(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025905
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ドラッグデリバリープラットフォーム化合物及びその製造方法並びに医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20230216BHJP
A61K 47/55 20170101ALI20230216BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230216BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230216BHJP
C08G 73/00 20060101ALI20230216BHJP
A61K 47/34 20170101ALN20230216BHJP
A61K 31/585 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K47/55
A61K45/00
A61P35/00
C08G73/00
A61K47/34
A61K31/585
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131345
(22)【出願日】2021-08-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第19回産総研・産技連LS-BT合同研究発表会講演要旨集 発行日 令和3年4月27日 第19回産総研・産技連LS-BT合同研究発表会 オンライン開催 開催日 令和3年5月25日~26日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】于 躍
(72)【発明者】
【氏名】七里 元督
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4J043
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076DD60
4C076EE20
4C076EE20A
4C076EE48
4C076EE48A
4C076EE59
4C076FF01
4C076FF02
4C084AA17
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA13
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA13
4C086ZB26
4J043PA04
4J043QB15
4J043QB44
4J043SA07
4J043SB01
4J043UA391
4J043XA03
4J043XA12
4J043XA13
4J043YA00
4J043ZB60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は細孔サイズが大きく、水分散性に優れたドラッグデリバリープラットフォーム化合物及び該ドラッグデリバリープラットフォーム化合物を用いた医薬組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】4,4’,4’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイル)トリアニリンと2,5-ジヒドロキシテレフタルアルデヒドの縮合物が平面状の層を形成し、該層が積層してなるハニカム構造を有し、該ハニカム構造の外周の頂点の少なくとも1つに葉酸基を有する、ドラッグデリバリープラットフォーム化合物。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される略六角形の構造単位が各辺を介して複数結合して平面状の層を形成し、該層が積層してなるハニカム構造を有し、該ハニカム構造の外周の頂点の少なくとも1つに式(II)の葉酸基を有する、ドラッグデリバリープラットフォーム化合物。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記式(I)の構造単位を400~2800個含む、請求項1に記載のドラッグデリバリープラットフォーム化合物。
【請求項3】
前記ハニカム構造の細孔に薬剤分子が充填された、請求項1または2のいずれか一項に記載のドラッグデリバリープラットフォーム化合物を含む、医薬組成物。
【請求項4】
前記薬剤分子が抗がん剤である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記薬剤分子の充填率が20%以上である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
4,4’,4’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイル)トリアニリンと2,5-ジヒドロキシテレフタルアルデヒドからCOFを合成する工程、得られたCOFと葉酸とを縮合反応させる工程を含む、請求項1または2に記載のドラッグデリバリープラットフォーム化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドラッグデリバリープラットフォーム化合物(薬物送達担体)及び、その製造方法に並びに医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
共有結合性有機フレームワーク(COF:Covalent organic framework)は、近年開発された新しいサイズクラスの多孔質材料である。表面積が大きく、安定した骨格を有していることから、理想的なドラッグデリバリープラットフォーム化合物(薬物送達担体)として期待されている。具体的には、COFの細孔内に各種薬剤分子を結合し、標的とするがん細胞に薬剤分子を送達して、効率的ながん治療を図るこというものである。
【0003】
例えば、非特許文献1には、薬物を担持させたCON(covalent Organic Nanosheets
)からなる標的ドラッグデリバリーが開示されている。CONに結合した葉酸ががん細胞の受容体に取り込まれ、がん細胞に選択的に薬物を送達することができるというものである。ドラッグデリバリーにおいて、COFの化学構造によって細孔サイズや水分散性等の諸物性が変化し、薬物の担持能力や送達機能に影響を与えることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society, 2017,139,4513-4520
