における砥粒の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%超であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。また、砥粒の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、研磨済研磨対象物の表面上に残存する砥粒において、表面処理組成物による効果がより発揮される。
【0110】
[その他の成分]
研磨用組成物は、無機酸化物砥粒および分散媒以外の他の成分(添加剤)を含有していてもよく、例えば、pH調整剤、界面活性剤、濡れ剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤、溶存ガス、酸化剤、還元剤等の公知の研磨用組成物に用いられる成分を適宜選択しうる。
【0111】
[研磨処理]
研磨用組成物を用いて行われる研磨処理は、研磨対象物を研磨して、研磨済研磨対象物を形成する工程である。研磨処理において、研磨対象物は、研磨装置を用いて研磨される。
【0112】
研磨処理は、研磨対象物を研磨するのであれば特に制限されないが、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)処理であることが好ましい。また、研磨処理は、単一の工程からなる研磨工程であっても複数の工程からなる研磨工程であってもよい。複数の工程からなる研磨工程としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う工程や、1次研磨工程の後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う工程等が挙げられる。本発明に係る表面処理組成物を用いた表面処理は、上記仕上げ研磨工程後に行われると好ましい。
【0113】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。
【0114】
本発明に係る研磨工程で用いられる研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができるが、表面処理工程において残渣をより低減するためには、研磨パッドがポリウレタンであることが好ましい。
【0115】
すなわち、本発明において、研磨済研磨対象物の表面には、研磨パッド由来の成分が付着する場合がある。この場合、研磨パッドがポリウレタンであると、本発明に係る表面処理用組成物により研磨済研磨対象物の表面上に付着した残渣であるポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御することができ、これによりその残渣(ポリウレタン)を効率的に除去することができる。
【0116】
本発明の表面処理方法においては、研磨処理に用いられる研磨パッドのショアA硬度が、40°以上100°以下であるのが好ましい。研磨処理に用いられる研磨パッドのショアA硬度は、40°以上が好ましく、60°以上がより好ましく、70°以上がさらに好ましく、75°以上がよりさらに好ましく、80°以上が特に好ましく、85°以上が最も好ましい。研磨処理に用いられる研磨パッドのショアA硬度は、100°以下が好ましく、99°以下がより好ましく、97°以下がさらに好ましく、95°以下がよりさらにより好ましく、93°以下が特に好ましい。研磨処理に用いられる研磨パッドのショアA硬度が上記範囲内であることにより、研磨パッドと研磨対象物とが適度な圧力で接触し合い、研磨を効率的に行うことができるだけでなく、研磨済研磨対象物表面の残渣が残りにくいという効果がある。
【0117】
研磨パッドのショアA硬度は、JIS K 6253-3:2012に準拠し、タイプAデュロメーターに基づき測定された値である。
【0118】
研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0119】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.7s-1)以下が好ましく、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.5kPa)以上10psi(69kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、研磨用組成物を用いる工程については5秒以上180秒以下であることが好ましい。
【0120】
[表面処理方法]
本発明は、上記表面処理組成物を用いて、研磨済研磨対象物の表面を処理することを含む、表面処理方法である。
【0121】
本発明の一形態に係る表面処理方法によれば、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去することができる。すなわち、本発明の他の一形態によれば、上記表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理する、研磨済研磨対象物の表面における残渣低減方法が提供される。
【0122】
本発明の一形態に係る表面処理方法は、本発明に係る表面処理組成物を、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。特に制限されないが、例えば、リンス研磨処理による方法、洗浄処理による方法等が挙げられる。これより、本発明の一実施形態に係る表面処理方法は、リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である。また、本発明の一実施形態に係る表面処理組成物は、リンス研磨用組成物または洗浄用組成物である。リンス研磨処理および洗浄処理は、研磨済研磨対象物の表面上の異物(無機酸化物砥粒、パッド屑等の残渣、金属汚染など)を除去し、清浄な表面を得るために実施される。
