(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026788
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/10 20060101AFI20230221BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230221BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20230221BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20230221BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230221BHJP
【FI】
C08L83/10
C08L63/00 A
C08L83/06
C09K5/14 101E
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132142
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】北沢 啓太
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CD15X
4J002CP034
4J002CP053
4J002CP17W
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA076
4J002DA096
4J002DA116
4J002DE076
4J002DE116
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ016
4J002DK006
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱伝導性充填剤を多量に含有する非硬化型組成物でありながらも適切な粘度を保つことで塗布作業性に優れ、なおかつ耐ポンピングアウト性が良好であり、薄く圧縮して低熱抵抗を達成できる熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【解決手段】(A)(a)脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が60mm
2/s以上であるオルガノポリシロキサンと、(b)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの付加反応物、(B)熱伝導性充填剤:組成物全体に対し10~96質量%となる量、及び(C)下記一般式(1)で表されるオキシラン環を有する環状オルガノポリシロキサン:(A)成分100質量部に対し1~20質量部、を含有する熱伝導性シリコーン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)下記(a)成分と(b)成分の付加反応物、
(a)1分子中に少なくとも1個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が60mm
2/s以上であるオルガノポリシロキサン、
(b)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)の個数が0.3~20となる量、
(B)金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、及び炭素の同素体からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱伝導性充填剤:組成物全体に対し10~96質量%となる量、及び
(C)下記一般式(1)で表される環状オルガノポリシロキサン:(A)成分100質量部に対し1~20質量部
【化1】
(式中、R
1は、炭素原子数1~18の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、それぞれのR
1は同一であっても異なっていてもよい。R
2は、オキシラン環を有する基であり、それぞれのR
2は同一であっても異なっていてもよい。Xは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1~20のアルキレン基であり、それぞれのXは同一であっても異なっていてもよい。mは3~20の整数である。)
を含有するものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
さらに、(D)下記一般式(2)で表されるオルガノポリシロキサン:組成物全体に対し0.5~10質量%となる量、
【化2】
(式中、R
3は、炭素原子数1~18の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、それぞれのR
3は同一であっても異なっていてもよい。nは5~100の整数である。)、
を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
さらに、(E)下記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサン:組成物全体に対し0.5~10質量%となる量、
【化3】
(式中、R
1、R
2及びXは、上記と同じ意味を表す。oは5~200の整数である)
を含有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
25℃における絶対粘度が200Pa・s以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品パッケージやパワーモジュールの熱対策としては、薄く圧縮可能であり発熱部と冷却部材との隙間への侵入性に優れる放熱グリースが、放熱性能の観点から好適である。放熱グリースは所望の厚みに圧縮後に硬化させることができる「硬化型」と、硬化せずにグリース状を保つ「非硬化型」の2つに大別することができる。
【0003】
「硬化型」の放熱グリースは所望の厚みに圧縮後に硬化させることで、発熱部の発熱と冷却を反復する熱履歴による膨張・収縮に起因する放熱グリースの流れ出し(ポンピングアウト)を発生しづらくし、半導体パッケージの信頼性を高めることができるが、実用上不利な特徴も存在する。
