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特開2023-26980冷却器、熱スイッチ機構、冷却システム、及び、冷却方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026980
(43)【公開日】2023-03-01
(54)【発明の名称】冷却器、熱スイッチ機構、冷却システム、及び、冷却方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20230221BHJP
   F28F 27/00 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
F28D15/02 104B
F28D15/02 R
F28D15/02 101L
F28F27/00 511E
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132474
(22)【出願日】2021-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100199842
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠宏
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 卓
(72)【発明者】
【氏名】ラムナロング ワニソン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】間接冷却法に使用したとき、効率的に被冷却体を冷却できる冷却器を提供する。
【解決手段】容器と、上記容器に収容された作動流体とを有し、上記作動流体が、沸点が300K未満の少なくとも2種以上の作動流体を含み、上記容器内の少なくとも一部の領域をドライアウト状態にすることを利用して、上記容器と熱的に接触した被冷却体を、300K以下に冷却することを特徴とする冷却器。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、前記容器に収容された作動流体とを有し、
前記作動流体が、沸点が300K未満の少なくとも2種以上の作動流体を含み、
前記容器内の少なくとも一部の領域をドライアウト状態にすることを利用して、前記容器と熱的に接触した被冷却体を、300K以下に冷却することを特徴とする冷却器。
【請求項2】
前記容器を少なくとも2つ備え、
前記容器のそれぞれに、異なる前記作動流体が収容された、請求項1に記載の冷却器。
【請求項3】
前記容器の少なくとも1つに、
前記作動流体の2種以上が収容された、請求項1又は2に記載の冷却器。
【請求項4】
前記作動流体が窒素、水素、キセノン、アルゴン、ネオン、酸素、二酸化炭素、及び、ヘリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷却器。
【請求項5】
前記容器が、金属材料からなるハウジングを有し、前記金属材料の残留抵抗比が30以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の冷却器。
【請求項6】
前記容器の293Kにおける熱伝導率が24W/m・K以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の冷却器。
【請求項7】
前記容器中における前記作動流体の300Kにおける内圧が1MPa以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の冷却器。
【請求項8】
ヒートパイプである、請求項1~7のいずれか1項に記載の冷却器。
【請求項9】
熱サイフォンである、請求項1~7のいずれか1項に記載の冷却器。
【請求項10】
請求項6に記載の冷却器を備えた、熱スイッチ機構。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載された冷却器と
コールドステージを有する冷凍機とを備え、
被冷却体と前記コールドステージとの間に前記冷却器を配設した、冷却システム。
【請求項12】
前記冷凍機は、
前記コールドステージと前記冷却器とが熱的に接触して構成される凝縮部の温度TCを検出する凝縮部温度センサと、前記冷却器と前記被冷却体とが熱的に接触して構成される蒸発部の温度TEを検出する蒸発部温度センサと、制御装置とを更に備え、
前記制御装置は、前記温度TEを前記冷却器が含む作動流体について予め定められた閾値と比較する温度比較部と、
前記凝縮部の温度を調整する温調部と、を有し、
前記制御装置は、前記温度TEが前記閾値未満になるまで、前記作動流体の凝固温度を基準に予め定められた温度TMを超えるように、前記温度TCを調整する、請求項11に記載の冷却システム。
【請求項13】
前記制御装置は、前記温度TEが、作動流体iについての前記閾値未満の場合、
前記温度TCを、式:TM(i+1)<TC≦TM(i)の範囲に調整する、請求項12に記載の冷却システム。
(ただし、iは1~n-1の整数を表し、nは前記冷却器が含む作動流体の種類を表す2以上の整数であり、TM(i)は、前記作動流体iについての前記温度TMを表し、高温順にTM(1)、TM(2)、・・・、TM(n)である)
【請求項14】
前記制御装置は、前記温度TEが作動流体nについての前記閾値未満であって、かつ、前記温度TEが目標温度を超えている場合、前記凝縮部を更に冷却する、請求項13に記載の冷却システム。
【請求項15】
被冷却体と冷熱源との間に請求項1~9のいずれか1項に記載の冷却器を配設して、前記被冷却体と前記冷熱源との間の熱輸送により、前記被冷却体の冷却を行う、冷却方法。
【請求項16】
前記被冷却体と前記冷却器とが熱的に接触して構成される蒸発部の温度TEが、前記冷却器が含む作動流体について予め定められた閾値未満になるまで、
前記冷熱源と前記冷却器とが熱的に接触して構成される凝縮部の温度TCを、前記作動流体の凝固温度を基準に予め定められた温度TMを超えるように調整する工程Aを含む、請求項15に記載の冷却方法。
【請求項17】
前記調整が、
前記温度TCを式:TM(i+1)<TC≦TM(i)の範囲に調整する工程A2を含む、請求項12に記載の冷却システム。
(ただし、iは1~n-1の整数を表し、nは前記冷却器が含む作動流体の種類を表す2以上の整数であり、TM(i)は、作動流体iについての前記温度TMを表し、高温順にTM(1)、TM(2)、・・・、TM(n)である)
【請求項18】
前記工程A2は、前記温度TEが作動流体nについての前記閾値未満であって、かつ、前記温度TEが目標温度を超えている場合、前記凝縮部を更に冷却する工程Bを含む、請求項17に記載の冷却方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却器、熱スイッチ機構、冷却システム、及び、冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブチタン(NbTi)等によって構成される部材を超電導温度に保つ方法として、一般に、超電導部材を液体ヘリウム等の寒剤に浸漬し、蒸発する寒剤を冷凍機によって再凝縮させる方法、及び、超電導部材と冷凍機(コールドステージ)とを熱伝導率の高い部材(例えば、銅ストランド等)を介して接続して冷却する方法(以下、「間接冷却法」ともいう。)等が知られている。
【0003】
近年、より高い転移温度を有する超電導素材の開発や、小型冷凍機の技術開発の進展に伴い、多量の寒剤を取り扱う必要のない間接冷却法の重要性は益々高まってきている。
