(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026203
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】信号処理方法、放射線検出装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/17 20060101AFI20230216BHJP
G01T 1/24 20060101ALI20230216BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20230216BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G01T1/17 H
G01T1/24
G01T1/36 D
G01N23/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131965
(22)【出願日】2021-08-13
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 駿介
(72)【発明者】
【氏名】ヴァリーエヴ イルダール
(72)【発明者】
【氏名】松永 大輔
【テーマコード(参考)】
2G001
2G188
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001DA01
2G001EA03
2G001FA19
2G188BB02
2G188BB05
2G188BB15
2G188CC28
2G188DD13
2G188EE25
(57)【要約】
【課題】放射線検出の精度の低下を十分に抑制することができる信号処理方法、放射線検出装置及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】半導体部と、半導体部へ入射した放射線によって半導体部内に発生する電荷を収集する単一の第1電極と、電圧を印加されることによって半導体部内に電荷を第1電極に集中させるための電界を発生させる第2電極と、第1電極が収集した電荷の量に応じた波高を有する階段波を含んだ信号を出力する信号出力部とを用い、信号出力部が出力した信号を処理する方法において、半導体部は、電界の強度が他の領域よりも低くなる特異領域を有しており、階段波の形状に基づいて、階段波が特異領域で発生した電荷に起因するか否かを判定し、階段波が特異領域で発生した電荷に起因しない場合に、階段波を波高別にカウントし、階段波が特異領域で発生した電荷に起因する場合に、階段波をカウントしない。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体部と、前記半導体部に設けてあり、前記半導体部へ入射した放射線によって前記半導体部内に発生する電荷を収集する単一の第1電極と、前記半導体部に設けてあり、電圧を印加されることによって前記半導体部内に前記電荷を前記第1電極に集中させるための電界を発生させる第2電極と、前記第1電極が収集した電荷の量に応じた波高を有する階段波を含んだ信号を出力する信号出力部とを用い、前記信号出力部が出力した信号を処理する方法において、
前記半導体部は、前記電界の強度が他の領域よりも低くなる特異領域を有しており、
前記階段波の形状に基づいて、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因するか否かを判定し、
前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因しない場合に、前記階段波を波高別にカウントし、
前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因する場合に、前記階段波をカウントしない
ことを特徴とする信号処理方法。
【請求項2】
前記階段波が継続する時間の長さに対応する特徴量に基づいて、予め定められている閾値を境界として、前記特徴量に対応する時間の長さが長い場合に、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因すると判定し、
前記閾値は、前記階段波の波高の増加に対して、前記閾値に対応する時間の長さが単調に増加するように、波高別に定められている
ことを特徴とする請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項3】
前記階段波が継続する時間の長さに対応する特徴量を計測し、
前記階段波の波高の増加に対して、補正後の前記特徴量に対応する時間の長さが単調に減少するように、前記階段波の波高に応じて補正し、補正した前記特徴量に基づいて、予め定められている一定の閾値を境界として、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因すると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項4】
前記特徴量は、前記階段波の時間幅である
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の信号処理方法。
【請求項5】
前記特徴量は、前記階段波の傾きの最大値である
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の信号処理方法。
【請求項6】
前記特徴量は、前記階段波の微分値が所定の基準値になる時点での前記階段波の二階微分の値である
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の信号処理方法。
【請求項7】
放射線検出素子と、前記放射線検出素子へ入射した放射線に応じた信号を出力する信号出力部と、該信号出力部が出力した信号を処理する信号処理装置とを備える放射線検出装置において、
前記放射線検出素子は、半導体部と、前記半導体部に設けてあり、前記半導体部へ入射した放射線によって前記半導体部内に発生する電荷を収集する単一の第1電極と、前記半導体部に設けてあり、電圧を印加されることによって前記半導体部内に前記電荷を前記第1電極に集中させるための電界を発生させる第2電極とを有し、
前記信号出力部は、前記第1電極が収集した電荷の量に応じた波高を有する階段波を含んだ信号を出力し、
前記半導体部は、前記電界の強度が他の領域よりも低くなる特異領域を有し、
前記信号処理装置は、前記階段波の形状に基づいて、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因するか否かを判定し、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因しない場合に、前記階段波を波高別にカウントし、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因する場合に、前記階段波をカウントしない
ことを特徴とする放射線検出装置。
【請求項8】
前記半導体部へ入射する放射線の一部を遮蔽するコリメータを備えていない
ことを特徴とする請求項7に記載の放射線検出装置。
【請求項9】
試料へ放射線を照射する照射部と、
前記信号処理装置がカウントしたカウント数と波高との関係を表した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、
前記スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部と
を更に備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の放射線検出装置。
【請求項10】
半導体部と、前記半導体部に設けてあり、前記半導体部へ入射した放射線によって前記半導体部内に発生する電荷を収集する単一の第1電極と、前記半導体部に設けてあり、電圧を印加されることによって前記半導体部内に前記電荷を前記第1電極に集中させるための電界を発生させる第2電極と、前記第1電極が収集した電荷の量に応じた波高を有する階段波を含んだ信号を出力する信号出力部とを用いて出力された信号を、コンピュータに処理させるコンピュータプログラムであって、
前記階段波の形状に基づいて、前記階段波が、前記半導体部の中で前記電界の強度が他の領域よりも低くなる特異領域で発生した電荷に起因しないと判定されている場合に、前記階段波を波高別にカウントし、
前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因すると判定されている場合に、前記階段波を波高別にカウントせず、
