IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

特開2023-24268表面処理方法、その表面処理方法を含む半導体基板の製造方法、表面処理組成物、およびその表面処理組成物を含む半導体基板の製造システム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024268
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】表面処理方法、その表面処理方法を含む半導体基板の製造方法、表面処理組成物、およびその表面処理組成物を含む半導体基板の製造システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230209BHJP
   C11D 7/22 20060101ALI20230209BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20230209BHJP
   B24B 37/24 20120101ALI20230209BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 622B
H01L21/304 622F
H01L21/304 622Q
H01L21/304 622X
H01L21/304 622D
C11D7/22
B24B37/00 H
B24B37/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078426
(22)【出願日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2021129176
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉野 努
(72)【発明者】
【氏名】石田 康登
【テーマコード(参考)】
3C158
4H003
5F057
5F157
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA04
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA01
3C158EA11
3C158EB01
3C158EB20
3C158ED11
3C158ED23
3C158ED26
4H003BA12
4H003DA15
4H003DB01
4H003EB28
4H003EB30
4H003EB33
4H003ED02
4H003FA06
4H003FA28
5F057AA21
5F057AA27
5F057BA15
5F057BB15
5F057BB16
5F057BB19
5F057BB25
5F057BB34
5F057CA12
5F057CA25
5F057DA03
5F057DA08
5F057DA38
5F057DA39
5F057EA09
5F057EA16
5F057EA17
5F057EB03
5F057EB13
5F057EC30
5F057FA37
5F057FA41
5F157AA30
5F157AA70
5F157AA96
5F157BC07
5F157BD04
5F157BE63
5F157BE65
5F157BF48
5F157BF52
5F157BF54
5F157BF55
5F157BF58
5F157BF59
5F157BF63
5F157BF72
5F157BF96
5F157DB03
5F157DB18
(57)【要約】
【課題】本発明は、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣を十分に除去することができる手段を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、表面処理組成物を用いて、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、前記表面処理組成物は、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、前記表面処理組成物によって、前記窒化ケイ素のゼータ電位、および前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理組成物を用いて、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、
前記表面処理組成物は、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、
前記表面処理組成物によって、前記窒化ケイ素のゼータ電位、および前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法。
【請求項2】
前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、前記表面処理組成物によって、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記残渣は、ポリウレタンをさらに含み、前記表面処理組成物によって、前記ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御することをさらに含む、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記ゼータ電位調整剤は、重量平均分子量が1,000以上である、アニオン性基を有する高分子である、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記アニオン性基を有する高分子は、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、およびカルボン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有する、請求項4に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記表面処理組成物は、さらにpH調整剤を含む、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項7】
前記表面処理組成物のpH値は、2以上5未満である、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項8】
リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項9】
研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、
無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物を使用して、窒化ケイ素を含む研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、
請求項1~8のいずれか1項に記載の表面処理方法によって、前記研磨済半導体基板の表面における前記無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、
を含む、半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、
前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む、請求項9に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記研磨工程は、ポリウレタン製の研磨パッドを使用することを含み、前記残渣は、ポリウレタンをさらに含み、
前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御することをさらに含む、請求項9に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記研磨パッドのショアA硬度は、40°以上100°以下である、請求項11に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項13】
窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減するために用いられる、表面処理組成物であって、
負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、
前記窒化ケイ素のゼータ電位、および前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御する機能を有する、表面処理組成物。
【請求項14】
前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、
前記表面処理組成物は、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する、請求項13に記載の表面処理組成物。
【請求項15】
前記残渣はポリウレタンをさらに含み、
前記表面処理組成物は、前記ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御する機能をさらに有する、請求項13に記載の表面処理組成物。
【請求項16】
リンス研磨用組成物または洗浄用組成物である、請求項13に記載の表面処理組成物。
【請求項17】
窒化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物、および請求項13~15のいずれか1項に記載の表面処理組成物を含む、半導体基板の製造システムであって、
前記研磨用組成物および前記研磨パッドを用いて研磨した後の前記研磨対象物の表面を前記表面処理組成物と接触させる、半導体基板の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理方法、その表面処理方法を含む半導体基板の製造方法、表面処理組成物およびその表面処理組成物を含む半導体基板の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、例えば、シリカ、アルミナ、セリア等から選択される砥粒、防食剤および界面活性剤等から選択される添加剤等を含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法である。研磨対象物(被研磨物)としては、例えば、シリコン、ポリシリコン、酸化ケイ素、シリコン窒化物等からなる膜、これらからなる基板、金属等からなる配線、プラグ等の部材等が挙げられる。
【0003】
CMP工程後の半導体基板表面には、不純物(異物または残渣とも称する)が多量に残留している。不純物としては、例えば、CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、CMPで使用された研磨用組成物由来の防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料を研磨することによって生じたシリコン含有材料、研磨対象物である金属配線やプラグ等を研磨することによって生じた金属、さらには各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物等が挙げられる。
【0004】
半導体基板表面がこれらの不純物により汚染されると、半導体の電気特性が悪影響を受け、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。したがって、CMP工程後に表面処理工程を導入し、半導体基板表面からこれらの不純物を除去することが望ましい。
【0005】
かような洗浄工程に用いられる組成物としては、特許文献1には、ポリカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸と、スルホン酸型アニオン性界面活性剤と、カルボン酸型アニオン性界面活性剤と、水とを含有する、半導体デバイス用基板洗浄液が開示されている。当該洗浄液は、基板表面を腐食することなく、不純物を除去しうるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-74678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1にかかる技術では、研磨済研磨対象物の洗浄に際して、残渣を十分に除去できないという問題があった。
【0008】
ここで、本発明者らは、研磨済研磨対象物の種類と残渣の種類との関係について検討を行った。その結果、本発明者らは、半導体基板として特に好ましく用いられる窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面には、その研磨の際に用いられた研磨用組成物に含まれる無機酸化物砥粒が残渣として付着し易いことを見出した。かような無機酸化物砥粒を含む残渣は、半導体デバイスの性能低下の原因となりうる。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物
の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣を十分に除去することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を進めた。その結果、本発明者らは、特定の官能基を有し、かつ特定の値以上の水溶液の粘度を有する化合物、および分散媒を含む、表面処理組成物によって、窒化ケイ素のゼータ電位、および無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ特定の値以下に制御できること、および、この際、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面において、無機酸化物砥粒を含む残渣を除去する効果が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の上記課題を解決するための一態様は、
表面処理組成物を用いて、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、
前記表面処理組成物は、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、
前記表面処理組成物によって、前記窒化ケイ素のゼータ電位、および前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法に関する。
【0012】
本発明の上記課題を解決するための他の一態様は、
窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減するために用いられる、表面処理組成物であって、
負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、
前記窒化ケイ素のゼータ電位、および前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御する機能を有する、表面処理組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣を十分に除去することができる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。本明細書中、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。また、本明細書において、研磨用組成物に含まれる「無機酸化物砥粒」は、単に「砥粒」と称する場合もある。さらに、研磨した後の研磨対象物を、単に「研磨済研磨対象物」とも称する。
【0015】
<表面処理方法および表面処理組成物>
