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特開2023-25495KAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025495
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】KAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/98 20060101AFI20230215BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230215BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20230215BHJP
   A61K 35/644 20150101ALI20230215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230215BHJP
   A61P 17/14 20060101ALN20230215BHJP
   A61P 3/02 20060101ALN20230215BHJP
   A61P 1/08 20060101ALN20230215BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20230215BHJP
   A61P 7/10 20060101ALN20230215BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20230215BHJP
【FI】
A61K8/98
A61Q19/00
A61Q5/00
A61K35/644
A61P43/00 105
A61P17/14
A61P3/02
A61P1/08
A61P1/04
A61P7/10
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130778
(22)【出願日】2021-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】小方 美幸
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD76
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF12
4C083AA071
4C083AA072
4C083CC02
4C083CC31
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB21
4C087NA14
4C087ZA14
4C087ZA66
4C087ZA83
4C087ZA89
4C087ZB21
4C087ZC21
4C087ZC52
(57)【要約】
【課題】安全性の高い天然物由来の組成物の中からKAP5.1mRNA発現促進作用及びATP産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤を提供する。
【解決手段】KAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤に、ローヤルゼリー加水分解物を有効成分として含有せしめる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリー加水分解物を有効成分として含有するKAP5.1mRNA発現促進剤。
【請求項2】
ローヤルゼリー加水分解物を有効成分として含有するATP産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、KAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪は人々の印象に多大なる影響を与えることから、その変化や異常は古来より人々の重大な関心事となっている。毛髪に関する問題としては、抜け毛、薄毛等といった毛根・毛包の状態に関するものの他に、毛髪が硬い、柔らかい、細い、はり・こしがない、枝毛、くせ毛等といった毛髪の質(髪質)に関するもの等がある。さらに、髪質に関する問題として、日常のヘアケア、ヘアメイク、紫外線暴露等による毛髪の損傷に起因するものや、毛幹形成における問題に起因するもの等があり、髪質に関する問題には、極めて多様な要因が関与している。
【0003】
従来、毛髪の細さや、はり・こしのなさを改善するために、例えば育毛有効成分を配合した育毛剤や養毛剤等を使用することが考えられる。しかしながら、育毛剤や養毛剤等の使用では、髪が太くならず、はり・こしを与えるほどの効果は期待できないという問題があった。これらを改善するため、アルコキシシランの加水分解で生成したシラノール化合物を毛髪に浸透させ、かつ毛髪内部で重合させる方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、化学物質を用いて毛髪を改質するこの方法では、毛髪に自然なはり・こしを付与するという点で十分とはいえなかった。
【0004】
一方で、生化学的・分子生物学的に髪質を改善する試みもなされている。毛髪は、その表面を覆うキューティクル(毛小皮)、その内部にある毛皮質(コルテックス)及び毛髪の中心を占める毛髄質(メデュラ)から構成されている。このうち、毛髪の損傷においては、その表面を覆うキューティクルが重要な役割を担っていることが知られている(非特許文献1参照)。そのため、キューティクルを効果的に再生することができれば、毛髪の硬さ、はり・こし等の髪質の改善が可能になると考えられている。
【0005】
最近、ケラチン関連タンパク質(Keratin-associated protein;KAP)のうち、KAP5ファミリー遺伝子のmRNA発現量と毛髪のはり・こしの強さとの間に相関関係があることが明らかにされた(特許文献2参照)。また、KAP5ファミリーの一つであるKAP5.1が、成長過程にあるキューティクルに局在することも報告されている(非特許文献2参照)。このため、KAP5ファミリー、特にKAP5.1mRNAの発現を促進することができれば、キューティクルの再生、及び毛髪の硬さ、はり・こし等の髪質の改善につながると期待されている。
【0006】
従来、KAP5.1mRNAの発現を促進するものとして、ツバキ属植物エキス(特許文献3参照)、クルミ殻エキス、カキタンニン、イリス根エキス、ゲンノショウコウエキス及びコムギ胚芽エキス(特許文献4参照)等が知られている。
【0007】
