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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024315
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】SiC単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
C30B29/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116851
(22)【出願日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2021128833
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新谷 尚史
(72)【発明者】
【氏名】山形 則男
(72)【発明者】
【氏名】濱口 優
(72)【発明者】
【氏名】美濃輪 武久
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BE08
4G077CD04
4G077CD10
4G077EC08
4G077HA06
(57)【要約】
【解決手段】溶液法によるSiC単結晶の製造方法において、相対密度が50~90%のSiC焼結体に、Siと、Cの溶解度を高める金属元素Mとの合金を融液として予め含浸させておき、次いで該SiC焼結体からなるSiC坩堝にSi、及びCの溶解度を高める金属元素Mを収容し、該SiC坩堝中のSi及び金属元素Mを溶融させてSi-C溶液を形成する。
【効果】Si-C溶液が、焼結体内部に浸入するため、加熱により、SiC焼結体の成分であるSiCが、焼結体内部からもSi-C溶液中に溶出し、Si、Cが、Si-C溶液に効率よく供給される。その結果、Si、Cが、SiC坩堝のSi-C溶液との接触部全体から均等、かつ過不足なく供給され、速い成長速度で、高品質なSiC単結晶を、長時間に亘って安定的に製造することが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対密度が50~90%のSiC焼結体で形成されたSiC坩堝に、Si、及びCの溶解度を高める金属元素Mを収容し、Si及び前記金属元素Mを溶融させてSi-C溶液を形成し、前記SiC坩堝の加熱により、前記Si-C溶液と接触する前記SiC坩堝表面から該SiC坩堝の成分であるSiCを源とするSi及びCを前記Si-C溶液中に溶出させると共に、前記Si-C溶液の上部にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させてSiC単結晶を製造する方法であって、
Si、及びCの溶解度を高める金属元素Mを前記SiC坩堝に収容する前に、Siと前記金属元素Mとの合金を融液として、前記SiC焼結体に予め含浸させることを特徴とするSiC単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記金属元素Mが、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho及びLuの群から選択される少なくとも1種の第1の金属元素M1、及びTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuの群から選択される少なくとも1種の第2の金属元素M2の一方又は双方の金属元素である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属元素Mが、前記第1の金属元素M1及び前記第2の金属元素M2の双方の金属元素であり、前記金属元素Mの前記Si-C溶液中の総含有率が、Si及びMの総量に対して1~80原子%である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1の金属元素M1の前記Si-C溶液中の含有率が、Si及びMの総量に対して10原子%以上であり、かつ前記第2の金属元素M2の前記Si-C溶液中の含有率が、Si及びMの総量に対して1原子%以上である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属元素Mが、Ga、Ge、Sn、Pb及びZnの群から選択される少なくとも1種の第3の金属元素M3である請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
前記SiC焼結体の酸素含有率が100ppm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
SiC単結晶の成長を、前記Si-C溶液を1,300~2,300℃の温度で実施する請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記SiC坩堝を、耐熱性炭素材料からなる第2の坩堝内に収容した状態で実施する請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素(SiC)の結晶成長技術に関し、低欠陥で高品質なSiC単結晶を、長時間に亘って安定的に製造することを可能とするSiC単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、ワイドバンドギャップ半導体材料であり、熱伝導性及び化学的安定性に優れ、絶縁破壊特性及び飽和ドリフト速度などのトランジスタ特性の観点からも、パワーデバイスとしての優れた基本的物理特性を有している。このような理由により、SiCは、次世代のパワーデバイス用の材料としての期待が高まっており、SiCパワーデバイスの製品化も報告されている。
