(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002735
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散液
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20221227BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221227BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221227BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20221227BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D7/61
C09D5/02
C09D7/62
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170169
(22)【出願日】2022-10-24
(62)【分割の表示】P 2020507848の分割
【原出願日】2019-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2018056709
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 大輔
(72)【発明者】
【氏名】村上 智
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 吉恭
(72)【発明者】
【氏名】太田 勇夫
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シアヌル酸亜鉛の金属表面の防蝕等の機能を十分に発揮できるシアヌル酸亜鉛粒子を含む分散液の製造方法、および該分散液を含む被覆組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】シリカゾルと、シアヌル酸亜鉛粒子又はそのスラリーとを、液中分散機を用いて混合する工程を含む、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散質粒子が、液状媒体に分散した分散液の製造方法とする。前記コロイド状シリカ粒子の平均粒子径が5nm乃至500nmであって、該コロイド状シリカ粒子をSiO
2濃度で0.1質量%乃至40質量%で含有する、前記分散液の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカゾルと、シアヌル酸亜鉛粒子又はそのスラリーとを、液中分散機を用いて混合する工程を含む、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散質粒子が、液状媒体に分散した分散液の製造方法。
【請求項2】
前記コロイド状シリカ粒子の平均粒子径が5nm乃至500nmであって、該コロイド状シリカ粒子をSiO2濃度で0.1質量%乃至40質量%で含有する請求項1に記載の分散液の製造方法。
【請求項3】
前記シアヌル酸亜鉛粒子の、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子の長軸の長さが50nm乃至1000nmであり、且つ短軸の長さが10nm乃至300nm、長軸と短軸の長さの比が2乃至25であり、前記シアヌル酸亜鉛粒子を、その固形分として0.1質量%乃至50質量%で含有する請求項1に記載の分散液の製造方法。
【請求項4】
コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子を含む分散質粒子のレーザー回折法平均粒子径が80nm乃至2000nmであり、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子両者の合計固形分として0.1質量%乃至50質量%で含有する請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項5】
分散質粒子はコロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子が、コロイド状シリカ:シアヌル酸亜鉛の質量比で1:0.01乃至100の割合であり、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子との合計固形分が0.1質量%乃至50質量%である請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項6】
液状媒体が、水又は有機溶媒である請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項7】
液中分散機が、サンドグラインダー、ビーズミル、アトライター、又はパールミルである請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の製造方法で製造された分散液と、樹脂エマルジョンとを液中分散機を用いて混合する工程を含む、被覆用組成物の製造方法。
【請求項9】
樹脂エマルジョンが、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、アクリル-シリコーン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、プロピル系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、アミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、フタル酸系樹脂、シリコーン系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂よりなる群から選ばれる1種または2種以上の樹脂の水中油滴型エマルジョンである請求項8に記載の被覆用組成物の製造方法。