細胞の増殖を促進するためには、細胞分裂に必要なエネルギーを細胞に補給することが重要である。生体のエネルギー物質としては、ATP(Adenosine triphosphate;アデノシン三リン酸)が挙げられ、ATPの産生量を上げることにより、細胞内のエネルギー代謝が促進され、細胞増殖につながると考えられている。しかし、機能の低下した細胞や老化した細胞では、エネルギー物質であるATP量が正常な細胞よりも減少していることが報告されている(特許文献5参照)。
【0008】
そのため、細胞におけるATPの産生を促進することができれば、その細胞を活性化して細胞分裂を促し、その細胞の機能を回復することができると考えられる。また、ATPの産生を促進することにより、細胞の増殖、代謝、修復等の機能の活性化の効果や抗老化(アンチエイジング)の効果が奏されることにも期待される。さらに、ATPは、血管拡張作用を有することが知られており、ATPの産生を促進することで、眼精疲労、めまい、胃炎等を予防、治療又は改善することができると考えられる。
【0009】
従来、ATP産生促進作用を有するものとして、大麦若葉(特許文献6参照)、ハンニチバナ科(Cistaceae)ゴジアオイ属モンスペリエンシス(学名:Cistus monspeliensis)より抽出されたモンスペリエンシス抽出物(特許文献7参照)、ナンヨウスギ属植物より選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物(特許文献8参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-320314号公報
【特許文献2】特開2006-014721号公報
【特許文献3】特開2014-080409号公報
【特許文献4】特開2008-162922号公報
【特許文献5】特開2003-321373号公報
【特許文献6】特開2019-073476号公報
【特許文献7】特開2011-162504号公報
【特許文献8】特開2007-106741号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】曽我部敦ら,日本化粧品技術者会誌,2002年,第36巻,第3号,p.207-216
【非特許文献2】Jones LN. et al.,Int J Trichology,2010年,Vol.2,No.2,p.89-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、安全性の高い天然物由来の組成物の中からKAP5.1mRNA発現促進作用及びATP産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するために、本発明は、ローヤルゼリー加水分解物を有効成分として含有するKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全性の高い天然物由来の組成物の中からKAP5.1mRNA発現促進作用及びATP産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態に係るKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤は、ローヤルゼリー加水分解物を有効成分として含有する。
【0016】
本実施形態における有効成分を得るために使用される原料は、ローヤルゼリーである。
【0017】
ローヤルゼリーは、ヨーロッパ、アフリカ等に分布しているミツバチ科ミツバチ属に属するヨーロッパミツバチ(学名:Apis melifera L.,別名:セイヨウミツバチ)又はトウヨウミツバチ(学名:Apis indeca Radoszkowski)のうちの若い働き蜂の咽頭腺からの分泌物である。本実施形態において使用し得るローヤルゼリーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、生ローヤルゼリー、乾燥ローヤルゼリー等が挙げられる。
【0018】
ローヤルゼリーから得られるKAP5.1mRNA発現促進作用及びATP産生促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、ローヤルゼリーに水及びタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を添加し、加温及び加圧下で加水分解処理を施すことによって、KAP5.1mRNA発現促進作用及びATP産生促進作用を有する溶液(ローヤルゼリーの加水分解物)を得ることができる。
【0019】
ローヤルゼリーに添加される水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本発明においてローヤルゼリーに添加される水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。なお、ローヤルゼリーに添加する水の量は、特に限定されるものではなく、ローヤルゼリー1質量部に対して2~10質量部程度であればよい。
【0020】
ローヤルゼリーに添加されるプロテアーゼとしては、ローヤルゼリー中のタンパク質を分解し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えば、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼ等が挙げられ、これらのうち、中性プロテアーゼを好適に用いることができる。なお、ローヤルゼリーに添加するプロテアーゼの量は、使用するプロテアーゼの種類等により適宜調整されるものであるが、例えば、中性プロテアーゼを使用した場合、ローヤルゼリー1質量部に対して0.005~0.02質量部程度であればよい。
【0021】
加水分解条件としては、ローヤルゼリー加水分解物を得るという目的が達成し得る限りにおいて、特に制限はない。例えば、反応温度は40~80℃程度であればよく、50℃程度であることが好ましく、加圧条件としては、50~150MPaであればよく、60MPa程度であることが好ましい。また、ローヤルゼリーを加水分解する際のpHは、使用するタンパク質分解酵素の種類等に応じてローヤルゼリー加水分解物が得られる程度に適宜調整されるものであればよい。
【0022】
このようにして得られる酵素分解液に1,3-ブチレングリコールを添加し、所定期間冷所に放置し、生成したオリや沈殿物を濾過することで、ローヤルゼリー加水分解物を得ることができる。
【0023】