【非特許文献2】Journal of Material Chemistry A, 2018, 6, 374-382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
COFは、大きな表面積と非常に安定した構造を有することから、理想的なドラッグデリバリープラットフォーム化合物として期待されている。一方、従来のドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、薬剤担持のための細孔サイズや水分散性等に改善の余地があった。このような事情に鑑み、本発明は細孔サイズが大きく、水分散性に優れたドラッグデリバリープラットフォーム化合物及び該ドラッグデリバリープラットフォーム化合物を用いた医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねたところ、各種薬剤分子を内包させるのに十分なサイズの細孔を有し、かつ、その骨格に豊富なヒドロキシ基を備えた共有結合性有機フレームワークに葉酸を結合せしめて合成した分子(ドラッグデリバリープラットフォーム化合物)は薬剤分子の担持能力と水分散性を向上させることができ、特にはがん細胞への抗がん剤の送達を効率的に行うことができることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本開示の一態様は、式(I)で表される略六角形の構造単位が各辺を介して複数結合して平面状の層を形成し、該層が積層してなるハニカム構造を有し、該ハニカム構造の外周の頂点の少なくとも1つに、式(II)の葉酸基を有する、ドラッグデリバリープラットフォーム化合物である。
【化1】
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本開示は、少なくとも、薬剤分子の担持能力と水分散性を向上させることが可能となる
。本態様に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物を用いた医薬組成物は、特に、癌細胞に効率的に作用するという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】TD-COF、DHTA、TAPTのFTIRスペクトルである。
【
図2】TD-COFの固体NMR分光法スペクトルである。
【
図4】TD-COFからFATD-COFの合成を示す図である。
【
図5】FATD-COF、FA、TD-COFのFTIRスペクトルである。
【
図6】FATD-COFのNMR分光法スペクトルである。
【
図7】FATD-COFのPXRDパターンである。
【
図9】TD-COFの合成及び特性評価;(a)バルクTD-COFの合成及び拡大した六方晶構造の模式図である。(b)TD-COFの粉末X線回折(PXRD)パターンである。(c)TD-COFの単一細孔(上部パネル)及び層(下部パネル)の結晶構造の模式図である。(d)透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図10】FATD-COFの合成及び特性評価;(a)FATD-COFの合成の模式図である。(b)TD-COF及びFATD-COFの窒素吸着等温線(黒色:吸着、白色:脱着)である。(c)TD-COF及びFATD-COFの細孔径分布である。(d)超音波処理によって剥離したFATDナノ構造COF(n-COF)のTEM画像である。(e)TD-nCOF及びFATD-nCOFの動的光散乱(DLS)サイズ分布である。挿入図はFATD-COFの水性ナノ懸濁液の画像である。(f)水性水溶液中のTD-nCOF及びFATD-nCOFのζ電位である。(g)FATD、TD、及び葉酸の紫外可視近赤外(UV-Vis.-NIR)吸収スペクトルを示す図である。
【
図11】FATD-nCOFのFR陽性癌細胞への選択的インターナリゼーション;(a)FATD-nCOFと共にインキュベートした葉酸受容体(FR)陰性及び陽性細胞の蛍光顕微鏡写真である。(b)FATD-nCOFと共にインキュベートした後のHeLa細胞の蛍光顕微鏡写真である。(c)FATD-COFと共にインキュベートしたHeLa細胞の蛍光顕微鏡写真である。(d)リソソームにおけるFATD-nCOF及びlysoTracker Greenの共局在を示す共焦点蛍光写真(図中、右側のグラフは蛍光強度プロファイルを示す)である。
【
図12】インビトロでのウィザフェリンA(WA)ロードFATD-nCOFの選択的抗癌活性;(a)ウィザフェリンA(WA)ロードFATD-COF(FATD-WA)の調製の模式図である。(b)FA、TD-nCOF、WA、及びFATD-WAナノコンポジットのUV-Vis-NIR吸収スペクトルである。(c)及び(d)FATD-WAの用量依存性及び時間依存性の細胞毒性を示す細胞生存率アッセイを示すグラフである。(e)24時間のCOFナノコンポジット処理有り無しでのHeLa細胞及びMCF7細胞の位相差顕微鏡画像である。(f)対照及びCOFナノコンポジット処理細胞のクリスタルバイオレット染色を示す。(g)3つの独立した生物学的実験からの定量である。
【
図13】FATD-WAナノコンポジットのFR陽性HeLa細胞に対するアポトーシスの誘導;(a)FATD-WA処理HeLa細胞におけるアポトーシス細胞集団の増加を示すフローサイトメトリー分析を示す。(b)3つの生物学的に独立した実験からの定量を右側に示す。(c)FATD-WA処理HeLa細胞における切断PARP-1及びカスパーゼ-3の発現のより強い増加を示すアポトーシス分子マーカーのウェスタンブロッティングである。(d)ナノコンポジット処理後の、Ki-67及びBcl2のレベルのより強い低下、及び切断カスパーゼ3のより大きい増加を示すHeLa細胞の免疫染色を示す。(e)相対平均蛍光強度(MFI)の定量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は、これらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本明細書中で使用されている「COF」は、共有結合性有機フレームワーク(Covalent
organic framework)(「共有結合性有機構造体」とも呼ばれる)の略語である。
【0013】
本明細書中で使用される「TD」は、TAPT(4,4’,4’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイル)トリアニリン)、DHTA(2,5-ジヒドロキシテレフタルアルデヒド)、それぞれの頭文字をとった略語であり、「TD-COF」は、TAPTとDHTAから合成したCOFを意味する。