【0123】
本発明に係る表面処理組成物は、リンス研磨処理において特に好適に用いられる。リンス研磨処理とは、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物の作用により研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。リンス研磨処理の具体例としては、特に制限されないが、研磨対象物について研磨(例えば、最終研磨、仕上げ研磨等)を行った後に、研磨済研磨対象物が研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置された状態で、研磨済研磨対象物と研磨パッドとを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとを相対摺動させる処理が挙げられる。なお、リンス研磨処理は、研磨対象物の研磨(例えば、最終研磨、仕上げ研磨等)で用いられた研磨定盤と同一の研磨定盤上で行われてもよいし、当該研磨で用いられた研磨定盤とは異なる研磨定盤上で行われてもよい。これらの中でも、リンス研磨処理は、研磨対象物の研磨(例えば、最終研磨、仕上げ研磨等)で用いられた研磨定盤とは異なる研磨定盤上で行われることが好ましい。
【0124】
本発明に係る表面処理組成物を、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物に直接接触させることにより、リンス研磨処理が行われる。表面処理組成物による作用によって、酸化ケイ素、無機酸化物砥粒、場合によってはさらにポリウレタンは、ゼータ電位調整剤の付着により負に帯電すると考えられる。そして、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による作用によって、無機酸化物砥粒、場合によってはさらにポリウレタンは、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面から除去され、また、再付着が防止される。この際、研磨定盤(プラテン)上で研磨パッドとの摩擦(研磨パッドと残渣との摩擦)を利用することで、無機酸化物砥粒、パッド屑等の残渣がより効果的が除去される。そして、リンス研磨処理後、水による洗浄(後述の後洗浄処理)等のプロセスが行われ、これにより、窒化ケイ素の表面のゼータ電位調整剤が容易に除去される。その結果、無機酸化物砥粒を含む残渣が顕著に低減された、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物を得ることができる。
【0125】
リンス研磨処理は、特に制限されないが、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用して行うことが好ましい。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができるが、残渣をより低減するという観点から、ポリウレタンが好ましい。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。また、化学的機械的研磨とリンス研磨処理とを同じ研磨装置を用いて行う場合、研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加えて、本発明の一形態に係る表面処理組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。
【0126】
ここで、処理条件には特に制限はないが、例えば、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとの圧力は、0.5psi(3.5kPa)以上10psi(69kPa)以下が好ましい。ヘッド回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.7s-1)以下が好ましい。また、研磨定盤(プラテン)回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.7s-1)以下が好ましい。掛け流しの供給量に制限はないが、研磨済研磨対象物の表面が表面処理組成物で覆われていることが好ましく、例えば、10mL/分以上5000mL/分以下である。また、表面処理時間も特に制限されないが、5秒以上180秒以下であることが好ましい。なお、本発明においては、長時間の表面処理によっても残渣数の増加が抑制されることから、表面処理時間は20秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましく、45秒以上であることがさらに好ましい。なお、表面処理時間の上限は通常5分以内である。
【0127】
本発明に係る表面処理組成物は、洗浄処理においても好適に用いられる。本明細書において、洗浄処理とは、研磨済研磨対象物が研磨定盤(プラテン)上から取り外された状態で行われる、主に表面処理組成物による作用により研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。洗浄処理の具体例としては、研磨対象物について研磨(例えば、最終研磨、仕上げ研磨等)を行った後、または、研磨に続いてリンス研磨処理を行った後、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外し、研磨済研磨対象物を表面処理組成物と接触させる処理が挙げられる。表面処理組成物と研磨済研磨対象物との接触状態において、研磨済研磨対象物の表面に摩擦力(物理的作用)を与える手段をさらに用いてもよい。
