(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026789
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】通信品質予測装置、通信品質予測方法、及び、通信品質予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20230221BHJP
H04W 24/02 20090101ALI20230221BHJP
【FI】
G06T7/00 Z
H04W24/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132145
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】工藤 理一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 馨子
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 匡史
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
(72)【発明者】
【氏名】西尾 理志
(72)【発明者】
【氏名】太田 翔己
【テーマコード(参考)】
5K067
5L096
【Fターム(参考)】
5K067AA23
5K067EE02
5K067EE10
5L096AA09
5L096BA08
5L096CA02
5L096CA18
5L096DA02
5L096EA05
5L096EA26
5L096FA69
5L096GA26
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】プライバシや機密情報等の保護の観点による制約をうけず、様々な無線通信エリアで未来の通信品質を予測可能な技術を提供する。
【解決手段】未来の通信品質を予測する通信品質予測装置1であって、無線通信路の周辺の環境情報を点群データとして時系列に取得する収集部1-1-1~1-1-Rと、前記点群データのデータ量を削減する処理を行うことで処理済み点群データを生成する前処理部1-2と、前記環境情報の処理済み点群データを前記通信品質予測装置で認識可能な座標系の環境情報に変換する変換部1-3と、前記座標系の環境情報の経時的変化を基に前記無線通信路の未来の通信品質を予測計算する予測部1-5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未来の通信品質を予測する通信品質予測装置であって、
無線通信路の周辺の環境情報を点群データとして時系列に取得する収集部と、
前記点群データのデータ量を削減する処理を行うことで処理済み点群データを生成する前処理部と、
前記環境情報の処理済み点群データを前記通信品質予測装置で認識可能な座標系の環境情報に変換する変換部と、
前記座標系の環境情報の経時的変化を基に前記無線通信路の未来の通信品質を予測計算する予測部と、
を備える通信品質予測装置。
【請求項2】
前記前処理部は、
前記点群データからノイズ点を除去することで前記点群データの数を削減する請求項1に記載の通信品質予測装置。
【請求項3】
前記前処理部は、
前記点群データの空間的な分解能を下げることで前記点群データの数を削減する請求項1又は2に記載の通信品質予測装置。
【請求項4】
前記変換部は、
前記環境情報の処理済み点群データをボクセルデータに変換する請求項1乃至3のいずれかに記載の通信品質予測装置。
【請求項5】
前記変換部は、
前記環境情報の処理済み点群データを2次元平面上の写像データに変換する請求項1乃至4のいずれかに記載の通信品質予測装置。
【請求項6】
前記点群データは、
前記環境情報をカメラで撮影した深度画像から変換した点群データである請求項1乃至5のいずれかに記載の通信品質予測装置。
【請求項7】
未来の通信品質を予測する通信品質予測方法であって、
通信品質予測装置が、
無線通信路の周辺の環境情報を点群データとして時系列に取得するステップと、
前記点群データのデータ量を削減する処理を行うことで処理済み点群データを生成するステップと、
前記環境情報の処理済み点群データを前記通信品質予測装置で認識可能な座標系の環境情報に変換するステップと、
前記座標系の環境情報の経時的変化を基に前記無線通信路の未来の通信品質を予測計算するステップと、
を行う通信品質予測方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の通信品質予測装置としてコンピュータを機能させる通信品質予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信品質予測装置、通信品質予測方法、及び、通信品質予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
5G、6Gの次世代移動体通信では、ミリ波と呼ばれる30GHz以上の周波数を用いた高速大容量の無線通信の実現が期待されている。一方、サブ6GHz帯以上の高い周波数を用いた無線通信は、周囲の環境の影響を強く受ける。特にミリ波通信やテラヘルツ波通信では、人体等による無線通信路の遮蔽によって通信品質が急峻に低下する(非特許文献1)。
【0003】
