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  • 特開-位相差フィルム及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024447
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】位相差フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230209BHJP
   C08G 61/08 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G02B5/30
C08G61/08
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185806
(22)【出願日】2022-11-21
(62)【分割の表示】P 2021146677の分割
【原出願日】2016-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2015203855
(32)【優先日】2015-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊秀
(57)【要約】
【課題】NZ係数が小さく、薄く、位相差の発現性が高く、且つ容易に製造しうる位相差フィルムを提供する。
【解決手段】結晶性を有する重合体を含む樹脂からなり、NZ係数Nzが、0<Nz<1を満たし、前記重合体が脂環式構造含有重合体であり、前記脂環式構造含有重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合が、50重量%以上であり、かつ前記脂環式構造含有重合体が、環状オレフィン単量体の開環重合体もしくはその水素添加物、又は、環状オレフィン単量体の付加重合体もしくはその水素添加物である、位相差フィルム。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性を有する重合体を含む樹脂からなり、NZ係数Nzが、0<Nz<1を満たし、
前記重合体が脂環式構造含有重合体であり、
前記脂環式構造含有重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合が、50重量%以上であり、かつ
前記脂環式構造含有重合体が、環状オレフィン単量体の開環重合体もしくはその水素添加物、又は、環状オレフィン単量体の付加重合体もしくはその水素添加物である、位相差フィルム。
【請求項2】
Nz係数Nzが、0.3≦Nz<1を満たす、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
面内方向のレターデーションReが、125~170nm又は245~345nmである、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
面内方向のレターデーションReが、125~170nm又は245~345nmである、請求項2に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記脂環式構造含有重合体が、ジシクロペンタジエン開環重合体水素添加物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の表示装置において、様々な位相差フィルムを設けることが、広く行われている。
【0003】
位相差フィルムの製造方法としては、等方性の原反フィルムを延伸することにより、光学異方性を付与する方法が広く用いられている。しかしながら、このような製造方法では、ある種の位相差フィルムを製造することが困難である。例えば、三次元位相差フィルム、ネガティブAプレート、ポジティブCプレート等の、NZ係数が1未満のフィルムは、等方性のフィルムを単に延伸して得ることは困難である。
【0004】
小さいNZ係数の値を有する位相差フィルムを得る方法としてはいくつかの方法が提案されている。その一つとして、原反フィルムと収縮性フィルムとを貼合して積層フィルムを得て、これを収縮させることを含む方法が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-281667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表示画像の品質が高く、且つ装置の厚さが薄い表示装置を得るためには、従来のものより薄く、且つ位相差の発現性の高い位相差フィルムが求められる。1未満といった小さい値のNZ係数を有する位相差フィルムにおいては、薄く且つ位相差の発現性の高いものとするためには、Rthが負であり、且つ単位厚み当たりのRthの絶対値が大きいという特性が求められる。しかしながら、特許文献1等の従来技術では、そのような位相差フィルムを得るためには、収縮性フィルムによる大きな収縮を得る必要があるため、光学フィルムとしての品質を有するフィルムを容易に製造することは困難であった。
【0007】
従って、本発明の目的は、NZ係数が小さく、薄く、位相差の発現性が高く、且つ容易に製造しうる位相差フィルム、及びそのような位相差フィルムを容易に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために検討した結果、本発明者は、位相差フィルムを構成する樹脂として、結晶性を有する重合体を含む樹脂を採用することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
従って、本発明によれば、下記のものが提供される。
【0009】
〔1〕 結晶性を有する重合体を含む樹脂からなり、NZ係数が1未満の位相差フィルム。
〔2〕 NZ係数が0.7以下である、〔1〕に記載の位相差フィルム。

〔3〕 前記重合体が脂環式構造含有重合体である、〔1〕又は〔2〕に記載の位相差フィルム。
〔4〕 前記脂環式構造含有重合体が、ジシクロペンタジエン開環重合体水素添加物である、〔3〕に記載の位相差フィルム。
〔5〕 面内方向のレターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth及び厚みdが、Re≦10nm、Rth/d≦-5×10-3の関係を満たす、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の位相差フィルム。
〔6〕 〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法であって、
(1) 結晶性を有する重合体を含み、ガラス転移温度がTg(℃)、融点がTm(℃)である樹脂からなる第1フィルムの片面または両面に、第2フィルムを貼合して第3フィルムを得る貼合工程であって、前記第2フィルムは、(Tg+30)℃における少なくとも一方向の収縮率が5%以上、50%以下である、貼合工程;
(2) 前記第3フィルムを、Tg℃以上、(Tg+30)℃以下に加熱し、少なくとも一方向に収縮させ、その面積を5%以上、50%以下収縮させ、第4フィルムを得る、収縮工程;及び
(3) 前記第4フィルムを、(Tg+50)℃以上、(Tm-40)℃以下に加熱する、二次加熱工程
を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の位相差フィルムは、NZ係数が小さく、薄く、位相差の発現性が高く、且つ容易に製造しうる。本発明の位相差フィルムの製造方法では、そのような位相差フィルムを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の位相差フィルムの製造方法における、第3フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明の位相差フィルムの製造方法における、第4フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、フィルムの面内方向のレターデーションReは、別に断らない限り、「Re=(nx-ny)×d」で表される値であり、フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、「Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×d」で表される値であり、フィルムのNZ係数Nzは、「Nz=(nx-nz)/(nx-ny)=Rth/Re+0.5」で表される値である。ここで、nxは、そのフィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって、最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、そのフィルムの前記面内方向であってnxの方向に垂直な方向の屈折率を表す。nzは、そのフィルムの厚み方向の屈折率を表す。dは、そのフィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0014】
以下の説明において、要素の方向が「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0015】
〔1.位相差フィルムの概要〕
本発明の位相差フィルムは、結晶性を有する重合体を含む樹脂からなり、特定のNZ係数を有する。
【0016】
〔2.結晶性重合体及び結晶性樹脂〕
結晶性を有する重合体とは、示差走査熱量計(DSC)で観測することができる融点を有する重合体をいう。以下の説明において、この結晶性を有する重合体、及びそれを含む樹脂を、それぞれ単に「結晶性重合体」及び「結晶性樹脂」という場合がある。本発明の位相差フィルムは、結晶性樹脂からなることにより、NZ係数が1未満といった小さい値でありながら、薄く、位相差の発現性が高く、且つ容易に製造しうる位相差フィルムとしうる。
【0017】
結晶性樹脂としては、通常、固有複屈折値が正の樹脂を用いる。したがって、結晶性重合体としては、固有複屈折値が正の重合体を用いることが好ましい。ここで、固有複屈折値が正の樹脂及び重合体とは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも大きくなる樹脂及び重合体を表す。また、固有複屈折が負の樹脂及び重合体とは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも小さくなる樹脂及び重合体を表す。
