(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027574
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】高分子化合物、高分子化合物の製造方法、有機薄膜太陽電池材料及び有機薄膜太陽電池
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20230222BHJP
C07D 513/22 20060101ALI20230222BHJP
C07D 471/04 20060101ALI20230222BHJP
H10K 30/50 20230101ALI20230222BHJP
【FI】
C08G61/12
C07D513/22
C07D471/04 111
H01L31/04 112A
H01L31/04 152B
H01L31/04 152G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132762
(22)【出願日】2021-08-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業 「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域、「革新的有機半導体の開発と有機太陽電池効率20%への挑戦」に関する委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾坂 格
(72)【発明者】
【氏名】三木江 翼
(72)【発明者】
【氏名】森山 太一
(72)【発明者】
【氏名】有海 裕作
【テーマコード(参考)】
4C065
4C072
4J032
5F151
【Fターム(参考)】
4C065AA01
4C065AA19
4C065BB09
4C065CC01
4C065DD02
4C065EE02
4C065HH09
4C065JJ04
4C065KK09
4C065LL01
4C065PP01
4C072AA01
4C072AA07
4C072BB04
4C072BB06
4C072CC03
4C072CC18
4C072EE12
4C072FF19
4C072GG01
4C072HH02
4C072UU10
4J032BA05
4J032BA20
4J032BB01
4J032BB09
4J032BC03
4J032BC12
4J032BC13
5F151AA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】良好な光電変換効率を示す高分子化合物、高分子化合物の製造方法、有機薄膜太陽電池材料及び有機薄膜太陽電池を提供する。
【解決手段】高分子化合物は、式(1)で表される繰り返し単位を含む。
式(1)中、R
1及びR
2は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基である)で表される繰り返し単位を含む、高分子化合物。
【請求項2】
式(10):
【化2】
(式(10)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;Yはハロゲン原子である)で表される化合物と、式(11):
【化3】
(式(11)中、R
1及びR
2は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
4はアルキル基である)で表される化合物を反応させる工程を含む、請求項1に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
式(9):
【化4】
(式(9)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基である)で表される化合物とハロゲン化剤とを反応させて、前記式(10)で表される化合物を得る工程を含む、請求項2に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
式(8):
【化5】
(式(8)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3はアルキル基である)で表される化合物と脱シリル化剤を反応させて、前記式(9)で表される化合物を得る工程を含む、請求項3に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項5】
式(7):
【化6】
(式(7)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3はアルキル基である)で表される化合物と硫黄化剤とを反応させて、前記式(8)で表される化合物を得る工程を含む、請求項4に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項6】
式(5):
【化7】
(式(5)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3はアルキル基である)で表される化合物と、
式(6):
【化8】
(式(6)中、Xはハロゲン原子である)で表される化合物を反応させて、前記式(7)で表される化合物を得る工程を含む、請求項5に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項7】
式(4):
【化9】
(式(4)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3及びR
5は互いに独立して、アルキル基である)で表される化合物と脱シリル化剤とを反応させて、前記式(5)で表される化合物を得る工程を含む、請求項6に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項8】
式(3):
【化10】
(式(3)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3はアルキル基であり;Zはハロゲン原子である)で表される化合物とトリアルキルシリルアセチレンとを反応させて、前記式(4)で表される化合物を得る工程を含む、請求項7に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項9】
式(2):
【化11】
(式(2)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;Zはハロゲン原子である)で表される化合物とリチウムアミド試薬を反応させた後、トリアルキルシリル化合物を反応させて、前記式(3)で表される化合物を得る工程を含む、請求項8に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項10】