【0014】
本明細書中で使用される「FATD-COF」は、葉酸(FA)をTD-COFに結合させたCOFを意味する。
【0015】
本明細書中で使用される「nCOF」は、ナノコンポジットCOFの略語であり、「FATD-nCOF」は、ナノコンポジットFATD-COFの略語である。「ナノコンポジット」は、ナノメートルスケールの異なる原料から作製される複合材料を意味する。
【0016】
本明細書中で使用される「WA」はウィザフェリンAの略語であり、「FATD-WA」は、FATD-COFにウィザフェリンAを充填させたものを意味する。
【0017】
本発明の一実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、式(I)で表される略六角形の構造単位が各辺を介して複数結合して平面状の層を形成し、該層が積層してなるハニカム構造を有し、該ハニカム構造の外周の頂点の少なくとも1つに、式(II)の葉酸基を有することを特徴とする。
【化3】
【0018】
【0019】
式(I)の構造単位は、略六角形の環状構造を有し、略六角形の各辺を介して、他の式(I)の構造単位と結合することができる。すなわち、略六角形の環状構造の複数個が該略六角形の各辺を介して結合して平面上に広がりある層を形成し、各層が積層することで
図9(a)や
図10(a)に示されるような、ハニカム構造を形成する。ハニカム構造に
おいて、完全に同一構造からなる層が積層している必要はなく、細孔が全体あるいは部分的に形成されていれば、各層の構造が異なっていてもよい。
【0020】
ハニカム構造(積層)の最外周の各頂点にはアニリン残基(PhN-)が存在し、このアニリン残基の一つ以上を介して、式(II)の葉酸基が結合している。このアニリン残基への式(II)の葉酸基の結合様式は特に制限されず、直接結合していてもよいが、リンカーを介して結合していてもよい。また、ハニカム構造の最外周の各頂点の一部に葉酸基が結合していればよく、各頂点の全てに葉酸基が結合している必要なない。葉酸基の結合の有無、結合の場所は、合成反応の偶然性に左右されるものである。リンカーはドラッグデリバリープラットフォーム化合物としての薬物送達能に影響しない限り、特にその構造や長さは制限されない。主鎖の炭素数1~10、好ましくは炭素数1~5の炭化水素基(二重結合を含んでもよいし、1つ以上の-CH2-は、-O-または-Ph-(置換基を有してもよい)で置換されてもよい)を用いることができる。例えば、=CH-Ph(OH)2-CH=、が挙げられる。
【0021】
上記ドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、COF骨格に豊富なヒドロキシ基が存在するため、このCOFは典型的なチンダル効果を示し、水溶液中で十分に分散し、その分散液はコロイド構造を示して、安定して存在する。また、式(I)の構造単位がハニカム構造を形成することで、各種薬剤分子を包含するのに十分なサイズの孔径の細孔を有することから、その細孔内に、抗がん剤を効率的に充填(カプセル化)することが可能となる。これらにより、ドラッグデリバリープラットフォーム化合物として従来よりも格段に優れた性能を有する。
【0022】
ところで、非特許文献2には、二酸化炭素を捕集するための共有結合性有機フレームワーク(COF:Covalent organic framework)が開示されている。本実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、この非特許文献2に開示される、COFを基本構造とし、がん細胞を標的とするためCOF骨格に葉酸(FA:Folic Acid)を結合させたものである。一方、非特許文献2に開示されるガスの捕集と異なり、本実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、薬物分子を担持させるための細孔サイズや水分散性等が求められるため、非特許文献2のCOFを一義的にドラッグデリバリープラットフォーム化合物に転用できるものではないことは言うまでもない。
【0023】
本実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物において、全体に含まれる式(I)の構造単位の総数としては、400~2800であることが好ましく、より好ましくは600~2400、さらに好ましくは1000~2000である。ここでいう「全体に含まれる式(I)の構造単位の総数」とは、上記のような積層体を形成したときには積層体全体に含まれる数をいい、全体の分子量を式(I)の構造単位の分子量2979で除することで算出することができる。
なお、式(I)の構造単位の数が小さすぎると、ドラッグデリバリープラットフォーム化合物のサイズ自体が小さくなり、ドラッグデリバリーとしての機能を十分に発揮できないことがある。一方、式(I)の構造単位の数が大きすぎると、ドラッグデリバリープラット化合物のサイズが大きくなり、標的とするがん細胞などに薬剤分子を効率的に送達するのが困難となることがある。
【0024】
本実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、細孔の平均サイズ(孔径)が2.5~3.5nmである。非特許文献1に開示されるドラッグデリバリー(TpASH)の細孔のサイズは1.3nm程度であるが、本実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、非特許文献1のドラッグデリバリーの細孔サイズの2~3倍程度の大きさを有するため、薬剤分子の充填率を高めることができ、一方、同じ量の薬剤分子を担持させたときには、そのドラッグデリバリープラットフォーム化合物の全体
のサイズを小さくすることが可能となる。
【0025】
本実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、その細孔に薬剤分子を充填することができる。そして、薬剤分子を充填したドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、医薬組成物となり得る。薬剤分子としては、分子サイズがCOFの細孔サイズよりも小さい薬剤分子であれば特に制限はなく、好ましくは、抗がん剤分子である。抗がん剤分子としては、その細孔中に内包可能なサイズであれば特に制限されないが、例えば、ウィザフェリンA(WA:Withaferin A)、クルクミン、Carmofurが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0026】