本発明の一態様は、表面処理組成物を用いて、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、表面処理組成物は、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、表面処理組成物によって、窒化ケイ素のゼータ電位、および無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法に関する。
【0016】
表面処理組成物によって、窒化ケイ素のゼータ電位、および無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む方法としては、特に制限されないが、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤と、分散媒と、を含む表面処理組成物と、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面とを接触させる方法であることが好ましい。
【0017】
これらのことから、本発明の他の一態様は、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減するために用いられる、表面処理組成物であって、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、窒化ケイ素のゼータ電位、および無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御する機能を有する、表面処理組成物であるともいえる。
【0018】
本発明によれば、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣を十分に除去することができる手段が提供される。
【0019】
上記の表面処理方法は、表面処理組成物と、その表面処理組成物を用いて表面処理が行われる(すなわち、表面処理される対象である)研磨済研磨対象物との関係性に特徴を有する。具体的には、上記の表面処理方法は、表面処理組成物と、研磨済研磨対象物の含有成分と、その研磨済研磨対象物を研磨した研磨用組成物の含有成分(より詳しくは、残渣として研磨済研磨対象物の表面に付着する研磨用組成物の成分:砥粒)との関係性が、研磨済研磨対象物の表面の残渣の低減に影響を与えることを見出したものである。これは、後述するように、上記の表面処理方法が、研磨済研磨対象物の表面の電荷(ゼータ電位)
および研磨済研磨対象物の表面に残渣として存在する研磨用組成物の成分(砥粒)の電荷(ゼータ電位)に基づいて、本発明の効果が発現されると考えているためである。
【0020】
研磨用組成物のいくつかの成分は、研磨済研磨対象物の表面に付着しやすく、研磨処理の後に研磨済研磨対象物の表面に残存してしまう。特に、研磨用組成物に含まれる無機酸化物砥粒は、研磨済研磨対象物の表面に残存する傾向がある。この場合、研磨済研磨対象物の表面に残存した無機酸化物砥粒は、残渣の原因となる場合がある。上記の表面処理方法、および上記の表面処理組成物は、このような研磨済研磨対象物の表面上に残存する研磨用組成物由来の残渣(すなわち、無機酸化物砥粒)を除去することができる。
【0021】
本発明者らは、上記課題が解決されるメカニズムを以下のように推定している。
【0022】
表面処理組成物に含まれるゼータ電位調整剤は、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上である。表面処理組成物に含まれるゼータ電位調整剤は、負に帯電した官能基を有する。ゼータ電位調整剤は、研磨済研磨対象物の表面に存在する残渣(無機酸化物砥粒を含む残渣)の表面、および窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に静電的に付着し、これらの表面を負に帯電させる。そして、表面が負に帯電した残渣と、負に帯電した窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面との間で、電気的な反発が生じる。その結果、負に帯電した残渣は、負に帯電した窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面から除去される。また、負に帯電した残渣は、負に帯電した窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に再付着し難くなる。また、表面処理組成物に含まれるゼータ電位調整剤は、25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上である。この範囲では、ゼータ電位調整剤が、研磨済研磨対象物の表面に存在する残渣(無機酸化物砥粒を含む残渣)の表面、および窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に静電的に付着した際に、ゼータ電位調整剤の保護膜としての作用がより向上する。このため、残渣、および窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面の負の帯電の維持時間がより長くなり、残渣の除去がより容易となる。また、残渣、および窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面の親水化がより促進され、表面処理組成物中に残渣が分散し易くなり、残渣の除去がより容易となる。このように、表面処理組成物に含有される各成分と、研磨済研磨対象物の表面および研磨済研磨対象物の表面の残渣との化学的な相互作用により、研磨済研磨対象物の表面の残渣の除去がより容易となり、研磨済研磨対象物の表面の残渣がより良好に除去される。
【0023】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0024】
[残渣]
本明細書において、残渣とは、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物を表す。残渣としては、特に制限されないが、例えば、研磨用組成物に含まれる砥粒由来の粒子状の砥粒残渣、後述する有機物残渣、その他の異物等が挙げられる。
【0025】
本明細書において、有機物残渣としては、特に制限されないが、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機物や有機塩等からなる成分を表す。研磨済研磨対象物に付着する有機物残渣としては、特に制限されないが、例えば、後述の研磨処理もしくは表面処理において使用したパッドから発生するパッド屑(例えば、ポリウレタン等)、研磨処理において用いられる研磨用組成物に含まれる添加剤に由来する成分、表面処理において用いられる表面処理組成物に含まれる添加剤に由来する成分等が挙げられる。
【0026】
総残渣数とは、種類によらず、全ての残渣の総数を表す。総残渣数は、ウェーハ欠陥検
査装置(例えば、ケーエルエー・テンコール株式会社製、光学検査機Surfscan(登録商標)SP5等)を用いて測定することができる。総残渣数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0027】
なお、砥粒残渣と、有機物残渣(例えば、ポリウレタン残渣)と、その他の異物とは、色および形状などが大きく異なることから、異物が、砥粒残渣、有機物残渣(例えば、ポリウレタン残渣)、その他の異物のいずれであるかの判断は、SEM観察によって行うことができる。ポリウレタン残渣と、その他の有機物残渣とは、色および形状などが大きく異なることから、有機物残渣が、ポリウレタン残渣、その他の有機物残渣のいずれであるかの判断は、SEM観察によって行うことができる。また、異物が砥粒残渣、有機物残渣、およびその他の異物のいずれであるかの判断、砥粒残渣の種類の判断、ならびに有機物残渣の種類の判断は、それぞれ、必要に応じて、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析にて判断してもよい。砥粒残渣数、ポリウレタン残渣数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0028】
上記の態様に係る表面処理方法では、表面処理組成物により、研磨済研磨対象物の表面における残渣のゼータ電位を制御することができる。具体的には、残渣に含まれる無機酸化物砥粒のゼータ電位は、-30mV以下に制御される。上記の態様に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面における残渣のゼータ電位を制御する機能を有する。具体的には、上記の態様に係る表面処理組成物は、残渣に含まれる無機酸化物砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する。本明細書中、無機酸化物砥粒とは、研磨用組成物において砥粒として用いられた無機酸化物を意味する。よって、残渣が無機酸化物砥粒を含む場合、当該無機酸化物砥粒は、砥粒残渣となる。残渣に含まれる無機酸化物砥粒の好ましい例としては、特に制限されないが、後述する研磨用組成物で説明における好ましい砥粒である、酸化セリウム砥粒、アニオン修飾酸化ケイ素砥粒等が挙げられる。本発明の好ましい一実施形態に係る表面処理方法によれば、無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方を含み、表面処理組成物によって、酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方のゼータ電位は-30mV以下に制御される。本発明のより好ましい一実施形態に係る表面処理方法によれば、無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、表面処理組成物によって、酸化セリウム砥粒のゼータ電位は-30mV以下に制御される。本発明の好ましい一実施形態に係る表面処理組成物は、その用途において、無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方を含み、当該表面処理組成物は、酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する。本発明のより好ましい一実施形態に係る表面処理組成物は、その用途において、無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、当該表面処理組成物は、酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する。
【0029】
残渣がポリウレタンを含む場合、残渣に含まれるポリウレタンのゼータ電位は、-10mV以下に制御されることが好ましい。本発明の好ましい一実施形態に係る表面処理方法において、残渣は、ポリウレタンをさらに含み、当該表面処理方法は、表面処理組成物によって、ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御することをさらに含む。本発明の好ましい一実施形態に係る表面処理組成物では、その用途において、残渣はポリウレタンをさらに含み、当該表面処理組成物は、ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御する機能をさらに有する。
【0030】
残渣に含まれる無機酸化物砥粒(好ましくは酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方、より好ましくは酸化セリウム砥粒)のゼータ電位は、好ましくは-65mV以上、より好ましくは-60mV以上、さらに好ましくは-55mV以上、特に好ましくは-50mV以上である。残渣に含まれる無機酸化物砥粒(好ましくは酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方、より好ましくは酸化セリウム砥粒)のゼータ電位は、好ましくは-31mV以下、より好ましくは-33mV以下、さらに好ましくは-35mV以下、特に好ましくは-37mV以下、最も好ましくは-39mV以下である。無機酸化物砥粒のゼータ電位が上記範囲内の値に制御されることにより、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより発揮される。表面処理組成物は、無機酸化物砥粒のゼータ電位を上記範囲内の値に制御する機能を有することにより、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより発揮される。
【0031】
残渣に含まれるポリウレタンのゼータ電位は、好ましくは-65mV以上、より好ましくは-55mV以上、さらに好ましくは-50mV以上、特に好ましくは-45mV以上である。残渣に含まれるポリウレタンのゼータ電位は、好ましくは-30mV以下、より好ましくは-35mV以下、さらに好ましくは-40mV以下、特に好ましくは-43mV以下である。ポリウレタンのゼータ電位が上記範囲内の値に制御されることにより、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、ポリウレタンを含む残渣の除去効果がより発揮される。表面処理組成物は、ポリウレタンのゼータ電位を上記範囲内の値に制御する機能を有することにより、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、ポリウレタンを含む残渣の除去効果がより発揮される。
【0032】
残渣に含まれる無機酸化物砥粒のゼータ電位は、スペクトリス株式会社製(マルバーン事業部)のZetasizer Nano ZSPにより測定することができる。残渣に含まれるポリウレタンのゼータ電位は、アントンパールジャパン株式会社製の固体ゼータ電位測定器SurPASS3により測定することができる。なお、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0033】
残渣に含まれる無機酸化物砥粒およびポリウレタンのゼータ電位は、例えば、それぞれ、ゼータ電位調整剤の種類、量および表面処理組成物のpH等によって制御することができる。表面処理組成物中における存在状態でのゼータ電位調整剤の負の電荷を大きくすることで、無機酸化物残渣およびポリウレタンのゼータ電位を、それぞれ低下させることができる。例えば、ゼータ電位調整剤としてアニオン性基を有する化合物を選択することや、アニオン性基として、酸(塩)基を選択したり、その中でも、後述するような特定の酸(塩)基を選択することで、無機酸化物残渣およびポリウレタンのゼータ電位を、それぞれより低下させることができる。pHを低すぎない範囲まで適度に低くすることで、無機酸化物残渣およびポリウレタンのゼータ電位を、それぞれより低下させることができる。表面処理組成物中のゼータ電位調整剤の量を増加することで、ゼータ電位調整剤によるゼータ電位の低下作用をより高めることができる。
【0034】
[研磨済研磨対象物]
本明細書において、研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0035】
上記の態様に係る表面処理方法で使用される表面処理組成物、および上記の態様に係る表面処理組成物は、それぞれ、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を低減するために用いられる。
【0036】
研磨済研磨対象物は、研磨済半導体基板であることが好ましく、CMP後の半導体基板であることがより好ましい。かかる理由は、残渣は半導体デバイスの破壊の原因となりう
るため、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合は、半導体基板の洗浄工程としては、残渣をできる限り除去しうるものであることが必要とされるからである。
【0037】
窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物としては、特に制限されないが、窒化ケイ素単体からなる研磨済研磨対象物、窒化ケイ素と、窒化ケイ素以外の材料とが表面に露出している状態の研磨済研磨対象物等が挙げられる。前者の具体例としては、例えば、半導体基板である窒化ケイ素基板であって、研磨済みのものが挙げられる。後者について、窒化ケイ素以外の材料としては、例えば、酸化ケイ素、ポリシリコン等の窒化ケイ素以外のケイ素含有材料、タングステン等の金属、合金、金属窒化物等が挙げられる。後者の具体例としては、窒化ケイ素部分と、窒化ケイ素、ポリシリコンおよびタングステンからなる群より選択される少なくとも1種からなる部分とが露出した構造を有する研磨済半導体基板等が挙げられる。
【0038】
上記の態様に係る表面処理方法は、表面処理組成物により、研磨済研磨対象物に含まれる窒化ケイ素のゼータ電位を制御することができる。具体的には、窒化ケイ素のゼータ電位は、-30mV以下に制御される。上記の態様に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物に含まれる窒化ケイ素のゼータ電位を制御する機能を有する。具体的には、上記の態様に係る表面処理組成物は、窒化ケイ素のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する。
【0039】
窒化ケイ素のゼータ電位は、好ましくは-65mV以上、より好ましくは-60mV以上、さらに好ましくは-55mV以上、特に好ましくは-50mV以上である。窒化ケイ素のゼータ電位は、好ましくは-35mV以下、より好ましくは-40mV以下、さらに好ましくは-45mV以下であり、特に好ましくは-46mV以下である。窒化ケイ素のゼータ電位が上記範囲であることにより、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより発揮される。
【0040】
窒化ケイ素のゼータ電位は、アントンパールジャパン株式会社製の固体ゼータ電位測定器SurPASS3により測定することができる。なお、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0041】
窒化ケイ素のゼータ電位は、例えば、ゼータ電位調整剤の種類、量および表面処理組成物のpH等によって制御することができる。表面処理組成物中における存在状態でのゼータ電位調整剤の負の電荷を大きくすることで、窒化ケイ素のゼータ電位を低下させることができる。例えば、ゼータ電位調整剤としてアニオン性基を有する化合物を選択することや、アニオン性基として、酸(塩)基を選択したり、その中でも後述するような特定の酸(塩)基を選択することで、窒化ケイ素のゼータ電位をより低下させることができる。また、pHを低すぎない範囲まで適度に低くすることで、窒化ケイ素のゼータ電位をより低下させることができる。そして、表面処理組成物中のゼータ電位調整剤の量を増加することで、ゼータ電位調整剤によるゼータ電位の低下作用をより高めることができる。
【0042】
[表面処理組成物]
上記の態様に係る表面処理方法で使用する表面処理組成物は、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、上記の態様に係る表面処理方法は、表面処理組成物によって、窒化ケイ素のゼータ電位、および無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御することを含む。
【0043】
上記の態様に係る表面処理組成物は、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分
散媒を含み、窒化ケイ素のゼータ電位、および無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御する機能を有する。
【0044】
上記の態様に係る表面処理方法で使用される表面処理組成物、および上記の態様に係る表面処理組成物は、それぞれ、窒化ケイ素のゼータ電位、および無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御することができる。窒化ケイ素のゼータ電位、および無機酸化物のゼータ電位の好ましい範囲は、それぞれ上記で説明した通りである。このような制御が可能な理由としては、表面処理組成物に含まれるゼータ電位調整剤が、研磨済研磨対象物に含まれる窒化ケイ素および無機酸化物砥粒に対して親和性が高く、窒化ケイ素および無機酸化物砥粒の表面に付着しやすいことが考えられる。ゼータ電位調整剤は、窒化ケイ素のゼータ電位、および無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下へと導くものと考えられる。
【0045】
また、本発明の一実施形態に係る表面処理方法で使用される表面処理組成物、および本発明の一実施形態に係る表面処理組成物は、研磨処理もしくは表面処理において使用したパッドから発生するパッド屑(例えば、ポリウレタン等)についても効率的に除去することができることが好ましい。これらパッド屑も、研磨済研磨対象物の表面上に残渣として存在しうる。本発明の一実施形態に係る表面処理方法で使用される表面処理組成物、および本発明の一実施形態に係る表面処理組成物は、パッド屑がポリウレタンである場合において、研磨済研磨対象物の表面のポリウレタンのゼータ電位を制御することにより、効率的に除去することができる。ここで、表面処理組成物は、ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御することが好ましい。ポリウレタンのゼータ電位の好ましい範囲は、上記で説明した通りである。
【0046】
以下、表面処理組成物に含まれる各成分について説明する。
【0047】
[ゼータ電位調整剤]
表面処理組成物は、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤を含む。
【0048】
ゼータ電位調整剤は、高分子であることが好ましい。本明細書中、「高分子」とは、重量平均分子量が1,000以上である化合物をいう。これより、ゼータ電位調整剤の重量平均分子量は、特に制限されないが、1,000以上であることが好ましい。また、ゼータ電位調整剤の重量平均分子量は、5,000以上であることがより好ましく、8,000以上であることがさらに好ましく、10,000以上であることが特に好ましい。これらの範囲であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより向上する。この理由は、以下のように推測される。上記の範囲では、基板または残渣への吸着力がより大きくなる。このため、ゼータ電位調整剤が、研磨済研磨対象物の表面に存在する残渣(無機酸化物砥粒を含む残渣)の表面、および窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面から脱離する可能性がより低下する。それによってゼータ電位の制御をより確実に行うことが可能となるからである。ゼータ電位調整剤の重量平均分子量は、1,000,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがさらに好ましく、35,000以下であることが特に好ましい。これらの範囲であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより向上する。この理由は、以下のように推測される。上記範囲では、ゼータ電位調整剤の分子量が適度な値であることから、基板または残渣へのゼータ電位調整剤の吸着量がより適切な量となり、ゼータ電位調整剤自身が残渣となる可能性がより低下するからである。
【0049】
ゼータ電位調整剤の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(
GPC)を用いたポリエチレングリコール換算の値として測定することができる。
【0050】
ゼータ電位調整剤が有する負に帯電した官能基としては、特に制限されないが、アニオン性基であることが好ましい。アニオン性基としては、例えば、カウンターイオンが解離してアニオンとなる官能基が挙げられる。アニオン性基としては、酸(塩)基が好ましく、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、カルボン酸(塩)基等がより好ましい。負に帯電した官能基がこれらの基であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより向上する。この理由は、以下のように推測される。酸性領域における窒化ケイ素のゼータ電位は正であり、アニオン性基を有する高分子のゼータ電位は負である。このため、研磨済研磨対象物の表面の窒化ケイ素と、アニオン性基を有する高分子とは、電気的に引き合い、吸着がより促進されるからである。
【0051】
本明細書において、スルホン酸基とは、スルホ基であり、硫酸基とは、-OSOHで表される基を表し、ホスホン酸基とは、ホスホ基であり、リン酸基とは、-OPOで表される基を表し、カルボン酸基とは、カルボキシ基である。なお、ホスホン酸塩基およびリン酸塩基は、1つのHが残存する酸性塩基であってもよい。
【0052】
これらのことから、ゼータ電位調整剤は、重量平均分子量が1,000以上である、アニオン性基を有する高分子であることが好ましい。ゼータ電位調整剤は、重量平均分子量が1,000以上である、酸(塩)基を有する高分子であることがより好ましい。ゼータ電位調整剤は、重量平均分子量が1,000以上である、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、およびカルボン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有する高分子であることがさらに好ましい。なお、これらの高分子の好ましい重量平均分子量は、上記の通りである。
【0053】
これらの中でも、ゼータ電位調整剤は、スルホン酸(塩)基およびホスホン酸(塩)基のうちの少なくとも一方を有する高分子であることがさらに好ましく、スルホン酸(塩)基を有する高分子であることがよりさらに好ましい。また、ゼータ電位調整剤は、水酸基およびカルボン酸(塩)基のうちの少なくとも一方と、スルホン酸(塩)基とを有する高分子であることが特に好ましく、カルボン酸(塩)基と、スルホン酸(塩)基とを有する高分子であることが最も好ましい。
【0054】
本明細書における酸(塩)とは、注目する化合物が酸の形態であっても塩の形態であってもよいことを表す。本明細書における酸(塩)基とは、注目する基が酸の形態であっても塩の形態であってもよいことを表す。酸が塩の形態である場合、および酸基が塩の形態である場合、それぞれ、塩としては、特に制限されないが、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。塩の種類は、1種単独でもよいしまたは2種以上の組み合わせであってもよい。
【0055】
(スルホン酸(塩)基を有する高分子)
アニオン性基を有する高分子としてのスルホン酸(塩)基を有する高分子は、特に制限されない。
【0056】
スルホン酸(塩)基を有する高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物をスルホン化して得られる高分子、その塩、スルホン酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子等が挙げられる。
【0057】
スルホン酸(塩)基含有単量体の例としては、特に制限されないが、例えば、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-プロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシスルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホエチルマレイミド、これらの塩等が挙げられる。これらは、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。なお、塩の種類の例は、上記で説明した通りである。
【0058】
スルホン酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子は、他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位としては、スルホン酸(塩)基を有する単量体(スルホン酸(塩)基含有単量体)以外の他の単量体を共重合することで導入されたものであっても、スルホン酸(塩)基導入の際にスルホン酸(塩)基に変換されなかった官能基を残存させることで導入されたものであってもよい。
【0059】
他の構成単位の一例としては、ビニルアルコール単位(-CH-CH(OH)-により表される構造部分;以下「VA単位」ともいう。)が挙げられる。また、他の構成単位の一例としては、非ビニルアルコール単位(ビニルアルコール以外のモノマーに由来する構造単位、以下「非VA単位」ともいう。)が挙げられる。また、非VA単位を構成する、スルホン酸(塩)基含有単量体と共重合可能な単量体としては、特に制限されないが、エチレン性不飽和単量体であることが好ましい。エチレン性不飽和単量体は、特に制限されないが、例えば、不飽和カルボン酸エステル、不飽和アミド、不飽和アミン、芳香族モノまたはジビニル化合物等が挙げられる。不飽和カルボン酸エステルとしては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。不飽和アミドとしては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。不飽和アミンとしては、特に制限されないが、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N,N-トリメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。芳香族モノまたはジビニル化合物としては、特に制限されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、アルキルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0060】
また、スルホン酸(塩)基含有単量体と共重合可能な単量体の例としては、他の酸(塩)基を有する単量体、例えば、他の酸(塩)基を有する単量体として本明細書に例示されるものを、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0061】
スルホン酸(塩)基を有する高分子としては、特に制限されないが、例えば、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール(スルホン酸(塩)変性ポリビニルアルコール)、スルホン酸(塩)基含有ポリスチレン、スルホン酸(塩)基含有ポリ酢酸ビニル(スルホン酸(塩)変性ポリ酢酸ビニル)、スルホン酸(塩)基含有ポリエステル、スルホン酸(塩)基含有(メタ)アクリル酸誘導体の(共)重合体、(メタ)アクリロイル基含有単量体と、スルホン酸(塩)基含有単量体との共重合体、スルホン酸(塩)基含有ポリイソプレン、スルホン酸(塩)基含有アリルポリマー等が挙げられる。これらの中でも、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール、スルホン酸(塩)基含有ポリスチレン、(メタ)アクリロイル基含有単量体と、スルホン酸(塩)基含有単量体との共重合体が好ましく、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸(塩)、スルホン酸(塩)基含有単量体と、(メタ)アクリル酸(塩)との(共)重合体がより好ましく、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコール、スルホン酸(塩)基含有単量体と、(メタ)アクリル酸(塩)との(共)重合体がさらに好ましく、スルホン酸(塩)基含有単量体と、アクリル酸(塩)との共重合体が特に好ましい。
【0062】
