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  • 特開-偏光板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023027631
(43)【公開日】2023-03-02
(54)【発明の名称】偏光板
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230222BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132867
(22)【出願日】2021-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】萩原 慎也
(72)【発明者】
【氏名】江端 範充
(72)【発明者】
【氏名】宇田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】松本 寿和
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AA18
2H149AB11
2H149AB13
2H149BA02
2H149BA12
2H149BA17
2H149CA02
2H149EA12
2H149EA22
2H149FA02X
2H149FA03W
2H149FA63
2H149FA66
2H149FD17
2H149FD21
2H149FD25
2H149FD47
(57)【要約】
【課題】例えば温度115℃の高温環境下に晒したときであっても偏光度低下の抑制効果に優れた偏光板を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させてなる偏光素子と、透明保護フィルムと、を有する偏光板であって、前記偏光素子は、広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶に由来するピークの半値幅が4.80nm-1以上であり、カリウムイオンと、カリウムイオン以外の金属イオンとを含み、前記カリウムイオン以外の金属イオンの含有率が0.05質量%以上である、偏光板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させてなる偏光素子と、透明保護フィルムと、を有する偏光板であって、
前記偏光素子は、広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶に由来するピークの半値幅が4.80nm-1以上であり、
前記偏光素子は、カリウムイオンと、カリウムイオン以外の金属イオンとを含み、
前記偏光素子は、前記カリウムイオン以外の金属イオンの含有率が0.05質量%以上である、偏光板。
【請求項2】
前記金属イオンは、コバルト、ニッケル、亜鉛、クロム、アルミニウム、銅、マンガン、及び鉄のイオンからなる群の内、少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記偏光素子は、ホウ素の含有率が2.4質量%以上8.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記偏光素子と前記透明保護フィルムとを貼合する接着剤層をさらに有し、
前記接着剤層は、水系接着剤の塗工層である、請求項1~3のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項5】
前記水系接着剤は、メタノールの濃度が10質量%以上70質量%以下である、請求項4に記載の偏光板。
【請求項6】
前記水系接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂を含む、請求項4又は5に記載の偏光板。
【請求項7】
前記接着剤層は、厚みが0.01μm以上7μm以下である、請求項4~6のいずれか1項に記載の偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)は、液晶テレビだけでなく、パソコン、携帯電話等のモバイル、カーナビ等の車載用途などで広く用いられている。通常、液晶表示装置は、液晶セルの両側に粘着剤で偏光板を貼合した液晶パネル部材を有し、バックライト部材からの光を液晶パネル部材で制御することにより表示が行われている。また、有機EL表示装置も近年、液晶表示装置と同様に、テレビ、携帯電話等のモバイル、カーナビ等の車載用途で広く用いられて来ている。有機EL表示装置では、外光が金属電極(陰極)で反射され鏡面のように視認されることを抑止するために、画像表示パネルの視認側表面に円偏光板(偏光素子とλ/4板を含む積層体)が配置される場合がある。
【0003】
偏光板は上記のように、液晶表示装置や有機EL表示装置の部材として、車に搭載される機会が増えてきている。車載用の画像表示装置に用いられる偏光板は、それ以外のテレビや携帯電話等のモバイル用途に比較して、高温環境下に曝されることが多く、より高温での特性変化が小さいこと(高温耐久性)が求められる。
【0004】
このような高温耐久性の高い偏光素子の製造方法として、例えば、特許文献1~2では、亜鉛、銅、アルミニウム等を含む金属塩等の成分を処理浴に添加することで、偏光素子にこれら成分を含有させ、偏光素子の耐久性を向上させることが開示されている。また、特許文献3~4では、有機チタン化合物等の成分を処理浴に添加する、偏光素子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/117659号
【特許文献2】特開2006-047978号公報
【特許文献3】特開2008-46257号公報
【特許文献4】特開平6-172554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでの偏光板では、高温環境の温度を上げて115℃とし、この高温環境下に一定時間晒した場合には偏光度が低下してしまう場合があった。本発明は、例えば温度115℃の高温環境下に晒したときであっても偏光度低下の抑制効果に優れた偏光板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の偏光板を提供する。
〔1〕 ポリビニルアルコール系樹脂層に二色性色素を吸着配向させてなる偏光素子と、透明保護フィルムと、を有する偏光板であって、
前記偏光素子は、広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶に由来するピークの半値幅が4.80nm-1以上であり、
前記偏光素子は、カリウムイオンと、カリウムイオン以外の金属イオンとを含み、
前記偏光素子は、前記カリウムイオン以外の金属イオンの含有率が0.05質量%以上である、偏光板。
〔2〕 前記金属イオンは、コバルト、ニッケル、亜鉛、クロム、アルミニウム、銅、マンガン、及び鉄のイオンからなる群の内、少なくとも1種を含むことを特徴とする、〔1〕に記載の偏光板。
〔3〕 前記偏光素子は、ホウ素の含有率が3.9質量%以上8.0質量%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の偏光板。
〔4〕 前記偏光素子と前記透明保護フィルムとを貼合する接着剤層をさらに有し、
前記接着剤層は、水系接着剤の塗工層である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の偏光板。
〔5〕 前記水系接着剤は、メタノールの濃度が10質量%以上70質量%以下である、〔4〕に記載の偏光板。
〔6〕 前記水系接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂を含む、〔4〕又は〔5〕に記載の偏光板。
〔7〕 前記接着剤層は、厚みが0.01μm以上7μm以下である、〔4〕~〔6〕のいずれか1項に記載の偏光板。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、例えば温度115℃の高温環境下に晒した場合の偏光度の低下が抑制され、高温耐久性に優れる偏光板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】偏光素子1~3について、測定用サンプルの散乱プロファイルからバックグラウンドの散乱プロファイルを差し引いたものについて、波数qに対してプロットしたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[偏光板]