また、本実施形態に係る医薬組成物は、ドラッグデリバリープラットフォーム化合物の細孔内に薬剤分子を20%以上充填することができる。好ましくは充填率が25%以上であり、より好ましくは充填率が30%以上である。充填率が高いほど、ドラッグデリバリープラットフォーム化合物の全体サイズを小さくすることができるという優れた効果を有する。
充填率は、ドラックデリバリープラットフォーム化合物の細孔内に担持された「薬剤分子の質量」と「ドラックデリバリープラットフォーム化合物の質量」(薬剤分子は担持されていない)から求めることができる。
[数式1]充填率(%)=(担持された薬剤分子の質量)/{(ドラックデリバリープラットフォーム化合物の質量)+(担持された薬剤分子の質量)}×100
【0027】
本実施形態に係る医薬組成物の適用方法は、経口投与又は非経口投与のいずれも採用することができる。経口投与、直腸内投与、注射などの投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤、凍結乾燥製剤などが挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。
【0028】
本実施形態に係る医薬組成物全量に対するドラッグデリバリープラットフォーム化合物の含有量は、薬物送達能に影響しない限り、特に制限されない。また、本実施形態に係る医薬組成物の有効投与量は、対象の齢、体重、疾患、障害、症状、症候、それらの程度、投与の経路、摂取又は投与スケジュール、製剤形態などにより適宜設定することができるが、本実施形態に係る医薬組成物は、抗がん剤分子の総量として、通常の有効投与量であってよい。また、本実施形態に係る医薬組成物は、1日あたり1回の投与でもよいし、1日に複数回に分けた投与でもよい。また、数日又は数週間に1回の投与であってもよい。
【0029】
<ドラッグデリバリープラットフォーム化合物の製造方法>
次に、本実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物の一例の製造方法について、以下に詳述する。但し、以下の原料化合物を含めた製造条件等は、開示した範囲に限定するものではなく、いくらかの省略や変更を行ってもよいことは明らかである。
【0030】
<TD-COFの合成>
原料としてTAPT(4,4’,4’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイル)トリアニリン)とDHTA(2,5-ジヒドロキシテレフタルアルデヒド)を準備し、これらの原料にジオキサン、メシチレン及び酢酸水溶液を混合して、その混合物を管内で凍結-ポンピング-解凍により脱気する。
次に、前記管を密封し、120℃で加熱する。加熱後、沈殿物を遠心分離により収集し、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトンを用いて洗浄し、120℃で真空下、乾燥させることで、
図9(a)の右に示すような略六角形の構造単位が結合してハニカム構造を形成したTD(TAPT-DHTA)-COFを合成することができる。こ
こで、前記TD-COFの合成で、過剰のDHTAを使用することにより、ハニカム構造の外周の頂点には、アニリン残基にDHTAが結合することで
図4に示すような結合欠陥(Bonding defect)が形成され、これは、その後のFATD-COFの合成の際にリンカーとして作用することになる。なお、DHTA以外にも、その両端がアミノ基と反応する置換基を有する化合物をリンカーとして用いることも可能であり、その場合は、DHTAと同様、当該化合物を過剰に混合することが想定できる。
参考までに、
図1に、DHTA、TAPT及びTD-COFのフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。また、
図2に、TD-COFの
13C CP/MAS固体NMR分光法によるスペクトルを示す。星記号付きのシグナルはサイドピークである。また、
図3には、水中又は酸性条件下で1週間保存したTD-COFのPXRD(粉末X線回折法)パターンを示す。
【0031】
本明細書中において、13C CP/MAS固体NMRスペクトルは、10kHzのローター周波数を使用して、AVANCE III HD 500 MH分光計(Bruker社製)で記録することができる。また、フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルは、FTIR-6100分光光度計(日本分光株式会社(JASCO)製)で、KBrペレットを使用して、500~4000cm-1の範囲内で記録することができる。
【0032】
<FATD-COFの合成>
上記で得られたTD-COFに、葉酸、エタノール、酢酸溶液を混合し、その混合物をフラスコに加え、それを室温で攪拌する。
次に、得られる沈殿物を遠心分離により回収した後、ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランで洗浄する。その後、沈殿物をテトラヒドロフランでソックスレー抽出して、120℃で真空下、乾燥させて、FATD-COFを得ることができる。
参考までに、
図4にTD-COFの結合欠陥に対する葉酸(FA)修飾の模式図を示す。
式(I)で表される略六角形の構造単位が各辺を介して複数個結合したハニカム構造の外周の頂点にはアニリン残基が存在し、そこにDHTAが結合しており、そのDHTAに直接又はリンカーを介して葉酸を結合させることで、FATD-COFが得られる。
図5にFATD-COF、葉酸及びTD-COFのフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。また、
図6にFATD-COFの
13C CP/MAS固体NMR分光法によるスペクトルを示す。星記号付きのシグナルはサイドピークである。
図7は水中又は酸性条件下で1週間保存したFATD-COFのPXRDパターンを示す。
図8はFATD-COFのTEM画像である。
【0033】
以上の通り、式(I)で表される構造単位からなる本実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、例えば、4,4’,4’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイル)トリアニリンと2,5-ジヒドロキシテレフタルアルデヒドからCOFを合成する工程、得られたCOFと葉酸とを縮合反応させる工程を含む方法によって、製造することができる。なお、本実施形態に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物は、上記製造方法や製造条件に限定されるものではなく、いくつかの工程は、省略、追加、変更等が可能である。