【0128】
洗浄処理方法としては、特に制限されないが、例えば、研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、必要に応じて超音波処理を行う方法、研磨済研磨対象物を保持した状態で洗浄ブラシと研磨済研磨対象物とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら研磨済研磨対象物の表面をブラシで擦る方法等が挙げられる。
【0129】
洗浄処理装置としては、特に制限されないが、例えば、カセットに収容された複数枚の研磨済研磨対象物を同時に表面処理するバッチ式洗浄装置、1枚の研磨済研磨対象物をホルダーに装着して表面処理する枚葉式洗浄装置、研磨定盤(プラテン)から研磨済研磨対象物を取り外した後、当該対象物を洗浄ブラシで擦る洗浄用設備を備えている研磨装置等が挙げられる。ここで、研磨装置としては、研磨済研磨対象物を保持するホルダー、回転数を変更可能なモータ、洗浄ブラシ等を有する一般的な研磨装置を使用することができる。また、洗浄ブラシとしては、特に制限されないが、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)等の樹脂製ブラシが挙げられる。
【0130】
洗浄条件としては、特に制限はなく、研磨済研磨対象物の種類、ならびに除去対象とする不純物の種類および量に応じて、適宜設定することができる。
【0131】
[後洗浄処理]
本発明の一実施形態に係る表面処理方法としては、表面処理の後、研磨済研磨対象物をさらに洗浄処理を行ってもよい。本明細書では、この洗浄処理を後洗浄処理と称する。後洗浄処理の具体例としては、特に制限されないが、例えば、表面処理後の研磨済研磨対象物に水を掛け流す方法、表面処理後の研磨済研磨対象物を水に浸漬する方法、水を掛け流しながら表面処理後の研磨済研磨対象物を洗浄ブラシで擦る方法等が挙げられる。なお、後洗浄処理の方法、装置および条件としては、特に制限されないが、例えば、洗浄処理の説明を参照することができる。後洗浄処理に用いる水としては、特に制限されないが、脱イオン水を用いることが特に好ましい。
【0132】
本発明の一形態に係る表面処理組成物で表面処理を行うことによって、残渣が極めて除去されやすい状態となる。このため、本発明の一形態の表面処理に係る表面処理組成物で表面処理を行った後、水を用いてさらなる洗浄処理を行うことで、残渣が極めて良好に除去されることとなる。
【0133】
後洗浄後の研磨済研磨対象物は、スピンドライヤー等により表面に付着した水滴を払い落として乾燥させることが好ましい。また、エアブロー乾燥により、研磨済研磨対象物の表面を乾燥させてもよい。
【0134】
[半導体基板の製造方法]
本発明の表面処理方法は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であるとき、好適に適用可能である。すなわち、本発明の他の一実施形態によれば、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、当該研磨済半導体基板を、上記表面処理方法によって、研磨済研磨対象物の表面を処理することを含む、半導体基板の製造方法もまた提供される。
【0135】
すなわち、本発明の半導体基板の製造方法は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物を使用して、酸化ケイ素を含む研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、本発明の表面処理方法によって、前記研磨済半導体基板の表面における前記無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、を含む。
【0136】
本発明の一実施形態によれば、半導体基板の製造方法において、前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む。
【0137】
本発明の一実施形態によれば、半導体基板の製造方法において、前記研磨工程は、ポリウレタン製の研磨パッドを使用することを含み、前記残渣は、前記ポリウレタンをさらに含み、前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記ポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御することをさらに含む。
【0138】
かかる製造方法が適用される半導体基板の詳細については、上記表面処理組成物によって表面処理される研磨済研磨対象物の説明の通りである。
【0139】
また、半導体基板の製造方法としては、研磨済半導体基板の表面を、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いて表面処理する、または本発明の一形態に係る表面処理方法によって表面処理する工程(表面処理工程)を含むものであれば特に制限されない。
【0140】
[半導体基板の製造システム]