本発明の実施形態にかかる偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂を含む層に二色性色素を吸着配向させてなる偏光素子と、透明保護フィルムと、を有する。また、上記偏光素子は、広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶に由来するピークの半値幅が4.80nm-1以上である。さらに、上記偏光素子は、カリウムイオン(以下、「第1金属イオン」と称する場合がある。)と、カリウムイオン以外の金属イオン(以下、「第2金属イオン」と称する場合がある。)とを含み、第2金属イオンの含有率が0.05質量%以上である。
本実施形態の偏光板は、及び偏光素子の広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶由来ピークの半値幅、さらに偏光素子中の第2金属イオンの含有率が上記の範囲内であることにより、高温環境下に長時間晒された場合でも偏光度の低下を抑制することができる。
【0012】
本実施形態の偏光板によると、例えば温度115℃の高温環境下に、500時間以上晒した場合であっても偏光度の低下を抑制することができる。
【0013】
<偏光素子>
PVA系樹脂を含む層(本明細書において、「PVA系樹脂層」とも称す。)に二色性色素を吸着配向させてなる偏光素子としては、周知の偏光素子を用いることができる。このような偏光素子としては、PVA系樹脂フィルムを用いて、このPVA系樹脂フィルムを二色性色素で染色し、一軸延伸することによって形成したものや、PVA系樹脂を含む塗布液を基材フィルム上に塗布して得られた積層フィルムを用いて、この積層フィルムの塗布層であるPVA系樹脂層を二色性色素で染色し、積層フィルムを一軸延伸することによって形成したものが挙げられる。
【0014】
偏光素子は、ポリ酢酸ビニル系樹脂を鹸化して得られるPVA系樹脂から形成される。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体が挙げられる。共重合可能な他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸類、エチレン等のオレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。
【0015】
本発明では、ホウ素吸着率が5.70質量%以上であるPVA系樹脂からPVA系樹脂層を形成することが好ましい。すなわち、染色や延伸を施す前の原料の段階におけるPVA系樹脂のホウ素吸着率が5.70質量%以上であることが好ましい。このようなPVA系樹脂を用いることで、例えば温度115℃の高温環境下に晒したときであっても偏光度が低下しにくくなる。また、PVA系樹脂のホウ素吸着率は10質量%以下であることが好ましい。このようなPVA系樹脂を用いて、偏光素子を作製することで、ホウ酸処理槽中のホウ酸濃度を高濃度とすることなく、またホウ酸処理による処理時間も短縮することもでき、所望の偏光素子が得られやすくなり、偏光素子の生産性も高めることができる。PVA系樹脂のホウ素吸着率が10質量%以下とすると、PVA系樹脂層へホウ素が適量取り込まれ、偏光素子の収縮力を小さくしやすい。PVA系樹脂のホウ素吸着率は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0016】
PVA系樹脂のホウ素吸着率は、PVA系樹脂中の、分子鎖同士の間隔や結晶構造を反映している特性である。ホウ素吸着率が5.70質量%以上であるPVA系樹脂は、ホウ素吸着率が5.70質量%未満であるPVA系樹脂に比べて、分子鎖同士の間隔が広く、PVA系樹脂の結晶が少ないと考えられる。そのため、PVA系樹脂層中へホウ素、第1金属イオン、第2金属イオンが入り込みやすくなり、高温環境下において、偏光度が低下しにくくなると推測される。
【0017】
PVA系樹脂のホウ素吸着率は、例えば、偏光素子を製造する前の段階でPVA系樹脂に対して、熱水処理、酸性溶液処理、超音波照射処理、放射線照射処理などの事前処理を行うことにより調整することができる。これらの処理により、PVA系樹脂中の、分子鎖同士の間隔を広げたり、結晶構造を破壊したりすることができる。熱水処理としては、例えば、30℃~100℃の純水に1秒~90秒浸漬させ、乾燥させる処理が挙げられる。酸性溶液処理としては、例えば、10質量%~20質量%の濃度のホウ酸水溶液に1秒~90秒浸漬させ、乾燥させる処理が挙げられる。超音波処理としては、例えば、20~29kcの周波数の超音波を、200W~500Wの出力で30秒~10分照射する処理が挙げられる。超音波処理は、水などの溶媒中で行うことができる。
【0018】
PVA系樹脂の鹸化度は、好ましくは約85モル%以上、より好ましくは約90モル%以上、さらに好ましくは約99モル%~100モル%である。PVA系樹脂の重合度としては、1000~10000、好ましくは1500~5000である。このPVA系樹脂は変性されていてもよく、たとえば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどでもよい。
【0019】
本実施形態の偏光素子の厚みは5~50μmが好ましく、8~28μmがより好ましく、12~22μmがさらに好ましく、12~15μmが最も好ましい。偏光素子の厚みが5μm以上であることにより所望の光学特性を達成する構成とすることが容易となる。
【0020】
本発明の偏光素子は、広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶に由来するピークの半値幅が4.80nm-1以上であり、好ましくは4.82nm-1以上であり、より好ましくは4.87nm―1以上である。このような偏光素子は、ホウ酸による架橋反応の進行によりポリビニルアルコールの結晶サイズが小さく、結果として非晶部の割合が大きくなる。このため、ホウ素や後述する第2金属イオンの含有量を効率的に多くできる。広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶に由来するピークの半値幅は、例えば5.0nm-1以下であることができる。このような偏光素子は、配向度が高いため、光学特性に優れることができる。なお、広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶に由来するピークの半値幅は、後述する実施例に記載された方法で測定することができる。広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶に由来するピークの半値幅は、延伸浴の温度、延伸倍率、架橋浴のホウ酸濃度、原料として用いるPVA系樹脂の鹸化度等により適宜調整することができる。
【0021】
偏光素子における第2金属イオンの含有率は、好ましくは0.05質量%以上10.0質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上8.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上6.0質量%以下である。第2金属イオンの含有率が10.0質量%を超える場合には、高温高湿環境で偏光度が低下する場合がある。また、第2金属イオンの含有率が0.05質量%未満の場合には、高温環境での耐久性の向上効果が十分でない場合がある。なお、偏光素子における第2金属イオンの含有率は、たとえば高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光分析法により、偏光素子の質量に対する金属元素の質量分率(質量%)として算出することができる。金属元素は、偏光素子中に、金属イオンまたはそれがポリビニルアルコール系樹脂の構成要素と架橋構造を形成した状態で存在すると考えられるが、ここでいう第2金属イオンの含有率は、金属原子としての値である。
【0022】
第2金属イオンは、カリウムイオン以外の金属イオンであれば限定されることなく、好ましくはアルカリ金属以外の金属のイオンであり、特に色調調整や耐久性付与の点からコバルト、ニッケル、亜鉛、クロム、アルミニウム、銅、マンガン、鉄などの遷移金属の金属イオンの少なくとも1種を含むことが好ましい。これら金属イオンのなかでも、色調調整や耐熱性付与などの点から亜鉛イオンが好ましい。