【0034】
<医薬組成物の製造方法>
ドラッグデリバリープラットフォーム化合物に薬剤分子を担持(内包)させる方法として、例えば、以下の方法を採用することができる。
まず、FATD-COFとWA(薬剤分子)と混合し、蒸留水中で10分間超音波処理して、FATD-COFにWAを内包させる。次に、混合物を2000rpmで10分間遠心分離して、未結合のWAを除去した後、上清を採取して、WAを内包したFATD-COFを得る。このようにして、薬剤分子を内包したドラッグデリバリープラットフォー
ム化合物からなる医薬組成物を作製することができる。
【実施例0035】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により限定されないことはいうまでもない。
【0036】
<1.化学薬品>
特に明記しない限り、全ての化学試薬はSigma Aldrich社(米国ミズーリ州)から入手し、追加の精製を行わずに使用した。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ロズウェルパーク記念研究所(Roswell Park Memorial Institute、RPMI)1640培地、ペニシリン、ストレプトマイシン、ウシ胎児血清(FBS)、及びトリプシンはGibco BRL社(米国ニューヨーク州)から購入した。
【0037】
Cell Counting Kit(CCK)-8は、株式会社同仁化学研究所(日本、熊本)から購入した。ウィザフェリンA(Withaferin A)、ナイルレッド、ウシ血清アルブミン、エタノール、メタノール、アセトンは和光純薬工業株式会社(日本、大阪)から購入した。プロテアーゼ阻害剤カクテルは、Roche Applied Science社(ドイツ、マンハイム)から購入した。
【0038】
PVDF膜及びGuava Nexin試薬は、Millipore社(米国マサチューセッツ州)から購入した。Can Get Signal(登録商標)Immunoreaction Enhancer Solution(免疫反応促進試薬)は、東洋紡株式会社(日本、大阪)から購入した。Hoechst 33342、LysoTracker Green、Alexa Fluor 488 ファロイジン(Phalloidin)、放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)バッファー、及びPierce BCA
Protein Assay Kitは、Thermo Fisher Scientific社(米国マサチューセッツ州)から購入した。
【0039】
4,4’,4’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイル)トリアニリン(TAPT)、及び、2,5-ジヒドロキシテレフタルアルデヒド(DHTA)は、既報(非特許文献2)の経路で合成した。
【0040】
以下の抗体を、免疫蛍光(IF)、及びウエスタンブロッティング(WB)に使用した:ウサギ抗Bcl2(N-19、sc-492)(IF-1:500、Santa Cruz Biotechnology社、米国カリフォルニア州)、マウス抗Ki-67(8D5、#9449)(IF-1:500、Cell Signaling Technology(CST)社、米国マサチューセッツ州)、ウサギ抗切断カスパーゼ3(ab32042)(IF-1:500、Abcam社、米国マサチューセッツ州)、ウサギ抗Bcl-xL(#2762)(WB-1:1000、CST社)、ウサギ抗Bcl-2(2876)(WB-1:1000、CST社)、ウサギ抗切断-PARP-1(D214、orb159425)WB-1:1000、Biorbyt社、米国ミズーリ州)、ウサギ抗切断カスパーゼ3(5A1E、#9664)WB-1:1000、CST社)、マウス抗β-アクチン(AC-15、ab6276)(WB-1:10000、Santa
Cruz Biotechnology社、米国カリフォルニア州)、HRP結合抗ウサギ二次抗体(#7074)(WB-1:5000; CST)、HRP結合抗マウス二次抗体(#7076)(WB-1:5000、CST社)、Alexa Fluor 488 抗ウサギ二次抗体(A-11008)(IF-1;500、Thermo Fisher Scientific社)、及び、Alexa Fluor 488 抗マウス二次抗体(A-11001)(IF-1;500、Thermo Fisher Sci
entific社)。
【0041】
<2.TD-COFの合成>
ジオキサン(1.0mL)、メシチレン(1.0mL)、TAPT(56mg、0.16mmol)、DHTA(45mg、0.27mmol)、及び酢酸水溶液(6M、0.2mL)を混合し、その混合物をパイレックス(登録商標)管(10mL)内で3サイクルの凍結-ポンピング-解凍により脱気した。次に、前記管を密封し、120℃で3日間加熱した。加熱後、沈殿物を遠心分離により収集し、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、及びアセトンで3回洗浄し、真空下、120℃で一晩乾燥させて、TD-COF(81mg)を得た。
【0042】
(TD-COFの結晶構造の評価)
図9(a)にバルクTD-COFの合成及び拡大した六方晶構造の模式図を示す。また、
図9(c)にTD-COFの単一細孔(上部パネル)及び、層(下部パネル)の結晶構造の模式図を示す。COF結晶構造は、以下コンピューターによる計算を用いて決定した。計算の結果、細孔は3.1nm、層間距離は3.49Åであった。
【0043】
(COF結晶構造のコンピューターによる計算)
COFの結晶構造は、レナード・ジョーンズ(Lennard-Jones、LJ)分散を含む密度汎関数強結合(DFTB+)法を使用して決定した。計算は、DFTB+プログラムパッケージバージョン1.2で実行した。DFTBは、強結合アプローチに基づく近似密度汎関数理論法であり、ハミルトニアンマトリックス(Hamiltonian