なお、スルホン酸(塩)基を有する高分子の説明において、塩の種類の例は、上記で説明した通りである。
【0063】
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを包括的に指す意味である。同様に「(メタ)アクリロイル」とはアクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。
【0064】
また、本明細書において「(共)重合」とは、単独重合および共重合を包括的に指す意味である。同様に、「(共)重合体」とは、単独重合体および共重合体を包括的に指す意味である。
【0065】
(硫酸(塩)基を有する高分子)
アニオン性基を有する高分子としての硫酸(塩)基を有する高分子は、特に制限されない。硫酸(塩)基を有する高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物を変性して得られる硫酸(塩)基を有する高分子、硫酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子等が挙げられる。
【0066】
硫酸(塩)基含有単量体の例としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル系硫酸エステル、硫酸(塩)基含有ビニルアルコール(硫酸(塩)変性ビニルアルコール)等が挙げられる。これらは、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0067】
硫酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子は、他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位の説明は、スルホン酸(塩)基を有する高分子の説明と同様である。他の構成単位を構成する単量体としても、スルホン酸(塩)基を有する高分子の説明と同様である。
【0068】
硫酸(塩)基含有単量体と共重合可能な単量体の例としては、他の酸(塩)基を有する単量体、例えば、他の酸(塩)基を有する単量体として本明細書に例示されるものを、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0069】
硫酸(塩)基を有する高分子の例としては、特に制限されないが、例えば、ポリアクリル系硫酸エステル、ポリメタクリル系硫酸エステル、硫酸(塩)基含有ポリビニルアルコール(硫酸(塩)変性ポリビニルアルコール)等が挙げられる。
【0070】
なお、硫酸(塩)基を有する高分子の説明において、塩の種類の例は、上記で説明した通りである。
【0071】
(ホスホン酸(塩)基を有する高分子)
アニオン性基を有する高分子としてのホスホン酸(塩)基を有する高分子は、特に制限されない。ホスホン酸(塩)基を有する高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物を変性して得られるホスホン酸(塩)基を有する高分子、ホスホン酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子等が挙げられる。
【0072】
ホスホン(塩)基含有単量体の例としては、特に制限されないが、例えば、ビニルホスホン酸、モノビニルホスフェート、アリルホスホン酸、モノアリルホスフェート、3-ブ
テニルホスホン酸、モノ-3-ブテニルホスフェート、4-ビニルオキシブチルホスフェート、ホスホンオキシエチルアクリレート、ホスホンオキシエチルメタクリレート、モノ(2-ヒドロキシ-3-ビニルオキシプロピル)ホスフェート、(1-ホスホンオキシメチル-2-ビニルオキシエチル)ホスフェート、モノ(3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)ホスフェート、モノ-2-(アリルオキシ-1-ホスホンオキシメチルエチル)ホスフェート、2-ヒドロキシ-4-ビニルオキシメチル-1,3,2-ジオキサホスホール、2-ヒドロキシ-4-アリルオキシメチル-1,3,2-ジオキサホスホール、これらの塩等が挙げられる。これらは、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0073】
ホスホン酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子は、他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位の説明は、スルホン酸(塩)基を有する高分子の説明と同様である。他の構成単位を構成する単量体としても、スルホン酸(塩)基を有する高分子の説明と同様である。
【0074】
ホスホン酸(塩)基含有単量体と共重合可能な単量体の例としては、他の酸(塩)基を有する単量体、例えば、他の酸(塩)基を有する単量体として本明細書に例示されるものを、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0075】
ホスホン(塩)基を有する高分子の例としては、特に制限されないが、例えば、ポリビニルホスホン酸、ポリアリルホスホン酸、ホスホンオキシエチルポリアクリレート、ホスホンオキシエチルポリメタクリレート、これらの塩等が挙げられる。これらの中でも、ポリビニルホスホン酸、その塩が好ましく、ポリビニルホスホン酸がより好ましい。
【0076】
なお、ホスホン酸(塩)基を有する高分子の説明において、塩の種類の例は、上記で説明した通りである。
【0077】
(リン酸(塩)基を有する高分子)
アニオン性基を有する高分子としてのリン酸(塩)基を有する高分子は、特に制限されない。リン酸(塩)基を有する高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物をリン酸化して得られる高分子、その塩、リン酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子等が挙げられる。
【0078】
リン(塩)基含有単量体の例としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシプロピルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシブチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシペンチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシヘキシルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシオクチルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシデシルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシラウリルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシステアリルリン酸、(メタ)アクリロイルオキシ-1,4-ジメチルシクロヘキシルリン酸、これらの塩等が挙げられる。これらは、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0079】
リン酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子は、他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位の説明は、スルホン酸(塩)基を有する高分子の説明と同様である。他の構成単位を構成する単量体としても、スルホン酸(塩)基を有する高分子の説明と同様である。
【0080】
リン酸(塩)基含有単量体と共重合可能な単量体の例としては、他の酸(塩)基を有する単量体、例えば、他の酸(塩)基を有する単量体として本明細書に例示されるものを、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0081】
リン酸(塩)基を有する高分子の具体例としては、特に制限されないが、例えば、ポリアクリロイルオキシアルキルリン酸、ポリメタクリロイルオキシアルキルリン酸、ポリアクリロイルオキシ-1,4-ジメチルシクロヘキシルリン酸、ポリメタクリロイルオキシ-1,4-ジメチルシクロヘキシルリン酸、これらの塩等が挙げられる。
【0082】
なお、リン酸(塩)基を有する高分子の説明において、塩の種類の例は、上記で説明した通りである。
【0083】
(カルボン酸(塩)基を有する高分子)
アニオン性基を有する高分子としてのカルボン酸(塩)基を有する高分子は、特に制限されない。カルボン酸(塩)基を有する高分子の例としては、ベースとなる高分子化合物をカルボキシ化して得られる高分子、その塩、カルボン酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子等が挙げられる。
【0084】
カルボン酸(塩)基含有単量体の例としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、これらの塩等が挙げられる。これらは、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0085】
カルボン酸(塩)基含有単量体を含む1種または2種以上の単量体を(共)重合して得られる高分子は、他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位の説明は、スルホン酸(塩)基を有する高分子の説明と同様である。他の構成単位を構成する単量体としても、スルホン酸(塩)基を有する高分子の説明と同様である。
【0086】
カルボン酸(塩)基含有単量体と共重合可能な単量体の例としては、他の酸(塩)基を有する単量体、例えば、他の酸(塩)基を有する単量体として本明細書に例示されるものを、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0087】
カルボン酸(塩)基を有する高分子の例としては、特に制限されないが、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸と、メタクリル酸との共重合体、これらの塩等が挙げられる。
【0088】
なお、カルボン酸(塩)基を有する高分子の説明において、塩の種類の例は、上記で説明した通りである。
【0089】
なお、上記の酸(塩)基を有する高分子、上記のスルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、およびカルボン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有する高分子が塩の形態である場合、ゼータ電位調整剤は、分子中の一部の酸基のみが塩を形成していてもよいし、分子中の全ての酸基が塩を形成していてもよい。
【0090】
これらのことから、ゼータ電位調整剤の好ましい一例としては、スルホン酸(塩)基含有単量体と、アクリル酸(塩)との共重合体、ポリビニルホスホン酸(塩)、スルホン酸(塩)基含有ポリビニルアルコールが挙げられる。これらの中でも、スルホン酸基含有単量体と、アクリル酸との共重合体、スルホン酸基含有単量体と、アクリル酸との共重合体のナトリウム塩、スルホン酸基含有ポリビニルアルコール、スルホン酸基含有ポリビニルアルコールのナトリウム塩が好ましく、スルホン酸基含有単量体と、アクリル酸との共重合体、そのナトリウム塩がより好ましく、スルホン酸基含有単量体と、アクリル酸との共重合体のナトリウム塩がさらに好ましい。
【0091】
ゼータ電位調整剤の25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度は、10mPa・s未満であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果が十分に得られない。この理由は、上記範囲では、ゼータ電位調整剤が、研磨済研磨対象物の表面に存在する残渣(無機酸化物砥粒を含む残渣)の表面、および窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に静電的に付着した際に、ゼータ電位調整剤の保護膜としての作用が十分に得られないからであると推定している。25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度は、10mPa・s以上であれば特に制限されないが、15mPa・s以下であることが好ましく、12mPa・s以下であることがより好ましく、10.5mPa・s以下であることがさらに好ましい。これらの範囲であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより向上する。この理由は、以下のように推測される。上記範囲では、研磨済研磨対象物の表面に存在する残渣(無機酸化物砥粒を含む残渣)の表面、および窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に静電的に付着したゼータ電位調整剤の除去がより容易となる。その結果、ゼータ電位調整剤自身が残渣となる可能性がより低下するからである。
【0092】
ここで、ゼータ電位調整剤の25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度とは、ゼータ電位調整剤と、水(脱イオン水)とを混合して得られた、水溶液の全質量に対するゼータ電位調整剤の濃度が20質量%の水溶液について、動粘度計を用いて、水温25℃での粘度(mPa・s)を測定することによって得られた値を表す。なお、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0093】
ゼータ電位調整剤は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。合成する場合の製造方法は特に制限されず、公知の合成方法により得ることができる。市販品としては、特に制限されないが、例えば、東亞合成株式会社製の品番:アロン(登録商標)A-12SL、A-6012、A-6016A、A-6017、A-6020、A-6031、株式会社日本触媒製の品番:アクアリック(登録商標)Lシリーズ GL-246、GL-366、GL-386、GH-234、富士フイルム和光純薬株式会社製、品番:PVphos acid,30%、三菱ケミカル株式会社製の品番:ゴーセネックス(登録商標)L-3266、CKS-50等が挙げられる。
【0094】
ゼータ電位調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0095】
ゼータ電位調整剤の含有量(濃度)(2種以上の場合はその合計量)は、特に制限されないが、表面処理組成物の全質量に対して、好ましくは0.01g/kg以上であり、より好ましくは0.1g/kg以上であり、さらに好ましくは0.5g/kg以上であり、よりさらに好ましくは0.8g/kg以上であり、特に好ましくは、1g/kg以上である。これらの範囲であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより向上する。この理由は、ゼータ電位調整剤の量が適度に多く、ゼータ電位調整剤によるより高い作用が得られるからであると推測される。ゼータ電位調整剤の含有量(濃度)(2種以上の場合はその合計量)は、特に制限されないが、表面処理組成物の全質量に対して、好ましくは100g/kg以下であり、より好ましくは10g/kg以下であり、さらに好ましくは5g/kg以下であり、よりさらに好ましくは3g/kg以下であり、特に好ましくは2g/kg以下である。これらの範囲であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより向上する。この理由は、ゼータ電位調整剤の含有量が適度に少なく、表面処理後のゼータ電位調整剤自体の除去がより容易となるからであると推測される。