I)前記式(2)で表される化合物とリチウムアミド試薬を反応させた後、トリアルキルシリル化合物を反応させて、前記式(3)で表される化合物を製造する第1工程、
II)第1工程で得られた前記式(3)で表される化合物とトリアルキルシリルアセチレンとを反応させて、前記式(4)で表される化合物を製造する第2工程、
III)第2工程で得られた前記式(4)で表される化合物と脱シリル化剤とを反応させて、前記式(5)で表される化合物を製造する第3工程、
IV)第3工程で得られた前記式(5)で表される化合物と、前記式(6)で表される化合物を反応させて、前記式(7)で表される化合物を製造する第4工程、
V)第4工程で得られた前記式(7)で表される化合物と硫黄化剤とを反応させて、前記式(8)で表される化合物を製造する第5工程、
VI)第5工程で得られた前記式(8)で表される化合物と脱シリル化剤とを反応させて、前記式(9)で表される化合物を製造する第6工程、
VII)第6工程で得られた前記式(9)で表される化合物とハロゲン化剤とを反応させて、前記式(10)で表される化合物を製造する第7工程、及び
VIII)第7工程で得られた前記式(10)で表される化合物と、前記式(11)で表される化合物とを反応させて、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物を製造する第8工程を含む、請求項1に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の高分子化合物を含む、有機薄膜太陽電池材料。
【請求項12】
さらに非フラーレン系n型有機半導体材料を含む、請求項11に記載の有機薄膜太陽電池材料。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の有機薄膜太陽電池材料を含む光活性層を有する、有機薄膜太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物、高分子化合物の製造方法、有機薄膜太陽電池材料及び有機薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は光入力に対して電気出力を示す装置であり、化石燃料の枯渇問題や地球温暖化問題を背景に、クリーンエネルギーとして注目され、実用化されている。これまでシリコン系太陽電池が広く実用化されているが、塗布プロセスで製造可能なことやフレキシブル化、シースルー化が可能なことから有機薄膜太陽電池が新しい太陽電池技術として注目を集めており、高効率化を目指した種々の有機薄膜太陽電池材料の開発が行われている。
【0003】
電子供与体として機能する有機薄膜太陽電池材料として、ナフタレンを基調とした電子欠損性骨格が知られている。この骨格は、広いπ共役を持つため、半導体ポリマーのビルディングユニットとして用いられてきた。例えば、特許文献1には、ポリマー主鎖のナフトジチオフェン環にチオフェン環が二つ結合した構造の高分子化合物(例えば、高分子化合物P1)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで種々の有機薄膜太陽電池材料が開示されているものの、材料開発は未だ発展途上にあり、更なる光電変換効率等の特性に優れる有機薄膜太陽電池材料が求められている。
【0006】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、良好な光電変換効率を示す高分子化合物、高分子化合物の製造方法、有機薄膜太陽電池材料及び有機薄膜太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討し、本発明を完成した。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
[1] 式(1):
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基である)で表される繰り返し単位を含む、高分子化合物。
【0009】
[2] 式(10):
【化2】
(式(10)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;Yはハロゲン原子である)で表される化合物と、式(11):
【化3】
(式(11)中、R
1及びR
2は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
4はアルキル基である)で表される化合物を反応させる工程を含む、[1]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0010】
[3] 式(9):
【化4】
(式(9)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基である)で表される化合物とハロゲン化剤とを反応させて、前記式(10)で表される化合物を得る工程を含む、[2]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0011】
[4] 式(8):
【化5】
(式(8)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3はアルキル基である)で表される化合物と脱シリル化剤を反応させて、前記式(9)で表される化合物を得る工程を含む、[3]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0012】
[5] 式(7):
【化6】
(式(7)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3はアルキル基である)で表される化合物と硫黄化剤とを反応させて、前記式(8)で表される化合物を得る工程を含む、[4]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0013】
[6] 式(5):
【化7】
(式(5)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3はアルキル基である)で表される化合物と、
式(6):
【化8】
(式(6)中、Xはハロゲン原子である)で表される化合物を反応させて、前記式(7)で表される化合物を得る工程を含む、[5]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0014】
[7] 式(4):
【化9】
(式(4)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3及びR