【0003】
しかし、SiC基板は、Si基板と比較して高価であることに加え、単結晶基板の低欠陥化・高品質化が十分ではないという問題がある。低欠陥で高品質なSiC単結晶基板の製造が難しい主な理由は、SiCが、常圧下では融解しないことにある。半導体デバイス用基板として広く用いられるSiの場合、常圧下での融点は1,414℃であり、Si融液から、CZ法やFZ法により低欠陥・高品質で、大口径の単結晶を得ることができる。
【0004】
これに対して、SiCの場合、常圧下で加熱すると2,000℃程度の温度で昇華してしまうため、CZ法やFZ法による結晶成長方法は採用できない。そのため、現在では、SiC単結晶は、主として、改良レーリ法をはじめとする昇華法により製造されている。昇華法は、現時点での、SiC単結晶の量産の唯一の方法で、この方法で製造された4インチ径のSiC単結晶基板は広く市販されており、6インチ径のSiC単結晶基板を量産化するとの報告もある。
【0005】
しかしながら、昇華法により得られたSiC単結晶を用いてパワーデバイスを作製しても、その特性は必ずしも十分とは言えない。その原因は、SiC単結晶の低欠陥化が容易ではないことにある。昇華法による結晶成長は、気相からの析出現象であり、成長速度は遅く、反応空間内の温度管理も難しい。近年では、精力的な改良・改善の結果、マイクロパイプの転位密度は低減してきているものの、貫通らせん転位や刃状転位、基底面転位などの、デバイスの電気特性に影響を与える格子欠陥に関しては、未だ、高い密度で内在しているという状況にある。
【0006】
そこで、最近では、溶液法によるSiCの結晶成長方法が注目されるようになってきた(例えば、特開2000-264790号公報(特許文献1)、特開2004-002173号公報(特許文献2)、特開2006-143555号公報(特許文献3))。上述のように、SiCそのものは、常圧下では融解しない。そこで、溶液法によるSiC単結晶の製造方法では、黒鉛坩堝内のSi融液に、坩堝の下方の高温部からCを溶解させ、このSi-C融液に、SiC種結晶を接触させ、SiC種結晶上にエピタキシャル成長させてSiC単結晶を得ている。このような溶液法では、SiCの結晶成長が、熱平衡にきわめて近い状態で進行するため、昇華法で得られたSiC単結晶に比べて、低欠陥なものが得られる。
【0007】
SiC単結晶を得るための溶液法には、種々の手法があり、「SiCパワーデバイス最新技術」 第4章 第1節 1.2 SiC溶液成長の手法、41~43頁、S&T出版株式会社、2010年5月14日発行(非特許文献1)では、溶媒移動結晶成長法(TSM: Traveling Solvent Method)、徐冷法(SCT: Slow Cooling Technique)、蒸気液相固相法(VLS: Vapor Liquid Solid)、種付け溶液成長法(TSSG: Top Seeded Solution Growth)の4つに大別されている。本発明において、「溶液法」は、特記しない限り、種付け溶液成長法(TSSG)を意味する。
【0008】
溶液法によるSiC単結晶の製造方法では、黒鉛坩堝内に、まず、Si融液を形成し、これにCを溶解させて、Si-C溶液を形成するが、Si-C溶液のCの溶解度は1原子%程度と極めて低いため、Cを溶解し易くするために、一般に、Si-C溶液に遷移金属などを添加する(特許文献1~3)。添加元素としては、Ti、Cr、Ni、Feなどの遷移金属元素をはじめとして、Al、Sn、Gaなどの低融点金属元素、更には、各種の希土類元素などが報告されている。このような添加元素の種類と量は、Cの溶解を助長すること、Si-C溶液からSiCが初晶として析出し、残部が液相として上手く平衡すること、添加元素が炭化物やその他の相を析出させないこと、SiCの結晶多型のうち、目的とする多型が安定して析出すること、更には、なるべく単結晶の成長速度を高くする溶液組成にできることなどを考慮して決定される。
【0009】
従来の溶液法によるSiC単結晶の成長は、一般に、下記のような手順によって行われる。まず、炭素又は黒鉛からなる坩堝にSi原料を収容し、これを不活性ガス雰囲気下で加熱して融解させる。C成分は坩堝からSi融液中に供給され、Si-C溶液となる。Si原料と共に、炭素化合物を坩堝に収容し、これを溶融させる場合もある。このようにSi-C溶液に、C成分が十分に溶解した後に、SiCの種結晶をSi-C溶液に接触させ、溶液全体に形成させた温度勾配を利用して単結晶を成長させる。
【0010】
しかし、このような従来の溶液法には、次のような問題点がある。第1は、SiC単結晶の成長につれて、Si-C溶液から徐々にSi成分が失われ、溶液組成が次第に変化してしまう問題である。SiCの単結晶の成長中に溶液組成が変化すれば、当然に、SiCの析出環境は変化する。その結果、SiCの単結晶成長を、長時間、安定して継続することは難しくなる。第2は、坩堝からのCの過剰な融け込みの問題である。SiCの単結晶成長につれて、Si-C溶液から徐々にSi成分が失われる一方で、Cは継続的に坩堝から供給される。そのため、Si-C溶液には、相対的にCが過剰に融け込むという結果となり、Si-C溶液のSi/C組成比が変化してしまう。第3は、Si-C溶液と接触する坩堝表面(特に内壁面)でのSiC多結晶の析出の問題である。上述のように、坩堝からSi-C溶液中にCが過剰に融け込むと、坩堝内壁面に微細なSiC多結晶が発生し易くなる。そして、このようなSiC多結晶(雑結晶)は、SiC溶液中を浮遊し、結晶成長中のSiC単結晶とSi-C溶液との固液界面近傍に達して、単結晶成長を阻害する結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-264790号公報
【特許文献2】特開2004-002173号公報