そこで、カメラで撮影した画像を用いて無線通信路の未来の通信品質を予測し、当該予測結果を基に無線通信端末に対して送信電力制御やハンドオーバを行う制御装置が知られている(特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Collonge、外2名、“Influence of the human activity on wide-band characteristics of the 60 GHz in- door radio channel”、IEEE Trans. Wireless Commun.、vol.3、no.6、2004年11月、p.2396-p.2406
【非特許文献2】T. Nishio、外7名、“Proactive Received Power Prediction Using Machine Learning and Depth Images for mmWave Networks”、IEEE Journal on Selected Areas in Communications、vol. 37、no. 11、2019年11月、p.2413-p.2427
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び非特許文献2では、カメラの画像を用いて通信品質を予測するため、プライバシや機密情報等の保護の観点より、特に街頭やオフィス、公共施設において、カメラの設置や画像の使用が困難な場合がある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、プライバシや機密情報等の保護の観点による制約をうけず、様々な無線通信エリアで未来の通信品質を予測可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の通信品質予測装置は、未来の通信品質を予測する通信品質予測装置であって、無線通信路の周辺の環境情報を点群データとして時系列に取得する収集部と、前記点群データのデータ量を削減する処理を行うことで処理済み点群データを生成する前処理部と、前記環境情報の処理済み点群データを前記通信品質予測装置で認識可能な座標系の環境情報に変換する変換部と、前記座標系の環境情報の経時的変化を基に前記無線通信路の未来の通信品質を予測計算する予測部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様の通信品質予測方法は、未来の通信品質を予測する通信品質予測方法であって、通信品質予測装置が、無線通信路の周辺の環境情報を点群データとして時系列に取得するステップと、前記点群データのデータ量を削減する処理を行うことで処理済み点群データを生成するステップと、前記環境情報の処理済み点群データを前記通信品質予測装置で認識可能な座標系の環境情報に変換するステップと、前記座標系の環境情報の経時的変化を基に前記無線通信路の未来の通信品質を予測計算するステップと、を行う。
【0010】
本発明の一態様の通信品質予測プログラムは、上記通信品質予測装置としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プライバシや機密情報等の保護の観点による制約をうけず、様々な無線通信エリアで未来の通信品質を予測可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、通信品質予測装置の機能ブロック構成を示す図である。
【
図2】
図2は、通信品質予測装置の処理フローを示す図である。
【
図3】
図3は、通信品質の予測結果を示す図である。
【
図4】
図4は、通信品質の予測結果を示す図である。
【
図5】
図5は、通信品質予測装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0014】
[発明の概要]
本発明は、カメラや画像ではなく、センサで取得された無線通信エリアの点群データを用いて、無線通信路の未来の通信品質を予測する通信品質予測装置を開示する。点群データは画像と比べてプライバシ情報や機密情報を含まないので、データ使用上の制約が少なく、センサを様々な環境に設置できる。
【0015】
一方、点群データは画像に比べてデータ量が大きく、そのまま使用することは困難である。そこで、本発明は、センサが取得する時系列な点群データに対して、ノイズ除去、データ量削減、特徴量選択を行い、適切な形式に変換する。その後、機械学習により通信品質予測モデルを学習することで、無線通信路の未来の通信品質を予測する。
【0016】
以上により、様々な無線通信エリアにおいて、高周波帯の無線通信での未来の通信品質の予測の実現が可能となる。なお、本発明は、点群データを用いる点に特徴がある。それ故、カメラ・センサなど、直接点群データを生成する機器を用いずとも、深度情報や映像情報を変換して得られた点群データ等にも適用可能である。
【0017】
[通信品質予測装置の構成]
図1は、本実施形態に係る通信品質予測装置1の機能ブロック構成を示す図である。通信品質予測装置1は、複数の収集部1-1-1~1-1-Rと、前処理部1-2と、変換部1-3と、生成部1-4と、予測部1-5と、を備える。
【0018】
複数の収集部1-1-1~1-1-Rは、それぞれ、無線通信路の周辺の環境情報を点群データとして経時的に取得するセンサから、当該環境情報の点群データを時系列に取得する機能を備える。センサとは、LiDAR(Light Detection And Ranging)等である。環境情報とは、移動する人や車、成長する植物、建設中の建物、水位が変動する川等といった動的なオブジェクト、ベンチ、信号機等といった静的なオブジェクトである。