本発明は、酸化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物、および上記の表面処理組成物を含む、半導体基板の製造システムにも関する。これより、本発明の他の一態様によれば、酸化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、酸化セリウム砥粒を含む研磨用組成物、および表面処理組成物を含む、半導体基板の製造システムであって、前記研磨用組成物および前記研磨パッドを用いて研磨した後の前記研磨対象物の表面を前記表面処理組成物と接触させる、半導体基板の製造システムについても提供される。
【0141】
本発明の半導体基板の製造システムに適用される、酸化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物、および表面処理組成物の好ましい実施形態については、上記と同様であるため、説明を省略する。
【0142】
本発明の一実施形態において、半導体基板の製造システムは、研磨済研磨対象物の両面を研磨パッドおよび表面処理組成物と接触させて、研磨済研磨対象物の両面を同時に表面処理するものであってもよいし、研磨済研磨対象物の片面のみを研磨パッドおよび表面処理組成物と接触させて、研磨済研磨対象物の片面のみを表面処理するものであってもよい。なお、表面処理の好ましい実施形態については、上記と同様であるため、記載を省略する。
【0143】
[残渣除去効果]
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する効果が高いほど好ましい。すなわち、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面処理を行った際、表面に残存する残渣数が少ないほど好ましい。具体的には、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した際、総残渣)が10000個以下であると好ましく、7000個以下であるとより好ましく、5000個以下であるとさらにより好ましく、3000個以下であると特に好ましく、2000個以下であると特に好ましい。一方、上記総残渣数は少ないほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、実質的には、100個以上である。
【0144】
また、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した際、砥粒残渣数が6000個以下であると好ましく、4000個以下であるとより好ましく、3500個以下であるとさらに好ましく、2500個以下であるとよりさらに好ましく、2000個以下であると特に好ましい。一方、上記砥粒残渣数は少ないほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、例えば、50個以上である。
【0145】
そして、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した際、ポリウレタン残渣数が4000個以下であると好ましく、3000個以下であるとより好ましく、2500個以下であるとさらに好ましく、1500個以下であると特に好ましい。一方、上記ポリウレタン残渣数は少ないほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、例えば、50個以上である。
【0146】
なお、上記の各残渣数は実施例に記載の方法により表面処理を行った後、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0147】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0148】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0149】
[1] 表面処理組成物を用いて、酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、
前記表面処理組成物は、sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、
前記表面処理組成物によって、前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法。
【0150】
[2] 前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、前記表面処理組成物によって、酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する、上記[1]に記載の表面処理方法。
【0151】
[3] 前記残渣は、ポリウレタンをさらに含み、前記表面処理組成物によって、前記ポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御することをさらに含む、上記[1]または[2]に記載の表面処理方法。
【0152】
[4] 前記ゼータ電位調整剤は、分子量が1,000未満であるアニオン性界面活性剤である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の表面処理方法。
【0153】
[5] 前記アニオン性界面活性剤は、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、およびリン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有する、上記[4]に記載の表面処理方法。
【0154】