【特許文献3】特開2006-143555号公報
【特許文献4】特開2015-110495号公報
【特許文献5】特開2015-110496号公報
【特許文献6】特開2015-110498号公報
【特許文献7】特開2015-110499号公報
【特許文献8】特開2015-110500号公報
【特許文献9】特開2015-110501号公報
【特許文献10】特開2017-031034号公報
【特許文献11】特開2017-031036号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「SiCパワーデバイス最新技術」 第4章 第1節 1.2 SiC溶液成長の手法、41~43頁、S&T出版株式会社、2010年5月14日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような従来法が抱える問題に鑑みてなされたもので、Si-C溶液の組成変動を少なくし、また、坩堝の内面に析出するSiC多結晶の発生を抑制して、従来の黒鉛坩堝を用いる方法に比べて、速い成長速度で、低欠陥で高品質なSiC単結晶を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従来の溶液法では、黒鉛坩堝に代表されるような耐熱性炭素材料からなる坩堝を用い、C坩堝にSi-C溶液を収容すると共に、C坩堝からCを溶出させて溶液中にCを補給する。しかし、この場合、SiCの結晶成長が進むにつれて、Si-C溶液中のSi成分の組成比の低下は避けられない。
【0015】
本発明者らは、溶液法において、SiとCを、SiCを源としてSi-C溶液に供給する方法を提案(特開2015-110495号公報(特許文献4)、特開2015-110496号公報(特許文献5)、特開2015-110498号公報(特許文献6)、特開2015-110499号公報(特許文献7)、特開2015-110500号公報(特許文献8)、特開2015-110501号公報(特許文献9)、特開2017-031034号公報(特許文献10)、特開2017-031036号公報(特許文献11))してきたが、生産性を向上させるためには、SiC坩堝から、より効率良くSiCを溶出させて、成長速度を向上させる必要がある。しかし、Si-C溶液とSiC坩堝との接触面積が、SiC坩堝からのSiCの溶出量の律速となっている反面、Si-C溶液とSiC坩堝との接触面積は限られており、更に、SiC溶液の体積を大きくすればするほど、容積に対する接触面積の比が低くなるため、SiCの溶出が更に不足することになる。
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、相対密度が50~90%のSiC焼結体に、Siと、Cの溶解度を高める金属元素Mとの合金を融液として予め含浸させてSiC坩堝とし、次いで該SiC坩堝にSi、及びCの溶解度を高める金属元素Mを収容し、該SiC坩堝中のSi及び金属元素Mを溶融させてSi-C溶液を形成し、前記SiC坩堝の加熱により、前記Si-C溶液と接触する前記SiC焼結体表面から該SiC焼結体の構成成分を源とするSi及びCを前記Si-C溶液中に溶出させると共に、前記Si-C溶液の上部にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させることにより、Si-C溶液がSiC焼結体の内部まで浸入して、効率よくSi-C溶液にSiCが溶出するため、Si-C溶液の組成変動を少なくし、また、坩堝の内面に析出するSiC多結晶の発生を抑制して、従来の黒鉛坩堝を用いる方法に比べて、速い成長速度で、低欠陥で高品質なSiC単結晶を製造することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0017】
従って、本発明は、下記のSiC単結晶の製造方法を提供する。
1.
相対密度が50~90%のSiC焼結体で形成されたSiC坩堝に、Si、及びCの溶解度を高める金属元素Mを収容し、Si及び前記金属元素Mを溶融させてSi-C溶液を形成し、前記SiC坩堝の加熱により、前記Si-C溶液と接触する前記SiC坩堝表面から該SiC坩堝の成分であるSiCを源とするSi及びCを前記Si-C溶液中に溶出させると共に、前記Si-C溶液の上部にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させてSiC単結晶を製造する方法であって、
Si、及びCの溶解度を高める金属元素Mを前記SiC坩堝に収容する前に、Siと前記金属元素Mとの合金を融液として、前記SiC焼結体に予め含浸させることを特徴とするSiC単結晶の製造方法。
2.
前記金属元素Mが、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho及びLuの群から選択される少なくとも1種の第1の金属元素M1、及びTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuの群から選択される少なくとも1種の第2の金属元素M2の一方又は双方の金属元素である1記載の製造方法。
3.
前記金属元素Mが、前記第1の金属元素M1及び前記第2の金属元素M2の双方の金属元素であり、前記金属元素Mの前記Si-C溶液中の総含有率が、Si及びMの総量に対して1~80原子%である2記載の製造方法。
4.
前記第1の金属元素M1の前記Si-C溶液中の含有率が、Si及びMの総量に対して10原子%以上であり、かつ前記第2の金属元素M2の前記Si-C溶液中の含有率が、Si及びMの総量に対して1原子%以上である3記載の製造方法。
5.
前記金属元素Mが、Ga、Ge、Sn、Pb及びZnの群から選択される少なくとも1種の第3の金属元素M3である1記載の製造方法。
6.