【0019】
前処理部1-2は、点群データのデータ量を削減する処理を行うことで、処理済み点群データを生成する機能を備える。例えば、前処理部1-2は、点群データから外れ値であるノイズ点を除去することで点群データの数を削減する外れ値除去処理、点群データの空間的な分解能を下げることで点群データの数を削減するダウンサンプル処理、その両方の処理を行う。
【0020】
変換部1-3は、環境情報の処理済み点群データを通信品質予測装置1で認識可能な座標系の環境情報に変換する機能を備える。LiDARで得られる点群データは、当該LiDARから見た光の反射点情報であり、予測部1-5が理解する座標系の情報に変換する必要がある。そこで、変換部1-3は、LiDARで計測された点群データを通信品質予測装置1で認識可能な情報に変換する。具体的には、LiDARの位置や向きに基づき、データ量削減後の環境情報の点群データを、所定の座標系を有する環境情報に変換する。例えば、3次元座標系への変換処理、2次元座標系への変換処理、ボクセルへの変換処理を行う。ここで、ボクセルとは、立体を表現するデータ形式であり、3次元空間を格子状に分割した立方体に値(多くの場合は0,1)を与えることにより、その立方体の小領域に事物が存在するかどうかを表現するものである。
【0021】
生成部1-4は、点群データ以外のデータや情報を、通信品質予測モデルへ入力する補助情報として生成する機能を備える。例えば、生成部1-4は、無線通信路の周辺の通信に関する様々な通信情報、温度、気温、無線通信路に侵入する又は侵入しているユーザの無線通信端末の設定情報、基地局等の無線通信システムの設定情報、無線通信システムの状態に関する情報等を、補助情報として生成する。
【0022】
予測部1-5は、上記座標系の環境情報の経時的変化を基に無線通信路の未来の通信品質を予測計算する機能を備える。例えば、予測部1-5は、変換後の座標系の環境情報を通信品質予測モデルに入力し、必要に応じて補助情報も入力して、機械学習を行うことで、通信品質データを予測計算する。
【0023】
通信品質予測モデルとは、無線通信エリアの座標系の環境情報や補助情報を基に当該無線通信エリアにおける無線通信の通信品質を予測計算する機械学習モデルである。通信品質予測モデルは、通信品質予測装置1内に構築されていてもよいし、他の装置に構築されていてもよい。
【0024】
通信品質データとは、例えば、受信信号電力、信号対雑音電力比(SNR)、信号対干渉雑音電力比(SINR)、RSSI(Received Signal Strength Indication)、RSRQ(Received Signal Reference Quality)、パケット誤り率、到達ビット数、単位時間当たりの到達ビット数、MCS(Modulation and Coding Scheme index)、再送回数、遅延時間、誤り訂正方式、通信システムの周波数、利用するリソースの帯域幅等の周波数条件等である。これらの値の微分情報、これらの値を所定の計算式に代入して算出される指標、これらの指標に影響を与えるシステムの設定項目等でもよい。
【0025】
[通信品質予測装置の動作]
図2は、通信品質予測装置1の処理フローを示す図である。通信品質予測装置1は、オフィス街等の無線通信エリアでの未来の通信品質を予測する。
【0026】
ステップS1;
まず、複数の収集部1-1-1~1-1-Rは、オフィス街に設置されたLiDARから、当該オフィス街に伝搬している無線通信路の周辺の環境情報(例えば、人、車)の点群データを時系列に取得する。
【0027】
ステップS2;
次に、前処理部1-2は、LiDARから取得した点群データに対し、外れ値除去処理、ダウンサンプル処理、又はその両方の処理を実行する。これにより、データ量の削減処理が行われた処理済み点群データが生成される。
【0028】
外れ値除去処理は、LiDARでの計測時に点群データに含まれてしまうノイズ点を除去する処理である。ノイズ点の除去により、予測部1-5でより正確に将来の通信品質を予測可能となる。外れ値の除去方法としては、ある点と一定数の近傍点との間の距離をそれぞれ計算し、閾値よりも距離が大きい近傍点を除去する方法、点を中心とする所定サイズの球内に含まれる点の数が少ない方の球の点を除去する方法がある。
【0029】
その他の外れ値の除去方法としては、無線通信端末と基地局との間に形成される3次元空間の点群以外の点群を削除したり、当該3次元空間において予め把握している静的な構造物に係る点群を除去したり、時間的に継続して存在しない点群を除去したりする方法がある。無線通信端末と基地局との間に形成される3次元空間の点群以外の点群の削除には、例えば、無線通信端末から基地局の方向を見た際に、基地局から角度φ以内の範囲、または基地局から無線通信端末を見た際に無線通信端末から角度φ以内の範囲、またはその両方の範囲を基地局と無線通信端末の間の条件として、それ以外の範囲を除去する方法がある。
【0030】
ダウンサンプル処理は、空間的な分解能を下げて点群データの点の総数を削減することで、通信品質予測モデルに入力する入力次元数を削減する処理である。これにより、予測部1-5で行う機械学習の計算量を抑制可能となる。ダウンサンプルの方法としては、点群データを含む空間を所定サイズのボクセルに分割してボクセル内に存在する複数の点を代表となる1つだけに絞る方法、点のデータを座標系における一定間隔で一様に間引いていく方法がある。
【0031】
ステップS3;