【請求項10】
分散液中の固形分と樹脂エマルジョン中の樹脂分が、(分散体中の固形分):(樹脂エマルジョン中の樹脂分)の質量比で1:0.1乃至10の割合であり、被覆用組成物中の全固形分が1質量%乃至70質量%である請求項8又は請求項9に記載の被覆用組成物の製造方法。
【請求項11】
シリカゾルと、シアヌル酸亜鉛粒子又はそのスラリーと、樹脂エマルジョンとを、液中分散機を用いて混合する工程を含む、請求項8乃至請求項10の何れか1項に記載の被覆用組成物の製造方法。
【請求項12】
液中分散機が、攪拌機、回転せん断型攪拌機、コロイドミル、ロールミル、高圧噴射式分散機、超音波分散機、容器駆動型ミル、媒体攪拌ミル、又はニーダーである請求項8乃至請求項11の何れか1項に記載の被覆用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散液、その製造方法、及びそれを用いた被覆用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄系金属の金属表面の腐食防止剤としてシアヌル酸亜鉛が知られている。
【0003】
例えばPbO又はZnOとシアヌル酸を100℃乃至180℃でペースト状に混合し、得られたペーストに50℃乃至250℃でせん断作用を加えるシアヌル酸鉛又はシアヌル酸亜鉛の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
有機化合物の亜鉛塩及び/又は鉛塩を基礎とする金属表面の腐食防止被覆剤において、バルビツール酸、シアヌル酸等の有機化合物の亜鉛塩及び/又は鉛塩を用いる組成物が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
レーザー回折法により測定した平均粒子径D50が80nm乃至900nmであり、比表面積が20m2/g乃至100m2/gであって、透過電子顕微鏡観察による一次粒子径は、長軸の長さが100nm乃至800nm、短軸の長さが10nm乃至60nmであり、長軸/短軸の長さの比(軸比)が5乃至25であることを特徴とする針状又は板状の塩基性シアヌル酸亜鉛微粒子が開示されている(特許文献3参照)。
【0006】
酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種とシアヌル酸と水とを、水に対してシアヌル酸濃度が0.1質量%乃至10.0質量となるように配合した混合スラリーを、5℃乃至55℃の温度範囲で分散メディアを用いた湿式分散を行うことにより製造され、レーザー回折法により測定した平均粒子径D50が80nm乃至900nmで、比表面積が20m2/g乃至100m2/gであることを特徴とする針状又は板状の塩基性シアヌル酸亜鉛微粒子が開示されている(特許文献4参照)。
【0007】
酸化亜鉛、シアヌル酸及び水からなる混合粉末であって、酸化亜鉛のシアヌル酸に対するモル比は2乃至3であり、且つ混合粉末の水分量が9質量%乃至18質量%である混合粉末を、密閉又は開放下で30℃乃至300℃の範囲で加熱処理することを特徴とする目開き1000μmの篩残分が1質量%未満の透過型電子顕微鏡による一次粒子の長軸が50nm乃至2000nmであり、且つ短軸が20nm乃至300nmである塩基性シアヌル酸亜鉛粉末の製造方法が開示されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59-031779号公報
【特許文献2】特開昭54-123145号公報
【特許文献3】特開2015-117245公報
【特許文献4】国際公開第2011/162353号
【特許文献5】国際公開第2016/006585号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シアヌル酸亜鉛は金属表面の防蝕機能が高い事は知られているが、得られる粒子は針状又は板状粒子であり、それら粒子は粒子径が大きく媒体に分散した場合にスラリー状とな
り、樹脂と混合して被覆組成物にする上でハンドリングに困難な点があった。
【0010】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、シアヌル酸亜鉛の金属表面の防蝕等の機能を十分に発揮できる、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散液と、それを含む被覆組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子を分散質として、液状媒体に分散した時に分散性が良好な安定な分散液が得られる事を見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は第1観点として、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散質粒子が、液状媒体に分散した分散液に関する。
第2観点として、前記コロイド状シリカ粒子の平均粒子径が5nm乃至500nmであって、該コロイド状シリカ粒子をSiO2濃度で0.1質量%乃至40質量%で含有する第1観点に記載の分散液に関する。
第3観点として、前記シアヌル酸亜鉛粒子の、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子の長軸の長さが50nm乃至1000nmであり、且つ短軸の長さが10nm乃至300nm、長軸と短軸の長さの比が2乃至25であり、前記シアヌル酸亜鉛粒子を、その固形分として0.1質量%乃至50質量%で含有する第1観点に記載の分散液に関する。