【0004】
例えば、電子部品パッケージやパワーモジュールの熱対策として付加硬化型の放熱グリースが過去に多く提案されている(例えば特許文献1)。しかしそれらのほとんどは室温での保存性に乏しく、冷凍もしくは冷蔵保存が必須であるため、製品管理が困難である場合がある。また硬化させる際には一定時間の加熱が必要であるため工程の煩雑化・長期化による生産効率の低下を招いてしまい、更に加熱工程による環境負荷の観点からも好ましいとは言えない。
【0005】
また、縮合硬化型の放熱グリースも「硬化型」のひとつとして挙げられる(例えば特許文献2)。縮合硬化型の放熱グリースは空気中の湿気によって増粘・硬化するため、湿気が遮断されていれば室温での輸送・保存が可能であり、製品管理は比較的容易である。縮合硬化型の放熱グリースは一定量の湿気が存在していれば加熱工程を要さずとも硬化反応を進行させることができるという利点を有するが、硬化反応の際に低沸点の脱離成分が生ずるため、臭気や脱離成分による電子部品の汚染といった点で大きな課題を残している。
【0006】
一方で、「非硬化型」の放熱グリースは一般に室温下で輸送・保存が可能であるなど、取扱いの容易さが特長であるが、先述のポンピングアウトが発生しやすいという課題がある。「非硬化型」の放熱グリースにおいてポンピングアウトを低減するための方策としてはグリースの粘度を高めることが効果的であるが、背反として塗布作業性の低下が課題となる。
【0007】
上述したように、電子部品パッケージやパワーモジュールの信頼性を高めるためには「硬化型」の放熱グリースの使用が好ましいものの、厳密な温度管理や煩雑な硬化プロセスを要する、環境負荷を与えるといった観点で好ましいものとは言い難い。
【0008】
一方「非硬化型」の放熱グリースは取扱いが容易であり環境負荷も小さいもののポンピングアウトが発生しやすく、電子部品パッケージやパワーモジュールの信頼性を担保するためには高粘度化が必要であり、その結果塗布作業性が犠牲になる課題があった。
【0009】
また、薄く圧縮して低熱抵抗を達成するためには、熱伝導性充填剤の粒度分布を精密に制御する必要があった。
【0010】
特許文献3では、シリコーンゲル架橋物、加水分解性オルガノポリシロキサン及び粒度分布が制御された窒化アルミニウム粒子を特定の割合で配合することで耐ポンピングアウト性を向上した非硬化型熱伝導性シリコーン組成物が提案されているが、更なる耐ポンピングアウト性の改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2016-053140号公報
【特許文献2】特開2011-219664号公報
【特許文献3】特開2021-098804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の熱伝導性シリコーン組成物(放熱グリースなど)でありながらも適切な粘度を保つことで塗布作業性に優れ、なおかつ耐ポンピングアウト性が良好であり、薄く圧縮して低熱抵抗を達成できる熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)下記(a)成分と(b)成分の付加反応物、
(a)1分子中に少なくとも1個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が60mm
2/s以上であるオルガノポリシロキサン、
(b)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)の個数が0.3~20となる量、
(B)金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、及び炭素の同素体からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱伝導性充填剤:組成物全体に対し10~96質量%となる量、及び
(C)下記一般式(1)で表される環状オルガノポリシロキサン:(A)成分100質量部に対し1~20質量部
【化1】
(式中、R
1は、炭素原子数1~18の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、それぞれのR
1は同一であっても異なっていてもよい。R
2は、オキシラン環を有する基であり、それぞれのR
2は同一であっても異なっていてもよい。Xは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1~20のアルキレン基であり、それぞれのXは同一であっても異なっていてもよい。mは3~20の整数である。)
を含有するものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0014】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物であれば、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の熱伝導性シリコーン組成物でありながらも適切な粘度を保つことで塗布作業性に優れ、なおかつ耐ポンピングアウト性が良好であり、薄く圧縮して低熱抵抗を達成することができる。
【0015】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、さらに、(D)下記一般式(2)で表されるオルガノポリシロキサン:組成物全体に対し0.5~10質量%となる量、
【化2】
(式中、R
3は、炭素原子数1~18の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、それぞれのR
3は同一であっても異なっていてもよい。nは5~100の整数である。)
を含有するものであることが好ましい。
【0016】
このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、より優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性が両立可能である。
【0017】