次に、変換部1-3は、上記処理済み点群データを、通信品質予測装置1で認識可能であり、通信品質予測モデルに入力可能な形式である、2次元座標、3次元座標、またはボクセルに変換する。
【0032】
2次元平面への変換方法としては、3次元空間を形成する6つの2次元平面の中から所定の2次元平面を決定し、3次元空間内の点群データを当該2次元平面に写像する方法がある。これにより、2次元空間上の位置情報を用いることができ、点群データのデータ量を削減可能となる。または、3次元空間上で、任意の2次元平面との交差点の情報のみを抽出してもよい。ある2次元平面との交差点情報を抽出する場合には、2次元空間を複数用意してもよい。例えば、高さ30cmと高さ1mの2次元平面を用い、当該高さの3次元座標系に存在する点群データ情報を抽出してもよい。
【0033】
その他、同様に点群データのデータ量を更に削減するため、変換部1-3は、3次元空間を所定サイズのボクセル単位に分割し、点群データをボクセルに変換(ボクセルデータ化)してもよい。ボクセルへの変換方法としては、ボクセル内に点群データの点が存在すれば1とし、ボクセル内に点が存在しない場合は0とする方法、ボクセル内の点の数を密度としてボクセル値に設定する方法がある。これにより、点群データのデータ量を削減可能となる。何らかの補助情報により、無線通信に影響を強く与えるものを1、その影響が少ないものを1より小さくすることで、より無線通信の予測精度を高めてもよい。
【0034】
ステップS4;
次に、生成部1-4は、無線通信路の周辺の通信に関する様々な通信情報、温度、気温、無線通信路に侵入する、侵入しているユーザの無線通信端末の設定情報、基地局等の無線通信システムの設定情報、無線通信システムの状態に関する情報等を、通信品質予測モデルへ入力する補助情報として生成する。なお、補助情報は、通信品質の予測精度を向上させるための二次的な情報である。それ故、ステップS4をスキップして補助情報を使用しないようにしてもよい。
【0035】
ステップS5;
最後に、予測部1-5は、上記3次元座標系の位置情報(又は、2次元座標系の位置情報、3次元座標系のボクセルデータ)を通信品質予測モデルに入力し、必要に応じて補助情報も当該通信品質予測モデルに入力して、機械学習を行うことで、RSSI等の通信品質データを予測計算する。
【0036】
機械学習処理は、深度画像の代わりにボクセルデータを用いる点を除き、非特許文献2の学習手法とほぼ同様である。以降、ステップS3で点群データがボクセルデータに変換された場合について説明する。
【0037】
まず、ボクセルデータに対し、点群データと同時に測定された通信品質データを時間的に対応させ、ラベル付けを行う。このとき、将来の通信品質を予測するため、時刻をずらしてラベル付を行う「temporal difference labeling」(非特許文献2参照)を適用する。
【0038】
機械学習アルゴリズムとしては、任意のアルゴリズムを用いることができる。ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、勾配ブースティング決定木等を用いることができる。
【0039】
ニューラルネットワークでは、畳み込みレイヤを入れ込むことで3次元データであるボクセルをそのまま入力として使用することができる。畳み込みにより時空間の特徴量が抽出され、通信品質の予測計算を行うことが可能となる。
【0040】
一方、ランダムフォレストや勾配ブースティング決定木等は、多次元の入力に対応していないため、ボクセルをそのまま入力として使用することはできない。そのため、ボクセルを1次元の配列に平坦化したものを特徴量として用いる。通信品質値でラベル付けされたボクセル(又は、それを1次元配列に平坦化したもの)を訓練データセットとして機械学習アルゴリズムを実行し、通信品質予測モデルを獲得する。獲得した通信品質予測モデルに対し、点群データから生成したボクセルを入力することで、将来の通信品質値を予測計算することができる。
【0041】
点群データが、ボクセルデータではなく、2次元座標系の位置情報に変換された場合には、例えば、上記機械学習アルゴリズムに対して、水平面上に互いに直交するX軸、Y軸での点群データの(x、y)座標を入力する。この際、本来保持していたZ軸情報を単に削除することで、Z軸方向のすべてのデータを含めてもよいし、Z軸方向における範囲を指定し、例えば(x, y)の条件により、Z軸方向の範囲をZmin(x,y)からZmax(x,y)としてそれ以外の条件の点群情報を削除してもよい。さらに、Z軸情報における2つ以上の座標の点、または2つ以上の範囲に対して、(x, y)を生成し、入力情報として用いてもよい。その他、ボクセルデータのある高さのデータを抽出したり、高さ方向の値の和や最大値を計算したりすることで得られる2次元上のサイズを生成し、上記機械学習アルゴリズムに入力してもよい。
【0042】
ステップS5の後、通信品質予測装置1で予測された無線通信路の未来の通信品質の予測結果は、無線通信システムに備わる制御装置へ出力される。当該制御装置は、当該予測結果を基に、無線通信エリアでの通信品質の影響が小さくなるように、または通信品質が低下しないように、無線通信システムの設定、または無線通信端末の設定や動作、または当該無線通信エリアで物理的に制御可能な物体を制御する。例えば、無線通信端末に対して、送信電力を高める送信電力制御、より感度の高い基地局へ通信を切り替えるハンドオーバ、複数の無線通信基地局との通信実行、変調方式や誤り訂正符号の設定変更を実行する。