【0018】
結晶性重合体としては、結晶性を有する脂環式構造含有重合体が好ましい。脂環式構造含有重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体であって、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素添加物をいう。結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、耐熱性及び低吸湿性に優れるので、光学フィルムに適したフィルムを実現できる。脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0019】
脂環式構造含有重合体が有する脂環式構造の例としては、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れるフィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0020】
脂環式構造含有重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。
また、脂環式構造含有重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、残部を構成する単位としては、任意の単位を使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0021】
結晶性の脂環式構造含有重合体の例としては、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れるフィルムが得られ易いことから、結晶性の脂環式構造含有重合体としては、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素添加物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素添加物であって、結晶性を有するもの。
【0022】
具体的には、結晶性の脂環式構造含有重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物であって結晶性を有するものがより好ましく、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
【0023】
以下、重合体(α)及び重合体(β)の製造方法を説明する。
重合体(α)及び重合体(β)の製造に用いうる環状オレフィン単量体は、炭素原子で形成された環構造を有し、該環中に炭素-炭素二重結合を有する化合物である。環状オレフィン単量体の例としては、ノルボルネン系単量体等が挙げられる。また、重合体(α)が共重合体である場合には、環状オレフィン単量体として、単環の環状オレフィンを用いてもよい。
【0024】
ノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環を含む単量体である。ノルボルネン系単量体の例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:エチリデンノルボルネン)及びその誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)等の、2環式単量体;トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)及びその誘導体等の、3環式単量体;7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン及びその誘導体等の、4環式単量体;などが挙げられる。
【0025】
前記の単量体における置換基の例としては、メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;プロパン-2-イリデン等のアルキリデン基;フェニル基等のアリール基;ヒドロキシ基;酸無水物基;カルボキシル基;メトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;などが挙げられる。また、前記の置換基は、1種類を単独で有していてもよく、2種類以上を任意の比率で有していてもよい。
【0026】
単環の環状オレフィンの例としては、シクロブテン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の環状モノオレフィン;シクロヘキサジエン、メチルシクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチルシクロオクタジエン、フェニルシクロオクタジエン等の環状ジオレフィン;等が挙げられる。
【0027】
環状オレフィン単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。環状オレフィン単量体を2種以上用いる場合、重合体(α)は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0028】
環状オレフィン単量体には、エンド体及びエキソ体の立体異性体が存在するものがありうる。環状オレフィン単量体としては、エンド体及びエキソ体のいずれを用いてもよい。また、エンド体及びエキソ体のうち一方の異性体のみを単独で用いてもよく、エンド体及びエキソ体を任意の割合で含む異性体混合物を用いてもよい。中でも、脂環式構造含有重合体の結晶性が高まり、耐熱性により優れるフィルムが得られ易くなることから、一方の立体異性体の割合を高くすることが好ましい。例えば、エンド体又はエキソ体の割合が、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。また、合成が容易であることから、エンド体の割合が高いことが好ましい。
【0029】
重合体(α)及び重合体(β)は、通常、そのシンジオタクチック立体規則性の度合い(ラセモ・ダイアッドの割合)を高めることで、結晶性を高くすることができる。重合体(α)及び重合体(β)の立体規則性の程度を高くする観点から、重合体(α)及び重合体(β)の構造単位についてのラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。
【0030】
ラセモ・ダイアッドの割合は、13C-NMRスペクトル分析により、測定しうる。具体的には、下記の方法により測定しうる。
オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体試料の13C-NMR測定を行う。この13C-NMR測定の結果から、オルトジクロロベンゼン-dの127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルの強度比に基づいて、重合体試料のラセモ・ダイアッドの割合を求めうる。
【0031】
重合体(α)の合成には、通常、開環重合触媒を用いる。開環重合触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。このような重合体(α)の合成用の開環重合触媒としては、環状オレフィン単量体を開環重合させ、シンジオタクチック立体規則性を有する開環重合体を生成させうるものが好ましい。好ましい開環重合触媒としては、下記式(A)で示される金属化合物を含むものが挙げられる。
【0032】
M(NR)X4-a(OR・L (A)
(式(A)において、
Mは、周期律表第6族の遷移金属原子からなる群より選択される金属原子を示し、
は、3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基、又は、-CH(Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基からなる群より選択される基を示す。)で表される基を示し、
は、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基からなる群より選択される基を示し、
Xは、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、及び、アルキルシリル基からなる群より選択される基を示し、
Lは、電子供与性の中性配位子を示し、
aは、0又は1の数を示し、
bは、0~2の整数を示す。)
【0033】
式(A)において、Mは、周期律表第6族の遷移金属原子からなる群より選択される金属原子を示す。このMとしては、クロム、モリブデン及びタングステンが好ましく、モリブデン及びタングステンがより好ましく、タングステンが特に好ましい。
【0034】
式(A)において、Rは、3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基、又は、-CHで表される基を示す。
の、3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基の炭素原子数は、好ましくは6~20、より好ましくは6~15である。また、前記置換基の例としては、メチル基、エチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;などが挙げられる。これらの置換基は、1種類を単独で有していてもよく、2種類以上を任意の比率で有していてもよい。さらに、Rにおいて、3位、4位及び5位の少なくとも2つの位置に存在する置換基が互いに結合し、環構造を形成していてもよい。
【0035】
3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基の例としては、無置換フェニル基;4-メチルフェニル基、4-クロロフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-シクロヘキシルフェニル基、4-メトキシフェニル基等の一置換フェニル基;3,5-ジメチルフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基等の二置換フェニル基;3,4,5-トリメチルフェニル基、3,4,5-トリクロロフェニル基等の三置換フェニル基;2-ナフチル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-2-ナフチル基等の置換基を有していてもよい2-ナフチル基;等が挙げられる。