第4観点として、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子を含む分散質粒子のレーザー回折法平均粒子径が80nm乃至2000nmであり、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子両者の合計固形分として0.1質量%乃至50質量%で含有する第1観点乃至第3観点の何れか一つに記載の分散液に関する。
第5観点として、分散質粒子はコロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子が、コロイド状シリカ:シアヌル酸亜鉛の質量比で1:0.01乃至100の割合であり、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子との合計固形分が0.1質量%乃至50質量%である第1観点乃至第4観点の何れか一つに記載の分散液に関する。
第6観点として、液状媒体が、水又は有機溶媒である第1観点乃至第5観点の何れか一つに記載の分散液に関する。
第7観点として、第1観点乃至第6観点の何れか一つに記載の分散液と樹脂エマルジョンとを含む被覆用組成物に関する。
第8観点として、樹脂エマルジョンが、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、アクリル-シリコーン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、プロピル系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、アミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、フタル酸系樹脂、シリコーン系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂よりなる群から選ばれる1種または2種以上の樹脂の水中油滴型エマルジョンである第7観点に記載の被覆用組成物に関する。
第9観点として、分散液中の固形分と樹脂エマルジョン中の樹脂分が、(分散体中の固形分):(樹脂エマルジョン中の樹脂分)の質量比で1:0.1乃至10の割合であり、被覆用組成物中の全固形分が1質量%乃至70質量%である第7観点又は第8観点に記載の被覆用組成物に関する。
第10観点として、第7観点乃至第9観点の何れか一つに記載の被覆用組成物が、スピンコート、バーコート、ロールコート、又はディップコートにより膜厚0.1μm乃至100μmに塗布された被覆膜に関する。
第11観点として、シリカゾルと、シアヌル酸亜鉛粒子又はそのスラリーとを、液中分散機を用いて混合する工程を含む、第1観点乃至第6観点の何れか一つに記載の分散液の製造方法に関する。
第12観点として、液中分散機が、サンドグラインダー、ビーズミル、アトライター、
又はパールミルである第11観点に記載の製造方法に関する。
第13観点として、第1観点乃至第6観点の何れか一つに記載の分散液と、上記樹脂エマルジョンとを液中分散機を用いて混合する工程を含む第7観点乃至第9観点の何れか一つに記載の被覆用組成物の製造方法に関する。
第14観点として、シリカゾルと、シアヌル酸亜鉛粒子又はそのスラリーと、樹脂エマルジョンとを、液中分散機を用いて混合する工程を含む、第7観点乃至第9観点の何れか一つに記載の被覆用組成物の製造方法に関する。
第15観点として、液中分散機が、攪拌機、回転せん断型攪拌機、コロイドミル、ロールミル、高圧噴射式分散機、超音波分散機、容器駆動型ミル、媒体攪拌ミル、又はニーダーである第13観点又は第14観点に記載の被覆用組成物の製造方法に関する。
また、本発明は、
[1]シリカゾルと、シアヌル酸亜鉛粒子又はそのスラリーとを、液中分散機を用いて混合する工程を含む、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散質粒子が、液状媒体に分散した分散液の製造方法、
[2]前記コロイド状シリカ粒子の平均粒子径が5nm乃至500nmであって、該コロイド状シリカ粒子をSiO2濃度で0.1質量%乃至40質量%で含有する[1]に記載の分散液の製造方法、
[3]前記シアヌル酸亜鉛粒子の、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子の長軸の長さが50nm乃至1000nmであり、且つ短軸の長さが10nm乃至300nm、長軸と短軸の長さの比が2乃至25であり、前記シアヌル酸亜鉛粒子を、その固形分として0.1質量%乃至50質量%で含有する[1]に記載の分散液の製造方法、
[4]コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子を含む分散質粒子のレーザー回折法平均粒子径が80nm乃至2000nmであり、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子両者の合計固形分として0.1質量%乃至50質量%で含有する[1]乃至[3]の何れか一に記載の分散液の製造方法、
[5]分散質粒子はコロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子が、コロイド状シリカ:シアヌル酸亜鉛の質量比で1:0.01乃至100の割合であり、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子との合計固形分が0.1質量%乃至50質量%である[1]乃至[4]の何れか一に記載の分散液の製造方法、
[6]液状媒体が、水又は有機溶媒である[1]乃至[5]の何れか一に記載の分散液の製造方法、
[7]液中分散機が、サンドグラインダー、ビーズミル、アトライター、又はパールミルである[1]乃至[6]の何れか一に記載の分散液の製造方法、
[8][1]乃至[6]の何れか一に記載の製造方法で製造された分散液と、樹脂エマルジョンとを液中分散機を用いて混合する工程を含む、被覆用組成物の製造方法、