このような方法の一つとして、特許文献1には、「超電導モータの超電導コイルの周囲あるいは近接位置に作動流体充填部を設けると共に、該超電導モータに近接して冷却機を配置し、該冷却機で前記作動流体充填部内の作動流体を凝固させるまで冷却させて、凝固された固体作動流体により前記超電導コイルを直接冷却あるいは間接冷却する構成としていることを特徴とする超電導モータの冷却装置。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-237060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、超電導部材のような被冷却体を寒剤に接触させる必要はないものの、冷凍機のコールドステージから被冷却体への熱輸送の効率が悪く、被冷却体を目標温度(例えば数十ケルビン)まで冷却するのに多くの時間とエネルギーが必要であることを本発明者らは知見している。
【0006】
そこで、本発明は、間接冷却法に使用したとき、効率的に被冷却体を冷却できる冷却器を提供することを課題とする。また、本発明は、熱スイッチ機構、冷却システム、及び、冷却方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0008】
[1]
容器と、上記容器に収容された作動流体とを有し、上記作動流体が、沸点が300K未満の少なくとも2種以上の作動流体を含み、上記容器内の少なくとも一部の領域をドライアウト状態にすることを利用して、上記容器と熱的に接触した被冷却体を、300K以下に冷却することを特徴とする冷却器。
【0009】
[2]
上記容器を少なくとも2つ備え、上記容器のそれぞれに、異なる上記作動流体が収容された、[1]に記載の冷却器。
上記冷却器によれば、それぞれの容器に飽和温度の異なる作動流体が収容されるため、冷却過程で1つの容器内で作動流体が凝固した場合であっても、他の容器に収容された作動流体は、凝固した作動流体の影響(ウィックの閉塞等の影響)をより受けにくく、効率的な熱輸送がより広い温度範囲にわたって継続できる。そのため、内部にウィックを有するウィック付き容器を用いた場合でも、より広い温度範囲で効率的な熱輸送(冷却)を行うことができる。
【0010】
[3]
上記容器の少なくとも1つに、上記作動流体の2種以上が収容された、[1]又は[2]に記載の冷却器。
容器の1つに作動流体の2種以上が収容される場合、全体として容器の数をより少なくでき、冷却器がより小型化できる。クライオスタット等の内部における限られた空間内での使用により適している。また、重力利用型の熱サイフォンとすることによって、一方の作動流体が凝固した後も、他方の作動流体によるより効率的な熱輸送が継続できる点で好ましい。
【0011】
[4]
上記作動流体が窒素、水素、キセノン、アルゴン、ネオン、酸素、二酸化炭素、及び、ヘリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の冷却器。
冷却器が上記の作動流体を含む場合、被冷却体を極低温、具体的には、目標温度として100K以下とした場合に、より効率よく冷却することができる。
【0012】
[5]
上記容器が、金属材料からなるハウジングを有し、上記金属材料の残留抵抗比が30以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の冷却器。
容器のハウジングを構成する金属材料の残留抵抗比が上記数値範囲内であると、極低温領域において、ハウジングの熱伝導による優れた熱輸送効果が得られる。残留抵抗比が上記範囲である金属材料は一般に「高純度」と呼ばれ、特に極低温領域での熱伝導率が、純度の低い同種の金属材料と比較して大きいため、極低温領域におけるより優れた熱輸送効率が得られる。
しかし、このような金属材料は価格が高い上に、100Kを超える領域では、純度の低い同種の金属材料との熱伝導率の差は小さい。従って、間接冷却の熱輸送媒体としてこれら高純度の金属材料のみを使おうとすると、100Kを超える領域での冷却、いわゆる予冷のコストが大きくなってしまっていた。すなわち、極低温領域での効率的な熱輸送に必要な分の高純度金属材料を使用しても、予冷に掛かる時間を短くすることはできず、予冷のための効率的な熱輸送に必要な分の高純度金属材料を使用したのでは、冷却器の価格が高くなりすぎてしまっていた。
本冷却器の容器のハウジングが所定の金属材料である場合、予冷はヒートパイプ(熱サイフォン)が担い、多量の高純度金属を必要とせず、極低温領域で作動流体が凍結した後は、極低温領域で熱伝導率が大きく向上する高純度金属製のハウジングの熱伝導に熱輸送の主体を切り替えることができる。従って、上記冷却器は、特に冷却目標温度が極低温である場合に、広い範囲で、より優れた熱輸送効率が得られる。
【0013】
[6]
上記容器の293Kにおける熱伝導率が24W/m・K以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の冷却器。
容器の熱伝導率が上記数値以下であると、冷却器を熱スイッチ機構として利用したとき、目標温度までのより効率的な熱輸送と、目標温度に到達した後の被冷却体の冷熱源からの熱的な切り離しをより確実に行うことができる。
【0014】
[7]
上記容器中における上記作動流体の300Kにおける内圧が1MPa以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の冷却器。
容器内における作動流体の内圧が上記数値範囲内であると、容器内が完全なドライアウト状態であっても、容器が破裂することがより抑制される。すなわち、被冷却体を室温(約300K)から冷却する場合に、容器の破裂がより抑制される。
【0015】
[8]
ヒートパイプである、[1]~[7]のいずれかに記載の冷却器。
[9]
熱サイフォンである、[1]~[7]のいずれかに記載の冷却器。
[10]
[6]に記載の冷却器を備えた、熱スイッチ機構。
[11]
[1]~[9]のいずれかに記載された冷却器とコールドステージを有する冷凍機とを備え、被冷却体と上記コールドステージとの間に上記冷却器を配設した、冷却システム。
【0016】
[12]
上記冷凍機は、上記コールドステージと上記冷却器とが熱的に接触して構成される凝縮部の温度TCを検出する凝縮部温度センサと、上記冷却器と上記被冷却体とが熱的に接触して構成される蒸発部の温度TEを検出する蒸発部温度センサと、制御装置とを更に備え、上記制御装置は、上記温度TEを上記冷却器が含む作動流体について予め定められた閾値と比較する温度比較部と、上記凝縮部の温度を調整する温調部と、を有し、上記制御装置は、上記温度TEが上記閾値未満になるまで、上記作動流体の凝固温度を基準に予め定められた温度TMを超えるように、上記温度TCを調整する、[11]に記載の冷却システム。
冷却システムが上記構成を備える場合、蒸発部の温度が、効率的な熱輸送を得るための下限値の温度として定められた閾値未満となるまで、すなわち、ある作動流体によって効率的な熱輸送を行える温度範囲内では、当該作動流体が凝固しない様に凝縮部の温度が制御されるため、当該作動流体によって、より効率的な熱輸送(冷却)ができる。
【0017】
[13]
上記制御装置は、上記温度TEが、作動流体iについての上記閾値未満の場合、上記温度TCを、式:TM(i+1)<TC≦TM(i)の範囲に調整する、[12]に記載の冷却システム。(ただし、iは1~n-1の整数を表し、nは上記冷却器が含む作動流体の種類を表す2以上の整数であり、TM(i)は、上記作動流体iについての上記温度TMを表し、高温順にTM(1)、TM(2)、・・・、TM(n)である)