また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、さらに、(E)下記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサン:組成物全体に対し0.5~10質量%となる量、
【化3】
(式中、R
1、R
2及びXは、上記と同じ意味を表す。oは5~200の整数である)
を含有するものであることが好ましい。
【0018】
このような熱伝導性シリコーン組成物であれば、より優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性が両立可能である。
【0019】
そして、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、25℃における絶対粘度が200Pa・s以上であることが好ましい。
【0020】
このような熱伝導性シリコーン組成物は、より優れた耐ポンピングアウト性を示すことができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性が両立可能であり、薄く圧縮可能で低熱抵抗を達成できる。すなわち、本発明によれば、近年の半導体装置の発熱量増加や大型化、構造複雑化に対応可能な熱伝導性シリコーン組成物を提供可能である。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の放熱グリースなどの組成物と出来るが、適切な粘度を保つことで優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能な「非硬化型」の組成物となる。そして、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、室温下で輸送及び保存が可能であるため、取り扱いが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述のように、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の組成物でありながらも適切な粘度を保つことで塗布作業性に優れ、なおかつ耐ポンピングアウト性が良好であり、薄く圧縮して低熱抵抗を達成できる熱伝導性シリコーン組成物の開発が求められていた。
【0023】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、特定の成分からなるオルガノポリシロキサン付加反応物、オキシラン環を有する基を含む環状オルガノポリシロキサン及び熱伝導性充填剤を特定の割合で配合することで、適切な粘度を保つことにより塗布作業性に優れ、なおかつ耐ポンピングアウト性が良好であり、薄く圧縮して低熱抵抗を達成できる熱伝導性シリコーン組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
即ち、本発明は、熱伝導性シリコーン組成物であって、
(A)下記(a)成分と(b)成分の付加反応物、
(a)1分子中に少なくとも1個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が60mm
2/s以上であるオルガノポリシロキサン、
(b)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)の個数が0.3~20となる量、
(B)金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、及び炭素の同素体からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱伝導性充填剤:組成物全体に対し10~96質量%となる量、及び
(C)下記一般式(1)で表される環状オルガノポリシロキサン:(A)成分100質量部に対し1~20質量部
【化4】
(式中、R
1は、炭素原子数1~18の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、それぞれのR
1は同一であっても異なっていてもよい。R
2は、オキシラン環を有する基であり、それぞれのR
2は同一であっても異なっていてもよい。Xは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1~20のアルキレン基であり、それぞれのXは同一であっても異なっていてもよい。mは3~20の整数である。)
を含有するものであることを特徴とする熱伝導性シリコーン組成物である。
【0025】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物であれば、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能である。さらに、薄く圧縮可能で低熱抵抗を達成できるため、実装される電子部品の信頼性を向上することができる。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の放熱グリースであり得る。しかしながら、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、適切な粘度を保つため、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能な「非硬化型」の放熱グリースとなり得る。そして、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、室温下で輸送及び保存が可能であるため、取り扱いが容易である
【0026】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[熱伝導性シリコーン組成物]
本発明は、熱伝導性充填剤を多量に含有しても適切な粘度を保ち、かつ信頼性が良好である熱伝導性シリコーン組成物に関する。本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、「非硬化型」の放熱グリースとすることが出来る。
