(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026340
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、並びに金属樹脂複合成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 81/00 20060101AFI20230216BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230216BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230216BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20230216BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230216BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230216BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20230216BHJP
C08K 7/20 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C08L81/00
B29C45/14
C08L63/00 A
C08L23/00
C08L23/26
C08K3/36
C08K7/14
C08K7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118701
(22)【出願日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2021131900
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅季
(72)【発明者】
【氏名】出井 秀和
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA03
4F206AB11
4F206AB16
4F206AB17
4F206AB18
4F206AB25
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4F206AD28
4F206AH16
4F206AH25
4F206AH33
4F206JA07
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4J002BB212
4J002BB262
4J002BB282
4J002CD133
4J002CN011
4J002DA016
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4J002DE136
4J002DE186
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DK006
4J002DL006
4J002FA046
4J002FA086
4J002FD016
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バリの発生が抑制され、かつ、インサート金属部材との接合強度に優れるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)3官能エポキシ化合物と、(C)オレフィン系共重合体と、を含み、(B)成分が、一般式(1)で表される化合物であり、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.1~1.7質量部であり、(C)成分が、炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位を含有するオレフィン系共重合体であり、(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して1.0~45.0質量部である、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物である。
[X、Y、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的処理及び/又は化学的処理が施されているインサート金属部材を用いてインサート成形するためのポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)3官能エポキシ化合物と、(C)オレフィン系共重合体と、を含み、
前記(B)3官能エポキシ化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
前記(B)3官能エポキシ化合物の含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.1~1.7質量部であり、
前記(C)オレフィン系共重合体が、炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位を含有するオレフィン系共重合体であり、
前記(C)オレフィン系共重合体の含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して1.0~45.0質量部である、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【化1】
[一般式(1)中、X、Y、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を示す。]
【請求項2】
エポキシ基含有量が0.04~0.55質量%である、請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、更に(D)無機充填剤を5~250質量部含む、請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)無機充填剤が、ガラス繊維、ガラスビーズ、及び球状シリカからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項3に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)オレフィン系共重合体が、
(C1)アミノ基、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アセトキシ基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルキニル基、オキサゾリン基、チオール基、スルホン酸基、スルホン酸塩残基、及びカルボン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系共重合体、並びに
(C2)炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体、
からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体である、請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C1)オレフィン系共重合体が、α,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有する、請求項5に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C1)オレフィン系共重合体が、無水マレイン酸変性エチレン系共重合体、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、及びグリシジルエーテル変性エチレン系共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体である、請求項5に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項8】