冷却システムが上記構成を備える場合、複数の作動流体のそれぞれについて、その効率の良い熱輸送が可能な領域を十分利用でき、結果としてより効率的な熱輸送ができる。
【0018】
[14]
上記制御装置は、上記温度TEが作動流体nについての上記閾値未満であって、かつ、上記温度TEが目標温度を超えている場合、上記凝縮部を更に冷却する、[13]に記載の冷却システム。
冷却システムが上記構成を備える場合、容器等の熱伝導を利用して、被冷却体の冷却を更に進めることができる。このとき、冷却の目標温度が極低温であって、容器の少なくともハウジングが高純度の金属材料で構成されていると、更に効率的な熱輸送ができる。
【0019】
[15]
被冷却体と冷熱源との間に[1]~[9]のいずれかに記載の冷却器を配設して、上記被冷却体と上記冷熱源との間の熱輸送により、上記被冷却体の冷却を行う、冷却方法。
[16]
上記被冷却体と上記冷却器とが熱的に接触して構成される蒸発部の温度TEが、上記冷却器が含む作動流体について予め定められた閾値未満になるまで、
上記冷熱源と上記冷却器とが熱的に接触して構成される凝縮部の温度TCを、上記作動流体の凝固温度を基準に予め定められた温度TMを超えるように調整する工程Aを含む、[15]に記載の冷却方法。
[17]
上記調整が、上記温度TCを式:TM(i+1)<TC≦TM(i)の範囲に調整する工程A2を含む、[12]に記載の冷却システム。(ただし、iは1~n-1の整数を表し、nは上記冷却器が含む作動流体の種類を表す2以上の整数であり、TM(i)は、作動流体iについての上記温度TMを表し、高温順にTM(1)、TM(2)、・・・、TM(n)である)
[18]
上記工程A2は、上記温度TEが作動流体nについての上記閾値未満であって、かつ、上記温度TEが目標温度を超えている場合、上記凝縮部を更に冷却する工程Bを含む、[17]に記載の冷却方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、間接冷却法に使用したとき、効率的に被冷却体を冷却できる冷却器が提供できる。また、本発明によれば、熱スイッチ機構、冷却システム、及び、冷却方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の冷却器の第1の実施の形態の平面図である。
図2図1のA-A′断面図である。
図3】本発明の冷却器の第1の実施の形態の正面図である。
図4】本発明の実施形態に係る冷却システムのハードウェア構成の説明図である。
図5】冷却システムの機能ブロック図である。
図6】被冷却体を300Kから目標温度まで冷却する場合における冷却システムの制御装置の動作フロー図である。
図7】冷却システムに組み込まれた本発明の熱スイッチ機構の説明図である。
図8】銅製の容器に窒素、又は、アルゴンを収容したヒートパイプと、同一形状の銅製ロッド(中実)と、銅製パイプ(中空)とによる入力された熱(Heat input)(W)に対する熱抵抗(Thermal Resistance)(K/W)の比較結果である。
図9】窒素とアルゴンとをそれぞれ収容した銅製の容器を有する本発明の冷却器(Parallel heat pipe)と、同一寸法の銅製ロッド(2 of OFHCs・Rod)を用い、低温端(凝縮部)の温度を77Kとした場合の被冷却体(蒸発部)の温度の低下にかかる時間を計算したシミュレーション結果である。
図10】アルゴン、及び、窒素が収容された容器が並列に配置されて構成された2本のヒートパイプを有する冷却器を備えた冷却システムにおいて、凝縮部の温度を77Kに維持したときの、蒸発部の温度に対する熱輸送能力を示す実験結果である。
図11図10と同様の実験において、凝縮部の温度を82Kとした場合の実験結果である。
図12図10と同様の実験において、凝縮部の温度を84Kとした場合の実験結果である。
図13図10と同様の実験において、凝縮部の温度を87Kとした場合の実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0023】
[冷却器]
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の冷却器の第1の実施の形態の平面図であり、図2は、そのA-A′断面図であり、図3は、正面図である。
【0024】
冷却器10は並列して配置された3本の長尺の容器11a、容器11b、及び、容器11c(まとめて、容器11ともいう。)と、その一方端に取り付けられた直方体状の凝縮ブロック12と、他方端に取り付けられた直方体状の蒸発ブロック13とを有している。3本の容器11は、その外径に対応する溝部を有する長尺の熱伝導体14の上記溝部にはめ込まれ、凝縮ブロック12と蒸発ブロック13とが、容器11、及び、熱伝導体14を介して接続され、熱的に接触している。
【0025】
容器11は、それぞれ中空円筒状であり、その両端は封じ切られて密閉されている。容器11は、2重構造になっており、外周のハウジング21と、上記ハウジングの内壁に沿って配置されたウィック22とを有しており、その内部(図2中「Cav」と示されている)は、空洞となっている。また、容器には、それぞれ熱輸送を担う作動流体が収容されている。
【0026】
容器11の一方端に配設された凝縮ブロック12は、冷凍機、並びに、寒剤、及び、寒剤が収容された金属容器等の冷熱源と熱的に接触して凝縮部(コンデンサーセクション)を構成し、容器11内の作動流体を冷熱源によって飽和温度に冷却し、凝縮させる機能を実現する。
また、他方端に配設された蒸発ブロック13は、被冷却体と熱的に接触して蒸発部(エバポレーターセクション)を構成し、被冷却体からの熱が投入され、容器11内の作動流体を蒸発させる機能を実現する。
【0027】
容器11は、内部にウィック22を有しており、作動流体が封入された容器11は、毛細管現象を利用したヒートパイプとして機能する。
ヒートパイプの典型的な動作としては、まず、蒸発部に投入された熱がウィック内の作動流体(液体)を蒸発させる。次に、作動流体(気体)は、空洞Cavに入り、凝縮部へと移動する。凝縮部において作動流体(気体)から熱が取り除かれると、上記が凝縮して気化潜熱が放出される。凝縮液は、ウィックの毛細管力によって再度蒸発部に送られる。この一連の熱移動によって、被冷却体が冷却されていく。
【0028】
なお、冷却器10は、作動流体が封入された内部にウィック22を有する長尺の容器11が並列されて構成される、並列型の毛細管式ヒートパイプであるが、本発明の実施形態に係る冷却器の形式としては、上記に制限されず、例えば、回転(Rotating Heat Pipe)式、ガス封入(Gas-Loaded Heat Pipe)式、ループ(LHP)式、キャピラリーポンプループ(CPL)式、自励振動(Pulsating Heat Pipe、PHP)式、モノグルーブ式、及び、逆メニスカス(Inverted Meniscus Heat Pipe)式等の各種形式とすることができる。
それぞれのヒートパイプの形状は公知であり、例えば、Frontiers in Heat Pipes (FHP),5,1(2014)の4~9頁に記載されており、上記記載は本明細書に組み込まれる。
【0029】
また、冷却器10の容器11は、2重構造になっているが、本発明の冷却器が有する容器としては、上記構造に制限されず、ウィック22を有していなくてもよい(このような容器を「ウィックレス容器」ともいう)。容器11がウィックレス容器である場合、本発明の冷却器は重力利用型の熱サイフォンであることが好ましい。なお、以下の説明では、ヒートパイプ、及び、熱サイフォン等を合わせて「ヒートパイプ等」ともいう。