【0036】
の、-CHで表される基において、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基からなる群より選択される基を示す。
の、置換基を有していてもよいアルキル基の炭素原子数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~10である。このアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。さらに、前記置換基の例としては、フェニル基、4-メチルフェニル基等の置換基を有していてもよいフェニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシル基;等が挙げられる。これらの置換基は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
の、置換基を有していてもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ベンジル基、ネオフィル基等が挙げられる。
【0037】
の、置換基を有していてもよいアリール基の炭素原子数は、好ましくは6~20、より好ましくは6~15である。さらに、前記置換基の例としては、メチル基、エチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。これらの置換基は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
の、置換基を有していてもよいアリール基の例としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基等が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、Rで表される基としては、炭素原子数が1~20のアルキル基が好ましい。
【0039】
式(A)において、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基からなる群より選択される基を示す。Rの、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基としては、それぞれ、Rの、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基として示した範囲から選択されるものを任意に用いうる。
【0040】
式(A)において、Xは、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、及び、アルキルシリル基からなる群より選択される基を示す。
Xのハロゲン原子の例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
Xの、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基としては、それぞれ、Rの、置換基を有していてもよいアルキル基、及び、置換基を有していてもよいアリール基として示した範囲から選択されるものを任意に用いうる。
Xのアルキルシリル基の例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
式(A)で示される金属化合物が1分子中に2以上のXを有する場合、それらのXは、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。さらに、2以上のXが互いに結合し、環構造を形成していてもよい。
【0041】
式(A)において、Lは、電子供与性の中性配位子を示す。
Lの電子供与性の中性配位子の例としては、周期律表第14族又は第15族の原子を含有する電子供与性化合物が挙げられる。その具体例としては、トリメチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ルチジン等のアミン類;等が挙げられる。これらの中でも、エーテル類が好ましい。また、式(A)で示される金属化合物が1分子中に2以上のLを有する場合、それらのLは、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
【0042】
式(A)で示される金属化合物としては、フェニルイミド基を有するタングステン化合物が好ましい。即ち、式(A)において、Mがタングステン原子であり、且つ、Rがフェニル基である化合物が好ましい。さらに、その中でも、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体がより好ましい。
【0043】
式(A)で示される金属化合物の製造方法は、特に限定されない。例えば、特開平5-345817号公報に記載されるように、第6族遷移金属のオキシハロゲン化物;3位、4位及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニルイソシアナート類又は一置換メチルイソシアナート類;電子供与性の中性配位子(L);並びに、必要に応じて、アルコール類、金属アルコキシド及び金属アリールオキシド;を混合することにより、式(A)で示される金属化合物を製造することができる。
【0044】
前記の製造方法では、式(A)で示される金属化合物は、通常、反応液に含まれた状態で得られる。金属化合物の製造後、前記の反応液をそのまま開環重合反応の触媒液として用いてもよい。また、結晶化等の精製処理により、金属化合物を反応液から単離及び精製した後、得られた金属化合物を開環重合反応に供してもよい。
【0045】
開環重合触媒は、式(A)で示される金属化合物を単独で用いてもよく、式(A)で示される金属化合物を他の成分と組み合わせて用いてもよい。例えば、式(A)で示される金属化合物と有機金属還元剤とを組み合わせて用いることで、重合活性を向上させることができる。
【0046】
有機金属還元剤の例としては、炭素原子数1~20の炭化水素基を有する周期律表第1族、第2族、第12族、第13族又は14族の有機金属化合物が挙げられる。このような有機金属化合物の例としては、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、フェニルリチウム等の有機リチウム;ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n-ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド等の有機マグネシウム;ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛等の有機亜鉛;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムイソブトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド、イソブチルアルミニウムジイソブトキシド等の有機アルミニウム;テトラメチルスズ、テトラ(n-ブチル)スズ、テトラフェニルスズ等の有機スズ;等が挙げられる。これらの中でも、有機アルミニウム又は有機スズが好ましい。また、有機金属還元剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
開環重合反応は、通常、有機溶媒中で行われる。有機溶媒は、開環重合体及びその水素添加物を、所定の条件で溶解もしくは分散させることが可能であり、かつ、開環重合反応及び水素化反応を阻害しないものを用いうる。このような有機溶媒の例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;これらを組み合わせた混合溶媒;等が挙げられる。これらの中でも、有機溶媒としては、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、エーテル溶媒が好ましい。また、有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0048】
開環重合反応は、例えば、環状オレフィン単量体と、式(A)で示される金属化合物と、必要に応じて有機金属還元剤とを混合することにより、開始させることができる。これらの成分を混合する順序は、特に限定されない。例えば、環状オレフィン単量体を含む溶液に、式(A)で示される金属化合物及び有機金属還元剤を含む溶液を混合してもよい。また、有機金属還元剤を含む溶液に、環状オレフィン単量体及び式(A)で示される金属化合物を含む溶液を混合してもよい。さらに、環状オレフィン単量体及び有機金属還元剤を含む溶液に、式(A)で示される金属化合物の溶液を混合してもよい。各成分を混合する際は、それぞれの成分の全量を一度に混合してもよいし、複数回に分けて混合してもよい。また、比較的に長い時間(例えば1分間以上)にわたって連続的に混合してもよい。
【0049】
開環重合反応の開始時における反応液中の環状オレフィン単量体の濃度は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上、特に好ましくは3重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下、特に好ましくは40重量%以下である。環状オレフィン単量体の濃度を前記下限値以上にすることにより、生産性を高くできる。また、上限値以下にすることにより、開環重合反応後の反応液の粘度を低くできるので、その後の水素化反応を容易に行うことができる。
【0050】
開環重合反応に用いる式(A)で示される金属化合物の量は、「金属化合物:環状オレフィン単量体」のモル比が、所定の範囲の収まるように設定することが望ましい。具体的には、前記のモル比は、好ましくは1:100~1:2,000,000、より好ましくは1:500~1,000,000、特に好ましくは1:1,000~1:500,000である。金属化合物の量を前記下限値以上にすることにより、十分な重合活性を得ることができる。また、上限値以下にすることにより、反応後に金属化合物を容易に除去できる。
【0051】