【0096】
[分散媒]
表面処理組成物は、各成分を溶解、分散するための分散媒(溶媒)を含む。分散媒は、水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;アセトン等のケトン類;アセトニトリル等が挙げられる。分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類;アセトン等のケトン類;;アセトニトリル;これらの混合物等が挙げられる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。水以外の分散媒を含む場合、分散媒の全質量に対する水の含有量は、好ましくは90質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下である。ただし、分散媒は、水のみであることが最も好ましい。
【0097】
表面処理組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した脱イオン水である純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0098】
[pHおよびpH調整剤]
表面処理組成物のpHは、特に制限されないが、好ましくは1以上7未満であることが好ましい。表面処理組成物のpHは、より好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは2以上であり、特に好ましくは2.5以上である。表面処理組成物のpHは、より好ましくは5未満であり、さらに好ましくは4以下であり、特に好ましくは3.5以下である。この範囲であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより向上する。この理由は、以下のように推測される。上記範囲であると、ゼータ電位調整剤を使用しない場合の窒化ケイ素のゼータ電位が正であり、かつ、その絶対値がより大きくなる(一例としては、ゼータ電位(mV)の絶対値は、40以上50以下となる場合もある)。その結果、ゼータ電位調整剤を使用する場合において、ゼータ電位調整剤は、研磨済研磨対象物の表面の窒化ケイ素により強く吸着することとなり、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面は、より負に帯電し易くなるからである。これより、表面処理組成物のpHの範囲の好ましい一例は、2以上5未満である。
【0099】
表面処理組成物のpHは、例えばpHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)により測定することができる。
【0100】
上記の態様に係る表面処理方法で使用される表面処理組成物、および上記の態様に係る表面処理組成物は、それぞれ、ゼータ電位調整剤および分散媒を必須成分とするが、これらのみによって所望のpHを得ることが難しい場合は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、pH調整剤(上記のゼータ電位調整剤とは異なる化合物であるpH調整剤)を添加してpHを調整してもよい。本発明の一実施形態において、表面処理組成物は、さらにpH調整剤を含む。
【0101】
pH調整剤は、公知の酸、塩基、またはそれらの塩を使用することができる。
【0102】
pH調整剤として使用できる酸としては、特に制限されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、2-メチル酪酸、ヘキサン酸、3,3-ジメチル-酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、2-ヒドロキシイソ酪酸およびフェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。pH調整剤として使用できる塩基としては、特に制限されないが、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン、アンモニウム溶液、水酸化第四アンモニウム等の有機塩基、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、第2族元素の水酸化物、ヒスチジン等のアミノ酸、アンモニア等が挙げられる。
【0103】
表面処理組成物は、酸を含むことが好ましく、無機酸を含むことがより好ましく、硫酸、硝酸、亜リン酸およびリン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがさ
らに好ましく、硝酸を含むことが特に好ましい。
【0104】
pH調整剤は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、表面処理組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0106】
[他の添加剤]
本発明の一実施形態において、表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。他の添加剤としては、特に制限されないが、例えば、砥粒、界面活性剤、防カビ剤(防腐剤)、溶存ガス、還元剤、酸化剤、アルカノールアミン類等が挙げられる。ただし、本発明の一実施形態において、表面処理組成物の必須成分以外の成分は、残渣の原因となりうるため、できる限り添加しないことが望ましい。よって、必須成分以外の成分は、その添加量はできる限り少ないことが好ましく、含まないことがより好ましい。なかでも、異物除去効果のさらなる向上のため、表面処理組成物は、砥粒を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「砥粒を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物全体に対する(表面処理組成物の総質量に対する)砥粒の含有量(濃度)(2種以上の場合はその合計量)が0.01質量%以下(下限0質量%)である場合を指し、0.005質量%以下(下限0質量%)であることが好ましく、0.001質量%以下(下限0質量%)であることがより好ましい。
【0107】
[界面活性剤]
表面処理組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。表面処理組成物が界面活性剤を含む場合に使用できる、界面活性剤としては、特に制限されず、イオン性界面活性剤であっても、非イオン性界面活性剤であってもよい。
【0108】
界面活性剤は、特に制限されないが、負に帯電した官能基を有していてもよい。界面活性剤が負に帯電した官能基を有する場合、負に帯電した官能基を有する界面活性剤とは、上記のゼータ電位調整剤とは異なる化合物を表す。
【0109】
表面処理組成物が界面活性剤を含む場合に使用できる、界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤の例としては、スルホン酸塩基、硫酸塩基、ホスホン酸塩基およびリン酸塩基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を含む化合物等が挙げられる。より詳細には、アニオン性界面活性剤の例としては、スルホン酸塩基を有する化合物、硫酸塩基を有する化合物、ホスホン酸塩基を有する化合物、リン酸塩基を有する化合物等が挙げられる。
【0110】
界面活性剤は、低分子型界面活性剤であることが好ましい。低分子型界面活性剤とは、その分子量が1000未満である化合物をいう。低分子型界面活性剤の分子量は、200以上1,000未満であるのがより好ましく、500以上980以下であるのがさらに好ましく、800以上959以下であるのがさらに好ましい。低分子型界面活性剤の分子量は、例えば、TOF-MSやLC-MS等の公知の質量分析手段を用いて行うことができる。界面活性剤の重量平均分子量は、1,000未満が好ましく、200以上1,000未満であるのがより好ましく、500以上980以下であるのがさらに好ましく、800以上959以下であるのがさらに好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリエチレングリコール換算の値として測定することができる。
【0111】
界面活性剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0112】
界面活性剤の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、表面処理組成物の全質量に対して、好ましくは0.001g/kg以上であり、より好ましくは0.01g/kg以上であり、さらに好ましくは0.03g/kg以上であり、特に好ましくは0.05g/kg以上であり、最も好ましくは0.08g/kg以上である。界面活性剤の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、表面処理組成物の全質量に対して、好ましくは10g/kg以下であり、より好ましくは5g/kg以下であり、さらに好ましくは1g/kg以下であり、特に好ましくは0.5g/kg以下であり、最も好ましくは0.3g/kg以下である。なお、表面処理組成物が2種以上の界面活性剤を含む場合には、上記含有量はこれらの合計量を意図する。
【0113】
[防カビ剤]
表面処理組成物は、防カビ剤(防腐剤)を含んでいてもよい。表面処理組成物が防カビ剤(防腐剤)を含む場合に使用できる、防カビ剤(防腐剤)は、特に制限されない。防カビ剤(防腐剤)の具体例としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。
【0114】
防カビ剤(防腐剤)は、単独で使用されてもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0115】
表面処理組成物が防カビ剤(防腐剤)を含む場合の、防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、表面処理組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。また、防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、表面処理組成物の総質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、表面処理組成物中の防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)は、表面処理組成物の総質量に対して、好ましくは0.0001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上1質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以上0.5質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下である。このような範囲であれば、微生物を不活性化または破壊するのに十分な効果が得られる。なお、表面処理組成物が2種以上の防カビ剤(防腐剤)を含む場合には、上記含有量はこれらの合計量を意図する。
【0116】
すなわち、本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、ゼータ電位調整剤と、pH調整剤と、分散媒と、界面活性剤および防カビ剤からなる群より選択される少なくとも1つとから実質的に構成される。本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、ゼータ電位調整剤と、pH調整剤と、水と、界面活性剤、防カビ剤および有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1つとから実質的に構成される。本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、ゼータ電位調整剤と、pH調整剤と、水と、防カビ剤および有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1つとから実質的に構成される。本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、ゼータ電位調整剤、pH調整剤および水から実質的に構成される。これらの実施形態において、「表面処理組成物が、Xから実質的に構成される」とは、Xの合計含有量(合計濃度)が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物の総質量に対して)、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意味する。好ましくは、表面処理組成物は、Xから構成される(上記合計含有量=100質量%)。例えば、「表面処理組成物が、ゼータ電位調整剤と、pH調整剤と、水と、界面活性剤、防カビ剤および有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1つとから実質的に構成される」とは、ゼータ電位調整剤と、pH調整剤と、水と、界面活性剤、防カビ剤および有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1つとの合計含有量(合計濃度)が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物の総質量に対して)、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意味する。この際、表面処理組成物が、ゼータ電位調整剤と、pH調整剤と、水と、界面活性剤、防カビ剤および有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1つとから構成される(上記合計含有量=100質量%)ことが好ましい。
【0117】
[表面処理組成物の製造方法]
表面処理組成物の製造方法は特に制限されない。例えば、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤と、分散媒(例えば、水)と、を混合することにより製造できる。すなわち、本発明の他の一態様によれば、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤と、分散媒と、を混合することを含む、上記の表面処理組成物の製造方法もまた提供される。上記のゼータ電位調整剤の種類、添加量等は、前述の通りである。本発明の一実施形態に係る表面処理組成物の製造方法においては、必要に応じて、ゼータ電位調整剤および分散媒以外の他の成分をさらに混合してもよい。これらの種類、添加量等は、前述の通りである。
【0118】
表面処理組成物に含有される各成分の添加順、添加方法は特に制限されない。また、混合方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。上記の表面処理組成物の製造方法は所望のpHとなるように、表面処理組成物のpHを測定し、調整することをさらに含んでいてもよい。
【0119】
[表面処理]
本発明の一実施形態に係る表面処理方法は、表面処理組成物を、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。表面処理方法としては、特に制限されないが、例えば、リンス研磨処理による方法、洗浄処理による方法等が挙げられる。これより、本発明の一実施形態に係る表面処理方法は、リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である。また、本発明の一実施形態に係る表面処理組成物は、リンス研磨用組成物または洗浄用組成物である。リンス研磨処理および洗浄処理は、研磨済研磨対象物の表面上の異物(無機酸化物砥粒、パッド屑等の残渣、金属汚染、など)を除去し、清浄な表面を得るために実施される。
【0120】