前記(C1)オレフィン系共重合体が、更に(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含有するオレフィン系共重合体である、請求項5に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項9】
インサート金属部材を用いて、請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物をインサート成形して形成された樹脂部材を備え、
前記インサート金属部材の、前記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部が、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている、金属樹脂複合成形体。
【請求項10】
表面の少なくとも一部が物理的処理及び/又は化学的処理を施されたインサート金属部材を射出成形用金型内に配置し、
請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を溶融状態で前記射出成形用金型内に射出して、前記インサート金属部材を、前記ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる樹脂部材と一体化する一体化工程を有する、金属樹脂複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート金属部材にインサート成形するためのポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、並びに金属樹脂複合成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や合金等から構成されるインサート金属部材と、熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂部材とが一体化されてなる金属樹脂複合成形体は、従来から、インパネ周りのコンソールボックス等の自動車の内装部材やエンジン周り部品や、インテリア部品、デジタルカメラや携帯電話等の電子機器のインターフェース接続部、電源端子部等の外界と接触する部品に用いられている。
【0003】
インサート金属部材と樹脂部材とを一体化する方法としては種々の方法が知られている。インサート金属部材側の接合面に物理的処理及び/又は化学的処理を施す方法は、金属樹脂複合成形体を設計する際の自由度の点で有効であり、特に、高価な接着剤を使用しない点において有利である。そのような方法としては種々の提案がされている(特許文献1、2参照)。特許文献1に記載の方法は、インサート金属部材の表面における所望の範囲にレーザーで粗面を形成する方法である。また、特許文献2に記載の方法は、予め表面が化学エッチングされた金属部を射出成形用の金型のキャビティー内に配置し、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物をキャビティー内に射出して、金属部と樹脂部とが一体となった複合成形体を製造する複合化成形方法である。
【0004】
金属樹脂複合成形体においては、インサート金属部材と樹脂部材との一体化が十分であることが実用上必要とされている。そのため、金属樹脂複合成形体には、インサート金属部材と樹脂部材との強い接合強度が要求される。
【0005】
一方、ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、「PPS樹脂」とも呼ぶ。)に代表されるポリアリーレンサルファイド樹脂(以下、「PAS樹脂」とも呼ぶ。)は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性を有している。そのため、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。しかしながら、PAS樹脂は、結晶化速度が遅いため成形時のサイクル時間が長い、また成形時にバリの発生が多いという問題があった。
【0006】
バリの発生を低減する方法としては、溶融粘度が非常に高い分岐型ポリフェニレンサルファイド系樹脂をバリ抑制剤として添加することが提案されている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-167475号公報
【特許文献2】特開2001-225352号公報
【特許文献3】国際公開第2006/068161号
【特許文献4】国際公開第2006/068159号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インサート金属部材と樹脂部材との接合強度を向上させるには、インサート金属部材側の接合面に物理的処理を施した場合、及び化学的処理を施した場合とも、樹脂部材を構成する樹脂組成物の溶融粘度がせん断速度に依存する特性(以下、「せん断速度依存性」と呼ぶ。)を低下させることが好ましい。せん断速度依存性が小さい方が、物理的処理及び/又は化学エッチングによって粗面化したインサート金属部材の表面の凹凸に樹脂部材の一部が埋入しやすく、アンカー効果が発現しやすい。また、特に化学エッチングによって粗面化した場合は、更に、化学結合も接合強度向上に寄与する。
一方で、樹脂部材を構成する樹脂組成物の溶融粘度のせん断速度依存性を下げると、バリが発生しやすくなる。しかし、バリの発生が十分に抑制される程度にまで上記のようなバリ抑制剤を添加すると、アンカー効果を十分に発現させることができない。そのため、インサート金属部材と樹脂部材との接合強度が大きく低下するという問題がある。すなわち、バリの発生の抑制と、インサート金属部材と樹脂部材との接合強度とはトレードオフの関係にあり、双方ともに満足させるのは困難である。ひいては、上記のような金属樹脂複合成形体において、従来は、バリの抑制をしつつ、インサート金属部材と樹脂部材との接合強度を十分に向上させることは困難であった。
【0009】
本発明は、バリの発生が抑制され、かつ、インサート金属部材との接合強度に優れるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、並びにインサート金属部材に当該樹脂組成物がインサート成形された金属樹脂複合成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)物理的処理及び/又は化学的処理が施されているインサート金属部材を用いてインサート成形するためのポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であって、
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)3官能エポキシ化合物と、(C)オレフィン系共重合体と、を含み、
前記(B)3官能エポキシ化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
前記(B)3官能エポキシ化合物の含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.1~1.7質量部であり、
前記(C)オレフィン系共重合体が、炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位を含有するオレフィン系共重合体であり、
前記(C)オレフィン系共重合体の含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して1.0~45.0質量部である、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0011】
【化1】
[一般式(1)中、X、Y、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を示す。]
【0012】
(2)エポキシ基含有量が0.04~0.55質量%である、前記(1)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0013】
(3)前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、更に(D)無機充填剤を5~250質量部含む、前記(1)又は(2)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0014】