有機金属還元剤の量は、式(A)で示される金属化合物1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.2モル以上、特に好ましくは0.5モル以上であり、好ましくは100モル以下、より好ましくは50モル以下、特に好ましくは20モル以下である。有機金属還元剤の量を前記下限値以上にすることにより、重合活性を十分に高くできる。また、上限値以下にすることにより、副反応の発生を抑制することができる。
【0052】
重合体(α)の重合反応系は、活性調整剤を含んでいてもよい。活性調整剤を用いることで、開環重合触媒を安定化したり、開環重合反応の反応速度を調整したり、重合体の分子量分布を調整したりできる。
活性調整剤としては、官能基を有する有機化合物を用いうる。このような活性調整剤の例としては、含酸素化合物、含窒素化合物、含リン有機化合物等が挙げられる。
【0053】
含酸素化合物の例としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、フラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、ベンゾフェノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;エチルアセテート等のエステル類;等が挙げられる。
含窒素化合物の例としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、キヌクリジン、N,N-ジエチルアニリン等のアミン類;ピリジン、2,4-ルチジン、2,6-ルチジン、2-t-ブチルピリジン等のピリジン類;等が挙げられる。
含リン化合物の例としては、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート等のホスフィン類;トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類;等が挙げられる。
【0054】
活性調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
重合体(α)の重合反応系における活性調整剤の量は、式(A)で示される金属化合物100モル%に対して、好ましくは0.01モル%~100モル%である。
【0055】
重合体(α)の重合反応系は、重合体(α)の分子量を調整するために、分子量調整剤を含んでいてもよい。分子量調整剤の例としては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィン類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル、酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレート等の酸素含有ビニル化合物;アリルクロライド等のハロゲン含有ビニル化合物;アクリルアミド等の窒素含有ビニル化合物;1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、2-メチル-1,4-ペンタジエン、2,5-ジメチル-1,5-ヘキサジエン等の非共役ジエン;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等の共役ジエン;等が挙げられる。
【0056】
分子量調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
重合体(α)を重合するための重合反応系における分子量調整剤の量は、目的とする分子量に応じて適切に決定しうる。分子量調整剤の具体的な量は、環状オレフィン単量体に対して、好ましくは0.1モル%~50モル%の範囲である。
【0057】
重合温度は、好ましくは-78℃以上、より好ましくは-30℃以上であり、好ましくは+200℃以下、より好ましくは+180℃以下である。
重合時間は、反応規模に依存しうる。具体的な重合時間は、好ましくは1分間から1000時間の範囲である。
【0058】
上述した製造方法により、重合体(α)が得られる。この重合体(α)を水素化することにより、重合体(β)を製造することができる。
重合体(α)の水素化は、例えば、常法に従って水素化触媒の存在下で、重合体(α)を含む反応系内に水素を供給することによって行うことができる。この水素化反応において、反応条件を適切に設定すれば、通常、水素化反応により水素添加物のタクチシチーが変化することはない。
【0059】
水素化触媒としては、オレフィン化合物の水素化触媒として公知の均一系触媒及び不均一触媒を用いうる。
均一系触媒の例としては、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n-ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec-ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウム等の、遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドリドカルボニルビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の貴金属錯体触媒;等が挙げられる。
不均一触媒の例としては、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の金属触媒;ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の、前記金属をカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタンなどの担体に担持させてなる固体触媒が挙げられる。
水素化触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0060】
水素化反応は、通常、不活性有機溶媒中で行われる。不活性有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの脂環族炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;等が挙げられる。不活性有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、不活性有機溶媒は、開環重合反応に用いた有機溶媒と同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、開環重合反応の反応液に水素化触媒を混合して、水素化反応を行ってもよい。
【0061】
水素化反応の反応条件は、通常、用いる水素化触媒によって異なる。
水素化反応の反応温度は、好ましくは-20℃以上、より好ましくは-10℃以上、特に好ましくは0℃以上であり、好ましくは+250℃以下、より好ましくは+220℃以下、特に好ましくは+200℃以下である。反応温度を前記下限値以上にすることにより、反応速度を速くできる。また、上限値以下にすることにより、副反応の発生を抑制できる。
【0062】
水素圧力は、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.05MPa以上、特に好ましくは0.1MPa以上であり、好ましくは20MPa以下、より好ましくは15MPa以下、特に好ましくは10MPa以下である。水素圧力を前記下限値以上にすることにより、反応速度を速くできる。また、上限値以下にすることにより、高耐圧反応装置等の特別な装置が不要となり、設備コストを抑制できる。
【0063】
水素化反応の反応時間は、所望の水素添加率が達成される任意の時間に設定してもよく、好ましくは0.1時間~10時間である。
水素化反応後は、通常、常法に従って、重合体(α)の水素添加物である重合体(β)を回収する。
【0064】
水素化反応における水素添加率(水素化された主鎖二重結合の割合)は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。水素添加率が高くなるほど、脂環式構造含有重合体の耐熱性を良好にできる。
ここで、重合体の水素添加率は、オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、145℃で、H-NMR測定により測定しうる。
【0065】
次に、重合体(γ)及び重合体(δ)の製造方法を説明する。
重合体(γ)及び(δ)の製造に用いる環状オレフィン単量体としては、重合体(α)及び重合体(β)の製造に用いうる環状オレフィン単量体として示した範囲から選択されるものを任意に用いうる。また、環状オレフィン単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0066】
重合体(γ)の製造においては、単量体として、環状オレフィン単量体に組み合わせて、環状オレフィン単量体と共重合可能な任意の単量体を用いうる。任意の単量体の例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素原子数2~20のα-オレフィン;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香環ビニル化合物;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ジエン;等が挙げられる。これらの中でも、α-オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、任意の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0067】
環状オレフィン単量体と任意の単量体との量の割合は、重量比(環状オレフィン単量体:任意の単量体)で、好ましくは30:70~99:1、より好ましくは50:50~97:3、特に好ましくは70:30~95:5である。
【0068】
環状オレフィン単量体を2種以上用いる場合、及び、環状オレフィン単量体と任意の単量体を組み合わせて用いる場合は、重合体(γ)は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0069】