5は互いに独立して、アルキル基である)で表される化合物と脱シリル化剤とを反応させて、前記式(5)で表される化合物を得る工程を含む、[6]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0015】
[8] 式(3):
【化10】
(式(3)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;R
3はアルキル基であり;Zはハロゲン原子である)で表される化合物とトリアルキルシリルアセチレンとを反応させて、前記式(4)で表される化合物を得る工程を含む、[7]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0016】
[9] 式(2):
【化11】
(式(2)中、A
1及びA
2は互いに独立して、CM
1又はNであり;M
1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり;Zはハロゲン原子である)で表される化合物とリチウムアミド試薬を反応させた後、トリアルキルシリル化合物を反応させて、前記式(3)で表される化合物を得る工程を含む、[8]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0017】
[10] I)前記式(2)で表される化合物とリチウムアミド試薬を反応させた後、トリアルキルシリル化合物を反応させて、前記式(3)で表される化合物を製造する第1工程、
II)第1工程で得られた前記式(3)で表される化合物とトリアルキルシリルアセチレンとを反応させて、前記式(4)で表される化合物を製造する第2工程、
III)第2工程で得られた前記式(4)で表される化合物と脱シリル化剤とを反応させて、前記式(5)で表される化合物を製造する第3工程、
IV)第3工程で得られた前記式(5)で表される化合物と、前記式(6)で表される化合物を反応させて、前記式(7)で表される化合物を製造する第4工程、
V)第4工程で得られた前記式(7)で表される化合物と硫黄化剤とを反応させて、前記式(8)で表される化合物を製造する第5工程、
VI)第5工程で得られた前記式(8)で表される化合物と脱シリル化剤とを反応させて、前記式(9)で表される化合物を製造する第6工程、
VII)第6工程で得られた前記式(9)で表される化合物とハロゲン化剤とを反応させて、前記式(10)で表される化合物を製造する第7工程、及び
VIII)第7工程で得られた前記式(10)で表される化合物と、前記式(11)で表される化合物とを反応させて、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物を製造する第8工程を含む、[1]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0018】
[11] [1]に記載の高分子化合物を含む、有機薄膜太陽電池材料。
【0019】
[12] さらに非フラーレン系n型有機半導体材料を含む、[11]に記載の有機薄膜太陽電池材料。
【0020】
[13] [11]又は[12]に記載の有機薄膜太陽電池材料を含む光活性層を有する、有機薄膜太陽電池。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、良好な光電変換効率を示す高分子化合物、高分子化合物の製造方法、有機薄膜太陽電池材料及び有機薄膜太陽電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例の有機薄膜太陽電池における電流密度-電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(高分子化合物)
本実施の形態に係る高分子化合物は、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む(以下、「高分子化合物(1)」と称する)。前記式(1)中のR1、R2及びM1に含まれるアルキル基の炭素数は6~30であることが好ましい。これらアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、湿式成膜法等の塗布法によって成膜することを考慮すると分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。
【0024】
高分子化合物(1)の重量平均分子量は、10,000~1,000,000の範囲であることが好ましい。また、数平均分子量は10,000~200,000の範囲であることが好ましい。平均分子量は、ポリスチレン標準試料を適用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)等を用いて測定する。例えば、株式会社島津製作所Prominence (登録商標)GPCシステムを用いることができる。
【0025】
(高分子化合物(1)の製造方法)
高分子化合物(1)の製造方法は、特に限定されない。一例として、市販の化合物から高分子化合物(1)を製造することができる。好ましい工程を以下の反応スキームに沿って説明し、より具体的な一例は、後述する実施例に記載する。
【0026】
【0027】
上記式中、A1及びA2は互いに独立して、CM1又はNであり、M1は、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり、R1及びR2は互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であり、R3、R4、及びR5は互いに独立して、アルキル基である。また、X、Y、Zは互いに独立して、ハロゲン原子であり、一例としてフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。また、nは繰り返し単位を意味する整数である。
【0028】
<原料製造工程>
一般式(i)で表される化合物(以下、「化合物(i)」と称する)から、一般式(2)で表される化合物(以下、「化合物(2)」と称する)を製造する。
【0029】
原料製造工程では、「J. Mater. Chem. A, 1, 14538 (2013)」、「Chem. Commun. 48, 8919 (2012)」に記載された方法に準じて化合物(i)から化合物(2)を製造できる。具体的には、例えば、化合物(i)とハロゲン化剤とを反応させて化合物(2)を生成させる。ハロゲン化剤としては、当該反応が進行すれば特に限定されず、例えば、N-ブロモスクシンイミド;N-ヨードスクシンイミド;臭素、ヨウ素等のハロゲン、及びこれらのハロゲン化物塩;等が挙げられる。ハロゲン化剤は、化合物(i)1当量に対して、好ましくは1~20当量、より好ましくは1~10当量の割合で使用することができる。原料製造工程の反応は、通常、溶媒の存在下で行うことができる。反応温度は、通常、0~200℃が好ましく、0~120℃がより好ましい。反応時間は、通常、1~48時間である。得られた化合物(2)は精製してもよい。また、化合物(2)は、下記第1工程に供する前に精製することが好ましい。