matrix)要素の二中心近似と組み合わせて最適化された最小LCAOスレーター型(Slater-type)の全原子価基底関数系を利用する。部分電荷間のクーロン相互作用は、自己無撞着電荷(Self-Consistent Charge、SCC)形式を使用して決定した。レナード・ジョーンズ型分散は、AuToGraFSS1によって作成された開始構造とのファンデルワールス(vdW)相互作用及びπ-πスタッキング相互作用を説明するために全ての計算で使用され、トポロジー保存力場を使用して事前最適化され、単層を最適化するために使用され、様々なスタッキングモードを備えた層状フレームワークにさらに拡張された。格子次元は、幾何解析と同時に最適化した。X-Y要素対(X、Y=C、H、O、及びN)相互作用の標準DFTBパラメーターは、「mio-0-1 set10」から採用した。アクセス可能な表面積は、0.25Åのグリッド間隔で、フレームワーク表面上でロールさせる窒素サイズのプローブ分子(直径=3.68Å)を使用して、モンテカルロ積分法から計算した。XRDパターンシミュレーションは、MSモデリングバージョン4.4(Accelrys社製)で実装したPXRDパターンから結晶測定用ソフトウェアパッケージで実行した。Pawley法による精密化を実行して、RP値及びRwp値が収束するまで、繰り返し格子パラメーターを最適化した。プロファイル全体のフィッティングには疑似フォークト(pseudo-Voigt)プロファイル関数を使用し、精密化プロセス中の非対称性補正にはBerrar-Baldinozzi関数を使用した。
【0044】
(TD-COFの粉末X線回折評価)
図9(b)にTD-COFの粉末X線回折(PXRD)パターンを示す。粉末X線回折データは、RINT Ultima III回折計(Cu Kα、λ=0.154nm)(Rigaku社製)を用い、ガラス基板上にTD-COF粉末を堆積させ、2θ=1.5°~30°まで、0.02°の増分で記録した。黒:実験的に観察、赤:Pawley法による精密化、青:実験的に観察されたデータ及びPawley法による精密化データとの差、緑:エクリプス構造AA-スタッキングモード、ピンク:スタッガード構造AB-スタッキングモード、を意味する。
【0045】
(TD-COFのTEM評価)
図9(d)にTD-COFの構造と形態を高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した画像を示す。
図9(d)では、TD-COFの多層構造が観察できる。なお、TEMは、装置(002B HRTEM、株式会社トプコン製)を用い加速電圧を120kVとした。
【0046】
<3.FATD-COFの合成>
前記TD-COF(100mg)、葉酸(45mg)、エタノール(10mL)、及び酢酸溶液(0.1mL、濃度99wt%以上)を混合し、その混合物を一口フラスコに加えた。それを室温で24時間攪拌した。得られた沈殿物を遠心分離により回収し、ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランで3回洗浄した。その後、沈殿物をテトラヒドロフランでソックスレー抽出して、120℃で真空下、一晩乾燥させて、FATD-COF(112mg)を得た。
【0047】
図10(a)にFATD-COF合成の模式図を示す。FATD-COFは、ハニカム構造を形成したTD-COF上の外周の頂点でアルデヒド基と、葉酸(FA)のアミノ基との縮合反応によって調製される。なお、
図10(a)には、FAで修飾される部位と修飾されていない部位とが存在するが、この図はあくまで模式図であり、FAで修飾される部位あるいは修飾されない部位は、この図に示した部位に限定されない。ある部位がFAで修飾される/修飾されないは、合成反応の偶然性に左右されるものである。また、
図10(a)は、完全同一構造からなる層が規則的に積層したTD-COF(FATD-COF)であるが、ある層と他の層とが完全同一構造である必要はなく、ハニカム構造の細孔内部に薬剤分子が部分的にでも充填できれば、構造の異なる層が積層されたものであってもよい。
図10(b)に77Kで測定したTD-COF(黒)及びFATD-COF(オレンジ)の窒素吸着等温曲線(黒点:吸着、白点:脱着)を示す。なお、窒素吸着等温線は、3Flex Surface Characterization Analyzer(表面特性分析装置)(Micromeritics社製)を使用して測定した。
【0048】
図10(c)にTD-COF及びFATD-COFの細孔分布を示す。Brunauer-Emmett-Teller(BET)表面積及びFATD-COFの細孔容積が小さい場合、TD-COFへの葉酸添加の成功を意味する。なお、非表面積は、Brunauer-Emmett-Teller(BET)法を利用して、計算した。また、細孔容積の導出は、非局所密度汎関数理論(NLDFT)モデルを使用することにより、収着曲線から導出した。
【0049】
<4.COFナノコンポジットの調製>
TD/FATD-COFナノコンポジット(nCOF)は、次のように調製した。合成後そのまま(as-synthesized)のCOF(10mg)を、バス超音波処理(Branson 2800、Branson Ultrasonics社製)によって、20mLの再蒸留ミリQ水に手早く溶解した。室温で1時間穏やかに攪拌した後、混合物を氷上で6時間ホーン型超音波処理(VCX-600、Sonics社製)に供し、続いて10,000rpmで30分間遠心分離した。上清の上部80%を収集し、凍結乾燥に用いて、ナノコンポジットCOFの粉末を得た。
【0050】
図10(d)に超音波処理によって層を剥離した後のFATDナノ構造COF(nCOF)のTEM画像を示す。挿入図は、0.25mg/mLの濃度のFATD-COFの水性ナノ懸濁液の画像を示す。なお、TEMによる観察には上述の装置を使用した。
【0051】
図10(e)にTD-nCOF及びFATD-nCOFの動的光散乱(DLS)サイズ分布を示す。挿入図は、0.1mg/mLの濃度での水性分散液のtyndall効果の
画像を示す。また、
図10(f)水性水溶液中のTD-nCOF及びFATD-nCOFのζ電位を示す。データは平均±s.d.として表す。N=3つの独立した検定である。P値はスチューデントの両側t検定によって計算した。なお、ナノ複合材料の流体力学的直径とζ電位は動的光散乱(DLS)(Zetasizer Nano ZS、Malvern Panalytical社製)によって決定した。
【0052】
図10(g)にFATD、TD、及び葉酸の紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR)吸収スペクトルを示す。
図10(f)は、FA(葉酸)のTD-nCOFへの結合が成功したことを示す。なお、UV-Vis-NIR分光光度計(UV-2450、島津社製)を使用して、nCOF及び薬物複合体のスペクトルプロファイル及び濃度を測定した。
【0053】
(nCOFにおける薬剤分子の充填率)