(4)前記(D)無機充填剤が、ガラス繊維、ガラスビーズ及び球状シリカからなる群から選択される1種又は2種以上である、前記(3)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0015】
(5)前記(C)オレフィン系共重合体が、
(C1)アミノ基、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アセトキシ基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルキニル基、オキサゾリン基、チオール基、スルホン酸基、スルホン酸塩残基、及びカルボン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系共重合体、並びに
(C2)炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体、
からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体である、前記(1)~(4)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0016】
(6)前記(C1)オレフィン系共重合体が、α,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有する、前記(5)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0017】
(7)前記(C1)オレフィン系共重合体が、無水マレイン酸変性エチレン系共重合体、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、及びグリシジルエーテル変性エチレン系共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体である、前記(5)又は(6)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0018】
(8)前記(C1)オレフィン系共重合体が、更に(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含有するオレフィン系共重合体である、前記(5)~(7)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0019】
(9)インサート金属部材を用いて、前記(1)~(8)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物をインサート成形して形成された樹脂部材を備え、
前記インサート金属部材の、前記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部が、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている、金属樹脂複合成形体。
【0020】
(10)表面の少なくとも一部が物理的処理及び/又は化学的処理を施されたインサート金属部材を射出成形用金型内に配置し、
前記(1)~(9)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を溶融状態で前記射出成形用金型内に射出して、前記インサート金属部材を、前記ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる樹脂部材と一体化する一体化工程を有する、金属樹脂複合成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、バリの発生が少なく、かつ、インサート金属部材との接合強度に優れるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、並びにインサート金属部材に当該樹脂組成物がインサート成形された金属樹脂複合成形体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例及び比較例で作製した金属樹脂複合成形体を模式的に示す、(a)上面図、(b)側面図である。
【
図2】実施例及び比較例で作製した金属樹脂複合成形体の接合部分の接合強度を測定する方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物>
本実施形態のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、物理的処理及び/又は化学的処理が施されているインサート金属部材(以下、単に「金属部材」とも呼ぶ。)を用いてインサート成形するためのポリアリーレンサルファイド樹脂組成物であり、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)3官能エポキシ化合物と、(C)オレフィン系共重合体と、を含む。また、(B)3官能エポキシ化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であり、(B)3官能エポキシ化合物の含有量が、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.1~1.7質量部である。更に、(C)オレフィン系共重合体が、炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位を含有するオレフィン系共重合体であり、(C)オレフィン系共重合体の含有量が、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して1.0~45.0質量部である。
【0024】
【化2】
[一般式(1)中、X、Y、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を示す。]
【0025】
本実施形態のPAS樹脂組成物は、(B)3官能エポキシ化合物を含むことにより射出成形におけるバリの発生を抑制することができる。(B)3官能エポキシ化合物の添加によりバリが抑制されるメカニズムは、低せん断速度領域における溶融粘度の増加が寄与していると推察される。より具体的には、(B)3官能エポキシ化合物は官能基数が比較的多い上に嵩高さが小さいため反応性に富み、PAS樹脂と反応しやすい。そのため、PAS樹脂組成物の溶融粘度が増大し、バリの発生が抑制されると推察される。
一方、本実施形態のPAS樹脂組成物は、(B)3官能エポキシ化合物及び(C)オレフィン系共重合体を含むことで、金属部材との接合強度を向上させることができる。そのメカニズムは、以下のように推察される。金属部材と樹脂部材との密着性には、これら部材間の線膨張差が影響している。そして、(C)オレフィン系共重合体が金属部材と樹脂部材との部材間の応力緩和を実現することで、ひずみが小さくなり、上記接合強度が改善すると考えられる。また、特に、化学的処理が施されている金属部材を用いた場合は、(B)3官能エポキシ化合物の官能基が、金属部材表面で化学結合を形成することで、更に接合強度向上に寄与すると推察される。
以上のことから、(B)3官能エポキシ化合物及び(C)オレフィン系共重合体を含むことで、バリの発生を抑え、金属部材との接合強度を向上させることができる。
以下に、本実施形態のPAS樹脂組成物の各成分について説明する。
【0026】
[ポリアリーレンサルファイド樹脂]
PAS樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性その他物理的・化学的特性に優れ、且つ加工性が良好であるという特徴を有する。
PAS樹脂は、主として、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で構成された高分子化合物であり、本実施形態では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0027】
上記アリーレン基としては、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。PAS樹脂は、上記繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、下記の異種繰返し単位を含有したコポリマーが加工性等の点から好ましい場合もある。
