(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025212
(43)【公開日】2023-02-21
(54)【発明の名称】放射線障害の治療又は予防剤並びに治療又は予防方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230214BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230214BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230214BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230214BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230214BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230214BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230214BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230214BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61P35/00 ZNA
A61P35/02
A61P29/00
A61P37/02
C07K16/28
C07K16/18
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195156
(22)【出願日】2022-12-06
(62)【分割の表示】P 2018564555の分割
【原出願日】2018-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017010542
(32)【優先日】2017-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017212459
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】森 聖寿
(72)【発明者】
【氏名】植松 智
(72)【発明者】
【氏名】武村 直紀
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放射線被曝に伴う放射線障害を有効に治療又は予防するための技術を提供すること、及び放射線被曝に伴う放射線障害を抑制した放射線治療方法、又はがんの治療方法を提供すること。
【解決手段】放射線被曝に伴う放射線障害を有効に治療又は予防するための技術として、好酸球除去剤を有効成分として含有する、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防剤等を提供する。本発明に係る好酸球除去剤を含む治療又は予防剤等によれば、標的組織への好酸球の遊走、浸潤、及び/又は該組織中での増殖を抑制すること、及び/又は該好酸球の活性又は機能を阻害することにより、組織の炎症反応及び線維化などの病態を抑制して、放射線障害を効果的に治療又は予防し得る。また、放射線障害を抑制して効果的な放射線治療を行い得る。
【選択図】
図7B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
好酸球除去剤を有効成分として含有する、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防剤。
【請求項2】
放射線が、X線又はγ線である、請求項1記載の治療又は予防剤。
【請求項3】
放射線被曝が、放射線治療に伴う放射線被曝である、請求項1又は2記載の治療又は予防剤。
【請求項4】
放射線治療が、小腸がん、大腸がん、消化管間質腫瘍(GIST)、消化管カルチノイド、胃がん、食道がん、肝臓がん、胆のう・胆道がん、膵がん、膵・消化管神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、副腎腫瘍、骨肉腫、軟部肉腫、悪性リンパ腫、膀胱がん、尿道がん、前立腺がん、精巣腫瘍、陰茎がん、子宮体がん、子宮頸がん、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、女性器がん、肺がん、胸腺腫瘍、中皮腫、乳がん、造血器腫瘍、白血病、骨髄増殖性疾患および多発性骨髄腫からなる群から選ばれるいずれかのがんに対する放射線治療である、請求項1~3のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項5】
放射線障害が、早発性放射線障害又は晩発性放射線障害である、請求項1~4のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項6】
放射線障害が、小腸、大腸、胃、膀胱、肝臓及び腎臓からなる群から選択されるいずれか1以上の臓器に対する障害である、請求項1~5のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項7】
好酸球除去剤が、好酸球細胞表面上に発現している抗原に結合する抗体若しくはその断片又は該抗原に結合するリガンドに結合する抗体若しくはその断片である、請求項1~6のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項8】
抗体又はその断片が、IL-5受容体α鎖、IL-5受容体β鎖、CRTH2、Siglec8、CCR3、IL-5、PGD2、Siglec8リガンド、CCL5、CCL7、CCL11、CCL13、CCL15、CCL24、CCL26、及びCCL28からなる群から選択されるいずれかの抗原に結合する抗体又はその断片である、請求項7に記載の治療又は予防剤。
【請求項9】
抗体又はその断片が、抗体依存性細胞傷害活性及び/又は中和活性を有する抗体又はその断片である、請求項7又は8に記載の治療又は予防剤。
【請求項10】
抗体又はその断片が、モノクローナル抗体又は遺伝子組換え抗体あるいはそれらの断片である、請求項7~9のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項11】
抗体又はその断片が、ヒトFc領域又はヒト定常領域を含む抗体又はその断片である、請求項7~10のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項12】
抗体又はその断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体からなる群から選択されるいずれかの抗体又はその断片である、請求項7~11のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項13】
抗体又はその断片が、配列番号1~3に示すアミノ酸配列をそれぞれ含む重鎖(以下、H鎖と記す)相補性決定領域(以下、CDRと記す)1~3及び配列番号4~6に示すアミノ酸配列をそれぞれ含む軽鎖(以下、L鎖と記す)CDR1~3を含む抗IL-5R抗体又はその断片である、請求項7~12のいずれか一項に記載の治療又は予防剤。
【請求項14】
放射線治療において、治療対象患者の放射線の耐容線量を増加させること、放射線治療の期間を延長させること、及び/又は放射線治療に伴う放射線障害を抑制することを特徴とする、好酸球除去剤を有効成分として含有する、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防剤。
【請求項15】
放射線治療において、治療対象患者の放射線の耐容線量を5%以上増加させることを特徴とする、好酸球除去剤を有効成分として含有する、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防剤。
【請求項16】
好酸球除去剤が、配列番号1~3に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むH鎖CDR1~3及び配列番号4~6に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むL鎖CDR1~3を含む抗IL-5R抗体又はその断片である、請求項14又は15記載の治療又は予防剤。
【請求項17】
好酸球除去剤を有効成分として含有する治療剤又は予防剤を投与する手順を含む、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防方法。
【請求項18】
好酸球除去剤が、配列番号1~3に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むH鎖CDR1~3及び配列番号4~6に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むL鎖CDR1~3を含む抗IL-5R抗体又はその断片である、請求項17記載の治療又は予防方法。
【請求項19】
好酸球除去剤を使用することを特徴とする、放射線治療方法。
【請求項20】
放射線被曝による放射線障害を低下させた、請求項19記載の放射線治療方法。
【請求項21】
放射線被曝が、放射線治療に伴う放射線被爆である、請求項20記載の放射線治療方法。
【請求項22】
好酸球除去剤を投与しないときに比べて5%以上高い1回線量および/または合計線量の放射線の照射を含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の放射線治療方法。
【請求項23】
好酸球除去剤を投与しないときに比べ多い回数の放射線の照射を含む、請求項19~22のいずれか一項に記載の放射線治療方法。
【請求項24】
耐容線量より5%以上高い線量の放射線の照射を含む、請求項19~23のいずれか一項に記載の放射線治療方法。
【請求項25】
放射線治療が、小腸がん、大腸がん、消化管間質腫瘍(GIST)、消化管カルチノイド、胃がん、食道がん、肝臓がん、胆のう・胆道がん、膵がん、膵・消化管神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、副腎腫瘍、骨肉腫、軟部肉腫、悪性リンパ腫、膀胱がん、尿道がん、前立腺がん、精巣腫瘍、陰茎がん、子宮体がん、子宮頸がん、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、女性器がん、肺がん、胸腺腫瘍、中皮腫、乳がん、造血器腫瘍、白血病、骨髄増殖性疾患および多発性骨髄腫からなる群から選ばれるいずれかのがんに対する放射線治療である、請求項19~24のいずれか一項に記載の放射線治療方法。
【請求項26】
好酸球除去剤が、配列番号1~3に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むH鎖CDR1~3及び配列番号4~6に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むL鎖CDR1~3を含む抗IL-5R抗体又はその断片である、請求項19~25のいずれか一項に記載の放射線治療方法。
【請求項27】
好酸球除去剤の投与および放射線の照射の併用を含むがんの治療方法。
【請求項28】
放射線の照射が、好酸球除去剤を投与しないときに比べて5%以上高い1回線量および/または合計線量で行われる、請求項27記載のがんの治療方法。
【請求項29】
放射線の照射が、耐容線量より5%以上高い線量で行われる、請求項27又は28記載のがんの治療方法。
【請求項30】
放射線の照射が、好酸球除去剤を投与しないときに比べ多い回数行われる、請求項27~29のいずれか一項に記載のがんの治療方法。
【請求項31】
がんが、小腸がん、大腸がん、消化管間質腫瘍(GIST)、消化管カルチノイド、胃がん、食道がん、肝臓がん、胆のう・胆道がん、膵がん、膵・消化管神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、副腎腫瘍、骨肉腫、軟部肉腫、悪性リンパ腫、膀胱がん、尿道がん、前立腺がん、精巣腫瘍、陰茎がん、子宮体がん、子宮頸がん、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、女性器がん、肺がん、胸腺腫瘍、中皮腫、乳がん、造血器腫瘍、白血病、骨髄増殖性疾患および多発性骨髄腫からなる群から選ばれるいずれかのがんである、請求項27~30のいずれか一項に記載のがんの治療方法。
【請求項32】
好酸球除去剤が、配列番号1~3に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むH鎖CDR1~3及び配列番号4~6に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むL鎖CDR1~3を含む抗IL-5R抗体又はその断片である、請求項27~31のいずれか一項に記載のがんの治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線障害の治療又は予防剤並びに治療又は予防方法に関する。より詳しくは、好酸球除去剤を有効成分として含有する、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線療法は、手術療法及び化学療法と並ぶがん治療法の一つであり、骨盤腔内がん及び前立腺がんなどの癌治療において広く適用されている治療法である。腫瘍に線量を集中させ、周囲の正常組織への線量を極力低減させることにより、がんを根治あるいは症状緩和することにその目的がある。
【0003】
一方、放射線療法の課題として、正常組織に対する放射線障害が挙げられる。放射線障害は、放射線治療中または治療後数カ月の間に発症する早発性放射線障害、及び、治療後数カ月から数十年の間に発症する晩発性放射線障害に大分される(非特許文献1)。
【0004】
放射線性腸炎は、放射線を腹部や骨盤腔内のがんに照射した際に惹起される、腸内の正常細胞に対する放射線障害である。放射線性腸炎の早発性放射線障害としては、例えば、嘔吐、摂食障害、粘膜炎症、出血、下痢、便秘、及び、血便などが挙げられる。また、放射線性腸炎の晩発性放射線性障害としては、腸管線維化症、消化管の潰瘍,狭窄・閉塞、瘻孔形成、出血、穿孔、潰瘍形成、便失禁、及び、慢性下痢などが挙げられる。早発性障害に対する治療法としては、排便コントロールを主として、ステイロイド剤、抗酸化剤、抗炎症薬、ラジカルスカベンジャー製剤、及び、抗生物質などの薬剤を用いた内服治療を中心に対処療法を行う。また、晩発性放射線障害に対する治療法としては、例えば、高気圧酸素療法、アルゴンプラズマ凝固法、及び、外科的切除などが行われる。
【0005】
放射線性腸炎における早発性放射線障害は、粘膜障害及び粘膜の炎症を主とした病態であり、放射線治療中の患者のquality of life(QOL)を著しく低下させる。さらに、重度の早発性放射線障害が発症した場合、治療の中断や治療スケジュールの変更などを余儀なくされる。早発性放射線障害の治療薬としては、ステイロイド剤、抗酸化剤、抗炎症薬、ラジカルスカベンジャー製剤、及び、抗生物質などが使用されているが、治療効果は限定的であり、十分な治療効果を期待できる治療薬は存在しない(非特許文献1、2)。