前記階段波をカウントしたカウント数と波高との関係を表した放射線のスペクトルを生成する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の検出によって発生する信号を処理するための信号処理方法、放射線検出装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線等の放射線を検出する放射線検出器には、半導体を用いた放射線検出素子を備えたものがある。半導体を用いた放射線検出素子は、平板状の半導体部を備える。半導部体には、信号出力用の第1電極と、第1電極の裏側に配置された電圧印加用の第2電極とが設けられている。電圧が印加されることにより、第1電極と第2電極との間に電界が発生する。半導体部に放射線が入射した場合、放射線のエネルギーに応じた数の電子-正孔対が発生し、電子と正孔とは夫々に電界に従って移動し、電子が第1電極に集められ、電子の電荷量に応じた信号が第1電極から出力される。電荷量は放射線のエネルギーに対応しており、第1電極は放射線のエネルギーに応じた信号を出力する。特許文献1には、複数の第1電極及び第2電極を備えた放射線検出素子が開示されている。
【0003】
単一の第1電極を備えた放射線検出素子では、半導体部には、電界強度が高い部分と低い部分とが存在する。例えば、第1電極は半導体部の一面の中央に設けられており、半導体部の外縁に近い部分は、第1電極から遠く、電界強度が低くなっている。電界強度が低い部分に放射線が入射した場合、発生した電子が広がり、電子が第1電極に集まるまでに時間がかかる。また、全ての電子が集まりきらず、電荷量が減少し、放射線のエネルギーが過小に検出されることがある。このため、放射線検出の精度が低下する。
【0004】
従来、放射線検出器は、コリメータを備える。コリメータは、半導体部の電界強度が低い部分へ入射しようとする放射線を遮断し、半導体部の電界強度が高い部分へ入射する放射線を通過させる。コリメータによって、半導体部の電界強度が低い部分へ放射線が入射することが防止され、放射線検出の精度の低下が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高いエネルギーを有する放射線は、コリメータを透過することがある。コリメータを透過した放射線は、半導体部の電界強度が低い部分へ入射し、放射線検出の精度が低下する。このため、従来の放射線検出器では、放射線検出の精度の低下の抑制が不十分であった。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、放射線検出の精度の低下を十分に抑制することができる信号処理方法、放射線検出装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る信号処理方法は、半導体部と、前記半導体部に設けてあり、前記半導体部へ入射した放射線によって前記半導体部内に発生する電荷を収集する単一の第1電極と、前記半導体部に設けてあり、電圧を印加されることによって前記半導体部内に前記電荷を前記第1電極に集中させるための電界を発生させる第2電極と、前記第1電極が収集した電荷の量に応じた波高を有する階段波を含んだ信号を出力する信号出力部とを用い、前記信号出力部が出力した信号を処理する方法において、前記半導体部は、前記電界の強度が他の領域よりも低くなる特異領域を有しており、前記階段波の形状に基づいて、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因するか否かを判定し、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因しない場合に、前記階段波を波高別にカウントし、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因する場合に、前記階段波をカウントしないことを特徴とする。
【0009】
本発明の一形態においては、半導体部へ入射した放射線によって発生する電荷を単一の第1電極で収集し、第2電極に電圧を印加されることによって半導体部内に電界が発生し、電界によって電荷が第1電極に集中し、電荷の量に応じた波高を有する階段波を含んだ信号が信号出力部から出力される。半導体部は、電界の強度が他の領域よりも低くなる特異領域を有している。階段波の形状に基づいて、階段波が特異領域で発生した電荷に起因するか否かが判定される。階段波が特異領域で発生した電荷に起因しない場合に、階段波が波高別にカウントされ、階段波が特異領域で発生した電荷に起因する場合には、階段波はカウントされない。特異領域では、電界の強度が低いので、放射線によって発生した電荷は拡散し、第1電極が収集する電荷の量は減少する。電荷量は放射線のエネルギーに対応し、電荷量が減少することによって放射線のエネルギーが過小に検出される。特異領域で発生した電荷に起因する階段波をカウントしないことによって、放射線のエネルギーが過小に検出されることが防止される。
【0010】
本発明に係る信号処理方法は、予め定められている閾値を境界として、前記特徴量に対応する時間の長さが長い場合に、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因すると判定し、前記閾値は、前記階段波の波高の増加に対して、前記閾値に対応する時間の長さが単調に増加するように、波高別に定められていることを特徴とする。
【0011】
本発明の一形態においては、階段波が継続する時間の長さに対応する特徴量に基づいて、予め定められている閾値を境界として、特徴量に対応する時間の長さが長い場合に、階段波が特異領域で発生した電荷に起因すると判定される。階段波の波高の増加に対して、閾値に対応する時間の長さが単調に増加するように、閾値が波高別に定められている。階段波の波高は放射線のエネルギーに対応する。半導体部へ入射する放射線のエネルギーが大きいほど、電荷が広い領域に広がり易く、階段波が継続する時間はより長くなる。閾値が前述のように定められていることによって、階段波が特異領域で発生した電荷に起因するか否かの判定が正確に行われる。
【0012】
本発明に係る信号処理方法は、前記階段波が継続する時間の長さに対応する特徴量を計測し、前記階段波の波高の増加に対して、補正後の前記特徴量に対応する時間の長さが単調に減少するように、前記階段波の波高に応じて補正し、補正した前記特徴量に基づいて、予め定められている一定の閾値を境界として、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因すると判定することを特徴とする。
【0013】
本発明の一形態においては、階段波が継続する時間の長さに対応する特徴量が計測され、階段波の波高に応じて特徴量が補正され、一定の閾値を境界として、補正後の特徴量に対応する時間の長さが長い場合に、階段波が特異領域で発生した電荷に起因すると判定される。特徴量は、階段波の波高の増加に対して、特徴量に対応する時間の長さが単調に減少するように、補正される。半導体部へ入射する放射線のエネルギーが大きいほど、階段波が継続する時間はより長くなるので、特徴量が前述のように補正されることによって、階段波が特異領域で発生した電荷に起因するか否かの判定が正確に行われる。
【0014】
本発明に係る信号処理方法は、前記特徴量は、前記階段波の時間幅であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一形態においては、階段波の特徴量は、階段波の時間幅である。時間幅は、階段波が継続する時間の長さに対応する。時間幅が長い場合に、階段波が特異領域で発生した電荷に起因すると判定される。
【0016】
本発明に係る信号処理方法は、前記特徴量は、前記階段波の傾きの最大値であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一形態においては、階段波の特徴量は、階段波の傾きの最大値である。階段波の傾きの最大値は、階段波の時間幅が長いほど小さく、階段波の時間幅が短いほど大きい。このため、階段波の傾きの最大値は、階段波が継続する時間に対応する。階段波の傾きの最大値が小さい場合に、階段波が特異領域で発生した電荷に起因すると判定される。
【0018】
本発明に係る信号処理方法では、前記特徴量は、前記階段波の微分値が所定の基準値になる時点での前記階段波の二階微分の値であることを特徴とする。
【0019】
本発明の一形態においては、階段波の特徴量は、階段波の微分値が所定の基準値になる時点での二階微分の値である。放射線によって発生した電荷が第1電極へ流入するために必要な時間が長い場合は、階段波の微分波形は緩やかに立ち上がり、微分波形の立ち上がりの傾きは小さくなる。逆に、電荷が第1電極へ流入するために必要な時間が短い場合は、階段波の微分波形は急峻に立ち上がり、微分波形の立ち上がりの傾きは大きくなる。このため、階段波の微分波形の立ち上がりの傾きは、階段波が継続する時間に対応する。微分波形の立ち上がりの傾きは、階段波の微分値が所定の基準値となる時点での二階微分の値である。階段波の微分値が基準値となる時点での二階微分の値が小さい場合に、階段波が特異領域で発生した電荷に起因すると判定される。
【0020】