【0030】
冷却器10において、3つある容器11にはそれぞれ異なる作動流体であって、いずれも標準気圧(1atm)における沸点が300K未満の作動流体が収容されている。本発明の冷却器10の容器11に収容される作動流体には、沸点が300K未満の少なくとも2種以上の作動流体が含まれていればよく、沸点が300K以上の作動流体が含まれていてもよいが、沸点が300K以上の作動流体が含まれていないことが好ましい。すなわち、容器に収容される作動流体は、沸点が300K未満のもの、のみであることが好ましい。
【0031】
沸点が300K未満の作動流体としては、特に制限されないが、例えば、亜酸化窒素、亜硫酸ガス、アルゴン、アルシン、アレン、アンモニア、一酸化炭素、一酸化窒素、エタン、エチルアセチレン、エチレン、塩化エチル、塩化水素、塩化ビニル、塩化メチル、塩素、キセノン、クリプトン、ゲルマン、五フッ化ヒ素、五フッ化リン、三塩化ホウ素、酸化エチレン、酸素、三フッ化窒素、三フッ化ホウ素、三フッ化リン、シクロプロパン、ジクロロシラン、ジシラン、四フッ化イオウ、四フッ化ケイ素、ジボラン、ジメチルエーテル、ジメチルプロパン、臭化水素、臭化ビニル、臭化メチル、シラン、水素、セレン化水素、二酸化炭素(昇華点)、窒素、トリメチルアミン、ネオン、1,3ブタジエン、フッ化スルフリル、フッ化ビニル、フッ化メチル、フッ素、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、ヘリウム、ホスゲン、ホスフィン、メタン、メチルアセチレン、メチルメルカプタン、硫化カルボニル、硫化水素、六フッ化イオウ、及び、六フッ化タングステン等が挙げられる。
【0032】
また、沸点が300K未満の作動流体としては、安全性、及び、取り扱い性等を考慮すれば、例えば、ヘリウム(融点1K、沸点4.21K、以下本段落において同様)、水素(13.8K、20.38K)、ネオン(24K、27.9K)、窒素(63.1K、77.35K)、アルゴン(83.9K、87.29K)、酸素(54.7K、90.18K)、メタン(90.6K、111.4K)、クリプトン(115.8K、119.7K)、エタン(89.9K、184.6K)、クロロジフルオロエタン(113.1K、322.2K)、及び、アンモニア(195.5K、239.9K)等が好ましい。なお、本段落において( )内の数値はそれぞれ、標準気圧における融点、及び、沸点を表す。
また、作動流体としては、二酸化炭素を用いることも好ましい。
【0033】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する冷却器が得られる点で、窒素、水素、キセノン、アルゴン、ネオン、酸素、二酸化炭素、及び、ヘリウムからなる群より選択される少なくとも1種の作動流体を含むことがより好ましく、窒素、及び、アルゴンからなる群より選択される少なくとも1種の作動流体を含むことが更に好ましく、窒素、及び、アルゴンを含むことが特に好ましい。
【0034】
なお、冷却器10は、3つの容器11a、11b、及び、11cと、それぞれに収容された3種類の作動流体を有しているが、本発明の冷却器としては、上記に制限されず、容器に収容された少なくとも2種以上の作動流体(沸点が300K未満)を有していればよい。
【0035】
本発明の冷却器は、例えば、1つの容器に収容された2種類以上の作動流体の混合物を有していてもよい。また、容器を3つ以上有していてもよい。この場合、そのうちの1つ以上の容器に、上記の作動流体の混合物が収容されていてもよい。
【0036】
冷却器が有する容器の数としては特に制限されないが、作動流体の混合物が収容される場合は、1個以上であればよく、それぞれ別の作動流体(混合物を含む)が収容される場合には、2個以上であればよく、上限は制限されないが、例えば20個以下が好ましく、10個以下がより好ましい。
【0037】
本発明の冷却器10は、容器11にガス状態の各作動流体を常温で収容し、各部材を組み立てることで製造できる。このような特徴を有する冷却器10は、少なくとも作動流体を収容した温度(例えば、300K)までは、すべての作動流体が容器11内で気化したとしても、意図しない内圧の高まりによる容器11の破損が抑制される。
【0038】
一般に、ヒートパイプ等は、熱負荷が増加し、熱輸送能力を超えると、内部に収容された作動流体がすべて蒸発してしまい、ヒートパイプ等としての優れた熱輸送機能が停止する(ドライアウト状態となる)。ドライアウト状態となると、容器の内圧が上昇し、破裂の虞がある。そのため、一般のヒートパイプ等、特に常温で液状の作動流体を収容して製造されるヒートパイプ等においては、ドライアウト状態はもちろん、容器内の少なくとも一部が(典型的には、蒸発部の周辺が)ドライアウト状態(部分的ドライアウト状態)であっても、これが積極的に使用されることはなかった。
【0039】
また、被冷却体の冷却の目標温度が100K以下になるような極低温領域では、作動流体としてヘリウム、アルゴン、及び、酸素等が使用されることがあったが、これらは気化熱が小さく、粘度が高く、更に、表面張力が小さいため、ヒートパイプ等を用いても輸送できる熱量は少ないと考えられていたため、極低温領域で冷却用にヒートパイプ等を用いることの検討の妨げとなってきた。
【0040】
本発明者らは上記の技術常識にとらわれず、極低温領域でのより効率的な冷却方法を鋭意検討し続けた。
【0041】
まず、本発明者らは、従来の間接冷却法の問題点について、再度検討した。その結果、被冷却体と冷熱源とを繋ぐ、熱伝導体(一般に銅ストランド等が用いられる)の熱伝導率に問題の一つがあることを突き止めた。
【0042】
一般に、100K以下の極低温領域では、金属材料の熱伝導率は金属材料の純度に大きく影響を受ける。すなわち、銅、及び、アルミ等の金属材料の熱伝導率は極低温領域では純度が高いほど高まる。
しかし、100Kを超える領域では、熱伝導率に及ぼす純度の影響は小さく、金属材料(例えば銅ストランド)の高純度化だけでは、300Kから極低温領域まで被冷却体を冷却するための時間を短縮することは難しかった。
【0043】
この300Kから100K程度までの冷却(以下「予冷」ともいう。)の時間の短縮は、冷却時間の短縮に大きな影響を与えるため、特に予冷、更には、目標温度までの冷却時間の短縮の方法を、本発明者らは更に検討した。
【0044】
その結果、従来、検討されてこなかった、ヒートパイプ等を用いて、更に、従来、使用範囲外と思われていた部分的ドライアウト状態からの使用によれば、金属ストランドをはるかに超える効率的な熱輸送が実現することを遂に知見し、本発明を完成させた。
【0045】
すなわち、沸点が300K未満の作動流体を収容した容器で構成されるヒートパイプを用いて、被冷却体を300K以下に冷却することによれば、従来高純度金属による恩恵を得にくかった予冷領域においても、ヒートパイプによる優れた熱輸送効率が得られ、全体として、目標温度までの冷却時間を顕著に短縮せしめることができたのである。
【0046】
図8は、銅製の容器に窒素、又は、アルゴンを収容したヒートパイプ(それぞれ、「N」と記載された三角のプロット、「Ar」と記載された星形のプロット)と、同一形状の銅製ロッド(中実)と、銅製パイプ(中空)とによる入力された熱(Heat input)(W)に対する熱抵抗(Thermal Resistance)(K/W)の比較結果である。
【0047】