[6] 前記表面処理組成物は、pH調整剤をさらに含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の表面処理方法。
【0155】
[7] 前記表面処理組成物のpH値は、2以上5未満である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の表面処理方法。
【0156】
[8] リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の表面処理方法。
【0157】
[9] 研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、
無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物を使用して、酸化ケイ素を含む研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、
請求項1~8のいずれか1項に記載の表面処理方法によって、前記研磨済半導体基板の表面における前記無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、
を含む、半導体基板の製造方法。
【0158】
[10] 前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、
前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む、上記[9]に記載の半導体基板の製造方法。
【0159】
[11] 前記研磨工程は、ポリウレタン製の研磨パッドを使用することを含み、
前記残渣は、前記ポリウレタンをさらに含み、
前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記ポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御することをさらに含む、上記[9]または[10]に記載の半導体基板の製造方法。
【0160】
[12] 前記研磨パッドのショアA硬度は、40°以上100°以下である、上記[11]に記載の半導体基板の製造方法。
【0161】
[13] 酸化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減するために用いられる、表面処理組成物であって、
sp値が9を超えて11以下でありかつ負に帯電した官能基を有するゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含み、
前記酸化ケイ素のゼータ電位を負に制御し、かつ前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する、表面処理組成物。
【0162】
[14] 前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、前記表面処理組成物は、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する、上記[13]に記載の表面処理組成物。
【0163】
[15] 前記残渣はポリウレタンをさらに含み、前記表面処理組成物は、前記ポリウレタンのゼータ電位を-30mV以下に制御する機能をさらに有する、上記[13]または[14]に記載の表面処理組成物。
【0164】
[16] リンス研磨用組成物または洗浄用組成物である、上記[13]~[15]のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【0165】
[17] 酸化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物、および上記[13]~[16]のいずれかに記載の表面処理組成物を含む、半導体基板の製造システムであって、
前記研磨用組成物および前記研磨パッドを用いて研磨した後の前記研磨対象物の表面を前記表面処理組成物と接触させる、半導体基板の製造システム。
【実施例0166】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。さらに、以下の実施例において「TEOS基板」とは、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成された酸化ケイ素膜を有する基板を意味する。
【0167】
[表面処理組成物の調製]
[表面処理組成物A1の調製]
組成物全体を100質量部として、ゼータ電位調整剤としてPOEアリルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(製品名:ハイテノール(登録商標、以下同じ)NF08、第一工業製薬株式会社製)と、pH調整剤として硝酸と、分散媒として水(脱イオン水)とを混合して、表面処理組成物A1を調製した。ゼータ電位調整剤の添加量(含有量)は、表面処理組成物A1の全質量に対して0.1g/kgとなる量とし、pH調整剤の添加量(含有量)は、表面処理組成物A1のpHが3(液温:25℃)となる量とした。pHの測定は、pHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により行った。
【0168】
[表面処理組成物A2~A6の調製]
ゼータ電位調整剤の種類を下記表1のように変更し、得られる表面処理組成物のpHが下記表1に記載のpHになるようpH調整剤の量を変更したこと以外は、表面処理組成物A1の調製と同様にして、各表面処理組成物A2~A6を調製した。
