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特開2023-24455大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024455
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20230209BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230209BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20230209BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20230209BHJP
   G01N 1/02 20060101ALI20230209BHJP
   C01B 32/30 20170101ALI20230209BHJP
   C01B 32/354 20170101ALI20230209BHJP
【FI】
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
B01D53/04
G01N1/22 J
G01N1/02 D
C01B32/30
C01B32/354
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186419
(22)【出願日】2022-11-22
(62)【分割の表示】P 2020135048の分割
【原出願日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019150393
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 信義
(72)【発明者】
【氏名】谷保 佐知
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼阪 務
(72)【発明者】
【氏名】横井 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀 千春
(72)【発明者】
【氏名】島村 紘大
(72)【発明者】
【氏名】浅野 拓也
(57)【要約】
【課題】大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い捕集率を有するペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭及びそれを用いたフィルター体を提供するものである。
【解決手段】BET比表面積が900m/g以上であり、1nm以下のミクロ孔容積(Vmic)の和が0.35cm/g以上であり、2~60nm以下のメソ孔容積(Vmet)の和が0.02cm/g以上であり、ミクロ孔容積(Vmic)とメソ孔容積の和(Vmet)との容積差(V)が0.45以上であり、表面酸化物量が0.10meq/g以上である活性炭吸着材からなる大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着するための大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が900m/g以上である活性炭吸着材からなる
大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着するための
大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項2】
前記活性炭吸着材の1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.35cm/g以上である請求項1に記載の大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項3】
前記活性炭吸着材の2~60nm以下のメソ孔容積の和(Vmet)が0.02cm/g以上である請求項1又は2に記載の大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項4】
前記活性炭吸着材の下記の(i)式に規定する前記ミクロ孔容積の和(Vmic)と前記メソ孔容積の和(Vmet)との容積差(V)が0.45以上である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【数1】
【請求項5】
前記活性炭吸着材の表面酸化物量が0.10meq/g以上である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項6】
前記活性炭吸着材が繊維状活性炭である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の吸着活性炭を保持してなることを特徴とする大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に関する。
【背景技術】
【0002】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、高い熱安定性、高い化学的安定性、高い表面修飾活性を有するフッ素置換された脂肪族化合物類である。ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前記特性を生かし表面処理剤や包装材、液体消火剤等の工業用途及び化学用途等幅広く使用されている。
【0003】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出後、自然条件下では分解されにくい。このため、近年では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は残留性有機汚染物質(POPs)として認識され、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホン酸)が2010年より残留性有機物汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)において、製造や使用が規制されることとなった。
【0004】
なお、ペルフルオロアルキル化合物は完全にフッ素化された直鎖アルキル基を有しており、化学式(ii)で示される物質である。例えば、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフロオロオクタン酸)等がある。
【0005】
【数2】
【0006】
ポリフルオロアルキル化合物はアルキル基の水素の一部がフッ素に置き換わったものを示し、化学式(iii)で示される物質である。例えば、フルオロテロマーアルコール等がある。
【0007】
【数3】
【0008】