前記SiC焼結体の酸素含有率が100ppm以下である1~5のいずれかに記載の製造方法。
7.
SiC単結晶の成長を、前記Si-C溶液を1,300~2,300℃の温度で実施する1~6のいずれかに記載の製造方法。
8.
前記SiC坩堝を、耐熱性炭素材料からなる第2の坩堝内に収容した状態で実施する1~7のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
従来のSiC坩堝は、緻密であったため、Si-C溶液が接触した表面のうち、例えば、坩堝底隅部などの高温部からSi、Cが局所的に溶出していたが、本発明によれば、焼結体の相対密度が50~90%であるため、Si-C溶液が、焼結体内部に浸入する。そのため、加熱により、SiC焼結体の成分であるSiCが、Si及びCの源として、焼結体内部からもSi-C溶液中に溶出し、Si及びCが、Si-C溶液に効率よく供給される。その結果、Si及びCが、SiC坩堝のSi-C溶液との接触部全体から均等、かつ過不足なく供給され、速い成長速度で、高品質なSiC単結晶を、長時間に亘って安定的に製造することが可能となる。このようにして得られるSiC単結晶は、パワーデバイスなどのSiC半導体素子に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】SiC単結晶を結晶成長させる際に好適に用いられるSiC単結晶の製造装置の主要部の一例を示す断面図である。
図2】相対密度が50~90%のSiC焼結体で形成されたSiC坩堝を用いてSiC単結晶を結晶成長させる際の、SiC坩堝内からSi-C溶液中にSi及びCが溶出する様子を説明するための概念図である。
図3】従来の緻密なSiC坩堝を用いてSiC単結晶を結晶成長させる際の、SiC坩堝内からSi-C溶液中にSi及びCが溶出する様子を説明するための概念図である。
図4】実施例1で得られたSiC単結晶の育成面の観察写真である。
図5】比較例1で得られたSiC結晶の育成面の観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明のSiC単結晶の製造方法は、坩堝に収容されたSi-C溶液(Si-C融液)に種結晶を接触させてSiC単結晶を成長させる溶液法(即ち、種付け溶液成長法(TSSG))による製造方法であり、相対密度が50~90%のSiC焼結体で形成されたSiC坩堝に、Si、及びCの溶解度を高める金属元素Mを収容し、Si及び前記金属元素Mを溶融させてSi-C溶液を形成し、前記SiC坩堝の加熱により、前記Si-C溶液と接触する前記SiC坩堝表面から該SiC坩堝の成分であるSiCを源とするSi及びCを前記Si-C溶液中に溶出させると共に、前記Si-C溶液の上部にSiC種結晶を接触させて、該SiC種結晶上にSiC単結晶を成長させてSiC単結晶を製造する方法であって、
Si、及びCの溶解度を高める金属元素Mを前記SiC坩堝に収容する前に、Siと前記金属元素Mとの合金を融液として、前記SiC焼結体に予め含浸させることを特徴とする。
【0021】
図1は、本発明において、SiC単結晶を結晶成長させる際に好適に用いられるSiC単結晶の製造装置(加熱炉)の一例を示す断面図である。図中、1はSi-C溶液の収容部であるSiC坩堝、2はSiC坩堝1を収容する耐熱性炭素材料からなる第2の坩堝、3はSiC単結晶(種結晶)、4はSiC坩堝1内に収容されたSi-C溶液、5はSiC単結晶の結晶成長中にSiC坩堝1及び第2の坩堝2を回転させるための回転軸、6はSiC単結晶3を保持し、かつSiC単結晶の結晶成長中に回転させるための回転軸、7は黒鉛材料などで形成されたサセプタ、8は黒鉛材料などで形成された断熱材、9はSi-C溶液の揮散を抑えるための上蓋、10は炉内を加熱して、Si-C溶液を所定の温度及び温度分布にするための高周波コイルである。なお、図示はしていないが、加熱炉内の雰囲気を真空にするための排気口及び排気バルブ、ガス導入のためのガス導入口及びガス導入バルブが設けられている。
【0022】
加熱前の坩堝には、通常Siが充填されるが、C源を一緒に充填しておいてもよい。坩堝の内部を加熱すると、加熱直後はSi融液、Cが溶解した後はSi-C溶液と接触するSiC坩堝の表面から、その成分であるSi及びCが、Si融液又はSi-C溶液に溶出する。なお、加熱前の坩堝には、Si又はSi及びCと共に、SiCを充填することも可能である。
【0023】