【0169】
[表面処理組成物B1~B9の調製]
表1に記載のゼータ電位調整剤または添加剤(ゼータ電位調整剤の代わりに用いる化合物を添加剤と称する)を用いて、ゼータ電位調整剤または添加剤の種類と含有量とを下記表1のように変更し、得られる表面処理組成物のpHが下記表1に記載のpHになるようpH調整剤の量を変更したこと以外は、表面処理組成物A1の調製と同様にして、各表面処理組成物B1~B9を調製した。
【0170】
表面処理組成物A1~A6は、実施例において用いられる表面処理組成物であり、表面処理組成物B1~B9は比較例において用いられる表面処理組成物である。
【0171】
表面処理組成物A1~A6およびB1~B9で用いたゼータ電位調整剤および添加剤の詳細を、以下に示す。表1には、用いたゼータ電位調整剤および添加剤のsp値を示した。sp値は、Fedors法(文献:R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14[2]147(1974))により算出される値である。
【0172】
・POEアリルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、第一工業製薬株式会社製、品番:ハイテノールNF08(EO=10)
・アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、竹本油脂株式会社製、品番:パイオニンA-43-S(アルキル=C12)
・POEアリルフェニルエーテルホスフェートアミン塩、竹本油脂株式会社製、品番:ニューカルゲンFS-3AQ(EO=3~10の混合品)
・ラウリル硫酸アンモニウム、花王株式会社製、品番:エマールAS-25R
・ラウリルグリコールカルボン酸Na、三洋化成工業株式会社社製、品番:ビューライトSHAA
・ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸Na、日光ケミカルズ株式会社社製、品番:NIKKOL ECTD-3NEX
・3-アミノ-1,5-ナフタレンジスルホン酸2Na
・ポリビニルアルコール(PVA)、Mw=10,000:日本酢ビ・ポバール株式会社製、品番:JMR-10HH
・ポリグリセリンラウリルエーテル(PGLE)、Mw=2,000:株式会社ダイセル製、品番:セルモリス(登録商標)B044(グリセリン20量体)
・POEラウリルエーテル、日本エマルジョン株式会社社製、品番:EMALEX 709(EO=9)。
【0173】
[実施例1~24、比較例1~27および参考例1~5]
得られた表面処理組成物A1~A6およびB1~B9の性能評価を行うために、以下のように、研磨対象物に対するCMP工程、CMP工程を経て得られた研磨済研磨対象物に対するリンス研磨工程を実施した。なお、リンス研磨工程は、上記表面処理組成物A1~A6およびB1~B9を用いて行うものである。
【0174】
[CMP工程]
まず、研磨対象物に対するCMP工程を行った。研磨対象物としては、TEOS基板またはSiN基板とし、研磨用組成物としては、以下の2種類を準備した。
【0175】
「研磨用組成物」
研磨用組成物C1(砥粒としてCeO2砥粒を使用する研磨用組成物)
コロイダルセリア(ソルベイ社製 HC30)(平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:70nm、30wt%水分散液):1質量%
ポリアクリル酸アンモニウム(東亞合成株式会社製 アロンA-30SL)(Mw:6000、40%水溶液):0.6質量%
30%マレイン酸水溶液(関東化学株式会社製):0.2質量%
水:残部
(pH4に調整)。
【0176】
・研磨用組成物C2(砥粒としてSiO2砥粒を使用する研磨用組成物)
アニオン修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で作製した、スルホン酸修飾コロイダルシリカ)(平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm):2質量%
30%マレイン酸水溶液(関東化学株式会社製):0.002質量%
硫酸アンモニウム(関東化学株式会社製):0.25質量%
水:残部
(pH3に調整)。
【0177】
「CMP工程」
研磨対象物として半導体基板であるTEOS基板またはSiN基板について、研磨用組成物を使用し、それぞれ下記の条件にて研磨を行った。ここで、TEOS基板は、300mmウェーハを使用し、SiN基板は、300mmウェーハを使用した;
・TEOS基板(300mmウェーハ、株式会社アドバンテック社製、品番:300mm P-TEOS 10000A)
・SiN基板(300mmウェーハ、株式会社アドバンテック社製、品番:(CVD-)LP-SiN 2500A)
-研磨装置および研磨条件-
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:下記のいずれかを使用
・富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド H800-Type1(ショアA硬度:89.4°)
・富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド H800-CZM(ショアA硬度:78.9°)
・富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド X400-CZM(ショアA硬度:76.3°)