【0030】
<第1工程>
次いで、化合物(2)から、一般式(3)で表される化合物(以下、「化合物(3)」と称する)を製造する(第1工程)。第1工程は、具体的には、化合物(2)とリチウムアミド試薬を反応させた後、トリアルキルシリル化合物を反応させて化合物(3)を生成させる工程である。リチウムアミド試薬としては、リチウムジイソプロピルアミド、リチウム2,2,6,6-テトラメチルピペリジド、リチウムヘキサメチルジシラジド等が挙げられる。トリアルキルシリル化合物としては、例えば、tert-ブチルジメチルシリルクロリドのようなトリアルキルシリルクロリド;トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシランのようなトリアルキルクロロシラン;等が挙げられる。該反応は、必要に応じて溶媒の存在下で行うことができる。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればいずれのものでもよく、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジンアミンのようなアミン塩基;N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリルのような非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン(THF)のようなエーテル類;等から1種又は2種以上を適宜選択することができる。反応温度は、通常、-78℃~50℃が好ましく、-40~40℃がより好ましい。反応時間は、通常、0.5~48時間である。得られた化合物(3)は精製してもよい。また、化合物(3)は、下記第2工程に供する前に精製することが好ましい。
【0031】
<第2工程>
次いで、化合物(3)から、一般式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」と称する)を製造する(第2工程)。第2工程は、具体的には、化合物(3)とトリアルキルシリルアセチレンとを反応させて、化合物(4)を得る工程である。
【0032】
例えば、化合物(3)とトリアルキルシリルアセチレンとを触媒の存在下で反応させて化合物(4)を生成させることができる。トリアルキルシリルアセチレンとしては、当該反応が進行すれば特に限定されず、例えば、トリメチルシリルアセチレン、トリエチルシリルアセチレン等が挙げられる。トリアルキルシリルアセチレンは、化合物(3)1当量に対して、好ましくは2~20当量、より好ましくは2~10当量の割合で使用することができる。触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh3)4)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(Pd(PPh3)2Cl2)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)、ヨウ化銅(I)(CuI)等が挙げられる。配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィンを添加してもよい。第2工程の反応は、通常、塩基及び溶媒の存在下で行うことができる。塩基としては、当該反応が進行する塩基であれば特に限定されない。塩基は、化合物(3)1当量に対して、好ましくは1~40当量、より好ましくは1~20当量の割合で使用することができる。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればいずれのものでもよく、例えば、テトラヒドロフラン(THF)のようなエーテル類;トリエチルアミンやピペリジンのように、塩基としての機能を兼ねる溶媒;等から1種又は2種以上を適宜選択することができる。反応温度は、通常、0~200℃が好ましく、0~120℃がより好ましい。反応時間は、通常、1~48時間である。化合物(4)は、下記第3工程に供する前に精製することが好ましい。
【0033】
<第3工程>
次いで、化合物(4)から、一般式(5)で表される化合物(以下、「化合物(5)」と称する)を製造する(第3工程)。第3工程は、具体的には、化合物(4)と脱シリル化剤を反応させて、化合物(5)を得る工程である。脱シリル化剤としては、無機塩基を用いるのが好ましく、無機塩基としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸カリウム、炭酸セシウム等の炭酸塩;等が挙げられる。溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類;ジクロロメタン、クロロホルム等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;等から1種又は2種以上を適宜選択、混合して使用することができる。反応温度は、通常、0~200℃が好ましく、0~120℃がより好ましい。反応時間は、通常、1~48時間である。得られた化合物(5)は精製してもよい。また、化合物(5)は、下記第4工程に供する前に精製することが好ましい。
【0034】
<第4工程>
次いで、化合物(5)から、一般式(7)で表される化合物(以下、「化合物(7)」と称する)を製造する(第4工程)。
【0035】
第4工程は、具体的には、化合物(5)と、一般式(6)で表される化合物(以下、「化合物(6)」と称する)を反応させて、化合物(7)を製造する工程である。原料となる化合物(6)は、「S. Mataka et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 64, 68 (1991)」に基づいて合成することができる。化合物(5)と化合物(6)を溶媒に入れ、触媒を加えて反応させる。触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh3)4)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(Pd(PPh3)2Cl2)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)、ヨウ化銅(I)(CuI)等が挙げられる。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればいずれのものでもよく、例えば、テトラヒドロフラン(THF)のようなエーテル類;トリエチルアミンやピペリジンのように、塩基としての機能を兼ねる溶媒;等から1種又は2種以上を適宜選択することができる。反応温度は、通常、0~200℃が好ましく、0~120℃がより好ましい。反応時間は、通常、1~48時間である。化合物(7)は、下記第5工程に供する前に精製することが好ましい。