このように、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は自然界(水中、土壌中、大気中)に残存し続けることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量試験方法の確立が検討されている。定量試験方法の検討の課題は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い吸着及び脱離性能を有する捕集材の開発である。微量なペル及びポリフルオロアルキル化合物を含有する試料である水ないし空気を、捕集材に接触させてペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集し、捕集材に吸着された該化合物を抽出工程によって抽出液中に脱離させ、濃縮する。濃縮後、LC-MS/MSやGC-MS/MS等の装置で定量測定し、試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度測定を行うことが可能となる。
【0009】
既存の捕集材としては、例えば、シクロデキストリンポリマーからなる有機フッ素系化合物吸着材が提案されている(特許文献1)。この吸着材は、吸着のみに特化し、該化合物の脱離はできないため、定量測定に用いられる捕集材として使用には適していない。また、シクロデキストリンポリマーは粉状又は微粒子状であり、ハンドリングが悪く、通液ないし通気時の抵抗が高く微粉末の2次側への流出リスク等の問題がある。
【0010】
また、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は物理化学特性に幅のある様々な形態で環境中に残存しており、既存の吸着材では十分な捕集性能がなく、正確に定量測定ができないという問題があった。
【0011】
そこで、出願人は、活性炭をペル及びポリフルオロアルキル化合物用捕集材として検討を進め、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集を可能とし、正確な定量測定に大きく寄与することを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012-101159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、特に、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集することが可能なペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭及びそれを用いたフィルター体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、第1の発明は、BET比表面積が900m/g以上である活性炭吸着材からなる大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着するための大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、前記活性炭吸着材の1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.35cm/g以上である大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0016】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記活性炭吸着材の2~60nm以下のメソ孔容積の和(Vmet)が0.02cm/g以上である大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0017】
第4の発明は、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材の下記の(i)式に規定する前記ミクロ孔容積の和(Vmic)と前記メソ孔容積の和(Vmet)との容積差(V)が0.45以上である大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0018】
【数1】
【0019】
第5の発明は、第1ないし4の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材の表面酸化物量が0.10meq/g以上である大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0020】
第6の発明は、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材が繊維状活性炭である大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0021】
第7の発明は、第1ないし6の発明のいずれかの吸着活性炭を保持してなることを特徴とする大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体に係る。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明に係る大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、BET比表面積が900m/g以上である活性炭吸着材からなる大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着するための大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭であることから、これまで定量測定が難しいとされてきた該化合物捕集することができる。
【0023】
第2の発明に係る大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1の発明において、前記活性炭吸着材の1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.35cm/g以上であることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく捕集することができる。
【0024】
第3の発明に係る大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1又は2の発明において、前記活性炭吸着材の2~60nm以下のメソ孔容積の和(Vmet)が0.02cm/g以上であることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく捕集することができる。
【0025】