重合体(γ)の合成には、通常、付加重合触媒を用いる。このような付加重合触媒の例としては、バナジウム化合物及び有機アルミニウム化合物から形成されるバナジウム系触媒、チタン化合物及び有機アルミニウム化合物から形成されるチタン系触媒、ジルコニウム錯体及びアルミノオキサンから形成されるジルコニウム系触媒等が挙げられる。また、付加重合触媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0070】
付加重合触媒の量は、単量体1モルに対して、好ましくは0.000001モル以上、より好ましくは0.00001モル以上であり、好ましくは0.1モル以下、より好ましくは0.01モル以下である。
【0071】
環状オレフィン単量体の付加重合は、通常、有機溶媒中で行われる。有機溶媒としては、環状オレフィン単量体の開環重合に用いうる有機溶媒として示した範囲から選択されるものを任意に用いうる。また、有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0072】
重合体(γ)を製造するための重合における重合温度は、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-30℃以上、特に好ましくは-20℃以上であり、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、特に好ましくは150℃以下である。また、重合時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上であり、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0073】
上述した製造方法により、重合体(γ)が得られる。この重合体(γ)を水素化することにより、重合体(δ)を製造することができる。
重合体(γ)の水素化は、重合体(α)を水素化する方法として先に示したものと同様の方法により、行いうる。
【0074】
〔3.結晶性重合体の物性〕
本発明の位相差フィルムにおいて、結晶性重合体の結晶化度は、通常15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上である。このように高い結晶化度を有するまで結晶化が促進されたことにより、位相差フィルムが、1.0未満といった低いNZ係数を有することができる。さらに、通常は、結晶性重合体の結晶化度を前記下限値以上にすることにより、フィルムに高い耐熱性及び耐薬品性を付与することができる。結晶性重合体の結晶化度の上限に制限は無いが、好ましくは70%以下である。
重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0075】
結晶性重合体の融点は、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点を有する重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた位相差フィルムを得ることができる。また、このような融点を有することにより、後述する方法により、NZ係数が低い位相差フィルムを容易に製造することができる。
【0076】
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
【0077】
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する重合体は、成形加工性に優れる。
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
【0078】
結晶性重合体のガラス転移温度は、特に限定されないが、通常は85℃以上、170℃以下の範囲である。
【0079】
〔4.結晶性樹脂の任意成分等〕
結晶性樹脂において、結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性重合体の割合を前記下限値以上にすることにより、位相差フィルムの耐熱性を高めることができる。
【0080】
結晶性樹脂は、結晶性重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分の例としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;軟質重合体等の、結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0081】
〔5.位相差フィルムの物性〕
本発明の位相差フィルムは、そのNZ係数が1未満である。本発明の位相差フィルムを構成する樹脂として結晶性樹脂を採用し、製造方法として後述する製造方法を採用することにより、本発明の位相差フィルムとして、そのような物性を備えたフィルムを容易に製造することができる。本発明の位相差フィルムのNZ係数は、1未満である範囲において、用途に応じて所望の値に調整しうる。NZ係数は、好ましくは0.7以下としうる。NZ係数の下限は、特に限定されないが、例えば-1×10-6以上としうる。
【0082】
本発明の位相差フィルムは、ポジティブCプレート、ネガティブAプレート、又は三次元位相差フィルムとして用いうるのに適した物性を備えうる。
【0083】
〔5.1.ポジティブCプレート〕
ポジティブCプレートおいては、そのnx、ny及びnzが、nz>nx=nyの関係を満たす値であるか、又はそれに近い値である。したがって、その面内方向のレターデーションReは0かそれに近い値であり、Rthは0未満である。
【0084】
本発明の位相差フィルムをポジティブCプレートとして用いる場合は、その面内方向のレターデーションReは、好ましくは30nm以下、より好ましくは10nm以下、さらにより好ましくは5nm以下としうる。Reの下限は、特に限定されないが、0nm以上としうる。
厚み方向のレターデーションRthは、用途に応じて所望の値に調整しうる。Rthは、位相差フィルムが厚い場合は容易に高い値に設定しうる一方、表示装置の厚さを低減する観点からは、位相差フィルムの厚みdは薄い方が好ましい。したがって、所望のRth値を得ることができ且つ薄い位相差フィルムを得るという観点からは、Rth/dの値が小さい(即ちRth/dの値が負の値であり、且つ絶対値が大きい)ことが好ましい。具体的には、Rth/dの値は、好ましくは-5×10-3以下、より好ましくは-6×10-3以下、さらにより好ましくは-7×10-3以下である。
【0085】
〔5.2.ネガティブAプレート〕
ネガティブAプレートにおいては、そのnx、ny及びnzが、nz=nx>nyの関係を満たす値であるか、又はそれに近い値である。したがって、そのNZ係数は0かそれに近い値であり、Rthは0未満である。
【0086】
本発明の位相差フィルムをネガティブAプレートとして用いる場合は、そのNZ係数は、好ましくは-0.2以上、より好ましくは-0.1以上であり、一方好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下である。NZ係数は、特に好ましくは0である。
面内方向のレターデーションReは、用途に応じて所望の値に調整しうる。通常は30~350nmとしうる。
厚み方向のレターデーションRthは、用途に応じて所望の値に調整しうる。ポジティブCプレートの場合と同様に、ネガティブAプレートにおいても、Rth/dの値は小さいことが好ましい。具体的には、Rth/dの値は、好ましくは-5×10-3以下、より好ましくは-6×10-3以下、さらにより好ましくは-7×10-3以下である。
【0087】
〔5.3.三次元位相差フィルム〕
三次元位相差フィルムは、そのNZ係数Nzが、0<Nz<1である。
【0088】
本発明の位相差フィルムを三次元位相差フィルムとして用いる場合は、そのReは、用途に応じて所望の値に調整しうる。例えば、可視光に対する1/4波長板として用いる場合は、Reは125~170nmとしうる。また例えば、可視光に対する1/2波長版として用いる場合は、Reは245~345nmとしうる。
【0089】
三次元位相差フィルムは、Reの入射角依存性が低減された位相差フィルムとして用いうる。その観点からは、NZ係数(Rth/Re+0.5)は好ましくは0.3以上、0.7以下であり、さらに好ましくは0.4以上、0.6以下であり、特に好ましくは0.5である。
【0090】
〔5.4.その他の物性〕
本発明の位相差フィルムは、透明性に優れることが好ましい。具体的には、本発明の位相差フィルムの全光線透過率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0091】
本発明の位相差フィルムは、ヘイズが小さいことが好ましい。具体的には、本発明の位相差フィルムのヘイズは、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下である。フィルムのヘイズは、当該フィルムを任意の部位で50mm×50mmの正方形の薄膜サンプルに切り出し、その後、薄膜サンプルについて、ヘイズメーターを用いて測定しうる。
【0092】
〔6.位相差フィルムの厚み〕
本発明の位相差フィルムの厚みは、薄いことが好ましいが、用途に応じて所望の厚みに設定しうる。本発明の位相差フィルムの厚みは、好ましくは3μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。フィルムの厚みが前記下限値以上であると、フィルムの機械的強度を高くできる。また、フィルムの厚みが前記下限値以上であると、フィルムのハンドリング性を良好にできる。また、フィルムの厚みが前記上限値以下であると、位相差フィルムを連続的に製造する場合の巻取りが容易である。
【0093】
〔7.位相差フィルムの製造方法〕
本発明の位相差フィルムは、結晶性樹脂からなるフィルムに、位相差を付与することにより製造しうる。具体的には、下記工程(1)~(3)を含む製造方法により製造しうる。以下において、かかる製造方法を、本発明の位相差フィルムの製造方法として説明する。
工程(1):結晶性を有する重合体を含み、ガラス転移温度がTg(℃)、融点がTm(℃)である樹脂からなる第1フィルムの片面または両面に、第2フィルムを貼合して第3フィルムを得る貼合工程であって、第2フィルムは、(Tg+30)℃における少なくとも一方向の収縮率が5%以上、50%以下である、貼合工程。
工程(2):第3フィルムを、Tg℃以上、(Tg+30)℃以下に加熱し、少なくとも一方向に収縮させ、その面積を5%以上、50%以下収縮させ、第4フィルムを得る、収縮工程。