【0023】
偏光素子のホウ素の含有率は、好ましくは2.4質量%以上である。また、ホウ素の含有率は、好ましくは3.9質量%以上8.0質量%以下、より好ましくは4.2質量%以上7.0質量%以下、さらに好ましくは4.4質量%以上6.0質量%以下である。偏光素子のホウ素含有率が8.0質量%を超える場合には、偏光素子の収縮力が大きくなり、画像表示装置に組み込んだ際に貼り合わされる前面板等の他の部材との間で剥離が生じるなどの不具合が生じることがある。また、ホウ素の含有率が2.4質量%未満の場合には、所望する光学特性を達成できないことがある。なお、偏光素子におけるホウ素の含有率は、たとえば高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光分析法により、偏光素子の質量に対するホウ素の質量分率(質量%)として算出することができる。ホウ素は、偏光素子中に、ホウ酸またはそれがポリビニルアルコール系樹脂の構成要素と架橋構造を形成した状態で存在すると考えられるが、ここでいうホウ素の含有率は、ホウ素原子(B)としての値である。
【0024】
偏光素子のホウ素の含有率は、2.4質量%以上8.0質量%以下であることが好ましく、3.9質量%以上8.0質量%以下であることがさらに好ましい。このような数値範囲を満たすことにより、高温環境下に晒した場合でも偏光度の低下が抑制される。
【0025】
偏光素子におけるカリウムイオンの含有率は、高温環境下における偏光度の低下を抑制する観点から、0.28質量%以上であることが好ましく、0.32質量%以上であることがより好ましく、0.34質量%以上であることがさらに好ましく、そして、高温環境下における色相変化を抑制する観点から、0.60質量%以下であることが好ましく、0.55質量%以下であることがより好ましく、0.50質量%以下であることがさらに好ましい。カリウムイオンの含有率は、第2金属イオンの含有率と同様の方法で測定することができ、ここでいうカリウムイオンの含有率は、カリウム原子としての値である。
【0026】
詳細なメカニズムは不明であるものの、従来の偏光素子よりも、ホウ素の含有量が多く、カリウムイオンの含有量が少ないため、ホウ酸架橋により偏光素子中のポリビニルアルコールの水酸基が保護(安定化)されていること、また、適量なカリウムイオンの含有率によって、偏光素子中で対イオンとなるヨウ素イオンが安定化されているものと推定される。
【0027】
偏光板の視感度補正単体透過率は、好ましくは38.8%~44.8%、より好ましくは40.4%~43.2%であり、さらに好ましくは40.7%~43.0%である。視感度補正単体透過率が44.8%を超えると高温環境下で赤変するなど光学特性の劣化が大きくなる場合があり、視感度補正単体透過率が38.8%未満では高温環境下で光学特性の劣化が大きくなる場合がある。
【0028】
視感度補正単体透過率は、JIS Z8701-1982に規定されている2度視野(C光源)により、視感度補正を行ったY値を測定することによって求めることができる。視感度補正単体透過率は、例えば、日本分光(株)製の分光光度計(型番:V7100)などで簡便に測定することができる。
【0029】
偏光素子の製造方法は特に限定されないが、予めロール状に巻かれたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを送り出して延伸、染色、架橋などを行って作製する方法(以下、「製造方法1」とする。)やポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を基材フィルム上に塗布して塗布層であるポリビニルアルコール系樹脂層を形成して得られた積層体を延伸する工程を含む方法(以下、「製造方法2」とする。)が典型的である。
【0030】
製造方法1は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムをヨウ素等の二色性色素で染色することにより、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造することができる。
【0031】
偏光素子中に含まれるホウ素の含有率およびカリウムイオンの含有率は、膨潤工程、染色工程、架橋工程、延伸工程および水洗工程における各処理浴のいずれかに含まれるホウ酸、ホウ酸塩、ホウ砂等のホウ素化合物等のホウ素成分供与物質の濃度およびヨウ化カリウム等のハロゲン化カリウム等のカリウム成分供与物質の濃度、上記の各処理浴による処理温度および処理時間によって制御できる。とくに、架橋工程および延伸工程は、ホウ素成分供与物質の濃度等の処理条件により、ホウ素の含有率を所望の範囲に調整し易い。また、水洗工程は、染色工程、架橋工程、または延伸工程等で使用したホウ素成分供与物質やカリウム成分供与物質の使用量等の処理条件を考慮したうえで、ホウ素、カリウム等の成分をポリビニルアルコール系樹脂フィルムから溶出、あるいはポリビニルアルコール系樹脂フィルムに吸着させることができる観点から、ホウ素の含有率およびカリウムイオンの含有率を所望の範囲に調整し易い。
【0032】
膨潤工程は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、膨潤浴中に浸漬する処理工程であり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面の汚れやブロッキング剤等を除去でき、また、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させることで染色ムラを抑制できる。膨潤浴は、通常、水、蒸留水、純水等の水を主成分とする媒体が用いられる。膨潤浴は、常法に従って、界面活性剤、アルコール等が適宜に添加されていてもよい。また、偏光素子のカリウムの含有率を制御する観点から、膨潤浴にヨウ化カリウムを使用してもよく、この場合、膨潤浴中、ヨウ化カリウムの濃度は、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
膨潤浴の温度は、10~60℃程度であることが好ましく、15~45℃程度であることがより好ましく、18~30℃程度であることがさらに好ましい。また、膨潤浴への浸漬時間は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの膨潤の程度が膨潤浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、5~300秒間程度であることが好ましく、10~200秒間程度であることがより好ましく、20~100秒間程度であることがさらに好ましい。膨潤工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。
【0034】
染色工程は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、染色浴(ヨウ素溶液)に浸漬する処理工程であり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、ヨウ素または二色性染料等の二色性物質を吸着・配向させることができる。ヨウ素溶液は、通常、ヨウ素水溶液であることが好ましく、ヨウ素および溶解助剤としてヨウ化物を含有する。なお、ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、偏光素子中のカリウムの含有率を制御する観点から、ヨウ化カリウムが好適である。
【0035】
染色浴中、ヨウ素の濃度は、0.01~1質量%程度であることが好ましく、0.02~0.5質量%程度であることがより好ましい。染色浴中、ヨウ化物の濃度は、0.01~10質量%程度であることが好ましく、0.05~5質量%程度であることがより好ましく、0.1~3質量%程度であることがさらに好ましい。
【0036】
染色浴の温度は、10~50℃程度であることが好ましく、15~45℃程度であることがより好ましく、18~30℃程度であることがさらに好ましい。また、染色浴への浸漬時間は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの染色の程度が染色浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、10~300秒間程度であることが好ましく、20~240秒間程度であることがより好ましい。染色工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。