[9]樹脂エマルジョンが、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、アクリル-シリコーン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、プロピル系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、アミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、フタル酸系樹脂、シリコーン系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂よりなる群から選ばれる1種または2種以上の樹脂の水中油滴型エマルジョンである[8]に記載の被覆用組成物の製造方法、
[10]分散液中の固形分と樹脂エマルジョン中の樹脂分が、(分散体中の固形分):(樹脂エマルジョン中の樹脂分)の質量比で1:0.1乃至10の割合であり、被覆用組成物中の全固形分が1質量%乃至70質量%である[8]又は[9]に記載の被覆用組成物の製造方法、
[11]シリカゾルと、シアヌル酸亜鉛粒子又はそのスラリーと、樹脂エマルジョンとを、液中分散機を用いて混合する工程を含む、[8]乃至[10]の何れか一に記載の被覆用組成物の製造方法、
[12]液中分散機が、攪拌機、回転せん断型攪拌機、コロイドミル、ロールミル、高圧
噴射式分散機、超音波分散機、容器駆動型ミル、媒体攪拌ミル、又はニーダーである[8]乃至[11]の何れか一に記載の被覆用組成物の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
コロイド状シリカ粒子が液中に安定に分散していることから、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子が相乗的に分散安定効果をもたらし、コロイド状シリカ粒子が分散安定効果に寄与し、シアヌル酸亜鉛粒子も安定に分散するという効果を奏する。
【0014】
コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とが分散質粒子として分散安定効果が高いことから、これらが液状媒体に分散した分散液は、樹脂エマルジョンと混合した場合であっても安定性が良好であり、被覆組成物等を製造する時でもハンドリング性が高いという効果を奏する。その被覆組成物はシアヌル酸亜鉛粒子も安定に分散していて、塗布膜中でシアヌル酸亜鉛粒子が均一に存在することから本来シアヌル酸亜鉛が持っている防蝕等の機能が十分に発揮されるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1で得られたコロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子の分散液の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(倍率4万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明はコロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散質粒子が、液状媒体に分散した分散液である。
【0017】
上記コロイド状シリカの平均粒子径は窒素ガス吸着法(BET法)によって測定する事ができる。一次粒子径(DBnm)は、BET法によって測定された比表面積Sm2/gから、(DBnm)=2720/Sの式によって計算される一次粒子径であり、球状シリカ粒子に換算した粒子直径を意味する。この値が平均粒子径5nm乃至500nm、又は5nm乃至200nm、又は5nm乃至100nm、又は5nm乃至50nmの範囲にある。これらの平均粒子径は電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡)観察によって粒子形状を観察することにより確認でき、その大きさは5nm乃至500nmの範囲にある。
【0018】
コロイド状シリカは、該シリカが液状媒体に分散したシリカゾルを用いることができる。このシリカゾルはSiO2濃度としては、0.1質量%乃至40質量%、又は0.1質量%乃至20質量%、又は0.1質量%乃至10質量%の範囲のものを用いることができ、媒体としては水性媒体及び有機媒体(有機溶媒)が挙げられる。これらシリカゾルとしては、例えば日産化学(株)製、商品名スノーテックスを用いる事ができる。
【0019】
シアヌル酸亜鉛は、(酸化亜鉛)/(シアヌル酸)換算のモル比が1.0乃至5.0で用いることができる。亜鉛源としては酸化亜鉛又は塩基性炭酸亜鉛が挙げられ、酸化亜鉛に換算した時のモル比として上記モル比で用いることができる。酸化亜鉛は例えば堺化学(株)製の2種酸化亜鉛を用いる事ができる。
【0020】
シアヌル酸は三塩基酸であり、二価の亜鉛が反応することにより、酸性塩、中性塩、塩基性塩を製造することができる。例えば(酸化亜鉛)/(シアヌル酸)換算のモル比が1.0の場合は、Zn(C3N3O3H)相当の酸性塩が形成さる。(酸化亜鉛)/(シアヌル酸)換算のモル比が1.5の場合は、Zn3(C3N3O3)2相当の中性塩が形成される。(酸化亜鉛)/(シアヌル酸)換算のモル比が2.5の場合は、Zn3(C3N3O3)2・2ZnO相当の塩基性塩が形成される。これらの塩は結晶水を含むことができ、例えば1水塩、2水塩、3水塩を形成する事ができる。
本発明では塩基性塩を用いる事が好ましく、例えばZn3(C3N3O3)2・2ZnO・3H2Oを用いる事ができる。
【0021】
シアヌル酸亜鉛粒子は球状ではなく、針状又は板状の細長い粒子で、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子の長軸の長さが50nm乃至1000nmであり、且つ短軸の長さが10nm乃至300nm、長軸/短軸の長さの比が2乃至25である。またシアヌル酸亜鉛粒子の比表面積は10m2/g乃至100m2/gである。