本発明に係る放射線検出装置は、放射線検出素子と、前記放射線検出素子へ入射した放射線に応じた信号を出力する信号出力部と、該信号出力部が出力した信号を処理する信号処理装置とを備える放射線検出装置において、前記放射線検出素子は、半導体部と、前記半導体部に設けてあり、前記半導体部へ入射した放射線によって前記半導体部内に発生する電荷を収集する単一の第1電極と、前記半導体部に設けてあり、電圧を印加されることによって前記半導体部内に前記電荷を前記第1電極に集中させるための電界を発生させる第2電極とを有し、前記信号出力部は、前記第1電極が収集した電荷の量に応じた波高を有する階段波を含んだ信号を出力し、前記半導体部は、前記電界の強度が他の領域よりも低くなる特異領域を有し、前記信号処理装置は、前記階段波の形状に基づいて、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因するか否かを判定し、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因しない場合に、前記階段波を波高別にカウントし、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因する場合に、前記階段波をカウントしないことを特徴とする。
【0021】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、半導体部、単一の第1電極、及び第2電極を有する放射線検出素子と、信号出力部と、信号処理装置とを備える。信号処理装置は、階段波が特異領域で発生した電荷に起因するか否かを判定し、階段波が特異領域で発生した電荷に起因しない場合に、階段波を波高別にカウントし、階段波が特異領域で発生した電荷に起因する場合に、階段波をカウントしない。このように、放射線検出装置は、エネルギーが過小に検出される放射線をカウントしないことにより、放射線のエネルギーを過小に検出することを防止する。
【0022】
本発明に係る放射線検出装置は、前記半導体部へ入射する放射線の一部を遮蔽するコリメータを備えていないことを特徴とする。
【0023】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、コリメータを備えていない。コリメータを用いずとも、放射線のエネルギーが過小に検出されることが防止され、放射線検出の精度の低下が抑制される。
【0024】
本発明に係る放射線検出装置は、試料へ放射線を照射する照射部と、前記信号処理装置がカウントしたカウント数と波高との関係を表した放射線のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、前記スペクトル生成部が生成したスペクトルを表示する表示部とを更に備えることを特徴とする。
【0025】
本発明の一形態においては、放射線検出装置は、放射線のスペクトルを生成する。エネルギーがほぼ正確に検出された放射線のスペクトルが生成され、表示部に表示される。
【0026】
本発明に係るコンピュータプログラムは、半導体部と、前記半導体部に設けてあり、前記半導体部へ入射した放射線によって前記半導体部内に発生する電荷を収集する単一の第1電極と、前記半導体部に設けてあり、電圧を印加されることによって前記半導体部内に前記電荷を前記第1電極に集中させるための電界を発生させる第2電極と、前記第1電極が収集した電荷の量に応じた波高を有する階段波を含んだ信号を出力する信号出力部とを用いて出力された信号を、コンピュータに処理させるコンピュータプログラムであって、前記階段波の形状に基づいて、前記階段波が、前記半導体部の中で前記電界の強度が他の領域よりも低くなる特異領域で発生した電荷に起因しないと判定されている場合に、前記階段波を波高別にカウントし、前記階段波が前記特異領域で発生した電荷に起因すると判定されている場合に、前記階段波を波高別にカウントせず、前記階段波をカウントしたカウント数と波高との関係を表した放射線のスペクトルを生成する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0027】
本発明の一形態においては、コンピュータプログラムに従ったコンピュータによって、特異領域で発生した電荷に起因しない階段波を波高別にカウントし、特異領域で発生した電荷に起因する階段波をカウントせず、放射線のスペクトルを生成する。信号処理装置が階段波をカウントせず、コンピュータが階段波をカウントすることによっても、エネルギーがほぼ正確に検出された放射線のスペクトルが生成される。
【発明の効果】
【0028】
本発明にあっては、放射線のエネルギーが過小に検出されることを防止することによって、放射線検出の精度の低下を十分に抑制することができる等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】放射線検出装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図2】放射線検出素子の例を示す模式的断面図である。
【
図3】放射線検出器の構成例を示す模式的断面図である。
【
図4】半導体部の内部の電界強度を模式的に示すグラフである。
【
図5】放射線検出器及び実施形態1に係る信号処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図6】階段波を含む信号の例を示す模式的グラフである。
【
図7】継続する時間が長い階段波の例を示す模式的グラフである。
【
図8】特徴量を説明するための階段波及びその微分波形の例を示す模式的グラフである。
【
図9】分析装置の内部の構成例を示すブロック図である。
【
図10】実施形態1に係る信号処理装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図11】放射線検出器及び実施形態2に係る信号処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図12】実施形態2に係る信号処理装置及び分析装置が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
<実施形態1>
図1は、放射線検出装置10の機能構成例を示すブロック図である。放射線検出装置10は、例えば蛍光X線分析装置である。放射線検出装置10は、試料62に電子線又はX線等の放射線を照射する照射部54と、試料62が載置される試料台61と、放射線検出器2とを備えている。照射部54から試料62へ放射線が照射され、試料62では蛍光X線等の放射線が発生し、放射線検出器2は試料62から発生した放射線を検出する。図中には、放射線を矢印で示している。なお、放射線検出装置10は、試料台61に載置させる方法以外の方法で試料62を保持する形態であってもよい。
【0031】
放射線検出器2には、放射線検出素子1及びプリアンプ21が含まれている。放射線検出器2には、信号処理装置3と、放射線検出素子1に放射線検出のために必要な電圧を印加する電圧印加部51とが接続されている。信号処理装置3には、分析装置4が接続されている。信号処理装置3、分析装置4、電圧印加部51及び照射部54は、制御部52に接続されている。制御部52は、信号処理装置3、分析装置4、電圧印加部51及び照射部54の動作を制御する。分析装置4には、液晶ディスプレイ又はELディスプレイ(Electroluminescent Display)等の表示部53が接続されている。制御部52は、使用者の操作を受け付け、受け付けた操作に応じて放射線検出装置10の各部を制御する構成であってもよい。
【0032】
図2は、放射線検出素子1の例を示す模式的断面図である。放射線検出素子1は、シリコンドリフト型放射線検出素子である。放射線検出素子1は、全体的に平板状である。放射線検出素子1は、Si(シリコン)からなる円板状の半導体部11を備えている。半導体部11の成分はn型のSiである。半導体部11は、第1面111と、第1面111の裏側に位置する第2面112とを有する。第2面112は、検出対象の放射線が入射する入射側に位置する面である。
【0033】
第1面111の中央には、放射線検出時に信号を出力する電極である第1電極12が設けられている。第1電極12の数は単一である。第1電極12の成分は、半導体部11と同じ型のSiである。例えば、第1電極12の成分は、リン等の特定のドーパントがSiにドープされたn+Siである。また、第1面111には、多重のリング状になった複数の曲線状電極14が設けられている。曲線状電極14の成分は、半導体部11とは異なる型の半導体であり、ホウ素等の特定のドーパントがSiにドープされたp型のSiである。例えば、曲線状電極14の成分は、p+Siである。リング状に配置された複数の曲線状電極14はほぼ同心であり、複数の曲線状電極14のほぼ中心に第1電極12が位置している。即ち、複数の曲線状電極14は第1電極12を囲んでおり、第1電極12と夫々の曲線状電極14との間の距離は異なる。
【0034】
図2には五つの曲線状電極14を示しているが、より多くの曲線状電極14が設けられていてもよい。なお、曲線状電極14の形状は円環が変形した形状であってもよく、多重の曲線状電極14は同心でなくともよい。また、第1電極12は、多重の曲線状電極14の中心以外の位置に配置されていてもよく、第1面111の中央以外の位置に配置されていてもよい。
【0035】
複数の曲線状電極14の外側には、環状の防護電極151が設けられており、防護電極151の外側には、環状の接地電極152が設けられている。接地電極152は、接地電位に接続される。防護電極151の電位は浮遊電位である。防護電極151は、曲線状電極14と接地電極152との間の絶縁破壊を防止する。