第4の発明に係る大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材の下記の(i)式に規定する前記ミクロ孔容積の和(Vmic)と前記メソ孔容積の和(Vmet)との容積差(V)が0.45以上であることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく捕集することができる。
【0026】
第5の発明に係る大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1ないし4の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材の表面酸化物量が0.10meq/g以上であることから、活性炭の細孔による吸着性能だけでなく、化学的な吸着能力も備え、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能をより向上させることができる。
【0027】
第6の発明に係る大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材が繊維状活性炭であることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【0028】
第7の発明に係る大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体によると、第1ないし6の発明のいずれかの吸着活性炭を保持してなることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率を高めつつ、良好なハンドリング性を備えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭は、繊維状活性炭又は粒状活性炭よりなる。繊維状活性炭は、適宜の繊維を炭化し賦活して得た活性炭であり、例えばフェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース系、石炭ピッチ系等がある。繊維長や断面径等は適宜である。
【0030】
粒状活性炭の原料としては、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。
【0031】
活性炭原料は、必要に応じて200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0032】
こうして出来上がる活性炭の物性により、被吸着物質の吸着性能が規定される。本願発明の目的被吸着物質であるペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着する活性炭の吸着性能は、活性炭に形成された細孔の量を示す指標となる比表面積により規定される。なお、本明細書中、各試作例の比表面積はBET法(Brunauer,Emmett及びTeller法)による測定である。
【0033】
活性炭は細孔の孔径によっても規定される。活性炭のような吸着材の場合、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のいずれの細孔も存在している。その中で、いずれの範囲の細孔をより多く発達させるかにより、活性炭の吸着対象、性能は変化する。本発明において所望される活性炭は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分子を脱離可能に効果的に吸着することである。
【0034】
また、活性炭の表面に酸性官能基が存在する。活性炭の表面酸化により増加する酸性官能基は、主にカルボキシル基、フェノール性水酸基等の親水性基である。活性炭表面の酸性官能基は、捕集能力に影響を与える。これらの酸性官能基量については、表面酸化物量として把握することができる。活性炭の表面酸化物量が増加すると、活性炭表面の親水性が高まり、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の中でも、特に親水性基を有するフルオロテロマーアルコール類の捕集性能が向上すると考えられる。
【0035】
活性炭の表面酸化物を増加させる手法としては、以下の手法が挙げられる。一つは、再度加熱工程を経ることで表面残基の酸化を促進させ、酸性官能基を増加させる手法である。すなわち空気または酸素雰囲気化における酸化である。あるいは、同時に空気雰囲気下にて温度25~40℃、湿度60~90%の空気も導入される。そこで、150~900℃にて1~10時間かけて加熱され、表面酸化物量を増加させた活性炭を得ることができる。湿潤な空気を伴った加熱により活性炭表面に存在したアルキル基等の炭化水素基が酸化されたり、水の水酸基が表面に導入されたりして酸性官能基は増加すると考えられる。
【0036】
他には、酸化剤によって活性炭の表面を酸化させ、表面酸化物を増加させる手法である。酸化剤は、次亜塩素酸、過酸化水素等が挙げられる。これらの酸化剤を含む液に活性炭を浸漬後、乾燥することで、表面酸化物量を増加させた活性炭を得ることができる。当該活性炭の表面における酸性官能基の量は後記の各試作例のとおり、表面酸化物量として測定可能である。
【0037】
大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭の吸着性能は、後述の実施例により導き出されるように、比表面積を900m/g以上とすることにより発揮される。活性炭の細孔が一定以上形成されることにより、該化合物の吸着性能が確保される。
【0038】
そして、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着においては、活性炭に形成された細孔分布も寄与することがわかった。本明細書において、ミクロ孔は細孔直径が1nm以下の細孔を指し、後述の実施例により導き出されるように、ミクロ孔の細孔容積(Vmic)の合計が0.35cm/g以上とすると、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が向上する。なお、本明細書中、各試作例の1nm以下のミクロ孔容積はMP法(Micropore法)による測定である。ミクロ孔が一定以上形成されることにより、該化合物が細孔中に捕集されやすくなると考えられる。
【0039】
また、本明細書において、メソ孔は細孔直径が2~60nmの範囲である細孔を指し、後述の実施例により導き出されるように、メソ孔の細孔容積(Vmet)の合計が0.02cm/g以上とすると、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が向上する。なお、本明細書中、各試作例の2~60nmの範囲のメソ孔容積はDH法(Dollimore-Heal法)による測定である。DH法の測定によるため、測定対象は2.43~59.72nmの細孔とした。メソ孔が一定以上形成されることにより、該化合物がミクロ孔にまで容易に侵入可能となると考えられる。