コンディショナー(ドレッサー):ナイロンブラシ(3M社製)
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:80rpm
ヘッド回転数:80rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:30秒。
【0178】
[リンス研磨処理工程]
上記CMP工程にてTEOS基板表面を研磨した後、研磨済研磨対象物として研磨済TEOS基板を研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、同じ研磨装置内で、研磨済TEOS基板を別の研磨定盤(プラテン)上に取り付け、下記の条件にて、上記で調製した表面処理組成物A1~A6およびB1~B9を用いて、研磨済TEOS基板表面に対してリンス研磨処理を行った;
-リンス研磨装置およびリンス研磨条件-
研磨圧力:1.0psi
定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
表面処理組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒。
【0179】
リンス研磨処理後、脱イオン水を用いて60秒間、基板表面のブラシ洗浄を行い、リンス研磨済の研磨済TEOS基板を得た。
【0180】
<評価>
上記リンス研磨工程後の各研磨済TEOS基板について、下記項目について測定し評価を行った。評価結果は、表2~表6に示す。
【0181】
表2は、研磨工程において、研磨用組成物C1を用いて、研磨パッドとしてH800-Type1を用いて、TEOS基板(研磨対象物)を研磨して得られた「研磨済TEOS基板に対する各表面処理組成物A1~A6およびB1~B9の評価結果(実施例1~6および比較例1~9)」を示すものである。
【0182】
表3は、研磨工程において、研磨用組成物C1を用いて、研磨パッドとしてH800-CZMを用いて、TEOS基板(研磨対象物)を研磨して得られた「研磨済TEOS基板に対する各表面処理組成物A1~A6およびB1~B9の評価結果(実施例7~12および比較例10~18)」を示すものである。
【0183】
表4は、研磨工程において、研磨用組成物C1を用いて、研磨パッドとしてX400-CZMを用いて、TEOS基板(研磨対象物)を研磨して得られた「研磨済TEOS基板に対する各表面処理組成物A1~A6およびB1~B9の評価結果(実施例13~18および比較例19~27)」を示すものである。
【0184】
表5は、研磨工程において、研磨用組成物C2を用いて、研磨パッドとしてH800-Type1を用いて、TEOS基板(研磨対象物)を研磨して得られた「研磨済TEOS基板に対する各表面処理組成物A1~A6の評価結果(実施例19~24)」を示すものである。
【0185】
表6は、研磨工程において、研磨用組成物C1を用いて、研磨パッドとしてH800-Type1を用いて、SiN基板(研磨対象物)を研磨して得られた「研磨済SiN基板に対する各表面処理組成物A1~A5の評価結果(参考例1~5)」を示すものである。なお、表6では、同条件における研磨済TEOS基板の評価結果も併記する。この参照例は、本発明の表面処理組成物が、SiN基板に対しても本発明の効果が発揮できるか否かを試験するものであり、研磨済研磨対象物が酸化ケイ素および窒化ケイ素を含む場合においても、本発明の表面処理組成物が好適に用いられるか否かを試験する意図で行うものである。
【0186】
[総残渣数の評価]
総残渣数は、ケーエルエー・テンコール株式会社製、光学検査機Surfscan(登録商標)SP5を用いて、リンス研磨処理後の研磨済TEOS基板表面上の残渣数を評価した。具体的には、研磨済TEOS基板の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分について、直径50μmを超える残渣の数をカウントした。残渣数は少ないほど好ましい。この結果を下記表2~表6に示す。なお、総残渣数が10000個を超えた場合、個数の検出ができないため、表2~表6において「>10000」と示す。
【0187】
[砥粒残渣数およびポリウレタン残渣数の評価]
上記リンス研磨処理後の研磨済TEOS基板について、砥粒残渣数およびポリウレタン残渣数を、株式会社日立ハイテク製Review SEM RS6000を使用し、SEM観察によって測定した。まず、SEM観察にて、研磨済研磨対象物の片面の外周端部から幅5mmの部分を除外した残りの部分に存在する残渣を100個サンプリングした。次いで、サンプリングした100個の残渣の中から、目視によるSEM観察にて残渣の種類(砥粒またはポリウレタン)を判別し、砥粒(CeO2またはSiO2)およびポリウレタンのそれぞれについて、その個数を確認することで、残渣中の砥粒残渣の割合(%)およびポリウレタン残渣の割合(%)を算出した。そして、上述の総残渣数の評価により測定した直径50μmを超える総残渣数(個)と、SEM観察により算出した残渣中の砥粒残渣の割合(%)との積を、それぞれ、砥粒残渣数(個)として算出した。また、上述の総残渣数の評価により測定した直径50μmを超える総残渣数(個)と、SEM観察により算出した残渣中のポリウレタン残渣の割合(%)との積を、ポリウレタン残渣数(個)として算出した。
【0188】
表2~表6において、「砥粒残渣数」は、無機酸化物砥粒の残渣(CeO2砥粒残渣またはSiO2砥粒残渣)であり、「ポリウレタン残渣数」とは、研磨パッドの残渣である。なお、総残渣数が10000個を超えた場合、残渣における砥粒残渣数およびポリウレタン残渣の含有割合の算出ができなかった。残渣の大多数は砥粒残渣であることが考えられるため、表2~表6において、総残渣数が10000個を超える場合は、砥粒残渣数を「>10000」と示し、ポリウレタン残渣数は「-」と示す。