【0006】
一方、放射線性腸炎における晩発性放射線障害は、組織の線維化、粘膜の委縮、及び、血管硬化などを主とした、慢性症状を呈する進行性の病態であり、患者のQOLを生涯にわたって著しく低下させる。晩発性放射線障害に対する有効な治療薬は存在せず、重篤な場合には外科的処置が施されるが、有効な治療方法は確立されていない(非特許文献1)。
【0007】
放射線性腸炎が惹起されるメカニズムとしては、野生型マウスの腹部に対して放射線を照射する放射線性腸炎モデルを用いた解析から、好酸球の関与が示唆されている(非特許文献3)。例えば、該放射線性腸炎モデルでは、放射線照射数ヶ月後から、主要な晩発性障害である小腸線維化の進行が惹起され、線維化発症部位である小腸粘膜下層における好酸球の浸潤および活性化が確認されている。
【0008】
また、好酸球が遺伝的に欠如しているΔdblGATAマウスを用いた放射線性腸炎モデルの検討では、小腸粘膜下層の線維化が抑制されることが明らかになっている。一方、ΔdblGATAマウスは、好酸球欠損マウスとして一般に広く使用されているが、好酸球欠損以外にも、好塩基球の減少や軽度の貧血が生じるなどの影響が報告されている(非特許文献4)。
【0009】
また、ΔdblGATAマウスは、同じく好酸球欠損マウスとして広く使用されているPHILマウスとも、喘息モデルなどにおいて表現型が異なることが報告されている(非特許文献5、6)。したがって、ΔdblGATAマウスにおいて放射線性腸炎の発症が抑制されるメカニズムが、好酸球が存在しないことのみに起因しているかどうかについては、必ずしも明らかではない。
【0010】
小腸における好酸球を除去する方法として、例えば、好酸球活性化因子であるインターロイキン―5(IL-5)を枯渇させる方法が考えられる。しかし、IL-5欠損マウスを用いた解析では、血中好酸球は顕著に減少する一方、小腸好酸球は減少しないことが明らかにされている(非特許文献7)。また、IL-5受容体を欠損させたIL-5Ra欠損マウスを用いた解析では、血中好酸球が50%程度減少するにとどまっている(非特許文献8)。
【0011】
IL-5リガンド又はIL-5受容体に特異的に結合する抗体として、抗IL-5ヒト化抗体Mepolizumab(IgG1)、Reslizumab(IgG4/κ)、並びに、抗IL-5Rα抗体Benralizumab(MEDI-563)[Fasenra(登録商標)](特許文献1、2及び非特許文献9、10)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第1997/10354号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/35583号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 2014, 11(8): 470-479
【非特許文献2】Nat. Rev. Cancer, 2011, 11(4): 239-253
【非特許文献3】Proceedings of the Japanese Society for Immunology, 2014, 43: 3-H-W50-4
【非特許文献4】Proc. Natl. Acad. Sci., 2013, 110(46): 18620-18625
【非特許文献5】Science, 2004, 305: 1773-1776
【非特許文献6】Science, 2004, 305: 1776-1779
【非特許文献7】Proc. Natl. Acad. Sci., 2000, 97(12): 6681-6686
【非特許文献8】Immunity, 1996, 4(5): 483-494
【非特許文献9】World Allergy Organization J., 2014, 7: 1-14
【非特許文献10】Clinical Et. Experimental Allergy, 2010 42, 712-737
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、放射線被曝に伴う放射線障害を有効に治療又は予防するための技術を提供すること、及び放射線被曝に伴う放射線障害を抑制した放射線治療方法、又はがんの治療方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題解決のため、本発明者らは鋭意検討した結果、リガンド/受容体の中和活性を有する好酸球除去抗体及び高エフェクター活性を付与した好酸球除去抗体等の好酸球除去剤によって腸管好酸球を顕著に減少させられることを初めて明らかにした。そして、好酸球除去剤の投与が、組織中の好酸球を減少させ、放射線障害における病態の発症及び進行を抑制しうること、放射線被曝に伴う放射線障害を抑制することで放射線治療における耐容線量を増加させることを見出した。
【0016】
これらの知見に基づき、本発明は以下の[1]~[70]を提供する。
[1] 好酸球除去剤を有効成分として含有する、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防剤。
[2] 放射線が、X線またはγ線である、[1]の治療又は予防剤。
[3] 放射線被曝が、放射線治療に伴う放射線被曝である、[1]又は[2]の治療又は予防剤。
[4] 放射線治療が、小腸がん、大腸がん、消化管間質腫瘍(GIST)、消化管カルチノイド、胃がん、食道がん、肝臓がん、胆のう・胆道がん、膵がん、膵・消化管神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、副腎腫瘍、骨肉腫、軟部肉腫、悪性リンパ腫、膀胱がん、尿道がん、前立腺がん、精巣腫瘍、陰茎がん、子宮体がん、子宮頸がん、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、女性器がん、肺がん、胸腺腫瘍、中皮腫、乳がん、造血器腫瘍、白血病、骨髄増殖性疾患および多発性骨髄腫からなる群から選ばれるいずれかのがんに対する放射線治療である[3]の治療又は予防剤。
[5] 放射線障害が、早発性放射線障害又は晩発性放射線障害である、[1]~[4]のいずれかの治療又は予防剤。
[6] 放射線障害が、小腸、大腸、胃、膀胱、肝臓及び腎臓からなる群から選択されるいずれか1以上の臓器に対する障害である、[1]~[5]のいずれかの治療又は予防剤。
[7] 好酸球除去剤が、好酸球細胞表面上に発現している抗原に結合する抗体もしくはその断片又は該抗原に結合するリガンドに結合する抗体若しくはその断片である、[1]~[6]のいずれかの治療又は予防剤。
[8] 抗体又はその断片が、IL-5受容体α鎖及び/又はβ鎖、CRTH2、Siglec8、CCR3、IL-5、PGD2、Siglec8リガンド、CCL5、CCL7、CCL11、CCL13、CCL15、CCL24、CCL26、及びCCL28からなる群から選択されるいずれかの抗原に結合する抗体又はその断片、好ましくはIL-5受容体α鎖又はIL-5リガンドに結合する抗体又はその断片である、[7]の治療又は予防剤。
[9] 抗体又はその断片が、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)及び/又は中和活性を有する抗体又はその断片である、[7]又は[8]の治療又は予防剤。
[10] 抗体又はその断片が、モノクローナル抗体又は遺伝子組換え抗体あるいはそれらの断片である、[7]~[9]のいずれかの治療又は予防剤。
[11] 抗体又はその断片が、ヒトFc領域又はヒト定常領域を含む抗体又はその断片である、[7]~[10]のいずれかの治療又は予防剤。
[12] 抗体又はその断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体からなる群から選ばれるいずれかの抗体又はその断片である、[7]~[11]のいずれかの治療又は予防剤。
[13] 放射線治療において、治療対象患者の放射線の耐容線量を増加させること、放射線治療の期間を延長させること、及び/又は放射線治療に伴う放射線障害を抑制することを特徴とする、好酸球除去剤を有効成分として含有する、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防剤。
【0017】
[14] 放射線治療において好酸球除去剤を用いることを特徴とする、治療対象患者の放射線の耐容線量を増加させる方法、放射線治療の期間を延長させる方法、及び/又は放射線被曝に伴う放射線障害を抑制する方法。
[15] 放射線が、X線又はγ線である、[14]の方法。
[16] 放射線被曝が、放射線治療に伴う放射線被曝である、[14]又は[15]の方法。
[17] 放射線治療が、小腸がん、大腸がん、消化管間質腫瘍(GIST)、消化管カルチノイド、胃がん、食道がん、肝臓がん、胆のう・胆道がん、膵がん、膵・消化管神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、副腎腫瘍、骨肉腫、軟部肉腫、悪性リンパ腫、膀胱がん、尿道がん、前立腺がん、精巣腫瘍、陰茎がん、子宮体がん、子宮頸がん、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、女性器がん、肺がん、胸腺腫瘍、中皮腫、乳がん、造血器腫瘍、白血病、骨髄増殖性疾患および多発性骨髄腫からなる群から選ばれるいずれかのがんに対する放射線治療である[14]~[16]のいずれかの方法。
[18] 放射線障害が、早発性放射線障害又は晩発性放射線障害である、[14]~[17]のいずれかの方法。
[19] 放射線障害が、小腸、大腸、胃、膀胱、肝臓及び腎臓からなる群から選択されるいずれか1以上の臓器に対する障害である、[14]~[18]のいずれかの方法。
[20] 好酸球除去剤が、好酸球細胞表面上に発現している抗原に結合する抗体若しくはその断片又は該抗原に結合するリガンドに結合する抗体若しくはその断片である、[14]~[19]のいずれかの方法。
[21] 抗体又はその断片が、IL-5受容体α鎖及び/又はβ鎖、CRTH2、Siglec8、CCR3、IL-5、PGD2、Siglec8リガンド、CCL5、CCL7、CCL11、CCL13、CCL15、CCL24、CCL26、及びCCL28からなる群から選択されるいずれかの抗原に結合する抗体又はその断片、好ましくはIL-5受容体α鎖又はIL-5リガンドに結合する抗体又はその断片である、[20]の方法。
[22] 抗体又はその断片が、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)及び/又は中和活性を有する抗体又はその断片である、[20]又は[21]の方法。
[23] 抗体又はその断片が、モノクローナル抗体又は遺伝子組換え抗体あるいはそれらの断片である、[20]~[22]のいずれかの方法。
[24] 抗体又はその断片が、ヒトFc領域又はヒト定常領域を含む抗体又はその断片である、[20]~[23]のいずれかの方法。
[25] 抗体又はその断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体からなる群から選択されるいずれかの抗体又はその断片である、[20]~[24]のいずれかの方法。
【0018】
[26] 好酸球除去剤を有効成分として含有する治療剤又は予防剤を投与する手順を含む、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防方法。
[27] 放射線が、X線又はγ線である、[26]の治療又は予防方法。
[28] 放射線被曝が、放射線治療に伴う放射線被曝である、[26]又は[27]の治療又は予防方法。
[29] 放射線治療が、小腸がん、大腸がん、消化管間質腫瘍(GIST)、消化管カルチノイド、胃がん、食道がん、肝臓がん、胆のう・胆道がん、膵がん、膵・消化管神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、副腎腫瘍、骨肉腫、軟部肉腫、悪性リンパ腫、膀胱がん、尿道がん、前立腺がん、精巣腫瘍、陰茎がん、子宮体がん、子宮頸がん、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、女性器がん、肺がん、胸腺腫瘍、中皮腫、乳がん、造血器腫瘍、白血病、骨髄増殖性疾患および多発性骨髄腫からなる群から選ばれるいずれかのがんに対する放射線治療である[28]の治療又は予防方法。
[30] 放射線障害が、早発性放射線障害又は晩発性放射線障害である、[26]~[29]のいずれかの治療又は予防方法。
[31] 放射線障害が、小腸、大腸、胃、膀胱、肝臓及び腎臓からなる群から選択されるいずれか1以上の臓器に対する障害である、[26]~[30]のいずれかの治療又は予防方法。
[32] 好酸球除去剤が、好酸球細胞表面上に発現している抗原に結合する抗体若しくはその断片又は該抗原に結合するリガンドに結合する抗体若しくはその断片である、[26]~[31]のいずれかの治療又は予防方法。
[33] 抗体又はその断片が、IL-5受容体α鎖及び/又はβ鎖、CRTH2、Siglec8、CCR3、IL-5、PGD2、Siglec8リガンド、CCL5、CCL7、CCL11、CCL13、CCL15、CCL24、CCL26、及びCCL28からなる群から選択されるいずれかの抗原に結合する抗体又はその断片、好ましくはIL-5受容体α鎖又はIL-5リガンドに結合する抗体又はその断片である、[32]の治療又は予防方法。
[34] 抗体又はその断片が、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)及び/又は中和活性を有する抗体又はその断片である、[32]又は[33]の治療又は予防方法。
[35] 抗体又はその断片が、モノクローナル抗体又は遺伝子組換え抗体あるいはそれらの断片である、[32]~[34]のいずれかの治療又は予防方法。
[36] 抗体又はその断片が、ヒトFc領域又はヒト定常領域を含む抗体又はその断片である、[32]~[35]のいずれかの治療又は予防方法。
[37] 抗体又はその断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体からなる群から選択されるいずれかの抗体又はその断片である、[32]~[36]のいずれかの治療又は予防方法。
【0019】
[38] 好酸球除去剤を使用することを特徴とする、放射線治療方法。
[39] 放射線被曝による放射線障害を低下させた、[38]の放射線治療方法。
[40] 放射線が、X線又はγ線である、[38]又は[39]の放射線治療方法。
[41] 放射線被曝が、放射線治療に伴う放射線被曝である、[39]又は[40]のの放射線治療方法。
[42] 好酸球除去剤を投与しないときに比べて5%以上高い1回線量および/または合計線量の放射線の照射を含む、[38]~[41]のいずれかの放射線治療方法。