【0037】
架橋工程は、染色工程にて染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、ホウ素化合物を含む処理浴(架橋浴)中に浸漬する処理工程であり、ホウ素化合物によりポリビニルアルコール系樹脂フィルムが架橋して、ヨウ素分子または染料分子が当該架橋構造に吸着できる。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ砂等が挙げられる。架橋浴は、水溶液が一般的であるが、例えば、水との混和性のある有機溶媒および水の混合溶液であってもよい。また、架橋浴は、偏光素子中のカリウムの含有率を制御する観点から、ヨウ化カリウムを含むことが好ましい。
【0038】
架橋浴中、ホウ素化合物の濃度は、1~15質量%程度であることが好ましく、1.5~10質量%程度であることがより好ましく、2~5質量%程度であることがより好ましい。また、架橋浴にヨウ化カリウムを使用する場合、架橋浴中、ヨウ化カリウムの濃度は、1~15質量%程度であることが好ましく、1.5~10質量%程度であることがより好ましく、2~5質量%程度であることがより好ましい。
【0039】
架橋浴の温度は、20~70℃程度であることが好ましく、30~60℃程度であることがより好ましい。また、架橋浴への浸漬時間は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの架橋の程度が架橋浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、5~300秒間程度であることが好ましく、10~200秒間程度であることがより好ましい。架橋工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。
【0040】
延伸工程は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも一方向に所定の倍率に延伸する処理工程である。一般には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、搬送方向(長手方向)に1軸延伸する。延伸の方法は特に制限されず、湿潤延伸法と乾式延伸法のいずれも採用できる。延伸工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。延伸工程は、偏光素子の製造において、いずれの段階で行われてもよい。
【0041】
湿潤延伸法における処理浴(延伸浴)は、通常、水、または水との混和性のある有機溶媒および水の混合溶液等の溶媒を用いることができる。延伸浴は、偏光素子中のカリウムイオンの含有率を制御する観点から、ヨウ化カリウムを含むことが好ましい。延伸浴にヨウ化カリウムを使用する場合、当該延伸浴中、ヨウ化カリウムの濃度は、1~15質量%程度であることが好ましく、2~10質量%程度であることがより好ましく、3~6質量%程度であることがより好ましい。また、処理浴(延伸浴)には、延伸中のフィルム破断を抑制する観点から、ホウ素化合物を含むことができ、この場合、当該延伸浴中、ホウ素化合物の濃度は、1~15質量%程度であることが好ましく、1.5~10質量%程度であることがより好ましく、2~5質量%程度であることがより好ましい。
【0042】
延伸浴の温度は限定されないが、少なくとも一つの延伸浴について、25~80℃であることが好ましく、40~80℃であることがより好ましく、50~75℃であることがさらに好ましく、65~75℃であることが特に好ましく、67℃以上であることが特に好ましい。延伸浴の温度を高くすると、後述の金属イオン処理工程で用いる第2金属イオンをPVA系樹脂層中に保持しやすくなる。延伸浴の温度を高くすることで、PVA系樹脂層中のPVAの軟化点付近の温度、またはPVAの軟化点以上の温度において、PVAを延伸処理することができる。その結果、PVAの結晶割合が低下し、またはPVAの結晶が小さくなり、第2金属イオンの取り込み量が増加するとともに架橋反応が促進され、広角X線散乱法により測定されるポリビニルアルコール結晶に由来するピークの半値幅を4.80nm-1以上としやすくなる。また、延伸浴への浸漬時間は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの延伸の程度が延伸浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、10~800秒間程度であることが好ましく、30~500秒間程度であることがより好ましい。なお、湿潤延伸法における延伸工程は、延伸工程を単独で行ってもよく、膨潤工程、染色工程、架橋工程、および洗浄工程のいずれか1つ以上の処理工程とともに施してもよく、これらを組み合わせて行ってもよい。いずれか1つ以上の処理工程とともに施す場合に、処理浴の温度を延伸工程において最適な65~75℃とすることに特に適している処理工程は架橋工程である。複数の処理浴で延伸を行う場合、少なくとも一つの処理浴の温度が、65~75℃であることが好ましく、また65℃~75℃の処理浴への浸漬時間が40~200秒であることが好ましい。
【0043】
乾式延伸法としては、例えば、ロール間延伸方法、加熱ロール延伸方法、圧縮延伸方法等が挙げられる。なお、乾式延伸法は、乾燥工程とともに施してもよい。
【0044】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに施される総延伸倍率(累積の延伸倍率)は、目的に応じ適宜設定できるが、2~7倍程度であることが好ましく、3~6.8倍程度であることがより好ましく、3.5~6.5倍程度であることがさらに好ましい。
【0045】
洗浄工程は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、洗浄浴中に浸漬する処理工程であり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面等に残存する異物を除去できる。洗浄浴は、通常、水、蒸留水、純水等の水を主成分とする媒体が用いられる。また、偏光素子中のカリウムの含有率を制御する観点から、洗浄浴にヨウ化カリウムを使用することが好ましく、この場合、洗浄浴中、ヨウ化カリウムの濃度は、1~10質量%程度であることが好ましく、1.5~4質量%程度であることがより好ましく、1.8~3.8質量%程度であることがさらに好ましい。
【0046】
洗浄浴の温度は、5~50℃程度であることが好ましく、10~40℃程度であることがより好ましく、15~30℃程度であることがさらに好ましい。また、洗浄浴への浸漬時間は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの洗浄の程度が洗浄浴の温度の影響を受けるため一概に決定できないが、1~100秒間程度であることが好ましく、2~50秒間程度であることがより好ましく、3~20秒間程度であることがさらに好ましい。洗浄工程は1回だけ実施されてもよく、必要に応じて複数回実施されてもよい。
【0047】
偏光素子の製造方法は、上記した工程の中で、または上記した工程とは別の工程として、金属イオン処理工程を有することができる。金属イオン処理工程は、第2金属イオンの金属塩を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬することにより行う。金属イオン処理工程により、第2金属イオンをポリビニルアルコール系樹脂フィルム中に含有させる。
【0048】
第2金属イオンは、カリウムイオン以外の金属イオンであれば限定されることなく、好ましくはアルカリ金属以外の金属のイオンであり、特に色調調整や耐久性付与の点からコバルト、ニッケル、亜鉛、クロム、アルミニウム、銅、マンガン、鉄などの遷移金属の金属イオンの少なくとも1種を含むことが好ましい。これら金属イオンのなかでも、色調調整や耐熱性付与などの点から亜鉛イオンが好ましい。亜鉛塩としては、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛などが挙げられる。
【0049】
金属イオン処理工程には、金属塩溶液が用いられる。以下、金属イオン処理工程のなかでも、亜鉛塩水溶液を用いた場合の代表例として、亜鉛含有溶液への浸漬処理について説明する。
【0050】