【0022】
シアヌル酸亜鉛粒子のレーザー回折法による平均粒子径測定は、シアヌル酸亜鉛粒子またはシアヌル酸亜鉛粒子を含む分散液を純水中に分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置、例えば(株)島津製作所、商品名SALD-7500nanoを用いることで液中での平均粒子径を測定することができる。シアヌル酸亜鉛粒子の水分散した時のレーザー回折法平均粒子径は、80nm乃至20000nmである。
【0023】
シアヌル酸亜鉛粒子の製造法は、原料を水分散したスラリー状態で液相反応させる製造法と原料をパウダー状態で固相反応させる製造法の2通りの製造法がある。
【0024】
原料を水分散したスラリー状態で液相反応させる製造法は、例えば、酸化亜鉛又は塩基性炭酸亜鉛とシアヌル酸と水とを、シアヌル酸濃度が0.1質量%乃至10.0質量%濃度になるように配合し、混合スラリーを5℃乃至55℃の温度で液中分散機を用いて湿式分散を行う事で、反応と生成物の分散が行われシアヌル酸亜鉛粒子のスラリーが得られる。シアヌル酸が水に溶解し、この溶解したシアヌル酸は酸化亜鉛や塩基性炭酸亜鉛と素早く反応して粒子成長が促進されるため、大粒子になりやすい。従って、55℃以下、又は45℃以下で反応させる事が好ましい。
得られたスラリーは5℃乃至55℃で液中分散機(分散メディア)を用いて、湿式分散を行う事により、反応と分散が行われ、シアヌル酸亜鉛の分散液が得られる。
【0025】
湿式分散は、分散メディアを用いて行う。分散メディアを用いた湿式分散を行うことにより、分散メディアが衝突することにより生じる機械的エネルギーによって、酸化亜鉛及び塩基性炭酸亜鉛から選択される少なくとも一種とシアヌル酸とを、メカノケミカル反応させることができる。メカノケミカル反応とは、分散メディアの衝突によって、酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛やシアヌル酸に多方面から機械的エネルギーを与えて化学反応させることをいう。
【0026】
分散メディアとしては、例えば、安定化ジルコニア製ビーズ、石英ガラス製ビーズ、ソーダライムガラス製ビーズ、アルミナビーズや、これらの混合物が挙げられる。分散メディア同士が衝突して分散メディアが破砕することにより生じる汚染を考慮すると、分散メディアとして、安定化ジルコニア製ビーズを用いることが好ましい。そして、分散メディアの大きさは、例えば直径0.1mm乃至10mm、好ましくは直径0.5mm乃至2.0mmである。分散メディアの直径が0.1mm未満であると、粉砕メディア同士の衝突エネルギーが小さく、メカノケミカル反応性が弱くなる傾向がある。また、分散メディアの直径が10mmより大きいと、分散メディア同士の衝突エネルギーが大きすぎて分散メディアが破砕して汚染が多くなるため、好ましくない。
【0027】
分散メディアを用いた湿式分散を行う装置(液中分散機)は、分散メディアを投入した容器に混合スラリーを添加した後、攪拌して分散メディアを酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛やシアヌル酸に衝突させることにより、酸化亜鉛や塩基性炭酸亜鉛とシアヌル酸とをメカノケミカル反応させることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、サンドグラインダー(アイメックス(株)製)、アペックスミル((株)広島メタル&マシナリー(寿工業(株))製)、アトライター(日本コークス(株)製)、パールミル(アシザワ
ファインテック(株)製)等が挙げられる。なお、分散メディアの攪拌のための装置の回転数や反応時間等は、所望の粒子径等に合わせて適宜調整することができる。
【0028】
シアヌル酸亜鉛粒子は分散液中でその固形分として0.10質量%乃至50質量%、又は0.1質量%乃至20質量%、又は0.1質量%乃至10質量%、又は0.1質量%乃至5質量%の範囲で含まれる。
【0029】
この製造法で得られたシアヌル酸亜鉛粒子の、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子の長軸の長さが100nm乃至800nmであり、且つ短軸の長さが10nm乃至60nmで長軸/短軸の長さの比が5乃至25あり、レーザー回折法平均粒子径が80nm乃至900nmである。このシアヌル酸亜鉛の水分散スラリーを110℃で乾燥して得られたシアヌル酸亜鉛粉末の比表面積は、10m2/g乃至100m2/gである。
【0030】
また、原料をパウダー状態下で固相反応させる製造法は、例えば、目開き1000μmの篩残分が1質量%未満の酸化亜鉛とシアヌル酸及び水からなる混合粉末であって、酸化亜鉛のシアヌル酸に対するモル比は2乃至3であり、且つ混合粉末の水分量が9量%乃至18質量%である混合粉末を、密閉又は開放下で30℃乃至300℃で加熱処理することにより製造できる。得られたシアヌル酸亜鉛粉末は、水分を10質量%程度含有しているため、水分を除去するために開放下で加熱処理を行い、水分を1.0質量%未満にしたシアヌル酸亜鉛、例えば日産化学(株)製、商品名スターファインを用いることができる。ここでの加熱処理は、工業的大量生産の場合には、混合手段と加熱手段とを有する粉体混合機を用いて行うことが好ましい。具体的な例としては、振動乾燥機、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサー、ナウタミキサー、ロータリーキルンなどの開放型又は密閉型で攪拌混合できる加熱式反応槽が挙げられる。この製造法で得られるシアヌル酸亜鉛は、目開き400μmの篩残分が10質量%未満であり、透過型電子顕微鏡による一次粒子の長軸の長さが50nm乃至1000nmであり、且つ短軸の長さが10nm乃至300nmで長軸/短軸の長さの比は2乃至10であり、レーザー回折法平均粒子径は0.5μm乃至20μmである。また得られたシアヌル酸亜鉛粉末の比表面積は10m2/g乃至100m2/gである。得られたシアヌル酸亜鉛粉末の表面電荷は、水系ではpH3からpH10の範囲で負電荷を有する。このため、酸性からアルカリ性領域において水に対する分散性が良いだけでなく、水系防錆塗料を調整する際に合成樹脂やエマルジョンなどとの相溶性が良好であり、安定な水系防錆塗料を得ることができる。