【0028】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、(A)オルガノポリシロキサン付加反応物、(B)熱伝導性充填剤、及び、(C)オキシラン環を有する基を含む環状オルガノポリシロキサンを含有するものであることを特徴とする。すなわち、上記(A)~(C)成分は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の必須成分であるということができる。更に、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、後述の特定の式で表されるオルガノポリシロキサン(D)成分及び(E)成分、並びにその他の成分を必要に応じて含むことができる。
以下、これらの成分について説明する。
【0029】
(A)成分
(A)成分はオルガノポリシロキサン付加反応物であり、下記(a)成分と(b)成分のヒドロシリル化反応により得られる。(A)成分は本発明の熱伝導性シリコーン組成物のベースポリマーとなる。
【0030】
(a)1分子中に少なくとも1個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が60mm2/s以上であるオルガノポリシロキサン、
(b)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対するSiH基の個数が0.3~20となる量
【0031】
(a)成分は、1分子中に少なくとも1個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、25℃での動粘度が60mm2/s以上であるオルガノポリシロキサンである。
【0032】
その分子構造は特に限定されず、直鎖状構造、分岐鎖状構造、一部分岐状構造又は環状構造を有する直鎖状構造等が挙げられる。特には、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状構造を有するものが好ましい。該直鎖状構造を有するオルガノポリシロキサンは、部分的に分岐状構造、又は環状構造を有していてもよい。
【0033】
(a)成分の動粘度は、25℃において60mm2/s以上であり、好ましくは100mm2/s以上である。60mm2/s未満では、発熱部の発熱と冷却を反復する熱履歴による膨張・収縮に起因してポンピングアウトを引き起こしたり、(A)成分の付加反応物の不均一化を引き起こすおそれがある。(a)成分の動粘度の上限は特に限定されないが、例えば、25℃において50,000,000mm2/s以下である。
本発明において、動粘度は、オストワルド粘度計により測定した25℃における値である(以下、同じ)。
【0034】
該オルガノポリシロキサンは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
(b)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1分子中に2個以上、特に好ましくは3~100個、さらに好ましくは5~20個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子中のSiH基が、上述した(a)成分が有する脂肪族不飽和炭化水素基と白金族金属触媒の存在下にヒドロシリル化反応し、架橋構造を形成できるものであればよい。
【0036】
前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、上記性質を有するものであればその分子構造は特に限定されず、直鎖状構造、分岐鎖状構造、環状構造、一部分岐状構造又は環状構造を有する直鎖状構造等が挙げられる。好ましくは直鎖状構造、環状構造である。
【0037】
該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、25℃での動粘度が、好ましくは1~1,000mm2/s、より好ましくは10~100mm2/sである。前記動粘度が1mm2/s以上であれば、シリコーン組成物の物理的特性が低下するおそれがなく、1,000mm2/s以下であれば、シリコーン組成物の伸展性が乏しいものとなるおそれがない。
【0038】
該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(a)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b)成分中のSiH基の個数が0.3~20となる量、好ましくは0.5~15となる量である。(b)成分の量が上記下限値未満では付加反応が十分に進行せず、架橋が不十分となる。また、上記上限値超では、架橋構造が不均一となる場合がある。
【0040】
ヒドロシリル化反応の進行には、例えば従来公知の白金族金属触媒(後述の(F)成分)を使用することができる。例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系の触媒が挙げられるが、中でも比較的入手しやすい白金又は白金化合物が好ましい。例えば、白金の単体、白金黒、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。白金族金属触媒は1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
白金族金属触媒の配合量は触媒としての有効量、即ち、反応を促進して(A)成分のシリコーンゲル架橋物を得るのに必要な有効量であればよい。好ましくは、(a)成分及び(b)成分の合計質量に対し、白金族金属原子に換算した質量基準で0.1~500ppm、より好ましくは1~200ppmである。触媒の配合量が上記好ましい範囲内にあれば、触媒としての十分な効果を経済的に得ることができる。
【0042】
また、ヒドロシリル化反応により(A)成分の付加反応物(シリコーンゲル架橋物)を得る際には、反応を均一に進めるための反応制御剤(後述の(G)成分)を添加してもよい。該反応制御剤は、従来公知の反応制御剤を使用することができる。これには、例えば、アセチレンアルコール類(例えば、エチニルメチルデシルカルビノール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール)等のアセチレン化合物、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の各種窒素化合物、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。
【0043】