工程(3):第4フィルムを、(Tg+50)℃以上、(Tm-40)℃以下に加熱する、二次加熱工程。
【0094】
工程(1)~(3)を含む本発明の製造方法によれば、NZ係数が小さく、薄く、位相差の発現性が高い位相差フィルムを容易に製造しうる。特に、工程(2)と工程(3)とを組み合わせて行うことにより、従来の製造方法では製造することが困難であった、NZ係数が小さく且つ薄い位相差フィルムを容易に製造することが可能となる。
【0095】
〔7.1.第1フィルムの用意〕
本発明の製造方法で用いる第1フィルムは、結晶性樹脂からなるフィルムである。第1フィルムを製造する方法の例としては、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法が挙げられる。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、押出成形法が好ましい。
【0096】
押出成形法によって第1フィルムを製造する場合、その押出成形法における製造条件は、好ましくは下記の通りである。シリンダー温度(溶融樹脂温度)は、好ましくはTm以上、より好ましくは(Tm+20)℃以上であり、好ましくは(Tm+100)℃以下、より好ましくは(Tm+50)℃以下である。また、キャストロール温度は、好ましくは(Tg-50)℃以上であり、好ましくは(Tg+70)℃以下、より好ましくは(Tg+40)℃以下である。さらに、冷却ロール温度は、好ましくは(Tg-70)℃以上、より好ましくは(Tg-50)℃以上であり、好ましくは(Tg+60)℃以下、より好ましくは(Tg+30)℃以下である。このような条件で第1フィルムを製造することにより、所望の厚みの第1フィルムを容易に製造できる。ここで「Tm」は結晶性樹脂の融点であり、「Tg」は結晶性樹脂のガラス転移温度である。
【0097】
第1フィルムは、何らかの操作により位相差を既に有したものであってもよいが、位相差を付与していない等方な状態のフィルムであることが、製造の容易さの点から好ましい。具体的には、Reが20nm以下であることが望ましい。
【0098】
第1フィルムの厚みは、製造しようとする位相差フィルムの厚みに応じて任意に設定しうるものであり、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0099】
〔7.2.第2フィルム〕
本発明の製造方法で用いる第2フィルムは、(Tg+30)℃における少なくとも一方向の収縮率が5%以上50%以下である。
【0100】
本願において、ある一方向のフィルムの収縮率(%)とは、当該方向における収縮前の当該フィルムの長さL1、及び収縮後の当該フィルムの長さL2から、式((L1-L2)/L1)×100により求められる値である。逆に、ある一方向のフィルムの延伸率(%)は、当該方向における延伸前の当該フィルムの長さL3、及び延伸後の当該フィルムの長さL4から、式((L4-L3)/L3)×100により求められる値である。したがって、収縮率を負の延伸率により表すことが可能であり、延伸率を負の収縮率により表すことも可能である。また、本願において、あるフィルムの、ある特定温度における収縮率とは、当該フィルムを当該特定温度の状態に置いて、収縮が終了するまで加熱し、その結果発現する収縮率をいう。したがって、ある結晶性樹脂のフィルムの(Tg+30)℃における収縮率とは、当該フィルムを、当該樹脂のガラス転移温度より30℃高い温度の状態に置いて、収縮が終了するまで加熱し、その結果発現する収縮率をいう。
【0101】
第2フィルムとしては、予め延伸処理したフィルムを用いうる。このようなフィルムは、かかる延伸処理の延伸率を適宜調整することにより、工程(2)において所望の収縮率を発現する収縮フィルムとしうる。延伸は、一軸延伸即ちフィルム面内のある一方向への延伸であってもよく、二軸延伸即ちフィルム面内の直交する2方向への延伸であってもよく、その他の態様の延伸であってもよい。延伸倍率は、工程(2)において所望の収縮率を発現するよう適宜調整しうる。例えば一軸延伸の場合は当該方向への延伸率が好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上であり、また好ましくは300%以下、より好ましくは200%以下である。また例えば二軸延伸の場合はそれぞれの方向への延伸率が好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり、また好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下である。
【0102】
第2フィルムの、ある一方向の(Tg+30)℃における収縮率が5%以上、50%以下である場合において、他の方向の(Tg+30)℃における収縮率は、特に限定されず、位相差フィルムにおいて所望の光学的特性が得られるよう適宜調整しうる。
例えば、位相差フィルムとしてポジティブCプレートを得る場合には、収縮率が5%以上、50%以下である方向に直交する方向においても同等の収縮率を有する収縮フィルム(二軸延伸フィルム等)を好ましく用いうる。また例えば、位相差フィルムとしてネガティブAプレートを得る場合には、収縮率が5%以上、50%以下である方向に直交する方向においては大きな収縮率を発現しない収縮フィルム(一軸延伸フィルム等)を好ましく用いうる。
【0103】
第2フィルムを構成する材料は、特に限定されず、収縮性を発現しうる任意の樹脂としうる。特に、第1フィルムを変形させるのに適した温度で収縮が発現する材料であることが好ましいので、その観点からは、第1フィルムのガラス転移温度と近いガラス転移温度を有する材料であることが好ましい。具体的には、第2フィルムのガラス転移温度TgS(℃)と、第1フィルムのガラス転移温度Tg(℃)との関係が、Tg-10≦TgS≦Tg+30であることが好ましい。そのような材料の好ましい例としては、第1フィルムを構成する結晶性樹脂の例として上に挙げたものと、同様のものが挙げられる。さらには、第2フィルムを構成する材料としては、第1フィルムを構成する結晶性重合体と同じ重合体を含む樹脂を使用することがより好ましい。
【0104】
第2フィルムの厚みは、工程(2)における収縮を所望の収縮率で発現できるよう適宜設定しうる。具体的には、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上であり、一方好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下である。
【0105】
第2フィルムの他の例としては、市販の収縮性フィルムが挙げられる。これら市販の収縮性フィルムは、そのまま用いてもよく、延伸処理や収縮処理などの2次加工を施してから用いてもよい。そのような市販の収縮性フィルムの具体例としては、王子製紙(株)から販売されている商品名「アルファン」シリーズ、グンゼ(株)から販売されている商品名「ファンシートップ」シリーズ、東レ(株)から販売されている商品名「トレファン」シリーズ、サン・トックス(株)から販売されている商品名「サントックス-OP」シリーズ、及び東セロ(株)から販売されている商品名「トーセロOP」シリーズが挙げられる。
【0106】
〔7.3.工程(1):貼合工程〕
工程(1)では、第1フィルムに、第2フィルムを貼合して第3フィルムを得る。第2フィルムは、第1フィルムの片面のみに貼合してもよいが、工程(2)以降における反りを低減する観点からは、第1フィルムの両面に貼合することが好ましい。貼合は、粘着剤を介して行いうる。粘着剤を介した貼合を行うことにより、工程(2)以降における良好な位相差の発現を達成することができる。かかる粘着剤としては、例えばアクリル系やシリコーン系、ポリエステル系やポリウレタン系、ポリエーテル系やゴム系などの適宜なものを用いることができ、特に限定はないが、第2フィルムの加熱収縮処理で接着力が上昇しにくい粘着層を形成するものが好ましい。粘着剤により形成する粘着剤層の厚みは、特に限定されず、好ましい粘着が達成されるよう適宜調整しうる。具体的には、粘着剤層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、一方好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0107】
第1フィルムの両面に粘着剤層を介して第2フィルムを貼合した場合、(第2フィルム)/(粘着剤層)/(第1フィルム)/(粘着剤層)/(第2フィルム)の層構成を有する第3フィルムが得られる。図1は、そのような第3フィルムの一例を模式的に示す断面図である。図1において、第3フィルム100は、第1フィルム121と、その両面に設けられた粘着剤層131及び132と、これらの粘着剤層を介して第1フィルム121に貼合された第2フィルム111及び112とを備える。第3フィルム100は、矢印L1で示される長さを有する。
【0108】
〔7.4.工程(2):収縮工程〕
工程(2)では、第3フィルムを加熱し、少なくとも一方向に収縮させ、第4フィルムを得る。加熱の温度の範囲は、第1フィルムのTgと相対的に定めうる。具体的には、加熱の温度は、Tg℃以上、好ましくは(Tg+5)℃以上であり、一方(Tg+30)℃以下、好ましくは(Tg+25)℃以下である。工程(2)における第3フィルムの収縮の方向は、その面内方向、即ちフィルムの面に平行な任意の方向としうる。例えば、矩形の第3フィルムの場合、収縮の方向は、その一の辺に平行な方向、当該一の辺に垂直な方向、それらに対して斜めの方向、又はそれらの組み合わせとしうる。より具体的には、第3フィルムが連続的に形成された長尺の形状である場合、収縮の方向は、その長さ方向、幅方向、それらに対して斜めの方向、又はそれらの組み合わせとしうる。
【0109】
工程(2)では、加熱により、第3フィルムの面積を収縮させる。第3フィルムの面積の収縮率は、5%以上であり、好ましくは10%以上であり、一方50%以下であり、好ましくは40%以下である。フィルムの面積の収縮率(%)は、収縮前のフィルムの面積S1、及び収縮後のフィルムの面積S2から、式((S1-S2)/S1)×100により求められる値である。フィルムの面積の収縮率はまた、直交する2方向におけるフィルム長さの収縮率から計算により求めることもできる。このような収縮は、上に述べた第2フィルム及び加熱温度を採用し、さらに、加熱時間をかかる収縮が達成されるよう適宜調整し、収縮率が目標値に達するまで加熱の操作を行うことにより達成しうる。