図8によると、入力された熱(Heat input)の大きさによらず、銅製ロッド(Cal.Copper Tube)や銅製パイプ(Cal.Copper Rod)の計算値と比較して、それぞれの作動流体を収容したヒートパイプの方が熱抵抗は小さいことがわかる。更に、驚くべきことに、矢印D1、及び、矢印D2よりも横軸右側方の領域、すなわち、部分的ドライアウト状態(凝縮部で作動流体の液化は起こるが、容器内には液状の作動流体が存在しない領域がある)であっても、なお銅製ロッドや銅製パイプと比較してより小さな熱抵抗率であることが明らかになったのである。
【0048】
更に本発明の冷却器はヒートパイプ等を並列化、又は、複数の作動流体を混合したヒートパイプ等(この場合は熱サイフォン式が好ましい)等を用いるため、ヒートパイプ等による効率的な熱輸送の作動温度領域をより広く取ることができるため、これも冷却時間の短縮に貢献している。
【0049】
作動流体は、冷却の目標温度に応じて適宜選択すればよいが、高純度金属による高熱伝導率の優位性を十分にうけにくい予冷領域での冷却速度をより向上する観点では、作動流体は、窒素、水素、キセノン、アルゴン、ネオン、酸素、二酸化炭素、ヘリウム、メタン、クリプトン、エタン、クロロジフルオロエタン、及び、アンモニアからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、窒素、水素、キセノン、アルゴン、ネオン、酸素、二酸化炭素、ヘリウムメタン、クリプトン、エタン、及び、クロロジフルオロエタンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、窒素、水素、キセノン、アルゴン、ネオン、酸素、二酸化炭素、ヘリウム、メタン、クリプトン、及び、エタンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが更に好ましく、窒素、水素、キセノン、アルゴン、ネオン、酸素、二酸化炭素、ヘリウム、メタン、及び、クリプトンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが特に好ましく、窒素、水素、キセノン、アルゴン、ネオン、酸素、二酸化炭素、及び、ヘリウムを含むことが最も好ましい。
【0050】
更に、容器、(及び、熱伝導体14)を高純度の金属材料により形成すれば、予熱ではヒートパイプ等の効率的な熱輸送、およそ100K以下の温度領域では、更に高純度金属による効率的な熱伝導による熱輸送の効果が得られ、予冷~目標温度までの冷却の全体をより効率的に行うことができる。
【0051】
容器の材質としては特に制限されないが、銅、及び、アルミニウム等が好ましく、残留抵抗比(RRR)が30以上(以下、単に「高純度」ともいう。)であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、300以上であることが更に好ましい。上限は特に制限されないが、一般に30000以下が好ましい。
【0052】
特に、容器に収容された作動流体のうちで、最も凝固点の低い作動流体の凝固点よりも、被冷却体についての冷却の目標温度が低い場合であって、及び/又は、上記目標温度が、100K以下(好ましくは90K以下、より好ましくは80K以下が、更に好ましくは70K以下、特に好ましくは60K以下、最も好ましくは50K以下)である場合、容器の材質が上記の残留抵抗比(RRR)が30以上の金属材料であると、更に効率的な冷却を行うことができる。
【0053】
上記のような場合、高純度金属材料の熱伝導率の優位性が発揮されにくい100Kを超えるような温度領域(予冷)では、作動流体が収容されたヒートパイプ等としての稼働による、より効率的な熱輸送を享受でき、被冷却体の冷却が進み、高純度金属材料の熱伝導率の優位性が発揮される領域では、作動流体がすべて凝固してしまうような場合であっても、容器の熱伝導による、より効率的な熱輸送が可能となる。すなわち、ヒートパイプ等、及び、高純度金属材料を組み合わせることによって、特に目標温度が極低温領域の場合に、より効率的な冷却が可能になる。
【0054】
高純度金属の熱伝導率は温度に対して極大値を有し、そのピーク温度は、純度が高くなると、低温側にシフトすることが知られている。そのため、容器の金属材料の純度は、その熱伝導率の極大となる領域をより効率的に使えるように、目標温度に応じて定めればよい。すなわち、目標温度が、熱伝導率のピーク温度以上(ピーク温度以上に高温側に)になるよう選択されることが好ましい。
【0055】
一方、作動流体が、ヘリウム、水素、及び、ネオンからなる群より選択される少なくとも1種を含む場合、目標温度がより低くてもヒートパイプの効率的な熱輸送の効果を得ることができる。
【0056】
図9は、窒素とアルゴンとをそれぞれ収容した銅製の容器を有する本発明の冷却器(Parallel heat pipe)と、同一寸法の銅製ロッド(2 of OFHCs・Rod)を用い、低温端(凝縮部)の温度を77Kとした場合の被冷却体(蒸発部)の温度の低下にかかる時間を計算したシミュレーション結果である。
図9の結果から、同一寸法の銅製ロッドを使用した場合と比較して、本発明の冷却器を用いた場合には、冷却時間をおよそ1/3にできることが明らかになった。
【0057】
次に、典型的な冷却器10の使用方法について説明する。
冷却器10は、被冷却体と冷熱源との間に、それぞれと熱的に接触するよう配設される。典型的には、被冷却体と蒸発ブロック13とが接触して蒸発部を構成し、冷熱源と凝縮ブロック12とが接触して凝縮部を構成するよう配設される。
このような構成によって、被冷却体を300K以下の目標温度まで冷却する方法について説明する。
【0058】
まず、冷却器10の容器11には、それぞれ沸点の異なる作動流体が収容されている。そのため、容器11内における各作動流体の飽和温度もそれぞれ異なっている。ここでは、容器11に収容されている各作動流体をそれぞれ作動流体1、2、3とし、その飽和温度をそれぞれ高温側から、k(1)、k(2)、k(3)[単位はK]とする。
【0059】
まず、凝縮部の温度が、作動流体1の飽和温度よりも高い場合には、いずれの作動流体も気化しており、いわゆるドライアウト状態となっている。
従来、ドライアウト状態では、熱輸送の効率が下がること、及び、内圧が上がって容器が破裂する可能性があると考えられていたが、本発明の冷却器においては、それぞれの容器には沸点が300K以上の作動流体が収容されているため、ドライアウト状態であっても破裂の虞はほとんどない。
【0060】
次に凝縮部の温度が、作動流体1の飽和温度[k(1)]K程度になると、容器11内部の凝縮部の周辺で作動流体1が凝縮し始め、ウィック22が完全に乾いたドライアウト状態から、容器の少なくとも一部(ウィック22の一部)に液状の作動流体1が発生し始める。この状態は、容器内が部分的なドライアウト状態になっているということができ、この領域を積極的に利用することにより優れた熱輸送効率が得られる。
【0061】
この部分的なドライアウト状態、及び、通常のヒートパイプとして動作する状態を経て、被冷却体(蒸発部)が一定水準まで冷却されると、冷熱源の温度等によっては、凝縮部の温度が作動流体1の凝固温度より低くなる。すると、作動流体1は、容器11内にて凝固する。すると、作動流体1が収容された容器11による熱輸送は、容器11の筐体(ハウジング21)の熱伝導が主体となり効率が下がる。
【0062】
一方、冷却器10は、作動流体1よりも飽和温度の低い作動流体2、及び、作動流体3が収容された容器11を更に有している。そのため、凝縮部の温度が下がるに従って、順次、作動流体2が収容された容器11、作動流体3が収容された容器11が上記と同様に作動していく。