[43] 耐容線量より5%以上高い線量の放射線の照射を含む、[38]~[42]のいずれかの放射線治療方法。
[44] 好酸球除去剤を投与しないときに比べ多い回数の放射線照射を含む、[38]~[43]のいずれかの放射線治療方法
[45] 放射線治療が、小腸がん、大腸がん、消化管間質腫瘍(GIST)、消化管カルチノイド、胃がん、食道がん、肝臓がん、胆のう・胆道がん、膵がん、膵・消化管神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、副腎腫瘍、骨肉腫、軟部肉腫、悪性リンパ腫、膀胱がん、尿道がん、前立腺がん、精巣腫瘍、陰茎がん、子宮体がん、子宮頸がん、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、女性器がん、肺がん、胸腺腫瘍、中皮腫、乳がん、造血器腫瘍、白血病、骨髄増殖性疾患および多発性骨髄腫からなる群から選ばれるいずれかのがんに対する放射線治療である[38]~[44]のいずれかの放射線治療方法。
[46] 放射線障害が、早発性放射線障害又は晩発性放射線障害である、[39]~[45]のいずれかの放射線治療方法。
[47] 放射線障害が、小腸、大腸、胃、膀胱、肝臓及び腎臓からなる群から選択されるいずれか1以上の臓器に対する障害である、[39]~[46]のいずれかの放射線治療方法。
[48] 好酸球除去剤が、好酸球細胞表面上に発現している抗原に結合する抗体若しくはその断片又は該抗原に結合するリガンドに結合する抗体若しくはその断片である、[38]~[47]のいずれかの放射線治療方法。
[49] 抗体又はその断片が、IL-5受容体α鎖及び/又はβ鎖、CRTH2、Siglec8、CCR3、IL-5、PGD2、Siglec8リガンド、CCL5、CCL7、CCL11、CCL13、CCL15、CCL24、CCL26、及びCCL28からなる群から選択されるいずれかの抗原に結合する抗体又はその断片、好ましくはIL-5受容体α鎖又はIL-5リガンドに結合する抗体又はその断片である、[48]の放射線治療方法。
[50] 抗体又はその断片が、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)及び/又は中和活性を有する抗体又はその断片である、[48]又は[49]の放射線治療方法。
[51] 抗体又はその断片が、モノクローナル抗体又は遺伝子組換え抗体あるいはそれらの断片である、[48]~[50]のいずれかの放射線治療方法。
[52] 抗体又はその断片が、ヒトFc領域又はヒト定常領域を含む抗体又はその断片である、[48]~[51]のいずれかの放射線治療方法。
[53] 抗体又はその断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体からなる群から選択されるいずれかの抗体又はその断片である、[48]~[52]のいずれかの放射線治療方法。
[54] 好酸球除去剤の投与および放射線の照射の併用を含むがんの治療方法。
[55] 放射線が、X線又はγ線である、[54]のがんの治療方法。
[56] 放射線の照射が、好酸球除去剤を投与しないときに比べて5%以上高い1回線量および/または合計線量で行われる、[54]又は[55]のがんの治療方法。
[57] 放射線の照射が、耐容線量より5%以上高い線量で行われる、[54]~[56]のいずれかのがんの治療方法。
[58] 放射線の照射が、好酸球除去剤を投与しないときに比べ多い回数行われる、[54]~[57]のいずれかのがんの治療方法。
[59] がんが、小腸がん、大腸がん、消化管間質腫瘍(GIST)、消化管カルチノイド、胃がん、食道がん、肝臓がん、胆のう・胆道がん、膵がん、膵・消化管神経内分泌腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、副腎腫瘍、骨肉腫、軟部肉腫、悪性リンパ腫、膀胱がん、尿道がん、前立腺がん、精巣腫瘍、陰茎がん、子宮体がん、子宮頸がん、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、女性器がん、肺がん、胸腺腫瘍、中皮腫、乳がん、造血器腫瘍、白血病、骨髄増殖性疾患および多発性骨髄腫からなる群から選ばれるいずれかのがんに対する放射線治療である、[54]~[58]のいずれかのがんの治療方法。
[60] 好酸球除去剤が、好酸球細胞表面上に発現している抗原に結合する抗体若しくはその断片又は該抗原に結合するリガンドに結合する抗体若しくはその断片である、[54]~[59]のいずれかのがんの治療方法。
[61] 抗体又はその断片が、IL-5受容体α鎖、IL-5受容体β鎖、CRTH2、Siglec8、CCR3、IL-5、PGD2、Siglec8リガンド、CCL5、CCL7、CCL11、CCL13、CCL15、CCL24、CCL26、及びCCL28からなる群から選択されるいずれかの抗原に結合する抗体又はその断片である、[60]のがんの治療方法。
[62] 抗体又はその断片が、抗体依存性細胞傷害活性及び/又は中和活性を有する抗体又はその断片である、[60]又は[61]のがんの治療方法。
[63] 抗体又はその断片が、モノクローナル抗体又は遺伝子組換え抗体あるいはそれらの断片である、[60]~[62]のいずれかのがんの治療方法。
[64] 抗体又はその断片が、ヒトFc領域又はヒト定常領域を含む抗体又はその断片である、[60]~[63]のいずれかのがんの治療方法。
[65] 抗体又はその断片が、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体からなる群から選択されるいずれかの抗体又はその断片である、[60]~[64]のいずれかのがんの治療方法。
[66] 放射線治療において、治療対象患者の放射線の耐容線量を5%以上増加させることを特徴とする、好酸球除去剤を有効成分として含有する、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防剤。
【0020】
[67] 好酸球除去剤が、
(1)ヒトIL-5Rαの細胞外領域1番目~313番目のアミノ酸配列に存在するエピトープに結合する抗体(ここで、細胞外領域とは、ヒトIL-5Rαのうち、膜貫通領域からC末端までを除く、N末端側領域をいう)、
(2)ヒトIL-5Rαの細胞外領域の41番目~61番目のアミノ酸配列に存在するエピトープに結合する抗体、
(3)ヒトIL-5Rαの細胞外領域の52番目~61番目のアミノ酸配列に存在するエピトープに結合する抗体、
(4)ヒトIL-5Rαの細胞外領域の61番目のアミノ酸残基を含むエピトープに結合する抗体、
(5)抗ヒトIL-5Rα抗体Benralizumabが結合するエピトープに結合する抗体、
(6)抗ヒトIL-5Rα抗体Benralizumabと同じエピトープに結合する抗体、
(7)抗ヒトIL-5Rα抗体BenralizumabのCDRを含む抗体、
(8)抗ヒトIL-5Rα抗体Benralizumabの重鎖可変領域(以下、VHと略記する)及び軽鎖可変領域(以下、VLと略記する)を含む抗体、
(9)抗ヒトIL-5Rα抗体Benralizumab、
(10)配列番号1~3に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むH鎖CDR1~3及び配列番号4~6に示すアミノ酸配列をそれぞれ含むL鎖CDR1~3を含む抗IL-5R抗体、
(11)配列番号7に示すアミノ酸配列を含むVH及び配列番号8に示すアミノ酸配列を含むVLを含む抗IL-5R抗体、
(12)配列番号9に示すアミノ酸配列を含むH鎖及び配列番号10に示すアミノ酸配列を含むL鎖を含む抗IL-5R抗体、
(13)配列番号14に示すアミノ酸配列に含まれるH鎖CDR1~3及び配列番号17に示すアミノ酸配列に含まれるL鎖CDR1~3を含む抗IL-5R抗体、
(14)配列番号14に示すアミノ酸配列を含むVH及び配列番号17に示すアミノ酸配列を含むVLを含む抗IL-5R抗体、
(15)抗ヒトIL-5ヒト化抗体Mepolizumab(IgG1)が結合するエピトープに結合する抗体、
(16)抗ヒトIL-5ヒト化抗体Mepolizumab(IgG1)と同じエピトープに結合する抗体、
(17)抗ヒトIL-5ヒト化抗体Mepolizumab(IgG1)のCDRを含む抗体、
(18)抗ヒトIL-5ヒト化抗体Mepolizumab(IgG1)のVH及びVLを含む抗体、
(19)抗ヒトIL-5ヒト化抗体Mepolizumab(IgG1)
(20)抗ヒトIL-5抗体Reslizumab(IgG4/κ)が結合するエピトープに結合する抗体、
(21)抗ヒトIL-5抗体Reslizumab(IgG4/κ)と同じエピトープに結合する抗体、
(22)抗ヒトIL-5抗体Reslizumab(IgG4/κ)のCDRを含む抗体、
(23)抗ヒトIL-5抗体Reslizumab(IgG4/κ)のVH及びVLを含む抗体、及び
(24)抗ヒトIL-5抗体Reslizumab(IgG4/κ)
からなる群から選ばれる1以上の抗体又はその断片である、[1]~[13]の治療又は予防剤、[14]~[25]の方法、[26]~[37]若しくは[66]の治療又は予防方法、[38]~[53]の放射線治療方法、又は[54]~[65]のがんの治療方法。
[68] 抗体又はその断片が、Fc領域の297番目に結合するコアフコースが低下又は欠損している、[1]~[13]の治療又は予防剤、[14]~[25]の方法、[26]~[37]若しくは[66]の治療又は予防方法、[38]~[53]の放射線治療方法、又は[54]~[65]のがんの治療方法。
【0021】
[69] 配列番号14に示すアミノ酸配列に含まれるH鎖CDR1~3及び配列番号17に示すアミノ酸配列に含まれるL鎖CDR1~3を含む抗IL-5R抗体、又は
配列番号14に示すアミノ酸配列を含むVH及び配列番号17に示すアミノ酸配列を含むVLを含む抗IL-5R抗体。
[70] 遺伝子組換え型のラット抗体、ラット‐マウスキメラ抗体、ラット‐ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体からなる群から選択されるいずれか1である、[69]の抗体又はその断片。
[71] ヒトFc領域を含む、[69]又は[70]の抗体又はその断片。
[72] [69]~[71]のいずれかの抗体又はその断片をコードするDNA。
[73] [72]のDNAが導入された抗体生産細胞。
[74] [73]の抗体生産細胞を培養して、該培養上清を取得して精製することを特徴とする、[69]~[71]のいずれかの抗体又はその断片を製造する方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、放射線被曝に伴う放射線障害を有効に治療又は予防するための技術が提供される。本発明に係る好酸球除去剤を含む治療又は予防剤、及びそれを用いた治療又は予防方法によれば、標的組織への好酸球の遊走、浸潤、及び/又は該組織中での増殖を抑制すること、及び/又は該好酸球の活性又は機能を阻害することにより、組織の炎症反応及び線維化などの病態を抑制して、放射線障害を効果的に治療又は予防し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】cm1B12抗体のIL5Ra発現Ba/F3細胞に対する特異的結合をフローサイトメトリーで解析した結果を示す。白丸はIL5Ra発現Ba/F3細胞に対する結合量を、黒丸はBa/F3細胞に対する結合量を示す。縦軸は抗体結合量(蛍光強度)を、横軸は抗体濃度を示す。
【
図2】cm1B12抗体のIL5Ra発現Ba/F3細胞に対する細胞傷害活性を解析した結果を示す。黒丸は、IL5Ra発現Ba/F3細胞に対する細胞傷害活性を、白丸はBa/F3細胞に対する該抗体の細胞傷害活性を示す。縦軸は最大細胞傷害活性を100%とした際の細胞傷害活性率(%)を、横軸は抗体濃度を示す。
【
図3】(A)は、マウスIL-5により刺激したBa/F3細胞およびIL5Ra発現Ba/F3細胞の細胞増殖を解析した結果を示す。縦軸は細胞増殖(吸光度OD450)を、横軸はマウスIL-5濃度(ng/mL)を示す。(B)は、マウスIL-5とIL-5Rの結合を介した細胞増殖に対するcm1B12抗体の中和活性を示す。縦軸は細胞増殖阻害活性(%)を、横軸は抗体濃度(μg/mL)を示す。
【
図4A】フローサイトメトリーによる血中好酸球画分のゲーティングを示す。
【
図4B】cm1B12抗体又はTRFK-5抗体投与による血中好酸球の割合の変化を解析した結果を示す。縦軸は、
図4(A)で全細胞数と定義した画分における血中好酸球画分の割合(%)を示す。
【
図5A】フローサイトメトリーによる小腸好酸球画分のゲーティングを示す。
【
図5B】cm1B12抗体又はTRFK-5抗体の投与による小腸好酸球の割合の変化を解析した結果を示す。縦軸は、
図5(A)で全細胞数と定義した画分における小腸好酸球画分の割合(%)を示す。
【
図6】(A)は、放射線照射13週間後の血中好酸球の割合に対するcm1B12抗体又はTRFK-5抗体の投与の影響を解析した結果を示す。縦軸は、
図4(A)で全細胞数と定義した画分中の血中好酸球画分の割合(%)を示す。(B)は、放射線照射13週間後の小腸好酸球の割合に対するcm1B12抗体又はTRFK-5抗体の投与の影響を解析した結果を示す。縦軸は、
図5(A)で全細胞数と定義した画分中の小腸好酸球画分の割合(%)を示す。
【
図7A】放射線照射13週間後の小腸粘膜下層における好酸球の浸潤数に対するcm1B12抗体又はTRFK-5抗体の投与による影響を解析した結果を示す。矢頭は好酸球を示す。
【
図7B】放射線照射13週間後の小腸粘膜下層における単位面積あたりの好酸球数に対するcm1B12抗体又はTRFK-5抗体の投与による影響を解析した結果を示す。
【
図8A】放射線照射13週間後の小腸粘膜下層の線維化に対するcm1B12抗体又はTRFK-5抗体の投与による抑制効果を示す。
【
図8B】放射線照射13週間後の小腸粘膜下層の肥厚化に対するcm1B12抗体又はTRFK-5抗体の投与による抑制効果を示す。縦軸は、粘膜下層の厚さ(μm)を示す。
【
図9A】放射線照射13週間後の小腸好酸球の割合に対する83103抗体の投与の影響を解析した結果を示す。縦軸は、単球と顆粒球画分を全細胞数と定義した、小腸好酸球画分の割合(%)を示す。
【
図9B】放射線照射13週間後の小腸粘膜下層における単位面積あたりの好酸球数に対する83103抗体の投与による影響を解析した結果を示す。
【
図9C】放射線照射13週間後の小腸粘膜下層の肥厚化に対する83103抗体の投与による抑制効果を示す。縦軸は、粘膜下層の厚さ(μm)を示す。
【
図10】放射線照射20週間後の血中における好酸球数の変化、及びcm1B12抗体投与による血中好酸球の割合の変化を示す。縦軸は好酸球の割合(%)を示す。横軸は、合計線量、及び投与薬剤を示す。
【
図11】放射線照射20週間後の腸管粘膜下層における好酸球の浸潤に対するcm1B12抗体投与による影響を解析した結果を示す。矢印は好酸球を示す。
【
図12】放射線照射20週間後の腸管粘膜下層の肥厚化に対するcm1B12抗体投与による影響を解析した結果を示す。矢印は線維層を示す。
【