反応制御剤を配合する場合の配合量は、(a)成分及び(b)成分の合計質量に対し、好ましくは0.05~5質量%、より好ましくは0.1~1質量%である。反応制御剤の配合量が上記好ましい範囲内にあれば、ヒドロシリル化反応をより均一に進めることができる。
【0044】
また反応制御剤は、シリコーン組成物への分散性を良くするために、オルガノ(ポリ)シロキサンやトルエン等で希釈して使用してもよい。
【0045】
(B)成分
(B)成分は、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、及び炭素の同素体からなる群より選ばれる1種以上の熱伝導性充填剤である。例えば、アルミニウム、銀、銅、金属ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化ケイ素、酸化セリウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化セリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、ダイヤモンド、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、大粒子成分と小粒子成分を組み合わせたもの(異なる平均粒径を有する成分の組み合わせ)であることが好ましい。
【0046】
大粒子成分の平均粒径は、0.1~300μmの範囲が好ましく、より好ましくは10~200μmの範囲、更に好ましくは10~150μmの範囲である。小粒子成分の平均粒径は、0.01μm~10μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.1~5μmである。このような範囲であれば、組成物の粘度が高くなりすぎず、伸展性に優れ、また、得られる組成物が均一なものとなる。
【0047】
大粒子成分と小粒子成分の割合は特に限定されず、9:1~1:9(質量比)の範囲が好ましい。また、大粒子成分及び小粒子成分の形状は、球状、不定形状、針状等、特に限定されるものではない。
【0048】
なお、平均粒径は、例えば、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積基準の平均値(メジアン径)として求めることができる。
【0049】
(B)成分の配合量は、組成物全体に対し10~96質量%であり、40~95.5質量%が好ましく、70~95質量%がより好ましい。96質量%より多いと、組成物が伸展性の乏しいものとなるし、10質量%より少ないと熱伝導性に乏しいものとなる。
【0050】
(C)成分
(C)成分は、下記一般式(1)で表される、オキシラン環含有基(エポキシ基)を有する環状オルガノポリシロキサンであり、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の耐ポンピングアウト性を向上させる効果がある。
【0051】
【化5】
(式中、R
1は、炭素原子数1~18の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、それぞれのR
1は同一であっても異なっていてもよい。R
2は、オキシラン環を有する基であり、それぞれのR
2は同一であっても異なっていてもよい。Xは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1~20のアルキレン基であり、それぞれのXは同一であっても異なっていてもよい。mは3~20の整数である。)
【0052】
R1は、炭素原子数1~18の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、好ましくは置換基を有してもよい1価飽和脂肪族炭化水素基又は置換基を有してもよい1価芳香族炭化水素基であり、より好ましくは置換基を有してもよい1価飽和脂肪族炭化水素基である。
【0053】
置換基を有してもよい1価飽和脂肪族炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等の分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、ブロモプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などの1価飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。炭素原子数については、好ましくは炭素原子数1~10、より好ましくは炭素原子数1~8、さらに好ましくは炭素原子数1~6のものである。
【0054】
置換基を有してもよい1価芳香族炭化水素基として、具体的には、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、2-フェニルエチル基等のアラルキル基、α,α,α-トリフルオロトリル基、クロロベンジル基等のハロゲン置換アリール基などの1価芳香族炭化水素基が挙げられる。炭素原子数については、好ましくは炭素原子数6~10、より好ましくは炭素原子数6~8、さらに好ましくは炭素原子数6のものである。
【0055】
R1としては、これらの中でも、メチル基、エチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、フェニル基が好ましく、さらに好ましくはメチル基、エチル基、フェニル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0056】
前記R2のオキシラン環を有する基は特に限定されないが、オキシラン(エチレンオキサイド)や、オキシラン環を1つ以上有する直鎖、分岐又は環状の炭化水素から水素原子を1つ取り除いた基が挙げられる。前記炭化水素は、更にハロゲン原子、シアノ基、フェニル基などの芳香族基などの置換基で置換されていてもよい。
このようなオキシラン環を有する炭化水素基としては、例えば、エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、3-メチル-1,2-エポキシブタン、などのエポキシアルカン、エポキシシクロペンタン、エポキシシクロヘキサン、エポキシシクロヘプタン、エポキシシクロオクタン、エポキシシクロノナン、エポキシシクロデカン、エポキシシクロウンデカン、エポキシシクロドデカンなどのエポキシシクロアルカン、エポキシシクロペンテン、エポキシシクロヘキセン、エポキシシクロヘプテンなどのエポキシシクロアルケン、エポキシエチルベンゼン、1-フェニル-1,2-エポキシプロパンなどの芳香族含有炭化水素のエポキシドから水素原子を1つ取り除いた基が挙げられる。