【0063】
このようにして、本発明の冷却器は、間接冷却法に適用した場合、効率よく被冷却体の温度を下げることができる。
【0064】
なお、冷却器10は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の効果を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。また、各部の寸法等についても用途等に応じて、公知の方法によって適宜変更である。
【0065】
例えば、冷却器10は、凝縮ブロック12、蒸発ブロック13、及び、熱伝導体14を有しているが、本発明の実施形態に係る冷却器としては、上記各部材の一部、又は、全部を有していなくてもよい。
その場合、並列して配置された複数の容器11の一方端が冷凍機のコールドステージに熱的に接触していたり、及び/又は、他方端が被冷却体に熱的に接触していたりする形態であってもよい。
【0066】
また、冷却器10において、凝縮ブロック12、及び、蒸発ブロック13は、それぞれ容器11の両端に配置されているが、凝縮ブロック12、及び、蒸発ブロック13と、容器11との相対的な位置関係は任意に変更することができる。
また、本冷却器10は、凝縮ブロック12と蒸発ブロック13とを1組有しているが、上記に制限されず、冷却器は、複数の凝縮ブロックと蒸発ブロックとを有していてもよい。
【0067】
また、容器11の形状、及び、大きさも特に制限されず、用途に応じて適宜変更可能である。容器11は中空円筒状であるが、矩形、錐形、環状、及び、波形等のいずれであってもよい。
本実施形態に係る冷却器は、超電導部材等を冷却するための間接冷却法に用いると、効率的に冷却を行うことができ、従来よりも冷却にかかる時間(特に予冷にかかる時間)を大幅に減少させることができる。
【0068】
[冷却システム]
図4は、本発明の実施形態に係る冷却システムのハードウェア構成の説明図である。
冷却システム40は、冷凍機52と、被冷却体44との間に配設された冷却器10とを有する。
【0069】
冷凍機52は、コールドヘッド41、1段目のコールドステージ42a、及び、2段目のコールドステージ42bからなる冷凍ユニット43と、圧縮ユニット50と、制御装置51とから構成されている。
【0070】
被冷却体44は、クライオスタット49内に配置された輻射シールド48内に配置されており、冷却器10の蒸発ブロック13と熱的に接触して蒸発部を構成しており、クライオスタット49内の輻射シールド48内に挿入された二段目のコールドステージ42bは、凝縮ブロック12と熱的に接触して凝縮部を構成している。
なお、図示は省略されているが、凝縮ブロック12と蒸発ブロック13との間には熱伝導体14も配設されている。なお、冷却システムは、熱伝導体14を有していなくてもよい。
【0071】
作動流体が収容されている容器11は、各作動流体のバッファータンク45と、弁46、及び、配管47を介して接続されていて、内部の作動流体の量を調整することができるようになっている。なお、冷却システムは、上記バッファータンク45を有していなくてもよい。
また、本実施形態に係る冷却器10は、容器の内部にウィックを有するヒートパイプであるが、熱サイフォン(重力還流式ウィックレスヒートパイプ)であってもよい。
【0072】
また、冷却システム40は凝縮部の温度TCを検出する凝縮部温度センサと、蒸発部の温度TEを検出する蒸発部温度センサとを有している。また、冷却システム40は、凝縮部を加温するための再熱ヒータを有している。なお、いずれも図示は省略されている。
【0073】
次に、冷却システム40の機能について説明する。図5は、冷却システム40の機能ブロック図である。
冷却システム40は、制御装置51と、冷却部61と温調部62と、温度比較部63とを有しており、各部は相互にデータのやり取りが可能なように構成されている。
【0074】
まず、制御装置51は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及び、RAM(Random Access Memory)等を含む周知のコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置51は、そのROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行う。制御装置51は、凝縮部温度センサ、及び、蒸発部温度センサの入力をもとに、冷却部61、温調部62、及び、温度比較部63を制御し、冷却システム40の各機能を実現する。
【0075】
なお、制御装置51の全部、又は、一部をFPGA(Field Programmable Gate Array)及び、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の回路を用いて構成することも可能である。
すなわち、図9に記載された各機能ブロックの機能は、例示されたコンピュータをベースに構成することもできるし、その全部、又は、一部をFPGA、及び、ASICなどの回路を用いて構成することができる。
また、各機能ブロックの機能の少なくとも一部は、アナログ回路によって構成することも可能である
【0076】
制御装置51の入力側には、蒸発部の温度TEを検出する蒸発部温度センサ64と凝縮部の温度TCを検出する凝縮部温度センサ65とが接続されている。そして、制御装置51には、これらのセンサ群の検出信号が入力される。
【0077】
冷却部61の機能は、制御装置51の記憶デバイスに記憶されたプログラム(冷却部制御PG61a)が、CPUによって実行され、冷凍ユニット43、及び、圧縮ユニット50に接続された1段目のコールドステージ42a、及び、2段目のコールドステージ42bが制御されて実現される。
【0078】
温調部62の機能は、制御装置51の記憶デバイスに記憶されたプログラム(温調部制御PG62a)が、CPUによって実行され、再熱ヒータ62bが制御されて実現される。温調部62によって凝縮部の温度が(典型的には加熱されて)調整される。
なお、本冷却システム40は、再熱ヒータ62bを有しているが、冷却システム40が再熱ヒータ62bを有していない場合、温調部62は、圧縮ユニット50、及び/又は、冷凍ユニット43の出力を制御して、凝縮部の温度を調整する形態とすることもできる。
【0079】
温度比較部63の機能は、制御装置51の記憶デバイスに記憶されたプログラムが、CPUによって実行されて実現される。温度比較部63は、蒸発部温度センサの検出信号(蒸発部の温度TE)を作動流体ごとに予め定められてROMに記憶された閾値(詳細は後述する)と比較するTE/閾値比較部63aと、凝縮部温度センサの検出信号(凝縮部の温度TC)と作動流体の凝固温度を基準に予め定められた温度TMとを比較するTC/TM比較部63bを有している。
【0080】
次に、冷却システム40の動作について、制御装置51の動作フローに基づいて説明する。
【0081】
図6は、被冷却体を300Kから目標温度まで冷却する場合における冷却システム40の制御装置51の動作フロー図である。
なお、以下の説明において、冷却器10の容器11に収容された作動流体を、沸点の高い順に、それぞれ、作動流体1、作動流体2、・・・、作動流体nという(冷却器10については、n=3となる)。
【0082】