本発明において、前記SiC焼結体の相対密度が50%以上、好ましくは70%以上で、90%以下、好ましくは88%以下、より好ましくは85%以下である。ここで相対密度とは、SiCの真密度3.22g/cm3に対するSiC焼結体の測定密度又は算出密度の比(%)、即ちSiC焼結体の測定密度又は算出密度をSiCの真密度で除した値の百分率である。なお、測定密度は、例えば、SiC焼結体をアルキメデス法により測定した値(密度)である。また、算出密度は、SiC焼結体の質量をSiC焼結体の測定寸法(即ち、円筒形状の坩堝の場合、外径、高さ、内径(収容部の径)、収容部の高さ)から算出したSiC焼結体の体積で除することにより求められる値(密度)である。
【0024】
相対密度が前記範囲内のSiC焼結体で形成されたSiC坩堝は、乾式プレス法やスリップキャスト法などにより得ることができるが、これら製造方法に限定されるものではない。
【0025】
SiC坩堝1内に収容されたSi-C溶液4には、Si-C溶液のCの溶解度を高める金属元素Mが添加されている。Si-C溶液に、Cの溶解度を高める金属元素Mを添加して用いる場合、SiC坩堝を用いると、添加した金属元素Mと炭素Cとが結合して形成される金属炭化物の形成が抑制されることから有利である。C坩堝(黒鉛坩堝)を用いた場合には、Si-C溶液中のSi組成比が低下したり、Cが過剰に溶け込んだりして、Si/C組成比が低くなると、Cの溶け込みを容易化するために添加されている金属元素Mが、Cと結合し易くなり、金属炭化物が形成される傾向にある。このような金属炭化物の融点は高く、Si-C溶液中を浮遊し、種結晶表面近傍に達して付着した場合、SiC単結晶が形成できなくなる。これに対して、SiC坩堝を用いた場合には、Si-C溶液中に炭素Cが過剰に溶け込むことがなく、その結果、金属炭化物の形成が抑制されることから、SiC単結晶の成長が阻害され難い。
【0026】
相対密度が50~90%のSiC焼結体で形成されたSiC坩堝1に、その空孔部がSi-C溶液などの融液(常温では固体)で満たされていない空の状態、例えば、使用前のSiC坩堝の状態で、Si、及びCの溶解度を高める金属元素Mを収容し、Si及び前記金属元素Mを溶融させてSi-C溶液を形成する場合、金属元素Mを、単体で又はSiを含まない合金で収容すると、融点の低い金属又は合金が優先的にSiC焼結体に浸入してしまい、金属元素MとSiC坩堝とが反応する、SiC坩堝内のSi-C溶液の組成が、所望の組成からずれてしまうなどの問題が生じる。そのため、本発明では、Si、及びCの溶解度を高める金属元素MをSiC坩堝に収容する前に、Siと金属元素Mとの合金、好ましくは組成比がSiC単結晶を成長させる際のSi-C溶液とほぼ同じ合金を融液として、SiC焼結体、即ち、SiC焼結体の空孔部内に予め含浸させ、これをSiC坩堝1とする。具体的には、合金をSiC坩堝に収容し、例えば、1,300℃以上、特に1,500℃以上で、2,300℃以下、特に2,000℃以下の範囲内で熱処理する方法が挙げられる。この熱処理時間は、通常1~10時間である。また、含浸雰囲気としては、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気や窒素ガス雰囲気などのガス雰囲気、真空雰囲気などが挙げられる。
【0027】
金属元素Mとしては、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho及びLuの群から選択される少なくとも1種の第1の金属元素M1、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuの群から選択される少なくとも1種の第2の金属元素M2、Ga、Ge、Sn、Pb及びZnの群から選択される少なくとも1種の第3の金属元素M3などを例示することができる。金属元素MのSi-C溶液中の総含有率は、Si及びMの総量に対して1原子%以上、特に20原子%以上で、80原子%以下、特に50原子%以下であることが好ましい。Si-C溶液に金属元素Mを含有させる場合は、加熱前の坩堝に、Si、及び任意に添加されるC及び/又はSiCと共に、金属元素Mを、各々の金属単独で又は合金として、坩堝に充填すればよい。
【0028】
第1~第3の金属元素M1、M2及びM3は、各々単独で用いても、組み合わせて用いてもよいが、金属元素M1と金属元素M2との組み合わせが好適である。この場合、第1の金属元素M1のSi-C溶液中の含有率を、Si及びMの総量に対して10原子%以上、特に12原子%以上とすることが好ましく、また、第2の金属元素M2のSi-C溶液中の含有率を、Si及びMの総量に対して1原子%以上、特に10原子%以上とすることが好ましい。
【0029】