また、オキシラン環を有する基は、その中に2つ以上のオキシラン環を有してもよく、さらに、酸素原子や窒素原子などのヘテロ原子で置換されていてもよいし、ヘテロ原子が炭素-炭素結合間や炭素-水素結合間に介在してもよい。このようなオキシラン環を有する基としては、ジエポキシシクロヘキサン、エポキシシクロヘキサノール、エポキシシクロヘキサノン、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、エチレングリコールモノグリシジルエーテル、プロパンジオールモノグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、エポキシピペリジンなどから水素原子を1つ取り除いた基が挙げられる。
【0057】
前記R2のオキシラン環を有する基としては、例えば下記式(4)及び(5)で示されるものが挙げられる。
【0058】
【0059】
Xは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1~20、好ましくは炭素原子数1~8のアルキレン基であり、Xの構造は直鎖状、分岐鎖状等、特に限定されるものではないが、好ましくは直鎖状である。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子や硫黄原子などが挙げられる。Xとして、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル基、アミド基などを有してもよいアルキレン基が挙げられ、具体的には、下記に示すものが例示できる。
【0060】
-(CH2)x-
(xは1~20の整数である。)
-CH2CH2CH2OCH2-
【0061】
R2-X基全体としては、例えば3-グリシドキシプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、5,6-エポキシヘキシル基、9,10-エポキシデシル基などが挙げられる。
【0062】
mは、3~20、好ましくは4~10の整数である。mの値が3未満であると耐ポンピングアウト性が不十分となる。mの値が20より大きいと粘度が著しく増加するため配合しづらくなり、また得られる組成物の粘度が著しく上昇するおそれがある。
【0063】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し1~20質量部であり、3~15質量部が好ましい。20質量部を超えると、組成物が著しく増粘する場合があり、1質量部未満であると耐ポンピングアウト性向上効果に乏しいものとなる。
【0064】
(C)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
(D)成分
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、さらに、(D)下記一般式(2)で表されるオルガノポリシロキサンを含有していてもよい。
(D)成分は、熱伝導性充填剤の表面を処理するために用いるものであり、充填剤の高充填化を補助する役割を担う。
【0066】
【化7】
(式中、R
3は、炭素原子数1~18の1価炭化水素基であって、置換基を有していてもよく、それぞれのR
3は同一であっても異なっていてもよい。nは5~100の整数である。)
【0067】
R3は、置換基を有していてもよい炭素原子数1~18の1価炭化水素基であり、好ましくは置換基を有してもよい1価飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよい1価芳香族炭化水素基、より好ましくは置換基を有してもよい1価飽和脂肪族炭化水素基である。
【0068】
置換基を有してもよい1価飽和脂肪族炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等の分岐鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、ブロモプロピル基等のハロゲン置換アルキル基などの1価飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。炭素原子数については、好ましくは炭素原子数1~10、より好ましくは炭素原子数1~8、さらに好ましくは炭素原子数1~6のものである。
【0069】
置換基を有してもよい1価芳香族炭化水素基として、具体的には、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、2-フェニルエチル基等のアラルキル基、α,α,α-トリフルオロトリル基、クロロベンジル基等のハロゲン置換アリール基などの1価芳香族炭化水素基が挙げられる。炭素原子数については、好ましくは炭素原子数6~10、より好ましくは炭素原子数6~8、さらに好ましくは炭素原子数6のものである。
【0070】
R3としては、これらの中でも、メチル基、エチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、フェニル基が好ましく、さらに好ましくはメチル基、エチル基、フェニル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0071】
nは、5~100、好ましくは5~80、さらに好ましくは10~60の整数である。nの値が5以上であれば、シリコーン組成物由来のオイルブリードが抑えられ、耐ポンピングアウト性が良好になる。また、nの値が100以下であれば、充填剤との濡れ性が十分となって、組成物の粘度が上昇して塗布作業性が悪化することもない。
【0072】
(D)成分を配合する場合、その配合量は、組成物全体に対し0.5~10質量%が好ましく、1.0~8.0質量%がより好ましい。このような範囲であれば、熱伝導性シリコーン組成物を適切な粘度範囲とすることができ、また、より耐ポンピングアウト性に優れるものとなる。
【0073】
(D)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