【0031】
本発明ではコロイド状シリカとシアヌル酸亜鉛の混合方法として、シリカゾルとシアヌル酸亜鉛スラリーを混合する方法、シリカゾルにシアヌル酸亜鉛粉末を混合する方法が挙げられる。
【0032】
コロイド状シリカとシアヌル酸亜鉛の混合液を分散させる方法には、例えば、サンドグラインダー(アイメックス(株)製)、アペックスミル((株)広島メタル&マシナリー(寿工業(株))製)、アトライター(日本コークス(株)製)、パールミル(アシザワファインテック(株)製)等のシアヌル酸亜鉛の湿式分散を行う装置と同様の装置が挙げられる。なお、分散メディアの攪拌のための装置の回転数や反応時間等は、所望の粒子径等に合わせて適宜調整すればよい。得られるコロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散質粒子が液状媒体に分散した分散液のレーザー回折法平均粒子径は、80nm乃至2000nm、又は80nm乃至1000nm、又は10nm乃至500nmで、コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子両者の合計固形分として0.1質量%乃至50質量%で含有する。
【0033】
コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子が、コロイド状シリカ:シアヌル酸亜鉛の質量比で1:0.01乃至100の割合、又は1:0.1乃至10の割合であり、コロイ
ド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子との合計固形分が0.1質量%乃至50質量%、又は0.1質量%乃至30質量%、又は0.1質量%乃至20質量%である事が好ましい。
【0034】
得られたコロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子とを含む分散質粒子が、液状媒体に分散した分散液は、液状媒体が水性媒体又は有機溶媒であり、水性媒体をロータリーエバポレーター等による蒸発法により有機溶媒に置換する事ができる。
【0035】
有機溶媒としてはアルコール、グリコール、エステル、ケトン、含窒素溶媒、芳香族系溶媒を使用する事ができる。これらの溶媒としては例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、キシレン、ジメチルエタン等の有機溶媒を例示する事ができる。また、ポリエチレングリコール、シリコーンオイル、ラジカル重合性のビニル基やエポキシ基を含む反応性希釈溶剤等も用いる事ができる。
【0036】
更にシリカ粒子の表面をテトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、トリメチルモノエトキシシラン、
2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシランカップリング剤で処理する事ができる。
【0037】
上記分散液は、樹脂エマルジョンと混合して被覆用組成物を製造する事ができる。
樹脂エマルジョンとしては例えば、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、アクリル-シリコーン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、プロピル系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、アミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、フタル酸系樹脂、シリコーン系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂からなる群から選ばれる1種または2種以上の樹脂の水中油滴型エマルジョンを挙げることができる。これら樹脂エマルジョンは水性樹脂エマルジョンであり、pHは7乃至10、又は3乃至6.5で、樹脂固形分が30質量%乃至65質量%で、粘度が20mPa・s乃至20000mPa・s程度の範囲のものを例示する事ができる。
【0038】
アクリル系エマルジョンとしては、例えばジャパンコーティングレジン(株)製、商品名モビニールDM772、モビニール6520、モビニール6530、アニオン系樹脂エ
マルジョン、またDIC(株)製、商品名ボンコート40-418EF、
スチレン-アクリル系エマルジョンとしては、例えばジャパンコーティングレジン(株)製、商品名モビニールDM60、モビニール749E、LDM6740、アニオン系樹脂エマルジョン、
アクリル-シリコーン系エマルジョンとして、例えばジャパンコーティングレジン(株)製、商品名モビニールLMD7523、アニオン系樹脂エマルジョン、またDIC(株)製、商品名ボンコートSA-6360、
酢酸ビニル系エマルジョンとしては、例えばジャパンコーティングレジン(株)製、商品名モビニール206、ノニオン系樹脂エマルジョン、
エチレン-酢酸ビニル系エマルジョンとしては、例えばジャパンコーティングレジン(株)製、商品名モビニール109E、ノニオン系樹脂エマルジョン、
エポキシ系エマルジョンとしては、例えばDIC(株)製、商品名EPICLONH-502-42W等が挙げられる。
【0039】