図2には、単一の防護電極151を示しているが、実際には、多重の環状になった複数の防護電極151が設けられている。
【0036】
第2面112には、電圧が印加される電極である第2電極13が形成されている。第2電極13は、Siを半導体部11の成分とは異なる型の半導体にするドーパントがドープされている。第2電極13の成分は、ホウ素等の特定のドーパントがSiにドープされたp型のSiであり、例えば、p+Siである。第2電極13は、第2面112の中央を含む第2面112の大半の領域に形成されている。
【0037】
第2電極13の外側には、環状の防護電極16が設けられている。防護電極16の電位は浮遊電位である。
図2には、単一の防護電極16を示しているが、実際には、多重の環状になった複数の防護電極16が設けられている。防護電極16は、半導体部11の縁と第2電極13との間の絶縁破壊を防止する。なお、放射線検出素子1は、第1面111側に接地電極152を備えておらず、第2面112側に接地電極を備える形態であってもよい。即ち、接地電極152が設けられておらず、防護電極16の外側に接地電極が設けられていてもよい。この形態では、防護電極16は、第2電極13と接地電極との間の絶縁破壊を防止する。放射線検出素子1は、第1面111側及び第2面112側の両方に接地電極を備える形態であってもよい。
【0038】
複数の曲線状電極14は、電圧印加部51に接続されている。電圧印加部51は、最も内側の曲線状電極14の電位が最も高く、最も外側の曲線状電極14の電位が最も低くなるように、曲線状電極14に電圧を印加する。また、放射線検出素子1は、第1電極12からの距離が互いに異なり隣接する曲線状電極14の間に、所定の電気抵抗が発生するように構成されている。例えば、隣接する曲線状電極14の間に位置する部分の成分を調整することで、二つの曲線状電極14が接続される電気抵抗チャネルが形成されている。即ち、複数の曲線状電極14は、電気抵抗を介して数珠つなぎに接続されている。電圧印加部51から電圧が印加されることによって、夫々の曲線状電極14は、外側の曲線状電極14から内側の曲線状電極14に向けて順々に単調に増加する電位を有する。即ち、曲線状電極14の電位は、第1電極12に遠い曲線状電極14から第1電極12に近い曲線状電極14へ向けて順々に増加する。なお、複数の曲線状電極14の中に、電位が同じ隣接する一対の曲線状電極14が含まれていてもよい。
【0039】
複数の曲線状電極14の電位によって、半導体部11内には、段階的に第1電極12に近いほど電位が高く第1電極12から遠いほど電位が低くなる電界(電位勾配)が生成される。また、第2電極13は、電圧印加部51に接続されている。電圧印加部51は、第2電極13の電位が最も内側の曲線状電極14と最も外側の曲線状電極14との間の電位になるように、第2電極13に電圧を印加する。このように、半導体部11の内部には、第1電極12に近づくほど電位が高くなる電界が生成される。
【0040】
X線、光子一般(UV及び可視光を含む)、電子線又は他の荷電粒子線等の放射線は、放射線検出素子1へ入射する。放射線は、主に第2面112の側から半導体部11内へ入射する。半導体部11内で吸収された放射線のエネルギーに応じた量の電荷が、半導体部11内に発生する。発生する電荷は電子及び正孔である。発生した電荷は、半導体部11の内部の電界によって移動し、一方の種類の電荷は、第1電極12へ集中して流入する。本実施形態では、放射線の入射によって発生した電子が移動し、第1電極12へ流入する。このようにして、第1電極12は、半導体部11へ入射した放射線によって半導体部11内に発生する電子を収集する。第1電極12へ流入した電子の電荷量に応じた電流信号が、第1電極12から出力される。
【0041】
第1電極12には、プリアンプ21が接続されている。第1電極12が出力した信号はプリアンプ21へ入力される。プリアンプ21は、電流信号を電圧信号へ変換し、電圧信号を出力する。プリアンプ21が出力する信号は、第1電極12が収集した電子の電荷量に応じた強度を有する。放射線のエネルギーに応じた量の電子が発生し、第1電極12は発生した電子を収集するので、プリアンプ21は、放射線のエネルギーに応じた強度の信号を出力する。なお、プリアンプ21は、一部が放射線検出器2の内部に含まれており、他の部分が放射線検出器2の外部に配置されていてもよい。
【0042】
図3は、放射線検出器2の構成例を示す模式的断面図である。放射線検出器2は、SDD(Silicon Drift Detector)である。放射線検出器2は、円筒の一端に切頭錐体が連結した形状のハウジング23を備えている。ハウジング23は、板状の底板部にキャップ状のカバーが被さって構成されている。ハウジング23の先端には、放射線を透過させる窓材でなる窓24が設けられている。ハウジング23の内側には、放射線検出素子1、基板22、冷却部25、及びコールドフィンガ26が配置されている。ハウジング23は、放射線検出素子1、基板22及び冷却部25を収容している。冷却部25は例えばペルチェ素子である。
【0043】
放射線検出素子1は、基板22の表面に実装されており、窓24に対向する位置に配置されている。放射線検出素子1は、第1面111が基板22に対向し、第2面112が窓24に対向するように配置されている。基板22には、配線が形成され、プリアンプ21が実装されている。
図3では、プリアンプ21を省略している。基板22は、直接に又は介在物を介して、冷却部25の吸熱部分に熱的に接触している。冷却部25の放熱部分はコールドフィンガ26に熱的に接触している。コールドフィンガ26は、冷却部25の放熱部分が熱的に接触する平板状の部分と、ハウジング23の底板部を貫通している部分とを有している。放射線検出素子1の熱は、基板22を通じて冷却部25に吸熱され、冷却部25からコールドフィンガ26へ伝わり、コールドフィンガ26を通じて放射線検出器2の外部へ放熱される。
【0044】
なお、放射線検出器2は、コールドフィンガ26を備えていなくてもよく、冷却部25の放熱部分はハウジング23の底板部に熱的に接触していてもよい。放射線検出器2は、冷却部25を備えていない形態であってもよい。放射線検出器2は、窓材でなる窓24を有しておらず、ハウジング23の窓24に相当する部分が開口している形態であってもよい。或は、放射線検出器2は、ハウジング23を備えていない形態であってもよい。
【0045】
放射線検出器2は、ハウジング23の底板部を貫通した複数のリードピン27を備えている。リードピン27は、ワイヤボンディング等の方法で基板22に接続されている。電圧印加部51による放射線検出素子1への電圧の印加と、プリアンプ21からの信号の出力とはリードピン27を通じて行われる。なお、放射線検出器2は、その他の構成物を更に備えていてもよい。
【0046】
本実施形態では、放射線検出器2は、放射線検出素子1へ入射する放射線の一部を遮蔽するコリメータを備えていない。このため、放射線検出素子1が備える半導体部11の全体に放射線が入射し得る。
【0047】
図2に示すように、半導体部11は、主領域113と、特異領域114とを含んでいる。主領域113は、半導体部11の中心を含む半導体部11の大半を占めており、第1面111及び第2面112の中央を含んでいる。また、主領域113は、第1電極12が設けられている部分と、第2電極13及び曲線状電極14が設けられた部分の大部分を少なくとも含んでいる。特異領域114は、主領域113の周囲に位置しており、半導体部11の外縁に近い部分である。例えば、主領域113は円柱状であり、特異領域114は円筒状である。第1電極12から特異領域114までの距離は、第1電極12から主領域113までの距離よりも長い。半導体部11内の特異領域114以外の部分は、主領域113である。
【0048】
図4は、半導体部11の内部の電界強度を模式的に示すグラフである。図中の横軸は、第1面111に沿った方向の半導体部11の内部の位置を示す。図中に示した中央は、第1面111の中央と半導体部11の中心とを結んだ線上にある位置である。図中に示した外縁は、半導体部11の外縁の位置である。図中の縦軸は電界強度を示す。
図4には、第1面111に平行で中央を通る半導体部11内の直線上での電界強度を示している。中央を含む領域が主領域113であり、外縁に近い領域が特異領域114である。
【0049】
第1面111の中央は第1電極12が設けられている位置であり、中央に近いほど第1電極12に近い。中央に近い(第1電極12に近い)位置ほど、電界強度が高くなる。主領域113内では、電界強度は十分に高い。放射線の入射によって主領域113内で発生した電荷の中の電子(一方の種類の電荷)は、高い電界によって素早く第1電極12へ流入する。このため、第1電極12は発生した電子のほぼ全てを短時間で収集する。第1電極12が収集する電子の電荷量は放射線のエネルギーに対応しているので、主領域113へ入射した放射線のエネルギーは、ほぼ正確に検出される。
【0050】