(E)成分
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、さらに、(E)下記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサンを含有していてもよい。(E)成分は、熱伝導性充填剤の表面を処理するために用いるものであり、充填剤の高充填化を補助する役割を担う。
【0075】
【化8】
(式中、R
1、R
2及びXは、上記と同じ意味を表す。oは5~200の整数である)
【0076】
上記式(3)中のR1は、独立に非置換または置換の炭素原子数1~18の1価炭化水素基であり、上記式(1)中のR1において例示されたものと同じものが挙げられ、特にはメチル基であることが好ましい。
【0077】
上記式(3)中のR2は、オキシラン環を構造式中に有する置換基(エポキシ基)であり、上記式(1)中のR2において例示されたものと同じものが挙げられる。
【0078】
上記式(3)中のXは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素原子数1~20のアルキレン基であり、上記式(1)中のXにおいて例示されたものと同じものが挙げられる。
【0079】
oは、5~200、好ましくは10~100の整数である。oの値が5以上であれば、シリコーン組成物由来のオイルブリードがひどくなって信頼性が悪くなることはない。また、oの値が200以下であれば、充填剤との濡れ性が十分になる。
【0080】
(E)成分を配合する場合、その配合量は、組成物全体に対し0.5~10質量%が好ましく、1.0~8.0質量%がより好ましい。このような範囲であれば、熱伝導性シリコーン組成物を適切な粘度範囲とすることができ、また、より耐ポンピングアウト性に優れるものとなる。
【0081】
(E)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0082】
その他の成分
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上述の白金族金属触媒((F)成分)及び反応制御剤((G)成分)のほかにも任意の添加物を含むことができる。例えば、組成物の劣化を防ぐために、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール等の、従来公知の酸化防止剤を必要に応じて含有してもよい。さらに、染料、顔料、難燃剤、沈降防止剤、又はチクソ性向上剤等を、必要に応じて配合することができる。
【0083】
熱伝導性シリコーン組成物を作製する工程
本発明における熱伝導性シリコーン組成物の製造方法について説明する。本発明におけるシリコーン組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、上述の(A)~(C)成分、並びに必要に応じて配合する上記(D)、(E)成分及びその他の成分を、例えば、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリーミキサー(いずれも(株)井上製作所製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機等を用いて混合する方法が挙げられる。
【0084】
また本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、加熱しながら混合してもよい。加熱条件は特に制限されるものでないが、温度は通常25~220℃、好ましくは40~200℃、特に好ましくは50~200℃であり、時間は通常3分~24時間、好ましくは5分~12時間、特に好ましくは10分~6時間である。また加熱時に脱気を行ってもよい。
【0085】
なお(A)成分のオルガノポリシロキサン付加反応物は、先述の(a)成分及び(b)成分をヒドロシリル化反応させてあらかじめ調製したものを使用しても良いし、熱伝導性シリコーン組成物を作製する加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製しても良い。
【0086】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、25℃にて測定される絶対粘度が、好ましくは200Pa・s以上、より好ましくは200~2,000Pa・sである。25℃における絶対粘度が200Pa・s以上であれば、より優れた耐ポンピングアウト性を示すことができ、2,000Pa・s以下であれば、塗布作業性が悪化するおそれはない。
【0087】
また本発明の熱伝導性シリコーン組成物は通常、1.0~15W/m・Kの熱伝導率を有することができる。
【0088】
なお、本発明において、熱伝導性シリコーン組成物の絶対粘度は、定試験力押出形細管式レオメータにより測定した25℃における値であり、熱伝導率は、ホットディスク法(ISO 22007-2)により測定した値である。
【0089】
以上に説明した本発明の熱伝導性シリコーン組成物であれば、優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能である。さらに、薄く圧縮可能で低熱抵抗を達成できるため、実装される電子部品の信頼性を向上することができる。また、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の放熱グリースと出来るが、適切な粘度を保つことで優れた塗布作業性と耐ポンピングアウト性とが両立可能な「非硬化型」の放熱グリースとなる。そして、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、室温下で輸送及び保存が可能であるため、取り扱いが容易である。
【実施例0090】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお各成分の動粘度はオストワルド粘度計による25℃の値を示す。平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積基準の平均値(メジアン径)である。
【0091】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