図13】放射線照射20週間後の腸管粘膜下層における肥厚化と合計線量の相関、及びcm1B12抗体投与による影響を解析した結果を示す。縦軸は、粘膜下層の厚さ(μm)を示す。横軸は、合計線量、及び投与薬剤を示す。生存個体のデータは平均値で示す。安楽死個体のデータは黒丸で示す。
【
図14】放射線照射20週間後の腸管の短縮と合計線量の相関、及びcm1B12抗体投与による影響を解析した結果を示す。縦軸(左)は、0Gy群を基準としたときの腸管短縮の長さ(cm)を示す。縦軸(右)は、0Gy群を基準としたときの腸管短縮の割合(%)を示す。横軸は、合計線量、及び投与薬剤を示す。生存個体のデータは平均値で示す。安楽死個体のデータは黒丸で示す。
【
図15】放射線照射による体重変動への影響、及びcm1B12抗体投与による影響を解析した結果を示す。縦軸は体重(g)を示す。横軸は、初回放射線照射日からの日数(日)を示す。それぞれの線は0、8、16、24、32若しくは40Gyの合計線量の放射線を照射したPBS投与群又は32若しくは40Gyの合計線量の放射線を照射したcm1B12抗体投与群の平均値を示す。なお、40Gy照射したPBS投与群またはcm1B12抗体投与群は致死個体を除いた平均値を示す。
【
図16】40Gyの合計線量の放射線を照射された群における生存曲線、及びcm1B12抗体投与による影響を解析した結果を示す。それぞれの線はPBS投与群またはcm1B12抗体投与群の生存曲線を示す。縦軸は生存個体数を示す。横軸は、初回放射線照射日からの日数(日)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0025】
本発明は、好酸球除去剤を含有する、放射線被曝に伴う放射線障害に対する治療又は予防剤、並びに該治療又は予防剤を用いた、放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防方法に関する。
【0026】
また、本発明には、好酸球除去剤を用いて放射線被曝に伴う放射線障害を抑制する方法、好酸球除去剤を用いることで放射線治療における治療対象患者の放射線耐容線量を増加させる方法、及び好酸球除去剤を用いることで放射線治療における治療対象患者の放射線治療期間を延長させる方法も含まれる。
【0027】
本発明において、「放射線」とは、全ての電磁波および粒子線をいう。具体的には、放射性物質から放出されるα線、β線、γ線や、人工的に作り出したX線、陽子線、炭素線、中性子線、電子線等が挙げられる。
【0028】
本発明において、「放射線被曝」とは、全身もしくは身体の一部が放射線に曝されることをいい、放射性物質を体内に取りこむことにより身体の内部から放射線にさらされる内部被曝、及び、身体の外部から放射線にさらされる外部被曝が含まれる。具体的には、放射線治療や放射線を用いた画像診断に伴う医療被曝、放射性物質や放射線発生装置の取扱いに伴う職業被曝、自然界に存在する放射性物質や宇宙線に由来する自然被曝、原子力発電所などの事故に伴う被曝などが挙げられるが、いずれの放射線被曝によるものも含まれる。
【0029】
本発明において、「放射線障害」とは、全身もしくは身体の一部に放射線被曝を受けることに起因して生じる障害をいう。通常、放射線障害は、正常な細胞又は正常組織が放射線被曝を受けた際に望ましくない反応として起こる現象、即ち有害事象又は副作用である。
がん治療等の医療目的での放射線照射による局所性の放射線障害を含む放射線障害には、早発性(急性)放射線障害と晩発性(慢性)放射線障害が含まれる。
本発明において放射線障害としては、放射線被曝に起因する放射線性の病態であればよく、特に限定されない。
具体的には、放射線性上皮炎、放射線性食道炎、放射線性腎炎、放射線性神経炎、放射線性胃炎、放射線性壊死、放射線性潰瘍、放射線性火傷、放射線性肝炎、放射線性口内炎、放射線性脊髄症、放射線性線維症、放射線性腸炎、放射線性粘膜炎、放射線性肺炎、放射線性皮膚炎、放射線性膀胱炎、放射線性白内障、放射線性白血球減少症、放射線性宿酔、放射線性貧血、及び放射線性不妊症などが挙げられる。
【0030】
本発明において、「早発性放射線障害」とは、放射線被曝直後から数カ月の間に発症する放射線障害をいう。例えば、放射線性腸炎における早発性放射線障害の例としては、限定されるものではないが、皮膚障害、口腔粘膜障害、消化管粘膜障害、脱毛、嘔吐、摂食障害、粘膜炎症、出血、下痢、便秘、及び血便などが挙げられる。
【0031】
本発明において、「晩発性放射線障害」とは、放射線被曝後数カ月から数十年の間に発症する放射線障害をいう。例えば、放射線性腸炎における晩発性放射線障害の例としては、限定されるものではないが、腸管線維化症、消化管の潰瘍、狭窄・閉塞、瘻孔形成、出血、穿孔、潰瘍形成、便失禁、及び慢性下痢などが挙げられる。
【0032】
本発明において、放射線障害が発生する臓器としては、皮膚、脳、口腔、咽頭、食道、胃、十二指腸、小腸(空腸及び回腸など)、大腸(盲腸、結腸及び直腸など)、肛門、肝臓、胆管、胆嚢、膵臓、腎臓、膀胱、腹膜、耳下腺、顎下線、耳下腺、リンパ管、リンパ節、神経系、脊髄、肺、気道、気管支、心臓、血管など、放射線性障害を受ける組織であればいずれの組織も含まれる。
【0033】
本発明において、「放射線治療」又は「放射線療法」とは、放射線の治療線量を腫瘍に集中して照射し、腫瘍周囲の正常組織への治療線量の照射を低減させながら、がん細胞の増殖を抑制してがんを根治すること、あるいは症状を緩和することをいう。
【0034】
本発明において、「放射線治療」もしくは「放射線療法」または「がんの治療」の対象となるがん種の例としては、限定されるものではないが、小腸がん、大腸がん、消化管間質腫瘍(GIST)、消化管カルチノイド、胃がんおよび食道がんなどの消化管がん;肝臓がん、胆のう・胆道がん、膵がん、膵・消化管神経内分泌腫瘍およびランゲルハンス細胞組織球症、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、副腎腫瘍などの、腸管近傍に発生するがん;膀胱がん、尿道がん、前立腺がん、精巣腫瘍、陰茎がん、子宮体がん、子宮頸がん、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、女性器がんなどの骨盤腔内がん;肺がん、胸腺腫瘍、中皮腫、乳がんなどの、胸部に発生するがん;造血器腫瘍、白血病、骨髄増殖性疾患および多発性骨髄腫などの骨髄系がん;ならびに腸管近傍に発生する骨肉腫、軟部肉腫および悪性リンパ腫などが挙げられる。
【0035】
本発明において、放射線治療又は放射線療法には体外から放射線を照射する外部照射法と体内から放射線を照射する内部照射法が挙げられる。外部照射法に使用される放射線として短波長の電磁線(X線、γ線)、陽子線および重粒子線が挙げられる。内部照射法に使用される放射線としてはX線、γ線、陽子線、重粒子線、α線およびβ線などが挙げられる。本発明において、放射線治療又は放射線療法に使用される放射線は、短波長の電磁線であるγ線およびX線が好ましい。
【0036】
本発明において、「耐容線量」とは、正常な組織に対して放射線照射を行った場合、組織が耐えうる放射線量をいい、臨床的には、最小耐容線量(tolerant dose;TD5/5)及び最大耐容線量(TD50/5)が用いられる。最小耐容線量とは、放射線照射後、5年間で組織の機能障害が5%の確率で発症する総放射線量をいう。また、最大耐容線量とは、放射線照射後、5年間で組織の機能障害が50%の確率で発症する総放射線量をいう。なお、耐容線量は、1回当たりの放射線量あるいは放射線を照射する各組織により異なるが、各組織の最小耐容線量および最大耐容線量は、例えば、公知のガイドライン「放射線治療計画ガイドライン2012(日本放射線腫瘍学会)」を参照することによって定義されている(表1)。
【0037】
【0038】
本発明において、「好酸球除去剤」とは、好酸球の細胞増殖、遊走、浸潤及び/又は脱顆粒などの活性化を抑制するか、好酸球のアポトーシス及び/又は細胞傷害誘導を行うことができるものであればいかなるものでもよく、好酸球の細胞表面上に発現している受容体及び接着分子などの抗原に作用するもの、及び該抗原に対するリガンドに作用するものいずれであってもよい。
【0039】
好酸球の細胞表面上に発現する抗原としては、IL-5受容体(以下「IL-5R」とも記載する)、CRTH2(PTGDR2; prostaglandin D2 receptor 2,GPR44)、Siglec8(SAF-2)及びCCR3(chemokine, CC-motif receptor 3, eotaxin receptor、CD193)などが挙げられる。また、該抗原に結合するリガンドとしては、IL-5リガンド(単に「IL-5」とも記載する)、PGD2(prostaglandin D2 )、Siglec8リガンド(シアル酸、6’-sulfo-sialyl Lewis X又は該糖鎖を含むリガンド)並びにCCL11(chemokine CC-motif ligand 11、 eotaxin)、CCL5、CCL7、CCL13、CCL15、CCL24、CCL26、及びCCL28などが挙げられる。
【0040】
本発明において、好酸球除去剤として、好ましくはIL-5R、CRTH2、Siglec8及びCCR3、並びにそれらのリガンドの少なくともいずれか一つに結合して、好酸球の活性を低下させるものが挙げられる。好酸球除去剤として、より好ましくはIL-5R、CRTH2、Siglec8及びCCR3、並びにそれらのリガンドの少なくともいずれか一つに結合し、かつ好酸球の細胞増殖、遊走、浸潤及び/又は脱顆粒などの活性化の抑制活性(中和活性、又はアンタゴニスト活性ともいう)を有するか、及び/又は好酸球のアポトーシス誘導活性及び/又は細胞傷害誘導活性(細胞障害活性ともいう)を有するものが挙げられる。
【0041】
本発明において、好酸球除去剤として、最も好ましくはIL-5R、CRTH2、Siglec8及びCCR3の少なくともいずれか一つに結合し、かつ好酸球の細胞増殖、遊走、浸潤及び/又は脱顆粒などの活性化を抑制する活性(中和活性、又はアンタゴニスト活性ともいう)を有するか、又は/及び好酸球のアポトーシス誘導活性及び/又は細胞傷害誘導活性(細胞傷害活性ともいう)を有するものが挙げられる。
【0042】
本発明に用いられる好酸球除去剤としては、上述の特徴を有するものであれば、低分子であっても、高分子であってもいずれでもよい。好ましくは、抗体および該抗体断片が挙げられる。
【0043】
「IL-5R」は、2種類のポリペプチド鎖、α鎖(以下「IL-5Rα鎖」とも記載する)とβ鎖(以下「IL-5Rα鎖」とも記載する)からなる。IL-5との結合はIL-5Rα鎖によって担われており、IL-5Rβ鎖単独ではIL-5に対する結合能を示さない。したがって、本発明で用いられる抗IL-5R抗体としては、IL-5Rα鎖に結合する抗体がより好ましい。
【0044】
IL-5RとIL-5との結合を阻害する抗体としては、IL-5Rに結合しかつIL-5とIL-5Rとの結合を阻害する抗体(抗IL-5R抗体)、及び、IL-5に結合しかつIL-5RとIL-5との結合を阻害する抗体(抗IL-5抗体)などが挙げられ、より好ましくは、IL-5RとIL-5との結合を阻害した結果、IL-5Rのシグナルを阻害する抗体が挙げられる。抗IL-5R抗体としては、例えば、抗ヒトIL-5Rα抗体Benralizumabが挙げられる。また、抗ヒトIL-5抗体としては、例えば、抗ヒトIL-5ヒト化抗体Mepolizumab(IgG1)及び抗ヒトIL-5抗体Reslizumab(IgG4/κ)などが挙げられる。
【0045】
IL-5R発現細胞に直接作用しIL-5R依存的なシグナルを阻害する抗IL-5R抗体は、IL-5R発現細胞を抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)などのエフェクター活性によって除去できることに加え、IL-5R発現細胞の細胞増殖阻害、遊走阻害及び/又はアポトーシス誘導を引き起すことができることから、抗IL-5R抗体としてより好ましい。
【0046】
本発明で用いられる抗IL-5R抗体は、IL-5RとIL-5との結合に関与するIL-5Rの「細胞外領域」をエピトープとする抗体が好ましい。そのようなエピトープとしては、ヒトIL-5Rαの細胞外領域(ヒトIL-5Rαのうち、膜貫通領域からC末端までを除く、N末端側領域)の1番目~313番目のアミノ酸配列に存在するエピトープ、ヒトIL-5Rαの細胞外領域の41番目~61番目のアミノ酸配列に存在するエピトープ、ヒトIL-5Rαの細胞外領域の52番目~61番目のアミノ酸配列に存在するエピトープ、ヒトIL-5Rαの細胞外領域の61番目のアミノ酸残基を含むエピトープ、及び、抗ヒトIL-5Rα抗体Benralizumabが結合するエピトープがあげられる(Kolbeck et al,J. Allergy Clin. Immunol., 2010、125:1344-1353)。
本発明におけるIL-5R抗体には、限定するものではないが、Benralizumab、Benralizumabと同じエピトープに結合する抗体、BenralizumabのCDRを含む抗体、Benralizumabの重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む抗体などが挙げられる。
【0047】
本発明で用いられる抗IL-5R抗体あるいは抗IL-5抗体として、より具体的には配列番号1~3に示すアミノ酸配列をそれぞれ含む重鎖(H鎖)CDR1~3及び配列番号4~6に示すアミノ酸配列をそれぞれ含む軽鎖(L鎖)CDR1~3を含む抗IL-5R抗体、配列番号7に示すアミノ酸配列を含むVH及び配列番号8に示すアミノ酸配列を含むVLを含む抗IL-5R抗体、配列番号9に示すアミノ酸配列を含むH鎖及び配列番号10に示すアミノ酸配列を含むL鎖を含む抗IL-5R抗体、BenralizumabのCDRを含む抗体、BenralizumabのVH及びVLを含む抗体、Mepolizumab(IgG1)のCDRを含む抗体、Reslizumab(IgG4/κ)のCDRを含む抗体、Mepolizumab(IgG1)のVH及びVLを含む抗体、Reslizumab(IgG4/κ)のVH及びVLを含む抗体、Benralizumab、Mepolizumab(IgG1)及びReslizumab(IgG4/κ)などが挙げられる。
【0048】
また本発明で用いられる抗IL-5R抗体として、より具体的には配列番号14に示すアミノ酸配列に含まれる重鎖(H鎖)CDR1~3及び配列番号17に示すアミノ酸配列に含まれる軽鎖(L鎖)CDR1~3を含む抗IL-5R抗体、配列番号14に示すアミノ酸配列を含むVH及び配列番号17に示すアミノ酸配列を含むVLを含む抗IL-5Rα抗体も挙げられる。
【0049】
また、上述の抗体のFc領域の297番目に結合するコアフコースが、低下又は欠損している抗体が好ましく、具体的には、抗IL-5Rヒト化抗体Benralizumabがあげられる。
【0050】