表面処理組成物は、リンス研磨処理において特に好適に用いられる。リンス研磨処理とは、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる、研磨パッドによる
摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物の作用により研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。リンス研磨処理の具体例としては、特に制限されないが、研磨対象物について研磨(例えば、最終研磨、仕上げ研磨等)を行った後に、研磨済研磨対象物が研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置された状態で、研磨済研磨対象物と研磨パッドとを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとを相対摺動させる処理が挙げられる。なお、リンス研磨処理は、研磨対象物の研磨(例えば、最終研磨、仕上げ研磨等)で用いられた研磨定盤と同一の研磨定盤上で行われてもよいし、当該研磨で用いられた研磨定盤とは異なる研磨定盤上で行われてもよい。これらの中でも、リンス研磨処理は、研磨対象物の研磨(例えば、最終研磨、仕上げ研磨等)で用いられた研磨定盤とは異なる研磨定盤上で行われることが好ましい。
【0121】
表面処理組成物を、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物に直接接触させることにより、リンス研磨処理が行われる。表面処理組成物による作用によって、窒化ケイ素、無機酸化物砥粒、場合によってはさらにポリウレタンは、ゼータ電位調整剤の付着により負に帯電すると考えられる。そして、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による作用によって、無機酸化物砥粒、場合によってはさらにポリウレタンは、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面から除去され、また、再付着が防止される。この際、研磨定盤(プラテン)上で研磨パッドとの摩擦(研磨パッドと残渣との摩擦)を利用することで、無機酸化物砥粒、パッド屑等の残渣がより効果的が除去される。そして、リンス研磨処理後、水による洗浄(後述の後洗浄処理)等のプロセスが行われ、これにより、窒化ケイ素の表面のゼータ電位調整剤が容易に除去される。その結果、無機酸化物砥粒を含む残渣が顕著に低減された、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物を得ることができる。
【0122】
リンス研磨処理は、特に制限されないが、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用して行うことが好ましい。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができるが、残渣をより低減するという観点から、ポリウレタンが好ましい。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。また、化学的機械的研磨とリンス研磨処理とを同じ研磨装置を用いて行う場合、研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加えて、表面処理組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。
【0123】
ここで、処理条件には特に制限はないが、例えば、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとの圧力は、0.5psi(3.5kPa)以上10psi(69kPa)以下が好ましい。ヘッド回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.7s-1)以下が好ましい。また、研磨定盤(プラテン)回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.7s-1)以下が好ましい。掛け流しの供給量に制限はないが、研磨済研磨対象物の表面が表面処理組成物で覆われていることが好ましく、例えば、10mL/分以上5000mL/分以下である。また、表面処理時間も特に制限されないが、5秒以上180秒以下であることが好ましい。このような範囲であれば、異物(特に、無機酸化物砥粒、パッド屑等の残渣)をより良好に除去することが可能である。リンス研磨処理の際の表面処理組成物の温度は、特に制限されず、通常は室温(25℃)でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0124】
表面処理組成物は、洗浄処理においても好適に用いられる。本明細書において、洗浄処理とは、研磨済研磨対象物が研磨定盤(プラテン)上から取り外された状態で行われる、主に表面処理組成物による作用により研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する処理を表す。洗浄処理の具体例としては、研磨対象物について研磨(例えば、最終研磨、仕上げ研磨等)を行った後、または、研磨に続いてリンス研磨処理を行った後、研磨済研磨対象
物を研磨定盤(プラテン)上から取り外し、研磨済研磨対象物を表面処理組成物と接触させる処理が挙げられる。表面処理組成物と研磨済研磨対象物との接触状態において、研磨済研磨対象物の表面に摩擦力(物理的作用)を与える手段をさらに用いてもよい。
【0125】
洗浄処理方法としては、特に制限されないが、例えば、研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、必要に応じて超音波処理を行う方法、研磨済研磨対象物を保持した状態で洗浄ブラシと研磨済研磨対象物とを接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら研磨済研磨対象物の表面をブラシで擦る方法等が挙げられる。
【0126】
洗浄処理装置としては、特に制限されないが、例えば、カセットに収容された複数枚の研磨済研磨対象物を同時に表面処理するバッチ式洗浄装置、1枚の研磨済研磨対象物をホルダーに装着して表面処理する枚葉式洗浄装置、研磨定盤(プラテン)から取り外した後の研磨済研磨対象物を洗浄ブラシで擦ることができる、洗浄用設備を備えている研磨装置等が挙げられる。ここで、研磨装置としては、研磨済研磨対象物を保持するホルダー、回転数を変更可能なモータ、洗浄ブラシ等を有する一般的な研磨装置を使用することができる。また、洗浄ブラシとしては、特に制限されないが、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)製ブラシ等の樹脂製ブラシが挙げられる。
【0127】
洗浄条件としては、特に制限はなく、研磨済研磨対象物の種類、ならびに除去対象とする不純物の種類および量に応じて、適宜設定することができる。
【0128】
[後洗浄処理]
本発明の一実施形態に係る表面処理方法としては、表面処理の後、研磨済研磨対象物をさらに洗浄処理を行ってもよい。本明細書では、この洗浄処理を後洗浄処理と称する。後洗浄処理の具体例としては、特に制限されないが、例えば、表面処理後の研磨済研磨対象物に水を掛け流す方法、表面処理後の研磨済研磨対象物を水に浸漬する方法、水を掛け流しながら表面処理後の研磨済研磨対象物を洗浄ブラシで擦る方法等が挙げられる。なお、後洗浄処理の方法、装置および条件としては、特に制限されないが、例えば、洗浄処理の説明を参照することができる。後洗浄処理に用いる水としては、特に制限されないが、脱イオン水を用いることが特に好ましい。
【0129】
本発明の一実施形態において、表面処理組成物で表面処理を行うことによって、残渣が極めて除去されやすい状態となる。このため、表面処理組成物で表面処理を行った後、水を用いてさらなる洗浄処理を行うことで、残渣が極めて良好に除去されることとなる。
【0130】
後洗浄後の研磨済研磨対象物は、スピンドライヤー等により表面に付着した水滴を払い落として乾燥させることが好ましい。また、エアブロー乾燥により、研磨済研磨対象物の表面を乾燥させてもよい。
【0131】
上記の態様に係る表面処理方法、および上記の態様に係る表面処理組成物によれば、それぞれ、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去することができる。すなわち、本発明の他の一態様によれば、上記の表面処理組成物を用いて、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物を表面処理する、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における残渣低減方法が提供されるともいえる。
【0132】
表面処理組成物により除去される研磨済研磨対象物の表面上の残渣には、研磨対象物に対する研磨処理により付着するものが含まれる。すなわち、無機酸化物砥粒は、研磨用組成物に由来する残渣であり、パッド屑(例えばポリウレタン)は、研磨処理において用いられる研磨パッドに由来する残渣である。そこで、これら残渣の由来となる研磨用組成物および研磨処理について説明する。換言すれば、表面処理の対象である研磨済研磨対象物
がどのように得られるかについて説明する。
【0133】
[研磨用組成物]
表面処理の対象である研磨済研磨対象物を得るために用いられる研磨用組成物は、無機酸化物砥粒と、分散媒とを含む。研磨用組成物は、必要に応じて、添加剤をさらに含んでいてもよい。研磨用組成物は、無機酸化物砥粒および分散媒を必須とする以外は、その構成は特に制限されないが、以下に好ましい研磨用組成物の構成について説明する。
【0134】
[砥粒]
研磨用組成物に含まれる無機酸化物砥粒としては、特に制限されないが、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化セリウム(セリア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化チタン(チタニア)等の無機酸化物(金属酸化物)からなる粒子等が挙げられる。これらの無機酸化物からなる粒子は、表面修飾されていてもよい。例えば、カルボン酸やスルホン酸等の有機酸を固定化したアニオン修飾無機酸化物であってもよい。このようなアニオン修飾無機酸化物としては、カルボン酸やスルホン酸等の有機酸を固定化したアニオン修飾酸化ケイ素であるのが好ましく、カルボン酸やスルホン酸等の有機酸を固定化したアニオン修飾コロイダルシリカであるのがより好ましい。このような無機酸化物の表面への有機酸の固定化は、例えば無機酸化物の表面に有機酸の官能基が化学的に結合することにより行われている。無機酸化物と、有機酸とを単に共存させただけでは、無機酸化物への有機酸の固定化は果たされない。例えば、有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたアニオン修飾コロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたアニオン修飾コロイダルシリカを得ることができる。これらの中でも、スルホン酸が表面に固定化されたアニオン修飾酸化ケイ素(本明細書において、スルホン酸修飾酸化ケイ素とも称する)が好ましく、スルホン酸が表面に固定化されたアニオン修飾コロイダルシリカ(本明細書において、スルホン酸修飾コロイダルシリカとも称する)がより好ましい。無機酸化物の表面に固定化された有機酸は、酸の状態であっても、塩の状態であってもよい。
【0135】
無機酸化物砥粒としては、表面処理組成物による除去効果の観点から、アニオン修飾酸化ケイ素砥粒および酸化セリウム砥粒のうちの少なくとも一方がより好ましく、アニオン修飾酸化ケイ素砥粒および酸化セリウム砥粒のうちの少なくとも一方がさらに好ましく、酸化セリウム砥粒が特に好ましい。アニオン修飾酸化ケイ素砥粒および酸化セリウム砥粒は、表面処理組成物と接触した場合に負に帯電しやすく、表面処理後の洗浄処理等により研磨済研磨対象物の表面から除去されやすい。
【0136】
無機酸化物砥粒の平均一次粒子径の下限は、特に制限されないが、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。これらの範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。無機酸化物砥粒の平均一次粒子径の上限は、特に制限されないが、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。こ
れらの範囲であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより発揮される。なお、無機酸化物砥粒の平均一次粒子径の値は、BET法で測定される無機酸化物砥粒の比表面積に基づいて、無機酸化物砥粒の粒子形状が真球であると仮定して算出することができる。
【0137】
無機酸化物砥粒の平均二次粒子径の下限は、特に制限されないが、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。これらの範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。無機酸化物砥粒の平均二次粒子径の上限は、特に制限されないが、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。これらの範囲であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより発揮される。なお、無機酸化物砥粒の平均二次粒子径の値は、レーザー光を用いた光散乱法測定に基づいて算出することができる。
【0138】
無機酸化物砥粒は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。また、無機酸化物砥粒は、単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
研磨用組成物における無機酸化物砥粒の含有量(濃度)(2種以上の場合はその合計量)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.01質量%超であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。これらの範囲であると、所望の研磨速度が得られやすくなる。無機酸化物砥粒の含有量(濃度)(2種以上の場合はその合計量)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。これらの範囲であると、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面に存在する、無機酸化物砥粒を含む残渣の除去効果がより発揮される。
【0140】
[その他の成分]
研磨用組成物は、無機酸化物砥粒および分散媒以外の他の成分(添加剤)を含有していてもよい。他の成分としては、特に制限されないが、例えば、分散剤(一度沈降した砥粒の再分散性を向上させる添加剤)、電気伝導度調整剤(研磨用組成物の電気伝導度を調整する添加剤)、無機酸化物砥粒以外の砥粒、pH調整剤、界面活性剤、濡れ剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤、溶存ガス、酸化剤、還元剤等の公知の研磨用組成物に用いられる成分等が挙げられる。pH調整剤としては、特に制限されないが、例えば、上記の表面処理組成物の説明で挙げられたpH調整剤を使用することができる。
【0141】
[研磨処理]
研磨用組成物を用いて行われる研磨処理は、研磨対象物を研磨して、研磨済研磨対象物を形成する処理である。
【0142】