【0110】
工程(2)における加熱は、第3フィルムに、弛まない程度に張力を負荷した状態で行うことが好ましい。そのような加熱は、具体的には、加熱による第3フィルムの収縮に伴い第3フィルムに負荷した張力を弱める、加熱による第3フィルムの収縮に伴い第3フィルムを支持する寸法を狭める等の、第3フィルムが弛まない状態を維持して第3フィルムを収縮させる支持を行うことにより行いうる。
【0111】
このような収縮工程を行うことにより、第1フィルムの面内方向の寸法を縮めることができる。第1フィルムの面内方向の寸法を縮めることにより、第1フィルムの厚みが増す。かかる面内方向の寸法の縮小及び厚みの増加により、第1フィルム中に光学異方性が発生し、NZ係数が小さい位相差フィルムを製造することができる。
【0112】
図2は、そのような第4フィルムの一例を模式的に示す断面図である。図2において、第4フィルム100sは、図1に示した第3フィルムにおける第2フィルム111及び112が収縮したことにより得られる第4フィルムである。即ち、第4フィルム100sは、第2フィルム111及び112が収縮してなる、収縮した第2フィルム111s及び112sを含む。
【0113】
第2フィルム111及び112は、図1において矢印L1で示される長さを有していたが、第2フィルム111s及び112sは、その長さが、L1より短い矢印L2で示される長さとなっている。第4フィルム100sにおいては、かかる収縮に同伴して、第1フィルム121並びに粘着剤層131及び132も収縮し、それにより、収縮した第1フィルム121sと、収縮した粘着剤層131s及び132sが形成されている。第1フィルム121sは、収縮に伴い、その厚みが増加している。これにより、収縮した第1フィルム121sにおいては位相差が発生する。
【0114】
工程(2)における加熱は、第3フィルムを、ある方向においては収縮させ、他のある方向には延伸する操作を行ってもよい。そのような操作は、例えば、第3フィルムを収縮させる方向においては、加熱による第3フィルムの収縮に伴い、第3フィルムが弛まない状態を維持して第3フィルムを収縮させる支持を行い、一方第3フィルムを延伸させる方向には、第3フィルムを延伸する操作を行うことにより達成しうる。
【0115】
〔7.5.工程(3):二次加熱工程〕
工程(3)では、第4フィルムを加熱する。工程(2)での加熱に続いての加熱であるので、本願において、工程(3)での加熱は「二次加熱」と称する。
【0116】
工程(3)における二次加熱は、工程(2)の終了時点で、第4フィルムの寸法が固定された状態において、その寸法を維持したまま行うことが好ましい。かかる二次加熱を行うことにより、第3フィルム中の収縮した第1フィルムにおける結晶性重合体の結晶化度が高まる。かかる結晶化度の増加により、第1フィルム内の異方性をさらに高めることができる。その結果、NZ係数が小さく、薄く、位相差の発現性が高い位相差フィルムを容易に製造することが可能となる。
【0117】
工程(3)における二次加熱の具体的操作は、特に限定されないが、第4フィルムの寸法が固定された状態で、ヒーターをフィルムに近接させる方法、フィルムを所定の温度に加熱されたオーブン又は炉の室内に通す方法等の方法により行いうる。
【0118】
工程(3)における二次加熱の温度は、(Tg+50)℃以上、好ましくは((Tg+Tm)/2-25)℃以上であり、一方(Tm-40)℃以下、好ましくは((Tg+Tm)/2+40)℃以下である。二次加熱の時間は、好ましくは5秒以上、より好ましくは10秒以上であり、一方好ましくは120秒以下、より好ましくは60秒以下である。かかる温度範囲での加熱を行うことにより、結晶性重合体の結晶化度を大きく高めることができる。
【0119】
工程(3)の処理の終了後、必要であれば任意の後処理を行い、第1フィルムが収縮しさらに結晶化度が高められてなるフィルムを、位相差フィルムとして得ることができる。任意の後処理の例としては、第4フィルムの冷却、並びに、第4フィルムからの、収縮した第2フィルム及び粘着剤層の剥離等の処理が挙げられる。
【実施例0120】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0121】
[評価方法]
〔重量平均分子量及び数平均分子量の測定方法〕
重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
【0122】
〔ガラス転移温度Tgおよび融点Tmの測定方法〕
窒素雰囲気下で300℃に加熱した試料を液体窒素で急冷し、示差操作熱量計(DSC)を用いて、10℃/分で昇温して試料のガラス転移温度Tgおよび融点Tmをそれぞれ求めた。
【0123】
〔重合体の水素添加率の測定方法〕
重合体の水素添加率は、オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、145℃で、H-NMR測定により測定した。
【0124】
〔重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法〕
オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果から、オルトジクロロベンゼン-dの127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0125】
〔位相差フィルムのRe、Rth、及びNZ係数の測定方法〕
位相差フィルムのRe、Rth、及びNZ係数は、AXOMETRICS社製 AxoScan OPMF-1により測定した。
【0126】
〔製造例1:ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物の製造〕
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0127】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0128】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0129】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素添加物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0130】
前記の反応液に含まれる水素添加物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物28.5部を得た。この水素添加物の水素添加率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点(Tm)は262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0131】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合後、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出し機(製品名TEM-37B」、東芝機械社製)に投入し、熱溶融押出し成形によりストランド状の成形体にした後、ストランドカッターにて細断し、ペレット形状の熱溶融押出し成形体を得た。
二軸押出し機の運転条件を、以下に箇条書きで記す。
・バレル設定温度=270~280℃
・ダイ設定温度=250℃
・スクリュー回転数=145rpm
・フイーダー回転数=50rpm
【0132】
〔製造例2-1:原反フィルム1の製造〕
製造例1で得られたペレット形状の成形体を、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機(製品名「MeasuringExtruderTypeMe-20/2800V3」、OpticaIControISystems社製)にて、厚さ200μm、幅120mmのフィルムを1.5m/分の速度でロールに巻き取る方法にて、フィルム成形体を得た(以下、原反フィルム1という)。
フィルム成形機の運転条件を、以下に箇条書きで記す。
・バレル温度設定=280℃~290℃
・ダイ温度=270℃
・スクリュー回転数=30rpm
【0133】
〔製造例2-2:原反フィルム2の製造〕
フィルムの巻き取り速度を12m/分とした他は製造例2-1と同様に操作して、厚さ25μm、幅120mmのフィルム成形体を得た(以下、原反フィルム2という)。
以下原反フィルム1及び2のロール巻き取り方向(原反フィルムの長手方向)をMD方向、幅方向をTD方向と言い、フィルムの方向はこれを基準として示す。
【0134】
〔製造例3:第2フィルムAの製造〕
製造例2-1で得られた原反フィルム1を、30cm×30cmの正方形の形状に裁断した。裁断に際して、対向する2組の辺のうち、1組はMD方向に平行な方向、もう1組はTD方向に平行な方向とした。裁断した原反フィルム1を、二軸延伸装置(東洋精機製作所社製 二軸延伸装置 EX10-B、以下において同じ)を用いてMD方向及びTD方向に同時二軸延伸した。延伸温度は110℃とし、延伸倍率はMD、TD各々2倍とした。これにより、第2フィルムAを得た。
【0135】
得られた第2フィルムAを123℃(即ち、(Tg+30)℃)のオーブン中に置き、収縮が終了するまで加熱した。収縮が終了した後に、MD方向及びTD方向の収縮率を測定したところ、いずれも36%であった。
【0136】
〔製造例4:第2フィルムBの製造〕
製造例2-1で得られた原反フィルム1を、15cm×15cmの正方形の形状に裁断した。裁断に際して、対向する2組の辺のうち、1組はMD方向に平行な方向、もう1組はTD方向に平行な方向とした。裁断した原反フィルム1を、二軸延伸装置を用い、MD方向に固定端一軸延伸した。延伸温度は110℃とし、延伸倍率は3倍とした。これにより、第2フィルムBを得た。
【0137】
得られた第2フィルムBを123℃のオーブン中に置き、収縮が終了するまで加熱した。収縮が終了した後に、MD方向及びTD方向の収縮率を測定したところ、MD方向は45%、TD方向は7%であった。
【0138】
〔製造例5:第2フィルムCの製造〕