また本発明には、配列番号14に示すアミノ酸配列に含まれる重鎖(H鎖)CDR1~3及び配列番号17に示すアミノ酸配列に含まれる軽鎖(L鎖)CDR1~3を含む抗IL-5R抗体、配列番号14に示すアミノ酸配列を含むVH及び配列番号17に示すアミノ酸配列を含むVLを含む抗IL-5R抗体が含まれる。本発明の抗体としては、モノクローナル抗体、遺伝子組換え型のラット抗体、ラット‐マウスキメラ抗体、ラット‐ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体いずれの抗体も含む。
【0051】
「CRTH2」は、白血球の遊走に関与するプロスタグランジン D2(以下「PGD2」とも記載する)の7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体であり、好酸球に強く発現する。CRTH2は、PGD2との結合によりCRTH2依存的な細胞内シグナルを伝達し、CRTH2を発現する細胞の遊走や、該細胞からのサイトカイン産生亢進、並びに、細胞径及び細胞表面積などの変化を伴う細胞形態変化を誘導する。
【0052】
本発明で用いられる抗CRTH2抗体としては、CRTH2の細胞外領域をエピトープとして結合する抗体が好ましい。ヒトCRTH2の細胞外領域としては、ヒトCRTH2のN末端から1~33番目のアミノ酸残基を含むN末端側領域、95~111番目のアミノ酸残基を含むループ1領域、169~206番目のアミノ酸残基を含むループ2領域、及び、264~285番目のアミノ酸残基を含むループ3領域が挙げられる(J Immunol, 1999. 162(3): 1278-86.)。抗CRTH2抗体は、CRTH2発現細胞に直接作用し、CRTH2発現細胞を抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)などのエフェクター活性によって除去できることに加え、CRTH2依存的なシグナルを阻害した結果、CRTH2発現細胞の細胞増殖阻害、遊走阻害及び/又はアポトーシス誘導を引き起すことができる。例えば、ヒトCRTH2に対する抗体として、301108(R&D社)、BM16(国際公開第97/46677号)、クローン19A2、8B1、31A5(国際公開第2014/144865号)、クローンLym2(国際公開第2017/010567)が挙げられる。
【0053】
「Siglec8」は、I型膜貫通型タンパク質であり、好酸球に強く発現する。Siglec8は、Siglec8依存的な細胞内シグナルを伝達し、Siglec8を発現する細胞のアポトーシスを誘導する。
【0054】
本発明で用いられる抗ヒトSiglec8抗体としては、Siglec8発現細胞に直接作用し、Siglec8依存的な細胞内シグナルを伝達した結果、Siglec8発現細胞の細胞増殖阻害やアポトーシス誘導を引き起すと共に、Siglec8発現細胞を抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)などのエフェクター活性によって除去できる抗体が好ましい。例えば、ヒトSiglec8に結合する抗体として、837535(R&D社)、7C9(J Immunol. 2014 Jun 15;192(12):5481-9)などが挙げられる。
【0055】
「CCR3」は、7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体であり、好酸球に強く発現する。CCL5、CCL7、CCL11、CCL13、CCL15、CCL24、CCL26、及びCCL28などのケモカインのCCR3への結合により好酸球の遊走が誘導される。
【0056】
本発明で用いられるCCR3に結合する好酸球除去剤としては、例えば抗CCR3抗体およびCCR3阻害活性を有する低分子が挙げられる。抗CCR3抗体としては、CCR3発現細胞に直接作用し、ケモカインの結合およびそれにより誘導される好酸球の遊走を阻害する抗CCR3抗体が好ましい。例えば、CCR3に結合する抗体として、83103抗体(R&D社)および61828抗体(R&D社)などが挙げられる。またCCR3阻害活性を有する低分子としては、例えば、AXP-1275およびMT-0814などが挙げられる。
【0057】
本発明で用いられるCCR3のリガンドに結合する好酸球除去剤としては例えばCCR3のリガンドに選択的に結合する抗体が挙げられる。CCR3のリガンドに選択的に結合する抗体としては、CCR3のリガンドに結合し、CCR3への結合およびそれにより誘導される好酸球の遊走を阻害する抗体が好ましい。例えば、抗エオタキシン-1抗体CAT-212およびCAT213(J. Pharmacol. Exp. Ther. 2006,319(3),1395-1404)や、抗CCL24抗体(US20160368979A1)などが挙げられる。
【0058】
本発明に用いられる抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくは単一のエピトープに結合するモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマから生産されるモノクローナル抗体であってもよいし、遺伝子組換え技術によって作製された遺伝子組換え抗体であってもよい。
【0059】
本発明に用いられる抗体は、ヒトにおいて免疫原性を低下させるために、ヒトFc領域を含む抗体、ヒト定常領域を含む抗体、ヒト型キメラ抗体(以下、単に「キメラ抗体」ともいう)、ヒト化抗体(「ヒト型complementarity determining region(CDR)移植抗体」ともいう)及びヒト抗体などの遺伝子組換え抗体を用いることが好ましい。
【0060】
キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域(以下「VH」と略記する)及び軽鎖可変領域(以下「VL」と略記する)と、ヒト抗体の重鎖定常領域(以下「CH」と略記する)及び軽鎖定常領域(以下「CL」と略記する)とからなる抗体である。可変領域についての動物の種類は、マウスやラット、ハムスター、ウサギなどのハイブリドーマを作製しうる動物であれば特に限定されない。
【0061】
ヒト型キメラ抗体は、目的抗原に特異的に結合するヒト以外の動物の抗体のVH及びVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCH及びCLをコードする遺伝子を有する発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることで作製できる。
【0062】
ヒト型キメラ抗体のCHは、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと略記する)であれば特に限定されないが、hIgGクラスのものが好ましい。ヒト型キメラ抗体のCLは、hIgGに属すれば特に限定されない。
【0063】
ヒト化抗体は、ヒト以外の動物の抗体のVH及びVLのCDRをヒト抗体のVH及びVLの適切な位置に移植した抗体である。ヒト化抗体は、目的抗原に特異的に結合するヒト以外の動物の抗体のVH及びVLのCDRを任意のヒト抗体のVH及びVLのフレームワーク(以下「FR」と略記する)に移植した可変領域(以下「V領域」と略記する)をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCH及びCLをコードするDNAを有する発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト化抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることで作製できる。ヒト抗体のVH及びVLのFRのアミノ酸配列は、ヒト抗体由来のアミノ酸配列であれば特に限定されない。ヒト化抗体のCHは、hIgであれば特に限定されないが、hIgGクラスのものが好ましい。ヒト化抗体のCLは、hIgに属すれば特に限定されない。
【0064】
本発明で用いられる抗体断片とは、上記各抗体の断片をいい、抗体断片の種類としては、限定されるものではないが、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、diabody、dsFv、VHH、CDRを含むペプチド及びFcを含む抗体断片などがあげられる。
【0065】
「Fab」は、IgGをパパイン(タンパク質分解酵素)で処理して得られる断片のうち、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明における抗体のFabは、本発明の抗体をパパインで処理するか、前記抗体のFabをコードするDNAを発現ベクターに挿入し、このベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入して発現させることで作製されうる。
【0066】
「F(ab’)2」は、IgGをペプシン(タンパク質分解酵素)で処理して得られる断片のうち、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明における抗体のF(ab’)2は、本発明の抗体をペプシンで処理するか、Fab’をチオエーテル結合又はジスルフィド結合で結合させることで作製されうる。
【0067】
「Fab’」は、F(ab’)2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明における抗体のFab’は、本発明の抗体のF(ab’)2をジチオスレイトールで処理するか、前記抗体のFab’をコードするDNAを発現ベクターに挿入し、このベクターを原核生物又は真核生物へ導入して発現させることで作製されうる。
【0068】
「scFv」は、1本のVHと1本のVLとを適当なペプチドリンカーを用いて連結した抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明における抗体のscFvは、本発明の抗体のVH及びVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入して発現させることで作製されうる。
【0069】
「Diabody」は、scFvが二量体化した抗体断片で、二価の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明における抗体のdiabodyは、本発明の抗体のVH及びVLをコードするcDNAを取得し、diabodyをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入して発現させることで作製されうる。
【0070】
「dsFv」は、VH及びVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを、システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体断片である。本発明における抗体のdsFvは、本発明の抗体のVH及びVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入して発現させることで作製されうる。
【0071】
「CDRを含むペプチド」は、VH又はVLのCDRの少なくとも1領域以上を含むペプチドである。本発明における抗体のCDRを含むペプチドは、本発明の抗体のVH及びVLのCDRをコードするDNAを構築し、このDNAを発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入して発現させることで作製されうる。また、本発明における抗体のCDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、(t-ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によっても作製することができる。好ましくは、本発明の抗体由来の6個のCDRを含むペプチドがあげられる。
【0072】
「Fcを含む抗体断片」としては、上述の抗体断片又は該部分断片の適当な部分にFcを融合させたものが挙げられる。例えば、scFv-Fc,(scFv)2-Fcなどが挙げられる。
【0073】
本発明の治療又は予防剤に用いられる抗体は、エフェクター活性を有することが好ましい。「エフェクター活性」とは、抗体のFc領域を介して引き起こされる活性であって、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)、補体依存性細胞傷害活性(CDC活性)や、マクロファージや樹状細胞などの食細胞による抗体依存性ファゴサイトーシス(Antibody-dependent phagocytosis,ADP活性)などが知られている。
【0074】
エフェクター活性を制御する方法としては、抗体のFc領域のEUインデックス(Kabat et al、Sequence of Proteins of immunological interests,5th edition,1991)297番目のアスパラギン(Asn)に結合するN結合複合型糖鎖の還元末端に結合するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)にα1-6結合するフコース(コアフコースともいう)の量を制御する方法(国際公開第2005/035586号、国際公開第2002/31140号、国際公開第00/61739号)又は、抗体のFc領域のアミノ酸残基を改変することで制御する方法などが知られている。
【0075】
抗体のFcに結合しているN結合複合型糖鎖のコアフコースの含量を制御することで、抗体のエフェクター活性を増加又は低下させることができる。抗体のFcに結合しているN結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を低下させる方法としては、α1,6-フコース転移酵素遺伝子(fucosyltransferase-8,FUT8)が欠損したCHO細胞を用いて抗体を発現させることで、フコースが結合していない抗体を取得する方法があげられる。フコースが結合していない抗体は高いADCC活性を有する。
【0076】
一方、抗体のFcに結合しているN結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を増加させる方法としては、α1,6-フコース転移酵素遺伝子を導入した宿主細胞を用いて抗体を発現させることで、フコースが結合している抗体を取得できる。フコースが結合している抗体は、フコースが結合していない抗体よりも低いADCC活性を有する。
【0077】
また、抗体のFc領域のアミノ酸残基を改変することでADCC活性若しくはCDC活性を増加又は低下させることができる。Fc領域のアミノ酸残基改変を行うことで、FcγRへの結合活性を増加させる又は低下させることによりADCC活性を制御することができるし、Fc領域のアミノ酸残基改変を行うことで、補体の結合活性を増加させるあるいは低下させることによりCDC活性を制御することができる。
【0078】
例えば、米国特許出願公開第2007/0148165号明細書に記載のFc領域のアミノ酸配列を用いることで、抗体のCDC活性を増加させることができる。また、米国特許第6,737,056号明細書、米国特許第7,297,775号明細書、米国特許第7,317,091号明細書及び国際公開第2005/070963号に記載のアミノ酸残基改変を行うことで、ADCC活性又はCDC活性を、増加させることも低下させることもできる。