初めに、本発明の熱伝導性シリコーン組成物を調製するため以下の各成分を用意した。
【0092】
(A)成分
A-1:下記成分(a-1)と(b-1)を、熱伝導性シリコーン組成物を作製する加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した付加反応物
((a-1)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数=0.8)
【0093】
(a-1):両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が600mm2/sのジメチルポリシロキサン
(b-1):下記式(6)で示されるメチルハイドロジェンジメチルポリシロキサン(25℃における動粘度100mm2/s)
【0094】
【化9】
(式中、括弧内のシロキサン単位の配列順は不定である)
【0095】
A-2:上記成分(a-1)、下記成分(a-2)及び上記成分(b-1)を熱伝導性シリコーン組成物を作製する加熱混合工程でヒドロシリル化反応させて調製した付加反応物
((a-1)成分及び(a-2)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計に対する(b-1)成分中のSiH基の個数=13であり、(a-1)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計:(a-2)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基の個数の合計=56:44)
【0096】
(a-2):下記式(7)で示される片末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたジメチルジフェニルポリシロキサン(25℃における動粘度700mm2/s)
【0097】
【化10】
(式中、p/(p+q)=0.05であり、括弧内のシロキサン単位の配列順は不定であり、Phはフェニル基を表す。)
【0098】
(B)成分
B-1:平均粒径120μmの窒化アルミニウム粒子
B-2:平均粒径60μmの窒化アルミニウム粒子
B-3:平均粒径30μmの窒化アルミニウム粒子
B-4:平均粒径20μmの窒化アルミニウム粒子
B-5:平均粒径1μmの窒化アルミニウム粒子
【0099】
(C)成分
C-1:下記式(8)で表される環状オルガノポリシロキサン(25℃における動粘度3,000mm2/s)
【0100】
【0101】
(D)成分
D-1:下記式(9)で示されるオルガノポリシロキサン(25℃における動粘度30mm2/s)
【0102】
【0103】
(E)成分
E-1:下記式(10)で示されるオルガノポリシロキサン(25℃における動粘度35mm2/s)
【0104】
【0105】
その他成分
(F)成分(白金族金属触媒)
F-1:白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体を、上記(a-1)成分に溶解した溶液(白金原子含有量:白金原子として1質量%)
【0106】
(G)成分(反応制御剤)
G-1:エチニルシクロヘキサノール(下記式(11))
【0107】
【0108】
[実施例1~6、比較例1~4]
熱伝導性シリコーン組成物の調製
上記(A)~(G)成分を、下記表1~2に示す配合量で、下記に示す方法で配合して、熱伝導性シリコーン組成物を調製した。
【0109】
5リットルのトリミックス((株)井上製作所製)に、(A)成分の(a-1)成分又は(a-1)成分と(a-2)成分の両方、(B)成分、(D)成分及び(E)成分を加えて減圧下170℃で1時間混合した。40℃以下になるまで冷却し、次にこの混合物に残りの(A)成分の(b-1)成分、(C)成分、(F)成分及び(G)成分を加えて150℃で2時間混合して、熱伝導性シリコーン組成物を調製した。
【0110】
上記方法で得られた各シリコーン組成物について、下記の方法に従い、絶対粘度、熱伝導率を測定し、耐ポンピングアウト性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0111】
[絶対粘度]
各シリコーン組成物の絶対粘度を、(株)島津製作所製定試験力押出形細管式レオメータCFT-500EXを用いて25℃で測定した。
【0112】
[熱伝導率]
各シリコーン組成物をキッチンラップで包み、熱伝導率を京都電子工業(株)製TPS-2500Sでホットディスク法(ISO 22007-2)により測定した。
【0113】
[耐ポンピングアウト性]
各組成物0.3mlを、0.5mmのスペーサを介してアルミ板とガラス板ではさみ、1.8kgf(17.65N)のクリップを二つ用いて15分間圧縮した。これを-40℃/30分と125℃/30分とを反復する冷熱衝撃試験機に垂直置きし、500サイクル後に取り出した。この時点での垂直方向への移動距離を計測した。このような熱履歴により組成物が膨張・収縮を繰り返す。これに起因するシリコーン組成物の鉛直下方向への流れ出しが起きにくいほど、すなわち、垂直方向への移動距離が小さいほど耐ポンピングアウト性に優れると評価する。
【0114】
【0115】
【0116】
表1~2の結果より、本発明の要件を満たす実施例1~6のシリコーン組成物では、耐ポンピングアウト性の指標となる垂直方向への移動距離が小さく、熱履歴による膨張・収縮に起因するシリコーン組成物の流れ出し(ポンピングアウト)が発生しづらいことが明らかである。また、上記シリコーン組成物は、適切な粘度を持つため塗布作業性に優れ、薄く圧縮して低熱抵抗を達成できる。
【0117】
一方、(C)成分を含まない比較例1~4のシリコーン組成物では、耐ポンピングアウト性の指標となる垂直方向への移動距離が大きい、またはペースト状の組成物が得られない結果となった。
【0118】
従って、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、熱伝導性充填剤を多量に含有する「非硬化型」の放熱グリースでありながらも良好な耐ポンピングアウト性を達成できる。すなわち、近年の半導体装置の発熱量増加や大型化、構造複雑化に対応可能な熱伝導性シリコーン組成物を提供可能である。
【0119】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。