亜鉛塩水溶液中の亜鉛イオンの濃度は、0.1~10質量%程度、好ましくは0.3~7質量%の範囲である。また、亜鉛塩溶液はヨウ化カリウム等によりカリウムイオンおよびヨウ素イオンを含有させた水溶液を用いるのが亜鉛イオンを含浸させやすく好ましい。亜鉛塩溶液中のヨウ化カリウム濃度は0.1~10質量%程度、さらには0.2~5質量%とするのが好ましい。
【0051】
亜鉛含有溶液への浸漬処理にあたり、亜鉛塩溶液の温度は、通常15~85℃程度、好ましくは25~70℃である。浸漬時間は通常1~120秒程度、好ましくは3~90秒間の範囲である。亜鉛含有溶液への浸漬処理にあたっては、亜鉛塩溶液の濃度、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの亜鉛塩溶液への浸漬温度、浸漬時間等の条件を調整することによりポリビニルアルコール系樹脂フィルムにおける亜鉛含有率が前記範囲になるように調整する。亜鉛含有溶液への浸漬処理をいつ行うかは特に制限されない。亜鉛含有液への浸漬処理を単独で行ってもよいし、染色浴、架橋浴、延伸浴中に、亜鉛塩を共存させておいて、染色工程、架橋工程、延伸工程の少なくとも一つの工程と同時に行ってもよい。
【0052】
前記各工程を施した後には、最終的に、乾燥工程を施す。乾燥工程は、洗浄工程にて洗浄されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、乾燥して偏光素子を得る工程である。乾燥は、任意の適切な方法で行われ、例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥が挙げられる。
【0053】
製造方法2は、上記ポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を基材フィルム上に塗布する工程、得られた積層フィルムを一軸延伸する工程、一軸延伸された積層フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色することにより、その二色性色素を吸着させて偏光素子とする工程、二色性色素が吸着されたフィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造することができる。偏光素子を形成するために用いる基材フィルムは、偏光素子の保護層として用いてもよい。必要に応じて、基材フィルムを偏光素子から剥離除去してもよい。
【0054】
[透明保護フィルム]
本実施形態において用いられる透明保護フィルム(以下、単に「保護フィルム」とも称す。)は、偏光素子の少なくとも片面に接着剤層を介して貼り合わされる。この透明保護フィルムは偏光素子の片面又は両面に貼り合わされるが、両面に貼り合わされていることがより好ましい。
【0055】
保護フィルムは、同時に他の光学的機能を有していてもよく、複数の層が積層された積層構造に形成されていてもよい。保護フィルムの膜厚は光学特性の観点から薄いものが好ましいが、薄すぎると強度が低下し加工性に劣るものとなる。適切な膜厚としては、5~100μmであり、好ましくは10~80μm、より好ましくは15~70μmである。
【0056】
保護フィルムは、セルロースアシレート系フィルム、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルム、ノルボルネンなどシクロオレフィン系樹脂からなるフィルム、(メタ)アクリル系重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂系フィルムなどのフィルムを用いることができる。偏光素子の両面に保護フィルムを有する構成の場合、PVA接着剤などの水系接着剤を用いて貼合する場合は透湿度の点で少なくとも片側の保護フィルムはセルロースアシレート系フィルムまたは(メタ)アクリル系重合体フィルムの何れかであることが好ましく、中でもセルロースアシレートフィルムが好ましい。
【0057】
少なくとも一方の保護フィルムとしては、視野角補償などの目的で位相差機能を備えていても良く、その場合、フィルム自身が位相差機能を有していても良く、位相差層を別に有していても良く、両者の組み合わせであっても良い。
なお、位相差機能を備えるフィルムは接着剤を介して、直接偏光素子に貼合される構成について説明したが、偏光素子に貼合された別の保護フィルムを介して粘着剤または接着剤を介して貼合された構成であっても構わない。
【0058】
[接着剤層]
偏光素子に保護フィルムを貼合するための接着剤層を構成する接着剤は、任意の適切な接着剤を用いることができる。接着剤は、水系接着剤、溶剤系接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤などを用いることができるが、水系接着剤であることが好ましい。接着剤層は、耐熱性向上の観点から、好ましくは、尿素、尿素誘導体、チオ尿素及びチオ尿素誘導体から選ばれる少なくとも一種の尿素系化合物を含有させることも有用である。
【0059】
接着剤の塗布時の厚みは、任意の適切な値に設定され得る。例えば、硬化後または加熱(乾燥)後に、所望の厚みを有する接着剤層(塗工層)が得られるように設定する。接着剤層の厚みは、好ましくは0.01μm以上7μm以下であり、より好ましくは0.01μm以上5μm以下であり、さらに好ましくは0.01μm以上2μm以下であり、最も好ましくは0.01μm以上1μm以下である。
【0060】
(水系接着剤)
水系接着剤としては、任意の適切な水系接着剤が採用され得る。中でも、PVA系樹脂を含む水系接着剤(PVA系接着剤)が好ましく用いられる。水系接着剤に含まれるPVA系樹脂の平均重合度は、接着性の点から、好ましくは100~5500程度、さらに好ましくは1000~4500である。平均鹸化度は、接着性の点から、好ましくは85モル%~100モル%程度であり、さらに好ましくは90モル%~100モル%である。
【0061】
上記水系接着剤に含まれるPVA系樹脂としては、アセトアセチル基を含有するものが好ましく、その理由は、PVA系樹脂層と保護フィルムとの密着性に優れ、耐久性に優れているからである。アセトアセチル基含有PVA系樹脂は、例えば、PVA系樹脂とジケテンとを任意の方法で反応させることにより得られる。アセトアセチル基含有PVA系樹脂のアセトアセチル基変性度は、代表的には0.1モル%以上であり、好ましくは0.1モル%~20モル%程度である。
上記水系接着剤の樹脂濃度は、好ましくは0.1質量%~15質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~10質量%である。
【0062】
水系接着剤には架橋剤を含有させることもできる。架橋剤としては公知の架橋剤を用いることができる。例えば、水溶性エポキシ化合物、ジアルデヒド、イソシアネートなどが挙げられる。
【0063】
PVA系樹脂がアセトアセチル基含有PVA系樹脂である場合は、架橋剤としてグリオキサール、グリオキシル酸塩、メチロールメラミンのうちの何れかであることが好ましく、グリオキサール、グリオキシル酸塩の何れかであることが好ましく、グリオキサールであることが特に好ましい。
【0064】
水系接着剤は有機溶剤を含有することもできる。有機溶剤は、水と混和性を有する点でアルコール類が好ましく、アルコール類の中でもメタノールまたはエタノールであることがより好ましい。尿素系化合物の一部は水に対する溶解度が低い反面、アルコールに対する溶解度は十分なものがある。その場合は、尿素系化合物をアルコールに溶解し、尿素系化合物のアルコール溶液を調製した後、尿素系化合物のアルコール溶液をPVA水溶液に添加し、接着剤を調製することも好ましい態様の一つである。
【0065】
水系接着剤のメタノールの濃度は、好ましくは10質量%以上70質量%以下、より好ましくは15質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下である。また、メタノールの含有率が70質量%以下であることにより、色相の悪化を抑制することができる。
【0066】
(活性エネルギー線硬化型接着剤)