以上のようにして得られたローヤルゼリー加水分解物は、そのままKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤の有効成分として使用してもよいし、ローヤルゼリー加水分解物を常法により希釈、濃縮、乾燥した希釈物、濃縮物、乾燥物、又は得られた乾燥物を所定の粒径に粉砕した粉砕物を上記有効成分として使用してもよい。乾燥物を得るにあたっては、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。
【0024】
なお、このようにして得られるローヤルゼリー加水分解物は特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、皮膚化粧料、頭皮化粧料、頭髪化粧料等の化粧料や、飲食品に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0025】
以上のようにして得られるローヤルゼリー加水分解物は、KAP5.1mRNA発現促進作用及びATP産生促進作用を有しているため、その作用を利用してKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤の有効成分として用いられ得る。
【0026】
本実施形態に係るKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤は、ローヤルゼリー加水分解物を製剤化したものであってもよい。ローヤルゼリー加水分解物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。上記加水分解物を製剤化したKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤等が挙げられる。
【0027】
本実施形態におけるKAP5.1mRNA発現促進剤は、ローヤルゼリー加水分解物が有するKAP5.1mRNA発現促進作用を通じて、KAP5.1mRNAの発現を促進することができる。これにより、キューティクルの再生、及び毛髪の硬さ、はり・こし等の髪質を改善することができる。そのため、ローヤルゼリー加水分解物は、髪質改善剤等の有効成分として用いることもできる。ただし、本実施形態におけるKAP5.1mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもKAP5.1mRNA発現促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0028】
本実施形態に係るATP産生促進剤は、ローヤルゼリー加水分解物が有するATP産生促進作用を通じて、ATPの産生を促進することができる。これにより、細胞の増殖、代謝、修復等の機能の活性化につながり、抗老化(アンチエイジング)の効果が奏される。また、本実施形態におけるATP産生促進剤は、上記加水分解物のATP産生促進作用を利用して、毛乳頭細胞におけるATPの産生を促進することができ、これによる種々の用途(例えば、脱毛症等の予防・改善用途等)に用いることができる。さらに、本実施形態におけるATP産生促進剤は、上記加水分解物のATP産生促進作用を利用して、ATPの産生量低下に起因する疾患・症状等の予防、治療又は改善剤(例えば、眼精疲労、めまい、胃炎、むくみ等の予防、治療又は改善剤等)の有効成分として用いることもできる。ただし、本実施形態に係るATP産生促進剤は、これらの用途以外にもATP産生促進作用を発揮する意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0029】
本実施形態に係るKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態に係るKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0030】
また、本実施形態に係るKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤は、優れたKAP5.1mRNA発現促進作用及びATP産生促進作用を有するため、皮膚化粧料、頭皮化粧料、頭髪化粧料等の化粧料や、飲食品等に配合するのに好適である。
【0031】
KAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤を配合可能な化粧料としては、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、ヘアトニック、ヘアローション、シャンプー、リンス、石鹸等が挙げられる。KAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤を化粧料に配合する場合、その配合量は、化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、ローヤルゼリー加水分解物の固形分に換算して約0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、ローヤルゼリー加水分解物の固形分に換算して約0.001~1質量%である。化粧料は、上記加水分解物が有するKAP5.1mRNA発現促進作用及びATP産生促進作用を妨げない限り、通常の化粧料の製造に用いられる主剤、助剤またはその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0032】
飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口または消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態に係る「飲食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を構成する組成物を幅広く含むものである。本実施形態における飲食品は、当該飲食品又はその包装に上記加水分解物が有するKAP5.1mRNA発現促進作用及びATP産生促進作用が表示されるものであってもよいし、当該飲食品は、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品、栄養機能食品)、医薬部外品又は医薬品であってもよい。
【0033】
上記加水分解物、又は上記加水分解物から製剤化したKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤を飲食品に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる飲食品の一般的な摂取量を考慮して、成人1日あたりの摂取量が約1~1000mgになるようにするのが好ましい。なお、添加対象飲食品が顆粒状、錠剤状又はカプセル状の形態である場合、上記加水分解物、又は上記加水分解物から製剤化したKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤の添加量は、添加対象飲食品に対して通常0.1~100質量%であり、好ましくは5~100質量%である。