上記樹脂エマルジョンはスチレン-アクリル系エマルジョン、及びアクリル-シリコーン系エマルジョンが好ましい。
【0040】
上記被覆用組成物は、分散液中の固形分と樹脂エマルジョン中の樹脂分が、(分散体中の固形分):(樹脂エマルジョン中の樹脂分)の質量比で1:0.1乃至10であり、被覆用組成物中の全固形分が1質量%乃至70質量%、又は1質量%乃至50質量%、又は1質量%乃至30質量%に調製することができる。
【0041】
上記コロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子の分散液と、上記樹脂エマルジョンを液中分散機を用いて分散して被覆用組成物とすることができる。またシリカゾルと、シアヌル酸亜鉛粒子又はそのスラリーと、樹脂エマルジョンとの混合液を、液中分散機を用いて分散することもできる。
【0042】
液中分散機は、攪拌機、回転せん断型攪拌機、コロイドミル、ロールミル、高圧噴射式分散機、超音波分散機、容器駆動型ミル、媒体攪拌ミル、及びニーダーが挙げられる。
攪拌機は最も簡単な分散装置であり、攪拌翼近傍での速度変動や攪拌翼への衝突により分散する事ができる。
回転せん断型攪拌機は、高速の回転翼と外筒との狭い間隙を通すことにより分散する装置で、間隙でのせん断流れと速度変動により分散する事ができる。
コロイドミルは高速回転ディスク、固定ディスク間の狭い間隙でのせん断流れにより分散する事ができる。
ロールミルは2本又は3本の回転するロール間の間隙を利用したせん断力と圧縮力により分散する事ができる。
高圧噴射式分散機は処理液を高圧噴射し、固定板や処理液同士に衝突させることにより分散する事ができる。
超音波分散機は超音波振動により分散する事ができる。
容器駆動型ミルは固定容器内に挿入された媒体(ボール)の衝突、摩擦により分散する回転ミル、振動ミル、遊星ミルが挙げられる。
媒体攪拌ミルは媒体であるボールやビーズを使用し、媒体の衝突力とせん断力により分散し、アトライターやビーズミルが挙げられる。
【0043】
上記の水性分散液と樹脂エマルジョンとを混合した被覆組成物はpH7乃至10の範囲で製造する事ができる。そしてアルカリ成分としてアンモニア水を100ppm乃至10000ppmの割合で添加してpHを10乃至11の範囲に調製することができる。
【0044】
上記被覆用組成物は、鉄系金属に被覆して被覆膜を形成することができる。被覆膜の膜
厚は粘度によっても変化するが例えば0.1μm乃至100μmの範囲に設定する事ができる。
【0045】
塗布方法としてはスピンコート、バーコート、ロールコート、又はディップコート等が挙げられる。
【実施例0046】
(1)下記シリカゾルを準備した。
・水性シリカゾルA(日産化学(株)製、商品名スノーテックス-N40、BET法平均粒子径21.4nm、pH9.4、固形分40.4質量%)
・水性シリカゾルB(日産化学(株)製、商品名スノーテックス-OL40、BET法平均粒子径45.6nm、pH2.3、固形分40.5質量%)
(2)シアヌル酸亜鉛を準備した。
・日産化学(株)製、商品名スターファイン(レーザー回折法平均粒子径1.7μm、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子の長軸の長さ:400nm乃至600nm、短軸の長さ:50nm乃至70nm、長軸/短軸の長さの比2乃至10、比表面積15m2/g、(酸化亜鉛)/(シアヌル酸)換算モル比2.5)
(3)樹脂エマルジョンを準備した。
・樹脂エマルジョンA(アクリル-シリコーン系エマルジョン、ジャパンコーティングレジン(株)製、商品名モビニールLMD7523、樹脂濃度47.0質量%、アニオン系樹脂エマルジョン)
・樹脂エマルジョンB(スチレン-アクリル系エマルジョン、ジャパンコーティングレジン(株)製、商品名モビニール749E、樹脂濃度47.0質量%、アニオン系樹脂エマルジョン)
・樹脂エマルジョンC(アクリル系エマルジョン、DIC(株)製、商品名ボンコート40-418EF、樹脂濃度55.0質量%、アニオン系樹脂エマルジョン)
・樹脂エマルジョンD(エポキシ系エマルジョン、DIC(株)製、商品名EPICLONH-502-42W、樹脂濃度39.0質量%)
(4)レーザー回折法により分散質粒子の平均粒子径を測定した。
コロイダル状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子を含む分散液を純水で希釈した後、例えば、(株)島津製作所、商品名SALD-7500nanoを用いて分散質の平均粒子径を測定した。
(5)電子顕微鏡により分散液に含まれるコロイダル状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子を観察した。
透過型電子顕微鏡(日本電子社製 JEM-1010)を用いて加速電圧100kVにて観察した。
【0047】
[実施例1]
500mlのポリプロピレン製容器に水性シリカゾルA125gと純水325gを入れ、タービン翼を装備した攪拌機で攪拌しながらシアヌル酸亜鉛50gを添加し、混合スラリー(SiO2濃度10.1質量%、シアヌル酸亜鉛の濃度10.0質量%)を調整した。次いで、250mlのポリプロピレン製容器に混合スラリー150gと直径0.7-1.0mmのガラスビーズ180gを入れ、同容器を回転数165rpmに設定したボールミル回転台に載せ、30時間湿式粉砕し、レーザー回折法平均粒子径153nmの分散液を得た。
250mlのポリプロピレン製容器に純水141.8g、28%NH30.2g、上記分散液5.9g、及び樹脂エマルジョンA58.3gを添加し、タービン翼を装備した攪拌機で2時間攪拌し、固形分14質量%、pH=8.8の被覆用組成物1を得た。
【0048】
[実施例2]
250mlのポリプロピレン製容器に純水141.8g、28%NH30.2g、実施例1で得られた分散液5.9g、及び樹脂エマルジョンB58.3gを添加し、タービン翼を装備した攪拌機で2時間攪拌し、固形分14質量%、pH=9.3の被覆用組成物2を得た。