【0036】
<第5工程>
次いで、化合物(7)から、一般式(8)で表される化合物(以下、「化合物(8)」と称する)を製造する(第5工程)。
【0037】
第5工程は、具体的には、化合物(7)と硫黄化剤とを反応させて化合物(8)を製造する工程である。硫黄化剤は、当該反応が進行する硫黄化剤であれば特に限定はなく、例えば、硫黄、一塩化硫黄、二塩化硫黄、塩化チオニル、塩化スルフリル、2,4-ビス(4-メトキシフェニル)-1,3,2,4-ジチアジホスフェタン-2,4-ジスルフィド等が挙げられる。硫黄化剤としては、化合物(7)1当量に対して、1~20当量が好ましく、より好ましくは2~5当量の割合で使用することができる。第5工程の反応は、通常、塩基及び溶媒の存在下で行うことができる。塩基としては、当該反応が進行する塩基であれば特に限定はない。塩基は、化合物(7)1当量に対して、1~20当量が好ましく、より好ましくは2~10当量の割合で使用することができる。溶媒は、当該反応が進行する溶媒であれば特に限定はない。反応温度は、通常、0~250℃が好ましく、より好ましくは0~200℃である。反応時間は、通常、1~48時間である。化合物(8)は、第6工程に供する前に精製することが好ましい。
【0038】
<第6工程>
次いで、化合物(8)から、一般式(9)で表される化合物(以下、「化合物(9)」と称する)を製造する(第6工程)。
【0039】
第6工程は、具体的には、化合物(8)と脱シリル化剤とを反応させて化合物(9)を製造する工程である。脱シリル化剤としては、無機塩基;金属アルコキシド;フッ化物;等が挙げられる。脱シリル化剤は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。また、脱シリル化剤は、市販のものを用いることができる。無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸カリウム、炭酸セシウム等が挙げられる。金属アルコキシドとしては、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムトリメチルシリルオキシド、カリウムトリメチルシリルオキシドが挙げられる。フッ化物としては、トリフルオロ酢酸、フッ化水素ピリジン、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム等が挙げられる。脱シリル化剤の使用量は、化合物(8)1当量に対して、好ましくは1~10当量、より好ましくは1~5当量の割合で使用することができる。
【0040】
脱シリル化反応に必要に応じて用いる溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル及び4-メチルテトラヒドロピラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール等の炭素数1~4の一級アルコール;イソプロピルアルコール等の二級アルコール;tert-ブチルアルコール等の三級アルコール;等が挙げられる。
【0041】
脱シリル化反応における反応温度は、好ましくは0~150℃、より好ましくは25~80℃である。脱シリル化反応における反応時間は、通常、1~48時間である。化合物(9)は、第7工程に供する前に精製することが好ましい。
【0042】
<第7工程>
次いで、化合物(9)から、一般式(10)で表される化合物(以下、「化合物(10)」と称する)を製造する(第7工程)。
【0043】
第7工程は、具体的には、化合物(9)とハロゲン化剤とを反応させて化合物(10)を製造する工程である。ハロゲン化剤としては、当該反応が進行すれば特に限定されず、例えば、N-ブロモスクシンイミド、N-ヨードスクシンイミド;臭素、ヨウ素等のハロゲン、これらのハロゲン化物塩;等が挙げられる。ハロゲン化剤は、化合物(9)1当量に対して、好ましくは2~20当量、より好ましくは2~10当量の割合で使用することができる。第7工程の反応は、通常、溶媒の存在下で行うことができる。反応温度は、通常、0~200℃が好ましく、0~120℃がより好ましい。反応時間は、通常、1~48時間である。また、化合物(10)は、下記第8工程に供する前に精製することが好ましい。
【0044】
<第8工程>
次いで、化合物(10)と一般式(11)で表される化合物(以下、「化合物(11)」と称する)から、高分子化合物(1)を製造する(第8工程)。化合物(11)は、「Advanced Materials, 27, 4655, (2015)」を参考に合成することができる。
【0045】
第8工程は、具体的には、化合物(10)と、化合物(11)とを反応させて高分子化合物(1)を製造する工程である。溶媒中で化合物(10)と化合物(11)とを触媒存在下で反応させる。溶媒としては、トルエン、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。また、触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh3)4)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(Pd(PPh3)2Cl2)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2(dba)3)等が挙げられる。反応温度は、例えば80℃~200℃とすることができる。得られた高分子化合物(1)は精製してもよい。このようにして、本発明の高分子化合物(1)を製造することができる。
【0046】
(有機薄膜太陽電池材料)
高分子化合物(1)は、有機薄膜太陽電池材料に用いることができる。有機薄膜太陽電池材料は、湿式成膜法等の塗布法によって有機太陽電池の光活性層を形成することができる。高分子化合物(1)は、所謂p型有機半導体として、電子供与体の機能を発揮する。
【0047】
有機薄膜太陽電池材料は、高分子化合物(1)のみを含んでいても、他の有機太陽電池材料や他の成分を含んでいてもよい。有機薄膜太陽電池材料は、電子受容体としての機能を発揮する電子受容性化合物を含むことが好ましい。電子受容性化合物は、所謂n型有機半導体材料として機能する化合物であればよく、公知の化合物が用いられる。
【0048】