【0028】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を用いた、p-フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp-フェニレンサルファイド基とm-フェニレンサルファイド基を含有する組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p-フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含有するものが、耐熱性、成形性、機械的特性等の物性上の点から適当である。また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。尚、本実施形態に用いるPAS樹脂は、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0029】
尚、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造又は架橋構造を形成させたポリマーが挙げられる。また、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素等の存在下、高温で加熱して酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも挙げられる。
【0030】
本実施形態に使用する基体樹脂としてのPAS樹脂の溶融粘度(310℃・せん断速度1200sec-1)は、上記混合系の場合も含め、機械的物性と流動性のバランスの観点から、5~500Pa・sのものを用いることが好ましい。PAS樹脂の溶融粘度は、7~300Pa・sがより好ましく、10~250Pa・sが更に好ましく、13~200Pa・sが特に好ましい。
【0031】
尚、本実施形態のPAS樹脂組成物は、その効果を損なわない範囲で、樹脂成分として、PAS樹脂に加えて、その他の樹脂成分を含んでいてもよい。その他の樹脂成分としては、特に限定はなく、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶樹脂、弗素樹脂、環状オレフィン系樹脂(環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー等)、熱可塑性エラストマー、シリコーン系ポリマー、各種の生分解性樹脂等が挙げられる。また、2種類以上の樹脂成分を併用してもよい。その中でも、機械的性質、電気的性質、物理的・化学的特性、加工性等の観点から、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶樹脂等が好ましく用いられる。
【0032】
[(B)3官能エポキシ化合物]
本実施形態で用いる3官能エポキシ化合物は、上記の通り、下記一般式(1)で表される化合物である。下記一般式(1)で表される化合物は、ベンゼン環を含有する3官能エポキシ化合物であることから、3官能という比較的多い官能基数であること、及び嵩高さが小さいことから反応性に富む。更に、窒素原子を有することからより反応性に富む。これに対して、単官能及び2官能エポキシ化合物では官能基数が少ないため反応性に劣る。また、4官能エポキシ化合物では嵩高くなるため反応性に劣る。すなわち、3官能エポキシ化合物以外のエポキシ化合物では、バリの発生を抑制する効果に劣る。
【0033】
【化3】
[一般式(1)中、X、Y、及びZは、それぞれ独立に、単結合又は2価の連結基を示す。]
【0034】
一般式(1)において、Xが示す2価の連結基としては、炭素数1~3のアルキレン基等が挙げられる。中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
一般式(1)において、Yが示す2価の連結基としては、炭素数1~3のアルキレン基等が挙げられる。中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
一般式(1)において、Zが示す2価の連結基としては、炭素数1~3のアルキレン基等が挙げられる。中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
【0035】
一般式(1)において、ベンゼン環には置換基を有してもよく、当該置換基としては、炭素数1~3のアルキル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。また、当該置換基の置換位置は、酸素原子、連結基X、及びエポキシ基を含有する部分骨格に対してメタ位が好ましい。
【0036】
一般式(1)中のベンゼン環に結合する、窒素原子、連結基Y及びZ、並びにエポキシ基を含有する部分骨格の置換位置としては、酸素原子、連結基X、及びエポキシ基を含有する部分骨格に対してオルト位、メタ位、又はパラ位が挙げられ、パラ位が好ましい。
【0037】
一般式(1)で表される3官能エポキシ化合物の中でも、下記例示化合物(1)又は(2)が好ましい。
【0038】
【0039】
本実施形態においては、PAS樹脂100質量部に対して、所定の3官能エポキシ化合物を0.1~1.7質量部含む。当該3官能エポキシ化合物が0.1質量部未満であると、バリの発生を抑制することができない。また、当該3官能エポキシ化合物が1.7質量部を超えると、粘度が顕著に増加する傾向があり、成形性が悪化しやすい。加えて、粘度が顕著に増加すると、金属部材の表面の凹凸に樹脂部材の一部が埋入しにくくなるため、金属部材と樹脂部材との接合強度が低下しやすい。当該3官能エポキシ化合物の含有量は0.2~1.2質量部が好ましく、0.5~1.0質量部がより好ましい。
【0040】
[(C)オレフィン系共重合体]
本実施形態において、オレフィン系共重合体は、(B)3官能エポキシ化合物と相まって、金属部材との接合性を向上させるために使用される。オレフィン系共重合体は、炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位を含有する。
【0041】
(C)オレフィン系共重合体としては、以下の(C1)オレフィン系共重合体、及び(C2)オレフィン系共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体が好ましい。
(C1)アミノ基、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アセトキシ基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルキニル基、オキサゾリン基、チオール基、スルホン酸基、スルホン酸塩残基、及びカルボン酸エステル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有するオレフィン系共重合体
(C2)炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体
本実施形態において、(C1)~(C2)オレフィン系共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。以下、(C1)~(C2)オレフィン系共重合体のそれぞれについて詳述する。
【0042】
((C1)オレフィン系共重合体)
(C1)オレフィン系共重合体は、上記特定の官能基を含有するオレフィン系共重合体である。すなわち、(C1)オレフィン系共重合体は、炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位とともに上記特定の官能基を含有するオレフィン系共重合体である。上記官能基の中でも、酸無水物基、エポキシ基、グリシジル基がより好ましく、エポキシ基、グリシジル基が更に好ましい。
以下に先ず、炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位について説明する。
【0043】
《炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位》
炭素原子数2以上のα-オレフィン(以下、単に「α-オレフィン」とも呼ぶ。)としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン等を挙げることができる。中でも、エチレンが好ましい。当該α-オレフィンは、1種単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。当該α-オレフィン由来の構成単位の含有量は、特に限定されないが、例えば、全樹脂組成物中0.5~20質量%とすることができる。