まず、ステップS71において、制御装置51によって、冷却部61が制御され、1段目のコールドステージ42a、及び、2段目のコールドステージ42bの冷却が開始される。コールドステージ(42a、42b)の冷却が開始されると、凝縮部が冷却されると共に、冷却器10による熱輸送によって蒸発部も冷却されていく。
【0083】
冷却が開始され、凝縮部の温度TCが、作動流体1の飽和温度に達すると、凝縮部において作動流体1の凝縮が始まり、作動流体1が収容された容器内では、部分的ドライアウト状態になってヒートパイプとしての動作が始まり、凝縮部と蒸発部との間で効率的な熱輸送が開始され、蒸発部の温度が迅速に低下していく。
【0084】
次に、ステップS72において、制御装置51によって、温度比較部63が制御され、蒸発部温度センサによって検出される蒸発部の温度TEと、作動流体1について予め定められた閾値とが比較される。この閾値は、効率的な熱輸送を得るための下限値の温度として予め定められる値である。
【0085】
この閾値は、典型的には作動流体1が収容された容器がヒートパイプとして効率的に熱輸送するために必要な蒸発部と凝縮部との温度差、飽和圧力等を考慮して定められる。
閾値の定め方は特に制限されないが、一例として、以下のような実験結果に基づき定めることもできる。
【0086】
図10~13は、アルゴン、及び、窒素が収容された容器が並列に配置されて構成された2本のヒートパイプを有する冷却器を備えた冷却システムにおいて、凝縮部の温度を77K(図10)、82K(図11)、84K(図12)、及び、87K(図13)に維持したときの、蒸発部の温度に対する熱輸送能力を示す実験結果である。横軸は蒸発部の温度(K)、縦軸は熱伝達率(Heat Transfer Rate)(W)を示している。なお、各図中、Parallel-Heat pipeとあるのは、上記冷却器の測定値、OFHCs-Rodとあるのは、銅製ロッドの測定値、及び、OFHCs-Tubeとあるのは、銅製チューブの測定値である。
【0087】
図10~13の結果から明らかなように、蒸発部の温度が常温付近である状態(約300K)から冷却を開始すると、蒸発部の温度がおよそ90K以上であるときには、熱伝達率が高く維持されていることがわかる。これは、部分的ドライアウト状態を経て開始されるヒートパイプとしての動作によって優れた熱輸送効率が得られるためだと推測される。
【0088】
一方、蒸発部の温度がおよそ90K未満になってくると、凝縮部と蒸発部との温度差は徐々に小さくなって、結果として熱伝達率は下がってくることがわかる。
このような実験結果によれば、作動流体としてアルゴンを対象とした場合には、その閾値を84~89Kに定めるという方法がある。
【0089】
各作動流体の閾値は、容器内に封入する作動流体の圧力によって異なるものの、一例として、ヘリウムは2~3K、水素は14~20K、ネオンは27~32K、窒素は70~75K、アルゴンは84~89K、酸素は73~78K、メタンは91~96K、クリプトンは116~121K、エタンは150~155K、クロロジフルオロエタンは、193~198K、及び、アンモニアは、213~218K等が挙げられる。
【0090】
次に、上記比較の結果、温度TEが作動流体1の閾値以上である、すなわち、温度TEが閾値未満「ではない」場合(ステップS73:NO)、依然として、蒸発部の温度は十分に高く、作動流体1による効率的な熱輸送が可能な領域である。
そのため、制御装置51は、凝縮部温度センサによって検出される凝縮部の温度TCを、作動流体1の凝固温度を基準に予め定められた温度TM(1)を超えるように調整する(ステップS74)。すなわち、制御装置51は、凝縮部において作動流体1が凝固して熱輸送効率が下がらない様、温度TCを監視して、必要に応じて温調部62を制御し、凝縮部の温度を調整する(工程A)。
【0091】
温調部62の機能として説明したとおり、凝縮部の温度制御の方法は特に制限されないが、例えば、再熱ヒータによって加熱したり、電力供給を調整することによってコールドステージの出力を調整したりする方法が挙げられる。
このようにすることで、作動流体1が収容された容器が、ヒートパイプとして十分に稼働し、凝縮部と蒸発部との間での効率的な熱輸送が得られる。
【0092】
なお、この温度TM(1)は、作動流体1の凝固点等を参考に定めることができる。例えば、図10~13の実験結果において、作動流体であるアルゴンに着目すると、温度TM(1)は、77Kを超える値とすることが好ましく、82K以上の値が更に好ましい。なお、TM(1)の上限は特に制限されないが、作動流体1の飽和温度以下が好ましい。
【0093】
一方、上記比較の結果、温度TEが閾値未満の場合(ステップS73:YES)、蒸発部の冷却が進んだことにより、温度TCと温度TEとの差が小さくなり、既に作動流体1で効率的な熱輸送が行える範囲の下限を温度TEが下回っている状態であるため、次に、熱輸送の主体を作動流体2が収容された容器に切り替える。
【0094】
すなわち、制御装置51が温調部62を制御して、温度TCを、式:TM(i+1)<TC≦TM(i)の範囲に調整する(ステップS75、工程A2)。
式中、iは1~n-1の整数を表し、nは冷却器が含む作動流体の種類(すなわち種類の合計)を表す2以上の整数であり、TM(i)は、作動流体iについての温度TMを表し、高温順にTM(1)、TM(2)、・・・、TM(n)である。
【0095】
具体的に説明すると、ステップS73において、TEが作動流体1(すなわちi=1)について定められた閾値未満である場合(ステップS73:YES)、制御装置は、1回目のステップS75として、温度TCをTM(2)<TC≦TM(1)の範囲に制御する。
【0096】
凝縮部がTM(1)以下となると、作動流体1は既に容器内で凝固しはじめている(又は、完全に凝固している)ため、作動流体1が収容された容器は、ヒートパイプ動作による効率的な熱輸送ができなくなっているが、一方で、収容されている作動流体の中で次にTMが高い作動流体2の作動範囲内で温度TCを維持することによって、作動流体2が収容された容器のヒートパイプ動作によって効率的な熱輸送を行うことができる。
【0097】
次に、ステップS76において、再度、蒸発部の温度TEと、作動流体i+1(1回目のステップS76では、i+1は2である)について予め定められた閾値とが比較される。この閾値は、作動流体1の場合と同様に定めることができる。
【0098】
この結果、温度TEが作動流体i+1の閾値未満であって(ステップS76:YES)、温度TEが目標温度を超えている、すなわち目標温度以下「ではない」場合であって(ステップS77:No)、i+1がn未満である(すなわち、最後の種類の作動流体でない)場合(ステップS78:YES)、iに1が加えられて(i=i+1)(ステップS79)、ステップS75~ステップS78が繰り返される。
この繰り返しによって、冷却器に複数含まれる作動流体のそれぞれを、部分的ドライアウト状態~ヒートパイプとして効率よく動作する状態で順次利用することができ、より短時間で冷却を行うことができる。
【0099】
一方、温度TEが作動流体i+1の閾値未満「ではない」場合、すなわち、閾値以上である場合(ステップS76:NO)、作動流体i+1が収容された容器の効率よいヒートパイプ動作は依然として可能であるため、再度、温度TCがTM(i+1)<TC≦TM(i)の範囲に制御される(ステップS75)。
【0100】
また、温度TEが作動流体i+1の閾値未満であって(ステップS76:YES)、温度TEが目標温度に達している、すなわち、温度TEが目標温度以下である場合(ステップS77:YES)、冷却は終了する。
【0101】