【0079】
本発明で用いられる抗体は、上述した改変により、高いADCC活性又はCDC活性、特に高いADCC活性を有することが好ましい。
【0080】
また、本発明で用いられる抗体は、上述の抗体のFc領域に結合するN-グリコシド複合型糖鎖にフコースが結合していない割合が80%以上、90%以上、好ましくは91%、92%、93%、94%、95%以上である抗体、より好ましくは当該糖鎖にフコースが結合していない抗体であることが好ましい。これにより、高いADCC活性が期待できる。
【0081】
本発明で用いられる抗IL-5R抗体及び該抗体断片は、WO1997/10354及びWO2005/35583を参考にして製造することができる。
【0082】
本発明の治療又は予防剤は、好酸球除去剤とその他の治療薬又は治療方法を併用するものであってもよい。例えば、ステイロイド剤、抗酸化剤、抗炎症薬、ラジカルスカベンジャー製剤、抗生物質などの薬剤を用いた薬剤療法、高気圧酸素療法、アルゴンプラズマ凝固法、外科的切除などと併用して、好酸球除去剤を用いることができる。この場合、好酸球除去剤と他の治療薬又は治療方法は同時に投与又は処置されても良いし、連続的に投与又は処置されてもよい。
【0083】
本発明の治療又は予防剤は、上述の好酸球除去抗体を有効成分として含む医薬組成物であればいかなるものでもよいが、通常は薬学的に許容される一つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供することが望ましい。
【0084】
好ましくは水、あるいは食塩、グリシン、グルコース、ヒトアルブミン等の水溶液等の水性担体に溶解した無菌的な溶液が用いられる。また、製剤溶液を生理的条件に近づけるための緩衝化剤や等張化剤のような、薬学的に許容される添加剤、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム等を添加することもできる。また、凍結乾燥して貯蔵し、使用時に適当な溶媒に溶解させて用いることもできる。
【0085】
本発明の治療又は予防剤の投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが好ましく、経口投与、あるいは口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内、髄腔内及び静脈内等の非経口投与を挙げることができるが、髄腔内投与又は静脈内投与が好ましい。
【0086】
経口投与に適当な製剤としては、例えば、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等があげられる。例えば、乳剤及びシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として用いて製造できる。
【0087】
カプセル剤、錠剤、散剤又は顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖若しくはマンニトール等の賦形剤、デンプン若しくはアルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース若しくはゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、又はグリセリン等の可塑剤等を添加剤として用いて製造できる。
【0088】
非経口投与に適当な製剤としては、例えば、注射剤、座剤、噴霧剤等があげられる。例えば、注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、あるいは両者の混合物からなる担体等を用いて調製する。座剤はカカオ脂、水素化脂肪又はカルボン酸等の担体を用いて調製される。また、噴霧剤は該抗体そのもの、ないしは受容者の口腔及び気道粘膜を刺激せず、かつ該抗体を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製する。
【0089】
担体として具体的には乳糖、グリセリン等が例示される。該抗体及び用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0090】
本発明の治療又は予防剤の投与量又は投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、通常成人1日当たり1μg/kg~10mg/kgである。
【0091】
本発明の耐容線量を増加させる方法では、好酸球除去剤を用いて好酸球の細胞増殖、遊走、浸潤及び/又は脱顆粒などの活性化を抑制するか、好酸球のアポトーシス及び/又は細胞傷害誘導を行うことで、放射線障害を抑えた状態で放射線治療を行うことができることから、最小耐容線量または最大耐容線量を増加させることができる。
【0092】
同様に本発明の耐容線量よりも高い放射線量を用いた放射線治療とは、好酸球除去剤を用いない場合の最小耐容線量または最大耐容線量よりも高い放射線量を用いた放射線治療をいう。
【0093】
本発明の予防方法又は予防剤を用いることにより、通常の最小耐容線量よりも高い放射線量、好ましくは1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上または70%以上高い線量を用いた放射線治療においても、放射線照射後、5年間での組織の機能障害が5%の確率の発症に抑えることができる。また、本発明の予防方法又は予防剤を用いることにより、通常の最大耐容線量よりも高い放射線量を用いた放射線治療においても、放射線照射後、5年間での組織の機能障害が50%の確率の発症に抑えることができる。
【0094】
また、放射線治療において耐容線量を増加させることで、正常組織への影響を極力低くする一方、病変部位の治療への治療効果が継続かつ効率的に行うことができる。
【0095】
本発明は、放射線治療において、放射線治療の期間を延長させる方法または放射線照射の回数を増やす方法も含む。本発明において、好酸球除去剤を用いて、好酸球の細胞増殖、遊走、浸潤及び/又は脱顆粒などの活性化を抑制するか、好酸球のアポトーシス及び/又は細胞傷害誘導を行うことで、放射線治療に伴い発生し得る放射線障害を遅らせることにより、放射線障害による放射線治療の停止、放射線治療の延期を避けることができる。これにより放射線被曝に伴う放射線障害を抑制、低下させた状態で患者の放射線治療を継続して行うことができる。
【0096】
本発明は、好酸球除去剤を用いた放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防方法も含む。本発明の治療又は予防方法は、好酸球除去剤を投与することを特徴としており、好酸球除去剤により好酸球の細胞増殖、遊走、浸潤及び/又は脱顆粒などの活性化を抑制するか、好酸球のアポトーシス及び/又は細胞傷害誘導を行うことで、放射線障害が発生している器官、組織における炎症反応、線維化反応を抑制することで、放射線被曝に伴う放射線障害を治療又は予防することができる。
【0097】
本発明は、好酸球除去剤の投与および放射線の照射の併用を含むがんの治療方法も含む。本発明において好酸球除去剤を用いて、好酸球の細胞増殖、遊走、浸潤及び/又は脱顆粒などの活性化を抑制するか、好酸球のアポトーシス及び/又は細胞傷害誘導を行うことで、放射線障害を抑制し、また高い線量の放射線照射を可能とする。これにより安全で効果が高いがんの治療を行うことができる。
【0098】
放射線被曝に伴う放射線障害の治療又は予防方法に用いられる好酸球除去剤としては、上述に記載の好酸球除去剤を用いることができ、用法及び用量のいずれも参照することができる。
【0099】
本発明の治療又は予防剤、及び治療又は予防方法において、好酸球除去剤の使用と放射線治療とを同時に行う場合であっても、双方の治療が前後してする場合、交互に継続して行う場合いずれでもよい。
【0100】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0101】
[実施例1:抗マウスIL-5受容体発現細胞の作製]
(1)マウスIL-5Rα遺伝子発現pEF6ベクターの構築
マウスIL-5RαのcDNA(配列番号11)を全合成した。マウスIL-5RαのcDNAをベクターpEF6/myc-His C(インビトロジェン社)に挿入し、マウスIL-5Rα遺伝子発現pEF6ベクターを構築した。
【0102】
(2)マウスIL-5Rα一過性発現Expi293F細胞の作製
マウスIL-5Rα発現pEF6ベクターをExpi293F細胞に、添付の説明書に従い、トランスフェクションした。その後、Expi293F培地を用いて、3日間培養した。
【0103】
(3)マウスIL-5Rα安定発現Ba/F3細胞の作製
Ba/F3細胞に対して、マウスIL-5Rα発現pEF6ベクターをCell Line Nucleofector Kit V(Lonza社)を使用して、添付の説明書に従い、トランスフェクションした。
10%FBSおよびペニシリン(100U/mL)・ストレプトマイシン(100μg/mL)混合液(ナカライテスク社)、0.5ng/mLのマウスIL-5(SigmaーAdrich社)を添加したRPMI1640培地(以下、「IL-5Rα/BaF3培地」とも記載する)に30μg/mLのBlasticidin(Invivogen社)で3週間継代を繰り返し、薬剤選抜を行った。細胞膜上のマウスIL-5Rαの発現はAPC anti-IL5RΑ抗体(Milteny社、REA343)を用いて、フローサイトメトリーにより確認した。
【0104】
[実施例2:抗マウスIL-5Rαに対するモノクローナル抗体の作製]
(1)ラットへの免疫
9週齢の雌性WKY/NCrlCrljラット(WKYラット)(チャールスリバー社)に免疫した。25μgのマウスIL-5Rα-Fcを100μLの生理食塩液(大塚製薬工場)に懸濁し、Sigma Adjuvant System(登録商標)(シグマアルドリッチ社)100μLと合わせて200μLの懸濁液を調製した。初回免疫では、WKYラットの尾根部に左右2ヶ所に、1ヶ所あたり懸濁液100μLを筋肉内投与した。また、初回投与2週間後に、25μgのマウスIL-5Rα-Fcを200μLの生理食塩液に懸濁し、同様の方法で投与を行った。
【0105】
(2)ハイブリドーマの作製
(1)で2回目の免疫を行った3日後に、外科的にWKYラットから腸骨リンパ節を摘出し、細胞融合に供した。まず、摘出した腸骨リンパ節をスライドガラスですりつぶし、組織をほぐした。この腸骨リンパ節組織をMinimum Essential Media(MEM)(invitrogen社)に懸濁し、セルストレーナーを通すことにより余分な組織を除いた。1500rpmで5分間遠心分離することにより上清を除いた後、再びMEMで懸濁し、腸骨リンパ節細胞とした。
細胞融合に供するマウスミエローマ細胞P3-U1(ATCC社)は、エス・クロン クローニングメディウムCM-B(エーディア社)で馴化培養したものを使用した(以下、「無血清馴化P3-U1」とも記載する)。得られた腸骨リンパ節細胞数に対し、1/2細胞数の無血清馴化P3-U1を混合した。遠心分離により上清を除いた後、GenomONE-CF(石原産業社)を使用して添付の説明書に従って細胞融合を行った。その後、細胞をHAT培地(500mLのエス・クロン クローニングメディウムCM-B(エーディア社))に、10mLのHAT(ヒポキサンチン(H)、アミノプテリン(A)、チミジン(T))溶液(Thermo SCIENTIFIC社)と0.5mLの10mg/mLゲンタマイシン溶液(ナカライテスク社)を添加したもの)に懸濁し、96ウェルプレートに播種し、培養した。
【0106】
(3)ハイブリドーマスクリーニング
(2)で播種されたハイブリドーマを7日間培養した後、各ウェルの培養上清を採取し、マウスIL-5Rαに対する反応性を解析した。陽性対照細胞及び陰性対照細胞は、それぞれマウスIL-5Rα発現Expi293F細胞及びExpi293F細胞とした。まず、陽性対照細胞及び陰性対照細胞を1ウェルあたりそれぞれ1×105cells/50μLとなるように96ウェルプレートに播種し、50μLの培養上清を添加し、4℃で30分間の反応を行った。
細胞をPBS(-)で洗浄した後、0.05%NaN3および1 mmol/L EDTA(ナカライテスク社)を添加した1%(w/v)BSA-PBS(-), pH7.0 without KCl(ナカライテスク社)(以下、「FACSバッファー1」とも記載する)で300倍に希釈したDyLight 650 anti-Rat IgG(Fc)(abcam社)を50μL/wellで添加し、4℃で30分間の反応を行った。細胞をFACSバッファー1で洗浄した後、蛍光強度をCyAn ADP-HyperCyt(ベックマンコールター社)で解析した。
【0107】
マウスIL-5Rα一過性発現Expi293F細胞に特異的な反応が見られたウェルのハイブリドーマについて、クローニング培地(エス・クロン クローニングメディウムCM-B(エーディア社)に、0.5mLの10mg/mLゲンタマイシン溶液(ナカライテスク社)、5mLのHT supplement(Thermo SCIENTIFIC社)を添加したもの)を用いて限界希釈法によるシングルセルクローニングを1回行った。最終的に、マウスIL-5Rα安定発現細胞Ba/F3に対して強いフローサイトメトリー反応性を示すハイブリドーマ(以下、「1B12」とも記載する)を樹立した。
【0108】
(4)ハイブリドーマ1B12の培養上清に含まれる抗体のサブクラスの同定
ハイブリドーマ1B12を数日間培養した培養上清をD-PBSで10倍に希釈し、その希釈液を150μL用いてRat Monoclonal Antibody Isotyping Test Kit(AbD Serotec社)を用いて添付の説明書に従いサブクラスの解析を行った。
【0109】
その結果、1B12の培養上清中に含まれるラット抗マウスIL-5Rαモノクローナル抗体(以下、「1B12抗体」とも記載する)はラットIgG1抗体であることが明らかになった。
【0110】
(5)1B12抗体の重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子のクローニング
RNeasy Micro Kit(Qiagen社)を用いて、添付文書に従い、1B12からTotal RNAを調製した。SMARTer RΑCE 5/3 Kit(Clontech社)を用いて、添付の説明書に従い、精製したmRNAからcDNAを調製した。
得られたcDNAを鋳型に、ラット重鎖遺伝子およびラット軽鎖(κ鎖)遺伝子を、それぞれPCR法により増幅し、それぞれ塩基配列を解析した。H鎖及びL鎖の可変領域をコードするDNA配列を配列番号12、15に、シグナル配列を含むVH、VLのアミノ酸配列を配列番号13、16に、及びシグナル配列を含まないVH、VLのアミノ酸配列を配列番号14、17に記載した。
【0111】
[実施例3:ラット/マウスキメラ型1B12抗体の作製]