特異領域114内の各部分から中央までの距離は、主領域113内の各部分から中央までの距離よりも長い。このため、特異領域114では、主領域113に比べて、電界強度が低くなる。特異領域114では、電界強度が低いので、放射線の入射によって発生した電子が第1電極12へ流入するために必要な時間が長くなる。また、電子は、第1電極12へ流入する前にある程度拡散する。拡散した電子の一部は、第1電極12へ流入できないことがある。電界強度が低いほど、電子はより広く拡散し、第1電極12へ流入できない電子の割合は増加する。このため、特異領域114への放射線の入射によって第1電極12が得る電荷量は、主領域113への放射線の入射によって第1電極12が得る電荷量に比べて、減少する。電荷量が減少することによって、電荷量に対応する放射線のエネルギーが過小に検出されることになる。本実施形態では、放射線のエネルギーが過小に検出されることを防止するための処理を行う。
【0051】
図5は、放射線検出器2及び実施形態1に係る信号処理装置3の機能構成を示すブロック図である。
図5では、信号の流れを矢印で示している。放射線検出素子1は、入射した放射線のエネルギーに応じた量の電子を第1電極12で収集し、収集した電子の電荷量に応じた電流信号を第1電極12から出力する。プリアンプ21は、放射線検出素子1が出力した電流信号を電圧信号へ変換し、放射線検出時に一段のステップ状に信号値が上昇する階段波を生成する。放射線検出器2は、プリアンプ21が生成した階段波を含む信号を出力する。プリアンプ21は、信号出力部に対応する。
【0052】
図6は、階段波を含む信号の例を示す模式的グラフである。図中の横軸は時間を示し、縦軸は信号値を示している。放射線検出素子1へ放射線が入射し、放射線検出素子1が放射線を検出するイベントが一つ発生する都度、放射線検出器2は、一段のステップ状に信号値が上昇する階段波を出力する。一つのイベントに応じて、信号値が一段のステップ状に上昇する一つの階段波が生成される。複数のイベントが発生した場合は、複数の階段波を含む信号が出力される。イベントが発生する都度、信号値は上昇していく。信号値が上昇するステップの高さを階段波の波高とする。階段波の波高は、一つのイベントによって第1電極12が収集した電子の電荷量に対応し、入射した放射線のエネルギーに対応する。放射線検出装置10は、階段波の波高に応じて放射線のエネルギーを決定する。
【0053】
図7は、継続する時間が長い階段波の例を示す模式的グラフである。図中の横軸は時間を示し、縦軸は信号値を示している。
図7には、
図6に示す階段波よりも継続する時間が長い階段波を示す。放射線によって発生した電子が第1電極12へ流入するために必要な時間が長い場合は、信号値がステップ状に上昇する時間が長くなり、階段波が継続する時間が長くなる。半導体部11内での電界強度が低いほど、放射線によって発生した電子が第1電極12へ流入するために必要な時間が長くなるので、階段波が継続する時間が長くなる。このため、放射線の入射によって特異領域114で発生した電荷(電子)に起因する階段波が継続する時間は、主領域113で発生した電荷に起因する階段波が継続する時間よりも、長くなる。例えば、
図6に示す階段波は、放射線の入射によって主領域113で発生した電荷に起因する階段波であり、
図7に示す階段波は、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波である。
【0054】
放射線検出器2が出力した信号は、信号処理装置3へ入力される。信号処理装置3は、信号処理方法を実行する。
図5に示すように、信号処理装置3は、A/D(アナログ/デジタル)変換部31を備えている。A/D変換部31は、放射線検出器2から階段波を含む信号を入力され、階段波を含む信号をA/D変換する。A/D変換部31は、連続的な信号が入力され、信号をサンプリングし、サンプリングによって得られた値をA/D変換することにより、離散的な信号値を生成する。A/D変換部31が出力する信号は、離散的な複数の信号値からなる。
【0055】
A/D変換部31には、台形整形部321と、微分部331とが接続されている。台形整形部321及び微分部331は、A/D変換部31から信号を入力される。A/D変換部31と台形整形部321及び微分部331との間には、信号遅延による波形の歪みを相殺するように信号を返還する変換部と、信号のノイズを除去するノイズ除去部とが接続されていてもよい。
【0056】
台形整形部321は、台形整形フィルタを用いて構成されている。台形整形部321は、入力された信号の波形を台形整形フィルタにより整形することにより、信号に含まれる階段波を台形波へ変換する。所定の信号基準から台形波の最大値までの高さを、台形波の波高とする。階段波を変換した台形波の波高は、階段波の波高に対応する。台形整形部321には、波高測定部322が接続されている。波高測定部322は、台形整形部321から信号を入力され、信号に含まれる台形波の波高を測定する。
【0057】
微分部331は、微分回路を用いて構成されている。微分部331は、微分の演算を行うプロセッサを用いて構成されていてもよい。微分部331は、入力された信号に含まれる隣接する二つの信号値の差分を計算することにより、信号を微分する。このようにして、微分部331は、信号に含まれる階段波を微分する。
【0058】
微分部331には、特徴量計測部332が接続されている。例えば、特徴量計測部332は、演算を行うプロセッサを用いて構成されている。特徴量計測部332は、階段波の微分から、階段波が継続する時間に対応する特徴量を計測する。特徴量計測部332は、階段波の特徴量として、階段波の時間幅、階段波の傾きの最大値、又は階段波の二階微分の値を計算する。
【0059】
図8は、特徴量を説明するための階段波及びその微分波形の例を示す模式的グラフである。上段に階段波からなる信号を示し、下段に微分信号を示す。図中の横軸は時間を示し、上段の縦軸は信号値を示し、下段の縦軸は微分値を示している。階段波の微分信号は、所定の信号基準から信号値がピーク値まで上昇し、その後信号基準まで下降する信号である。信号基準は例えばゼロである。微分信号の積分は階段波の波高になる。
図8に示すように、階段波の微分値が所定の基準値となる二つの時点の間の時間の長さを、階段波の時間幅と定義する。基準値は、予め定められている。階段波の時間幅は、階段波が継続する時間に対応し、階段波の形状に関係する量である。時間幅は、階段波によって異なり、階段波を特徴づける。放射線によって発生した電荷が第1電極12へ流入するために必要な時間が長い場合は、階段波が継続する時間が長くなり、時間幅が長くなる。従って、放射線の入射によって主領域113で発生した電荷に起因する階段波では、時間幅が短くなり、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波では、時間幅が長くなる。
【0060】
階段波の時間幅が長くなるほど、単位時間当たりの信号値の変化量が小さくなるので、階段波の傾きは小さくなる。逆に、階段波の時間幅が短くなるほど、階段波の傾きは大きくなる。特に、階段波の傾きの最大値は、階段波の時間幅が長いほど小さく、階段波の時間幅が短いほど大きい。このため、階段波の傾きの最大値は、階段波が継続する時間に対応し、階段波の形状に関係する量である。従って、階段波の傾きの最大値を特徴量として用いることができる。放射線の入射によって主領域113で発生した電荷に起因する階段波では、階段波の傾きの最大値が大きくなり、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波では、階段波の傾きの最大値が小さくなる。階段波の傾きの最大値は、階段波の微分の最大値を計測することにより、得ることができる。
【0061】
放射線によって発生した電荷が第1電極12へ流入するために必要な時間が長い場合は、階段波の微分波形は緩やかに立ち上がり、階段波が継続する時間は長くなり、微分波形の立ち上がりの傾きは小さくなる。微分波形の傾きが小さくなる。逆に、電荷が第1電極12へ流入するために必要な時間が短い場合は、階段波の微分波形は急峻に立ち上がり、階段波が継続する時間は短くなり、微分波形の立ち上がりの傾きは大きくなる。このため、階段波の微分波形の立ち上がりの傾きは、階段波が継続する時間に対応し、階段波の形状に関係する量である。階段波の微分波形の立ち上がりの傾きは、階段波の微分値が所定の基準値となる時点での微分波形に対する接線の傾きであり、この時点での階段波の二階微分の値である。基準値は、階段波の微分波形の立ち上がりの一時点を指定するための値である。基準値は一定値であってもよい。基準値は、階段波の時間幅を定義するための基準値と同一であってもよく、異なっていてもよい。又は、基準値は、階段波の微分値の最大値の1/10の値等、階段波の微分値の最大値に対する所定割合の値であってもよい。階段波の微分値が所定の基準値となる時点での階段波の二階微分の値を、特徴量として用いることができる。放射線の入射によって主領域113で発生した電荷に起因する階段波では、微分値が基準値となる時点での二階微分の値は大きくなり、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波では、微分値が基準値となる時点での二階微分の値は小さくなる。