nCOFにおける薬剤分子の充填率を計算するに当たり、nCOFプロトコル(2mg)に対して過剰の薬剤分子であるフルオロフォア(4mg)を混合した後、5mlの蒸留水で10分間超音波処理を実施し、nCOFの細孔内にフルオロフォアを充填した。その後、2000rpmで10分間遠心分離し、結合していないフルオロフォアを除去した。次に、フルオロフォアを充填したnCOFを等量の無水エタノール(4ml)に溶解して、室温で2時間撹拌した後、15,000rpmで30分間遠心分離して、nCOFとフルオロフォアとが分離されたエタノールの上清を得た。その後、上清について、紫外可視近赤外(UV-Vis.-NIR)分光光度計を用いて吸光度を測定し、対応する検量線からフルオロフォアの濃度とnCOFの濃度を計算した。そして、フルオロフォア(薬剤分子)の濃度、nCOF(ドラックデリバリープラットフォーム)の濃度及び上清の体積から、フルオロフォアとnCOFの質量を計算し、上記[数式1]から充填率を求めた。
【0054】
<5.TD-WA/FATD-WAの調製>
ウィザフェリンA(WA)を充填したnCOF(TD-WA/FATD-WA)は、次のように調製した。2mgのnCOFを1mgのWAと混合し、5mLの蒸留水中で10分間超音波処理した。混合物を2000rpmで10分間遠心分離して、未結合のWAを除去した。上清を取り、使用するまで4℃で保存した。最終製品中のnCOF及びWAの濃度は、上述の通り、紫外可視近赤外(UV-Vis.-NIR)分光光度計を使用して推定した。
【0055】
図12(a)にFATD-nCOFへのウィザフェリンA(WA)の充填の模式図を示す。また、
図12(b)にFA、TD、nCOF、WA、及びFATD-WAナノコンポジットのUV-Vis-NIR吸収スペクトルを示す。FATD-WAは、FA及びWAの明確なピークを示しており、TD-nCOFへの取り込みに成功したことを示している。
【0056】
<6.癌細胞への選択的インターナリゼーション評価>
次に、FATD-nCOFのFR陽性癌細胞への選択的インターナリゼーションを評価した。まず、使用した癌細胞について、以下に詳述する。
【0057】
(細胞培養)
ヒト乳癌(MCF7)、肺癌(A549)、子宮頸部腺癌(HeLa)、卵巣腺癌(SKOV3)、及び正常線維芽細胞(MRC5)は、JCRB細胞バンク(Japanese Collection of Research Bioresources)(日本、東京)又はDSファーマバイオメディカル株式会社(日本、東京)から入手し、10%(v/v)FBS及び1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM中で5%CO2の存在下、37℃で培養した。細胞は葉酸非含有RPMI 1640培地で少なくとも3日間、インビトロアッセイの前及びその期間中保管した。
【0058】
次に、蛍光COFナノ複合材料(ナイルレッド標識COF)を、混合物(FATD-nCOF)中のWAを等質量のナイルレッド(NR)で置換しこと以外、同様の方法で調製した。また、細胞骨格(緑)及び核(青)は、それぞれファロイジン及びヘキストで染色した。
図11(a)にFATD-nCOF(10μg/mL、ナイルレッドで標識)と共に6時間培養した葉酸受容体(FR)の陰性(-)及び陽性(+)細胞の蛍光顕微鏡イメージングを示す(上段がFATD
NR、下段が細胞骨格、核、NR標識COFの3つを統合した画像)。FR(+)細胞は陽性のがん細胞を意味し、FR(-)細胞は陰性のがん細胞を意味する。その結果、FATDは、FR(+)細胞に対して、より効率的にインターナリゼーションされたことが確認できる。
図11(b)にFATD-nCOF(10μg/μL)と共に4時間培養した後のHeLa細胞の蛍光顕微鏡イメージングを示す(上段がFATD
NR、下段が核とNR標識COFを統合した画像)。インターナリゼーションは、遊離葉酸とのプレインキュベートによって阻害され、FRターゲッティング効果を示している。
図11(c)にFATD-nCOF(10mg/mL)と共に4℃及び37℃で2時間培養したHeLa細胞の蛍光顕微鏡イメージを示す(上段がFATD、下段が核とNR標識COFを統合した画像)。
図11(d)には、リソソームにおけるFATD-nCOF及びlysoTracker Greenの共局在を示す共焦点蛍光イメージングを示す。HeLa細胞をFATD-nCOF(10μg/mL)で3時間処理した。統合した画像の白い矢印の線に沿った蛍光強度プロファイルを右に示す。
【0059】
<7.WA充填FATD-nCOFの選択的抗癌活性評価>
次に、WAを充填したFATD-nCOFの細胞毒性に対する用量依存性及び時間依存性(細胞生存率アッセイ)を示す。サンプル及び評価方法について、以下に詳述する。
【0060】
(細胞生存率アッセイ)
ヒト乳癌(MCF7)、肺癌(A549)、子宮頸部腺癌(HeLa)、卵巣腺癌(SKOV3)の各種がん細胞を96ウェルプレートに1ウェルあたり5×103個の生細胞の密度で播種し、24時間培養して細胞を接着させた。続いて、示されているように、前記細胞をCOFナノコンポジット処理に曝露した。新鮮な培地で洗浄した後、細胞をCCK-8溶液で3時間培養した。マイクロプレート光度計(Multiskan FC、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて450/690nmの吸光度を測定した。処理に応答した細胞の形態は、デジタルカメラ(Digital Sight DS-L1、株式会社ニコン製)を備えた位相差倒立顕微鏡を使用して記録した。
【0061】
(コロニー形成アッセイ)
長期細胞増殖に対するWAロードCOFナノコンポジットの効果は、コロニー形成アッセイによって決定した。細胞を12ウェルプレートに播種し(1ウェルあたり200細胞)、接着させ、ナノコンポジットを含有するDMEMで6時間処理した。処理した細胞は、コロニーが出現するまで通常の培地で維持した。約12日後、細胞を冷PBSで洗浄し、メタノール/アセトン(v/v、1:1)混合物で固定し、0.1%クリスタルバイオレット溶液にて室温で一晩染色した。
【0062】
(蛍光顕微鏡イメージング)
細胞(1ウェルあたり1×105細胞)を、12ウェル培養皿に配置したガラス製カバースリップ上に播種した。細胞が基質に付着した時点で、ナイルレッド標識FATD(FATDNR)nCOFを添加した。示された条件下でのインキュベーション時間後、細胞を冷PBSで洗浄し、4%ホルムアルデヒド(PFA)で10分間固定した後、Hoechst 33342(1μg/mL)で核染色した。PBSで連続洗浄した後、カバース
リップをマウントし、顕微鏡(Axiovert 200 M、Carl Zeiss社製)で視覚化した。必要な他の場所で細胞骨格をAlexa Fluor 488ファロイジンで染色した。