【0044】
(C1)オレフィン系共重合体の一つである、グリシジル基又はエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体としては、側鎖にグリシジルエステル、グリシジルエーテルなどを有するオレフィン系共重合体や、二重結合を有するオレフィン系共重合体の二重結合部分を、エポキシ酸化したものなどが挙げられる。
【0045】
かかるグリシジル基又はエポキシ基を含有するオレフィン系(共)重合体のより具体的な態様としては、グリシジル基又はエポキシ基を有するモノマーが共重合されたオレフィン系共重合体が挙げられ、特にα-オレフィン及びα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを共重合してなるグリシジル基を含有するオレフィン系共重合体が好適に用いられる。
【0046】
(C1)オレフィン系共重合体は、炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位の他に、α,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含有することが好ましい。以下に、α,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位について説明する。尚、本明細書において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを(メタ)アルキルアクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0047】
《α,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位》
α,β-不飽和酸のグリシジルエステル(以下、単に「グリシジルエステル」とも呼ぶ。)としては、特に限定されず、例えば、以下の一般式(1)に示される構造を有するものを挙げることができる。
【0048】
【化5】
[一般式(1)中、R
1は、水素又は炭素原子数1以上10以下のアルキル基を示す。]
【0049】
上記一般式(1)で示される化合物としては、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等を挙げることができる。中でも、メタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の含有量は、好ましくは全樹脂組成物中0.02~2.5質量%であり、更に好ましくは0.05~1.5質量%であり、特に好ましくは0.08~1.0である。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構成単位の含有量がこの範囲である場合、流動性の低下及び樹脂部材の強度低下を抑制しつつ、金属部材と樹脂部材との間の接合強度を向上させることができる。
【0050】
また、(C1)オレフィン系共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含有することが好ましい。特に、α,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有することが好ましい。以下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位について説明する。
【0051】
《(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位》
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-n-ヘキシル、アクリル酸-n-アミル、アクリル酸-n-オクチル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-ヘキシル、メタクリル酸-n-アミル、メタクリル酸-n-オクチル等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。中でも、特にアクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する共重合成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、全樹脂組成物中0.2~5.5質量%とすることができる。
【0052】
より具体的には、(C1)オレフィン系共重合体としては、例えば、無水マレイン酸変性エチレン系共重合体、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン系共重合体、及びエチレンアルキルアクリレート共重合体等が挙げられる。中でも、無水マレイン酸変性エチレン系共重合体、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン系共重合体からなる群から選択される少なくとも1種のオレフィン系共重合体であることが好ましく、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体が最も好ましい。
【0053】
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート-メチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート-プロピルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート-ブチルアクリレート共重合体等を挙げることができる。中でも、特に優れた金属樹脂複合成形体が得られることから、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン-グリシジルメタクリレート-メチルアクリレート共重合体が好ましく、エチレン-グリシジルメタクリレート-メチルアクリレート共重合体が特に好ましい。エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン-グリシジルメタクリレート-メチルアクリレート共重合体の具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0054】
グリシジルエーテル変性エチレン系共重合体としては、例えば、グリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル-エチレン共重合体を挙げることができる。
【0055】
((C2)炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有するオレフィン系共重合体)
(C2)オレフィン系共重合体は、共重合成分として炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位とを含有する。また、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体や、その共重合体を不飽和カルボン酸及びその酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種で変性したものであってもよい(但し、(C1)オレフィン系共重合体に該当するものを除く。)。
炭素原子数2以上のα-オレフィン由来の構成単位については上述したので、以下においてはα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位について説明する。
【0056】
《α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の構成単位》
α,β-不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-t-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等を用いることができる。
【0057】