活性エネルギー線硬化型接着剤は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することによって硬化する接着剤であり、例えば重合性化合物及び光重合性開始剤を含む接着剤、光反応性樹脂を含む接着剤、バインダー樹脂及び光反応性架橋剤を含む接着剤等を挙げることができる。上記重合性化合物としては、光硬化性エポキシ系モノマー、光硬化性アクリル系モノマー、光硬化性ウレタン系モノマー等の光重合性モノマー、及びこれらモノマーに由来するオリゴマー等を挙げることができる。上記光重合開始剤としては、紫外線等の活性エネルギー線を照射して中性ラジカル、アニオンラジカル、カチオンラジカルといった活性種を発生する物質を含む化合物を挙げることができる。
【0067】
(尿素系化合物)
接着剤層が尿素系化合物を含む場合、尿素系化合物は、尿素、尿素誘導体、チオ尿素及びチオ尿素誘導体から選ばれる少なくとも1種である。接着剤層に尿素系化合物を含有させる方法としては、上記の接着剤に尿素系化合物を含有させることが好ましい。なお、接着剤から乾燥工程などを経て接着剤層を形成する過程で、尿素系化合物の一部が接着剤層から偏光素子などに移動していても構わない。すなわち、偏光素子は、尿素系化合物を含んでいてもよい。尿素系化合物には水溶性のものと難水溶性のものがあるが、どちらの尿素系化合物も本実施形態の接着剤では使用することができる。難水溶性尿素系化合物を水系接着剤に用いる場合は、接着剤層を形成後、ヘイズ上昇などが起きないように分散方法を工夫することが好ましい。
【0068】
接着剤がPVA系樹脂を含有する水系接着剤の場合、尿素系化合物の添加量は、PVA樹脂100質量部に対し、0.1~400質量部であることが好ましく、1~200質量部であることがより好ましく、3~100質量部であることが更に好ましい。
【0069】
(尿素誘導体)
尿素誘導体は、尿素分子の4つの水素原子の少なくとも1つが、置換基に置換された化合物である。この場合、置換基に特に制限はないが、炭素原子、水素原子および酸素原子よりなる置換基であることが好ましい。
【0070】
尿素誘導体の具体例として、1置換尿素として、メチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、イソブチル尿素、N-オクタデシル尿素、2-ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシ尿素、アセチル尿素、アリル尿素、2-プロピニル尿素、シクロヘキシル尿素、フェニル尿素、3-ヒドロキシフェニル尿素、(4-メトキシフェニル)尿素、ベンジル尿素、ベンゾイル尿素、o-トリル尿素、p-トリル尿素が挙げられる。
2置換尿素として、1,1-ジメチル尿素、1,3-ジメチル尿素、1,1-ジエチル尿素、1,3-ジエチル尿素、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)尿素、1,3-tert-ブチル尿素、1,3-ジシクロヘキシル尿素、1,3-ジフェニル尿素、1,3-ビス(4-メトキシフェニル)尿素、1-アセチル-3-メチル尿素が挙げられる。
4置換尿素として、テトラメチル尿素、1,1,3,3-テトラエチル尿素、1,1,3,3-テトラブチル尿素、1,3-ジメトキシ-1,3-ジメチル尿素が挙げられる。
【0071】
(チオ尿素誘導体)
チオ尿素誘導体は、チオ尿素分子の4つの水素原子の少なくとも1つが、置換基に置換された化合物である。この場合、置換基に特に制限はないが、炭素原子、水素原子および酸素原子よりなる置換基であることが好ましい。
【0072】
チオ尿素誘導体の具体例として、1置換チオ尿素として、N-メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、プロピルチオ尿素、イソプロピルチオ尿素、1-ブチルチオ尿素、シクロヘキシルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-アリルチオ尿素、(2-メトキシエチル)チオ尿素、N-フェニルチオ尿素、(4-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(1-ナフチル)チオ尿素、(2-ピリジル)チオ尿素、o-トリルチオ尿素、p-トリルチオ尿素が挙げられる。
2置換チオ尿素として、1,1-ジメチルチオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、1,1-ジエチルチオ尿素、1,3-ジエチルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素、1,3-ジイソプロピルチオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジフェニルチオ尿素、1,3-ジ(o-トリル)チオ尿素、1,3-ジ(p-トリル)チオ尿素、1-ベンジル-3-フェニルチオ尿素、1-メチル-3-フェニルチオ尿素、N-アリル-N’-(2-ヒドロキシエチル)チオ尿素が挙げられる。
3置換チオ尿素として、トリメチルチオ尿素が挙げられ、4置換チオ尿素として、テトラメチルチオ尿素、1,1,3,3-テトラエチルチオ尿素が挙げられる。
【0073】
尿素系化合物の中では、尿素誘導体またはチオ尿素誘導体が好ましく、尿素誘導体がより好ましい。尿素誘導体の中でも、1置換尿素または2置換尿素であることが好ましく、1置換体であることがより好ましい。2置換尿素には1,1-置換尿素と1,3-置換尿素があるが、1,3-置換尿素がより好ましい。
【0074】
<尿素系化合物含有層>
尿素系化合物は、上記のように接着剤層に含有される場合に限定されることはなく、偏光板の耐熱性向上の観点から、接着剤層以外の他の層に含有されていてもよい。他の層としては、透明保護フィルムの説明で記載したように、近年、偏光板の薄型化の要請に応えるために、偏光素子の片面にのみ保護フィルムを有する偏光板が開発されている。このような構成において、物理強度を上げること等を目的として、偏光素子の保護フィルムを有さない面に硬化層を積層してもよい。
【0075】
本実施形態では、このような硬化層に尿素系化合物を含有させることもできる。通常このような硬化層は有機溶剤を含む硬化性組成物から形成されるが、特開2017-075986号公報の段落[0020]~[0042]には活性エネルギー線硬化性高分子組成物の水性溶液から、このような硬化層を形成する方法が記載されている。尿素系化合物は水溶性のものが多いので、このような組成物に水溶性の尿素系化合物を含有させてもよい。
【0076】
<粘着剤層>
以上説明した偏光板を画像表示装置に貼り合わせるために、通常、粘着剤層が積層される。この粘着剤層は、画像表示装置に偏光板を貼合するために設けられる。
【0077】
粘着剤層は、1層からなるものであってもよく、2層以上からなるものであってもよいが、好ましくは1層からなるものである。粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂を主成分とする粘着剤組成物から構成することができる。中でも、透明性、耐候性、耐熱性等に優れる(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤組成物が好適である。粘着剤組成物は、活性エネルギー線硬化型又は熱硬化型であってもよい。
【0078】
粘着剤組成物に用いられる(メタ)アクリル系樹脂(ベースポリマー)としては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステルの1種又は2種以上をモノマーとする重合体又は共重合体が好適に用いられる。ベースポリマーには、極性モノマーを共重合させることが好ましい。極性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸化合物、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル化合物、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート化合物、グリシジル(メタ)アクリレート化合物等の、カルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基、エポキシ基等を有するモノマーを挙げることができる。
【0079】
粘着剤組成物は、上記ベースポリマーのみを含むものであってもよいが、通常は架橋剤をさらに含有する。架橋剤としては、2価以上の金属イオンであって、カルボキシル基との間でカルボン酸金属塩を形成する金属イオン、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するポリアミン化合物、カルボキシル基との間でエステル結合を形成するポリエポキシ化合物又はポリオール、カルボキシル基との間でアミド結合を形成するポリイソシアネート化合物が例示される。中でも、ポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0080】