本発明においては、上述したような装置を用い、高周波コイル10からのSiC坩堝1への誘導加熱により、Si-C溶液4に、結晶成長に好適な温度分布を形成すると共に、このSi-C溶液4と接触するSiC坩堝1から、その成分であるSiCを源とするSi及びCをSi-C溶液4に溶出させる。そして、SiC坩堝1の上部で、Si-C溶液4にSiC種結晶3を接触させて、SiC種結晶3上にSiC単結晶を成長させる。従って、Si-C溶液と接触するSiC坩堝内面の温度は、その成分であるSiCの構成元素であるSi及びCをSi-C溶液4内に溶出させるのに十分な程度に高い温度とされる。また、SiC種結晶3とSi-C溶液4の固液界面近傍の温度は、SiC種結晶3上にSiCが単結晶として成長するために十分な程度の温度とされる。
【0030】
SiC単結晶の成長工程においては、高周波コイルからの誘導加熱条件を適切に制御すること、坩堝と高周波コイルとの位置関係(特に上下位置関係)を適切に設定すること、坩堝や、SiC単結晶(種結晶)を適切に回転させることなどによって、Si-C溶液において、所望の温度分布を形成することができ、これにより、SiC単結晶の成長速度と、Si-C溶液へのSiC坩堝成分の溶出速度とを適切に制御することができる。
【0031】
結晶成長時のSi-C溶液の温度は、好ましくは1,300℃以上、特に1,500℃以上で、2,300℃以下、特に2,000℃以下の範囲内に制御される。そして、SiC坩堝内の上部において、Si-C溶液に種結晶を接触させて、種結晶上にSiC単結晶を成長させる。従って、Si-C溶液の、SiC坩堝とSi-C溶液との接触部は、その少なくとも一部において、SiC坩堝からその成分をSi-C溶液に溶出させることができる高温域とする一方、種結晶又は種結晶上に結晶成長したSiC単結晶の成長面と、Si-C溶液との接触部は、種結晶上又は種結晶上に結晶成長したSiC単結晶上にSiCが単結晶として成長することができる低温域とする。そして、Si-C溶液の温度分布は、種結晶近傍からSiC坩堝の内面(即ちSi-C溶液との接触面)近傍に向かって、好ましくはSi-C溶液全体において種結晶近傍からSiC坩堝の内面(即ちSi-C溶液との接触面)近傍に向かって、温度が徐々に高くなる温度分布となっていることが好ましく、また、Si-C溶液の上部から下部に向かって、好ましくはSi-C溶液全体においてSi-C溶液の上部から下部に向かって、温度が徐々に高くなる温度分布となっていることが好ましい。この場合、高温域と低温域との温度差は、例えば、5℃以上、特に10℃以上で、200℃以下、特に100℃以下とすることが有効である。また、Si-C溶液の温度分布の勾配は、1℃/cm以上、特に5℃/cm以上で、50℃/cm以下、特に30℃/cm以下であることが好ましい。SiC単結晶の成長は、通常、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気で実施される。
【0032】
なお、図1には、坩堝の加熱を高周波で行う態様を示したが、加熱方法は高周波によるものに限定されず、Si-C溶液の制御温度などに応じて、抵抗加熱などの他の方法によって実施してもよい。
【0033】
図2は、相対密度が50~90%のSiC焼結体で形成されたSiC坩堝を用いてSiCを結晶成長させる際の、SiC坩堝からSi-C溶液中にSi及びCが溶出する様子を概念的に説明するための図である。Si-C溶液4に、結晶成長に好適な温度分布を形成すると、Si-C溶液4と接触するSiC坩堝1の表面(特に高温領域)から、SiC坩堝1の成分であるSiCを源とするSi及びCがSi-C溶液4内に溶出する。溶出したSi及びCは、Si-C溶液4の新たなSi成分及びC成分となり、SiC種結晶3上に成長する単結晶の源となる。なお、図中、2は第2の坩堝、6は回転軸、9は上蓋であり、各々、図1に対応する。
【0034】
このようなSiC坩堝1からのSi及びCのSi-C溶液4への溶出が生じる環境下にあっては、Si-C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出の問題は生じない。なぜならば、SiC坩堝1の成分であるSiCがSi及びCとしてSi-C溶液4へ溶出する条件下では、SiとCがSiCとして析出する余地はないからである。つまり、Si-C溶液の収容部としてSiCを成分とする坩堝を用いることにより、Si-C溶液と接触する坩堝表面でのSiC多結晶の析出が抑制される。
【0035】