【0062】
特徴量計測部332は、微分部331から信号を入力され、信号に含まれる階段波の微分波形から、階段波の特徴量を計算する。例えば、特徴量計測部332は、微分値が所定の閾値となる二つの時点の間の時間の長さを計測することにより、特徴量として、階段波の時間幅を計算する。例えば、特徴量計測部332は、微分値の最大値を計測することにより、特徴量として、階段波の傾きの最大値を計算する。例えば、特徴量計測部332は、特徴量として、階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値を計算する。
【0063】
波高測定部322及び特徴量計測部332には、処理部34が接続されている。処理部34は、演算を行う素子を用いて構成されている。例えば、処理部34は、FPGA(field-programmable gate array )を用いて構成されている。処理部34は、波高測定部322から波高を入力され、特徴量計測部332から階段波の特徴量を入力される。処理部34は、特徴量計測部332が計算した階段波の特徴量に基づいて、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する。特徴量に基づいた判定により、階段波の形状に基づいた判定が行われる。
【0064】
例えば、処理部34は、階段波の時間幅が所定の閾値よりも大きい場合に、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因すると判定し、階段波の時間幅が所定の閾値以下である場合に、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しないと判定する。閾値は、主領域113で発生した電荷に起因する階段波の特徴量と、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波の特徴量との境界である。特異領域114で発生した電荷に起因しない階段波は、主領域113で発生した電荷に起因する階段波である。なお、処理部34は、階段波の時間幅が閾値以上である場合に階段波が特異領域114で発生した電荷に起因すると判定し、階段波の時間幅が閾値未満である場合に階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しないと判定してもよい。
【0065】
例えば、処理部34は、階段波の傾きの最大値が所定の閾値未満である場合に、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因すると判定し、階段波の傾きの最大値が閾値以上である場合に、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しないと判定する。処理部34は、階段波の傾きの最大値が閾値以下である場合に階段波が特異領域114で発生した電荷に起因すると判定し、階段波の傾きの最大値が閾値より大きい場合に階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しないと判定してもよい。
【0066】
例えば、処理部34は、階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値が所定の閾値未満である場合に、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因すると判定し、階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値二階微分の最大値が閾値以上である場合に、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しないと判定する。処理部34は、階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値が閾値以下である場合に階段波が特異領域114で発生した電荷に起因すると判定し、階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値が閾値より大きい場合に階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しないと判定してもよい。
【0067】
特徴量の閾値は、波高別に予め定められている。半導体部11へ入射する放射線のエネルギーが大きいほど、発生する電荷が多く、電子が広い領域に広がり易い。このため、電子が第1電極12へ流入するために必要な時間がより長くなり、階段波が継続する時間はより長くなる。主領域113で発生した電荷に起因する階段波であっても、入射した放射線のエネルギーが大きいほど、階段波が継続する時間は長くなる。放射線のエネルギーが大きいほど、階段波の波高は大きくなり、階段波が継続する時間は長くなる。特徴量の閾値は、階段波の波高の増加に対して、閾値に対応する階段波の時間の長さが単調に増加するように、波高別に定められている。
【0068】
例えば、階段波の時間幅の閾値は、階段波の波高の増加に対して単調に増加するように、波高別に定められている。例えば、階段波の傾きの最大値の閾値は、階段波の波高の増加に対して単調に減少するように、波高別に定められている。例えば、階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値についての閾値は、階段波の波高の増加に対して単調に減少するように、波高別に定められている。閾値がこのように定められているので、放射線のエネルギーが大きいときに、主領域113で発生した電荷に起因する階段波は、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波であると誤って判定されることが無い。このため、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かの判定が正確に行われる。
【0069】
処理部34は、複数の波高の夫々に関連付けて、予め定められた特徴量の閾値を予め記憶している。処理部34は、波高測定部322が測定した波高に関連付けられた閾値を読み出し、読み出した閾値と特徴量計測部332が計算した階段波の特徴量とを比較して、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する。
【0070】
なお、処理部34は、特徴量の閾値を一定とし、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する際に、階段波の波高に応じて特徴量を補正する形態であってもよい。この形態では、処理部34は、階段波の波高の増加に対して、閾値に対応する階段波の時間の長さが単調に減少するように、特徴量を補正する。例えば、処理部34は、階段波の時間幅の閾値として定数を記憶しており、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する際に、階段波の波高の増加に対して単調に増加するように階段波の時間幅を補正する。処理部34は、閾値と補正後の時間幅とを比較することにより、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する。
【0071】
例えば、処理部34は、階段波の傾きの最大値の閾値として定数を記憶しており、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する際に、階段波の波高の増加に対して単調に増加するように階段波の傾きの最大値を補正する。処理部34は、閾値と補正後の傾きの最大値とを比較することにより、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する。例えば、処理部34は、階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値についての閾値として、定数を記憶しており、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する際に、階段波の波高の増加に対して単調に増加するように、階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値を補正する。処理部34は、閾値と補正後の二階微分の値とを比較することにより、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する。
【0072】
このように、閾値を一定とし、階段波の波高に応じて特徴量を補正する形態でも、放射線のエネルギーが大きいときに、主領域113で発生した電荷に起因する階段波は、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波であると誤って判定されることが無い。このため、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かの判定が正確に行われる。
【0073】