有機薄膜太陽電池材料は、高分子化合物(1)のみを含んでいても、他の有機太陽電池材料や他の成分を含んでいてもよい。有機薄膜太陽電池材料は、電子受容体としての機能を発揮する電子受容性化合物を含むことが好ましい。電子受容性化合物は、所謂n型有機半導体材料として機能する物質であればよく、公知の物質を用いることができ、例えば、フラーレン系材料や非フラーレン系化合物が挙げられる。非フラーレン系化合物を高分子化合物(1)と混合して光活性層を形成すると優れた光電変換効率が得られるため好ましく、非フラーレン系化合物としては、次のような化合物が挙げられる。
Y6(2,2’-((2Z,2’Z)-((12,13-ビス(2-エチルへキシル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジイル)ビス(メチリデン))ビス(5,6-ジフルオロ-3-オキソ-2,3-ジハイドロ-1H-インデン-2,1-ジイリデン))ジマロノニトリル)
Y6-5(12,13-ビス(2-エチルへキシル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジカルボアルデヒド)
Y7(2,2’-((2Z,2’Z)-((12,13-ビス(2-エチルへキシル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジイル)ビス(メチリデン))ビス(5,6-ジクロロ-3-オキソ-2,3-ジハイドロ-1H-インデン-2,1-ジイリデン))ジマロノニトリル)
Y12(2,2’-((2Z,2’Z)-((12,13-ビス(2-ブチルオクチル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジイル)ビス(メチリデン))ビス(5,6-ジフルオロ-3-オキソ-2,3-ジハイドロ-1H-インデン-2,1-ジイリデン))ジマロノニトリル)
BTP-eC9(2,2’-[[12,13-ビス(2-ブチルオクチル)-12,13-ジハイドロ-3,9-ジノニルジチエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-e:2’,3’-g][2,1,3]ベンゾチアジアゾロ-2,10-ジイル]ビス[メチリデン(5,6-クロロ-3-オキソ-1H-インデン-2,1(3H)-ジイリデン)]]ビス[プロパンジニトリル])
IT-4F(3,9-ビス(2-メチレン-((3-1,1-ジシアノメチレン)-6,7,-ジフルオロ)-インダノン))-5,5,11,11,-テトラキス(4-ヘキシルフェニル)-ジチエノ[2,3-d:2’,3’-d’]-s-インダセノ[1,2-b:5,6-b’]ジチオフェン)
【0049】
(有機薄膜太陽電池)
有機薄膜太陽電池は、上述した有機薄膜太陽電池材料を光活性層に用いる。有機薄膜太陽電池の構造は、一対の電極の間に光活性層を備える構造であれば特に制限されない。有機薄膜太陽電池の構成は、例えば、以下の態様が挙げられる。なお、p層、p材料とは、上述した有機薄膜太陽電池材料を含有する層、材料であり、n層、n材料とは、上述した電子受容性化合物を含有する層、材料を表す。
(A)電極/p材料とn材料の混合層/電極
(B)電極/p層/p材料とn材料の混合層/n層/電極
(C)電極/p層/n層/電極
【0050】
高分子化合物(1)は、π共役系が拡張された構造であるため、強い分子間相互作用を持ち、高い結晶性を有する。これらのことから、有機薄膜太陽電池の光活性層に用いた場合、光電変換効率等の特性が良好である。
【実施例0051】
以下、実施例に基づき、ジチエノナフトビスチアジアゾール(TNT)を有する高分子化合物(有機半導体材料)の合成、物性、有機薄膜太陽電池の特性について説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
<合成例1>
(化合物2の合成)
2-ブロモ-3-(2-ヘキシルデシル)-チオフェン(化合物1)を「J. Mater. Chem. A, 1, 14538 (2013)」 と「Chem. Commun. 48, 8919 (2012)」を参考に予め合成した。
100mLのナスフラスコに2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(3.67g,26mmol)とテトラヒドロフラン(25mL)を入れ、0℃に冷却しn-ブチルリチウム(15mL,24mmol)を滴下し、30分間撹拌した。反応溶液に化合物1(9.03g,20mmol)をゆっくり滴下し、さらに0℃で30分間撹拌した。次いで、tert-ブチルジメチルシリルクロリドを加え、室温で2時間撹拌した。反応溶液に水(30mL)を加えてクエンチし、ヘキサン(10mL)で3回抽出した。有機層を食塩水(30mL)と水(30mL)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。その後、ろ過、濃縮を行い、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物2(9.13g,18.2mmol,収率91%)を得た。反応式を以下に示す。
【0053】
【0054】
化合物2の物性データは次の通りである。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.86 (s, 1H), 2.49 (d, 2H), 1.64 (m, 1H), 1.30-1.23 (m, 24H), 0.87 (t, 6H).
【0055】
<合成例2>
(化合物3の合成)
アルゴン雰囲気下、還流管を接続した100mLの三口フラスコに、化合物2(10.0g,19.1mmol)、ヨウ化銅(I)(0.18g,0.957mmol)、トリフェニルホスフィン(0.3g,1.15mmol)、トリメチルシリルアセチレン(2.82g,28.7mmol)を入れ、トリエチルアミン(20mL)、テトラヒドロフラン(20mL)の混合溶媒を加え、30分間アルゴンで脱気した。次いで、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを加えて90℃で12時間攪拌した。その後、反応溶液を濃縮し、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、化合物3(10.0g,18.3mmol,収率95%)を得た。反応式を以下に示す。
【0056】
【0057】
化合物3の物性データは次の通りである。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.88 (s, 1H), 2.61 (d, 2H), 1.69 (m, 1H), 1.35-1.20 (m, 24H), 0.89 (m, 15H), 0.26 (s, 6H), 0.23 (s, 9H).