研磨処理は、研磨対象物を研磨するのであれば特に制限されないが、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)処理であることが好ましい。また、研磨処理は、単一の工程からなる研磨工程であっても複数の工程からなる研磨工程であってもよい。複数の工程からなる研磨工程としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う工程や、1次研磨工程の後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う工程等が挙げられる。上記の態様に係る表面処理方法を行うことを含む表面処理工程、および上記の態様に係る表面処理組成物を使用する表面処理工程は、仕上げ研磨工程後に行われることが好ましい。
【0143】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。
【0144】
研磨工程で用いられる研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。しかしながら、上記の態様に係る表面処理方法を行うことを含む表面処理工程、および上記の態様に係る表面処理組成物を使用する表面処理工程では、それぞれ、残渣をより低減するとの観点から、研磨パッドがポリウレタンであることが好ましい。研磨済研磨対象物の表面には、研磨パッド由来の成分が付着する場合がある。研磨パッドがポリウレタンであるとき、残渣は、ポリウレタンをさらに含むこととなる。本発明の好ましい一実施形態に係る表面処理方法では、表面処理組成物によって、ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御することをさらに含むことが好ましい。本発明の好ましい一実施形態に係る表面処理組成物は、ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御する機能をさらに有することが好ましい。これらの結果、残渣(ポリウレタン)を効率的に除去することができる。
【0145】
研磨処理に用いられる研磨パッドのショアA硬度は、40°以上が好ましく、60°以上がより好ましく、70°以上がさらに好ましく、75°以上がよりさらに好ましく、80°以上が特に好ましく、85°以上が最も好ましい。研磨処理に用いられる研磨パッドのショアA硬度は、100°以下が好ましく、99°以下がより好ましく、97°以下がさらに好ましく、95°以下がよりさらにより好ましく、93°以下が特に好ましい。研磨処理に用いられる研磨パッドのショアA硬度が上記範囲内であることにより、研磨パッドと研磨対象物とが適度な圧力で接触し合い、研磨を効率的に行うことができるだけでなく、研磨済研磨対象物の表面の残渣が残りにくいという効果がある。研磨パッドのショアA硬度としては、例えば40°以上100°以下等が挙げられる。
【0146】
研磨パッドのショアA硬度は、JIS K 6253-3:2012に準拠し、タイプAデュロメーターに基づき測定された値である。
【0147】
研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0148】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.7s-1)以下が好ましく、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.5kPa)以上10psi(69kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、5秒以上180秒以下であることが好ましい。研磨処理の際の研磨用組成物の温度は、特に制限されず、通常は室温(25℃)でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0149】
[半導体基板の製造方法]
上記の態様に係る表面処理方法、および上記の態様に係る表面処理組成物は、それぞれ、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であるときに好適に適用可能である。本発明の他の一態様によれば、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、当該研磨済半導体基板を、上記の表面処理方法によって、研磨済研磨対象物の表面を処理することを含む、半導体基板の製造方法もまた提供される。
【0150】
半導体基板の製造方法は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物を使用して、窒化ケイ素を含む研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、上記の表面処理方法によって、研磨済半導体基板の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、を含むことが好ましい。
【0151】
半導体基板の製造方法において、無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方を含み、上記の表面処理工程で使用される表面処理組成物によって、酸化セリウム砥粒およびアニオン修飾酸化ケイ素砥粒のうちの少なくとも一方のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含むことが好ましい。半導体基板の製造方法において、無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、上記の表面処理工程で使用される表面処理組成物によって、酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含むことがより好ましい。
【0152】
半導体基板の製造方法において、研磨工程は、ポリウレタン製の研磨パッドを使用することを含み、残渣は、ポリウレタンをさらに含み、上記の表面処理工程で使用される表面処理組成物によって、ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御することをさらに含むことが好ましい。
【0153】
かかる製造方法が適用される半導体基板の詳細については、上記の表面処理組成物によって表面処理される研磨済研磨対象物の説明の通りである。
【0154】
また、半導体基板の製造方法としては、研磨済半導体基板の表面を、上記の表面処理組成物を用いて表面処理する、または上記の表面処理方法によって表面処理する工程(表面処理工程)を含むものであれば特に制限されない。
【0155】
[半導体基板の製造システム]
上記の表面処理組成物は、これに加えて、窒化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物をさらに含む、半導体基板の製造システムにも関する。本発明の他の一態様によれば、窒化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物、および上記の表面処理組成物を含む、半導体基板の製造システムであって、当該研磨用組成物および当該研磨パッドを用いて研磨した後の当該研磨対象物の表面を上記の表面処理組成物と接触させる、半導体基板の製造システムについてもまた提供される。
【0156】
半導体基板の製造システムに適用される、窒化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物、および表面処理組成物の好ましい実施形態については、上記と同様であるため、説明を省略する。
【0157】
本発明の一実施形態において、半導体基板の製造システムは、研磨済研磨対象物の両面を研磨パッドおよび表面処理組成物と接触させて、研磨済研磨対象物の両面を同時に表面処理するものであってもよいし、研磨済研磨対象物の片面のみを研磨パッドおよび表面処理組成物と接触させて、研磨済研磨対象物の片面のみを表面処理するものであってもよい。なお、表面処理の好ましい実施形態については、上記と同様であるため、記載を省略する。
【0158】
[残渣除去効果]
上記の表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面上の残渣を除去する効果が高いほど好ましい。すなわち、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面処理を行った際、表面に残存する残渣数が少ないほど好ましい。
【0159】
具体的には、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した際、総残渣数が200,000個未満であると好ましく、2,000個以下であるとより好ましく、1,000個以下であるとさらにより好ましく、500個以下であると特に好ましく、300個以下であると特に好ましい(下限0個)。一方、総残渣数は少ないほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、例えば、100個以上であってもよい。
【0160】
また、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した際、砥粒残渣数が200,000個未満であると好ましく、1,000個以下であるとより好ましく、500個以下であるとさらに好ましく、250個以下であるとよりさらに好ましく、150個以下であると特に好ましい(下限0個)。一方、砥粒残渣数は少ないほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、例えば、50個以上であってもよい。
【0161】
そして、表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理した際、ポリウレタン残渣数が1,000個以下であると好ましく、500個以下であるとより好ましく、250個以下であるとさらに好ましく、150個以下であると特に好ましい(下限0個)。一方、ポリウレタン残渣数は少ないほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、例えば、50個以上であってもよい。
【0162】
なお、上記の各残渣数は実施例に記載の方法により表面処理を行った後、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0163】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0164】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0165】
[1]表面処理組成物を用いて、窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理方法であって、
前記表面処理組成物は、負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、
前記表面処理組成物によって、前記窒化ケイ素のゼータ電位、および前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御することを含む、表面処理方法;
[2]前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、前記表面処理組成物によって、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する、[1]に記載の表面処理方法;
[3]前記残渣は、ポリウレタンをさらに含み、前記表面処理組成物によって、前記ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御することをさらに含む、[1]または[2]に記載の表面処理方法;
[4]前記ゼータ電位調整剤は、重量平均分子量が1,000以上である、アニオン性基を有する高分子である、[1]~[3]のいずれかに記載の表面処理方法;
[5]前記アニオン性基を有する高分子は、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、ホスホン酸(塩)基、リン酸(塩)基、およびカルボン酸(塩)基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有する、[4]に記載の表面処理方法;
[6]前記表面処理組成物は、さらにpH調整剤を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の表面処理方法;
[7]前記表面処理組成物のpH値は、2以上5未満である、[1]~[6]のいずれかに記載の表面処理方法;
[8]リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である、[1]~[7]のいずれかに記載の表面処理方法;
[9]研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、
無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物を使用して、窒化ケイ素を含む研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、
[1]~[8]のいずれかに記載の表面処理方法によって、前記研磨済半導体基板の表面における前記無機酸化物砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、
を含む、半導体基板の製造方法;
[10]前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、
前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御することを含む、[9]に記載の半導体基板の製造方法;
[11]前記研磨工程は、ポリウレタン製の研磨パッドを使用することを含み、前記残渣は、ポリウレタンをさらに含み、
前記表面処理工程で使用される前記表面処理組成物によって、前記ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御することをさらに含む、[9]または[10]に記載の半導体基板の製造方法;
[12]前記研磨パッドのショアA硬度は、40°以上100°以下である、[11]に記載の半導体基板の製造方法;
[13]窒化ケイ素を含む研磨済研磨対象物の表面における無機酸化物砥粒を含む残渣を低減するために用いられる、表面処理組成物であって、
負に帯電した官能基を有し、かつ25℃における濃度20質量%の水溶液の粘度が10mPa・s以上であるゼータ電位調整剤、および分散媒を含み、
前記窒化ケイ素のゼータ電位、および前記無機酸化物砥粒のゼータ電位を、それぞれ-30mV以下に制御する機能を有する、表面処理組成物;
[14]前記無機酸化物砥粒は、酸化セリウム砥粒を含み、
前記表面処理組成物は、前記酸化セリウム砥粒のゼータ電位を-30mV以下に制御する機能を有する、[13]に記載の表面処理組成物;
[15]前記残渣はポリウレタンをさらに含み、
前記表面処理組成物は、前記ポリウレタンのゼータ電位を-10mV以下に制御する機能をさらに有する、[13]または[14]に記載の表面処理組成物;
[16]リンス研磨用組成物または洗浄用組成物である、[13]~[15]のいずれかに記載の表面処理組成物;
[17]窒化ケイ素を含む研磨対象物、研磨パッド、無機酸化物砥粒を含む研磨用組成物、および[13]~[16]のいずれかに記載の表面処理組成物を含む、半導体基板の製造システムであって、
前記研磨用組成物および前記研磨パッドを用いて研磨した後の前記研磨対象物の表面を前記表面処理組成物と接触させる、半導体基板の製造システム。
【実施例0166】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0167】
[表面処理組成物の調製]
[表面処理組成物A1の調製]