処理部34には、カウント部35が接続されている。カウント部35は、波高別に階段波をカウントする。例えば、カウント部35は、マルチチャネルアナライザである。カウント部35は、全ての波高についてパルス波をカウントする形態であってもよく、又は特定の波高についてのみパルス波をカウントする形態であってもよい。
【0074】
階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しない場合、即ち、階段波が主領域113で発生した電荷に起因する場合に、処理部34は、波高測定部322が測定した波高について+1のカウントを行うように、指示をカウント部35へ入力する。カウント部35は、入力された指示に従って、波高測定部322が測定した波高について、カウントを行う。このようにして、カウント部35は、特異領域114で発生した電荷に起因しない階段波をカウントする。階段波が特異領域114で発生した電荷に起因する場合、処理部34は、カウントのための指示をカウント部35へ入力しない。これにより、カウント部35は、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波をカウントしない。
【0075】
信号処理装置3は、階段波の波高とカウント部35がカウントしたカウント数との関係を示すデータを出力する。カウント数は、階段波の波高に対応するエネルギーを有する放射線を放射線検出器2が検出した回数に対応する。
【0076】
図9は、分析装置4の内部の構成例を示すブロック図である。分析装置4は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータである。分析装置4は、演算部41と、メモリ42と、ドライブ部43と、記憶部44と、操作部45とを備えている。また、分析装置4は、表示部53及び信号処理装置3に接続されている。演算部41は、例えばCPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit)、又はマルチコアCPUを用いて構成されている。演算部41は、量子コンピュータを用いて構成されていてもよい。メモリ42は、演算に伴って発生する一時的なデータを記憶する。メモリ42は、例えばRAM(Random Access Memory)である。ドライブ部43は、光ディスク又は可搬型メモリ等の記録媒体40から情報を読み取る。
【0077】
記憶部44は、不揮発性であり、例えばハードディスク又は不揮発性半導体メモリである。操作部45は、ユーザからの操作を受け付けることにより、テキスト等の情報の入力を受け付ける。操作部45は、例えばタッチパネル、キーボード又はポインティングデバイスである。
【0078】
演算部41は、記録媒体40に記録されたコンピュータプログラム441をドライブ部43に読み取らせ、読み取ったコンピュータプログラム441を記憶部44に記憶させる。演算部41は、コンピュータプログラム441に従って、分析装置4に必要な処理を実行する。なお、コンピュータプログラム441は、分析装置4の外部からダウンロードされてもよい。又は、コンピュータプログラム441は、記憶部44に予め記憶されていてもよい。これらの場合は、分析装置4はドライブ部43を備えていなくてもよい。なお、分析装置4は、複数のコンピュータで構成されていてもよい。或は、制御部52及び分析装置4は同一のコンピュータで構成されていてもよい。
【0079】
分析装置4は、信号処理装置3が出力したデータを入力される。分析装置4は、階段波の波高とカウント数との関係から、放射線検出器2が検出した放射線のスペクトルを生成する処理を行う。スペクトルは、波高に対応する放射線のエネルギーとカウント数とをの関係を表す。演算部41は、コンピュータプログラム441に従って、必要な処理を実行する。分析装置4は、更に、生成した放射線のスペクトルに基づいて、放射線源の元素分析等の更なる処理を行ってもよい。例えば、放射線検出器2は蛍光X線を検出し、分析装置4は、蛍光X線のスペクトルに基づいて、試料に含まれる元素の定性分析又は定量分析を行う。表示部53は、分析装置4が生成したスペクトル、及び分析装置4による分析結果を表示する。なお、信号処理装置3は、放射線のスペクトルを生成する機能をも有していてもよい。
【0080】
放射線検出装置10が実行する処理の流れを説明する。
図10は、実施形態1に係る信号処理装置3が実行する処理の手順を示すフローチャートである。以下、ステップをSと略す。放射線検出素子1へ放射線が入射した場合、放射線検出器2は、放射線のエネルギーに応じた波高を有する階段波を生成し、階段波を含む信号を出力する。信号処理装置3は、放射線検出器2から階段波を含む信号が入力される(S11)。A/D変換部31は、入力された信号をA/D変換する(S12)。
【0081】
A/D変換された信号に対して、波高測定及び特徴量計測が行われる(S13)。S13では、台形整形部321は、A/D変換された信号の波形を台形波へ変換し、波高測定部322は、台形波の波高を測定することにより、信号に含まれる階段波の波高を測定する。また、微分部331は、A/D変換された信号を微分し、特徴量計測部332は、信号に含まれる階段波の特徴量を計測する。例えば、特徴量計測部332は、階段波の特徴量として、階段波の時間幅、階段波の傾きの最大値、又は階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値を計算する。
【0082】
処理部34は、特徴量計測部332が計測した特徴量に基づいて、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する(S14)。階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しない場合は(S14:NO)、処理部34は、+1のカウントを行うように指示をカウント部35へ入力し、カウント部35は、波高測定部322が測定した波高について+1をカウントする(S15)。S15では、カウント部35は、それまでのカウント数に+1を加算する。S14及びS15の処理により、主領域113で発生した電荷に起因する階段波がカウントされる。S15の処理が終了した後は、信号処理装置3は処理を終了する。階段波が特異領域114で発生した電荷に起因する場合は(S14:YES)、処理部34は、カウントの指示を行わずに、処理を終了する。即ち、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因する場合は、信号処理装置3は、階段波をカウントしない。
【0083】
信号処理装置3は、S11~S15の処理を繰り返し実行する。特異領域114への放射線の入射によって第1電極12が得る電荷量は、主領域113への放射線の入射によって第1電極12が得る電荷量に比べて、減少する。このため、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因する場合は、波高が対応するエネルギーは、特異領域114へ入射した放射線のエネルギーよりも小さい可能性がある。階段波が特異領域114で発生した電荷に起因する場合に階段波をカウントしないことにより、放射線検出素子1へ入射した放射線のエネルギーが過小に検出されることが防止される。
【0084】
信号処理装置3は、階段波の波高とカウント部35がカウントしたカウント数との関係を示すデータを出力する。分析装置4は、信号処理装置3が出力したデータを入力される。分析装置4の演算部41は、入力されたデータに基づいて、放射線検出器2が検出した放射線のスペクトルを生成する。分析装置4は、スペクトル生成部に対応する。演算部41は、放射線のスペクトルを表示部53に表示させる。スペクトルの基となるカウント数には、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波の数は含まれておらず、主領域113で発生した電荷に起因する階段波の数が含まれている。スペクトルには、エネルギーが過小に検出された放射線の検出結果は含まれず、エネルギーがほぼ正確に検出された放射線の検出結果が含まれる。従って、放射線検出の精度の低下が十分に抑制される。
【0085】
本実施形態では、放射線検出器2は、放射線検出素子1へ入射する放射線の一部を遮蔽するコリメータを備えていない。即ち、本実施形態では、コリメータを用いずとも、放射線検出の精度の低下を抑制することが可能となる。放射線検出器2がコリメータを備えていないので、放射線のスペクトルにコリメータを原因とするシステムピークが発生することはなく、放射線検出の精度が向上する。電界強度の高い主領域113へ入射する放射線をコリメータが遮蔽することが無いので、放射線検出の感度が向上する。また、コリメータを供えないことによって、放射線検出器2のコストが低減される。
【0086】
<実施形態2>
実施形態2では、放射線のカウントを分析装置4で行う形態を示す。放射線検出装置10の信号処理装置3以外の部分の構成は、実施形態1と同様である。