更に、相対密度が50~90%のSiC焼結体で形成されたSiC坩堝を用いることにより、Si-C溶液は、SiC坩堝の表面に接触するのみならず、焼結体内部(空孔部)にも浸入して、図2中、矢印で示されるように、SiC坩堝の内部からもSiCが効率よく溶出して供給され、結晶成長速度が向上する上、SiC多結晶も抑制される。その結果、図2に示されるような、溶液内での状態が実現されることとなると考えられる。SiC坩堝を構成するSiC焼結体の相対密度が50%未満であると、SiC坩堝が溶解する際、SiCがSiC粒子として崩壊し、SiC粒子がSi-C溶液内を浮遊する状態が顕著に発生してしまい、また、90%を超えると、SiC溶液の焼結体内部(空孔部)への浸入がほとんど起こらず、SiCのSiC溶液への効率的な溶解が達成できない。
【0036】
これに対して、図3は、従来の緻密なSiC坩堝(例えば、相対密度が90%を超えるSiC焼結体で形成されたSiC坩堝)を用いてSiCを結晶成長させる際の、SiC坩堝からSi-C溶液中にSi及びCが溶出する様子を概念的に説明するための図であるが、この場合、Si-C溶液4は、SiC坩堝1の表面に接触するのみであり、Si-C溶液4へのSi及びCの溶出が不足するため、SiC坩堝1からのSiCの供給(Si-C溶液への溶解)が、SiC坩堝とSi-C溶液との接触部において均等とはならず、SiC坩堝の高温部、特に、図3中、矢印で示されるように、底隅部でのSiCの溶解が優位に進行してしまうため、長時間のSiC単結晶の育成が難しい。なお、図中、2は第2の坩堝、3はSiC種結晶、6は回転軸、9は上蓋であり、各々、図1に対応する。
【0037】
更に、本発明では、SiC坩堝1においてSiと金属元素Mとの合金、好ましくは組成比がSiC単結晶を成長させる際のSi-C溶液とほぼ同じ合金を融液として、SiC焼結体(SiC焼結体の空孔部内)に予め含浸させているので、Si及び前記金属元素Mを溶融させてSi-C溶液を形成した際に、金属元素Mが優先的にSiC坩堝と反応することがなく、SiC坩堝内のSi-C溶液の組成が所望の組成に維持されるようになる。
【0038】
SiC坩堝からは、継続的にSiとCが溶出してくるが、通常、坩堝と種結晶を回転させながら単結晶の育成を行えば、Si-C溶液は、撹拌効果によりSi-C溶液内の組成の均一化が可能である。
【0039】
なお、図1では、SiC坩堝1を収容する耐熱性炭素材料からなる第2の坩堝2を用い、SiC坩堝1を、耐熱性炭素材料からなる第2の坩堝2内に収容しているが、相対密度が50~90%のSiC焼結体で形成されたSiC坩堝を用いる本発明においては、SiC焼結体の空孔部を通してSi-C溶液がSiC坩堝外表面から漏れ出す場合があるため、SiC坩堝を、第2の坩堝内に収容した状態とすることが好ましい。この場合、第2の坩堝2は、Si-C溶液が漏れ出すことがない程度に緻密な材料で形成されていることが好ましい。また、第2の坩堝を用いることには、Si-C溶液中の温度分布の制御が容易となる利点もある。
【0040】
また、通常、SiC坩堝を構成するSiC焼結体中には、不純物として酸素が含まれている。SiC焼結体中に含まれる酸素は酸化物(SiO)を形成しており、SiOの沸点は約1,880℃であるため、Si-C溶液の温度がこの沸点以上の場合には、SiCの溶出に伴ってSiOがSi-C溶液中でガス化し、これがSi-C溶液と成長中のSiC単結晶の界面(固液界面)に達した場合、結晶成長表面において取り込まれ、SiC単結晶中にボイドを発生させるおそれがある。また、SiC焼結体中に含まれる酸素が、SiCの溶出に伴って、Si-C溶液に溶出し、Si-C溶液の温度がSiOの沸点未満の場合には、Si-C溶液中のSiと反応してSiOを形成し、これがSi-C溶液と成長中のSiC単結晶の界面(固液界面)に達した場合、結晶成長表面において取り込まれ、SiC単結晶にボイドを発生させるおそれがある。そのため、SiC焼結体は、酸素含有率が100ppm以下のものが好適である。
【0041】
溶液法では、種結晶としてSiC単結晶が準備されるが、この種結晶は、昇華法により得られたSiC単結晶や、溶液法(ここでは、上述した溶媒移動結晶成長法、徐冷法、蒸気液相固相法、種付け溶液成長法などが含まれる広義の溶液法を意味する。)により得られたSiC単結晶などのいずれをも用いることができる。
【0042】
本発明のSiC単結晶の製造方法によれば、相対密度が50~90%のSiC焼結体からなり、該SiC焼結体にSiとCの溶解度を高める金属元素Mとの合金が含浸されているSiC坩堝を用いることから、該SiC坩堝の加熱により、SiC焼結体の構成成分であるSiCが、Si及びCの源として、焼結体内部からもSi-C溶液中に溶出し、Si及びCが、Si-C溶液に効率よく供給される。その結果、Si及びCが、SiC坩堝のSi-C溶液との接触部全体から均等、かつ過不足なく供給され、速い成長速度(例えば、10μm/hr以上、特には100μm/hr以上であり、上限に特に制限はないが、例えば400μm/hrである。)で、SiC多結晶が付着することなく高品質なSiC単結晶を、長時間(例えば、1時間以上、特には5時間以上であり、上限に特に制限はないが、例えば15時間である。)に亘って安定的に製造することが可能となる。