【0058】
<合成例3>
(化合物4の合成)
アルゴン雰囲気下、還流管を接続した100mLの三口フラスコに、化合物3(10.4g,19mmol)、ジクロロメタン(20mL)、メタノール(20mL)の混合溶媒を入れ、炭酸カリウム(2.9g,20.9mmol)加え、12時間撹拌した。反応溶液に水(50mL)を加え、ジクロロメタン(10mL)で3回抽出した。有機層を食塩水(30mL)と水(30mL)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。その後、ろ過、濃縮を行い、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物4(7.9g,17.7mmol,収率93%)を得た。反応式を以下に示す。
【0059】
【0060】
化合物4の物性データは次の通りである。1H NMR (400MHz, CDCl3): 1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.91 (s, 1H), 3.47 (s, 1H), 2.63 (d, 2H), 1.68 (m, 1H), 1.35-1.20 (m, 24H), 0.89 (m, 15H), 0.27 (s, 6H).
【0061】
<合成例4>
(化合物6の合成)
5,10-ジブロモナフト[1,2-c:5,6-c’]ビス([1,2,5]チアジアゾール)(化合物5)は、「Bull. Chem. Soc. Jpn., 64, 68 (1991)」を参考に予め合成した。アルゴン雰囲気下、還流管を接続した200mLの三口フラスコに、化合物4(3.7g,7.3mmol)、化合物5(1.2g,2.9mmol)、ヨウ化銅(I)(27.8mg,0.15mmol)、トリフェニルホスフィン(168.7mg,0.15mmol)を入れ、トリエチルアミン(20mL)、テトラヒドロフラン(20mL)の混合溶媒を加え、30分間アルゴンで脱気し、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムを加えて90℃で12時間攪拌した。反応溶液をセライトでろ過し、濃縮した後、ジクロロメタン:ヘキサン(1:50から1:5にグラジエント)混合溶媒を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、化合物6(2.1g,1.87mmol,収率64%)を得た。反応式を以下に示す。
【0062】
【0063】
化合物6の物性データは次の通りである。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.98 (s, 2H), 7.02 (s, 2H), 2.87 (d, 4H), 1.83 (m, 2H), 1.40-1.13 (m, 48H), 0.95 (s, 9H), 0.80-0.89 (m, 12H), 0.33 (s, 6H).
【0064】
<合成例5>
(化合物7の合成)
化合物6(2.0g,1.76mmol),硫黄(1.8g,7.1mmol),N,N-ジメチルアセトアミド(26mL)を反応用バイアルに入れ、密栓した。マイクロウェーブ反応装置を用いて、200℃で45分反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液に水を加え、クロロホルムで三回抽出した。有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、濾過、濃縮を行い、ジクロロメタン:ヘキサン(1:50から1:5にグラジエント)混合溶媒を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、化合物7(833mg,0.72mmol,収率41%)を得た。反応式を以下に示す。
【0065】
【0066】
化合物7の物性データは次の通りである。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.20 (s, 2H), 7.12 (s, 2H), 2.96 (d, 4H), 1.82 (m, 2H), 1.35-1.10 (m, 48H), 1.00 (s, 9H), 0.78-0.83 (m, 12H), 0.36 (s, 6H).
【0067】
<合成例6>
(化合物8の合成)
化合物7(0.83g,0.71mmol)をジクロロメタン(30mL)に溶解させた後、トリフルオロ酢酸(10mL)を加えて室温で2時間撹拌した。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてクエンチし、ジクロロメタンで三回抽出した。有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、溶媒を留去し、クロロホルムを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィー、続くクロロホルム/エタノール混合溶媒を用いた再結晶により精製することで、化合物8(0.66g,0.71mmol,収率99%)を得た。反応式を以下に示す。
【0068】
【0069】
化合物8の物性データは次の通りである。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.12 (s, 2H), 7.36 (d, 2H), 7.03 (d, 2H), 2.94 (d, 4H), 2.19 (m, 2H), 1.35-1.10 (m, 48H), 0.75-0.84 (m, 12H).