【0040】
加えて、ミクロ孔の細孔容積とメソ孔の細孔容積の差も効率的なペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着に寄与していると考えられる。後述の実施例により導き出されるように、ミクロ孔容積の和(Vmic)とメソ孔容積の和(Vmet)との容積差(V)を0.45以上とすることにより、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率的に脱離可能に吸着することができる。メソ孔を発達させすぎないことに加え、ミクロ孔を良好に発達させた活性炭とすることにより、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させつつ、後の抽出操作時において、該化合物がスムーズに脱離可能とされることにより、定量測定が良好に行われることができると考えられる。
【0041】
次に、表面酸化物量は0.10meq/g以上とすることにより、活性炭表面の親水性を高め、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率的に吸着することができる。
【実施例0042】
[使用活性炭吸着材]
発明者らは、ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭を作成するため、下記の原料を使用した。
・繊維状活性炭
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「CF」(平均繊維径:15μm)
{以降、C1と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3010」(平均繊維径:15μm)
{以降、C2と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3012」(平均繊維径:15μm)
{以降、C3と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3013」(平均繊維径:15μm)
{以降、C4と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3015」(平均繊維径:15μm)
{以降、C5と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3018」(平均繊維径:15μm)
{以降、C6と表記する。}
・粒状活性炭
フタムラ化学株式会社製:ヤシ殻活性炭「CW480SZ」(平均粒径:250μm)
{以降、C7と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:フェノール樹脂活性炭「QW250」(平均粒径:250μm)
{以降、C8と表記する。}
【0043】
〔大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能の検討1〕
発明者らは下記の試作例1~5を用いて、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験1を行った。
【0044】
[試作例の調製]
<試作例1>
FE3010と同原料であるフェノール樹脂繊維を600℃で炭化した繊維状活性炭「CF」(C1)を試作例1の活性炭とした。
【0045】
<試作例2>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)を試作例2の活性炭とした。
【0046】
<試作例3>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを、過酸化水素濃度6%溶液500mlに浸漬させ、150時間静置後、取り出して乾燥させ試作例3の活性炭とした。
【0047】
<試作例4>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを、過酸化水素濃度6%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例4の活性炭とした。
【0048】
<試作例5>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを、過酸化水素濃度6%溶液500mlに浸漬させ、50時間静置後、取り出して乾燥させ試作例5の活性炭とした。
【0049】
[活性炭の測定1]
〔表面酸化物量〕
表面酸化物量(meq/g)は、Boehmの方法を適用し、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中において各例の吸着活性炭を振とうした後に濾過し、その濾液を0.05N塩酸で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量とした。
【0050】
〔BET比表面積〕
比表面積(m/g)は、マイクロトラック・ベル株式会社製、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII」を使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めた(BET比表面積)。
【0051】
〔平均細孔直径〕
平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、細孔容積(cm/g)及び比表面積(m/g)の値を用いて数式(iv)より求めた。
【0052】
【数4】
【0053】
試作例1~5の活性炭の物性は表1のとおりである。表1の上から順に、表面酸化物量(meq/g)、BET比表面積(m/g)、平均細孔直径(nm)、平均繊維径(μm)である。
【0054】
【表1】
【0055】
[大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率の測定1]
ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、今回はフルオロテロマーアルコール(以降「FTOHs」と表記する。)及びエチルペルフルオロオクタンスルホアミド(IUPAC名:N-エチル-1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホアミド)(以降「N-EtFOSA」と表記する。)を用いて評価を行った。FTOHsは上記した化学式(ii)に表される物質であって、炭素数によって物質名が異なる。例えば、C17CHCHOHの場合は、8:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロ-1-デカノール)と命名される。N-EtFOSAは以下の化学式(v)に表される物質である。