活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、紫外線や電子線のような活性エネルギー線の照射を受けて硬化する性質を有しており、活性エネルギー線照射前においても粘着性を有してフィルム等の被着体に密着させることができ、活性エネルギー線の照射によって硬化して密着力の調整ができる性質を有する。活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、紫外線硬化型であることが好ましい。活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物は、ベースポリマー、架橋剤に加えて、活性エネルギー線重合性化合物をさらに含有する。必要に応じて、光重合開始剤、光増感剤等を含有させてもよい。
【0081】
粘着剤組成物は、光散乱性を付与するための微粒子、ビーズ(樹脂ビーズ、ガラスビーズ等)、ガラス繊維、ベースポリマー以外の樹脂、粘着性付与剤、充填剤(金属粉やその他の無機粉末等)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、着色剤、消泡剤、腐食防止剤、光重合開始剤等の添加剤を含むことができる。
【0082】
粘着剤層は、上記粘着剤組成物の有機溶剤希釈液を基材フィルム、画像表示セル、又は偏光板の表面上に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。基材フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムであることが一般的であり、その典型的な例として、離型処理が施されたセパレートフィルムを挙げることができる。セパレートフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアレート等の樹脂からなるフィルムの粘着剤層が形成される面に、シリコーン処理等の離型処理が施されたものであることができる。
【0083】
例えば、セパレートフィルムの離型処理面に粘着剤組成物を直接塗布して粘着剤層を形成して粘着剤層とし、このセパレートフィルム付粘着剤層を偏光体の表面に積層してもよい。偏光板の表面に粘着剤組成物を直接塗布して粘着剤層を形成し、粘着剤層の外面にセパレートフィルムを積層してもよい。
粘着剤層を偏光板の表面に設ける際には、偏光板の貼合面及び/又は粘着剤層の貼合面に表面活性化処理、例えばプラズマ処理、コロナ処理等を施すことが好ましく、コロナ処理を施すことがより好ましい。
また、第2セパレートフィルム上に粘着剤組成物を塗布して粘着剤層を形成し、形成された粘着剤層上にセパレートフィルムを積層した粘着剤シートを準備し、この粘着剤シートから第2セパレートフィルムを剥離した後のセパレートフィルム付粘着剤層を偏光板に積層してもよい。第2セパレートフィルムは、セパレートフィルムよりも粘着剤層との密着力が弱く、剥離し易いものが用いられる。
【0084】
粘着剤層の厚みは、特に限定されないが、例えば1μm以上100μm以下であることが好ましく、3μm以上50μm以下であることがより好ましく、20μm以上であってもよい。
【実施例0085】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明は以下の実施例に限定され制限されるものではない。
【0086】
[測定方法及び評価方法]
(1)偏光素子の厚さの測定:
株式会社ニコン製のデジタルマイクロメーター“MH-15M”を用いて測定した。
【0087】
(2)偏光板の視感度補正偏光度、視感度補正単体透過率、色相の測定:
偏光板の視感度補正単体透過率、視感度補正偏光度、及び色相の測定は、積分球付き分光光度計〔日本分光株式会社製の「V7100」、2度視野;C光源〕を用いて測定した。
【0088】
(3)偏光素子のホウ素含有率の測定
偏光素子におけるホウ素の含有率の測定は、次の手順で行った。まず、偏光素子0.2gを1.9質量%のマンニトール水溶液200gに溶解させた。次いで、得られた水溶液を1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、中和に要した水酸化ナトリウム水溶液の量と検量線との比較により、偏光素子のホウ素含有率を算出した。
【0089】
(4)偏光素子の亜鉛イオン含有率の測定
偏光素子における亜鉛イオンの含有率の測定は、次の手順で行った。まず、精秤した偏光素子に硝酸を加え、マイルストーンゼネラル製マイクロ波試料前処理装置(ETHOS D)で酸分解して得られた溶液を測定液とした。亜鉛イオン含有率は、アジレントテクノロジー製ICP発光分光分析装置(5110 ICP-OES)で測定液の亜鉛濃度を定量し、偏光素子質量に対する亜鉛質量で算出した。
【0090】
(5)PVA系樹脂フィルムのホウ素吸着率の測定
PVA系樹脂フィルムにおけるホウ素吸着率の測定は、次の手順で行った。まず、100mm四方に裁断したPVA系樹脂フィルムを、30℃の純水に60秒間浸漬し、その後、ホウ酸5部を含む60℃の水溶液に120秒浸漬させた。ホウ酸水溶液から取り出したPVA系樹脂フィルムを80℃オーブンで11分間乾燥した。23℃55%%RHの環境で24時間調湿し、ホウ素含有PVAフィルムを得た。こうして得られたホウ素含有PVA系樹脂フィルム0.2gを、1.9質量%のマンニトール水溶液200gに溶解させた。次いで、得られた水溶液を1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、中和に要した水酸化ナトリウム水溶液の量と検量線との比較により、PVA系樹脂フィルムのホウ素含有率を算出した。こうして得られたPVA系樹脂フィルムのホウ素含有率を、PVA系樹脂フィルムのホウ素吸着率として用いた。
【0091】
(6)偏光素子のポリビニルアルコール結晶由来ピークの半値幅の測定
<測定用サンプル>
偏光素子を、偏光素子の吸収軸を合わせるようにして10枚積層したものを測定用サンプルとして準備した。
【0092】
<広角X線散乱法を用いた測定>
広角X線散乱(Wide-angle X-ray Scattering)法を用いて、以下の測定装置および測定要件で算出した値を言う。
【0093】
(測定装置)
株式会社リガク製のナノスケールX線構造評価装置NANO-Viewerを使用した。
【0094】
(測定条件)
・X線源:Cu―kα線
・カメラ長:71mm
・測定:透過測定
・X線照射時間:10分間
【0095】
(算出方法)
まず測定用サンプルを設置せずにバックグラウンド測定を行い、得られた2次元散乱パターンに対し、円環平均の散乱プロファイルをとり、次に測定用サンプルの測定を行い、同様に散乱プロファイルを得た。続いて測定用サンプルの散乱プロファイルからバックグラウンドの散乱プロファイルを差し引いたものについて、波数qが15nm-1の位置近にあるポリビニルアルコール結晶に由来するピークを同定し、そのピークの半値幅を算出した。図1は、後述する偏光素子1~3について、測定用サンプルの散乱プロファイルからバックグラウンドの散乱プロファイルを差し引いたものについて、波数qに対してプロットしたグラフを示す。波数qが15nm-1の位置にあるピークがポリビニルアルコール結晶に由来するピークである。かかるピークの極大値の1/2の強度となる2点の間の間隔を半値幅とする。
【0096】
(7)高温耐久試験(115℃)
<評価用サンプルの作製>
特開2018-025765号公報の実施例を参考にして、後述する手順で作製した偏光板の片面に、アクリル系粘着剤(リンテック株式会社製)を塗布することによって厚み25μmの粘着剤層を形成した。片面に粘着剤層を形成した偏光板を、40mm×40mmの大きさに裁断して、粘着剤層の表面に、無アルカリガラス(商品名「EAGLE XG」、コーニング社製)を貼合して、評価用サンプル(光学積層体)を作製した。
【0097】
<高温耐久試験>