変性剤として用いられる不飽和カルボン酸又はその酸無水物としては、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸メチル、無水メチルマレイン酸、無水マレイン酸、無水メチルマレイン酸、無水シトラコン酸等が挙げられ、これらは一種又は二種以上で使用される。
(C2)オレフィン系共重合体の具体例としては、エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレンメタクリル酸メチル共重合体等のエチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体等が挙げられる。
【0058】
(C1)~(C2)オレフィン系共重合体は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記オレフィン系共重合体を得ることができる。オレフィン系共重合体の種類は、特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、上記オレフィン系共重合体に、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸-2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸ブチル-スチレン共重合体等が、分岐状に又は架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。
【0059】
本実施形態のPAS樹脂組成物において、(C)オレフィン系共重合体は、PAS樹脂100質量部に対して、1.0~45.0質量部含む。当該オレフィン系共重合体が1.0質量部未満であると、金属部材との接合強度を向上させることが難しい傾向があり、45.0質量部を超えると、流動性が低下したり、成形時のガス発生が多くなったりすることにより、成形不良が発生しやすくなる。加えて、流動性が低下すると、金属部材の表面の凹凸に樹脂部材の一部が埋入しにくくなるため、金属部材と樹脂部材との接合強度が低下しやすくなる。当該オレフィン系共重合体は、3.0~41.0質量部含むことが好ましく、3.5~25.0質量部含むことがより好ましく、4.0~20.0質量部含むことが更に好ましく、4.5~17.0質量部含むことが特に好ましい。
【0060】
本実施形態に用いる(C)オレフィン系共重合体は、その効果を害さない範囲で、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0061】
[(D)無機充填剤]
本実施形態のPAS樹脂組成物は、(D)無機充填剤を含むことが好ましい。中でも、無機充填剤は、機械的強度、耐熱性等をより向上させることができるため、繊維状無機充填剤を含んでいることが好ましい。
また、無機充填剤は、繊維状無機充填剤と板状無機充填剤及び/又は粉粒状無機充填剤との組合せからなってもよい。
本実施形態において、「繊維状」とは、異径比が1以上4以下、かつ、平均繊維長(カット長)が0.01~3mmの形状をいう。「板状」とは、異径比が4より大きく、かつ、アスペクト比が1以上500以下の形状をいう。「粉粒状」とは、異径比が1以上4以下、かつ、アスペクト比が1以上2以下の形状(球状を含む。)をいう。いずれの形状も初期形状(溶融混練前の形状)である。異径比とは、「長手方向に直角の断面の長径(断面の最長の直線距離)/当該断面の短径(長径と直角方向の最長の直線距離)」である。アスペクト比とは、「長手方向の最長の直線距離/長手方向に直角の断面の短径(当該断面における最長距離の直線と直角方向の最長の直線距離)」である。異径比及びアスペクト比は、いずれも、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて算出することができる。また、平均繊維長(カット長)はメーカー値(メーカーがカタログなどにおいて公表している数値)を採用することができる。
【0062】
繊維状無機充填剤の例としては、ガラス繊維、カーボン繊維、酸化亜鉛繊維、酸化チタン繊維、ウォラストナイト、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化ケイ素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、等の鉱物繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、銅繊維、真鍮繊維等の金属繊維状物質が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。
【0063】
ガラス繊維の上市品の例としては、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T-790DE、平均繊維径:6μm)、オーウェンス コーニング ジャパン(同)製、チョップドガラス繊維(CS03DE 416A、平均繊維径:6μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T-747H、平均繊維径:10.5μm)、日本電気硝子(株)製、チョップドガラス繊維(ECS03T-747、平均繊維径:13μm)、日東紡績(株)製、異形断面チョップドストランド(CSG 3PA-830、長径28μm、短径7μm)、日東紡績(株)製、異形断面チョップドストランド(CSG 3PL-962、長径20μm、短径10μm)等が挙げられる。
【0064】
繊維状無機充填剤は、一般的に知られているエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、脂肪酸等の各種表面処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理により、PAS樹脂との密着性を向上させることができる。表面処理剤は、材料調製の前に予め繊維状無機充填剤に適用して表面処理又は収束処理を施しておくか、又は材料調製の際に同時に添加してもよい。
繊維状無機充填剤の繊維径は、特に限定されないが、初期形状(溶融混練前の形状)において、例えば5μm以上30μm以下とすることができる。ここで、繊維状無機フィラーの繊維径とは、繊維状無機充填剤の繊維断面の長径をいう。
繊維状無機充填剤の断面形状は、特に限定されないが丸型形状や扁平形状等を挙げることができる。また、断面形状の異なる繊維状無機充填剤を併用してもよい。
【0065】
板状無機充填剤としては、例えば、ガラスフレーク、タルク(板状)、マイカ、カオリン、クレイ、アルミナ(板状)、各種の金属箔等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
板状無機充填剤は、繊維状無機充填剤と同様に表面処理されていてもよい。
【0066】
粉粒状無機充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、球状シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、タルク(粒状)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土等のケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ(粒状)等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、その他炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、各種金属粉末等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。中でも、ガラスビーズ、球状シリカが好ましい。
ガラスビーズの上市品の例としては、ポッターズ・バロティーニ(株)製、EGB731A(平均粒子径(50%d):20μm)、ポッターズ・バロティーニ(株)製、EMB-10(平均粒子径(50%d):5μm)等が挙げられる。また、球状シリカの上市品の例としては、(株)アドマテックス製、アドマファインSO-C2(平均粒子径(50%d):0.5μm)、デンカ(株)製、FB-5SDC(平均粒子径(50%d):4.2μm)等が挙げられる。
粉粒状無機充填剤も、繊維状無機充填剤と同様に表面処理されていてもよい。
【0067】