【0049】
[実施例3]
250mlのポリプロピレン製容器に純水150.3g、28%NH30.2g、実施例1で得られた分散液5.9g、及び樹脂エマルジョンC49.8gを添加し、タービン翼を装備した攪拌機で2時間攪拌し、固形分14質量%、pH=9.4の被覆用組成物3を得た。
【0050】
[実施例4]
500mlのポリプロピレン製容器に水性シリカゾルB125gと純水325gを入れ、タービン翼を装備した攪拌機で攪拌しながらシアヌル酸亜鉛50gを添加し、混合スラリー(SiO2濃度10.1質量%、シアヌル酸亜鉛の濃度10.0質量%)を調整した。次いで、250mlのポリプロピレン製容器に混合スラリー150gと直径0.7-1.0mmのガラスビーズ180gを入れ、同容器を回転数165rpmに設定したボールミル回転台に載せ、30時間湿式粉砕し、レーザー回折法平均粒子径216nmの分散液を得た。
250mlのポリプロピレン製容器に純水141.8g、28%NH30.2g、上記分散液5.9g、及び樹脂エマルジョンB58.3gを添加し、タービン翼を装備した攪拌機で2時間攪拌し、固形分14質量%、pH=8.9の被覆用組成物4を得た。
【0051】
[実施例5]
250mlのポリプロピレン製容器に純水150.3g、28%NH30.2g、実施例4で得られた分散液5.9g、及び樹脂エマルジョンC49.8gを添加し、タービン翼を装備した攪拌機で2時間攪拌し、固形分14質量%、pH=9.4の被覆用組成物5を得た。
【0052】
[実施例6]
250mlのポリプロピレン製容器に純水128.0g、実施例4で得られた分散液5.9g、及び樹脂エマルジョンD70.2gを添加し、タービン翼を装備した攪拌機で2時間攪拌し、固形分14質量%、pH=9.7の被覆用組成物6を得た。
【0053】
[比較例1]
250mlのポリプロピレン製容器に純水126.8g、28%NH30.2g、水性シリカゾルA5.1g、及び樹脂エマルジョンA49.8gを添加し、タービン翼を装備した攪拌機で2時間攪拌し、固形分14質量%、pH=9.0の比較被覆用組成物1を得た。
【0054】
[比較例2]
250mlのポリプロピレン製容器に純水154.9g、28%NH30.2g、水性シリカゾルA5.1g、及び樹脂エマルジョンC49.8gを添加し、タービン翼を装備した攪拌機で2時間攪拌し、固形分14質量%、pH=9.5の比較被覆用組成物2を得た。
【0055】
[比較例3]
500mlのポリプロピレン製容器に純水180gを入れ、タービン翼を装備した攪拌機で攪拌しながらシアヌル酸亜鉛45gを添加し、混合スラリー(シアヌル酸亜鉛の濃度20.0質量%)を調整した。次いで、250mlのポリプロピレン製容器に混合スラリ
ー150gと直径0.7-1.0mmのガラスビーズ180gを入れ、同容器を回転数165rpmに設定したボールミル回転台に載せ、30時間湿式粉砕し、レーザー回折法平均粒子径858nmの分散液を得た。
250mlのポリプロピレン製容器に純水146.9g、28%NH30.2g、上記分散液2.9g、及び樹脂エマルジョンC49.8gを添加し、タービン翼を装備した攪拌機で2時間攪拌し、固形分14質量%、pH=9.5の比較被覆用組成物3を得た。
【0056】
(6)塗工する試験板、及び被覆鋼板
板厚:0.5mm、寸法:幅100mm×長さ150mmの軟鋼板〔SPCC, ブライト仕上げ〕を供試材として使用した。
試験板の作製方法としては、まず上記の供試材の表面上の油分や汚れを取り除くため、10%NaOH溶液に12時間含浸させ、目視により試験板全面が水で濡れることを確認した後、更に純水を流しかけ、日本製紙クレシア(株)製商品名JKワイパー150-Sのハードタイプペーパーで水気がなくなるまで十分に拭き上げた。
(塗工方法)
バーコート塗装にて被覆用組成物1乃至被覆用組成物6、及び比較被覆用組成物1乃至比較被覆用組成物3を試験板表面に塗装し、110℃で5分間乾燥し、250℃に設定した電気炉で10分間焼成を行い、被覆鋼板を得た。バーコート塗装の具体的な方法は、以下のとおりである。
バーコート塗装:被覆組成物を試験板に滴下して、#5バーコーターを用い、ウェット塗布膜厚11.4μmで塗装した。
【0057】
(7)水噴霧試験
それぞれの被覆鋼板は、スガ試験機(株)製の塩水噴霧試験機STP-90V-5を用い、JIS-Z-2371に準じて、5質量%NaCl水溶液の噴霧雰囲気下、35℃で24時間の塩水噴霧試験により防錆効果を調べた。結果を表1に示す。
◎:変化なし。
〇:目視で赤錆面積が10%以下。
△:目視で赤錆面積が10~50%。
×:目視で赤錆面積が50~90%。
××:目視で赤錆面積が90%以上。
【0058】
【0059】
(8)熱安定性試験
実施例1乃至実施例6で得られた被覆用組成物1乃至被覆用組成物6と、比較例1乃至比較例3で得られた比較被覆用組成物1乃至比較被覆用組成物3を、それぞれ50℃で28日間の保管を行い、試験開始前の動的光散乱法による平均粒子径(nm)と、28日後の動的光散乱法による平均粒子径(nm)の変化を調べた。動的光散乱法による平均粒子径測定は、被膜組成物を純水で希釈し、動的光散乱法粒子径測定装置、例えば、Malvern Instruments LTD製、ZETASIZER Nano seriesを用いて液中での平均粒子径を測定した。結果を表2に示す。
〇:動的光散乱法による平均粒子径(nm)が初期値+10%未満であったもの。
△:動的光散乱法による平均粒子径(nm)が初期値+10%以上20%未満であったもの。
×:動的光散乱法による平均粒子径(nm)が初期値+20%以上であったもの。
【0060】
【0061】
また、実施例1で得られたコロイド状シリカ粒子とシアヌル酸亜鉛粒子の分散液の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(倍率4万倍)を
図1に示す。