(1)ラット/マウスキメラ型1B12抗体発現ベクターの構築
抗マウスIL-5Rαラット/マウスキメラ型1B12抗体発現ベクターを、以下の方法により樹立した。実施例2-(5)で解析した1B12抗体重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の遺伝子配列を、それぞれマウスIgG2a重鎖及びκ鎖の定常領域遺伝子配列に連結した人工合成遺伝子を作製し、pCI based vector(Promega社)に遺伝子導入した。大腸菌DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社)に形質転換して、サブクローニングを行い、シーケンス確認を実施することで、ラット/マウスキメラ型1B12抗体(以下、「cm1B12抗体」とも記載する)発現ベクターを作製した。
【0112】
(2)cm1B12抗体の一過性発現細胞株の造成
cm1B12抗体の一過性発現株を作製するため、FreeStyle(商標)MAX CHO Expression System(Lifetechnologies社)を用い、添付の説明書に従って、(1)で作製された発現ベクターを宿主細胞に導入した。宿主細胞には、FUT8ノックアウトCHO細胞(国際公開第2005/035586号、国際公開第02/31140号)をFreeStyle(商標)CHO Expression Medium(Lifetechnologies社)に馴化した株を使用した。FUT8ノックアウトCHO細胞で生産された抗体は、α1,6-フコースを有さない糖鎖がFc領域に結合した抗体であって、糖鎖にフコースを有する抗体よりも高いADCC活性を有する。
1mgのcm1B12抗体発現ベクターを16mLのOpti-Pro SFM(invitrogen社)に、また、1000μLのFreestyle MAX Reagent(invitrogen社)を15mLのOpti-Pro SFMにそれぞれ溶解し、室温で5分間放置した。上記二液を混合し、室温で15分間放置した。該混合溶液を800 mLの宿主細胞培養液(1×106 cells/mL)に全量添加し、cm1B12抗体の一過性発現細胞株を得た。
【0113】
(3)cm1B12抗体の精製
(2)で得られたcm1B12抗体の一過性発現細胞株を、8mMのL-glutamine(invitrogen社)を添加したFree style CHO expression medium(invitrogen社)に懸濁し、三角フラスコで7日間培養した後、培養上清を回収した。回収した培養上清を遠心分離し、0.22μmフィルターを用いてろ過することでcm1B12抗体を含む培養上清を調製した。
調製した培養上清からAb-Capcher ExTRα(ProteNova社)を用いて、cm1B12抗体を精製した。まず、培養上清をカラムにロードし、D-PBSでカラムを洗浄した後、pH3.0の溶出バッファー(0.1Mクエン酸一水和物-NaOH/pH3.0)で順に溶出した。溶出したフラクションは速やかに中和バッファー(2M Tris-HCl/pH8.5)で中和した。
それぞれのフラクションの280nmの吸光度(A280)を測定し、測定値の高い連続フラクションを抗体画分として回収した。NAP-25 columns Sephadex(GE Healthcare)用いて、添付文書に従い、溶媒をD-PBSに置換した。0.22μmのフィルターを通したものを精製タンパク質とした。280nmの吸光係数を1.61として、濃度を算出した。
【0114】
[実施例4:cm1B12抗体の抗原結合活性]
(1)マウスIL-5Rα-Fcに対する結合
cm1B12抗体のマウスIL-5Rα-Fcへの結合活性は、BiacoreT200を用いて解析した。CM5センサーチップ(GE Healthcare)上にHuman Antibody Capture Kit(GE Healthcare)を用いて、添付の説明書に従い、9000RUを目安にAnti-Human IgG (Fc)を固相化した。リガンドとして、HBS-EP(+)に1 μg/mLとなるように溶解したマウスIL-5Rα-Fc(R&D社)を流速30 μL/minで20secキャプチャーさせた後、アナライトとして1000.00、333.33、111.11、37.04、12.35、および4.12 ng/mLの濃度に段階希釈したcm1B12抗体をマルチサイクル法によって添加した。
流速は30 μL/min、contact timeおよびdissociation timeはそれぞれ、120sec、600secの条件で行った。解析はBiacore T200 Evaluation softwareを用いて、Surface boundのBivalent Analyteモードにより実施した。
【0115】
その結果、表2に示すように、cm1B12抗体はマウスIL-5Rα-Fcに対して、強い結合活性を示した。
【0116】
【0117】
(2)IL-5Rα発現Ba/F3細胞に対する結合
Ba/F3細胞およびIL-5Rα発現Ba/F3細胞を細胞密度が1x106cells/mLになるようにFACSバッファー1に懸濁した。96-well U-form plateに5x105 cells/wellになるように細胞懸濁液を100μLずつ播種した。cm1B12抗体を、FACSバッファー1で最終濃度が0.0003、0.001、0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、1、3、および10μg/mLに希釈し、100μL/wellずつ添加し、氷上で1時間反応させた。FACSバッファー1で洗浄した後、FACSバッファー1で5μg/mLに希釈したAlexa Fluor(登録商標)647 Goat anti-mouse IgG (H+L)(Life Technologies)を100μL/wellずつ添加し、氷上で1時間反応させた。FACSバッファー1で洗浄した後、フローサイトメーターCantoII(BD社)により蛍光強度(Geometric mean)を測定した。
【0118】
結果を
図1に示す。cm1B12抗体はIL-5Rα発現Ba/F3細胞に、濃度依存的に特異的結合した。
【0119】
[実施例5:cm1B12抗体のIL-5Rα発現細胞に対する細胞傷害活性]
エフェクター細胞をヒト凍結periheral blood mononuclear cell(PBMC)(ALLCELLS)、ターゲット細胞をBa/F3細胞もしくはmIL-5Rα発現Ba/F3細胞として、cm1B12抗体による細胞傷害活性を下記に記載の方法により評価した。
エフェクター細胞およびターゲット細胞を5%Dialyzed FBSを添加したRPMI 1640 Medium, no phenol red(ナカライテスク社)を用いて洗浄し、それぞれ細胞密度が、2×107 cells/mLおよび5×105 cells/mLになるように調整した。96-well U-bottom plateに最終濃度が0.0001,0.001、0.01、0.1、1、10、100及び1000ng/mLになるように調整したcm1B12抗体、ターゲット細胞、及びエフェクター細胞の順にそれぞれ50μLずつ添加し、37℃で4時間反応させた。
上清を96-well Flat-bottom plate(Sumitomo Bakelite)に50μL回収し、CytoTox 96 Non-Radioactive Cytotoxicity Assay(Promega)を用いて、添付の説明書に従い、上清中のLactate dehydrogenase(LDH)活性を検出した。吸光度はプレートリーダーSPECTRΑ MAX 340 PC384(Molecular Devices)により490nmの吸光度を測定した。細胞傷害活性はバックグランド補正した測定値を用いて、以下の式により算出した。
Cytotoxicity(%)=[[サンプルの吸光度]-[ターゲット細胞の自然遊離の吸光度]-[エフェクター細胞の自然遊離の吸光度]]/[[ターゲット細胞全遊離の吸光度]-[ターゲット細胞自然遊離の吸光度]
【0120】
結果を
図2に示す。cm1B12抗体は、IL-5Rα発現細胞に対して濃度依存的に細胞傷害活性を示した。
【0121】
[実施例6:cm1B12抗体のIL-5-IL-5Rシグナルに対するアンタゴニスト活性]
(1)IL-5依存的なIL-5Rα発現Ba/F3の細胞増殖評価
Ba/F3細胞およびIL-5Rα発現Ba/F3細胞を10%FBSおよびペニシリン(100U/mL)・ストレプトマイシン(100μg/mL)混合液(ナカライテスク社)を添加したRPMI1640培地で洗浄した後、細胞密度が1×105 cells/mLになるように調整した。96-well Flat-bottom plateにBa/F3細胞およびIL-5Rα発現Ba/F3細胞をそれぞれ50μL/wellずつ播種し、最終濃度が0.001、0.01、0.1、1および10ng/mLになるように上記培地で調整したマウスIL-5(SigmaーAdrich社)を50μL/wellで添加し、37℃で72時間反応させた。
その後、Cell Counting Kit-8(Dojindo)を用いて、添付の説明書に従い、生細胞数を計測した。吸光度はプレートリーダーSPECTRΑ MAX 340 PC384(Molecular Devices)により450nmの吸光度を測定した。
【0122】
結果を
図3(A)に示す。IL-5Rα発現Ba/F3細胞はIL-5濃度依存的に増殖した。
【0123】
(2)cm1B12抗体のIL-5-IL-5Rシグナルに対するアンタゴニスト活性
(1)と同様の培養条件において、最終濃度0.1ng/mLマウスIL-5(SigmaーAdrich社)存在下、cm1B12抗体を最終濃度が0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、1、3および10μg/mLになるように添加して、IL-5Rα発現Ba/F3細胞の生細胞数を計測した。陰性対照として、mouse IgG2a purified(BD Pharmingen)を使用した。
細胞増殖阻害活性はバックグランド補正した測定値を用いて、以下の式により算出した。阻害活性(%)=100×[1-[[サンプルの吸光度]-[IL-5非添加群の吸光度平均値]]/[[抗体非添加群の吸光度平均値]-[IL-5非添加群の吸光度平均値]]]
【0124】
結果を
図3(B)に示す。cm1B12抗体は抗体濃度依存的に細胞増殖を阻害した。cm1B12抗体は、IL-5依存的な細胞増殖を阻害するIL-5Rアンタゴニスト抗体であることが明らかになった。
【0125】
[実施例7:cm1B12抗体の好酸球除去活性]
in vivoにおけるcm1B12抗体の好酸球の除去効果を検証するために、8-10週齢のBALB/cマウス(雌)にD-PBSで2mg/mLに希釈したcm1B12抗体、又は抗IL-5リガンドラットモノクローナル抗体TRFK-5(R&D systems社)を25mg/kgになるように腹腔内投与し、投与1週間後、2週間後、及び4週間後に血液を、投与4週間後に小腸を採取し、解析を行った。コントロール群では、D-PBSを投与した。
【0126】
(1)血中好酸球の除去活性
(i)細胞の調製
マウスから約1mLの血液を採取し、EDTA-2Na粉末と混和した後、BD PharmLyse(BD社)を用いて、以下の方法で溶血処理を行った。マウス血液全量を5mLの1xLysisバッファーに添加し、転倒混和した後、常温で3分間反応させた。4℃で5分間、2000rpmにて遠心して上清を除去し、細胞を1mLの1×Lysisバッファーに再度懸濁し、常温で3分間反応させた。
4℃で3分間、5000rpmにて遠心し、上清を除去した後、細胞を1mLの10%FBS(GIBCO社)、10 mMのEDTA(ナカライテスク社)、20mMのHEPES(MP Biomedical社)、1mMのSodium Pyruvate(GIBCO社)、10μg/mLの硫酸ポリミキシンB(Sigma-Adrich社)、およびペニシリン(100U/mL)・ストレプトマイシン(100μg/mL)混合液(ナカライテスク社)を添加したD-PBS(以下、「FACSバッファー2」とも記載する)に懸濁し、洗浄した。
【0127】
(ii)測定
(i)で調製した血球細胞を、細胞密度が1x10
7cells/mLになるようにFACSバッファー2で懸濁し、1.5mLマイクロチューブに100μL/tube添加した。Fc blocker(BD bioscience、2.4G2)を1 μL/tube添加し、氷上で15分間反応させた。その後、FITC anti-CD11b(BD bioscience、M1/70)、PE anti-Siglec F(BD bioscience、E50-2440)、PE-Cy7 anti-CD11c(BD bioscience、HL3)、およびAPC anti-GR1(BD bioscience、RB6-8C5)をそれぞれ1μL/tubeずつ添加し、氷上で20分間反応させた。FACSバッファー2で洗浄した後、FACS Calibur(BD社)により測定した。
解析は
図4(A)に示すように、FSC、SSCで展開し、単球と顆粒球画分を全細胞数として、顆粒球画分のうちCD11c
-/CD11b
+/Gr1
int/Siglec F
+画分を好酸球画分とし、好酸球画分の割合(%)を算出した。
図4(A)には、各抗体を投与4週間後のマウス血液の解析結果を示した。
【0128】
結果、
図4(B)に示すように、cm1B12抗体および抗IL-5抗体TRFK-5投与群では、コントロール群と比べて末梢血液中における顕著な好酸球画分の減少が確認された。また、cm1B12抗体は、TRFK-5抗体よりも強く好酸球を減少させた。よって、cm1B12抗体及びTRFK-5抗体は末梢血好酸球を減少させられる抗体であることが明らかになった。
【0129】
(2)小腸好酸球に対する除去活性
(i)小腸粘膜固有層細胞の調製
マウスを安楽死させた後に開腹し、幽門と回盲弁にて小腸を切って回収した。腸壁に付着した脂肪組織とパイエル板を除去したあと、腸を縦に切開してD-PBS中で濯いで内容物を洗浄除去した。細断した小腸片をFACSバッファー2中で攪拌しながら37℃で20分間インキュベートした。小腸片をD-PBSで洗浄した後、さらに細かく細断し、10%FBS(GIBCO社)0.425 mg/mL LibeRαse T-flex(Roche)、100μg/mL DNaseI(Roche)を添加したRPMI1640培地中で攪拌しながら37℃60分間インキュベートした。100μm孔ストレーナー(BD bioscience)で組織残渣を除去したのち、分離した細胞を4℃で5分間、1500rpmにて遠心分離して回収した。細胞をさらに40%および75%パーコール溶液を用いた密度勾配遠心法にて分離した(20℃、20分間、2000rpm)。分離した細胞をFACSバッファー2に懸濁し、洗浄した。
【0130】
(ii)測定
(i)で調製した小腸粘膜固有層細胞を、前述(1)(ii)と同様にしてFACS解析を行った。
解析は
図5(A)に示すように、FSC、SSCで展開し、単球と顆粒球画分を全細胞数として、顆粒球画分のうちCD11c