以上の無機充填剤としては、ガラス繊維、ガラスビーズ、及び球状シリカからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0068】
本実施形態のPAS樹脂組成物において、無機充填剤は、PAS樹脂100質量部に対して、5~250質量部含んでいることが好ましい。当該無機充填剤が5質量部未満であると、機械的物性が不十分となりやすく、250質量部を超えると、流動性が低下しやすい。当該無機充填剤は、15~200質量部含んでいることがより好ましく、25~150質量部含んでいることが更に好ましく、30~110質量部含んでいることが特に好ましい。
【0069】
[他の成分]
本実施形態のPAS樹脂組成物は、その効果を妨げない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、すなわち滑剤、核剤、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、その他老化防止剤、UV吸収剤、安定剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤、腐食防止剤等を要求性能に応じ配合することが可能である。添加剤の含有量は、例えば、全樹脂組成物中5質量%以下にすることができる。
【0070】
本実施形態のPAS樹脂組成物は、バリの抑制と、金属部材との接合強度の向上とを両立する観点から、エポキシ基含有量が0.04~0.55質量%であることが好ましく、0.08~0.44質量%であることがより好ましく、0.12~0.41質量%であることが更に好ましく、0.17~0.37質量%であることがより更に好ましく、0.17~0.35であることが特に好ましい。なお、当該エポキシ基含有量は、(B)3官能エポキシ化合物のエポキシ基、及び(C)オレフィン系共重合体におけるα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位のグリシジル基の一部たるエポキシ基の合計である。
【0071】
本実施形態のPAS樹脂組成物を用いて成形品を成形する方法としては特に限定はなく、当該技術分野で知られている各種方法を採用することができる。例えば、本実施形態のPAS樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0072】
PAS樹脂成形品の形状は特に限定されず用途に応じて適宜選択することができる。例えば、シート状、板状、筒状、被膜状等の他、所望の形状の三次元成形体に成形することができる。
【0073】
<金属樹脂複合成形体>
本実施形態の金属樹脂複合成形体は、インサート金属部材を用いて、上述の本実施形態のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物をインサート成形して形成された樹脂部材を備え、インサート金属部材の、樹脂部材と接する表面の少なくとも一部が、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている。
【0074】
本実施形態の金属樹脂複合成形体は、(B)3官能エポキシ化合物と(C)オレフィン系共重合体とを併用し、これら各成分中の含有量を所定の範囲に調整したPAS樹脂組成物を用いたものであるため、成形時においてバリの発生が少なく、成形後においてはインサート金属部材と樹脂部材との間で接合強度に優れる。
【0075】
本実施形態の金属樹脂複合成形体は、上記のような特性を有するため、インサート金属部材と樹脂部材との接合強度に優れることを要求される用途に好適に使用することができる。例えば、本実施形態の金属樹脂複合成形体は、湿度や水分により悪影響を受けやすい電気・電子部品等を内部に備える金属樹脂複合成形体として好適である。特に、高レベルで防水が求められる分野、例えば、川、プール、スキー場、お風呂等での使用が想定される、水分や湿気の侵入が故障に繋がる電気又は電子機器用の部品として用いることが好適である。また、本実施形態の金属樹脂複合成形体は、例えば、内部に樹脂製のボスや保持部材等を備えた、電気・電子機器用筐体としても有用である。ここで、電気・電子機器用筐体としては、携帯電話の他に、カメラ、ビデオ一体型カメラ、デジタルカメラ等の携帯用映像電子機器の筐体、ノート型パソコン、電卓、携帯電話等の携帯用情報あるいは通信端末の筐体、ラジオ等の携帯用音響電子機器の筐体、液晶TV・モニター、電話、ファクシミリ、ハンドスキャナー等の家庭用電化機器の筐体等を挙げることができる。
【0076】
[インサート金属部材]
本実施形態の金属樹脂複合成形体に使用されるインサート金属部材は、樹脂部材と接する表面の少なくとも一部、好ましくは全部が、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている。
【0077】
インサート金属部材を構成する金属材料は特に限定されず、その例としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、及びマグネシウム合金からなる群から選択される少なくとも1 種が挙げられる。
【0078】
本実施形態では、用途等に応じて所望の形状に成形したインサート金属部材を使用する。例えば、所望の形状の型に溶融した金属等を流し込むことで、所望の形状のインサート金属部材を得ることができる。また、インサート金属部材を所望の形状に成形するために、工作機械等による切削加工等を用いてもよい。
【0079】
上記のようにして得られたインサート金属部材の表面に、物理的処理及び/又は化学的処理を施す。物理的処理及び/又は化学的処理を施す位置や、処理範囲の大きさは、樹脂部材が形成される位置等を考慮して決定される。
【0080】
物理的処理及び化学的処理は、特に限定されず、公知の物理的処理及び化学的処理を用いることができる。物理的処理により、インサート金属部材の表面は粗面化され、粗面化領域に形成された孔に、樹脂部材を構成する樹脂組成物が入り込むことでアンカー効果が発現し、インサート金属部材と樹脂部材との界面における接合強度が向上する。一方、化学的処理により、インサート金属部材とインサート成形される樹脂部材との間に、共有結合、水素結合、又は分子間力等の化学的接着効果が付与されるため、インサート金属部材と樹脂部材との界面における接合強度が向上する。化学的処理は、インサート金属部材の表面の粗面化を伴うものであってもよく、この場合には、物理的処理と同様のアンカー効果が生じて、インサート金属部材と樹脂部材との界面における接合強度が更に向上する。
【0081】
物理的処理としては、例えば、レーザー処理、サンドブラスト(特開2001-225346号公報)等が挙げられる。複数の物理的処理を組み合わせて施してもよい。
化学的処理としては、例えば、コロナ放電等の乾式処理、トリアジン処理(特開2000-218935号公報)、ケミカルエッチング(特開2001-225352号公報)、陽極酸化処理(特開2010-64496号公報)、ヒドラジン処理等が挙げられる。また、インサート金属部材を構成する金属材料がアルミニウムである場合には、温水処理(特開平8-142110号公報)も挙げられる。温水処理としては、100℃の水への3~5分間の浸漬が挙げられる。複数の化学的処理を組み合わせて施してもよい。
以上の物理的処理及び化学的処理を組合せて施してもよい。
【0082】
[樹脂部材]
本実施形態で用いられる樹脂部材は、上述の本実施形態のPAS樹脂組成物から構成され、インサート金属部材を用いてインサート成形される。
【0083】
<金属樹脂複合成形体の製造方法>
本実施形態の金属樹脂複合成形体の製造方法は、表面の少なくとも一部が物理的処理及び/又は化学的処理を施されたインサート金属部材を射出成形用金型内に配置し、上述の本実施形態のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を溶融状態で射出成形用金型内に射出して、インサート金属部材を、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなる樹脂部材と一体化する一体化工程を有する。
【0084】
本実施形態の金属樹脂複合成形体の製造方法の具体的な工程は特に限定されず、上記インサート金属部材の、物理的処理及び/又は化学的処理を施された表面の少なくとも一部を介してインサート金属部材と樹脂部材と密着させることで、インサート金属部材と樹脂部材とを一体化させるものであればよい。