【0056】
【数5】
【0057】
各標準物質をメタノールで100ppbに希釈したものを軟質ポリウレタンフォーム(PUF)に100μl添加したものを1段目にセットした。続いて、2段目に45mmφのケースに試作例の吸着活性炭1.2gを充填し、20l/minの速度で22~24℃の空気を1段目のPUF及び2段目の繊維状活性炭に48時間通気した。
【0058】
通気後、試作例の活性炭吸着材を15mlのジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒を用いて充分に接触撹拌させた後に、遠心分離を行い固液分離し、抽出液を採取した。
【0059】
該抽出液を、GC-MS/MS(Waters社製QuatrimicroGC)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0060】
表2に、試作例1~5の活性炭について対象物質ごとにフッ素テロマーアルコール(FTOH)の回収率(%)を示した。対象物質は、4:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサノール)、6:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール)、8:2FTOH、10:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ヘンイコサフルオロ-1-ドデカノール)、N-EtFOSAである。
【0061】
【表2】
【0062】
なお、表中、「ND」とは、定量下限値以下であることを示している。なお、質量数が同一フラグメントに影響する共溶出現象により150%以上の回収率となる場合がみられた。
【0063】
〔大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能の検討2〕
次に、発明者らは下記の試作例6~21を用いて、GC-MS/MSのMRMモードの最適なトランジションとコリジョンエネルギーを再検討し、より精度の高い分析条件の下、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験2を行った。
【0064】
[試作例の調製]
<試作例6>
フタムラ化学製繊維状活性炭「CF」(C1)10gを試作例6の活性炭とした。
【0065】
<試作例7>
フタムラ化学製繊維状活性炭「CF」(C1)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、220時間静置後、取り出して乾燥させ試作例7の活性炭とした。
【0066】
<試作例8>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを試作例8の活性炭とした。
【0067】
<試作例9>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、150時間静置後、取り出して乾燥させ試作例9の活性炭とした。
【0068】
<試作例10>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3012」(C3)10gを試作例10の活性炭とした。
【0069】
<試作例11>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3012」(C3)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、100時間静置後、取り出して乾燥させ試作例11の活性炭とした。
【0070】
<試作例12>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3013」(C4)10gを過酸化水素濃度1.5%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例12の活性炭とした。
【0071】
<試作例13>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを試作例13の活性炭とした。
【0072】
<試作例14>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度1.5%溶液500mlに浸漬させ、40時間静置後、取り出して乾燥させ試作例14の活性炭とした。
【0073】
<試作例15>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例15の活性炭とした。
【0074】
<試作例16>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度14.0%溶液500mlに浸漬させ、350時間静置後、取り出して乾燥させ試作例16の活性炭とした。
【0075】
<試作例17>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度18.9%溶液500mlに浸漬させ、480時間静置後、取り出して乾燥させ試作例17の活性炭とした。
【0076】
<試作例18>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを試作例18の活性炭とした。
【0077】
<試作例19>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、50時間静置後、取り出して乾燥させ試作例19の活性炭とした。
【0078】
<試作例20>
フタムラ化学製ヤシ殻活性炭「CW480SZ」(C7)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例20の活性炭とした。
【0079】
<試作例21>
フタムラ化学製フェノール樹脂活性炭「QW250」(C8)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例21の活性炭とした。
【0080】
[活性炭の測定2]
試作例6~21の表面酸化物、比表面積及び平均細孔直径は上記「活性炭の測定1」と同様に求めた。
【0081】
〔ミクロ孔容積〕
細孔容積については、自動比表面積/細孔分布測定装置(「BELSORP-miniII」、マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用し、窒素吸着により測定した。試作例6~21の細孔直径1nm以下の範囲の細孔容積であるミクロ孔容積の和(Vmic)(cm/g)は、細孔直径1nm以下の範囲におけるdV/dDの値を窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により解析して求めた。
【0082】
〔メソ孔容積〕