ゼータ電位調整剤であるスルホン酸(塩)基含有単量体と、アクリル酸との共重合体1(ナトリウム塩、重量平均分子量10,000、東亞合成株式会社製、品番:アロン(登録商標)A-6012)と、pH調整剤である硝酸と、分散媒である水(脱イオン水)とを混合して、表面処理組成物A1を調製した。ゼータ電位調整剤の添加量(含有量、濃度)は、表面処理組成物A1の全質量に対して1.0g/kgとなる量とし、pH調整剤の添加量(含有量、濃度)は、表面処理組成物A1のpHが3(液温:25℃)となる量とした。pHの測定は、pHメータ(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により行った。
【0168】
[表面処理組成物A2~A5およびB1~B6の調製]
下記表1に記載のように、ゼータ電位調整剤または比較用化合物(ゼータ電位調整剤の代わりに用いる化合物を比較用化合物と称する)の要否、種類および添加量(含有量、濃度)を選択し、得られる表面処理組成物のpHが下記表1に記載のpHになるようpH調整剤の量を選択したこと以外は、表面処理組成物A1の調製と同様にして、各表面処理組成物A2~A5およびB1~B6を調製した。
【0169】
表面処理組成物A1~A5は、実施例において用いられる表面処理組成物であり、表面処理組成物B1~B6は、比較例において用いられる表面処理組成物である。
【0170】
ゼータ電位調整剤および比較用化合物の詳細を、以下に示す。
【0171】
・スルホン酸(塩)基含有単量体と、アクリル酸(塩)との共重合体1(ナトリウム塩、重量平均分子量10,000、東亞合成株式会社製、品番:アロン(登録商標)A-6012)、
・スルホン酸(塩)基含有単量体と、アクリル酸(塩)との共重合体2(ナトリウム塩、重量平均分子量3,000、株式会社日本触媒製、品番:アクアリック(登録商標)L
GL-246)、
・ポリビニルホスホン酸(30質量%水溶液、重量平均分子量40,000、富士フイルム和光純薬株式会社製、品番:PVphos acid,30%)、
・スルホン酸基含有ポリビニルアルコール(重量平均分子量30,000、三菱ケミカル株式会社製、品番:ゴーセネックス(登録商標)CKS-50)、
・ポリアクリル酸(重量平均分子量3,000、東亜合成株式会社製、品番:アロン(登録商標)AC10SL)、
・ポリビニルアルコール(重量平均分子量10,000、日本酢ビ・ポバール株式会社製、品番:JMR-10HH)、
・ポリビニルピロリドン(重量平均分子量40,000、東京化成株式会社製、品番:
PVP K30)。
【0172】
ゼータ電位調整剤および比較用化合物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリエチレングリコールを標準物質として測定した値である。
【0173】
得られた表面処理組成物の組成を下記表1に示す。
【0174】
[ゼータ電位調整剤および比較用化合物の20質量%水溶液の粘度]
ゼータ電位調整剤または比較用化合物と、水(脱イオン水)とを混合して、水溶液の全質量に対するゼータ電位調整剤または比較用化合物の濃度が20質量%の水溶液を得た。得られた水溶液について、動粘度計(株式会社鈴木理化学製、品番:手動粘度管No.50)を用いて、水温25℃での粘度(mPa・s)を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0175】
[実施例1~20、比較例1~24]
得られた表面処理組成物A1~A5およびB1~B6の性能評価を行うために、以下のように、研磨対象物に対するCMP工程を行った後、CMP工程を経て得られた研磨済研磨対象物に対するリンス研磨工程を実施した。なお、リンス研磨工程は、上記の表面処理組成物A1~A5およびB1~B6を用いて行うものである。
【0176】
[CMP工程]
まず、研磨対象物に対するCMP工程を行った。研磨対象物としては、後述するSiN基板とし、研磨用組成物としては、以下の2種類を準備した。
【0177】
「研磨用組成物」
・研磨用組成物C1(砥粒としてCeO砥粒を使用する研磨用組成物)
コロイダルセリア(ソルベイ社製 HC30)(平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:60nm、30質量%水分散液):1質量%
ポリアクリル酸アンモニウム(東亞合成株式会社製、アロン(登録商標)A-30SL、Mw:6,000、40質量%水溶液):0.6質量%
30質量%マレイン酸水溶液(関東化学株式会社製):0.2質量%
水:残
(pH4に調整)。
【0178】
・研磨用組成物C2(砥粒としてアニオン修飾SiO砥粒を使用する研磨用組成物)
アニオン修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で作製した、スルホン酸修飾コロイダルシリカ、平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm):2質量%
30質量%マレイン酸水溶液(関東化学株式会社製):0.002質量%
硫酸アンモニウム(関東化学株式会社製):0.25質量%
水:残
(pH3に調整)。
【0179】
「CMP工程」
研磨対象物として半導体基板であるSiN基板について、上記の研磨用組成物C1またはC2を使用し、それぞれ下記の条件にて研磨を行った。なお、下記の各研磨パッドのショアA硬度は、JIS K 6253-3:2012に準拠し、タイプAデュロメーターに基づき測定された値である。SiN基板は、300mmウェーハ(株式会社アドバンテック社製、品番:(CVD-)LP-SiN 2500A)を使用した;
-研磨装置および研磨条件-
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:下記のいずれかを使用
・富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド H800-Type1(ショアA硬度:89.4°)
・富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド H800-CZM(ショアA硬度:78.9°)
・富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド X400-CZM(ショアA硬度:76.3°)
コンディショナー(ドレッサー):ナイロンブラシ(3M社製)
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:80rpm
ヘッド回転数:80rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:30秒。
【0180】
[リンス研磨処理工程]
上記CMP工程にてSiN基板表面を研磨した後、研磨済研磨対象物として研磨済SiN基板を研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、同じ研磨装置内で、研磨済SiN基板を別の研磨定盤(プラテン)上に取り付け、下記の条件にて、上記で調製した表面処理組成物A1~A5およびB1~B6のそれぞれを用いて、研磨済SiN基板表面に対してリンス研磨処理を行った;
-リンス研磨装置およびリンス研磨条件-
研磨圧力:1.0psi
定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
表面処理組成物の供給:掛け流し
表面処理組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒。
【0181】
リンス研磨処理後、脱イオン水を用いて60秒間、基板表面のブラシ洗浄を行い、リンス研磨済の研磨済SiN基板を得た。
【0182】
<評価>
上記リンス研磨工程後の各研磨済SiN基板について、下記項目について測定し評価を行った。評価結果は、下記表2~表5に示す。
【0183】
下記表2は、研磨工程において、研磨用組成物C1を用いて、研磨パッドとしてH800-Type1を用いて、SiN基板(研磨対象物)を研磨して得られた「研磨済SiN基板に対する各表面処理組成物A1~A5およびB1~B6の評価結果(実施例1~5および比較例1~6)」を示すものである。
【0184】
下記表3は、研磨工程において、研磨用組成物C1を用いて、研磨パッドとしてH800-CZMを用いて、SiN基板(研磨対象物)を研磨して得られた「研磨済SiN基板に対する各表面処理組成物A1~A5およびB1~B6の評価結果(実施例6~10および比較例7~12)」を示すものである。
【0185】
下記表4は、研磨工程において、研磨用組成物C1を用いて、研磨パッドとしてX400-CZMを用いて、SiN基板(研磨対象物)を研磨して得られた「研磨済SiN基板に対する各表面処理組成物A1~A5およびB1~B6の評価結果(実施例11~15および比較例13~18)」を示すものである。
【0186】
下記表5は、研磨工程において、研磨用組成物C2を用いて、研磨パッドとしてH800-Type1を用いて、SiN基板(研磨対象物)を研磨して得られた「研磨済SiN基板に対する各表面処理組成物A1~A5およびB1~B6の評価結果(実施例16~20および比較例19~24)」を示すものである。
【0187】
[総残渣数の評価]
総残渣数は、ケーエルエー・テンコール株式会社製、光学検査機Surfscan(登録商標)SP5を用いて、リンス研磨処理後の研磨済SiN基板表面上の残渣数を評価した。具体的には、研磨済SiN基板の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分について、直径50μmを超える残渣の数をカウントした。残渣数は少ないほど好ましい。この結果を下記表2~表5に示す。なお、総残渣数が200,000個を超えた場合、個数の検出
ができないため、下記表2~表5において「>200000」と示す。
【0188】
[砥粒残渣数およびポリウレタン残渣数の評価]
上記リンス研磨処理後の研磨済SiN基板について、砥粒残渣数およびポリウレタン残渣数を、株式会社日立ハイテク製Review SEM RS6000を使用し、SEM観察によって測定した。まず、SEM観察にて、研磨済SiN基板の片面の外周端部から幅5mmの部分を除外した残りの部分に存在する残渣を100個サンプリングした。次いで、サンプリングした100個の残渣の中から、目視によるSEM観察にて残渣の種類(砥粒またはポリウレタン)を判別し、砥粒残渣(CeO残渣またはアニオン修飾SiO残渣)およびポリウレタン残渣のそれぞれについて、その個数を確認することで、残渣中の砥粒残渣の割合(%)およびポリウレタン残渣の割合(%)を算出した。そして、上述の総残渣数の評価により測定した直径50μmを超える総残渣数(個)と、SEM観察により算出した残渣中の砥粒残渣の割合(%)との積を、それぞれ、砥粒残渣数(個)として算出した。また、上述の総残渣数の評価により測定した直径50μmを超える総残渣数(個)と、SEM観察により算出した残渣中のポリウレタン残渣の割合(%)との積を、ポリウレタン残渣数(個)として算出した。
【0189】
表2~表5において、「砥粒残渣数」は、無機酸化物砥粒の残渣(CeO砥粒の残渣またはアニオン修飾SiO砥粒の残渣)の数であり、「ポリウレタン残渣数」とは、研
磨パッドに由来する残渣の数である。なお、総残渣数が200,000個を超えた場合、残渣における砥粒残渣数およびポリウレタン残渣の含有割合の算出ができなかった。残渣の大多数は砥粒残渣であることが考えられるため、表2~表5において、総残渣数が200,000個を超える場合は、砥粒残渣数を「>200000」と示し、ポリウレタン残渣数は「-」と示す。
【0190】
[無機酸化物砥粒のゼータ電位測定]
無機酸化物砥粒のゼータ電位は、スペクトリス株式会社製(マルバーン事業部)のZetasizer Nano ZSPにより測定された値である。表面処理組成物を用いてリンス研磨中のCeO砥粒のゼータ電位、および表面処理組成物を用いてリンス研磨中のアニオン修飾SiO砥粒のゼータ電位は、それぞれ、以下のようなモデル実験で測定された値とした。これらの値を下記表1に示す。
【0191】
(CeO砥粒)
上記で調製した表面処理組成物中にCeO粒子分散液(ソルベイ社製 HC30、平均一次粒子径:30nm、平均二次粒子径:60nmのコロイダルセリアの30質量%水分散液)を添加して、CeO粒子濃度0.02質量%の測定液を調製した(測定液中のCeO粒子の含有量(濃度)は、測定液の総質量に対して0.02質量%)。得られた測定液を上記装置(Zetasizer Nano ZSP)の測定専用セルに充填して、CeO砥粒のゼータ電位を測定した。
【0192】
(アニオン修飾SiO砥粒)
上記で調製した表面処理組成物にアニオン修飾SiO粒子分散液(アニオン修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で作製した、スルホン酸修飾コロイダルシリカ、平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm)の19.5質量%水分散液)を添加して、アニオン修飾SiO粒子濃度0.02質量%の測定液を調製した(測定液中のアニオン修飾SiO粒子の含有量(濃度)は、測定液の総質量に対して0.02質量%)。得られた測定液を上記装置(Zetasizer Nano ZSP)の測定専用セルに充填して、アニオン修飾SiO砥粒のゼータ電位を測定した。
【0193】
[研磨済SiN基板およびポリウレタンのゼータ電位測定]
研磨済SiN基板のゼータ電位、およびポリウレタンのゼータ電位は、それぞれ、アントンパールジャパン株式会社製の固体ゼータ電位測定器SurPASS3により測定された値である。表面処理組成物を用いてリンス研磨中の研磨済SiN基板表面のゼータ電位、および表面処理組成物を用いてリンス研磨中のポリウレタンのゼータ電位は、それぞれ、以下のようなモデル実験で測定された値とした。これらの値を下記表1に示す。
【0194】
ポリウレタンのゼータ電位は、60mm角に切断したポリウレタンパッド(富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド H800-Type1)を測定対象物として用いた。
【0195】
研磨済SiN基板表面のゼータ電位は、60mm角に切断したSiN基板(300mmウェーハ、株式会社アドバンテック社製、品番:(CVD-)LP-SiN 2500A)を測定対象物として用いた。
【0196】
これらの測定対象物を、それぞれゼータ電位計に設置した。次いで、上記で調製した表面処理組成物を測定対象物に通液させて、これらの測定対象物のゼータ電位をそれぞれ測定した。
【0197】
【表1】
【0198】
【表2】
【0199】
【表3】
【0200】
【表4】
【0201】
【表5】
【0202】
表2~表4に示すように、実施例1~15において、SiN基板を研磨用組成物C1(すなわち、砥粒としてCeO砥粒を使用する研磨用組成物)により研磨した後、表面処理組成物A1~A5を用いた研磨済SiN基板のリンス研磨により、研磨済SiN基板に
おける残渣(総残渣数)が著しく減っていることがわかった。
【0203】
また、表5に示すように、実施例16~20により、SiN基板を研磨用組成物C2(すなわち、砥粒としてアニオン修飾SiO砥粒を使用する研磨用組成物)により研磨した場合であっても、表面処理組成物A1~A5を用いた研磨済SiN基板のリンス研磨により、研磨済SiN基板における残渣(総残渣数)が著しく減ることがわかった。
【0204】
このことから、砥粒として酸化セリウム砥粒またはアニオン修飾酸化ケイ素砥粒を含む研磨用組成物を用いて窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨した場合、その研磨済研磨対象物を本発明の表面処理組成物により表面処理することによって、研磨済研磨対象物に付着する残渣(砥粒、研磨パッド)を十分に除去できることがわかる。
【0205】
なお、表面処理組成物を長期間保存または貯蔵する場合には、表面処理組成物は、防カビ剤(防腐剤)をさらに含むことが好ましい。防カビ剤(防腐剤)は上記結果に影響をほとんど及ぼさないまたは及ぼさないと考えられるので、防カビ剤(防腐剤)を含む表面処理組成物も上記と同様の結果となると考察される。