【0085】
例えば、表面の少なくとも一部が物理的処理及び/ 又は化学的処理を施されたインサート金属部材を射出成形用金型内に配置し、本実施形態のPAS樹脂組成物を溶融状態で上記射出成形用金型内に射出して、インサート金属部材と樹脂部材とが一体化した金属樹脂複合成形体を製造する方法が挙げられる。射出成形の条件は特に限定されず、PAS樹脂の物性等に応じて、適宜、好ましい条件を設定することができる。また、トランスファ成形、圧縮成形等を用いる方法もインサート金属部材と樹脂部材とが一体化した金属樹脂複合成形体を形成する有効な方法である。これらの方法において、上記インサート金属部材の、上記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部、好ましくは全部が、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている。
【0086】
他の例としては、予め射出成形法等の一般的な成形方法で樹脂部材を製造し、物理的処理及び/又は化学的処理を施されているインサート金属部材と上記樹脂部材とを、所望の接合位置で当接させ、当接面に熱を与えることで、樹脂部材の当接面付近を溶融させて、インサート金属部材と樹脂部材とが一体化した金属樹脂複合成形体を製造する方法が挙げられる。この方法においても、上記インサート金属部材の、上記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部、好ましくは全部が、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている。
【実施例0087】
以下に、実施例により本実施形態を更に具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実施例1~2、比較例1~5]
各実施例・比較例において、表1に示す各原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して(ガラス繊維は押出機のサイドフィード部より別添加)、溶融混練し、ペレット化した。尚、表1において、各成分の数値は質量部を示す。
また、使用した各原料成分の詳細を以下に示す。
【0089】
(1)PAS樹脂
・PPS樹脂:(株)クレハ製、フォートロンKPS(溶融粘度:30Pa・s(せん断速度:1200sec-1、310℃))
【0090】
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。
(株)東洋精機製作所製、キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1200sec-1での溶融粘度を測定した。
【0091】
(2)エポキシ化合物
・3官能エポキシ化合物:既述の例示化合物(1)(三菱ケミカル(株)製、jER-630(エポキシ当量97.5))
・2官能エポキシ化合物1:三菱ケミカル(株)製、jER-1004K(エポキシ当量925)
【0092】
(3)バリ抑制剤
・分岐型PPS樹脂:国際公開第2006/068161号明細書に記載の合成例3と同様にして製造した分岐型PPS樹脂
【0093】
(4)オレフィン系共重合体
・オレフィン系共重合体1(グリシジル基を含有するオレフィン系共重合体):住友化学(株)製、ボンドファースト(登録商標)BF-7L(エチレン-グリシジルジメタクリレート-メチルアクリレート共重合体、グリシジルメタクリレート含有量:3質量%)
【0094】
(5)無機充填剤
・ガラス繊維:日本電気硝子(株)製、チョップドストランドECS 03 T-747(繊維径:13μm、長さ:3mm)
【0095】
[評価]
得られた各実施例・比較例のペレットを用いて以下の評価を行った。
(1)バリ長
一部に20μmの金型間隙を有するバリ測定部が外周に設けられている円盤状キャビティーの金型を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、キャビティーが完全に充填するのに必要な最小圧力で射出成形した。そして、その部分に発生するバリ長さを写像投影機((株)ミツトヨ製、CNC画像測定機(型式:QVBHU404-PRO1F))にて拡大して測定した。測定結果を表1に示す。
【0096】
(2)樹脂組成物の溶融粘度
(株)東洋精機製作所製、キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec-1での溶融粘度(MV)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0097】
次いで、各実施例・比較例で得られたペレットと以下に示すインサート金属部材とを用いてインサート成形し、金属樹脂複合成形体を作製した。以下にインサート成形について説明する。
【0098】
< インサート金属部材の化学的処理>
インサート金属部材として、アルミニウム(A5052、厚さ1.5mm)から構成され、下記の通りにして化学的処理を施した板状物を用いた。これら板状のインサート金属部材は、
図1(a)の斜線で示す部分に接合面を有する。
【0099】
[化学的処理]
アルミニウム製のインサート金属部材の表面を、下記組成のアルカリ脱脂液(水溶液)に5分間浸漬して脱脂処理を行い、次に下記組成のエッチング液C(水溶液)に3分間浸漬してインサート金属部材表面をエッチングした。
・アルカリ脱脂液(温度40℃)
AS-165F(荏原ユージライト(株)製):50ml/L
・エッチング液C(温度40℃)
OF-901(荏原ユージライト(株)製):12g/L
水酸化マグネシウム:25g/L
【0100】
<金属樹脂複合成形体の作製>
化学的処理を施したインサート金属部材を金型に配置し、このインサート金属部材を各実施例・比較例で調製した樹脂組成物からなる樹脂部材と一体化する一体化工程を行った。成形条件は以下の通りである。金属樹脂複合成形体はISO19095-2に準拠しており、その形状は
図1に示す通りである。すなわち、
図1に示すように、金属樹脂複合成形体10は、インサート金属部材12と樹脂部材14とが一部で接合した状態で一体化された形状である。
図1において、各部材の寸法を示す数値の単位は「mm」である。すなわち、インサート金属部材12は、18mm×45mm×1.5mmtの板状であり、樹脂部材14は10mm×45mm×3.0mmtの板状である。また、インサート金属部材12と樹脂部材14との接合部分の面積は50mm
2である。
[成形条件]
成形機:ソディックTR100EH
シリンダー温度:320℃
金型温度:150℃
射出速度:15mm/s
保圧力:80MPa×5秒
【0101】
<金属樹脂複合成形体の評価>
上記の方法で作製した金属樹脂複合成形体について、接合部分の接合強度を評価した。具体的な評価方法は以下の通りである。
[接合強度]
ISO19095に準拠して、以下のようにして接合強度を測定した。まず、上記のようにして得た金属樹脂複合成形体10を、
図2に示すように治具20中に配置した。次いで、インサート金属部材12の上端部近傍をチャック22に固定した。さらに、治具20の位置を固定した状態とし、樹脂部材14からインサート金属部材12を引き剥がすように、チャック22を10mm/分の速度で
図2の矢印方向に引き上げた。そして、樹脂部材14からインサート金属部材12が剥がれた時点での強度を接合強度として測定した。尚、測定機器としてオートグラフAG―20kNXD((株)島津製作所製)を使用した。測定結果を表1に示す(値は3回の試験における平均値である)。
【0102】
【0103】
表1より、実施例1~2においては、比較例1~5と比較して、バリ長が短く、かつ、接合強度が高いことが分かる。すなわち、3官能エポキシ化合物及びオレフィン系共重合体を含む実施例1~2は、バリの発生が抑制され、かつ、インサート金属部材との接合強度に優れることが分かる。これに対して、3官能エポキシ化合物もバリ抑制剤も用いなかった比較例1、2官能エポキシ化合物を用いた比較例2~3、及びバリ抑制剤として分岐型PPS樹脂を用いたもののその量が少ない比較例4はいずれもバリ長が長く、バリの発生の抑制が十分にできなかった。また、バリ抑制剤として十分な量の分岐型PPS樹脂を用いた比較例5は、バリの発生は抑制されたものの、接合強度に劣っていた。