【0034】
なお、本実施形態に係るKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤はヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することも可能である。
【実施例0035】
以下、製造例、試験例等を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記製造例、試験例等に何ら制限されるものではない。
【0036】
〔製造例〕ローヤルゼリー加水分解物の製造
生ローヤルゼリー10gに水100mLを加え、プロテアーゼ(製品名:デナチームAP、ナガセケムテックス社製)0.1gを添加して、圧力酵素分解装置(ヤンマー社製)を用いて50℃、60MPaで24時間反応させた。得られた酵素分解液に1,3-ブチレングリコール110mLを加え、3日間冷所に放置し、それにより生じたオリ及び沈殿物を濾過し、得られた濾液を減圧下にて濃縮し、乾燥することでローヤルゼリー加水分解物(2.4g)を得た。
【0037】
〔試験例1〕ヘアケラチンタンパク質(KAP5.1)mRNA発現促進作用試験
上記製造例で得られたローヤルゼリー加水分解物に30容量%1,3-ブチレングリコール溶液を加え、ローヤルゼリー加水分解物の固形分濃度が0.8質量%となるようにローヤルゼリー加水分解物溶液を調製した。このローヤルゼリー加水分解物溶液を被験試料として、下記の方法によりヘアケラチンタンパク質(KAP5.1)mRNA発現促進作用の試験を実施した。
【0038】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞増殖培地(KGM)を用いて前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、KGMを用いて6ウェルプレートに3.0×10cells/2mLの細胞密度になるように播種し、37℃、5%CO下で一晩培養した。
【0039】
培養後、増殖因子を添加していない培地(KBM)に交換した。24時間後に培養液を捨て、KBMで必要濃度に溶解した被験試料を各ウェルに2mLずつ添加し、37℃、5%CO下で24時間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加のKBMを用いて同様に培養した。培養後、培地を除去し、ISOGEN II(ニッポンジーン社製)にて総RNAを抽出し、波長260nmにおける吸光度からRNA量を計算し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0040】
この総RNAを鋳型とし、KAP5.1及び内部標準であるGAPDHについて、mRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System III(タカラバイオ社製)を用いて、PrimeScriptTM RT Master Mix (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)及びTB Green(登録商標) Fast qPCR Mix(タカラバイオ社製)によるリアルタイム2Step RT-PCR反応により行った。KAP5.1mRNAの発現量は、GAPDHmRNAの発現量で補正し算出した。下記式によりKAP5.1mRNA発現促進率(%)を算出した。
【0041】
KAP5.1mRNA発現促進率(%)=A/B×100
式中の「A」は、被験試料添加時の補正値を表し、「B」は、被験試料無添加時の補正値を表す。
【0042】
上記試験の結果を表1に示す。なお、上記式において、被験試料無添加のKAP5.1mRNA発現促進率は100%となる。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、ローヤルゼリー加水分解物は、高いKAP5.1mRNA発現促進率を示した。この結果から、ローヤルゼリー加水分解物は、優れたKAP5.1mRNA発現促進作用を有することが確認された。
【0045】
〔試験例2〕ATP産生促進作用試験
上記製造例で得られたローヤルゼリー加水分解物に30容量%1,3-ブチレングリコール溶液を加え、ローヤルゼリー加水分解物の固形分濃度が0.8質量%となるようにローヤルゼリー加水分解物溶液を調製した。このローヤルゼリー加水分解物溶液を被験試料として、下記の方法によりATP産生促進作用の試験を実施した。
【0046】
正常ヒト頭髪毛乳頭細胞を、増殖添加剤を含有させた毛乳頭細胞増殖培地(タカラバイオ社製)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、10%FBS含有ダルベッコMEMを用いて1.0×10cells/mLの細胞密度になるように希釈した後、コラーゲンコートした96ウェルプレートに1ウェルあたり200μLずつ播種し、3日間培養した。培養終了後、培地を除去し、無血清ダルベッコMEMに溶解した被検試料を各ウェルに100μL添加し、2時間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加の無血清ダルベッコMEMを用いて同様に培養した。
【0047】
ATP産生促進作用は、ホタルルシフェラーゼ発光法を用いて細胞内のATP量を測定することにより評価した。具体的には、培養終了後、『「細胞の」ATP測定試薬』(東洋ビーネット社製)を各ウェルに100μL添加し、反応後の化学発光量を測定した。測定結果から、下記式によりATP産生促進率(%)を算出した。
【0048】
ATP産生促進率(%)=C/D×100
式中の「C」は、被験試料を添加した細胞での化学発光量を表し、「D」は、被験試料無添加の細胞での化学発光量を表す。
【0049】
上記試験の結果を表2に示す。なお、上記式において、被験試料無添加のATP産生促進率は100%となる。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、ローヤルゼリー加水分解物は、高いATP産生促進率を示した。この結果から、ローヤルゼリー加水分解物は、優れたATP産生促進作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のKAP5.1mRNA発現促進剤及びATP産生促進剤は、化粧料や飲食品等の一成分として、更には研究用の試薬として好適に利用され得る。