【0070】
<合成例7>
(化合物9の合成)
アルゴン雰囲気下、100mLの三口フラスコに化合物10(0.66g,0.71mmol)を入れ、20mLのクロロホルムに溶解させた後、N-ブロモスクシンイミド(394.5mg,2.22mmol)を加え、室温で6時間撹拌した。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えクエンチし、クロロホルムで三回抽出した。有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、溶媒を留去し、クロロホルムを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィー、続くクロロホルム/エタノール混合溶媒を用いた再結晶により精製することで、化合物9(0.78g,0.71mmol,収率99%)を得た。反応式を以下に示す。
【0071】
【0072】
化合物9の物性データは次の通りである。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.97 (s, 2H), 6.97 (s, 2H), 2.85 (d, 4H), 1.74 (m, 2H), 1.35-1.10 (m, 48H), 0.80-0.90 (m, 12H).
【0073】
<合成例8>
(高分子化合物P1の合成)
4,8-ビス(5-(2-エチルヘキシル)-4-フルオロチオフェン-2-イル)ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル)ビス(トリメチルスタナン)(化合物10)は、「Adv. Mater., 27, 4655, (2015)」を参考に予め合成した。化合物9(33.8mg,0.03mmol)、化合物10(28.2mg,0.03mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)ジパラジウム(0)(0.32mg,0.0003mol)、トリ(o-トルイル)ホスフィン(1.22mg,0.008mol)、トルエン(2mL)を反応用バイアルに入れ、窒素封入し、密栓した。マイクロウェーブ反応装置を用いて、140℃で1時間反応させた。その後、室温まで冷却後、反応液を5%塩酸/メタノール溶液に注ぎ込み、3時間撹拌した。沈殿した固体を濾取し、ソックスレー抽出器を用いて、メタノール、n-ヘキサン、ジクロロメタンで洗浄した後、クロロホルムで抽出した。得られた溶液を濃縮し、メタノールに再沈殿することで、高分子化合物P1(45mg,収率95%)を金属光沢のある黒色固体として得た(数平均分子量77,000)。反応式を以下に示す。
【0074】
【0075】
高分子化合物(1)としては、例えば、以下の表1に示した化合物が挙げられる。表中、C-2-hexyldecylは炭素原子に結合した2-ヘキシルデシル基を、C-2-butyloctylは炭素原子に結合した2-ブチルオクチル基を、C-2-decyltetradecylは炭素原子に結合した2-デシルテトラデシル基を、2-ethylhexylは炭素原子に結合した2-エチルヘキシル基を、C-Hは炭素原子に結合した水素原子を各々意味する。これらの化合物は、前述の高分子化合物(1)の製造方法、及び、実施例の記載に準じて製造できる。
【0076】
【0077】
次いで、合成した高分子化合物P1を用いて太陽電池素子を作製し、光電変換効率を評価した。
【0078】
(高分子化合物P1を用いた太陽電池素子の評価)
ITO膜がパターンニングされたガラス基板を十分洗浄後、UVオゾン処理を行った。次に、PEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)):PSS(ポリスチレンスルホン酸)水溶液を5000rpmで30秒間スピンコートした(厚さ約40nm)。120℃で10分間基板を加熱することで、正孔取り出し層を形成した。正孔取り出し層を成膜した基板をグローブボックス内に持ち込み、高分子化合物P1及びn型低分子材料であるY6(2,2’-((2Z,2’Z)-((12,13-ビス(2-エチルへキシル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジイル)ビス(メチリデン))ビス(5,6-ジフルオロ-3-オキソ-2,3-ジハイドロ-1H-インデン-2,1-ジイリデン))ジマロノニトリル)を含むクロロホルム溶液(高分子化合物P1/Y6の重量比=1/1.2)を用いて、スピンコートにより光活性層を形成した(膜厚150nm)。さらに、活性層上に電子取り出し層として、PDINO(2,9-ビス[3-(ジメチルオキシドアミノ)プロピル]アントラ [2,1,9-def:6,5,10-d’e’f’]ジイソキノリン-1,3,8,10(2H,9H)-テトロン)膜を3000rpmで30秒間スピンコートした(厚さ約20nm)。次いで、電極層として厚さ220nmの銀膜を、抵抗加熱型真空蒸着法により順次成膜し、直径4mmの有機薄膜太陽電池素子を作製した。Y6及びPDINOの化学式を以下に示す。
【0079】
【0080】
得られた有機薄膜太陽電池にソーラシミュレーター(AM1.5Gフィルター、放射照度100mW/cm
2)を用いて一定の光を照射し、発生する電流と電圧を測定した。
図1に電流密度-電圧特性のグラフを示す。
【0081】
得られた
図1から短絡電流密度Jsc(mAcm
-2)、開放電圧Voc(V)、曲線因子FFを求め、表2にまとめた。P1について、Jsc=26.0mA/cm
2、Voc=0.86V、FF=0.65であり、光電変換効率(η)を、式η=(Jsc×Voc×FF)/100より算出したところ、14.6%であった。
【0082】