【0189】
[ゼータ電位測定]
[無機酸化物砥粒のゼータ電位測定]
無機酸化物砥粒のゼータ電位は、スペクトリス株式会社製(マルバーン事業部)のZetasizer Nano ZSPにより測定された値である。表面処理組成物を用いてリンス研磨中のCeO2砥粒のゼータ電位、および表面処理組成物を用いてリンス研磨中のアニオン修飾SiO2砥粒のゼータ電位は、それぞれ、以下のようなモデル実験で測定された値とした。これらの値を下記表1~表6に示す。
【0190】
(CeO2砥粒)
上記で調製した表面処理組成物中にCeO2粒子分散液(ソルベイ社製 HC30、平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:60nmのコロイダルセリアの30質量%水分散液)を添加して、CeO2粒子濃度0.02質量%の測定液を調製した(測定液中のCeO2粒子の含有量は、測定液の総質量に対して0.02質量%)。得られた測定液を上記装置(Zetasizer Nano ZSP)の測定専用セルに充填して、CeO2砥粒のゼータ電位を測定した。
【0191】
(アニオン修飾SiO2砥粒)
上記で調製した表面処理組成物にアニオン修飾SiO2粒子分散液(アニオン修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で作製した、スルホン酸修飾コロイダルシリカ、平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm)の19.5質量%水分散液)を添加して、アニオン修飾SiO2粒子濃度0.02質量%の測定液を調製した(測定液中のアニオン修飾SiO2粒子の含有量は、測定液の総質量に対して0.02質量%)。得られた測定液を上記装置(Zetasizer Nano ZSP)の測定専用セルに充填して、アニオン修飾SiO2砥粒のゼータ電位を測定した。
【0192】
[研磨済TEOS基板、研磨済SiN基板およびポリウレタンのゼータ電位測定]
研磨済TEOS基板のゼータ電位、およびポリウレタンのゼータ電位は、それぞれ、アントンパールジャパン株式会社製の固体ゼータ電位測定器SurPASS3により測定された値である。表面処理組成物を用いてリンス研磨中の研磨済TEOS基板表面のゼータ電位、研磨済SiN基板表面のゼータ電位および表面処理組成物を用いてリンス研磨中のポリウレタンのゼータ電位は、それぞれ、以下のようなモデル実験で測定された値とした。これらの値を下記表1に示す。
【0193】
ポリウレタンのゼータ電位は、60mm角に切断したポリウレタンパッド(富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド H800-Type1)を測定対象物として用いた。
【0194】
研磨済TEOS基板表面のゼータ電位は、60mm角に切断したTEOS基板(300mmウェーハ、アドバンテック社製、品番:300mm P-TEOS 10000A)を測定対象物として用いた。研磨済SiN基板表面のゼータ電位は、60mm角に切断したSiN基板(300mmウェーハ、株式会社アドバンテック社製、品番:(CVD-)LP-SiN 2500A)を測定対象物として用いた。
【0195】
これらの測定対象物を、それぞれゼータ電位計に設置した。次いで、上記で調製した表面処理組成物を測定対象物に通液させて、これらの測定対象物のゼータ電位をそれぞれ測定した。
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
【0202】
表2~表4に示すように、実施例1~18において、TEOS基板を研磨用組成物C1(すなわち、砥粒として酸化セリウム砥粒を使用する研磨用組成物)により研磨した後、表面処理組成物A1~A6を用いた研磨済TEOS基板のリンス研磨により、研磨済TEOS基板における残渣(総残渣数)が著しく減っていることがわかった。また、表5に示すように、実施例19~24により、TEOS基板を研磨用組成物C2(すなわち、砥粒としてアニオン修飾コロイダルシリカ砥粒を使用する研磨用組成物)により研磨した場合であっても、表面処理組成物A1~A6を用いた研磨済TEOS基板のリンス研磨により、研磨済TEOS基板における残渣(総残渣数)が著しく減ることがわかった。
【0203】
表6では、SiN基板においても、表面処理組成物A1~A5による残渣の低減効果を確認できた。よって、参照例1~5により、本発明の表面処理組成物が、SiN基板に対しても本発明の効果が発揮できることがわかった。これにより、研磨済研磨対象物が酸化ケイ素および窒化ケイ素を含む場合においても、本発明の表面処理組成物が好適に用いられることがわかった。
【0204】
このことから、砥粒として酸化セリウム砥粒またはアニオン修飾コロイダルシリカ砥粒を含む研磨用組成物を用いて酸化ケイ素を含む研磨対象物を研磨した場合、その研磨済研磨対象物を本発明の表面処理組成物A1~A6により表面処理することによって、研磨済研磨対象物に付着する残渣(砥粒、研磨パッド)を十分に除去できることがわかる。上記は、表面処理組成物製造直後に評価した結果であるが、長期間保存または貯蔵する場合には、防カビ剤(防腐剤)を含むことが好ましい。なお、防カビ剤(防腐剤)は上記結果に影響をほとんど及ぼさないまたは及ぼさないので、防カビ剤(防腐剤)を含む表面処理組成物も上記と同様の結果となると考察される。