図11は、放射線検出器2及び実施形態2に係る信号処理装置3の機能構成を示すブロック図である。放射線検出器2は、実施形態1と同様である。信号処理装置3が備えるA/D変換部31、台形整形部321、波高測定部322、微分部331、及び特徴量計測部332は、実施形態1と同様である。
【0087】
信号処理装置3は、カウント部を備えていない。処理部34は、波高測定部322から波高を入力され、特徴量計測部332から階段波の特徴量を入力される。処理部34は、特徴量計測部332が計算した階段波の特徴量に基づいて、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する。
【0088】
階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しない場合、即ち、階段波が主領域113で発生した電荷に起因する場合に、処理部34は、波高測定部322が測定した波高を含む情報を分析装置4へ入力する。分析装置4は、処理部34から入力された情報に応じて、階段波を波高別にカウントする。階段波が特異領域114で発生した電荷に起因する場合、処理部34は、情報を分析装置4へ入力しない。これにより、分析装置4は、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波をカウントしない。
【0089】
図12は、実施形態2に係る信号処理装置3及び分析装置4が実行する処理の手順を示すフローチャートである。信号処理装置3は、放射線検出器2から階段波を含む信号が入力され(S21)、A/D変換部31は、入力された信号をA/D変換する(S22)。A/D変換された信号に対して、波高測定及び特徴量計測が行われる(S23)。S23では、台形整形部321は、信号の波形を台形波へ変換し、波高測定部322は、階段波の波高を測定する。また、微分部331は、信号を微分し、特徴量計測部332は、階段波の特徴量を計算する。例えば、特徴量計測部332は、階段波の特徴量として、階段波の時間幅、階段波の傾きの最大値、又は階段波の微分値が基準値となる時点での階段波の二階微分の値を計算する。
【0090】
処理部34は、特徴量計測部332が計測した特徴量に基づいて、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する。(S24)。階段波が特異領域114で発生した電荷に起因しない場合は(S24:NO)、波高測定部322が測定した波高を含む情報を出力し、分析装置4へ入力する(S25)。分析装置4は、入力された情報を受け付け、記憶部44に記憶する。分析装置4は、波高に関連付けて階段波のカウント数を記憶部44に記憶している。
【0091】
分析装置4は、波高を含む情報を入力された場合に、情報に含まれる波高に応じて階段波をカウントする(S26)。S26では、演算部41は、入力された情報に含まれる波高に関連付けて記憶してあるカウント数に、+1を加算する。分析装置4が記憶部44に記憶する数は、階段波を波高別にカウントした数となる。S24~S26の処理により、主領域113で発生した電荷に起因する階段波が波高別にカウントされる。S26の処理が終了した後は、信号処理装置3及び分析装置4は処理を終了する。
【0092】
階段波が特異領域114で発生した電荷に起因する場合は(S24:YES)、処理部34は、そのまま処理を終了する。即ち、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因する場合は、信号処理装置3は、階段波の波高を含む情報を分析装置4へ入力せず、分析装置4は、階段波をカウントしない。信号処理装置3及び分析装置4は、S21~S26の処理を繰り返し実行する。実施形態2においても、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因する場合に階段波をカウントしないことにより、放射線検出素子1へ入射した放射線のエネルギーが過小に検出されることが防止される。
【0093】
分析装置4の演算部41は、記憶部44に記憶された波高別のカウント数に基づいて、放射線検出器2が検出した放射線のスペクトルを生成する。演算部41は、放射線のスペクトルを表示部53に表示させる。実施形態2においても、スペクトルには、エネルギーが過小に検出された放射線の検出結果は含まれず、エネルギーがほぼ正確に検出された放射線の検出結果が含まれる。従って、放射線検出の精度の低下が十分に抑制される。なお、分析装置4は、処理部34での処理の一部又は全部をも実行する形態であってもよい。
【0094】
実施形態2においても、コリメータを用いずに、放射線検出の精度の低下が抑制される。実施形態1と同様に、放射線検出器2がコリメータを備えていないことによって、放射線検出の精度が向上し、放射線検出の感度が向上する。また、放射線検出器2のコストが低減される。
【0095】
実施形態1及び2においては、台形整形部321が生成した台形波を利用して階段波の波高を計算する形態を示したが、信号処理装置3は、微分部331が生成した微分波形を積分することによって階段波の波高を計算する形態であってもよい。実施形態1及び2においては、信号処理装置3の機能をハードウェアで実現する形態を示したが、信号処理装置3は、機能の一部又は全部をソフトウェアで実現する形態であってもよい。
【0096】
実施形態1及び2においては、階段波の特徴量に基づいて判定を行う形態を示したが、信号処理装置3は、学習モデルを利用して階段波の形状に基づいて判定を行う形態であってもよい。例えば、信号処理装置3は、階段波の波形又は階段波の微分波形を入力された場合に、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かの判定結果を出力する学習モデルを備えている。学習モデルは、主領域113で発生した電荷に起因する階段波の波形又は微分波形と特異領域114で発生した電荷に起因する階段波の波形又は微分波形とを含む訓練データを用いて、予め学習されている。この形態では、信号処理装置3は、階段波の波形又は微分波形を学習モデルへ入力し、学習モデルから出力された判定結果を取得することにより、階段波が特異領域114で発生した電荷に起因するか否かを判定する。
【0097】
実施形態1及び2においては、放射線検出器2がコリメータを備えていない形態を示したが、放射線検出器2はコリメータを備えていてもよい。コリメータは、放射線検出素子1と窓24との間に配置される。放射線検出器2がコリメータを備えた形態では、コリメータが特異領域114へ入射しようとする放射線を遮断する。コリメータを放射線が透過し、特異領域114へ放射線が入射した場合であっても、特異領域114で発生した電荷に起因する階段波をカウントしないことにより、放射線のエネルギーが過小に検出されることが防止される。このため、コリメータが放射線検出の精度の低下を抑制する効果に加えて、放射線検出の精度の低下がより効果的に抑制される。
【0098】
実施形態1及び2においては、特異領域114が主領域113の周囲に配置されている形態を示したが、特異領域114はその他の形状を有していてもよい。特異領域114の配置は、第1電極12、第2電極13及び曲線状電極14等の電極の配置によって定まる。電極の配置によっては、特異領域114の形状は実施形態1及び2に示した形状とは異なる形状になることもある。特異領域114の形状が実施形態1及び2に示した形状と異なる形状であっても、放射線検出の精度の低下は十分に抑制される。
【0099】
実施形態1及び2においては、放射線検出素子1を構成する半導体がSiである形態を示したが、放射線検出素子1はSi以外の半導体で構成された形態であってもよい。実施形態1及び2においては、半導体部11がn型の半導体からなり、第2電極13がp型の半導体からなる形態を示したが、放射線検出素子1は、半導体部11がp型の半導体からなり、第2電極13がn型の半導体からなる形態であってもよい。この形態では、電荷として正孔が第1電極12に収集される。実施形態1及び2においては、放射線検出素子1がシリコンドリフト型放射線検出素子である形態を示したが、放射線検出素子1は、半導体製の素子であれば、シリコンドリフト型放射線検出素子以外の素子であってもよい。このため、放射線検出器2は、SDD以外の放射線検出器であってもよい。
【0100】
実施形態1及び2においては、放射線を試料62へ照射し、試料62から発生した放射線を検出する形態を示したが、放射線検出装置10は、試料62を透過又は試料62で反射した放射線を検出する形態であってもよい。放射線検出装置10は、放射線の方向を変更することにより試料62を放射線で走査する形態であってもよい。放射線検出装置10は、移動する試料へ放射線を照射する形態であってもよい。放射線検出装置10は、照射部54、試料台61、又は表示部53を備えていない形態であってもよい。
【0101】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
10 放射線検出装置
1 放射線検出素子
11 半導体部
12 第1電極
13 第2電極
2 放射線検出器
21 プリアンプ
3 信号処理装置
332 特徴量計測部
34 処理部
35 カウント部
4 分析装置
40 記録媒体
441 コンピュータプログラム