int/CD11b
+/Gr1
int/Siglec F
+画分を好酸球画分とし、好酸球画分の割合(%)を算出した。
【0131】
結果、
図5(B)に示すように、抗体投与後4週間後においてcm1B12抗体又は抗IL-5抗体TRFK-5投与群では、コントロール群比べて小腸粘膜固有層内に存在する好酸球画分を顕著に減少させた。また、cm1B12抗体は、TRFK-5抗体よりも強く好酸球を減少させた。従って、cm1B12抗体及びTRFK-5抗体は、末梢血液中の好酸球だけでなく、小腸粘膜固有層等の組織特異的に存在している好酸球を減少させることが明らかになった。
【0132】
[実施例8:cm1B12抗体による放射線性腸炎(晩発性障害)の抑制効果]
(1)放射線性腸炎(晩発性障害)の誘導
マウスにソムノペンチルで全身麻酔をかけた後、腹部以外を鉛ブロックで遮蔽した状態で12Gyのガンマ線を照射した(Gammacell 40 Exactor MDS Nordion)。照射した後は、餌および飲料水を自由に摂取させて飼育した。
【0133】
(2)cm1B12抗体による病態抑制効果
放射線照射の4週間前から放射線照射の13週間後まで、4週間毎に計5回、D-PBSで2mg/mLに希釈したcm1B12抗体又はTRFK-5抗体を25mg/kgになるように腹腔内投与した。放射線照射13週間後に、血液および組織を採取し、解析を行った。
【0134】
(i)血中好酸球の減少
実施例7(1)記載の方法と同様にして好酸球画分の割合を解析した。結果を
図6(A)に示す。放射線照射無しのマウスと比べて、放射線照射したマウスでは、末梢血液中の好酸球数に大きな変化は認められなかったが、放射線照射マウスにcm1B12抗体又はTRFK-5抗体を投与した群では、放射線照射マウスにD-PBSを投与したコントロール群と比べて末梢血液における好酸球の顕著な減少が確認された。また、その好酸球減少効果は、cm1B12抗体の方がTRFK-5抗体よりも高かった。よって、cm1B12抗体及びTRFK-5抗体は、放射線照射個体においても末梢血中の好酸球を減少させることが明らかになった。
【0135】
(ii)小腸好酸球の減少
実施例7(2)記載の方法と同様にして好酸球画分の割合を解析した。結果を
図6(B)に示す。放射線照射無しのマウスと比べて、放射線照射したマウスでは小腸粘膜固有層に存在する好酸球数に変化は認められなかったが、末梢血液中の好酸球と同様に、放射線照射マウスにおいてcm1B12抗体及びTRFK-5抗体を投与した群では、コントロール群と比べて小腸粘膜固有層内に存在する好酸球の顕著な減少が確認された。従って、放射線照射マウスにおいても、cm1B12抗体及びTRFK-5抗体は、末梢血中の好酸球同様、小腸粘膜固有層に存在する好酸球を顕著に減少させることが明らかになった。
【0136】
(iii)小腸における好酸球の浸潤
小腸のうちトライツ靭帯より2cm遠位の部分を1.5cm回収し、10%ホルマリンを含むPBSに1日浸漬して固定した。固定した小腸片のパラフィンブロックを作製して、厚さ5μmの薄切片をスライドガラスに貼り付けて乾燥した。
パラフィン切片を0.1% (w/v) pepsin (MP Biomedicals)を含む0.01 N HClで20分、室温にて処理した後、抗マウスMBP(Major Basic Protein)ラットモノクローナル抗体 (メイヨークリニックのJames J. Lee博士及びNancy A. Lee博士より分与)を用いて、4℃で一晩反応させた。
切片を洗浄した後、ビオチン標識抗ラットIgGヤギ抗体(Kirkegaard & Perry Laboratories)で1時間、37℃にて反応させた。再度洗浄したのち、HRP標識ストレプトアビジン(Thermo Fisher Scientific)で30分間室温にて反応させた。標識した細胞はジアミノベンジジンを基質として発色させた。MBP陽性の細胞を好酸球と見なし、小腸粘膜下層において一定面積あたりに浸潤している好酸球数をBZ-II Image Analysis Application(Keyence)を用いて測定した。
【0137】
図7(A)および(B)に示すように、放射線照射無しのマウスに比べて、放射線照射マウスでは小腸粘膜下層にMBP陽性の好酸球が多数浸潤していた。放射線性腸炎では、好酸球が小腸粘膜下層に特異的に浸潤していることが確認された。
一方、放射線照射マウスにおいて、cm1B12抗体及びTRFK-5抗体は、コントロールと比べて、小腸粘膜下層におけるMBP陽性の好酸球の浸潤を阻害した。また、小腸粘膜下層への好酸球の阻害効果は、TRFK-5抗体よりもcm1B12α抗体の方が強く、コントロールと比べてほぼ完全に好酸球の遊走、浸潤を阻害した。
従って、cm1B12抗体及びTRFK-5抗体は、IL-5-IL-5Rの中和作用やIL-5Rを標的としたADCC活性によって好酸球を阻害した結果、小腸粘膜固有層に限局する好酸球を減少させるだけでなく、小腸粘膜下層への遊走及び浸潤をも阻害することが明らかになった。特に、抗IL-5Rα抗体は、抗IL-5抗体と比べて小腸粘膜固有層及び粘膜下層いずれの好酸球も強く阻害できることが明らかになった。
【0138】
(iv)小腸粘膜下層の線維化
光学顕微鏡にてコラーゲン繊維を観察するため、(iii)記載の方法で作製したパラフィン切片をAzan染色した。粘膜下層に沈着したコラーゲン層の厚さはBZ-II Image Analysis Application(Keyence)を用いて測定した。
【0139】
図8(A)及び(B)に示すように、放射線照射無しのマウスと比べて、放射線照射をしたマウスでは、小腸粘膜下層の肥厚が認められたが、放射線照射マウスにおいてcm1B12α抗体及びTRFK-5抗体を投与した群では、小腸粘膜下層の肥厚が減少し、かつ小腸粘膜下層におけるコラーゲンの集積が顕著に減少しており、粘膜下層の線維化が抑制されていることが確認された。
従って、cm1B12抗体及びTRFK-5抗体は、IL-5-IL-5Rの中和作用やIL-5Rを標的としたADCC活性によって好酸球を阻害した結果、放射線性腸炎における好酸球依存的な小腸粘膜下層の線維化を阻害できることが明らかになった。
【0140】
以上、本実施例の結果から、抗IL-5R抗体および抗IL-5抗体は、IL-5-IL-5Rの中和作用やIL-5Rを標的としたADCC活性によって、腸管粘膜固有層及び粘膜下層への好酸球の遊走及び浸潤並びに好酸球細胞増殖を阻害することで、腸管炎症及び腸管線維化を抑制することができるため、放射線性障害の治療に有用であることが明らかになった。
【0141】
[実施例9:抗CCR3中和抗体による放射線性腸炎(晩発性障害)の抑制効果]
実施例8(1)記載の方法で放射線照射したマウスに、放射線照射の2週間前から放射線照射後12週まで、2週間毎に計8回、ラット抗マウスCCR3中和抗体83103(R&D社)を5mg/kgになるように腹腔内投与した。放射線照射13週間後に血液および組織を採取し、実施例7(2)、実施例8(2)(iii)および(iv)にそれぞれ記載する方法で、小腸粘膜固有層の好酸球画分の割合、小腸粘膜下層に浸潤している好酸球数および小腸粘膜下層の線維化を評価した。
【0142】
図9(A)~(C)に示すように、抗IL-5抗体または抗IL-5R抗体を投与したときと同様に、小腸粘膜固有層の好酸球の減少、小腸粘膜下層への好酸球の遊走および浸潤の阻害、ならびに小腸粘膜下層の線維化の抑制が確認された。
CCR3は腸管粘膜固有層及び粘膜下層への好酸球の遊走に関与することが確認されている(データ示さず)。本実施例の結果から、抗CCR3中和抗体による好酸球の遊走阻害によっても、放射線性腸炎における好酸球依存的な小腸粘膜下層の線維化を阻害できることが明らかになった。以上の結果は、好酸球除去剤として、ADCC活性を有する好酸球除去剤、中和活性を有する好酸球除去剤、及び両方の活性を有する好酸球除去剤のいずれを用いた好酸球除去によっても、放射線性障害治療が可能であることを示す。
【0143】
[実施例10:cm1b12抗体によるX線分割照射療法に伴う放射線性腸炎の抑制効果]
(1)放射線性腸炎(晩発性障害)の誘導
マウスに3種混合麻酔で全身麻酔をかけた後、腹部以外を鉛板で遮蔽した状態で、X線照射装置MBR-1520R-4(日立パワーソリューションズ)を用いて、8Gy(80-90cGy/min)のX線を週に1回、計1~5回反復照射した。照射した後は、餌および飲料水を自由に摂取させて飼育した。
【0144】
(2)cm1B12抗体による病態抑制効果
放射線照射の4週間前から初回放射線照射の20週間後まで、2週間毎に、D-PBS、又はD-PBSで1mg/mLに希釈したcm1B12抗体を5mL/kgで腹腔内投与をした。放射線照射20週間後に、血液および組織を採取し、解析を行った。
【0145】
(i)血中好酸球の減少
実施例7(1)記載の方法と同様の方法で、好酸球画分の割合を解析した。結果を
図10に示す。放射線照射マウスにcm1B12抗体を投与した群では、末梢血中の好酸球が完全に除去された。よって、cm1B12抗体は、放射線照射個体においても末梢血中の好酸球を減少させることが明らかになった。
【0146】
(ii)腸管における好酸球の浸潤
腸管のうちトライツ靭帯より2cm遠位の部分を2cm回収し、10%ホルマリンを含むPBSに1日浸漬して固定した。固定した小腸片のパラフィンブロックを作製して、厚さ5μmの薄切片をスライドガラスに貼り付けて乾燥した。パラフィン切片をヘマトキシリン・エオシン(HE)染色した。
図11に示すように、放射線照射無しのマウス(A)に比べて、放射線照射マウス(B及びD)では粘膜下層に好酸球が多数浸潤していた。一方、放射線照射マウスにおいて、cm1B12抗体は、コントロールと比べて、完全に腸管の粘膜下層における好酸球の浸潤を阻害した(C及びE)。
従って、cm1B12抗体は、IL-5-IL-5Rの中和作用やIL-5Rを標的としたADCC活性によって好酸球を阻害した結果、腸管粘膜固有層に限局する好酸球を減少させるだけでなく、粘膜下層への遊走及び浸潤をも阻害することが明らかになった。
【0147】
(iii)腸管の線維化
光学顕微鏡にてコラーゲン繊維を観察するため、パラフィン切片をAzan染色した。粘膜下層の厚さ、及び沈着したコラーゲン層の厚さはImageScope Ver.12(Leica)を用いて測定した。
図12および
図13に示すように、PBS群では照射された合計線量に相関して、腸管粘膜下層の肥厚が確認された(B及びD)。一方、cm1B12抗体投与群では、同程度の放射線を照射されたPBS群に比べて、粘膜下層の肥厚、及びコラーゲンの集積が減少しており、粘膜下層の線維化が抑制されていることが確認された(C及びE)。また、合計線量24Gyを照射されたPBS群の粘膜下層の肥厚の程度に比べて、合計線量32Gyまたは40Gyを照射されたcm1B12抗体投与群では、粘膜下層の肥厚が同程度以下に抑制されていることが確認された。すなわち、cm1B12抗体の投与により、少なくとも30%~70%高い合計線量の放射線治療および照射回数が少なくとも1~2回多い放射線治療が許容されることが示唆された。
従って、cm1B12抗体は、IL-5-IL-5Rの中和作用やIL-5Rを標的としたADCC活性によって好酸球を阻害した結果、放射線性腸炎における好酸球依存的な腸管の炎症、及び線維化を阻害できること、及び放射線に対する腸管の耐容線量を増加させられることが明らかになった。即ち、好酸球除去剤を併用することで放射線障害を抑制するともに、高い線量で放射線治療を実施できることが明らかになった。
【0148】
(iv)腸管障害
腹部放射線障害に伴う腸管への炎症・線維化などを含む総合的な影響を評価するために、胃幽門部から盲腸上部までの長さを測定した。
図14に示すように、PBS群では照射された合計線量に相関して、腸管の長さが短縮することが確認された。一方、cm1B12抗体投与群では、同程度の放射線を照射されたPBS群に比べて腸管の短縮が抑制されることが確認された。また、合計線量24Gyを照射されたPBS群の腸管短縮の程度に比べて、合計線量32Gyまたは40Gyを照射されたcm1B12抗体投与群では、腸管短縮が同程度以下に抑制されていることが確認された。すなわち、cm1B12抗体の投与により、少なくとも30%~70%高い合計線量の放射線治療および少なくとも照射回数が少なくとも1~2回多い放射線治療が許容されることが示唆された。
従って、cm1B12抗体は、IL-5-IL-5Rの中和作用やIL-5Rを標的としたADCC活性によって好酸球を阻害した結果、放射線性腸炎における、腸管障害を低減できること、及び放射線に対する腸管の耐容線量を増加させられることが明らかになった。
【0149】
(v)病態発症に伴う体重減少
腹部放射線障害に伴う摂食・栄養吸収障害を中心とした全身性の影響を評価するために、体重変動を経時的に評価した。
図15に示すように、病態惹起時には、照射回数依存的に体重減少したが、病態惹起が完了するとすべての個体で放射線照射前と同等の体重まですみやかに回復し、一定期間、放射線非照射群と同様に体重が増加し続けた。一方、長期的に飼育を継続すると、合計線量16Gy以上照射した群では、非照射群に比べ、明らかに体重増加が障害され、合計線量24Gy以上照射された群では、経過ともに体重減少が確認された。合計線量24Gy、及び32Gy照射されたPBS群、並びに合計線量32Gy、及び40Gy照射されたcm1B12抗体投与群の4群の間では、明らかな差は確認できなかった。一方、40Gy照射されたPBS群では、他群に比べて著しい体重減少を示した。
従って、cm1B12抗体は、IL-5-IL-5Rの中和作用やIL-5Rを標的としたADCC活性によって好酸球を阻害した結果、放射線障害に伴う、摂食・栄養吸収障害を中心とした障害を低減できうること、及び放射線に対する耐容線量を増加させられることが明らかになった。
【0150】
(vi)生存曲線
腹部放射線障害に伴う全身性の影響を評価するために、生存率を評価した。生存曲線は、病態悪化に伴う自然死個体、及び安楽死個体の数を経時的に計測することで、算出した。また、安楽死は、病態惹起時を除き、動物愛護の観点から、生命維持の危機にさらされた個体、具体的には初期体重から15%以上減少した個体に対して実施した。
図16に示すように、合計線量40Gy照射されたPBS投与群では、時間経過とともに生存率が顕著に低下したが、合計線量40Gy照射されたcm1B12抗体投与群では、顕著に生存率が改善した。
従って、cm1B12抗体は、IL-5-IL-5Rの中和作用やIL-5Rを標的としたADCC活性によって好酸球を阻害した結果、腹部放射線障害に伴う、生命予後にかかわる重篤な放射線障害を低減できることが明らかになった。
【0151】
以上、本実施例の結果から、抗IL-5R抗体および抗IL-5抗体は、IL-5-IL-5Rの中和作用やIL-5Rを標的としたADCC活性によって、腸管粘膜固有層及び粘膜下層への好酸球の遊走及び浸潤、及び好酸球細胞増殖を阻害することで、長期生存率の改善、及び進行性の体重減少を伴う病態の軽減、並びに腸管短縮、腸管炎症及び腸管線維化などの腸管障害を抑制することができるため、放射線性障害の治療に有用であることが明らかになった。