【0043】
[変形例]
ここまで、LiDARを用いた場合を例に説明した。一方、点群データは、LiDAR等のセンサで取得するのに代えて、RGB-Dカメラ等で取得された深度画像を変換することでも取得可能である。例えば、「Yan Wang、他5名 “Pseudo-LiDAR From Visual Depth Estimation: Bridging the Gap in 3D Object Detection for Autonomous Driving”、Proceedings of the IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR)、2019年6月」には、風景画像から深度画像を推定し、当該深度画像を基にLiDARの点群データを疑似的に生成する方法が記載されている。それ故、LiDAR等のセンサが導入された環境ではなく、RGB-Dカメラが導入された環境においても、本発明の通信品質予測装置1を適用可能となる。この場合には、プライバシなどの観点で、点群データに変換された後、ネットワークを伝送することで、利用についての制約を軽減できる。
【0044】
[予測性能評価結果]
図3、
図4は、本実施形態に係る通信品質予測装置1を用いて実施した点群データからの通信品質の予測結果を示す図である。
図3は、ニューラルネットワークを用いた場合の予測結果である。
図4は、ランダムフォレストを用いた場合の予測結果である。これらの予測結果は、所定時刻に得られた点群データを基に、当該所定時刻から500 ms先の未来の通信品質(Frame信号のRSSI値)を予測したものである。実線で示された予測値は、破線で示された実測値に概ね一致している。
【0045】
なお、本性能評価で用いたデータは非特許文献2と同一のものを用いており、精度に関しても非特許文献2と同程度であった。このことから、プライバシや機密情報保護等の観点から制約のあるカメラを使用せずに、比較的設置が用意なLiDAR等のセンサを用いても同程度の精度で通信品質を予測できることを示したと言える。
【0046】
[産業への活用]
本発明は、無線LAN(Local Area Network)、特にミリ波通信機能を搭載した機器において、通信品質を安定化させる技術であり、工場内のセンシングデータ収集や、VR(Virtual Reality)アプリケーション、AR(Augmented Reality)アプリケーション等、大容量かつ安定した無線ネットワークが必要な用途において、特に有用な発明である。
【0047】
[効果]
本実施形態によれば、未来の通信品質を予測する通信品質予測装置1であって、無線通信路の周辺の環境情報を点群データとして時系列に取得する複数の収集部1-1-1~1-1-Rと、前記点群データのデータ量を削減する処理を行うことで処理済み点群データを生成する前処理部1-2と、前記環境情報の処理済み点群データを前記通信品質予測装置で認識可能な座標系の環境情報に変換する変換部1-3と、前記座標系の環境情報の経時的変化を基に前記無線通信路の未来の通信品質を予測計算する予測部1-5と、を備えるので、カメラや画像を用いることなく、無線通信品質を予測することができ、プライバシや機密情報等の保護の観点からカメラの設置が望ましくない場所であっても適用が可能となる。その結果、プライバシや機密情報等の保護の観点による制約をうけず、様々な無線通信エリアで未来の通信品質を予測可能な技術を提供できる。
【0048】
[その他]
本発明は、上記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の要旨の範囲内で数々の変形が可能である。本実施形態に係る通信品質予測装置1は、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0049】
例えば、本実施形態に係る通信品質予測装置1は、
図5に示すように、CPU901と、メモリ902と、ストレージ903と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906と、を備えた汎用的なコンピュータシステムを用いて実現できる。メモリ902及びストレージ903は、記憶装置である。当該コンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、通信品質予測装置1の各機能が実現される。
【0050】
通信品質予測装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよい。通信品質予測装置1は、複数のコンピュータで実装されてもよい。通信品質予測装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであってもよい。通信品質予測装置1用のプログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD、DVD等のコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶できる。通信品質予測装置1用のプログラムは、通信ネットワークを介して配信することもできる。
【符号の説明】
【0051】
1…通信品質予測装置
1-1-1~1-1-R…収集部
1-2…前処理部
1-3…変換部
1-4…生成部
1-5…予測部
901…CPU
902…メモリ
903…ストレージ
904…通信装置
905…入力装置
906…出力装置