細孔直径が2~60nmの範囲におけるdV/dDの値は、窒素ガスの吸着等温線からDH法により解析した。なお、解析ソフトにおける細孔直径2~60nmの直径範囲は2.43~59.72nmである。この解析結果より、試作例6~21細孔直径2~60nmの範囲の細孔容積であるメソ孔容積の和(Vmet)(cm/g)を求めた。
【0083】
〔容積差〕
試作例6~21の容積差(V)は、ミクロ孔容積の和(Vmic)(cm/g)からメソ孔容積の和(Vmet)(cm/g)を引いた値であって、上記(i)式から算出した。
【0084】
試作例6~21の活性炭の物性は表3,4のとおりである。表3の上から順に、表面酸化物量(meq/g)、BET比表面積(m/g)、平均細孔直径(nm)、ミクロ孔容積(Vmic)(cm/g)、メソ孔容積(Vmet)(cm/g)、容積差(V)(cm/g)である。
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
[大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率の測定2]
ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、上記捕集実験1と同様にFTOHsを用いて試作例6~21について評価を行った。
【0089】
各標準物質をメタノールで100ng/ml(100ppb)に希釈したものを軟質ポリウレタンフォーム(PUF)に100μl添加し、1段目にセットした。続いて、2段目に47mmφのケースに充填時の厚みが約2mmになるよう試作例の活性炭を充填し、20l/minの速度で22~24℃の空気を1段目のPUF及び2段目の繊維状活性炭に48時間通気した。
【0090】
通気後、試作例の活性炭をPP製の遠沈管(容量15ml)に移し、ジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒10mlを加えた。遠沈管を225rpmで10分間振とうした後、抽出液を採取した。この抽出液の採取工程を続けて2回繰り返し行い、合計30mlの抽出液を採取した。
【0091】
採取した抽出液を窒素吹き付け濃縮装置により1mlまで濃縮した後、該抽出液をGC-MS/MS(「GCMS―TQ8050」、株式会社島津製作所社製)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0092】
表6~8に、試作例6~21の活性炭について対象物質ごとにフルオロテロマーアルコール類(FTOHs)の回収率(%)を示した。対象物質は、4:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサノール)、6:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール)、8:2FTOH、10:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ヘンイコサフルオロ-1-ドデカノール)である。
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】
【0096】
なお、表中、「ND」とは、定量下限値以下であることを示している。捕集実験1と比較して、各数値は、質量分析の測定値のバラつきを抑えることができた。
【0097】
[結果と考察]
試作例6~9は、いずれのFTOHにおいても回収率は定量下限値以下であり、対象物質の吸着が不十分であった。対象物質の吸着に必要な細孔ないし比表面積を有していないため、吸着性能が発揮されなかったと推察される。
【0098】
試作例10~21は、いずれのFTOHについても回収可能であった。BET比表面積が900m/g以上とすると、対象物質の吸着が可能であることが示された。活性炭の比表面積のパラメータが各FTOHの吸着性能に一定の影響があることが推察される。また、特に繊維状活性炭である試作例10~19はいずれのFTOHの回収率において50%以上の良好な結果であった。対象物質と活性炭との接触効率の観点から、繊維状活性炭とするとより効率よくFTOHの吸着が可能であると考えられる。
【0099】
さらに、ミクロ孔とメソ孔が発達した活性炭とすると、いずれのFTOHについての吸着性能が高くなることも示された。試作例6,7は、ミクロ孔及びメソ孔がともに発達しておらず、いずれのFTOHも吸着されなかったと考えられる。試作例8,9はミクロ孔の発達はみられるがメソ孔が発達していないため、活性炭の細孔の入り口側に存在するメソ孔が少なく、ミクロ孔内にFTOHの分子がスムーズに導入されず、吸着されなかったと考えられる。
【0100】
試作例10~21はミクロ孔及びメソ孔いずれの細孔容積も大きく、どちらの細孔も十分に発達していると考えられるため、FTOHの分子が活性炭の細孔内にスムーズに導入され、優れた吸着性能が示されたと推察できる。試作例12~19は、特に優れたFTOHの回収性能を示した。試作例12~19はいずれもミクロ孔の細孔容積が大きく、かつメソ孔の細孔の発達がみられるもののメソ孔の細孔容積がそれほど大きくないことが特徴である。ミクロ孔内にFTOHの分子を吸着後、抽出操作時においてスムーズに細孔外へと脱離されやすいため、特に良好な回収率が示されたと考えられる。
【0101】
対して、試作例20,21は、ミクロ孔及びメソ孔の細孔容積がともに大きいことから、大きな細孔から小さな細孔まで複雑に発達した細孔を有する活性炭であるといえる。複雑に発達した細孔内に吸着されたFTOHの分子は、抽出操作時において、スムーズに脱離されにくくなり、試作例12~19に比してFTOHの回収率に若干劣ることとなったと推察される。これらの結果を鑑みると、活性炭のミクロ孔の細孔容積の和(Vmic)、メソ孔の細孔容積の和(Vmet)及びこれらの差分である容積差(V)がFTOHの回収率に影響があることが理解される。
【0102】
また、活性炭の細孔条件に加え、表面酸化物量を向上させることにより、親水性基を有するFTOHとの親和性を向上させてFTOHの吸着性能が向上するか検討したところ、同じ活性炭原料の試作例13と試作例14~17とでは、表面酸化物量を増加させた試作例14~17の方が良好な吸着性能が示された。同様に、試作例18と試作例19においても表面酸化物量の多い試作例19の方がより良い吸着性能が示された。よって、活性炭の表面酸化物量を増加させることにより、FTOHの吸着性能をより向上させることが可能であることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭は、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着することができるため、既存の捕集材では不可能であった該化合物の定量測定を可能とした。このことから、残留性有機汚染物質を効果的な定量評価を可能とした。