上記で得た評価用サンプルに、温度50℃、圧力5kgf/cm(490.3kPa)で1時間オートクレーブ処理を施した後、温度23℃相対湿度55%の環境下で24時間放置した後、偏光板の視感度補正単体透過率、視感度補正偏光度、及び色相を測定し、これを初期値とした。次いで、評価用サンプルを温度115℃の高温環境下に500時間保管する高温耐久試験を行い、高温耐久試験後の偏光板の視感度補正単体透過率、視感度補正偏光度、及び色相を測定した。
【0098】
偏光板の視感度補正単体透過率、視感度補正偏光度、及び色相の初期値及び高温耐久試験後の測定値から、偏光板の視感度補正単体透過率、視感度補正偏光度、及び色相の変化量を算出した。視感度補正単体透過率の変化量ΔTy及び視感度補正偏光度の変化量ΔPyは、高温耐久試験後の測定値から初期値を差し引いた値として算出した。また、色相の変化量Δabは、下記式で求めた。
Δab={(a1-a2)+(b1-b2)1/2
ここで、a1、b1は、色相の初期値であり、a2、b2は、高温耐久試験後の色相の測定値である。
【0099】
〔実施例1,2及び比較例1〕
(偏光素子1の作製)
ホウ素吸着率が5.71質量%である厚さ30μmのポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、21.5℃の純水に79秒浸漬した後(膨潤処理)、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の質量比が2/2/100であり、ヨウ素を1.0mM含む水溶液に23℃で151秒浸漬した(染色工程)。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の質量比が2.5/4/100の水溶液に68.5℃で76秒浸漬した(第1架橋工程)。引き続き、ヨウ化カリウム/ホウ酸/塩化亜鉛/水の質量比が3/5.5/0.6/100の水溶液に45℃で11秒浸漬した(第2架橋工程、金属イオン処理工程)。その後、洗浄浴に浸漬させて洗浄し(洗浄工程)、38℃で乾燥して(乾燥工程)、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された厚み12μmの偏光素子を得た。延伸は、主に、染色工程および第1架橋工程の工程で行い、トータル延伸倍率は5.85倍であった。得られた偏光素子の亜鉛イオン含有率は0.17質量%、ホウ素含有率は4.62質量%、ポリビニルアルコール結晶由来ピークの半値幅は4.90nm-1であった。
【0100】
(偏光素子2の作製)
ホウ素吸着率が5.71質量%である厚さ30μmのポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、21.5℃の純水に79秒浸漬した後(膨潤処理)、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の質量比が2/2/100であり、ヨウ素を1.0mM含む水溶液に23℃で151秒浸漬した(染色工程)。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の質量比が2.5/4/100の水溶液に66.5℃で76秒浸漬した(第1架橋工程)。引き続き、ヨウ化カリウム/ホウ酸/塩化亜鉛/水の質量比が3/5.5/0.6/100の水溶液に45℃で11秒浸漬した(第2架橋工程、金属イオン処理工程)。その後、洗浄浴に浸漬させて洗浄し(洗浄工程)、38℃で乾燥して(乾燥工程)、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された厚み12μmの偏光素子を得た。延伸は、主に、染色工程および第1架橋工程の工程で行い、トータル延伸倍率は5.85倍であった。得られた偏光素子の亜鉛イオン含有率は0.17質量%、ホウ素含有率は4.62質量%、ポリビニルアルコール結晶由来ピークの半値幅は4.85nm-1であった。
【0101】
(偏光素子3の作製)
ホウ素吸着率が5.71質量%である厚さ30μmのポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、21.5℃の純水に79秒浸漬した後(膨潤処理)、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の質量比が2/2/100であり、ヨウ素を1.0mM含む水溶液に23℃で151秒浸漬した(染色工程)。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の質量比が2.5/4/100の水溶液に60.6℃で76秒浸漬した(第1架橋工程)。引き続き、ヨウ化カリウム/ホウ酸/塩化亜鉛/水の質量比が3/5.5/0.6/100の水溶液に45℃で11秒浸漬した(第2架橋工程、金属イオン処理工程)。その後、洗浄浴に浸漬させて洗浄し(洗浄工程)、38℃で乾燥して(乾燥工程)、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された厚み12μmの偏光素子を得た。延伸は、主に、染色工程および第1架橋工程の工程で行い、トータル延伸倍率は5.85倍であった。得られた偏光素子の亜鉛イオン含有率は0.17質量%、ホウ素含有率は4.62質量%、ポリビニルアルコール結晶由来ピークの半値幅は4.75nm-1であった。
【0102】
(接着剤用PVA溶液の調製)
アセトアセチル基を含有する変性PVA系樹脂(三菱ケミカル株式会社製:ゴーセネックスZ-410)50gを950gの純水に溶解し、90℃で2時間加熱後常温に冷却し、接着剤用PVA溶液を得た。
【0103】
(偏光板用接着剤1の調製)
準備した接着剤用PVA溶液、純水、メタノールを、PVA濃度3.0%、メタノール濃度35%、尿素濃度0.5%になるように配合し、偏光板用接着剤1を得た。
【0104】
(セルロースアシレートフィルムの鹸化)
市販のセルロースアシレートフィルムTJ40UL(富士フイルム株式会社製:膜厚40μm)を、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(鹸化液)に2分間浸漬し、フィルムを水洗した。その後、フィルムを25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬し、更に水洗浴を30秒流水下に通して、フィルムを中性の状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返した。水を落とした後、フィルムを70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
【0105】
(偏光板1の作製)
偏光素子1の両面に、鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを、偏光板用接着剤1で貼り合わせた。接着剤は、乾燥後の接着剤層の厚みが両面共100nmになるように塗工する厚みを調整した。貼合は、ロール貼合機を用いて行った。貼合後80℃で3分間乾燥し、偏光素子1とセルロースアシレートフィルムとを接着した。このようにして、両面セルロースアシレートフィルム付き偏光板1を得た。
【0106】
偏光板1の偏光素子1を偏光素子2及び3に変えた以外は同様にして、偏光板2及び3を作製した。
【0107】
(光学積層体1~3の作製)
特開2018-025765号公報の実施例を参考に、上記で作製した偏光板1~3の片面にアクリル系粘着剤(製造元:リンテック株式会社)を塗布することにより、偏光板の片面に、厚みが25μmの粘着剤層を有する光学積層体1~3を作製した。
【0108】
(実施例1)
実施例1において光学積層体1について高温耐久試験を実施した。光学積層体1の視感度補正単体透過率の変化量ΔTyは0.6%であり、視感度補正偏光度の変化量ΔPyは-0.03%であり、色相の変化量Δabは2.0NBSであった。表1に結果を示す。
【0109】
(実施例2)
実施例2において光学積層体2について高温耐久試験を実施した。光学積層体2の視感度補正単体透過率の変化量ΔTyは1.2%であり、視感度補正偏光度の変化量ΔPyは-0.03%であり、色相の変化量Δabは2.3NBSであった。表1に結果を示す。
【0110】
(比較例1)
光学積層体3の視感度補正単体透過率の変化量ΔTyは2.6%であり、視感度補正偏光度の変化量ΔPyは-0.13%であり、色相の変化量Δabは5.3NBSであった。表1に結果を示す。
【0111】
【表1】
【0112】
光学積層体1,2は、温度115℃の高温環境下に晒したときであっても偏光度低下の抑制効果が、光学積層体3に比べて優れることがわかった。
図1