また、上記繰り返しの結果、i+1がnと等しくなった場合、すなわち、i+1がn未満「ではない」場合(ステップS78:No)、繰り返しは終了する。この状態はすなわち、最も低い閾値(つまり、最も低い温度TM)を持つ作動流体nによる効率のよいヒートパイプ動作が可能な領域よりも蒸発部が更に冷却されていることを示している。
【0102】
このとき、蒸発部の温度TEが、目標温度に以下である場合には(ステップS80:YES)、冷却は終了する。
一方、TEが目標温度を超えている場合、すなわち、目標温度以下「ではない」場合(ステップS80:NO)、制御装置51は、温調部62を制御して、コールドステージ42bを更に冷却することによって凝縮部を更に冷却する(ステップS81、工程B)。
【0103】
この工程Bにおいては、典型的には容器内の作動流体nをはじめとする各作動流体は少なくとも凝縮部において凝固しており、そのため、ヒートパイプとしての優れた熱輸送効率は発揮されにくい。
このとき、冷却器10の容器11の少なくとも1つの材質が、高純度金属であると、より優れた冷却効率が得られる。この傾向は、目標温度が、極低温領域(具体的には100K)以下である場合に特に顕著である。その理由は、銅、及び、アルミ等の熱伝導率が極低温領域において純度によって大きく変わるためである。
【0104】
すでに説明したとおり、銅、及び、アルミ等の金属材料の熱伝導率は、極低温領域で、極大値を有し、その極大温度は、金属材料の純度が高まるに従い低温側にシフトすることが知られている。
冷却の目標温度との関係では、より効率的な熱輸送が実現し、より短時間で冷却が行える観点で、容器の材質によって定まる熱伝導率の極大温度以上の(高い)温度に目標温度を設定することが好ましい。
【0105】
なお、本冷却器は、すでに説明したとおり、冷却システム40のように冷凍機52と組み合わせて用いることもできるが、冷凍機以外の冷熱源と組み合わせて被冷却体の冷却に用いることもできる。
このような冷熱源としては、例えば、各種寒剤を収容した金属容器等、及び、各種寒剤そのもの等が挙げられる。また、このような冷熱源を使用した場合であっても、上記と同様の冷却方法を適用することができる。
【0106】
[熱スイッチ機構]
次に、本発明の冷却器を用いた熱スイッチ機構について説明する。熱スイッチ機構とは、例えば、冷熱源と被冷却体との間に冷却器を配置し、被冷却体を所定の温度まで冷却した後、両者の間の熱伝導を減少(遮断)する熱伝導の切り替えスイッチ機構を意味する。
【0107】
被冷却体である超電導部材等の冷却に際し、目標温度まで冷却が終了しても、更に冷凍機を運転し続けると消費エネルギーが大きくなる。一般に、超電導部材等は抵抗が小さく、発熱量も小さいため、一旦、冷却の目標温度に達した後は、冷凍機の運転を停止したとしても、冷凍機と被冷却体との間を熱的に切り離せれば、極低温の動作環境を保つことができる。
【0108】
このような熱的な切り離しは、機械的な機構をもって行うこともできる。しかし、特に被冷却体が超電導部材等である場合、機械的な機構によって生ずる熱や振動が、大きな問題となってしまう場合がある。また、機械的な機構をクライオスタット内に収めるには、構造的な制約もあり、物理的な接触やその解除を伴わない、熱スイッチ機構が求められている。
【0109】
図7は、冷却システムに組み込まれた本発明の熱スイッチ機構の説明図である。なお、以下では、すでに説明した冷却システム40との違いについて主に説明し、すでに説明した冷却システム40と同様の部分は説明を省略する。
【0110】
冷却システム90は、熱スイッチ機構92を備えており、熱スイッチ機構92は、容器91と、その両端に配置された凝縮ブロック12と、蒸発ブロック13とを有する。この容器91には、すでに説明した冷却器10と同様に、それぞれ異なる種類の作動流体が収容されている。
【0111】
熱スイッチ機構92の特徴点の一つは、容器91の293Kにおける熱伝導率が24W/m・K以下である点である。容器91の熱伝導率が低いため、容器91自体による熱伝導による凝縮部と蒸発部の間の熱輸送は無視できるほどに小さい。なお、熱伝導率の下限としては特に制限されないが、一般に、0.01W/m・K(293K)以上であってよい。
【0112】
冷却システム90は、冷却の目標温度を作動流体nが凝縮部において凝固する温度程度に設定して使用する。
【0113】
冷却がスタートすると、すでに説明した冷却システム40と同様に蒸発部の冷却が効率的に進んでいく。そして、目標温度に達すると、作動流体nは凝縮部において凝固するため、各容器91のヒートパイプとしての動作は停止する。
【0114】
このとき、凝縮部と蒸発部とは、容器91によって接続されているものの、容器91の熱伝導率が低いため、ヒートパイプとしての動作が止まったのちは、凝縮部と蒸発部との熱輸送が殆ど起こらなくなる。これによって、機械的な機構を全く備えなくとも熱スイッチ機構が実現される。
【0115】
なお、熱スイッチ機構92の容器91の材質としては、熱伝導率が所定の範囲にあれば、特に制限されないが、ステンレス鋼等が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の冷却器によれば、従来知られていたヒートパイプ/熱サイフォンについて極低温に沸点のある作動流体を複数種組み合わせることで幅広い動作範囲で高い熱伝導度を実現することができ、極低温機器の冷却速度を飛躍的に短縮することができる。
【0117】
一形態として15~90K程度で液化するガス(アルゴン、酸素、窒素、ネオン、キセノン、及び、水素)をそれぞれ充填した容器を並列で、又は、これらを混合して充填した容器を組み合わせることで幅広い温度領域での熱輸送能力の劇的な改善が可能になった。
【0118】
本発明の冷却器を用いれば、従来、熱輸送効率が高めにくいとされていた水平方向における使用であっても、300Kから温度約80Kまでに冷却する時間が従来の1/3程度に短縮され、冷却に必要なエネルギーも大幅に削減することが可能である。また、従来知られた各種ヒートパイプ/熱サイフォンの技術をそのまま適用できるため、応用の幅は広い。
【0119】
また、特徴点の一つとして、ヒートパイプの(部分的)ドライアウト状態も極低温ヒートパイプでは活用可能であることに着目して、これを実験的に証明したことでヒートパイプが動作可能な領域を広げた。
【0120】
本発明の冷却器、熱スイッチ機構、冷却システム、及び、冷却方法は、宇宙科学分野(人工衛星に搭載される極低温機器の冷却等)、医療分野(超電導部材を利用した磁気共鳴映像装置の冷却等)、及び、物性科学分野(各種の超電導部材を用いた装置の冷却等)において、利用可能である。
【符号の説明】
【0121】
1:作動流体、2:作動流体、3:作動流体、10:冷却器、11:容器、12:凝縮ブロック、13:蒸発ブロック、14:熱伝導体、21:ハウジング、22:ウィック、40、90:冷却システム、41:コールドヘッド、42a、42b:コールドステージ、43:冷凍ユニット、44:被冷却体、45:バッファータンク、46:弁、47:配管、48:輻射シールド、49:クライオスタット、50:圧縮ユニット、51:制御装置、52:冷凍機、61:冷却部、62:温調部、63:温度比較部、91:容器、92:熱スイッチ機構
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
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図10
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図13