原反フィルム1に代えて、脂環式構造含有重合体を含む樹脂からなるロール状のフィルム(商品名:ゼオノアフィルムZF14-100、日本ゼオン株式会社製、厚さ100μm、ガラス転移温度137℃)を用い、延伸温度を145℃に変更した以外は製造例3における第2フィルムAの製造と同様にして、第2フィルムCを得た。
得られた第2フィルムCを167℃(即ち、(Tg+30)℃)のオーブン中に置き、収縮が終了するまで加熱した。収縮が終了した後に、MD方向及びTD方向の収縮率を測定したところ、いずれも31%であった。
【0139】
〔実施例1〕
(1-1.貼合工程)
製造例2-2で得た原反フィルム2を30cm×30cmの正方形に裁断し、第1フィルムとした。裁断に際して、対向する2組の辺のうち、1組はMD方向に平行な方向、もう1組はTD方向に平行な方向とした。第1フィルムの両面に、製造例3で得た第2フィルムA(30cm×30cmに裁断したもの;裁断に際して、対向する2組の辺のうち、1組はMD方向に平行な方向、もう1組はTD方向に平行な方向とした。)を貼合した。貼合は、厚さ20μmのアクリル系粘着剤層を介して行った。また、貼合は、第2フィルムAのMD方向が、第1フィルムのMD方向と平行になるよう行った。これにより、(第2フィルムA)/(粘着剤層)/(第1フィルム)/(粘着剤層)/(第2フィルムA)の層構成を有する第3フィルムを得た。
【0140】
(1-2.収縮工程)
(1-1)で得た第3フィルムを、二軸延伸装置に取り付けた。取り付けは、フィルムが弛まない程度に張力を負荷した状態で、第3フィルムの4辺を、1辺当たり9個のクランプで把持することにより行った。
次に第3フィルムの両表面を加熱し、同時にフィルムを把持したクランプを移動させることにより、第3フィルムが弛まない状態を維持して第3フィルムを収縮させた。この際、加熱は、温度120℃のプレートヒーターを、第3フィルムの両表面からの距離5mmの位置に近接させて、第3フィルムの周囲を120℃に加熱することにより行った。また、クランプの移動は、TD方向に平行な2辺のうちの1辺を把持するクランプ群と、もう1辺を把持するクランプ群との間の距離(即ちMD方向のクランプ間隔)、及びMD方向に平行な2辺のうちの1辺を把持するクランプ群と、もう1辺を把持するクランプ群との間の距離(即ちTD方向のクランプ間隔)を、何れも5cm/分の速度で狭めることにより行った。この加熱及びクランプの移動を、MD方向及びTD方向の延伸率が共に目標値となるまで行った。目標値は、MD方向及びTD方向のいずれも、延伸率-20%(即ち収縮率が20%)とした。これにより、第3フィルムを収縮させ、第4フィルムを得た。
【0141】
(1-3.二次加熱工程)
(1-2)で得た第4フィルムを、二軸延伸装置に4辺をクランプで把持して取り付けてその寸法を固定したままの状態で、60秒間加熱した。加熱は、プレートヒーターを、第4フィルムの両表面からの距離5mmの位置に近接させた状態に維持し、その温度を200℃とし、第4フィルムの周囲を200℃に加熱することにより行った。
【0142】
(1-4.後処理及び評価)
(1-3)の二次加熱工程終了後、フィルムを二軸延伸装置から取り外し、収縮した第2フィルム及び粘着剤層を、位相差フィルムから剥離し、位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの厚さ、Re、Rth、NZ係数を測定し、さらにRth/厚さを求めた。
【0143】
〔実施例2〕
下記の変更を行った他は、実施例1と同様に操作して、位相差フィルムを得て評価した。
・(1-2)の収縮工程において、処理の目標値を、MD方向及びTD方向のいずれも、延伸率-20%から-12%に変更した。
【0144】
〔実施例3〕
(3-1.貼合工程)
製造例3で得た第2フィルムAに代えて製造例4で得た第2フィルムBを用いた他は、実施例1の(1-1)と同様にして、第3フィルムを得た。
【0145】
(3-2.収縮工程)
(3-1)で得た第3フィルムを、二軸延伸装置に取り付けた。取り付けは、フィルムが弛まない程度に張力を負荷した状態で、第3フィルムの4辺を、1辺当たり9個のクランプで把持することにより行った。
次に第3フィルムの両表面を加熱し、同時にフィルムを把持したクランプを移動させることにより、第3フィルムが弛まない状態を維持して第3フィルムを収縮させた。この際、加熱は、温度120℃のプレートヒーターを、第3フィルムの両表面からの距離5mmの位置に近接させて、第3フィルムの周囲を120℃に加熱することにより行った。また、クランプの移動は、TD方向に平行な2辺のうちの1辺を把持するクランプ群と、もう1辺を把持するクランプ群との間の距離(即ちMD方向の間隔)を8cm/分の速度で狭め、MD方向に平行な2辺のうちの1辺を把持するクランプ群と、もう1辺を把持するクランプ群との間の距離(即ちTD方向の間隔)を、6.7cm/分の速度で広げることにより行った。この加熱及びクランプの移動を、MD方向及びTD方向の延伸率が共に目標値となるまで行った。目標値は、TD方向は延伸率25%、MD方向は延伸率-30%(即ち収縮率が30%)とした。これにより、第3フィルムを収縮させ、第4フィルムを得た。
【0146】
(3-3.二次加熱工程、後処理及び評価)
(3-2)で得た第4フィルムについて、実施例1の(1-3)~(1-4)と同様に、二次加熱工程、後処理及び評価を行った。
【0147】
〔実施例4〕
下記の変更を行った他は、実施例3と同様に操作して、位相差フィルムを得て評価した。
・(3-2)の収縮工程において、TD方向の処理の目標値を、延伸率25%から10%に変更した。MD方向の処理の目標値は変更せず延伸率-30%とした。
・TD方向のクランプ間隔を広げる速度を2.7cm/分とした。MD方向のクランプ間隔を狭める速度は変更せず8cm/分とした。
【0148】
〔実施例5〕
下記の変更を行った他は、実施例1と同様に操作して、位相差フィルムを得て評価した。
・(1-1)の収縮工程において、処理の目標値を、MD方向は延伸率-20%から-10%に変更し、TD方向は延伸率-20%から-25%に変更した。
・MD方向のクランプ間隔を狭める速度を2.8cm/分とし、TD方向のクランプ間隔を狭める速度を7cm/分とした。
【0149】
〔比較例1〕
(C1-1.収縮工程)
製造例2-2で得た原反フィルム2を30cm×30cmの正方形に裁断した。裁断に際して、対向する2組の辺のうち、1組はMD方向に平行な方向、もう1組はTD方向に平行な方向とした。裁断した原反フィルム2を、そのまま、二軸延伸装置に取り付けた。取り付けは、フィルムが弛まない程度に張力を負荷した状態で、原反フィルム2のTD方向に平行な2辺(即ちMD方向に対向する2辺)を、1辺当たり9個のクランプで把持することにより行った。
次に原反フィルム2の両表面を加熱し、同時にフィルムを把持したクランプを移動させることにより、原反フィルム2を一軸延伸させた。この際、加熱は、温度120℃のプレートヒーターを、原反フィルム2の両表面からの距離5mmの位置に近接させて、原反フィルム2の周囲を120℃に加熱することにより行った。また、クランプの移動は、TD方向に平行な2辺のうちの1辺を把持するクランプ群と、もう1辺を把持するクランプ群との間の距離(即ちMD方向の間隔)を、8cm/分の速度で、MD方向の延伸率が30%となるまで行った。このときMD方向中心部におけるTD方向は、収縮率は11%(即ち延伸率-11%)で収縮した。これにより、原反フィルム2のMD方向が延伸しTD方向が自由収縮した、延伸フィルムを得た。
【0150】
(C1-2.二次加熱工程)
(C1-1)で得た延伸フィルムを、二軸延伸装置に、2辺をクランプで把持して取り付けてその寸法を固定したままの状態で、加熱した。加熱は、プレートヒーターを、延伸フィルムの両表面からの距離5mmの位置に近接させた状態に維持し、その温度を200℃とし、延伸フィルムの周囲を200℃に加熱することにより行った。
【0151】
(C1-3.後処理及び評価)
(C1-2)の二次加熱工程終了後、フィルムを二軸延伸装置から取り外し、得られたフィルムの厚さ、Re、Rth、NZ係数を測定し、さらにRth/厚さを求めた。
【0152】
〔比較例2〕
(C2-1.貼合工程)
第1フィルムとして、原反フィルム2に代えて脂環式構造含有重合体を含む樹脂のフィルム(商品名「ゼオノアフィルム ZF-14-40」、日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度137℃、厚さ40μm、DSCで観測できる重合体の融点無し)を用い、第2フィルムとして、第2フィルムAに代えて製造例5で得られた第2フィルムCを用いた以外は、実施例1の(1-1)と同様にして、第3フィルムを得た。
【0153】
(C2-2.収縮工程、後処理及び評価)
第3フィルムとして、(1-1)で得た第3フィルムに代えて、(C2-1)で得たものを用い、加熱温度を150℃とした他は、実施例1の(1-2)と同様に収縮工程を行い、第4フィルムを得た。本比較例の第1フィルムは、加熱しても結晶化しないフィルムであるので、収縮工程終了後、二次加熱工程を経ずに、フィルムを二軸延伸試験装置から取り外し、収縮した第2フィルム及び粘着剤層を、位相差フィルム(収縮した、脂環式構造含有重合体を含む樹脂のフィルム)から剥離した。これにより、位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの厚さ、Re、Rth、NZ係数を測定し、さらにRth/厚さを求めた。
【0154】
実施例及び比較例の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0155】
【表1】
【0156】
表1に示す通り、本願実施例においては、NZ係数が小さく、薄く、位相差の発現性が高い位相差フィルムを容易に製造することができた。特に、実施例1及び2の位相差フィルムはポジティブCプレートとして、実施例3の位相差フィルムは三次元位相差フィルムとして、実施例4の位相差フィルムはネガティブAプレートとして、それぞれ好適な物性を有する位相差フィルムであった。
【符号の説明】
【0157】
100:第3フィルム
100s:第4フィルム
111:第2フィルム
111s:収縮した第2フィルム
112:第2フィルム
112s:収縮した第2フィルム
121:第1フィルム
121s:収縮した第1フィルム
131:粘着剤層
131s:収縮した粘着剤層
132:粘着剤層
132s:収縮した粘着剤層
図1
図2