【0063】
LysoTracker(登録商標)Greenを使用して、リソソーム内のnCOFの局在を観察した。簡潔には、FATDNRで3時間処理した後、細胞をLysoTracker(登録商標)Green(100nM)にて37℃で2時間培養し、PBSで3回洗浄し、Hoechst 33342(1μg mL-1)で10分間インキュベートした。次に、染色した細胞を簡単に洗浄し、共焦点レーザー走査顕微鏡(LSM 5 PASCAL、Carl Zeiss社製)を使用してライブイメージングを行った。共局在プロファイルは、画像分析ソフトウェア(ZEN、Zeiss社製)によって決定した。
【0064】
免疫染色実験では、PFA固定細胞を0.2%Triton X-100含有PBSにて室温で10分間透過処理し、1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBSにて室温で30分間ブロックした。次に、試料を一次抗体と共に室温で一晩培養し、その後、Alexa Fluor結合二次抗体と共に室温で1時間培養した。PBS-Tで3回洗浄した後、顕微鏡観察用にカバースリップを取り付けた。ImageJソフトウェア(アメリカ国立衛生研究所(National Institute of Health)製)を使用して、蛍光強度の定量化のために各処理条件について少なくとも100個の細胞(2枚のスライド上)を評価した。
【0065】
図12(c)及び(d)に、FATD-WAの細胞毒性の用量依存性及び時間依存性(細胞生存率アッセイ)を示す。FA結合nCOFは、FR(+)癌細胞におけるWAの選択的癌活性を強化した。データは、平均±s.d.、n=5、独立した生物学検定として表す。
図12(e)に24時間のCOFナノコンポジット処理有り/処理無しでのHeLa細胞及びMCF7細胞の位相差顕微鏡画像(1μg/mL、TD-WA及びFATD-WA中のWAの0.5μg/mLに相当)を示す。この図からFATD-WAは、FR(+)HeLa細胞では明らかな細胞形態変化を誘導するが、FR(-)MCF7細胞では誘導しないことが分かる。
図12(f)に示される対照及びCOFナノコンポジット処理細胞のクリスタルバイオレット染色は、FATD-WAがHeLa細胞及びSKOV3細胞のクローン原性をより強く低下させたことを示す(WA濃度:1μg/mL)。
図12(g)に3つの独立した生物学的実験からの定量を示す。データは平均±s.d.として表す。N=3つの独立した生物学検定であり、P値はスチューデントの両側t検定によって計算した。
【0066】
<8.FATD-WAナノコンポジットのアポトーシスアッセイ>
次に、FATD-WAナノコンポジットの、FR(+)HeLa細胞に対するアポトーシスについて評価を行った。サンプル及び評価方法について、以下に詳述する。
【0067】
(アポトーシスアッセイ)
アポトーシス細胞(アポトーシスを起こした細胞)は、アネキシンV及び7-アミノアクチノマイシン(7-AAD)の二重染色及びフローサイトメトリーによって検出した。6ウェルプレートに、1ウェルあたり2×105細胞の密度で細胞を一晩播種した。COFナノコンポジットで24時間処理した後、付着した細胞と浮遊細胞を採取し、Guava Nexin試薬(アネキシンV-フィコエリスリン(Annexin V-Phycoerythrin)及び7-AADを含む既製のカクテル)と共に培養した。Guava PCAフローサイトメーター(Millipore社製)を使用してアポトーシスを分析した。試料ごとに少なくとも10,000個の細胞が検査された。アポトーシス細胞の割合は、FlowJoソフトウェア(Tree Star社製)によって決定した。
【0068】
(ウェスタンブロッティング)
全細胞抽出物は、プロテアーゼ阻害剤カクテルを補充したRIPAバッファー中で細胞を超音波処理することによって得られた。タンパク質濃度は、Pierce(商標)BCA Protein Assay Kitを使用して測定した。全ての試料を95℃で5分間加熱し、SDS-PAGEゲルに供した。タンパク質をPVDF膜に転写し、続いて室温で3%BSAで1時間ブロッキングした。一次抗体及び二次抗体をシグナル促進試薬溶液で希釈し、室温で1時間タンパク質と反応させた。各抗体反応後、膜をTBST(20mM Tris、pH7.5、150mM NaCl、0.1%[v/v] Tween 20)で3回洗浄した。次に、Gel Doc XR+システム(Bio-Rad社製)を使用して、タンパク質の免疫反応性のバンドを検出した。画像の明るさ及びコントラストを調整し、ImageJソフトウェアを使用してバンド強度を定量化した。
【0069】
図13(a)にFATD-WA処理HeLa細胞におけるアポトーシス細胞集団の増加を示すフローサイトメトリー分析を示す。
図13(b)には3つの生物学的に独立した実験からの定量を示す。データは平均±s.d.として表し、テューキーの多重比較検定による一次元配置分散分析を使用して、アポトーシス細胞の総数の有意差を計算したものを示す。
図13(c)にFATD-WA処理HeLa細胞における切断PARP-1及びカスパーゼ-3の発現により強い増加を示すアポトーシス分子マーカーのウェスタンブロッティングを示す。Bcl2及びBcl-xLは、処理後にダウンレギュレーションされたことが分かった。
図13(d)に、ナノコンポジット処理後のKi-67及びBcl2のレベルより強い低下、及び切断カスパーゼ3より大きい増加を示すHeLa細胞の免疫染色であり、相対平均蛍光強度(MFI)の定量を示す。データは平均±s.d.として表し、N=3つの独立した生物学的実験とし、P値はテューキーの多重比較検定を使用した一元配置分散分析によって計算した。全ての実験に使用した細胞は、等量のTD-WA又はFATD-WAナノ複合体(2μg/mLのnCOF、1μg/mLのWAに相当)で24時間処理した。
【0070】
<9.統計分析>
上述の結果は、少なくとも3回の独立した実験の平均±標準偏差(s.d.)として表したものである。各実験の一群あたりの試料数は、対応する図の凡例に「N」として示す。複数の比較には分散分析(ANOVA)を使用し、二群間比較にはスチューデントのt検定を使用した。P値は、ログランク検定によって決定した。全ての統計分析は、GraphPad Prism 8.0を使用して実行した。
本開示によれば、少なくとも薬剤分子の担持能力と水分散性を向上させることが可能となる。本開示に係るドラッグデリバリープラットフォーム化合物は各種薬剤分子を効率的に充填させることができ、特に様々な範囲の抗がん剤分子の癌細胞への送達を増加させることが可能である。