【実施例0043】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0044】
[実施例1]
SiC焼結体坩堝(外径φ60mm、高さ70mm、内径(収容部の径)φ50mm、収容部の高さ60mm、相対密度80%、酸素含有率15ppmの焼結体)をSiC坩堝1として使用し、図1に示されるような製造装置でSiC単結晶の製造(結晶成長)を行った。SiC坩堝1には、SiC焼結体の空孔部全体積相当量(SiC焼結体の20体積%分)の組成がPr:16原子%、Fe:20原子%、Si:64原子%のPr-Fe-Si合金を仕込み、アルゴン雰囲気中、1,500℃で10hrの熱処理を行って、SiC焼結体の空孔部に合金を含浸させた。その後、Pr、Fe及びSiを、各々単体金属で、組成がPr:16原子%、Fe:20原子%、Si:64原子%となるように仕込み、密度計算に基づき、Si-C溶液の深さが27mmになるように量を調整した。種結晶3はφ21mm×10.4mmの単結晶(ポリタイプ:4H)をφ19mmの黒鉛製シード軸に育成面がC面となるよう接着したものを使用した。SiC坩堝1及びシード軸(回転軸6)を、互いに異なる回転方向(即ち、一方が時計回り、他方が反時計回り)に各々20rpmで回転させて、引き上げ速度0.1mm/hrとして、アルゴン雰囲気中、2,000℃で10hrの結晶成長を行った。
【0045】
得られた結晶を評価したところ、図4に示されるSiC単結晶の育成面の観察写真のように、SiC多結晶の付着がなく欠陥の無い平坦な単結晶が得られていた。また、成長厚みは10hrで2,550μmとなり、成長速度は255μm/hrであった。
【0046】
[比較例1]
SiC焼結体坩堝(外径φ60mm、高さ70mm、内径(収容部の径)φ50mm、収容部の高さ60mm、相対密度45%、酸素含有率15ppmの焼結体)を使用し、図1に示されるような製造装置でSiC単結晶の製造(結晶成長)を行った。SiC坩堝には、SiC焼結体の空孔に合金を含浸させることなく、Pr、Fe及びSiを、各々単体金属で、組成がPr:16原子%、Fe:20原子%、Si:64原子%となるように仕込み、密度計算に基づき、Si-C溶液の深さが27mmになるように量を調整した。種結晶3はφ21mm×10.4mmの単結晶(ポリタイプ:4H)をφ19mmの黒鉛製シード軸に育成面がC面となるよう接着したものを使用した。前記SiC坩堝及びシード軸(回転軸6)を、互いに異なる回転方向(即ち、一方が時計回り、他方が反時計回り)に各々20rpmで回転させて、引き上げ速度0.1mm/hrとして、アルゴン雰囲気中、2,000℃で10hrの結晶成長を行った。
【0047】
得られた結晶を評価したところ、図5に示されるSiC単結晶の育成面の観察写真のように、SiC多結晶が全体に付着していた。また、成長厚みは10hrで1,500μmとなり、成長速度は150μm/hrであった。
【0048】
実施例1及び比較例1の仕込み原料の各元素の融点は、Prが935℃、Feが1,538℃、Siが1,414℃であり、Prの融点が他の元素より極端に低くなっている。また、SiC単結晶を成長させた後のSiC坩堝から、坩堝内底部に残留したSi-C溶液が固体化した合金を取り出し組成分析を行ったところ、実施例1では、Pr:15.8原子%、Fe:20.2原子%、Si:64.0原子%と、所定の仕込み組成とほぼ同等であったのに対して、比較例1では、Pr:8.5原子%、Fe:23.0原子%、Si:68.5原子%と、Prの組成比が低く、所定の仕込み組成からずれていることが確認された。
【0049】
比較例1において、実施例1と同組成のSi及び金属元素M(Pr、Fe、Si)を用いたにも拘らず、SiC多結晶が付着し、成長速度が低下した原因は、金属(Pr、Fe、Si)を単体で仕込んだため、融点の低いPrが先に融解し、SiC坩堝に浸入したため、SiCの溶解性が高いPrが、SiCを多量に溶解させ、Prが不足して組成が所望の組成からずれているSi-C溶液に、更に、溶解した多量のSiCが供給されたため、SiCが飽和状態となってSiC多結晶が発生し、そのSiC多結晶が液面に浮遊し付着したと考えられる。
【符号の説明】
【0050】
1 SiC坩堝
2 第2の坩堝
3 SiC単結晶(種結晶)
4 Si-C溶液
5、6 回転軸
7 サセプタ
8 断熱材
9 上蓋
10 高周波コイル
図1
図2
図3
図4
図5